JP2004018573A - プロトン伝導性高分子膜 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明の目的は、固体高分子形燃料電池の電解質膜に有用なプロトン伝導度と耐酸化性に代表される耐久性のバランスに優れたプロトン伝導性高分子膜を提供する。
【解決手段】プロトン伝導性置換基を有する高分子化合物と2〜4価の多価金属(好ましくは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)よりなる群から選択される少なくとも1種)を用いてなる高分子膜であって、プロトン伝導性置換基の水素原子の少なくとも一部が、前記多価金属で置換されているものであるプロトン伝導性高分子膜。
【選択図】なし
【解決手段】プロトン伝導性置換基を有する高分子化合物と2〜4価の多価金属(好ましくは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)よりなる群から選択される少なくとも1種)を用いてなる高分子膜であって、プロトン伝導性置換基の水素原子の少なくとも一部が、前記多価金属で置換されているものであるプロトン伝導性高分子膜。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体高分子形燃料電池の電解質膜として有用なプロトン伝導性高分子膜に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境問題や省エネルギーに対する意識の高まりにより、クリーンなエネルギー源として燃料電池が脚光を浴びている。中でも、電解質にプロトン伝導性高分子膜を使用した固体高分子形燃料電池は、低温作動、小型軽量など、他の燃料電池(リン酸形、固体酸化物形、溶融炭酸塩形)にない特徴を有することから、自動車用途、家庭用コージェネレーション用途への適用が検討されてきた。
【0003】
燃料電池用膜としては、1950年代に開発された、スチレン系の陽イオン交換膜があるが、燃料電池動作環境下における安定性に乏しく、本膜を用いての実用上、充分な寿命を有する燃料電池を製造するには至っていない。実用的安定性を有する燃料電池用膜としては、ナフィオン(Nafion,デュポン社の登録商標。以下同様)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜が開発され、固体高分子形燃料電池を始めとし、他の電気化学素子への応用が提案されている。
【0004】
現在、パーフルオロカーボンスルホン酸膜は非常に高価なため、固体高分子形燃料電池が広く普及する上での障害となっている。従って、この主要部材である膜コストをできる限り下げることは、固体高分子形燃料電池の普及にとって非常に重要である。
【0005】
より安価な燃料電池用膜を得るために、従来のパーフルオロカーボンスルホン酸膜に代わり炭化水素系高分子化合物の燃料電池用膜も種々検討・提案されいる。その代表的なものとしては、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(特開平6−93114号公報など)、スルホン化ポリエーテルスルホン(特開平10―45913号公報など)、スルホン化ポリスルホン(特開平9−245818号公報など)やスルホン化ポリイミド(特表2000−510511など)などの耐熱芳香族系高分子化合物のスルホン化物などが挙げられる。これらの炭化水素系高分子化合物からなる燃料電池用膜は、使用原料が安価で製造が容易なため、低コスト化が可能とされている。しかしながら、高いプロトン伝導度と高耐久性が要求される燃料電池用膜としては、プロトン伝導度が不充分なことが指摘されている。また、それを改善するために、スルホン酸基などのプロトン伝導性置換基の導入量を増やすと、水溶性になったり、膜の吸水率が上昇して、著しく膨潤し、機械的強度が低下するなどハンドリング性が著しく損なわれる点も指摘されている。また、燃料電池用膜として、使用可能な化学的・熱的安定性も不充分な場合が多く、実用化には至っていない。
【0006】
プロトン伝導度と長時間の耐久性を有する固体高分子形燃料電池用膜として、特開平11−67224号公報では、ポリアリールエーテルスルホンをスルホン化処理した燃料電池用膜が提案されている。しかしながら、この膜は水やメタノールに可溶であり、耐水性の検討により、膜の重量減少が観察されている。従って、燃料および酸化剤ガスを加湿して供給する固体高分子形燃料電池や、小型携帯用途などに検討されているメタノールを直接燃料に使用する直接メタノール形燃料電池には、使用できないことは明白である。
【0007】
さらに、固体高分子形燃料電池に使用されるプロトン伝導性高分子膜の場合、膜と電極の界面に形成された触媒層において、過酸化物が生成し、生成した過酸化物が拡散しながら過酸化物ラジカルになること知られている。炭化水素系高分子化合物からなるプロトン伝導性高分子膜の場合、従来この過酸化物ラジカルに対する耐性(耐酸化性)が乏しいとされ、改良が望まれていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、プロトン伝導度等の所得性は損なわず、耐酸化性の改良されたプロトン伝導性高分子膜を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、プロトン伝導性置換基を有する高分子化合物と2〜4価の多価金属を用いてなる高分子膜であって、プロトン伝導性置換基の水素原子の少なくとも一部が、前記多価金属で置換されているプロトン伝導性高分子膜である。
【0010】
前記の高分子化合物は、下記(A)群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
(A)群:ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルホキシド(PPSO)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン(PPS/SO2)、ポリパラフェニレン(PPP)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリイミド(PI)
