JPH1025565A - 硬質薄膜の製造方法および硬質薄膜 - Google Patents

硬質薄膜の製造方法および硬質薄膜

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JPH1025565A
JPH1025565A JP8183644A JP18364496A JPH1025565A JP H1025565 A JPH1025565 A JP H1025565A JP 8183644 A JP8183644 A JP 8183644A JP 18364496 A JP18364496 A JP 18364496A JP H1025565 A JPH1025565 A JP H1025565A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】硬質材料および超硬質材料として利用できる硬
度の大きな硬質薄膜を高速度でかつ低コストで製造でき
る硬質薄膜の製造方法、および硬度の大きな硬質薄膜を
提供する。 【解決手段】本発明の硬質薄膜の製造方法は、少なくと
も炭素を含む炭素源を具備するカソードと、母材と、を
用い、アークイオンプレーティング法により硬質薄膜を
製造する方法であって、該母材に負のバイアス電圧をか
けて該母材を負の電位とし、かつ、該カソードと該母材
との間に該炭素源から蒸発する該炭素のうち0.1μm
以上の粒径を有する溶融炭素粒子が該母材上に堆積する
のを防ぐ防御体を設けたことを特徴とする。この製造方
法により硬度の大きい硬質薄膜を製造することができ、
この硬質薄膜は硬質材料および超硬質材料として優れ
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、硬質材料および超硬質
材料として利用することができる硬質薄膜およびその製
造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、工業的に広く利用されている硬質
薄膜に、TiN、TiC、Si3 4、SiC、Al2
3 、WCなどの硬質材料からなる薄膜があり、そのヌ
ープ硬度(Hk)は1500〜3500である。さら
に、これらの硬質材料よりさらに高い硬度を示す材料と
して、あえて超硬質材料と呼ばれる3種の結晶材料が存
在する。硬い順に、ダイヤモンド(C)(Hk8000
〜10000)、立方晶窒化ホウ素(c−BN)(Hk
4000〜6000)、炭化ホウ素(B4 C)(Hk3
500〜4500)である。
【0003】近年、こうした炭素、窒素、ほう素を組成
成分とする超硬質材料を作製する試みがなされており、
特に炭素を主要成分とする超硬質材料を作製する試みが
多くなされ、ダイヤモンドライクカーボン(DLC;ア
モルファスカーボン(a−C:H)のうち、sp3 −C
成分が多く、特に硬質なもの)はその一例である。また
最近、仮想物質β−C3 4 の組成式で表される窒化炭
素が前記のダイヤモンドに匹敵する高い体積弾性率を有
するという理論計算結果(A.Y.Liu and
M.L.Cohen,Science,245(198
9)841)が報告され、窒化炭素も超硬質材料として
の利用可能性が出てきている。
【0004】そこで、各種のPVD、CVDプロセスを
用いてこうしたDLC薄膜や窒化炭素薄膜を作製する試
みがなされている。PVD法では、例えば、電子銃によ
り黒鉛を蒸発させて基板上へ炭素膜の真空蒸着を行うと
同時に、この析出膜に対してイオンビームにより窒素イ
オンを注入してアモルファスの窒化炭素薄膜を作製する
方法が開示されており、硬度の大きい硬質薄膜が得られ
たという報告がある(F.Fujimoto and
K.Ogata,Jpn.J.Appl.Phys.,
76(1994)3791.)。また、CVD法では、
炭化水素とN2ガスを用い、容量結合型の高周波プラズ
マCVDにより窒化炭素からなる硬質薄膜が得られたと
いう報告がある(P.Wood,T.Wydeven
andO.Tsuji,Thin Solid Fil
ms,258(1995)151.)。
【0005】しかし、従来のDLC薄膜や窒化炭素薄膜
等の硬質薄膜の作製方法は、成膜速度が小さく、薄膜の
作製に費やす時間が大きいという不具合があった。また
大面積の薄膜を形成したり、立体的に複雑な形状の母材
に薄膜を形成することも困難であった。一方、カソード
蒸発源を用いたアークイオンプレーティング法により、
TiNなどの硬質薄膜が作製されている。この方法で
は、大きな成膜速度で薄膜作製が可能であり、また大面
積の薄膜を形成したり、立体的に複雑な形状の母材に薄
膜を形成することができる。しかし、この方法では、カ
ソード蒸発源より粒径が0.1μm以上の粒径の大きな
溶融粒子も蒸発する。したがって、この方法において、
カソード蒸発源として炭素を含む炭素源を用い、特に黒
鉛を炭素源の原料とした場合には、炭素源より粒径が
0.1μm以上の粒径の大きな溶融炭素粒子も蒸発す
る。この粒径が0.1μm以上の溶融炭素粒子は、アー
クプラズマ中では、ほとんど励起、イオン化されること
なく、また他の物質(アークプラズマ中に含まれる同種
の物質および他種の物質)とほとんど合成反応すること
なく、そのままの状態で母材上へ直線的に飛来する。こ
の溶融炭素粒子が母材上に堆積すると硬度の大きい薄膜
が得られない。
【0006】そこで、こうしたアークイオンプレーティ
ング法において、曲管を用い、この曲管の一端部に炭素
源を具備するカソードを設け、かつ他端部に母材を設置
して、カソードと母材との間に生成されるアークプラズ
マを磁力で曲げて、アモルファスカーボン薄膜を作製す
る方法が開示されている(R.Lossy,D.L.P
appas,R.A.Roy,J.P.Doyle,
J.J.Cuomo and J.Bruley,J.
