以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明者らは、方向性電磁鋼板の一次被膜と鋼板との密着性をさらに向上させつつ、磁気特性をより一層向上させるために、方向性電磁鋼板の製造方法について鋭意検討を行った結果、以下の知見を見出した。
具体的には、本発明者らは、方向性電磁鋼板では、溶鋼がBiを含有することでインヒビターの耐熱性を強化して磁束密度の向上が期待されるが、一次被膜と鋼板との密着性が劣化することに対して、焼鈍分離剤がTi化合物、B化合物および希土類金属化合物を含有することで、一次被膜と鋼板との密着性をさらに向上させることができることを見出した。一方、Ti化合物、B化合物または希土類金属化合物のいずれかが焼鈍分離剤に含有されない場合、一次被膜と鋼板との密着性は向上しなかった。
一方で、焼鈍分離剤がTi化合物、B化合物および希土類金属化合物を含有すると、ヒステリシス損失が劣化する場合があることを見出した。そこで、本発明者らは、ヒステリシス損失の劣化の抑制について検討したところ、焼鈍分離剤に対して、Ti化合物およびB化合物の含有量を制御するとともに、仕上焼鈍における高温保持条件を制御することで、ヒステリシス損失の劣化を抑制し、一次被膜と鋼板との密着性を向上させることが可能であることを見出した。
なお、このような現象が生じる詳細な理由は明らかではないが、焼鈍分離剤の含有物が、二次再結晶過程のインヒビターの挙動に影響を与えるためと推察される。すなわち、焼鈍分離剤がB化合物を含有すると、仕上焼鈍の昇温途中における二次再結晶過程で焼鈍分離剤に含まれるB化合物が分解してB(ホウ素)が鋼中へ浸入するとともに、焼鈍雰囲気に含まれる窒素によって鋼板の窒化が起こって、鋼中にて析出物BNが形成されてしまい、ヒステリシス損失が劣化してしまう。しかし、仕上焼鈍における高温保持条件を制御することで、BNがオストワルド成長して0.8μm以上のサイズに達し、ヒステリシス損失の劣化が抑制されるものと推察される。
本発明者らは、以上の知見を考慮することで、本発明を想到するに至った。本発明の一実施形態は、以下の構成を備える方向性電磁鋼板の製造方法である。
質量%で、C:0.02%以上0.10%以下、Si:2.5%以上4.5%以下、Mn:0.01%以上0.15%以下、SおよびSeのうち1種または2種の合計:0.001%以上0.050%以下、酸可溶性Al:0.01%以上0.05%以下、N:0.002%以上0.015%以下、を含有し、残部がFeおよび不純物を含有するスラブを、1280℃以上に加熱して、熱間圧延を施すことで、熱延鋼板とする工程と、前記熱延鋼板に熱延板焼鈍を施した後、一回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延を施すことで、冷延鋼板とする工程と、前記冷延鋼板に一次再結晶焼鈍を施す工程と、一次再結晶焼鈍後の前記冷延鋼板の表面にMgOを含む所定の焼鈍分離剤を塗布した後、仕上焼鈍を施す工程と、仕上焼鈍後の鋼板に絶縁被膜を塗布した後、平坦化焼鈍を施す工程と、を含み、前記焼鈍分離剤において、MgOを含有し、当該MgOの含有量に対して、質量%で、Ti化合物を、含有されるTi換算で0.3%以上10.0%以下含有し、B化合物を、含有されるB換算で0.03%以上1.60%以下含有し、希土類金属の化合物を、含有される希土類金属換算で0.1%以上10%以下含有し、前記Ti化合物のTi換算の含有量をA(%)とし、前記B化合物のB換算の含有量をB(%)としたときに、以下の式(2)を満たし、前記仕上焼鈍における1100℃以上かつ雰囲気中の窒素濃度が10vol%以下における滞留時間T(h)が以下の式(3)を満たすことを特徴とする被膜密着性および磁気特性の良好な方向性電磁鋼板の製造方法。
0.33 ≦ (A+B) ≦ 10.30 ・・・ 式(2)
(5+9×B) ≦ T ≦ 100 ・・・ 式(3)
以下、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法について具体的に説明する。
(スラブの化学組成)
まず、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の各工程の説明に先立ち、本実施形態に係る方向性電磁鋼板に用いられるスラブの成分組成について説明する。なお、以下では特に断りのない限り、「%」との表記は「質量%」を表わすものとする。また、以下で説明する元素以外のスラブの残部は、Feおよび不純物を含有する。
C(炭素)の含有量は、0.02%以上0.10%以下である。Cには、種々の役割があるが、Cの含有量が0.02%未満である場合、スラブの加熱時に結晶粒径が過度に大きくなることで、最終的な方向性電磁鋼板の鉄損値を増大させるため好ましくない。一方、Cの含有量が0.10%超である場合、冷間圧延後の脱炭時に、脱炭時間が長時間になり、製造コストが増加するため好ましくない。また、Cの含有量が0.10%超である場合、脱炭が不完全になり易く、最終的な方向性電磁鋼板において磁気時効を起こす可能性があるため好ましくない。したがって、Cの含有量は、0.02%以上0.10%以下とする。Cの含有量は、好ましくは、0.05%以上0.09%以下である。
Si(ケイ素)の含有量は、2.5%以上4.5%以下である。Siは、鋼板の電気抵抗を高めることで、鉄損の原因の一つである渦電流損失を低減する。Siの含有量が2.5%未満である場合、最終的な方向性電磁鋼板の渦電流損失を十分に抑制することが困難になるため好ましくない。一方、Siの含有量が4.5%超である場合、方向性電磁鋼板の加工性が低下するため好ましくない。したがって、Siの含有量は、2.5%以上4.5%以下とする。Siの含有量は、好ましくは、2.7%以上4.0%以下である。
Mn(マンガン)の含有量は、0.01%以上0.15%以下である。Mnは、二次再結晶を左右するインヒビターであるMnSおよびMnSeなどを形成する。Mnの含有量が0.01%未満である場合、二次再結晶を生じさせるMnSおよびMnSeの絶対量が不足するため、好ましくない。一方、Mnの含有量が0.15%超である場合、スラブ加熱時にMnの固溶が困難になるため、好ましくない。また、Mnの含有量が0.15%超である場合、インヒビターであるMnSおよびMnSeの析出サイズが粗大化し易く、インヒビターとしての最適サイズ分布が損なわれるため、好ましくない。したがって、Mnの含有量は、0.01%以上0.15%以下とする。Mnの含有量は、好ましくは、0.03%以上0.13%以下である。
S(硫黄)およびSe(セレン)の含有量は、合計で0.001%以上0.050%以下である。SおよびSeは、上述したMnと共にインヒビターを形成する。SおよびSeは、2種ともスラブに含有されていてもよいが、少なくともいずれか1種がスラブに含有されていればよい。SおよびSeの含有量の合計が上記範囲を外れる場合、十分なインヒビター効果が得られないため好ましくない。したがって、SおよびSeの含有量は、合計で0.001%以上0.050%以下とする。SおよびSeの合計含有量は、好ましくは、0.001%以上0.040%以下である。
酸可溶性Al(酸可溶性アルミニウム)の含有量は、0.01%以上0.05%以下である。酸可溶性Alは、高磁束密度の方向性電磁鋼板を製造するために必要なインヒビターを構成する。酸可溶性Alの含有量が0.01%未満である場合、酸可溶性Alが量的に不足し、インヒビター強度が不足するため、好ましくない。一方、酸可溶性Alの含有量が0.05%超である場合、インヒビターとして析出するAlNが粗大化し、インヒビター強度を低下させるため、好ましくない。したがって、酸可溶性Alの含有量は、0.01%以上0.05%以下とする。酸可溶性Alの含有量は、好ましくは、0.01%以上0.04%以下である。
N(窒素)の含有量は、0.002%以上0.015%以下である。Nは、上述した酸可溶性Alと共にインヒビターであるAlNを形成する。Nの含有量が上記範囲を外れる場合、十分なインヒビター効果が得られないため、好ましくない。したがって、Nの含有量は、0.002%以上0.015%以下とする。Nの含有量は、好ましくは、0.002%以上0.012%以下である。
本発明の効果は、スラブにBi(ビスマス)を含有させる製法を採用した鋼板において、特に有用なものとなる。
一般的にスラブ成分にBiを含有させると、一次被膜と鋼板との密着性が劣化する。このメカニズムについて、詳細は明らかとなっていないが、一次被膜と鋼板の界面構造が平滑化しやすくなって、アンカー効果が減少して密着性が劣化すると推察されるが、本発明を適用すると、Bi含有鋼でも平滑化が抑制され密着性に関する問題を解消できる。本発明を適用すると、スラブがBiを含有することでインヒビターの耐熱性を強化して磁束密度をより向上させた鋼板においても良好な密着性を確保できる。
この場合のBiの含有量は、0.0005%以上0.0500%以下であることが好ましい。Biは、インヒビターであるMnSやAlNの耐熱性を強化して、二次再結晶温度を高温化し、磁束密度を向上する効果があると考えられる。Biの含有量は、0.0005%以上0.05%以下である場合、より一層インヒビター耐熱性強化効果を得ることができる。Biの含有量が0.0005%未満である場合、十分なインヒビター耐熱性強化効果が得られない場合がある。Biの含有量が0.0500%超である場合、熱延における鋼板の脆性が劣化して通板が困難となり、生産性が低下する場合がある。したがって、Biの含有量は、好ましくは、0.0005%以上0.0500%以下とする。Biの含有量は、より好ましくは、0.0010%以上0.0200%以下である。なお、Biは、本実施形態に係る方向性電磁鋼板に用いられるスラブにおいて必ずしも必須ではないことから、含有量の下限値は0%である。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造に用いられるスラブは、上述した元素の他に、二次再結晶を安定化させる元素として、Cu、Sn、Ni、Cr、またはSbのいずれか1種または2種以上をさらに含有させてもよい。スラブが上記の元素を含有する場合、製造される方向性電磁鋼板の鉄損値をさらに低減することができる。
