JPH09329147A - 耐水性長寿命転がり軸受 - Google Patents

耐水性長寿命転がり軸受

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JPH09329147A
JPH09329147A JP8204545A JP20454596A JPH09329147A JP H09329147 A JPH09329147 A JP H09329147A JP 8204545 A JP8204545 A JP 8204545A JP 20454596 A JP20454596 A JP 20454596A JP H09329147 A JPH09329147 A JP H09329147A
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洋一 松本
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朋伸 吉川
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Abstract

(57)【要約】 【課題】転がり軸受の耐久寿命は、潤滑剤中に100p
pm程度の微量水分が混入しても耐久寿命が32〜48
%も低下する。従来のシールによる防水対策では完全と
はいえない。 【解決手段】内輪,外輪及び転動体の各構成部品の少な
くとも一つの部品を、Cu;0.05〜0.60重量
%,C;0.10〜1.10重量%を必須成分として含
有し、さらにNb又はV;0.2重量%以下を含む合金
鋼により形成した。当該合金鋼は、鋼表面での水素発生
量を減少させ、さらに水素の透過し難い被膜を形成して
鋼中へ侵入する水素量を低減することにより水素脆性フ
レーキングの発生を遅延させる機能を有し、これにより
潤滑剤中に水が混入する環境下で長寿命を有する耐水性
転がり軸受が得られる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐水性長寿命転が
り軸受に係り、特に軸受の潤滑剤中に水が侵入しても優
れた耐久寿命を示し、圧延機用ロールネック軸受や自動
車のエンジン用水ポンプ軸受等として好適な転がり軸受
に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、転がり軸受の耐久寿命は、潤滑
剤中に水分が混入すると低下する。例えば、僅か100
ppmの水が潤滑剤中に混入すると、32〜48%も耐
久寿命が低下する(参考文献;Schatzberg,P.and Felse
n,I.M.:Effects of water andoxygen during rolling c
ontact lubrication,Wear,12(1968),pp.331-342、およ
びSchatzberg,P.and Felsen,I.M.:Influence of water
on fatigue failure lo-cation and surface alteratio
n during rolling contact lubrication,Journalof Lub
rication Technology,ASME Trans.F,91,2(1969),PP.301
-307)。
【0003】したがって、圧延機用ロールネック軸受や
水ポンプ軸受等の水と接触する環境で使用される軸受
は、耐久寿命の低下を防止するために、水が入らないよ
うな密封対策が施される。例えば、圧延機用ロールネッ
ク軸受用の密封対策として、特公昭55−22648号
に、例えばオイルシールのような接触型シールで軸受の
両端部を封止した構造のものが開示されている。また、
特開昭59−223103号には、屈曲した狭い僅かの
すき間を有する非接触型シールにより軸受の両端部を封
止した構造のものが開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前記公報開示の技術に
おける軸受密封対策は、従来のものに比べれば密封性は
向上しているものの、軸受の耐久寿命という観点からみ
るとまだまだ不十分である。すなわち、接触型シールを
もつ軸受においては、軸受温度が低下する際の軸受内空
