JP2009057330A - ジフェニレンヨードニウム化合物 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、がん細胞の増殖を抑制できるのみならず、浸潤、ひいては転移をも抑制でき、且つ血管新生の阻害作用をも有する上に、副作用の少ない抗がん剤とジフェニレンヨードニウム化合物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の抗がん剤は、下記化合物(I)とアニオンからなる塩を含むことを特徴とする。

[式中、R1〜R8は、独立して水素原子等を示す。]
【選択図】なし

Description

本発明は、ジフェニレンヨードニウム化合物および抗がん剤に関するものである。
各国、特に先進国において「がん」は死亡原因の上位を占めているが、その根本的な治療法はいまだ確立していないのが現状である。がんの治療方法としては主に外科的手術による切除が行われるが、頭頚部がんなど切除により外観等が損なわれる場合などでは、放射線治療も実施される。さらに、単独で或いは外科的手術や放射線治療と並行して、抗がん剤の投与といった化学療法が行われる場合もある。
化学療法は、外科的手術や放射線治療と比べて患者に与える苦痛や負担は比較的少ないと考えられる。しかし、未だにがんの特効薬というものは存在しておらず、より良い抗がん剤の探索は継続されている。
特にがんが問題にされるのは、がん細胞が正常な制御に反して増殖することのほか、他の組織に転移する性質を有することによる。例えば上皮組織で発生したがん細胞は、その場で増殖した後に基底層まで浸潤してやがては毛細血管へ浸入する。そして血液により運搬されて他組織の毛細血管壁に付着し、そこから組織内へ浸潤して転移がん巣を形成する。さらに転移がん巣まで新たな血管を形成させ、血液から栄養を摂取して増殖を続ける。このように、外科的手術などにより大部分のがんを除去しても、がん細胞がわずかでも残れば再発や転移の可能性がある。よって、がんの治療においては、がん病巣の除去や縮小のみならず、がん細胞の転移や血管新生を抑制することも非常に重要である。
ところで、ジフェニレンヨードニウムは有機合成の中間体として利用されている。その他、一酸化窒素合成酵素阻害作用を有することや、NADH/NADPHオキシダーゼの阻害作用を有することから活性酸素種の産生そのものを抑制することも知られている。
特許文献1と2には、これら知見をもって、ジフェニレンヨードニウムを脊柱管狭窄症治療剤や化粧品、または炎症などの治療用薬剤とする用途が記載されている。しかし、特許文献1と2におけるジフェニレンヨードニウムは一酸化窒素合成酵素阻害剤の一例として挙げられているのみであって、これら文献に記載の実施例で用いられているのは植物細胞の抽出物やイミノピペリジン化合物等のみであり、ジフェニレンヨードニウムの生理活性は具体的に実証されているわけではない。
また、特許文献3と4にはジフェニレンヨードニウムの記載があり、治療対象である疾患としてのがんの開示もある。しかし、特許文献3におけるジフェニレンヨードニウムは、NADH/NADPHオキシダーゼの阻害剤として挙げられている複数の化合物の一つに過ぎず、また、実施例においてその試験データは明示されていない。さらに、がんは活性酸素種が関与するとされている多数の疾患の内の一つとして挙げられているのみであり、特許文献3の技術が治療対象として主に指向しているのはアテローム性動脈硬化症などの循環器系疾患である。また、特許文献4においてジフェニレンヨードニウムはヒスタミンの一種として例示されており、外科的手術と併用することでがん治療の効果を増強できるとされているが、その効果は一切実証されていない。
特開2006−96665号公報 特開平9−124499号公報 特表2006−520326号公報 特表2002−534378号公報
上述した様に、がんについては十分に有効な治療手段は存在しないことから、新たな抗がん剤が求められているところである。
そこで本発明が解決すべき課題は、がん細胞の増殖を抑制できるのみならず、浸潤、ひいては転移をも抑制でき、且つ血管新生の阻害作用をも有する上に、副作用の少ない抗がん剤とジフェニレンヨードニウム化合物を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決すべく化合物を探索した。その結果、ジフェニレン化合物は静止期の肝星細胞などの正常細胞に与える影響が少ないにもかかわらず、がん細胞の増殖抑制作用を有し、且つその浸潤や転移さらには血管新生をも抑制するという、がん細胞に特異的な作用を発揮できることを見出して、本発明を完成した。
本発明の抗がん剤は、下記化合物(I)とアニオンからなる塩を含むことを特徴とする。
