JP2009019002A - マイケル反応によるOn−chipリン酸化の検出方法 - Google Patents

マイケル反応によるOn−chipリン酸化の検出方法 Download PDF

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和紀 稲森
Motoki Kyo
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直樹 梅澤
Shoji Akita
昌二 秋田
Tsunehiko Higuchi
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Abstract

【課題】簡便で特異性に優れ、ハイスループット解析も可能である、種々のプロテインキナーゼにおける活性を網羅的にプロファイリングできる方法を提供する。
【解決手段】基板上におけるペプチドもしくは蛋白質のリン酸化を検出する方法であって、リン酸化されたペプチドもしくは蛋白質を塩基処理し、リン酸基をβ脱離させた後、チオール基で修飾されたローダミン誘導体化合物を作用させることによるマイケル付加反応を行うことを特徴とするリン酸化検出方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、新規なOn−chipリン酸化を検出する方法に関する。より詳細には、ガラスのような基板上にプロテインキナーゼの基質となるペプチドもしくは蛋白質を固定化させてアレイ上において、リン酸化されたセリン残基もしくはスレオニン残基のリン酸基をβ脱離させた後に、マイケル付加反応の可能な蛍光性物質を用いることにより、リン酸化されたペプチドもしく蛋白質を検出する方法に関する。
近年、生体分子の相互作用解析、発現分子のプロファイリング、もしくは診断に用いるためのバイオチップが注目を集めている。基板上に生体分子が固定化されることで操作が容易になり、場合によっては非常に多くの物質の相互作用を解析することができる。例えば、シグナル伝達経路に関わる様々な種類のプロテインキナーゼの基質を基板上に固定化し、プロテインキナーゼの活性を蛍光物質もしくは放射性物質で検出する技術がある。この技術によりプロテインキナーゼとその候補となる基質を1対1(一種類ずつ混ぜて)反応させていた従来の方法では難しい網羅的な解析を可能とし、より効率的にプロテインキナーゼの活性をプロファイリングすることができる。しかし、その一方で基板上への生体分子の固定化は、様々な作製段階で操作的な困難さがあり、また検出感度にもまだまだ改良する余地が残っているのが現状である。
既に報告されている関連技術として、例えばSPOT技術によりセルロースメンブラン上で直接ペプチドを合成し、その後チップ上に固定化する技術が知られている。この技術を利用して、p60チロシンキナーゼの基質をチップ上に固定化し、蛍光物質もしくは放射性物質を用いてキナーゼ活性を評価したことが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、同様の技術で作製されたペプチドアレイを用いて、プロテインキナーゼA(以下、PKAと示すこともある。)やNIMA−related キナーゼ6(NEK6)などの活性を、放射性物質を用いてアッセイしたことについての報告(例えば、非特許文献2及び3参照)もある。その他、アビジンでコートした基板上にビオチン結合したペプチドを固定化し、PKA活性を検討した例(例えば、非特許文献4参照)もある。しかしながら、上記いずれの方法においても、検出の際のバックグラウンドがスポットを観察する上で悪影響し、その低減が大きな課題となっている。更には、放射性物質を用いる方法が主流であることから、その安全性の問題はもとより専用施設を設置する必要性もあり、限られた研究機関でしか実施できないという問題がある。あるいは抗体を用いる方法の場合には、そのコストや要求特性が十分でないなどの課題があり、必ずしも満足なものであるとは言い難いのが実情である。
ビーズ上に固定化された基質ペプチドのリン酸化を、マイケル付加反応により検出する方法が報告されている(非特許文献5及び特許文献1を参照)。この方法は、リン酸化されたセリン、スレオニンは塩基性条件下で容易にリン酸基が脱離し、不飽和カルボニルが生成され、これがマイケル反応受容体となることを応用したものである。例えば、チオール基のようなマイケル付加が可能な官能基を有する蛍光化合物(クマリン)をリン酸化されたセリンもしくはスレオニン残基に作用させるものであり、ビーズ表面にプロテインキナーゼの基質ペプチドを固定化して、ビーズ上でのリン酸化反応を行い、蛍光標識されたマイケル付加試薬を作用させることにより、リン酸化を検出するものである。しかしながら、オンビーズアッセイの場合、分子サイズの大きなキナーゼには適用しにくいこと、アッセイ効率に限界があり、ハイスループット化に際しては有利な方策とはいい難い。