気の収縮により外部の水分が吸引されてしまい、シール
があっても水の侵入を完全には防止できない。一方、非
接触型シールをもつ軸受においては、シールのすき間か
ら水が侵入してしまうという問題点が依然として残って
いる。
【0005】先に述べたように、潤滑剤中に混入した僅
か100ppmの水が軸受の耐久寿命低下に大きく影響
するのであるから、水の混入を皆無にしない限りシール
の効果は無いと言える。
【0006】しかるに、従来は、なぜ水がこれほど大き
く転がり耐久寿命を低下させるのかという理由はわから
なかった(例えば、文献;Ioannides,E. and Jacobson,
B. :Dirtylubricants-reduced bearing life,Ball Bear
ing Journal,special '89(1989),pp.22-27) ので、材料
学的な観点からの根本的な寿命延長策をとることが出来
ず、もっぱら密封シールの性能向上により水の侵入を防
ごうとする対症療法的な不十分な対策しかとれなかった
のである。
【0007】本発明は、このような従来技術の問題点に
着目してなされたものであり、主に鋼表面での水素発生
量を減少させ、さらに水素の透過し難い被膜を形成して
鋼中へ侵入する水素量を低減せしめ水素脆性フレーキン
グの発生を遅延させる優れた機能を有する材料を用いる
ことにより、潤滑剤中に水が混入する環境下でも寿命の
長い耐水性長寿命転がり軸受を提供することを目的とす
る。
【0008】
【課題を解決するための手段】本願発明者らは、先ず転
がり軸受の転がり疲れへの水の影響について研究し、次
のような機構を明らかにした。 (1)腐食反応によって発生する水素が、軸受の軌道面
の旧オーステナイト結晶粒界より原子状態で侵入して粒
界を拡散していき、旧オーステナイト結晶粒界と交差す
る非金属介在物と素地材料間の空隙で水素分子化すなわ
ちガス化する。 (2)水素ガス量が増加するにつれて空隙内の圧力が高
まり、さらに転動体が当該空隙上を通過することにより
一層圧力が高まったときに、軌道面とほぼ平行に空隙を
押し広げるようにクラックが発生して水素ガスの圧力を
下げる。 (3)しばらくすると、再度水素ガス量が増加してくる
ので再度クラックを進展させ、空隙内の圧力を下げる。 (4)この空隙内圧力上昇とクラックの進展による空隙
内圧力の下降とを繰り返しながらクラックは進展してい
き、最終的にフレーキングを発生する。このようなクラ
ック進展を繰り返すため、フレーキングの破面は起点と
なる酸化物系介在物を中心に年輪状の模様となる。多く
の場合、起点となる非金属介在物はフレーキング発生の
際に脱落してしまうので、その検出は困難である。
【0009】本発明では、軸受のこのようなフレーキン
グを、以下“水素脆性フレーキング”と仮称する。通常
のフレーキングでは、ある一定の大きさ以上の一部の非
金属介在物が早期フレーキングの起点となるのに対し、
水素脆性フレーキングでは全ての無数の非金属介在物が
早期フレーキングの起点となる。いま、無数の非金属介
在物をたとえ半減させたとしても、なお無数の非金属介
在物が存在するのであるから、材料鋼の高清浄度化によ
る軸受の長寿命化は不可能である。
【0010】本願発明者らは以上のように明らかになっ
た機構に基づいて、本願発明をなすに至ったものであ
る。本発明の請求項1に係る転がり軸受は、潤滑剤中に
水が混入する環境下で使用される転がり軸受であって、
内輪,外輪及び転動体の少なくとも一つが、成分組成中
に、0.05〜0.60重量%のCu、及び0.10〜
1.10重量%のCを必須的に含み、かつ、0.2重量
%以下のNb及びVのいずれかを選択的に含む合金鋼に
より形成されることを特徴とする。
【0011】前記合金鋼の好ましい成分組成として、更
に、Si:0.15〜0.50重量%、Mn:0.35
〜1.50重量%、Cr:0.35〜3.5重量%を含
むものとすることができる。
【0012】また、その他の成分組成として、次の元素
を含むものであってもよい。 Mo:1.10重量%以下、Ni:4.5重量%以下、
S:0.008重量%以下、0:0.0015重量%以
下。
【0013】また、 前記合金鋼の好ましい成分組成と
して、P:0.030〜0.150重量%、Al:0.