なお、これらの元素のいずれか1種または2種以上をスラブが含有する場合、含有される元素各々の含有量は、それぞれ0.01%以上0.30%以下であることが好ましい。これらの元素の各々の含有量が0.01%未満である場合、二次再結晶を安定化させる効果が十分に得られ難くなるため、好ましくない。一方、これらの元素の各々の含有量が0.30%超である場合、二次再結晶を安定化させる効果が飽和するため、製造コストの増大を抑制する観点から、好ましくない。なお、これらの元素は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板に用いられるスラブにおいて必ずしも必須ではないことから、含有量の下限値は0%である。
上記で説明した成分組成に調整された溶鋼を鋳造することで、スラブが形成される。なお、スラブの鋳造方法は、特に限定されない。また、研究開発において、真空溶解炉などで鋼塊が形成されても、上記成分について、スラブが形成された場合と同様の効果が確認できる。
(熱間圧延工程)
続いて、上記の組成を有するスラブが1280℃以上に加熱されることで、スラブ中のインヒビター成分が固溶する。スラブの加熱温度が1280℃未満である場合、MnS、MnSe、およびAlN等のインヒビター成分を充分に溶体化することが困難になる。なお、このときのスラブの加熱温度の上限値は、特に定めないが、設備保護の観点から1450℃が好ましく、例えば、スラブの加熱温度は、1300℃以上1450℃以下であることが好ましい。
次に、加熱されたスラブは、熱間圧延されて熱延鋼板に加工される。熱間圧延は、公知の方法で行うことができる。加工後の熱延鋼板の板厚は、例えば、1.8mm以上3.5mm以下であることが好ましい。熱延鋼板の板厚を1.8mm以上3.5mm以下とすることで、二次再結晶をより安定化することができ、最終的に得られた方向性電磁鋼板において、優れた磁気特性を維持することが可能となる。一方で、熱延鋼板の板厚が1.8mm未満である場合、熱間圧延後の鋼板温度が低温化し、鋼板中のAlNの析出量が増加することで二次再結晶が不安定となって、磁気特性が低下する場合がある。熱延鋼板の板厚が3.5mm超である場合、冷間圧延の工程での圧延負荷が大きくなる場合がある。
(冷間圧延工程)
続いて、加工された熱延鋼板は、熱延板焼鈍を施された後、1回の冷間圧延、または中間焼鈍を挟んだ複数回の冷間圧延にて圧延されることで、冷延鋼板に加工される。熱延板焼鈍、冷間圧延および中間焼鈍は、それぞれ公知の方法で行うことができる。なお、中間焼鈍を挟んだ複数回の冷間圧延にて圧延する場合、前段の熱延板焼鈍を省略することも可能である。ただし、熱延板焼鈍を施す場合、鋼板形状がより良好になるため、冷間圧延にて鋼板が破断する可能性を軽減することができる。
また、冷間圧延のパス間、圧延ロールスタンド間、または圧延中に、鋼板は、300℃程度以下で加熱処理されてもよい。このような場合、最終的な方向性電磁鋼板の磁気特性を向上させることができる。なお、熱延鋼板は、3回以上の冷間圧延によって圧延されてもよいが、多数回の冷間圧延は、製造コストを増大させるため、熱延鋼板は、1回または2回の冷間圧延によって圧延されることが好ましい。冷間圧延をゼンジミアミルなどのリバース圧延で行う場合、それぞれの冷間圧延におけるパス回数は、特に限定されないが、製造コストの観点から、9回以下が好ましい。
(一次再結晶焼鈍工程)
次に、冷延鋼板は、脱炭焼鈍される。かかる過程は、一次再結晶焼鈍とも称される。脱炭焼鈍における昇温過程で、急速加熱することも、磁気特性の向上に有効である。急速加熱する場合は、急速加熱と脱炭焼鈍とは連続して行われることが、製造コストの観点から好ましい。脱炭焼鈍は、公知の方法で行うことができるが、例えば、水素および窒素含有の湿潤雰囲気中において、900℃以下の温度で実施されることが好ましい。なお、本工程では、冷延鋼板に対して、磁気特性および被膜特性向上を目的として、脱炭焼鈍に続く還元焼鈍が施されてもよい。
(焼鈍分離剤塗布工程)
その後、一次再結晶焼鈍後の冷延鋼板に、引き続く仕上焼鈍における鋼板間の焼き付き防止や、一次被膜形成、二次再結晶挙動制御などを目的として、MgOを主成分とする焼鈍分離剤が塗布される。ここでいう「主成分」とは、ある物質に50.0質量%以上含まれている成分をいう。例えば、MgOは、焼鈍分離剤を構成する材料の合計質量に対して50.0質量%以上含まれる。MgOの含有量は、焼鈍分離剤を構成する材料の合計質量に対して、50.0質量%以上99.57質量%以下であり、好ましくは、70.0質量%以上99.0質量%以下である。MgOの他、Ti化合物および希土類金属の化合物が含有され、さらにアルカリ土類金属化合物やAl化合物、Fe化合物、Si化合物などが含有されてもよい。前記焼鈍分離剤は、水に含有され、スラリーの状態で鋼板表面に塗布、乾燥されるが、静電塗布法などを用いて塗布されてもよい。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、特に一次被膜と鋼板の密着性や二次再結晶挙動に大きな影響を及ぼす。以下に、焼鈍分離剤の含有物の含有量および効果を記載する。ここで、焼鈍分離剤が含有する以下の化合物の含有量は、特段の記載がない限り、焼鈍分離剤の主成分であるMgO100%に対する含有物の質量%とする。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法において、上記焼鈍分離剤における希土類金属の化合物の含有量は、希土類金属換算で0.1%以上10.0%以下である。焼鈍分離剤に含まれる希土類金属の化合物は、希土類元素からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含む。希土類金属化合物は、仕上焼鈍中に酸素を放出し、一次被膜と鋼板の嵌入構造形成を促進することで、一次被膜と鋼板の密着性を向上させると推察される。しかし、希土類金属の化合物の含有量が0.1%未満である場合、密着性改善の効果が十分ではなく、また、希土類金属の化合物の含有量が10.0%超である場合、焼鈍分離剤スラリーの塗布性が劣化するので、好ましくない。したがって、希土類金属の化合物の含有量は、希土類金属換算で0.1%以上10.0%以下とする。希土類金属の化合物の含有量は、好ましくは、希土類金属換算で0.2%以上8.0%以下である。希土類金属の化合物は、酸化物、硫化物、硫酸塩、ケイ化物、リン酸塩、水酸化物、炭酸塩、ホウ素化物、塩化物、フッ化物からなる群より選択される1種または2種以上を混合すればよい。希土類金属の化合物は、入手のしやすさ、コストの観点から、La、Ce、Yの化合物の使用が好ましい。
上記焼鈍分離剤において、B化合物の含有量は、B換算で0.03%以上1.60%以下である。B化合物の含有量がB換算で0.03%未満である場合、一次被膜の密着性改善の効果が十分ではなく、また、B化合物の含有量がB換算で1.60%超である場合、密着性改善の効果が飽和してコストが増加する。また、B化合物の含有量をB換算で0.03%以上1.60%以下とすることで、仕上焼鈍中に焼鈍分離剤に含まれるBが鋼に過剰に拡散することを抑制することが可能となる。
したがって、B化合物の含有量は、B換算で0.03%以上1.60%以下とする。B化合物の含有量は、好ましくは、B換算で0.05%以上1.60%以下である。
B化合物は、特段制限されないが、好ましくは、BN、H3BO3、B2O3、Na2B4O7・10H2O、またはTiB2である。
上記焼鈍分離剤において、Ti化合物の含有量は、Ti換算で0.3%以上10.0%以下である。Ti化合物は、一次被膜と鋼板との密着性に大きな影響を及ぼす。Ti化合物の含有量がTi換算で0.3%未満である場合、密着性改善の効果が十分ではなく、また、Ti化合物の含有量がTi換算で10.0%超である場合、仕上焼鈍過程において鋼板へTiが固溶し、後に鋼中においてTiCなどの微細析出物を形成してヒステリシス損失を劣化させる(磁気時効)ことがあるので、好ましくない。したがって、Ti化合物の含有量は、Ti換算で0.3%以上10.0%以下とする。Ti化合物の含有量は、好ましくは、Ti換算で0.3%以上8.0%以下である。
Ti化合物は、特段制限されないが、好ましくは、TiN、TiO2、Ti2O3、またはTi3O5である。
焼鈍分離剤にTi化合物、B化合物および希土類金属化合物を含有させることによって、一次被膜と鋼板との密着性が改善される。このメカニズムについて、詳細は明らかではないが、仕上焼鈍の過程でTi化合物およびB化合物が分解して、一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍に浸入し、Ti化合物および/またはB化合物が形成されることで、一次被膜と鋼板の界面構造の複雑化に寄与して、アンカー効果を発揮するものと推察される。また、希土類金属化合物は、上記したように、仕上焼鈍中に酸素を放出し、一次被膜と鋼板の嵌入構造形成を促進することで、一次被膜と鋼板の密着性を向上させると推察される。
ここで、焼鈍分離剤中のTi化合物含有量が多過ぎると、仕上焼鈍過程において鋼板へのTi化合物の分解が進行して、後に鋼中においてTiCなどの微細析出物を形成してヒステリシス損失を劣化させる(磁気時効)ことがあると判明した。そのため、焼鈍分離剤におけるTi化合物のTi換算含有量をA%、B化合物のB換算含有量をB%として、Ti化合物のTi換算含有量とB化合物のB換算含有量の和(A+B)は、0.33%以上10.30%以下とする。Ti化合物のTi換算含有量とB化合物のB換算含有量の和(A+B)が0.33%未満である場合、密着性改善の効果が十分ではなく、Ti化合物のTi換算含有量とB化合物のB換算含有量の和(A+B)が10.30%超である場合、仕上焼鈍過程において鋼板へTiおよび/またはBが固溶し、後に鋼中においてTiCやTiN、BNなどの析出物を形成したり、仕上焼鈍にて雰囲気から鋼中への窒素の浸入が促進され、鋼中にて窒化物を形成したりし、ヒステリシス損失を劣化させる(磁気時効)ことがあるので、好ましくない。したがって、Ti化合物のTi換算含有量とB化合物のB換算含有量の和(A+B)は、0.33%以上10%以下とする。Ti化合物のTi換算含有量とB化合物のB換算含有量の和(A+B)は、好ましくは、0.35%以上8.30%以下である。