Appl.Phys.77(1995)4750)。
【0007】この曲管を用いたアークイオンプレーティ
ング法では、直線的に空間を移動する溶融炭素粒子は曲
管の曲部でトラップされ、溶融炭素粒子が母材上に堆積
しないように工夫されている。しかし、曲管とアークプ
ラズマを曲げるための磁石とを必要とするため、コスト
が高くなるだけでなく、形成する薄膜の面積や母材の形
状が限定されてしまうという不具合があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記実情に鑑
みてなされたものであり、硬度が大きく、かつ潤滑性お
よび耐凝着性、耐摩耗性、表面の平滑性に優れた硬質薄
膜を高速度でかつ低コストで製造でき、また、このよう
な硬質薄膜を大面積の薄膜を形成したり、立体的に複雑
な形状の母材にも形成できる製造方法を提供することを
目的とする。
【0009】また、この製造方法によって得られる硬質
薄膜であって、硬度が大きく、かつ潤滑性、耐凝着性、
耐摩耗性、および表面の平滑性に優れ、硬質材料および
超硬質材料として利用できる硬質薄膜を提供することを
目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者は、従来のアー
クイオンプレーティング法を用い、母材に負のバイアス
電圧をかけて負の電位とするとともに、炭素源から蒸発
する炭素のうち0.1μm以上の粒径を有する溶融炭素
粒子が母材上に堆積しないように炭素源と母材との間に
防御体を設けて薄膜を作製することにより、硬度が大き
く、かつ潤滑性、耐凝着性、耐摩耗性、および表面の平
滑性に優れた硬質薄膜が得られることを見出し、本発明
に至ったものである。
【0011】即ち、本発明の硬質薄膜の製造方法は、少
なくとも炭素を含む炭素源を具備するカソードと、母材
と、を用い、アークイオンプレーティング法により硬質
薄膜を製造する方法であって、該母材に負のバイアス電
圧をかけて該母材を負の電位とし、かつ、該カソードと
該母材との間に該炭素源から蒸発する該炭素のうち0.
1μm以上の粒径を有する溶融炭素粒子が該母材上に堆
積するのを防ぐ防御体を設けたことを特徴とする。
【0012】また、本発明の硬質薄膜は、少なくとも炭
素を含む炭素源を具備するカソードと、母材と、を用
い、該母材に負のバイアス電圧をかけて該母材を負の電
位とし、かつ、該カソードと該母材との間に該炭素源か
ら蒸発する該炭素のうち0.1μm以上の粒径を有する
溶融炭素粒子が該母材上に堆積するのを防ぐ防御体を設
けた状態でアークイオンプレーティング法により得られ
た硬質薄膜であり、複数のsp3 −Cが互いに結合して
形成されたsp3 −Cドメインと複数のsp2 −Cが互
いに結合して形成されたsp2 −Cドメインとがランダ
ムに結合して形成されたアモルファスカーボンネットワ
ークと、該アモルファスカーボンネットワークを構成し
ている炭素原子の少なくとも一部に結合した水素原子
と、からなるa−C:H薄膜であることを特徴とする。
【0013】さらに、本発明のもう一つの硬質薄膜は、
前記a−C:H薄膜である硬質薄膜と同様の方法により
得られる硬質薄膜であり、複数のsp3 −Cが互いに結
合して形成されたsp3 −Cドメインと複数のsp2
Cが互いに結合して形成されたsp2 −Cドメインとが
ランダムに結合して形成されたアモルファスカーボンネ
ットワークと、該アモルファスカーボンネットワークを
構成している炭素原子サイトの少なくとも一部に置換さ
れた窒素原子と、からなるa−C:N薄膜であることを
特徴とする。
【0014】本発明の硬質薄膜の製造方法で用いるアー
クイオンプレーティング法は、ターゲットを具備するカ
ソードを用い、アークプラズマを利用して母材上に薄膜
を作製する方法である。この方法では、ターゲット表面
がアークプラズマの高熱により加熱されてターゲットに
含まれる物質が蒸発し、蒸発物質の一部がプラズマから
エネルギーを受け取って、励起、イオン化されたり、ア
ークプラズマ中で他の物質(アークプラズマ中に含まれ
る同種の物質および他種の物質)と合成反応したりす
る。そして、蒸発物質が、こうした蒸発したときの形
態、アークプラズマ中で励起、イオン化された形態、お
よびアークプラズマ中で他の物質と合成反応した形態等
で母材上に堆積し、ターゲットに含まれる物質を含む薄
膜が母材上に形成される。アークプラズマはイオン化率
が高いことが特徴で、このアークイオンプレーティング
法を用いることにより高い成膜速度で硬質薄膜を形成す
ることができる。
【0015】本製造方法では、ターゲットとして少なく
とも炭素を含む炭素源を用いるため、炭素源表面より炭
素原子、炭素分子、炭素クラスター等の粒径が0.1μ
m未満の粒径の小さな炭素種、および、粒径が0.1μ
m以上の粒径の大きな溶融炭素粒子が蒸発する。この粒
径の大きな溶融炭素粒子は質量が大きいため、アークプ
ラズマ中に存在する質量の小さな粒子の衝突による影響
等をほとんど受けずにアークプラズマ中を直線的に移動
する。一方、粒径が0.1μm未満の粒径の小さな炭素
種は質量が小さいため、アークプラズマ中の粒子との衝
突等により移動方向や速さを変える。
【0016】このため、こうした粒径が0.1μm以上
の粒径の大きな溶融炭素粒子は、カソードと母材との間
に設けられている防御体上に直線的に飛来して付着す
る。一方、粒径が0.1μm未満の粒径の小さな炭素種
は、その挙動が直線的でないため、防御体に付着するも
のが一部あるものの、大部分は蒸発したときの形態、ア
ークプラズマ中で励起、イオン化された形態、およびア
ークプラズマ中で他の物質と合成反応した形態等でこの
防御体に対して回り込んで母材上に堆積する。この防御
体により、0.1μm以上の粒径を有する溶融炭素粒子
が母材上に堆積するのを防ぎ、0.1μm未満の粒径の
小さな炭素種を、蒸発したときの形態、励起、イオン化
された形態、および他の物質と合成反応した形態等で母
材上に堆積させることができる。
【0017】また、本製造方法では、母材は負のバイア
ス電圧がかけられて負の電位にあるため、アークプラズ
マ中に高密度で存在するプラスイオンのうち母材付近に
存在するプラスイオンが母材よりクーロン力を受ける。
そして、クーロン力を受けたプラスイオンは母材の表面
部分に引きつけられて加速し、成長膜表面に入射する。
この入射するプラスイオンのうちエネルギーの高いもの
は、成長膜表面に高い衝撃エネルギーを与える。この衝
撃エネルギーにより、成長膜表面においてsp 3 −Cの
生成が促進され、これらのsp3 −Cが互いに結合して
短距離秩序の大きさのsp3−Cドメインが形成され
る。こうして形成されたsp3 −Cドメインは、同時に
形成された短距離秩序の大きさのsp2 −Cドメインと
ランダムに結合してアモルファスカーボンネットワーク
が形成される。
【0018】仮に、このとき0.1μm以上の粒径の大
きな溶融炭素粒子が堆積すると、成長膜表面に入射する
プラスイオンの衝撃エネルギーを受け取ることのできな
い炭素が増加し、sp3 −Cの生成が阻害されてsp3
−Cドメインの形成量が減少してしまう。また、成長膜
表面に0.1μm以上の凹凸が生じ、膜表面の平滑性が
悪くなってしまう。本製造方法では、防御体により0.
