JP7852829B1 - 切削工具 - Google Patents

切削工具

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Abstract

切削工具は、基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、前記被膜は、前記基材上に配置されたα-Al2O3層と、前記α-Al2O3層上に配置されたTiCxNy層と、を含み、前記xおよび前記yは、式1および式2の関係を満たし、前記TiCxNy層は、複数のTiCxNy結晶からなり、前記TiCxNy結晶は、前記基材から前記被膜の表面への方向に沿って伸びた柱状晶であり、前記TiCxNy結晶の結晶径は、0.05μm以上0.5μm以下である、切削工具。

Description

本開示は、切削工具に関する。
従来から、基材と、該基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、該被膜は、該基材上に配置されたα-Al2O3層と、該α-Al2O3層上に配置された、TiCN層またはTiCNO層と、を含む切削工具が、切削加工に用いられている(特許文献1~2)。
国際公開第2018/184887号 特開2020-116646号公報
本開示の切削工具は、基材と、該基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、該被膜は、該基材上に配置されたα-Al2O3層と、該α-Al2O3層上に配置されたTiCxNy層と、を含み、該xおよび該yは、式1および式2の関係を満たし、
0.7≦x+y≦1.3 式1
y≦1.5x 式2
該TiCxNy層は、複数のTiCxNy結晶からなり、該TiCxNy結晶は、該基材から該被膜の表面への方向に沿って伸びた柱状晶であり、該TiCxNy結晶の結晶径は、0.05μm以上0.5μm以下である。
図1は、実施形態1に係る切削工具の断面の一例を示す模式図である。 図2は、実施形態1に係る切削工具の断面の他の一例を示す模式図である。 図3は、本開示の切削工具の製造に用いられるCVD(Chemical Vapor Deposition)装置の一例の模式的な断面図である。
[本開示が解決しようとする課題]
近年、被削材の難削化、加工能率向上の為の切削速度の高速化、および該高速化に起因する送り量と切り込み量との増加などに起因して、切削工具の刃先にかかる負荷は増大する傾向がある。その為、切削工具の特性の向上への要求が益々高まっている。これは、鋼の中速加工に用いられる切削工具についても同様である。基材と、該基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、該被膜は、該基材上に配置されたα-Al2O3層と、該α-Al2O3層上に配置された、TiCN層またはTiCNO層と、を含む切削工具(特許文献1~2)を鋼の中速加工に用いると、工具寿命が十分でない場合があった。その為、この様な切削工具は、特に鋼の中速加工においても、優れた工具寿命を発揮することが困難な場合があった。よって、特に鋼の中速加工においても、切削工具に対し優れた「耐摩耗性」を備えさせることにより、優れた工具寿命を付与することが求められている。
そこで、本開示は、特に鋼の中速加工においても、優れた工具寿命を有する切削工具を提供することを目的とする。
[本開示の効果]
本開示によれば、特に鋼の中速加工においても、優れた工具寿命を有する切削工具を提供することが可能である。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の切削工具は、基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、前記被膜は、前記基材上に配置されたα-Al2O3層と、前記α-Al2O3層上に配置されたTiCxNy層と、を含み、前記xおよび前記yは、式1および式2の関係を満たし、
0.7≦x+y≦1.3 式1
y≦1.5x 式2
前記TiCxNy層は、複数のTiCxNy結晶からなり、前記TiCxNy結晶は、前記基材から前記被膜の表面への方向に沿って伸びた柱状晶であり、前記TiCxNy結晶の結晶径は、0.05μm以上0.5μm以下である。
本開示によれば、特に鋼の中速加工においても、優れた工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
(2)上記(1)において、前記TiCxNy結晶のアスペクト比は、10以上30以下であってもよい。これによって、特に鋼の中速加工においても、より優れた工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
(3)上記(1)または(2)において、前記TiCxNy層の厚みは、0.5μm以上5μm以下であってもよい。これによって、特に鋼の中速加工においても、より優れた工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記α-Al2O3層は、複数のα-Al2O3粒子からなり、前記α-Al2O3粒子の粒径は、0.3μm以上1.0μm以下であってもよい。これによって、特に鋼の中速加工においても、より優れた工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記被膜は、前記α-Al2O3層と前記TiCxNy層との間に、前記α-Al2O3層と前記TiCxNy層とに接して配置されたTiCNO層を更に含み、前記TiCNO層の厚みは、1μm以下であってもよい。これによって、特に鋼の中速加工においても、より優れた工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記xおよび前記yは、式3の関係を更に満たしてもよい。
y<1.5x 式3
これによって、特に鋼の中速加工においても、より優れた工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
[実施形態1:切削工具]
本開示の一実施形態に係る切削工具について、図1および図2を用いて説明する。図1は、本開示の切削工具の一態様を例示する模式断面図である。図2は、本開示の切削工具の他の一態様を例示する模式断面図である。
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)は、基材1と、該基材1上に配置された被膜2と、を備える切削工具10であって、該被膜2は、該基材1上に配置されたα-Al2O3層3と、該α-Al2O3層3上に配置されたTiCxNy層4と、を含み、該xおよび該yは、式1および式2の関係を満たし、
0.7≦x+y≦1.3 式1
y≦1.5x 式2
該TiCxNy層4は、複数のTiCxNy結晶からなり、該TiCxNy結晶は、該基材1から該被膜2の表面への方向に沿って伸びた柱状晶であり、該TiCxNy結晶の結晶径は、0.05μm以上0.5μm以下である。