また、プロトン伝導性置換基の水素原子の少なくとも一部が、前記多価金属で置換されているとは、プロトン伝導性置換基の水素原子の0.01〜0.95当量が、多価金属で置換されているのが好ましい。
【0011】
尚、前記多価金属は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)よりなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
【0012】
本発明においては上記した高分子化合物のうち、下記一般式(1)で表される繰り返し単位からなるものがより好ましい。
【0013】
【化3】
【0014】
[式中、Arは2価の芳香族単位、xは0〜2の整数]
また、プロトン伝導性置換基は、スルホン酸基であるのが好ましい。
【0015】
【発明実施の形態】
本発明は、プロトン伝導性置換基を有する高分子化合物と2〜4価の多価金属からなるプロトン伝導性高分子膜であって、プロトン伝導性置換基の水素原子の少なくとも一部が、前記多価金属で置換されているプロトン伝導性高分子膜である。
そして前記高分子化合物は、下記(A)群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
(A)群:ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルホキシド(PPSO)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン(PPS/SO2)、ポリパラフェニレン(PPP)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリイミド(PI)
これらの高分子化合物は、単独、あるいは、2種以上の共重合体、あるいは、必要に応じて2種以上を混合したものを使用しても良い。これによって、本発明のプロトン伝導性高分子膜は、優れたプロトン伝導度、耐加水分解性・耐酸化性に代表される化学的安定性に優れ、好ましい。
【0016】
工業的入手の容易さ、得られる膜の特性、などを考慮すると、本発明で使用される高分子化合物は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位からなるポリフェニレンスルホキシド(PPSO)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)及びポリフェニレンスルフィドスルホン(PPS/SO2)よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリフェニレンサルファイド(PPS)であることがさらに好ましい。
【0017】
【化4】
【0018】
[式中、Arは2価の芳香族単位、xは0〜2の整数]
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、プロトン伝導性置換基の水素原子の少なくとも1部分を2〜4価の多価金属で置換することによって、燃料電池運転時に発生するといわれているラジカル種に対する耐酸化性が著しく向上するため好ましい。例えば、ナトリウム(Na)などの1価の金属を含有させても、耐酸化性の向上は見られず、好ましくない。本発明においては、2〜4価の多価金属としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)よりなる群から選択される少なくとも1種であることが、工業的入手の容易さやその耐久性の改善効果などから好ましい。
【0019】
また、本発明のプロトン伝導性高分子膜は、プロトン伝導性置換基が多価金属を介して架橋構造を取りうるため、固体高分子形燃料電池の電解質膜として暴露される水やメタノールなどの存在条件下での膨潤が抑制される点からも好ましい。これによって、膜のハンドリング性が向上するとともに、メタノールなどのクロスオーバーも抑制することができる。
【0020】
多価金属の含有量としては、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、フェノール性水酸基などのプロトン伝導性置換基の水素原子の0.01〜0.95当量が多価金属で置換されていることが、プロトン伝導度と耐久性のバランスに優れ、好ましい。ここでいう含有量の範囲は、プロトン伝導性置換基の含有量とその価数(スルホン酸基の場合は1価)の積によって規定されるプロトン伝導性置換基の水素原子量に対して、多価金属の含有量とその価数によって規定される多価金属の量の割合で定義される。多価金属の含有量が、前記範囲よりも少ない場合は、耐酸性に代表される耐久性の向上がほとんど見られなくなる恐れがある。また、前記範囲よりも多い場合は、プロトン伝導度が著しく低下する恐れがある。
【0021】
多価金属の添加量は、酸−塩基滴定によるプロトン伝導性置換基の水素原子(水素イオン)に由来するイオン交換容量を、多価金属置換前後で行う方法や、本発明のプロトン伝導性高分子膜から所定試料を調製して、原子吸光分析(AAS)やICP分光分析により膜中の多価金属量を定量する方法が例示できるが、これに限定されるものではない。
【0022】
多価金属の添加方法等に特に限定はないが、例えば多価金属の水酸化物、酢酸塩、アセチルアセトナート塩、イソプロポキシ塩などのアルコキシ塩などを用いることができる。実際の添加に際しては、上記のような多価金属を含有する化合物を溶媒に溶解して、プロトン伝導性置換基を有する高分子化合物と接触させるのが好ましい。このときプロトン伝導性置換基を有する高分子化合物を適当な溶媒に均一に溶解させる、あるいは、適当な溶媒に分散させる、あるいは、膜形状に加工した後、適当な溶媒に浸漬する、などの状態のものに、多価金属を含有する化合物を含む溶液を添加し、所定条件(温度、時間)下でプロトン伝導性置換基と多価金属を接触させればよい。
【0023】
本発明においてプロトン伝導性置換基としては、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、フェノール性水酸基などが例示できるが、得られるプロトン伝導性高分子膜のプロトン伝導度を考慮すると、スルホン酸基であることが好ましい。
【0024】
