JPH08340136A - 酸化物薄膜素子の製造方法、超電導素子の製造方法および超電導素子 - Google Patents

酸化物薄膜素子の製造方法、超電導素子の製造方法および超電導素子

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JPH08340136A
JPH08340136A JP7167951A JP16795195A JPH08340136A JP H08340136 A JPH08340136 A JP H08340136A JP 7167951 A JP7167951 A JP 7167951A JP 16795195 A JP16795195 A JP 16795195A JP H08340136 A JPH08340136 A JP H08340136A
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Sumio Ikegawa
純夫 池川
Yuichi Motoi
雄一 元井
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Toshiba Corp
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 リソグラフィ工程を減少をさせることによっ
て、製造効率の向上を図ると共に、リソグラフィ工程に
よる膜特性の劣化等を防止した酸化物薄膜素子、特に超
電導素子の製造方法を提供する。 【構成】 真空槽内で、有機金属化合物と活性酸素とを
基板に供給して酸化物薄膜を作製する際に、基板上にお
ける有機金属化合物の分子供給密度と活性酸素の供給密
度との比を空間的に変化させる。これによって、 1度の
成膜で同一薄膜層内に、例えば結晶性がよくエピタキシ
ャル成長した酸化物薄膜、結晶性が悪くエッチングされ
易い酸化物薄膜、カーボンを 10at%以上含む導電性を有
する薄膜等の電気特性や結晶性が異なる複数の部分を作
り込む。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、酸化物薄膜素子の製造
方法、超電導素子の製造方法および超電導素子に関す
る。
【0002】
【従来の技術】超電導素子の製造工程においては、基板
上にバッファ層、絶縁層、抵抗層、超電導層等のそれぞ
れの機能を持った薄膜を積層するが、その途中で薄膜成
長とは別個に各薄膜をパターニングする工程が必要であ
る。パターニングは、フォトレジストを塗布して露光・
現像し、ウェットエッチングやイオンビームエッチン
グ、あるいはリフトオフにより不要部分を除去すること
により行われる。また、メタルマスクを用いたイオンビ
ームエッチングによってもパターニングすることができ
る。
【0003】従来のジョセフソン接合を用いた論理演算
素子やメモリ素子の構造を図34(S.Kosaka, in “Adva
nces in Cryogenic Engineering Materials ”Volume 3
2,Edited by R.P.Reed and A.F.Clark, (Plenum press,
New York,1986) pp.507-516 参照)に示す。図34に
示されるジョセフソン集積回路において、1は基板であ
り、この基板1上に形成されたグランドプレーンとなる
超電導層2上には、層間絶縁層3を介してジョセフソン
接合4を形成する超電導層5、6や抵抗膜7が形成され
ている。このようなラッチ型のロジックを用いたジョセ
フソン集積回路では、接合数と同程度の数の抵抗が必要
である。一方、rapid single-flux-quantum(RSFQ)
素子(K.K.Likharev andV.K.Semenov, IEEE Trans. App
l.Supercond. vol.1, pp.3-28参照)においても集積回
路中に抵抗が必要である。上記ジョセフソン集積回路を
例として従来の製造工程を説明すると、まず基板1上に
グランドプレーンとなる超電導層2を堆積した後、層間
絶縁層3を堆積し、レジストのフォトリソグラフィとエ
ッチングにより層間絶縁層3にコンタクトホール8を形
成する。次いで、抵抗膜7を堆積した後に、フォトリソ
グラフィにより抵抗膜7の必要な部分だけを残し、その
上に超電導層5、6や絶縁層9等を積層してパターニン
グする。また、抵抗膜7と隣接した超電導層6との間や
絶縁層9と隣接した超電導層5との間には溝が生じるた
め、その溝をスピン・オン・ガラス(SOG)10等の
手法で埋めて平坦化する。このように従来技術では、多
数回のリソグラフィ工程と平坦化工程が必要であった。
さらに、超電導層5、6としてNbや NbN等を用いた場
合、 SiO等からなる絶縁層3、9等と接する部分におい
て、超電導層5、6に酸素が拡散して超電導特性が劣化
し易いという問題があった。
【0004】また、酸化物超電導体を用いた受動マイク
ロ波素子の従来例を図35に示す。基板としてサファイ
ヤ基板11を用い、その上に CeO2 等からなる基板11
と超電導層12との反応を防ぐバッファ層13を堆積
し、その上に超電導層12を堆積する。そして、フォト
リソグラフィにより超電導層12の必要な部分だけを残
すことによって、ストリップラインやフィルタが形成さ
れる。このような従来の受動マイクロ波素子において
は、超電導層12を堆積した後のリソグラフィ工程で、
超電導層12の臨界温度Tc や表面抵抗等の特性の劣化
が避けられないという問題があった。
【0005】銅酸化物超電導体では、一般に高い特性を
持った積層型ジョセフソン接合が作りにくい。そこで、
bi-epitaxialジョセフソン接合と呼ばれる接合が比較的
よい特性を示し、かつ基板上の任意の位置に接合を形成
できることから注目されている。従来のbi-epitaxialジ
ョセフソン接合の構造および製造工程の一例を図36に
示す。図36(f)に示すように、 MgO基板14上の一
部に CeO2 膜15を堆積し、その上に銅酸化物超電導体
16を堆積すると、 MgO基板14上と CeO2 膜15上と
で銅酸化物超電導体16の結晶方位が異なる。その結
果、両者の境界(図36(f)中破線で示す)が粒界接
合となる。このような接合を作製する場合、 CeO2 膜1
5を堆積した後に、その一部を残して他を除去する方法
が重要な課題となっていた(例えば、R.P.J.IJsselstei
jn, J.W.M.Hilgenkamp, D.Terps-tra, J.Flokstra, and
H.Rogalla, in“Advances in Cryogenic EngineeringM
aterials ”Volume 40,Edited by R.P.Reed, F.R.Ficke
tt, L.T.Summers, andM.Stieg,(Plenum press,New Yor
k, 1994) pp.353-360参照)。
【0006】CeO2 膜の一部を除去する一つの方法とし
て、基板全面に亘って CeO2 膜を堆積し、その上にレジ
ストを塗布して露光・現像し、Arイオンビームでエッチ
ングする方法が挙げられる。しかし、この方法では CeO
2 膜を除去した後の MgO基板表面がイオンビームのダメ
ージで荒れてしまい、 MgO基板上の銅酸化物超電導体の
結晶方位が揃わなくなることから、特性のよい粒界接合
が作れないという問題があった。そこで、図36に示す
煩雑な工程がとられていた。すなわち、まずレジスト1
7の塗布および露光・現像によりパターンを作り(図3
6(a))、その上に CaO膜18を堆積する(図36
(b))。片側の CaO膜18をリフトオフし(図36
(c))、残った CaO膜18上を含めて CeO2 膜15を
堆積する(図36(d))。次に、 CaO膜18が水に溶
けることを利用して、片側の CeO2 膜15をリフトオフ
し(図36(e))、その上から YBa2 Cu3 O 7-δ等の
銅酸化物超電導体16を堆積する。従来の製造方法で
は、このような繁雑な工程を経なければ粒界接合を形成
することができない。
【0007】一方、半導体素子においては高集積化が進
むにつれて、誘電体膜として従来のシリコン酸化膜やシ
リコン酸化膜と窒化膜との積層膜に代って、ペロブスカ
イト型の高誘電率材料が用いられるようになってきた。
しかしながら、Ba0.5 Sr0.5TiO3 等のペロブスカイト型
誘電体は、パターニングの際のエッチングが難しいとい
う欠点を有している(柴野照夫、西川和康、応用物理、
第63巻、pp.1139-1142(1994)参照)。半導体デバイスの
ドライエッチングにおいては、ハロゲンプラズマによる
化学的なエッチングが通常用いられるが、ペロブスカイ
ト型誘電体に対してはうまく働かない。これはBaやSrの
ハロゲン化合物は沸点が高く蒸気圧が低いためである。
そのため、シリコン酸化膜とのエッチングの選択性が得
にくいと共に、蒸気圧の低い反応生成物が残って特性の
悪化を招く等といった欠点を有していた。
【0008】また磁気抵抗素子として、例えば磁性膜の
巨大磁気抵抗効果を利用した、高密度磁気ディスク読出
し用の磁気ヘッドが知られている。例えば、金属多層膜
を用いた磁気抵抗効果ヘッドがよく知られているが(C.
Tsang et al., IEEE Trans.Mag., vol.30, pp.3801-380
6(1994)参照)、このような金属多層膜より磁気抵抗効
果が大きく、より高出力な磁気ヘッド材料として、ペロ
ブスカイト型結晶構造を持つLa1-x AEx MnO3 (AE:Ca、
SrまたはBa)が提案されている(Y.Tokura etal., J.Ph
ys. Soc. Japan, Vol63, pp.3931-3935(1994)参照)。
しかし、この物質の薄膜は金属磁性膜に比べてエッチン
グしにくく、磁気ヘッド形状へのパターニングが難しい
という欠点を有している。
【0009】さらに、複合酸化物薄膜の成膜技術の進歩
に伴って、ペロブスカイト基の酸化物材料で、絶縁体、
半導体、金属、超電導体、強誘電体、圧電体、磁性体、
透光性、光学機能等の多用な物性を集積して利用する方
向が研究されている。すなわち、性質の異なる複数種の
物質をエピタキシャルに積層して、新機能素子を得よう
とする試みが行われている。この場合も、ペロブスカイ
ト基の複合酸化物は化学エッチングがしにくく、実際に
素子形状を作製しにくいという欠点がある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、従来
の超電導素子の製造工程では、多数回のリソグラフィ工
程や平坦化工程が必要であり、製造工程が繁雑であると
共に、超電導体の特性劣化等が生じやすいというような
問題があった。また、ペロブスカイト型の誘電体を半導
体素子に用いる場合には、エッチングの選択性が得にく
く、残滓が残り易いという問題があった。さらに、磁気
抵抗素子等のペロブスカイト基の酸化物を用いた素子に
おいては、エッチングしにくいために、実際の素子形状
の作製が困難であるという問題があった。
【0011】本発明は、このような課題に対処するため
になされたもので、リソグラフィ工程等を減少させるこ
とによって、製造効率の向上を図ることを可能にした酸
化物薄膜素子の製造方法および超電導素子の製造方法を
提供することを目的としており、また本発明の超電導素
子の製造方法の他の目的は、リソグラフィ工程による超
電導体薄膜の特性劣化を防ぐことにある。また本発明の
他の目的は、例えばペロブスカイト基の酸化物薄膜のパ
ターン形成性を向上させた酸化物薄膜素子の製造方法を
提供することにある。さらに、製造工数の削減を図った
上で、酸素の拡散等による超電導特性の劣化を防止した
超電導素子を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明の酸化物薄膜素子
の製造方法は、請求項1に記載したように、真空槽内
で、有機金属化合物と活性酸素とを基板に供給して酸化
物薄膜を作製する工程を有する酸化物薄膜素子の製造方
法において、前記酸化物薄膜の作製工程で、前記基板上
における前記有機金属化合物の分子供給密度と前記活性
酸素の供給密度との比を空間的に変えることを特徴とし
ている。
【0013】上記した本発明の酸化物薄膜素子の製造方
法は、特に請求項2に記載したように、前記酸化物薄膜
の作製工程で、結晶性がよくエピタキシャル成長した酸
化物薄膜、結晶性が悪くエッチングされ易い酸化物薄
膜、およびカーボンを 10at%以上含む導電性を有する薄
膜から選ばれる 2種以上の部分を有する薄膜を作製する
ことを特徴としている。
【0014】また、本発明の超電導素子の製造方法は、
請求項3に記載したように、真空槽内で、Ceのβ- ジケ
トン錯体と活性酸素とを基板に供給してCeの酸化物薄膜
を作製する工程と、前記Ceの酸化物薄膜上に超電導体薄
膜を積層形成する工程とを有する超電導素子の製造方法
において、前記Ceの酸化物薄膜の作製工程で、前記基板
上における前記Ceのβ- ジケトン錯体の分子供給密度と
前記活性酸素の供給密度との比を空間的に変えることを
特徴としている。
【0015】上記した本発明の超電導素子の製造方法
は、特に請求項4に記載したように、前記Ceの酸化物薄
膜の作製工程で、結晶性がよくエピタキシャル成長した
CeO2絶縁膜、結晶性が悪くエッチングされ易い CeO2
絶縁膜、および導電性を有するCeと Cと Oとを主成分と
する薄膜から選ばれる 2種以上の部分を有する薄膜を作
製することを特徴としている。
【0016】さらに、本発明の超電導素子は、超電導層
と、前記超電導層と接して形成された絶縁層とを具備す
る超電導素子において、前記絶縁層はAl、Siおよび希土
類元素から選ばれる少なくとも 1種の元素を含む酸化物
結晶からなり、かつ前記超電導層と接する前記絶縁層の
周辺部に1at%以上の炭素が含まれていることを特徴とし
ている。