Curr.Opin.Biotechnol. 13,315,2002 Angew.Chem.Int.Ed. 43,2671,2004 Nature Methods 1,27,2004 J.Biol.Chem. 277,27839,2002 Org.Lett. 7,5565,2005 特開2006−101767号公報
本発明の目的は、簡便で特異性にも優れ、アレイを用いることによりハイスループット化も可能であるような、種々のプロテインキナーゼにおける活性を網羅的にプロファイリングできる方法を確立しようとするものである。
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、プロテインキナーゼの基質となるペプチドもしくは蛋白質に対し、塩基処理及びその後のマイケル付加反応を施すことが種々のプロテインキナーゼ活性を網羅的に解析する上で極めて有用であることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下のような構成からなる。
(1)リン酸化されたペプチドもしくは蛋白質のリン酸化セリンもしくはリン酸化スレオニン残基の側鎖リン酸基をβ脱離させた後、マイケル付加反応を行うことによりペプチドもしくは蛋白質のセリンもしくはスレオニン残基の側鎖水酸基のリン酸化を検出するための化合物であって、式(I)(式中、nは1〜30の整数を表す)に示す化学構造を有することを特徴とする化合物。
Figure 2009019002
(2)基板上におけるペプチドもしくは蛋白質のセリンもしくはスレオニン残基の側鎖水酸基のリン酸化を検出する方法であって、リン酸化されたペプチドもしくは蛋白質のリン酸化セリンもしくはリン酸化スレオニン残基の側鎖リン酸化基をβ脱離させた後、式(I)(nは1〜30の整数を表す)に示す化学構造を有する化合物を用いてマイケル付加反応を行うことを特徴とするリン酸化検出方法。
(3)基板がガラスであることを特徴とする(2)のリン酸化検出方法。
(4)基板表面が金であることを特徴とする(2)又は(3)のリン酸化検出方法。
(5)末端にシステイン残基の付加されているペプチドが固定化されてなることを特徴とする(2)〜(4)のいずれかのリン酸化検出方法。
(6)キナーゼによりリン酸化され得るセリンもしくはスレオニン残基を有するペプチドもしくはタンパク質を有する基質を固定化したアレイ、塩基及び式(I)(nは1〜30の整数を表す)に示す化学構造を有する化合物を含有する、キナーゼによるリン酸化検出用のキット。
本発明は、安全でかつ簡便な操作により、特異性や感度の点でも非常に優れたOn−chipでのリン酸化の検出方法を提供することができるものである。アレイでの解析を行うことにより、ハイスループット化への対応も可能である点でも有用である。特に製薬業界に対して、キナーゼ阻害剤などの新規な創薬スクリーニングのための評価系として非常に有用なものとして期待される。
図1に、本発明におけるリン酸化検出に関する反応系の原理を示した。本発明は、まずセリン残基もしくはスレオニン残基のリン酸化されているペプチドもしくは蛋白質を塩基処理し、リン酸基をβ脱離させた後、マイケル付加反応を行うことを特徴としている。リン酸化されているセリン残基もしくはスレオニン残基は塩基性条件下で容易にリン酸基が脱離して不飽和カルボニルが生成する。したがって、このβ脱離は通常アルカリ溶液により処理することにより進行される。塩基としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム等)、アルカリ金属炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)、有機塩基(ジアザビシクロウンデゼン(DBU))などが挙げられ、アルカリ金属水酸化物や水酸化バリウムが特に好ましい。具体的には0.01〜1.0規定、好ましくは0.1〜0.5規定濃度の水酸化ナトリウム、水酸化カリウムもしくは水酸化バリウムなどの溶液が好適に用いられる。該アルカリ溶液は水溶液であってもよいが、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)のような水溶性の有機溶媒が混在していてもよい。反応温度は室温付近が好ましく、具体的には25〜40℃程度である。反応時間は30〜120分程度が好ましく、60〜90分程度がより好ましい。