本開示によれば、特に鋼の中速加工においても、優れた工具寿命を有する切削工具10を提供することができる。その理由は、以下の通りと推察される。
本実施形態の切削工具10において、被膜2は、基材1上に配置されたα-Al2O3層3と、該α-Al2O3層3上に配置されたTiCxNy層4と、を含み、該xおよび該yは、上記式1および上記式2の関係を満たし、該TiCxNy層4は、複数のTiCxNy結晶からなり、該TiCxNy結晶は、該基材1から該被膜2の表面への方向に沿って伸びた柱状晶であり、該TiCxNy結晶の結晶径は、0.05μm以上0.5μm以下である。これによって、該TiCxNy層4において、N原子に比して、硬度に寄与するC原子が十分に多くなり、且つ、該TiCxNy結晶の結晶径が微細になる関係で、被膜の硬度を向上することができる。その為、本実施形態の切削工具10は、温度が上がり難い加工(例えば、鋼の中速加工)に用いられる場合において、該切削工具の逃げ面の擦れ摩耗が生じ難くなる関係で、優れた工具寿命を発揮することが可能である。
≪切削工具≫
図1および図2に示されるように、本開示の一実施形態に係る切削工具10は、基材1と、該基材1上に配置された被膜2と、を備える。被膜2は、基材1の全面を被覆することが好ましいが、該基材1の一部が該被膜2で被覆されていなかったり、該被膜2の構成が部分的に異なっていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。基材1の一部が被膜2で被覆されていない場合においては、該被膜2は、該基材1の少なくとも切削に関与する部分の表面を覆う様に配置されていることが好ましい。本明細書において、基材1の切削に関与する部分とは、該基材1の大きさや形状にもよるが、該基材1において、その刃先稜線と、該刃先稜線から該基材1側へ、該刃先稜線の接線の垂線に沿う距離が、例えば、5mm、3mm、2mm、1mm、0.5mmのいずれかである仮想の面と、に囲まれる領域を意味する。
本実施形態の切削工具10は、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等の切削工具10として好適に使用することができる。
≪基材≫
切削工具10は、基材1を備える。基材1としては、この種の基材1として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。例えば、超硬合金(WC基超硬合金、WCおよびCoを含む超硬合金、更にTi、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金など)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等)、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。
これらの各種基材1の中でも、特にWC基超硬合金、サーメット(特にTiCN基サーメット)を選択することが好ましい。これらの基材1は、特に高温における硬度と強度とのバランスに優れる為、切削工具10の基材1として用いた場合に、該切削工具10の長寿命化に寄与することができる。
≪被膜≫
切削工具10は、基材1上に配置された被膜2を備える。被膜2は、基材1上に配置されたα-Al2O3層3と、該α-Al2O3層3上に配置されたTiCxNy層4と、を含む。被膜2は、α-Al2O3層3とTiCxNy層4との間に、該α-Al2O3層3と該TiCxNy層4とに接して配置されたTiCNO層5を更に含んでもよい。これによって、TiCNO層5がα-Al2O3層3およびTiCxNy層4に対し優れた接着性を有する為、特に鋼の中速加工においても、より優れた工具寿命を有する切削工具10を提供することができる。被膜2は、α-Al2O3層3およびTiCxNy層4からなってもよく、α-Al2O3層3、TiCxNy層4、およびTiCNO層5のみからなってもよく、本開示の効果を損なわない範囲で、α-Al2O3層3、TiCxNy層4、およびTiCNO層5以外の層(後述する「他の層」)を更に含んでもよい。
被膜2の厚みは、5μm以上25μm以下であってもよく、7μm以上20μm以下であってもよい。被膜2の厚みが5μm未満であると、被膜2の厚みが薄すぎることに起因して、切削工具10の寿命が短くなり易い傾向がある。一方、被膜2の厚みが25μm超であると、切削初期において被膜2のチッピングが生じ易くなり、切削工具10の寿命が短くなり易い傾向がある。
被膜2の厚みは、被膜2の表面の法線方向に沿った、該被膜2の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより測定することができる。具体的には、断面サンプルの観察倍率を5,000~10,000倍とし、観察面積を100~500μm2として、任意の1視野において任意の3箇所の厚み幅を測定し、その平均(算術平均)を「厚み」とする。後述する各層の厚みについても、特に記載のない限り同様である。
≪α-Al2O3層≫
<α-Al2O3層の組成>
α-Al2O3層3は、複数のα-Al2O3粒子からなってもよい。本開示において、「α-Al2O3粒子からなる」とは、α-Al2O3粒子のみからなってもよく、本開示の効果を損なわない範囲で、α-Al2O3粒子に加えて、不可避不純物を含むことができることを意味する。該不可避不純物としては、例えば、塩素(Cl)等が挙げられる。α-Al2O3層3における不可避不純物の合計の含有率は、例えば、0質量%以上3質量%以下であってもよく、0質量%以上1質量%以下であってもよい。
α-Al2O3層3におけるα-Al2O3粒子の含有率は、X線回折法(XRD)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により特定される。α-Al2O3層3における不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。なお、同一のα-Al2O3層3で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがほとんどないことが確認されている。
<α-Al2O3粒子>
α-Al2O3粒子の粒径は、0.3μm以上1.0μm以下であってもよい。これによって、α-Al2O3粒子の脱落規模を小さくすることができる為、特に鋼の中速加工においても、より優れた工具寿命を有する切削工具10を提供することができる。該粒径は、0.4μm以上0.9μm以下であってもよく、0.45μm以上0.85μm以下であってもよく、0.5μm以上0.8μm以下であってもよい。
α-Al2O3粒子の粒径は、以下の(A1)~(A6)の手順で測定することができる。
(A1)基材1のすくい面の法線に沿って切削工具10をダイヤモンドワイヤーで切り出し、α-Al2O3層3の断面を露出させる。露出された断面に対してArイオンによるイオンミーリングを行い、断面を鏡面状態とする。該イオンミーリングの条件は以下の通りである。
