【発明の詳細な説明】
トランスジェニック関節炎マウス
発明の分野
本発明は、関節炎を発症させるために遺伝子操作されたトランスジェニック非
ヒト動物に関し、そしてそれ故慢性関節リュウマチのようなヒト関節炎疾患のた
めの動物モデルを提供する。より詳細には、本発明は、トランスジェニック動物
のT細胞レセプター(TCR)集団が、(a)TCRαおよびTCRβサブユニットをコードす
るトランスジーンを含み、そして(b)トランスジェニック動物においてT細胞を
自己抗原と反応させるTCRのコピーから実質的になる、トランスジェニック動物
に関する。さらに特定すると、本発明は、TCRをコードするトランスジーンから
実質的になる限定されたTCRレパートリーが、トランスジェニック動物の発育の
間に作用して、再現可能な、そしてそれ故予想可能な様式で重篤な関節炎症状が
発症したトランスジェニック動物に至る一連の事象を開始させる、トランスジェ
ニック動物に関する。
発明の背景
動物は、免疫系と総称される分子および細胞防御の複雑な系列を有する。この
免疫系は、潜在的に有害な外来性細胞または内因性であるが異常な細胞(ぞれぞ
れは、例えば、細菌またはウイルスのような病原体、およびガン細胞または病原
体に感染した細胞により代表される)を認識および攻撃するが、内因性の正常細
胞は攻撃せず、むしろ許容する。免疫系は、外来性生体分子または異常な生体分
子により刺激された場合、外来性生体分子または異常な生体分子が結合する病原
体、あるいはガン細胞または病原体に感染した細胞を中和および破壊するように
設計された一連の活性を受ける。総合して、免疫応答として知られているこれら
の活性は、細胞性免疫応答、体液性(抗体仲介)免疫応答、または細胞性応答およ
び体液性応答の要素を含む免疫応答からなり得る。
体液性免疫応答は、特異的な外来性生体分子または異常な生体分子と結合し、
そして免疫系の他の要素をそこに誘引する抗体、糖タンパク質により仲介される
。抗体は、トリ滑液嚢または哺乳動物の骨髄で発生するが、他の器官、特に、脾
臓へ移動し、そこで成熟するB細胞、リンパ球により産生される免疫グロブリン
(Ig)分子である。Robertson,M.,Nature 301:114(1983)。細胞性免疫応答は、
動物の胸腺内で成熟するT細胞、リンパ球の活動の結果である。Tizard、163頁
。
T細胞の活動は、動物内のT細胞の異なるサブ集団の間で顕著に変化する。細
胞傷害性T細胞は、外来性細胞(移植拒絶)または内因性であるが異常な細胞(例
えば、ガン細胞または細胞内の寄生体(例えばウイルスおよび細菌)に感染した細
胞)を認識し、そして破壊する。ヘルパーT細胞は、抗体の産生および細胞傷害
性活性を促進しかつ統制するために、生体分子と相互作用し、そしてB細胞およ
び細胞傷害性T細胞の両方の挙動にそれぞれ影響を与える生体分子を産生する。
Mosier,D.E.,Science 158:1573-1575(1967)。サプレッサーT細胞および記憶
T細胞を含むT細胞の他のクラスがまた存在する。Miedema,F.およびMelief,C
.J.M.,Immunol.Today 6:258-259(1983);Tizard,I.R.,Immunolgy: An Intor
duction,Saunders,Philadelphia(1988),225-228頁。T細胞のクラスは、異な
るT細胞がその表面に異なるCDタンパク質を提示することに基づいて、ある程度
まで区別される。未成熟T細胞は、CD4タンパク質およびCD8タンパク質の両方を
提示し(すなわち、未成熟T細胞はCD4+8+である)、成熟ヘルパーT細胞はCD4+8-
であり(すなわち、CD4タンパク質を提示するが、CD8タンパク質を提示しない)、
そして成熟細胞傷害性T細胞はCD4-8+である(すなわち、CD8タンパク質を提示す
るが、CD4タンパク質を提示しない)。Smith,L.,Nature 326:798-800(1987);W
eissman,I.L.,およびCooper,M.D.,Sci.American 269:65-71(1993)。
適切に機能するために、動物免疫系のT細胞およびB細胞は、極めて大量の「
非自己」分子組成物、すなわち、外来性組成物または内因性であるが異常に発現
された組成物のいずれかを正確かつ確実に同定しなければならない。免疫系によ
る認識および同定は分子レベルで起こる。免疫応答を生じる能力を有する分子組
成物である抗原は、エピトープとして知られている1つまたはそれ以上の分子サ
イズの同定特徴から構成される。例えば、100のアミノ酸を含むアミノ酸配列を
有するポリペプチド抗原は、何十ものエピトープを含み得、ここで、各エピト
ープは約3〜約15のアミノ酸を含有するポリペプチドの一部により同定される。
ポリペプチドだけに由来し得るエピトープの数は、約1000万であると見積もられ
る。Tizard、25頁。
動物のT細胞またはB細胞に遭遇する抗原は、正常な内因性(すなわち、自己)
抗原(これに対する免疫応答は動物に傷害性である)と結び付けられるか、または
外来性または異常(非自己)抗原(これに対して免疫応答は備えられるべきである)
と結び付けられるように同定されるに違いない。このプロセスは、ヒトの戦いに
おける「敵か味方か」という識別に比喩される。免疫系が侵入する病原体または
腫瘍細胞を、非自己として結び付けて抗原を識別しない場合、これらの「敵」は
この系の防御から逃れる。免疫系は動物の内因性抗原を非自己として間違って識
別する場合、これらの内因性抗原を含む動物体の一部は、免疫系の「味方による
攻撃」に直面する。動物の免疫系が間違って別の細胞・分子に対して細胞および
分子「戦争」をしかける後者の場合は、動物体の正常な部分が、一般に「自己免
疫疾患」として知られている。
抗原を識別する免疫系の手段の一部として、個々のT細胞およびB細胞は、T
細胞またはB細胞の表面に提示され、そして特異的抗原に結合する抗原レセプタ
ーを産生する。個々のT細胞により産生されかつその表面に提示されるT細胞レ
セプター(TCR)は、重(TCRβ)および軽(TCRα)ポリペプチドサブユニットを含む
。各TCRαおよびTCTβサブユニットはカルボキシ末端定常領域およびアミノ末端
可変領域を有し、このカルボキシ末端定常領域のアミノ酸配列は、T細胞毎に変
化せず、このアミノ末端可変領域のアミノ酸配列は、T細胞毎に変化する。TCR
αおよびTCRβサブユニットが互いに会合する場合、TCRαおよびTCRβポリペプ
チドサブユニットの可変領域は結合して、TCRの固有の抗原結合部分を形成する
。Davis,M.M.およびBjorkman,P.J.,Nature 334:395-404(1988)。同様に、個
々のB細胞は、Ig分子を含む抗原レセプターを産生し、そして提示する。このIg
分子は、Ig重鎖およびIg軽鎖として知られている2つの抗体サブユニットのそれ
ぞれの可変領域に、独特なアミノ酸配列に起因する固有の抗原結合部分を有する
。各B細胞膜は20,000〜200,000の同一のIg分子を含む。Tizard,78-80頁および
202頁。
各個々のT細胞またはB細胞は同一の抗原レセプターを提示するが、異なる抗
原レセプターの動物コレクションはかなり多様である。Ig重鎖の可変領域、また
はTCRβ鎖の可変領域は、可変セグメント(V)、多様性セグメント(D)および連結
セグメント(J)という3つの遺伝子セグメントによりコードされる。Ig軽鎖の可
変領域、またはTCRα鎖の可変領域は、VおよびJ遺伝子セグメントによりコー
ドされる。多くの異なるV、DおよびJ遺伝子セグメントをコードする複数のDN
A配列は、生殖系列DNAに発現されないコピーとして存在する;そのアナログ(但
し、TCRサブユニットの可変遺伝子セグメントの異なるコレクション)もまた存在
する。動物の発育の間では、種々の可変領域をコードする遺伝子は、免疫系の個
々の細胞において、V、DおよびJ遺伝子セグメント、またはVおよびJ遺伝子
セグメントのランダムな連結により生成される。Ig重鎖またはTCRβサブユニッ
トのランダムに構成された可変領域を生成するDNA再編成のプロセスは、V-D-
J連結と呼ばれる;Ig軽鎖またはTCRαサブユニットの再編成された可変領域を
生成する類似のプロセスは、V-J連結と呼ばれる。Sakano,H.ら,Nature 280:
288-294(1979);Early,P.ら,Cell 19:981-992(1980); Alt,F.W.ら,Science 2
38:1079-1087(1987);Harlow,E.およびLane,D.,Antibodies: A Laboratoy Man
ual,Cold Spring Harbor Laboratory(1988),10-18頁;Davis,M.M.およびBjor
kman、P.J.,Nature 334:395-404(1988)。さらに、点変異が、体細胞変異と呼ば
れるプロセスにより、可変領域の全体に導入される。Bernard,O.ら,Cell 15:1
133-1144(1978)。
機能的に再編成されたIgまたはTCRサブユニット遺伝子は、V-D-JまたはV-
J連結によるDNA再編成および/または体細胞変異により、終止コドンまたはフ
レームシフト変異の導入のため、生合成の間に早まって停止されるリーディング
フレームをそこで生じない遺伝子の一つである。免疫系の各T細胞またはB細胞
は、固有の機能的に再編成された可変領域が存在するそれぞれの抗原レセプター
をコードする遺伝子を発現するため、それぞれが固有の抗原認識領域を有するレ
セプターを産生する多くの異なるT細胞またはB細胞が生成される。T細胞に提
示される異なる抗原レセプターの全カタログは動物TCRレパートリーと呼ばれて
いる。Bevan,M.J.,Sicence 264:796-797(1994)。
成熟T細胞またはB細胞において、細胞抗原レセプターへの抗原の結合は細胞
を活性化させる。すなわち、細胞を刺激して細胞性免疫応答または体液性免疫応
答を生じることに関連する活性を受ける。対照的に、未成熟なT細胞またはB細
胞においては、提示されたTCRまたはB細胞抗原レセプターへの抗原の結合は、
それぞれ、ネガティブ選択またはクローン排除と呼ばれるプロセスによる細胞の
排除を引き起こす。クローン排除は、健康な野生型動物の正常な発育の間で起こ
り、そして動物の正常な内因性(自己)抗原を許容するように、すなわち、動物の
自己抗原を非免疫原性抗原として扱うように免疫系を学習させる機構である。免
疫系が自己抗原の許容性を達成または保持することに失敗すると、ヒトを含む動
物において自己免疫疾患に至り得る自己免疫応答(すなわち、自己抗原への自己
免疫応答)が生じる。自己免疫疾患は、非自己抗原に対する適切な免疫応答が免
疫エフェクター生体分子(例えば、自己抗体)まはた自己抗原と交差反応する細胞
の産生をもたらす際に生じ得る。ヒト自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)および
全身性紅斑性狼瘡(SLE)のような身体的精神的障害状態を含む。概説に関しては
、Steinman,L.,Sci.American 269:107-114(1993)を参照のこと。
B細胞は可溶性抗原に直接に結合し得るが、T細胞は、抗原提示細胞(APC)と
して一般に知られている特異的なクラスの他の細胞に抗原が提示される場合のみ
、抗原に応答する。APC(例えば、マクロファージおよび樹状細胞)は、MHC(主要
組織適合複合体)タンパク質として知られている糖タンパク質により、ポリペプ
チド由来の抗原を提示する。MHCは、APCの表面に提示される。Bevan,M.J.ら,S
cience 264:796-797(1994)。MHCタンパク質は一般に抗原に結合する;TCR:Ag:MH
C複合体の特異性決定基は、(1)TCRの可換部分の独特なポリペプチド配列および(
2)抗原の独特なポリペプチド配列である。しかし、MHCにより提示されるオリゴ
ペプチド抗原は、ある程度までMHC分子内に埋められ、そして抗原のTCR認識は適
切なクラスのMHC分子に関してしか起こらない。Janway,C.A.,Sci.American 2
69:73-79(1993)。この現象は、MHC制限と呼ばれ、T細胞の抗原認識および生理
学には非常に重要である。Zinkernagel,R.M.およびDoherty,P.C.,Nature 248
:701-702(1974)。
MHCタンパク質をコードする遺伝子は多様である;しかし、個々の動物におい
て細胞毎に変化するIgおよびTCRとは違って、MHC抗原は、個々の動物毎に、また
は関連する個々の動物グループ毎に変化する。マウスの同系交配株によるマウス
により代表される家族性グループのメンバーは、互いに類似するMHC抗原を共有
するが、マウスの他の株由来の個体とは共有しない。Snell,G.D.,Science 213
:172-178(1981)。変異体MHC分子は異なる抗原に結合し得るため、T細胞が認識
し得(すなわち、MHC環境で結合する)、そして応答し得る抗原は、マウスの異な
る株の間で変化する。ヒトでは、特定のMHC変異体分子は自己免疫疾患とより深
く関連する。なぜなら、これらのMHC変異体分子は、自己抗原を結合する(そして
それ故T細胞に提示する)際に、より競争的であると推定されるからである。Vau
ghan,Immunological Diseases,3版、11巻、Samter,M.編、1029-1037頁(1978
);Steinman,L.,Sci.American 269:107-114(1993)。
関節炎は、多くのヒト自己免疫疾患の苦痛を伴う発現である。関節炎の病因は
、ほとんど知られていない。滑膜性関節の炎症病変は、SLEのような一般的な自
己免疫疾患に存在するが、慢性関節リュウマチ(RA)または反応性関節炎(ReA)の
ような特定の自己免疫疾患においてより高い頻度で存在する。他方で、原発性関
節疾患であるRAは、全体的に正常な免疫学的環境に存在する。RAは、パンヌスと
して知られている血管が高度に発達する組織への1つまたはそれ以上の滑膜の発
生により特徴付けられる慢性炎症性疾患である。パンヌスは数個の異なるタイプ
の細胞からなり、これには、常在性滑膜繊維芽細胞、および炎症エフェクターお
よび伝達物質生体分子を産生し得る浸潤性単核細胞が包含される。パンヌスは周
囲の組織への浸潤性増殖を示し、対応する関節軟骨および骨の進行性破壊を伴う
。Harris,E.D.,Jr.,Textbook of Rheumatology,Kelly,W.ら,編、W.B.Sau
nders Co.,Philadelphia,905-942頁(1989)。
慢性関節リュウマチの症状は、1つまたはそれ以上の関節の膨張およびそれに
伴う疼痛から、四肢の1つまたはそれ以上の関節に影響を与える比較的軽度の早
朝硬直までに及ぶ。重度の場合は、慢性炎症の結果、慢性疼痛および罹患した四
肢の物理的変形を伴って、関節の軟骨および骨の破壊および変形が生じる。慢性
疼痛および変形は、関節の運動性の喪失および罹患した個体の生活の質に対して
、明らかに深刻な結果を有する。一般に、50%のRA患者は、十分に正常な生活を
過
ごし得る;約25%は、部分的に生活不能となり、かつ生活不能が徐々に進行する
;そして約25%は、非常に限定された生活を過ごす。低い比率(10%未満)のRA患
者は全体的に生活不能となる。Christian,C.L.およびPaget,S.A.,免疫疾患に
おける「慢性関節リュウマチ」、11巻、3版、Samter,M.編、Little,Brown an
d Co.,1061-1076頁(1978)。
RAは頻繁に起こるヒト疾患であり、先進国の人口の1%近くが罹患しており、
これには、遺伝的傾向の複雑な要素がある。Wordsworth,P.,Current Opinion
in Immunology 4:766-769(1992)。RAはまた家畜、特に、イヌに観察される。Tiz
ard,527-528頁。いくつかの研究は、ヒトの場合、RAは男性よりも女性のほうが
2〜3倍も多いことを示す。Christian,C.L.およびPaget,S.A.,免疫疾患にお
ける「慢性関節リュウマチ」、11巻、3版、Samter,M.編、Little,Brown and
Co.,1061-1076頁(1978)。女性ホルモンエストロゲンは、γインターフェロンの
生成を間接的に誘発するDNA配列を刺激することが示唆されている。γインター
フェロンは、滑膜性関節内層中のヒトMHC分子の出現(そこは、MHC分子が通常発
見されていない)を刺激する。Fox,H.S.ら,J.Immunol.146:4362-4367(1991)
。
慢性関節リュウマチの病因は現在知られておらず、そして明らかな証拠のない
状態で議論の的となっている。この疾患は以下のように発症する。組織学的には
、罹患した関節は、炎症性サイトカインを産生する造血系細胞(リンパ球、マク
ロファージ、および/または好中球)により浸潤される。滑膜内層は、それ自体
増殖性であり、そして炎症性細胞とともに軟骨および骨を浸食および侵襲する肉
芽腫様「パンヌス」を形成する。炎症の浸出および増殖プロセス由来の酵素は、
軟骨、骨、靭帯および誰中の種々の基質を加水分解して、滑膜性関節の構造的変
形を生じる。RAが進行するにつれ、浸潤性好中球はリンパ結節および明中心を形
成し得るCD4+リンパ球により補充され得るか、または部分的に置換され得る。Ig
Gクラスの抗体に関連するIgMクラスの自己抗体であるリュウマチ因子は、全ての
患者でなく、いくつかの患者の血清中に存在する。Christian,C.L.およびPaget
, S.A.,免疫疾患における「慢性関節リュウマチ」、11巻、3版、Samter,M.編
、Little,Brown and Co.,1061-1076頁(1978)。
RAの病因の終結事象は比較的良く理解されているか、または少なくとも記載さ
れているか、RAの開始および早期事象の細胞および分子的原因は詳細に記載され
ていない。例えば、細胞傷害性および体液性免疫応答の両方は、既に知られたRA
モデルに記載されている。Chiocchia,G.ら,J.Immunol.145:519-525(1990)。
実際、RAが、二次炎症の結果を伴う自己抗原への免疫応答を代表するか、または
マクロファージ機能の一次調節異常を代表するかどうか、議論の的である。Fire
stein,G.S.およびZwaifler,N.J.,Arthritis and Rheumatism 33:768-773(199
0);Lanchbury,J.S.およびPitzalis,C.,Current Opinion in Immunology 5:9
18-924(1993)。いくつかの候補自己抗原がRAについて提案されているが、結果的
に1つも同定されていない。Sano,H.ら,J.Cell Biol.110:1417-1426(1990)
。
RAの現在の動物モデルは、以下の免疫学的モデルを含む。概説に関して、Schw
artz,R.S.,Fundamental Immunology,3版、Paul,W.E.編、Raven Press,N.Y.