020〜0.060重量%、N:0.005〜0.01
5重量%をも含むものとすることができる。
【0014】ここで前記合金鋼として、前記成分組成の
材料を真空アーク再溶解法(VAR法)またはエレクト
ロスラグ再溶解法(ESR法)のいずれかの方法を用い
て製鋼したものを用いると、偏析の少ない均一な組織の
鋼が得られるので局所電池をなくし腐食が抑制され、従
って鋼表面での水素発生量を減少させることができて水
素脆性フレーキングの発生を遅延させるのに有効であ
る。
【0015】以下に、本発明に係る耐水性長寿命転がり
軸受に用いる合金鋼組成の成分限定理由を説明する。 [Cu:0.05〜0.60重量%]本発明における合
金鋼の必須元素であるCuは、鋼の腐食を抑制して鋼表
面での水素発生量を減少させ、さらに水素の透過しにく
い被膜を形成して鋼中へ侵入する水素量を低減するの
で、水素脆性フレーキングの発生の遅延には極めて有効
である。但し、その含有量が0.05重量%未満では効
果が無く、一方、0.60重量%を超えると熱間加工性
を低下させる。
【0016】よって、本発明に用いる合金鋼中のCu量
は、0.05重量%以上0.60重量%以下の範囲とす
る。 [C:0.10〜1.10重量%]本発明における合金
鋼の必須元素であるCは、その含有量0.10重量%未
満では浸炭あるいは浸炭窒化処理の時間が長すぎて製造
上の問題を生じる。一方、その含有量が1.10重量%
を超えると軸受の寸法安定性が低下する。
【0017】よって、本発明に用いる合金鋼中のC量
は、0.10重量%以上1.10重量%以下の範囲とす
る。 [Nb又はV:0.20重量%以下]本発明における合
金鋼の選択元素であるNbやVは、旧オーステナイト結
晶粒を微細化させることにより、水素原子の通る結晶粒
界を多くつくるので、水素ガスをより多くの介在物に分
散させることになって水素脆性フレーキングの遅延に有
効である。必ずしも含有しなくてもAl,Nなど同じ機
能を有する他の元素で同様の効果を得ることが可能であ
るが、Nb又はVを含有することで軸受の耐水寿命に関
してより好ましい結果が得られるものである。しかし、
製鋼コストの関係からその上限を0.2重量%とする。
【0018】[P:0.030〜0.150重量%]本
発明における合金鋼中のPは、Cuと同様に鋼の腐食を
抑制して鋼表面での水素発生量を減少させ、さらに水素
の透過しにくい被膜を形成して鋼中へ侵入する水素量を
低減するので、水素脆性フレーキングの発生の遅延には
極めて有効である。但し、その含有量が0.030重量
%未満では効果が無く、一方、0.150重量%を超え
ると鋼材が脆化してしまうので軸受材料として使用しに
くくなる。
【0019】よって、本発明に用いる合金鋼中のP量
は、0.030重量%以上0.150重量%以下の範囲
とする。但し、装置コストの点では上限を0.025重
量%以下とする方が好ましい。
【0020】[Al:0.020〜0.060重量%]
本発明における合金鋼中のAlは、NbやVと同様に、
旧オーステナイト結晶粒を微細化させることにより、水
素原子の通る結晶粒界を多くつくるので、水素ガスをよ
り多くの介在物に分散させることになって水素脆性フレ
ーキングの遅延に有効である。但し、その含有量が0.
020重量%未満では結晶粒微細化に効果がなく、一
方、0.060重量%を超えると当該効果が飽和するの
で製鋼コストが上昇する。
【0021】よって、本発明に用いる合金鋼中のAl量
は、0.20重量%以上0.60重量%以下の範囲とす
る。 [N:0.005〜0.015重量%]本発明における
合金鋼中のNは、Al,NbやVと同様に、旧オーステ
ナイト結晶粒を微細化させることにより、水素原子の通
る結晶粒界を多くつくるので、水素ガスをより多くの介
在物に分散させることになって水素脆性フレーキングの
遅延に有効である。但し、その含有量が0.005重量
%未満では結晶粒微細化に効果がなく、一方、0.01
5重量%を超えると当該効果が飽和するので製鋼コスト
が上昇する。
【0022】よって、本発明に用いる合金鋼中のN量
は、0.005重量%以上0.015重量%以下の範囲
とする。 [Si:0.15〜1.10重量%]本発明における合
金鋼中のSiは、製鋼上脱酸剤として添加するものであ
るが、その含有量が0.15重量%未満では脱酸効果が
なく、一方、1.10重量%を超えると浸炭あるいは浸
炭窒化のむらを生ずるので部分的に十分な硬さが得られ
ない。
【0023】よって、本発明に用いる合金鋼中のSi量
は、0.15重量%以上1.10重量%以下の範囲とす
る。但し、浸炭あるいは浸炭窒化をする際、これらの熱
処理を均一に行い均一な硬さを得るためには0.5重量
%以下とすることが望ましい。
【0024】本発明における合金鋼中のMn,Cr,M
o,Niの各元素は、いずれも鋼の焼入れ性の確保を目
的とした元素であり、その成分量限定理由は次の通りで
ある。
【0025】[Mn:0.35〜1.5重量%]Mnに
ついては、0.35重量%未満では焼入れ性効果が不十
分であり、一方、1.5重量%を超えると偏析による異
常組織が発生して製造中に割れを生じてしまう。
【0026】[Cr:0.35〜3.5重量%]Crに
ついては、0.35重量%未満では焼入れ性効果が不十
分であり、一方、3.5重量%を超えると浸炭あるいは
浸炭窒化のむらを生ずるので部分的に十分な硬さが得ら
れない。
【0027】[Mo]Moについては、含有しなくても
良い。含有した場合にその量が1.10重量%を超える
と、偏析による異常組織が発生して製造中に割れを生じ
てしまう。
【0028】[Ni]Niについても、含有しなくて良
い。含有した場合にその量が4.50重量%を超えると
偏析による異常組織が発生して製造中に割れを生じてし
まう。
【0029】本発明における合金鋼中のS及びOの各元
素は、いずれも不可避的に含まれる有害元素であり、そ
の成分量限定理由は次の通りである。 [S]Sは硫化物系介在物を形成して通常の転がり疲れ
に有害な元素であるから、できるだけ少ないほうが好ま
しいが、製鋼コストの関係から上限を0.008重量%
とする。
【0030】[O]Oは酸化物系介在物を形成して通常
の転がり疲れに有害な元素であるから、できるだけ少な
いほうが好ましいが、製鋼コストの関係から上限を0.