【0017】
【作用】本発明の製造方法においては、基板上でのβ-
ジケトン金属錯体等の有機金属化合物の分子線供給密度
と原子状酸素やオゾン等の活性酸素の供給密度との比を
空間的に変えている。ここで、図1は有機金属分子線エ
ピタキシー法(metalor-ganic molecular-beam epitaxy
method;以下MOMBE法と略記する)によって、有機
金属化合物の一例として用いたβ- ジケトン金属錯体の
分子線供給量と活性酸素の供給量を変化させた際に得ら
れる薄膜の状態をまとめたものである。これは薄膜の成
長過程を反射高速電子線回折(RHEED)観察すると
共に、成膜後にX線回折、抵抗率測定、エッチング実験
を行った結果である。
【0018】本発明においては、例えば図1に示す
(A)、(B)、(C)の 3種類の領域に応じて、以下
に示すような薄膜を作り分けることができる。すなわ
ち、(A)有機金属分子フラックスに対して原子状酸素
フラックスやオゾンフラックス等の活性酸素フラックス
が十分に多い領域(図1では10倍以上)では、エピタキ
シャル成長した結晶性のよい酸化物薄膜が得られ、この
膜は塩酸等でエッチングされにくいという特性を有す
る。また、(C)有機金属分子フラックスに対して活性
酸素フラックスが十分ではない領域(図1では 4倍未
満)では、カーボンを10at% 以上含む酸化物薄膜とな
り、この膜は非晶質膜または多結晶膜であって、抵抗率
1Ωcm未満の導電性を有すると共に、塩酸等でエッチン
グされにくいという特性を有する。(B)上記した
(A)領域と(C)領域との間の領域(図1では有機金
属分子フラックスに対して活性酸素フラックスが 4倍以
上10倍未満)では、エピタキシャル成長しない結晶性の
悪い酸化物薄膜となり、この膜は塩酸等でエッチングさ
れ易いという特性を有する。また、(B)領域で得られ
る膜は、(A)領域や(C)領域で得られる膜に比べ
て、Arイオンミリング等によってもエッチングされ易
い。
【0019】このように、基板上での有機金属化合物の
分子供給密度と活性酸素の供給密度との比を空間的に変
えることによって、例えば同一薄膜層内に電気特性や結
晶性が異なる複数の部分を有する薄膜を作製することが
できる。そこで、例えば空間的に活性酸素の供給密度を
変化させて、有機金属化合物の分子供給密度と活性酸素
の供給密度との比を空間的に変化させることによって、
同一薄膜層内に(A)領域による薄膜、(B)領域によ
る薄膜、および(C)領域による薄膜の少なくとも 2種
以上の部分を作り込むことができる。従って、本発明の
製造方法によれば、例えばフォトリソグラフィ工程が不
要のパターン形成法が実現でき、また不要部分をエッチ
ングし易い酸化物薄膜を得ることができる。
【0020】上述したように薄膜の性質が変化する理由
は以下の通りである。(A)領域は基板への有機金属分
子供給密度に対する活性酸素供給密度が十分に多い領域
であり、このように活性酸素を十分に供給することによ
って、カーボン不純物の混入が2次イオン質量分析器
(SIMS)の検出限界以下となる。従って、結晶性が
よく下地に対してエピタキシャルに成長した酸化物薄膜
が得られ、この膜は酸、イオンミリング、プラズマエッ
チング等でエッチングされにくい。(C)領域は基板へ
の有機金属分子供給密度に対する活性酸素供給密度が少
ない領域であり、このような場合には有機金属分子の配
位子を膜中から十分に除去しきれないために、カーボン
が例えば10〜 50at%の範囲で膜中に取り込まれると共
に、金属元素の酸化が不十分となる。従って、金属に近
い電子状態をもつ原子を含むために、抵抗率 1Ωcm未満
の導電性を有する薄膜が得られる。
【0021】(B)領域は、(A)領域と(C)領域の
中間の領域であり、このような場合には例えば 10at%以
下1at%以上のカーボンが不純物として膜中に混入すると
共に、金属イオンに通常の酸化物中よりも価数の低いも
のが混在する。その結果、エピタキシャル成長せずに、
結晶性の悪い酸化物薄膜となり、酸、イオンミリング、
プラズマエッチング等でエッチングされ易い膜となる。
従って(B)の領域を有効に利用するためには、通常の
酸化物内での価数状態よりも低い価数状態をとり得る金
属イオンを用いることが望ましい。このようなイオンの
例としては、Ti4+(Ti3+)、 V4+(V3+, V2+)、Cr
3+(Cr2+)、Mn3+(Mn2+)、Fe3+(Fe2+)、Co3+(C
o2+)、Ni3+(Ni2+)、Cu2+(Cu1+)、Nb5+(Nb3+)、M
o4+(Mo3+,Mo2+)、Ru4+(Ru3+,Ru2+)、Re6+(R
e4+,Re2+)、 W5+(W4+, W3+, W2+)等の遷移金属元
素イオンや、Ce4+(Ce3+)、Pr4+(Pr3+)、Sm3+(S
m2+)、Eu3+(Eu2+)、Tb4+(Tb3+)、Tm3+(Tm2+)、Y
b3+(Yb2+)等の希土類元素イオンが例示される。な
お、括弧内に通常の酸化物内より低い価数状態を示して
いる。このような金属イオンを含む酸化物を用いること
によって、上述した性質の異なる薄膜をより安定に作製
することが可能となる。
【0022】次に、本発明の超電導素子の製造方法にお
ける作用をより具体的に述べる。なお、超電導体として
銅酸化物超電導体を用いる場合、絶縁膜としては格子整
合性のよい CeO2 を組合せることが望ましい。
【0023】(i) 1度の成膜で同一薄膜層内に、
(C)領域によるCeと Cと Oとを主成分とする例えば抵
抗体として機能する膜と、(A)領域による分離用の C
eO2 絶縁膜とを任意の平面形状で作り込むことができ
る。この膜は全域に亘って平坦表面が得られる。
【0024】(ii) 1度の成膜で同一薄膜層内に、
(A)領域による結晶性がよくエピタキシャル成長した
CeO2 絶縁膜と、(B)領域による結晶性が悪い CeO2
絶縁膜または(C)領域によるCeと Cと Oとを主成分と
する膜とを任意の平面形状で作り込むことができる。そ
の上に炭酸基を含まない酸化物超電導体薄膜を積層形成
することによって、(A)領域による膜上では超電導性
が得られ、(B)または(C)領域による膜上ではエピ
タキシャル成長しないこととカーボンの混入により、超
電導性を示さない膜を得ることができる。
【0025】(iii) 1度の成膜で同一薄膜層中に、
(A)領域による結晶性がよくエピタキシャル成長した
CeO2 絶縁膜と、(B)領域による結晶性が悪く酸等に
溶け易いCeO2 膜とを任意の平面形状で作り込むことが
できる。これを酸等でエッチングすることによって、レ
ジストの塗布、露光、現像のプロセスを経ることなく、
CeO2 絶縁膜をパターニングすることができる。
【0026】(iv) 1度の成膜で同一薄膜層中に、
(C)領域によるCeと Cと Oとを主成分とする抵抗膜
と、(B)領域による結晶性が悪く酸等に溶け易い CeO
2 膜とを任意の平面形状で作り込むことができる。これ
を酸等でエッチングすることによって、レジストの塗
布、露光、現像のプロセスを経ることなく、Ceと Cと O
とを主成分とする抵抗膜をパターニングすることができ
る。
【0027】さらに、本発明の超電導素子では、超電導
層と接する絶縁層の周辺部に1at%以上の炭素を含有させ
ることで、特にNb、 NbN、炭酸基を含む酸化物超電導体
等で超電導層を形成した場合に、超電導層への酸素の拡
散による超電導特性の劣化が抑えられる。ただし、絶縁
層の周辺部における炭素の含有量があまり多いと、絶縁
層の絶縁性が損われるおそれがあるので、ここでの炭素
含有量は 50at%以下、さらには 10at%以下に設定される
ことが好ましい。また、絶縁層の絶縁性の観点からは、
絶縁層の中央部の炭素含有量は1at%未満に設定されるこ
とが好ましいが、本発明の製造方法によれば上述した
(iii)の作用に基いて、このような炭素量の濃度勾配を
有する絶縁層が容易に形成され得る。
【0028】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。
【0029】まず、上述した (i)〜(iv)の作用を超電導
素子の製造に具体的に適用した例について述べる。図2
は、本発明の製造方法を適用した一実施例の超電導素
子、具体的にはジョセフソン集積回路を示す図である。
図2に示すジョセフソン集積回路においては、基板21
上にグランドプレーンとなる超電導層22が形成されて
おり、その上には分離用絶縁層23と抵抗膜24、さら
にはコンタクトホール25となる部分とが 1度の成膜で
同一の薄膜層26内に形成されている。
【0030】すなわち、上記薄膜層26を形成する際
に、例えば活性酸素の供給密度を変えることによって、
分離用絶縁層23に相当する部分では活性酸素の供給量
を有機金属化合物の分子供給量に対して十分に多く設定
し((A)領域)、エピタキシャル成長した結晶性のよ
い絶縁性酸化物薄膜を形成する。抵抗膜24に相当する
部分では、活性酸素の供給量を有機金属化合物の分子供
給量に対して少なくして((C)領域)、抵抗体として
機能するカーボンを10at% 以上含む薄膜を形成する。ま
た、コンタクトホール25となる部分では、活性酸素の
供給量を上記 2種類の薄膜形成時の中間とし、結晶性の
悪いエッチングされ易い酸化物薄膜を形成する。
【0031】薄膜層26の具体な構成としては、例えば
薄膜作製原料の有機金属化合物としてCeを含む有機物質
を用いることによって、分離用絶縁層23としてエピタ
キシャル成長させた CeO2 絶縁膜を作製すると共に、抵
抗膜24としてCe-C-Oを主成分とする膜を作製する。ま
た、コンタクトホール25となる部分には、結晶性の悪
い CeO2 絶縁膜を作製する。ただし、薄膜層26の構成
材料は CeO系に限られるものではなく、Al、Siおよび希
土類元素から選ばれる少なくとも 1種の元素を含む酸化
物であればよく、例えば薄膜作製原料としてAlを含む有
機物質を用いて、分離用絶縁層23としてAl2 O 3 薄膜
を、また抵抗膜24としてAl-C-O系薄膜を形成したり、
また薄膜作製原料としてSiを含む有機物質を用いて、分
離用絶縁層23として SiO2 薄膜を、また抵抗膜24と
してSi-C-O系薄膜を形成することができる。
【0032】上述した 3種類の酸化物薄膜は、例えば原
子状酸素やオゾン等の活性酸素を含むガスの吹き出し口
と基板との間にマスクを設けたり、また吹き出し口を非
常に指向性の強いノズルにすると共にノズルの向きを可
動とし、細く絞った活性酸素を含むガスのビームで基板
上をスキャンすることで、活性酸素の供給量を各薄膜の
形成領域に応じて空間的に変化させ、これにによって 1
度の成膜で連続的に同一の薄膜層26内に形成すること
ができる。
【0033】抵抗膜24は、薄膜層26を形成した時点
で所望形状にパターニングされていると共に、周囲の分
離用絶縁層23と表面が連続した平坦面とされている。
従って、従来の製造方法では必要であった抵抗膜のリソ
グラフィ工程、すなわちレジストの塗布・露光・現像工
程と抵抗膜のエッチング工程が不要となる。さらに、図
34に示した従来例では必要であった抵抗膜周囲の溝を
スピン・オン・ガラス(SOG)等で平坦化する工程も
不要となる。これらによって、製造工数を大幅に削減す
ることができる。これが前述した (i)の作用を具体化し
た例である。
【0034】また、上記薄膜層26を形成した後に、塩
酸等でエッチングを行うことによって、エッチングされ
易い酸化物薄膜部分のみが除去されて、グランドプレー
ンとなる超電導層22へのコンタクトホール25が形成
される。この際、分離用絶縁層23および抵抗膜24は
容易には塩酸でエッチングされない。従って、レジスト
の塗布・露光・現像工程と絶縁層のエッチング工程を行
うことなく、コンタクトホール25を形成することがで
きる。これが前述した (iii)の作用を具体化した例であ
る。
【0035】そして、上述したジョセフソン集積回路に
おいては、コンタクトホール25の形成後に超電導層2
7を積層形成して、コンタクトホール25内を超電導層
27で埋め込むと共に、さらに分離用絶縁層28および
超電導層29を形成することによって、ジョセフソン接
合30が形成されている。この場合、超電導層22、2
7、29は酸化物超電導体膜でもよいし、Nbや NbN等の
金属系超電導体膜でもよい。薄膜層26は酸化物薄膜で
あり、絶縁層23等とエピタキシャルに積層できること
を考えると、超電導層22、27、29には銅酸化物超
電導体膜を用いることが望ましい。
【0036】上記実施例のジョセフソン集積回路(超電
導素子)は、上述した製造工程上の利点に加えて、以下
に示す構造上の利点を有している。第1に、(A)領域
に対応する分離用絶縁層23と(B)領域に対応するコ
ンタクトホール25となる部分との界面や(A)領域に
対応する分離用絶縁層23と(C)領域に対応する抵抗
膜24との界面では、活性酸素供給密度が有限の距離内
で変化するために、膜中のカーボン濃度が変化する遷移
領域が存在する。この遷移領域の幅はパターン最小幅の
1/10〜1/1000程度である。これらの遷移領域では膜質が
徐々に変化すると共に、各膜の構成元素が似ていること
から、それぞれの界面は温度サイクルを与えても熱応力
が発生しにくく、クラック等が生じにくいという利点が
得られる。これに対して、例えば超電導体としてNbや N
bNを用いた従来の超電導素子では、主として抵抗膜とし
てMo、また絶縁層として SiO2 が用いられており、抵抗
膜と絶縁層の材質が全く異なるために、両者の熱膨張係
数が著しく異なり、素子作製時の温度(例えば700K)か
ら素子動作時の温度(例えば4.2K)までの温度サイクル
で抵抗膜と絶縁層との間にクラックが入ったり、ここか
ら膜が剥離し易い等の欠点を有していた。上記実施例の
超電導素子は、これらの欠点を克服したものである。
【0037】第2に、コンタクトホール25の周囲の絶