1μm以上の粒径の大きな溶融炭素粒子の堆積を防ぐこ
とができるため、こうしたsp3 −Cドメインの形成量
の減少および膜表面の平滑性の悪化等を防ぐことができ
る。
【0019】本発明の硬質薄膜は、本製造方法により作
製されたものであり、sp3 −Cドメインを含有するた
め硬度が大きく、sp2 −Cドメインを含有するため潤
滑性および耐凝着性に優れ、また、sp3 −Cドメイン
とsp2 −Cドメインの両者を含有する効果により耐摩
耗性に優れ、さらに、アモルファス構造であるため表面
の平滑性に優れる。
【0020】
【発明の実施の形態】本発明の硬質薄膜の製造方法で
は、炭素源、母材、防御体は、アークプラズマを発生す
ることができる容器内にそれぞれ設置される。炭素源は
カソードの先端部分に具備されており、アークプラズマ
のターゲットとなる。母材の設置位置については、炭素
源から炭素が蒸発する方向に設置し、かつ硬質薄膜を形
成する母材表面が少なくともアークプラズマ中にあるよ
うに設置する。また防御体は、炭素源と母材との間の位
置に設置する。また、炭素源、母材、防御体は、必要に
よりそれぞれ複数設置して薄膜を形成することもでき
る。本製造方法では、容器のサイズを選択したり、カソ
ードの大きさを選択することにより、アークプラズマの
空間的な広がりの大きさを任意に変えることができる。
【0021】本製造方法で使用する少なくとも炭素を含
む炭素源は特に限定されないが、黒鉛を用いることが望
ましい。黒鉛は取扱が楽であり安全な材料である。ま
た、高純度のものでも安価である上、電気伝導性を有す
るためカソード電極の構成部材として使用できる。した
がって、炭素源の材料として非常に優れる。このように
カソード電極の少なくとも表面の一部に黒鉛からなる炭
素源を具備することにより、アークプラズマによって炭
素源より炭素原子、炭素分子、炭素クラスター等の粒径
が0.1μm未満の粒径の小さな炭素種を多く含む状態
で蒸発させることができる。そして、これらの炭素種は
アークプラズマ中を通過する際にプラズマからエネルギ
ーを受取って励起され、またその一部はイオン化され
て、C* 、C2 * 、C2 + 、C+ 等の励起、イオン化さ
れた炭素種がプラズマ中に拡がる。
【0022】このとき、電子ビーム、レーザ、イオンビ
ームの少なくとも一つを併用して炭素源から炭素を蒸発
させることが望ましい。これらの手法を組み合わせるこ
とにより、さらに高密度で粒径が0.1μm未満の粒径
の小さな炭素種を蒸発させることができ、アークプラズ
マ中で励起、イオン化する炭素種を増加させることがで
きる。
【0023】また、本製造方法で使用するアークプラズ
マは少なくとも水素を含むことが望ましい。こうしたア
ークプラズマとして、水素がH* 、H2 * 、H2 + 、H
+ 等の励起およびイオン化された形態にあるものを用い
ることができる。このような形態にある水素は反応性に
富んだ状態にあるため、炭素源から蒸発した炭素と容易
に反応して結合する。このとき、系内圧力を0.01P
a以上30Pa以下とすることがさらに望ましい。この
系内圧力により、励起、イオン化された形態にある水素
がさらに高密度にアークプラズマ中に存在する状態とな
る。
【0024】このような水素を含むアークプラズマを用
いることにより、複数のsp3 −Cが互いに結合して形
成されたsp3 −Cドメインと複数のsp2 −Cが互い
に結合して形成されたsp2 −Cドメインとが同時に成
長膜上に形成され、sp3 −Cドメインとsp2 −Cド
メインとがランダムに結合したアモルファスカーボンネ
ットワークが形成される。このとき、アモルファスカー
ボンネットワークの形成と同時に、このアモルファスカ
ーボンネットワークを構成している炭素原子の一部に水
素原子が結合する。こうして、sp3 −Cドメインとs
2 −Cドメインとがランダムに結合して形成されたア
モルファスカーボンネットワークと、該アモルファスカ
ーボンネットワークを構成している炭素原子の少なくと
も一部に結合した水素原子と、からなるa−C:H薄膜
が形成される。
【0025】このとき、母材にかける負のバイアス電圧
は、−50V〜−300Vの範囲内にあることが望まし
い。これにより、sp3 −Cドメインが多く形成され、
薄膜の硬度が大きくなる。この負のバイアス電圧が−5
0Vより絶対値で小さいと入射する正のイオンは十分加
速されず、成長膜表面に対するエネルギー供給量が少な
くなり、sp3 −Cドメインの形成量が減少するため好
ましくない。また−300Vより絶対値で大きいと過度
のイオン衝撃が生じ、sp3 −Cドメインよりsp2
Cドメインの形成の方が優勢となるため好ましくない。
【0026】あるいはまた、本製造方法で使用するプラ
ズマは少なくとも窒素を含むことが望ましい。こうした
アークプラズマとして、窒素がN* 、N2 * 、N2 +
+等の励起、イオン化された形態にあるものを用いる
ことができる。こうした形態にある窒素は反応性に富ん
だ状態にあるため、炭素源から蒸発した炭素と容易に反
応して結合する。このとき、系内圧力が0.01Pa以
上30Pa以下であることがさらに望ましい。この系内
圧力により、励起、イオン化された形態にある窒素がさ
らに高密度にアークプラズマ中に存在する状態となる。
【0027】このような窒素を含むアークプラズマを用
いることにより、複数のsp3 −Cが互いに結合して形
成されたsp3 −Cドメインと複数のsp2 −Cが互い
に結合して形成されたsp2 −Cドメインとが同時に成
長膜上に形成され、sp3 −Cドメインとsp2 −Cド
メインとがランダムに結合したアモルファスカーボンネ
ットワークが形成される。このとき、アモルファスカー
ボンネットワークの形成と同時に、このアモルファスカ
ーボンネットワークを構成している炭素原子サイトの一
部が窒素原子により置換される。こうして、sp3 −C
ドメインとsp 2 −Cドメインとがランダムに結合して
形成されたアモルファスカーボンネットワークと、該ア
モルファスカーボンネットワークを構成している炭素原
