JP2004196261A - 車両ステアリング用伸縮軸 - Google Patents
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Abstract
【課題】安定した摺動荷重を実現すると共に、回転方向ガタ付きを確実に防止して、高剛性の状態でトルクを伝達でき、しかも、製造コストを低減しつつ、耐久性を向上すること。
【解決手段】雄軸1の外周面と雌軸2の内周面とに夫々形成した複数対の軸方向溝3,5の間に、球状体7を配置し、雄軸の軸方向溝と球状体との間に、予圧用の板バネ9を介装し、雄軸1の外周面と雌軸2の内周面とに夫々形成した他の複数対の軸方向溝4,6の間に、円柱体8を配置し、しかも、球状体7が転動する雌軸2側の軸方向溝5の横断面の曲率半径は、球状体7の直径の55%以下に設定してある。
【選択図】 図5
【解決手段】雄軸1の外周面と雌軸2の内周面とに夫々形成した複数対の軸方向溝3,5の間に、球状体7を配置し、雄軸の軸方向溝と球状体との間に、予圧用の板バネ9を介装し、雄軸1の外周面と雌軸2の内周面とに夫々形成した他の複数対の軸方向溝4,6の間に、円柱体8を配置し、しかも、球状体7が転動する雌軸2側の軸方向溝5の横断面の曲率半径は、球状体7の直径の55%以下に設定してある。
【選択図】 図5
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両のステアリングシャフトに組込み、雄軸と雌軸を相互に回転不能に且つ摺動自在に嵌合した車両ステアリング用伸縮軸に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車の操舵機構部の伸縮軸には、自動車が走行する際に発生する軸方向の変位を吸収し、ステアリングホイール上にその変位や振動を伝えない性能が要求される。さらに、運転者が自動車を運転するのに最適なポジションを得るためにステアリングホイールの位置を軸方向に移動し、その位置を調整する機能が要求される。
【0003】
これら何れの場合にも、伸縮軸は、ガタ音を低減することと、ステアリングホイール上のガタ感を低減することと、軸方向の摺動動作時における摺動抵抗を低減することとが要求される。
【0004】
このようなことから、従来、伸縮軸の雄軸に、ナイロン膜をコーティングし、摺動部にグリースを塗布し、金属騒音、金属打音等を吸収または緩和するとともに、摺動抵抗の低減と回転方向ガタの低減を行ってきた。
【0005】
しかし、使用経過によりナイロン膜の摩耗が進展して回転方向ガタが大きくなるといったことがある。また、エンジンルーム内の高温にさらされる条件下では、ナイロン膜は、体積変化し、摺動抵抗が著しく大きくなったり、摩耗が著しく促進されたりするため、回転方向ガタが大きくなるといったことがある。
【0006】
このようなことから、特許文献1では、雄軸の外周面と雌軸の内周面とに夫々形成した複数対の軸方向溝の間に、両軸の軸方向相対移動の際に転動するトルク伝達部材(球状体)が嵌合してある。
【0007】
さらに、特許文献1では、トルク伝達部材(球状体)の径方向内方又は外方と、各対の軸方向溝との間に、トルク伝達部材(球状体)を介して雄軸と雌軸に予圧を付与するための予圧用の弾性体(板バネ)が設けてある。
【0008】
これにより、トルク非伝達時(摺動時)には、板バネにより、トルク伝達部材(球状体)を雌軸に対してガタ付きのない程度に予圧しているため、雄軸と雌軸の間のガタ付きを防止することができ、雄軸と雌軸は、ガタ付きのない安定した摺動荷重で軸方向に摺動することができる。
【0009】
また、トルク伝達時には、板バネにより、トルク伝達部材(球状体)を周方向に拘束できるようになっているため、雄軸と雌軸は、その回転方向のガタ付きを防止して、高剛性の状態でトルクを伝達することができる。
【0010】
【特許文献1】
特開2001−50293号公報
【特許文献2】
独国特許発明DE3730393C2号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した特許文献1又は特許文献2では、球状体は、雌軸又は雄軸の軸方向溝の軌道面に、点接触することから、トルク負荷時には、接触圧力が過大になると、球状体と接触する軸方向溝の軌道面の表面には、圧痕が生じるといった虞れがある。
【0012】
その結果、このような場合には、軸方向溝の軌道面の圧痕により、摺動抵抗が大きくなり、又は不均一になるといったことがあり、また、圧痕は、応力集中による剥離や摩耗等の損傷の原因にもなるといったことがある。
【0013】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、安定した摺動荷重を実現すると共に、回転方向ガタ付きを確実に防止して、高剛性の状態でトルクを伝達でき、しかも、製造コストを低減しつつ、耐久性を向上することができる車両ステアリング用伸縮軸を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明の請求項1に係る車両ステアリング用伸縮軸は、車両のステアリングシャフトに組込み、雄軸と雌軸を回転不能に且つ摺動自在に嵌合した車両ステアリング用伸縮軸において、
前記雄軸の外周面と前記雌軸の内周面とに夫々形成した少なくとも一対の軸方向溝の間に、前記両軸の軸方向相対移動の際に転動する球状体を配置し、
前記雄軸側又は雌軸側の軸方向溝と、前記球状体との間に、前記球状体を介して前記雄軸と前記雌軸とに予圧を与える弾性体を介装し、
前記雄軸の外周面と前記雌軸の内周面とに夫々形成した他の少なくとも一対の軸方向溝の間に、前記両軸の軸方向相対移動の際に摺動する円柱体を配置し、
前記球状体が転動する前記雄軸側又は雌軸側の軸方向溝の横断面の曲率半径を、前記球状体の直径の55%以下としたことを特徴とする。
【0015】
このように、請求項1によれば、球状体が転動する雄軸側又は雌軸側の軸方向溝の横断面の曲率半径は、球状体の直径の55%以下に設定してあることから、想定される最大ねじりトルク入力時でも、球状体と軸方向溝との間の接触圧力を1500MPa以下に抑えることができる。
【0016】
このように、球状体と軸方向溝との間の接触圧力を1500MPa以下に抑えれば、伸縮軸の表面硬さが一般的な硬さ(例えばHV260〜HV300程度)であっても、圧痕の発生を確実に防止することができる。
【0017】
従って、特に熱処理や表面硬化処理を施さなくても、圧痕の発生を確実に防止して、圧痕による摺動抵抗の増加や摩耗等の損傷を効果的に防止することができ、これにより、製造コストを低減しつつ、耐久性を向上することができる。また、請求項1によれば、安定した摺動荷重を実現すると共に、回転方向ガタ付きを確実に防止して、高剛性の状態でトルクを伝達することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸を図面を参照しつつ説明する。
【0019】
(車両用ステアリングシャフトの全体構成)
図9は、本発明の実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸を適用した自動車の操舵機構部の側面図である。
【0020】
図9において、車体側のメンバ100にアッパブラケット101とロアブラケット102とを介して取り付けられたアッパステアリングシャフト部120(ステアリングコラム103と、ステアリングコラム103に回転自在に保持されたステアリングシャフト104を含む)と、ステアリングシャフト104の上端に装着されたステアリングホイール105と、ステアリングシャフト104の下端にユニバーサルジョイント106を介して連結されたロアステアリングシャフト部107と、ロアステアリングシャフト部107に操舵軸継手108を介して連結されたピニオンシャフト109と、ピニオンシャフト109に連結したステアリングラック軸112と、このステアリングラック軸112を支持して車体の別のフレーム110に弾性体111を介して固定されたステアリングラック支持部材113とから操舵機構部が構成されている。
【0021】
