JP7855199B2 - 膀胱癌診断方法 - Google Patents

膀胱癌診断方法

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Description

本発明は、膀胱癌患者尿中に存在する癌細胞特異的な細胞外小胞(細胞外小胞、medium/large extracellular vesicles)の検出とそれを用いた膀胱癌の診断方法に関する。
1980年代から日本における代表的な死亡原因として認知されている癌は、世界でも死因の上位を占め、医学的診断または治療技術の進歩にも関わらず、いまだ診断または治療方法が十分には確立したとは言い難い。中でも膀胱癌は、毎年世界中で推定数十万例以上が診断され、国内でも20,000例が新たに診断されている。そのうち約3分の1は、診断時に侵襲性または転移性の疾患である可能性があるとされ、種々の尿路系癌(腎盂、尿管、膀胱)の中で罹患数及び死亡数が最も多い(非特許文献1)。
膀胱癌は、尿路上皮を含む膀胱組織が癌化することによって引き起こされ、組織学的には尿路上皮癌が全体の90%を占める。そしてこれらの症例の70%が、表面性で、非侵襲性である。移行上皮癌と診断された患者の約75%が、経尿道的切除術によって治療することができる表在性腫瘍を呈する。表在性疾患の再発率は60%を超え、再発性膀胱腫瘍の30%以下は侵襲性疾患に進行する(非特許文献2)。よって、膀胱癌を有する、または有する疑いがある患者の早期発見が重要であることに加えて、生涯にわたるサーベイランスが治療成功のために重要であるとされる。
膀胱癌を有する大多数の患者は、肉眼的もしくは顕微鏡的血尿を示すか、または頻尿及び排尿障害などの他の気がかりな排尿症状を示した後に診察を受ける。しかしながら、早期膀胱癌の存在を正確かつ容易に特定する方法は存在せず、膀胱癌の確定診断は、手順の組み合わせを必要とする。
最初のスクリーニングとして、尿サンプル由来の細胞を顕微鏡検査する尿細胞診が用いられる場合がある。尿細胞診は、剥離した細胞を、特異的細胞表面抗原の存在、核の形態、遺伝子発現または他の生物学的マーカーについて調べることができ、高グレード悪性腫瘍の症例に対しては有用であるが、それ以外の低悪性度の腫瘍を検出する感度がなく制約がある(非特許文献3)。また、尿細胞診の精度は、膀胱癌細胞が尿中に遊離する程度は採尿タイミングや病勢によって大きく変動することに加えて、結果の解釈に主観性の要素を否定できず、判定結果が変動し得るという問題点がある。それゆえ、細胞診は膀胱癌のスクリーニングおよびサーベイランスにおいて理想的ではない。
上記症状を呈し膀胱癌が疑われる患者について行われる最も信頼度が高いとされている検査は、局所または全身麻酔下での膀胱鏡検査と、必要に応じてその後に固形組織生検を実施した確定診断である。しかし、上記症状は尿路感染症や前立腺肥大症といった疾患に由来することも多く、膀胱癌ではない患者に対してもこのような侵襲性を伴い患者へ大きな負担を伴う検査を実施しなければならないこととなるため、侵襲性の低いスクリーニング用途として精度の高いバイオマーカーを使用した検査が求められている。
一般的に知られている泌尿器系癌の腫瘍マーカーを測定する方法としては、NMP22(Nuclear Matrix Protein 22)やBTA(Bladder Tumor Antigen)、サイトケラチン8及び18などが知られている、しかしながら、これらの方法は、細胞診に比べると感度が比較的高いものの、偽陽性が多いことが報告されている(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)。
したがって、既存のバイオマーカーを用いた膀胱癌患者を検出する方法は、膀胱癌診断用マーカーとして十分なものとはいえず、特に膀胱癌の早期診断の適用について教示を与えるものではない。したがって、膀胱癌の早期診断を可能にし、かつ感度及び特異性が高い膀胱癌診断用マーカーは、未だ見出されていない。
近年、細胞から離出分離する微小膜画分を、非侵襲的な診断材料であるリキッドバイオプシーとして罹患状態や疾病の有無を判別に用いることが提案されている(特許文献1、特許文献2)。このような微小膜画分は、その大きさによってエクソソーム、マイクロベシクル等に大別されるが、いずれもその利用が注目されている。中でもマイクロベシクル細胞外小胞は腫瘍の浸潤に極めて重要な役割を担っていることが知られており(非特許文献7)、尿中に存在する細胞外小胞は糖尿病性腎症などへの疾患への関与が報告されている(非特許文献5)ことからも、その臨床的有用性が期待されている。細胞外小胞は、血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cells;CTC)などと比べてヒト体液中に多量に含まれること、腫瘍の浸潤や悪性化に極めて重要な役割を担っていることが示唆されている(非特許文献7、非特許文献8)。
特に尿中微小膜画分を抽出する方法や検出法についての知見が蓄積しつつあり、例えば、尿中Tamm-Horsfall protein(uromodulin)(以下THPと略)が多量に含有され、これらは高分子ポリマーを形成することが知られている。これらの高分子ポリマーと微小膜画分を分別するために還元処理にて高分子ポリマーをあらかじめ分解したのちにエクソソームを抽出する手法(非特許文献9)、また、健常人尿中のマイクロベシクルを濃縮しフローサイトメーターでキャラクタライズする方法が知られている(特許文献3)。
特許第5838963号公報 特開2015-91251号公報 特開2019-215342号公報
Jemal et al., Cancer statistics. CA Cancer J Clin. 57; 43-66, 2007 Zieger et al., Long-term follow-up of noninvasive bladder tumours(stage Ta): recurrence and progression. BJU Int. 85; 824-8, 2000 Wiener et al. Accuracy of urinary cytology in the diagnosis of primary and recurrent bladder cancer. Acta Cytol. 37(2); 163-9, 1993 高士宗久ら、膀胱癌マーカー(尿中BTA, 尿中NMP22).臨床検査ガイド2001-2002. 945-7, 2001 Takashi M et al., Use of diagnostic categories in urinary cytology in comparison with the bladder tumor antigen(BTA) test in bladder cancer patients. Int Urol Nephrol. 31; 189-96, 1999 赤座英之 尿路上皮癌における尿中NMP(nuclear matrix protein 22)の臨床的検討(第1報)- 膀胱癌における尿中NMP22の感受性試験および経過観察での有用性.癌と化学療法 24; 829-36, 1997 James W et al. Regulated delivery of molecular cargo to invasive tumour-derived microvesicles. Nat Commun. 6(6919), 2015 Timaner et al. Microparticles from Tumors Exposed to Radiation Promote Immune Evasion in Part by PD-L1. Oncogene 39(1); 187-203, 2020 Patricia Fernandez-Llama et al., Tamm-Horsfall protein and urinary exosome isolation. Kidney Int. 77(8); 736-742, 2010
上述したように、膀胱癌の検査において尿は非侵襲的で有効な臨床検査材料になりえるが、尿中に含まれるバイオマーカーを指標として、膀胱癌を早期かつ正確に診断可能な性能を有した検査が存在しない。そこで本発明では、尿中に含まれる膀胱癌特異的な細胞外小胞、特に直径0.1~1μmのマイクロベシクル(medium/large extracellular vesicles)に注目して膀胱癌患者の尿中マイクロベシクルに存在する物質を特定し、膀胱癌の早期かつ正確な診断を補助するための方法を構築することを、本発明の課題とする。
なお、本明細書において細胞外小胞とは100nm以下のエクソソームやsmall extracellular vesiclesを含まない中型、大型サイズの細胞外小胞(medium/large extracellular vesicles)を意味し、マイクロベシクルを含むものとする。以降、細胞外小胞の例としてマイクロベシクルを使用した場合について記載をするが、本発明はこれに限定されるものではない。
また、本明細書において、分離とは、分画、検出などと同義で用いるものとする。
本発明者らは、前記の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、膀胱癌患者から採取された尿中のマイクロベシクルに特異的に存在するタンパク質をショットガンプロテオミクス解析によって同定することができた。その同定されたタンパク質の一部について解析を進め、坑ヒトCD66a抗体、坑ヒトCD66c抗体、及び/又は坑ヒトCD66e抗体(以下、これらをあわせて坑ヒトCD66a/c/e抗体と記載することがある)で陽性となる膀胱癌特異的に存在するマイクロベシクルを新たに発見した。更に、この抗ヒトCD66a/c/e抗体陽性マイクロベシクルの存在比を算出して、侵襲性が低く、早期かつ正確な膀胱癌の診断の補助を行うことができる方法を確立することができた。本方法を用い、数十名の患者サンプル(膀胱癌患者、非膀胱癌患者、健常人)を用いて本法を検証し、膀胱癌患者の診断/検査応用にCD66a/c/eが陽性となるマイクロベシクルが有用であることを示した。ショットガンプロテオミクス解析によって同定されたCD66a/c/e以外のタンパク質のタンパク質についても、膀胱癌患者の診断/検査応用に有用であることが示唆される。