[式中、R1〜R8は、独立して、水素原子、またはC1−C6アルキル、C2−C6アルケニル、C2−C6アルキニル、C1−C6アルコキシ、アミノ、C1−C6アルキルアミノ、ジ(C1−C6アルキル)アミノ、C1−C7アシルアミノ、カルバモイル、C1−C7アシル、C1−C6アルキルチオ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、メルカプトおよびハロゲン原子基からなる群より選択される1種または2種以上の置換基を示す。]
本発明において、C1−C6アルキルは炭素数が1〜6の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素を意味する。例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル等である。好ましくはC1−C4アルキルであり、より好ましくはC1−C2アルキルであり、最も好ましくはメチルである。
2−C6アルケニルは少なくとも1つの二重結合を有し且つ炭素数が2〜6の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素を意味する。例えば、ビニル、1−メチルビニル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−メチル−1−プロペニル、2−ブテニル、3−ブテニル、3−メチル−2−ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル等である。好ましくはC2−C5アルケニル、より好ましくはC2−C4アルケニルであり、最も好ましくは2−プロペニル(アリル)である。
2−C6アルキニルは少なくとも1つの三重結合を有し且つ炭素数が2〜6の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素を意味する。例えば、エチニル、1−メチルエチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−メチル−1−プロピニル、2−ブチニル、3−ブチニル、3−メチル−2−ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル等である。好ましくはC2−C5アルキニル、より好ましくはC2−C4アルキニルである。
1−C6アルコキシは炭素数が1〜6の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素オキシ基を意味する。例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、ペントキシ、ヘキソキシ等であり、好ましくはC1−C4アルコキシであり、より好ましくはC1−C2アルコキシであり、最も好ましくはメトキシである。
1−C6アルキルアミノは1個の上記C1−C6アルキルに置換されたアミノ基を意味する。例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、ブチルアミノ、イソブチルアミノ、t−ブチルアミノ、ペンチルアミノ、ヘキシルアミノ等である。好ましくはC1−C4アルキルアミノであり、より好ましくはC1−C2アルキルアミノである。
ジ(C1−C6アルキル)アミノは2個の上記C1−C6アルキルに置換されたアミノ基を意味する。例えば、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルプロピルアミノ、エチルプロピルアミノ、メチルイソプロピルアミノ、メチルブチルアミノ、メチルペンチルアミノ、メチルヘキシルアミノ等である。好ましくはジ(C1−C4アルキル)アミノであり、より好ましくはジ(C1−C2アルキル)アミノである。
1−C7アシルはカルボン酸からカルボキシル基のOHを除いた残りの原子団であって炭素数が1〜7の基を意味する。例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、イソプロピオニル、ブチリル、バレリル、ペンチルカルボニル、ヘキシルカルボニル等である。好ましくはC1−C4アシルであり、より好ましくはC1−C2アシルであり、最も好ましくはアセチルである。
1−C7アシルアミノは1個の上記C1−C7アシルに置換されたアミノ基を意味する。例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、イソプロピオニルアミノ、ブチリルアミノ、バレリルアミノ、ペンチルカルボニルアミノ、ヘキシルカルボニルアミノ等である。好ましくはC1−C4アシルアミノであり、より好ましくはC1−C2アシルアミノであり、最も好ましくはアセチルアミノである。