上述のように生成されたα,β−不飽和カルボニルはマイケル付加反応の受容体となりうる。マイケル付加反応による付加の可能な化合物としては、例えばチオール基を有する化合物が挙げられる。したがって、蛍光発色団にチオール基を修飾させたもの(図1中の「S−蛍光団」)を作用させることにより、セリン残基もしくはスレオニン残基のリン酸化されているペプチドもしくは蛋白質において特異的に蛍光発色を確認することができ、リン酸化を検出することができる。本発明は、この原理を、ハイスループット解析に対応しやすいアレイでの解析系に応用したものである。この反応原理を利用することにより、様々な検出系を構築することができる。
マイケル付加反応とは、α,β−不飽和カルボニル化合物に対して求核剤が1,4−付加する反応のことをいう。エチレンのような通常のアルケンは一般的には求核剤との反応は起こらないが、アクリル酸メチルのように、電子求引性基によって(求核攻撃に対して)活性化されたアルケンは、グリニャール試薬やエノラートのような求核剤と反応することが可能である。同様に、電子求引性基であるニトロ基やシアノ基の結合したビニル化合物についても同様の反応が起こる。一般のカルボニル化合物と求核剤との反応では、求核剤がカルボニル炭素に対して求核攻撃するが、マイケル付加反応においては、求核剤の付加はカルボニルとの共鳴によりδ+となったβ位の炭素に対して起こり、求核剤上にあった負電荷は酸素へと移る。
本発明において用いられるアレイの基板としては、ガラスが最も一般的で好ましいが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、アクリルなどのプラスチック類も挙げることができる。透明な基板が好ましい。透明なガラスは容易に入手しやすく、汎用性の点でも有利である。ガラス基板を用いる場合、ガラスの種類や基板の厚さは特に限定されるものではないが、厚さとしては0.1〜20mm程度が好ましく、例えば1〜2mm程度の基板が用いられる。大きさや形状に関しても特に限定されるものではないが、一般に普及されている解析装置への対応性を考慮すると、通常市販されているスライドグラスのサイズと同じものを用いるのが好ましい。
基板表面に関しては、例えばガラス表面に公知の方法に基づいてシランカップリングのような化学修飾を行い、官能基を導入されたものを用いることができる。具体的な官能基としては、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、エポキシ基などが挙げられる。あるいは、基板の表面が金属薄層でコーティングされていてもよい。コーティングされる金属の種類としては、金、銀、白金などが例示されるが、酸・アルカリ・有機溶媒などに非常に安定性の高い金が好ましい。金を用いる場合、上述したような官能基を末端に有してなるようなアルカンチオール化合物を用いることによる表面化学の改質に関しては、その実績や知見も数多く報告されていることからも、金表面に対して官能基を容易に導入する事ができる点で有用である。
金属、特に金をコーティングする方法は特に限定されるものではないが、一般的に蒸着法、スパッタリング法、イオンコーティング法などが選択される。光学的な検出方法に供するためには、金属薄層の厚みをナノレベルでコントロールするのが好ましい。金属薄層の厚みも特に限定されるものではないが、一般的には20〜100nm、好ましくは30〜80nmの範囲で選択される。また、金属薄層の剥離を抑制するために、0.5〜10nm程度のクロム層やチタン層を予め基板にコーティングしておいてもよい。
本発明において、ペプチドもしくは蛋白質はプロテインキナーゼの活性をプロファイリングすることが可能な基質を指し、1種類のペプチドもしくは蛋白質は1種類のプロテインキナーゼによってのみリン酸化され、他のプロテインキナーゼによってはリン酸化されないのが好ましい。ここで、ペプチドもしくは蛋白質とは、複数のアミノ酸が縮合結合されて連結された通常のポリペプチド全般を指すものである。プロファイリングの対象となるプロテインキナーゼとしては、蛋白質のセリン、スレオニンなどのアミノ酸の側鎖をリン酸化する酵素が挙げられ、例えばcAMP依存性プロテインキナーゼファミリー(PKA)、プロテインキナーゼC(PKC)ファミリー、MAPキナーゼ(MAPK)、などが例示できるが、基本的にはセリンもしくはスレオニンの側鎖水酸基をリン酸化可能なあらゆる種類のプロテインキナーゼに関して適用することが可能である。