すなわち、本発明は、以下を提供する:
[1]対象患者由来の尿中に含まれるマイクロベシクルを濃縮し、当該マイクロベシクルにおけるマーカータンパク質の存在量によって、対象患者が膀胱癌を有するか否かを判定することを補助する方法。
[2]前記マイクロベシクル中のマーカータンパク質の存在量の観測が、マイクロベシクル中のIGHG1、CRABP2、PLG、AHSG、HP、IGHG2、ANXA2、IGHM、SERPINA1、CFB、TF、NME2、C4BPA、A2M、TACSTD2、FGG、C4B、F2、C3、IGHA1、CP、SERPINA3、CA1、CAPN5、APOB、FAM129B、C9、TMSB10、C1QB、IGLC6、IGKC、CEACAM7、UPK3A、CEACAM5、ARHGDIB、SRC、FGB、C1QC、LRG1、UPK3BL、DEFA3、SERPIND1、FN1、SDCBP2、APOA1、ITIH4、AGRN、SERPINF1、PDLIM1、ANXA9、PSCA、HBA1、SLC2A1、ITIH2、CYSRT1、SERPINC1、PGLYRP2、SPRR1A、PROS1、RAB27B、UGDH、MARCKS、EFHD2、APOL1、CD66a、CD66b、CD66c、CGM2又はCD66eの少なくとも1つの存在量を検出することによって行うことを特徴とする、[1]の方法。
[3]前記マイクロベシクル中のCD66a、CD66b、CD66c、CGM2又はCD66eの存在量の観測が、CD66a、CD66b、CD66c、CGM2及びCD66eを発現しているマイクロベシクル(A)とCD10、CD13、及びCD26を発現しているマイクロベシクル(B)との比(A/B)によって算出されるものであることを特徴とする、[1]又は[2]の方法。
[4]前記マイクロベシクル中のCD66a、CD66b、CD66c、CGM2又はCD66eの存在量の観測が、CD66a、CD66b、CD66c、CGM2及びCD66eを発現しているマイクロベシクル(A)とCD10、CD13、CD26、及びMUC1を発現しているマイクロベシクル(C)との比(A/C)によって算出されるものであることを特徴とする、[1]又は[2]の方法。
[5]対象患者に由来する尿中マイクロベシクルにおけるマーカータンパク質の存在量又は前記比が、対照に由来する尿中マイクロベシクルにおけるマーカータンパク質の存在量又は前記比と比較して高いことが、対象患者が膀胱癌を有することを示す、[1]~[4]のいずれかの方法。
[6]尿中マイクロベシクルにおけるCD66a/b/c/e、又はCGM2の存在量を測定する工程と、測定された前記CD66a/b/c/e、又はCGM2の存在量が、対照と比較して多い場合に、前記尿は膀胱癌患者由来のものであると判定する工程と、を備える、膀胱癌を有するか否かを判定することを補助する方法。
[7]対象患者から採取した第1の試料中と、対象患者から治療期間後に採取した第2の試料中のタンパク質の存在量とを比較することによって行う、膀胱癌の治療経過を観察するため、又は膀胱癌の治療効果を決定するための、[1]~[6]のいずれかの方法。
[8]表在性膀胱癌、浸潤性病期1膀胱癌、または浸潤性病期2~3膀胱癌を示すものとして相関させる工程をさらに含む、[1]~[7]のいずれかの方法。
また、本発明には、
当該マイクロベシクル中のマーカータンパク質を測定(又は検出)する、膀胱癌の診断を行う方法、
膀胱癌の診断のために、当該マイクロベシクル中のマーカータンパク質を測定(又は検出)する方法、
当該マイクロベシクル中のマーカータンパク質を測定(又は検出)することを特徴とする、膀胱癌のin vitro診断方法、
当該マイクロベシクル中のマーカータンパク質を検出できる抗体の、膀胱癌診断用キットの製造における使用、
膀胱癌の診断に必要な情報を提供するために、当該マイクロベシクル中のマーカータンパク質を測定(又は検出)する方法
が含まれる。
本発明の方法である、膀胱癌患者尿中に特異的に存在するマイクロベシクルを簡便に且つ特異的に分離、観測することで、初診患者に対して侵襲性が低く、早期にかつ正確に膀胱癌の診断を補助することが可能となる。また、膀胱癌患者で手術や化学療法など治療を施した後の予後(転移の有無)のモニタリングにおいて従来の尿細胞診を用いた検査と比べ診断性能の向上(臨床感度向上、見落としの減少)が期待される。また、本発明により得られた画分を使用して観測することで、対象における疾患、薬剤投与効果または他の医学的状態を推定が可能となることが期待される。
膀胱癌患者から抽出した画分の散乱光及び蛍光NTAで実測した粒度分布ヒストグラムである。 健常人から抽出した画分の散乱光及び蛍光NTAで実測した粒度分布ヒストグラムである。 健常人及び膀胱癌患者から抽出した画分を散乱光及び傾向NTAで実測した際の10%、50%、90%の粒子の直径の割合を示す図である。 膀胱癌患者プール及び健常人プールについて、抽出したマイクロベシクル画分のショットガンプロテオミクス解析により検出できたタンパク質の数を示すベン図である。 膀胱癌患者のみに検出された585種のタンパク質のエンリッチメント解析の結果を示す表である。なお、薄字になっているもの(Description欄のregulated exocytosis、Hemostasis、Transport of small molecules)は、健常人の同様の解析でも検出されたものである。 膀胱癌患者及び健常人のそれぞれの結果から主成分分析を実施し、第2主成分まで図示したグラフである。 膀胱癌患者及び健常人のそれぞれの結果をもとにOPLS-DA解析を実施し得られた図である。 ショットガンプロテオミクス解析を濃縮マイクロベシクル画分(膀胱癌患者、健常者)において患者ごとに実施し測定されたタンパク質の定量結果を表すヒートマップである。 図8に示すタンパク質の内、検出された全てのCEACAMファミリー(CD66)タンパク質のプロファイルを示すヒートマップである。 膀胱癌患者尿中のCD66a/c/e陽性マイクロベシクルを側方散乱光(SSC)のサイズ検証用ビーズとヒストグラムで展開し、観測されるマイクロベシクルのサイズを見積った図である。 膀胱癌患者の尿中マイクロベシクルを坑ヒトCD66a抗体、坑ヒトCD66c抗体、坑ヒトCD66e抗体で染色したフローサイトメトリー観測像(上)と、CD66aを100%としたときのCD66c、eの割合とマージする細胞外小胞の割合を示すグラフ(下)である。 膀胱癌患者の尿中マイクロベシクルを坑ヒトCD66b抗体、坑ヒトCD66a/c/e抗体で染色したフローサイトメトリー観測像である。 膀胱癌患者、非膀胱癌患者、健常人の尿中マイクロベシクルを坑ヒトCD66a/c/e抗体で染色したフローサイトメトリー観測像である。 CD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルのターゲティング方法を示す説明図である。全体像の観測からCD66a/c/e陽性マイクロベシクルのみを選別していくフローサイトメトリーのゲーティング手法である。 観測像における微小膜画分の全体像におけるMUC1陽性(CD66a/c/e陰性)、マルチペプチダーゼ陽性(CD10、CD13、CD26陽性、CD66a/c/e陰性)、CD66a/c/e陽性のマイクロベシクルをAnnexin5と側方散乱光により展開させたフローサイトメトリーの図である。 膀胱癌患者におけるCD66a/c/e陽性マイクロベシクル画分はマルチペプチダーゼ陽性(CD10、CD13、CD26陽性)マイクロベシクルとは異なるものであることを説明する図である。 膀胱癌患者におけるCD66a/c/e陽性マイクロベシクル画分はMUC1も陽性となる。すなわちCD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルは尿路上皮細胞の正常なものが癌化したものから分泌されたものであることを説明する図である。 膀胱癌患者、非膀胱癌患者、健常人のフローサイトメーターで観測されたすべてのマイクロベシクルの一覧(観測像全体に占める各画分のパーセンテージ)を示す図である。 CD66a/c/e陽性画分、マルチペプチダーゼ陽性画分のフローサイトメトリー観測像におけるパーセンテージ比較(膀胱癌患者10名、非膀胱癌患者4名、健常人9名)。 CD66a/c/e陽性画分とマルチペプチダーゼ陽性画分との比、並びに、CD66a/c/e陽性画分とマルチペプチダーゼ陽性画分及びMUC1陽性画分を合わせたものとの比を比較した図である(膀胱癌患者10名、非膀胱癌患者4名、健常人9名)。 CD66a/c/e陽性画分、CD66a/c/e陽性画分とマルチペプチダーゼ陽性画分との比、並びに、CD66a/c/e陽性画分とマルチペプチダーゼ陽性画分及びMUC1陽性画分を合わせたものとの比にて膀胱癌患者とそれ以外の患者にて陰性陽性グラフ及びROC解析を実施した図である。 CD66a/c/e陽性画分、CD66a/c/e陽性画分とマルチペプチダーゼ陽性画分との比、並びに、CD66a/c/e陽性画分とマルチペプチダーゼ陽性画分及びMUC1陽性画分を合わせたものとの比の感度、特異度がバランス良く診断性能が最も良いポイント(ROC解析の頂点)のカットオフラインを明示した図である。 サンプルボリュームを10mL使用した場合のマイクロベシクル濃縮方法とその場合に検出できるCD66a/c/e陽性画分の数が、0.8mLのサンプルボリュームと比べて増加させることができることを明示する図である。 尿細胞診の結果(陰性、陽性判定)と本法における判定結果を比較した図である。尿細胞診で膀胱癌が陰性判定であった尿サンプルが、本法を用いて陽性判定になり癌の存在を検出することができる。
以下において、本発明の実施形態について詳細に説明するが、利用方法の態様についてはこれに限定されるものではない。