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、プロトン伝導度や化学的安定性を考慮すると、高分子化合物がポリフェニレンサルファイド(PPS)、プロトン伝導性置換基がスルホン酸基である、下記一般式(2)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0025】
【化5】
【0026】
[式中、nは1〜4の整数]
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、脆化の抑制や伸び向上などの膜特性を改善するために、さらに可塑剤を含む前記芳香族高分子化合物からなるのが好ましい。これにより、芳香族高分子化合物が可塑化されて柔軟になり、得られるプロトン伝導性高分子膜のハンドリング性が著しく改善される傾向を示す。それに伴い、製造工程や発電時に物理的な膜破壊が生じにくくなり、好ましい。
【0027】
本発明で使用可能な可塑剤としては、使用する芳香族高分子化合物の種類や混合方法によって異なる。例えば、芳香族高分子化合物と可塑剤を溶融混合する場合には、芳香族高分子化合物の溶融温度よりも高い沸点を有する可塑剤を選択することが好ましい。可塑剤の沸点が芳香族高分子化合物の沸点よりも著しく低い場合には、芳香族高分子化合物と可塑剤の混合物が、所望の混合比とならない傾向を生じる。
【0028】
本発明で使用可能な可塑剤としては、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等のリン酸エステル系化合物、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸オクチルデシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸エステル系化合物、オレイン酸ブチル、グリセリンモノオレイン酸エステル等の脂肪族一塩基酸エステル系化合物、アジピン酸ジ−n−ブチル、アジピン酸ジ−n−ヘキシル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸アルキル610、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等の脂肪族二塩基酸エステル系化合物、ジエチレングリコールベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチラート等の二価アルコールエステル系化合物、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチル、ブチルフタリルブチルグリコレート、アセチルクエン酸トリブチル等のオキシ酸エステル系化合物、塩素化パラフィン、塩素化ビフェニル−2−ニトロビフェニル、ジノニルナフタリン、o−トルエンスルホンエチルアミド、p−トルエンスルホンエチルアミド、アビエチン酸メチル、などが例示できる。上記に例示した可塑剤の中でも、高分子化合物との相溶性や難燃性が付与させるいった点から、リン酸エステル系化合物の使用が好ましく、特にトリフェニルホスフェートまたはトリクレジルホスフェートであることが好ましい。
【0029】
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、多価金属を添加する前のプロトン伝導性置換基を有する高分子化合物のイオン交換容量が、0.5〜5ミリ当量/gであることが好ましい。イオン交換容量がこの範囲よりも小さい場合は、多価金属を添加した場合に、プロトン伝導度が小さくなりすぎる恐れがあり、好ましくない。イオン交換容量がこの範囲よりも大きい場合は、水やメタノールに可溶となり、固体高分子形燃料電池の電解質膜として不適合な性状を示す恐れがある。また、多価金属を添加しても、耐酸化性が充分改善されない恐れがある。
【0030】
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、室温でのプロトン伝導度が、1.0×10−3S/cm以上であることが好ましい。プロトン伝導度がこの範囲よりも小さい場合は、プロトンの移動に対する膜抵抗が大きくなり、充分な発電特性を発現しにくくなる傾向を生ずる。
【0031】
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、実用的な機械的強度や燃料・酸化剤の遮断性を有する範囲で、薄い程良い。イオン交換容量やプロトン伝導度が同等であれば、厚みが薄くなるほど、膜抵抗が低くなるため、概ね5〜200μm、さらには20〜150μmの厚さであることが好ましい。
【0032】
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、γ線、電子線、イオンビームからなる群より選択される少なくとも1種の放射線を照射してもよい。放射線を照射し、膜を改質することによって、燃料電池用膜のプロトン伝導度は向上する。特に、放射線量、材料への透過性、照射時間(工業的な連続照射)、などの点から、電子線であることが好ましい。
【0033】
放射線の照射雰囲気は、空気中、無酸素雰囲気、真空雰囲気のいずれの場合も選択可能である。放射線照射により膜材料の劣化が生じない雰囲気を適宜選択すればよい。また、放射線照射による膜改質を効率的に実施するため、照射雰囲気や膜を加熱してもよい。この際も、膜材料の劣化が生じない条件を適宜設定すればよい。
【0034】
放射線の加速電圧は、0.01〜5.0MeVであることが好ましい。加速電圧が低いと、材料への放射線の透過度が低くなり、材料内部まで均質な膜を得るのが困難になる。また、必要な照射線量を確保するのに長時間の照射が必要となり、生産性が著しく低下する恐れがある。この範囲よりも大きい場合は、装置が必要以上に大がかりになったり、材料劣化を促進する恐れがある。
【0035】
放射線の照射線量は10〜1000kGyであることが好ましい。この範囲よりも照射線量が少ない場合は、充分な照射効果が発現しない恐れがある。また、この範囲よりも照射線量が多い場合は、照射効果が飽和したり、照射時間が長くなったり、材料劣化や特性低下を導く恐れがある。
【0036】
