この場合、繊維組織比率を70%以上として、強度、伸び、シャルピー衝撃値として良好な結果が示されるが、Al−Mg−Si系合金にMn、Cr、Zrを添加含有すると、押出成形に用いるビレットの変形抵抗が増大し、押出加工性を低下させる上に、プレス焼入れにおいて、焼入れ感受性を鋭くし、十分な冷却速度が得られないケースでは強度不足を引き起こすことになり易いという問題点がある。
また、繊維組織比率70%以上を得られるとするも、押出比、即ち、コンテナ断面積と押出形材の断面積の比が示されないところ、押出比が小さいとき、繊維組織比率は比較的大きなものとなし得るが、例えば、押出比が40を超えるように比較的高い加工度のものとする場合に、繊維組織比率は一般に低くなる傾向があるから、押出比40を超えるような高い加工度の場合にも、常に上記70%以上の繊維組織比率を得られるものとすることはできない。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、その解決課題とするところは、Al−Mg−Si系合金にMn及び/又はZrを添加含有しながら、押出加工性を損なうことなく、押出比40以上の高加工度の場合にも繊維組織比率を60%以上確保し得るようにして、高強度、高延性、押出加工性を併存具備したアルミ押出形材を提供し、また、その押出成形方法を提供するにある。
上記課題に沿って鋭意研究した結果、Al−Mg−Si系合金にMn及び/又はZrを添加含有するについて、Mg2Siのバランス組成に対してSiを過剰に含有することによって、良好な押出成形性を確保するとともに、例えばJIS 6061−T6のアルミ押出形材と同等の高強度の機械的特性を得ることができ、更に、過剰Siがホモ処理時において、Mg2Siを微細分散析出させることにより、それらを析出サイトとするMn系乃至Zr系化合物の析出を促進して結晶粒のピンニング効果(ピン止め効果)を発揮し、結晶粒の粗大化現象を抑制することにより、結晶粒の繊維状組織化を促進し、加えて析出硬化特性を向上させ、例えば、押出比40以上の如くに高加工度の押出形材にあっても、該繊維組織比率を60%以上のものとし得る事実、このとき、それぞれ押出成形の実験データーの解析に基づいて求めた数式の合金組成、即ち、Mg0.4〜0.9%、Si0.7〜1.2%のMg2Siのバランス組成以上の過剰Si状態にして、MgとSiの関係を−0.15Mg+0.84≦Si≦−0.5Mg+1.45として、Mg増加による押出成形性と機械的特性を確保し、Mn0.2%以下、Zr0.2%以下にして、MnとZrの関係を、Mn+Zr≦0.2且つ0.67Mn+Zr≧0.039とし、上記過剰Si、Mn及び/又はZrの関係を、過剰Si≧(0.6−1.56Mn+0.22Zr+3.93Mn及び/又はZr)/(9.17Mn+16.1Zr)とすることによって、上記押出成形性及び高強度の機械的特性を維持したまま、押出形材における繊維状組織化を有効且つ確実に達成し得る事実を見出すに至った。
本発明はかかる知見に基づいてなされたもので、即ち、請求項1に記載の発明を、Al−Mg−Si系合金にMn及び/又はZrを添加含有して高強度、高延性、押出加工性を併存具備した押出形材であって、Mg0.4〜0.9%、Si0.7〜1.2%のMg2Siのバランス組成以上の過剰Si状態にして、MgとSiの関係を−0.15Mg+0.84≦Si≦−0.5Mg+1.45とし、Mn0.2%以下、Zr0.2%以下にして、MnとZrの関係を、Mn+Zr≦0.2且つ0.67Mn+Zr≧0.039とし、上記過剰Si、Mn及び/又はZrの関係を、過剰Si≧(0.6−1.56Mn+0.22Zr+3.93Mn及び/又はZr)/(9.17Mn+16.1Zr)とすることによって、押出比40以上、繊維組織比率60%以上、引張強さ265MPa以上、0.2%耐力245MPa以上、伸び8%以上としてなることを特徴とするアルミ押出形材としたものである。