ここで、アッパステアリングシャフト部120とロアステアリングシャフト部107が本発明の実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸(以後、伸縮軸と記す)を用いている。ロアステアリングシャフト部107は、雄軸と雌軸とを嵌合したものであるが、このようなロアステアリングシャフト部107には自動車が走行する際に発生する軸方向の変位を吸収し、ステアリングホイール105上にその変位や振動を伝えない性能が要求される。このような性能は、車体がサブフレーム構造となっていて、操舵機構上部を固定するメンバ100とステアリングラック支持部材113が固定されているフレーム110が別体となっておりステアリングラック支持部材113がゴムなどの弾性体111を介してフレーム110に締結固定されている構造の場合に要求される。また、その他のケースとして操舵軸継手108をピニオンシャフト109に締結する際に作業者が、伸縮軸をいったん縮めてからピニオンシャフト109に嵌合させ締結させるため伸縮機能が必要とされる場合がある。さらに、操舵機構の上部にあるアッパステアリングシャフト部120も、雄軸と雌軸とを嵌合したものであるが、このようなアッパステアリングシャフト部120には、運転者が自動車を運転するのに最適なポジションを得るためにステアリングホイール105の位置を軸方向に移動し、その位置を調整する機能が要求されるため、軸方向に伸縮する機能が要求される。前述のすべての場合において、伸縮軸には嵌合部のガタ音を低減することと、ステアリングホイール105上のガタ感を低減することと、軸方向摺動時における摺動抵抗を低減することが要求される。
【0022】
(伸縮軸の第1実施の形態)
図1(a)は、本発明の第1実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸の側面図であり、(b)は、その斜視図である。図2は、図1(a)のA−A線に沿った横断面図である。
【0023】
図1に示すように、車両ステアリング用伸縮軸(以後、伸縮軸と記す)は、相互に回転不能に且つ摺動自在に嵌合した雄軸1と雌軸2とからなる。
【0024】
図2に示すように、雄軸1の外周面には、周方向に120度間隔で等配した3個の略円弧状の軸方向溝3、4、4が延在して形成してある。これに対応して雌軸2の内周面にも、周方向に120度間隔で等配した3個の略円弧状の軸方向溝5、6、6が延在して形成してある。軸方向溝3、5で第1介装部が、軸方向溝4、6;4,6で第2介装部が形成されている。
【0025】
雄軸1の断面略円弧状の軸方向溝3と、雌軸2の断面略円弧状の軸方向溝5との間に、予圧用の断面略M字形状の弾性体として後述する板バネ9が設けてあり、板バネ9の中央凹部と軸方向溝5との間に複数個の第1トルク伝達部材として剛体の球状体7が転動自在に介装されて第1のトルク伝達装置が構成されている。こうして、球状体7は雄軸1と雌軸2との軸方向に相対移動の際には転動し、回転の際には板バネ9に拘束されてトルクを伝達する。
【0026】
雄軸1の2個の断面略円弧状若しくはゴシックアーチ状の軸方向溝4、4と、雌軸2の2個の断面略円弧状若しくはゴシックアーチ状の軸方向溝6、6との間に、夫々、雄軸1と雌軸2との軸方向の相対移動を許し、回転の際にはトルクを伝達するための第2トルク伝達部材として円柱体8が摺動自在に介装されて第2のトルク伝達装置が構成されている。
【0027】
雄軸1の軸方向溝3の両側には、溝部3b、3bが溝3に平行して軸方向に延在して形成され、軸方向溝3と溝部3b、3bとの間に段部3a、3aが形成されている。板バネ9は断面略M字形状で、その両端部がそれぞれ溝部3b,3bの底部にまで延び、先端部が段部3a、3aをそれぞれ挟み込むように接触している。このようにして、板バネ9の凹部9c、9cで雄軸1の軸方向溝3の両側の段部3a、3aに係止され、トルク伝達時、板バネ9全体が周方向に移動できないようになっている。
【0028】
板バネ9は、トルク非伝達時には、球状体7と円柱体8、8のそれぞれを雌軸2に対してガタ付きのない程度に予圧する一方、トルク伝達時には、弾性変形して球状体7を雄軸1と雌軸2の間で周方向に拘束する働きをするようになっている。
【0029】
複数個の球状体7は、保持器12により保持してあり、球状体7と保持器12は、摺動時、止め輪11により、軸方向の移動を規制されるようになっている。
【0030】
以上のように構成した伸縮軸では、雄軸1と雌軸2の間に球状体7と円柱体8を介装し、板バネ9により、球状体7と円柱体8とを雌軸2に対してガタ付きのない程度に予圧してあるため、トルク非伝達時は、雄軸1と雌軸2の間のガタ付きを確実に防止することができると共に、雄軸1と雌軸2は軸方向に相対移動する際には、ガタ付きのない安定した摺動荷重で摺動することができる。
【0031】
なお、従来技術のように摺動面が純粋な滑りによるものであれば、ガタつき防止のための予圧荷重をある程度の荷重で留めておくことしかできなかった。それは、摺動荷重は、摩擦係数に予圧荷重を乗じたものであり、ガタつき防止や伸縮軸の剛性を向上させたいと願って予圧荷重を上げてしまうと摺動荷重が増大してしまうという悪循環に陥ってしまっていたのである。
【0032】
その点、本実施の形態では一部に転がりによる機構を採用しているために著しい摺動荷重の増大を招くことなく予圧荷重を上げることができた。これにより、従来なし得なかったガタつきの防止と剛性の向上を摺動荷重の増大を招くことなく達成することができた。
【0033】
本実施形態において、トルク伝達時には、板バネ9が弾性変形して球状体7を雄軸1と雌軸2の間で周方向に拘束すると共に、雄軸1と雌軸2の間に介装されている2列の円柱体8が主なトルク伝達の役割を果たす。
【0034】
例えば、雄軸1からトルクが入力された場合、初期の段階では、板バネ9の予圧がかかっているため、ガタ付きはなく、板バネ9がトルクに対する反力を発生させてトルクを伝達する。この時は、雄軸1・板バネ9・球状体7・雌軸2間のトルク伝達荷重と、雄軸1・円柱体8・雌軸2間のトルク伝達荷重がつりあった状態で全体的なトルク伝達がされる。
【0035】
さらにトルクが増大していくと、円柱体8を介した雄軸1、雌軸2の回転方向のすきまの方が、球状体7を介した雄軸1・板バネ9・球状体7・雌軸2間のすきまより小さい設定としてあるため、円柱体8の方が球状体7より反力を強く受け、円柱体8が主にトルクを雌軸2に伝える。そのため、雄軸1と雌軸2の回転方向ガタを確実に防止するとともに、高剛性の状態でトルクを伝達することができる。
【0036】
なお、球状体7は剛体のボールが好ましい。また剛体の円柱体8はニードルローラが好ましい。
【0037】
円柱体(以後、ニードルローラと記す)8は、線接触でその荷重を受けるため、点接触で荷重を受けるボールよりも接触圧を低く抑えることができるなど、さまざまな効果がある。したがって、全列をボール転がり構造とした場合よりも下記の項目が優れている。
・摺動部での減衰能効果が、ボール転がり構造に比べて大きい。よって振動吸収性能が高い。
・同じトルクを伝達するならば、ニードルローラの方が接触圧を低く抑えることができるため、軸方向の長さを短くできスペースを有効に使うことができる。
・同じトルクを伝達するならば、ニードルローラの方が接触圧を低く抑えることができるため、熱処理等によって雌軸の軸方向溝表面を硬化させるための追加工程が不要である。
・部品点数を少なくすることができる。
・組立性をよくすることができる。
・組立コストを抑えることができる。
【0038】
このようにニードルローラ8は、雄軸1と雌軸2の間のトルク伝達のためのキーの役割をするとともに、雌軸2の内周面とすべり接触する。ニードルローラの使用が従来のスプライン嵌合と比較して、優れている点は下記のとおりである。・ニードルローラは大量生産品であり、非常に低コストである。
・ニードルローラは熱処理後、研磨されているので、表面硬度が高く、耐摩耗性に優れている。
・ニードルローラは研磨されているので、表面粗さがきめ細かく摺動時の摩擦係数が低いため、摺動荷重を低く抑えることができる。
・使用条件に応じて、ニードルローラの長さや配置を変えることができるため、設計思想を変えること無く、さまざまなアプリケーションに対応することができる。
・使用条件によっては、摺動時の摩擦係数をさらに下げなければならない場合がある、この時ニードルローラだけに表面処理をすればその摺動特性を変えることができるため、設計思想を変えること無く、さまざまなアプリケーションに対応することができる。
・ニードルローラの外径違い品を安価に数ミクロン単位で製造することができるため、ニードルローラ径を選択することによって雄軸・ニードルローラ・雌軸間のすきまを最小限に抑えることができる。よって軸の捩り方向の剛性を向上させることが容易である。
【0039】
一方、球状体(以後、ボールと記す)7を部分的に採用したという点では、全列ニードルローラでかつ、全列が摺動する構造と比較して、下記の項目が優れている。