これら該プロテインキナーゼの基質となるペプチドもしくは蛋白質は公知のものであってもよいが、アミノ酸配列は公知の配列に基づき適宜選択することも可能である。ペプチドの長さは一般的に100アミノ酸残基以下のものが用いられるが、好ましくは5〜30アミノ酸残基からなるもの、より好ましくは8〜25アミノ酸残基、更に好ましくは10〜20アミノ酸残基からなるものが用いられる。また、蛋白質を用いる場合の分子量は特に限定されるものではない。上記ペプチドもしくは蛋白質の生成手法は特に限定されるものではなく、化学的もしくは遺伝子工学的な公知の手法により生成することが可能である。
本発明においては、ペプチドもしくは蛋白質が上述したような基板上に固定化されたアレイを用いる。ペプチドもしくは蛋白質は、プロテインキナーゼの基質として機能しうるようなアミノ酸配列を含有するものを少なくとも1つ、好ましくは異なる種類のプロテインキナーゼによりリン酸化を受けるアミノ酸配列のものを複数種が用いられる。更には、予めリン酸化されたアミノ酸残基を含むもの(ポジティブコントロール)、あるいはリン酸化されるアミノ酸残基を含まないもの(ネガティブコントロール)も同じ基板上に固定化されているのが好ましい。ネガティブコントロールを用いる場合は、リン酸化部位がセリン残基、スレオニン残基の場合はアラニン残基に置換されたものが好ましい。合成のしやすさ、取り扱いやすさ、保存安定性などの点では、比較的低分子量のペプチドを用いる方が好ましい。
本発明のペプチドアレイにおけるペプチドもしくは蛋白質の基板への固定化方法に関しては特に限定されるものではなく、ポリペプチド配列において存在するアミノ基やチオール基を介した方法、あるいはHisタグ、GSTタグ等を用いる方法など様々な様式が挙げられる。この中では、特にチオール基を介してペプチドを固定化する方法が、特異性、感度の両面から特に好ましい。
固定化されるペプチドのアミノ酸配列において少なくとも1箇所以上のシステイン残基が存在することが好ましい。システイン残基は固定化されるペプチドが本来の機能を奏するために必要なアミノ酸配列として必須な残基として存在している場合であっても、あるいはペプチドが本来の機能を奏するために必要なアミノ酸配列に対してさらに付加された場合であってもよい。固定化されるペプチドにおけるシステイン残基の存在位置は特に限定されないが、好ましくは少なくとも一方の末端に、より好ましくは一方の末端のみに付加されてなる方がよい。一方の末端にシステイン残基を付加させる場合、システイン残基のみを付加してもよいが、固定化されたペプチドの自由度を上げることにより作用させる物質との相互作用の効率を高めるためにスペーサーとして1乃至数残基のアミノ酸配列をさらに付加させてもよい。スペーサー部分のアミノ酸配列は特に限定されないが、なかでもグリシン残基及び/又はアラニン残基が1乃至数個の配列を付加させることが特に好ましい。あるいは、末端のシステイン残基と基質配列との間には、上述のようなアミノ酸配列の替わりに例えばPEG(ポリエチレングリコール)のような親水性高分子が挿入されていてもよい。
上述のように、チオール基を介してペプチドを基板上に固定化する場合、ヘテロ二官能基型リンカーを導入するのが好ましい。ヘテロ二官能基型リンカーの化学構造は特に限定されるものではないが、予めアミノ基を表面に導入した後、スクシンイミジルエステル(NHSエステル)もしくは硫酸スクシンイミジルエステルとマレイミド(MAL)基を有するヘテロ二官能型架橋剤を用いることが特に好ましい。このようなヘテロ二官能型架橋剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)のような親水性高分子の両端がNHSエステルとMAL基で修飾されたものを用いることも可能であるが、ペプチドの固定化収率を向上させるためには、より低分子量のものを用いてもよい。具体的には、式(II)に示す化合物Succinimidyl 4−[N−maleimidomethyl]cyclohexane−1−carboxylate(以下、SMCCと示す。)もしくは式(III)に示す化合物Sulfosuccinimidyl 4−[N−maleimidomethyl]cyclohexane−1−carboxylate(以下、SSMCCと示す。)が挙げられる。なお、式(II)もしくは式(III)に示す化合物と完全に同一構造のものだけを指すのではなく、その機能を損なわない範囲でアナログ化された化合物をも包含される。また、本発明においてはSMCC及びSSMCCのいずれも適用することが可能であるが、水に対する溶解性の点からは、緩衝液のような水系で反応させる場合においてはSSMCCを用いる方がより好ましい。
Figure 2009019002
Figure 2009019002