請求項2に記載の発明は、上記に加えて、更に、Cr及びCuを添加し、JIS 6061相当のアルミ押出材とするとともに押出成形後の再結晶防止のためにFeを、鋳造組織を微細化するためにTiをそれぞれ微量含有添加することによって、上記JIS 6061相当のアルミ押出材として上記高強度、高延性、押出加工性を並存具備したものとするように、これを、上記Mn及び/又はZrに加えて、Cr≦0.1%、Cu≦0.25%、Fe0.1〜0.3%、Ti0.003〜0.1%を添加含有してなることを特徴とする請求項1に記載のアルミ押出形材としたものである。
請求項3に記載の発明は、上記アルミ押出形材を押出成形するについて、上記合金組成を有するビレットの均質化処理を昇温速度100〜300℃/Hr、保持温度510〜590℃、保持時間1〜10Hrとして、該ビレットの偏析を可及的有効に解消して押出成形を行うようにすることによって、押出比を40〜90の高加工度のもとしても、高度な繊維状組織化を確保して、高強度、高延性、押出加工性を併存具備した押出形材を得ることが可能となることから、これを、Al−Mg−Si系合金にMn及び/又はZrを添加含有して高強度、高延性、押出加工性を併存具備した押出形材の成形方法であって、Mg0.4〜0.9%、Si0.7〜1.2%のMg2Siのバランス組成以上の過剰Si状態にして、MgとSiの関係を−0.15Mg+0.84≦Si≦−0.5Mg+1.45とし、Mn0.2%以下、Zr0.2%以下にして、MnとZrの関係を、Mn+Zr≦0.2且つ0.67Mn+Zr≧0.039とし、上記過剰Si、Mn及び/又はZrの関係を、過剰Si≧(0.6−1.56Mn+0.22Zr+3.93Mn及び/又はZr)/(9.17Mn+16.1Zr)としたアルミ合金組成のビレットの均質化処理を、昇温速度100〜300℃/Hr、保持温度510〜590℃、保持時間1〜10Hrによって行った後、上記アルミ押出形材を押出比40〜90として押出成形することを特徴とするアルミ押出形材の押出成形方法としたものである。
本発明はこれらをそれぞれ発明の要旨として、上記課題解決の手段としたものである。
本発明は以上のとおりに構成したから、請求項1に記載の発明は、Al−Mg−Si系合金にMn及び/又はZrを添加含有するについて、Mg2Siのバランス組成に対してSiを過剰に含有することによって、良好な押出成形性を確保するとともに、例えばJIS 6061−T6のアルミ押出形材と同等の高強度の機械的特性を得ることができ、更に、過剰Siがホモ処理時において、Mg2Siを微細分散析出させることにより、それらを析出サイトとするMn系乃至Zr系化合物の析出を促進して結晶粒のピンニング効果(ピン止め効果)を発揮し、結晶粒の粗大化現象を抑制することにより、結晶粒の繊維状組織化を促進し、加えて析出硬化特性を向上させ、例えば、押出比40以上の如くに高加工度の押出形材にあっても、該繊維組織比率を60%以上のものとし得るようにし、このとき、合金組成を、Mg0.4〜0.9%、Si0.7〜1.2%のMg2Siのバランス組成以上の過剰Si状態にして、MgとSiの関係を−0.15Mg+0.84≦Si≦−0.5Mg+1.45として、Mg増加による押出成形性と機械的特性を確保し、Mn0.2%以下、Zr0.2%以下にして、MnとZrの関係を、Mn+Zr≦0.2且つ0.67Mn+Zr≧0.039とし、上記過剰Si、Mn及び/又はZrの関係を、過剰Si≧(0.6−1.56Mn+0.22Zr+3.93Mn及び/又はZr)/(9.17Mn+16.1Zr)とすることによって、上記押出成形性及び高強度の機械的特性を維持したまま、押出形材における繊維状組織化を有効且つ確実に達成し得るようにして、Al−Mg−Si系合金にMn及び/又はZrを添加含有しながら、押出加工性を損なうことなく、押出比40以上の高加工度の場合にも繊維組織比率60%以上を確保して、高強度、高延性、押出加工性を併存具備したアルミ押出形材を提供することができる。
