JPH1180879A - 動的変形特性に優れた加工誘起変態型高強度鋼板 - Google Patents

動的変形特性に優れた加工誘起変態型高強度鋼板

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JPH1180879A
JPH1180879A JP25893997A JP25893997A JPH1180879A JP H1180879 A JPH1180879 A JP H1180879A JP 25893997 A JP25893997 A JP 25893997A JP 25893997 A JP25893997 A JP 25893997A JP H1180879 A JPH1180879 A JP H1180879A
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学 高橋
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幸久 栗山
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 衝突時の衝撃エネルギ吸収用として、適正な
特性および基準に基づいて選定され、安全性確保に確実
に寄与できるTRIP型高強度鋼板を提供する。 【解決手段】 C:0.04〜0.30%、SiとAl
の一方または双方:合計0.3〜3.0%の成分で、主
相であるフェライトと、3体積%以上のオーステナイト
を含む第2相からなる複合組織を有し、オーステナイト
相の初期体積率V(0) と、相当ひずみにして10%の予
変形を加えたときのオーステナイト相の体積率V(10)の
比V(10)/ V(0) が0.3以上であり、相当ひずみにて
0%超〜10%以下の予変形を加えたのち、準静的変形
強度σs と動的変形強度σd との差(σd −σs )が6
0MPa 以上である。また(σd −σs )≧4.1×σs
0.8−σs を満足する範囲である。予変形を調質圧延ま
たはおよびテンションレベラで与えた場合についても規
定している。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車部材等に使
用され、衝突時の衝撃エネルギを吸収することで安全性
確保に寄与することのできる動的変形特性に優れた加工
誘起変態型(以下TRIP型という)高強度鋼板に関す
るものである。
【0002】
【従来の技術】近年、衝突時の乗員保護が自動車の最重
要性能として認識され、それに対応するための高い衝撃
吸収性能を持つ材料が要求されている。たとえば乗用車
の前面衝突においては、フロントサイドメンバと呼ばれ
る部材にこのような材料を適用すれば、該部材が圧潰す
ることで衝撃エネルギが吸収され、乗員にかかる衝撃を
やわらげることができる。
【0003】自動車衝突時に各部位が受けるひずみ速度
は103 (s-1) 程度に達するため、材料の衝撃吸収性能
を考える場合、このような高速度域での動的変形特性の
解明が必要である。そして、自動車の軽量化と安全性向
上を両立させることのできる、動的変形特性に優れた高
強度鋼板が必要とされ、最近この点に関する報告が見ら
れる。
【0004】例えば本発明者らは、CAMP-ISIJ Vol.9(19
96) P.1112〜1115に、高強度薄鋼板の高速変形特性と衝
撃エネルギ吸収能について報告し、その中で、103 (s
-1)の高ひずみ速度での動的強度は、10-3(s-1) の低
ひずみ速度での静的強度と比較して大きく上昇するこ
と、鋼材の強度上昇によりクラッシュ時の吸収エネルギ
が向上すること、材料のひずみ速度依存性は鋼の組織に
依存すること、TRIP型鋼およびDP型鋼(デュアル
フェーズ型鋼)は優れた成形性と高い衝撃吸収能を兼ね
備えることを述べている。また上記TRIP型鋼に関し
本発明者らは、WO95/29268号公報に、自動車の軽量化の
要求に応えることのできる引張強度440MPa 以上の深
絞り成形に適した高強度鋼板とその製造方法を提案して
いる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記のように、高強度
鋼板について自動車衝突時の高ひずみ速度における動的
変形特性が解明されつつあるものの、衝撃エネルギ吸収
のための自動車部材として、鋼板のどのような特性に注
目し、どのような基準で材料選定を行えばよいかについ
ては、明らかにされていない。
【0006】また上記自動車部材は、鋼板に曲げやプレ
ス等の成形を施して製造され、衝突時の衝撃は、これら
成形加工された部材に対して加えられる。しかし、この
ような成形加工後における衝撃エネルギ吸収能を解明し
た、実部材としての動的変形特性に優れた鋼板について
は、従来知られていない。さらに自動車軽量化に適した
TRIP型高強度鋼板に関し、衝突時の衝撃エネルギ吸
収用部材として、どのような成分および組織がよいか、
またどのような基準で材料選定を行えばよいか不明であ
った。
【0007】本発明は、フロントサイドメンバ等の成形
加工された自動車部品に使用される高強度鋼板であっ
て、衝突時の衝撃エネルギ吸収用として、適正な特性お
よび基準に基づいて選定され、安全性確保に確実に寄与
することのできる、動的変形特性に優れたTRIP型高
強度鋼板を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
の本発明の第1発明は、重量%にて、Cを0.04〜
0.30%、SiとAlの一方または双方を合計で0.
