JP2004332024A - 自己封孔作用を有する溶射皮膜被覆部材およびその製造方法ならびに封孔方法 - Google Patents

自己封孔作用を有する溶射皮膜被覆部材およびその製造方法ならびに封孔方法 Download PDF

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Abstract

【課題】溶射法によって形成された酸化物系セラミックス皮膜中に生成される気孔や微小な割れに起因する、腐食性ガスの侵入によるアンダーコートの腐食防止およびトップコートの剥離防止を効果的に行うことを目的とする。
【解決手段】基材の表面に、金属層2および/または炭化物サーメット層4からなるアンダーコートが形成され、そのアンダーコートの上にCaOを5〜45mass%含むCaO系酸化物セラミックスの多孔質溶射層3からなるトップコートが形成されていることを特徴とする自己封孔作用を有する溶射皮膜被覆部材。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自己封孔作用を有する酸化物セラミックスの溶射皮膜被覆部材とその製造方法ならびに封孔方法に関するものである。
本発明は、室温から高温状態に至る広い温度範囲の腐食性のガス種が含まれる雰囲気中で用いられる各種の部材に適用すると有効である。
【0002】
【従来の技術】
従来、金属や合金などの表面に、融点が高く、化学的に安定で、高い硬度を有する金属酸化物を、何らかの手段で被覆し、これらの基材の耐熱性や耐食性、耐磨耗性などの特性を付与することが、産業界において広く行われている。
かかる金属酸化物の基材への被覆方法としては、溶射法を用いるのが普通である。
【0003】
溶射法は、プラズマジェット(以下「プラズマ」という)や燃料の燃焼フレーム等の熱源によって、基材表面に、溶射粉末材料を溶融もしくは軟化状態にして吹付けることにより成膜する技術である。したがって、この溶射法によれば、溶融や軟化する材料であれば、金属はもちろんのこと酸化物や、硼化物、珪化物などの各種非金属材料をはじめ、ガラス質、プラスチックなどでも成膜できる利点がある。なお、炭化物のように明瞭な融点や軟化現象を示さない材料については、金属成分を混合することによってサーメット化すれば、容易に成膜できるため、産業界では広く採用されている。
【0004】
本発明の対象となる酸化物セラミックスは、安定した溶融状態を示すとともに高温状態においても化学的変化を起こし難いため、プラズマ熱源の溶射法を用いた方法で成膜するのが一般的である。プラズマ熱源は、理論的には数万度に達するほどの高温が容易に得られることから、3000K以上の融点を有する酸化物セラミックスでも完全に溶融することが可能である。ただ、酸化物セラミックスは、溶融状態下にあっても、流動性に乏しいため、基材表面に吹付けられても偏平化が不十分であったり、吹付けられた粒子の相互結合力が弱いという問題があった。また、溶射皮膜には不可避に多くの気孔が含まれており、溶射成膜プロセスの冷却過程などの条件下によっては溶射粒子に割れが生じており、その(気孔、割れ)体積率は、金属皮膜などに比較すると大きいのが普通である。
【0005】
また、基材表面への酸化物セラミックスを溶射被覆するには、まず、金属基材の表面に、耐熱性や耐食性を有するアンダーコートを施工した上で、その上にトップコートを被覆することが必要である。すなわち、基材表面に対し、酸化物セラミックスを直接的に溶射しても成膜できないか、成膜できたとしても基材との接合力が弱く、工業的に利用できないという問題があった。
【0006】
現在、酸化物系セラミックスの溶射皮膜の利用例として、次のようなものがある。例えば、鉄鋼材料の熱処理用ロール表面に、耐熱性と耐ビルドアツ性の向上を目的として、Cr、Al、ZrO系の酸化物セラミックス溶射皮膜を形成する例(特許文献1、2、3)、ガスタービンの高温被曝部材の耐熱性付与を目的として主として、ZrO系酸化物セラミックスの皮膜を熱遮蔽として形成する例(特許文献4、5、6、7、8)、遠心鋳造用モールド(特許文献9)やガラス搬送用ロールに保護皮膜を形成する例(特許文献10、11、12、13)、さらには、溶融金属浴用の部材に保護皮膜として形成する例(特許文献14、15、16)などがある。