縁層23には、エッチング後も遷移領域として例えば1a
t%以上程度の若干のカーボンを含む領域が残っている。
また、抵抗膜24もカーボンを含んでいる。このこと
は、超電導電極にNbを用いた場合に以下の利点となる。
すなわち、Nbが酸化物と接する場合、Nbに酸素が拡散し
て超電導特性が劣化するという問題があった。これに対
して、上記コンタクトホール25にNbを堆積させた場合
には、コンタクトホール25の周囲の絶縁層23が遷移
領域として若干のカーボンを含む層を有しているため、
言い換えるとNb超電導体と接する絶縁層23の周辺部が
若干のカーボンを含むため、絶縁体と超電導体との界面
にNb-C-Oができ、これによって超電導電極への酸素の拡
散が抑制されるために、コンタクトホール25内の超電
導電極の特性劣化を防止することができる。さらに、同
様にカーボンを含む抵抗膜24上にNb超電導体を積層し
た場合にも界面にNb-C-Oができるため、超電導電極への
酸素の拡散が抑制されて、超電導特性の劣化を防止する
ことができる。なお、酸化物とNbとが接する場合に、そ
の間に 2.5〜 3nm程度の厚さの結晶質 NbC0.25O 0.75
が介在すると、超電導電極への酸素の拡散が抑制され
て、超電導特性の劣化が抑制されることは、既にS.I.Ra
ider, R.W.Johnson, T.S.Kuan, R.E.Drake, and R.A.Po
llak, IEEE Transon Magnetics, MAG-19, 803(1983) に
記載されている。
【0038】また、超電導電極に NbNを用いた場合には
以下の利点が生じる。コンタクトホール25の周囲や抵
抗膜24がカーボンを含むことから、そこから超電導体
に向けて若干のカーボンの拡散が起こり、 NbN超電導体
の超電導特性の向上あるいは超電導特性の劣化防止に役
立つ。 NbN薄膜に若干のカーボンが混入するとTc が向
上することは、例えばE.J.Cukaukas, W.L.Carter, and
S.B.Qadri, J.Appl.Phys. 57, 2538(1985)に既に記載さ
れている。他に、超電導電極に例えば(Ba1-x Srx 2
Cu1+y O 2+2y+5(CO3 1-y や Y1-x Cax Sr2 Cu
2+y (CO3 1-yOz 等の炭酸基を含む層状銅酸化物超電
導体を用いた場合にも、上記と同様にカーボンの存在が
超電導特性の向上あるいは超電導特性の劣化防止に役立
つ。ただし、ここでこのような酸素の拡散を十分に抑え
る上では、1at%以上のカーボンを含む領域の幅は 2nm以
上であることが好ましい。
【0039】図3は、本発明の製造方法を適用した他の
実施例の超電導素子、具体的には炭酸基を含まない酸化
物超電導体を用いた受動マイクロ波素子を示す図であ
る。なお、基本的な構造は図35と同様である。この場
合、誘電損失が少なく、かつ大面積基板が容易に得られ
るサファイヤを基板31として用いることが望ましい。
図3に示す受動マイクロ波素子において、サファイヤ基
板31上には、(A)領域による結晶性のよいエピタキ
シャルした絶縁層32と(C)領域による層33とが 1
度の成膜で同一の薄膜層34内に形成されている。この
薄膜層34上には酸化物超電導体35が堆積されている
が、(A)領域による絶縁層32上には超電導性を示す
酸化物超電導体膜36が形成されているのに対し、
(C)領域による層33上ではエピタキシャル成長しな
いこととカーボンの混入によって、超電導性を示さない
膜37が形成されている。従って、従来の製造方法では
必要であった超電導体膜堆積後のリソグラフィ工程が不
要となる。これは前述した(ii)の作用を具体化した例で
ある。
【0040】同じく、サファイヤ基板上に酸化物超電導
体を堆積した受動マイクロ波素子において、 (iii)の作
用を具体化した実施例について述べる。図4は、この実
施例の受動マイクロ波素子の製造工程を示す図である。
まず、図4(a)に示すように、 1度の成膜で同一薄膜
層38中に、(A)領域による結晶性のよいエピタキシ
ャルした絶縁層39と(B)領域による結晶性が悪く酸
に溶け易い絶縁層40とを作り込む。次いで、結晶性が
悪い絶縁層40を塩酸でエッチングして、エピタキシャ
ル成長した絶縁層39の部分だけを残す(図4
(b))。その上に銅酸化物超電導体を堆積すると、エ
ピタキシャル成長した絶縁層39上には超電導性を示す
酸化物超電導体膜41が形成され、サファイヤ基板31
上に直接堆積した部分42は基板との反応により超電導
性を示さない。従って、超電導体膜堆積後のパターニン
グ工程を行うことなく、受動マイクロ波素子を作製する
ことができる。また、基板としてSi基板を用いた場合に
も、基板と超電導体膜との反応が起きるために同じ効果
が得られる。
【0041】他方、基板として SrTiO3 や LaAlO3 等の
銅酸化物超電導体と反応せず、格子整合性に優れた基板
を用いた場合は、基板上に直接堆積した銅酸化物超電導
体も超電導性を示す。この場合には、超電導体膜よりも
エピタキシャル絶縁層の方を厚くすることによって、上
段と下段の超電導体膜を空間的にかつ電気的に分離する
ことができる。この技術は受動マイクロ波素子や超電導
集積回路の超電導配線に有効である。ストリップライン
遅延線の場合、限られた面積の基板上にどれだけ長い超
電導線を描けるかが重要である。図5に示すように、上
段の超電導線43と下段の超電導線44とを基板中央で
接続用超電導体45で接続すれば、面積利用効率の高い
遅延線を容易に作製することができる。
【0042】図6は、 (iii)の作用を応用したbi-epita
xialジョセフソン接合の製造工程を示す図である。すな
わち、まず図6(a)に示すように、 MgO基板46上に
1度の成膜で同一薄膜層47中に、結晶性がよくエピタ
キシャル成長した絶縁層48と結晶性が悪く酸に溶け易
い絶縁層49とを作り込む。次いで、結晶性が悪い絶縁
層49のみを塩酸でエッチングして、エピタキシャル絶
縁層48だけ残す(図6(b))。その上に YBa2 Cu3
O 7 等の銅酸化物超電導体膜50を堆積することによっ
て、bi-epitaxialジョセフソン接合を形成することがで
きる。これは図36に示した従来例に比べて、レジスト
の塗布・露光・現像工程、 CaOの堆積工程および 2回の
リソグラフィ工程が不要となり、製造効率が大幅に向上
する。
【0043】前述した(iv)の作用は、ジョセフソン集積
回路の抵抗膜のパターニング等に適用することができ
る。また、 LaAlO3 基板上に銅酸化物超電導体を堆積し
た受動マイクロ波素子にも応用できる。 LaAlO3 基板上
に(iv)の作用に準じてパターニングしたCe-C-O系薄膜等
を作製し、その上に銅酸化物超電導体を堆積すると、La
AlO3 上に堆積した部分は超電導性を示し、Ce-C-O系薄
膜上に堆積した部分はエピタキシャル成長しないことと
カーボンの混入により超電導性を示さない。従って、従
来の製造工程では必要であった超電導膜堆積後のリソグ
ラフィ工程が不要となる。
【0044】次に、本発明のより詳細な実施例について
述べる。
【0045】実施例1 まず、以下の実施例で用いた成膜装置について、図7を
参照して説明する。図7に示すMBE成膜装置は、成膜
室51内に例えば鉛系層状銅酸化物超電導体の原料とな
るPb、Sr、Ca、Dy、Cu等がそれぞれ収容された 5本のク
ヌーセン・セル52、53、54、55、56、および
ガスソースノズル57が配置されている。また、成膜室
51内には、ECRガン58が設置されており、基板ホ
ルダ59にセットされた基板60に対して活性酸素を照
射することを可能にしている。成膜室51への活性酸素
含有ガスの供給量は例えば 0.7〜 4.0sccmとし、またプ
ラズマへの入射電力は100Wとした。このMBE成膜装置
では、(Pb2 Cu)Sr2 (Dy,Ca)Cu2 O 8+δ超電導体膜を
エピタキシャルに層状成長させることができる。
【0046】成膜室51は、例えば図示を省略した排気
速度 2000l/sのクライオポンプで排気され、成膜室51
内の圧力はイオンゲージ61で測定される。この実施例
の成膜では、成膜室51内の圧力は 1.2〜 5.6×10-3Pa
であった。成膜室51は、さらに差動排気した電子銃6
2と蛍光スクリーン63とを有し、成長過程のRHEE
D観察を可能にしている。この実施例では電子加速電圧
は25〜30kVとした。
【0047】基板60としては、単結晶 SrTiO3 の (10
0)面と (110)面を用い、図示を省略した加熱ヒータで 3
50〜 850℃に加熱した。また図示を省略したが、基板6
0の直下に水晶振動子式膜圧計がセットされており、ク
ヌーセン・セル52、53、54、55、56やガスソ
ースノズル57からの分子線強度がモニタできるように
構成されている。
【0048】ガスソースノズル57は、成膜室51外に
設置された酸化物薄膜の作製源となる有機金属ガスソー
ス源64に接続されている。有機金属ガスソース源64
は、例えば成膜室51の側壁に設けられたφ70のICF
フランジ(図示せず)から1/4インチのガス供給パイプ
65を介してガスソースノズル57に接続されている。
すなわち、有機金属ガスソース源64は、成膜室51に
φ70のICFフランジを 1個設けておくことによって簡
単に設置できる。
【0049】有機金属化合物原料としては、Ceのβ- ジ
ケトン錯体を用いた。具体的な化合物としては、tetrak
is[2,2,6,6-tetramethyl-3,5-heptanedionato]cerium
(略称:Ce(thd)4 )、tris[2,2,6,6-tetramethyl-3,5-
heptanedionato]cerium(略称:Ce(thd)3 )、tetrakis
[6,6,6-trifluoro-2,2-dimethyl-3,5-hexanedionato]c
erium(略称:Ce(fdh)4 )、1,10-phenanthrolinetris
[2,2,6,6-tetramethyl-3,5-heptanedionato]cerium(略
称:Ce(thd)3 phen)、1,10-phenanthrolinetris[6,6,6
-trifluoro-2,2-dimethy1-3,5-hexanedionato]cerium
(略称:Ce(fdh)3phen)等を使用することができる。こ
れらCeのβ- ジケトン錯体は、 100〜 300℃の間で十分
な蒸気圧をもち、かつ酸素ガスが存在する中で 300℃以
上で分解してCeが堆積することから、MOMBE法の原
料に適している。
【0050】Ce(thd)4 やCe (thd)3 phenを真空中で加
熱した場合の蒸気成分の質量分析結果では、[Ce(th
d)3 + (M=689) が最も多い。そこで、最初から原料に
Ce(thd)3 を使用すれば、不要な配位子成分を少なくで
きる。本発明の製造方法においては、原料としてCeの有
機金属化合物の代わりに、例えばPr、Dy、Eu等の他の希
土類元素やAl、Si等のβ- ジケトン錯体を使用すること
もできる。ただし、エピタキシャル成長した酸化膜と銅
酸化物超電導体との格子整合等の相性を考えると、Ceの
β- ジケトン錯体を用いて、 CeO2 が主成分の絶縁膜を
作製することが望ましい。
【0051】次に、具体的な薄膜作製例について述べ
る。以下の薄膜作製例で用いた有機金属化合物原料は C
e(thd)3 、別名tris(dipivaloymethanate)ceriumであ
り、以下では Ce(dpm)3 と略記する。その構造式を図8
に示す。化学式は(C11H 19O 2 3 Ceであり、分子量は
689.9である。TG−DTAカーブによると、融点は 2
00℃であり、約 160℃から昇華による重量減少が始ま
り、 320℃付近に残った原料の分解によると思われる発
熱ピークがある。従って、原料温度は劣化を防ぐため
に、 150℃以上 200℃以下とすることが望ましい。ま
た、ガス輸送経路の配管内での分解を防ぐために、配管
温度は 320℃以下とすることが望ましい。
【0052】図9に、有機金属ガスソース源64および
ガスソースノズル57付近の詳細図を示す。原料容器6
41に収容された有機金属化合物原料は、成膜室51外
に設けたヒータ642を有するオーブン643内で 150
〜 190℃の一定温度に加熱され、昇華した気体は 3つの
ヒータ651a、651b、651cで加熱されたガス
供給パイプ65により基板60付近まで導かれ、ガスソ
ースノズル57から基板60に向けて照射される。輸送
経路の圧力を制御してガス供給量を制御するために、 2
つのバリアブルリークバルブVLV1、VLV2が設けられてい
る。ガス供給時には、バルブV1とバリアブルリークバル
ブVLV1を全開にすると共に、他のバルブV2、V3、VLV2を
閉め、またガス供給量の制御はオーブン643の温度を
制御することにより行った。
【0053】原料ガス圧は、絶対圧計644(この実施
例ではMKS社製バラトロン Type315(10Torr Head)(20
0℃まで使用可)とType 270-4(Elctronics Unit)とを
組合せて使用)で測定した。バリアブルリークバルブVL
V1、VLV2やバラトロン絶対圧計644への原料の凝集を
防ぐために、オーブン643内では原料容器641が最
も温度が低く、バリアブルリークバルブVLV1、VLV2やバ
ラトロン絶対圧計644はそれよりも約10℃高く設定さ
れている。オーブン643の外側に配置された1/4イン
チのガス供給パイプ65は、ヒータ651a、651
b、651cによって、 3領域に分けて加熱されてい
る。ガス供給パイプ65の先端は、半径0.11mmの穴を空
けたノズル57となっており、このガスソースノズル5
7の先には基板60への分子線束を遮るシャッタ66が
設けられている。
【0054】ここで、安定にガス供給を行うためには、