3〜3.0%含み、残部がFeおよび不可避的不純物か
らなり、主相であるフェライトと、3体積%以上のオー
ステナイトを含む第2相からなる複合組織を有し、オー
ステナイト相の初期体積率V(0) と、相当ひずみにして
10%の予変形を加えたときのオーステナイト相の体積
率V(10)の比V(10)/V(0) が0.3以上であり、かつ
相当ひずみにて0%超〜10%以下の予変形を加えたの
ち、5×10-4〜5×10-3(s-1)のひずみ速度で変形
したときの準静的変形強度σs と、前記0%超〜10%
以下の予変形を加えたのち、5×102 〜5×103 (s
-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形強度σd と
の差(σd −σs )が60MPa 以上であることを特徴と
する動的変形特性に優れた加工誘起変態型高強度鋼板で
ある。
【0009】第2発明は、上記と同成分および同組織を
有し、前記比V(10)/V(0) が同じく0.3以上であ
り、かつ相当ひずみにて0%超〜10%以下の予変形を
加えたのち、5×10-4〜5×10-3(s-1) のひずみ速
度で変形したときの準静的変形強度σs と、前記0%超
〜10%以下の予変形を加えたのち、5×102 〜5×
103 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形強
度σd との差(σd −σs )が (σd −σs )≧4.1×σs 0.8 −σs (1) を満足する範囲であることを特徴とする動的変形特性に
優れた加工誘起変態型高強度鋼板である。
【0010】第3発明は、上記と同成分および同組織を
有し、前記比V(10)/V(0) が同じく0.3以上であ
り、かつ相当ひずみにて0%超〜10%以下の成形加工
による予変形を加えたのち、5×10-4〜5×10-3(s
-1) のひずみ速度で変形したときの準静的変形強度σs
と、前記0%超〜10%以下の予変形を加えたのち、5
×102 〜5×103 (s-1) のひずみ速度で変形したと
きの動的変形強度σd との差(σd −σs )が60MPa
以上であることを特徴とする動的変形特性に優れた加工
誘起変態型高強度鋼板である。
【0011】第4発明は、上記と同成分および同組織を
有し、前記比V(10)/V(0) が同じく0.3以上であ
り、かつ相当ひずみにて0%超〜10%以下の成形加工
による予変形を加えたのち、5×10-4〜5×10-3(s
-1) のひずみ速度で変形したときの準静的変形強度σs
と、前記0%超〜10%以下の予変形を加えたのち、5
×102 〜5×103 (s-1) のひずみ速度で変形したと
きの動的変形強度σd との差(σd −σs )が (σd −σs )≧4.1×σs 0.8 −σs (1) を満足する範囲であることを特徴とする動的変形特性に
優れた加工誘起変態型高強度鋼板である。
【0012】第5発明は、上記と同成分および同組織を
有し、前記比V(10)/V(0) が同じく0.3以上であ
り、かつ調質圧延とテンションレベラの一方または双方
による予変形を、塑性変形量Tを 0.5{V(10)/V(0) /C−3}+15≧T≧0.5{V(10)/V(0) /C −3} (2) に従って加えたのち、5×10-4〜5×10-3(s-1) の
ひずみ速度で変形したときの準静的変形強度σs と、前
記(2)式による予変形を加えたのち、5×102 〜5
×103 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形
強度σd との差(σd −σs )が60MPa 以上であるこ
とを特徴とする動的変形特性に優れた加工誘起変態型高
強度鋼板である。
【0013】第6発明は、上記と同成分および同組織を
有し、前記比V(10)/V(0) が同じく0.3以上であ
り、かつ調質圧延とテンションレベラの一方または双方
による予変形を、塑性変形量Tを 0.5{V(10)/V(0) /C−3}+15≧T≧0.5{V(10)/V(0) /C −3} (2) に従って加えたのち、5×10-4〜5×10-3(s-1) の
ひずみ速度で変形したときの準静的変形強度σs と、前
記(2)式による予変形を加えたのち、5×102 〜5
×103 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形
強度σd との差(σd −σs )が (σd −σs )≧4.1×σs 0.8 −σs (1) を満足する範囲であることを特徴とする動的変形特性に