0015重量%とする。
【0031】
【発明の実施の形態】以下、種々の成分組成の合金鋼か
ら作製した本発明軸受と比較軸受とについて実施した寿
命試験により、本発明の実施の形態を説明する。
【0032】試験対象の転がり軸受として、円すいころ
軸受を採用した。当該円すいころ軸受の諸元は次の通り
である。 呼び番号 :HR32017XJ 軸受内径 :85mm 軸受外径 :130mm 組立幅 :29mm 基本動定格荷重:143000N また、各供試軸受の性状は次の通りである。
【0033】 表面硬さ:HRC58〜64 表面残留オーステナイト:20〜45容量% 浸炭処理した軸受:表面炭素濃度0.8〜1.1重量% 浸炭窒化処理した軸受:表面炭素濃度0.8〜1.1重量% 表面窒素濃度0.05〜0.3重量% 寿命試験は、図1に示す寿命試験機を用いて行った。
【0034】図1においてWは被試験体の円すいころ軸
受(ワーク)で、1は内輪、2は外輪、3は円すいこ
ろ、4は保持器である。寿命試験機の回転軸6の一端の
軸受座6aに内輪1を嵌合することによりワークWを装
着し、軸受外輪2は試験機のハウジン7の内輪嵌合部材
8に嵌合して固定する。内輪嵌合部材8の端面には、給
水路9を有するリング状の蓋体10が取り付けられてお
り、その給水路9の出口には噴霧装置11がワークWの
円すいころ3の大端面3aに対向させて取り付けてあ
る。回転軸6には、図示しないラジアル荷重負荷手段に
よってラジアル荷重Fr を加え、これによりワークWに
ラジアル荷重を負荷する。また、内輪嵌合部材8には図
外の油圧シリンダによりアキシャル荷重Fs を加え、こ
れによりワークWにアキシャル荷重を負荷する。
【0035】寿命試験の条件は、第1の実施形態〜第3
の実施形態においては下記の通りである。 ラジアル荷重 :35750N アキシャル荷重:15680N 内輪回転数 :1500rpm 潤滑 :純グリース潤滑または水混入グリース潤滑 純グリース潤滑時のグリース量60g 水混入グリース潤滑時のグリース量60g、水混入量 3cc/時間、但し水は空気と一緒に霧状に軸受に吹 き付ける。
【0036】寿命評価は、先ずワークWの純グリース潤
滑での90%残存寿命(L10)を求め、次いで水混入グ
リース潤滑での90%残存寿命(L10)を求めて、水が
混入することによる寿命減少率を次式(1)により算出
して行った。得られた寿命減少率の低い方が耐水性のあ
る長寿命軸受であると評価できる。
【0037】 〔A〕第1の実施形態 この第1の実施形態では、特に、素材成分中のCuの含
有比率と軸受の耐水寿命とについて検討した。
【0038】各供試軸受の素材成分,製鋼法および熱処
理法を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】表1に示すように、素材成分中のCuの含
有比率について、比較軸受A〜Jは0.05重量%以下
であるのに対し、本発明軸受M〜Yのそれは0.05〜
0.60重量%の範囲とし、両者の間に明確に差をつ
け、Cu元素が軸受の耐水寿命の減少率に及ぼす影響を
検討した。
【0041】耐水寿命試験の結果を表1に併記した。表
1において、本発明軸受M〜Yの寿命減少率は比較軸受
A〜Jのそれに対し特段に減少しており、Cuが水素脆
性フレーキングに対し極めて効果があることがわかる。
水素脆性フレーキングの一例として、比較軸受Aのフレ
ーキングの形状を図2に示した。年輪状のクラック進展
模様をもつ破面が残存しており、水素脆性フレーキング
が起こっていることがわかる。 〔B〕第2の実施形態 この第2の実施形態では、素材成分中にNbまたはVを
含有させた鋼で供試軸受を作製して寿命試験を行い、N
bまたはV元素が寿命減少率に及ぼす影響を検討した。
具体的には、上記第1の実施形態における本発明軸受Q
の成分組成を基にして、これに特に種々の濃度でNbま