【0007】
このように、酸化物セラミックスの溶射皮膜が高温環境中で賞用される理由は、次の通りである。
▲1▼酸化物セラミックス材料は、高温環境中でも物理化学的に安定である。
▲2▼溶射皮膜中に含まれている微小な気孔や割れなどは、皮膜が急激な温度変化を受けた際(熱衝撃)、熱応力を緩和して皮膜の破壊を抑制する。
▲3▼皮膜中の微小な気孔や割れは、断熱効果を発揮して基材を効果的に高温から保護する。
【0008】
ただし、この溶射皮膜は、その中に含まれる気孔や割れの存在が、使用雰囲気中の腐食成分(溶融金属、溶融塩、ガス成分など)の内部侵入経路となるため、腐食性の環境で使用する場合には、気孔部に対して、シール剤を含浸させる必要があった。
例えば、耐食性に優れた無機質材料を溶剤とともに溶射皮膜の気孔中に含浸させて封孔する方法(特許文献17、18、19)などがある。さらに、溶射皮膜の気孔をレーザ照射によって積極的に溶融して消滅させることによる封孔する方法(特許文献20、21、22、23、24)もある。
【0009】
【特許文献1】特開昭61−23755号公報
【特許文献2】特開昭61−124534号公報
【特許文献3】特開昭63−53249号公報
【特許文献4】特開昭58−016094号公報
【特許文献5】特開昭62−211387号公報
【特許文献6】特開平3−087379号公報
【特許文献7】特開平4−036454号公報
【特許文献8】特開2000−301655号公報
【特許文献9】特開昭64−870503号公報
【特許文献10】特開平4−460622号公報
【特許文献11】特開平4−260622号公報
【特許文献12】特開平4−260623号公報
【特許文献13】特開2000−273614号公報
【特許文献14】特開昭61−37955号公報
【特許文献15】特開昭61−011726号公報
【特許文献16】特開平7−268594号公報
【特許文献17】特開昭63−050455号公報
【特許文献18】特開昭63−293153号公報
【特許文献19】特開平6−128716号公報
【特許文献20】特開昭58−016094号公報
【特許文献21】特開昭61−104062号公報
【特許文献22】特開昭61−113757号公報
【特許文献23】特開昭63−035477号公報
【特許文献24】特開昭63−069959号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、溶射法によって形成された多孔質な酸化物セラミックスの溶射皮膜中に不可避に生成する気孔や微小な割れ発生部に起因する、下記のような問題を解決することにある。
【0011】
(1)酸化物セラミックス溶射皮膜中の気孔(開口気孔、貫通気孔など)および微小な割れ発生部(縦割れ、横割れと縦割れの混在)を通じて内部への侵入してくる腐食性のガス成分(SO、HClなど)によって誘発される皮膜(とくに金属のアンダーコート)の腐食を防止するとともに、その腐食の発生によるアンダーコートと酸化物セラミックスからなるトップコートとの接合力の低下に伴うトップコートの剥離を防ぐ。
【0012】
(2)従来技術による酸化物セラミックス溶射皮膜の封孔処理では、封孔剤が有機質(例えば、塩化ビニル系、エポキシ系、珪素樹脂系、弗素樹脂系の各ポリマー)では、高温環境に曝されるとすべて分解したり燃焼するため、効果が消失する。一方、無機質(例えば、Al、SiOなどのコロイド物質)では、微細な気孔を完全に封孔することができず、上述した腐食や剥離を防止することができない。
【0013】
(3)従来技術に属する酸化物セラミックスからなる多孔質溶射皮膜に対するレーザ照射処理は、開気孔のみならず、腐食性ガスの内部侵入通路とはならず、断熱効果や熱衝撃作用に有効な閉気孔をも消滅させるので、耐高温特性が低下するおそれがあるほか、レーザ照射工程の増加による生産性の低下や経済的損失が大きい。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明では、従来技術が抱えている上述した問題を、以下に述べる技術的手段を採用することによって解決した。