優れた加工誘起変態型高強度鋼板である。
【0014】そして上記各発明において、重量%にて、
Mn,Ni,Cu,CrおよびMoの少なくとも1種を
合計で0.5〜3.5%含むことが好ましい。また、重
量%にて、Nb,Ti,VおよびPの少なくとも1種を
合計で0.2%以下含むことが好ましい。さらに、重量
%にて、Mn,Ni,Cu,CrおよびMoの少なくと
も1種を合計で0.5〜3.5%と、重量%にて、N
b,Ti,VおよびPの少なくとも1種を合計で0.2
%以下含むことが好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】自動車のフロントサイドメンバ等
の衝撃吸収用部材は、鋼板に曲げ加工やプレス加工など
を施して製造される。自動車衝突時の衝撃は、これら成
形加工された部材に対して加えられるため、本発明の鋼
板は、このような成形加工に相当する予変形後の状態
で、高い衝撃吸収性能を有していることが必要である。
しかし現在までのところ、成形による変形応力の上昇と
ひずみ速度上昇による変形応力の上昇とを同時に考慮し
て、実部材としての衝撃吸収特性に優れた鋼板を得る試
みはなされていない。
【0016】本発明者らの研究結果、このような成形加
工された実部材において優れた衝撃吸収特性を有する高
強度鋼板として、TRIP型鋼板が適している。すなわ
ち、主相として変形速度上昇による変形抵抗増加を担う
フェライト相と、変形中に硬質なマルテンサイト相に変
態するオーステナイト相がある場合に、静的強度に対し
て動的変形特性の優れた材料が得られることが判明し
た。しかし初期オーステナイト相が3体積%未満では、
高速変形下での加工誘起変態による変形抵抗増加への寄
与が小さく、従来材を上回る特性を得ることができない
ため、初期オーステナイト相の体積率V(0) を3体積%
以上と限定した。
【0017】また、オーステナイト相の変形に対する安
定性も動的強度の高い鋼板を得るためには重要である。
残留オーステナイトの中でも比較的加工安定性に優れた
ものが存在する場合に動的変形特性に優れた鋼板が得ら
れることがわかったが、鋭意研究の結果、初期オーステ
ナイトの体積率V(0) と、相当ひずみにして10%の予
変形を加えたときの残留オーステナイト相の体積率V(1
0)の比V(10)/V(0)が0.3以上の場合に優れた特性
を持つ鋼板が得られることが判明した。またこの安定性
は、プレス成形等の成形時に残留オーステナイトがほと
んど消費されて、衝突時の寄与が失われることを防止す
るためにも重要である。
【0018】成分の限定理由はつぎのとおりである。C
は他の高価な合金元素を用いることなくオーステナイト
を安定化させ、室温で残留させるために利用する本発明
で最も重要な元素である。Cはオーステナイトの体積分
率に影響するだけでなく、オーステナイト中にCが濃化
することでオーステナイトの安定性が増し、加工誘起マ
ルテンサイトの変形抵抗が増大する。平均C量が0.0
4重量%未満では、最終的に得られるオーステナイト体
積分率が3%未満であり、オーステナイトの加工安定性
が低いか、加工誘起マルテンサイトの変形抵抗が比較的
小さい。平均C量が増加するにしたがって、得られる残
留オーステナイトの最大体積分率が増加し、オーステナ
イトが安定化するが、同時に溶接性が劣化する。また母
相であるフェライト相の硬質化を招き、ひずみ速度上昇
による変形抵抗増加を阻害する。したがって、C含有量
を0.04重量%以上0.30重量%以下とした。
【0019】SiとAlはともにフェライト安定化元素
であり、本発明の対象とするフェライトを主相とする鋼
板には有効な添加元素である。またSiもAlもセメン
タイトなどの炭化物の生成を抑制し、結果としてCの消
費を防ぐことができる。これらの元素の添加量が単独も
しくは合計で0.3重量%未満の場合には、炭化物やマ
ルテンサイトが生成しやすく、母材が硬質化するだけで
なく、オーステナイト量が減少したり、成形初期でほと
んどが変態してしまう。
【0020】また、合計で3.0重量%を超えて添加さ
れた場合には、母相であるフェライト相の硬質化を招
き、ひずみ速度上昇による変形抵抗増加を阻害する。ま
た母相の変形抵抗が高く深絞り性向上効果が得られな
い、靭性が低下する、鋼材コストの上昇を招く、Siの
場合には化成処理性が劣化するといった問題が生じる。
したがって、SiとAlの一方または双方を合計で0.