上記焼鈍分離剤において、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属元素を含む1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物をさらに含有し、当該アルカリ土類金属化合物の含有量は、前記MgOの含有量に対して、当該アルカリ土類金属換算で0.3質量%以上5.8質量%以下であってもよい。アルカリ土類金属化合物は、さらなる磁気特性向上および被膜密着性向上に有効である。上記合計含有量が、MgOの含有量に対して、アルカリ土類金属換算で0.3%以上5.8%以下であることで、より一層効果的に、磁気特性向上効果および被膜密着性向上効果を得ることができる。Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属元素を含む1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物の合計含有量が、MgOの含有量に対して、アルカリ土類金属換算で0.3%未満である場合、磁気特性向上効果および被膜密着性向上効果が十分に得られない場合がある。Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属元素を含む1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物の合計含有量が、MgOの含有量に対して、アルカリ土類金属換算で5.8%超である場合、二次再結晶が不安定となり、VB8値が劣化する場合がある。なお、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属元素を含む1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物は、焼鈍分離剤において必ずしも必須ではないことから、含有量の下限値は0%である。
焼鈍分離剤が2種以上のアルカリ土類金属化合物を含有する場合、アルカリ土類金属化合物の含有量は、含有されるアルカリ土類金属元素それぞれの換算値の合計値である。
なお、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属元素を含む1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、塩化物および酸化物等挙げられ、具体的には、CaSO4・0.5H2O、CaCO3、SrSO4、Sr(OH)2、BaSO4、SrCO3等を挙げることができる。
ここで、化合物の種は、化学式によって定義されてもよく、化学式が異なれば別種の化合物としてもよい。含有されるアルカリ土類金属の量の換算値は、焼鈍分離剤に含有されるアルカリ土類金属化合物の化学式から、各元素の原子量を用いて、当該化合物に含まれるアルカリ土類金属元素の割合を算出し、これを焼鈍分離剤における当該化合物の含有量に乗じることで計算できる。2種以上のアルカリ土類金属化合物を含有する場合は、各当該化合物より計算した値を合算しても良い。なお、化学式における各元素の組成量論比が定まらない場合などは、焼鈍分離剤を誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)などの成分分析装置を用いて、アルカリ土類金属の含有量を測定してもよい。また、Ti、Bおよび希土類金属の換算値も、同様に計算あるいは測定されてもよい。さらに、化合物種の同定は、一般的な装置であるX線回折装置や透過型電子顕微鏡などを用いて実施してもよい。
本実施形態に係る焼鈍分離剤は、MgO、Ti化合物、希土類金属化合物、およびB化合物を少なくとも含有するが、希土類金属化合物は比重が大きく、一方、B化合物は比重が小さいため、水スラリーを作製する場合、沈殿や浮遊を抑制して均一に混合されるように撹拌する必要がある。前記焼鈍分離剤の水スラリー作製における撹拌は、0℃以上30℃以下の温度で、5分以上300分以下の時間、実施する。水スラリーの温度が0℃未満となると、氷が形成され、均一な混合が困難になり、焼鈍分離剤に含まれる化合物が均一に分散したスラリーが得られないので好ましくない。水スラリーの温度が30℃超である場合、スラリーの粘度が高くなって焼鈍分離剤を構成する材料が均一に混合されず、焼鈍分離剤に含まれる化合物が均一に分散したスラリーが得られないので好ましくない。撹拌時間が5分未満である場合、スラリーに含有される化合物の混合が十分でなく、焼鈍分離剤に含まれる化合物が均一に分散したスラリーが得られないので好ましくない。撹拌時間が300分超である場合、生産性を低下させるので好ましくない。焼鈍分離剤の水スラリー作製における撹拌は、0℃以上30℃以下の温度で、5分以上300分以下の時間、実施する。
例えば、水スラリーの状態における焼鈍分離剤を構成する材料の合計質量は、塗布工程の作業性に影響を及ぼさなければ特段制限されず、例えば、水スラリーの全体の質量に対して、5質量%以上30質量%以下とすることができる。
また、焼鈍分離剤に含有される、MgO、Ti化合物、希土類金属化合物、およびB化合物の粒径は、水中に均一に分散可能であれば特段制限されず、例えば、0.1μm以上50μm以下である。焼鈍分離剤に含有される、MgO、Ti化合物、希土類金属化合物、およびB化合物の粒径は、好ましくは、0.5μm以上25μm以下である。粒径は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて体積基準分布で測定した平均粒径とする。
なお、スラリーの撹拌に使用する撹拌機は、均一な混合が可能であれば特段制限されず、種々の形状の撹拌槽と撹拌翼とを適宜組み合わせることができる。均一な混合を達成するために、撹拌槽の内部に邪魔板を有していてもよいことはいうまでもない。
(仕上焼鈍工程)
続いて、一次被膜形成および二次再結晶を目的として仕上焼鈍が施される。仕上焼鈍において、母材鋼板の表面には、Mg2SiO4を主成分とする一次被膜が形成される。仕上焼鈍は、例えば、バッチ式加熱炉等を用いて、800℃〜1000℃の温度にて、コイル状の鋼板を10時間以上かけて昇温されることが好ましい。また、特定の温度で保持されてもよい。さらに、最終的な方向性電磁鋼板の鉄損値をより低減するためには、コイル状の鋼板を1200℃程度の温度まで昇温させた後に保持する純化焼鈍が施されてもよい。
仕上焼鈍の昇温過程における平均昇温速度については、特に限定されず、一般的な仕上焼鈍の条件を用いることが可能である。例えば、二次再結晶焼鈍を含む仕上焼鈍の昇温過程における平均昇温速度は、生産性および一般的な設備制約の観点から5℃/h〜100℃/hとすることが好ましい。また、仕上焼鈍の昇温過程は、他の公知のヒートパターンで行ってもよい。
ここで、仕上焼鈍工程における高温保持条件によっては、鋼板のヒステリシス損失が大幅に劣化する場合があることが判明した。ヒステリシス損失が劣化した鋼板を詳細に調査した結果、本発明者らは、鋼中に微細なBN析出物が多く形成されていることを初めて知見した。上記の微細BN析出物は、熱延板時点で鋼中に含まれていたものではなく、仕上焼鈍工程において、B(ホウ素)は焼鈍分離剤より、N(窒素)は焼鈍雰囲気より、それぞれ鋼中に浸入して、鋼中でBN析出物を形成し、微細なBN析出物がヒステリシス損失劣化の原因であると考えられる。
本発明者らは、仕上焼鈍工程条件を詳細に検討したが、鋼中に形成されたBN析出物を、純化焼鈍等によって再び鋼外に排出することはできなかった。そこで、さらなる検討の結果、鋼中に形成された微細BN析出物を粒成長によって粗大化させることで、ヒステリシス損失の劣化を抑制できることを見出した。すなわち、焼鈍分離剤に含有されるB化合物量のB換算値に応じて、仕上焼鈍工程における高温保持条件を厳密に制御することで、鋼中に形成されるBN析出物を粗大化させることに成功した。
仕上焼鈍工程における高温保持の温度は、1100℃以上とする。1100℃未満では、BN析出物の粒成長が遅いため、粗大化させることが困難である。上限は特に定めないが、設備保守の観点から1250℃以下が好ましい。仕上焼鈍工程における高温保持温度は、好ましくは1120℃以上である。高温保持時の雰囲気は、窒素濃度を10vol%以下とする。窒素濃度が10vol%超である場合、雰囲気から窒素が鋼中へ浸入し、鋼中のBN析出物やTiN析出物が増加してしまうばかりでなく、AlN析出物も残存してしまうため、ヒステリシス損失が劣化する。高温保持時の窒素濃度は、好ましくは、8vol%以下である。高温保持時の窒素濃度は低い方が好ましいため、下限は特に定めない。
高温保持の滞留時間T(h)は、焼鈍分離剤におけるB化合物量のB換算値B(%)に応じて厳密に制御される。焼鈍分離剤より鋼中に浸入するホウ素の量が多いほど、鋼中に形成されるBN析出物量が増加するため、ヒステリシス損失劣化を抑制するには、BN析出物をより粒成長させて粗大化を図る必要がある。よって、高温保持の滞留時間Tは、(5+9×B)h以上100h以下とする。(5+9×B)h未満である場合、BN析出物の粒成長が不十分であり、鋼中BN析出物のヒステリシス損失影響の抑制が十分でないために好ましくない。100h超である場合、焼鈍が長時間となって生産コストが増加するので好ましくない。以上より、仕上焼鈍工程における高温保持は、1100℃以上かつ雰囲気中の窒素濃度が10vol%以下における滞留時間T(h)が(5+9×B)h以上100h以下とする。滞留時間Tは、好ましくは、(6+9×B)h以上80h以下である。
仕上焼鈍工程における高温保持は、上述した純化焼鈍の一部または全部を兼ねてもよい。また、上記高温保持を除く過程における雰囲気ガス組成は、特に限定されない。二次再結晶進行過程では、窒素と水素の混合ガスであってもよい。乾燥雰囲気でもよいし、湿潤雰囲気でも構わない。純化焼鈍の雰囲気ガス組成は、乾燥水素ガスであってもよい。
(平坦化焼鈍工程)
続いて、仕上焼鈍の後、鋼板へ絶縁性および張力付与を目的として、例えば、リン酸アルミニウムまたはコロイダルシリカなどを主成分とした絶縁被膜が鋼板の表面に塗布される。その後、絶縁被膜の焼付、および仕上焼鈍による鋼板形状の平坦化を目的として、平坦化焼鈍が施される。なお、鋼板に対して絶縁性および/または張力が付与されるのであれば、絶縁被膜の成分は特に限定されない。また、平坦化焼鈍は、公知の方法で実施することができる。なお、本実施形態では、需要家の目的によっては、方向性電磁鋼板に磁区制御処理が施されてもよいことは言うまでもない。