, 1064-1067(1993)を参照のこと。
1.コラーゲン誘発型関節炎(CIA)は主に自己抗体に依存するようである。こ
れは、II型コラーゲン(関節軟骨において一般的なタイプである)によるラットま
たはマウスの免疫化により、またはII型コラーゲンに対する抗体の投与により誘
発される。コラーゲン特異的Tヘルパー細胞もまたこの疾患を誘導し得る。IgG
抗体は、滑液で濃縮され、そして関節で沈積物を形成し、炎症を生じると推定さ
れる。類似のウサギモデルは存在するが、あまり良く特徴付けされていない。Ja
sin,H.E.,Fed.Proc.(USA)32:147-152(1973)。
2.アジュバント(adjuvant)型関節炎は、ラットの感受性株においてオイル中
のMycobacterium tuberculosisの注入により誘発される。結果として、関節炎症
および関節膨張は、四肢の遠端部に主に存在し、これは一時的であり、そして21
日間後に消え、後に破壊が残る。Pearson,C.M.,J.Chronic Dis.16:863-874(
1963)。この場合、この疾患は、疾患ラットからTリンパ球集団または系を有す
る天然の動物に移され得る。M.tuberculosisを用いる免疫化により誘発される
T細胞および/または抗体は、微生物および軟骨中のプロテオグリカン構造の間
で交差反応し得るようである。同様に、プリスタン誘発型関節炎(PIA)は、鉱油
中の薬剤プリスタンの注入により誘発される。Potter,M.およびWax,J.S.,J.I
mmunol.127:1591-1595(1981)。
3.Lpr/fas型関節炎は、アポトーシスによる細胞死の誘発に関与するfas遺伝
子の変異を有するMRL/lpr株のマウスに存在する。この欠失の結果として、主と
してTリンパ球の異常な集団から構成される大量のリンパ増殖がこれらのマウス
に生じる。関節の進行性炎症を含むいくつかの自己免疫発現が生じる。Cheng,J
.ら,Science 263:1759-1762(1994)。
これらのモデルはいずれも十分に満足されていない。CIA、アジュバント型関
節炎およびPIAでは、動物は、軟骨、骨の生体分子と交差反応する免疫応答を生
じる抗原で人工的に免疫化される;例えば、3種類の関節炎の全てはII型コラー
ゲンに対して免疫系許容性を仕込むことにより処置され得る。Thompson,H.S.G.
およびStaines,N.A.,Clin.Exp.Immunol.64:581-586(1985);Zhang,Z.J.ら
,J.Immunol.145:2489-2493(1990);Thompson,S.J.ら,Immunol.79:152-157(19
93)。しかし、軟骨関連構造の破壊は、恐らく二次効果としてRAの後期に起こる
。したがって、これらのモデルは、免疫系における一次または早期事象が関節炎
に至る一連の自己免疫事象を生じる関節炎を反映しないようである。Lpr/fas型
関節炎は、二次関節炎の結果のみを有するリンパ増殖性疾患であり、RAの全体的
に正常な免疫学的環境と明らかに異なるセッティングである。自己免疫疾患の起
こりがちなバックグランドにCIAの方法を取り入れた動物モデルは、より重篤な
関節炎症状を生じるが、上記欠点の両方を蒙る。Watson,W.C.ら,J.Exp.Med
.172:1331-1339(1990)。
さらに、上記免疫学的な方法はいずれも、動物が再現可能な、そしてそれ故予
想可能な様式で重篤な症状を発症し、それ故RAにおける早期免疫事象の特徴付け
および操作を可能にする動物モデルを提供していない。最近、トランスジェニッ
ク動物を作成する能力は、自己免疫疾患を含むヒト疾患をより正確に反映する動
物モデルを開発する機会を提供している。Watson,J.D.ら,”The Introduction
of Foreign Genes Into Mice,”in Recombinant DNA,2版、W.H.Freeman &
Co.,New York(1992),255-272頁;Lee,M.-S.およびSarvetnick,N.,Curr.Op
. Immunol.4:723-727(1992)。トランスジェニック動物は、非自然手段により(
すなわち、人工操作により)、動物に天然に存在していない1つまたはそれ以上
の遺伝子(例えば、外来性遺伝子、遺伝子操作された内因性遺伝子など)を導入し
た
動物である。トランスジーンとして知られている非自然的に導入された遺伝子は
、外来性DNA配列(すなわち、宿主動物のゲノムに通常見出されていない配列)を
包含し得る。あるいは、またはさらに、遺伝子の発現の正常なインビボ様式を変
えるか、またはこの遺伝子によってコードされる内因性遺伝子産物の生物学的活
性を変えるかまたは除去するために、トランスジーンは、インビトロで再編成ま
たは変異された、異常な内因性DNA配列を包含し得る。Watson,J.D.ら,”The I
ntroduction of Foreign Genes Into Mice,”in Recombinant DNA,2版、W.H.
Freeman & Co.,New York(1992),255-272頁;Gordon,J.W.,Intl.Rev.Cyto
l.115:171-229(1989);Jaenisch,R.,Science 240:1468-1474(1989);Rossant
,J.,Neuron 2:323-334(1990)。
免疫系を研究する過程において、科学者らは、数種類のトランスジェニックTC
R動物、すなわち、特定のTCRまたはTCRサブユニットの発現を導くトランスジー
ンを含む動物を作成した。Kirmpenfort,P.ら,EMBO Journal 7:45-50(1988);T
eh,H.S.ら,Nature 335:229-233(1988);Bluthmann,H.ら,Nature 334:156-15
9(1988);Uematsu,Y.ら,Cell 52:831-841(1988);Steinmetz,M.ら,Genome 3
1:652-655(1989);Berg,L.J.ら,Cell 58:1035-1046(1989);Uematsu,Y.ら,E
ur.J.Immunol.22:603-606(1992);Borgulya,P.ら,Cell 69:529-537(1992)
。Katz,J.D.ら,Cell 74:1089-1100(1993)。トランスジェニックTCR「ノックア
ウト」(機能の喪失)対立遺伝子のマウスへの導入により、T細胞が実質的に涸渇
される動物が得られる。Kirmpenfort,P.J.A.およびBern,A.J.M.,米国特許第5,
175,384号(1992年12月29日)。動物のT細胞に変化した特異性を与えるトランス
ジェニックTCR対立遺伝子の導入により、さらに精妙な生物学的効果が得られる
。しかし、コラーゲン誘発型関節炎を誘発し得るT細胞クローン由来のトランス
ジェニックTCR対立遺伝子のマウスへの導入は、得られるトランスジェニック動
物において関節炎を生じない。Mori,L.ら,J.Exp.Med.176:381-388(1992)。
上記および本明細書の他の箇所で議論された参考文献は、単に本出願の出願日
前の開示を提供し、そして、本発明者らが先行発明より以前に本出願を行う必要
があるとは考えられない。
先行技術の状態を考慮すれば、自己免疫性関節炎、特に、慢性関節リュウマチ
における早期免疫的事象を特徴付けかつ制御するために、動物が再現可能な、そ
してそれ故予想可能な様式で重篤な関節炎症状を発症する動物モデルが必要であ
る。したがって、本発明の目的は、自己免疫性関節炎を発症させるために遺伝子
操作されたトランスジェニック非ヒト動物を提供することである。これは、トラ
ンスジェニック動物のT細胞レセプター(TCR)集団が、(a)TCRαおよびTCRβサブ
ユニットをコードするトランスジーンを含み、そして(b)トランスジェニック動
物の発育の間にT細胞を自己抗原と反応させて、再現可能な、そしてそれ故予想
可能な様式で重篤な関節炎症状が発症したトランスジェニック動物に至る一連の
自己免疫事象を開始させるTCRのコピーから実質的になることにより達成される
。
本発明の目的はまた、トランスジェニック非ヒト関節炎動物を作製するための
材料および方法を提供することであり、これらのいくつかは、治療用抗関節炎組
成物を調製するために使用され得る。
本発明のさらなる目的は、トランスジェニック非ヒト関節炎動物を用いて、目
的の種々の組成物(動物およびヒト遺伝子、ならびにそれらによりコードされる
遺伝子産物を含む)の抗関節炎能力または関節炎誘発能力を評価する方法を提供
することである。
さらに、本発明の目的は、トランスジェニック非ヒト関節炎動物のB細胞また
はT細胞由来のハイブリドーマ、およびハイブリドーマおよびこれらが由来する
B細胞およびT細胞によりトランスジーン関連結節炎と関連して産生される特異
的生体分子を提供することである。
さらに、本発明の目的は、ヒトを含む動物に対して内因性であり、ポリペプチ
ド関節炎誘発自己抗原を含む単離されたタンパク質、この単離されたタンパク質
を精製または産生する方法、およびこの単離されたタンパク質またはこれから誘
導される組成物を用いてヒトおよび動物の関節炎疾患を処置する方法を提供する
ことである。
発明の要旨
本発明は、実質的にトランスジーンによってコードされるTCRからなる制限さ
れたTCRレパートリーを有するトランスジェニック非ヒト動物が、慢性関節リュ
ウマチの重篤な古典的症状を選択的に含む表現型を有するという予期しない発見
に基づく。関節炎動物のTCRレパートリーは(限られているものの)、機能的に存
続可能である。関節炎動物の制限されたTCRレパートリーは、TCRのクラスの実質
的部分に存在し、TCRは、内因性ポリペプチド性関節炎生成抗原のエピトープを
認識する。好ましい実施態様において、本発明はトランスジェニック関節炎マウ
スに関し、ここで関節炎の表現型は、マウスのゲノムへのTCRαおよびβサブユ
ニットをコードするトランスジーンの挿入により存在し、TCRαおよびβサブユ
ニットは、トランスジェニック動物のT細胞中で結合してTCRを形成する。TCRは
、ウシ膵臓リボヌクレアーゼ(BPR)のアミノ酸41〜61に相当し、そしてアミノ酸
配列
を有するオリゴヌクレオチドの1つ以上のエピトープおよび/またはBPR由来オ
リゴペプチドの抗原と実質的に交差反応性である、内因性ポリペプチド関節炎生
成自己抗原の1つ以上のエピトープを含む抗原を認識する。
1つの局面において、本発明は関節炎のための動物モデルを提供する。罹患し
た個体において、関節炎は身体的障害、および疼痛を伴うため、ならびに社会に
対するその経済的影響のため、信頼性があり、そして再現性のある有益な関節炎
の動物モデルを得ることが所望される。本発明のトランスジェニック動物モデル
は、信頼性があり、そして再現性がある方法で動物が重篤な関節炎の症状を発症
させるモデルを提供する。本発明のトランスジェニック動物モデルの信頼性およ
び再現性は、以前に公知の関節炎の動物モデルにおいては見出されていない。
関連する局面において、本発明は、以下を提供する:(1)TCRαおよびβサ
ブユニットをコードするトランスジーンのトランスジェニック非ヒト動物での発
現により、制限されたTCRレパートリーを有する、トランスジェニック非ヒト動
物を生産するための方法、および(2)本発明のトランスジェニック動物を作製
するための手段、これは、抗原を認識するTCRの形成を指示するためにトランス
ジェニック動物のT細胞においてαおよびβサブユニットの可変領域および定常
領域をコードするDNA配列を発現し得る単離されたDNA分子を包含する。抗原は、
ウシ膵臓リボヌクレアーゼのアミノ酸41〜61に相当し、そしてアミノ酸配列
を有するオリゴヌクレオチドの1つ以上のエピトープおよび/または内因性ポリ
ペプチド関節炎生成自己抗原の1つ以上のエピトープを含む抗原を認識する。本
発明のTCR可変領域のアミノ酸配列に由来するオリゴペプチドは、治療用組成物
を設計するために使用される。
別の局面において、本発明は、(1)組成物をそれらの抗関節炎の(治療の)
可能性について試験し、そして(2)組成物をそれらの関節炎生成の(有害な)
可能性について評価するために、本発明の動物モデルを使用する方法を提供する
。
本発明のトランスジェニック動物はまた、内因性ポリペプチド関節炎生成自己
抗原(PASA)を認識する免疫系細胞および生体分子の供給源としても有用である。
本発明のトランスジェニック関節炎マウスのリンパ球に由来するハイブリドーマ
は、PASAを含む内因性タンパク質を特異的に認識する免疫原性エフェクター生体
分子を産生する。これらの免疫系細胞および生体分子は、ヒトを含む動物におい
てPASA含有タンパク質の濃度および分布をアッセイするために使用される。
本発明の1つ以上のマウスまたは細胞株、またはそれにより産生される免疫学
的エフェクター生体分子を利用して、本発明はさらに、ヒトを含む動物由来のPA
SAを含有する内因性タンパク質を同定および精製する方法を提供する。したがっ
て、別の局面において、本発明は、PASAを含む単離された内因性タンパク質を提
供し、そして関連する局面において、本発明はPASAを含有する単離された内因性
タンパク質に由来するオリゴペプチドを提供する。ヒトを含む動物由来の生物学
的体液から、ならびに組換えDNA技術で発現することにより、PASAを含有する単
離された内因性タンパク質を産生する手段および方法がまた提供される。
さらに別の局面において、本発明は慢性関節リュウマチのための治療用組成物
を提供し、これは、PASAを含有する単離された内因性タンパク質、PASAを含有す
る内因性タンパク質のポリペプチド配列に由来するアミノ酸配列を含む1つ以上
の単離されたオリゴペプチド、またはハイブリドーマR28により発現されるTCRサ
ブユニットの可変領域のアミノ酸配列に由来する1つ以上の合成ポリペプチドを
含有する。
図面の簡単な説明
図1はKRNトランスジェニックマウスを構築するために使用されるプラスミド
を示す。図1のパネルAはpaKRNを示し、これは原核ベクターである、pEMBL18由
来のDNA配列(太線)、およびハイブリドーマR28の機能的に再編成されたTCRα