子サイトの少なくとも一部に置換された窒素原子と、か
らなるa−C:N薄膜が形成される。
【0028】このとき、母材にかける負のバイアス電圧
は、−100V〜−400Vの範囲内にあることが望ま
しい。これにより、前記a−C:H薄膜と同様、sp3
−Cドメインが多く形成され、薄膜の硬度が大きくな
る。この負のバイアス電圧が−100Vより絶対値で小
さいか、もしくは−400Vより絶対値で大きいと、前
記a−C:H薄膜と同様の理由により好ましくない。
【0029】あるいはまた、本製造方法では、ヘリウ
ム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンの少なく
とも一種を含むアークプラズマを用いることが望まし
い。こうしたプラズマを用いることによっても、母材上
にsp3 −Cドメインとsp2 −Cドメインとが同時に
形成され、sp3 −Cドメインとsp2 −Cドメインと
がランダムに結合してアルファスカーボンネットワーク
が形成される。
【0030】なお、本製造方法では、アークプラズマの
発生方法は特に限定されないが、容器をアノードとし、
水素ガスや窒素ガス、もしくはヘリウム、ネオン、アル
ゴン、クリプトン、キセノン等の希ガス等を含む低圧ガ
スを介在してアノードとカソードとの2極間に直流の低
電圧、高電流をかけてアーク放電をおこさせ発生させる
ことができる。
【0031】また、本製造方法で使用する母材について
は、材質等は特に限定されないが、金属、半導体、セラ
ミックス、樹脂の少なくとも一種を材料とするものが望
ましい。これらの材料は工業的に広く用いられるもので
あり、機械的特性が特に要求される部材等にも用いられ
るものである。また、このとき、導電性のある母材につ
いては、直流電圧源等を用いて負にバイアス印加をする
ことにより、母材を負の電位にすることができる。一
方、絶縁性の母材については、高周波電源等を用いて母
材に負にセルフバイアスすることにより、母材を負の電
位にすることができる。
【0032】また、母材の表面積、形状等についても特
に限定されないが、表面積の大きい母材や、立体的に形
状の複雑な母材についても硬質薄膜の形成が可能であ
る。そして、母材は通常固定されて硬質薄膜が形成され
るが、その表面積の大きさや形状により膜厚の偏り等が
生じる場合、これを防ぐために母材を回転させたり、直
線的に動かしたり、平面的に動かしたり、あるいは3次
元的に動かしたりしながら膜厚に偏り等が生じないよう
に硬質薄膜を作製することができる。
【0033】また、本製造方法で使用する防御体の材
質、形状は特に限定されないが、金属、セラミックスの
少なくとも一種からなり、板状の防御板であることが望
ましい。防御体が金属からなることにより防御体の電位
を制御することができ、セラミックスからなることによ
り高温のアークプラズマに対する耐久性が向上する。ま
た、防御体を板状の防御板とすることにより簡便性に優
れるものとなる。
【0034】また、防御体の大きさについては、防御体
が炭素源と母材の間の所定の位置に設置されたとき、炭
素源から見て少なくとも硬質薄膜を形成する母材表面が
防御体の後方に完全に隠れてしまう大きさのものを使用
する。これにより、粒径が0.1μm以上の粒径の大き
な溶融炭素粒子が母材上に堆積するのを防ぐことができ
る。一方、その大きさが必要以上に大きいと、炭素原
子、炭素分子、炭素クラスター等の粒径の小さな炭素種
の回り込みを阻害するので好ましくない。
【0035】さらに、この防御体は0Vもしくは正の電
位にあることが望ましい。これにより、0Vもしくは正
の電位にある防御体とアークプラズマ中の正の炭素イオ
ンとの間に静電気的な引力が生じるのを防ぐことができ
る。特に防御体を正の電位とすることにより、アークプ
ラズマ中のプラスイオンとの間に斥力が生じ、イオン化
された炭素種の防御体に対する回り込み量が増加する。
一方、この防御体の電位を負にすると、アークプラズマ
中でイオン化された炭素種の防御体に付着する量が増加
し、アークプラズマ中のイオン化された炭素種の量が減
少してしまう。このとき、特に防御体と母材との間のア
ークプラズマ中のイオン化された炭素種の量が減少して
しまうため、母材上に堆積する炭素の量が減少して成膜
速度をあげられなくなり、またイオン衝撃を成長膜に対
して有効に働かせることができなくなる。
【0036】
【作用】本発明の硬質薄膜の製造方法により、炭素源か
ら蒸発する0.1μm以上の粒径の大きな溶融炭素粒子
が母材上に堆積することなく、母材上にsp3 −Cドメ
インとsp2 −Cドメインとが同時に形成されてsp3
−Cドメインとsp2 −Cドメインとがランダムに結合
したアルファスカーボンネットワークが形成されるた
め、硬度が大きく、かつ潤滑性、耐凝着性、耐摩耗性、
表面の平滑性に優れた硬質薄膜が得られる。
【0037】特に、本製造方法では、少なくとも水素を
含むアークプラズマを用いることにより、sp3 −Cド
メインとsp2 −Cドメインとがランダムに結合して形
成されたアモルファスカーボンネットワークと、該アモ
ルファスカーボンネットワークを構成している炭素原子
の少なくとも一部に結合した水素原子と、からなるa−
C:H薄膜を製造することができる。
【0038】あるいはまた、少なくとも窒素を含むアー
クプラズマを用いることにより、sp3 −Cドメインと
sp2 −Cドメインとがランダムに結合して形成された
アモルファスカーボンネットワークと、該アモルファス
カーボンネットワークを構成している炭素原子サイトの
少なくとも一部に置換された窒素原子と、からなるa−
C:N薄膜を製造することができる。
【0039】これらa−C:H薄膜やa−C:N薄膜
は、sp3 −Cドメインを多く含むため、硬度が非常に
大きい。また、系内圧力を0.01Pa以上30Pa以
下とし、母材にかける負のバイアス電圧を選択してsp
3 −Cドメインを多く形成することにより、さらに硬度
の大きい硬質薄膜が得られる。また、本製造方法では、
成膜速度を大きくすることができるため、a−C:H薄
膜、a−C:N薄膜等の硬度の大きい硬質薄膜を高速度