3重量%以上3.0重量%以下とした。
【0021】必要に応じて添加するMn,Ni,Cu,
Cr,Moも、SiやAlと同様、炭化物の生成を遅ら
せる働きがあることからオーステナイトの残留に貢献す
る添加元素である。これに加えて、これらの合金元素は
オーステナイトの安定性を高めるため、V(10)/V(0)
を0.3以上とし衝撃吸収能の向上に有効である。すな
わち溶接性の観点からC量に制限がある場合には、これ
ら元素を添加するのが効果的である。これら元素の添加
量が合計で0.5重量%未満の場合にはその効果が十分
ではない。
【0022】一方これら元素の添加量が合計で3.5重
量%を超えると、母相であるフェライト相の硬質化を招
き、ひずみ速度上昇による変形抵抗増加を阻害する。ま
た母相が硬化し深絞り性に対する変態の寄与が低下する
ほか、鋼材コストの上昇を招く。したがって必要に応じ
て添加するMn,Ni,Cu,Cr,Moの添加量を
0.5重量%以上3.5重量%以下とした。
【0023】また必要に応じて添加するNb,Ti,V
は、炭化物、窒化物もしくは炭窒化物を形成し、鋼材の
高強度化に有効である。しかし0.2重量%を超えて添
加すると、母相であるフェライト相中または粒界に多量
の炭化物、窒化物もしくは炭窒化物として析出し、高速
変形時に可動転位の放出源となり、ひずみ速度上昇によ
る変形抵抗増加を阻害する。また母相の変形抵抗が必要
以上に増し、さらに不必要にCを浪費する。そのうえコ
ストの上昇を招く。したがって、必要に応じて添加する
Nb,Ti,Vは0.2重量%を上限とした。
【0024】さらに必要に応じて添加するPは、鋼材の
高強度化に効果的で安価な元素である。しかし、0.2
重量%を超えて添加された場合、鋼材のコスト上昇を招
くのみならず、フェライト相の変形抵抗が必要以上に増
す。また耐置割れ性の劣化が顕著になる。したがって
0.2重量%を上限とした。
【0025】つぎに本発明者らの実験検討の結果、実部
材の成形加工に相当する予変形の量は、部材中の部位に
よっては20%以上になる場合もあるが、相当ひずみに
して0%超〜10%以下の部位が大半であり、またその
領域での挙動を見ることによってそれ以外の領域の予測
が可能であることを見出した。したがって本発明におい
て、相当ひずみにして0%超〜10%以下の予変形を付
与することとした。
【0026】図1は、後述の実施例における表1の各鋼
種について、衝突時における成形部材の吸収エネルギE
abと素材強度Sの関係を示したものである。素材強度S
は、通常の引張り試験による引張り強さである。部材吸
収エネルギEabは、図2に示すような成形部材の長さ方
向(矢印の方向)に、質量400kgの重錘を速度15m/
s で衝突させ、そのときの圧潰量100mmまでの吸収エ
ネルギである。なお図2の成形部材は、厚さ2.0mmの
鋼板を成形したハット型部1に、同厚さ同鋼種の鋼板2
をスポット溶接により接合したものであり、ハット型部
1のコーナー半径は2mmである。3はスポット溶接部で
ある。
【0027】図1から、部材吸収エネルギはEab、素材
強度Sの高いものほど高くなる傾向がみられるが、ばら
つきの大きいことがわかる。そこで図1に示す各素材に
ついて、相当ひずみにして0%超〜10%以下の予変形
を加えたのち、5×10-4〜5×10-3(s-1) のひずみ
速度で変形したときの準静的変形強度σs と、5×10
2 〜5×103 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動
的変形強度σd を測定した。
【0028】その結果、(σd −σs )によって層別す
ることができた。図1の各プロットの記号で、○印は、
0%超〜10%以下の範囲のいずれかの予変形量で(σ
d −σs )<60MPa となるもの、●印は、前記範囲の
すべての予変形量で60MPa ≦(σd −σs )であり、
かつ予変形量が5%のとき、60MPa ≦(σd −σs )
<80MPa であるもの、黒四角印は、前記範囲のすべて
の予変形量で60MPa ≦(σd −σs )であり、かつ予
変形量が5%のとき、80MPa ≦(σd −σs )<10
0MPa であるもの、黒三角印は、前記範囲のすべての予
変形量で60MPa ≦(σd −σs )であり、かつ予変形
量が5%のとき、100MPa ≦(σd −σs )であるも
の、である。
【0029】そして、0%超〜10%以下の範囲のすべ
ての予変形量において60MPa ≦(σd −σs )である
ものは、衝突時の部材吸収エネルギEabが、素材強度S