本発明は、膀胱癌患者尿中に存在する坑ヒトCD66a/c/e抗体で陽性となる癌細胞特異的なマイクロベシクルを用いた膀胱癌の早期かつ正確な診断を補助する方法である。坑ヒトCD66a/c/e抗体で陽性となる癌細胞特異的なマイクロベシクルは、ヒトCD66a/c/eを認識する物質とマイクロベシクルといわれる直径約0.1~1μmの粒子サイズの2者でキャラクタライズできる。本明細書において、前処理は濃縮や回収の意味を含むものとし、濃縮と回収はほぼ同義の語として用いられることがある。
本明細書において尿とは、採取された尿をそのまま使用してもよいし、水、酸性溶液、アルカリ性溶液、緩衝液等に溶解または懸濁し、必要に応じてさらに処理を加えたものを使用してもよい。本発明で利用可能な酸性溶液、アルカリ性溶液、緩衝液は、当業者であれば適宜選択して使用することが可能である。
以下、坑ヒトCD66a/c/e抗体で陽性となる癌細胞特異的なマイクロベシクルを、フローサイトメーターを用いて分離、観測する条件と診断方法への適用の一例について説明をするが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明で利用可能な、夾雑物を除去しマイクロベシクルを濃縮する前処理法は、遠心分離法を特徴とするが、例えば、特開2019-215342号公報に記載の方法を参考に、以下の工程に従って実施することができる。
採尿された尿検体を、低速遠心分離にて細胞画分やデブリスなどを分離し、上清を回収する(工程1)。このとき、低速遠心分離条件などは、公知の方法に従って実施することができ、室温で2,000×gで20分間遠心分離して得られた上清を使用することができる。
工程1により得られた上清をさらに低速遠心して、上清を回収する工程を実施してもよい。この遠心工程により、血小板由来の小胞やアポトーシス性水疱などを沈殿させることができるため、好ましい。工程1同様に、室温で2,000×gで20分間遠心分離して得られた上清を回収して使用することができる。
工程1により得られた上清を高速遠心して、マイクロベシクル画分を沈殿させる(工程2)。当該工程の条件としては、例えば、室温で20,000×gで30分遠心分離して得られた沈殿を使用することができる。
工程2により得られた沈殿画分に還元剤(例えば、1,4-ジチオトレイトール(1,4-Dithiothreitol:DTT)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(Tris(2-carboxyethyl)phosphinehydrochloride:TCEP)を含む緩衝液を加え、静置する(工程3)。この工程を実施することで、THPポリマーにおけるジスルフィド結合を還元開裂させて、THPポリマーを分解することができる。
工程3で還元剤を添加した試料を高速遠心して、マイクロベシクルを濃縮するとともに還元剤を除去する(工程4)。この高速遠心により、マイクロベシクル画分を濃縮することができ、夾雑物を除去することができる。当該工程の条件としては、室温で20,000×gで30分遠心分離して得られた沈殿を使用することができる。必要に応じて、この工程4を繰り返してもよい。複数回高速で遠心分離をおこなうことにより、夾雑物を取り除いてマイクロベシクルの純度を高めることができ、好ましい。
添加する還元剤は、ジスルフィド結合を切断する目的で添加するため、ジスルフィド結合を切断可能なものであればよい。例えば、ジチオスレイトール、2-メルカプトエタノール、2-メルカプトエチラミン塩酸、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)、システイン塩酸、トリブチルホスフィン(TBP)、ヨードアセトアミド、グルタチオン、ヒドラジンなどのような、タンパク質のSH基の保護や、ジスルフィド結合の切断、還元剤試薬として一般的に用いられるものの中から、当業者であれば適宜選択して使用することができる。これらの還元剤のうち、マイクロベシクルの測定に影響を与えないことが好ましく、かつ、脂質二重層を不安定化させる作用を持たないものであることが更に好ましい。これらの還元剤は単独でも、あるいは、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の一態様として利用可能な前処理方法は上記各工程を実施する以外にも、いくつか考えられる。例えば、水溶液およびタンパク質を含む溶液のろ過滅菌等に使用する各種孔径を有するメンブレンフィルターを組み合わせて、目的とするマイクロベシクル画分を抽出することができる。この場合孔径は直径0.1~10μmのものを使用した精密ろ過(Micro-Filtration)法に相当する方法が好適である。
その他、マイクロベシクルに特異的に結合することができる物質として、例えば、表面に存在するタンパク質、脂質または糖に特異的に結合することができる物質を使用して対象マイクロベシクルだけを分離する方法を用いてもよい。
また、その他の前処理法として、密度勾配溶質とともに試料を遠心分画する平衡密度勾配遠心法、微小膜画分の表面抗原に特異的な抗体を利用し、微小膜画分を様々な担体に結合させて回収する免疫学的捕捉法、サイズ排除クロマトグラフィー(ゲルろ過法)により可溶性タンパク質よりも早く溶出してくる画分を回収する方法、微小膜画分の膜構成成分に対して金属イオン存在下で結合する担体を使用したリン脂質アフィニティー法、また高分子ポリマーと微小膜画分を混合し、目的の微小膜画分を沈殿させるポリマー沈殿法などがある。当業者であれば、適宜これらの方法を選択して実施することが可能であるが、これらの方法においても、試料に還元剤を添加する工程を実施することで、上記工程1~工程4に代替する方法として実施することができる。
以下、これらの方法によって濃縮し夾雑物を除去した試料を、尿検体処理物と称することがある。
次にマイクロベシクルに特化したフローサイトメーターでの観測条件の一例について説明をするが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明において使用できるフローサイトメーターは、特定の機器に限定されるものではなく、クオーツキュベット方式、ジェットインエアー方式などいずれのフローセルを採用したフローサイトメーターであっても使用することができる。
本発明で利用可能なフローサイトメーターを用いた観測法は、例えば、以下の工程に従って実施することができる。
(1)マイクロベシクルの染色
本工程では、還元剤を添加し、濃縮された尿検体処理物と、染色試薬とを混和させて、マイクロベシクルを染色する(工程5-A)。より具体的には、尿検体処理物に、染色試薬、例えば、蛍光標識した、表面抗原に特異的な抗体を混和させて、マイクロベシクルを染色する。染色方法は、当業者であれば定法を採用し、場合によっては条件を適宜検討して実施することができる。マイクロベシクル中の複数の抗原ターゲッティングを行うために、マルチカラー分別として、多種類の標識抗体で染色して検出してもよい。例えば、マイクロベシクルの膜構成成分であるホスファチジルセリン(Phosphatidylserine:PS)に対して、金属イオン存在下で結合するタンパク質であるAnnexin5などを使用することができる。
その他、マイクロベシクルに特異的に結合することができる物質としては、例えば、マイクロベシクル表面に存在するタンパク質、脂質または糖に結合することができる物質であればよい。当該タンパク質、脂質または糖に結合することができる物質をマイクロベシクルと反応させる工程は、尿中に存在する癌細胞特異的なマイクロベシクルをキャラクタライズする場合にも、尿中に存在する正常組織由来のマイクロベシクルをキャラクタライズする場合において実施する。
尿中のマイクロベシクル表面に存在するタンパク質としては、例えばタンパク質の場合、CD235a、CD59、CD44、CD33、CD45、CD144、CD66a、CD66b、CD66c、CD66e、CD41、CD61、EP-CAM、CD324、CD14、CD81、CD31、CD274、CD63、Alix、CD105、CD133、CD279、CD15、TSG101、CD20、CD249、CD5、CD10、CD26、CD273、CD9、MUC1、CD13、CD146、CD62E、Annexin5またはこれらの組み合わせを使用することができる。
例えば、健常人の尿に含まれるものとして多種類の膜型ペプチダーゼを有するマイクロベシクルとしてCD10、CD13、CD26全てが陽性になる画分を、上皮系の細胞に由来するマイクロベシクルとしてAnnexin5、CD227(MUC1)陽性のように組み合わせて使用することで、より高精度な分離ができるため、好ましい。
一方で膀胱癌患者尿中のマイクロベシクルとして、その表面にCD66a、CD66c、CD66e、MUC1陽性となるものを使用し、膀胱癌患者の鑑別、診断、予後の病勢を観測することに用いることが好ましい。
マイクロベシクルに特異的に結合することができる上記以外の物質は、例えば、タンパク質に対して結合親和性を有する物質、酵素の基質、補酵素、調節因子、受容体と特異的に結合する物質、レクチン、糖、糖タンパク質、抗原、抗体若しくはその抗原結合断片、ホルモン、神経伝達物質、リン脂質結合タンパク質、プレクストリン相同(PH:pleckstrin homology、PH)ドメインを含むタンパク質、コレステロール結合タンパク質、またはこれらの組み合わせであってもよい。抗原結合断片は、抗原結合部位を含むものであり、例えば、単一ドメイン抗体(single-domain antibody)、Fab、Fab’またはscFvを使用してもよい。
(2)IgGの添加
本工程では、還元処理で除去しきれなかったTHPポリマーを観測像において検出するためにIgGを蛍光標識したものを混和させてTHPポリマーと反応させる(工程5-B)。