・ボールは摩擦抵抗が低いため、摺動荷重を低く抑えられる。
・ボールの使用により予圧荷重を高くすることができ、長期にわたるガタつきの防止と高剛性が同時に得られる。
【0040】
(伸縮軸のねじり剛性のための解析プログラムについて)
図3は、伸縮軸の捩り剛性のための解析プログラムの計算モデルを示す模式図である。図4は、試作伸縮軸のねじり剛性試験結果を実線で、解析プログラムによる計算結果を破線で示すグラフである。
【0041】
球状体や円柱体を使用した伸縮軸のねじり剛性を計算機によって解析するプログラムを作成した。雌軸を空間に固定し、伸縮軸の横断面(2次元)について、各球状体や円柱体にかかる力の釣り合い式と、雄軸にかかる力(球状体/円柱体/バネ荷重と外部から与えられるねじりトルク)の釣り合い式を解く。
【0042】
各要素の接点では、ヘルツの弾性接触理論に基づいて、2物体の接近量と接触荷重の関係を考慮した。本プログラムでは、予圧を与えるバネモデルを設定できる。バネと接触する2要素(球状体と雄軸など)の位置関係により、バネ荷重が発生する。
【0043】
上記第1実施の形態(図1及び図2)に示す試作伸縮軸に、解析プログラムを適用した。
【0044】
雄軸1と雌軸2に、それぞれ、3本の軸方向溝3,4,5,6があり、1本の軸方向溝3,5には、複数の球状体7が、残る2本の軸方向溝4,6には、円柱体8が介装してある。球状体7には、雄軸1に設置された板バネ9によって予圧が与えられている。計算モデルを図3に示す。
【0045】
図4に、試作伸縮軸のねじり剛性試験結果を実線で、解析プログラムによる計算結果を破線で示す。計算によるねじり剛性の変化は、実測値によく一致している。
【0046】
解析プログラムに用いた弾性変形のモデルによって、実機の性能を十分な精度で予測できることが示された。解析プログラムによって計算される変形量や接触領域の大きさ、接触圧力などについても、実機使用時の状態を十分な精度でシミュレートできると考えられる。
【0047】
(伸縮軸の第2実施の形態)
図5(a)は、本発明の第2実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸の縦断面図であり、(b)は、(a)のb−b線に沿った横断面図である。図6は、第2実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸の分解斜視図である。
【0048】
上述した第1実施の形態では、1対の軸方向溝3,5に、1組の第1トルク伝達部材7を配置し、一対の軸方向溝3,5に対して周方向に120度間隔で等配した2対の軸方向溝4,6に、2個の第2トルク伝達部材8を配置している。
【0049】
これに対して、本第2実施の形態では、図5に示すように、周方向に120度間隔で等配した3対の軸方向溝3,5に、それぞれ弾性体として板バネ9を介して第1トルク伝達部材として球状体7を配置して第1のトルク伝達装置が構成されている。これら3対の軸方向溝3、5の間で、周方向に60度間隔にそれぞれ配置された3対の軸方向溝4,6に、それぞれ第2トルク伝達部材として円柱体8を配置して第2のトルク伝達装置が構成されている。
【0050】
第2実施の形態の技術的背景として、車両毎の要求性能の違いから、捩り剛性の特性は様々なものが必要となる。従来、その要求特性が変わる度に、シャフトの直径を変えたり、或いは弾性体を使用したりして、構造を変えてその要求特性に応えている。
【0051】
しかし、これらの場合、多種多様な構造や弾性特性の違う部品をそろえなければならず、部品点数の増加とコストの増大を招いている。
【0052】
このようなことから、本第2実施の形態では、円柱体8の外径違い品を安価に数ミクロン単位で製造することができるため、円柱体8の直径を適宜選択又は組み合わせることにより、雄軸1・円柱体8・雌軸2間の隙間を任意に設定することができる。以上から、車両の特性により異なる各種要求に対して、基本構造を変えることなく、また部品点数を増加させることなく、安価に応えることができる。
【0053】
(解析プログラムによる伸縮軸のねじり剛性のシミュレーション)
図7は、第2実施の形態(図5及び図6)に示した伸縮軸の球状体と雌軸側軸方向溝との間の最大接触圧力の計算結果を示すグラフである。
【0054】
図8は、特許文献1又は特許文献2に開示した伸縮軸の球状体と雌軸側軸方向溝との間の最大接触圧力の計算結果を示すグラフである。
【0055】
本プログラムを、上記第2実施の形態(図5及び図6)に示す伸縮軸に適用した。車両用として想定される最大のねじりトルク100Nmを、雌軸2と雄軸1の間に負荷した。
【0056】
この場合、トルクは、主として雌軸2と雄軸1との間に介装されたニードルローラ8を介して伝達されるが、バネ予圧されているボール7にも、トルクの一部が分担される。ニードルローラ8は、雌軸2と雄軸1と線接触し、接触領域が広いため、接触荷重が大きくても、接触圧力は比較的小さくて問題にならない。一方、ボール7は、雌軸2側の軸方向溝5や板バネ9の表面に点接触する。トルク伝達のために、ボール7が支持する荷重は、ニードルローラ8に比べて小さいが、接触領域が狭い点接触のため、接触圧力は、著しく高くなる可能性がある。
【0057】
ねじりトルク100Nmに対するボール7と雌軸2の軸方向溝5との間の最大接触圧力を解析プログラムを用いて計算した結果を図7に示す。
【0058】
ここでは、軸方向溝5の断面形状をゴシックアーチ形状とした。グラフの横軸は、雌軸2側の軸方向溝5の横断面の曲率半径をボール7の直径に対する比で表している。断面の曲率半径が大きくなるにつれて、ボール7と雌軸2との間の最大接触圧力が高くなっており、雌軸2側の軸方向溝5がV溝(溝表面が平面、断面曲率半径無限大)の時には、3000MPa近い高圧になる。
【0059】
このような大きな接触圧力がかかる場合、材料の硬さが十分でないと、ボール7と接触する軌道表面に圧痕が生じるおそれがある。軌道表面に圧痕ができると摺動抵抗が大きく、また不均一になる。圧痕は、応力集中による剥離、摩耗など、損傷の原因にもなる。
【0060】
圧痕の発生を防ぐために必要な硬さは、およそ次のように考えることができる。材料の降伏せん断応力τYとビッカース硬さHVとの関係は、およそ次式で表される(吉田亨、設計技術者のための表面硬化技術、日刊工業新聞社)。
HV= 6×τY (1)
ここで、HV:材料のビッカース硬さ、τY:材料の降伏せん断応力[kgf/mm2]であり、
応力の単位をSI単位系とすると、おおよそ次式が成り立ち、
HV= 0.6×τY (2)
ここで、τY:材料の降伏せん断応力〔MPa〕である。
【0061】
一方、ヘルツ理論による最大接触圧力Pmaxと材料内部の最大せん断応力
τmaxには次の関係があり(例えば、T.A.HARRIS,Rolling Bearing Analysis−4thedition, John Wiley&Sons)、
線接触の場合、 τmax=0.3×Pmax
楕円接触の場合、おおよそ τmax=(1/3)×Pmax (3)
材料に圧痕を生じさせないためには、最大せん断応力が材料の降伏せん断応力を超えないことが必要である。
τY ≧ τmax (4)
式(2)(3)(4)より、
HV=0.6 × τY ≧ 0.6×τmax=0.2×Pmax
HV≧0.2×Pmax (5)
ここで、Pmax:最大接触圧力〔MPa〕である。
【0062】
最大せん断応力は、材料の表面から少し内部に入ったところに発生するので、厳密には、最大接触圧力と最大せん断応力が発生する深さ位置での硬さが式(5)を満たさなければならない。しかし、通常の表面硬化処理では、表面が最も硬く、内部に向かうほど硬さが低下することを考えると、表面硬さについても、式(5)を満たす必要がある。
【0063】
例えば、機械部品材料として広く用いられる機械構造用炭素鋼(JIS G4051)では、焼なまし材の場合、硬さは高くても、ブリネル硬さHB190程度(例えば、JISハンドブック[1]鉄鋼I、日本規格協会)、ビッカース硬さに換算すると、HV200程度(同資料)とされている。この場合、式(5)によれば、表面の永久変形による圧痕を防止するには、最大接触圧力Pmaxは1000MPaを超えることはできない。
【0064】
図5及び図6に示す伸縮軸の製作には、切削などの機械加工に比べて、安価に製造できる塑性加工が好ましい。塑性加工では、加工硬化により、加工前に比べて材料の表面硬さが向上する。発明者らが塑性加工により試作した伸縮軸部品の表面硬さは、HV260〜HV300程度であった。