から予測される値以上であり、衝突時の衝撃吸収用部材
として優れた動的変形特性を有する鋼板であった。前記
予測される値は、図1の曲線で示す値であり、 Eab=0.062S0.8 (3) で示される。したがって本発明の第1発明は、(σd −
σs )を60MPa 以上とした。
【0030】また、通常、動的変形強度は静的変形強度
の累乗の形で表されることが知られており、静的変形強
度が高くなるにつれて、動的変形強度と静的変形強度の
差は小さくなる。しかし、材料の高強度化による軽量化
を考えた場合、動的変形強度と静的変形強度の差が小さ
くなると材料置換による衝撃吸収能の向上が大きくは期
待できず、軽量化の達成が困難となる。この点に関して
研究の結果、(σd −σs )が上記(1)式を満足する
範囲であれば、材料置換による軽量化が達成できること
がわかり、第2発明は上記(1)式を満足する範囲とし
た。
【0031】以下に、衝突時の衝撃吸収能が高められる
機構について考察する。TRIP鋼板の衝撃吸収能を高
めるには、主相であるフェライトがSiやMn等により
固溶強化されていること、および衝突変形前のフェライ
ト相中の転位密度が高く、かつその転位がCやN等の固
溶元素により固着されていること、さらに残留オーステ
ナイトが高速変形中に変形抵抗を高める働きをすること
の3要件が重要である。
【0032】固溶強化は、固溶元素との相互作用により
転位の易動度が低下し、転位同士が絡み合うことで新た
な可動転位の増加を抑制するものであり、動的変形強度
の増大に寄与する。しかし固溶強化のみでは到達できる
動的変形強度に限界がある。また予変形により転位密度
を高めただけでは材料の延性が低下し、成形性の劣化を
来す。さらにTRIP鋼の場合、加工時に残留オーステ
ナイトがマルテンサイトに変態することにより強度上昇
をもたらすが、衝突時の高速変形においても残留オース
テナイトがマルテンサイトに変態することで衝撃吸収能
が高められる。したがって上記3要件をともに備えるこ
とが重要である。
【0033】そして衝撃吸収用部材には、衝突変形以前
に部材成形などの予変形が加えられている。この予変形
によって、静的な変形抵抗が上昇するほか、動的な変形
抵抗も上昇することが必要である。動的変形抵抗が上昇
しないと、従来材に比べた大きな衝撃吸収能の向上が見
込めないからである。本発明においては上記のように3
体積%以上のオーステナイトを含み、かつV(10)/V
(0) を0.3以上としているので、高速変形前にもオー
ステナイトが必要量残存しており、衝撃吸収能が向上す
る。
【0034】つぎに、予変形は部材成形のための成形加
工であってもよく、また該成形加工以前の鋼板素材に与
えられる調質圧延やテンションレベラによる加工であっ
てもよい。この場合、調質圧延とテンションレベラの一
方または双方とすることができる。すなわち、調質圧
延、テンションレベラ、調質圧延およびテンションレベ
ラのいずれであってもよい。さらに調質圧延やテンショ
ンレベラにより加工された鋼板素材に成形加工を加えて
もよい。
【0035】第3発明および第4発明は予変形を成形加
工としたものであるが、鋼板素材に上記のような加工が
施されていてもよい。また第5発明および第6発明は、
予変形を調質圧延とテンションレベラの一方または双方
で行うものであるが、さらに部材成形のための成形加工
が加えられてもよい。
【0036】特に大幅な軽量化を図るために薄手の鋼板
を素材とするような場合は、部材成形前に十分な動的強
度を有していることが重要である。上記第3発明および
第4発明では、主としてプレス成形による予変形を念頭
においたものであるが、プレス成形以外の成形、例えば
ロール成形による曲げ加工で部材が成形されるときは、
曲げ加工を受けない部位はすでに十分な動的強度を有
し、曲げ部位は成形によって動的強度がより向上するか
らである。
【0037】この場合、上記と同成分および同組織を有
し、前記比V(10)/V(0) が同じく0.3以上であり、
かつ調質圧延とテンションレベラの一方または双方によ
る予変形を、塑性変形量Tを上記(2)式に従って加え
たのち、5×10-4〜5×10-3(s-1) のひずみ速度で
変形したときの準静的変形強度σs と、前記(2)式に
よる予変形を加えたのち、5×102 〜5×10
3 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形強度σ
d との差(σd −σs )が60MPa 以上であるものを第
5発明とし、上記(1)式を満足するものを第6発明と
した。
【0038】第5発明および第6発明において与えられ