先の工程で尿検体処理物と染色試薬とを混和させて得られた混和物に、あるいは、染色試薬と混和させる前の尿検体処理物に、IgGを蛍光標識したものを混和させて反応させる(工程5-B)。前記IgGの由来は特に限定されるものではなく、例えば、マウスIgG、ヒトIgG、ラットIgG、ウサギIgG、ヤギIgG、ウシIgGなどを用いることができる。マイクロベシクルの染色工程同様、当業者であれば定法に従って実施することができる。例えば、アロフィコシアニン(APC)標識マウスIgG、Mix-n-Stain APC Antibody Labeling kit(Biotium社)を使用して、定常プロトコールにて、室温で30分静置することで実施することができる。
(3)フローサイトメーターの設定
前方散乱光と側方散乱光の光電子増倍管の電圧(Voltage)と閾値(Threshold)を調節して観測域に特定の直径を持つ粒子群を収束させる。これらのパラメータ等条件設定に際しては、未染色サンプルおよび染色サンプルの測定を実施し、各標的を検出する上でのその検出感度を満たす電圧設定や及びシース流速度を決定することが好ましい。
フローサイトメーターのパラメータ設定としては、当業者であれば、最適な条件を探索して適宜設定することが可能であるが、例えば、流量(Flow rate)は12μL/min、前方散乱光の電圧は381、側方散乱光の電圧は340に設定し、それぞれの検出感度として、蛍光強度閾値を200に設定して実施することができる。各蛍光物質に対する励起光(Ex.)及び蛍光検出フィルター(Em.)の波長及び電圧は、使用する各々の蛍光物質に応じて適宜選択して設定することができる。
上記で設定したフローサイトメーターのパラメータを使用して、観測域における粒子径の推定を行う。サイズが均一なポリスチレンビーズ(例えば、SPHEROTM Nano Polystyrene Size Standard Kit、Spherotech)などを使用して定法に従って測定を実施することができる。観測域の粒子径を推定するためには、例えば、ポリスチレンビーズのサイズの粒径が0.22μm、0.45μm、0.88μm、1.35μmであることが好ましい。
観測域として設定する直径としては、マイクロベシクルを含む大きさであれば特に限定されるものではないが、例えば、約1μm以下が好ましく、100nm~1μmがより好ましく、200nm~1μmが更に好ましい。特にこれら微小粒子を観測する際に、側方散乱光が前方散乱光より分解能が高く粒子のサイズ検証などにも使用することができるため、好ましい。
なお、本工程は、前記染色工程及びIgG添加工程と、下記測定・分離工程との間に実施する態様に限定されず、例えば、パラメータを設定した後、染色工程、IgG添加工程、測定・分離工程を実施することもできるし、あるいは、一度設定できれば、測定毎にパラメータを設定することなく、一連の工程を繰り返し実施することができる。
(4)フローサイトメトリーによる測定・分離
フローサイトメーターでデータを取得する。マルチカラー測定を実施した場合は各蛍光から割り当てた検出器以外の検出器へ漏れこんだ蛍光の漏れこみ補正を実施し、その条件下にて測定結果を得る(工程6)。
(5)凝集したマイクロベシクル、IgG捕捉画分との複合体の除外(工程6-A)
マイクロベシクルが凝集する場合があるが、凝集したマイクロベシクルを観測像から除外するために、1)側方散乱光のパルス幅(Width)の値が集団から外れて非常に高いもの、2)前方散乱光と側方散乱光のプロットから両者が集団から外れて高い値となっているものをマーキングしてゲートアウトすることができる。特に、前処理法を加えてマイクロベシクルが凝集した場合などに有効である。
また、IgG捕捉画分との免疫複合体を除去するために、IgGを蛍光標識したものに反応する陽性集団をマーキングしてゲートアウトすることができる。この工程により、還元処理で除去しきれなかったTHPポリマーを観測像から除外するために、IgGを蛍光標識したものに反応する陽性集団をマーキングしてゲートアウトすることができるため、好ましい。
なお、上記の、凝集したマイクロベシクルを除外する工程とIgGにより捕捉された免疫複合体を除去する工程とは、いずれを先に実施してもよく、両工程を同時に実施してもよく、当業者が実施する環境に合わせて、適宜選択することが可能である。
(6)得られたマイクロベシクル集団のキャラクタライズ(工程6-B)
マルチカラーで検出したマイクロベシクルをゲーティング操作により、それぞれが由来する細胞のマイクロベシクル集団への分別、キャラクタライズを行うことができる。この工程により、分離された尿中のマイクロベシクルであることを確認することができる。
本発明により尿中マイクロベシクルの分別、キャラクタライズを行うことができるが、これらのキャラクタライズした画分を、セルソーターを使用して更に分離することもできる。これらの分離した画分からその特異的なコンテンツ(核酸、代謝物、タンパク質、脂質)を観測し臨床応用することも可能である。分離された画分について、更に、各マイクロベシクル集団の頻度解析や標的分子の発現量解析に使用してもよい。
膀胱癌の早期かつ正確な診断の補助となるキャラクタライズの手法は、マイクロベシクルの粒径とマイクロベシクル表面に存在する1種類以上のタンパク質検出の組み合わせによって行うことができる。マイクロベシクル表面に存在するタンパク質の検出は、1種類のタンパク質であっても複数のタンパク質を組み合わせたものであってもよい。当該タンパク質の組み合わせは、膀胱癌患者に由来する尿中マイクロベシクル、非膀胱癌(泌尿器系疾患)患者、健常人に由来する尿中マイクロベシクルそれぞれの反応性を確認した上で、膀胱癌患者特有の反応性を有するタンパク質の組み合わせに絞り込むことで特定することができる。
濃縮マイクロベシクル中に含まれるタンパク質を解析し、膀胱癌の早期かつ正確な診断の補助となりうるマーカーの探索手法は、当業者であれば適宜選択して実施することが可能である。例えば、ショットガンプロテオミクスや二次元電気泳動、FCM-MSなどの手法を使用して特定することが好ましい。例えば、膀胱癌患者、非膀胱癌(泌尿器系疾患)患者、健常人に由来する尿から濃縮したマイクロベシクルを免疫蛍光染色して観測し、膀胱癌患者尿中にのみ非常に多く観測されるタンパク質を特定してもよい。膀胱癌患者の尿中マイクロベシクルに含まれるタンパク質としては、IGHG1、CRABP2、PLG、AHSG、HP、IGHG2、ANXA2、IGHM、SERPINA1、CFB、TF、NME2、C4BPA、A2M、TACSTD2、FGG、C4B、F2、C3、IGHA1、CP、SERPINA3、CA1、CAPN5、APOB、FAM129B、C9、TMSB10、C1QB、IGLC6、IGKC、CEACAM7、UPK3A、CEACAM5、ARHGDIB、SRC、FGB、C1QC、LRG1、UPK3BL、DEFA3、SERPIND1、FN1、SDCBP2、APOA1、ITIH4、AGRN、SERPINF1、PDLIM1、ANXA9、PSCA、HBA1、SLC2A1、ITIH2、CYSRT1、SERPINC1、PGLYRP2、SPRR1A、PROS1、RAB27B、UGDH、MARCKS、EFHD2、APOL1などが想定され、これらを膀胱癌患者特異的なマイクロベシクルに由来するマーカーとして使用することができる。これらのマーカーは単独で使用してもよいし、複数種類のマーカーを組み合わせて使用してもよい。複数種類を組み合わせて使用することで膀胱癌患者に特異的な検出精度の向上が期待されるため、好ましい。
特に、膀胱癌患者尿中にのみ多量に存在するタンパク質としてCD66a、CD66c、又はCD66eの少なくとも1つ(好ましくはCD66a、CD66c、又はCD66eの2つ以上、特に好ましくはCD66a、CD66c、及びCD66e)に対して陽性となるマイクロベシクルを抽出して好ましく用いることができるが、これに限定されるものではない。
また、非膀胱癌(泌尿器系疾患)患者、健常人に由来する尿中マイクロベシクルに特有の反応性を示すタンパク質を特定して除外することで、診断精度を向上させることができる。このようなタンパク質としては、CD10、CD13、又はCD26の少なくとも1つ(好ましくはCD10、CD13、又はCD26の2つ以上、特に好ましくはCD10、CD13、及びCD26)に対して陽性となるマイクロベシクル(これに加えて、より好ましくはCD66a、CD66c、及びCD66e陰性)などの腎臓の尿細管に由来すると考えられるものが健常人尿中に含まれるマイクロベシクルとして使用することができる。例えば、CD66a、CD66c、及び/又はCD66e陽性(特に好ましくはCD66a、CD66c、及びCD66e陽性)のマイクロベシクル(A)と、CD10、CD13、及び/又はCD26陽性(特に好ましくはCD10、CD13、及びCD26陽性)のマイクロベシクル(B)(これに加えて、より好ましくはCD66a、CD66c、及びCD66e陰性)との比(A/B)を算出することにより、診断精度を顕著に向上させることができる。
なお、本明細書において、例えば、CD66a、CD66c、及び/又はCD66e陽性のマイクロベシクルとは、CD66a、CD66c、又はCD66eの少なくとも1つに対して陽性となるマイクロベシクル、あるいは、CD66a、CD66c、又はCD66eの2つ以上に対して陽性となるマイクロベシクル、あるいは、CD66a、CD66c、及びCD66eに対して陽性となるマイクロベシクルを意味する。
上記のCD10、CD13、CD26陽性となるマイクロベシクル集団に加えて、CD227(MUC1)陽性となるマイクロベシクルを抽出し、上記タンパク質と組み合わせて使用してもよい。MUC1陽性マイクロベシクルは尿路上皮細胞に由来するものである可能性が高いと考えられており、MUC1陽性となるマイクロベシクルを抽出し、上記CD10、CD13、CD26陽性となるマイクロベシクルと組み合わせて除外対象とするマイクロベシクル集団を抽出するために使用することで精度が向上するため、好ましい。例えば、CD66a、CD66c、及び/又はCD66e陽性(特に好ましくはCD66a、CD66c、及びCD66e陽性)のマイクロベシクル(A)と、CD10、CD13、CD26、及び/又はMUC1陽性(特に好ましくはCD10、CD13、CD26、及びMUC1陽性)のマイクロベシクル(C)(これに加えて、より好ましくはCD66a、CD66c、及びCD66e陰性)との比(A/C)を算出することにより、診断精度を顕著に向上させることができる。