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、プロトン伝導性、化学的・熱的安定性、機械的特性を備えており、固体高分子形燃料電池の電解質膜として好適に使用可能である。実際に、固体高分子形燃料電池に使用する場合、ナフィオンに代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜で適用されている公知の方法で、本発明のプロトン伝導性高分子膜と触媒担持ガス拡散電極を接合した膜−電極接合体を製造し、燃料および酸化剤の供給路を備えた1対のセパレータ間に狭持して、固体高分子形燃料電池セルを構成でき、固体高分子形燃料電池の電解質膜として使用可能となる。燃料としては、純水素、メタノール・天然ガス・ガソリンなどの改質ガス、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル等の有機液体燃料等が使用可能である。また、必要な出力を得るため、セルを複数枚積層して、スタックを構成し、使用することもできる。
【0037】
特に、携帯電話やノート型パソコンに適し、高出力が要求されず、高い燃料遮断性が要求される直接アルコール形燃料電池用膜として非常に有用である。
【0038】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
【0039】
(プロトン伝導度)
イオン交換水中に保管した試験体(10mm×40mm)を取り出し、試験体表面の水をろ紙で拭き取る。電極間距離30mmで白金電極間に試験体を装着し、2極非密閉系のテフロン(登録商標)製のセルに設置した後、室温下で電圧0.2Vの条件で、交流インピーダンス法(周波数:42Hz〜5MHz)により、試験体の膜抵抗を測定し、プロトン伝導度を算出した。
【0040】
(金属添加量)
金属添加量(当量)は、ベースとして用いた金属添加前のプロトン伝導性高分子膜のイオン交換容量(A)と、金属添加後のプロトン伝導性高分子膜のイオン交換容量(B)から、次式を用いて算出した。
金属添加量(当量)=(A−B)/A。
【0041】
(イオン交換容量の測定方法)
試験体を塩化ナトリウム飽和水溶液に浸漬し、ウォーターバス中で60℃、3時間反応させる。室温まで冷却した後、サンプルをイオン交換水で充分に洗浄し、フェノールフタレイン溶液を指示薬として、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、イオン交換容量を算出した。
【0042】
(耐酸化性試験)
3重量%の過酸化水素水に、鉄(II)イオンの濃度が4ppmになるように硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物を添加し、フェントン試薬を調製した。フェントン試薬20mLに、約50mgの膜を添加し、60℃のウォーターバス中で振とうした。所定時間後の膜外観を目視観察した。
【0043】
(比較例1)
下記方法でプロトン伝導性高分子膜を調製した。
ポリフェニレンサルファイドフィルム(商品名:トレリナ、東レ株式会社製、膜厚:50μm)を使用した。
【0044】
900mLのマヨネーズ瓶に、ジクロロメタン966g、クロロスルホン酸4.83gを秤量し、クロロスルホン酸溶液を調製した。これにポリフェニレンサルファイドフィルム2.24g秤量し、浸漬接触させて、室温で所定時間放置した(クロロスルホン酸量は、ポリフェニレンサルファイドの芳香族単位に対して2当量)。
室温で20時間放置後、フィルムを回収し、イオン交換水で中性になるまで洗浄した。
このフィルムを23℃に調温した恒温恒湿器内で、相対湿度98%、80%、60%、50%の調湿下で、それぞれ30分間放置して乾燥し、スルホン化ポリフェニレンサルファイド膜からなるプロトン伝導性高分子膜を得た。
特性の評価結果を表1及び図1に示した。
【0045】
(比較例2)
200mLのイオン交換水に、塩化ナトリウムを所定量を溶解させた溶液を調製し、比較例1で得られたスルホン化ポリフェニレンサルファイド膜(クロロスルホン酸溶液へ20時間浸漬)を0.24gを前記溶液に浸漬した。室温で20時間放置した後、膜を回収してイオン交換水で洗浄した。
この膜を23℃に調温した恒温恒湿器内で、相対湿度98%、80%、60%、50%の調湿下で、それぞれ30分間放置して乾燥し、スルホン化ポリフェニレンサルファイド膜からなるプロトン伝導性高分子膜を得た。
特性の評価結果を表1及び図1に示した。
【0046】
(実施例1)
塩化ナトリウムの代わりに酢酸マグネシウム四水和物を使用した以外は、比較例2と同様にした。この特性の評価結果を表1及び図1に示した。
【0047】
(実施例2)
塩化ナトリウムの代わりに酢酸カルシウム一水和物を使用した以外は、比較例2と同様にした。この特性の評価結果を表1及び図1に示した。
【0048】
(実施例3)
塩化ナトリウムの代わりにアルミニウムトリイソプロポキシドを使用した以外は、比較例2と同様にした。この特性の評価結果を表1及び図1に示した。
【0049】
(実施例4)
塩化ナトリウムの代わりに酢酸ランタン水和物を使用した以外は、比較例2と同様にした。この特性の評価結果を表1及び図1に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1の実施例1〜4と比較例1〜2の比較から、本発明のプロトン伝導性高分子膜のプロトン伝導度はやや低下傾向を示す。一方、本発明のプロトン伝導性高分子膜の耐酸化性は、劣化開始時間が明らかに遅くなっており、酸化に関する耐久性が向上している。
【0052】
図1に示した実施例と比較例のプロトン伝導性高分子膜のプロトン伝導度と耐酸化性試験における劣化開始時間の関係から、プロトン伝導度が同等の場合、実施例のプロトン伝導性高分子膜の方が明らかに劣化開始時間が遅くなっており、本発明の有効性が示された。
【0053】
【発明の効果】
本発明のプロトン伝導性置換基を有する高分子化合物と2〜4価の多価金属からなるプロトン伝導性高分子膜は、プロトン伝導度と耐酸化性のバランスに優れ、固体高分子形燃料電池の電解質膜として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】プロトン伝導度と耐酸化性の関係