たはVを含有させた素材を用いて本発明軸受Q1 〜Q5
を作製し、試験を実施したものである。
【0042】各供試軸受の製造方法や完成軸受の表面硬
さ,表面炭素濃度,表面窒素濃度,表面残留オーステナ
イト濃度は第1の実施形態と同じにした。また、各供試
円すいころ軸受の諸元及び寿命試験方法も第1の実施形
態と同じである。
【0043】各供試軸受Q〜Q5 の素材成分,製鋼法,
旧オーステナイト結晶粒度および寿命試験結果を表2に
示す。
【0044】
【表2】
【0045】ここに、旧オーステナイト結晶粒度とは、
浸炭焼入加熱時のオーステナイト結晶粒径をいい、数値
が大きい程細かいことを意味する。後に焼入(急冷)す
るとマルテンサイトになるが、得られたマルテンサイト
結晶粒は旧オーステナイト結晶粒より大きくなれないの
で、旧オーステナイト結晶粒が小さいほどマルテンサイ
ト結晶粒も小さくなる。
【0046】表2中の各軸受Q〜Q5 は全て本発明軸受
であるが、NbまたはVを添加すると水混入時の寿命低
下が少なくなることがわかる。このようにNbやVは、
旧オーステナイト結晶粒を微細化させることにより水素
原子の通る結晶粒界を多く作るので、水素ガスをより多
くの介在物に分散させることになり、水素脆性フレーキ
ングの遅延に効果を発揮する。 〔C〕第3の実施形態 この第3の実施形態では、素材成分中のCuおよびNb
またはVの含有比率と素材の製鋼法とを種々に変えて作
製した供試体軸受を用いて、製鋼法の違いが軸受の耐水
寿命の減少率に及ぼす総合的な影響を検討した。
【0047】比較軸受の成分組成としては、上記第1の
実施形態における比較軸受C(Cu含有比率0.01重
量%)と、これに0.15重量%のNbを含有させた比
較軸受C1 と、比較軸受Cに0.15重量%のVを含有
させた比較軸受C2 と、比較軸受CのCu量を0.04
重量%とし且つ0.15重量%のVを含有させた比較軸
受C3 を設定した。これに対して、本発明軸受C4 〜C
8 の成分組成は、特に、Cuの含有比率を0.05〜
0.25重量%と比較軸受より多くし、且つNbまたは
Vの含有比率を0〜0.15重量%の範囲で異ならせて
設定した。
【0048】そして、上記成分組成の比較軸受C〜C3
及び本発明軸受C4 〜C8 の素材を、VAR法またはE
SR法のいずれかの製鋼法で溶製した鋼で各供試体軸受
を作製して寿命試験を行った。
【0049】各供試軸受の製造方法や完成軸受の表面硬
さ,表面炭素濃度,表面窒素濃度,表面残留オーステナ
イト濃度は第1の実施形態と同じにした。また、各供試
円すいころ軸受の諸元及び寿命試験方法も第1の実施形
態と同じである。
【0050】各供試軸受C〜C8 の素材成分,製鋼法お
よび寿命試験結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】表3において、本発明軸受C4 〜C8 の寿
命減少率は、比較軸受C〜C3 のそれより特段に減少し
ており、また上記表1に示された本発明軸受M〜Y及び
表2に示された本発明軸受Q〜Q5 よりも相当に減少し
ている。このことから、Cuが0.05重量%以上含ま
れれば、VAR法またはESR法などの製鋼法は水素脆
性フレーキングに対して極めて効果があることがわか
る。これは、それらの再溶解製鋼法により偏析の少ない
均一な組織の鋼が得られるので腐食が抑制され、従って
鋼表面での水素発生量を減少させることができて水素脆
性フレーキングの発生を遅延させるためである。
【0053】図3は、本発明軸受の合金鋼中のCu濃度
に対する寿命減少率をプロットしたものである。このグ
ラフから、Cu濃度0.05重量%を境にして寿命減少
率に格段の相違があることが一目瞭然である。
【0054】また、Nb又はVに関しては、比較軸受C
〜C3 の結果から、Cu量が0.04重量%以下の場合