以上の工程により、最終的な方向性電磁鋼板を製造することができる。本実施形態に係る製造方法によれば、磁気特性に優れ、一次被膜と鋼板の密着性に優れた方向性電磁鋼板が製造される。
こうして得られた方向性電磁鋼板は、変圧器に加工される際に、例えば、巻鉄心変圧器では、所定の大きさに巻き取られた後、金型などにより形状矯正される。ここで、特に、鉄心内周側では非常に曲率半径の小さい加工が施されることになる。このような加工でも一次被膜と鋼板の剥離を十分に防止するには、10mmφの曲げ加工密着性試験で、被膜剥離面積率が、10%以下であることが好ましい。
10mmφの曲げ加工密着性試験(10mmφ曲げ試験)とは、円筒型マンドレル屈曲試験機を用いて、サンプル鋼板を試験機に設置して曲げ試験を行い、曲げ試験後のサンプル鋼板の表面を観察することで実施される。また、被膜剥離面積率とはサンプル鋼板の全面積に対して、一次被膜が剥離した領域の面積の割合である。
[方向性電磁鋼板]
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、所定の成分を含む母材鋼板と母材鋼板の表面上に形成されており、Mg2SiO4を主成分として含有する一次被膜を備えるものである。さらに、一次被膜の表面上に、絶縁被膜を備えるものである。
(母材鋼板の成分組成)
本実施形態に係る方向性電磁鋼板において、高磁束密度化とともに低鉄損化するためには、方向性電磁鋼板の母材鋼板に含有される成分組成のうち、下記元素の含有量を制御することが重要である。なお、特に断りのない限り、鋼板の化学組成についての「%」との表記は「質量%」を表わすものとする。ガス組成についての「%」との標記は、「vol%」を表すものとする。
Cは、製造工程における脱炭焼鈍工程の完了までの組織制御に有効な元素である。しかし、C含有量が0.0050%超である場合、磁気時効を引き起こして磁気特性が低下する。したがって、C含有量は、0.0050%以下である。一方、C含有量は低いほうが好ましいが、C含有量を0.0001%未満に低減しても、組織制御の効果は飽和し、製造コストが嵩むだけとなる。したがって、C含有量は、0.0001%以上としてもよい。C含有量は、より好ましくは、0.0001%以上0.0030%以下である。
Siは、鋼板の電気抵抗を高めることで、鉄損の一部を構成する渦電流損失を低減する。Siは、質量%で、2.5%以上4.5%以下の範囲で母材鋼板に含有される。Siの含有量が2.5%未満である場合、方向性電磁鋼板の渦電流損失を抑制することが困難になるため好ましくない。Siの含有量が4.5%超である場合、方向性電磁鋼板の加工性が低下するため好ましくない。Siの含有量は、より好ましくは、2.7%以上4.0%以下である。
Mnは、二次再結晶を左右するインヒビターであるMnSやMnSeを形成する。Mnは、質量%で、0.01%以上0.15%以下の範囲で母材鋼板に含有される。Mnの含有量が0.01%未満である場合、二次再結晶を生じさせるMnSおよびMnSeの絶対量が不足するため好ましくない。Mnの含有量が0.15%超である場合、スラブ加熱時にMnの固溶が困難になり、かつインヒビターの析出サイズが粗大化することで、インヒビターの最適サイズ分布が損なわれるため好ましくない。Mnの含有量は、より好ましくは、0.03%以上0.13%以下である。
Bは、母材鋼板中でBN析出物を形成する元素であり、例えば、スラブ中に0.0080%以下の範囲で含有されてもよい。スラブのBの含有量が0.0080%超である場合、二次再結晶が不安定となるので好ましくない。スラブのBの含有量は、より好ましくは0.0050%以下であり、さらに好ましくは0.0020%以下である。下限は特に規定しないが、スラブのBの含有量は、0.0001%以上であってもよい。スラブに含有されていたものの他に、焼鈍分離剤に含有されるB化合物や不純物が仕上焼鈍工程で分解して鋼中へ浸入することで、母材鋼板に含有される。焼鈍分離剤に含有されるB化合物が多いほど、母材鋼板のB量も増加する。本実施形態に係る方向性電磁鋼板において、Bは、質量%で、0.0005%以上0.0200%以下の範囲で母材鋼板に含有される。Bは、0.0010%以上0.0150%以下の範囲で母材鋼板に含有されることが好ましい。母材鋼板のBの含有量が0.0005%未満である場合、被膜密着性改善効果が十分に得られないため好ましくない。母材鋼板のBの含有量が0.0200%超である場合、被膜密着性改善効果が飽和するばかりでなく、鋼中に形成されるBN析出物が増加してヒステリシス損失の劣化が懸念されるため好ましくない。
Nは、従来技術では仕上焼鈍工程の純化過程で鋼外に排出されることが、ヒステリシス損失の劣化抑制のために好ましい元素である。本技術では、被膜密着性向上を目的として焼鈍分離剤に含有されるTi化合物およびB化合物が、仕上焼鈍工程で分解して、BおよびTiが鋼中に浸入する。この際、仕上焼鈍の雰囲気中のNも鋼中に浸入し、また、鋼中析出物であるAlNが分解して鋼中で固溶Nが形成され、鋼中でBN析出物やTiN析出物などを形成するため、Nは、母材鋼板に含有される。焼鈍分離剤に含有されるTi化合物およびB化合物が多いほど、母材鋼板のN量も増加する。母材鋼板のN含有量は、0.0005%以上0.0100%以下である。母材鋼板のN含有量が0.0100%超である場合、被膜密着性改善効果が飽和するばかりでなく、鋼中に形成されるBN析出物およびTiN析出物が増加してヒステリシス損失の劣化が懸念されるため好ましくない。一方、Nの含有量は低い方が好ましいが、0.0005%未満としてもヒステリシス低減効果は飽和し、長時間かつ高温の純化焼鈍が必要となるため製造コストが嵩むだけとなる。したがって、N含有量は、0.0005%以上である。鋼板のNの含有量は、好ましくは、0.0005%以上0.0085%以下であり、より好ましくは、0.0005%以上0.0080%以下である。
Tiは、鋼中で微細析出物を形成してヒステリシス損失を劣化させる懸念があるので、母材鋼板の含有量は少ない方が好ましい元素である。例えば、Tiは、スラブ中に0.0050%以下の範囲で含有されてもよい。スラブのTiの含有量が0.0050%超である場合、ヒステリシス損失を劣化させるので好ましくない。スラブのTiの含有量は、好ましくは0.0040%以下であり、さらに好ましくは0.0030%以下である。スラブのTiの含有量は、下限は特に規定しないが、0.0005%以上であってもよい。本技術では、被膜密着性向上を目的として焼鈍分離剤に含有されるTi化合物が、仕上焼鈍工程で分解して、Tiが鋼中に浸入する。焼鈍分離剤に含有されるTi化合物が多いほど、母材鋼板のTi量も増加する。本実施形態に係る方向性電磁鋼板において、Tiは、質量%で、0.0010%以上0.0050%以下の範囲で母材鋼板に含有される。Tiは、0.0010%以上0.0040%以下の範囲で母材鋼板に含有されることがより好ましい。母材鋼板のTiの含有量が0.0010%未満である場合、被膜密着性改善効果が十分に得られないため好ましくない。母材鋼板のTiの含有量が0.0050%超である場合、被膜密着性改善効果が飽和するばかりでなく、鋼中で形成されるTiN析出物やTiC析出物などが増加してヒステリシス損失の劣化が懸念されるため好ましくない。
本発明による方向性電磁鋼板における母材鋼板の化学組成の残部は、Feおよび不純物を含む。ここで、不純物とは、母材鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するもの、又は、純化焼鈍において完全に純化されずに鋼中に残存する下記の元素等であって、本発明の方向性電磁鋼板に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
本発明による方向性電磁鋼板における母材鋼板はBiを含有してもよい。この場合のBiの含有量は、0.0005%以上0.0500%以下であることが好ましい。Biは、インヒビターであるMnSやAlNの耐熱性を強化して、二次再結晶温度を高温化し、磁束密度を向上する効果があると考えられる。Biの含有量は、0.0005%以上0.05%以下である場合、より一層インヒビター耐熱性強化効果を得ることができる。Biの含有量が0.0005%未満である場合、十分なインヒビター耐熱性強化効果が得られない場合がある。Biの含有量が0.0500%超である場合、熱延における鋼板の脆性が劣化する場合がある。したがって、Biの含有量は、好ましくは、0.0005%以上0.0500%以下とする。Biの含有量は、より好ましくは、0.0010%以上0.0200%以下である。なお、Biは、本実施形態に係る方向性電磁鋼板において必ずしも必須ではないことから、含有量の下限値は0%である。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の母材鋼板は、二次再結晶を安定化させる元素として、Cu、Sn、Ni、Cr、およびSbからなる群より選択される1種または2種以上をさらに含有してもよい。母材鋼板が上記の元素を含有する場合、鉄損値をさらに低減することができるため、より良好な磁気特性を得ることができる。
これらの元素のいずれか1種または2種以上を母材鋼板が含有する場合、含有される元素各々の含有量は、質量%で、0.01%以上0.30%以下であってもよい。Cu、Sn、Ni、Cr、またはSbのいずれか1種または2種以上が母材鋼板に含有される場合において、当該元素の各含有量が、上記範囲にあることで、二次再結晶を安定化させる効果をより一層得ることができる。これらの元素の各々の含有量が0.01%未満である場合、二次再結晶を安定化させる効果が十分に得られにくくなる場合がある。これらの元素の各々の含有量が0.30%超である場合、二次再結晶を安定化させる効果が飽和するため、方向性電磁鋼板の製造コストの増大を抑制する観点から好ましくない。なお、これらの元素は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板において必ずしも必須ではないことから、含有量の下限値は0%である。