るべき塑性変形量Tには、つぎの3つ意味がある。第1
は他鋼種と同様、塑性変形による転位の導入が行われる
ということ、第2は塑性変形により残留オーステナイト
がマルテンサイト変態するということである。この変態
は、マルテンサイト周辺のフェライト相にひずみを与え
ることとなり、転位密度が増加する。第3は高速変形時
における残留オーステナイトの加工安定性を制御すると
いうことである。高速変形時の安定性を低めることで変
態が促進され、変形抵抗が上昇し、衝撃吸収能が向上す
る。
【0039】上記第1および第2のようにして導入され
た転位が、高速変形前に固溶元素により固着された状態
で存在すれば、高速変形時に大きな抵抗として作用す
る。そのため、鋼板素材のBH量が50MPa 以上あると
よく、望ましくは70MPa 以上あればなおよい。BH量
は固溶元素の指標である。引張試験片に2%の予ひずみ
を与え、そのときの荷重を測定し、170℃で20分加
熱する熱処理を行ったのち再び引張って降伏荷重を測定
し、熱処理前後の荷重差を原断面積で割ったものがBH
量である。
【0040】上記第3については、V(10)/V(0) およ
びC量が、与えるべき塑性変形量Tを決める指標とな
る。V(10)/V(0) は、高速変形前にすべてが変態して
しまうことを防ぐため下限を0.3としていた。しかし
高速変形時に変態しなければ強度上昇への寄与が期待さ
れ難い。また高速変形時により小さなひずみ域で変態す
るのであれば、衝突時に大きなひずみ域まで変形しない
部位でも多くのエネルギを吸収できるため有利である。
このような観点から残留オーステナイトの加工安定性を
制御し、安定性を低める、すなわち変態を促進すること
は重要である。
【0041】このように考察すると、V(10)/V(0) の
値が大きな材料については、部材成形以前の鋼板素材に
適正な塑性変形量Tを与えておけばよいことがわかる。
また残留オーステナイトの安定性を決める要因としてC
量がある。C量、正確には残留オーステナイト中のC量
が多いほど加工に対する安定性が高い。
【0042】本発明者は、鋭意研究の結果、フェライト
相と残留オーステナイト相以外のベイナイト相やマルテ
ンサイト相の状態も含めて、V(10)/V(0) /Cに着目
すれば残留オーステナイトの加工安定性を制御できるこ
とが判明した。ここでCは鋼全体のC含有量(重量%)
である。そして、鋼板素材に調質圧延とテンションレベ
ラの一方または双方によりあたえる塑性変形量Tを T≧0.5{V(10)/V(0) /C−3} とした。Tの上限は衝撃吸収能の点からの制限はない
が、曲げ性などの成形性の観点から 0.5{V(10)/V(0) /C−3}+15≧T とした。
【0043】なお調質圧延とテンションレベラの一方ま
たは双方により塑性変形量Tが与えられた鋼板素材に対
して、さらに部材成形用の成形加工を加えてもよく、そ
の場合の上記塑性変形量Tは、上限を0.5{V(10)/
V(0) /C−3}+5とするのが望ましい。
【0044】
【実施例】
[実施例1]:表1に示す24種類の鋼板について、予
変形後、塗装焼付けを想定して170℃20分の処理
(BH処理)を行った場合および行わなかった場合につ
いて、σd およびσs を測定した。σd およびσs の測
定は、鋼板の圧延方向と平行な方向を軸とする引張試験
により行った。また上記と同様にして、図2に示す成形
部材を製作し、BH処理を行った場合および行わなかっ
た場合について、部材吸収エネルギを測定した。予変形
は鋼板の圧延方向と直角方向に単軸引張りにて行い、相
当ひずみ量が表2中の値となるように付加した。
【0045】結果は、表2に示すとおり、成分がはずれ
た比較例のA鋼およびD鋼は(σd−σs )が60MPa
未満であり、かつ(1)式を満足しない。成分が本発明
の条件内であっても、V(10)/V(0) が0.3未満のN
o.8,9,15は、(σd −σs )が60MPa 未満で
あり、かつ(1)式を満足しない。そして部材吸収エネ
ルギが素材強度から予測される値未満であった。それに
対して、いずれの予変形量においても(σd −σs )が
60MPa 以上である本発明例、および(σd −σs )が
(1)式を満足する本発明例は、部材吸収エネルギが素
材強度から予測される値以上の優れた衝撃吸収能を示し
た。
【0046】[実施例2]:実部材は種々の変形様式に
より成形されるため、表2の記号11の本発明例につい
て、予変形を3種類の変形様式により行った。予変形量
はいずれも5%とし、変形様式は、鋼板の圧延方向と直