カルバモイルはH2N(C=O)−基をいう。
1−C6アルキルチオは炭素数が1〜6の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素チオ基を意味する。例えば、メチルチオ、エチルチオ、プロピチルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、イソブチルチオ、t−ブチルチオ、ペンチルチオ、ヘキシルチオ等である。好ましくはC1−C4アルキルチオであり、より好ましくはC1−C2アルキルチオである。
「ハロゲン原子基」にはフッ素原子基、塩素原子基、臭素原子基およびヨウ素原子基が含まれ、より好ましくはフッ素原子基または塩素原子基、最も好ましくはフッ素原子基である。
上記化合物(I)が複数の置換基を有する場合、それら2以上の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。なお、置換基数は1〜8であるが、好適には1〜4であり、より好ましくは1〜2である。
無置換の化合物(I)、即ちジフェニレンヨードニウムのがん細胞増殖抑制作用や浸潤抑制作用、および血管新生抑制作用は後述する実施例で実験データをもって実証されている。上記置換基を有する化合物(I)も同様またはそれ以上のがん細胞増殖抑制作用等を有する可能性があり、また、正常細胞に対する毒性などの副作用がより一層軽減されている可能性がある。また、置換基を有する化合物(I)は、ジフェニレンヨードニウムのさらなる誘導体の合成中間体として有用である。
本発明化合物(I)は、がん細胞増殖抑制作用と共に浸潤抑制作用と血管新生誘導抑制作用も有する。よって本発明化合物(I)は、がん細胞の浸潤抑制剤および血管新生抑制剤としても有用である。
本発明の抗がん剤は、さらに化合物(I)と塩を形成することができるアニオンであって薬学上許容されるものを含むものが好ましい。かかる塩はより安定だからである。かかるアニオンの種類は特に制限されないが、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン;硝酸イオン、亜硝酸イオン、酢酸イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオン、リン酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、硫酸水素イオン、硫酸イオンなどの無機酸イオンを挙げることができる。特に、硫酸イオンは、化合物(I)と塩を形成してその水溶性を上げることができるので好ましい。
本発明の抗がん剤は、特に肝がん、大腸がん、肺がん、胃がんおよび皮膚がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんを治療するためのものとして有用である。
本発明の化合物(I)およびその薬学上許容される塩は、水和物の様な溶媒和物の形態であってもよく、それらは本発明範囲に含まれる。
本発明のジフェニレンヨードニウム化合物は、下記化合物(II)で表される。
[式中、R9〜R16は、独立して、上記化合物(I)の置換基と同様のものを示す。但し、R9〜R16は全て水素原子ではないものとする。]
即ち、化合物(II)は、R9〜R16が全て水素原子ではない以外は化合物(I)と実質的に同一である。
本発明のジフェニレンヨードニウム化合物およびその薬学上許容される塩は、がん細胞の増殖抑制作用に加えてその浸潤や転移の抑制作用、および血管新生の抑制効果も有する。その上、正常細胞に対する影響が少ない。よって本発明のジフェニレンヨードニウム化合物とその薬学上許容される塩は、抗がん剤として非常に有用である。
無置換の化合物(I)、即ちジフェニレンヨードニウムは公知の化合物であり市販もされているため、容易に入手することができる。また、置換基を有する化合物(I)は、ジフェニレンヨードニウムから公知の求電子芳香族置換反応により容易に合成することができる。
また、化合物(I)とアニオンとの塩も公知技術により容易に製造することができる。例えば、化合物(I)を適度な溶解性を有する溶媒に溶解した上でアニオンを添加した後に溶媒を留去するか、或いは貧溶媒の添加などにより塩を析出させればよい。
がんの治療のために、本発明の化合物(I)およびその薬学上許容される塩は、経口投与または非経口投与に適する有機または無機の固体または液体の賦形剤などの薬学上許容される基材と混合して、当該化合物を有効成分として含む医薬組成物の形態で用いることができる。当該医薬組成物は、カプセル剤、錠剤、糖衣錠、顆粒、吸入剤、座薬、溶液、分散液、エマルション等の剤形とすることができる。必要な場合には、助剤、安定化剤、湿潤剤や乳化剤、緩衝剤や他の一般的に用いられる添加剤をこれら製剤に配合してもよい。なお、本発明の化合物(I)とアニオンからなる塩、特に本発明の化合物(I)と硫酸イオンからなる塩は特に水溶性に優れることから、水に溶解して注射剤として使用することができる。