で形成することができる。また、アークプラズマの空間
的な広がりの大きさを任意に変えることができるため、
アークプラズマの空間的な広がりに応じて所望の面積の
薄膜を形成したり、所望の形状の母材に薄膜を形成する
ことができる。さらに、成膜時間により任意の膜厚の硬
質薄膜を形成することができる。
【0040】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明す
る。 (試料の作製)本実施例では、硬質薄膜の作製装置とし
て日新電機製マルチアークコーティング装置(MAV−
15.2)を使用し、炭素の炭素源として黒鉛焼結体
(東洋炭素IG510,ash:10ppm)からなる
炭素源を用い、母材としてSi結晶(100)からなる
基板(16mm×40mm、厚さ0.5mm)を用いて
硬質薄膜の作製を行った。
【0041】本実施例で使用した硬質薄膜の作製装置の
概略図を図1に示す。硬質薄膜の作製は、ステンレス鋼
(SUS304)からなり、高さ512mm、幅415
mm、奥行410mmのサイズからなる容積を有する真
空容器1の中で行われる。この真空容器1は真空ポンプ
による排気によって最高10-4Paの真空度を保つこと
ができる。真空容器1内には、円柱状の炭素源2(φ6
4mm×32mm)が排気口3の向かい側に取り付けら
れ、真空容器1の内壁に触れないように固定されてい
る。また、ステンレス鋼からなる基板ホルダー4とステ
ンレス鋼からなる板状の防御体5(70mm×40m
m、厚さ3mm)とがステンレス鋼からなる設置台6の
上に固定されている。基板7は基板ホルダー4によって
固定される。本実施例における試料の作製では、炭素源
2の蒸発面と防御体5との間に所定の間隔をあけて防御
体5を固定し、防御体5と基板7との間に40mmの間
隔をあけて基板7を設置台6の上に固定した。
【0042】この真空容器は接地されており、真空容器
1の外部に設けられた直流電流源8が、真空容器1をア
ノードとし、炭素源2をカソードとして、真空容器1と
炭素源2の底部との間につなげられている。そして、基
板7に負のバイアス電圧をかけられる直流電圧源9が真
空容器1の外部に設けられ、真空容器1と基板7との間
につなげられている。
【0043】また、この真空容器1には、水素ガス供給
源10および窒素ガス供給源11が取り付けられてお
り、この水素ガス供給源10からは真空容器1内に純度
99.99999%の高純度H2 ガスが導入され、この
窒素ガス供給源11からは真空容器1内に純度99.9
999%の高純度N2 ガスが導入される。さらに、リン
グ状の永久磁石12が炭素源2の裏側の真空容器1の外
部に取り付けられている。またリング状の鉄製円板13
が、図1に示される位置に炭素源2に接触しないように
リング状の空間を隔てて取り付けられている。この永久
磁石11から放射状に出た磁力線は炭素源の裏側から表
側を通り抜け、円弧を描いて鉄製円板13の基板側の表
面へ収束する。この磁力線の作用を受けてアークプラズ
マが動き、炭素源2の表面との接触点が動いて、炭素源
2の蒸発面の偏りが減らされる。
【0044】アルカリ溶液、イオン交換水、エタノール
を用いてよく洗浄し、乾燥させた基板7を基板ホルダー
4に固定し、真空ポンプにより真空容器1内の空気を排
気して真空度を10-3Paとした後、水素ガス供給源1
0より高純度H2 ガスを真空容器1内に導入し、真空ポ
ンプによるH2 ガスの排気量と水素ガス供給源10から
のH2 ガスの導入量とを調節して真空容器1内のH2
ス圧を1Paとし、この圧力を一定に保った。また、直
流電圧源9により基板7に所定の負のバイアス電圧をか
けて、基板7を負の電位とした。続いて、直流電流源8
により炭素源2の電位を−50〜−100Vとし、60
Aの電流によりアーク放電をおこしてアークプラズマ1
4を発生させた。このとき、防御体5および基板7はア
ークプラズマ14の中にある状態となった。そして、直
流電流源8の電流を60Aで一定にしてアーク放電をお
こない薄膜を作製した。
【0045】このとき、炭素源2の蒸発面と防御体5と
の間の所定の間隔を160mmとし、基板7にかける所
定の負のバイアス電圧をそれぞれ−50V、−100
V、−200V、−300V、−400V、−500V
から選択して6種類の硬質薄膜の試料を作製し、それぞ
れ実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例
5、実施例6とした。また、基板7に負のバイアス電圧
をかけずに(0V)薄膜の試料を作製して比較例1とし
た。また基板7の温度は、アルメル−クロメル型の熱電
対15を用いて測定したところ、200℃以下の上昇温
度であった。
【0046】窒素ガス供給源11より高純度N2 ガスを
真空容器1内に導入して真空容器1内のN2 ガス圧を1
Paとし、炭素源2の蒸発面と防御体5との間の所定の
間隔を120mmとし、また基板7にかける所定の負の
バイアス電圧をそれぞれ−100V、−150V、−2
00V、−300V、−400V、−500Vから選択
する以外は、実施例1〜6と同様にして硬質薄膜の試料
を作製した。
【0047】基板7にかける所定の負のバイアス電圧を
それぞれ−100V、−150V、−200V、−30
0V、−400V、−500Vとして作製した6種類の
硬質薄膜の試料を、それぞれ実施例7、実施例8、実施
例9、実施例10、実施例11、実施例12とした。ま
た、基板7に負のバイアス電圧をかけずに(0V)薄膜
の試料を作製して比較例2とした。また、基板温度は、
アルメル−クロメル型の熱電対15を用いて測定したと
ころ、200℃以下の上昇温度であった。 (試料の評価)実施例1〜12および比較例1および比
較例2で得られた試料について、触針法を用いて膜厚測
定を行い、膜厚と成膜時間から成膜速度を求めた。この
結果、実施例1〜12および比較例1、比較例2で得ら
れた試料は200nm/minの成膜速度で作製された
ことがわかった。
【0048】実施例1〜12および比較例1および比較