ガス供給パイプ65を均一に加熱することが重要であ
る。例えば、オーブン643と成膜室51との間のパイ
プ65にベローズバルブやVCR継ぎ手等を配置すると
温度が局所的に低下し、原料が粉状となって堆積し、さ
らには配管詰り等を起こして、基板60上に微量のCe酸
化物しか堆積することができなくなる。そこで、オーブ
ン643と成膜室51との間のガス供給パイプ65に
は、温度低下の要因となるベローズバルブやVCR継ぎ
手等は設置していない。また、ヒータ651aには均熱
を保ちやすいテープヒータを用いた。
【0055】また、ガスソースノズル57近傍の温度制
御が不十分であると、 700〜 800℃に基板60を加熱し
た際に、その輻射でノズル57先端から50mm程度の温度
が上がりすぎたり、また下がりすぎたりするために、パ
イプ内壁への原料の吸着と脱離が起きて、原料ガス圧力
が変動する。そこで、ガスソースノズル57近傍部分だ
け独立に温度制御し得るように、ヒータ651cと熱電
対TC4 と図示を省略した温度コントローラとを設けた。
さらに、ガスソース用のシャッタ66は、開状態の際に
も基板60とノズル57付近との間の熱遮蔽板の役割を
兼ねる形状としてた。そのため、シャッタ66の軸回転
は14°± 0.5°の精度で制御する必要が生じたために、
シャッタ66の開閉には従来の圧空式アクチュエータに
代えてステッピングモータと制御器を用いた。
【0056】上記したガスソースノズル57の先端温度
制御と上述したようなシャッタ66の設置によって、基
板60の加熱(800℃まで)の有無やガスソース用のシャ
ッタ66の開閉にかかわらず、ガスソースノズル57の
温度を設定温度(250℃)に対して±10℃〜-2℃の変動に
抑制することができた。ヒータ651cを設けない場合
は40〜 240℃で変動した。最初にノズル57の温度を 2
00℃、 250℃、 300℃と変えて実験した結果、わずかで
はあるが 250℃の場合が堆積速度が大であったので、オ
ーブン643外のガス供給パイプ65からガスソースノ
ズル57までを250℃に設定して成膜を行った。
【0057】作製した薄膜試料は、Cu-Kα線を用いたX
線回折を行い、またCe堆積量をICP発光分光法で測定
した。また、試料の溶解試験は塩酸中で30分間行った。
ただし、結晶性のよい CeO2 膜はこの方法では溶けず、
堆積量の測定ができない。その場合には、同じ成膜条件
でクヌーセンセルからSrを供給して塩酸に溶け易いSr-C
e-O系非晶質膜を作製し、上記の方法で分析した。同じ
成膜条件であれば、CeO2 膜と Sr-Ce-O系非晶質膜とでC
e堆積量に大きな差はない。さらに、一部の試料はSE
MとFE−SEMで表面モフォロジーを調べた。その結
果、上記の成膜法で CeO2 膜の実用上十分な堆積速度(1
分間に 2原子層)が得られた。また、ガス放出分布の解
析から膜厚分布の均一化を図った。そして、 CeO2 膜を
SrTiO3 基板上にエピタキシャル成長させることができ
た。さらに、有機金属分子フラックスに対する原子状酸
素フラックスまたはオゾンフラックスの比を制御するこ
とによって、前述の(A)領域による薄膜、(B)領域
による薄膜、および(C)領域による薄膜の 3種類の薄
膜を作り分けることができた。
【0058】CeO2 膜は、 Y-Ba-Cu-O系酸化物超電導体
を用いたジョセフソン接合のバリヤ層、基板と銅酸化物
超電導体膜との間のバッファ層、Nd2-x Cex Cu O4 超電
導体の構成元素、SOI(silicon-on-insulator)基板、
シリコンデバイスのキャパシタ等、色々な用途のために
研究されており、従来、スパッタリング法、電子ビーム
蒸着法、レーザーアブレーション法、MOCVD法によ
る成膜例は報告されているが、MOMBE法で作製した
例はない。
【0059】一般に、蒸気圧の低い金属元素の酸化膜を
MBE法で成長する場合、クヌーセン・セルからの蒸発
は難しい。また、電子ビーム蒸着は遅い蒸発速度で制御
することが難しい。たとえ分子線強度をフィードバック
しても、蒸発速度が秒のオーダーの周期で振動する等の
問題がある。従って、既存のMBEチャンバに付加して
低蒸気圧金属を簡便に導入でき、分子線束の安定してい
るMOMBE法は CeO2 に限らず、多元酸化物を原子層
毎に成長する場合に非常に有効である。しかしながら、
これまで有機金属原料を成膜室とは別室に置いたMOM
BE法による酸化膜の成長は報告例が少なかった。
【0060】特開平 3-60408号公報、特開平 4-16595号
公報、K.Endo, S.Saya, S.Misawa,and S.Yoshida, Thin
Solid Films, 206, 143(1991)、K.Endo, S.Misawa,
S.Yoshida, and K.Kajimura, in Advances in Supercon
ductivity V, edited byY.Bando and H.Yamauchi,(Spri
nger,Tokyo,1993),p.973、L.L.H.King, K.Y.Hsieh,D.J.
Lichtenwalner, and A.I.Kingon, Appl. Phys. Lett.5
9, 3045(1991)の 5つの文献には、有機金属原料をその
ままクヌーセン・セルから蒸発させて、 YBa2Cu3 O
7-δ超電導体膜を作製した例が記載されている。しか
し、これらの方法では、成膜室の真空を破らずに原料を
交換できるというガスソースMBE法の利点を活かせな
いし、成膜室のべーキングもできない。また、特開平 3
-50104号公報、S.J.Duray, D.B.Buchholz, S.N.Song,
D.S.Richeson, J.B.Ketterson, T.J.Marks, and R.P.H.
Chang, Appl.Phys. Lett.59, 1503(1991)、K.Kanehori,
S.Saito, N.Sugii, and K.Imagawa, J.Vac. Sci.Techn
ol.A 12, 130(1994)の 3つの文献には、有機金属原料
を成膜室の外で加熱し、その蒸気を(Duray らはキャリ
アガスも含む)酸素分圧 1.3×10-2〜 1.3Paと通常のM
OCVD法よりかなり低い圧力の成膜室にパイプで導い
て、 YBa2 Cu3 O 7-δ超電導体膜を作製したことが報告
されている。
【0061】この実施例による成膜方法は、成膜室の酸
素圧力が 1.2〜 5.6×10-3Paと上記よりも低い。本発明
における有機金属分子の平均自由行程は、基板−ノズル
間隔よりも長く、分子線エピタキシー法と呼んでよい条
件になっている。酸素ガス分子、オゾン分子、原子状酸
素の平均自由行程も、酸素源ノズル−基板間隔よりも十
分長い。従って、酸素源ノズルと基板との間にマスクを
設けたり、細く絞った活性酸素含有ガスのビームで基板
上をスキャンする等の空間的な活性酸素供給密度を変え
る手段が十分有効に働き、急峻な境界を持ったパターン
が形成できる。さらに、成膜室の酸素圧力が低いことか
ら、クヌーセン・セルを用いたMBE成長と同時に成膜
室外から導いた有機金属ガスソースを用いることができ
る。従って、本発明による成膜方法は、初めての多元酸
化膜の成膜に適したMOMBE法であるといえる。
【0062】以下では薄膜堆積実験の詳細について述べ
る。まず、膜厚分布の均一化を図った実験例について述
べる。膜厚分布を測定する試料は、 SrTiO3 (100) 基板
にメタルマスクを重ねて、結晶性のよい CeO2 膜が得ら
れる条件で長時間(4〜 6時間)成長させたものである。
成長条件は、原料温度 178℃、基板温度 730℃、酸素流
量2.58sccmとした。まず、 3種類のノズル位置について
実験した。図10に基板60とガスソースノズル57の
相対位置(位置a、位置b、位置c)を示す。作製した
試料の膜厚分布を、触針式膜厚計(TENCOR社製alpha-st
ep 100 profiler)で測定し、堆積速度(nm/hr) に換算し
て図11に示す。横軸xは、ノズル57の延長線方向の
基板60面上の位置であり、基板60の中心を原点とし
ている。この実施例の成膜法は分子線エピタキシー法で
あるため、メタルマスクを用いるだけで十分急峻な段差
が形成され、膜厚が精度よく測れた。
【0063】最初の測定では膜厚分布よりも膜が堆積す
るか否かを重視したため、図11のaに示すようにノズ
ル57を基板中心に向けた。この場合はノズル57に近
い方が厚く、ノズル57から遠ざかるにつれて膜厚が減
少し、急峻な膜厚分布を有している(図11中○で示
す)。これに対して、ノズル57の穴からあらゆる方向
に均一に気体分子が放出され、余弦法則に従うと仮定し
て、基板60内でなるべく膜厚が均一になるように、ノ
ズル57の角度と位置を設定したのが位置bである。ノ
ズル位置bでは膜厚分布を±15% に抑制できたが、まだ
右上がりの分布を持っている(図11中▲で示す)。こ
れはガス放出分布に指向性があることを示している。す
なわち、ノズル57の穴が有限な厚みを持って円柱状に
なっているために、指向性を持ったと考えられる。
【0064】この問題を考えるために、まずノズル57
内部での有機金属ガスの平均自由行程を見積もる。原料
温度 178℃の場合、バラトロン絶対圧計で測定したガス
圧力pB は 8.9Paである。これに 1/4インチ配管(長さ
0.6m)での圧力降下(ただし粘性流領域)と、バラトロ
ン絶対圧計とノズルの温度差(188℃と 250℃の差)を考
慮すると、ノズル内部の圧力pN は 7.6Paと推定され
る。一方、 Ce(dpm)3 分子の直径dは、結晶内での Ce
(dpm)4 の占める体積の 3/4から 1nmと推定される。従
って、平均自由度行程λ=kB T/(21/2 πd2 N
= 0.214mmとなり、ノズル穴の半径や長さ(後述する)
と同程度である。従って、ノズル穴より手前の配管内は
粘性流領域であるが、ノズル穴内から基板へは分子流領
域での単純な気体分子運動論で扱ってよいと考えられ
る。以下ではノズルからのガス放出分布を、分子流を仮
定した単純な気体分子運動論で考える。
【0065】一般に、ノズル穴面積SN から出射角θの
方向へ立体角dωの範囲内で単位時間に放出される気体
分子数dq は、
【数1】 で表されることが、B.B.Dayton, in 1956 Natl.Symp.Va
c.Technol.Trans.(Pergamon,1957)p.5に記載されてい
る。ここで、nは分子密度[m-3]、νは平均速度(今の
場合 126[m/s])である。L=0 を仮定し、Tが常に 1
となるのが余弦法則の場合である。有限の長さLを持っ
た半径Rの円柱上の穴からの場合は、以下で表されるT
(L/R,θ)の因子が掛かる。
【0066】
【数2】
【数3】
【数4】 以下では実際の基板とノズルの位置関係(図10)で考
える。基板中心とノズル穴中心の距離を、高さ方向にZ
0 、水平方向にX0 とし、基板の法線とノズルパイプの
延長線のなす角度をノズル角度φ0 とする。基板上のあ
る位置とノズル穴を結んだ距離がr、その線がノズルパ
イプ延長線となす角度が出射角θである。基板上のある
位置xで分子線と基板法線のなす角度は、φ0 −θ=tan
-1[(X0+x)/Z0 ]である。ある立体角dωの中に
はいる基板面上の面積をSとすると、 dSは基板面上の
位置xの関数であり、dω=cos(φ0 −θ)/r2 dS
=cos(φ0 −θ)3 /Z0 2 dSで表される。従っ
て、基板のある位置に単位面積当たり単位時間当たりに
到達する分子数は以下の式で表される。
【0067】
【数5】 これを用いて、図11のaとbの実験結果はノズル穴の
肉厚Lが半径R(=0.11mm)と同じと考えると説明できる
ことが分かった。これはノズル製作上容易な値である。
そこで、 (5)式のL=Rの場合に従うと仮定して、基板
内でなるべく膜厚が均一になるようノズル角度と位置を
設定したのがcである。ノズル位置cの場合、φ0 = 63
°、X0 = 22mm、Z0 = 38mmである。その膜厚分布の測
定結果が図11の●印である。測定のばらつきも含め
て、直径20mmの基板60上で分布が±5%以内に抑えられ
た。図11中の 3本の曲線は、nνSN に共通の値を入
れて(5)式を実験点にフィッティングした結果であり、
ほぼ実験結果を再現している。cの測定結果の方が堆積
速度が若干小さいのは、原料の経時変化に起因すると思
われる。
【0068】以上の実験により、MOMBE法のノズル
の位置と角度の設定においては、分子流を仮定した気体
分子運動論の式(1) 〜(5) を使えばほぼ最適値に設定で
きることが分かった。しかし図11を詳しく見ると、理
論曲線と実際の実験データには若干のずれがあり、これ
は分子流を仮定した気体分子運動論の式よりも若干指向
性が強いことを示している。従って、式(1) 〜(5) を使
って最適値に設計した後に、それよりも少し指向性が強
いことを考慮してノズル57の位置と角度を微調整(角
度にして 4〜 5度程度)することが望ましい。
【0069】上述した膜厚分布の均一化実験に基いてガ
スソースノズル57の位置を決定した。以下では、原料
温度、基板温度、基板方位、酸素圧力等の成膜パラメー
タに対する依存性について説明する。ガスソースノズル
57の位置は図10中cとし、ガス供給パイプ65から
ガスソースノズル57までの温度を 250℃に設定し、Sr
TiO3 基板60に30分程度成長した結果である。
【0070】まず、原料オーブン温度に対する依存性に
ついて述べる。必要な堆積速度は、層状銅酸化物のc軸
配向膜の成長に用いている、 2原子層/ 1分=3.78×10
-7[mol m-2 s-1]である。ガスソースノズル57からの
ガス供給速度を水晶振動子式膜厚計で評価した。ここで
は、水冷した基板(この場合は水晶に金電極を付けたも