治療に有効な化合物(I)の投与量は、患者の年齢、性別、重篤度などにもよるが、通常、一日当り0.05〜0.25mg/kg体重程度投与すればよい。投与は一日当り一回に限定されず、複数回に分けて投与してもよい。また、投与方法も特に制限されず、患者の重篤度などに応じて錠剤などの経口投与や液剤の注射投与など、適宜選択すればよい。
本発明の抗がん剤は、がん細胞の増殖抑制作用の他、その浸潤または転移および血管新生に対する優れた抑制作用を有する。即ち、大部分のがん細胞は転移能力を有していないが、その少なくとも一部がもともとの能力または変異により転移することができる。より詳しくは、転移能力を有するがん細胞は、例えば基底層の構成成分の受容体を有することから基底層に付着することができ、また、基底層を分解する酵素を有し、さらに基底層の分解部分から移動する運動能力を有する。本発明の化合物(I)は、これら転移機構のいずれかを阻害し、がん細胞の浸潤や転移を阻害すると考えられる。また、たとえがん細胞が転移した場合であっても、本発明の抗がん剤は血管新生の抑制作用も有していることから、がん細胞の血管新生を阻害してがんの再発を防ぐこともできる。
本発明の抗がん剤が治療すべきがんの種類は特に制限されない。本発明に係る抗がん剤の治療対象としては、例えば、白血病や悪性リンパ腫などの血液がん;悪性脳腫瘍;咽頭がんや口腔がんなどの頭頚部がん;食道がん;胃がん;虫垂がん;大腸がん;肝がん;胆嚢がん;膵臓がん;中皮腫;甲状腺がん;腎臓がん;肺がん;骨肉腫;前立腺がん;悪性精巣腫瘍、睾丸がん;腎細胞がん;膀胱がん;メラノーマなどの皮膚がん;乳がん、子宮頸がん、卵巣がんなどを挙げることができる。少なくとも、本発明に係る抗がん剤による肝がん細胞、大腸がん細胞、肺がん細胞、胃がん細胞および皮膚がん細胞の増殖抑制効果、並びに肝がん細胞の浸潤・転移抑制効果は優れていることから、本発明の抗がん剤は、少なくとも肝がん、大腸がん、肺がん、胃がんおよび皮膚がんの治療剤として非常に優れている。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
実施例1 がん細胞の増殖抑制実験
液体培地(日水製薬社製、製品名「MEMダルベッコ液体培地」)にジフェニレンヨードニウムと1/2硫酸イオンとの塩を1×10-9M、1×10-8M、1×10-7M、1×10-6Mまたは1×10-5Mの濃度で加えて溶解した。各培地を直径:6cmの滅菌シャーレ(グライナー社製、製品名「セルスター」)に6mLずつ添加した。また、比較のためにジフェニレンヨードニウム塩を含まないDMSOのみを添加した培地も用意した。各培地へ、肝がん細胞株であるHepG2(American Type Culture Collection(ATCC)より入手)およびHuh−7(ATCCより入手)、線維芽肉腫細胞株であるHT1080(理化学研究所より入手)、並びに正常細胞である肝星細胞を約1×105個/mLの濃度で播菌した。肝星細胞は類洞壁細胞群の一種であり、活性化に伴いコラーゲンなどの細胞外マトリックスを産生するものである。また、肝星細胞は、コラゲナーゼ(和光純薬社製)とプロナーゼE(メルク社製)を用いたin situ消化法と、ニコデンツ(第一化学社製)を用いた濃度勾配法によりラット肝細胞から分離した。各細胞を37℃で3日間培養した後、0.2%トリプシン/0.02%EDTAを添加して細胞を遊離させ、顕微鏡を使って各シャーレにおける細胞数を計測した。ジフェニレンヨードニウム塩を添加しない場合に対する細胞数の減少率(%)を下記式により計算した。結果を図1に示す。
図1の通り、本発明に係るジフェニレンヨードニウム塩を培地に添加したところ、静止期(培養3日間)の肝星細胞に対しては増殖抑制効果が全く認められない一方で、明確な増殖抑制効果が得られている。また、細胞数を50%に抑制するに必要なジフェニレンヨードニウム塩の濃度は、HepG2では5×10-9M、Huh−7では5×10-8M、HT1080では1×10-8Mと低濃度で効果が見られる。よって本発明の抗がん剤は、正常細胞数には影響を与えない一方で悪性細胞の増殖は抑制するという非常に優れた選択性を示すことが実証された。
実施例2 がん細胞の増殖抑制実験