【0015】
すなわち、本発明は、基材の表面に、金属層および/または炭化物サーメット層からなるアンダーコートが形成され、そのアンダーコートの上にCaOを5〜45mass%含むCaO系酸化物セラミックスの多孔質溶射層からなるトップコートが形成されていることを特徴とする自己封孔作用を有する溶射皮膜被覆部材を提案する。
【0016】
また、本発明は、基材表面に、金属および/または炭化物サーメットを溶射してアンダーコートを50〜500μmの厚みに形成し、そのアンダーコートの上にはさらに、溶射法を用いて含CaOを5〜45mass%含有するCaO系酸化物セラミックスを溶射して多孔質溶射層からなるトップコートを50〜600μmの厚みに形成することを特徴とする自己封孔作用を有する溶射皮膜被覆部材の製造方法を提案する。
【0017】
さらに、本発明は、基材表面に形成した、気孔率が5〜20vol%のCaO系酸化物セラミックスの多孔質溶射層を、腐食性ガスを含む1450K程度以下の環境中に曝露し、該多孔質溶射層中の気孔中にCaSO、CaClなどの反応生成物を生成させることによって、前記気孔を自己封孔させることを特徴とする溶射皮膜の封孔方法を提案する。
【0018】
なお、本発明においては、上記トップコートは、CaOを5〜45mass%含むCaO系酸化物セラミック層とCaOを含まない酸化物セラミック層とを積層した複数層からなるものであること、上記CaO系酸化物セラミックス層は、CaOと、SiOやMgO、ZrO、Al、Cr、TiO、CeO、Yなどとの固溶体、複合体または混合物の形態のいずれかであり、いずれの場合もCaOを5〜45mass%含むこと、トップコート被成後、1450K以下の腐食性ガスが存在する雰囲気に保持する自己封孔処理を行うこと、上記トップコートは、CaOを5〜45mass%含むCaO系酸化物セラミック層とCaOを含まない酸化物セラミック層とを積層した複数層からなるものであること、および、上記CaO系酸化物セラミックス層は、CaOと、SiOやMgO、ZrO、Al、Cr、TiO、CeO、Yなどとの固溶体、複合体または混合物の形態のいずれかであり、いずれの場合もCaOを5〜45mass%含むことが好ましい。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適実施形態について、基材上に本発明に特有の自己封孔作用を有する溶射皮膜を形成させる例を、皮膜の製造方法、封孔方法とともに、該皮膜の作用機構について説明する。
【0020】
(1)アンダーコートの施工とその作用機構
金属製の基材、例えば、炭素鋼や合金鋼、Ni基合金、Co基合金などの基材の表面に、耐熱合金からなる溶射材料を用いてアンダーコートを50〜500μmの厚みに施工する。このアンダーコートは、基材とは互いに金属間接合となるため密着性に優れるとともに、その上に形成されるトップコートである酸化物セラミックスとも良好な接合性を示す。また、このアンダーコートは、SOや、HClなどの腐食性ガスにもある程度強い腐食抵抗を示すものを用いることがよい。このような特性を示す金属元素としては、Cr、Ni、Co、Al、Moあるいは、Feを主成分とし、これらにCe,Y,Siなどを少量添加した合金が適している。また、Ni,Cr,Coなどの金属、合金を含む炭化物サーメット、例えばCr−Ni・Cr、WC−Co−Cr、Cr−WC−Ni・Crなどを、アンダーコートとして施工しても差支えない。
【0021】
(2)トップコートの施工とトップコート材料の選定