対立遺伝子由来の約16kbのDNA配列を含む。TCRαサブユニットのエキソン(コー
ド配列)を点刻し(stipple)、そしてそれらの転写の方向を矢印で示す;非コ
ード領域(イントロンおよびエキソンに接する配列)を細線で示す。TCRαサブ
ユニットの可変領域をコードするエキソンのDNA配列を挿入図(inset)に示す;
可変領域のコード配列を中断するが、成熟mRNAにおいて削り取られる短いイント
ロンは、明瞭にするためにプラスミドの図に示されていないことに注意されたい
。図1のパネルBは、pbKPNを示し、これは、原核生物のベクターであるpTZ18(
太線)由来のDNA配列、およびハイブリドーマR28の機能的に再編成されたTCRβ
対立遺伝子由来の約18kbのDNA配列を含む。他の記号は、TCRβサブユニットをコ
ードするエキソンを斜線にした以外は、図1のパネルAと同様である。
図2は、KRNトランスジェニック動物と非トランスジェニック動物との交配か
ら生産された子孫間での、KRNトランスジェニック対立遺伝子のDNA配列の存在に
ついての核酸ハイブリダイゼーション(「サザン」)アッセイを示す。KRNトラ
ンスジェニック雌(黒丸)を非トランスジェニック雄(白四角)と交配させ、そ
して得られた子孫の尾から単離したDNAサンプルを検出可能に標識したトランス
ジーン特異的DNA配列でプローブした。
図3は、野生型マウス(左)おけるT細胞レセプターの発現のサイトフルオメ
トリック(cytofluorimetric)分析の結果とKRNトランスジェニックマウス(右
)の試験から得られた結果とを比較する。図3のパネルAでは、マウスのリ
ンパ節由来の細胞を、ハイブリドーマR28のTCRαおよびTCRβサブユニットの整
列部分からなるエピトープに関するポリクローナル抗体で染色した。図3のパネ
ルBでは、ハイブリドーマR28のTCRβサブユニットの遺伝子および他の機能的に
再編成されたTCRβ遺伝子において使用される可変領域のVβ6部分に特異的なモ
ノクローナル抗体で、細胞を染色した。
図4は、トランスジェニック関節炎マウスにおける関節炎の臨床症状およびこ
のマウスでの関節炎の進行形態を示す。図4のパネルAでは、非トランスジェニ
ック同腹子の後肢の隣に、トランスジェニックKRN×NOD関節炎マウスの後肢を示
す。図4のパネルBは、トランスジェニックKRN×NOD関節炎マウスとそれらの非
トランスジェニック同腹子の足関節の太さを年令順に測定した結果を示す図であ
る。
図5は、異なる遺伝学的背景において、KRNトランスジェニック対立遺伝子に
より誘導される関節炎の表現型を示す。3つの交配が示される;各場合において
マウスのB6株に由来する雄KRNトランスジェニック動物(黒四角)を種々の株背
景の非トランスジェニック雌動物(白丸)と交配した。図5の一番上のパネルに
おいて示される交配では、非トランスジェニック雌動物は、マウスのB6株由来で
あり、そして子孫において関節炎は観察されない。図5の中央のパネルにおいて
示される交配では、非トランスジェニック雌動物は、マウスのNOD株に由来し、
そして関節炎表現型の完全な浸透度が生じる。このことは全てのトランスジェニ
ック子孫が関節炎を発症した事実により明らかにされた。図5の一番下のパネル
において示される交配では、非トランスジェニック雌動物がNOD株のMHC遺伝子座
(B6.H2nod)を含むコンジェニック(cogenic)ゲノムを有する場合に、関節炎
表現型の完全な浸透度がまた観察された。
図6は、トランスジェニックKRN×NOD関節炎マウスの後肢のラジオグラフ(X
線画像)(右パネル)と非トランスジェニック、非関節炎同腹子の後肢のラジオ
グラフ(左パネル)とを対比する。
図7は、トランスジェニック関節炎マウスにおける関節炎の発生を防止する際
の抗CD-4モノクローナル抗体の効果を、未処置のコントロールトランスジェニッ
ック関節炎マウスでの関節炎の発生と比較して示す。関節炎の進行は3日毎の動
物の臨床試験により決定した。
発明の詳細な説明
用語および記号
本開示の目的のために、特に記載しない限り、本明細書中では以下の略語、定
義、遺伝学的名称、および制限酵素認識配列を使用する。
用語解説
アフィニティークロマトグラフィー:固定化基質が、クロマトグラフされる混
合物の特異的な成分に対して親和性を有するクロマトグラフィー。
アミノ酸配列:アミノ末端(N-末端)からカルボキシ末端(C-末端)の順序で
与えられるポリペプチドの配列。「ポリペプチド配列」、「ペプチド配列」、タ
ンパク質配列」、または「一次タンパク質配列」と同意語。
動物:(1)特に記載しない限り、個体および集団で、発生の全ての段階(胚
段階および胎児段階を含む)で、ヒト除き;そして(2)発生の任意の段階(胚
段階および胎児段階を含む)における個々の動物を含む、他の全ての脊椎動物を
包含する。「非ヒト動物」は「動物」と同じ意味を有する。
動物モデル:ヒト疾患を正確に模倣し、そして治療の可能性のある組成物また
は有害である可能性のある組成物が、疾患に対するそれらの効果について評価さ
れ得る非ヒト動物。
抗体:抗原に曝露される際、抗原に特異的に結合し得るB細胞により合成され
るタンパク質分子。免疫グロブリン(Ig)と同意語。
抗原:(1)動物における免疫応答、(2)免疫動物の免疫系の抗原認識成分
を特異的に相互作用する物質の分子または組成物。
自己抗原:自己免疫疾患における抗原である動物中の物質の正常な内因性分子
または組成物。
生体分子:生体器官により産生される分子。「生物学的分子」と同意語。
生化学的合成:ある生体分子の合成的産生。ここで他の生体分子が産生におい
て利用される。
生合成:生体器官による生体分子の産生。
キャリア:ハプテンに対する免疫応答を生じるために、ハプテンとの組み合せ
に必要とされる分子。
化学合成:あらゆる他の生体分の非存在下で、かつ他の生体分子の使用を必要
としない、生体分子の合成的生成。
クロマトグラフィー:種々の手段により固定相(液体または固体)の領域を通
り抜ける混合物(固体または液体)の均一で連続した流れにより、混合物の成分
の異なる移動を可能にすることを特徴とする、プロセス。
検出可能な標識:生体分子の検出を可能にするために生体分子に結合し得る化
学部分。これは、放射性標識、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ま
たはアルカリホスファターゼ、ストレプトアビジン、ビオチン)、抗体により認
識されるエピトープ、およびそれらの等価物からなる群より選択され得る。
検出可能に標識された:生体分子が、検出可能な標識に共有結合的に付着した
生体分子の状態。
疾患:(1)本質的に妊娠を除くが、妊娠に関連する自己免疫疾患は包含しな
い、そして(2)正常な生理学的機能を損なう生物または部分の任意の異常な状
態であって、具体的には感染、先天的欠陥、環境ストレスの結果としての状態。
DNA配列:5'から3'へ読むDNAの鎖の隣接するヌクレオチド塩基の配列。
酵素:特異的な化学反応を触媒するタンパク質で、しばしば1つ以上の生体分
子を基質および/または産物として含む。非生物由来の触媒とは異なり、酵素は
構造特異性を有する基質を認識し得る、すなわち、いくつかの酵素は、L-および
D-エナンチオマー対のうち1つのみの化学反応を認識し得、したがって触媒し得
る。
エピトープ:動物の免疫系の抗原認識成分と特異的に相互作用する、抗原の部
分。ポリペプチド性抗原において、エピトープは近接のアミノ酸の短い配列に対
応し得る;抗原の残りはキャリアと称される。抗原決定基と同意語。
発現ベクター:人工のDNA配列または人工的に改変された天然に存在するDNA配
列。この中に外来遺伝子または異常な遺伝子が、ベクターに適切な宿主生物にお
いてそれらを発現するために挿入され得る。
外来または異常な:健康な、野生型動物に対して非内因性。「外来抗原、また
は内因性であるが異常な抗原」は、免疫応答がまさに生じる生体分子を意味し、
侵襲性病原体由来の生体分子およびガン細胞または感染細胞に存在する動物によ
りコードされる生体分子(「非自己」と同意語)の両方を含む。「外来または異
常な遺伝子」は、動物のゲノムに対して内因性でないDNA配列、または、それら
が由来する内因性DNA配列が有さない特性(例えば、遺伝子の位置、発現の制御
、コピー数)を有するように再編成され、変異され、またはそうでなければ遺伝
子
操作される動物由来のDNA配列を意味する。
遺伝子:構造遺伝子(例えば、標準的な遺伝子コードにしたがってポリペプチ
ド配列をコードするリーディングフレーム(表2));および発現エレメント(
例えば、構造遺伝子の転写に必要とされるプロモーター、ターミネーター、エン
ハンサーなど)からなるDNA配列。
遺伝子操作される:遺伝子の変化を導入するために意図されたヒト操作に供す
ること。
ハプテン:(1)それ自身では動物における免疫応答を誘導し得ず、(2)ハ
プテンが結合するキャリアと組み合わせて、動物における免疫応答を誘導し得、
そして(3)免疫動物の免疫系の抗原認識成分と特異的に相互作用する小分子。
宿主動物:(1)天然に存在するまたは遺伝子操作された細胞内寄生体による
動物の細胞の侵入;または(2)ヒト操作による外来または異常な遺伝子の細胞
内への導入の結果として導入される外来および/または異常な遺伝子を有する動
物。
免疫動物:免疫量の抗原を有して存在し、それに対する体液性および/または
細胞介在性免疫応答を生成する動物。
アイソシゾマー:同じ認識配列をそれぞれ有することにより機能的に等価であ
る一組の制限酵素。
哺乳動物:(1)特に記載しない限り、個体および集団で、発生の全ての段階
(胚段階および胎児段階を含む)で、ヒトを除き;そして(2)脊椎動物の哺乳
動物のメンバーである全ての他の動物を包含し、発生の任意の段階(胚段階およ
び胎児段階を含む)における個々の動物を含み、自己調節体温、毛髪、および雌
においては授乳哺乳器官により区別される。
モノクローナル抗体:ハイブリドーマにより産生される、唯一の単離された抗
体分子。
単一特異性抗体:(1)短い、単離された合成抗原、または(2)短い、単離
されたキャリア結合ハプテンにおいて見出される単一のまたは数個のエピトープ
に対して、免疫学的に応答して産生されるポリクローナル抗体。
ポリクローナル抗体:全てが特定の抗原を認識する種々雑多の異なる抗原を包
含する組成物。
ポリペプチド:アミノ酸残基のポリマー
タンパク質:機能的な、3次元形態に編成された1つ以上のポリペプチドを含
む生体分子。
組換え生合成:生体分子をコードする遺伝物質の自然な導入により、特定の生
体分子を指示する生物における合成。
制限エンドヌクレアーゼ:DNA中の特異的な認識配列各存在位置でDNAを切断す
るエンドヌクレアーゼ。「制限酵素」と同意語。
トランスジーン:動物において天然に存在しない遺伝子。すなわち、人為的な
の手段により(すなわち、ヒト操作により)、動物に導入される外来または異常
な遺伝子。
トランスジェニック動物:人為的な手段により(すなわち、ヒト操作により)
、1つ以上のトランスジーンが導入されている動物。
本開示を通して、ポリペプチドおよび核酸配列に存在する、アミノ酸残基およ
びヌクレオチド残基の略号は、それぞれ、米国特許法施行規則(37.C.F.R.)§1
.822(1993年7月1日に改定された)に記載の通りである。
発明の詳細な説明
本発明は、T細胞レセプターの実質的に制限されたレパートリーを有する非ヒ
ト動物が、慢性関節リュウマチの重篤な古典的症状を選択的に含む表現型を示す
という予期しない発見に基づく。関節炎動物のTCRレパートリーは(例え、制限
されていても)、機能的に存続可能である。関節炎動物の制限されたTCRレパー
トリーはTCRの実質的部分に存在し、TCRは内因性ポリペプチド性関節炎生成自己
抗原の1つ以上のエピトープを認識する。好ましい実施態様において、TCRのα
サブユニットおよびβサブユニットをコードするトランスジーンの動物のゲノム
への挿入の結果、関節炎動物の制限されたTCRレパートリーを生ずる。TCRのαサ
ブユニットおよびβサブユニットは、得られるトランスジェニック動物のT細胞
中で組み合わされてTCRを形成する。TCRは、ウシ膵臓リボヌクレアーゼ(BPR)
のアミノ酸41〜61に相当し、そしてアミノ酸配列
を有するオリゴペプチドの1つ以上のエピトープ、および/またはBPR由来オリ
ゴペプチドの抗原と実質的に交差反応性である、内因性ポリペプチド関節炎生成
自己抗原を含有するタンパク質の1つ以上のエピトープを含む抗原に結合する。
本発明の非ヒト動物は、ウシ膵臓リボヌクレアーゼのアミノ酸41〜61および/
または内因性ポリペプチド関節炎生成自己抗原(PASA)の1つ以上のエピトープ
を認識および/または結合するT細胞レセプターの抗原認識サブユニットのトラ
ンスジェニックな発現の結果として、関節炎表現型を有する任意の動物を包含す
る。このような非ヒト動物としては、脊椎動物(例えば、齧歯類、非ヒト霊長類
、ヒツジ、イヌ、ウシ、両生類、ハ虫類など)が挙げられる。好ましい非ヒト動
物は、非ヒト哺乳動物種の動物から、最も好ましくは、ラットおよびマウスを含
む齧歯類由来の動物から、最も好ましくはマウスから選択される。
本発明のトランスジェニック動物は、人為的な手段により(例えば、人間の操
作により)、その動物において天然には存在しない1つ以上の遺伝子(例えば、
外来遺伝子、遺伝子操作された内因性遺伝子など)が導入されている動物である
。人為的に導入される遺伝子はトランスジーンとして公知であり、その動物と同
じ種または異なる種由来であり得るが、トランスジーンによって与えらえれる配
置および/または染色体座は、動物において天然には見出されない。トランスジ
ーンは外来DNA配列、すなわち宿主動物のゲノムにおいて通常見られない配列を
包含し得る。あるいはまたはさらに、正常な遺伝子のインビボでの発現パターン
を変更するために、あるいは内因性遺伝子によりコードされる遺伝子産物の生物
学的活性を変更または排除するために、トランスジーンはインビボで再編成また
は変異される点で異常である内因性DNA配列を含み得る。Watson,J.D.ら、「The
Introduction of Foreign Genes Into Mice」,Recombinant DNA,第2版、W.H.