請求項2に記載の発明は、上記に加えて、更に、Cr及びCuを添加し、JIS 6061相当のアルミ押出材とするとともに押出成形後の再結晶防止のためにFeを、鋳塊の結晶粒を微細化するためにTiをそれぞれ微量含有添加することによって、上記JIS 6061相当のアルミ押出材として上記高強度、高延性、押出加工性を並存具備したものとすることができる。
請求項3に記載の発明は、上記アルミ押出形材を押出成形するについて、上記合金組成を有するビレットの均質化処理を昇温速度100〜300℃/Hr、保持温度510〜590℃、保持時間1〜10Hrとして、該ビレットの偏析を可及的有効に解消して押出成形を行うようにすることによって、押出比を40〜90の高加工度のもとしても、高度な繊維状組織化を確保して、高強度、高延性、押出加工性を併存具備した押出形材を得ることが可能なアルミ押出形材の押出成形方法を提供することができる。
以下本発明を更に具体的に説明すれば、本発明におけるアルミ押出形材は、例えばバンパー補強材、ドアアーム等の自動車用部材、HDD用アーム材等の電子部品、保護柵等の公共構造材に用いるように、JIS 6061−T6相当の高強度、高延性、押出加工性を並存具備したものとしてあり、このとき、該アルミ押出形材は、Al−Mg−Si系合金にMn及び/又はZrを添加含有したものであって、Mg0.4〜0.9%、Si0.7〜1.2%のMg2Siのバランス組成以上の過剰Si状態にして、MgとSiの関係を−0.15Mg+0.84≦Si≦−0.5Mg+1.45とし、Mn0.2%以下、Zr0.2%以下にして、MnとZrの関係を、Mn+Zr≦0.2且つ0.67Mn+Zr≧0.039とし、上記過剰Si、Mn及び/又はZrの関係を、過剰Si≧(0.6−1.56Mn+0.22Zr+3.93Mn及び/又はZr)/(9.17Mn+16.1Zr)とすることによって、押出比40以上、繊維組織比率60%以上、引張強さ265MPa以上、0.2%耐力245MPa以上、伸び8%以上としたものとしてあり、本例にあって該アルミ押出材は、上記Mn及び/又はZrに加えて、Cr≦0.1%、Cu≦0.25%、Fe0.1〜0.3%、Ti0.003〜0.1%を添加含有したものとしてある。
アルミ押出形材の合金組成において、Mgは、後述のSiとともにMg2Siを形成することによって合金強度(押出形材強度)を向上するところ、押出成形の変形抵抗を高くするために可及的に添加を量的に抑制したものとすることが好ましいが、Mgが0.4%を下回ると充分な強度を得られず、0.55%を下回ると強度が低下する傾向を生じ、また、0.9%を上回ると押出成形性を低下し、0.75%を上回ると押出成形性低下の傾向を生じるから、該Mgは、0.4〜0.9%、好ましくは0.55〜0.75とするのがよい。
Siは、上記MgとともにMg2Siを形成して合金強度を向上するところ、該Siの添加含有は、押出成形性を損なうことがなく、Mg2Siのバランス以上の過剰Siは、Mn及び/又はZrが少量でも上記繊維状組織を形成し易くするが、該Siの添加含有は、0.7%を下回ると繊維状組織の形成効果が低くなり、0.8%を下回るとその傾向を生じ、また、1.2%を上回ると、逆に延性の低下や粒界腐食を招く可能性を生じ、1.0%を上回るとその傾向を生じるから、該Siは、0.7〜1.2%、好ましくは0.8〜1.0%とするのがよい。