上記のアンダーコートの表面には、CaO系酸化物セラミックスを主体とするトップコートを50〜800μmの厚みに形成する。本発明の特徴の一つは、該トップコート中に、所定量のCaOを含むことにある。一般に、CaOは、単独では厚く成膜できないため、他の酸化物との混合物、他の酸化物との固溶体、あるいは他の酸化物との複合体として用いる。具体的には、CaOをSiO、MgO、ZrO、Al、Cr、TiO、CeOおよびYなどとの固溶体(溶融反応後も同じ結晶型)、複合材(反応後結晶型が変化するもの)またはこれらの混合物を用いることが好ましい。さらに、全酸化物中におけるCaOの含有量は、5〜45mass%の範囲がよく、好ましくは10〜40mass%、特に20〜30mass%が好適である。この理由は、CaOが5mass%よりも少ないと、自己封孔作用が不十分になり、一方、45mass%より多いと、皮膜が軟質となって、機械的性質が劣化するからである。
【0022】
(3)トップコートの作用機構
上述したCaO系酸化物セラミックスの材料は、金属に比較して次のような特徴がある。
(a)金属の酸化物は、同種の金属と比較して高い融点を保有しているため、耐熱性皮膜として利用することができる。例えば(Cr:融点2173K/Cr:融点2538K)、(Mn:1517K/Mn:1833K)、(Co:1766K/CoO:2078K)、(Ni:1728K/NiO:2223K)、(Al:933K/Al:2313K)
(b)金属酸化物は、同種の金属に比較すると、化学的に安定しているため、耐食性皮膜として利用することができる。
(c)金属酸化物は、同種の金属に比較すると硬いため、耐磨耗性皮膜として利用することができる。代表的事例としてビッカース硬さ100以下のAlが、Alとなると、HV1000以上の硬さとなる。
【0023】
以上説明したように、CaO系酸化物セラミックスを主とする溶射皮膜であるトップコートは、酸化物特有の優れた物性値を有しているが、その一方で溶射皮膜として特有の多数の気孔を内在するものである。そのため、使用雰囲気中の腐食性ガスなどが、気孔を通して皮膜内部へ侵入してアンダーコート表面すなわち、境界に達し、これを腐食損耗させる。この結果、アンダーコートとトップコートの接合力が低下して両者の界面からトップコートのみが剥離するため、トップコートの優れた機能を長期間にわたって発揮することはできない。
【0024】
(4)トップコートの封孔方法
上述したように、トップコート溶射皮膜内に生じた気孔を通じて起る腐食損耗に対しては、シール剤を使用することが考えられる。しかし、従来のシール剤は、有機質系封孔剤が用いられるが、これは高温環境では分解したり燃焼するため効果がなく、また無機系の封孔剤では皮膜の気孔を完全に消滅させることはできない。
なお、溶射法によって形成されたトップコートには、通常5〜20 vol%程度、とくに本発明を適用する上で好ましい気孔率である8〜15 vol%程度の気孔が存在しており、こうした気孔率は溶射法や溶射条件を制御することにより容易に得ることができる。その一方で、こうした気孔は、断熱性を向上させたり、熱衝撃時の応力を緩和させる作用を発揮する効果をもっているので、これらの気孔の全てを無くすことは耐高温環境用皮膜として望ましくない。
【0025】
この点、上記気孔を封鎖する方法として近年、強力なエネルギー密度を有するレーザ光線によって、前記酸化物セラミックス溶射皮膜を局部的に溶融し、前記気孔を機械的に封孔する技術が提案されている。しかし、この技術には次のような問題点がある。それは、該酸化物セラミックス溶射皮膜中に存在する気孔には、外部から観察可能な開気孔とともに、皮膜の内部に含まれている閉気孔の2種類があり、気孔率(気孔面積)からいえば後者の閉気孔の方が圧倒的に多い。ところが、レーザによる溶射皮膜の溶融処理では、前記開気孔はもとより、閉気孔についても消滅させる作用があり、気孔の存在がむしろ有利に作用する断熱作用や熱衝撃抵抗などを低下させるという欠点がある。その上、レーザ照射設備を必要とし、レーザ加工工程の増加など生産性の低下も避けられない。
【0026】