例2で得られた試料について、硬度測定をおこなった。
本硬度測定はダイナミック超微小硬度計(島津DUH−
200)を用いて行い、稜間角度115°のダイヤモン
ド三角錐圧子を0.5gfの荷重で基板7上の薄膜表面
に押し込んで、試料の塑性変形のみに相当する硬さを得
た。
【0049】実施例1〜6および比較例1で得られた試
料について、硬度測定の結果を図2に示す。また、実施
例1〜6および比較例1で得られた試料について、硬度
測定の結果を図3に示す。なお、図2および図3には、
基板7であるSi(100)の本測定で測定した硬度を
比較のため記した。このSi(100)は、ヌープ硬度
で1400(Hk)である。
【0050】図2より、比較例1の試料の硬度はSi
(100)の硬度を下回ることがわかる。−50〜−3
00Vの範囲内の負のバイアス電圧を基板にかけて作製
した実施例1〜4の試料は、Si(100)より硬度が
大きく、また、実施例5および実施例6の試料はSi
(100)とほぼ同じであることがわかる。このことよ
り、実施例1〜6の試料は、非常に硬度が大きく、中で
も実施例1〜4の試料は硬質材料として優れることがわ
かる。特に−100Vの負のバイアス電圧を基板7にか
けて作製した実施例2の試料ではSi基板の2倍の硬度
を有し、硬質材料として優れた硬度をもつ硬質薄膜であ
ることがわかる。
【0051】図3より、比較例2の試料の硬度はSi
(100)の硬度を下回ることがわかる。一方、−10
0〜−400Vの範囲内の負のバイアス電圧を基板7に
かけて作製した実施例7〜11の試料は、Siより硬度
が大きく、また、実施例12の試料はSi(100)と
ほぼ同じであることがわかる。このことより、実施例7
〜12の試料は非常に硬度が大きく、中でも実施例7〜
11の試料は硬質材料として優れることがわかる。特に
−300Vの負のバイアス電圧を基板にかけて作製した
実施例10の試料ではSi基板の4倍の硬度を有するこ
とがわかる。これは超硬質材料として十分利用できる硬
度である。
【0052】次に、実施例1〜12および比較例1、比
較例2で得られた試料について、X線光電子分光法(X
PS)により薄膜中の化学組成を調べ、窒素と炭素の原
子比率(N/C比)を求めた。さらに、X線回折(XR
D)、ラマン分光法、赤外分光法(IR)を併用して構
造解析をおこない、また原子間力顕微鏡を用いて表面観
察をおこなった。
【0053】XPSにより薄膜中の化学組成を調べた結
果、実施例1〜6および比較例1の試料は炭素を主成分
とすることがわかった。一方、実施例7〜12および比
較例2の試料は炭素と窒素のみからなることがわかっ
た。また、図4に示されるように、実施例7〜12およ
び比較例2の試料のN/C比は0.16〜0.32であ
ることがわかった。
【0054】XRDの測定結果は図示しないが、この測
定結果より実施例1〜12および比較例1、比較例2で
得られた試料はアモルファスであることがわかった。実
施例1〜12および比較例1、比較例2の試料につい
て、514.5nmの波長のアルゴンレーザに対するラ
マン散乱スペクトルを測定した。実施例1〜6および比
較例1の試料について得られたラマンスペクトルを図5
に示す。また、防御体5を用いない以外は実施例9と同
じ作製条件でグラファイト的なsp2 −Cのみからなる
薄膜試料を作製し、これを比較例3としてそのラマンス
ペクトルを図5に併せて示した。また、実施例7〜12
および比較例2の試料について得られたラマンスペクト
ルを図6に示す。なお、図5、図6では、ラマンシフト
(cm-1)を横軸にとり、縦軸にラマン散乱強度の相対
値をとっている。
【0055】まず、比較例3について説明する。結晶性
のよいグラファイトであれば、波数が1575〜158
0cm-1のあたりにE2gモードに相当する鋭いピーク
が一本だけ現れる(このピークはGバンドと呼ばれ
る)。これに対して比較例3の薄膜試料は結晶性が悪く
なっているため、Gバンドはブロードになっており、ま
た、1350cm-1に結晶子のサイズが小さくなること
でラマン活性となったピークが現れる(このピークはD
バンドと呼ばれる)。この薄膜はグラファイト的なsp
2 −Cのみでネットワークが形成されているので、Gバ
ンドのピーク位置に変化はない。そして、Dバンドはs
2 −Cのネットワークの不整のみに相当する。 図5
よりわかるように、実施例1〜6および比較例1の試料
では、sp3−Cによるsp3 結合成分が入ってくるの
で、グラファイト的なsp2 −Cのネットワークに起因
するGバンドはさらにブロードになり、また、本来の位
置(1575〜1580cm-1)より低波数側へシフト
する。一方、Dバンドについては、グラファイト結晶子
のサイズが小さくなったことのみでなく、sp3 −Cに
よるsp3 結合成分が入ってくることによるグラファイ
ト的な結合角に不整が生じることにも起因する。この結
果より、実施例1〜6および比較例1の試料では、sp
3 −Cドメインとsp2 −Cドメインとを含み、これら
のドメインがランダムに結合してカーボンネットワーク
を形成していることがわかる。
【0056】実施例1〜6の中でも、実施例2および実
施例3のラマンスペクトルは、DLCに特有のバンド形
状を有し、このバンド形状を反映して図2からも明らか
なように実施例2は最も大きい硬度を有する。−300
Vより絶対値で大きな負のバイアス電圧では、Gバンド
がグラファイト様の位置へ徐々にシフトしていき、ピー
ク幅もだんだん狭くなっていく。このことは、過度の負
のバイアス印加を基板にかけると、グラファイト的なs
2 −Cドメインがsp3 −Cドメインと相対的に多く
形成されることを示している。
【0057】また図6より、実施例7〜12の試料で
は、1570〜1560cm-1付近のGバンドのブロー
ドピークと、1370〜1360cm-1付近のDバンド
のブロードピークが見られることがわかる。この結果よ
り、実施例7〜12および比較例2の試料では、sp3
−Cドメインとsp2 −Cドメインとを含み、これらの
ドメインがランダムに結合してカーボンネットワークを