の)に吸着した有機物の重量を、水晶振動子の周波数の
1分毎の変化α=Δf/Δt[Hz/min]で測定した。ま
た、 700℃に加熱した SrTiO3 基板に CeO2 膜を堆積
し、その堆積量をICP発光分光法で調べた。成膜中の
酸素流量は 4.0sccmである。図12に原料オーブン温度
に対する成膜速度およびCe堆積量の依存性を示す。
【0071】原料温度 188℃以上で、必要な堆積速度(1
分間に CeO2 を 2分子層)を超えた。ガス供給速度も C
eO2 堆積速度も、活性化エネルギー18300Kの熱活性化型
を示している。従って、配管やノズルの壁からの脱離ガ
スで膜が堆積しているのではなく、期待通りにオーブン
での原料の昇華過程が膜堆積を律速していることが分か
る。図12でデータが若干ばらついているのは、有機金
属原料に昇華量が除々に低下する経時変化があるためと
考えられる。同じ原料温度(188℃)に設定しても、10日
間の実験の後には 1割近く原料ガス圧力や堆積速度が低
下した。 1日の実験の中でも、原料温度を所定の温度ま
で上昇した後に除々に原料ガスが低下する。原料温度が
所望の温度付近になってから 1.5時間後は、30分の膜成
長の間に1.5%程度原料ガス圧力が低下したが、 6時間後
には30分の膜成長の間のガス圧力変化は0.3%以下であっ
た。この実施例のガスソースは、秒〜分のオーダーでの
分子線束は安定しているが、 2時間以上の長時間成長を
行う場合には、原料温度上昇後に 6時間以上待つ等の注
意を要する。
【0072】次に、原料ガス供給速度を見積もる。一般
に水晶振動子の周波数変化Δf[Hz]は、単位面積当たり
に付着した膜の重量Δm[kg m-2]に比例する。用いた
水晶振動子の固有振動数と基板との相対位置を考慮する
と、基板への入射分子線強度Γ[mol m-2 s-1]は、水晶
振動子の 1分毎の周波数変化α[Hz/min]から以下の式で
求められる。
【0073】 Γ= 0.4/(8.135×106 × 689.9×10-3×60)α=1.19×10-9α ……(6) 一方、有機金属を基板に吸着させてICP発光分光法で
Ceを分析する方法でも、有機金属ガス供給速度を求め
た。真空中で -10℃に冷却した SrTiO3 基板に吸着さ
せ、これを硝酸で溶かして分析した。原料温度 188℃の
場合、入射分子線強度Γは3.52×10-7[mol m-2 s-1]で
あった。このデータは図13に□印でプロットしてあ
る。この時のΓとαの関係は、 Γ=1.13×10-9α ……(7) となり、 (6)式とほぼ一致した。 (7)式を用いて図12
のαを換算した結果、基板へのガス供給量の 90%以上
が、 700℃に加熱した基板上に CeO2 として堆積してい
ることが分かった。
【0074】分子流領域での単純な気体分子運動論を用
いて有機金属ガス供給速度を評価すると、以下のように
なる。原料温度 188℃の場合、バラトロン絶対圧計で測
定したガス圧力pB は14.1Paであり、配管での圧力降下
とバラトロン絶対圧計とノズルの温度差を考慮すると、
ノズル内部でpN =13Pa、分子密度n=pN /kB T=
1.81×1021となる。一方、ノズル穴のコンダクタンスを
Arガスを用いて測定したところ、3.24×10-6[m3 s-1
であった。この値より、ノズル穴の半径R=ノズル穴の
肉厚L=0.114mm と考えられる。これを (5)式に代入す
ると、ガス供給速度は3.71×10-7[mol m-2 s-1]と評価
された。これは前述のガス供給速度測定値とよく一致し
た。すなわち、MOMBE法の分子線強度は、ノズル穴
以降で分子流であると仮定して気体分子運動論を用いれ
ば、ほぼ設計できることが分かった。
【0075】次いで、堆積速度の基板温度依存性を調べ
た。原料温度は 188℃、酸素流量は4.0sccmに固定して
行った実験結果が図13である。図中、左端の□印は前
述したように、冷却した基板に有機金属分子を吸着させ
た場合であり、ガス供給速度を表すと考えられる。基板
温度が 350℃から上昇するにつれて堆積速度が増し、基
板温度 700℃以上で供給量の 9割以上が CeO2 として堆
積している。図13はECRプラズマによる活性酸素を
照射して実験した結果である。ECR放電をせずに O2
ガスを流して基板温度 700℃で実験した結果、プラズマ
有りの場合に比べて少なくとも 3/4以上の堆積速度が得
られた。堆積速度が基板温度に強く依存していること
は、現状では活性酸素による分解よりも基板加熱による
熱分解がCe堆積に支配的であることを示唆している。
【0076】Ce(dpm)4 を用いた CeO2 のMOCVD成
長では、基板温度 500℃以上で堆積速度が急速に低下す
ることが報告されている。これは基板上ではなく、酸素
を含んだ圧力2000〜3000Paの反応管内の気相中で熱分解
が起きるからである。本発明によるMOMBE法では、
酸素ガスを導入しても基板周辺での有機金属分子の平均
自由行程は基板−ノズル間距離よりも長く、ノズル以降
でほとんど気体分子間の衝突がない。そのために、高温
成長時の堆積速度低下の現象や気相での分解反応は観測
されない。
【0077】SrTiO3 (100) 基板上に堆積した場合のX
線回折パターンの基板温度依存性を調べた。基板温度 5
50℃以上で (100)配向した CeO2 膜が得られた。図14
に主ピークである CeO2 (200) ピークの高さを、成長温
度の関数として示す。基板温度が 650℃以上で結晶性の
よい CeO2 膜が得られた。
【0078】さらに、得られた薄膜のX線回折とRHE
ED観察の結果について述べる。図15ないし図17に
X線回折図形を、また図18にRHEED回折図形を示
す。SrTiO3 (100)面基板上の CeO2 膜は、X線回折
(図15)より(100)配向であり、他の(111)配向、
(311)配向、(331)配向は認められない。図15の CeO
2(200)ピークの反値幅は0.23°であり、 SrTiO3 基板
(100) ピークの反値幅0.10°に近く、結晶性がよいこと
が分かる。また、RHEEDで見ると成長の初期過程の
みストリークである。成長が進むと 4〜 7層の堆積でス
トリークに節が現れ、やがて斜めに並んだスポットパタ
ーンに変化していく。10層以上の堆積では、図18
(b)に示すように完全なスポットパターンになり、島
状成長を物語っている。すなわち、Stranski-Krastanov
型の成長形態であった。スポットの水平方向の間隔は、
基板ストリーク間隔(格子間隔0.39nmに対応)とほぼ同
じである。従って、 CeO2 (100)//SrTiO3 (100) 、 CeO
2 [011(バー)]// SrTiO3 [001] の方位関係を持って、
基板に対してエピタキシャルに CeO2 が成長している。
スポットとスポットをつなぐように斜めのストリークが
現れる場合もあり、 {111}面がファセットになっている
と考えられる。
【0079】SrTiO3 (110) 面基板上の CeO2 膜は、図
16のX線回折図形より(111)配向であることが判明し
た。RHEED観察の結果、図18(a)、(e)に示
すように、成長終了(30層分)までストリークパターン
になり、(111)配向 CeO2 膜がエピタキシャルに層状成
長していることが確認された。成長過程においては、基
板の(110)面間隔(0.276nm)に対応するストリークが成
長開始と共に薄くなっていき、 1〜 2層堆積でほぼスト
リークが消失し、その後 3〜 4層堆積したあたりから新
たな周期のストリークが現れ、成長と共に強くなる。新
たな周期は、格子間隔にして 0.334± 0.004nmに対応す
る。従って、方位関係は CeO2 (111)//SrTiO 3 (110)
、 CeO2 [11(バー)0] //SrTiO3 [001] 、 CeO2 [1
(バー) 1(バー) 2]// SrTiO3 [1(バー)10] である。
CeO2 (111) 配向膜が SrTiO3 (110)面上に層状成長する
ことは、従来報告例が無く、本発明で初めて見いだされ
たものである。
【0080】なお、少し成長条件がずれると、 SrTiO3
(110) 面基板上では別の配向も見られる。例えば、基板
温度が低い場合、酸素流量が多い場合、基板表面にステ
ップが多い場合等である。これらの場合には、図17に
X線回折パターンを示すように、(110)配向した CeO2
膜が得られる。この場合のRHEED図形を図18
(f)に示す。ストリーキーではあるが、上下方向に回
折強度が変調を受けており、成長表面に若干の凹凸があ
ることが分かる。この場合もやはり{111}面がファセッ
トになっていると考えられる。RHEED図形から、方
位関係は CeO2(110)//SrTiO3 (110) 、 CeO2 [11(バー)
0]//SrTiO3 [001] 、 CeO2 [001]//SrTiO3 [1(バー)1
0]であることが分かった。
【0081】超電導素子の製造においては、 CeO2 絶縁
層または CeO2 バッファ層の表面平坦性が最重要である
場合がある。その場合は、(111)配向 CeO2 エピタキシ
ャル成長膜を用いると、層状成長し易いために好適であ
る。これは、(111)面には陽イオンまたは陰イオンが稠
密に並び、表面エネルギーが低いためである。(111)配
向の CeO2 エピタキシャル成長膜を得るには、例えば S
rTiO3 (110) 面等の基板面を選べばよい。
【0082】(100)配向した CeO2 膜で平坦な表面を得
たい場合には、 3価の希土類元素REの酸化物RE2 O 3
添加することが有効である。RE元素としては、例えば
Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Y
b、Lu等を使用することができる。RE2 O 3 の結晶構造
は C型希土類構造であり、蛍石型結晶構造から規則的に
酸素が欠損した結晶構造を持っている。従って、(111)
面が表面エネルギーの非常に低い面ではない。この理由
により、 CeO2 にRE2 O 3 を添加することによって、
(111)面をファセットとした成長が起きにくくなる。そ
の結果、Ce1-x REx O2-2x+1.5xは、 CeO2 に比べて島
状成長しにくくなる。この原理から考えて、REの価数が
3価と限らなくとも、 4価よりも小さければ上記効果は
生じる。
【0083】実際に成膜実験した結果について述べる
と、Ceを有機金属ガスソースから供給しながら、同時に
クヌーセンセルからDyを蒸発させて、 SrTiO3 (100)面
基板上にCe0.7 Dy0.3 O 1.85を作製したところ、X線回
折より(100)配向であることが確認された。成長過程を
RHEED観察した結果、12層堆積してもストリークパ
ターンのままであった。前述の CeO2 の場合は10層以上
で完全なスポットパターンになったことに比べると、層
状成長しやすくなったと言える。層状成長しやすくする
ためには、 xを 0.1以上とすることが望ましい。ただ
し、 xをあまり大きくしすぎると、銅酸化物超電導体と
格子整合がよい、よい絶縁体である等の CeO2 の利点が
失われてしまうので、 xは 0.7以下とすることが望まし
い。
【0084】上述したような成膜実験の過程で、堆積速
度が速いかあるいは酸素流量が少ないと、エピタキシャ
ル成長しない場合があることを見出した。その際のRH
EEDパターンは、図18(c)に示すように、面内配
向がランダムになったことを示すリングパターンがスト
リークに重畳している。極端な場合には CeO2 ではな
く、非晶質でかつ導電性を有する黒っぽい膜になる。そ
の場合のRHEEDパターンが図18(d)であり、リ
ングのみの図形になっている。
【0085】そこで、有機金属ガス供給速度と酸素流量
の両方をパラメータとして膜成長を行い、RHEED観
察とX線回折からエピタキシャル成長する条件を探し
た。有機金属原料の温度は 178℃から 190℃まで変化さ
せた。酸素流量は、従来、銅酸化物超電導体を成長して
いた条件(1.25sccm)の 0.6〜 3.2倍の範囲で変化させ
た。基板温度を 700℃に固定して30分成長を行った。成
膜結果をまとめたのが図19である。○印はRHEED
で見て成長終了までエピタキシャル成長した場合であ
り、X線回折で結晶性のよい膜が得られた成長条件(酸
素流量と有機金属ガス供給速度の条件)である。×印は
図18(c)に記したように、エピタキシャル成長を示
すRHEEDパターンに成長途中でリングが重畳してき
た成長条件である。両者の境を一点鎖線で表した。
【0086】図20および図21に酸素流量を変えた場
合のX線回折結果を比較して示す。図20は Ce(dpm)3
フラックス量が 3.5×10-7[mol m-2 s-1]の場合の CeO
2(200) ピークの酸素流量依存性であり、図21は Ce(d
pm)3 フラックス量が 1.9×10-7[mol m-2 s-1]の場合
である。図19の一点鎖線より低酸素流量側では、RH
EEDパターンにリングが重畳するのみならず、同時に
X線回折パターンのCeO2 ピークが急に弱くなった。す
なわちエピタキシャル成長していない。図19のΔ印は
図18(d)に示したように、エピタキシャル成長を示
すRHEEDパターンはまったく見えず、完全にリング
パターンになった場合である。この試料はX線回折の結
果、ほとんど何のピークも観測されなかった。従って、
非晶質または微結晶の集合した多結晶体であることが分
かる。
【0087】種々の条件で堆積した試料の酸によるエッ
チング試験を行ったところ、膜質によってエッチング速
度が大きく変化することが分かった。一例として、濃塩
酸から 5倍程度に薄めた塩酸に30分入れてエッチング試
験を行った。図19の○印の試料(A)は結晶性のよい
CeO2 エピタキシャル膜であるが、これは塩酸に溶けな