このとき、上記MgとSiは、その合金組成を、−0.15Mg+0.84≦Si≦−0.5Mg+1.45の範囲のものとすることによって、良好な押出成形性を確保しながら、上記JIS 6061−T6相当の機械的強度を確保することが可能となる。左辺、即ち、−0.15Mg+0.84≦Siは、押出成形時の面圧のデータから、割れ、むしれが無く且つ面圧が30以下になるMg及びSi濃度の境界を示すところ、これを満足することによって、アルミ押出形材の合金強度を確保することができ、左辺にあって、Mgが量的に少ないとき、例えば、Mgを下限の0.4%とするとき、Siは、これを、0.78%とすることによって機械的強度、即ち、合金強度を確保することができる。また、右辺、即ち、Si≦−0.5Mg+1.45は、押出形材の引張試験により得られた耐力のデータから、これが245MPa以上となるMg及びSi濃度の境界を示し、押出成形の熱間割れやむしれ等の押出成形不良を回避する範囲を示すところ、Siが0.7〜1.2%以下の範囲で比較的多い場合には、アルミ押出形材の強度及び変形抵抗には問題を生じないが、Al‐Si‐Mg2Siの三元共晶融解が起き易くなり、また、同時にMgも上限側であると、変形抵抗が上がることで加工熱の発生が大きくなって、上記共晶融解を契機とする延性や靱性が低下し、アルミ押出形材に割れを発生し易くなる。そのため、Mgが0.6%を超える場合は、Siを1.2%未満に規制することが必要となる。
Mn及び/又はZrは、アルミ押出形材を成形するビレットの均質化処理時にMn系及び/又はZr系の化合物として析出して、上記ピンニング効果によって成形時の再結晶を抑制するところ、0.20%を上回ると、押出成形性や焼入れ性を低下させる可能性があり、0.15%を上回ると、その傾向を生じるから、該Mn及び/又はZrは、0.20%、好ましくは0.15%以下とするのがよい。
Mn、Zrはその一方を用い、また、その双方を用いるところ、これらMn及び/又はZrの関係は、Mn(%)+Zr(%)≦0.2とすること、0.67Mn(%)+Zr(%)≧0.039とすること、そして、上記過剰Siとの関係を、過剰Si≧(0.6−1.56Mn+0.22Zr+3.93Mn及び/又はZr)/(9.17Mn+16.1Zr)とするものとしてある。
MnとZrについて、上記のMn(%)+Zr(%)≦0.2の範囲は、押出成形性及び高強度の機械的性質を確保するように、面圧30以下であり耐力が245MPaを満足するMn及び/又はZr濃度の境界を示し、上記0.67Mn(%)+Zr(%)≧0.039は、押出形材の繊維組織比率、即ち、繊維組織の面積/押出形材の断面積の比率のデータから繊維組織比率が60%以上とするに必要なMn及び/又はZr濃度の境界を示し、また、上記過剰Si≧(0.6−1.56Mn+0.22Zr+3.93Mn及び/又はZr)/(9.17Mn+16.1Zr)は、繊維組織比率に対するMn及び/又はZrと過剰Siの交互作用について、繊維組織比率が60%以上とするに必要なMn及び/又はZrと過剰Si濃度の境界を示す。
従って、Mn及び/又はZrは、これらを満足するように、その濃度を可及的に抑制することによって、押出成形性を損なうことなく、また、上記変形抵抗をアップするMgを増加することなく、上記過剰Siを有効に活用して、該過剰Siによる再結晶の抑制とこれによるアルミ押出形材の繊維状組織化を図ることができる。なお、繊維組織比率から導いた上記0.67Mn(%)+Zr(%)≧0.039Mnにおいて、含有量に1未満の係数を付したのは、Mnは、Zrに比べてその再結晶抑制効果が低いので、Zrとの相対量を一致するためである。