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体高分子形燃料電池の電解質膜として有用なプロトン伝導性高分子膜に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境問題や省エネルギーに対する意識の高まりにより、クリーンなエネルギー源として燃料電池が脚光を浴びている。中でも、電解質にプロトン伝導性高分子膜を使用した固体高分子形燃料電池は、低温作動、小型軽量など、他の燃料電池(リン酸形、固体酸化物形、溶融炭酸塩形)にない特徴を有することから、自動車用途、家庭用コージェネレーション用途への適用が検討されてきた。
【0003】
燃料電池用膜としては、1950年代に開発された、スチレン系の陽イオン交換膜があるが、燃料電池動作環境下における安定性に乏しく、本膜を用いての実用上、充分な寿命を有する燃料電池を製造するには至っていない。実用的安定性を有する燃料電池用膜としては、ナフィオン(Nafion,デュポン社の登録商標。以下同様)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜が開発され、固体高分子形燃料電池を始めとし、他の電気化学素子への応用が提案されている。
【0004】
現在、パーフルオロカーボンスルホン酸膜は非常に高価なため、固体高分子形燃料電池が広く普及する上での障害となっている。従って、この主要部材である膜コストをできる限り下げることは、固体高分子形燃料電池の普及にとって非常に重要である。
【0005】
より安価な燃料電池用膜を得るために、従来のパーフルオロカーボンスルホン酸膜に代わり炭化水素系高分子化合物の燃料電池用膜も種々検討・提案されいる。その代表的なものとしては、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(特開平6−93114号公報など)、スルホン化ポリエーテルスルホン(特開平10―45913号公報など)、スルホン化ポリスルホン(特開平9−245818号公報など)やスルホン化ポリイミド(特表2000−510511など)などの耐熱芳香族系高分子化合物のスルホン化物などが挙げられる。これらの炭化水素系高分子化合物からなる燃料電池用膜は、使用原料が安価で製造が容易なため、低コスト化が可能とされている。しかしながら、高いプロトン伝導度と高耐久性が要求される燃料電池用膜としては、プロトン伝導度が不充分なことが指摘されている。また、それを改善するために、スルホン酸基などのプロトン伝導性置換基の導入量を増やすと、水溶性になったり、膜の吸水率が上昇して、著しく膨潤し、機械的強度が低下するなどハンドリング性が著しく損なわれる点も指摘されている。また、燃料電池用膜として、使用可能な化学的・熱的安定性も不充分な場合が多く、実用化には至っていない。
【0006】
プロトン伝導度と長時間の耐久性を有する固体高分子形燃料電池用膜として、特開平11−67224号公報では、ポリアリールエーテルスルホンをスルホン化処理した燃料電池用膜が提案されている。しかしながら、この膜は水やメタノールに可溶であり、耐水性の検討により、膜の重量減少が観察されている。従って、燃料および酸化剤ガスを加湿して供給する固体高分子形燃料電池や、小型携帯用途などに検討されているメタノールを直接燃料に使用する直接メタノール形燃料電池には、使用できないことは明白である。
【0007】
さらに、固体高分子形燃料電池に使用されるプロトン伝導性高分子膜の場合、膜と電極の界面に形成された触媒層において、過酸化物が生成し、生成した過酸化物が拡散しながら過酸化物ラジカルになること知られている。炭化水素系高分子化合物からなるプロトン伝導性高分子膜の場合、従来この過酸化物ラジカルに対する耐性(耐酸化性)が乏しいとされ、改良が望まれていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、プロトン伝導度等の所得性は損なわず、耐酸化性の改良されたプロトン伝導性高分子膜を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、プロトン伝導性置換基を有する高分子化合物と2〜4価の多価金属を用いてなる高分子膜であって、プロトン伝導性置換基の水素原子の少なくとも一部が、前記多価金属で置換されているプロトン伝導性高分子膜である。
【0010】
前記の高分子化合物は、下記(A)群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
(A)群:ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルホキシド(PPSO)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン(PPS/SO2)、ポリパラフェニレン(PPP)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリイミド(PI)
また、プロトン伝導性置換基の水素原子の少なくとも一部が、前記多価金属で置換されているとは、プロトン伝導性置換基の水素原子の0.01〜0.95当量が、多価金属で置換されているのが好ましい。
【0011】
尚、前記多価金属は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)よりなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
【0012】
本発明においては上記した高分子化合物のうち、下記一般式(1)で表される繰り返し単位からなるものがより好ましい。
【0013】
【化3】
【0014】
[式中、Arは2価の芳香族単位、xは0〜2の整数]
また、プロトン伝導性置換基は、スルホン酸基であるのが好ましい。
【0015】
【発明実施の形態】
本発明は、プロトン伝導性置換基を有する高分子化合物と2〜4価の多価金属からなるプロトン伝導性高分子膜であって、プロトン伝導性置換基の水素原子の少なくとも一部が、前記多価金属で置換されているプロトン伝導性高分子膜である。
そして前記高分子化合物は、下記(A)群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