血尿の症状を呈する患者に由来する試料を使用した場合には、血液由来のマイクロベシクルが混入する場合があり、CD66a/c/e陽性となるマイクロベシクル及びマルチペプチダーゼ陽性となるマイクロベシクルの割合が低下してしまう。従ってそのような場合には、フローサイトメトリーの観測像において真の癌細胞由来のマイクロベシクルであることを判別するための補正を行ってもよい。そのような補正を行うことは、本発明の診断補助を高精度に行うことができるため、好ましい。補正には、例えば、ヒト赤血球、赤芽球系前駆細胞に発現するCD235a(Glycoprotein A)陽性となるマイクロベシクルを使用することができる。
その他、適切な組み合わせを決定するための判断基準の設定など、当業者であれば適宜設定することができる。
本発明を実施するために使用する装置としては、マイクロベシクルに適した粒子サイズを正確に観測することが可能であって、かつ、特定の表面抗原を測定できることが可能な装置であれば、特に限定されない。例えば、JVCケンウッド社のExoCounter(JVCケンウッド社製)を使用することができる。ExoCounterは、エクソソームをディスクとナノビーズの抗体で表面抗原特異的にサンドイッチ検出する。ディスク表面の溝(260nm)に入る大きさのものにサイズを制限することで粒子サイズを特徴づけることができる。これにより体液試料中のエクソソームを単離・精製工程不要で直接測定することができるため、好ましい。
また、マイクロベシクルを分離し観測しうる測定技術としては上記に加えて、例えば、ナノトラッキング粒子径測定装置NanoSight(ナノサイト、Malvern Panalytical社)は、NTA(Nano Tracking Analysis)技術とFFF(Field Flow Fractionation)技術を組み合わせて使用することもできる。NTA技術は、液中のナノ粒子のブラウン運動の様子をPC画面上で、リアルタイムに観察することができ、また、FFF技術は、薄いフロー・チャンネルの中で分離が行われるが、このチャンネルの特殊な幾何学的形状によって、このフローは放射状の断面をもつ層流をなしえ、この層流と直交することで、分離力が生じさせることにより、マイクロベシクルのような微小粒子をサイズで分離することができるため、より高精度な分離や観測が期待される。このような分離/観測法と個々のマイクロベシクルを特徴付ける表面抗原を組み合わせることでマイクロベシクルをキャラクタライズし、臓器特異性や疾患特異性を高め、臨床応用に利用できる。
異なる本発明実施の一態様として、対象における疾患進行のモニタリングのための方法、個体における疾患再発のモニタリングのための方法として使用することもできる。これらの方法は、尿検体中からマイクロベシクルを分離する工程に加えて、マイクロベシクル中に含まれる物質を観測するプロファイル工程を含む。ある特定の医学的状態の対象個体において、プロファイルを観測することによって、例えば特定の疾患の存在を推定することに用いることができる。例えば、マイクロベシクルを分離するための試料採取の期間を、目的とする対象疾患の検出などに応じて適宜設定することで、より詳細なプロファイルを得て状態を観察し、診断を補助することが可能となる。また、これは、薬剤投与後の疾患状態をモニタリングする方法としても使用することができる。
本発明により、マイクロベシクルを臨床検査材料としての有効利用できるようになるため、尿中に存在するマイクロベシクルを簡便に且つ特異的に抽出、観測することができ、さらに膜に存在する表面抗原を用いて個々のマイクロベシクルのキャラクタライズ(どういった細胞や組織、臓器に由来するのか)することができる。その結果、特定の疾患にマッチングした特定の臓器、組織や細胞にフォーカスした診断や検査応用が可能な検査としての価値の向上が期待される。また、本発明により得られた画分を使用して観測することで、対象における疾患、薬剤投与効果または他の医学的状態を推定することが可能となる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
《実施例1:ヒト膀胱癌患者尿中からのマイクロベシクルの濃縮》
健常人及び膀胱癌患者から、~10mLの尿を採取した。尿試料を、20℃で2,330×gで10分間遠心分離して上清尿を得て、その後に約20℃で約2,330×gで10分間遠心分離し、尿内脂質及び細胞残余物、血液由来成分などを除去し、上澄み液を下記実験に使用した。
得られた尿800μLを20℃で18,900×gで30分間遠心分離した。遠心分離された結果物から上澄み液を除去し、ペレットにおいてマイクロベシクル画分を濃縮した。このペレットに対して、終濃度10mg/mLのジチオスレイトール(DTT)を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)180μLを添加した。ボルテックスにて撹拌後、37℃で10分間静置した。静置後、20℃で18,900×gで30分遠心分離した。遠心分離された結果物からペレットにおいてマイクロベシクル画分を濃縮した。
《実施例2:ナノ粒子解析システムによる抽出画分の粒子計測》
実施例1と同様の処理(ただし尿量を10mL用いて)マイクロベシクル画分を濃縮したペレットに対してPBS100μLを添加し、さらにPBSにて3倍希釈したものをNanosight NS300(Malvern Panalytical社)にて測定した。装置の観測条件を表1(散乱光測定)及び表2(蛍光測定)に示す。またインタクトな細胞外小胞膜に特異的に結合するExoGlow-NTA Dye(System Biosciences社)で標識した細胞外小胞を蛍光NTA(Nano Tracking Analysis)で測定することも合わせて実施した。健常人及び膀胱癌患者から抽出した画分の散乱光及び蛍光NTAで実測したそれぞれの粒度分布ヒストグラムを図1、図2に示す。健常人及び膀胱癌患者それぞれ8名において、散乱光NTAで観測された全粒子数の割合がそれぞれ10%、50%、90%に相当する直径も合わせて示す(図3)。本濃縮操作にて直径が1μm以上の画分は殆ど含まれずメインが直径200~300nmに分布するものであった。また上記には細胞膜を伴うものが含まれており(10~60%)、これらはそのサイズを考慮すると「中型サイズの細胞外小胞(:マイクロベシクル)」と考えられる。また抽出した細胞外小胞画分の粒子径の分布に健常人と癌患者での差異は見られないことが確認された。
《実施例3:ショットガンプロテオミクス解析による濃縮マイクロベシクル画分において検出されたタンパク質》
A.尿の前処理により得られた濃縮マイクロベシクル画分からタンパク質画分の抽出
膀胱癌患者尿中のマイクロベシクル中に特異的に存在するタンパク質を見出すために膀胱癌患者4名(患者1:深達度Tis、尿細胞診classIII、患者2:深達度T2、尿細胞診classV、患者3:深達度T2、尿細胞診classV、患者4:深達度Ta、尿細胞診classII)及び健常人4名の尿を使用し、実施例1と同様にマイクロベシクル画分を濃縮した。患者4名分と健常人4名分のサンプルをそれぞれのグループごとにタンパク質定量後患者当たり当量になるようにして混合プールしたもの、それぞれの患者及び健常者1名分あたりから抽出したマイクロベシクルの2通りの画分を準備した。
マイクロベシクル画分を濃縮した画分から、特に膜タンパク質を効率よく抽出するためにPTS(Phase Transfer Surfactant(相間移動可溶化剤))を用いたタンパク質可溶化法を実施した。この原理を用いた試薬キットとしてMPEX PTS Reagents for MS(GL Science Inc.)を使用した。実施例1においてマイクロベシクル画分を濃縮したペレットに対して250μLの当該キット試薬Bを添加し、超音波ホモジナイザー(Bioruptor:ソニック・バイオ社)にて稼働1分30秒、インターバル30秒からなるサイクルを10回、10℃の条件でソニケーション(パワー:MAX)した。破砕後、遠心式フィルター(Amicon ultra 3K、メルク)にて14,000g×15minを2回繰り返し、濃縮した。この画分をBCAアッセイ(PierceTM BCA Protein Assay kit(Thermo Fisher Scientific Inc.)を使用)にてタンパク質定量した。
B.タンパク質画分の酵素消化
BCAアッセイにて定量し7μg/30μLの濃度になるように前記試薬Bに溶解したものを膜タンパク質消化のための試料とした。1.5μLの100mmol/Lジチオトレイトール(DTT)を加え(ジスルフィド結合の還元開裂のため)、室温で30分間インキュベートした。これに1.5μLの550mmol/Lヨードアセトアミドを加え(Cysのカルバミドメチル化のため)、遮光して室温で30分間インキュベートした。当該キットの試薬Aを116μL加え、1.5μLのトリプシン(TPCK-Trypsin(Thermo Fisher Scientific Inc.:Prod#20233))を加えた。室温で一晩インキュベートしてタンパク質消化を実施した。150μLの試薬Cと1.5μLの試薬Dを加えた。添加後1分間ボルテックスをして、25℃、15,600×gで2分間遠心し二相分離した。不要な可溶化剤は上相にくるので、これをピペットで吸引し除去した。残った試薬Cを除去するために、遠心濃縮を行った後に、50μLの5%アセトニトリル、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を加えてボルテックスした。
C.ペプチドの脱塩・濃縮