【0065】
塑性加工に伴う加工硬化により、表面硬さHV300が得られたとき、式(5)によると、表面の永久変形による圧痕を防止するには、最大接触圧力Pmaxは1500MPaを超えることはできない。
【0066】
図7に示した軸方向溝5の曲率半径と最大接触圧力の計算結果によれば、100Nm負荷時にも、最大接触圧力Pmaxを1500MPa以下とするには、軸方向溝5の曲率半径をボール7の直径の55%以下にするとよいことがわかる。
【0067】
なお、特許文献1及び特許文献2には、雄軸と雌軸に形成した軸方向溝に複数のボールを介装して弾性体により予圧した構造が開示してある。
【0068】
このようなボールスプラインタイプの伸縮軸について、解析プログラムを用いてボール接触部の接触圧力を計算してみた。
【0069】
ここでは、図5及び図6に示した伸縮軸から、3本のニードルローラを取り除き、板バネによって予圧を負荷される3列のボール群のみがねじりトルクを支持する構造について検討した。
【0070】
ねじりトルク100Nmに対するボールと雌軸との間の最大接触圧力を解析プログラムを用いて計算した結果を図8に示す。
【0071】
グラフの横軸は、図7と同様、軸直角断面内の雌軸側の軸方向溝(ゴシックアーチ形状)の曲率半径をボールの直径に対する比で表している。図7と同様、断面の曲率半径が大きくなるにつれて、ボールと雌軸との間の最大接触圧力が高くなっている。しかし、この構造では、入力トルクをすべてボールによって支持する必要があるため、雌軸側の軸方向溝の横断面の溝曲率半径がボールの直径の52%であっても、3000MPaを超える高圧になる。
【0072】
ボール数やボール列数を増やしたり、ボール径を大きくしたりすることによって、接触圧力を抑制することは可能であるが、その場合、伸縮軸全体の径や長さが大きくなる欠点があり、製造コストも高くなる。
【0073】
軸方向溝の曲率半径を小さくすることによって、接触圧力を低下させることも可能であるが、この場合は、ボール直径の50%(ボール半径)に極めて近い許容差の範囲に精度良く加工する必要があるため、やはりコストアップにつながる。
【0074】
接触圧力が3000MPa前後であっても、材料の硬さが十分高ければ、実用に供することができる。転がり軸受の場合、永久変形を起こさない荷重として基本静定格荷重が定められており、玉軸受では、最大接触圧力が4200MPaとなる荷重として定義されている。式(5)によれば、接触圧力3000MPaに対してはHV600、接触圧力4200MPaに対してはHV840の硬さが必要になる。従って、このような構造の場合、転がり軸受の製造過程に用いられるような熱処理や、それ以外の表面硬化処理が必要になる。
【0075】
このような処理を施した場合、処理によって軌道面に変形が生じ、均一な摺動荷重が得られないおそれがある。また、熱処理などの表面硬化処理を行うこと自体もコストアップにつながるが、処理後の変形を取り除くために機械加工その他の処理が必要になった場合、さらに製造コストの上昇を招く。
【0076】
特許文献2では、ボールと相手部材との大きな接触圧力に関わるこのような問題点を回避するため、ボールと接触する面を硬さの高い板材(例えば熱処理されたばね鋼板)などで形成する構造が示されている。すべての接触部に板材を配置するには、複雑な形状の部品を複数用意する必要があり、コストがかかる。
【0077】
上記第2実施の形態(図5及び図6)に、本発明を適用することにより、熱処理等の表面硬化処理を特に施さなくても、ボール7が転動する軸方向溝5の軌道部分の圧痕を防止することができる。上記の特許文献1及び特許文献2に比べて、低コストで、コンパクトな構造でありながら、滑らかな摺動特性と、ガタがなくかつ高いトルク伝達能力を有するステアリング用伸縮軸を供することができる。
【0078】
なお、上記第2実施の形態(図5及び図6)では、ボール7と接触する軸方向溝5の軌道の断面形状をゴシックアーチ形状としたが、単一円弧や楕円、放物線などその他の曲線であっても、ボールと接触する接触点近傍の断面曲率半径について、同様に本発明を適用することができる。
【0079】
また、ゴシックアーチと直線を組み合せた断面形状の軸方向溝についても、大きなねじりトルクが負荷された際は、ボールは、主としてゴシックアーチ断面部と接触するので、本発明が有効である。
【0080】
また、形状、寸法や材料といった設計諸元について、例としていくつかとりあげたが、本発明は、それらに限定されるものではない。
【0081】
ここでは、図1及び図2、図5及び図6に示すように、雄軸1側に予圧用の板バネ9を設置し、ボール7は、板バネ9と雌軸2上の軸方向溝5に接触する形式について示した。逆に、雌軸2側に板バネ9を設置し、ボール7が雄軸1側の軸方向溝3と直接接触する構造の場合には、雄軸1側の軸方向溝3の断面曲率半径について、本発明を適用することができる。
【0082】
以上、本発明は、球状体7が転走する雌軸2または雄軸1の軸方向溝の軌道の横断面の曲率半径を、球状体7の直径の55%以下としたため、想定される最大ねじりトルク入力時でも、球状体7と軸方向溝との間の接触圧力を1500MPa以下に抑えることができ、特に熱処理や表面硬化処理をしなくとも、圧痕の発生を防止、圧痕による摺動抵抗の増加や、摩耗などの損傷を防止することができる。
【0083】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されず、種々変形可能である。
【0084】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1によれば、球状体が転動する雄軸側又は雌軸側の軸方向溝の横断面の曲率半径は、球状体の直径の55%以下に設定してあることから、想定される最大ねじりトルク入力時でも、球状体と軸方向溝との間の接触圧力を1500MPa以下に抑えることができる。
【0085】
このように、球状体と軸方向溝との間の接触圧力を1500MPa以下に抑えれば、伸縮軸の表面硬さが一般的な硬さ(HV260〜HV300程度)であっても、圧痕の発生を確実に防止することができる。
【0086】
従って、特に熱処理や表面硬化処理を施さなくても、圧痕の発生を確実に防止して、圧痕による摺動抵抗の増加や摩耗等の損傷を効果的に防止することができ、これにより、製造コストを低減しつつ、耐久性を向上することができる。また、請求項1によれば、安定した摺動荷重を実現すると共に、回転方向ガタ付きを確実に防止して、高剛性の状態でトルクを伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、本発明の第1実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸の側面図であり、(b)は、その斜視図である。
【図2】図1(a)のA−A線に沿った横断面図である。
【図3】伸縮軸の捩り剛性のための解析プログラムの計算モデルを示す模式図である。
【図4】試作伸縮軸のねじり剛性試験結果を実線で、解析プログラムによる計算結果を破線で示すグラフである。
【図5】(a)は、本発明の第2実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸の縦断面図であり、(b)は、(a)のb−b線に沿った横断面図である。
【図6】第2実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸の分解斜視図である。
【図7】第2実施の形態(図5及び図6)に示した伸縮軸の球状体と雌軸側軸方向溝との間の最大接触圧力の計算結果を示すグラフである。
【図8】特許文献1又は特許文献2に開示した伸縮軸の球状体と雌軸側軸方向溝との間の最大接触圧力の計算結果を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸を適用した自動車の操舵機構部の側面図である。
【符号の説明】
1 雄軸
2 雌軸
3 軸方向溝
4 軸方向溝
5 軸方向溝
6 軸方向溝
7 球状体(ボール、トルク伝達部材)
8 円柱体(ニードルローラー、トルク伝達部材)
9 板バネ(弾性体)
11a ストッパープレート
12 保持器
100 メンバ
101 アッパブラケット
102 ロアブラケット
103 ステアリングコラム
104 ステアリングシャフト
105 ステアリングホイール
106 ユニバーサルジョイント
107 ロアステアリングシャフト部
108 操舵軸継手