一次被膜は、先立って説明したように、母材鋼板の表面上に形成され、Mg2SiO4を主成分として含有する。一次被膜のMg2SiO4の含有量は、一次被膜を形成する酸化物に対して、好ましくは、50質量%以上であり、より好ましくは、70質量%以上である。一次被膜密着性や絶縁性の観点から、母材鋼板の表面上に形成されるMg2SiO4の含有量は、多い方が好ましいため、上限は特に定めない。
一次被膜に含まれる成分としては、例えば、Al化合物や硫化物、Fe化合物などを含んでいてもよい。
絶縁被膜の有無および一次被膜の有無は、例えば、採取工程後の方向性電磁鋼板において、断面を鏡面研磨した後、鏡面研磨面に金蒸着を施し、走査型電子顕微鏡に付帯のエネルギー分散型X線分析装置を用いて確認することができる。
一次被膜の主成分は、例えば、最終工程後の方向性電磁鋼板において、走査型電子顕微鏡に付帯のエネルギー分散型X線分析装置、または蛍光X線分析装置を用いて測定することができる。具体的には、最終工程後の方向性電磁鋼板において、高温のアルカリ水溶液に浸漬した後に、水洗して乾燥することで、方向性電磁鋼板の絶縁被膜を除去し、次に、表面に金蒸着を施し、走査型電子顕微鏡に付帯のエネルギー分散型X線分析装置を用いた測定にて約0.005mm2の面積を定量分析して、一次被膜の主成分を測定することができる。定量分析結果が、Mg濃度が17質量%以上かつSi濃度が11質量%以上の場合、一次被膜には、Mg2SiO4が50質量%以上含まれると判断できる。なお、上記の一次被膜の主成分の分析は、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した後に実施しても構わない。
絶縁被膜は、先立って説明したように、リン酸アルミニウムまたはコロイダルシリカなどを主成分として含有する。しかしながら、鋼板に対して絶縁性および/または所定の張力が付与されるのであれば、絶縁被膜の成分は特に限定されない。
絶縁被膜の塗布量は、鋼板に対して絶縁性および/または所定の張力が付与されるのであれば、特に限定されず、適宜調整することができる。
こうして得られた方向性電磁鋼板において、1.7Tまで励磁した時のヒステリシス損失Wh(W/kg)は、(−VB8×2.5+5.3)W/kg以下とする。ここで、VB8は、前記母材鋼板の表面に一次被膜と絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板に50Hzにて800A/mの磁場を付与したときの磁束密度である。1.7Tまで励磁した時のヒステリシス損失Whが(−VB8×2.5+5.3)超である場合、ヒステリシス損失が大きく鉄損が劣位となるので好ましくない。ヒステリシス損失は低い方が好ましいため、下限は特に定めない。鋼中析出物の減少もしくは粗大化や、鋼板における残留歪の除去、方位集積度の向上などが、ヒステリシス損失の低減に有効である。なお、ヒステリシス損失は、渦電流損失ほど鋼板板厚の影響を受けないことから、本発明では鋼板板厚は特に指定しないが、薄くなるほど渦電流損が低減して好ましいことは言うまでもない。なお、磁束密度などの方向性電磁鋼板の磁気特性は、公知の方法により測定することができる。例えば、方向性電磁鋼板の磁気特性は、JIS C 2550:2011に規定されるエプスタイン試験に基づく方法、またはJIS C 2556:2015に規定される単板磁気特性試験法(Single Sheet Tester:SST)などを用いることにより測定することができる。なお、研究開発において、真空溶解炉などで鋼塊が形成された場合では、実機製造と同等サイズの試験片を採取することが困難となる。この場合、例えば、幅60mm×長さ300mmとなるように試験片を採取して、単板磁気特性試験法に準拠した測定を行っても構わない。さらに、エプスタイン試験に基づく方法と同等の測定値が得られるように、得られた結果に補正係数を掛けても構わない。本実施形態では、単板磁気特性試験法に準拠した測定法により測定する。
ヒステリシス損失の測定方法は、単板測定であればJIS C 2556:2015を、エプスタイン測定であれば、JIS C 2550−1:2011を参考にしてもよい。通常の商用周波数の測定に対して、励磁する時間を十分に長くすることで渦電流損失の発生を抑制することで、ヒステリシス損失を測定することができる。
スラブにBおよびNが含有される場合、仕上焼鈍においてBおよびNの含有量は減少するため、鋼中のBN析出物が原因でヒステリシス損失が劣化することはない。一方、焼鈍分離剤がB化合物を含有する場合、一次被膜の密着性は改善されるものの、仕上焼鈍中に鋼中のBN析出物が増加してしまう。そのため、B化合物を含有する焼鈍分離剤を塗布せずに仕上焼鈍して得られた鋼板と比較して、ヒステリシス損失が僅かながら劣化する場合があると判明した。
そこで、母材鋼板を詳細に調査した結果、ヒステリシス損失の劣化が抑制されたサンプルでは、鋼中のBN析出物が粗大化していることを確認した。したがって、鋼中に粒径が大きいBN析出物を含有させることで、ヒステリシス損失の増大を抑制することが可能となる。鋼中のBN析出物の平均粒径は、好ましくは、0.8μm以上であり、より好ましくは1.0μm以上である。平均粒径の調整は、スラブ中のBの含有量、焼鈍分離剤中のB化合物の含有量、または仕上焼鈍条件を、上記範囲内で適宜調整することで可能である。
以上、本実施形態に係る方向性電磁鋼板ついて説明した。本実施形態に係る方向性電磁鋼板は上述した本実施形態の方向性電磁鋼板の製造方法により製造することができる。ただし、その方法のみに限定されるものではない。
以下に、実施例を示しながら、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法、および方向性電磁鋼板、ならびに焼鈍分離剤について、より具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法、および方向性電磁鋼板、ならびに焼鈍分離剤のあくまでも一例に過ぎず、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法、および方向性電磁鋼板、ならびに焼鈍分離剤が以下に示す実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
まず、質量%で、C:0.08%、Si:3.2%、Mn:0.08%、S:0.024%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.008%、Bi:0.02%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼塊Aと、C:0.08%、Si:3.2%、Mn:0.08%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.008%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼塊Rを作製した。該鋼塊を1350℃にて1時間焼鈍した後、熱間圧延を施すことで、板厚2.3mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を最高温度1100℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に冷間圧延を施すことで、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。
続いて、得られた冷延鋼板を湿水素雰囲気かつ850℃で180秒の間、一次再結晶焼鈍を施した。次に、一次再結晶焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤をスラリー塗布してから乾燥した後、バッチ式加熱炉を用いて、昇温速度15℃/hかつ雰囲気中の窒素濃度50vol%で1200℃まで昇温した。1200℃の温度にて、乾燥水素雰囲気(窒素濃度0vol%)に切り替えて20時間保持して仕上焼鈍を施し、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、MgO100%に対して、CaSO4・0.5H2OをCa換算で0.55%、CeO2をCe換算で2.0%、残部は不可避的不純物と、表1〜3に示す条件の化合物を含むものとした。焼鈍分離剤の撹拌条件は、上記化合物を加えた後、10℃にて30分とした。焼鈍分離剤の乾燥後の塗布量は、鋼板片面当たり8g/m2とした。その後、鋼板の表面に、リン酸アルミニウムおよびコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜を塗布した後、絶縁被膜の焼付および鋼板の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施した。この平坦化焼鈍は、850℃にて40秒間かけて実施した。
以上にて得られた方向性電磁鋼板の試料をせん断して歪取焼鈍した後、サンプルサイズが60mm×300mmの試料に対し、JIS C2556:2015に記載された単板測定法に準拠して、各本発明例および比較例に係る方向性電磁鋼板(歪取焼鈍後の試料)の磁束密度VB8値、ヒステリシス損失Whおよび鉄損W17/50を測定した。ここで、VB8値とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて800A/mで励起したときの鋼板の磁束密度である。Whとは、方向性電磁鋼板を1.7Tまで励磁した時のヒステリシス損失である。W17/50とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて1.7Tに励起したときの鉄損である。本発明例では、サンプル5枚から測定されたVB8値、WhおよびW17/50からそれぞれの平均値を算出した。なお、上記試料は、せん断前の方向性電磁鋼板の長手方向と、試料の長手方向とが一致するように歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板から切り出した。