一方、Crは、Mn及び/又はZrに比べ、焼入れ性と押出成形性を低下させることから、その添加含有はこれを避けるのが好ましいところ、JIS 6061相当のアルミ押出形材とするときには、該Crが必須の成分とされ、また、該Crは単独での再結晶抑制効果を有することから、これを添加含有することがあるが、この場合でも、焼入れ性と押出成形性の確保の立場から、添加含有量を最大でも0.1%以下とすることが必要である。
Feは、再結晶抑制効果があり、また地金純度を不必要に上げてしまうため、これを0.1%以上添加含有するが、0.3%を上回るとアルミ押出形材の強度低下や、押出成形時のピックアップ等外観不良の要因となるから、該Feは0.1%〜0.3%とするのがよい。
Cuは、JIS 6061合金の成分として、アルミ押出形材の強度を向上する一方で、繊維状組織化に対して影響を与えることは少ないので、JIS 6061相当の合金のものとする上で、添加含有することを妨げないが、0.25%を上回ると、押出成形性を低下し、また、粒界腐食性を悪化させるため、該Cuは、これを0.25%以下とするものとしてある。
Tiは、アルミ押出材のビレット鋳造時に鋳塊の結晶粒を微細化することによって、鋳造割れを防止し且つ押出成形時の再結晶抑制とこれによる繊維状組織化に有効であるから、これを添加含有することが好ましいが、0.003%を下回ると微細化の効果が得にくくなる一方、0.1%を上回ると、粗大な金属間化合物を生成して、押出成形性を低下させることから、該Tiは、これを0.003%〜0.1%とするものとしてある。
このように、上記Al−Mg−Si系合金にMn及び/又はZrを添加含有して高強度、高延性、押出加工性を併存具備したアルミ押出形材は、その押出成形方法を、該押出形材における上記組成、即ち、Mg0.4〜0.9%、Si0.7〜1.2%のMg2Siのバランス組成以上の過剰Si状態にして、MgとSiの関係を−0.15Mg+0.84≦Si≦−0.5Mg+1.45とし、Mn0.2%以下、Zr0.2%以下にして、MnとZrの関係を、Mn+Zr≦0.2且つ0.67Mn+Zr≧0.039とし、上記過剰Si、Mn及び/又はZrの関係を、過剰Si≧(0.6−1.56Mn+0.22Zr+3.93Mn・Zr)/(9.17Mn+16.1Zr)としたアルミ合金組成のビレットを用いて、その均質化処理を、昇温速度100〜300℃/Hr、保持温度510〜590℃、保持時間1〜10Hrによって行った後、上記アルミ押出形材を押出比40〜90として押出成形するものとしてある。
ビレットの鋳造は、上記合金組成のアルミを常法によって溶解して、半連続鋳造によって行うものとしてあり、その均質化処理は、鋳造したビレットを、均熱炉に入れて常法による熱処理を施すことによって行うものとしてある。このとき該均質化処理は、その昇温速度をやや遅め乍ら、生産性を低下させないように、100〜300℃/Hrとして、Mn及び/又はZr系化合物を微細析出させるべく、その不均一核生成サイトとなるMg2Siを微細析出するようにしてある。即ち、昇温速度が100℃/Hrを下回ると、生産性の観点で好ましくなく、また、300℃/Hrを上回ると、Mg2Siが減少するため、それらを析出サイトとするMn及び/又はZr系化合物が粗大析出し、再結晶抑制効果が低下し、また250℃/Hrを上回るとその傾向を生じるから、該昇温速度は、上記100〜300℃/Hr、好ましくは100〜250℃/Hrとするのがよい。
均質化処理の保持温度及び保持時間は、これを、やや高めの510〜590℃で、1〜10時間行うようにして、Mn及び/又はZr系化合物を析出を進行させつつ、押出成形時にピックアップ不良の原因となるAlFeSi系化合物のβ→αへの変態を充分に起こさせるように行うものとしてある。このとき、保持温度が510℃を下回ると、Mn及び/又はZr系化合物を析出の進行が不十分となり、540℃を下回るとその傾向を招き、590℃を上回ると、ビレット内部の局部融解が発生し、押出成形材にフクレ不良などを起こす原因となり、570℃を上回ると、Mn及び/又はZr系化合物が粗大化する傾向を招き、長時間の保持を避ける必要が生じるから、該保持温度は510〜590℃、好ましくは540〜570℃とし、保持時間は1〜10時間、好ましくは3〜5Hrとするのがよい。