109 ピニオンシャフト
110 フレーム
111 弾性体
112 ステアリングラック軸
113 ステアリングラック支持部材
120 アッパステアリングシャフト部
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両のステアリングシャフトに組込み、雄軸と雌軸を相互に回転不能に且つ摺動自在に嵌合した車両ステアリング用伸縮軸に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車の操舵機構部の伸縮軸には、自動車が走行する際に発生する軸方向の変位を吸収し、ステアリングホイール上にその変位や振動を伝えない性能が要求される。さらに、運転者が自動車を運転するのに最適なポジションを得るためにステアリングホイールの位置を軸方向に移動し、その位置を調整する機能が要求される。
【0003】
これら何れの場合にも、伸縮軸は、ガタ音を低減することと、ステアリングホイール上のガタ感を低減することと、軸方向の摺動動作時における摺動抵抗を低減することとが要求される。
【0004】
このようなことから、従来、伸縮軸の雄軸に、ナイロン膜をコーティングし、摺動部にグリースを塗布し、金属騒音、金属打音等を吸収または緩和するとともに、摺動抵抗の低減と回転方向ガタの低減を行ってきた。
【0005】
しかし、使用経過によりナイロン膜の摩耗が進展して回転方向ガタが大きくなるといったことがある。また、エンジンルーム内の高温にさらされる条件下では、ナイロン膜は、体積変化し、摺動抵抗が著しく大きくなったり、摩耗が著しく促進されたりするため、回転方向ガタが大きくなるといったことがある。
【0006】
このようなことから、特許文献1では、雄軸の外周面と雌軸の内周面とに夫々形成した複数対の軸方向溝の間に、両軸の軸方向相対移動の際に転動するトルク伝達部材(球状体)が嵌合してある。
【0007】
さらに、特許文献1では、トルク伝達部材(球状体)の径方向内方又は外方と、各対の軸方向溝との間に、トルク伝達部材(球状体)を介して雄軸と雌軸に予圧を付与するための予圧用の弾性体(板バネ)が設けてある。
【0008】
これにより、トルク非伝達時(摺動時)には、板バネにより、トルク伝達部材(球状体)を雌軸に対してガタ付きのない程度に予圧しているため、雄軸と雌軸の間のガタ付きを防止することができ、雄軸と雌軸は、ガタ付きのない安定した摺動荷重で軸方向に摺動することができる。
【0009】
また、トルク伝達時には、板バネにより、トルク伝達部材(球状体)を周方向に拘束できるようになっているため、雄軸と雌軸は、その回転方向のガタ付きを防止して、高剛性の状態でトルクを伝達することができる。
【0010】
【特許文献1】
特開2001−50293号公報
【特許文献2】
独国特許発明DE3730393C2号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した特許文献1又は特許文献2では、球状体は、雌軸又は雄軸の軸方向溝の軌道面に、点接触することから、トルク負荷時には、接触圧力が過大になると、球状体と接触する軸方向溝の軌道面の表面には、圧痕が生じるといった虞れがある。
【0012】
その結果、このような場合には、軸方向溝の軌道面の圧痕により、摺動抵抗が大きくなり、又は不均一になるといったことがあり、また、圧痕は、応力集中による剥離や摩耗等の損傷の原因にもなるといったことがある。
【0013】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、安定した摺動荷重を実現すると共に、回転方向ガタ付きを確実に防止して、高剛性の状態でトルクを伝達でき、しかも、製造コストを低減しつつ、耐久性を向上することができる車両ステアリング用伸縮軸を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明の請求項1に係る車両ステアリング用伸縮軸は、車両のステアリングシャフトに組込み、雄軸と雌軸を回転不能に且つ摺動自在に嵌合した車両ステアリング用伸縮軸において、
前記雄軸の外周面と前記雌軸の内周面とに夫々形成した少なくとも一対の軸方向溝の間に、前記両軸の軸方向相対移動の際に転動する球状体を配置し、
前記雄軸側又は雌軸側の軸方向溝と、前記球状体との間に、前記球状体を介して前記雄軸と前記雌軸とに予圧を与える弾性体を介装し、
前記雄軸の外周面と前記雌軸の内周面とに夫々形成した他の少なくとも一対の軸方向溝の間に、前記両軸の軸方向相対移動の際に摺動する円柱体を配置し、
前記球状体が転動する前記雄軸側又は雌軸側の軸方向溝の横断面の曲率半径を、前記球状体の直径の55%以下としたことを特徴とする。
【0015】
このように、請求項1によれば、球状体が転動する雄軸側又は雌軸側の軸方向溝の横断面の曲率半径は、球状体の直径の55%以下に設定してあることから、想定される最大ねじりトルク入力時でも、球状体と軸方向溝との間の接触圧力を1500MPa以下に抑えることができる。
【0016】
このように、球状体と軸方向溝との間の接触圧力を1500MPa以下に抑えれば、伸縮軸の表面硬さが一般的な硬さ(例えばHV260〜HV300程度)であっても、圧痕の発生を確実に防止することができる。
【0017】
従って、特に熱処理や表面硬化処理を施さなくても、圧痕の発生を確実に防止して、圧痕による摺動抵抗の増加や摩耗等の損傷を効果的に防止することができ、これにより、製造コストを低減しつつ、耐久性を向上することができる。また、請求項1によれば、安定した摺動荷重を実現すると共に、回転方向ガタ付きを確実に防止して、高剛性の状態でトルクを伝達することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸を図面を参照しつつ説明する。
【0019】
(車両用ステアリングシャフトの全体構成)
図9は、本発明の実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸を適用した自動車の操舵機構部の側面図である。
【0020】
図9において、車体側のメンバ100にアッパブラケット101とロアブラケット102とを介して取り付けられたアッパステアリングシャフト部120(ステアリングコラム103と、ステアリングコラム103に回転自在に保持されたステアリングシャフト104を含む)と、ステアリングシャフト104の上端に装着されたステアリングホイール105と、ステアリングシャフト104の下端にユニバーサルジョイント106を介して連結されたロアステアリングシャフト部107と、ロアステアリングシャフト部107に操舵軸継手108を介して連結されたピニオンシャフト109と、ピニオンシャフト109に連結したステアリングラック軸112と、このステアリングラック軸112を支持して車体の別のフレーム110に弾性体111を介して固定されたステアリングラック支持部材113とから操舵機構部が構成されている。
【0021】
ここで、アッパステアリングシャフト部120とロアステアリングシャフト部107が本発明の実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸(以後、伸縮軸と記す)を用いている。ロアステアリングシャフト部107は、雄軸と雌軸とを嵌合したものであるが、このようなロアステアリングシャフト部107には自動車が走行する際に発生する軸方向の変位を吸収し、ステアリングホイール105上にその変位や振動を伝えない性能が要求される。このような性能は、車体がサブフレーム構造となっていて、操舵機構上部を固定するメンバ100とステアリングラック支持部材113が固定されているフレーム110が別体となっておりステアリングラック支持部材113がゴムなどの弾性体111を介してフレーム110に締結固定されている構造の場合に要求される。また、その他のケースとして操舵軸継手108をピニオンシャフト109に締結する際に作業者が、伸縮軸をいったん縮めてからピニオンシャフト109に嵌合させ締結させるため伸縮機能が必要とされる場合がある。さらに、操舵機構の上部にあるアッパステアリングシャフト部120も、雄軸と雌軸とを嵌合したものであるが、このようなアッパステアリングシャフト部120には、運転者が自動車を運転するのに最適なポジションを得るためにステアリングホイール105の位置を軸方向に移動し、その位置を調整する機能が要求されるため、軸方向に伸縮する機能が要求される。前述のすべての場合において、伸縮軸には嵌合部のガタ音を低減することと、ステアリングホイール105上のガタ感を低減することと、軸方向摺動時における摺動抵抗を低減することが要求される。