さらに、上記試料を30mm幅にせん断して、10mmφの曲げ試験を施した。ここでは、3枚の試験片を曲げ試験して、一次被膜が剥離した部分の面積をそれぞれ測定し、各試料について、全面積に対する剥離部分の面積の割合を被膜剥離面積率とし、3枚の試験片の被膜剥離面積率から平均値を求めた。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、断面のSEM−EDS測定による成分分析によって、一次被膜の有無および絶縁被膜の有無を確認した。また、Mg2SiO4の含有量については、以下の方法で測定した。すなわち、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した後、表面に金蒸着を施し、SEM−EDS測定にて約0.005mm2の面積を定量分析し、Mg濃度が17質量%以上かつSi濃度が11質量%以上の場合、一次被膜の主成分がMg2SiO4であると判定した。本手法では、一次被膜下部のFeを検出することや、測定誤差が大きいことなどの懸念があるが、主成分の判定には本手法でも十分である。なお、絶縁被膜を塗布および焼付後の鋼板を、高温のアルカリ溶液等に浸漬することで絶縁被膜を除去して、水洗した後に、分析を実施してもかまわない。また、一次被膜の分析方法は、上記手法に限るものではなく、例えば、蛍光X線分析法を用いてもよい。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、絶縁被膜および一次被膜を除去した後、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて母材鋼板の成分を分析した。Cの含有量は、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した。Nの含有量は、酸素・窒素分析装置を用いて測定した。
ここで、方向性電磁鋼板のヒステリシス損失Whが、(−VB8×2.5+5.3)W/kg以下であり、かつ10mmφ曲げ試験の被膜剥離面積率が10%以下である条件を良好であると判定した。
以上の本発明例および比較例の製造条件、および測定結果を表1〜3に示す。表1〜3では、評価結果が良好である場合を「〇」で示し、不良である場合を「×」で示した。表1に示した条件A1〜A30は、鋼塊Aを用いた例であり、条件R1〜R12は、鋼塊Rを用いた例である。また、表1〜3において、B化合物がTiB2である場合、「Ti化合物換算含有量A[%]」は、TiB2のTiについても考慮した値である。
本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、一次被膜は、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
表1〜3を参照すると、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、判定が良好となることがわかった。
ここで、焼鈍分離剤におけるB化合物含有量のB換算値B(%)を横軸に取り、Ti化合物含有量のT換算値A(%)を縦軸に取って、表1、2の条件A1〜A30で示す結果をプロットしたグラフ図を図1に示す。図1に示すように、本発明例を丸点でプロットし、比較例を交差点でプロットすると、焼鈍分離剤におけるB化合物含有量のB換算値B(%)と、T化合物含有量のTi換算値A(%)との間には、本実施形態に係る条件にて規定される以下の式(101)、(102)および(103)の関係が成立していることがわかった。
0.3≦A≦10.0 ・・式(101)
0.03≦B≦1.60 ・・式(102)
0.33≦(A+B)≦10.30 ・・式(103)
このように、希土類金属の化合物を、当該希土類金属換算で2.0%含み、式(101)、式(102)および式(103)を満足するように、Ti化合物の含有量およびB化合物の含有量を制御することで、ヒステリシス損失劣化が抑制され、一次被膜と鋼板の密着性に優れる方向性電鋼板を製造することが可能であることが分かった。
さらに、母材鋼板のB、NおよびTi成分の含有量を表1〜3に示す。本実施形態の条件を満たす成分範囲は、B:0.0005〜0.0200%、N:0.0005〜0.0100%、Ti:0.0010〜0.0050%であった。なお、母材鋼板のC量は0.0018%であり、Si量は3.1%であり、Mn量は0.08%であり、残部はFeおよび不純物であり、焼鈍分離剤条件に依らず同じ値となった。
(実施例2)
まず、質量%で、C:0.08%、Si:3.3%、Mn:0.09%、S:0.003%、Se:0.018%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.008%、Bi:0.02%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼塊を作製した。該鋼塊を1380℃にて1時間焼鈍した後、熱間圧延を施すことで、板厚2.3mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を最高温度1100℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に冷間圧延を施すことで、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。
続いて、得られた冷延鋼板を湿水素雰囲気かつ850℃で180秒の間、一次再結晶焼鈍を施した。次に、一次再結晶焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤をスラリー塗布してから乾燥した後、バッチ式加熱炉を用いて、昇温速度15℃/hかつ雰囲気中の窒素濃度50vol%で表4、5に示す高温保持温度まで昇温した。各高温保持温度にて、表4、5に示す窒素濃度と残部水素の乾燥雰囲気にて、表4、5に示す時間保持して仕上焼鈍を施し、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、MgO100%に対して、CaCO3をCa換算で0.55%、Ce(OH)4をCe換算で2.0%、残部は不可避的不純物と、表4、5に示す条件の化合物を含むものとした。焼鈍分離剤の撹拌条件は、上記化合物を加えた後、5℃にて60分とした。焼鈍分離剤の乾燥後の塗布量は、鋼板片面当たり8g/m2とした。その後、鋼板の表面に、リン酸アルミニウムおよびコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜を塗布した後、絶縁被膜の焼付および鋼板の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施した。この平坦化焼鈍は、850℃にて40秒間かけて実施した。
以上にて得られた方向性電磁鋼板の試料をせん断して歪取焼鈍した後、サンプルサイズが60mm×300mmの試料に対し、JIS C2556:2015に記載された単板測定法に準拠して、各本発明例および比較例に係る方向性電磁鋼板(歪取焼鈍後の試料)の磁束密度VB8値、ヒステリシス損失Whおよび鉄損W17/50を測定した。上記試料は、せん断前の方向性電磁鋼板の長手方向と、試料の長手方向とが一致するように歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板から切り出した。ここで、VB8値とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて800A/mで励起したときの鋼板の磁束密度である。Whとは、方向性電磁鋼板を1.7Tまで励磁した時のヒステリシス損失である。W17/50とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて1.7Tに励起したときの鉄損である。本発明例では、サンプル5枚から測定されたVB8値、WhおよびW17/50からそれぞれの平均値を算出した。
さらに、上記試料を30mm幅にせん断して、10mmφの曲げ試験を施した。ここでは、3枚の試験片を曲げ試験して、一次被膜が剥離した部分の面積をそれぞれ測定し、各試料について、全面積に対する剥離部分の面積の割合を被膜剥離面積率とし、3枚の試験片の被膜剥離面積率から平均値を求めた。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、一次被膜の有無および絶縁被膜の有無の確認、ならびにMg2SiO4の含有量の測定を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、断面を鏡面研磨した後、電子線マイクロアナライザに付属の波長分散型X線分析を用いて鋼中のBN析出物を同定した後、反射電子像観察によって圧延方向長さを測定した。ここで測定した鋼中のBN析出物の5個の圧延方向長さの平均値を、鋼中のBN析出物の平均粒径とした。
また、絶縁被膜および一次被膜を除去した後、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて母材鋼板の成分を分析した。Cの含有量は、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した。Nの含有量は、酸素・窒素分析装置を用いて測定した。
ここで、方向性電磁鋼板のヒステリシス損失Whが、(−VB8×2.5+5.3)W/kg以下であり、かつ10mmφ曲げ試験の被膜剥離面積率が10%以下である条件を良好であると判定した。
以上の本発明例および比較例の製造条件を表4、5に示し、評価結果を表6、7に示す。表6、7では、評価結果が良好である場合を「〇」で示し、不良である場合を「×」で示した。
本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、一次被膜は、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
表4〜7を参照すると、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、判定が良好となることがわかった。
ここで、焼鈍分離剤におけるB化合物の含有量B(%)と、仕上焼鈍における1100℃以上かつ雰囲気中の窒素濃度が10vol%以下における滞留時間T(h)との間には、本実施形態に係る条件にて規定される以下の式(104)の関係が成立していることがわかった。
(5+9×B) ≦ T ≦ 100 ・・・ 式(104)