前記にて酵素消化したものを脱塩・濃縮するためにGL-Tip SDB(GL Science Inc)を使用した。当該チップをまず、80%アセトニトリル、0.1% TFA水溶液を20μL添加し、室温、3,000×gで2分間遠心することでコンディショニングした。これに5%アセトニトリル、0.1% TFA水溶液を20μL添加し、室温、3,000×gで2分間遠心することでカラムを平衡化した。これに対して、前記実施例3B.の操作で得られた試料を全量添加し、室温、3,000×gで5分間遠心することでペプチドをカラムに吸着させた。さらに5%アセトニトリル、0.1%TFA水溶液を20μL添加し、室温、3,000×gで2分間遠心することでカラムを洗浄後、80%アセトニトリル、0.1%TFA水溶液を50μL添加し、室温、3,000×gで2分間遠心することで、ペプチドを溶出させた。ペプチドを含む溶液はmiVac遠心エバポレーターで一度、乾固させ25μLの0.1%ギ酸/2%アセトニトリル水溶液で懸濁した。
D.質量分析測定
上記サンプルを、nano-LCシステム(EASY-nLC1000:Thermo Fisher Scientific Inc.)を連結したフーリエ変換型Orbitrap質量分析計(Q-Exactive:Thermo Fisher Scientific Inc.)で、LC-MS/MS解析を行った。上記にて調製した質量分析測定用サンプルから5μLを測定に供した。なお、トラップカラムとしてAcclaimRTPepMap100(Thermo Fisher Scientific Inc.:C18、充填剤径3μm、内径75μm、カラム長2cm)、分析カラムとして、AcclaimRTPepMapRSLC(Thermo Fisher Scientific Inc.:C18、充填剤径2μm、内径50μm、カラム長15cm)を用いた。移動相Aは0.1%ギ酸水溶液、移動相Bは0.1%ギ酸/アセトニトリル、流量は200nL/分、グラジエントは、0-40%移動相B/200分間、40-100%移動相B/10分間、100%移動相B/10分間で測定した。
MS測定のスキャン条件はFull MS/dd-MS2モードを使用しFull MSをスキャンした後に、強度が高いシグナルのMS/MSスペクトルを取得した。設定条件を表3に示す。
E.データ解析
得られたデータはProteome Discoverer 1.4ソフトウェア(Thermo Fisher Scientific Inc.)を用い、データベース検索にはHomo sapiens taxonomy catalogued in the UniProt database(UP000005640;October18、2020)を用いてSequestHTアルゴリズムにより検索を行った。SequestHTでの検索条件を表4に示す。
更に得られたMS/MSデータは,MaxQuantプラットフォーム(v1.6.6.0)を用いてLFQ(非標識定量)解析を行った。データベース検索は上記と同様のUniProtデータベースを用いた。タンパク質とペプチドの同定は、偽発見率(FDR)0.01、タンパク質の同定に必要なペプチド数の最小値1、修飾ペプチドの最小スコア40、未修飾ペプチドの下限なしという条件で実施した。
膀胱癌患者と健常人の尿中マイクロベシクルに含有されるタンパク質の大まかな比較をするために、患者4名分と健常人4名分のサンプルをそれぞれのグループごとにタンパク質定量後患者当たり当量になるようにして混合プールしたものの解析を実施した。2つのグループで検出されたタンパク質をProteome Discovererの検索結果からScore1.0以上のものをピックアップした。抽出したマイクロベシクル画分のショットガンプロテオミクス解析により検出できたタンパク質の一覧を患者プール、健常人プールそれぞれについて図4及び表5に示す(患者1334種、健常人1393種)。また、それぞれのプールから検出したタンパク質のうち、膀胱癌患者のみにおいて検出されたタンパク質(585種)に対してmetascape(Tripathi et al., Cell Host & Microbe (2015), 18: 723-735)を使用したタンパク質のエンリッチメント解析を実施した。その結果を図5に示す。癌の特徴ともいえる細胞接着にかかわる機能カテゴリーも見受けられるが、最も多くのタンパク質がカテゴライズされた機能としてEukaryotic Translation Elongationまたはribonucleoprotein complex assembly RNAなどリボソームに関係する機能(タンパク質複合体、翻訳)カテゴリーが算出された。このことは癌患者に由来するマイクロベシクルが含有するタンパク質の一つ特徴である可能性がある。
次に膀胱癌患者4名(患者1:深達度Tis、尿細胞診classIII、患者2:深達度T2、尿細胞診classV、患者3:深達度T2、尿細胞診classV、患者4:深達度Ta、尿細胞診classII)及び健常人4名のサンプルから個別に抽出したマイクロベシクルを用いて解析を実施した。得られたMS/MSデータは、MaxQuantプラットフォームを使用しLFQ(非標識定量)解析を実施し、各患者の定量結果を算出した。これらを用いて以下の統計解析を行った。統計解析にはMetaboAnalyst5.0を使用した。膀胱癌患者4名、健常人4名のそれぞれの結果から主成分分析を実施し、第2主成分まで図示したグラフを図6に示す。患者2が他の患者3名と少し異なるプロファイルとなったが、膀胱癌患者4名と健常人4名の群間に、ある程度の検出されたタンパク質プロファイル差がある傾向が見られた。そこで群間の判別分析が可能なOPLS-DA解析を実施した。OPLS-DAで得られたモデルの評価としてはRYとQYが1に近いほど良いモデルである(RYが0.65以上、QYが0.5以上であればよいモデルであるとされている)。図7に示したスコアプロットではRX=0.253、RY=0.847、QY=0.608であった。RYとQYが良好であるため、有意に患者群と健常人群が判別された。次に2群を判別するのに重要な成分(タンパク質)を推定する目的でs-plot解析を行った。判別に重要な成分をp[1]およびp[corr]から判断し、p[1]0.05以上、p[corr]が0.6以上のタンパク質を判別に重要な成分として抽出した。これら抽出したタンパク質の一覧を表5に示し、またこれら用いてヒートマップを作成した(図8)。
なお、図8に示すヒートマップは、得られた各数値(2~-2)を赤(2~0)及び青(0~-2)の濃淡で視覚化したものであるが、視覚化する前の各数値を表6-1(図8の上半分に対応)及び表6-2(図8の下半分に対応)に示す。
表5に示すタンパク質にはこれまで膀胱癌と関連が示唆されてきたタンパク質が含まれている(UPK3A、PSCA、SRCなど)。今後、これらのタンパク質は細胞外小胞を膀胱癌患者尿中のバイオマーカーとして活用する際に有用であることが示唆される。また、抽出されたタンパク質にはCEACAM5及びCEACAM7が高いスコアで含まれており、CEACAMファミリー(CD66)タンパク質が上記の候補タンパク質であることが伺える。更に検出された全てのCEACAMファミリー(CD66)タンパク質のプロファイルを患者群と健常者群においてヒートマップで図示した(図9)。
なお、図9に示すヒートマップは、得られた各数値(2~-2)を赤(2~0)及び青(0~-2)の濃淡で視覚化したものであるが、視覚化する前の各数値を表7に示す。
検出できたCEACAMファミリータンパク質はCEACAM1(CD66a)、CEACAM5(CD66e)、CEACAM6(CD66c)、CEACAM7(CGM2)、CEACAM8(CD66b)であった。患者毎にこれらのCEACAMタンパク質の発現プロファイルは異なっており、膀胱癌患者を感度よく検出するという観点から、マイクロベシクルにおけるいくつかのCEACAMタンパク質を組み合わせた形で検出する形が好適であると考えられた。
ショットガンプロテオミクス解析にて検出されたタンパク質は膀胱癌尿中マイクロベシクルをキャラクタライズする表面マーカーとして、またその内容物をバイオマーカー利用として、臨床検査や診断に使用できる可能性がある。
《実施例4:フローサイトメーターを用いた膀胱癌患者尿中のマイクロベシクルの観測》
A.尿から濃縮したマイクロベシクルの免疫蛍光染色
前記実施例1にてマイクロベシクル画分を濃縮したペレットに対してPBS60μLを添加し、ボルテックスにてマイクロベシクル画分を溶液中に分散させた。この溶液に対し、FITC-Annexin5(Becton Dickinson Biosciences)、APC/Cy7anti-human CD10(Biolegend)、Brilliant Violet421anti-human CD13(Biolegend)、PEanti-human CD26(Biolegend)、PerCP/Cy5.5anti-human CD66a/c/e(Biolegend)、PerCPanti-human CD66b(Biolegend)、Anti-Human CEACAM-1/CD66a Alexa Fluor 488 Antibody(R&D社)、Anti-Human CEACAM-6/CD66c Alexa Fluor 750 Antibody(R&D社)、Anti-Human CEACAM-5/CD66e Alexa Fluor 405 Antibody(R&D社)、Brilliant Violet421anti-humanCD66a/c/e(Biolegend)、PE/Cy7anti-human CD227 MUC1(Biolegend)、APC/Cy7anti-human CD235a(Biolegend)、APC標識mouseIgG(購入したNormal MouseIgG(Wako社)を、Mix-n-Stain APC Antibody Labeling kit(Biotium社)に添付の定常プロトコールにて標識したもの)を、各々1μL添加し、室温で30分静置した。
B.フローサイトメーターでの尿中マイクロベシクルの観測