【0022】
(伸縮軸の第1実施の形態)
図1(a)は、本発明の第1実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸の側面図であり、(b)は、その斜視図である。図2は、図1(a)のA−A線に沿った横断面図である。
【0023】
図1に示すように、車両ステアリング用伸縮軸(以後、伸縮軸と記す)は、相互に回転不能に且つ摺動自在に嵌合した雄軸1と雌軸2とからなる。
【0024】
図2に示すように、雄軸1の外周面には、周方向に120度間隔で等配した3個の略円弧状の軸方向溝3、4、4が延在して形成してある。これに対応して雌軸2の内周面にも、周方向に120度間隔で等配した3個の略円弧状の軸方向溝5、6、6が延在して形成してある。軸方向溝3、5で第1介装部が、軸方向溝4、6;4,6で第2介装部が形成されている。
【0025】
雄軸1の断面略円弧状の軸方向溝3と、雌軸2の断面略円弧状の軸方向溝5との間に、予圧用の断面略M字形状の弾性体として後述する板バネ9が設けてあり、板バネ9の中央凹部と軸方向溝5との間に複数個の第1トルク伝達部材として剛体の球状体7が転動自在に介装されて第1のトルク伝達装置が構成されている。こうして、球状体7は雄軸1と雌軸2との軸方向に相対移動の際には転動し、回転の際には板バネ9に拘束されてトルクを伝達する。
【0026】
雄軸1の2個の断面略円弧状若しくはゴシックアーチ状の軸方向溝4、4と、雌軸2の2個の断面略円弧状若しくはゴシックアーチ状の軸方向溝6、6との間に、夫々、雄軸1と雌軸2との軸方向の相対移動を許し、回転の際にはトルクを伝達するための第2トルク伝達部材として円柱体8が摺動自在に介装されて第2のトルク伝達装置が構成されている。
【0027】
雄軸1の軸方向溝3の両側には、溝部3b、3bが溝3に平行して軸方向に延在して形成され、軸方向溝3と溝部3b、3bとの間に段部3a、3aが形成されている。板バネ9は断面略M字形状で、その両端部がそれぞれ溝部3b,3bの底部にまで延び、先端部が段部3a、3aをそれぞれ挟み込むように接触している。このようにして、板バネ9の凹部9c、9cで雄軸1の軸方向溝3の両側の段部3a、3aに係止され、トルク伝達時、板バネ9全体が周方向に移動できないようになっている。
【0028】
板バネ9は、トルク非伝達時には、球状体7と円柱体8、8のそれぞれを雌軸2に対してガタ付きのない程度に予圧する一方、トルク伝達時には、弾性変形して球状体7を雄軸1と雌軸2の間で周方向に拘束する働きをするようになっている。
【0029】
複数個の球状体7は、保持器12により保持してあり、球状体7と保持器12は、摺動時、止め輪11により、軸方向の移動を規制されるようになっている。
【0030】
以上のように構成した伸縮軸では、雄軸1と雌軸2の間に球状体7と円柱体8を介装し、板バネ9により、球状体7と円柱体8とを雌軸2に対してガタ付きのない程度に予圧してあるため、トルク非伝達時は、雄軸1と雌軸2の間のガタ付きを確実に防止することができると共に、雄軸1と雌軸2は軸方向に相対移動する際には、ガタ付きのない安定した摺動荷重で摺動することができる。
【0031】
なお、従来技術のように摺動面が純粋な滑りによるものであれば、ガタつき防止のための予圧荷重をある程度の荷重で留めておくことしかできなかった。それは、摺動荷重は、摩擦係数に予圧荷重を乗じたものであり、ガタつき防止や伸縮軸の剛性を向上させたいと願って予圧荷重を上げてしまうと摺動荷重が増大してしまうという悪循環に陥ってしまっていたのである。
【0032】
その点、本実施の形態では一部に転がりによる機構を採用しているために著しい摺動荷重の増大を招くことなく予圧荷重を上げることができた。これにより、従来なし得なかったガタつきの防止と剛性の向上を摺動荷重の増大を招くことなく達成することができた。
【0033】
本実施形態において、トルク伝達時には、板バネ9が弾性変形して球状体7を雄軸1と雌軸2の間で周方向に拘束すると共に、雄軸1と雌軸2の間に介装されている2列の円柱体8が主なトルク伝達の役割を果たす。
【0034】
例えば、雄軸1からトルクが入力された場合、初期の段階では、板バネ9の予圧がかかっているため、ガタ付きはなく、板バネ9がトルクに対する反力を発生させてトルクを伝達する。この時は、雄軸1・板バネ9・球状体7・雌軸2間のトルク伝達荷重と、雄軸1・円柱体8・雌軸2間のトルク伝達荷重がつりあった状態で全体的なトルク伝達がされる。
【0035】
さらにトルクが増大していくと、円柱体8を介した雄軸1、雌軸2の回転方向のすきまの方が、球状体7を介した雄軸1・板バネ9・球状体7・雌軸2間のすきまより小さい設定としてあるため、円柱体8の方が球状体7より反力を強く受け、円柱体8が主にトルクを雌軸2に伝える。そのため、雄軸1と雌軸2の回転方向ガタを確実に防止するとともに、高剛性の状態でトルクを伝達することができる。
【0036】
なお、球状体7は剛体のボールが好ましい。また剛体の円柱体8はニードルローラが好ましい。
【0037】
円柱体(以後、ニードルローラと記す)8は、線接触でその荷重を受けるため、点接触で荷重を受けるボールよりも接触圧を低く抑えることができるなど、さまざまな効果がある。したがって、全列をボール転がり構造とした場合よりも下記の項目が優れている。
・摺動部での減衰能効果が、ボール転がり構造に比べて大きい。よって振動吸収性能が高い。
・同じトルクを伝達するならば、ニードルローラの方が接触圧を低く抑えることができるため、軸方向の長さを短くできスペースを有効に使うことができる。
・同じトルクを伝達するならば、ニードルローラの方が接触圧を低く抑えることができるため、熱処理等によって雌軸の軸方向溝表面を硬化させるための追加工程が不要である。
・部品点数を少なくすることができる。
・組立性をよくすることができる。
・組立コストを抑えることができる。
【0038】
このようにニードルローラ8は、雄軸1と雌軸2の間のトルク伝達のためのキーの役割をするとともに、雌軸2の内周面とすべり接触する。ニードルローラの使用が従来のスプライン嵌合と比較して、優れている点は下記のとおりである。・ニードルローラは大量生産品であり、非常に低コストである。
・ニードルローラは熱処理後、研磨されているので、表面硬度が高く、耐摩耗性に優れている。
・ニードルローラは研磨されているので、表面粗さがきめ細かく摺動時の摩擦係数が低いため、摺動荷重を低く抑えることができる。
・使用条件に応じて、ニードルローラの長さや配置を変えることができるため、設計思想を変えること無く、さまざまなアプリケーションに対応することができる。
・使用条件によっては、摺動時の摩擦係数をさらに下げなければならない場合がある、この時ニードルローラだけに表面処理をすればその摺動特性を変えることができるため、設計思想を変えること無く、さまざまなアプリケーションに対応することができる。
・ニードルローラの外径違い品を安価に数ミクロン単位で製造することができるため、ニードルローラ径を選択することによって雄軸・ニードルローラ・雌軸間のすきまを最小限に抑えることができる。よって軸の捩り方向の剛性を向上させることが容易である。
【0039】
一方、球状体(以後、ボールと記す)7を部分的に採用したという点では、全列ニードルローラでかつ、全列が摺動する構造と比較して、下記の項目が優れている。
・ボールは摩擦抵抗が低いため、摺動荷重を低く抑えられる。
・ボールの使用により予圧荷重を高くすることができ、長期にわたるガタつきの防止と高剛性が同時に得られる。
【0040】
(伸縮軸のねじり剛性のための解析プログラムについて)
図3は、伸縮軸の捩り剛性のための解析プログラムの計算モデルを示す模式図である。図4は、試作伸縮軸のねじり剛性試験結果を実線で、解析プログラムによる計算結果を破線で示すグラフである。
【0041】
球状体や円柱体を使用した伸縮軸のねじり剛性を計算機によって解析するプログラムを作成した。雌軸を空間に固定し、伸縮軸の横断面(2次元)について、各球状体や円柱体にかかる力の釣り合い式と、雄軸にかかる力(球状体/円柱体/バネ荷重と外部から与えられるねじりトルク)の釣り合い式を解く。
【0042】
各要素の接点では、ヘルツの弾性接触理論に基づいて、2物体の接近量と接触荷重の関係を考慮した。本プログラムでは、予圧を与えるバネモデルを設定できる。バネと接触する2要素(球状体と雄軸など)の位置関係により、バネ荷重が発生する。
【0043】