Freeman & Co.,New York(1992),255-272頁;Gordon,J.W.,Intl.Rev.Cytol
. 115:171-229(1989);Jaenisch,R.,Science 240:1468-1474(1989);Rossant,
J.,Neuron 2:323-334(1990)。
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、トランスジーンを非ヒト動物の生
殖系列に導入することにより作製される。種々の発生段階の胚の標的細胞が本発
明のトランスジーンを導入するために用いられる。胚の標的細胞の発生段階に依
存して異なる方法が使用される。
1.接合体のマイクロインジェクションは、本発明を実施する間、動物のゲノ
ムにトランスジーンを組み込むために好ましい方法である。接合体は前核融合ま
たはそれに続く細胞分裂を受けていない受精卵であり、トランスジェニックDNA
配列のマイクロインジェクションのために好ましい標的細胞である。マウス雄前
核は、直径約20マイクロメーターの大きさ、1〜2ピコリットルのトランスジェ
ニックDNA配列を含有する溶液の生殖可能な注入を可能にする特徴に達する。ト
ランスジーンを導入するための接合体の使用は、ほとんどの場合、注入されるト
ランスジェニックDNA配列が最初の細胞分裂の前に宿主動物のゲノムに組み込ま
れるという利点を有する。Brinsterら,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)82:4438-4442
(1985)。その結果、得られるトランスジェニック動物(創始動物)の全細胞は、
トランスジェニック対立遺伝子と称される特定の遺伝子座で、組み込まれたトラ
ンスジーンを安定に有する。トランスジェニック対立遺伝子はメンデル遺伝を示
す:トランスジェニック動物と非トランスジェニック動物との交配の結果生じる
子孫の半分は、メンデルの独立の法則(Mendel's rules of random assortment
)にしたがってトランスジェニック対立遺伝子を遺伝する。
2.ウイルス性組み込みが本発明のトランスジーンを動物に導入するためにま
た使用され得る。胚盤胞として公知の発生段階まで、発生胚をインビトロで培養
する。この際、割球が適切なレトロウイルスで感染され得る。Jaenich,R.,Proc.
Natl.Sci.(USA)73:1260-1264。割球の感染は、透明帯を酵素的に除去すること
により増強される。Hoganら、Manipulating the Mouse Embryo,Cold Spring Ha
rbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1986)。トランスジーンは、典型的に
、複製欠損であるがウイルスに結合性のDNA配列(このようなウイルス配列に結
合するトランスジェニックDNA配列を含む)の取り込み能力を残存するウイルス
ベクターを介して、宿主動物のゲノムに導入される。Jahnerら、Proc.Natl.Acad
.Sci.(USA)82:6927-6931(1985);Van der Puttenら、Proc.Natl.Acad.Sci.(
USA)82:6148-6152(1985)。トランスフェクションは、トランスジーンを含有す
るウイルスベクターを産生する単層の細胞上での割球の培養により容易にかつ効
率よく得られる。Van der Puttenら、Proc.Natl.Acad.SCi.(USA)82:6148-6152(
1985);Stewartら、EMBO Journal 6:383-388(1987)。あるいは、感染は、胞胚腔
(blastocoele)のような後期の段階で実施され得る。Jahner,Dら、Nature 298:
623-628(1982)。任意の事象において、ウイルス性組み込みによって生成される
大部分のトランスジェニック創始動物は、トランスジェニック対立遺伝子につい
てモザイクである;すなわち、トランスジーンはトランスジェニック創始動物を
形成する全ての細胞のサブセットのみに組み込まれる。さらに、多数のウイルス
性組み込み事象が単一の創始動物において生じ得、将来の世代の子孫において分
離する多数のトランスジーン対立遺伝子を生成する。この方法による生殖系列細
胞へのトランスジーンの導入は、可能であるが、おそらく低頻度で生じる。Jahn
er,Dら、Nature 298:623-628(1982)。しかし、一旦トランスジーンがこの方法に
より生殖系列細胞に導入されると、全ての動物細胞において(すなわち、体細胞
および生殖系列細胞の両方において)、トランスジェニック対立遺伝子が存在す
る子孫が生産され得る。
3.胚の幹(ES)細胞はまた、本発明のトランスジーンを動物に導入するため
の標的細胞として供し得る。ES細胞はインビトロで培養される移植前の胚から得
られる。Evans,M.J.ら、Nature 292:154-156(1981);Bradley,M.O.ら、Nature 30
9:255-258(1984);Gosslerら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)83:9065-9069(198
6);Robertsonら、Nature 322:445-448(1986)。トランスジーンで形質転換され
ているES細胞は、動物胚盤胞と組み合わされ得、その後ES細胞は胚に定着し(co
lonize)、そして得られる動物の生殖系列に寄与し、その動物はキメラである(
2つ以上の動物に由来する細胞からなる)。Jaenisch,R.、Science 240:1468-14
74(1988)。さらに、一旦トランスジーンがこの方法により生殖系列細胞に導入さ
れると、全ての動物細胞において(すなわち、体細胞および生殖系列細胞の両方
において)、トランスジェニック対立遺伝子が存在する子孫が生産され得る。
トランスジーンの初めの導入はラマルクの(非メンデル)事象(Lamarckian(n
on-Mendelian)event)であるが、本発明のトランスジーンは生殖系列細胞に安定
に組み込まれ、そしてメンデル座(Mendelian loci)として、トランスジェニッ
ク動物の子孫に伝えられる。別のトランスジェニック技術により、ある細胞はト
ランスジーンを有し、そして他の細胞は有さないモザイクなトランスジェニック
動物が生じる。生殖系列細胞がトランスジーンを有しないモザイクなトランスジ
ェニック動物では、トランスジーンの子孫への伝達は生じない。それにも関わら
ず、モザイクなトランスジェニック動物はトランスジーンに関連する表現型を示
し得る。
トランスジーンは、ヒト疾患についての動物モデルを提供するために動物に導
入され得る。このような動物モデルを生じるトランスジーンとしては、例えば、
ヒトの遺伝子疾患における先天性代謝異常に関連する変異遺伝子産物をコードす
るトランスジーン、およびヒトの病原体(すなわち、細菌、ウイルス、または他
の病原性微生物)に対する罹患性を与えるために必要とされるヒトの因子をコー
ドするトランスジーンが挙げられる。Leder,P.ら、米国特許第5,175,383号(199
2年12月29日);Kindt,T.J.ら、米国特許第5,183,949号(1993年2月2日);Sm
all,J.A.ら、Cell 46:13-18(1986);Hooper,M.ら、Nature 326:292-295(198
7);Stacey,A.ら、Nature 332:131-136(1988);Windle,J.J.ら、Nature 343:665
-669(1990);Katz,J.D.ら、Cell 74:1089-1100(1993)。疾患に感染しやすくし
たトランスジェニック動物は、疾患を誘導する組成物を同定するために、および
疾患を誘導することが公知である組成物の病原性の可能性を評価するために使用
され得る。Berns,A.J.M.米国特許第5,174,986号(1992年12月29日)。
適切な株背景において、本発明のトランスジーンは、トランスジェニック動物
に対してそれらが発生するにつれて重篤な関節炎の表現型を与える。トランスジ
ェニックの遺伝子型は、メンデル式に生殖的に子孫に伝達されるが、トランスジ
ェニックの表現型(すなわち、関節炎)が十分に発現する能力は、異なる遺伝的
背景において変化し得る。本発明を実施するにおいて、株の特定の遺伝的背景の
ために、トランスジェニックの遺伝子型が有害な関節炎表現型を、検出可能なま
たは有意な程度まで発現しない株に属する宿主動物中で、本発明のトランスジー
ンを維持することが望ましい。トランスジーンをメンデル座として維持および遺
伝するが、有害なトランスジェニック表現型の発現を減少または阻害されるトラ
ンスジェニック動物系統は、トランスジェニック維持系統として公知である。
本発明を実施する間、トランスジェニック維持系統の動物は、トランスジーン
が有害な関節炎表現型を十分に発現する遺伝的背景を有する動物と交配される。
本発明のトランスジーンが遺伝した、したがって関節炎を発症する子孫は、本発
明のトランスジーンの配列に相当するか、または本発明のトランスジーンにより
コードされる独特の配列を含有する生体分子の存在について、子孫由来の遺伝物
質を分析することにより、トランスジーンが遺伝しない同腹子から区別される。
例えば、本発明のトランスジーンにより単独にコードされるポリペプチドを含む
生体液は、このポリペプチドの存在についてイムノアッセイされ得る。トランス
ジェニック子孫を同定する、より単純で信頼性のある手段は、動物の末端(例え
ば、尾)から組織サンプルを得る工程、および本発明のトランスジーンの独特な
部分単数または複数)のDNA配列に対応する核酸配列の存在についてサンプルを
分析する工程を包含する。このような核酸配列の存在は、例えば、トランスジー
ンの独特な部分に対応するDNA配列を用いるハイブリダイゼーション(「サザン
」)分析、基質としてサンプル中のDNA配列およびトランスジーンのDNA配列に
由来するオリゴヌクレオチドを用いるPCR反応の産物の分析などにより決定され
得る。
多様なT細胞レセプター(それぞれが、独特の可変領域を有するαおよびβを
有する)の動物のコレクションを、TCRレパートリーという。野生型の非抑制免
疫系を有する個々の動物(ヒトを含む)において、TCRレパートリーは、免疫系
に何百万の異なる抗原を正確に同定する能力を与える。分子遺伝学的技術(例え
ば、PCR増幅および機能的に再編成されたTCR遺伝子の可変領域をコードするDNA
分子の配列決定)は、個々の動物のTCRレパートリーを試験するために使用され
得る。Uematsu,Y.,Immunogenet.34:174-178(1991)。同様の方法で、特定の組
織または生体液におけるTCRレパートリーが試験され得る。
機能的に再編成されたTCRサブユニットをコードする本発明のトランスジーン
の動物への導入により、TCRレパートリーが実質的にトランスジーンにより発現
されたTCRからなる動物が生じる。トランスジェニックTCR動物において、TCRサ
ブユニットについての内因性遺伝子は、対立遺伝子排除として知られる現象によ
り発現されない。Alt,F.W.ら、Cell 21:1-12(1980);Early,P.およびHood,L.,Ce
ll 24:1-3(1981)。トランスジェニックマウスにおける機能的に再編成されたTCR
β遺伝子の発現は、明らかに、完全なV-D-J連結を阻害することにより、明らか
に内因性TCRβ遺伝子の発現を防止する。Weaver,D.ら、Cell 42:117-127(1985)
;Krimpenfort,P.ら、EMBO Journal 7:745-750(1988);Uematsu,Yら、Cell 52:8
31-841(1988)。可変領域を欠損する機能的に再編成されたTCRβ鎖のトランスジ
ェニック発現は、内因性TCRβ対立遺伝子を抑制し、したがって正常なT細胞の
成熟をブロックする。Krimpenfort,P.ら、Nature 341:742-746(1988);Krimpenf
ort,P.J.A.ら、米国特許第5,175,384号(1992年12月29日)。しかし、機能的に
再編成されたTCRα鎖の発現は、内因性TCRα遺伝子の再編成および発現を必
ずしも妨げない。Bluthmann,H.ら、Nature 334:156-159(1988);Borgulya,P.ら
、Cell 69:529(1992)。したがって、動物における機能的に再編成されたTCRα遺
伝子、および可変領域を含む機能的に再編成されたTCRβ遺伝子の両方のトラン
スジェニック発現により、機能的に存続可能な(制限されているものの)TCRレ
パートリーを有するトランスジェニック動物を生じる。したがって、本発明のト
ランスジェニック動物では、2つのトランスジーンにコードされるTCRサブユニ
ットからなるTCRが、他のタイプのTCRよりも優勢である。
本発明のトランスジーンは、ゲノム供給源由来のDNA配列、またはmRNA鋳型由
来のcDNA分子の調製物を単離または増幅することにより、あるいは化学合成また
は生化学合成により、あるいはそれらを組み合せることにより得られ得る。本発
明のトランスジーンの構造部分は、エキソンを含み、エキソンは特定のTCRのα
サブユニットおよびβサブユニットのリーディングフレームの部分を包含し、TC
Rをコードしないイントロンにより隔てられている。イントロンは成熟mRNA分子
から除去され、そしてイントロンに対応するアミノ酸配列は、成熟mRNA配列によ
り指示される生合成により生じるタンパク質中には出現しない。Chambon,P.,Sc
i.American 244:60-71(1981)。本発明のトランスジーンの構造部分は、可変領
域を含む、TCRのαサブユニットおよびβサブユニットをコードする。この可変
領域は、会合したTCR分子において、ウシ膵臓リボヌクレアーゼ(BPR)のアミノ
酸41〜61に相当し、そしてアミノ酸配列
を有するオリゴペプチドの1つ以上のエピトープ、および/またはBPR由来オリ
ゴペプチドのエピトープと実質的に交差反応性である、内因性ポリペプチド関節
炎生成自己抗原を含有するタンパク質の1つ以上のエピトープを含む抗原に結合
する可変領域を構成する。
発現されるためには、本発明のトランスジーンの構造部分は、機能的編成にお
いてプロモーターと結合されなくてはならない。プロモーターは天然に存在する
プロモーターである必要はない。異なるタイプのプロモーターが、異なるレベル
の発現を指示し、本発明のトランスジェニック動物において関節炎の程度を調節
するために使用され得る。構成的プロモーターが使用されることが望ましい場合
、SV40初期プロモーターのようなウイルスプロモーターが好ましい。他のプロモ
ーターは、半構成的または半誘導性であり得、すなわちトランスジェニック動物
に特定の誘導性組成物を投与することにより増加され得る基底レベルの発現を有
する。真に誘導性のプロモーター(すなわち、特定の誘導性組成物が存在する場
合にのみ機能するプロモーター)は、発現の厳密なコントロールが所望される場
合に用いられ得る。さらなるプロモーター関連調節エレメントは、本発明のトラ
ンスジーンの発現を増強、減少、あるいは一時的にまたは組織学的に制限するた
めに含有され得る。これらの手段によって、本発明のトランスジェニック関節炎
動物において生じる関節炎の生化学的特徴、細胞性の特徴、免疫学的特徴、およ
び生物学的特徴は、それらの有用な変異体を生成するために操作または制御され
得る。
本発明もまた実施し得る免疫学的方法は、ウシ膵臓リボヌクレアーゼのアミノ
酸41-61を含むポリペプチド、またはポリペプチド性関節炎生成自己抗原(PASA
)を含む単離されたタンパク質、あるいは本発明の単離されたPASA含有タンパク
質のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を有する合成ポリペプチドでの非ヒト
動物の免疫を包含する。あるいは、本発明のトランスジェニック関節炎動物由来
のT細胞を非トランスジェニック動物へ移すことが、そこでの自己免疫応答を確
立するために使用され得る。しかし、これらの免疫学的方法により生成される関
節炎動物は、本発明のトランスジェニック関節炎動物よりも再現性および疾患の
進行の予測性の程度が低い関節炎の症状を示す。
本発明の他の特徴および利点は、実施例および請求の範囲から明らかである。
実施例
以下の実施例は、本発明を説明するためにのみ供されるものであり、そして本
発明を何らかの方法で限定すると解釈されるべきではない。
実施例1:R28 TCRサブユニットをコードするトランスジーンの構築
本実施例は、R28細胞によって提示されるT細胞レセプターのαおよびβサブ
ユニットをコードする単離されたDNA配列ならびにこれに由来するトランスジー
ン構築物の産生を記述する。
ハイブリドーマR28由来のTCRサブユニットをコードするDNA配列
R28(非公式にはRNAse37ともいう)は、ウシ膵臓RNAse(BPR)のアミノ酸41位〜61
位に対応するオリゴペプチドを注射されたB10.A(4R)マウスに由来するマウスT
細胞ハイブリドーマである。Peccoud,J.ら、EMBO Journal 9:4215-4223(1990)。
インビトロにおいて、R28に提示されるTCRは、MHC Ak分子を提示するAPCによっ
て提示される場合、BPR由来オリゴペプチドに応答する。変異体MHC Ak分子を提
示するAPCを使用する場合、R28は、特徴づけられていないペプチド抗原を、交差
反応的に認識する。このペプチド抗原はウシ胎児血清中に存在するか、またはそ
の合成がウシ胎児血清によって促進されるかのいずれかである。しかし、このペ
プチド抗原はBPRでもBPR由来オリゴペプチドでもない。Dellabona,P.ら、Eur.J.