なお、ビレットの冷却速度は、組織への影響は小さいが、押出形材の強度低下に繋がるケースがあるため、100℃/Hr以上とするのが好ましく、このとき、上限は冷却設備の能力とビレットの径の関係から定めるようにすればよい。
一方、押出形材の押出成形は、常法に従って直接押出法によるものとすればよいが、押出形材の組織と高強度の機械的特性は、押出成形条件による影響を受けるところ、押出形材の加工度は、これを定める複合因子のうち、特に、押出比が大きいほど押出成形時の再結晶が生じ易くなり、例えば、JIS 6061アルミ合金の場合、押出比20以下では比較的容易に繊維状組織とすることができるが、押出比が40を上回ると再結晶を起こす傾向を招き易くなり、従って該JIS 6061アルミ合金の場合、押出比40以上として押出形材を繊維状組織とすることは極めて困難であるところ、上記に記載の合金組成としたとき、該押出比は、これを40〜90としても、その再結晶による繊維状組織化を行って、該繊維組織比率を60%以上とすることができる。
押出成形の形材温度、即ち、溶体化温度は、これが、高い程押出成形時に再結晶を生じ易くなり、一般に580℃を上回ると、再結晶を生じる傾向を招くため、該形材温度は580℃以下とするのがよいが、加工度が大きい押出形材にあっては、例えば560℃を上回ると再結晶を生じる傾向を招くから、このとき該温度は、これを、560℃以下とするのが好ましい。
押出成形に際して冷却速度、即ち、焼入れ速度は、これが遅いほど、再結晶を生じる傾向が高まるが、後述の機械的特性を確保する上で、該冷却温度は、これを5℃/秒以上の急冷とするのが好ましく、該5℃/秒以上の急冷を施すことによって、組織への影響を回避することができる。但し、急冷に至る冷却遅れ時間が長いと再結晶を生じる可能性が高まることから、押出形材がダイス出口を出てから10秒以内に急冷するようにすることが好ましい。
上記加工度、特に押出比、形材温度、及び冷却速度乃至冷却遅れは、上記合金組成による場合、押出比40〜90、形材温度530〜580℃、冷却遅れ3〜10秒、冷却速度20〜50℃/秒とすることによって、繊維組織比率60%を容易に達成することが可能となる。
押出形材の機械的特性は、上記形材温度と冷却速度に依存するところ、形材温度は、析出硬化に寄与するMgとSiを充分に固溶させるために、490℃以上にすることが望ましい。但し、前述の通り高すぎると再結晶を起こして、伸びが急激に悪化して、熱間割れやむしれ等の外観不良を招く傾向を生じるから、形材温度の上限は、これを上記580℃とすることが好ましい。
冷却速度は、速いほど、固溶したMg及び/又はSiを過飽和に強制固溶させ、押出形材の強度を向上するため、5℃/秒以上の急冷を施すことが望ましい。また、一般に強度と延性は負の相関を示すが、冷却速度を15℃/秒以上とすれば、伸びも上昇傾向を示すのでさらに望ましい。該冷却速度の上限は、冷却設備の能力と形材単重及び表面積に基づいて定めればよいが、冷却遅れ時間が機械的特性に影響を与えるため、10秒以内に急冷させることが望ましい。
形材組織、即ち、繊維状組織化と強度の機械的特性の両面から見た好ましい押出条件は、押出比を40〜90の押出形材とするとき、形材温度を490〜580℃、冷却遅れ10秒以内、冷却速度15℃/秒以上とするのがよい。なお、冷却遅れの下限、冷却速度の上限は、材料特性上から決まる数値ではないので、これらについては常法に従うようにすればよい。
