JP2004242557A - 筋ジストロフィー症の病態モデル哺乳動物、及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】β−ディフェンシンを過剰発現させてなる筋ジストロフィー症の病態モデル哺乳動物、その子孫又はそれらの一部。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、筋ジストロフィー症の病態モデル哺乳動物、及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
筋ジストロフィーとは、進行性筋ジストロフィーとも呼ばれ、「筋線維の変性・壊死・再生を主病変とし、臨床的には進行性の筋力低下を伴う遺伝性疾患」と定義されている。筋力低下は進行性で、呼吸筋の筋力低下による呼吸不全か、心不全で死の転帰をとることが多い難病の一種である。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD: Duchenne Muscular Dystrophy)やベッカー型筋ジストロフィー(BMD:Becker Muscular Dystrophy)が代表的な病型である。DMDは、最も頻度の高い遺伝子性筋疾患であり、出生男子3,500人に1人の割合で発症する。
【0003】
筋ジストロフィー症の患者は、多くは幼児期に筋力低下症状を現し、その後一貫して筋萎縮が進行して、20歳前後で死に至る。1987年にDMDの原因遺伝子であるジストロフィン遺伝子が、逆行遺伝学の手法により発見され、またBMBも同じジストロフィン遺伝子の異常から発症することが明らかにされた[Koenig, M. et al., Cell, 50: 509−517 (1987)]。
【0004】
筋ジストロフィーに対する根本的治療法は未だ見出されておらず、症状の進行を遅らせるためのリハビリテーションや呼吸管理等が重要な意味をもつとされている。現在のところ、筋ジストロフィーに対する薬物療法として一般に効果の認められたものはない。このため、筋ジストロフィーに対する効果的で安全な治療剤の提供が切望されているのが現状である。
【0005】
治療薬を開発するには、まずvitro試験の後第2段階としてvivoで哺乳動物を用いて試験する。このvivoにおける治療薬研究においては、病態モデルが必要であり、モデル哺乳動物をリファレンスとして、それに治療薬を投与するとどのように改善されるかが重要である。
【0006】
【非特許文献1】
Koenig, M. et al., Cell, 50: 509−517 (1987)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、自然発生的に得られていた従来の筋ジストロフィー病態モデル哺乳動物(Hoffmann EP et al. Cell. 51: 919−28, 1987)の代わりに使用することができ、かつ人工的に製造することが可能な筋ジストロフィー病態モデル哺乳動物、及びその製造方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、動物の宿主防御系の蛋白質成分であるディフェンシンについて研究を行っており、ディフェンシンの哺乳動物に対する影響について検討していたところ、驚くべきことにディフェンシン遺伝子を導入することにより該遺伝子を過剰発現する哺乳動物は筋肉が萎縮し、筋ジストロフィー病態モデルとしての様相を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明によれば、β−ディフェンシンを過剰発現させてなる筋ジストロフィー症の病態モデル哺乳動物、その子孫又はそれらの一部が提供される。
好ましくは、本発明の病態モデル哺乳動物は、β−ディフェンシン遺伝子を導入したトランスジェニック哺乳動物である。
好ましくは、導入したβ−ディフェンシン遺伝子を筋肉で過剰発現する。
【0010】
好ましくは、β−ディフェンシンはβ−ディフェンシン−6である。
好ましくは、哺乳動物はげっ歯類の動物である。
好ましくは、げっ歯類の動物はマウスである。
【0011】