Immunol.21:209-213(1991)。
Igサブユニットの多くの異なるV、DおよびJセグメントをコードするDNA配
列は、生殖系列DNAにおいて多数の非発現コピーに存在する;TCRサブユニットの
セグメントの異なるが類似する集まり(collection)もまた存在する。例えば、マ
ウスゲノムにおいて、TCRβサブユニット遺伝子座は、直列に配置されたほぼ同
一の2つのCβ領域を含む。これら領域の各々の前には、1個のDセグメントお
よび6個のJセグメントが存在する;TCRβ座はまた、20〜30個のVセグメント
を含む。Davis,M.M.およびBjorkman,P.J.、Nature 334:395-402(1988)。動物の
発育の間、(TCRβについては)異なるV、DおよびJ遺伝子セグメントのランダム
な連結、または(TCRαについては)異なるVおよびJ遺伝子セグメントのランダ
ムな連結によって、免疫系の個々の細胞において多様な可変領域が作成される。
同時または同時期に、1つまたはそれ以上のヌクレオチドが遺伝子セグメントの
接合点で挿入され、このことが可変領域をコードする遺伝子セグメントにおいて
さらなる多様性を生み出す(特に、TCR可変領域の場合)。Sakano,H.ら、Nature 2
80:288-294(1979);Early,P.ら、Cell 19:981-992(1980);Davies,M.M.およびBj
orkman,P.J.、Nature 334:395-402(1988)。
TCRのα鎖およびβ鎖の両方の機能的に再編成された可変および連結領域を、
標準的な手順にしたがってクローン化および配列決定した。機能的に再編成され
たTCRまたはIgサブユニット遺伝子は、DNA再編成が機能的なTCRまたはIgサブユ
ニット、すなわち、V-D-J連結事象(大きなサブユニット)またはV-J連結事
象(小さなサブユニット)、および/または体細胞変異によって、リーディングフ
レームが変化しているか、または停止コドンがリーディングフレーム中に導入さ
れているので、生合成の間、成熟前には終止しないサブユニットをコードする発
現された遺伝子を生じているものである。TCRサブユニットの可変領域はT細胞
ごとに変化するが、定常領域は同じままである。したがって、TCRαサブユニッ
トおよびTCRβサブユニットの可変領域のアミノ酸配列の決定は、これらサブユ
ニットの定常領域の既知のアミノ酸配列と組み合わさって、独特な機能的TCR分
子を規定する。Kappler,J.ら、Cell 35:295-302(1983);Sim,G.K.ら、Nature 31
2:771-775(1984):Acuto,O.およびReinherz,E.L.、New England J.Med.312:110
0-111(1985);Yague,J.ら、Nucl.Acids Res.16:11355-11364(1988)。
R28由来のTCRのサブユニットの可変領域をコードするDNA配列の解析により、T
CRα可変配列がVα1に由来し、そしてTCRβ可変配列がVβ6に由来すること
が明らかになる(図1、パネルAおよびB)。TCRα可変領域の独特なアミノ酸配
列[配列番号5]およびTCRβ可変領域の独特なアミノ酸配列[配列番号7]は、治
療用組成物の設計に有用である(下記参照)。R28 TCRサブユニットの可変領域の
アミノ酸配列をコードするDNA配列[配列番号4および6]に対する等価物は、標
準的な遺伝コード(表2)にしたがって、等価な、すなわち、互いに同じアミノ酸
残基をコードするコドンを置換することによって生成される。
トランスジーンの構造
2つのDNAフラグメント(プラスミドpaKRNおよびpbKRN由来)を使用してKRNトラ
ンスジェニック株を作成した。両方のプラスミドは、ハイブリドーマR28から最
初に誘導されたDNA配列を含む。Peccoud,J.ら、EMBO Journal 9:4215-4223(1990
)。TCRのα鎖およびβ鎖の両方の機能的に再編成された可変および連結領域を、
カセットベクターの適切な部位に挿入した。このカセットベクターは、機能的に
再編成されたTCR可変領域のTCRサブユニット遺伝子への適切な挿入を可能にする
よう設計される。TCRサブユニット遺伝子は、トランスジェニックマウスへの導
入の際に、マウス発現配列に作動可能に連結される。
得られたプラスミドpaKRNおよびpbKRNの構造を、それぞれ、図1Aおよび1Bに、
各TCRサブユニットの可変領域をコードする機能的に再編成された遺伝子フラグ
メントの正確なヌクレオチド配列とともに示す。各プラスミドは、特定のTCRサ
ブユニットおよびマウスにおけるコード配列の発現に必要なシグナルをコードす
るDNA配列を含む。αサブユニットの遺伝子はpaKRNに含まれる;pbKRNはβサブ
ユニットの遺伝子を含む。具体的には、paKRNは、TCRVαプロモーター領域、R2
8から単離されたVα4可変領域および連結セグメントをコードするエキソン、
成熟mRNAには存在しないイントロン、Cα定常領域をコードするエキソン、およ
び3'側に隣接するDNA配列(ポリアデニル化シグナルおよび他の3'側発現シグナ
ルを含む)を含む。プラスミドpbKRNは、基本的には、同じ構造を有し、そしてTC
RVβプロモーター領域、R28から単離されたVβ6可変領域および連結セグメン
トをコードするエキソン、成熟mRNAには存在しないイントロン、Cβ定常領域を
コードするエキソン、ならびに3'側に隣接するDNA配列(ポリアデニル化シグナ
ルおよび他の3'側発現シグナルを含む)を含む。
プラスミドpaKRNまたはpbKRNのいずれかを含むEscherichia coli細胞を、ブダ
ペスト条約の下に、Collection Nationale de Culture de Micro-organismes(CN
ance)に、1994年5月18日に寄託し、そしてそれぞれ受託番号I-1413およびI-141
4が割り当てられた。本出願に対する特許証の発行後に、ブダペスト条約ならび
に適用され得る米国特許法および施行規則に従い、CNCMより請求人はこれらプラ
スミドの入手が可能になる。これらの寄託は、本発明を実施するためのライセン
スではなく、寄託が米国または他のいかなる国の特許法の要件を満たすために必
要であることの承認を意図しない。
実施例2:トランスジェニックTCRマウス株の構築
本実施例はトランスジェニックマウスの構築を記述する。このトランスジェニ
ックマウスは、実質的に、KRNトランスジェニック対立遺伝子によりコードされ
るTCRαサブユニットとTCRβサブユニットとからなるTCR集団(population)を有
する。KRNトランスジェニックマウスは、機能的に生存可能ではあるが制限され
たTCRレパートリーを有する。
マウスゲノムへのトランスジーンの導入
マイクロインジェクションにおける使用に適したDNA分子を作成するために、
原核宿主細胞におけるプラスミドpaKRNおよびpbKRNの維持のためだけに必要なこ
れらプラスミドのDNA配列を除去することが必要であった。このことを、制限エ
ンドヌクレアーゼSalI(paKRN)またはKpnI(pbKRN)でこれらのプラスミドを処理す
ること、および予備的なアガロースゲル電気泳動および電気溶出によって、それ
ぞれ、関連するSalIまたはKpnI制限フラグメント(図1)を単離することによって
達成した。制限フラグメントをフェノール−クロロホルムで2回抽出し、エタノ
ールで沈澱させ、そして再懸濁した。
TCRαトランスジーンおよびTCRβトランスジーンを含む単離された制限フラグ
メントを、トランスジェネシス(transgenesis)の標準的な手順にしたがって、B6
×SJL F2胚に注射した。Hogan,B.ら、Manipulating the Mouse Embryo、Cold Sp
ring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1〜332頁(1986)
。マウス受精卵を、数時間前に雄と交尾した過剰排卵の雌性B6×SJL F1の卵管か
ら卵丘として回収した。TCRαトランスジーンおよびTCRβトランスジーンを、各
受精卵の最も接近しやすい前核に注射した。マイクロインジェクトした卵を、母
体としての1日偽妊娠(one-day pseudopregnant)Swiss雌里親の卵管に移植し、
そして出産まで保持させた。
誕生から数週間後、トランスジェニック創始体(founder)を、子の尾生検から
単離されたDNA分子を用いてサザンハイブリダイゼーションによって同定した。
創始体マウスは、TCRαサブユニットおよびTCRβサブユニットの両方の遺伝子の
組み込まれたコピー(integrated copy)を含むゲノムを有し、そしてこの創始体
マウスをC57B1/6マウスと交配して、KRNトランスジェニックマウス株を確立した
。
トランスジーンの伝達
トランスジーンのメンデルの法則による伝達(Mendelian transmission)を、ト
ランスジェニックマウスを非トランスジェニックマウスと交配することにより達
成する。代表的には、C57B1/6マウスとの戻し交配であるが、他の系統も使用す
る。トランスジーン陽性子孫を、Vβ6セグメントに対する試薬を用いる末梢血
リンパ球のサイトフルオリメトリック分析(下記参照)、または核酸ハイブリダイ
ゼーションアッセイによって、型どおりに同定する。ハイブリダイゼーションア
ッセイには、それぞれの同腹子からの生物学的サンプルを得る(代表的には、そ
のマウスの尾の末端0.5〜1.0cmを物理的に分離することによる)工程、尾のサン
プルをホモジェナイズまたは抽出する工程、それらに由来するDNA分子を精製ま
たは増幅する工程、得られたDNA分子をEcoRV制限エンドヌクレアーゼで消化する
工程、制限されたDNA配列を電気泳動的に分離する工程、制限され、分離されたD
NA配列をフィルターに移し結合させる工程、およびフィルターに結合したDNA配
列を、検出可能に標識した核酸プローブでハイブリダイズする工程が含まれる。
ここで、この核酸プローブは、paKRN由来の約0.7kbのXmaI-NotIフラグメントか
らなる(図1A)。さらに、またはあるいは、pbKRN由来の約0.5kbのXhoI制限フラグ
メントを、検出可能に標識し、そしてトランスジェニック子孫のためのプローブ
として使用し得る。
同腹のKRN子孫のハイブリダイゼーションアッセイの代表例を図2に示す。ト
ランスジーンの伝達はメンデルの法則に従う;子孫の半数がトランスジーンにつ
いて陽性である。αトランスジーンおよびβトランスジーンは、マウス染色体上
で極近傍に連鎖しており、そしてそれぞれのトランスジェニックDNA配列のマイ
クロインジェクション後に、同時に組み込まれたようである。TCRのαトランス
ジーンおよびβトランスジーンを含む染色体座をKRNトランスジェニック対立遺
伝子と呼ぶ。
KRNトランスジェニック対立遺伝子の発現
いくつかの種類(line)の証拠により、αトランスジーンおよびβトランスジー
ンが、ともに、トランスジェニックマウスのリンパ球において高い比率で発現す
ること、およびトランスジーンによりコードされたTCRサブユニットからなるT
細胞レセプターが、トランスジェニック動物において、圧倒的な数の制限された
TCRレパートリーであることが示される。
TCRαの発現。 トランスジーンによりコードされるTCRαサブユニットの発現
を、2つの方法により示した。
第1に、TCRαレパートリーの無作為サンプリングを達成するために、リンパ
節細胞由来のTCRα転写物を、縮重オリゴヌクレオチドを使用するPCR反応により
ひとまとめに増幅した。Candeais,S.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)88:6167-617
0(1991)。増幅した転写物に対応するPCR産物を、M13バクテリオファージベクタ
ー中にクローン化し、そしてTCRαサブユニットに対応するcDNA配列を含むプラ
ークを、検出可能に標識した、Cαに特異的な核酸プローブを用いるハイブリダ
イゼーションによって明らかにした。ここで、このCαに特異的な核酸プローブ
は、以下に示される、共有されるCα定常領域由来のDNA配列を含む:
TCRαのcDNAクローンの中で、トランスジーンがコードする転写物に対応するク
ローンを、検出可能に標識した、トランスジーンに特異的な核酸プローブを用い
るハイブリダイゼーションによって検出した。このトランスジーンに特異的な核
酸プローブは、paKRN(図1A)に由来する約0.7kbのXmaI-NotIフラグメントからな
り、そしてpaKRNに含まれる機能的に再編成されたV-J連結領域に対応し、TCR
α可変領域をコードするトランスジーンに由来するcDNA配列と特異的にハイブリ
ダイズする。Cαに特異的なプローブを用いるハイブリダイゼーションによって
検出されたクローンのうち、97%はまた、トランスジーンに特異的なプローブを
用いるハイブリダイゼーションによって検出された。この結果は、トランスジー
ンがコードするTCRαサブユニットに対応するmRNA配列が、トランスジェニック
動物における大多数のTCRα転写物を説明することを示す。
第2に、抗イディオタイプ血清を、トランスジェニックリンパ節細胞を用いる
免疫化によって正常マウスに惹起した。抗イディオタイプ血清はポリクローナル
抗体を含む。このポリクローナル抗体は、KRNトランスジェニックマウス由来の
支配的なTCRの可変領域中またはその近傍に見出されるエピトープを認識する。
ハイブリドーマR28のTCRに対する抗イディオタイプ血清の特異性を、この血清
が、Tハイブリドーマ、およびR28または他のT細胞(例えば、KLy 11.10、Tris
およびBDC2.5)由来のTCRのα鎖およびβ鎖を発現するトランスフェクトされた細
胞を特異的に認識および染色したことを示すことによって立証した。CD4+リンパ
球を、標準的な方法にしたがって、野生型マウスおよびKRNトランスジェニック
マウスから単離した。Wysocki,L.J.およびSato,V.L.、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA
)75:2844-2848(1978);Wasik,M.A.およびMorimoto,C.、J.Immunol.144:3334-33
40(1990);Harriman,G.R.ら、J.Immunol.145:4206-2414(1990);Koulova,L.ら
、J.Immunol.145:2035-2043(1990)。CD4+リンパ球を、飽和用量の抗イディオタ
イプ血清とともに、4℃で15分間インキュベートし、洗浄し、そして検出可能に
標識した(すなわち、FITCへの結合により蛍光的にタグを付した)ヤギ抗マウス抗
体とともに、45分間4℃でインキュベートした。洗浄後、細胞を、1%ホルムア
ルデヒドで固定し、そして自動蛍光活性化セルソーター(例えば、Becton-Dick
tein,G.、米国特許第4,381,295号(1983年4月26日)、第4,364,932号および第4,3
64,936号(共に、1982年12月21日)。サイトフルオリメトリック分析により、抗イ
ディオタイプ血清が、トランスジェニックマウスにおいて大部分のCD4+リンパ球
と反応するが、コントロールの動物由来のCD4+リンパ球とは低強度でしか反応し
ないことを示す(図3、パネルA)。
TCRβの発現。 KRNマウスにおけるTCRβ鎖のトランスジーンの発現を、CD4+
リンパ球のサイトフルオリメトリック分析によって立証した。RR4.7モノクロー
ナル抗体(Pharmingen社(San Diego,CA)から市販;カタログ番号01361C)を使用
した。このモノクローナル抗体は、機能的に再編成されたトランスジーンのTCR
βに存在するV遺伝子セグメント(Vβ6)によってコードされるアミノ酸配列を
認識する。RR4.7モノクローナル抗体との反応によって示されるように、Vβ6
は、トランスジェニックマウスにおいて本質的にすべてのCD4+リンパ球に存在し
た(図3、パネルB)。このアッセイを使用して、混ざった同腹子の中のトランス
ジーン陽性動物を同定し得る。
R28 TCRのα鎖およびβ鎖からなるTCRによって与えられる抗原特異性を、末梢
リンパ節細胞において検出し得る。リンパ節T細胞を、以下のアミノ酸配列を有
するBPR由来オリゴペプチドおよびMHC分子を発現するAPCの存在下でインキュベ
ートした場合、細胞の強力な増殖を検出した:
実施例3:トランスジェニック関節炎マウスの単離および特徴付け
本明細書中で記載する関節炎の新規なトランスジェニックモデルは、この目標
に対して行われた努力の結果ではなかった。T細胞レパートリーの選択に付随す
る根本的な免疫学の問題に取り組むために、トランスジェニックマウスのKRN株
を、マウスに、遺伝子を導入することによって構築した。この遺伝子は、ウシ膵
臓RNAaseに反応性のマウスT細胞ハイブリドーマ由来の抗原に対するT細胞レセ
プター(TCR)のαサブユニットおよびβサブユニットをコードする。KRNトランス
ジーンを最初に導入されるマウスの系統C57B1/6の遺伝的背景において、このト
ランスジーンは異常な表現型を与えなかった。もちろん、それらの制限されたTC
Rレパートリーのために、これらマウスは、少なくとも、研究室環境において低
い頻度で遭遇する病原体に対して適切な免疫応答を高める能力が減少し得る。
次いで、C57B1/6 KRNトランスジェニックマウスを、同系交配のNOD系統のマウ
スと偶発的に交配させた。驚くことに、この交配によるトランスジーン陽性子孫
は、すべて、ヒトのRAに関連する重篤な症状(すなわち、四肢関節の慢性炎症お
よび変形)を発症する。NOD KRNトランスジェニック動物におけるこの疾患の浸透
度は100%である。すなわち、図5に示されるように、KRNトランスジーン対立遺
伝子を受け継ぐいずれのNODマウスも関節炎を発症する。雄も雌と同様に影響を
受ける。トランスジェニックマウスがNOD背景を有さない場合、関節炎を発症せ
ず(図5、KRN×B6)、そしてこのようなマウスをトランスジーン維持動物として
使用する。
関節炎の臨床経過
関節炎遺伝子型の浸透度に必要とされるKRNトランスジーンおよびNOD由来MHC
遺伝子を有するマウスにおける関節炎の進展(下記参照)を、関節炎動物の足首関
節の太さのカリパス測定(calliper measurement)、すなわち、炎症プロセスの開
始および展開(evolution)と良く相関する測定値を与える簡単なアッセイによっ
て追跡した。トランスジェニック関節炎マウスは関節の炎症の徴候を示す。この
徴候は、3週齢と4週齢との間で鮮明に始まり、この時期以前には、臨床徴候は
明らかではない(図4B)。遠位関節(distal joint)は、膝または肘より影響される
ようである。この関節は、赤く腫れ上がる;変形は2〜3週間後に始まり、肢の
運動性が減少するという予想される結果を伴う(図4A参照)。この状態は数週間持
続する。10〜12週間後、炎症の症状はいくらか治まるが、主要な後遺症である変
形は持続する。
関節炎がもたらす運動性の重大な減少のために、NOD KRNトランスジェニック
マウスは養育が下手である。しかし、NOD KRNトランスジェニックの親から同腹
子を得ることは可能である。実際、関節炎の動物を、C57B1/6背景のマウス(この
場合、関節炎の症状は発現しない)においてKRNトランスジーンを維持し、そして
トランスジーン陽性マウスをNODマウスと交配させることによって作成する。こ
の交配から得られるすべてのKRNトランスジーン陽性の子孫動物は、関節炎を発
症し、そして症状の発生の前に核酸ハイブリダイゼーションまたはサイトフルオ
リメトリック分析によって同定される。
ラジオグラフィー
ラジオグラフィー(x線像影)を、個々のNOD KRNトランスジェニック動物およ
び非トランスジェニック同腹子について、トランスジェニック動物における疾患
の発生後種々の時間に実施した。骨および軟骨の侵食は、膝および足首で明瞭に
見える(図6)。これは、外部から見ることが可能なひどい変形を反映する(図4
のパネルAと比較せよ)。骨腫症(osteophytosis)を伴う骨接合が広がっている。
より高齢の動物では、関節の顕著な再編成が存在する。これは外部から見ること
が可能な変形に一致する。x線写真では、脊柱もまたいくらか影響を受けている
ようである。
組織病理学
正常なマウスまたは関節炎(KRNトランスジェニックNOD)マウスの関節を、標準
的で通常の病理学技術に従いヘマトキシリン−エオシンを用いて染色した後、脊
椎、膝または足の関節の脱石灰化パラフィン切片の組織学的検査によって検査し
た。Stevens,A.、Theory and Practice of Histological Techniques,Bancroft
,J.D.およびStevens,A.編、第3版、Churchill Livingstone,Edinburgh,New Y
ork、107〜118頁(1990)。トランスジェニック関節炎マウスには、RA患者におい
て平行して発症する関節の炎症の非常に明らかな徴候がある:関節における、大
きな滑膜細胞(synoviocyte)の数重にも重ね合わさった層を伴う滑膜過形成、多
形性細胞の浸潤(顆粒球、リンパ球、形質細胞)、フィブリン性滲出物。軟骨の侵
食、破壊および再吸収は、疾患の2〜3週間後に優勢である。また、病変は遠位
関節で支配的であり、膝では明らかであるがより低い活性であり、そして臀部で
は非常に離散的である。脊椎もまた、炎症性浸潤物によって影響されるが、その
影響は穏やかである。3週齢前には組織学的病変は存在しない。
炎症または浸潤が検査した他の器官では検出されなかったことに注目すること
は重要である。要するに、トランスジェニック関節炎マウスにおける自己免疫応
答は重篤であるが、RAのように、滑膜組織、特に軟骨に限定される。したがって
、本発明のトランスジェニック関節炎動物モデルは、RAの以前に記述された動物
モデルとは異なり、ヒトRAの特色づける特徴を忠実に再現する。
KRN表現型の要件
トランスジェニック関節炎の最初の観察は、F1マウスにおいてなされた。この
F1マウスは、C57B1/6背景にKRNトランスジェニック対立遺伝子を有するマウスと
同系交配NOD/Ltマウスとの間での交配から生ずる。得られたKRNトランスジェニ
ックNOD動物は、ゲノム中の各遺伝子座に混ざり合った対立遺伝子を有する。こ
の混ざり合った対立遺伝子は、等しく寄与するNOD/Lt親からの対立遺伝子とC57B
1/6親からの対立遺伝子とからなる。KRNトランスジェニック対立遺伝子は、C57B
1/6背景に存在する場合、いかなる関節炎の症状も生じさせないので、NODゲノム
由来の遺伝要素(すなわち、1またはそれ以上の対立遺伝子)は、KRNトランスジ
ェニック対立遺伝子による関節炎の誘導に寄与する。
必要なNOD対立遺伝子を同定するために、非NOD KRNトランスジェニックマウス
を、B6.NH-2nod系統のマウス(H.Kikutani博士の寄贈)と交配させた。B6.NH-2nod
系統は、NOD系統マウスとB6系統マウスとに由来するキメラ系統である。B6.NH-2nod
マウスにおいて、すべての遺伝子座は、NOD系統マウスに由来するMHC座を除
いて、B6と同じ対立遺伝子を有する。関節炎疾患は、非NOD KRNトランスジェニ
ックマウスとB6.NH-2nodマウスとの交配からの後代(progeny)において発現した
。この後代は、KRNトランスジェニックマウスとNODマウスとのコントロール交配
の場合と同様に、同じ罹患率および特徴を有する(図5、それぞれ、KRN×B6.NH-
2nodおよびKRN×NOD)。これに対し、KRNトランスジェニックマウスとB6マウスと
の間の交配の子孫は、関節炎ではなく(図5KRN×B6)、試験した他の遺伝的組み
合せでは(すなわち、B10.D2、B10.M、B10.S、B10.BR、B10.A、およびB10.A(4R)
系統由来のKRNトランスジェニックマウスの交配では)関節炎疾患は見られなかっ
た。
したがって、KRNトランスジェニック対立遺伝子から生じる関節炎疾患は、異
なるマウス系統の特定のMHC座によって提供される遺伝要素のために、十分に発
現される。特に、NOD系統マウスのMHC座はKRN表現型の十分な発現を生じる。他
の系統のマウスのMHC座、または他の動物(ヒトを含む)のMHC座は、KRN表現型を
可能にする能力についてマウスモデルにおいて試験可能である(下記参照)。した
がって、本発明は、本発明の実施に使用し得るさらなる非NOD由来MHC座を同定お
よび単離する方法を提供する。
トランスジェニック関節炎マウスの免疫学
KRNトランスジェニックNODマウスにおいて関節炎を導くトランスジェニック対
立遺伝子の真の性質は、この疾患および(類推による拡張によって)RAにおけるT
リンパ球の決定的役割を暗示する。確かに、トランスジェニック関節炎マウスの
中枢T細胞集団および末梢T細胞集団の拡大したクローン排除が、この動物の発
育の間に生じる。クローン排除のメカニズムは、誕生の頃非常に活性である;CD
4+T細胞およびCD8+T細胞は、この時期の末梢リンパ様器官には、もしあっても
、ほとんどない。年齢と共にT細胞の脱落は、いくらか和らぐ傾向があり、そし
てCD4+リンパ球は、約3週齢の動物において脾臓およびリンパ節に現れる。
トランスジェニック関節炎マウスの免疫系のB細胞成分は、ほとんど影響を受
けない。B細胞の数および分布は相対的に正常である。しかし、循環性IgGのア
イソタイプには不均衡がある。KRNトランスジェニックNODマウスにおけるIgG1ア
イソタイプは顕著に増加している。リュウマチ様因子(すなわち、IgG抗体の定常
領域に対する抗体)は、トランスジェニック関節炎マウスにおいて検出されてい
ない。しかし、2ヶ月または3ヶ月後、多くのKRNトランスジェニックNODマウス
の脾臓およびリンパ節は、おそらくは、この動物の定常的な炎症状態に応答して
、全体的に肥大している。
実施例4:抗関節炎組成物を評価する方法
本発明のトランスジェニック関節炎マウスにおける関節炎の信頼できそして再
現性の性質、およびヒト慢性関節リュウマチに対するその明らかな関係のために
、本発明のトランスジェニック動物は、開発途中の抗関節炎組成物の安全性およ
び効力を推測するために使用される。抗関節炎組成物は、臨床発現の開始に先立
って、またはこの疾患は進展しているが治療不可能な関節の破壊および変形は起
きる前に投与される。
治療的な免疫介入
KRNトランスジェニックNOD関節炎マウスを、抗CD4抗体(ヒトにおいてRAの症状
を軽減する見込みがいくらかあると示されている組成物)で処置した。Moreland,
L.W.ら、Arthritis Rheum.36:307-319(1993)。処置された動物および非処置コ
ントロール動物における関節炎の進展を、3日ごとにマウスを臨床的に検査する
ことによってモニターした。図7に示されるように、トランスジェニック関節炎
マウスを2週齢からの抗CD4抗体で処置することにより、病理学的発現の出現が
予防された。
本発明の動物モデルは、他の可能性のある抗関節炎組成物を評価するために使
用される。可能性のある抗関節炎組成物には、グルココルチコイド、リンホカイ
ン、インターフェロン、サイトトキシンと抗体との接合体、CDタンパク質、MHC
タンパク質、CDタンパク質およびMHCタンパク質の誘導体、ならびにMHC分子によ
る抗原提示、MHC提示抗原のTCR認識、および/またはMHC分子とCDタンパク質との
間の相互作用に影響する合成化合物または単離されたエフェクター生体分子が含
まれるが、これらに限定されない。本発明のトランスジェニック関節炎動物は、
予想可能な様式で関節炎の症状を発症するので、本発明の動物モデルにおいて試
験される抗関節炎組成物の種々の効果を、以前可能であった様式より厳格な様式
で試験し得る。
抗関節炎組成物は、炎症を予防することによって、炎症応答を制限することに
よって、または炎症に続いて生じる組織の破壊を制限することによってその効果
を達成し得る。抗関節炎組成物を本発明のトランスジェニック動物に規定された
生後の時点に投与することにより、この組成物が関節炎の初期段階または後期段
階でその効果を発揮するかが明らかになる。例えば、炎症を予防する抗関節炎組
成物は、炎症応答が始まった後に投与された場合、続発性の組織破壊を予防する
抗関節炎組成物とは異なり、効果的ではない。
抗関節炎組成物の効力を、本発明のトランスジェニック関節炎動物において、
炎症および/または治療不可能な関節破壊および四肢の変形の開始時期および/ま
たはその程度の統計学的に有意な遅延を引き起こすことに関して評価する。本発
明のトランスジェニック関節炎動物の細胞性免疫学的パラメータ(例えば、CD4+
またはCD8+細胞の数および分布または特定のTCRまたはIg分子の数または分布)の
変化を、抗関節炎組成物への応答において、治療的免疫介入の基礎となるメカニ
ズムを解明するために測定する。
遺伝子治療
抗関節炎の可能性がある遺伝子産物(ポリペプチドを含む)をコードするDNA配
列を含有するトランスジーンを、マウスのゲノムに導入する。抗関節炎トランス
ジェニック創始体動物の子孫を、抗CD4または別の抗関節炎剤で処置したトラン
スジェニック関節炎マウスと交尾させることによって、本発明のトランスジェニ
ック抗関節炎動物モデルに、候補となる抗関節炎トランスジーンを導入する。こ
のことによって、トランスジェニック関節炎マウスに、活発に交尾プロセスを企
てるに十分な運動性を与える。あるいは、候補となる抗関節炎トランスジーンを
、NOD系統のマウス個体のゲノムに導入し、そしてNOD創始体の子孫を、非関節炎
KRNトランスジェニックマウスと交尾させ、そして一重トランスジェニック子孫
および二重トランスジェニック子孫における関節炎症状の発症をモニターし、そ
して比較する。抗関節炎性DNA配列は、抗関節炎性DNA配列の非存在下で関節炎を
発症するトランスジェニック関節炎動物において発現した場合、炎症を減少させ
るか、遅らせるか、または生じさせないものであるか、または炎症に続く続発性
の組織破壊を制限または排除するものである。
実施例5:関節炎生成組成物の評価方法
マウスのNOD系統由来のMHC遺伝子座を有するKRNトランスジェニックマウスで
は、全てのトランスジェニックマウスが関節炎になる。KRNトランスジェニック
対立遺伝子が関節炎を誘導できないマウスの系統由来のMHC遺伝子座を有するKRN
トランスジェニックマウスを用いて、関節炎生成能について組成物を評価した。
KRNトランスジェニック対立遺伝子の関節炎の可能性を増大する組成物は、本発
明の動物モデルにおいて関節炎生成性である。このような組成物は、グルココル
チコイド、リンホカイン、インターフェロン、サイトトキシンと抗体との結合物
、CDタンパク質、MHCタンパク質、CDタンパク質およびMHCタンパク質の誘導体、
およびMHC分子による抗原提示、MHC提示抗原のTCR認識、および/またはMHC分子
とCDタンパク質との間の相互作用に影響する合成化合物または単離されたエフェ
クター生体分子を包含するが、これらに限定されない。ヒトの雌においてより優
勢であり得、したがってそこでRAの増加した発病率に関係することが示唆されて
いる(Fox,H.S.ら,J.Immunol.146:4362-4367(1991))単離されたエフェクター生
体分子(例えば、γ−インターフェロン)を、他の性差に起因する影響を除去する
ために、本発明の雄および雌の両方のトランスジェニック非ヒト動物において試
験する。
関節炎生成組成物はまた、MHCタンパク質をコードするトランスジーンを含む
。ここで、トランスジーンにより発現されるDNA配列は、ヒトを含む動物のMHC遺
伝子座に由来する。いくつかのMHCタンパク質が、自己免疫疾患の発生に影響し
、そして特異的な変異体MHC対立遺伝子が、特定のヒト自己免疫疾患のより高い
危険性と相関することが示されている。ヒトにおいては、MHC抗原がHLA(ヒトリ
ンパ球抗原)タンパク質として知られ、例えば、HLA-DR4対立遺伝子を有する個体
は、他のHLA変異体を有する個体よりも6倍も慢性関節リウマチになりやすい。S
teinman,L.,Sci.Amerjcan 269: 106-114(1993)。エルジニア関節炎および硬直
性脊椎炎は、HLA-B27対立遺伝子と相関が高い。Vaughan,J.H.,Immunological D
iseases,第II巻,第3版,Samter,M.編,Little,Brown and Company,1029-10
37頁(1978)。
トランスジェニックマウスを用いた実験により示されたように、マウスT細胞
レパートリーは、ヒトMHC遺伝子産物(HLA タンパク質)を完全に使用し得る。Kie
vits,F.ら,Nature 329: 447-449(1987)。ヒト由来の特定のHLA分子をコードす
るDNA配列が単離され、そしてマウスゲノム内への導入およびマウス細胞内での