かった。図19の×印の試料(B)は結晶性の悪いエピ
タキシャル成長しなかった CeO2 膜であるが、塩酸に溶
けた。図19のΔ印の試料(C)は、後に述べるよう
に、Ceと Cと Oとを主成分とする膜であり、導電性を有
する膜であるが、これは塩酸に溶けなかった。この膜の
抵抗率は、室温で 0.2Ωcmであった。これよりも、さら
に有機金属分子供給密度に対する活性酸素供給密度の比
を減らせば、さらに抵抗率の低い膜が得られる。
【0088】以上の実験結果から、 CeO2 のエピタキシ
ャル成長に必要な成長条件が把握できた。前述した必要
堆積速度の場合、酸素流量4.00sccmでエピタキシャル成
長させることができた。この流量は、従来クヌーセン・
セルを用いて銅酸化物超電導体を成長していたよりも 3
倍高い値であるが、まだ層状銅酸化物を成長できる範囲
内である。ところで、活性酸素源としてECRプラズマ
活性酸素源の代わりに純オゾン源を使うこともできる。
ここで、純オゾン源とは放電によるオゾナイザーで作製
したオゾン含有酸素ガスを77〜100Kの低温に保持したオ
ゾン室に導き、オゾンのみを液化して溜め、そこから蒸
発してくる 70%以上のオゾンを含むガスを基板に導く方
法である。実験した結果、この場合ガス中の活性酸素濃
度がECRプラズマ酸素源よりも高いため、成膜室の酸
素圧力がもっと低い条件までエピタキシャル成長させる
ことができた。しかし、活性酸素供給密度(この場合は
オゾン分子の供給密度)で比較すると、ERCプラズマ
活性酸素源と同じ実験結果が得られた。
【0089】活性酸素供給密度が小さい場合にエピタキ
シャル成長しない原因を探るために、膜の分析を行っ
た。四重極型の2次イオン質量分析器(SIMS)を用
いて、膜中のカーボン分析を行った。試料は、図19中
(A)の条件でエピタキシャル成長した CeO2 膜と、図
19中(C)の条件で成長した導電性を有する黒色系の
薄膜試料である。それぞれの実験結果を、図22
((A)の結果)および図23((C)の結果)にCeと
Cと Oの深さ方向の分布データとして示す。 CeO2 エピ
タキシャル膜(A)中のカーボン量は SrTiO3 基板中と
同程度であり、検出限界以下であった。導電性を有する
薄膜試料(C)でははっきりとカーボンが検出され、そ
のシグナルは(A)より 2桁以上大きかった。
【0090】また、いくつかの薄膜試料について、オー
ジェ電子分光法を用いて主要な構成元素であるCeと Cと
Oの深さ方向のプロファイルを調べた。比感度係数から
考えると、試料(C)には14〜32at% のカーボンが含ま
れており、これはCeの原子数に対して Cの原子数が 0.4
〜 1倍程度であることに相当する。他に、図21におけ
る酸素流量が1.25sccmの場合の試料をオージェ電子分光
法で調べた結果、膜中のカーボン濃度は少ないところで
5at%程度であり、C/Ceの原子数比が 0.1程度であった。
さらに他に、試料(C)とほぼ同じ条件だが、ECRプ
ラズマをオフにして酸素の活性化を行わずに成膜した試
料(導電性を有する黒色系の薄膜試料)をオージェ電子
分光法で調べた。その結果を図24に示す。成膜中に活
性酸素を照射しなかった結果、膜中のカーボン濃度が25
〜32at% となり、C/Ceの原子数比にして 0.5〜 0.8倍程
度にカーボンが混入した。
【0091】さらに、X線光電子分光(XPS)分析を
行った。試料は、図19中の(C)に近い条件で成膜し
た試料であり、導電性を有する黒色系の薄膜試料であ
る。また参照試料として、活性酸素条件や基板温度等の
条件を同一にして、ガスソースの代わりにクヌーセン・
セルからCe金属を蒸発させて、 SrTiO3 (110) 基板上に
CeO2 膜を作製した。その結果、無色透明で抵抗が無限
大で、X線回折で見て(111)配向した CeO2 膜が得られ
た。RHEEDで見るとエピタキシャル成長している。
XPSではCeと Cのピークが重なることからカーボンの
分析精度は低かったため、有機金属ガスソースによる導
電性を有する黒色系の試料と参照試料とで、膜中カーボ
ン量に顕著な差は見られなかった。Ceの化学結合状態
(Ceの3dレベル)を調べた結果が図25および図26で
ある。図25に示す参照試料ではCeO2 に帰属するサテ
ライトピークが検出されているのに対し、図26に示す
ガスソースによる(C)に近い条件の薄膜試料では金属
Ceに近いピークが観測され、上記のサテライトピークは
ほとんど検出されなかった。(C)に近い条件の薄膜試
料のCeは電子状態が金属に近く、酸化しきっていないと
言える。従って、前述のSIMSの結果や酸によるエッ
チング試験の結果とも併せて、単に金属状態に近いCeが
混合しているというよりは、カーボンの混入によりセリ
ウムカーバイドに近い状態になっていると考えられる。
【0092】また、膜の表面形態をSEMとFE−SE
Mで観察した。図27にSEM観察写真を、図28にF
E−SEM観察写真を示す。図27(a)および図28
(a)に示すように、エピタキシャル成長した CeO2
(A)の場合は明瞭な組織が見られなかった。それに対
して、図27(b)および図28(b)に示すように、
Ce-C-Oを主成分とする導電性を有する膜(C)の場合
は、20nm程度の粒構造を持った凹凸が見られる場合があ
り、その上に銅酸化物超電導体膜を堆積すると、エピタ
キシャル成長しないことと、下地からのカーボンの拡散
により超電導性が得られにくいことが分かった。
【0093】以上の分析結果から、エピタキシャル成長
条件から大きくはずれた条件(図19の(C)付近)の
膜は、カーボンが多量に混入しかつCeが十分に酸化され
ていないことが分かった。そこで、図19の一点鎖線よ
りも低酸素流量側でエピタキシャル成長しない原因は、
膜中にカーボンと酸化しきっていないCeが混入するため
と考えられる。
【0094】図19から、エピタキシャル成長させるた
めには、有機金属ガス供給密度を増した場合にはほぼ比
例して酸素流量を増やす必要があることが分かった。こ
こで、各ガスの成分のフラックスを比較する。酸素流量
1.25sccmの場合、 O2 分子フラックスはおおよそ 8×10
-5[mol m-2 s-1]である。他に、水晶振動子式膜厚モニ
タにAg膜を真空蒸着し、それをECRプラズマ活性酸素
源で酸化して、その重量変化を水晶振動子の周波数変化
で測定する方法により、活性酸素フラックスを測定し
た。このとき、Agを酸化している活性酸素は原子状酸素
と考えられる。この実験から見積もった原子状酸素フラ
ックスは、酸素流量1.25sccm、放電電力100Wの場合、基
板上で1.62×10-6[mol m-2 s-1]である。このとき、 C
e(dpm)3フラックスが1.35×10-7[mol m-2 s-1]の場合
にはエピタキシャル成長し、 Ce(dpm)3 フラックスが1.
90×10-7[mol m-2 s-1]に増えるとエピタキシャル成長
しなくなる。
【0095】ところで、 1モルのCe(dpm)3 が完全に燃
焼するには45モルの O2 分子が必要である。今、上記の
いずれの Ce(dpm)3 フラックス条件でも、完全に燃焼さ
せるに十分な量の O2 分子を供給している。にもかかわ
らず、エピタキシャル成長しない場合があるということ
は、活性酸素フラックスが重要であることが分かる。単
純に計算すると、 Ce(dpm)3 に対して12倍の原子状酸素
があるとエピタキシャル成長し、 8.5倍ではエピタキシ
ャル成長しないことになる。有機金属を蒸着して YBa2
Cu3 O 7-δを作製する場合に、結晶性のよい膜やTc
高い膜を得るにはある程度以上の密度の活性酸素を基板
に供給する必要があることは、従来から報告されてい
る。しかし、その定量的議論はされていない。 1モルの
Ce(dpm)3が分解して CeO2 がエピタキシャル成長する
反応過程において、 02 分子は重要ではなく、活性酸素
が10モル以上必要であることを本発明で初めて見出し
た。
【0096】実験した結果、酸素流量を変化させても、
またECR放電を止めても、エピタキシャル成長の有無
に拘らず、基板へのCeの堆積量に急激な変化はない。こ
の事実と基板温度依存性の実験結果から、 Ce(dpm)3
分解して基板上に堆積する過程は、 O2 分子の依存下で
の熱分解が主と考えられる。この反応過程において、Ce
(dpm)3 が完全に燃焼するのではなく、配位子が切れる
と考えられる。前述の分析結果から考えると、活性酸素
は基板上に堆積したカーボンを酸化して除去し、かつCe
を完全に酸化する役割を果たすことにより、エピタキシ
ャル成長に貢献している。だとすると、上述の必要活性
酸素量の評価値は、熱分解で基板上に堆積するカーボン
量のオーダーがCeの 1モルに対して10モル程度であるこ
とを示している。従って、原料が分解して最初に基板に
吸着するのは、 dpm配位子が 2個はずれた Ce(dpm)(=C
11H 19O 2 Ce)であると考えられる。
【0097】さらに色々な条件で多数の実験を重ねた結
果、(A)基板上でのCeのβ- ジケトン錯体の分子供給
密度に対する活性酸素の供給密度の比が10倍以上の場合
に、エピタキシャル成長した結晶性のよい CeO2 膜が得
られ、(C)Ceのβ- ジケトン錯体の分子供給密度に対
する活性酸素供給密度の比が 4倍未満の場合に、導電性
を有する非晶質または微結晶の集合した多結晶体からな
るCe-C-O膜が得られ、(B)(A)と(C)の間の領域
では、結晶性が悪く酸やイオンビームでエッチングされ
易い CeO2 膜が得られることが分かった。この理由は以
下のように考えられる。ノズルから出た Ce(dpm)3 分子
は他の分子とほとんど衝突することなく基板に到達し、
加熱した基板で分子が暖められる。 O2 分子の存在下で
Ce(dpm)3 分子が 300℃以上に加熱されると直ぐに配位
子が脱離することから、比較的安全な Ce(dpm)の形でま
ず基板に吸着する。このまま膜成長を続けると、 (dpm)
に含まれる Cの一部が膜中に取り込まれたままになる。
同時に、 (dpm)に含まれるHのために、酸化しきらないC
eが膜中に残る。この状態が(C)である。
【0098】以下では、図8を参照しながら Ce(dpm)の
1分子について考察する。 (dpm)の中にはCeに隣接し
て、 2つの C-O結合と 2つの C-C結合の合計 4つの結合
が共役した結合を成している。ここに 4つの酸素ラジカ
ルがくると、ラジカル反応により共役した結合が切れ
る。従って、膜中に取り込まれるカーボン量が激減す
る。しかしながら、この状態ではまだ (dpm)に含まれる
全てのカーボンを燃焼したわけではないので、膜中には
1at%未満のカーボンが残る。その結果、 CeO2 は形成さ
れるものの、その結晶性は悪くエピタキシャル成長しな
い。この状態が(B)であり、結晶性が悪いことから酸
やイオンビームによってエッチングされ易い薄膜が得ら
れる。11個の酸素ラジカルがくると、 (dpm)に含まれる
11個のカーボン全てとラジカル反応を起こすことがで
き、ほとんど全てのカーボンが気相中に逃げ、膜中には
残らない。その結果、結晶性のよい CeO2 膜がエピタキ
シャル成長する。その状態が(A)である。
【0099】実施例2 次に、基板上でのCeのβ- ジケトン錯体の分子供給密度
に対する活性酸素の供給密度の比を空間的に変えた実施
例について述べる。その有効性を調べるために、まず基
板付近での各気体分子の平均自由行程を調べる。気体X
とXよりも非常に少量の気体Yがある場合のそれぞれの
平均自由行程λX 、λY は、それぞれ以下の式で表され
る。
【0100】
【数6】
【数7】 今、Xが O2 で、Yが Ce(dpm)3 と考え、 O2 分子の直
径dX =3.7×10-10 m、 Ce(dpm)3 の実験直径dY =1×1
0-9m 、実施例1で用いた基板周辺での酸素分布密度n
X =4.5〜14×1017m -3、実施例1で用いた有機金属分子
線強度から求めた基板周辺での Ce(dpm)3 の分子密度n
Y =6.4〜23×1014m -3、 O2 の分子量MX =32 、 Ce(dp
m)3 の分子量MY =689.9を代入する。結果として、酸素
電子の平均自由行程λX = 1200〜3700mm、 Ce(dpm)3
子の平均自由行程λY =100〜 320mmが得られる。λX
活性酸素源と基板の距離(実施例1の場合は 123mm)よ
りも十分長い。λY はガスソースノズルと基板の距離
(実施例1の場合は49mm)よりも十分長い。従って、こ
の実施例においては、 O2 分子も活性酸素も有機金属分
子もノズル穴から成膜室に出た後は、他の分子とほとん
ど衝突することなく、まっすぐに基板に到達する。よっ
て、以下に述べる有機金属錯体の分子供給密度に対する
活性酸素の供給密度の比を空間的に変える手法が非常に
有効に働く。
【0101】従来例に述べた、 S.J.Durayらの成膜法や
K.Kanehoriらの成膜法の場合、成膜室の酸素圧力は 1.3
×10-2〜 1.3Paと高かった。この圧力を用いて、他の条
件は上記と同じで平均自由行程を求めると、酸素分子の
平均自由行程が 5.1〜 510mm、有機金属錯体の平均自由
行程が0.44〜44mmとかなり短くなり、成膜室内での分子
同士の衝突が頻繁に起こって直進性が保たれない。従っ
て、これら従来例では分子供給密度の比を空間的に変え
る方法は有効に働かない。
【0102】図29にECRプラズマ活性酸素源を用い
た場合の例を示す。厚さ 1mmのステンレス板でマイクロ
波ストリップライン用のマスク67を作製し、このマス
ク67を活性酸素源(ECRガン58)と基板60との
間に設置した。なるべく平行な活性酸素ビームを得るた
めに、活性酸素源の出口は半径に対して20倍以上長い円
筒状の穴を多数並べたノズルとした。実施例1と同様の
条件で薄膜を作製したところ、マスク67の穴に対応し