形成していることがわかる。
【0058】次に、実施例1〜12および比較例1、比
較例2の試料について赤外透過吸収スペクトルを測定し
た結果について述べる。実施例1〜6および比較例1の
試料については図示しないが、いずれの試料において
も、2800〜3000cm-1の波数付近で赤外線吸収
端が見られることがわかり、炭素と水素とが結合してい
ることがわかった。これより、実施例1〜6および比較
例1の試料についていずれの試料も、sp3 −Cドメイ
ンおよびsp2 −Cドメインのそれぞれのドメインの終
端部分に水素原子が結合していることがわかる。
【0059】また、実施例7〜12および比較例2の試
料について測定した赤外透過吸収スペクトルを図7に示
す。図7では試料を透過させた赤外線の波数(cm-1
を横軸にとり、縦軸に赤外線透過スペクトル強度の相対
値をとっている。図7より、いずれの試料においても、
2215cm-1、1620〜1590cm-1、1540
〜1520cm-1、1380〜1250cm-1、136
0〜1180cm-1、1090〜1080cm-1の6箇
所の波数付近で赤外線吸収端が見られる。2215cm
-1の赤外線吸収は、ネットワークの終端部分としてのシ
アナミド的あるいはまたベンゾニトリル的なC≡N結合
によるものである。1620〜1590cm-1および1
540〜1520cm-1の赤外線吸収は、ピリジン的な
C=C結合とC=N結合との結合のコンビネーション、
つまり共役状態によるものである。また、1380〜1
250cm-1の赤外線吸収は、アニリン的なC−N結合
によるものである。1090〜1080cm-1付近の弱
い赤外線吸収は第一脂肪族的アミンのC−N結合による
ものである。従って、実施例7〜12のsp2 −Cドメ
インは、グラファイト的な構造以外に、ピリジン的、ア
ニリン的、および第一脂肪族的な構造を含むことがわか
る。
【0060】以上、組成分析および構造解析の結果よ
り、実施例1〜6の試料は、sp3 −Cドメインとsp
2 −Cドメインとがランダムに結合したアモルファスカ
ーボンネットワークを母体として水素がこれらドメイン
の終端部分に結合したa−C:Hからなることがわか
る。即ち、本製造方法により、sp3 −Cドメインとs
2 −Cドメインとがランダムに結合して形成されたア
モルファスカーボンネットワークと、該アモルファスカ
ーボンネットワークを構成している炭素原子の少なくと
も一部に結合した水素原子と、からなるa−C:H薄膜
が製造できることがわかる。
【0061】また、実施例7〜12の試料は、sp3
Cドメインとsp2 −Cドメインとがランダムに結合し
たアモルファスカーボンネットワークを母体としてこの
ネットワークを構成している炭素原子サイトが窒素原子
で置換されたa−C:Nからなることがわかる。即ち、
本製造方法により、sp3 −Cドメインとsp2 −Cド
メインとがランダムに結合して形成されたアモルファス
カーボンネットワークと、該アモルファスカーボンネッ
トワークを構成している炭素原子サイトの少なくとも一
部に置換された窒素原子と、からなるa−C:N薄膜が
製造できることがわかる。
【0062】なお、実施例7〜12の試料ではLiuら
の計算例となったβ−C3 4 の構造が形成されている
とは言い難く、これらの水素化炭素や窒化炭素からなる
薄膜の硬度が大きくなったのは、sp3 −Cドメインに
よる。本実施例においては、sp3 −Cドメインの定量
はなされていないが、硬度の大きい試料ほどこのsp 3
−Cドメインを多く含有していると考えられる。
【0063】また、実施例1〜6の試料のうち実施例
5、実施例6の試料は、実施例1〜4の試料に比べると
比較的硬度が小さく、実施例7〜12の試料のうち実施
例12の試料は、実施例7〜11の試料に比べると比較
的硬度が小さいことがわかる。これは、母材の負のバイ
アス電圧の大きさが過剰となり、アークプラズマ中のイ
オンによる過度のイオン衝撃により母材表面の温度が過
度に上昇したためと考えられる。母材表面の温度が過度
に大きいとき、成長膜中のsp3 −Cが熱平衡状態のよ
り安定なsp2 −Cに再変態が生じ、この結果、sp3
−Cドメインよりもsp2 −Cドメインの形成が優勢に
なったものと考えられる。
【0064】また、原子間力顕微鏡により表面観察をお
こなった結果、実施例1〜12および比較例1、比較例
2の試料では、表面には0.1μm以上の粒径を有する
粒子はほとんど見られず、表面が平滑であることがわか
った。一方、防御板5を用いないで作製した比較例3の
試料では、表面には粒径がμmのオーダーにおよぶ粒子
が見られ、表面の平滑性が劣っていることがわかった。
このことよりも防御板5の効果が大きいことがわかっ
た。
【0065】
【発明の効果】本発明の硬質薄膜の製造方法により、高
硬度、高潤滑性、高耐凝着性、高耐摩耗性、表面の高平
滑性等の特性が要求される部材等に硬質薄膜を形成する
ことによって、こうした部材の機械的特性を向上させる
ことができる。また、本製造方法は、薄膜形成プロセス
が簡単なため、作製装置が簡便となり、また製造プロセ
スにおける作製条件の制御が比較的楽であるため、容易
に硬質薄膜を製造できる。また、高速度でかつ確実に硬
質薄膜を製造できるため、歩留り率の高い大量生産が可
能となる。また、本製造方法で使用する材料は安価であ
り、かつ製造装置も比較的安価となるため、低コストで
硬質薄膜を製造できる。また、プラズマを空間的に大き
く広げることにより、大面積の薄膜を形成したり、立体
的に複雑な形状の母材に薄膜を形成することも容易にで
きる。
【0066】また、本発明の硬質薄膜は、非常に硬度が
大きく、かつ潤滑性、耐凝着性、耐摩耗性および表面の
平滑性に優れるため、磁気ヘッドの保護膜や、金型表面
および工具表面のコーティング等に使用される硬質材料
および超硬質材料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この図は、本実施例で使用した硬質薄膜の作製
装置の概略図である。