時効処理は、押出形材にJIS 6061−T6相当の機械的特性を付与するように、常法に従った人工時効を実施すればよく、該時効処理は高温にして短時間の、例えば190〜205℃、60〜200分とし、また、低温にして長時間の、例えば170〜185℃、200〜400分とするが、生産性を考慮すると上記高温にして短時間とすることが好ましい。
表1に示す成分組成のAl−Mg−Si系アルミニウム合金ビレットをホットトップ鋳造によって鋳造し、表2に示す条件で均質化処理を行った。その後、表2に示す形材温度、押出比(形材形状は丸パイプ)でそれぞれ押出成形加工を行って、押出成形直後にオンラインで水冷によるプレス焼入れを行い、上記丸パイプの各中空の押出形材を得た。これらの押出形材に対して表2記載の均質化処理(時効処理)を施して、表1に示すとおり試料1〜試料8(試料2については7体)の合計14の供試体を作成した。
なお、未達式の(1)は上記「−0.15Mg+0.84≦Si≦−0.5Mg+1.45」を、(2)は上記「Mn+Zr≦0.2」、(3)は上記「0.67Mn+Zr≧0.039」を、(4)は上記「過剰Si≧(0.6−1.56Mn+0.22Zr+3.93Mn及び/又はZr)/(9.17Mn+16.1Zr)」をそれぞれ示し、これらを充足しない合金組成であることを示す。
各試料1乃至8(試料2は7体)についてそれぞれ機械的特性、繊維組織比率、押出成形性を測定した。機械的性質は各試料よりJIS 13B号試験片を採取して引張試験を行い、繊維組織比率は、押出方向に対して垂直な断面のマクロ組織観察を行い、画像解析ソフトを用いてその面積率を測定し、押出成形性は押出成形時にプレス機付属の圧力計表示の面圧によってそれぞれ評価した。結果を表2に示す。
表2によると、試料1(Mg0.55%、Si1.00%、Fe0.18%、Ti0.01%、Zr0.10%)、試料2(Mg0.55%、Si1.00%、Fe0.18%、Ti0.01%、Mn0.05%、Zr0.05%)、試料3(Mg0.55%、Si1.00%、Fe0.18%、Ti0.01%、Mn0.04%、Cr0.04%、Zr0.04%)の合金組成の押出形材は、押出比を45として、昇温速度200℃/Hr、保持温度550℃、保持時間4Hrの均質化処理を施し、押出形材温度540℃にて押出加工を行うことによって、試料1は、引張強度312MPa、耐力290MPa、伸び12%、繊維組織比率77%、面圧25kgf/mm2、試料2は、引張強度295MPa、耐力275MPa、伸び13%、繊維組織比率80%、面圧22kgf/mm2、試料3は、引張強度286MPa、耐力265MPa、伸び12%、繊維組織比率85%、面圧27kgf/mm2にして、いずれも熱間割れのないものであった。また、試料2−1について、押出比を45として、昇温速度100℃/Hr、保持温度550℃、保持時間4Hr、押出形材温度510℃の均質化処理を施すことによって、引張強度284MPa、耐力260MPa、伸び14%、繊維組織比率98%、面圧25kgf/mm2、熱間割れのないものであり、更に、試料2−2について、押出比を80として、昇温速度300℃/Hr、保持温度580℃、保持時間10Hr、押出形材温度570℃の均質化処理を施すことによって、引張強度320MPa、耐力296MPa、伸び12%、繊維組織比率65%、面圧23kgf/mm2、熱間割れのないものであった。
引張強度265MPa以上、耐力245MPa以上、伸び8%以上、繊維組織比率60%以上、面圧30kgf/mm2以下にして熱間割れのないものを基準とすると、以上の結果は、機械的強度、繊維組織比率及び押出成形性においてそれぞれ満足し得るものであった。