た基板60上には(A)結晶性のよい CeO2 エピタキシ
ャル膜が得られた。マスクに遮られた基板60上では活
性酸素があたらず、 O2 分子が漂っていただけであるた
めに、(C)Ceと Cと Oを主成分とした導電性を有する
膜が得られ、その膜表面は荒れていた。
【0103】さらに、マスク67を用いて上記と同様の
成膜を行った後、マスク67を移動し、真空を破らずに
連続してクヌーセン・セル52、53、54、55、5
6を用いて、(Pb2 Cu)Sr2 (Dy,Ca)Cu2 O 8+δ超電導
体膜を堆積した。その結果、例えば図3に示したマイク
ロ波受動素子を作製することができた。超電導体膜はYB
a2 Cu3 O 7-δでもよい。
【0104】図30に、細く絞ったオゾンビームで基板
上をスキャンした例を示す。前述した純オゾン源を用
い、オゾンビームノズル68は直径 0.1mmのオリフィス
の実効的な長さが 5mm以上となるように作製した。この
オゾンビームノズル68は、フレキシブルチューブの先
端に設けられている。オゾンビームノズル68の方向
は、予め決めたプログラムにより、モータ駆動で成膜中
は自動的に方向が変わるようにした。このオゾンビーム
ノズル68から照射されるオゾンビームで、基板60上
をスキャンしたところ、一定時間(例えば 1分)内の平
均値として有機金属錯体の分子供給密度に対するオゾン
供給密度の比が20倍になった場所には、(A)結晶性の
よい CeO2 膜がエピタキシャル成長し、有機金属錯体の
分子供給密度に対するオゾン供給密度の比が 6倍になっ
た場所には、(B)結晶性が悪くエッチングされ易い C
eO2 膜が形成された。さらに、一定時間(例えば 1分)
内の平均値として有機金属錯体の分子供給密度に対する
オゾン供給密度の比が 2倍になった場所には、Ce-C-O抵
抗膜となった。こうして、図2中の分離用絶縁層23と
抵抗膜24とを有する薄膜層26を作製することができ
た。
【0105】なお、微細なパターニングを行う場合に
は、以下の方法を適用することが望ましい。すなわち、
集束イオンビーム装置(FIB)を用いて、有機金属錯
体の分子供給密度に対する活性酸素供給密度の比を空間
的に変えれば、サブミクロン寸法までの微細なパターニ
ングを、本発明の方法により簡便に行うことができる。 実施例3 シリコンデバイス用に高誘電率材料を成膜した例につい
て述べる。図7に示した成膜装置において、クヌーセン
セルからSrとBaを蒸発させると共に、有機金属ガスソー
ス源64には Ti(dpm)4 原料を入れ、熱酸化膜付きSi基
板上にBa0.5 Sr0.5 TiO 3 を作製した。その際に、活性
酸素を照射しながら 600℃に加熱した基板上に、Srのみ
を約 5原子層分堆積してからTiのβ- ジケトン錯体とBa
とSrとを基板に堆積することによって、ペロブスカイト
構造を持つBa0.5 Sr0.5 TiO 3 を熱酸化膜付きSi基板上
にエピタキシャル成長させることができた。
【0106】実施例2で述べた金属マスクを用い、基板
へのβ- ジケトン錯体の分子供給密度に対する活性酸素
の供給密度の比を10倍以上とした部分(A)と、マスク
で活性酸素が遮られて約 6倍である部分(B)とを作っ
た。その結果、(A)では結晶性のよいBa0.5 Sr0.5 Ti
O 3 がエピタキシャルに成長し、(B)の部分では結晶
性の悪いBa0.5 Sr0.5 TiO 3-δ多結晶体が成長した。
(B)の部分では膜中にカーボンが 0.01at%以上混入
し、かつTiの平均価数は3.99〜 3.7であった。この薄膜
試料を塩酸でエッチングした結果、(B)の部分のみエ
ッチングされ、(A)の部分と基板はエッチングされな
かった。すなわち、パターニングされた結晶性のよいBa
0.5 Sr0.5 TiO 3 膜が得られた。
【0107】また、上記の方法で堆積した薄膜試料を、
Ar85%-CF4 15% のガスを用いてプラズマエッチングした
結果、エッチング機構は化学エッチングよりはイオンに
よるスパッタエッチングが主であった。結晶性が悪く多
結晶体であった(B)の部分のエッチング速度は、結晶
性がよくエピタキシャル成長した(A)に比べて20倍以
上大きかった。また、(B)の部分のエッチング速度
は、 SiO2 に比べて30倍以上大きかった。従って、エッ
チング後はSi基板上にメタルマスクの穴の形状に従った
高誘電率薄膜Ba0.5 Sr0.5 TiO 3 が残った。
【0108】上述したように、この実施例によれば、レ
ジストの塗布・露光・現像工程を行うことなく、パター
ニングが容易にできる誘電体膜が得られた。上記の例で
はBa0.5 Sr0.5 TiO 3 単一層薄膜の例を述べたが、他に
本発明のMOMBE法が原子層毎の積層を行いやすい利
点を生かして、薄くとも誘電率が低下しないSrTi O3[4u
nit]/ BaTiO3 [4unit] や (Sr0.3 Ba0.7 )TiO3 [4unit]
/ (Ca0.52Sr0.47)TiO3 [4unit] の歪み超格子(全膜厚
10nm)について作製した。シャッタ制御して分子層毎に
堆積しながら細く絞ったオゾンビームで基板をスキャン
して、(A)結晶性のよいエピタキシャル成長した部分
と(B)結晶性の悪い多結晶体の部分とを同一薄膜層内
に作製した。Arイオンミリングを行った結果、(B)の
部分のエッチング速度は(A)に比べて20倍以上速かっ
た。このように、本発明の方法は種々の誘電体物質に適
用し得るものである。
【0109】実施例4 次に、酸化物磁性体薄膜の実施例について述べる。図9
と同様の有機金属ガスソース源を 3つMBE装置に装着
し、それぞれに原料として La(dpm)3 、Sr(dpm)2 、 M
n(dpm)3 を入れた。 3個のノズルから基板に向けて有機
金属分子を供給し、同時に活性酸素を供給して、ペロブ
スカイト型の結晶構造を持つLa1-x SrxMnO 3 薄膜を作
製した。基板にはMgO(100)面を用い、成膜中は 650℃に
加熱した。膜厚 200nmのLa0.825 Sr0.175 MnO 3 試料に
6Tの磁場をかけて磁気抵抗効果を測定したところ、 280
K で 80%の負の磁気抵抗が得られた。
【0110】この巨大磁気抵抗効果は高密度磁気ディス
ク用の読出しヘッドへの応用が期待されるが、そのため
には薄膜を数ミクロンの大きさにパターニングしなけれ
ばならない。ここで、ヘッド形状の例を図31に示す。
図31において、69は MgO基板であり、この MgO基板
69上には所定形状にパターニングされた磁性体薄膜ヘ
ッド70が多数形成されている。また、磁性体薄膜70
上には、図32に示すように、電極膜71が形成され
る。
【0111】上述したようなヘッドの製造工程において
は、20×20mmの MgO基板69上に堆積した磁性体薄膜か
ら多数のヘッド70をパターニングして切り出す必要が
ある。従来は、ペロブスカイト型磁性体薄膜のエッチン
グにおいて、 MgO基板との選択性が得にくいことから、
このパターニング工程は極めて困難であった。また、複
雑なリソグラフィー工程とパターニング工程で膜の磁気
特性が変化するという問題があった。
【0112】この実施例においては、有機金属化合物の
分子供給密度に対する活性酸素の供給密度の比が10倍以
上である部分(A)と、約 5倍である部分(B)とを作
った。Arイオンミリングを行った結果、(B)の部分の
エッチング速度は(A)に比べて30倍以上速かった。そ
の結果、図31に示した MgO基板69上の磁性体薄膜ヘ
ッド70のパターンを、レジストの塗布・露光・現像工
程を行うことなく、Arイオンミリングだけで作製するこ
とができた。これは単純な工程のために、磁気特性の変
化も無かった。有機金属錯体の分子供給密度に対する活
性酸素の供給密度の比が 4倍未満である部分(C)を作
製すると、膜中にカーボンを1at%以上含み、磁気抵抗効
果の無い抵抗性薄膜が得られた。この部分は、磁場に依
存しないシャント抵抗としての機能を持たせることがで
きる。
【0113】磁性体薄膜としては、遷移金属元素を主要
な元素として含んだペロブスカイト型酸化物が望まし
い。中でも、特に(La,A)BO3-δや(Pr,A)BO3-δ(AはCa、
Sr、BaおよびPbから選ばれる少なくとも 1種の元素、 B
はMnおよびCoから選ばれる少なくとも 1種の元素)が磁
気抵抗効果が大きいことから望ましい。
【0114】以上、本発明の実施例について詳述した
が、次にMOMBE法により平坦な酸化物薄膜を形成し
た参考例について述べる。
【0115】まず、図7に示したMBE装置を用いて、
積層型ジョセフソン接合を作製した例について述べる。
SrTiO3 (100)基板を 700℃に加熱し、100WのECR放
電により活性化した酸素ガスを 3.3sccm供給しながら薄
膜成長を行った。その際の成膜室51内の酸素圧力は、
イオンゲージ61で測定して 5.2×10-3Paであった。Pb
を入れたクヌーセン・セル52は 650℃に、Srを入れた
クヌーセン・セル53は 477℃に、Caを入れたクヌーセ
ン・セル54は 525℃に、Dyを入れたクヌーセン・セル
55は 980℃に、Cuを入れたクヌーセン・セル56は10
51℃とした。Sr、Ca、DyおよびCuはいずれも30秒で 1原
子層堆積する蒸発速度である。ガスソース源64の原料
容器641には Ce(dpm)3 を入れて 183℃に保持した。
この温度では 1分で 1原子層堆積する。
【0116】最初に、下部電極として (Pb2 Cu)Sr2 (D
y,Ca)Cu2 O 8+δ超電導体膜を堆積した。まず、基板上
にSrを 2原子層分堆積し、その後 1元素毎に Cu(30se
c)、Dy(15sec) 、 Ca(15sec)、 Cu(30sec)、 Sr(30se
c)、 Pb(45sec)、 Cu(30sec)、Pb(45sec) 、 Sr(30sec)
の順に 2単位胞分堆積した。これが成長初期過程で不純
物相をださずに層状成長させるために必要である。次
に、 Cu(30sec)、 Dy(15sec)、 Ca(15sec)、 Cu(30se
c)、Sr+Pb(30sec)、Pb(7.5sec)、Pb+Cu(15sec)、Pb(7.5
sec)、Pb+Sr(30sec)の順で18単位胞分堆積した。ここ
で、PbをSrやCuと同時に蒸着することによって、膜中へ
のPbの取込み率を上げることができる。また、[SrO-PbO
-Cu-PbO-SrO]のcharge reservoir block layerに含まれ
るCuを化学量論組成の約半分だけ蒸着することにより、
このブロック成長時の成長表面でのCu2 O の析出が抑制
され、層状成長しやすくなることが分かった。この効果
は特に成膜室の酸素分圧が 5.2×10-3Paと高い場合に有
効であり、成膜室の酸素分圧が 1.7×10-3Paと低い場合
にはCuを化学量論組成だけ堆積しても層状成長できる。
【0117】次に、中間層物質を堆積した。中間層物質
は多重蛍石型ブロックを含む層状銅酸化物(化学式:
(Pb2 Cu)Sr2 (Dy,Ce)7 Cu2 O 8+δ)である。これを
1単位胞分堆積すると、その中央に位置する多重蛍石型
ブロックが理想的な絶縁層となり、多重蛍石型ブロック
の上下に隣接して位置する CuO2 面から CuO2 面へクー
パー対がトンネルするS/I/S型ジョセフソン接合に
なる。上記のシャッターシークエンスの後に、Cu(30se
c:CuO2 面に相当)、 Dy(15sec)を堆積した。その後、
有機金属ガスソースを用いて CeO2 を 6層分堆積した。
その後に Dy(15sec)、Cu(30sec:CuO2 面に相当)、Sr+P
b(30sec)、Pb(7.5sec)、Pb+Cu(15sec)、 Pb(7.5sec) 、
Pb+Sr(30sec)を堆積した。
【0118】次に、上部電極として(Pb2 Cu)Sr2 (Dy,
Ca)Cu2 O 8+δ超電導体膜を堆積した。具体的には、 C
u(30sec)、 Dy(15sec)、 Ca(15sec)、 Cu(30sec)、Sr+P
b(30sec)、Pb(7.5sec)、Pb+Cu(15sec)、Pb(7.5sec)、Pb
+Sr(30sec)の順で20単位胞分堆積した。以上の薄膜成長
の結果、積層型のジョセフソン接合を得た。すなわち本
発明におけるMOMBE法は、クヌーセン・セルからの
蒸発も同時使用できるた、複合酸化物を積層した電子素
子の作製に適している。
【0119】この積層接合の作製過程をRHEEDで詳
細に観察した結果、有機金属ガスソースを用いて CeO2
を 6層分堆積する間に、成長表面の平坦性が若干損われ
ることが分かった。中間層物質の堆積において、有機金
属ガスソースを用いて CeO2を 6層分堆積するところを
試しに12層分堆積してみると、10層目以降でRHEED
パターンがスポット状({111}ファセットができたことを
示す)やリング状(多結晶状態になったことを示す)に
変化していくことが分かった。その前駆現象として、 C
eO2 を 6層分堆積する間にも少しずつ表面平坦性が損わ
れていくことが分かった。そこで、ガスソースからのCe
堆積とクヌーセン・セルからのDy堆積を同時に行い、Ce
0.8 Dy0.2 O y を 7層分堆積するように変更したとこ
ろ、層状成長し易くなった。Dyの代わりにPb、Cu、Euを
用いても同様な効果があった。その理由は実施例1に述
べた通りである。
【0120】平坦に成長させてS/I/S型接合を得る
ためは、中間層物質堆積のシャッターシークエンスを、
Cu(30sec:CuO2 面に相当)、有機金属ガスソースとクヌ
ーセン・セルを同時に用いてCe0.8 Dy0.2 O y を 7層分
堆積、Cu(30sec:CuO2 面に相当)、Sr+Pb(30sec)、Pb
(7.5sec)、Pb+Cu(15sec)、Pb(7.5sec)、Pb+Sr(30sec)と