このように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法において、式(104)を満足するように焼鈍分離剤におけるB化合物含有量のB換算値および高温保持における温度、時間および雰囲気条件を制御することで、ヒステリシス損失劣化が抑制され、一次被膜と鋼板の密着性に優れる方向性電鋼板を製造することが可能であることが分かった。
さらに、母材鋼板のB、NおよびTi成分の含有量を表6、7に示す。本実施形態の条件を満たす成分範囲は、B:0.0005〜0.0200%、N:0.0005〜0.0100%、Ti:0.0010〜0.0050%であった。なお、母材鋼板のC量は0.0019%であり、Si量は3.2%であり、Mn量は0.09%であり、残部はFeおよび不純物であり、焼鈍分離剤条件に依らず同じ値となった。
また、鋼中のBN析出物の平均粒径を表6、7に示す。本実施形態の条件を満たす平均粒径の範囲は、0.8μm以上であった。
(実施例3)
まず、質量%で、C:0.08%、Si:3.3%、Mn:0.09%、S:0.026%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.009%、Bi:0.02%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼塊を作製した。該鋼塊を1350℃にて1時間焼鈍した後、熱間圧延を施すことで、板厚2.3mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を最高温度1100℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に冷間圧延を施すことで、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。
続いて、得られた冷延鋼板を湿水素雰囲気かつ850℃で180秒の間、一次再結晶焼鈍を施した。次に、一次再結晶焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤をスラリー塗布してから乾燥した後、バッチ式加熱炉を用いて、昇温速度15℃/hかつ雰囲気中の窒素濃度50vol%で1200℃まで昇温した。1200℃の温度にて、乾燥水素雰囲気(窒素濃度0vol%)に切り替えて20時間保持して仕上焼鈍を施し、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、MgO100%に対して、La2O3をLa換算で2.0%、残部は不可避的不純物と、表8に示す条件の化合物を含むものとした。焼鈍分離剤の撹拌条件は、上記化合物を加えた後、20℃にて100分とした。焼鈍分離剤の乾燥後の塗布量は、鋼板片面当たり8g/m2とした。その後、鋼板の表面に、リン酸アルミニウムおよびコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜を塗布した後、絶縁被膜の焼付および鋼板の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施した。この平坦化焼鈍は、850℃にて40秒間かけて実施した。
以上にて得られた方向性電磁鋼板の試料をせん断して歪取焼鈍した後、サンプルサイズが60mm×300mmの試料に対し、JIS C2556:2015に記載された単板測定法に準拠して、各本発明例および比較例に係る方向性電磁鋼板(歪取焼鈍後の試料)の磁束密度VB8値、ヒステリシス損失Whおよび鉄損W17/50を測定した。上記試料は、せん断前の方向性電磁鋼板の長手方向と、試料の長手方向とが一致するように歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板から切り出した。ここで、VB8値とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて800A/mで励起したときの鋼板の磁束密度である。Whとは、方向性電磁鋼板を1.7Tまで励磁した時のヒステリシス損失である。W17/50とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて1.7Tに励起したときの鉄損である。本発明例では、サンプル5枚から測定されたVB8値、WhおよびW17/50からそれぞれの平均値を算出した。
さらに、上記試料を30mm幅にせん断して、10mmφの曲げ試験を施した。ここでは、3枚の試験片を曲げ試験して、一次被膜が剥離した部分の面積をそれぞれ測定し、各試料について、全面積に対する剥離部分の面積の割合を被膜剥離面積率とし、3枚の試験片の被膜剥離面積率から平均値を求めた。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、一次被膜の有無および絶縁被膜の有無の確認、ならびにMg2SiO4の含有量の測定を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、断面を鏡面研磨した後、電子線マイクロアナライザに付属の波長分散型X線分析を用いて鋼中のBN析出物を同定した後、反射電子像観察によってBN析出物の圧延方向長さを測定した。ここで測定した鋼中のBN析出物の5個の圧延方向長さの平均値を、鋼中のBN析出物の平均粒径とした。
また、絶縁被膜および一次被膜を除去した後、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて母材鋼板の成分を分析した。Cの含有量は、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した。Nの含有量は、酸素・窒素分析装置を用いて測定した。
ここで、方向性電磁鋼板のヒステリシス損失Whが、(−VB8×2.5+5.3)W/kg以下であり、かつ10mmφ曲げ試験の被膜剥離面積率が10%以下である条件を良好であると判定した。また、方向性電磁鋼板のヒステリシス損失Whが、(−VB8×2.5+5.3)W/kg以下、10mmφ曲げ試験の被膜剥離面積率が10%以下であり、かつ磁束密度VB8値が1.900T以上である条件をさらに良好であると判定した。
以上の本発明例および比較例の製造条件を表8に示し、評価結果を表9に示す。表9では、評価結果が良好である場合を「〇」で示し、さらに良好である場合を「◎」で示し、不良である場合を「×」で示した。
本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、一次被膜は、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
表8および表9を参照すると、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、判定が良好となることがわかった。
ここで、焼鈍分離剤におけるCa、SrおよびBaからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属元素を含む1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物をアルカリ土類金属換算で0.3%以上5.8%以下に制御することで、ヒステリシス損失劣化が抑制され、一次被膜と鋼板の密着性に優れ、さらに磁束密度の良好な方向性電鋼板を製造することが可能であることが分かった。
さらに、母材鋼板のB、NおよびTi成分を表9に示す。本実施形態の条件を満たす成分範囲は、B:0.0005〜0.0200%、N:0.0005〜0.0100%、Ti:0.0010〜0.0050%であった。なお、母材鋼板のC量は0.0015%であり、Si量は3.2%であり、Mn量は0.09%であり、残部はFeおよび不純物であり、焼鈍分離剤条件に依らず同じ値となった。
また、鋼中のBN析出物の平均粒径を表9に示す。本実施形態の条件を満たす平均粒径の範囲は、0.8μm以上であった。
(実施例4)
まず、質量%で、C:0.08%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.009%、Bi:0.02%を含有し、残部が表10に示す含有量のSiおよびMnと、Feおよび不純物からなる鋼塊を作製した。該鋼塊を1350℃にて1時間焼鈍した後、熱間圧延を施すことで、板厚2.3mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を最高温度1100℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に冷間圧延を施すことで、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。
続いて、得られた冷延鋼板を湿水素雰囲気かつ850℃で180秒の間、一次再結晶焼鈍を施した。次に、一次再結晶焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤をスラリー塗布してから乾燥した後、バッチ式加熱炉を用いて、昇温速度15℃/hかつ雰囲気中の窒素濃度50vol%で1200℃まで昇温した。1200℃の温度にて、乾燥水素雰囲気(窒素濃度0vol%)に切り替えて20時間保持して仕上焼鈍を施し、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、MgO100%に対して、CaSO4・0.5H2OをCa換算で1.10%、Y2O3をY換算で2.0%、残部は不可避的不純物と、表10に示す条件の化合物を含むものとした。焼鈍分離剤の撹拌条件は、上記化合物を加えた後、10℃にて200分とした。焼鈍分離剤の乾燥後の塗布量は、鋼板片面当たり7g/m2とした。その後、鋼板の表面に、リン酸アルミニウムおよびコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜を塗布した後、絶縁被膜の焼付および鋼板の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施した。この平坦化焼鈍は、850℃にて40秒間かけて実施した。