角方向(C方向)および平行方向(L方向)に単軸引張
りで行った場合、平面ひずみで行った場合、および等二
軸引張りで行った場合とした。
【0047】予変形後はBH処理を行い、ついで鋼板の
圧延方向と平行な方向を軸とする変形によりσd および
σs を測定した。結果は表3に示すとおり、(σd −σ
s )が60MPa 以上で、かつ(1)式を満足する範囲で
あり、部材吸収エネルギが素材強度から予測される値以
上の優れた衝撃吸収能を示した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】[実施例3]:表2のNo.5およびNo.1
1と同じ鋼、素材強度、V(0) およびV(10)/V(0) を
有するものについて、調質圧延の塑性変形量Tを変化さ
せ動的強度を測定した。図3にT−0.5{V(10)/V
(0) /C−3}と静動比との関係を示す。静動比は(調
質圧延後の動的強度)/(調質圧延前の静的強度)であ
る。(2)式を満足する第5発明および第6発明の範囲
で塑性変形量Tを与えたものは、静動比が1.2以上の
優れた特性を示す。
【0055】
【発明の効果】本発明により、自動車の軽量化と安全性
確保の要求にともに応えることのできる、衝突時の衝撃
吸収能の優れたTRIP型高強度鋼板を、確実に提供す
ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における部材吸収エネルギと素材強度の
関係を示すグラフである。
【図2】本発明における衝撃吸収エネルギ測定用の成形
部材を示す斜視図である。
【図3】本発明例および比較例の調質圧延による静動比
の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1…ハット型部 2…鋼板 3…スポット溶接部
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 佐久間 康治 千葉県君津市君津1番地 新日本製鐵株式 会社君津製鐵所内

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%にて、Cを0.04〜0.30
    %、SiとAlの一方または双方を合計で0.3〜3.
    0%含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    主相であるフェライトと、3体積%以上のオーステナイ
    トを含む第2相からなる複合組織を有し、オーステナイ
    ト相の初期体積率V(0) と、相当ひずみにして10%の
    予変形を加えたときのオーステナイト相の体積率V(10)
    の比V(10)/V(0) が0.3以上であり、かつ相当ひず
    みにて0%超〜10%以下の予変形を加えたのち、5×
    10-4〜5×10-3(s-1) のひずみ速度で変形したとき
    の準静的変形強度σs と、前記0%超〜10%以下の予
    変形を加えたのち、5×102 〜5×103 (s-1) のひ
    ずみ速度で変形したときの動的変形強度σd との差(σ
    d −σs )が60MPa 以上であることを特徴とする動的
    変形特性に優れた加工誘起変態型高強度鋼板。
  2. 【請求項2】 重量%にて、Cを0.04〜0.30
    %、SiとAlの一方または双方を合計で0.3〜3.
    0%含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    主相であるフェライトと、3体積%以上のオーステナイ
    トを含む第2相からなる複合組織を有し、オーステナイ
    ト相の初期体積率V(0) と、相当ひずみにして10%の
    予変形を加えたときのオーステナイト相の体積率V(10)
    の比V(10)/V(0) が0.3以上であり、かつ相当ひず
    みにて0%超〜10%以下の予変形を加えたのち、5×
    10-4〜5×10-3(s-1) のひずみ速度で変形したとき
    の準静的変形強度σs と、前記0%超〜10%以下の予
    変形を加えたのち、5×102 〜5×103 (s-1) のひ
    ずみ速度で変形したときの動的変形強度σd との差(σ
    d −σs )が (σd −σs )≧4.1×σs 0.8 −σs (1) を満足する範囲であることを特徴とする動的変形特性に
    優れた加工誘起変態型高強度鋼板。
  3. 【請求項3】 重量%にて、Cを0.04〜0.30
    %、SiとAlの一方または双方を合計で0.3〜3.