一方、上記試料1乃至3と合金組成を変化した試料4(Mg0.55%、Si0.70%、Fe0.18%、Ti0.01%、Mn0.05%、Zr0.05%)、試料5(Mg0.55%、Si1.00%、Fe0.18%、Ti0.01%、Mn0.03%、Zr0.01%)、試料6(Mg0.80%、Si1.20%、Fe0.18%、Ti0.01%、Mn0.05%、Zr0.05%)、試料7(Mg0.55%、Si1.00%、Fe0.18%、Ti0.01%、Mn0.15%、Zr0.15%)、試料8(Mg0.55%、Si1.00%、Fe0.18%、Ti0.01%、Cr0.13%)の押出形材は、押出比を45として、昇温速度200℃/Hr、保持温度550℃、保持時間4Hrの均質化処理を施し、押出形材温度540℃にて押出加工を行うと、試料4において、伸び10%、面圧25kgf/mm2であり、熱間割れはないが、引張強度245MPa、耐力220MPa、繊維組織比率40%であり、試料5は、引張強度304MPa、耐力288MPa、面圧21kgf/mm2であり、熱間割れはないが、伸び7%、繊維組織比率25%であり、試料6は、引張強度334MPa、耐力303MPa、伸び8%、繊維組織比率62%であるも、面圧36kgf/mm2にして熱間割れが発生したものであり、試料7は、伸び13%、繊維組織比率91%、熱間割れはないが、引張強度252MPa、耐力230MPa、面圧32kgf/mm2であり、試料8は、引張強度277MPa、耐力252MPa、伸び11%、繊維組織比率84%、熱間割れはないが、面圧32kgf/mm2であった。また、表2に試料2−3乃至2−6として示すように、上記試料2を、更に、押出比を120として、昇温速度200℃/Hr、保持温度550℃、保持時間4Hrの均質化処理を施し、押出形材温度540℃で押出加工を行うと、引張強度305MPa、耐力282MPa、伸び12%、面圧29kgf/mm2、熱間割れはないが、繊維組織比率10%であり、押出比を45として、昇温速度200℃/Hr、保持温度550℃、保持時間4Hrの均質化処理を施し、押出形材温度590℃にて押出加工を行うと、引張強度345MPa、耐力318MPa、面圧20kgf/mm2、熱間割れはないが、伸び7%、繊維組織比率7%であり、押出比を45として、昇温速度400℃/Hr、保持温度550℃、保持時間4Hrの均質化処理を施し、押出形材温度540℃にて押出加工を行うと、引張強度299MPa、耐力276MPa、伸び13%、面圧22kgf/mm2、熱間割れはないが、繊維組織比率45%であり、また、押出比を45として、昇温速度200℃/Hr、保持温度590℃、保持時間12Hrの均質化処理を施し、押出形材温度540℃にて押出加工を行うと、引張強度290MPa、耐力270MPa、伸び9%、面圧21kgf/mm2、熱間割れはないが、繊維組織比率39%であった。
即ち、試料1乃至3においては、Si1.0%とすることによって、過剰Siが高強度の機械的特性とそのピンニング効果による高い繊維組織比率を確保するに至る一方、試料4乃至8は、表1注記の式を充足しないことによって、機械的特性、繊維組織比率、押出成形性のいずれかを充足し得ないものとなるに至っており、また、試料2の合金組成でも、均質化処理の条件によっては、伸び、繊維組織比率を充足し得ない結果となり、試料2−3は、押出比が120と高く、試料2−4では押出時の形材温度が590℃と高いために、再結晶が進行して繊維組織比率が低くなるに至り、試料2−5では、均質化処理における昇温速度が400℃/Hrと早いため、Mn及び/又はZr系化合物が微細分散されず、十分なピンニング効果が得られず、繊維組織比率が低くなるに至り、試料2−6では、均質化処理の温度が高く、時間が長いことにより、Mn及び/又はZr系化合物が粗大析出して、同様に十分なピンニング効果が得られず、繊維組織比率が低くなるに至ったものと認められる。