上記実施例1で用いた液体培地にジフェニレンヨードニウムと塩化物イオンとの塩を1×10-8M、1×10-7Mまたは1×10-6Mの濃度で加えて溶解した。また、比較のためにジフェニレンヨードニウム塩を含まないDMSOのみを添加した培地も用意した。上記実施例1と同様の条件で、0M、1×10-7Mおよび1×10-6Mの培地には肝がん細胞株であるHepG2を、0M、1×10-8Mおよび1×10-7Mの培地には線維芽肉腫細胞株であるHT1080を播菌して3日間培養した。さらにHT1080については、陽性コントロールとしてDNaseを添加した培地を用いた。アポトーシスの発生は、TUNEL法により確認した。3日後におけるHepG2の写真を図2に、HT1080の写真を図3に示す。
図2の通り、本発明の抗がん剤は1×10-7Mという低濃度でもがん細胞の増殖を阻止して細胞死を引き起こしており、その効果は用量依存的であった。また、図3の通り、(1)DMSOのみを添加した場合はがん細胞のアポトーシスは認められない一方で、(2)DNaseの添加によりアポトーシスを誘導した陽性コントロールの核断片化像と同様に、(3)本発明の抗がん剤を1×10-8Mを添加した場合にはアポトーシスが認められ、(4)本発明の抗がん剤を1×10-7Mを添加した場合にはアポトーシスの発生度はさらに増加していた。よって、本発明の抗がん剤はがん細胞にアポトーシスを引き起こすことが実証された。
実施例3 がん細胞の浸潤・転移抑制実験
液体培地(日水製薬社製、製品名「MEMダルベッコ液体培地」)にジフェニレンヨードニウムと塩化物イオンとの塩を1×10-7Mまたは1×10-6Mの濃度で加えて溶解した。また、比較のためにジフェニレンヨードニウム塩を含まないDMSOのみを添加した培地も用意した。底部に再構成基底膜であるマトリゲル層が塗布されているマトリゲル・インベージョンチェンバー(ベクトン・ディッキンソン社製、製品名「BioCoatマトリゲル・インベージョンチェンバー」)の上部チェンバーに、各液体培地を0.5mL加え、さらに肝がん細胞株であるHepG2(ATCCより入手)を播菌した。下部チェンバーには同液体培地0.5mLと専用の化学遊走誘発液0.75mLを加えた。37℃で3日間培養し、肝がん細胞が上部チェンバー底部の多孔性フィルターを浸潤して底面へ移動する多寡を観察した。結果を図4に示す。
図4の通り、(1)浸潤能を有するHepG2は基底膜を透過して底面に浸潤していることが観察できる。しかし、(2)本発明の抗がん剤を1×10-7M添加した場合にはHepG2の浸潤が抑制されており、さらに(3)1×10-6M添加した場合にはHepG2の浸潤は完全に抑制されていることが分かる。よって、本発明の抗がん剤はがん細胞の浸潤を抑制できることが証明された。
実施例4 浸潤・転移抑制効果の機構確認実験
液体培地(日水製薬社製、製品名「MEMダルベッコ液体培地」)にジフェニレンヨードニウムと塩化物イオンとの塩を1×10-6Mの濃度で加えて溶解した。また、比較のためにジフェニレンヨードニウム塩と同量のPBSを添加した培地も用意した。直径:6cmの滅菌シャーレ(グライナー社製、製品名「セルスター」)に各液体培地を6mL加え、さらに肝がん細胞株であるHuh−7(ATCCより入手)を播菌して37℃で3日間培養した。細胞から全RNAを抽出し、がん細胞の浸潤誘導因子であるCD31と、血管新生誘導因子であるVEGFの発現状態を、それぞれをコードするmRNAをリアルタイムRT−PCRにより定量して調べた。結果を図5に示す。
図5の通り、本発明の抗がん剤はCD31とVEGFの発現を強く抑制した。よって、本発明の抗がん剤は、少なくとも浸潤誘導因子の発現を抑制してがん細胞の浸潤を阻害していることが分かった。また、本発明の抗がん剤は血管新生誘導因子の発現をも抑制していることから、たとえがん細胞が転移したとしても、その場におけるがん細胞による血管新生、ひいては増殖を阻害できることが証明された。
実施例5 がん細胞の増殖抑制実験
ヌードマウス BALB/c(日本クレアより入手、体重:約80g)2匹の背側部皮下に線維芽肉腫細胞株であるHT1080(理化学研究所より入手)を約1×107個移植した。腫瘍径が6〜10mmになってから、ジフェニレンヨードニウムと塩化物イオンとの塩0.004mgのDMSO溶液を週2回または3回腹腔内へ注射投与した。コントロールには、DMSOのみを投与した。投与開始から22日後までのコントロールマウスと本発明薬剤投与マウスの腫瘍体積変化の結果を図6に、投与開始から22日後の両者の状態の比較写真を図7に示す。なお、腫瘍体積は下記式により計算した。
腫瘍体積 = (腫瘍長径)×(腫瘍短径)3×1/2
図6の通り、本発明の抗がん剤の投与開始から6日目を過ぎた辺りから腫瘍径が縮小し始め、投与開始から22日目にはコントロールマウスに比べて腫瘍をおよそ16%まで縮小した。また、図7の通り、本発明の抗がん剤を投与したマウスの腫瘍は、コントロールマウスに比べて明らかに縮小している。よって、本発明に係る抗がん剤のがん抑制効果は、in vivo実験でも実証された。