この点、本発明は、トップコートとしてCaO系酸化物セラミックスの溶射皮膜を被覆形成したものでは、使用雰囲気中の腐食性ガスが皮膜内気孔中に侵入したとしても、そのCaOが腐食性のガスと化学反応を起こして体積膨張を起し、その結果、ガスの侵入経路となる開気孔を封鎖させるという作用効果が生じる。すなわち、本発明の特徴は、トップコート自らが腐食反応を起こしつつ気孔を封鎖するという自己封孔作用を発揮させることにある。以下、この点についてさらに詳しく述べる。
【0027】
すなわち、所定量のCaOを含有する酸化物セラミックの多孔質溶射皮膜を、使用雰囲気中に置くとき、この雰囲気中に含まれている腐食性ガスが、例えば硫黄酸化物(SO、SOなど)や塩化水素ガス(HCl)などであるとすると、このトップコート中の気孔中に露出しているCaOと次のような反応を起す。
【0028】
【化1】CaO+SO+1/2O→CaSO (1)
【化2】CaO+SO→CaSO (2)
【化3】CaO+2HCl→CaCl+H (3)
【0029】
この反応によって生成したCaSO、CaClは、いずれも反応前のCaOに比較すると体積膨張が大きく、しかも、化学的には安定化するが、トップコート本来の機能を消失するようなことはない。
また、雰囲気ガス中にSO、HClの両ガスが含まれている場合には、(1)、(2)式の反応が優先するので、CaClより化学的安定性に優れたCaSOが優先的に生成して封孔することとなる。このCaSOはHClとは反応せず、非常に安定な物質として気孔内に止まり、効果的に封孔の役割を果たすことになる。
【0030】
さらに、これらの溶射皮膜中に含まれているCaOと前記ガス成分との反応は、皮膜表面からはじまり、次第に開気孔部を通って内部へ侵入することとなる。この意味において、皮膜表面に近い開気孔はより微細(平均気孔直径:0.05〜1.0μm程度)の方が好ましく、この気孔内に生成するCaSO、CaClなどによってより確実に封孔され、腐食性ガスはそれ以上内部へ侵入しなくなり、閉気孔まで影響を及ぼすようなことはなくなると考えられる。
【0031】
なお、CaO系酸化物セラミックスの多孔質溶射皮膜中に含まれているCaO成分と腐食性ガスとの反応が期待できる温度は、CaSOの分解温度(1450K前後)以下である。すなわち、1450Kを超えるような温度では上掲の(1)式、(2)式の反応が起こらず、CaOの状態のままで皮膜中に存在することになるためである。したがって、CaO系酸化物セラミックスの多孔質溶射皮膜を使用する環境の温度が1450Kより高い場合には、何らかの方法で皮膜の被曝温度を低くすることが必要である。
【0032】
本発明においては、CaO系酸化物セラミックスの溶射皮膜を主体とするトップコートに対し、従来技術による市販のシール剤を、上記の封孔処理に併せて使用してもよい。すなわち、本発明のトップコートは、温度の高い環境に保管されるような場合は、CaOが水分と反応してCa(OH)を生成したり、また比較的温度の低い雰囲気中でSOガスと反応する場合には、CaSOを生成するのに多少の時間を必要とするため、SOガスの皮膜内部への侵入とその腐食作用を防止することができなくなる。そこで、このような場合には、前記トップコートの表面に予めシール剤を塗布し、湿度の影響や低温による腐食性ガスの侵入を防止する処理を施すことが望ましい。
【0033】
以上の説明から明らかなように、本発明において特徴的な構成であるCaO系酸化物セラミックスからなるトップコート溶射皮膜では、皮膜の開気孔部を通して内部へ侵入する腐食性ガスのみと反応し、閉気孔のように腐食性ガスの侵入がないところでは、トップコート本来の断熱効果や熱衝撃抵抗の緩和作用を発揮するので、従来の酸化物系セラミックスとしての機能を低下させるようなことはない。
【0034】
本発明において、アンダーコートおよびトップコート溶射皮膜の形成には、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、爆発溶射法などが好適に用いられるが、電子ビーム蒸着法による皮膜形成も可能であることから、皮膜形成法については特に規定するものではない。
【0035】