は、Nb又はVが存在し且つ製鋼法にVAR法またはE
SR法を採用しても水素脆性フレーキングに対する効果
は認められないといえる。更に、本発明軸受C6 〜C8
の結果から、Cu量に差がない場合(0.25重量%)
は、NbまたはVの含有量が多くなるに従い寿命減少率
が少し良くなるといえる。
【0055】なお、比較軸受C1 は、素材の高清浄度化
すなわち低酸素濃度化,低イオウ濃度化することにより
寿命減少率を低下させることを試みたものであるが、水
の存在下では効果が認められなかった。
【0056】ここで、上記各表における素材の製鋼法の
概要は以下の通りである。 電気炉または転炉:電気炉はアーク熱を用い、スクラ
ップを溶解精錬する。転炉は吹き付け酸素と溶鉄中の元
素との反応熱を熱源として所定の温度まで昇温し、同時
に精錬する。両炉の精錬機能は同じで、脱炭,脱リン,
脱ケイ素,脱マンガン,脱硫を行う。取鍋の出鋼時に溶
鋼流中へ合金鉄の添加を行い、最終成分に近い合金成分
とする。
【0057】レードルファーネス(LF):脱酸,脱
硫と合金元素の微調整を行う。 RH脱ガス:脱酸,脱水素と合金元素の微調整を行
う。
【0058】但し、とはASEA−SKF(真空精
錬装置名)またはVAD(真空アーク脱ガス装置)に変
更しても、本発明の効果に影響しない。 造塊または連続鋳造:溶鋼をインゴットケースまたは
連続鋳造機で凝固させる。造塊法でも連続鋳造法でも本
発明の効果に差はない。
【0059】ここで出来たインゴットを材料として次の
再溶解を行う。 VAR(真空アーク再溶解法)又はESR(エレクト
ロスラグ再溶解法):Cu製ルツボ中に非接触の状態で
インゴット材料を投入し、その材料とルツボ間に電圧を
印加しアークの熱で再溶解する。ルツボ内の溶解物の上
部がスラグ(酸化物)となっているものをESR法、ル
ツボ内の溶解物の上部が真空になっているものをVAR
法という。
【0060】続いて、下記第4〜第7の実施形態におい
て行った軸受の寿命試験について説明する。供試円すい
ころ軸受の諸元及び性状,寿命試験機,ラジアル荷重と
アキシャル荷重以外の試験条件及び寿命評価は、前記第
1〜第3の実施形態の場合と略同じである(素材成分に
ついては、TiをNに入れ換えている)。ラジアル荷重
とアキシャル荷重は増大させた。
【0061】 寿命試験条件: ラジアル荷重 :40000N アキシャル荷重:17544N 内輪回転数 :1500rpm 潤滑 :純グリース潤滑または水混入グリース潤滑 純グリース潤滑時のグリース量60g 水混入グリース潤滑時のグリース量60g、水混入量 3cc/時間、但し水は空気と一緒に霧状に軸受に吹 き付ける。
【0062】なお、上記の試験条件で供試軸受の耐水試
験を行うと、外輪の負荷圏の部位が応力腐食条件として
は最も厳しくなり、破損部位は外輪となる。したがっ
て、この耐水寿命試験に供した軸受(ワークW)は、比
較軸受,本発明軸受のいずれも「内輪」と転動体である
「ころ」については、素材の化学成分,製鋼法,熱処理
法を同一にした。即ち「内輪」については次に述べる表
4に符号「C0 」で示す内容、「ころ」については符号
「G0 」で示す内容にそろえた。 〔D〕第4の実施形態 この第4の実施形態では、特に、素材成分中のCu並び
にPの含有比率と軸受の耐水寿命とについて比較検討し
た。
【0063】各供試軸受の素材成分,製鋼法および熱処
理法を表4,表5に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】表4,表5に示すように、素材成分中のC
u並びにPの含有比率について、比較軸受A0 〜L0
Cuの含有比率が0.05重量%以下であるのに対し、
本発明軸受M1 〜Y1 のそれは0.05〜0.60重量
%の範囲とし、一方、Pの含有比率は、比較軸受が0.