本発明の別の側面によれば、β−ディフェンシン遺伝子を哺乳動物の卵細胞または幹細胞に導入し、該細胞を用いて動物個体を発生させることを含む、筋ジストロフィー症の病態モデル哺乳動物の製造方法が提供される。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の筋ジストロフィー症の病態モデル哺乳動物は、β−ディフェンシンを過剰発現しているモデル哺乳動物であり、より具体的には、β−ディフェンシン遺伝子を導入したトランスジェニック哺乳動物である。
【0013】
(1)β−ディフェンシン
ディフェンシンは、動物の宿主防御系の蛋白質成分である。それらは、動物において、侵入微生物及び寄生菌を破壊することに関与する細胞中に見出されている。代表的な哺乳動物ディフェンシンは、アミノ酸数が約29〜40で、6個のシステイン残基の保存パターンを有するプラスに荷電した親水性(塩基性)ドメインと疎水性ドメインを持つ両親媒性分子であり、粘膜表面の主たる防御システムとして働く。ディフェンシンは、親水性ドメインをマイナス荷電の細菌膜表面分子に結合させた後に、疎水性ドメインを細菌膜に挿入し、細菌膜の透過性を亢進させることによって、細菌の代謝を阻害し、殺菌作用を発揮する。
【0014】
本発明でいうディフェンシンという用語は、上記蛋白質に限定されず、動物細胞から単離されるか、あるいは合成的に製造された蛋白質を含み、親蛋白質の細胞毒活性を実質的に保持しているが、一つ又はそれ以上のアミノ酸を挿入又は置換することによってその配列が変更されている変異体をも含むものである。
【0015】
本発明者らは、J.Boc.Chem. Vol.276, No.34, 31510−31514,2001において、主に食道、気管、及び骨格筋に発現する一部がβ−ディフェンシン−3のアミノ酸配列やβ−ディフェンシン−4のアミノ酸配列に類似するβ−ディフェンシン−6(塩基配列を配列表の配列番号1に記載し、アミノ酸配列を配列表の配列番号2に記載する)を報告した。本発明ではディフェンシンとして特にβ−ディフェンシン−6を用いることが好ましい。
【0016】
(2)哺乳動物
本発明で筋ジストロフィーの病態モデルとして用いることのできる哺乳動物とは、ヒト以外の哺乳動物であって、例えば、ウシ、猿、豚、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウスなどを挙げることができる。これらの哺乳動物のうちではモルモット、ラット、マウスなどのげっ歯類が取扱が容易であるため好ましく、中でもマウスが好ましい。
【0017】
(3)トランスジェニック哺乳動物の製造
本発明のトランスジェニック哺乳動物は、未受精卵、受精卵、精子およびその始原細胞を含む胚芽細胞などに対して、好ましくは、非ヒト哺乳動物の発生における胚発生の段階(さらに好ましくは、単細胞または受精卵細胞の段階でかつ一般に8細胞期以前)において、リン酸カルシウム法、電気パルス法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法などにより導入遺伝子であるβ−ディフェンシン遺伝子を導入することにより作製することができる。また、該遺伝子導入方法により、体細胞、生体の臓器、組織細胞などに目的とするβ−ディフェンシン遺伝子を転移し、細胞培養、組織培養などに利用することもでき、さらに、これら細胞を上述の胚芽細胞と自体公知の細胞配合法により融合させることによりトランスジェニック動物を作製することもできる。
【0018】
β−ディフェンシン遺伝子を対象動物に導入させる際、当該遺伝子を対象となる動物の細胞で発現させうるプロモーターの下流に連結した遺伝子構築物として導入することが好ましい。具体的には、目的とするβ−ディフェンシン遺伝子を有する各種哺乳動物由来のβ−ディフェンシン遺伝子を発現させうる各種プロモーターの下流に、該β−ディフェンシン遺伝子を連結したベクターを、対象となる哺乳動物の受精卵(例えば、マウス受精卵)へマイクロインジェクションすることによって、目的とするβ−ディフェンシン遺伝子を高発現するトランスジェニック哺乳動物を作製することができる。
【0019】