PEGのような親水性高分子の両端がNHS基とMAL基で修飾されたものを用いる場合、特にサイズは限定されるものではない。好ましくは、例えば分子量が500〜5000程度であることが好ましく、より好ましくは600〜2000程度、更に好ましくは800〜1200程度のものが用いられる。
上述のように表面に官能基が導入された基板上にペプチドもしくは蛋白質溶液を作用させてアレイを作製するが、その際には自動スポッターのようなスポッティング装置を用いて行う方が好ましい。自動スポッターの形式や種類は特に制約されるものではなく、一般的に普及されているようなスポッティング装置を用いることが可能である。スポットの大きさについても特に限定されないが、1〜1000μm程度が好ましく、10〜500μmがより好ましい。スポットするペプチドもしくは蛋白質溶液は、PBSのような緩衝液に溶解させたものを用いるのが好ましいが、DMSOのような有機溶媒を混合してあるいはそのまま用いてもよい。
プロファイリングの対象となるプロテインキナーゼは市販されているような試薬であってもよいが、細胞由来の抽出液中に既に含まれる、もしくは含まれると推定されるものを用いることも可能である。例えば、バッファーもしくは細胞抽出液または両者混合液中にプロテインキナーゼ試薬もしくは細胞抽出液中に既に含まれるプロテインキナーゼとヌクレオシド三リン酸を加えたものを直接アレイに作用させることにより固定化基質のリン酸化を行うことができる。リン酸化の条件はプロテインキナーゼの種類により変動するが、通常は10〜40℃程度、好ましくは20〜40℃程度の温度で5分〜8時間程度、好ましくは10分〜5時間程度反応させることで、ペプチドもしくは蛋白質をリン酸化することができる。必要に応じてリン酸化反応液中には、cAMP、cGMP、Mg2+、Ca2+などのリン酸化を補助、促進する物質を共存させてもよい。
アレイ上のリン酸化の検出に際しては、上述したように、β脱離を行った後でマイケル付加反応を行う。マイケル付加に際しては、例えばチオール基を有する化合物の作用が推奨されるが、この化合物の選択は、優れた検出を達成するうえで非常に重要な意味を持つ。本発明においては、特に式(I)に示すような構造のローダミン誘導体化合物を用いることを特徴とする。式中、nは1〜30の整数を表すが、2〜24が好ましく、4〜12が更に好ましい。このような本発明のローダミン誘導体化合物は、高い水溶性、親水性を有することから、扱いが容易であるうえ、ペプチドへの非特異的な吸着を抑えられる点でも有用である。式(I)(nは1〜30の整数を表す)で示される本発明のローダミン誘導体化合物は、化学合成により得ることが可能である。
Figure 2009019002
式(I)(nは1〜30の整数を表す)で示される本発明のローダミン誘導体化合物によるマイケル付加に際した反応温度は室温付近が好ましく、具体的には25〜40℃程度である。反応時間は10〜120分程度が好ましく、30〜90分程度がより好ましい。また、反応溶液の種類は特に限定されるものではなく、水、緩衝液、メタノール、エタノール、DMSOのような有機溶媒、あるいはこれらの混合系が挙げられる。付加反応に用いられる化合物の特性に応じて適宜調整することが好ましい。
式(I)(nは1〜30の整数を表す)で示される本発明のローダミン誘導体化合物を用いてマイケル付加反応を行うことにより、上述のように本発明のローダミン誘導体化合物を作用させたアレイは、一般に普及されているアレイスキャナのような解析装置を用いることによる蛍光イメージングを行うことにより解析することができる。リン酸化されたペプチドもしくは蛋白質においては、特異的に蛍光発色を観察することができる。本発明においては、特にアレイを用いることにより、多数のペプチドもしくは蛋白質に関するリン酸化のプロファイリングを行うことが可能であり、網羅的なプロテインキナーゼ活性の解析において非常に有用なものである。創薬のスクリーニング、特にプロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニングに際して大いに役立つものと考えられる。
以下、実施例を挙げることにより本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。
[実施例1]
(ローダミン誘導体化合物の合成−1)
式(I)においてn=4の化合物を、以下のようなスキームにより合成した。