(A)群:ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルホキシド(PPSO)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン(PPS/SO2)、ポリパラフェニレン(PPP)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリイミド(PI)
これらの高分子化合物は、単独、あるいは、2種以上の共重合体、あるいは、必要に応じて2種以上を混合したものを使用しても良い。これによって、本発明のプロトン伝導性高分子膜は、優れたプロトン伝導度、耐加水分解性・耐酸化性に代表される化学的安定性に優れ、好ましい。
【0016】
工業的入手の容易さ、得られる膜の特性、などを考慮すると、本発明で使用される高分子化合物は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位からなるポリフェニレンスルホキシド(PPSO)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)及びポリフェニレンスルフィドスルホン(PPS/SO2)よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリフェニレンサルファイド(PPS)であることがさらに好ましい。
【0017】
【化4】
【0018】
[式中、Arは2価の芳香族単位、xは0〜2の整数]
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、プロトン伝導性置換基の水素原子の少なくとも1部分を2〜4価の多価金属で置換することによって、燃料電池運転時に発生するといわれているラジカル種に対する耐酸化性が著しく向上するため好ましい。例えば、ナトリウム(Na)などの1価の金属を含有させても、耐酸化性の向上は見られず、好ましくない。本発明においては、2〜4価の多価金属としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)よりなる群から選択される少なくとも1種であることが、工業的入手の容易さやその耐久性の改善効果などから好ましい。
【0019】
また、本発明のプロトン伝導性高分子膜は、プロトン伝導性置換基が多価金属を介して架橋構造を取りうるため、固体高分子形燃料電池の電解質膜として暴露される水やメタノールなどの存在条件下での膨潤が抑制される点からも好ましい。これによって、膜のハンドリング性が向上するとともに、メタノールなどのクロスオーバーも抑制することができる。
【0020】
多価金属の含有量としては、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、フェノール性水酸基などのプロトン伝導性置換基の水素原子の0.01〜0.95当量が多価金属で置換されていることが、プロトン伝導度と耐久性のバランスに優れ、好ましい。ここでいう含有量の範囲は、プロトン伝導性置換基の含有量とその価数(スルホン酸基の場合は1価)の積によって規定されるプロトン伝導性置換基の水素原子量に対して、多価金属の含有量とその価数によって規定される多価金属の量の割合で定義される。多価金属の含有量が、前記範囲よりも少ない場合は、耐酸性に代表される耐久性の向上がほとんど見られなくなる恐れがある。また、前記範囲よりも多い場合は、プロトン伝導度が著しく低下する恐れがある。
【0021】
多価金属の添加量は、酸−塩基滴定によるプロトン伝導性置換基の水素原子(水素イオン)に由来するイオン交換容量を、多価金属置換前後で行う方法や、本発明のプロトン伝導性高分子膜から所定試料を調製して、原子吸光分析(AAS)やICP分光分析により膜中の多価金属量を定量する方法が例示できるが、これに限定されるものではない。
【0022】
多価金属の添加方法等に特に限定はないが、例えば多価金属の水酸化物、酢酸塩、アセチルアセトナート塩、イソプロポキシ塩などのアルコキシ塩などを用いることができる。実際の添加に際しては、上記のような多価金属を含有する化合物を溶媒に溶解して、プロトン伝導性置換基を有する高分子化合物と接触させるのが好ましい。このときプロトン伝導性置換基を有する高分子化合物を適当な溶媒に均一に溶解させる、あるいは、適当な溶媒に分散させる、あるいは、膜形状に加工した後、適当な溶媒に浸漬する、などの状態のものに、多価金属を含有する化合物を含む溶液を添加し、所定条件(温度、時間)下でプロトン伝導性置換基と多価金属を接触させればよい。
【0023】
本発明においてプロトン伝導性置換基としては、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、フェノール性水酸基などが例示できるが、得られるプロトン伝導性高分子膜のプロトン伝導度を考慮すると、スルホン酸基であることが好ましい。
【0024】
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、プロトン伝導度や化学的安定性を考慮すると、高分子化合物がポリフェニレンサルファイド(PPS)、プロトン伝導性置換基がスルホン酸基である、下記一般式(2)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0025】
【化5】
【0026】
[式中、nは1〜4の整数]
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、脆化の抑制や伸び向上などの膜特性を改善するために、さらに可塑剤を含む前記芳香族高分子化合物からなるのが好ましい。これにより、芳香族高分子化合物が可塑化されて柔軟になり、得られるプロトン伝導性高分子膜のハンドリング性が著しく改善される傾向を示す。それに伴い、製造工程や発電時に物理的な膜破壊が生じにくくなり、好ましい。
【0027】
本発明で使用可能な可塑剤としては、使用する芳香族高分子化合物の種類や混合方法によって異なる。例えば、芳香族高分子化合物と可塑剤を溶融混合する場合には、芳香族高分子化合物の溶融温度よりも高い沸点を有する可塑剤を選択することが好ましい。可塑剤の沸点が芳香族高分子化合物の沸点よりも著しく低い場合には、芳香族高分子化合物と可塑剤の混合物が、所望の混合比とならない傾向を生じる。
【0028】