015〜0.030重量%の範囲であるのに対し、本発
明軸受が0.030〜0.150重量%の範囲として両
者の間に明確に差をつけ、Cu,Pの両元素が軸受の耐
水寿命の減少率に及ぼす影響を検討した。
【0067】耐水寿命試験の結果を表4,表5に併記し
た。表4,表5において、本発明軸受M1 〜Y1 の寿命
減少率は比較軸受A0 〜L0 のそれに対し特段に減少し
ており、Cu並びにPが水素脆性フレーキングに対し極
めて効果があることがわかる。
【0068】また、図4に軸受の寿命減少率とCu濃度
との関係を示し、図5に軸受の寿命減少率とP濃度との
関係を示した。図4は本発明軸受の合金鋼中のCu濃度
に対する寿命減少率をプロットしたもの、図5は本発明
軸受の合金鋼中のP濃度に対する寿命減少率をプロット
したものであり、これらのグラフから、Cu濃度は0.
05重量%、P濃度は0.030重量%を境にしていず
れも寿命減少率に格段の相違があることが一目瞭然であ
る。
【0069】上記表4,表5及び図4,図5より、水混
入下における本発明軸受の寿命減少率は比較軸受のそれ
に対し特段に減少しており、このことから素材成分中の
元素Cu並びにPが軸受の水素脆性フレーキングに対し
極めて効果があることがわかる。
【0070】表6は、上記の寿命試験を70時間行った
供試軸受の外輪について、応力負荷圏と反負荷圏の水素
濃度を測定した結果を、比較軸受および本発明軸受別に
示したものである。
【0071】
【表6】
【0072】応力負荷圏では水素が外輪内部に拡散・侵
入するため、その水素濃度は反負荷圏の水素濃度より高
くはなっているが、本発明軸受の外輪の負荷圏の水素濃
度は比較軸受の外輪の負荷圏の水素濃度より低い。この
表6の結果から、本発明軸受においては水素が外輪内部
に拡散・侵入しずらいことがわかり、Cu並びにPが水
素侵入防止に効果があることがわかる。 〔E〕第5の実施形態 この第5の実施形態では、素材成分中にAl,N,Nb
またはVを種々の濃度で含有させた鋼で供試軸受を作製
して寿命試験を行い、これらの元素が寿命減少率に及ぼ
す影響を検討した。具体的には、上記第4の実施形態に
おける本発明軸受Q1 の成分組成を基にして、これに種
々の濃度でAl,N,NbまたはVを含有させた素材を
用いて本発明軸受Q10〜Q15を作製し、試験を実施して
旧オーステナイト結晶粒度(粒度番号の定義はJISG
0551による)と水混入潤滑下での軸受寿命減少率と
の関係を調査した。
【0073】比較軸受Z1 ,Z2 及び本発明軸受Q1,
10〜Q15の各供試軸受の素材成分,製鋼法,旧オーステ
ナイト結晶粒度および寿命試験結果を表6に示す。
【0074】
【表7】
【0075】表7の結果から、素材成分にAl0.02
重量%以上のAl,0.005重量%以上のNを含有す
る本発明軸受Q1 ,Q10〜Q15は全て、水混入時の寿命
低下が比較軸受Z1 ,Z2 に比べて大幅に少なくなって
いることがわかる。また、本発明軸受Q1,10〜Q15
志の間でも、NbまたはVを添加した軸受Q12〜Q15
方が、添加しない軸受Q1 ,Q10,Q11よりも水混入時
の寿命低下が少なくなることがわかる。このように、A
l,N,NbまたはVの各元素は、旧オーステナイト結
晶粒を微細化させることにより水素原子の通る結晶粒界
を多く作るので、Cu量,Al量,N量に殆ど差がなく
ても、NbまたはVの含有量が多くなるに従い、水素ガ
スをより多くの介在物に分散させることになり、水素脆
性フレーキングの遅延に効果を発揮する。 〔F〕第6の実施形態 この第6の実施形態では、素材成分中のCuおよびPの
含有比率と素材の製鋼法とを種々に変えて作製した供試
体軸受を用いて、それらが寿命減少率に及ぼす総合的な
影響を検討した。
【0076】比較軸受の成分組成としては、上記第4の
実施形態における比較軸受C0 (Cu含有比率0.35