発現が可能であるように遺伝的に操作される。マウスにおけるヒトMHC遺伝子産
物の利用は、β2-マイクログロブリンタンパク質分子の共存を必要とし;したが
って、ヒトβ2-マイクログロブリンをコードするDNA配列が、同様に遺伝的に操
作される。Kievits,F.ら,Nature 329: 447-449(1987)。トランスジーンは、マ
ウスのゲノムに導入され、そして二重トランスジェニック(MHCおよびβ2-マイク
ログロブリン)元祖の子孫を非関節炎KRNトランスジェニックマウスと交配する。
二重トランスジェニック(MHCおよびβ2-マイクログロブリン)および三重トラン
スジェニック(MHC、β2-マイクログロブリン、およびKRN)の子孫を、MHC、β2
-マイクログロブリン、およびKRNトランスジーンのDNA配列に由来するプローブ
を用いて、上記のハイブリダイゼーションアッセイにより同定する。三重トラン
スジェニックの子孫における関節炎症状の発生および進展をモニターし、そして
二重トランスジェニックおよび非トランスジェニックの同腹子のそれと比較する
。
関節炎生成DNA配列は、トランスジェニック関節炎動物において発現される場
合、その動物は関節炎生成DNA配列の非存在下では関節炎を進展させず、KRN表現
型の部分的または全体的な発現をもたらすDNA配列である。本発明の方法により
試験され得るDNA配列は、ヒトHLA-B27、HLA-DR4、およびヒトMHCタンパク質をコ
ードする他の遺伝子(ヒトβ2-マイクログロブリンをコードするトランスジーン
と組み合わせて)(Kievits,F.ら,Nature 329: 447-449(1987))のDNA配列、なら
びに、試験されるMHC対立遺伝子に寄与する動物種に適切なβ2-マイクログロブ
リン遺伝子と組み合わせた、長期間の可動性の保証が必要とされる動物(例えば
、競走馬)由来のMHC対立遺伝子を包含するが、これらに限定されない。本発明
の動物モデルは、特定のMHC対立遺伝子と種々の形態のヒト関節炎との間で観察
される相関の基礎をなす細胞機構および分子機構を決定するための基礎を提供す
る。例えば、HLA-B27によりコードされるヒトMHCタンパク質は、ヒトにおけるい
くつかのタイプの関節炎と関係しており(Vaughns、前出)、そしてマウスにおい
てトランスジェニックで発現する場合、マウスTCRに対する抗原を提示し得る(Ki
evitsら、前出)。このアプローチは、少なくとも機構的な意味で、特定のヒトMH
C対立遺伝子と関節炎疾患との間の相関を決定するよりも満足がいく。
関節炎生成組成物の能力は、本発明のトランスジェニック関節炎動物における
、関節炎発生の時点で統計的に有意な増進を生じること、および/または炎症程
度の増大、および/または不治の関節破壊および四肢の変形に関して評価される
。あるいは、またはさらに、関節炎生成組成物の能力は、本発明のKRNトランス
ジェニック非関節炎動物における関節炎または関節炎症状の発病率の統計的に有
意な増大に関して評価される。関節炎生成組成物に応答して、本発明のトランス
ジェニック動物の細胞性免疫学的パラメーター(例えば、CD4+またはCD8+細胞の
数およびおよび分布、あるいは特定のTCRまたはIg分子の数および分布)の変化
が、治療的免疫介在(immunointervention)の基礎をなす機構を解明するために測
定される。
実施例6:
内因性ポリペプチド性関節炎生成自己抗原に結合する免疫系成分の単離
本実施例は、本発明のトランスジェニック関節炎マウスにおいてトランスジー
ンにコードされたTCRにより認識されるペプチド抗原を単離する方法を記載する
。これらのポリペプチドは、本発明のトランスジェニック関節炎動物の免疫系か
ら、ポリペプチド性関節炎生成自己抗原(PASA)を含有するマウスタンパク質の1
つ以上のエピトープと特異的に結合する細胞およびエフェクター生体分子を単離
するために用いられる。単離された細胞およびエフェクター生体分子は、PASA含
有タンパク質をヒトを含む他の動物種から単離するために用いられる(実施例7)
。
関節炎動物においてAPCにより提示されるオリゴペプチド。今後の実施例に不
可欠なものは、関節炎の病因の間、本発明のトランスジーンにコードされるTCR
に提示される内因性ポリペプチド抗原の同定である。このために、抗原提示細胞
(APC)が、関節炎症状の進展の前およびその間の種々の時点でトランスジェニッ
ク関節炎マウスから単離される。特に興味深いのは、誕生近くのクローン欠失の
活発な期間に胸腺に存在するAPCであるが、しかしAPCはまた、他の組織およびマ
ウスの一生の他の時点から単離される。ヘパリン処理した静脈血を、本発明のト
ランスジェニック関節炎マウスから得、そして多形核血球細胞(PMBC)をそこから
、例えば、Ficoll-Hyapque密度勾配遠心により単離する。PMBC調製物は、組織培
養フラスコ中で37℃にて2時間プラスチックに付着させることにより、単球およ
び/またはマクロファージを涸渇させる。付着細胞をかきとることにより回収し
、ウシ胎児血清(FCS)を含有しない適切な緩衝化培地に再懸濁する(これは、ウ
シ胎児血清は、R28のTCRにより認識され得る抗原を含有するためである)。Dell
abona,P.ら,Eur.J.Immunol.21:209-213(1991)。再懸濁した細胞を、APCの供給
源として用いる。Koulova,L.ら,J.Immunol.145: 2035-2043(1990)。
APCを0.025%トリプシンで処理してオリゴペプチドの採集を増強する。MHC分
子と会合するオリゴペプチドを、Slingluff,C.L.ら,J.Immunol.150: 2955-296
3(1993)の方法にしたがって単離し、そして逆相高速液体クロマトグラフィー(HP
LC)により分画するが、しかし他の分離技術も用いられ得る。Lehninger,A.L.,B
iochemistry,第2版,95〜121頁。関係するペプチドを含有するHPLC画分を、非
関節炎NODマウスから単離したAPCの存在下で、インターロイキン2の産生により
測定したR28ハイブリドーマ細胞の活性化により同定する。Miedema,F.およびM
elief,C.J.M.Immunol.Today 6: 258-259(1985)。活性を含むHPLC画分をプール
し、そして意図される次の使用に十分な純度の画分を生成するために必要に応じ
て再度クロマトグラフィーを行う。しかし、比較的粗製な画分でさえ、内因性ポ
リペプチド性関節炎生成自己抗原(PASA)に特異的なエフェクター生体分子を産生
するハイブリドーマを同定するために十分である。
十分に均質な材料が生成されるならば、次いでR28刺激性HPLC画分のオリゴペ
プチドが、反復エドマン分解を含むがこれに限定されない標準的な方法により配
列決定される。Lehninger,A.L.,Biochemistry,第2版,95-121頁(1978)。ある
いは、タンデム質量分析(TMS)を用いて最も豊富なペプチドの配列を同定する。C
ox,A.L.ら,Science 264; 716-719(1994)。TMSは、ポリペプチド中のアミノ酸残
基のIleとLeuとを区別できないが、TMSは、IleまたはLeuを代わりに含有する一
対のオリゴペプチドを設計するために用いられ得るアミノ酸配列データを生成す
る。TMS由来のアミノ酸配列を含有するオリゴペプチドは、標準的な方法(Stewar
tおよびYoung,Solid Phase Peptide Synthesis,Pierce Chemical Co.,Rockla
nd,Illinois(1985))にしたがって化学的に合成され、そして反応混合物から逆
相HPLCにより精製される。単離された合成オリゴペプチドを、非トランスジェニ
ックNODマウスから単離されたAPCの存在下でR28ハイブリドーマを刺激するそれ
らの能力について試験し、そしてこの方法で実際のR28刺激性オリゴペプチドの
配列を決定する。これらのアミノ酸配列は、内因性PASA含有タンパク質に由来す
る短いポリペプチドフラグメントに相当する。
ハイブリドーマの生成
脾臓および胸腺を関節炎トランスジェニックマウス(例えば、KRN-トランスジ
ェニックNODマウス)から死後に単離する。リンパ球(TまたはB細胞)を、関
節炎の進展中の種々の時点で1つ以上のトランスジエニック動物の単離された脾
臓または胸腺から調製する。個々の抗体産生TまたはB細胞を、インビボで不死
細胞と融合する。得られる安定に増殖する融合細胞株(ハイブリドーマ)(これ
らはそれぞれ、独特な抗原結合(可変)領域を有するTCR(T細胞)または抗体
(B細胞)を発現する)を、標準的なリンパ球培養技術により培養する。Harlow
,
E.およびLane,D.,Antibodies: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laor
atories,Cold Spring Harbor,N.Y.,139-281頁(1988); Ausubel,F.M.ら,編,Cu
rrent Protocols in Molecular Biology,第2巻,Greene Publishing Associate
s and john Wiley & Sons,11.4.1-11.11.5頁(1993)。
T細胞ハイブリドーマを、ウシ膵臓リボヌクレアーゼ(BPR)のアミノ酸41〜61
に対応し、かつ以下のアミノ酸配列を有するオリゴペプチドの存在下または非存
在下で、NODマウスから調製したAPCによる活性化についてスクリーニングする(
インターロイキン2の分泌として測定する)
あるいは、T細胞ハイブリドーマを、BPR由来オリゴペプチドおよびAPCの存在下
で、野生型または調節可能なAkMHC遺伝子を用いたトランスフェクトに起因する
変異型AkMHC分子を示す活性化についてスクリーニングする。Dellabona,P.ら,E
ur.J.Immunol.21: 209-213(1991)。いずれのタイプのAPCも、PASA含有タンパク
質に由来する粗オリゴペプチドまたは合成オリゴペプチドと二者択一で用いられ
る(上記を参照のこと)。いずれの場合でも、R28ハイブリドーマ細胞を、ポジ
ティブコントロールとして用いる。この方法で同定および単離されたT細胞ハイ
ブリドーマはTCRサブユニットを発現し、このTCRサブユニットは、本発明のトラ
ンスジーンにコードされるものと同一であるか、またはトランスジェニック関節
炎マウスにおいて産生されそして変化した結合特性を有するその変異体のいずれ
かである。
B細胞ハイブリドーマを、BPR由来オリゴペプチドおよび/またはPASA含有タ
ンパク質に由来する粗オリゴペプチドまたは合成オリゴペプチドを認識するモノ
クローナル抗体の産生についてスクリーニングする(上記を参照のこと)。所望
のB細胞ハイブリドーマを、BPR由来オリゴペプチドおよび/またはPASA含有タ
ンパク質に由来する粗オリゴペプチドまたは合成オリゴペプチドを抗原として用
いて、ELISAアッセイにより同定する。同定されたハイブリドーマにより産生さ
れるモノクローナル抗体を必要であれば精製する。Harlow,E.およびLane,D.Ant
ibodies: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratories,Cold Spri
ng Harbor,N.Y.,139-281頁(1988); Ausubel,F.M.ら,編,Current Protocols in
Molecular Biology,第2巻,Greene Publishing Associates and John Wiley &
Sons,11.4.1-11.11.5頁(1993)。
単一特異性抗体
内因性PASA含有タンパク質に由来する粗オリゴペプチドまたは合成オリゴペプ
チド(上記を参照のこと)を用いて、単一特異性抗体を生成し、次の実施例で用
いる。
「ポリクローナル抗体」は、全てが特定の抗原を認識する、異なる抗体の一群
を含有する組成物をいう。種々の方法で有用であるが、ポリクローナル抗体は、
それらの不均質な組成により制限を受ける。例えば、免疫応答を誘導するために
用いた抗原以外の抗原に対するいくつかのポリクローナル抗体の交差反応性が、
通常観察される。ポリクローナル抗体の特異性は、単一の選択したエピトープに
対応する、単離されたあるいは合成の抗原またはハプテンを用いることにより特
定のエピトープに限定され得る。抗原、またはキャリアと結合したハプテンを用
いて、動物中に体液性免疫応答を生成する。得られるポリクローナル抗体は、選
択されたエピトープに特異的であり、そして「単一特異性抗体」または「抗ペプ
チド抗体」といわれる。特に、合成オリゴペプチドを、抗原またハプテンとして
用いて、単一特異性抗体を作成し、このオリゴペプチドの配列に相当するかまた
は類似する配列を含むタンパク質をアッセイまたは単離するために用い得る。
内因性PASA含有タンパク質に由来する粗オリゴペプチドまたは合成オリゴペプ
チド(上記を参照のこと)を用いて、標準的方法にしたがって単一特異性抗体を
生成する。Wilkins,T.D.ら、米国特許第4,879,218号(1989年11月7日);Harlow,
E.およびLane,D.,Antibodies: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Labo
ratories,Cold Spring Harbor,N.Y.,53-137頁(1988); Ausubel,F.M.ら,編,Cu
rrent Protocols in Molecular Biology,第2巻,Greene Publishing Associat
es and John Wiley & Sons,11.12.1-11.15.4頁(1993)。
実施例7:
ポリペプチド関節炎生成自己抗原(PASA)を含有するタンパク質の単離
本発明のトランスジェニック関節炎マウスの発育中に、再現可能なしたがって
予測し得る方法で、伝授される免疫学的事象が、重篤な関節炎症状に進展するト
ランスジェニック動物で最高潮に達する免疫学的事象のカスケードの引き金とな
る。KRNトランスジェニック対立遺伝子は、特定のTCRを有する個体マウスにおい
て大部分のT細胞にあり、そして特定の系統のマウスに由来する抗原提示MHCタ
ンパク質が、発現されるトランスジェニック表現型に必要であるため、関節炎の
比較的初期に生じる重要な免疫学的事象が、T細胞による内因性自己抗原の認識
である可能性がある。これらの内因性自己抗原を、本明細書では一般に内因性ポ
リペプチド関節炎生成自己抗原(PASA)という。これらのPASAを含有するマウスタ
ンパク質は、ヒトRAの発生に根源的に重要なヒトタンパク質に相当すると考えら
れる。ヒトPASA含有タンパク質、ならびにヒトPASA含有タンパク質に由来する合
成化合物および誘導体化合物は、ヒトにおける関節炎の診断、予防、または治療
に有用である(後の実施例を参照のこと)。本発明のトランスジェニック関節炎
動物は、PASA含有タンパク質またはこのようなタンパク質をコードするDNA配列
をヒトを含む多くの動物供給源から単離され得る手段を提供する。
免疫検出によるPASA含有タンパク質の精製
前述の実施例のモノクローナル抗体または単一特異性抗体を、正常マウスおよ
び関節炎マウス、ならびにタンパク質精製に十分な材料がより容易に得られるよ
り大きな動物(例えば、ヒツジ、イヌ、ウシ、ウマなど)におけるPASA含有タン
パク質の身体内分布を同定するために、標準的方法にしたがって公知の免疫組織
学的技術でプローブとして用いる。必要であれば、発育の種々の段階の動物をこ
のように検査する。Ausubel,F.M.ら,編,Current Protocols in Molecular Biol
ogy,第2巻,Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons,14.0.1-
14.6.13頁(1993)。
比較的高濃度のPASA含有タンパク質を有する組織を死後の動物から取り出し、
そしてPASA含有タンパク質の供給源としてその精製のために用いる。精製アッセ
イとして、前述の実施例に記載のR28細胞の活性化を用いる。タンパク質精製の
標準的方法を用いる。Lehninger,A.L.Biochemistry,第2版,95-121頁。さら
に、またはあるいは、結合剤として前記実施例のモノクローナル抗体または単一
特異性抗体を含有するアフィニティーカラムを用いる。Harlow,E.およびLane,D.