・加速電圧:6kV
・照射角度:α-Al2O3層3の断面におけるα-Al2O3層3の厚み方向に平行となる直線方向から0°
・照射時間:6時間
(A2)鏡面状態の断面を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で5,000倍で観察し、後方散乱電子像(EBSD)を得る。
(A3)上記EBSD中で、測定範囲にα-Al2O3層3の基材1に近い界面とα-Al2O3層3の被膜2の表面に近い界面とが含まれる様に、該測定範囲を設定する。該測定範囲は、(横方向(被膜2の表面と平行な方向):30μm)×(縦方向(被膜2の表面の法線方向):被膜2全体を含む長さ)の矩形とする。
(A4)測定範囲中の任意の1個のα-Al2O3粒子について、任意の3箇所の横方向の差し渡し径を測定する。任意の3箇所の横方向の差し渡し径の平均(算術平均)を算出することにより、任意の1個のα-Al2O3粒子の横方向の平均差し渡し径を求める。
(A5)測定範囲中の他の任意の29個のα-Al2O3粒子のそれぞれについて、上記(A4)と同じ方法で横方向の平均差し渡し径を求める。
(A6)測定範囲中の任意の計30個のα-Al2O3粒子について、横方向の平均差し渡し径の平均(算術平均)を算出することにより、α-Al2O3粒子の粒径を特定する。
なお、同一のα-Al2O3層3に対し測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがほとんどないことが確認されている。
<α-Al2O3層の厚み>
α-Al2O3層3の厚みは、4μm以上15μm以下であってもよい。これによって、α-Al2O3層3が十分な厚みを有することで耐摩耗性を向上し、且つ、α-Al2O3層3の厚みを適度に抑えることで十分な耐チッピング性を発揮することができる。α-Al2O3層3の厚みは、5μm以上10μm以下であってもよく、6μm以上9μm以下であってもよい。
≪TiCxNy層≫
<TiCxNy層の組成>
TiCxNy層4は、複数のTiCxNy結晶からなる。本開示において、「TiCxNy結晶からなる」とは、TiCxNy結晶のみからなってもよく、本開示の効果を損なわない範囲で、TiCxNy結晶に加えて、不可避不純物を含むことができることを意味する。該不可避不純物としては、例えば、塩素(Cl)等が挙げられる。TiCxNy層4における不可避不純物の合計の含有率は、例えば、0質量%以上0.10質量%以下であってもよく、0.01質量%以上0.05質量%以下であってもよい。
TiCxNy層4におけるTiCxNy結晶の含有率は、X線回折法(XRD)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により特定される。TiCxNy層4における不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。なお、同一のTiCxNy層4で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがほとんどないことが確認されている。
上記xおよび上記yは、式1および式2の関係を満たす。
0.7≦x+y≦1.3 式1
y≦1.5x 式2
これによって、Ti原子とC原子およびN原子との比率が適切な範囲で、TiCNに含まれるC原子の比率が十分に高くなる為、被膜2の硬度を向上することができる。x+yの下限は、0.8以上であってもよく、0.9以上であってもよい。x+yの上限は、1.2以下であってもよく、1.1以下であってもよい。1.5xとyとの差1.5x-yの下限は、0超であってもよい(すなわち、xおよびyは、式3の関係を更に満たしてもよい)。
y<1.5x 式3
これによって、被膜2の硬度をより向上することができる。1.5xとyとの差1.5x-yの下限は、0.1以上であってもよく、0.2以上であってもよく、0.3以上であってもよい。1.5xとyとの差1.5x-yの上限は、1以下であってもよく、0.5以下であってもよい。
上記xは、0.35以上0.65以下であってもよい。これによって、C原子の比率が十分に高くなる為、被膜2の硬度をより向上することができる。xは、0.4以上0.65以下であってもよく、0.45以上0.6以下であってもよい。
上記yは、0.35以上0.6以下であってもよい。これによって、TiCN中のTi原子の比率に対し、C原子の比率およびN原子の比率の合計が適切になり易くなる為、被膜2の硬度をより向上することができる。yは、0.4以上0.55以下であってもよく、0.45以上0.5以下であってもよい。
上記xおよび上記yは、以下の手順(B1)~(B2)の手順で測定される。
(B1)切削工具10の表面の法線に沿って、切削工具10をダイヤモンドワイヤーで切り出し、TiCxNy層4の断面を露出させる。露出された断面に対して収束イオンビーム加工(以下、「FIB加工」とも記す。)を行い、断面を鏡面状態とする。
(B2)TiCxNy層4の断面において、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)に付属のエネルギー分散型X線分光装置(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscope)(TEM-EDX)により矩形分析を行い、TiCxNy層4の組成を特定する。矩形分析は、TiCxNy層4の断面内に設定された、互いに重複しない3箇所の0.5μm×2μmの矩形の測定領域に対して行われる。3箇所の測定領域のそれぞれにおいて、x’およびy’を測定する。3箇所の測定領域のx’の平均およびy’の平均(算術平均)を算出する。該平均が、TiCxNy層4におけるxおよびyに該当する。
同一の試料において測定する限りにおいては、測定視野の選択個所を任意に変更して、複数回測定を行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認されている。
<TiCxNy結晶>
TiCxNy結晶は、基材1から被膜2の表面への方向に沿って伸びた柱状晶である。これによって、被膜2の表面の法線方向と垂直な方向に沿った亀裂の進展を抑制し易くなる為、被膜2の硬度を向上することができる。なお、ここで「TiCxNy結晶は、基材1から被膜2の表面への方向に沿って伸びた柱状晶である」とは、TiCxNy結晶のアスペクト比が2以上であることを意味する。
TiCxNy結晶のアスペクト比は、10以上30以下であってもよい。これによって、TiCxNy結晶の脱落を抑制し易くなる為、特に鋼の中速加工においても、より優れた工具寿命を有する切削工具10を提供することができる。TiCxNy結晶のアスペクト比は、10以上25以下であってもよく、10以上20以下であってもよい。
TiCxNy結晶のアスペクト比は、以下の(C1)~(C5)の手順で測定することができる。