β−ディフェンシン遺伝子の発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージなどのバクテリオファージ、モロニー白血病ウイルスなどのレトロウイルス、ワクシニアウイルスまたはバキュロウイルスなどの動物ウイルスなどが用いられる。遺伝子発現の調節を行うプロモーターとしては、たとえばウィルス(サイトメガロウィルス、モロニー白血病ウィルス、JCウィルス、乳癌ウィルス、など)由来遺伝子のプロモーター、各種哺乳動物(ヒト、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)および鳥類(ニワトリなど)由来遺伝子[例えば、アルブミン、インスリンII、エリスロポエチン、エンドセリン、オステオカルシン、筋クレアチンキナーゼ、血小板由来成長因子β、ケラチンK1,K10およびK14、コラーゲンI型およびII型、心房ナトリウム利尿性因子、ドーパミンβ−水酸化酵素、内皮レセプターチロシンキナーゼ、ナトリウムカリウムアデノシン3リン酸化酵素、ニューロフィラメント軽鎖、メタロチオネインIおよびIIA、メタロプロティナーゼ1組織インヒビター、MHCクラスI抗原、平滑筋αアクチン、ポリペプチド鎖延長因子1α(EF−1α)、βアクチン、αおよびβミオシン重鎖、ミオシン軽鎖1および2、ミエリン基礎タンパク、血清アミロイドPコンポーネント、ミオグロビン、レニンなどの遺伝子]のプロモーターなどが挙げられる。上記ベクターは、トランスジェニック哺乳動物において目的とするメッセンジャーRNAの転写を終結するターミネターを有していてもよい。その他、β−ディフェンシン遺伝子をさらに高発現させる目的で、各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域、真核生物遺伝子のイントロンの一部をプロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間あるいは翻訳領域の3’下流 に連結することも所望により可能である。
【0020】
受精卵細胞段階におけるβ−ディフェンシン遺伝子の導入は、対象の哺乳動物の胚芽細胞および体細胞の全てに過剰に存在するように確保することが好ましい。トランスジェニック後の作出動物の胚芽細胞においてβ−ディフェンシン遺伝子が過剰に存在することは、作出動物の子孫が全てその胚芽細胞および体細胞の全てにβ−ディフェンシン遺伝子を過剰に有することを意味する。遺伝子を受け継いだこの種の動物の子孫はその胚芽細胞および体細胞の全てにβ−ディフェンシン蛋白質を過剰に有する。導入遺伝子を相同染色体の両方に持つホモザイゴート動物を取得し、この雌雄の動物を交配することによりすべての子孫が該遺伝子を安定に保持し、また、該遺伝子を過剰に有することを確認して、通常の飼育環境で繁殖継代することができる。
【0021】
トランスジェニック対象動物が有する内在性の遺伝子とは異なる遺伝子である外来性β−ディフェンシン遺伝子を対象非ヒト哺乳動物(好ましくはマウスなど)またはその先祖の受精卵に転移する際に用いられる受精卵は、同種の雄哺乳動物と雌哺乳動物を交配させることによって得られる。受精卵は自然交配によっても得られるが、雌哺乳動物の性周期を人工的に調節した後、雄哺乳動物と交配させる方法が好ましい。雌哺乳動物の性周期を人工的に調節する方法としては、例えば初めに卵胞刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG))、次いで黄体形成ホルモン(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG))を例えば腹腔注射などにより投与する方法が好ましい。
【0022】
得られた受精卵に前述の方法により外来性β−ディフェンシン遺伝子を導入した後、雌哺乳動物に人工的に移植・着床することにより、外来性遺伝子を組み込んだDNAを有する非ヒト哺乳動物が得られる。好ましくは、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)を投与後、雄哺乳動物と交配させることにより、受精能を誘起された偽妊娠雌哺乳動物に得られた受精卵を人工的に移植・着床させる方法が好ましい。遺伝子を導入する全能性細胞としては、マウスの場合、受精卵や初期胚を用いることができる。また培養細胞への遺伝子導入法としては、トランスジェニック動物個体の産出高率や次代への導入遺伝子の伝達効率を考慮した場合、DNAのマイクロインジェクションが好ましい。
【0023】
遺伝子を注入した受精卵は、次に仮親の卵管に移植され、個体まで発生し出生した動物を里親につけて飼育させたのち、体の一部(マウスの場合には、例えば、尾部先端)からDNAを抽出し、サザン解析やPCR法により導入遺伝子の存在を確認することができる。導入遺伝子の存在が確認された個体を初代(Founder)とすれば、導入遺伝子はその子(F1)の50%に伝達される。さらに、このF1個体を野生型動物または他のF1動物と交配させることにより、2倍体染色体の片方(ヘテロ接合)または両方(ホモ接合)に導入遺伝子を有する個体(F2)を作成することができる。