本発明で使用可能な可塑剤としては、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等のリン酸エステル系化合物、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸オクチルデシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸エステル系化合物、オレイン酸ブチル、グリセリンモノオレイン酸エステル等の脂肪族一塩基酸エステル系化合物、アジピン酸ジ−n−ブチル、アジピン酸ジ−n−ヘキシル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸アルキル610、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等の脂肪族二塩基酸エステル系化合物、ジエチレングリコールベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチラート等の二価アルコールエステル系化合物、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチル、ブチルフタリルブチルグリコレート、アセチルクエン酸トリブチル等のオキシ酸エステル系化合物、塩素化パラフィン、塩素化ビフェニル−2−ニトロビフェニル、ジノニルナフタリン、o−トルエンスルホンエチルアミド、p−トルエンスルホンエチルアミド、アビエチン酸メチル、などが例示できる。上記に例示した可塑剤の中でも、高分子化合物との相溶性や難燃性が付与させるいった点から、リン酸エステル系化合物の使用が好ましく、特にトリフェニルホスフェートまたはトリクレジルホスフェートであることが好ましい。
【0029】
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、多価金属を添加する前のプロトン伝導性置換基を有する高分子化合物のイオン交換容量が、0.5〜5ミリ当量/gであることが好ましい。イオン交換容量がこの範囲よりも小さい場合は、多価金属を添加した場合に、プロトン伝導度が小さくなりすぎる恐れがあり、好ましくない。イオン交換容量がこの範囲よりも大きい場合は、水やメタノールに可溶となり、固体高分子形燃料電池の電解質膜として不適合な性状を示す恐れがある。また、多価金属を添加しても、耐酸化性が充分改善されない恐れがある。
【0030】
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、室温でのプロトン伝導度が、1.0×10−3S/cm以上であることが好ましい。プロトン伝導度がこの範囲よりも小さい場合は、プロトンの移動に対する膜抵抗が大きくなり、充分な発電特性を発現しにくくなる傾向を生ずる。
【0031】
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、実用的な機械的強度や燃料・酸化剤の遮断性を有する範囲で、薄い程良い。イオン交換容量やプロトン伝導度が同等であれば、厚みが薄くなるほど、膜抵抗が低くなるため、概ね5〜200μm、さらには20〜150μmの厚さであることが好ましい。
【0032】
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、γ線、電子線、イオンビームからなる群より選択される少なくとも1種の放射線を照射してもよい。放射線を照射し、膜を改質することによって、燃料電池用膜のプロトン伝導度は向上する。特に、放射線量、材料への透過性、照射時間(工業的な連続照射)、などの点から、電子線であることが好ましい。
【0033】
放射線の照射雰囲気は、空気中、無酸素雰囲気、真空雰囲気のいずれの場合も選択可能である。放射線照射により膜材料の劣化が生じない雰囲気を適宜選択すればよい。また、放射線照射による膜改質を効率的に実施するため、照射雰囲気や膜を加熱してもよい。この際も、膜材料の劣化が生じない条件を適宜設定すればよい。
【0034】
放射線の加速電圧は、0.01〜5.0MeVであることが好ましい。加速電圧が低いと、材料への放射線の透過度が低くなり、材料内部まで均質な膜を得るのが困難になる。また、必要な照射線量を確保するのに長時間の照射が必要となり、生産性が著しく低下する恐れがある。この範囲よりも大きい場合は、装置が必要以上に大がかりになったり、材料劣化を促進する恐れがある。
【0035】
放射線の照射線量は10〜1000kGyであることが好ましい。この範囲よりも照射線量が少ない場合は、充分な照射効果が発現しない恐れがある。また、この範囲よりも照射線量が多い場合は、照射効果が飽和したり、照射時間が長くなったり、材料劣化や特性低下を導く恐れがある。
【0036】
本発明のプロトン伝導性高分子膜は、プロトン伝導性、化学的・熱的安定性、機械的特性を備えており、固体高分子形燃料電池の電解質膜として好適に使用可能である。実際に、固体高分子形燃料電池に使用する場合、ナフィオンに代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜で適用されている公知の方法で、本発明のプロトン伝導性高分子膜と触媒担持ガス拡散電極を接合した膜−電極接合体を製造し、燃料および酸化剤の供給路を備えた1対のセパレータ間に狭持して、固体高分子形燃料電池セルを構成でき、固体高分子形燃料電池の電解質膜として使用可能となる。燃料としては、純水素、メタノール・天然ガス・ガソリンなどの改質ガス、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル等の有機液体燃料等が使用可能である。また、必要な出力を得るため、セルを複数枚積層して、スタックを構成し、使用することもできる。
【0037】
特に、携帯電話やノート型パソコンに適し、高出力が要求されず、高い燃料遮断性が要求される直接アルコール形燃料電池用膜として非常に有用である。
【0038】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
【0039】
(プロトン伝導度)
イオン交換水中に保管した試験体(10mm×40mm)を取り出し、試験体表面の水をろ紙で拭き取る。電極間距離30mmで白金電極間に試験体を装着し、2極非密閉系のテフロン(登録商標)製のセルに設置した後、室温下で電圧0.2Vの条件で、交流インピーダンス法(周波数:42Hz〜5MHz)により、試験体の膜抵抗を測定し、プロトン伝導度を算出した。