【図2】この図は、実施例1〜6および比較例1で得ら
れた試料について、硬度測定の結果を示す図である。
【図3】この図は、実施例7〜12および比較例2で得
られた試料について、硬度測定の結果を示す図である。
【図4】この図は、実施例7〜12および比較例2で得
られた試料について、N/C比を示す図である。
【図5】この図は、実施例1〜6および比較例1、比較
例3で得られた試料について、ラマン分光法によって測
定したラマンスペクトルを示す図である。
【図6】この図は、実施例7〜12および比較例2得ら
れた試料について、ラマン分光法によって測定したラマ
ンスペクトルを示す図である。
【図7】この図は、実施例7〜12および比較例2で得
られた試料について、IRによって測定した赤外透過吸
収スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
1:真空容器 2:炭素源 3:排気口 4:基板ホル
ダー 5:防御体 6:設置台 7:基板 8:直流電
流源 9:直流電圧源 10:水素ガス供給源 11:窒素ガス供給源 12:永久磁石 13:鉄製円
板 14:アークプラズマ 15:熱電対

Claims (14)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】少なくとも炭素を含む炭素源を具備するカ
    ソードと、母材と、を用い、アークイオンプレーティン
    グ法により硬質薄膜を製造する方法であって、 該母材に負のバイアス電圧をかけて該母材を負の電位と
    し、かつ、該カソードと該母材との間に該炭素源から蒸
    発する該炭素のうち0.1μm以上の粒径を有する溶融
    炭素粒子が該母材上に堆積するのを防ぐ防御体を設けた
    ことを特徴とする硬質薄膜の製造方法。
  2. 【請求項2】該炭素源は黒鉛からなる請求項1に記載の
    硬質薄膜の製造方法。
  3. 【請求項3】少なくとも水素を含むアークプラズマを用
    いる請求項1に記載の硬質薄膜の製造方法。
  4. 【請求項4】前記負のバイアス電圧が、−50V〜−3
    00Vの範囲内にある請求項3に記載の硬質薄膜の製造
    方法。
  5. 【請求項5】少なくとも窒素を含むアークプラズマを用
    いる請求項1に記載の硬質薄膜の製造方法。
  6. 【請求項6】前記負のバイアス電圧が、−100V〜−
    400Vの範囲内にある請求項5に記載の硬質薄膜の製
    造方法。
  7. 【請求項7】ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプト
    ン、キセノンの少なくとも一種を含むアークプラズマを
    用いる請求項1に記載の硬質薄膜の製造方法。
  8. 【請求項8】該アークプラズマは、系内圧力が0.01
    Pa以上30Pa以下である請求項3、請求項5、請求
    項7のいずれかに記載の硬質薄膜の製造方法。
  9. 【請求項9】該防御体は、金属、セラミックスの少なく
    とも一種からなり、板状の防御板である請求項1に記載
    の硬質薄膜の製造方法。
  10. 【請求項10】該防御体は、0Vもしくは正の電位にあ
    る請求項1に記載の硬質薄膜の製造方法。
  11. 【請求項11】電子ビーム、レーザ、イオンビームの少
    なくとも一つを併用して該炭素源より該炭素を蒸発させ
    る請求項1に記載の硬質薄膜の製造方法。
  12. 【請求項12】該母材は、金属、半導体、セラミック
    ス、樹脂の少なくとも一種からなる請求項1に記載の硬
    質薄膜の製造方法。
  13. 【請求項13】少なくとも炭素を含む炭素源を具備する
    カソードと、母材と、を用い、該母材に負のバイアス電
    圧をかけて該母材を負の電位とし、かつ、該カソードと
    該母材との間に該炭素源から蒸発する該炭素のうち0.
    1μm以上の粒径を有する溶融炭素粒子が該母材上に堆
    積するのを防ぐ防御体を設けた状態でアークイオンプレ
    ーティング法により得られた硬質薄膜であり、 該硬質薄膜は、複数のsp3 混成軌道をとった炭素原子
    (以下、sp3 −Cと称する)が互いに結合して形成さ
    れた短距離秩序の大きさのドメイン(以下、sp3 −C
    ドメインと称する)と複数のsp2 混成軌道をとった炭
    素原子(以下、sp2 −Cと称する)が互いに結合して
    形成された短距離秩序の大きさのドメイン(以下、sp
    2 −Cドメインと称する)とがランダムに結合して形成
    されたネットワーク構造の炭素結合種(以下、アモルフ
    ァスカーボンネットワークと称する)と、該アモルファ
    スカーボンネットワークを構成している炭素原子の少な
    くとも一部に結合した水素原子と、からなるアモルファ
    スカーボン(a−C:H)薄膜であることを特徴とする
    硬質薄膜。
  14. 【請求項14】少なくとも炭素を含む炭素源を具備する
    カソードと、母材と、を用い、該母材に負のバイアス電
    圧をかけて該母材を負の電位とし、かつ、該カソードと
    該母材との間に該炭素源から蒸発する該炭素のうち0.
    1μm以上の粒径を有する溶融炭素粒子が該母材上に堆
    積するのを防ぐ防御体を設けた状態でアークイオンプレ
    ーティング法により得られた硬質薄膜であり、 該硬質薄膜は、複数のsp3 −Cが互いに結合して形成
    されたsp3 −Cドメインと複数のsp2 −Cが互いに
    結合して形成されたsp2 −Cドメインとがランダムに
    結合して形成されたアモルファスカーボンネットワーク
    と、該アモルファスカーボンネットワークを構成してい
    る炭素原子サイトの少なくとも一部に置換された窒素原
    子と、からなるアモルファスの窒化炭素(a−C:N)
    薄膜であることを特徴とする硬質薄膜。
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