(C1)切削工具10の表面の法線に沿って、切削工具10をダイヤモンドワイヤーで切り出し、TiCxNy層4の断面を露出させる。露出された断面に対してFIB加工を行い、断面を鏡面状態とする。
(C2)FIB加工された断面に対して、電子線後方散乱回折装置(EBSD装置)を備えた電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)(製品名:「SUPRA35VP」、Carl Zeiss社製)を用いて、以下の測定条件でEBSD解析を行う。EBSD解析を行う領域(以下、解析領域とも記す。)は、TiCxNy層4内に設けられる、互いに重複しない3箇所の矩形の領域とする。解析領域の大きさは、基材1に平行な方向の長さが20μm以上の矩形とする。解析領域の被膜2の厚み方向の長さは、TiCxNy層4の厚みにより、適宜設定することができる。解析領域の被膜2の厚み方向の長さは、例えば、TiCxNy層4の厚みの90%以上となるように設定する。
(測定条件)
加速電圧:15kV
電流値:1.8nA
照射電流:60μm(HC有り)
Exp:Long 0.03s
Binning:8×8
WD:15mm
Tilt:70°
Step size:0.02μm
BKD:Background Subtraction、
Dynamic Background Subtraction、
Normalize Intensity histogram
撮影倍率:20000倍
粒界定義:15°以上
(C3)EBSD解析により収集されたデータについて、CI Dilation法(single Interation)とGrain CI Standardizationとで、CI>0.1を満たすデータのみを認識することにより、クリーンアップ処理を実行する。CI値は、Voting法により算出する。具体的には、CI=(V1-V2)/Videal(V1、2:1、2番目の解、Videal:理想解)により求められる。
(C4)上記EBSD解析結果を、市販のソフトウェア(商品名:「OIM7.1」、株式会社TSLソリューションズ製)を用いて分析し、上記解析領域のIPFマップ(Inverse Pole Figure map:逆極点図方位マップ)を作成する。該IPFマップの作成においては、隣接する測定点の方位差角が15°以上の場合を結晶粒界と定義する。IPFマップには、各結晶粒の形状が示される。
(C5)上記ソフトウェア(「OMI7.1」)を用いて、各解析領域のIPFマップ内の任意の30個のTiCxNy結晶のそれぞれについて、アスペクト比を測定する。各TiCxNy結晶のアスペクト比とは、TiCxNy結晶の長径aと短径bとの比b/aである。本開示において、長径aは、上記断面で観察されるTiCxNy結晶の最大差し渡し径であり、短径bは、長径aに直交する方向に沿うTiCxNy結晶の最大径である。本開示において、「TiCxNy結晶のアスペクト比」は、計30個のTiCxNy結晶のアスペクト比の平均(算術平均)である。本開示において、解析領域のIPFマップ内のTiCxNy結晶とは、TiCxNy結晶の全てが解析領域のIPFマップ内に存在するTiCxNy結晶、および、TiCxNy結晶の少なくとも一部が解析領域のIPFマップ内に存在するTiCxNy結晶の両方を含む。
同一の試料において測定する限りにおいては、切削工具10の切り出し位置や、測定領域を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認されている。
TiCxNy結晶の結晶径は、0.05μm以上0.5μm以下である。これによって、TiCxNy結晶が微細になる為、被膜2の硬度を向上することができる。該結晶径は、0.1μm以上0.4μm以下であってもよく、0.15μm以上0.35μm以下であってもよく、0.2μm以上0.3μm以下であってもよい。
TiCxNy結晶の結晶径は、以下の(D1)~(D6)手順で測定することができる。
(D1)基材1のすくい面の法線に沿って切削工具10をダイヤモンドワイヤーで切り出し、TiCxNy層4の断面を露出させる。露出された断面に対してArイオンによるイオンミーリングを行い、断面を鏡面状態とする。該イオンミーリングの条件は以下の通りである。
・加速電圧:6kV
・照射角度:TiCxNy層4の断面におけるTiCxNy層4の厚み方向に平行となる直線方向から0°
・照射時間:6時間
(D2)鏡面状態の断面を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で5000倍で観察し、後方散乱電子像(EBSD)を得る。
(D3)上記EBSD中で、測定範囲にTiCxNy層4の基材1に近い界面とTiCxNy層4の被膜2の表面に近い界面とが含まれる様に、該測定範囲を設定する。該測定範囲は、(横方向(被膜2の表面と平行な方向):30μm)×(縦方向(被膜2の表面の法線方向):被膜2全体を含む長さ)の矩形とする。
(D4)測定範囲中の任意の1個のTiCxNy結晶について、任意の3箇所の横方向の差し渡し径を測定する。任意の3箇所の横方向の差し渡し径の平均(算術平均)を算出することにより、任意の1個のTiCxNy結晶の横方向の平均差し渡し径を求める。
(D5)測定範囲中の他の任意の29個のTiCxNy結晶のそれぞれについて、上記(D4)と同じ方法で横方向の平均差し渡し径を求める。
(D6)測定範囲中の任意の計30個のTiCxNy結晶について、横方向の平均差し渡し径の平均(算術平均)を算出することにより、TiCxNy結晶の結晶径を特定する。
なお、同一のTiCxNy層4に対し測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがほとんどないことが確認されている。
<TiCxNy層の硬度>
TiCxNy層4の硬度は、30GPa以上であってもよい。これによって、特に鋼の中速加工においても、より優れた工具寿命を有する切削工具10を提供することができる。TiCxNy層4の硬度は、30GPa以上40GPa以下であってもよく、30GPa以上35GPa以下であってもよく、31GPa以上33GPa以下であってもよい。
TiCxNy層4の硬度は、ナノインデンターで測定される。具体的には、先ず、TiCxNy層4の表面における任意の10点それぞれに対し、硬度を測定する。ここで、TiCxNy層4が最表面でない場合は、機械研磨等でTiCxNy層4を露出させてからナノインデンターで測定を行うものとする。次に、求められた10点の硬度の平均(算術平均)をTiCxNy層4の硬度とする。ナノインデンターとしては、例えば、株式会社エリオニクス製のENT1100(商品名)が挙げられる。測定条件は以下の通りである。
(ナノインデンターの測定条件)
圧子: バーコビッチ
荷重: 1gf
負荷時間: 10sec
保持時間: 2sec
除荷時間: 10sec
なお、同一のTiCxNy層について測定する限りにおいては、測定点の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定点を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