測定は、フローサイトメーターとしてBD FACSVerseTM(Becton Dickinson and Company)を用いて行った。測定手順とパラメータ設定は次のとおりである。サンプルは前記実施例4A.で各種蛍光染色した画分を750μLの10mmol/L Hepes(pH7.4)、0.14mol/L NaCl、2.5mmol/L CaClに懸濁したものを使用した。流量(Flow rate)は12μL/min、前方散乱光の電圧(Voltage)は381、側方散乱光の電圧は340に設定し、それぞれの閾値(Threshold)として200に設定した。各蛍光物質に対する励起光(Ex.)及び蛍光検出フィルター(Em.)の波長及び電圧は、FITC:Ex.488nm、Em.527/32nm、電圧442、PE:Ex.488nm、Em.586/42nm、電圧411、PerCP:Ex.488nm、Em.700/54nm、電圧556、PE/Cy7:Ex.488nm、Em.783/56nm、電圧564.3、APC:Ex.640nm、Em.660/10nm、電圧538.2、APC/Cy7:Ex.640nm、Em.783/56nm、電圧584.8、Brilliant Violet421:Ex.405nm、Em.448/45nm、電圧538.2とした。観測域における粒子径を推定するためにサイズが均一なポリスチレンビーズ(SPHEROTM Nano Polystyrene Size Standard Kit、Spherotech)の測定を行った。ポリスチレンビーズのサイズはその粒子径が0.25μm、0.45μm、0.79μm、1.34μmのものを使用した。側方散乱光(SSC)の強度(5.0×e04以下程度)において、観測される粒子サイズが1μm以下に収束しているところをメインに観測対象とした。(図10)
C.膀胱癌患者尿中に存在するCD66a、c、e陽性となるマイクロベシクル
ショットガンプロテオミクス解析にて検出されたCEACAMタンパク質が同一のマイクロベシクルに存在するのか、あるいはそれぞれ別のマイクロベシクルに存在するのかをCD66a、c、e(CEACAM1,6,5)それぞれを特異的に認識する抗体を用いて検証した。図11にその結果を示す。9名の膀胱癌患者の尿を上述のフローサイトメーターの手法を用いて解析した。患者2-1についてはCD66a、c、eそれぞれ陽性となるマイクロベシクルがほぼそれぞれ他の抗原が陽性となるマイクロベシクルとマージした。この患者からは3種の抗原を同時にその表面に発現しているマイクロベシクルの存在を認めた。患者2-8についてはCD66aのみを陽性とするマイクロベシクルを多数認めた。CD66a、c、eの各個別抗原の陽性割合及びそれぞれの抗原の陽性がマージする割合を9名の患者の結果をグラフに図示する(図11)。この結果から、患者によって異なるバラエティのCD66a、c、e陽性となるマイクロベシクルを含有していることが伺える。CD66a、c、eそれぞれのみが単独に陽性となるマイクロベシクル、本抗原に関して2種あるいは3種が同時に存在するマイクロベシクルの存在が示唆される。
D.CD66b(CEACAM8)を表面抗原に有するマイクロベシクル
ショットガンプロテオミクス解析にて検出されたCD66b(CEACAM8)についてもフローサイトメーターでの解析を試みた。図12にその結果を示す。ショットガン解析でCEACAM8の検出を認めた患者2において、フローサイトメーターでの解析においてもCD66b(CEACAM8)が陽性となるマイクロベシクルを観察できた。このマイクロベシクルはCD66a/c/eとマージする集団も観察できたので、いずれかの抗原を同時発現していると考えられる。
E.膀胱癌患者尿中にのみ多量に存在するCD66a/c/e陽性となるマイクロベシクル
上記手法にて尿から濃縮したマイクロベシクルをフローサイトメーターで観測した。これまでの結果からCD66a、c、e(CEACAM1,6,5)をメジャーに有するマイクロベシクルが患者尿に多数観測できたので、これらを同時認識する抗体を用いた診断系が適当と判断し、CD66a/c/e認識抗体を用いた検出系でのフローサイトメーターでの解析を実施した。膀胱癌患者、非膀胱癌(泌尿器系疾患)患者、健常人由来の尿中のマイクロベシクルを観測したところ、CD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルが膀胱癌患者尿中にのみ非常に多く観測された(図13)。このことから、CD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルが膀胱癌患者の尿を使用した診断マーカーとして有用である可能性が示唆された。
《実施例5:フローサイトメーターを用いた膀胱癌患者尿中のマイクロベシクルのキャラクタライゼーション》
A.CD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルのターゲティング(図14)
観測像の中にはマイクロベシクルが凝集して複数個合体したような像が観測された(各種染色した表面抗原が全て陽性集団となるような集団)。これを観測像から除去するために、側方散乱光におけるパルス幅(縦軸)とパルスエリア(横軸)で展開した観察像を用意して、大きく外れた集団を観測像から除外した。次に側方散乱光とAPCマウスIgGの展開図からAPC陽性集団すなわち残存THPポリマーがキャプチャーしうるマウスIgG集団を抽出し、APC陽性となる集団を抽出し観測像から除外した。さらに健常人尿中に多く含まれるCD10、CD13陽性となる集団を除いた(CD10、CD13陰性となる集団をゲートインする)ものから、CD66a/c/e陽性となるものを選別した(図14)。
B.観測像におけるマイクロベシクルの全体像(図15)
CD66a/c/e陰性となるもので、CD10及びCD13の展開図からこれらが2種類ともに陽性となる集団を抽出し、さらにCD26陽性となる集団を選別した。この集団をCD10、CD13、CD26陽性マイクロベシクルとした。CD10、CD13、CD26は腎臓の尿細管に由来すると考えられ、このCD10、CD13、CD26陽性マイクロベシクルは健常人尿中に含まれるマイクロベシクルとして使用することができる。またCD66a/c/e陰性となるものでCD227(MUC1)陽性となる集団を選別した。この集団をMUC1陽性マイクロベシクルとした。上記において、CD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルとCD10、CD13、CD26陽性マイクロベシクル、MUC1陽性マイクロベシクルのキャラクタライゼーション後に側方散乱光とAnnexin5の展開図へ重ね合わせた図の一例を図15に示す。
C.CD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルのキャラクタライゼーション(図16、図17)
CD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルについて、CD66a/c/e及びCD26の展開図からCD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルはCD10、CD13、CD26陽性マイクロベシクルとは異なるマイクロベシクルであることが明白である(図16)。またCD66a/c/e及びMUC1の展開図からCD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルはMUC1陽性となるマイクロベシクルである場合がある(図17)。ただし、膀胱癌患者尿中において、健常人に含まれるものと同様で、CD66a/c/e陰性となるものでMUC1陽性となるものもある。非特許文献 Igami ら,.2020. Characterization and function of medium and large extracellular vesicles from plasma and urine by surface antigens and Annexin V. PeerJ Analytical Chemistry 2:e4 doi.org/10.7717/peerj-achem.4 に言及されているように、CD10、CD13、CD26陽性マイクロベシクルは腎臓の尿細管に由来するもの、MUC1陽性マイクロベシクルは尿路上皮細胞に由来するものである可能性が高い。CD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルはもともと尿路上皮細胞に由来する細胞が癌化し、その抗原性としてCD66a/c/eを表面に持つものがマイクロベシクルとして分泌されたものである可能性がある。
《実施例6:膀胱癌患者10例、非膀胱癌(泌尿器系疾患)患者4例、健常人9名における尿中に観測される各マイクロベシクルの割合》
以上の結果より、尿中のマイクロベシクルを濃縮し、フローサイトメーターでその由来する細胞が異なるマイクロベシクル画分を個々のマイクロベシクルが表面に有しているタンパク質を用いて、観測する方法が確立できた。具体的にはMUC1陽性(CD66a/c/e陰性)、マルチペプチダーゼ陽性(CD10、CD13、CD26陽性、CD66a/c/e陰性)、CD235a陽性(赤血球由来マイクロベシクル、血尿由来、CD66a/c/e陰性)、CD66a/c/e陽性となる4種類の直径1μm以下のマイクロベシクルである。図18に膀胱癌患者10例、非膀胱癌(泌尿器系疾患)患者4例、健常人9名における尿中に観測されるこれら4種類のマイクロベシクルの観測像全体にしめる割合(%)を示した。CD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルについて膀胱癌患者、非膀胱癌患者、健常人についてマイクロベシクルの観測像全体にしめる割合(%)を比較した(図19)。非膀胱癌患者、健常人それぞれに対して、膀胱癌患者では有意にCD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルが増加していた。またマルチペプチダーゼ陽性となるマイクロベシクルは膀胱癌患者では他の2群に比較して有意に減少していた(図19)。