実施例6 がん細胞の増殖抑制実験
上記実施例5で用いたものと同様のヌードマウス3匹の背側部皮下に肝がん細胞株であるHepG2を約1×107個移植した。腫瘍径が6〜10mmになってから、ジフェニレンヨードニウムの硫酸塩の水溶液を1匹当たり0.02mgまたは0.004mgずつ週3回腹腔内へ注射投与した。コントロールにはPBSを投与した。結果を図8に示す。図8の結果の通り、本発明に係る抗がん剤を投与すれば、肝がんを抑制できることが実証された。
実施例7 浸潤・転移抑制効果の機構確認実験
上記実施例6で用いたマウスの腫瘍部位から試料を採取してその全RNAを抽出し、がん細胞の浸潤誘導因子であるCD31、および血管新生誘導因子であるVEGFの発現状態を、それぞれをコードするmRNAをリアルタイムRT−PCRにより定量して調べた。結果を図9に示す。
図9の通り、上記実施例4の結果と同様に、本発明の抗がん剤はCD31とVEGFの発現を抑制した。よって、本発明の抗がん剤は、少なくとも浸潤誘導因子の発現を抑制してがん細胞の浸潤を阻害できることが分かった。また、がん細胞による血管新生、ひいては増殖を阻害できることが証明された。
本発明に係る抗がん剤によるがん細胞の増殖抑制効果を示す図である。肝がん細胞と線維芽肉腫細胞の増殖が顕著に抑制されていることが分かる。 本発明に係る抗がん剤によるがん細胞の増殖抑制効果を示す図である。(1)はコントロール、(2)は本発明の抗がん剤を1×10-7M添加した場合、(3)は本発明の抗がん剤を1×10-6M添加した場合である。 本発明に係る抗がん剤によるがん細胞の増殖抑制効果を示す図である。(1)はネガティブコントロール、(2)はポジティブコントロール、(3)は本発明の抗がん剤を1×10-8M添加した場合、(4)は本発明の抗がん剤を1×10-7M添加した場合である。 がん細胞の浸潤・転移抑制実験の結果を示す写真である。(1)はコントロール、(2)は本発明の抗がん剤を1×10-7M添加した場合、(3)は本発明の抗がん剤を1×10-6M添加した場合である。 がん細胞の浸潤・転移抑制効果の機構確認実験の結果を示す図である。 本発明に係る抗がん剤のがん抑制効果を実証するための、線維芽肉腫細胞を用いたin vivo実験の結果を示す図である。 本発明に係る抗がん剤のがん抑制効果を実証するマウスの写真である。上段は線維芽肉腫を移植したコントロールマウスの写真であり、下段は本発明の抗がん剤を投与したマウスの写真である。 本発明に係る抗がん剤のがん抑制効果を実証するための、肝がん細胞を用いたin vivo実験の結果を示す図である。 浸潤・転移抑制効果の機構確認実験の結果を示す図である。

Claims (7)

  1. 下記化合物(I)を含むことを特徴とする抗がん剤。
    [式中、R1〜R8は、独立して、水素原子、またはC1−C6アルキル、C2−C6アルケニル、C2−C6アルキニル、C1−C6アルコキシ、アミノ、C1−C6アルキルアミノ、ジ(C1−C6アルキル)アミノ、C1−C7アシルアミノ、カルバモイル、C1−C7アシル、C1−C6アルキルチオ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、メルカプトおよびハロゲン原子基からなる群より選択される1種または2種以上の置換基を示す。]
  2. がん細胞の浸潤を抑制するものである請求項1の抗がん剤。
  3. がん細胞による血管新生を抑制するものである請求項1または2の抗がん剤。
  4. さらに、上記化合物(I)と塩を形成することができるアニオンであって薬学上許容されるものを含む請求項1〜3のいずれかに記載の抗がん剤。
  5. 上記アニオンが硫酸イオンである請求項4に記載の抗がん剤。
  6. 肝がん、大腸がん、肺がん、胃がんおよび皮膚がんからなる群から選択される少なくとも1種のがんを治療するためのものである請求項1〜5のいずれかに記載の抗がん剤。
  7. 下記化合物(II)のジフェニレンヨードニウム化合物。
    [式中、R9〜R16は、独立して、水素原子、またはC1−C6アルキル、C2−C6アルケニル、C2−C6アルキニル、C1−C6アルコキシ、アミノ、C1−C6アルキルアミノ、ジ(C1−C6アルキル)アミノ、C1−C7アシルアミノ、カルバモイル、C1−C7アシル、C1−C6アルキルチオ、シアノ、カルボキシ、ヒドロキシ、メルカプトおよびハロゲン原子基からなる群より選択される1種または2種以上の置換基を示す。但し、R9〜R16は全て水素原子ではないものとする。]
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