<TiCxNy層の厚み>
TiCxNy層4の厚みは、0.5μm以上5μm以下であってもよい。これによって、被膜2においてTiCxNy層4(言い換えれば、高い硬度を有する層)が十分な厚みで存在することとなる為、特に鋼の中速加工においても、より優れた工具寿命を有する切削工具10を提供することができる。TiCxNy層4の厚みは、1μm以上4μm以下であってもよく、1.5μm以上3.5μm以下であってもよい。
≪TiCNO層≫
<TiCNO層の組成>
本開示において、TiCNO層5とは、TiCNOからなる層を意味する。ここで、「TiCNOからなる」とは、TiCNOのみからなってもよく、本開示の効果を損なわない範囲で、TiCNOに加えて、不可避不純物を含むことができることを意味する。該不可避不純物としては、例えば、塩素(Cl)等が挙げられる。TiCNO層5における不可避不純物の合計の含有率は、例えば、0質量%以上0.10質量%以下であってもよく、0.01質量%以上0.05質量%以下であってもよい。
TiCNO層5におけるTiCNOの含有率は、X線回折法(XRD)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により特定される。TiCNO層5における不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。なお、同一のTiCNO層5で測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがほとんどないことが確認されている。
<TiCNO層の厚み>
TiCNO層5の厚みは、1μm以下であってもよい。これによって、TiCxNy層4(言い換えれば、高い硬度を有する層)の剥離を抑制し易くなる為、特に鋼の中速加工においても、より優れた工具寿命を有する切削工具10を提供することができる。TiCNO層5の厚みは、0.3μm以上1μm以下であってもよく、0.4μm以上0.9μm以下であってもよく、0.5μm以上0.8μm以下であってもよい。
≪他の層≫
他の層としては、例えば、下地層(図示なし)、中間層(図示なし)、および表面層(図示なし)等を挙げることができる。下地層は、基材1に接している層である。表面層は、被膜2の表面に位置する層である。中間層は、下地層とα-Al2O3層3との間に配置される層、TiCxNy層4と表面層との間に配置される層、または上記TiCNO層5が存在しない場合においてはα-Al2O3層3とTiCxNy層4との間に配置される層である。
<下地層>
下地層は、TiNまたはTiCNからなってもよい。「TiNまたはTiCNからなる」とは、TiNまたはTiCNのみからなってもよく、TiNまたはTiCNに加えて、不可避不純物などを含んでもよいことを意味する。ここで、不可避不純物としては、塩素原子(Cl)、酸素原子(O)、コバルト原子(Co)、タングステン原子(W)、ニッケル原子(Ni)、硼素原子(B)が挙げられる。下地層における不可避不純物の合計の含有率は、例えば、0質量%以上1.0質量%以下であってもよく、0.3質量%以上0.6質量%以下であってもよい。
下地層がTiNまたはTiCNからなることは、X線回折法(XRD)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により測定される。下地層における不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。なお、同一の下地層に対し測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがほとんどないことが確認されている。
下地層の厚みは、0.1μm以上2.0μm以下であってもよく、0.5μm以上1.5μm以下であってもよく、0.8μm以上1.3μm以下であってもよい。
<中間層>
中間層は、TiCNからなってもよい。「TiCNからなる」とは、TiCNのみからなってもよく、TiCNに加えて、不可避不純物などを含んでもよいことを意味する。ここで、不可避不純物としては、塩素原子(Cl)、酸素原子(O)、コバルト原子(Co)、タングステン原子(W)、ニッケル原子(Ni)、硼素原子(B)が挙げられる。中間層における不可避不純物の合計の含有率は、例えば、0質量%以上1.0質量%以下であってもよく、0.3質量%以上0.6質量%以下であってもよい。
中間層がTiCNからなることは、X線回折法(XRD)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により測定される。中間層における不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。なお、同一の中間層に対し測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがほとんどないことが確認されている。
中間層の厚みは、2.0μm以上10μm以下であってもよく、4.0μm以上8.0μm以下であってもよい。
<表面層>
表面層は、TiNからなってもよい。「TiNからなる」とは、TiNのみからなってもよく、TiNに加えて、不可避不純物などを含んでもよいことを意味する。ここで、不可避不純物としては、塩素原子(Cl)、酸素原子(O)、コバルト原子(Co)、タングステン原子(W)、ニッケル原子(Ni)、硼素原子(B)が挙げられる。表面層における不可避不純物の合計の含有率は、例えば、0質量%以上1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以上0.4質量%以下であってもよい。
表面層がTiNからなることは、X線回折法(XRD)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により測定される。表面層における不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。なお、同一の表面層に対し測定する限り、測定箇所を任意に選択しても、測定結果にばらつきがほとんどないことが確認されている。
表面層の厚みは、0.5μm以上3.0μm以下であってもよく、1.0μm以上2.5μm以下であってもよい。
[実施形態2:切削工具の製造方法]
本実施形態の切削工具の製造方法について図3を用いて説明する。図3は、本開示の切削工具の製造に用いられるCVD装置の一例の模式的な断面図である。
本実施形態の切削工具の製造方法は、実施形態1に記載の切削工具の製造方法であって、基材1を準備する第1工程と、該基材1上に被膜を形成する第2工程と、を備え、該第2工程は、CVD法によりα-Al2O3層を形成する第2a工程と、CVD法によりTiCxNy層を形成する第2b工程と、をこの順で含む。第2工程は、第2a工程と第2b工程との間において、CVD法によりTiCNO層を形成する第2c工程を更に含んでもよい。各工程の詳細について、以下に説明する。