【0024】
あるいは、β−ディフェンシン高発現トランスジェニック哺乳動物は、上記したβ−ディフェンシン遺伝子を導入遺伝子としてES細胞に導入することによって作製することもできる。例えば、正常マウス胚盤胞(blastcyst)に由来するHPRT陰性(ヒポキサンチングアニン・フォスフォリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を欠いている)ES細胞(embryonic stem cell)に、β−ディフェンシン遺伝子を導入する。β−ディフェンシン遺伝子がマウス内在性遺伝子上にインテグレートされたES細胞をHATセレクション法により選別する。次いで、選別したES細胞を、別の正常マウスから取得した受精卵(胚盤胞)にマイクロインジェクションする。該胚盤胞を仮親としての別の正常マウスの子宮に移植する。そうして該仮親マウスから、キメラトランスジェニックマウスが生まれる。該キメラトランスジェニックマウスを正常マウスと交配させることによりヘテロトランスジェニックマウスを得ることができる。該ヘテロトランスジェニックマウス同士を交配することにより、ホモトランスジェニックマウスが得られる。
【0025】
上記した本発明のトランスジェニック哺乳動物の子孫、並びに該トランスジェニック哺乳動物の一部も本発明の範囲内である。トランスジェニック哺乳動物の一部としては、該哺乳動物の組織、器官及び細胞などが挙げられる。
【0026】
(4)トランスジェニックマウスの製造例
以下哺乳動物としてマウスを用いた場合を例にしてトランスジェニックマウスを製造する方法の一例についてさらに具体的に説明する。
【0027】
1.ディフェンシン遺伝子のクローニング
本発明の病理モデルマウスを製造するには、まず、ディフェンシンの遺伝子をクローニングする。このクローニング方法としては公知の様々な方法が可能である。例えば、ディフェンシンのmRNAからcDNAを作製し、そのcDNAをプラスミド等のベクターのDNAに組込み、更に該DNA組替えベクターを大腸菌等の宿主に組込んで、大腸菌を増殖させる。大量に産生された大腸菌からDNA組替えベクターを取りだし、ディフェンシンの遺伝子をカラムクロマトグラフ法、あるいは電気泳動法等により分取、精製することによりクローニングすることができる。目的の塩基配列をもつ遺伝子が精製されていることの確認は、DNAシーケンシングなどにより確定することが望ましい。
【0028】
2.ディフェンシンをコードする遺伝子のスクリーニング
マウス遺伝子ライブラリーから得られた本件ディフェンシンをコードするcDNA、あるいは、マウスmRNA から直接RT−PCR等の方法により得られれた同cDNAをプラスミドベクター等にライゲーションにより挿入する。
【0029】
3.ベクター
クローニング用ベクターとしては、宿主内で特定遺伝子を増幅できる細菌プラスミド由来、酵母プラスミド由来、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来及びこれらの組合せに由来するベクター、例えば、コスミドやファージミドのようなプラスミドとバクテリオファージの遺伝的要素に由来するものを挙げることができる。
【0030】
4.宿主
本件ディフェンシンをコードする遺伝子は、好ましくはベクターを経由して宿主細胞により増殖する。本件ディフェンシンをコードする遺伝子の宿主細胞への導入は、Davisら(BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, 1986)及びSambrookら(MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載される形質転換や感染等により行うことができる。
そして、上記宿主細胞としては、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス等の細菌原核細胞や、酵母、アスペルギルス等の真菌細胞等を挙げることができる。
【0031】
5.トランスジェニックマウスの製造