    0%含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    主相であるフェライトと、3体積%以上のオーステナイ
    トを含む第2相からなる複合組織を有し、オーステナイ
    ト相の初期体積率V(0) と、相当ひずみにして10%の
    予変形を加えたときのオーステナイト相の体積率V(10)
    の比V(10)/V(0) が0.3以上であり、かつ相当ひず
    みにて0%超〜10%以下の成形加工による予変形を加
    えたのち、5×10-4〜5×10-3(s-1) のひずみ速度
    で変形したときの準静的変形強度σs と、前記0%超〜
    10%以下の予変形を加えたのち、5×102 〜5×1
    3 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形強度
    σd との差(σd −σs )が60MPa 以上であることを
    特徴とする動的変形特性に優れた加工誘起変態型高強度
    鋼板。
  4. 【請求項4】 重量%にて、Cを0.04〜0.30
    %、SiとAlの一方または双方を合計で0.3〜3.
    0%含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    主相であるフェライトと、3体積%以上のオーステナイ
    トを含む第2相からなる複合組織を有し、オーステナイ
    ト相の初期体積率V(0) と、相当ひずみにして10%の
    予変形を加えたときのオーステナイト相の体積率V(10)
    の比V(10)/V(0) が0.3以上であり、かつ相当ひず
    みにて0%超〜10%以下の成形加工による予変形を加
    えたのち、5×10-4〜5×10-3(s-1) のひずみ速度
    で変形したときの準静的変形強度σs と、前記0%超〜
    10%以下の予変形を加えたのち、5×102 〜5×1
    3 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形強度
    σd との差(σd −σs )が (σd −σs )≧4.1×σs 0.8 −σs (1) を満足する範囲であることを特徴とする動的変形特性に
    優れた加工誘起変態型高強度鋼板。
  5. 【請求項5】 重量%にて、Cを0.04〜0.30
    %、SiとAlの一方または双方を合計で0.3〜3.
    0%含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    主相であるフェライトと、3体積%以上のオーステナイ
    トを含む第2相からなる複合組織を有し、オーステナイ
    ト相の初期体積率V(0) と、相当ひずみにして10%の
    予変形を加えたときのオーステナイト相の体積率V(10)
    の比V(10)/V(0) が0.3以上であり、かつ調質圧延
    とテンションレベラの一方または双方による予変形を、
    塑性変形量Tを 0.5{V(10)/V(0) /C−3}+15≧T≧0.5{V(10)/V(0) /C −3} (2) に従って加えたのち、5×10-4〜5×10-3(s-1) の
    ひずみ速度で変形したときの準静的変形強度σs と、前
    記(2)式による予変形を加えたのち、5×102 〜5
    ×103 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形
    強度σd との差(σd −σs )が60MPa 以上であるこ
    とを特徴とする動的変形特性に優れた加工誘起変態型高
    強度鋼板。
  6. 【請求項6】 重量%にて、Cを0.04〜0.30
    %、SiとAlの一方または双方を合計で0.3〜3.
    0%含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    主相であるフェライトと、3体積%以上のオーステナイ
    トを含む第2相からなる複合組織を有し、オーステナイ
    ト相の初期体積率V(0) と、相当ひずみにして10%の
    予変形を加えたときのオーステナイト相の体積率V(10)
    の比V(10)/V(0) が0.3以上であり、かつ調質圧延
    とテンションレベラの一方または双方による予変形を、
    塑性変形量Tを 0.5{V(10)/V(0) /C−3}+15≧T≧0.5{V(10)/V(0) /C −3} (2) に従って加えたのち、5×10-4〜5×10-3(s-1) の
    ひずみ速度で変形したときの準静的変形強度σs と、前
    記(2)式による予変形を加えたのち、5×102 〜5
    ×103 (s-1) のひずみ速度で変形したときの動的変形
    強度σd との差(σd −σs )が (σd −σs )≧4.1×σs 0.8 −σs (1) を満足する範囲であることを特徴とする動的変形特性に
    優れた加工誘起変態型高強度鋼板。
  7. 【請求項7】 重量%にて、Mn,Ni,Cu,Crお
    よびMoの少なくとも1種を合計で0.5〜3.5%含
    む請求項1〜6記載の動的変形特性に優れた加工誘起変
    態型高強度鋼板。
  8. 【請求項8】 重量%にて、Nb,Ti,VおよびPの
    少なくとも1種を合計で0.2%以下含む請求項1〜7
    記載の動的変形特性に優れた加工誘起変態型高強度鋼
    板。
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