N,N−dimethyl−3−aminophenol(5.49g,40.0mmol)とphthalic anhydride(スキーム1の化合物a)(2.96g,20.0mmol)を乳鉢で混和し、180℃で24時間撹拌した。室温まで放冷した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(10% メタノール/CHCl)で精製した。ここで得られた固体を600mLの1規定NaOHに溶解、この溶液をNaClで飽和させた後、EtOAcで抽出した(3x400mL)。EtOAc層をbrineで洗浄、NaSOで乾燥後、濃縮し、紫色固体(スキーム1の化合物b)2.22gを得た。収率29%。H−NMR(400MHz,CDCl):δ 8.01−7.99(m,1H),7.65−7.56(m,2H),7.19−7.16 (m,1H),6.60(d,J=8.9Hz,2H),6.48(d,J=2.5 Hz,2H),6.38(dd,J=8.9,2.5Hz,2H),2.97(s,12H)。MS(FAB):387[M+H]
Figure 2009019002
Piperazine(1.35g,15.6mmol)をCHClに溶解後、Ar雰囲気下0 oCで撹拌した。この溶液に1.8M AlMe/toluene(4.5mL,8.1mmol)を滴下して加え、室温まで昇温して60min撹拌した。その後式スキーム1、2の化合物bのCHCl溶液(0.20g/mL,5mL,2.59mmol)を滴下して加え、24時間還流した。反応溶液を0℃まで冷却し、0.1N HCl(20mL)を滴下して反応を停止後、有機溶媒を濃縮し、0.5規定HCl(300mL)で希釈した。CHCl(4x150mL)で洗浄し、水層をNaClで飽和させ、isopropanol/CHCl=2/1(6x150mL)で抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥後、減圧濃縮し、残渣を2.5% NaCO水溶液(300mL)に溶解した。NaClで飽和させた後、CHCl(3x150mL)で抽出し、有機層をNaSOで乾燥後、減圧濃縮し、黒紫色固体(スキーム2の化合物c)636mgを得た。収率54%。H−NMR(400MHz,CDCl):δ 7.69−7.64(m,2H),7.56−7.54(m,1H),7.37−7.35(m,1H),7.28−7.25(m,2H),7.10−7.07(m,2H),6.82(s,2H),3.42−3.33(m,16H),2.67(br s,4H)。MS(FAB):456[M+H]
Figure 2009019002
スキーム2、3の化合物c(26mg,57μmol)をCHCN(3mL)に溶解し、S−acetyl dPEG4 NHS ester(Quanta Biodesign製)のメタノール溶液(100mg/mL,200μL,47μmol)を加えて、遮光し、室温で24時間撹拌した。溶液を濃縮後、HO(1.7mL)に溶解させ、逆相HPLCにて精製した。凍結乾燥して、粘性の高い紫色oil(スキーム3の化合物d)を30mg得た。収率60%(TFA塩として算出)。H−NMR(400MHz,CDOD):δ 7.79−7.76(m,2H),7.71−7.67(m,1H),7.52−7.47(m,1H),7.30(d,J=9.5Hz,2H),7.10(dd,J=9.5,2.4Hz,2H),6.95(d,J=2.4Hz,2H),3.70(t,J=6.1Hz,2H),3.61−3.52(m,14H),3.43(br s,4H),3.40(br s,4H),3.31(s,12H),3.00(t,J=6.6Hz,2H),2.60(t,J=6.1Hz,2H),2.29(s,3H)。MS(FAB):762[M+H]
Figure 2009019002
スキーム3、4の化合物d(28mg,32μmol)をメタノール(4mL)に溶解し、凍結脱気した。1N NaOH(1.2mL,1.2mmol)を滴下して加え、Ar雰囲気下、遮光して、30min撹拌した。反応溶液を0℃に冷却後、2N HCl(0.65mL)を滴下して加え、反応を停止した。メタノールを濃縮後、tris(2−carboxyethyl)phosphine hydrochloride(TCEP)(15mg,52μmol)を加え、1規定NaOHでpH4〜7に調節し、4oCで一晩放置した。逆相HPLCにて精製し、凍結乾燥して、粘性の高い紫色oil(スキーム4の化合物e)を23mg得た。収率84%(TFA塩として算出)。H−NMR(400MHz,CDCl):δ 7.71−7.69(m,2H),7.56−7.54(m,1H),7.30−7.29(m,1H),7.27−7.23(m,2H),7.06−7.04(m,1H),6.93−6.90(m,2H),6.78(s,1H),3.73(t,J=6.1Hz,2H),3.63−3.59(m,14H),3.40−3.29(m,20H),2.72−2.59(m,4H),1.60(t,J=8.3Hz,1H)。MS(FAB):720[M+H]