ディフェンシン過剰発現マウスを製造するには、例えばマウスの受精卵の細胞核に上記方法で得たディフェンシンの遺伝子をマイクロインジェクトする。注入する遺伝子の量は1個の受精卵当り200〜1000コピーであることが好ましい。別に精管切断術を施した雄マウスと交尾させ偽妊娠状態にした仮親を用意して、この仮親の卵管内にこの受精卵を移植し、マウスを誕生させる。
【0032】
ディフェンシンの遺伝子を導入する方法としては、他に受精卵にレトロウイルスベクターを感染させる方法も採用しうる。また、受精卵の代わりにES細胞を用いて同様の方法によりディフェンシンを過剰発現するマウスを製造することができる。
【0033】
上記方法でクローニングされたディフェンシンをコードするcDNAにCAG(FASEBJ.2001Feb:15(2):393−402)、マウスニューロフィラメント、SV40等のプロモーター、及びラビットβ−グロビン、SV40等のポリA又はイントロンを融合させて導入遺伝子を構築し、トランスジーンベクターを作製する。これらのうちでは、CAGプロモーターを用いることが好ましい。
【0034】
この作製されたトランスジーンベクターを線状化し、マイクロインジェクション法やレトロウイルスを用いた感染等によって受精卵に導入する。
【0035】
マイクロインジェクション後、一般的には、生まれた胚の10−40%に染色体への導入遺伝子の安定な組み込みが起こっている。選択されたマウス染色体に目的とする遺伝子の組み込みが起こっているかどうかをPCR法、サザンブロット法等により確認することが好ましい。このマウスを野生型のマウスとインタークロスさせると、ヘテロ接合体マウスを得ることができ、本発明の本件ディフェンシン過剰発現マウスを作製することができる。
【0036】
本件ディフェンシン過剰発現マウスが生起しているかどうかを確認する方法としては、例えば、上記の方法により得られたマウスからRNAを単離してノーザンブロット法等により調べたり、また蛋白を抽出してウエスタンブロット法等により調べる方法がある。
【0037】
6.トランスジェニックマウスの性状
本発明のトランスジェニックマウスは上記方法で得られたものであり、ディフェンシンが過剰発現している。このディフェンシンが過剰発現したマウスは、成長するにつれて、発育不良、筋力低下、脊柱の彎曲を示すようになり、血清中のCPK活性が上昇していた。このような所見は、ヒト筋ジストロフィー症の症状、所見に相当する。さらに、筋病理所見上、筋線維のほとんどが中心核を持った再生線維に置きかわり、その中に壊死した筋線維が散在しており、まさに筋ジストロフィー症の特徴を示していた。ディフェンシンと筋ジストロフィー症の関連は、本発明のマウス作製により初めて明らかとなったものである。
以下の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0038】
【実施例】
実施例1
あらかじめクローニングしてあるマウスβ−ディフェンシン−6をテンプレートにして、kozakシークエンスを保つように設計したマウスβ−ディフェンシン−6特異的5’端プライマー(ACCATGAAGATCCATTACCTG)(配列番号3)と3’端プライマー(TGTGCATATTCACGAAGAAG)(配列番号4)を用いたPCR法によりopen reading frame 全長を増幅した。TA cloning の手法により、PCR産物をプラスミドベクター(pCR4−TOPO, invitrogen)に挿入し、形質転換により大腸菌(TOP10 One Shot cells, invitrogen) に組み込み培養した。増殖した大腸菌からプラスミドDNAを調整した後,このプラスミドDNAを EcoRI にて切断し、電気泳動後、マウスβ−ディフェンシン−6を含む断片をゲルより精製した。なお、クローニングしたDNAの塩基配列 (配列番号1と同一) は、DNAシーケンシングにより確認した。
【0039】
一方、チキンβ−アクチンプロモーターとラビットβ−グロビンポリAシグナル間にEcoRIのクローニングサイトのあるpCAGGS ベクター(Niwa H, Yamamura K, Miyazaki J (1991) Efficient selection for high−expression transfectants with a novel eukaryotic vector. Gene 108:193−199.)をEcoRIで切断後、アルカリフォスファターゼ処理しておき、ここに、上記のマウスβ−ディフェンシン−6を含むDNA断片をサブクローニングした。