重量%,P含有比率0.015重量%)をベースとして
そのAl及びNの含有比率を若干変えた比較鋼C10と、
P含有比率を0.010重量%とし且つ0.15重量%
のNbを含有させた比較軸受C11を設定した。これに対
して、本発明軸受C12,C13の成分組成は、特に、Cu
の含有比率を0.25及び0.24重量%、且つPの含
有比率を0.100重量%と比較軸受より格別多く設定
した。
【0077】そして、上記成分組成の素材を、VAR法
またはESR法のいずれかの製鋼法で溶製した鋼で各供
試体軸受を作製して寿命試験を行った。各供試軸受
10,C11,C12,C13の素材成分,製鋼法,熱処理法
および寿命試験の結果を表8に示す。
【0078】
【表8】
【0079】表8において、本発明軸受C12, 13の寿
命減少率は、比較軸受C10,C11のそれより特段に減少
しており、また上記表5に示された本発明軸受M1 〜Y
1 及び表7に示された本発明軸受Q1 ,Q10〜Q15より
も相当に減少している。このことから、Cu及びPの含
有量が本発明の条件を満足していれば、VAR法または
ESR法などの製鋼法は水素脆性フレーキングに対して
極めて効果があることがわかる。これは、それらの再溶
解製鋼法により偏析の少ない均一な組織の鋼が得られる
ので腐食が抑制され、従って鋼表面での水素発生量を減
少させることができて水素脆性フレーキングの発生を遅
延させるためである。
【0080】NbまたはVに関しては、比較軸受C10
11の結果から、Cu量が0.04重量%以下の場合は
Nb(またはV)が存在し且つ製鋼法にESR法(また
はVAR法)を採用しても水素脆性フレーキングに対す
る効果は認められないといえる。
【0081】なお、比較軸受C11は、素材の高清浄度化
すなわち低酸素濃度化,低イオウ濃度化することにより
寿命減少率を低下させることを試みたものであるが、水
の存在下では効果が認められなかった。
【0082】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の転がり軸
受によれば、内輪,外輪及び転動体の各構成部品の少な
くとも一つの部品の合金鋼素材成分を調整することによ
り、鋼表面での水素発生量を減少させ、さらに水素の透
過し難い被膜を形成して鋼中へ侵入する水素量を低減さ
せて水素脆性フレーキングの発生を遅延させる機能を付
与し、これにより潤滑剤中に水が混入する環境下でも長
寿命を有する耐水性転がり軸受を提供できるという効果
を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】転がり軸受の寿命試験の概要を説明する試験機
の要部拡大図である。
【図2】比較軸受のフレーキングの形状を示す模式図で
ある。
【図3】本発明の効果を表したグラフであり、寿命減少
率と外輪のCu濃度の関係を溶製法別に示した図であ
る。
【図4】本発明の効果を表したグラフであり、外輪にC
u,Pを含有する軸受の寿命減少率と外輪のCu濃度の
関係を示した図である。
【図5】本発明の効果を表したグラフであり、外輪にC
u,Pを含有する軸受の寿命減少率と外輪のP濃度の関
係を示した図である。

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 潤滑剤中に水が混入する環境下で使用さ
    れる転がり軸受であって、内輪,外輪及び転動体の少な
    くとも一つが、成分組成中に、0.05〜0.60重量
    %のCu、及び0.10〜1.10重量%のCを必須的
    に含み、かつ、0.2重量%以下のNb及びVのいずれ
    かを選択的に含む合金鋼により形成されることを特徴と
    する耐水性長寿命転がり軸受。
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