図1は、本発明に係る自己封孔作用を有する溶射皮膜被覆部材の一例を示す部分断面図である。ここで、図示の1は金属製の基材、2は耐熱合金のアンダーコート、3はCaO系酸化物セラミックのトップコート、4は炭化物サーメットのアンダーコート、5はCaOを含まない酸化物セラミックスのトップコートである。
【0036】
図1(a)はアンダーコートとして耐熱合金を用い、その上にCaO系酸化物セラミックスのトップコートを被覆した例、図1(b)はアンダーコートとして耐熱合金に代えて炭化物サーメット皮膜を用いた例、図1(c)はトップコートとして、CaOを含まない酸化物セラミックス溶射皮膜(上層)とCaO系酸化物セラミックス溶射皮膜3(下層)との2層からなるものを被覆し、アンダーコートとして、耐熱合金2(上層)と炭化物サーメット4(下層)との2層からなるものを被覆した、合計4層構造としたものを示している。何れの積層構造も、使用雰囲気中に含まれているSO、HClなどの腐食性ガスがCaO系酸化物セラミックス溶射皮膜中のCaOの存在によって補足され、自己封孔によってアンダーコート面に侵入し難くなっている。
【0037】
上記の積層構造の説明では、アンダーコートとして金属と炭化物サーメットの2種類を挙げ、またトップコートにおいてもCaOを含むものと含まない2種類の酸化物セラミックスをとり挙げ、それぞれの溶射皮膜を積層した場合(例えば図1(a))を一括して、アンダーコート、トップコートとした。この理由は、アンダーコートが単層であれ、また複層であれ、いずれの場合もその目的は基材を保護するとともにトップコートとの接合力を強化する点で共通だからである。また、トップコートの場合は、CaO系酸化物セラミックスの層のみからなる場合も、CaOを含まない酸化物セラミックスの層との複合層の形態をとる場合も、少なくともCaOがトップコート中に含まれていれば、自己封孔のための物理化学的作用が働くためであるからである。
【0038】
【実施例】
(実施例1)
この実施例では、CaOを含むCaO系酸化物セラミックス溶射皮膜の自己封孔作用を調査した。その自己封孔作用は、供試溶射皮膜をSOガス1000ppm含む空気中で、800K、50時間放置した後、その溶射皮膜を切断し、切断面を光学顕微鏡、X線マイクロアナライザー、X線回折装置などによって調査することによって評価した。この試験では、比較のためのCaOを含まない酸化物セラミックス溶射皮膜を形成した試験片を同条件で供試した。
また、この実施例では、基材としてSUS316鋼(幅30mm×長さ50mm×厚さ5mm)を用い、その表面にアンダーコートとして50mass%Ni−50mass%Cr合金を大気プラズマ溶射法で100μmの厚みに被覆し、その上に、トップコートを大気プラズマ溶射法で250μmの厚みに形成した。トップコートの気孔率は8〜18%の範囲であった。試験結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
Figure 2004332024
【0040】
表1に示す結果から明らかなように、CaOを含まない酸化物セラミックスのトップコートを形成した溶射皮膜(No.8〜11)は、いずれも貫通気孔を通じ、皮膜内部へ侵入したSOガスによって腐食されているのが認められた。しかも、トップコートの気孔部にはS化合物の存在は認められなかった。なお、CaOを含有するものの本発明の範囲を外れて少ない場合(No.7)および多い場合(No.12)は気孔部にS化合物の存在が若干認められたものの曝露試験結果はあまり良いものではなかった。
【0041】
これに対し、CaOを含むCaO系酸化物セラミックスの溶射皮膜からなるトップコート(No.1〜6)の断面にはCaSOの生成が認められる一方、アンダーコート表面は腐食が認められなかった。この結果は、SOガスがトップコートの気孔中を通過する際に、CaOと反応してCaSOを生成して気孔を封鎖したためと考えられる。
【0042】
(実施例2)
この実施例では、実施例1と同じ供試溶射皮膜を用いて、SO:200ppm+HCl:800ppm−残り空気の雰囲気中で800K、50時間の曝露を行った後、その溶射皮膜の断面を実施例1と同じ方法で調査した。その試験の結果を表2を示した。