【0040】
この新しい発現ベクターを再び、形質転換により大腸菌 (DH5α)に組み込み、大腸菌を培養し、プラスミドDNAを抽出した。抽出したDNA 100μgを、プラスミド由来のDNAを除けるように適当な制限酵素で切断し、電気泳動後、ゲル精製し、cytomegarovirus immediate−early enhncer、チキンβ−アクチン プロモーター、マウスβ−ディフェンシン−6、ラビットβ−グロビン ポリ A シグナルよりなるトランスジーンを作製した。
【0041】
C57BL/6雌マウスにPMSおよびhCGを腹腔投与して過排卵を誘発し、C57BL/6雄マウスと同居・交配した。交尾の成立した雌マウスを頚椎脱臼により殺し、腹腔を開き卵管膨大部を切り出して、ヒアルロニダーゼを含むM16培地中に移し、実体顕微鏡下で卵管膨大部を裂いて受精卵を培地中に移し、ガラスピペットを用いて受精卵を回収した。
【0042】
次に、ガラスディッシュに、受精卵を含むM16培地および注入DNA(濃度は5ng/μl)のドロップをそれぞれ作成しパラフィンオイルでカバーした。マイクロマニュピレーター付き倒立顕微鏡下でインジェクション用ピペットに注入DNAをおおよそ0.1μl吸引して、ホールディング用ピペットで固定した受精卵の前核内にDNAを注入した。
【0043】
DNA注入した受精卵を移植するための偽妊娠雌マウス(ICRマウス)は、精管を切除した雄マウス(ICRマウス)と交配させることにより作製した。受精卵にDNAを注入した当日に、偽妊娠雌マウスを麻酔し、後背部より卵巣、卵管を引出し、卵管開口部を露出する。実体顕微鏡下で移植用ピペットを用いておよそ10個の受精卵を吸引して、左右の卵管開口部からそれぞれ受精卵を移植した。受精卵の移植後、偽妊娠雌マウスは約20日で子マウスを出産した。
【0044】
誕生したマウスの尾よりゲノムDNAを抽出し、PCR法、サザンブロット法を利用して、外来遺伝子の組み込まれているマウスを選択した。PCRは、5’端プライマー(GGTTATTGTGCTGTCTCATC)(配列番号5)と3’端プライマー(ATTTGTGAGCCAGGGCATTG)(配列番号6)を用いて、 94℃ 30 sec, 55 ℃ 45 sec, 72 ℃ 1 minの35 cycles によりサイズ 380 bp のPCR 産物を検出して行った。
【0045】
サザンブロット法では、ゲノムDNAをBglIIにて切断後に0.8% アガロースゲルに電気泳動しナイロンメンブレンにトランスファーした。次に、マウスβ−ディフェンシン−6遺伝子エクソン2からなるDNA断片をrandom primed DNA labeling kit (Rosche Molecular Biochemicals) を用いて32Pラベルし、Express Hyb hybridization solution (CLONTECH) を用いてプロトコール通りにハイブリダイゼーションおよび洗浄を行った。ただし、ハイブリダイゼーションは16時間行った。検出には、バイオイメージングアナライザーBAS2000(富士フィルム)を用いた。野生型では、1.4kbの強いバンドとおよそ3.3 kbの弱いバンドが認められるが、変異型では、これらのバンドに加えて、4 kb, 3.5kb, 2.1kbにバンドが認められる。
【0046】
この初代トランスジェニックマウスを野生マウスとインタークロスさせ,得られたヘテロ接合型マウスの筋抽出蛋白のウエスタンブロットを行った。筋蛋白はisogen(日本ジーン)を用いてプロトコールに従い抽出し、その後5% 酢酸溶液下で室温下オーバーナイト振とうして陽性に荷電した蛋白を選択的に抽出した。抽出液を10%アンモニア水で中和し定量後、野生型、変異型の筋抽出蛋白8μg をトリシンを用いたSDS−PAGEにより分画し、PVDF膜にトランスファーした。このPVDF膜に対して、ラビット由来抗マウスβ−ディフェンシン−6血清を4℃オーバーナイトで反応させ、続いてペルオキシダーゼコンジュゲイト抗ラビットIgG抗体を室温一時間反応させた。検出には、Enhanced Chemiluminescent kit (Amersham) を用いた。
ウエスタンブロットの結果を図1に示す。図1の結果より、マウスβ−ディフェンシン−6の過剰発現が確認された。
【0047】