≪第1工程≫
第1工程では、基材1を準備する。基材1は、実施形態1に記載の基材1を用いることができる。
例えば、基材1として超硬合金を用いる場合は、市販の基材1を用いてもよく、一般的な粉末冶金法で製造してもよい。一般的な粉末冶金法で製造する場合、例えば、ボールミル等によってWC粉末とCo粉末等とを混合して混合粉末を得る。該混合粉末を乾燥した後、所定の形状に成形して成形体を得る。さらに該成形体を焼結することにより、WC-Co系超硬合金(焼結体)を得る。次に、該焼結体に対して、ホーニングに処理等の所定の刃先加工を施すことにより、WC-Co系超硬合金からなる基材1を製造することができる。上記以外の基材1であっても、この種の基材1として従来公知のものであればいずれも準備可能である。
≪第2工程≫
第2工程では、上記基材1上に被膜を形成して切削工具を得る。被膜の形成は、例えば図3に示されるCVD装置30を用いて行う。CVD装置30は、基材1を保持するための基材セット治具31の複数と、基材セット治具31を覆う耐熱合金鋼製の反応容器32とを備えている。また、反応容器32の周囲には、反応容器32内の温度を制御するための調温装置33が設けられている。反応容器32にはガス導入口34を有するガス導入管35が設けられている。ガス導入管35は、基材セット治具31が配置される反応容器32の内部空間において、鉛直方向に延在し該鉛直方向を軸に回転可能に配置されており、またガスを反応容器32内に噴出するための複数の噴出孔(貫通孔36)が設けられている。このCVD装置30を用いて、次のようにして上記被膜を構成する、α-Al2O3層、TiCNO層、およびTiCxNy層を形成することができる。
被膜が、実施形態1に記載の「他の層」を含む場合は、該「他の層」は従来公知の方法で形成することができる。
<第2a工程:CVD法によりα-Al2O3層を形成する工程>
第2a工程では、CVD法によりα-Al2O3層を形成する。より具体的には、まず、基材1を基材セット治具31に配置し、反応容器32内の温度および圧力を所定の範囲に制御しながら、α-Al2O3層用の原料ガスをガス導入管35から反応容器32内に導入させる。これにより、基材1上にα-Al2O3層が形成され、基材1上にα-Al2O3層が形成された「第1切削工具前駆体」が得られる。
α-Al2O3層用の原料ガスとしては、AlCl3、CO2、HCl、CO、H2S、およびH2の混合ガスが用いられる。
混合ガスにおけるAlCl3の含有率は、2.0atm%以上4.0atm%以下であってもよい。混合ガスにおけるCO2の含有率は、1.0atm%以上3.0atm%以下であってもよい。混合ガスにおけるHClの含有率は、2.0atm%以上6.0atm%以下であってもよい。混合ガスにおけるCOの含有率は、2.0atm%以上3.0atm%以下であってもよい。混合ガスにおけるH2Sの含有率は、0.1atm%以上1.0atm%以下であってもよい。
反応容器32内の温度は900℃以上1100℃以下に制御されてもよく、反応容器32内の圧力は60hPa以上80hPa以下に制御されてもよい。なお、ガス導入時、ガス導入管35を回転させてもよい。
上記製造方法に関し、CVD法の各条件を制御することによって、α-Al2O3層の態様が変化する。例えば、成膜時間を調整することにより、α-Al2O3層の厚みが制御される。
<第2c工程:CVD法によりTiCNO層を形成する工程>
第2c工程では、CVD法によりTiCNO層を形成する。より具体的には、まず、基材1上にα-Al2O3層が形成された「第1切削工具前駆体」を基材セット治具31に配置し、反応容器32内の温度および圧力を所定の範囲に制御しながら、TiCNO層用の原料ガスをガス導入管35から反応容器32内に導入させる。これにより、α-Al2O3層上にTiCNO層が形成され、α-Al2O3層上にTiCNO層が形成された「第1’切削工具前駆体」が得られる。
TiCNO層用の原料ガスとしては、TiCl4、CH3CN、CO、N2、およびH2の混合ガスが用いられる。
混合ガスにおけるTiCl4の含有率は、0.5atm%以上3.0atm%以下であってもよい。混合ガスにおけるCH3CNの含有率は、0.01atm%以上3.0atm%以下であってもよい。混合ガスにおけるCOの含有率は、1.0atm%以上4.0atm%以下であってもよい。混合ガスにおけるN2の含有率は、10atm%以上40atm%以下であってもよい。
反応容器32内の温度は900℃以上1100℃以下に制御されてもよく、反応容器32内の圧力は180hPa以上220hPa以下に制御されてもよい。なお、ガス導入時、ガス導入管35を回転させてもよい。
上記製造方法に関し、CVD法の各条件を制御することによって、TiCNO層の態様が変化する。例えば、成膜時間を調整することにより、TiCNO層の厚みが制御される。
<第2b工程:CVD法によりTiCxNy層を形成する工程>
第2b工程では、CVD法によりTiCxNy層を形成する。より具体的には、第2c工程が実行されない場合においては、まず、基材1上にα-Al2O3層が形成された「第1切削工具前駆体」を基材セット治具31に配置し、反応容器32内の温度および圧力を所定の範囲に制御しながら、TiCxNy層用の原料ガスをガス導入管35から反応容器32内に導入させる。これにより、α-Al2O3層上にTiCxNy層が形成される。
また、第2c工程が実行される場合においては、まず、α-Al2O3層上にTiCNO層が形成された「第1’切削工具前駆体」を基材セット治具31に配置し、反応容器32内の温度および圧力を所定の範囲に制御しながら、TiCxNy層用の原料ガスをガス導入管35から反応容器32内に導入させる。これにより、TiCNO層上にTiCxNy層が形成される。
TiCxNy層用の原料ガスとしては、TiCl4、CH3CN、CO、N2、およびH2の混合ガスが用いられる。
混合ガスにおけるCOの含有率c1は、0.15atm%以上0.4atm%以下である。これによって、TiCxNy結晶の柱状組織を維持したまま、結晶径を小さくすることができる。混合ガスにおけるTiCl4の含有率c3は、0.5atm%以上3.0atm%以下であってもよい。混合ガスにおけるCH3CNの含有率c4は、0.01atm%以上3.0atm%以下であってもよい。混合ガスにおけるN2の含有率c2は、1atm%以上40atm%以下であってもよい。
反応容器32内の温度は900℃以上1100℃以下に制御されてもよく、反応容器32内の圧力は80hPa以上100hPa以下に制御されてもよい。なお、ガス導入時、ガス導入管35を回転させてもよい。
上記製造方法に関し、CVD法の各条件を制御することによって、TiCxNy層の態様が変化する。例えば、成膜時間を調整することにより、TiCxNy層の厚みが制御される。
<その他の工程>
第2工程は、上記の工程に加えて、表面研削、ブラスト処理などの表面処理工程を含むことができる。