,Antibodies: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratories,Cold
Spring Harbor,N.Y.,511-552頁(1988)。精製PASA含有タンパク質を、部分的タ
ンパク質分解および反復エドマン分解を含むがこれらに限定されない標準的方法
により配列決定する。Lehninger,A.L.,Biochemistry,第2版,95〜121頁(1978
)。
PASA含有タンパク質をコードするDNA配列
APCに結合するPASA由来オリゴペプチドのアミノ酸配列、またはPASA含有タン
パク質のアミノ酸配列、あるいはその両方を、遺伝コード(表2)とともに用い
て、PASA含有タンパク質をコードする遺伝子に特異的にハイブリダイズし得る合
成オリゴヌクレオチドの構築のために対応するDNA配列を設計する。Lathe,R.,J.
Mol.Biol.183: 1-12(1985)。オリゴヌクレオチドをプローブとして用いて、PAS
A含有タンパク質アミノ酸配列をコードするDNA制限フラグメントを検出する;次
いで制限フラグメントを適切なベクターにクローン化する。Ruter,W.J.ら、米国
特許第4,440,859号(1984年4月3日)。あるいは、オリゴヌクレオチドをPCR反応
におけるプライマーとして用いて、PASA含有タンパク質をコードするDNA配列を
増幅する。Mullis,K.B.ら、米国特許第4,965,188号(1990年10月23日)。特に、逆
PCRを用いて、最少量のアミノ酸配列情報から最大量のPASA含有タンパク質コー
ド配列情報を生成する。Ochman,H.ら,PCR Technology: Principles and Applic
ations for DNA Amplification,Erlich,H.A.編,Stockton Press,London,105
-111頁(1989)。次いでPCR産物を、適切なベクターにクローン化してから配列決
定するか、または直接配列決定する。Gyllensten,U.PCR Techmnology: Princip
les and Applications for DNA Amplification,Erlich,H.A.編,Stockton Pres
s,London,45-60頁(1989)。PASA含有タンパク質を産生するために、このタンパ
ク質をコードするDNA配列を適切な発現ベクターにクローン化し、次いでこ
れをそれらの同起源の宿主細胞に導入し、ここでPASA含有タンパク質の指示され
た生合成が行われる。Rutter,W.J.ら、米国特許第4,440,859号(1984年4月3日)
。
実施例8:治療組成物
前述の実施例のPASA含有タンパク質および本発明のトランスジーンのTCRサブ
ユニットの可変領域を用いて、ヒトを含む関節炎動物の処置に有用ないくつかの
組成物を作成する。
TCRオリゴペプチドを用いた免疫
機構は不明確なままであるが、TCRサブユニットの可変領域に相当する合成オ
リゴペプチドを用いた免疫は、実験的なアレルギー性脳髄膜炎(EAE)を予防また
は好転させることが示されている。EAEは、MBPを用いた動物の自己免疫により誘
導され、そしてMSの臨床的症状(例えば、髄鞘脱落および麻痺)を生成する。Ho
well,W.M.ら,Science 246: 668-670(1989); Vanderbarkら,Nature 341:541-54
4(1989)。TCR由来オリゴペプチドを用いたMSを患うヒトの処置の試験的な試みが
、現在進行中である。Oksenberg,J.R.ら,J.Neurol.Sci.115(補遺): S29-S37(1
993)。
本発明のTCR可変領域アミノ酸配列がマウスハイブリドーマから単離されたが
、自己免疫疾患に関連するTCRの著しい関連性が種系統に渡り、免疫系の分子成
分が、ヒトの治療用組成物をマウスTCR分子に由来させ得るように、十分保存さ
れていることを示唆する。例えば、何人かのMS患者は、HLAレセプター(HLA-DR2
分子)の一部に結合するミエリン塩基性タンパク質(MBP)のフラグメントを認識す
るTCRにより過剰提示(over-represented)されるTCR集団を有する。3アミノ酸の
配列(MBP:HLA-DR2複合体を認識するために明らかに必要とされる)が、これら
のTCRに存在した。Oksenberg,J.R.ら,Nature 362: 68-70(1993)。MBPの同じフ
ラグメントは、MS、EAEの動物モデルで優勢なTCRのクラスにより認識される。EA
E動物で優勢であるTCRは、MSヒトにおけるTCRに見出された同じ3つのアミノ酸
の配列を有する。Gold,D.P.ら,J.Exp.Med.174: 1467-1476(1991); Hashim,G.
ら,
J.Immunol.146:515-520(1991); Offner,H.ら,J.Immunol.146: 4165-4172(199
1); Vainiene,M.ら,J.Neurosci.Res.31: 413-420(1992); Offner,H.ら,J.Imm
unol.148: 1706-1711(1992); Gold,D.P.ら,J.Immunol.148: 1712-1717(1992)
; Offner,H.ら,J.Immunol.151:506-517(1993)。
R28由来のTCRサブユニットの可変領域のアミノ酸配列[配列番号5および7]を
用いて、ヒトを含む非マウス動物において治療的価値を有する合成オリゴペプチ
ドを設計する。配列番号5および7由来のアミノ酸を含むオリゴペプチドを、標
準的な方法(StewartおよびYoung,Solid Phase Peptide Synthesis,Pierce Che
mical Co.,Rockland,Illinois(1985))にしたがって化学的に合成し、そして逆
相HPLCにより反応混合物から精製する。最も効果的な抗関節炎オリゴペプチドは
、実施例4に記載のアッセイにより同定される。
経口トレランス治療
自己免疫は、例えば皮下注射により動物に自己抗原を直接提示することにより
もたらされ得るが、トレランスは、経口摂取により動物に抗原を提示することに
より達成され得る。このプロセス(経口トレランス治療と呼ばれる)は、いくつ
かの自己免疫応答影響を攻撃するサイトカインを分泌するT細胞を活性化するよ
うである。Strobel,S.ら,Immunology 56: 577-564(1985); Mowat,A.M.,Immuno
logy 56: 253-260(1985); Mowat,A.M.ら,Adv.Exp.Med.Biol.216A: 709-720(19
87);Lamont,A.G.ら,Immunology 63: 737-739(1988); Mowat,A.M.ら,Immunolog
y 64: 141-145(1988)。抗原の増強されたトレランスをもたらす経口摂取により
提示される抗原は、トレロジェンと呼ばれる。Thompson,H.S.ら,Clin.Exp.Immu
nol.72: 20-25(1988); Thompson,H.S.G.およびStaines,N.A.,Clin.Exp.Immuno
l.64: 581-586(1985); Thompson,H.S.およびStaines,N.A.,Immunol.Today 11:
396-399(1991)。
自己免疫疾患に対する経口トレランス治療は、EAE動物にミエリン塩基性タン
パク質を給餌することにより最初に示された。Bitar,D.M.およびWhitacre,C.C.,
Cell Immunol.112:364-370(1988); Fuller,K.A.ら,J.Neuroimmunol.28: 15-2
6(1990); Whitacre,C.C.ら,J.Immunol.147: 2155-2163(1991)。経口トレ
ランス治療は、動物モデルにおいて、関節炎、特に、コラーゲンが誘導された関
節炎(CIA)を抑制するのに効果的であることが示されている。Thompson,H.S.およ
びStaines,N.A.,Clin.Exp.Immunol.64: 581-586(1986);Nagler-Anderson,C.ら
,Proc..Natl.Acad.Sci.(USA)83: 7443-7446(1986)。II型コラーゲンのアミノ酸
配列に由来する合成オリゴペプチドもまた、トレロジェンとして効果的である。
Myers,L.K.ら,J.Exp.Med.170:1999-2010(1989)。合成ポリペプチドであるトレ
ロジェンは、トレロジェン原性に必要なエピトープ(単数および複数)をさらに
規定するために操作され得る。Meyers,L.K.ら,J.Immunol.149: 1439-1443(199
2);Meyers,L.K.ら,J.Immunol.150: 4652-4658(1993); Meyers,L.K.ら,J.Immu
nol.151: 500-505(1993)。
本発明のトランスジェニック関節炎マウスにおいてAPCに結合するオリゴペプ
チドのアミノ酸配列、またはPASA含有タンパク質のアミノ酸配列を用いて、経口
トレランス治療のための合成オリゴペプチドの配列を設計する。ヒトの治療のた
めには、好ましくはヒトPASA含有タンパク質由来のアミノ酸配列を用いる。選択
されたアミノ酸配列を含有するオリゴペプチドを、標準的な方法(Stewartおよび
Young,Solid Phase Peptide Synthesis,Pierce Chemical Co.,Rockland,Ill
inois(1985))にしたがって化学的に合成し、そして逆相HPLCにより反応混合物か
ら精製する。最も効果的な抗関節炎オリゴペプチドを、関節炎動物に対するオリ
ゴペプチドの投与手段として経口摂取を用いて実施例4に記載のアッセイにより
同定する。
MHCアンタゴニスト
EAEにおいて、人工的に導入された「自己」抗原とそれに由来する合成オリゴ
ペプチドとの間のインビボの競合が、自己免疫応答の誘導を調節するために用い
られ得る。これらのMHCアンタゴニストは、明らかにAPCのMHC分子により結合さ
れ、そしてT細胞に対して提示されるが、当初の抗原からの化学変化のため、T
細胞を活性化するためにそれらに対して十分に刺激的ではない。Zamvil,S.S.お
よびSteinman,L.Annu.Rev.Immunol.8: 579-621(1990);Steinman,L.Adv.Immun
ol.49: 357-379。関節炎において最高潮に達する後の免疫学的事象の原因とな
るT細胞の活性化は、疾患の経過に対してそれと並行した効果で遅延または阻害
される。
本発明のトランスジェニック関節炎マウスにおけるAPCに結合するオリゴペプ
チドのアミノ酸配列、またはPASA含有タンパク質のアミノ酸配列を用いて、MHC
アンタゴニストとして供される合成オリゴペプチドの配列を設計する。ヒトの治
療のためには、好ましくはヒトPASA含有タンパク質由来のアミノ酸配列を用いる
。選択されたアミノ酸配列を含有するオリゴペプチドを、標準的な方法(Stewart
およびYoung,Solid Phase Peptide Synthesis,Pierce Chemical Co.,Rocklan
d, Illinois(1985))にしたがって化学的に合成し、そして逆相HPLCにより反応混
合物から精製する。最も効果的な抗関節炎オリゴペプチドを、実施例4に記載の
アッセイにより同定する。
発明の有用性
上記の本発明の実施態様は、単独で、または互いに組み合わせて、あるいは他の
補足的な方法および/または組成物と組み合わせて、以下に列挙されるような目
的に用いられ得る。
(1)潜在的な抗関節炎治療用組成物を、トランスジェニック関節炎マウスにお
ける時間的および/または組織学的な関節炎の進行に対する組成物の効果を測定
することによりそれらの効率について評価し得る。評価される潜在的な抗関節炎
治療用組成物は、化学的化合物、トレロジェン、抗炎症剤、遺伝子治療剤、およ
び遺伝的に操作された微生物または細胞を包含するが、これらに限定されない。
詳細は実施例4を参照のこと。
(2)潜在的な関節炎生成(関節炎誘導性)組成物を、トランスジェニック関節
炎マウスにおける時間的および/または組織学的な関節炎の進行に対する組成物
の効果を測定することにより、または非関節炎KRNトランスジェニックマウスに
おけるKRNトランスジーン対立遺伝子の浸透度を強めるそれらの能力を測定する
ことにより、それらの危険性について評価する。評価される潜在的な関節炎生成
組成物は、化学的化合物、トレロジェン、抗炎症剤、遺伝子治療剤、および遺伝
的に操作された微生物または細胞を包含するが、これらに限定されない。詳細は
実施例5を参照のこと。
(3)関節炎トランスジェニックマウス由来のB細胞またはT細胞が単離され、
そして不死細胞に融合して、内因性ポリペプチド関節炎生成自己抗原(PASA)を認
識するモノクローナル抗体を産生するB細胞ハイブリドーマ、またはPASA含有タ
ンパク質の提示により活性化されるT細胞ハイブリドーマを作成する。ハイブリ
ドーマモノクローナル抗体は、(a)ヒトを含む個々の動物を慢性関節リウマチを
進展させるそれらの危険性について評価するため、および/または(b)ヒトを含
む動物由来のPASA含有タンパク質を単離するために用いられる。詳細は実施例6
を参照のこと。
(4)トランスジェニック関節炎マウスに由来する抗原提示細胞(APC)が集団で調
製され、そしてそれらと関連するポリペプチド抗原が単離される。トランスジェ
ニック関節炎マウスにおける限定されたTCRレパートリーのため、大部分のT細
胞は、内因性ポリペプチド関節炎生成自己抗原に仕向けられる。APC関連抗原を
認識するモノクローナル抗体または単一特異性抗体が調製され、そしてヒトを含
む動物からPASA含有タンパク質を単離するために用いられる。さらにまたはある
いは、APC関連ペプチドのアミノ酸配列が決定され、そしてPASA含有タンパク質
をコードする遺伝子(組換えDNA技術によりPASA含有タンパク質を産生するため
に用いられる)を単離するために用いられるオリゴヌクレオチドプローブおよび
/またはプライマーを設計するために用いられる。詳細は実施例6および実施例
7を参照のこと。
(5)ヒトを含む動物において、経口トレランス治療を含む抗関節炎治療に有用
な組成物、特に合成オリゴペプチドが、(a)単離された本発明のPASA含有タンパ
ク質または(b)本発明のTCRサブユニットの可変領域[配列番号5および7]のアミ
ノ酸配列から誘導可能である。詳細は実施例8を参照のこと。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
C12N 15/00 ZNA G01N 33/53 D
15/02 33/577 B
C12P 21/02 A61K 48/00
21/08 C12N 15/00 ZNA
G01N 33/53 5/00 B
33/577 15/00 C
// A61K 48/00 A61K 37/02 ABG
(71)出願人 ウニベルシットゥ ルイ パストゥール,
ストラスブール 1
フランス国 エフ−67070 ストラスブー
ル セデックス, ボイ ポステール
1032/エフ, リュ ブレーズ パスカル
4
(71)出願人 イー.アール. スキップ アンド サン
ズ, インコーポレイテッド
アメリカ合衆国 ニュージャージー
08543−4000,プリンストン,ローレンス
ビル−プリンストン ロード (番地な
し)
(72)発明者 ブノワ, クリストフ オー.
フランス国 エフ−67000 ストラスブー
ル, リュ デ アルバルデュ 2
(72)発明者 マティス, ディアンヌ ジ.
フランス国 エフ−67000 ストラスブー
ル, リュ デ アルバルデュ 2
(72)発明者 コースホフ, バレリー
アメリカ合衆国 コロラド 80206, デ
ンバー, ジャックソン ストリート
1400, ナショナル ジューウィッシュ
センター フォー イミュノロジー アン
ド レスピラトリー メディシン
【要約の続き】
節炎組成物を評価する動物モデルを提供する。本明細書
ではまた、本発明のトランスジーンのTCRの可変領域、
および/または内因性ポリペプチド関節炎生成抗原を含
有するタンパク質アミノ酸配列に由来する治療学的オリ
ゴペプチドも提供する。