上記第1実施の形態(図1及び図2)に示す試作伸縮軸に、解析プログラムを適用した。
【0044】
雄軸1と雌軸2に、それぞれ、3本の軸方向溝3,4,5,6があり、1本の軸方向溝3,5には、複数の球状体7が、残る2本の軸方向溝4,6には、円柱体8が介装してある。球状体7には、雄軸1に設置された板バネ9によって予圧が与えられている。計算モデルを図3に示す。
【0045】
図4に、試作伸縮軸のねじり剛性試験結果を実線で、解析プログラムによる計算結果を破線で示す。計算によるねじり剛性の変化は、実測値によく一致している。
【0046】
解析プログラムに用いた弾性変形のモデルによって、実機の性能を十分な精度で予測できることが示された。解析プログラムによって計算される変形量や接触領域の大きさ、接触圧力などについても、実機使用時の状態を十分な精度でシミュレートできると考えられる。
【0047】
(伸縮軸の第2実施の形態)
図5(a)は、本発明の第2実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸の縦断面図であり、(b)は、(a)のb−b線に沿った横断面図である。図6は、第2実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸の分解斜視図である。
【0048】
上述した第1実施の形態では、1対の軸方向溝3,5に、1組の第1トルク伝達部材7を配置し、一対の軸方向溝3,5に対して周方向に120度間隔で等配した2対の軸方向溝4,6に、2個の第2トルク伝達部材8を配置している。
【0049】
これに対して、本第2実施の形態では、図5に示すように、周方向に120度間隔で等配した3対の軸方向溝3,5に、それぞれ弾性体として板バネ9を介して第1トルク伝達部材として球状体7を配置して第1のトルク伝達装置が構成されている。これら3対の軸方向溝3、5の間で、周方向に60度間隔にそれぞれ配置された3対の軸方向溝4,6に、それぞれ第2トルク伝達部材として円柱体8を配置して第2のトルク伝達装置が構成されている。
【0050】
第2実施の形態の技術的背景として、車両毎の要求性能の違いから、捩り剛性の特性は様々なものが必要となる。従来、その要求特性が変わる度に、シャフトの直径を変えたり、或いは弾性体を使用したりして、構造を変えてその要求特性に応えている。
【0051】
しかし、これらの場合、多種多様な構造や弾性特性の違う部品をそろえなければならず、部品点数の増加とコストの増大を招いている。
【0052】
このようなことから、本第2実施の形態では、円柱体8の外径違い品を安価に数ミクロン単位で製造することができるため、円柱体8の直径を適宜選択又は組み合わせることにより、雄軸1・円柱体8・雌軸2間の隙間を任意に設定することができる。以上から、車両の特性により異なる各種要求に対して、基本構造を変えることなく、また部品点数を増加させることなく、安価に応えることができる。
【0053】
(解析プログラムによる伸縮軸のねじり剛性のシミュレーション)
図7は、第2実施の形態(図5及び図6)に示した伸縮軸の球状体と雌軸側軸方向溝との間の最大接触圧力の計算結果を示すグラフである。
【0054】
図8は、特許文献1又は特許文献2に開示した伸縮軸の球状体と雌軸側軸方向溝との間の最大接触圧力の計算結果を示すグラフである。
【0055】
本プログラムを、上記第2実施の形態(図5及び図6)に示す伸縮軸に適用した。車両用として想定される最大のねじりトルク100Nmを、雌軸2と雄軸1の間に負荷した。
【0056】
この場合、トルクは、主として雌軸2と雄軸1との間に介装されたニードルローラ8を介して伝達されるが、バネ予圧されているボール7にも、トルクの一部が分担される。ニードルローラ8は、雌軸2と雄軸1と線接触し、接触領域が広いため、接触荷重が大きくても、接触圧力は比較的小さくて問題にならない。一方、ボール7は、雌軸2側の軸方向溝5や板バネ9の表面に点接触する。トルク伝達のために、ボール7が支持する荷重は、ニードルローラ8に比べて小さいが、接触領域が狭い点接触のため、接触圧力は、著しく高くなる可能性がある。
【0057】
ねじりトルク100Nmに対するボール7と雌軸2の軸方向溝5との間の最大接触圧力を解析プログラムを用いて計算した結果を図7に示す。
【0058】
ここでは、軸方向溝5の断面形状をゴシックアーチ形状とした。グラフの横軸は、雌軸2側の軸方向溝5の横断面の曲率半径をボール7の直径に対する比で表している。断面の曲率半径が大きくなるにつれて、ボール7と雌軸2との間の最大接触圧力が高くなっており、雌軸2側の軸方向溝5がV溝(溝表面が平面、断面曲率半径無限大)の時には、3000MPa近い高圧になる。
【0059】
このような大きな接触圧力がかかる場合、材料の硬さが十分でないと、ボール7と接触する軌道表面に圧痕が生じるおそれがある。軌道表面に圧痕ができると摺動抵抗が大きく、また不均一になる。圧痕は、応力集中による剥離、摩耗など、損傷の原因にもなる。
【0060】
圧痕の発生を防ぐために必要な硬さは、およそ次のように考えることができる。材料の降伏せん断応力τYとビッカース硬さHVとの関係は、およそ次式で表される(吉田亨、設計技術者のための表面硬化技術、日刊工業新聞社)。
HV= 6×τY (1)
ここで、HV:材料のビッカース硬さ、τY:材料の降伏せん断応力[kgf/mm2]であり、
応力の単位をSI単位系とすると、おおよそ次式が成り立ち、
HV= 0.6×τY (2)
ここで、τY:材料の降伏せん断応力〔MPa〕である。
【0061】
一方、ヘルツ理論による最大接触圧力Pmaxと材料内部の最大せん断応力
τmaxには次の関係があり(例えば、T.A.HARRIS,Rolling Bearing Analysis−4thedition, John Wiley&Sons)、
線接触の場合、 τmax=0.3×Pmax
楕円接触の場合、おおよそ τmax=(1/3)×Pmax (3)
材料に圧痕を生じさせないためには、最大せん断応力が材料の降伏せん断応力を超えないことが必要である。
τY ≧ τmax (4)
式(2)(3)(4)より、
HV=0.6 × τY ≧ 0.6×τmax=0.2×Pmax
HV≧0.2×Pmax (5)
ここで、Pmax:最大接触圧力〔MPa〕である。
【0062】
最大せん断応力は、材料の表面から少し内部に入ったところに発生するので、厳密には、最大接触圧力と最大せん断応力が発生する深さ位置での硬さが式(5)を満たさなければならない。しかし、通常の表面硬化処理では、表面が最も硬く、内部に向かうほど硬さが低下することを考えると、表面硬さについても、式(5)を満たす必要がある。
【0063】
例えば、機械部品材料として広く用いられる機械構造用炭素鋼(JIS G4051)では、焼なまし材の場合、硬さは高くても、ブリネル硬さHB190程度(例えば、JISハンドブック[1]鉄鋼I、日本規格協会)、ビッカース硬さに換算すると、HV200程度(同資料)とされている。この場合、式(5)によれば、表面の永久変形による圧痕を防止するには、最大接触圧力Pmaxは1000MPaを超えることはできない。
【0064】
図5及び図6に示す伸縮軸の製作には、切削などの機械加工に比べて、安価に製造できる塑性加工が好ましい。塑性加工では、加工硬化により、加工前に比べて材料の表面硬さが向上する。発明者らが塑性加工により試作した伸縮軸部品の表面硬さは、HV260〜HV300程度であった。
【0065】
塑性加工に伴う加工硬化により、表面硬さHV300が得られたとき、式(5)によると、表面の永久変形による圧痕を防止するには、最大接触圧力Pmaxは1500MPaを超えることはできない。
【0066】
図7に示した軸方向溝5の曲率半径と最大接触圧力の計算結果によれば、100Nm負荷時にも、最大接触圧力Pmaxを1500MPa以下とするには、軸方向溝5の曲率半径をボール7の直径の55%以下にするとよいことがわかる。
【0067】
なお、特許文献1及び特許文献2には、雄軸と雌軸に形成した軸方向溝に複数のボールを介装して弾性体により予圧した構造が開示してある。
【0068】
このようなボールスプラインタイプの伸縮軸について、解析プログラムを用いてボール接触部の接触圧力を計算してみた。
【0069】
ここでは、図5及び図6に示した伸縮軸から、3本のニードルローラを取り除き、板バネによって予圧を負荷される3列のボール群のみがねじりトルクを支持する構造について検討した。
【0070】