≪本実施形態の切削工具の製造方法の特徴≫
本実施形態の切削工具の製造方法では、第2b工程において、混合ガスにおけるCOの含有率は、0.15atm%以上0.4atm%以下である。これによって、被膜は、基材1上に配置されたα-Al2O3層と、該α-Al2O3層上に配置されたTiCxNy層と、を含み、且つ、複数のTiCxNy結晶からなる該TiCxNy層において、該TiCxNy結晶を、基材1から被膜の表面への方向に沿って伸びた柱状晶とし、且つ、該TiCxNy結晶の結晶径を、所望の範囲に調整し、且つ、xおよびyを所望の範囲に調整することができる。その理由は、以下の通りと推察される。
複数のTiCxNy結晶からなる該TiCxNy層において、該TiCxNy結晶を、基材から被膜の表面への方向に沿って伸びた柱状晶とし、且つ、該TiCxNy結晶の結晶径を小さく抑えることは、例えば、該TiCxNy層の成膜を低温(例えば、800℃程度)で実行することにより達成されることが従来から知られている。しかしながら、α-Al2O3層上にTiCxNy層を配置する場合においては、α-Al2O3層の成膜が高温(例えば、1000℃程度)で実行される関係で、TiCxNy層の成膜を低温(例えば、800℃程度)で実行できなかった。また、α-Al2O3層中のα-Al2O3粒子が粗粒になり易い傾向がある関係で、α-Al2O3層上に配置されるTiCxNy層中のTiCxNy結晶を微粒にすることができなかった。以上により、TiCxNy結晶を基材から被膜の表面への方向に沿って伸びた柱状晶とし、且つ、該TiCxNy結晶の結晶径を小さく抑えることができなかった。
本実施形態の切削工具の製造方法では、第2b工程において、混合ガスにおけるCOの含有率は、0.15atm%以上0.4atm%以下である。COの含有率が高いと(すなわち、0.4atm%超であると)成長方向を制御し難くなる関係で柱状組織を維持できなくなる一方で、COの含有率が適度に低いと(すなわち、0.15atm%以上0.4atm%以下であると)成長方向を制御し易くなる関係で柱状組織を維持することができる。その為、被膜は、基材1上に配置されたα-Al2O3層と、該α-Al2O3層上に配置されたTiCxNy層と、を含み、且つ、複数のTiCxNy結晶からなるTiCxNy層において、該TiCxNy結晶を、基材1から被膜の表面への方向に沿って伸びた柱状晶とし、且つ、該TiCxNy結晶の結晶径を、所望の範囲に調整することができる。なお、従来においては、COガス流量の制御を安定させるために流量が多くなる関係で、混合ガスにおけるCOの含有率は0.15atm%以上0.4atm%以下の範囲外であった。また、第2b工程において、混合ガスにおけるCOの含有率が0.15atm%以上0.4atm%以下であることを前提として、混合ガスにおけるCOの含有率c1に対する、混合ガスにおけるN2の含有率c2の比率c2/c1は、10以上150以下であり、且つ、混合ガスにおけるCH3CNの含有率c4に対する、混合ガスにおけるN2の含有率c2の比率c2/c4は、75以下であり、且つ、混合ガスにおけるTiCl4の含有率c3に対する、混合ガスにおけるCOの含有率c1と、N2の含有率c2と、CH3CNの含有率c4と、H2の含有率c5との和の比率(c1+c2+c4+c5)/c3は、49以上99以下である。これによって、C原子の供給量およびN原子の供給量を適切に変化させることができる為、xの数値およびyの数値を所望の範囲に調整することができる。このような製造方法を採用することによって、本開示の切削工具を実現できることは、本発明者らが鋭意検討の結果、見いだしたものである。
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
≪切削工具の作製≫
以下の様にして、試料1~21、101~106に係る切削工具を作製した。
≪第1工程≫
基材として、以下の組成を有するの超硬合金製切削チップ(形状:CNMG120408N-UX、住友電工ハードメタル株式会社製、JIS B4120(2013))を準備した。
(基材の組成)
・WC含有率 :残部
・TaC含有率:2.0質量%
・NbC含有率:1.0質量%
・Co含有率 :10.0質量%
≪第2工程≫
表1-1および表1-2に記載の条件で、CVD法により、上記基材上にα-Al2O3層を形成した(第2a工程)。成膜時間は、α-Al2O3層が表4-1および表4-2に記載の厚みとなる様に適宜調整した。次に、試料17~19および試料106に関し、表2-1および表2-2に記載の条件で、CVD法により、上記α-Al2O3層上にTiCNO層を形成した。成膜時間は、TiCNO層が表4-1および表4-2に記載の厚みとなる様に適宜調整した。なお、試料106に関し第2c工程の条件は、成膜時間(すなわち、厚みに寄与する条件)を除いては、特許文献2の実施例に示される「発明品1」の「上部層」の成膜条件に相当する。次に、試料1~16、試料20、試料21、および試料101~105に関し、表3-1および表3-2に記載の条件で、CVD法により、上記α-Al2O3層上にTiCxNy層を形成した(第2b工程)。成膜時間は、TiCxNy層が表5-1および表5-2に記載の厚みとなる様に適宜調整した。なお、試料105に関し第2b工程の条件は、成膜時間(すなわち、厚みに寄与する条件)を除いては、特許文献1の実施例に示される試料1のTiCN層の成膜条件に相当する。また、試料17~19に関し、表3-1および表3-2に記載の条件で、CVD法により、上記TiCNO層上にTiCxNy層を形成した(第2b工程)。成膜時間は、TiCxNy層が表5-1および表5-2に記載の厚みとなる様に適宜調整した。なお、表2-1および表2-2の全ての欄に「-」と記載されている場合は、第2c工程が実行されなかったことを意味する。また、表3-2の全ての欄に「-」と記載されている場合は、第2b工程が実行されなかったことを意味する。
以上により、試料1~21、101~106に係る切削工具を作製した。なお、試料106におけるTiCNO層に関し、該TiCNO層は複数のTiCxNyO結晶からなり、該TiCxNyO粒子のxは0.4であり、yは0.55であり、アスペクト比は40であり、結晶径は0.03であり、TiCNO層の硬度は22GPaであった。ここで、測定方法は、測定対象がTiCNO層およびTiCxNyO結晶である点を除いては、実施形態1に記載のx、y、アスペクト比、結晶径、および硬度と同様の方法で測定した。
≪切削工具の特性評価≫
<α-Al2O3層の組成>
各試料に係る切削工具について、α-Al2O3層の組成を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表4-1および表4-2の「α-Al2O3層」欄の「組成」欄に記す。なお、表4-1および表4-2の「α-Al2O3層」欄の「組成」欄に成分名が記載されている場合においては、α-Al2O3層は、該成分名で表される成分からなることを意味する。