上記方法で得られたトランスジェニックマウスの生後25週での状況を図2に示す。図2から明らかなように本発明のトランスジェニックマウスは筋ジストロフィー様の病態を示した。
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、これまで自然発生でしか得られなかった筋ジストロフィー病理モデルを容易に製造することができるため、筋ジストロフィー症の病態生理の解明、あるいは治療薬の研究が容易になるという効果が得られる。また自然発生筋ジストロフィー病態モデルマウス(mdxマウス)に比べて骨格筋壊死の分布様式と程度が異なるため、mdxマウスと異なった多用な解析が可能である。さらに、細胞膜に対する内因性液性因子の作用による新たな骨格筋壊死の機序を示したことにより、これまでの知見とは全く異なる視点からの病態生理の解明、創薬に大きく貢献することができる。
【0049】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、筋抽出蛋白のウエスタンブロット後、抗マウスβ−ディフェンシン−6血清にて染色した結果を示す。左レーンには野生型マウスの筋抽出蛋白8μg、右レーンには本件トランスジェニックマウスの筋抽出蛋白8μgを含む。本件トランスジェニックマウスにおいて、4 kDのマウスβ−ディフェンシン−6の発現を確認できる。
【図2】図2のAは本件トランスジェニックマウスの生後25週の外見を示す。著名な側彎を認め(矢印)、傍脊柱筋の筋力低下の存在を示している。図2のBは、本件トランスジェニックマウスの生後25週の下肢筋のHE染色を示す。大部分の筋線維が中心核をもつ再生線維に置き換わり、その中に壊死した筋線維が散在しており(矢印)、まさに筋ジストロフィーの病理所見に合致する。
Claims (10)
- β−ディフェンシンを過剰発現させてなる筋ジストロフィー症の病態モデル哺乳動物、その子孫又はそれらの一部。
- β−ディフェンシン遺伝子を導入したトランスジェニック哺乳動物である、請求項1に記載の哺乳動物、その子孫又はそれらの一部。
- 導入したβ−ディフェンシン遺伝子を筋肉で過剰発現する、請求項2に記載の哺乳動物、その子孫又はそれらの一部。
- β−ディフェンシンがβ−ディフェンシン−6である、請求項1から3の何れかに記載の哺乳動物、その子孫又はそれらの一部。
- 哺乳動物がげっ歯類の動物である、請求項1から4の何れかに記載の哺乳動物、その子孫又はそれらの一部。
- げっ歯類の動物がマウスである、請求項5に記載の哺乳動物、その子孫又はそれらの一部。
- β−ディフェンシン遺伝子を哺乳動物の卵細胞または幹細胞に導入し、該細胞を用いて動物個体を発生させることを含む、筋ジストロフィー症の病態モデル哺乳動物の製造方法。
- β−ディフェンシンがβ−ディフェンシン−6である、請求項7に記載の製造方法。
- 哺乳動物がげっ歯類の動物である、請求項7または8に記載の製造方法。
- げっ歯類の動物がマウスである、請求項9に記載の製造方法。
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| Publication Number | Publication Date |
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|---|---|---|---|
| JP2003034885A Pending JP2004242557A (ja) | 2003-02-13 | 2003-02-13 | 筋ジストロフィー症の病態モデル哺乳動物、及びその製造方法 |
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| JP (1) | JP2004242557A (ja) |
Cited By (1)
| Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
|---|---|---|---|---|
| CN103006348A (zh) * | 2012-12-25 | 2013-04-03 | 广西玮美生物科技有限公司 | 一种食蟹猴肌肉萎缩模型的造模方法 |
-
2003
- 2003-02-13 JP JP2003034885A patent/JP2004242557A/ja active Pending
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