ねじりトルク100Nmに対するボールと雌軸との間の最大接触圧力を解析プログラムを用いて計算した結果を図8に示す。
【0071】
グラフの横軸は、図7と同様、軸直角断面内の雌軸側の軸方向溝(ゴシックアーチ形状)の曲率半径をボールの直径に対する比で表している。図7と同様、断面の曲率半径が大きくなるにつれて、ボールと雌軸との間の最大接触圧力が高くなっている。しかし、この構造では、入力トルクをすべてボールによって支持する必要があるため、雌軸側の軸方向溝の横断面の溝曲率半径がボールの直径の52%であっても、3000MPaを超える高圧になる。
【0072】
ボール数やボール列数を増やしたり、ボール径を大きくしたりすることによって、接触圧力を抑制することは可能であるが、その場合、伸縮軸全体の径や長さが大きくなる欠点があり、製造コストも高くなる。
【0073】
軸方向溝の曲率半径を小さくすることによって、接触圧力を低下させることも可能であるが、この場合は、ボール直径の50%(ボール半径)に極めて近い許容差の範囲に精度良く加工する必要があるため、やはりコストアップにつながる。
【0074】
接触圧力が3000MPa前後であっても、材料の硬さが十分高ければ、実用に供することができる。転がり軸受の場合、永久変形を起こさない荷重として基本静定格荷重が定められており、玉軸受では、最大接触圧力が4200MPaとなる荷重として定義されている。式(5)によれば、接触圧力3000MPaに対してはHV600、接触圧力4200MPaに対してはHV840の硬さが必要になる。従って、このような構造の場合、転がり軸受の製造過程に用いられるような熱処理や、それ以外の表面硬化処理が必要になる。
【0075】
このような処理を施した場合、処理によって軌道面に変形が生じ、均一な摺動荷重が得られないおそれがある。また、熱処理などの表面硬化処理を行うこと自体もコストアップにつながるが、処理後の変形を取り除くために機械加工その他の処理が必要になった場合、さらに製造コストの上昇を招く。
【0076】
特許文献2では、ボールと相手部材との大きな接触圧力に関わるこのような問題点を回避するため、ボールと接触する面を硬さの高い板材(例えば熱処理されたばね鋼板)などで形成する構造が示されている。すべての接触部に板材を配置するには、複雑な形状の部品を複数用意する必要があり、コストがかかる。
【0077】
上記第2実施の形態(図5及び図6)に、本発明を適用することにより、熱処理等の表面硬化処理を特に施さなくても、ボール7が転動する軸方向溝5の軌道部分の圧痕を防止することができる。上記の特許文献1及び特許文献2に比べて、低コストで、コンパクトな構造でありながら、滑らかな摺動特性と、ガタがなくかつ高いトルク伝達能力を有するステアリング用伸縮軸を供することができる。
【0078】
なお、上記第2実施の形態(図5及び図6)では、ボール7と接触する軸方向溝5の軌道の断面形状をゴシックアーチ形状としたが、単一円弧や楕円、放物線などその他の曲線であっても、ボールと接触する接触点近傍の断面曲率半径について、同様に本発明を適用することができる。
【0079】
また、ゴシックアーチと直線を組み合せた断面形状の軸方向溝についても、大きなねじりトルクが負荷された際は、ボールは、主としてゴシックアーチ断面部と接触するので、本発明が有効である。
【0080】
また、形状、寸法や材料といった設計諸元について、例としていくつかとりあげたが、本発明は、それらに限定されるものではない。
【0081】
ここでは、図1及び図2、図5及び図6に示すように、雄軸1側に予圧用の板バネ9を設置し、ボール7は、板バネ9と雌軸2上の軸方向溝5に接触する形式について示した。逆に、雌軸2側に板バネ9を設置し、ボール7が雄軸1側の軸方向溝3と直接接触する構造の場合には、雄軸1側の軸方向溝3の断面曲率半径について、本発明を適用することができる。
【0082】
以上、本発明は、球状体7が転走する雌軸2または雄軸1の軸方向溝の軌道の横断面の曲率半径を、球状体7の直径の55%以下としたため、想定される最大ねじりトルク入力時でも、球状体7と軸方向溝との間の接触圧力を1500MPa以下に抑えることができ、特に熱処理や表面硬化処理をしなくとも、圧痕の発生を防止、圧痕による摺動抵抗の増加や、摩耗などの損傷を防止することができる。
【0083】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されず、種々変形可能である。
【0084】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1によれば、球状体が転動する雄軸側又は雌軸側の軸方向溝の横断面の曲率半径は、球状体の直径の55%以下に設定してあることから、想定される最大ねじりトルク入力時でも、球状体と軸方向溝との間の接触圧力を1500MPa以下に抑えることができる。
【0085】
このように、球状体と軸方向溝との間の接触圧力を1500MPa以下に抑えれば、伸縮軸の表面硬さが一般的な硬さ(HV260〜HV300程度)であっても、圧痕の発生を確実に防止することができる。
【0086】
従って、特に熱処理や表面硬化処理を施さなくても、圧痕の発生を確実に防止して、圧痕による摺動抵抗の増加や摩耗等の損傷を効果的に防止することができ、これにより、製造コストを低減しつつ、耐久性を向上することができる。また、請求項1によれば、安定した摺動荷重を実現すると共に、回転方向ガタ付きを確実に防止して、高剛性の状態でトルクを伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、本発明の第1実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸の側面図であり、(b)は、その斜視図である。
【図2】図1(a)のA−A線に沿った横断面図である。
【図3】伸縮軸の捩り剛性のための解析プログラムの計算モデルを示す模式図である。
【図4】試作伸縮軸のねじり剛性試験結果を実線で、解析プログラムによる計算結果を破線で示すグラフである。
【図5】(a)は、本発明の第2実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸の縦断面図であり、(b)は、(a)のb−b線に沿った横断面図である。
【図6】第2実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸の分解斜視図である。
【図7】第2実施の形態(図5及び図6)に示した伸縮軸の球状体と雌軸側軸方向溝との間の最大接触圧力の計算結果を示すグラフである。
【図8】特許文献1又は特許文献2に開示した伸縮軸の球状体と雌軸側軸方向溝との間の最大接触圧力の計算結果を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態に係る車両ステアリング用伸縮軸を適用した自動車の操舵機構部の側面図である。
【符号の説明】
1 雄軸
2 雌軸
3 軸方向溝
4 軸方向溝
5 軸方向溝
6 軸方向溝
7 球状体(ボール、トルク伝達部材)
8 円柱体(ニードルローラー、トルク伝達部材)
9 板バネ(弾性体)
11a ストッパープレート
12 保持器
100 メンバ
101 アッパブラケット
102 ロアブラケット
103 ステアリングコラム
104 ステアリングシャフト
105 ステアリングホイール
106 ユニバーサルジョイント
107 ロアステアリングシャフト部
108 操舵軸継手
109 ピニオンシャフト
110 フレーム
111 弾性体
112 ステアリングラック軸
113 ステアリングラック支持部材
120 アッパステアリングシャフト部
Claims (1)
- 車両のステアリングシャフトに組込み、雄軸と雌軸を回転不能に且つ摺動自在に嵌合した車両ステアリング用伸縮軸において、
前記雄軸の外周面と前記雌軸の内周面とに夫々形成した少なくとも一対の軸方向溝の間に、前記両軸の軸方向相対移動の際に転動する球状体を配置し、
前記雄軸側又は雌軸側の軸方向溝と、前記球状体との間に、前記球状体を介して前記雄軸と前記雌軸とに予圧を与える弾性体を介装し、
前記雄軸の外周面と前記雌軸の内周面とに夫々形成した他の少なくとも一対の軸方向溝の間に、前記両軸の軸方向相対移動の際に摺動する円柱体を配置し、
前記球状体が転動する前記雄軸側又は雌軸側の軸方向溝の横断面の曲率半径を、前記球状体の直径の55%以下としたことを特徴とする車両ステアリング用伸縮軸。
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