Figure 2009019002
[実施例2]
(ローダミン誘導体化合物の合成−2)
式(I)においてn=8の化合物を、以下のようなスキームにより合成した。
スキーム2、5の化合物c(38mg,83μmol)をCHCN(3mL)に溶解し、S−acetyl dPEG8 NHS ester(Quanta Biodesign製)のメタノール溶液(100mg/mL,400μL,67μmol)を加えて、遮光し、室温で24時間撹拌した。Triethylamine(25μL,71μmol)を加えて、更に12時間撹拌した。溶媒を濃縮後、HO(3.5mL)に溶解し、逆相HPLCにて精製した。凍結乾燥して、粘性の高い紫色oil(スキーム5の化合物f)を55mg得た。収率63%(TFA塩として算出)。H−NMR(400MHz,CDCl):δ 7.72−7.70(m,2H),7.56−7.54(m,1H),7.39−7.38(m,1H),7.27−7.25(m,2H),6.97−6.80(m,4H),3.73(t,J=6.3Hz,2H),3.69−3.59(m,30H),3.40−3.27(m,20H),3.09(t,J=6.3 Hz,2H),2.57(t,J=6.3Hz,2H),2.33(s,3H)。MS(FAB):938[M+H]
Figure 2009019002
スキーム5、6の化合物f(43mg,41μmol)をメタノール(5mL)に溶解し、凍結脱気した。1N NaOH(1.5mL,1.5mmol)を滴下して加え、Ar雰囲気下、遮光して、30min撹拌した。反応溶液を0℃に冷却後、1N HCl(1.55mL)を滴下して加え、反応を停止した。MeOHを濃縮後、TCEP(30mg,105μmol)を加え、1規定NaOHでpH 4−7に調節し、4℃で一晩放置した。逆相HPLCにて精製し、凍結乾燥して、粘性の高い紫色oil(スキーム6の化合物g)を33mg得た。収率80% (TFA塩として算出)。H−NMR(400MHz,CDCl):δ 7.71−7.69(m,2H),7.56−7.54(m,1H),7.39−7.37(m,1H),7.27−7.23(m,2H),7.00−6.76(m,4H),3.73(t,J=6.3Hz,2H),3.71−3.58(m,30H),3.40−3.30(m,20H),2.70(m,2H),2.57(t,J=6.3 Hz,2H),1.60(t,J = 8.3Hz,1H)。MS(FAB):896[M+H]
Figure 2009019002
[実施例3]
(ペプチドアレイの作製)
スライドグラス(松浪硝子工業製S1226;サイズ:26mm×76mm×1mm)に金を蒸着処理した金スライド(コート内容:1層目 クロム20Å、2層目 金450Å)を、1mM濃度の8−Amino−1−octanethiol,hydrochloride(同仁化学製)のエタノール溶液中に室温で1.5時間浸漬させた。こうしてアミノ基が金表面に導入された金スライドを、エタノール及び水で洗浄して乾燥を行い、0.4mg/ml濃度のSSMCC(Pierce製)溶液(150mM NaClを含む10mM リン酸バッファー;pH7.4に溶解して調製した。)を各々のガラス基板上のペプチドを固定化する領域を覆うように、300μlをドロップして溶液を広げて、室温で15分間置反応させた。こうして、基板上にマレイミド基表面を形成させることができた。その後ガラス基板をエタノール、水の順で洗浄し乾燥させた。
乾燥後、ガラス基板上に基質となる合成ペプチド5種(以下、基質ペプチドとも示す。)をスポッター(東洋紡績製MultiSPRinter(登録商標)自動スポッター)を用いて10nLずつスポットし、湿度を保った状態で、室温で16時間静置して基質ペプチドを固定化させた。用いた基質ペプチドは、配列表に示したアミノ酸配列のものである。PKA基質として知られているKemptideのアミノ酸配列を有するものであり、図2に各基質ペプチドの固定化された配置を示した。図2中、No.1はPKA基質のセリン型基質(配列番号1)、No.2は予めセリン残基がリン酸化されたポジティブコントロール(配列番号2)、No.3はセリン残基がアラニンに置換されたネガティブコントロール(配列番号3)、No.4はPKA基質のスレオニン型基質(配列番号4)、No.5は予めスレオニン残基がリン酸化されたポジティブコントロール(配列番号5)である。いずれのペプチドも末端にシステイン残基が付加されてなり、このシステイン残基の有するチオール基が、基板表面のマレイミド基とカップリング反応することにより基板上に基質ペプチドが固定化されるものである。基質ペプチド溶液は、150mM NaCl及び1mM トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(東京化成工業製)を含む10mM リン酸バッファー(pH7.4)中に1,0.1及び0.01mg/ml濃度になるように溶解したものを用いた。