することが有効であることが分かった。この積層接合は
上下対称であり、次の積層構造を持つ。中央に絶縁層と
なる多重蛍石型ブロック(厚さ 1.7nm)があり、その上
下に隣接して位置する CeO2 面から CeO2 面へクーパー
対がトンネルする。その外側に[SrO-PbO-Cu-PbO-SrO]の
charge reservoir block layerがあり、その外側にその
ブロック層を共有する形で(Pb2 Cu)Sr2 (Dy,Ca)7 Cu
2 O 8+δ超電導体が上下の電極として存在している。
【0121】次に、原子層レベルで平坦な CeO2 薄膜を
SrTiO3 基板の (100)面上に作製した例について述べ
る。 CeO2 はS/I/S型接合の絶縁層として用いられ
るほか、薄膜と基板との間の緩衝材、超電導配線とグラ
ンドプレーンとの間の絶縁材等として用いられる。
【0122】この実施例は基板温度 700℃で実施した。
有機金属ガスソースを用いて、 CeO2 薄膜を 0.3nm/min
の成長速度で 3.6nm堆積した。その成膜条件は、原料加
熱オーブン温度を 184℃とし、酸素ガスを4.16cm3 /min
の流量で流し、ECR放電により活性化させて基板に照
射しつつ成膜した。
【0123】CeO2 の成長が終了した状態でのRHEE
D回折図形を図33(a)に示す。CeO2 が島状成長し
たことを示す三角格子状の透過スポットが得られた。 C
eO2の最安定な表面は {111}面であるため、 SrTiO3 (10
0) 面上へエピタキシャル成長させた場合、 {111}ファ
セットを最表面とする島状成長が起こる。
【0124】島状成長した CeO2 薄膜を平坦化するため
には、結晶表面にCe以外の元素を付着させ、最安定な結
晶表面を {111}面から {100}面に変化させることが有効
である。そのため、 CeO2 の成長が終了した後、Pbある
いはCu、Eu、Dy等のCe以外の元素を表面に付着させ、そ
の後 300〜 650℃まで、望ましくは 500〜 600℃まで基
板温度を降下させて保持し、成長温度より低温でアニー
ルを行った。その結果、図33(b)に示すように、R
HEEDの回折図形はスポットが弱くなり、ストリーク
状に変化した。これは、表面に付着させたPb、Cu、Eu、
Dy等のCe以外の元素が CeO2 結晶の表面付近に拡散し、
その結果 {111}面が最安定な表面でなくなった結果であ
る。低温でアニールすることで酸素欠陥を減少させ、 C
eO2 の結晶構造である蛍石構造を安定化させることがで
きる。表面に付着させたCe以外の異種元素は、 CeO2
晶の表面近傍に固溶した状態で存在している。
【0125】なお、 CeO2 を堆積中にPbあるいはCu、E
u、Dy等のCe以外の元素を供給しても、表面が平坦な薄
膜を作製することができるが、絶縁層として CeO2 を用
いる場合、異種元素の混合により導体化し易いため、上
述したように表面層のみに異種元素を固溶させる方法が
有利である。
【0126】次に、Ceを含む平坦な絶縁層を作製する他
の具体例について述べる。
【0127】まず、下部電極として (Pb2 Cu)Sr2 (Eu,
Ca)Cu2 O 8+δ超電導体膜を基板温度 700℃で堆積し
た。この方法は実施例5に記載した方法と同様である。
次いで、中間層物質として (Pb2 Cu)Sr2 (Eu,Ce)7 Cu
2 O 8+δを堆積した。具体的には基板温度 700℃におい
て、Cu(30sec:CuO2 面に相当)、 Eu(15sec)、を堆積し
た後、有機金属ガスソースを用いて CeO2 を 6層分堆積
した。次に、 Eu(15sec)、Cu(30sec:CuO2 面に相当)を
堆積し、その後 300〜 650℃まで、望ましくは500〜 60
0℃まで基板温度を降下させ、その温度で30分間保持し
て低温アニールを行った。その間に実施例6に示した原
理により CeO2 が平坦化していく。
【0128】この後、上部電極を作製するために、基板
温度を下部電極を成長させた温度より低い 650℃にす
る。もし、基板温度を下部電極を堆積した 700℃まで上
昇させると最表面の酸素が脱離し、最表面に固溶してい
る異種元素であるEu、Cuが析出しはじめ、再び CeO2 {1
11} ファセットを表面とする結晶粒が成長し、表面の凹
凸が著しくなる。基板温度が 650℃に達した後、速やか
にSr+Pb(30sec)、Pb(7.5sec)、Pb+Cu(15sec)、Pb(7.5se
c)、Pb+Sr(30sec)を堆積させる。
【0129】しかる後、基板温度を下部電極を形成した
700℃まで上昇させる。中間層物質が 1単位胞分成長し
た後は、基板温度を上昇させても、もはや CeO2 {111}
ファセットを表面にもつ結晶粒は成長しない。その上に
(Pb2 Cu)Sr2 (Eu,Ca)Cu2O 8+δ超電導体膜を堆積す
ることによって、上部電極を層状成長させながら、S/
I/S型接合を作製することができる。なお、Euの代わ
りに他の希土類元素のDyを用いても同様な結晶成長が行
われる。
【0130】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の製造方法
によれば、 1度の成膜で同一薄膜層内に、例えば(A)
結晶性のよいエピタキシャル成長させた酸化物薄膜、
(B)結晶性が悪くエッチングされやすい酸化物薄膜、
(C) 10at%以上のカーボンを含む導電性を有する薄膜
等の電気特性や結晶性が異なる 2種以上の薄膜を任意の
平面形状で作り込むことができる。その結果、ジョセフ
ソン集積回路や受動マイクロ波素子等の超電導素子、誘
電体薄膜を用いた半導体素子、磁気抵抗素子等の酸化物
薄膜素子の製造工程におけるリソグラフィ工程を簡略化
でき、効率よく酸化物薄膜素子を作製することが可能と
なると共に、リソグラフィ工程での超電導特性や磁気特
性等の特性の劣化を防ぐことが可能となる。また、本発
明の超電導素子によれば、コンタクトホール周囲の超電
導電極等の超電導特性の劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の製造方法による性質が異なる 3種類
の薄膜ができる条件を表す図である。
【図2】 本発明の製造方法を適用して作製した一実施
例のジョセフソン集積回路の構造を示す断面図である。
【図3】 本発明の製造方法を適用して作製した他の実
施例による受動マイクロ波素子の構造を示す断面図であ
る。
【図4】 本発明の製造方法を適用した他の受動マイク
ロ波素子の製造工程を示す図である。
【図5】 本発明の製造方法を適用して作製したさらに
他の実施例による受動マイクロ波素子の構造を示す図で
ある。
【図6】 本発明の製造方法を適用したbi-epitaxialジ
ョセフソン接合の製造工程を示す図である。
【図7】 本発明の実施例で使用したMBE装置の構成
を示す図である。
【図8】 本発明の実施例で用いた有機金属原料の一例
の構造式である。
【図9】 図7に示すMBE装置の有機金属ガスソース
源付近を詳細に示す図である。
【図10】 本発明の実施例1におけるガスソースノズ
ルと基板との位置関係を示す図である。
【図11】 本発明の実施例1における基板上での CeO
2 堆積速度分布を示す図である。
【図12】 本発明の実施例1における有機金属ガス供
給速度と CeO2 堆積速度の原料温度依存性を示す図であ
る。
【図13】 本発明の実施例1における CeO2 堆積速度
の基板温度依存性を示す図である。
【図14】 本発明の実施例1における薄膜のX線回折
強度の基板温度依存性を示す図である。
【図15】 本発明の実施例1による薄膜のX線回折図
形の一例を示す図である。
【図16】 本発明の実施例1による薄膜のX線回折図
形の他の例を示す図である。
【図17】 本発明の実施例1による薄膜のX線回折図
形のさらに他の例を示す図である。
【図18】 本発明の実施例1による薄膜のRHEED
回折図形を示す写真である。
【図19】 本発明の実施例1におけるエピタキシャル
成長させるための酸素流量および有機金属ガス供給速度
の条件を示す図である。
【図20】 本発明の実施例1による薄膜のX線回折結
果を示す図である。
【図21】 本発明の実施例1の他の条件による薄膜の
X線回折結果を示す図である。
【図22】 本発明の実施例1による薄膜のSIMSに
よる分析結果を示す図である。
【図23】 本発明の実施例1による他の薄膜のSIM
Sによる分析結果を示す図である。
【図24】 本発明の実施例1による薄膜のオージェ電
子分光による分析結果を示す図である。
【図25】 本発明の実施例1における参照試料薄膜の
XPSによる分析結果を示す図である。
【図26】 本発明の実施例1による薄膜のXPSによ
る分析結果を示す図である。
【図27】 本発明の実施例1による薄膜表面のSEM
像を示す写真である。
【図28】 本発明の実施例1による薄膜表面のFES
EM像を示す写真である。
【図29】 本発明の実施例2における有機金属化合物
の分子供給密度に対する活性酸素の供給密度の比を空間
的に変える装置の一構成例を示す図である。
【図30】 本発明の実施例2における有機金属化合物
の分子供給密度に対する活性酸素の供給密度の比を空間
的に変える装置の他の構成例を示す図である。
【図31】 本発明の実施例4による磁気ディスク用読
出しヘッドの要部構成を示す図である。
【図32】 図31に示す磁気ディスク用読出しヘッド
の磁性体薄膜ヘッド部分を拡大して示す斜視図である。
【図33】 参考例による薄膜のRHEED回折図形を
示す写真である。
【図34】 従来のジョセフソン集積回路の一構造例を
示す断面図である。
【図35】 従来の受動マイクロ波素子の一構造例を示
す図である。
【図36】 従来のbi-epitaxialジョセフソン接合の製
造工程を示す断面図である。
【符号の説明】
21、31、46……基板 22、27、29……超電導層 23……分離用絶縁層 24……抵抗膜 25……コンタクトホール 26、34、35、38…… 1度の成膜で形成された薄
膜層 30……ジョセフソン接合 32、39、48……結晶性のよいエピタキシャルした
絶縁層 33…… Cを含有する導電層 40、49……結晶性が悪く酸に溶け易い絶縁層 41、43、44、50……超電導特性を示す酸化物超
電導体膜 42……超電導特性を示さない部分

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 真空槽内で、有機金属化合物と活性酸素
    とを基板に供給して酸化物薄膜を作製する工程を有する
    酸化物薄膜素子の製造方法において、 前記酸化物薄膜の作製工程で、前記基板上における前記
    有機金属化合物の分子供給密度と前記活性酸素の供給密
    度との比を空間的に変えることを特徴とする酸化物薄膜
    素子の製造方法。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の酸化物薄膜素子の製造方
    法において、 前記酸化物薄膜の作製工程で、結晶性がよくエピタキシ
    ャル成長した酸化物薄膜、結晶性が悪くエッチングされ
    易い酸化物薄膜、およびカーボンを 10at%以上含む導電
    性を有する薄膜から選ばれる 2種以上の部分を有する薄
    膜を作製することを特徴とする酸化物薄膜素子の製造方
    法。
  3. 【請求項3】 真空槽内で、Ceのβ- ジケトン錯体と活
    性酸素とを基板に供給してCeの酸化物薄膜を作製する工
    程と、前記Ceの酸化物薄膜上に超電導体薄膜を積層形成
    する工程とを有する超電導素子の製造方法において、 前記Ceの酸化物薄膜の作製工程で、前記基板上における
    前記Ceのβ- ジケトン錯体の分子供給密度と前記活性酸
    素の供給密度との比を空間的に変えることを特徴とする
    超電導素子の製造方法。
  4. 【請求項4】 請求項3記載の超電導素子の製造方法に
    おいて、 前記Ceの酸化物薄膜の作製工程で、結晶性がよくエピタ
    キシャル成長した CeO2 絶縁膜、結晶性が悪くエッチン
    グされ易い CeO2 絶縁膜、および導電性を有するCeと C
    と Oとを主成分とする薄膜から選ばれる 2種以上の部分
    を有する薄膜を作製することを特徴とする超電導素子の
    製造方法。
  5. 【請求項5】 超電導層と、前記超電導層と接して形成
    された絶縁層とを具備する超電導素子において、 前記絶縁層は、Al、Siおよび希土類元素から選ばれる少
    なくとも 1種の元素を含む酸化物結晶からなり、かつ前
    記超電導層と接する前記絶縁層の周辺部に1at%以上の炭
    素が含まれていることを特徴とする超電導素子。
JP7167951A 1995-06-09 1995-06-09 酸化物薄膜素子の製造方法、超電導素子の製造方法および超電導素子 Withdrawn JPH08340136A (ja)

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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2001223410A (ja) * 2000-02-04 2001-08-17 Lucent Technol Inc 音響共振デバイス用の分離方法
JP2015052561A (ja) * 2013-09-09 2015-03-19 富士通株式会社 二次イオン質量分析装置
JP2017500756A (ja) * 2013-11-12 2017-01-05 ヴァリアン セミコンダクター イクイップメント アソシエイツ インコーポレイテッド 集積超伝導体デバイス及びその製造方法

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