《実施例7:CD66a/c/e陽性とMUC1陽性及びマルチペプチダーゼ陽性となるマイクロベシクルの全体に占める割合を組み合わせた診断指標の効果》
CD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルは癌患者の尿中に特異的に出現するので、その増加の程度が直接的な診断の指標となりうるが、MUC1陽性(CD66a/c/e陰性)やマルチペプチダーゼ陽性(CD10、CD13、CD26陽性、CD66a/c/e陰性)となるマイクロベシクルは観測像全体において、癌患者尿中において減少傾向となる。この結果はそれぞれの比や差分などを組み入れることでより正確な診断指標となる可能性がある。実際にCD66a/c/e陽性画分(A)とマルチペプチダーゼ陽性画分(B)との比(A/B)、並びに、CD66a/c/e陽性画分(A)とマルチペプチダーゼ陽性画分及びMUC1陽性画分を合わせたもの(C)との比(A/C)を数値化して健常人、非膀胱癌、膀胱癌で比較したところ、各々において有意な差が確認できた(図20)。また、膀胱癌患者とそれ以外(非膀胱癌+健常人)に分けた場合にROC曲線にて1)CD66a/c/e単独(A)、2)CD66a/c/e陽性画分(A)とマルチペプチダーゼ陽性画分(B)との比(A/B)、3)CD66a/c/e陽性画分(A)とマルチペプチダーゼ陽性画分及びMUC1陽性画分を合わせたもの(C)の比(A/C)を評価したところ、AUCの数値は3)CD66a/c/e陽性画分とマルチペプチダーゼ陽性画分及びMUC1陽性画分を合わせたものの比が最も高いものであった(図21)。これらのことから、膀胱癌患者尿において観測像中のCD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルとそれ以外に健常人にも多く見られるマイクロベシクルを組み合わせることでより確度の高い診断指標となりうることが示唆される。1)CD66a/c/e単独、2)CD66a/c/e陽性画分とマルチペプチダーゼ陽性画分の比、3)CD66a/c/e陽性画分とマルチペプチダーゼ陽性画分とMUC1陽性画分を合わせたものの比 それぞれのパターンにおいて、感度及び特異度両方の観点から、最良となるカットオフラインを実際の健常人及び膀胱癌患者から得られた数値グラフと合わせて明示していた(図22)。それぞれのカットオフラインは(図21の下段)に示した検査結果を判定する際に用いたカットオフ値と同様である。
《実施例8:より多くの尿量を用いた簡便な前処理測定法の例》
膀胱癌患者の採尿に際しては10mL以上の尿量は確保できることは多く、これを全て検査材料として使用することで、検出するマイクロベシクルの密度を高め検査を実施する上でのメリットを図ることができる。尿の前処理操作として遠心濾過デバイスを用いて10mLの尿量からマイクロベシクル画分を抽出した(図23-1)。10mL及び0.8mLから抽出したマイクロベシクル画分を比較して検査をする上でのメリットを実証する。図23-2ではそれぞれの画分でフローサイトメーターでの観測時間を同じに揃えて、観測された像を示す。フローサイトメーターのFlow rateを12μL/minに設定したところ、10mL尿量抽出画分では観測像に1万個の粒子を揃えるのに10secを要した。これと同条件で0.8mL尿量抽出画分を観測したところ10secでは200粒子程度しか観測できなかった(図23-2)。これらのことから「検査時間の短縮」が図れる。更に10mL尿量抽出画分では最終的な緩衝液に溶け込む粒子の数が多いので、観測する粒子全体像の規模をある程度検査において適切な観測時間の中で増やすことができる。図23-3では観測像全体の粒子数を10万個にした場合の例を示す。10万個の粒子を揃えるために前述の条件にて1分程度で観測することができた。0.8mL尿量抽出において観測像全体の数を1万個とした場合にはCD66a/c/e陽性画分が68個であったのに対して、観測像全体の数を10万個とした場合にはCD66a/c/e陽性画分が269個であった(図23-3)。尿量を変化させた場合であっても観測像全体に対する陽性画分の比には影響しないため、陽性画分の粒子濃度などを検出する測定系の対象単位とする場合には対象とする粒子数の増加は感度の向上につながると考えられる。
《実施例9:膀胱癌患者尿の尿細胞診及び本法の比較検討》
膀胱癌患者尿20例において、尿細胞診の結果(クラス2~5)と本法におけるCD66a/c/e陽性画分の全体におけるパーセンテージをそれぞれ同一検体で比較した。CD66a/c/e陽性画分のカットオフ値は先述と同様に0.81%を使用した。20例の膀胱癌患者尿の尿細胞診の結果の内訳は(クラス2:5例、クラス3:4例、クラス4:2例、クラス5:9例)であった。クラス3は判定保留にて、悪性腫瘍の存在を断定できない診断となり、クラス2は悪性の疑いがない診断となる。本法を使用することで、この尿細胞診結果がクラス2,3となる9例のうち8例を陽性判定とすることができた。従来の検査に加え、本法を活用すること、本法単独での検査応用の有用性が示唆される(図24)。
本発明において尿中のCD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルに着目し、これを様々な測定法に活用することで、膀胱癌の検査を現状の尿細胞診や膀胱鏡を用いたものと比較して飛躍的に診断性能の良いものに改善できる。すなわち尿を使用した非侵襲性診断であるということと非侵襲ではあるが臨床感度が40%程度(見落としが多い)である尿細胞診の臨床感度を上回ることができる可能性である。実際の臨床の場面において初診患者の尿を用いた膀胱癌の有無の診断、膀胱癌患者で手術や化学療法など治療を施した後の予後(転移の有無)のモニタリングにおいて、本検査は有効であると考えられる。また、CD66a/c/e陽性である尿中マイクロベシクル以外の尿に含有されるマイクロベシクル(MUC1陽性やマルチペプチダーゼ陽性となるマイクロベシクル)もその量的なパラメータを活用することで膀胱癌検査の診断精度を高めることができ、これらを同時測定できるようなマルチアッセイが実際の検査においては有用である。
また、本発明によれば、採尿条件により、尿量自体を多く検査条件に供すことができ、尿という検査サンプルのメリット(患者から多量に非侵襲的に採尿することが可能)を活かし、より確度の高い検査を実施することができる。
将来的には粒子サイズを規定しうる、より簡便な方法によりCD66a/c/e陽性となるマイクロベシクルを活用し、癌の早期発見や、健康状態から未病(疾病予備軍)状態への個人の遷移などを日々管理しうる予防、予知マーカーとしての健康診断や他への臨床応用なども考えられる。尿に含まれる他のバイオマーカーとの組み合わせを含めて微小膜画分としての臨床応用価値を高めることができる。

Claims (7)

  1. 対象患者由来の尿中に含まれる直径200nm~1μmのマイクロベシクルを濃縮し、当該マイクロベシクルにおけるマーカータンパク質の存在量によって、対象患者が膀胱癌を有するか否かを判定することを補助する方法であって、
    前記マイクロベシクル中のマーカータンパク質の存在量の観測が、マイクロベシクル中のCD66a、CD66b、CD66c、CGM2又はCD66eの少なくとも1つの存在量を検出することによって行うことを特徴とする、前記方法。
  2. 前記マイクロベシクル中のCD66a、CD66b、CD66c、CGM2又はCD66eの存在量の観測が、CD66a、CD66b、CD66c、CGM2及び/又はCD66eを発現しているマイクロベシクル(A)とCD10、CD13、及び/又はCD26を発現しているマイクロベシクル(B)との比(A/B)によって算出されるものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. 前記マイクロベシクル中のCD66a、CD66b、CD66c、CGM2又はCD66eの存在量の観測が、CD66a、CD66b、CD66c、CGM2及び/又はCD66eを発現しているマイクロベシクル(A)とCD10、CD13、CD26、及び/又はMUC1を発現しているマイクロベシクル(C)との比(A/C)によって算出されるものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  4. 対象患者に由来する尿中マイクロベシクルにおけるマーカータンパク質の存在量又は前記比が、対照に由来する尿中マイクロベシクルにおけるマーカータンパク質の存在量又は前記比と比較して高いことが、対象患者が膀胱癌を有することを示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 尿中に含まれる直径200nm~1μmのマイクロベシクルにおけるCD66a/b/c/e、又はCGM2の存在量を測定する工程と、測定された前記CD66a/b/c/e、又はCGM2の存在量が、対照と比較して多い場合に、前記尿は膀胱癌患者由来のものであると判定する工程と、を備える、膀胱癌を有するか否かを判定することを補助する方法。
  6. 対象患者から採取した第1の試料中と、対象患者から治療期間後に採取した第2の試料中のタンパク質の存在量とを比較することによって、対象患者が膀胱癌を有するか否かを判定することを補助する、膀胱癌の治療経過を観察するため、又は膀胱癌の治療効果を決定するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 表在性膀胱癌、浸潤性病期1膀胱癌、または浸潤性病期2~3膀胱癌を示すものとして相関させる工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
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