【0040】
(金属添加量)
金属添加量(当量)は、ベースとして用いた金属添加前のプロトン伝導性高分子膜のイオン交換容量(A)と、金属添加後のプロトン伝導性高分子膜のイオン交換容量(B)から、次式を用いて算出した。
金属添加量(当量)=(A−B)/A。
【0041】
(イオン交換容量の測定方法)
試験体を塩化ナトリウム飽和水溶液に浸漬し、ウォーターバス中で60℃、3時間反応させる。室温まで冷却した後、サンプルをイオン交換水で充分に洗浄し、フェノールフタレイン溶液を指示薬として、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、イオン交換容量を算出した。
【0042】
(耐酸化性試験)
3重量%の過酸化水素水に、鉄(II)イオンの濃度が4ppmになるように硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物を添加し、フェントン試薬を調製した。フェントン試薬20mLに、約50mgの膜を添加し、60℃のウォーターバス中で振とうした。所定時間後の膜外観を目視観察した。
【0043】
(比較例1)
下記方法でプロトン伝導性高分子膜を調製した。
ポリフェニレンサルファイドフィルム(商品名:トレリナ、東レ株式会社製、膜厚:50μm)を使用した。
【0044】
900mLのマヨネーズ瓶に、ジクロロメタン966g、クロロスルホン酸4.83gを秤量し、クロロスルホン酸溶液を調製した。これにポリフェニレンサルファイドフィルム2.24g秤量し、浸漬接触させて、室温で所定時間放置した(クロロスルホン酸量は、ポリフェニレンサルファイドの芳香族単位に対して2当量)。
室温で20時間放置後、フィルムを回収し、イオン交換水で中性になるまで洗浄した。
このフィルムを23℃に調温した恒温恒湿器内で、相対湿度98%、80%、60%、50%の調湿下で、それぞれ30分間放置して乾燥し、スルホン化ポリフェニレンサルファイド膜からなるプロトン伝導性高分子膜を得た。
特性の評価結果を表1及び図1に示した。
【0045】
(比較例2)
200mLのイオン交換水に、塩化ナトリウムを所定量を溶解させた溶液を調製し、比較例1で得られたスルホン化ポリフェニレンサルファイド膜(クロロスルホン酸溶液へ20時間浸漬)を0.24gを前記溶液に浸漬した。室温で20時間放置した後、膜を回収してイオン交換水で洗浄した。
この膜を23℃に調温した恒温恒湿器内で、相対湿度98%、80%、60%、50%の調湿下で、それぞれ30分間放置して乾燥し、スルホン化ポリフェニレンサルファイド膜からなるプロトン伝導性高分子膜を得た。
特性の評価結果を表1及び図1に示した。
【0046】
(実施例1)
塩化ナトリウムの代わりに酢酸マグネシウム四水和物を使用した以外は、比較例2と同様にした。この特性の評価結果を表1及び図1に示した。
【0047】
(実施例2)
塩化ナトリウムの代わりに酢酸カルシウム一水和物を使用した以外は、比較例2と同様にした。この特性の評価結果を表1及び図1に示した。
【0048】
(実施例3)
塩化ナトリウムの代わりにアルミニウムトリイソプロポキシドを使用した以外は、比較例2と同様にした。この特性の評価結果を表1及び図1に示した。
【0049】
(実施例4)
塩化ナトリウムの代わりに酢酸ランタン水和物を使用した以外は、比較例2と同様にした。この特性の評価結果を表1及び図1に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1の実施例1〜4と比較例1〜2の比較から、本発明のプロトン伝導性高分子膜のプロトン伝導度はやや低下傾向を示す。一方、本発明のプロトン伝導性高分子膜の耐酸化性は、劣化開始時間が明らかに遅くなっており、酸化に関する耐久性が向上している。
【0052】
図1に示した実施例と比較例のプロトン伝導性高分子膜のプロトン伝導度と耐酸化性試験における劣化開始時間の関係から、プロトン伝導度が同等の場合、実施例のプロトン伝導性高分子膜の方が明らかに劣化開始時間が遅くなっており、本発明の有効性が示された。
【0053】
【発明の効果】
本発明のプロトン伝導性置換基を有する高分子化合物と2〜4価の多価金属からなるプロトン伝導性高分子膜は、プロトン伝導度と耐酸化性のバランスに優れ、固体高分子形燃料電池の電解質膜として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】プロトン伝導度と耐酸化性の関係
Claims (10)
- プロトン伝導性置換基を有する高分子化合物と2〜4価の多価金属を用いてなる高分子膜であって、プロトン伝導性置換基の水素原子の少なくとも一部が、前記多価金属で置換されているものであるプロトン伝導性高分子膜。
- 前記高分子化合物が、下記(A)群から選択される少なくとも1種である請求項1記載のプロトン伝導性高分子膜。
(A)群:ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルホキシド(PPSO)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンスルフィドスルホン(PPS/SO2)、ポリパラフェニレン(PPP)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリイミド(PI) - プロトン伝導性置換基の水素原子の0.01〜0.95当量が、多価金属で置換されている請求項1記載のプロトン伝導性高分子膜。
- 多価金属が、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子膜。
- プロトン伝導性置換基が、スルホン酸基である請求項1記載のプロトン伝導性高分子膜。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子膜からなる燃料電池用膜。
- 燃料電池用膜が、直接アルコール形燃料電池用膜である請求項8記載の燃料電池用膜。
- 請求項8又は9記載の燃料電池用膜を使用した燃料電池。
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