<α-Al2O3層の厚み>
各試料に係る切削工具について、α-Al2O3層の厚みを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表4-1および表4-2の「α-Al2O3層」欄の「厚み[μm]」欄に記す。
<α-Al2O3粒子の粒径>
各試料に係る切削工具について、α-Al2O3粒子の粒径を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表4-1および表4-2の「α-Al2O3層」欄の「粒径[μm]」欄に記す。
<TiCNO層の組成>
各試料に係る切削工具について、TiCNO層の組成を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表4-1および表4-2の「TiCNO層」欄の「組成」欄に記す。なお、表4-1および表4-2の「TiCNO層」欄の「組成」欄に成分名が記載されている場合においては、TiCNO層は、該成分名で表される成分からなることを意味する。
<TiCNO層の厚み>
各試料に係る切削工具について、TiCNO層の厚みを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表4-1および表4-2の「TiCNO層」欄の「厚み[μm]」欄に記す。
<TiCxNy層の組成>
各試料に係る切削工具について、TiCxNy層の組成を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表5-1および表5-2の「TiCxNy層」欄の「組成」欄、「x」欄、および「y」欄のそれぞれに記す。なお、表5-1および表5-2の「TiCxNy層」欄の「組成」欄に成分名が記載されている場合においては、TiCxNy層は、該成分名で表される成分からなることを意味する。
<TiCxNy層の厚み>
各試料に係る切削工具について、TiCxNy層の厚みを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表5-1および表5-2の「TiCxNy層」欄の「厚み[μm]」欄に記す。
<TiCxNy結晶の結晶径>
各試料に係る切削工具について、TiCxNy結晶の結晶径を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表5-1および表5-2の「TiCxNy層」欄の「TiCxNy結晶」欄の「粒径[μm]」欄に記す。
<TiCxNy結晶のアスペクト比>
各試料に係る切削工具について、TiCxNy結晶のアスペクト比を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表5-1および表5-2の「TiCxNy層」欄の「TiCxNy結晶」欄の「アスペクト比」欄に記す。
<TiCxNy層の硬度>
各試料に係る切削工具について、TiCxNy層の硬度を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表5-1および表5-2の「TiCxNy層」欄の「硬度[GPa]」欄に記す。
<被膜の厚み>
各試料に係る切削工具について、被膜の厚みを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表6-1および表6-2の「被膜」欄の「厚み[μm]」欄に記す。
≪切削試験≫
各試料に係る切削工具を用いて、以下の切削条件により切削加工を実行し、切削時間1分ごとに逃げ面における被膜の摩耗量[mm]を測定した。該摩耗量が0.2mmを超えた時間を工具寿命[分]として記録した。得られた結果を、表6-1および表6-2の「切削試験」欄の「工具寿命[分]」欄に記す。
(切削条件)
・被削材:SCM440(HB=300)
・切削速度:250m/分
・送り量:0.3mm/rev
・切込み量:2.0mm
・水溶性切削油:あり(湿式)
上記の切削条件は、鋼の中速加工の切削条件に該当する。
上記切削試験において工具寿命が15分以上であることは、切削工具が、特に鋼の中速加工の切削条件においても優れた工具寿命を有することを意味する。
試料1~21に係る切削工具は実施例に該当する。試料101~106に係る切削工具は比較例に該当する。表6-1および表6-2に示される切削試験の結果から、試料1~21に係る切削工具は、試料101~106に係る切削工具に比して、特に鋼の中速加工においても、優れた工具寿命を有することが分かった。
以上により、試料1~21に係る切削工具は、特に鋼の中速加工においても、優れた工具寿命を有することが分かった。
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 基材、2 被膜、3 α-Al2O3層、4 TiCxNy層、5 TiCNO層、10 切削工具、30 CVD装置、 31 基材セット治具、 32 反応容器、 33 調温装置、 34 ガス導入口、 35 ガス導入管、 36 貫通孔。

Claims (6)

  1. 基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
    前記被膜は、前記基材上に配置されたα-Al2O3層と、前記α-Al2O3層上に配置されたTiCxNy層と、を含み、
    前記xおよび前記yは、式1および式2の関係を満たし、
    0.7≦x+y≦1.3 式1
    y≦1.5x 式2
    前記TiCxNy層は、複数のTiCxNy結晶からなり、
    前記TiCxNy結晶は、前記基材から前記被膜の表面への方向に沿って伸びた柱状晶であり、
    前記TiCxNy結晶の結晶径は、0.05μm以上0.5μm以下である、切削工具。
  2. 前記TiCxNy結晶のアスペクト比は、10以上30以下である、請求項1に記載の切削工具。
  3. 前記TiCxNy層の厚みは、0.5μm以上5μm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
  4. 前記α-Al2O3層は、複数のα-Al2O3粒子からなり、
    前記α-Al2O3粒子の粒径は、0.3μm以上1.0μm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
  5. 前記被膜は、前記α-Al2O3層と前記TiCxNy層との間に、前記α-Al2O3層と前記TiCxNy層とに接して配置されたTiCNO層を更に含み、
    前記TiCNO層の厚みは、1μm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
  6. 前記xおよび前記yは、式3の関係を更に満たす、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
    y<1.5x 式3
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