【0043】
【表2】
Figure 2004332024
【0044】
表2に示す結果から明らかなように、CaOを含まない酸化物セラミックスのトップコートでは、該溶射皮膜の気孔を通じて内部へ侵入したSO、HClの作用によってアンダーコートの表面が激しく腐食されていた。
【0045】
これに対し、本発明に適合するCaOを含むCaO系酸化物セラミックスを被成した供試材のアンダーコートは腐食が殆ど認められず、極めて軽微であった(No.1)。また、トップコートの気孔部にはCaSOとCaClの生成が認められ、これらの反応生成物によって気孔が封鎖されている様子が認められる。なお、皮膜断面を詳細に観察すると、CaSOとCaClの生成部に位置的な相違が認められ、前者は皮膜の表面部に近いところに多く、アンダーコート部に近いところにはCaClの生成が多く認められた。
【0046】
(実施例3)
この実施例では、基材表面にアンダーコートとして17mass%Cr−6mass%Al−0.5mass%−残Niの組成を有する耐熱合金を高速フレーム溶射法で100μmの厚みに施工した後、その上に大気プラズマ溶射法によって含CaOおよび非CaO酸化物セラミックス材料をトップコートとして250μmの厚みに形成した。トップコートとして形成した溶射皮膜に対し、市販の有機珪素系シール剤を用いて封孔処理(シール剤塗布後400K×30minの焼付け)したものと、封孔処理しないものを準備した。
【0047】
また、この実施例では、トップコートの封孔処理の効果を評価するため、SO:1000ppm−残空気の気流中で350K×50h、900K×50hの二種類の温度条件で曝露試験を行い、試験終了後皮膜断面を観察して、アンダーコートの腐食発生の有無から封孔処理とトップコート組成の効果を調査した。表3は、この結果を示したものである。
【0048】
【表3】
Figure 2004332024
【0049】
この表3に示す結果から明らかなように、350Kの比較的低い温度環境中では、封孔剤の効果は良好であり、CaO成分の有無に拘らず、全てのトップコートは十分なSOガスの内部侵入防止効果を示した。
しかし、曝露温度を900Kに上昇すると、CaO系酸化物セラミックスの溶射皮膜を具えるトップコートでは、封孔処理の有無に関係なく、優れたSOガスの内部侵入効果(気孔部にCaSOを生成することによる体積膨張効果)が認められたのに対し(No.1〜4)、CaOを含まないトップコートでは、高温による有機質の封孔剤の分解消失現象によって気孔部が全く無防備となり、SOガスの侵入が容易となった結果、アンダーコートの腐食が発生したものと考えられる。
【0050】
(実施例4)
この実施例では、アンダーコートとしてCr−Ni−Crの炭化物サーメットを100μmの厚みに施工した後に、その上に、酸化物セラミックスのトップコートを形成するに際し、本発明に係るCaO系酸化物セラミックスのみを施工したものと、さらにCaOを含まない酸化物セラミックスをトップコートに積層したものを供試した。
【0051】
これらの溶射皮膜試験片を1150Kに維持した管状式電気炉中に静置した後、▲1▼空気のみを1分間当り100 ml、▲2▼都市ガスの燃焼ガスを1分間当り200 ml、▲3▼SOガスを1000 ppm 含む空気を1分間当り100 mlそれぞれ連続して50h流通させた。その後、溶射皮膜の断面を光学顕微鏡およびX線マイクロアナライザーを用いてトップコートの封孔作用の有無を観察することによって、雰囲気と封孔作用の関係を調査した。表4はこの結果を示したものである。
【0052】
【表4】
Figure 2004332024
【0053】
表4に示す結果から明らかなように、CaO系酸化物セラミックスのトップコートは、空気中や都市ガスの燃焼ガス中では封孔作用は認められず、SOガスのようにCaOと反応するガス成分が存在する雰囲気中においてのみ自己封孔作用を発揮することが認められた。なお、トップコートとしてCaOを含む酸化物セラミックスとCaOを含まない酸化物セラミックスとを積層した場合(No.2、4)における封孔作用は、CaOを含む酸化物セラミックスのみに認められ、CaOを含まない酸化物セラミックスの方には全く見られなかった。