(リン酸化の検出)
上記のように作製されたアレイをPBS、水の順で洗浄した後、0.1規定濃度のNaOH溶液(水/DMSO/エタノール;容量比4:3:1)の混合溶媒)中に浸漬して、室温で1時間の反応をさせることによりβ脱離を行った。その後、100mM HClで反応を停止させて、アレイをPBS、水の順に洗浄して乾燥させた。次に、実施例1及び2で合成されたローダミン誘導体化合物を、50μM濃度で、50mM ホウ酸−NaOH緩衝液(pH10.5;3.5% N,N−dimethyldodecylammonium N−oxide含む)に溶解して、500μlをアレイ上にドロップした。遮光しながら、室温で1時間、On−chipでのマイケル付加反応を行った。
マイケル付加反応を行った上記アレイを、ミリQ水で3回洗浄した後、5% SDS溶液(100 mM HCl溶液)中に浸漬させて、ゆっくりとシェーキングさせながら1時間の洗浄を行った。ミリQ水で3回洗浄した後、更にエタノール中に浸漬させて、ゆっくりとシェーキングさせながら1時間の洗浄を行った。洗浄されたアレイをエアーブローによって乾燥させた後、蛍光イメージング解析を行った。アレイ解析に際しては、マイクロアレイスキャナGenePix4200AL(Axon Instruments製)を用いて、532nmの波長で測定を行った。結果を図3に示した。
図3に示すように、リン酸化アミノ酸を含むNo.2とNo.5のペプチドにおいて、蛍光発色を確認することができている。したがって、リン酸化されているペプチドを特異的に検出することができているものと考えられた。
本発明を利用することにより、多種類のプロテインキナーゼシグナルを網羅的に解析することができ、機能未知な遺伝子の導入、あるいは薬物投与に伴う細胞内のプロテインキナーゼ動態を効果的にプロファイリングすることができる。これにより新規な遺伝子からの機能解析、新薬探索へのアプローチといったゲノム創薬への展開が期待される。
本発明におけるOn−chipリン酸化検出に関する反応系の基本概念を示した図である。 実施例において作製したアレイパターンを示す図である。 実施例においてリン酸化検出を行った結果を示す図である。

Claims (6)

  1. リン酸化されたペプチドもしくは蛋白質のリン酸化セリンもしくはリン酸化スレオニン残基の側鎖リン酸基をβ脱離させた後、マイケル付加反応を行うことによりペプチドもしくは蛋白質のセリンもしくはスレオニン残基の側鎖水酸基のリン酸化を検出するための化合物であって、式(I)(式中、nは1〜30の整数を表す)に示す化学構造を有することを特徴とする化合物。
    Figure 2009019002
  2. 基板上におけるペプチドもしくは蛋白質のペプチドもしくは蛋白質のセリンもしくはスレオニン残基の側鎖水酸基のリン酸化を検出する方法であって、リン酸化されたペプチドもしくは蛋白質のリン酸化セリンもしくはリン酸化スレオニン残基の側鎖リン酸基をβ脱離させた後、式(I)(nは1〜30の整数を表す)に示す化学構造を有する化合物を用いてマイケル付加反応を行うことを特徴とするリン酸化検出方法。
  3. 基板がガラスであることを特徴とする請求項2に記載のリン酸化検出方法。
  4. 基板表面が金であることを特徴とする請求項2又は3に記載のリン酸化検出方法。
  5. 末端にシステイン残基の付加されているペプチドが固定化されてなることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のリン酸化検出方法。
  6. キナーゼによりリン酸化され得るセリンもしくはスレオニン残基を有するペプチドもしくはタンパク質を有する基質を固定化したアレイ、塩基及び式(I)(nは1〜30の整数を表す)に示す化学構造を有する化合物を含有する、キナーゼによるリン酸化検出用のキット。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN102212054A (zh) * 2011-04-11 2011-10-12 中国科学院化学研究所 一种荧光分析试剂及其制备方法与应用
WO2012111775A1 (ja) 2011-02-16 2012-08-23 株式会社セルシード セリン、スレオニンの翻訳後修飾解析用標識剤

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