【0054】
【発明の効果】
以上、詳述したように、本発明のように、CaO系酸化物セラミックスの溶射皮膜をトップコートの少なくとも一部とするものは、使用温度がCaSOの分解温度以下という制限はあるものの、環境中にSO、HClなどの腐食性ガスが存在することによる厳しい腐食条件において、トップコート中に含まれているCaOが腐食性ガス成分と反応して気孔部を腐食生成物(CaSO、CaCl)によって充填、閉鎖して、アンダーコートおよび基材の腐食を防止する優れた効果を発揮する。
【0055】
したがって、本発明では、トップコートに対して従来のような封孔剤を不可避に形成する必要はなくなり、また、従来封孔剤の効果がない高温部においても、優れたアンダーコートの腐食防止作用を、酸化物セラミックス特有の耐熱性、耐食性、耐磨耗性を犠牲にすることなく実現することができるので、各種の高温被曝部材の性能の向上をはじめ、寿命延長に大きく貢献する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る自己封孔作用を有する溶射皮膜を具える本発明に係る部材の断面構造を示す断面図である。
【符号の説明】
1.金属製基材
2.耐熱合金のアンダーコート
3.CaO酸化物セラミックスのトップコート
4.炭化物サーメットのアンダーコート
5.CaOを含まない酸化物セラミックスのトップコート

Claims (8)

  1. 基材の表面に、金属層および/または炭化物サーメット層からなるアンダーコートが形成され、そのアンダーコートの上にCaOを5〜45mass%含むCaO系酸化物セラミックスの多孔質溶射層からなるトップコートが形成されていることを特徴とする自己封孔作用を有する溶射皮膜被覆部材。
  2. 上記トップコートは、CaOを5〜45mass%含むCaO系酸化物セラミック層とCaOを含まない酸化物セラミック層とを積層した複数層からなるものであることを特徴とする請求項1に記載の溶射皮膜被覆部材。
  3. 上記CaO系酸化物セラミックス層は、CaOと、SiOやMgO、ZrO、Al、Cr、TiO、CeO、Yなどとの固溶体、複合体または混合物の形態のいずれかであり、いずれの場合もCaOを5〜45mass%含むことを特徴とする請求項1または2記載の溶射皮膜被覆部材。
  4. 基材表面に、金属および/または炭化物サーメットを溶射してアンダーコートを50〜500μmの厚みに形成し、そのアンダーコートの上にはさらに、溶射法を用いて含CaOを5〜45mass%含有するCaO系酸化物セラミックスを溶射して多孔質溶射層からなるトップコートを50〜600μmの厚みに形成することを特徴とする自己封孔作用を有する溶射皮膜被覆部材の製造方法。
  5. トップコート形成後、1450K以下の腐食性ガスが存在する雰囲気に保持する自己封孔処理を行うことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
  6. 上記トップコートは、CaOを5〜45mass%含むCaO系酸化物セラミック層とCaOを含まない酸化物セラミック層とを積層して形成することを特徴とする請求項4または5に記載の製造方法。
  7. 上記CaO系酸化物セラミックス層は、CaOと、SiOやMgO、ZrO、Al、Cr、TiO、CeO、Yなどとの固溶体、複合体または混合物の形態の溶射材料を溶射して形成することを特徴とする請求項4または5に記載の製造方法。
  8. 基材表面に形成した、気孔率が5〜20vol%のCaO系酸化物セラミックスの多孔質溶射層を、腐食性ガスを含む1450K程度以下の環境中に曝露し、該多孔質溶射層中の気孔中にCaSO、CaClなどの反応生成物を生成させることによって、前記気孔を自己封孔させることを特徴とする溶射皮膜の封孔方法。
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