以上にて得られた方向性電磁鋼板の試料をせん断して歪取焼鈍した後、サンプルサイズが60mm×300mmの試料に対し、JIS C2556:2015に記載された単板測定法に準拠して、各本発明例および比較例に係る方向性電磁鋼板(歪取焼鈍後の試料)の磁束密度VB8値、ヒステリシス損失Whおよび鉄損W17/50を測定した。上記試料は、せん断前の方向性電磁鋼板の長手方向と、試料の長手方向とが一致するように歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板から切り出した。ここで、VB8値とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて800A/mで励起したときの鋼板の磁束密度である。Whとは、方向性電磁鋼板を1.7Tまで励磁した時のヒステリシス損失である。W17/50とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて1.7Tに励起したときの鉄損である。本発明例では、サンプル5枚から測定されたVB8値、WhおよびW17/50からそれぞれの平均値を算出した。
さらに、上記試料を30mm幅にせん断して、10mmφの曲げ試験を施した。ここでは、3枚の試験片を曲げ試験して、一次被膜が剥離した部分の面積をそれぞれ測定し、各試料について、全面積に対する剥離部分の面積の割合を被膜剥離面積率とし、3枚の試験片の被膜剥離面積率から平均値を求めた。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、一次被膜の有無および絶縁被膜の有無の確認、ならびにMg2SiO4の含有量の測定を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、断面を鏡面研磨した後、電子線マイクロアナライザに付属の波長分散型X線分析を用いて鋼中のBN析出物を同定した後、反射電子像観察によって圧延方向長さを測定した。ここで測定した鋼中のBN析出物の5個の圧延方向長さの平均値を、鋼中のBN析出物の平均粒径とした。また、絶縁被膜および一次被膜を除去した後、母材鋼板の成分を分析した。Si、Mn、BとTiの含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析法で分析した。Cの含有量は、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した。Nの含有量は、酸素・窒素分析装置を用いて測定した。
ここで、方向性電磁鋼板のヒステリシス損失Whが、(−VB8×2.5+5.3)W/kg以下であり、かつ10mmφ曲げ試験の被膜剥離面積率が10%以下である条件を良好であると判定した。
以上の本発明例および比較例の製造条件を表10に示し、評価結果を表11に示す。表11では、評価結果が良好である場合を「〇」で示し、不良である場合を「×」で示した。
本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、一次被膜は、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
表10および表11を参照すると、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、判定が良好となることがわかった。
ここで、母材鋼板のC、Si、Mn、B、NおよびTi成分の含有量を表11に示す。本実施形態の条件を満たす成分範囲は、C:0.0050%以下、Si:2.5〜4.5%、Mn:0.01〜0.15%、B:0.0005〜0.0200%、N:0.0005〜0.0100%、Ti:0.0010〜0.0050%であった。なお、残部はFeおよび不純物であった。
また、鋼中のBN析出物の平均粒径を表11に示す。本実施形態の条件を満たす平均粒径の範囲は、0.8μm以上であった。
(実施例5)
まず、質量%で、C:0.08%、Si:3.3%、Mn:0.08%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.009%、Bi:0.03%を含有し、残部が表12に示す含有量の成分と、Feおよび不純物からなる鋼塊を作製した。該鋼塊を1350℃にて1時間焼鈍した後、熱間圧延を施すことで、板厚2.3mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を最高温度1100℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に冷間圧延を施すことで、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。
続いて、得られた冷延鋼板を湿水素雰囲気かつ850℃で180秒の間、一次再結晶焼鈍を施した。次に、一次再結晶焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤をスラリー塗布してから乾燥した後、バッチ式加熱炉を用いて、昇温速度15℃/hかつ雰囲気中の窒素濃度75vol%で1200℃まで昇温した。1200℃の温度にて、乾燥水素雰囲気(窒素濃度0vol%)に切り替えて20時間保持して仕上焼鈍を施し、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、MgO100%に対して、CaSO4・0.5H2OをCa換算で1.10%、Ce(OH)4をCe換算で2.0%、残部は不可避的不純物と、表12に示す条件の化合物とした。焼鈍分離剤の撹拌条件は、表12に示す条件の化合物を加えた後、20℃にて100分とした。焼鈍分離剤の乾燥後の塗布量は、鋼板片面当たり7g/m2とした。その後、鋼板の表面に、リン酸アルミニウムおよびコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜を塗布した後、絶縁被膜の焼付および鋼板の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施した。この平坦化焼鈍は、850℃にて40秒間かけて実施した。
以上にて得られた方向性電磁鋼板の試料をせん断して歪取焼鈍した後、サンプルサイズが60mm×300mmの試料に対し、JIS C2556:2015に記載された単板測定法に準拠して、各本発明例および比較例に係る方向性電磁鋼板(歪取焼鈍後の試料)の磁束密度VB8値、ヒステリシス損失Whおよび鉄損W17/50を測定した。上記試料は、せん断前の方向性電磁鋼板の長手方向と、試料の長手方向とが一致するように歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板から切り出した。ここで、VB8値とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて800A/mで励起したときの鋼板の磁束密度である。Whとは、方向性電磁鋼板を1.7Tまで励磁した時のヒステリシス損失である。W17/50とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて1.7Tに励起したときの鉄損である。本発明例では、サンプル5枚から測定されたVB8値、WhおよびW17/50からそれぞれの平均値を算出した。
さらに、上記試料を30mm幅にせん断して、10mmφの曲げ試験を施した。ここでは、3枚の試験片を曲げ試験して、一次被膜が剥離した部分の面積をそれぞれ測定し、各試料について、全面積に対する剥離部分の面積の割合を被膜剥離面積率とし、3枚の試験片の被膜剥離面積率から平均値を求めた。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、一次被膜の有無および絶縁被膜の有無の確認、ならびにMg2SiO4の含有量の測定を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、断面を鏡面研磨した後、電子線マイクロアナライザに付属の波長分散型X線分析を用いて鋼中のBN析出物を同定した後、反射電子像観察によって圧延方向長さを測定した。ここで測定した鋼中のBN析出物の5個の圧延方向長さの平均値を、鋼中のBN析出物の平均粒径とした。
また、絶縁被膜および一次被膜を除去した後、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて母材鋼板の成分を分析した。Cの含有量は、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した。Nの含有量は、酸素・窒素分析装置を用いて測定した。
ここで、方向性電磁鋼板のヒステリシス損失Whが、(−VB8×2.5+5.3)W/kg以下であり、かつ10mmφ曲げ試験の被膜剥離面積率が10%以下である条件を良好であると判定した。また、方向性電磁鋼板のヒステリシス損失Whが、(−VB8×2.5+5.3)W/kg以下、10mmφ曲げ試験の被膜剥離面積率が10%以下であり、かつ磁束密度VB8値が1.930T以上である条件をさらに良好であると判定した。
以上の本発明例および比較例の母材鋼板成分を表13に示し、評価結果を表14に示す。表14では、評価結果が良好である場合を「〇」で示し、さらに良好である場合を「◎」で示し、不良である場合を「×」で示した。
本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、一次被膜は、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
表12〜14を参照すると、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、判定がさらに良好となることがわかった。
また、表13に示すように、本実施形態の条件を満たす成分範囲は、C:0.0050%以下、B:0.0005〜0.0200%、N:0.0005〜0.0100%、Ti:0.0010〜0.0050%であり、かつ、Cu:0.01%以上0.30%以下、Sn:0.01%以上0.30%以下、Ni:0.01%以上0.30%以下、Cr:0.01%以上0.30%以下、または、Sb:0.01%以上0.30%以下のいずれか1種または2種以上を含有する範囲であった。なお、母材鋼板のSi量は3.2%であり、Mn量は0.08%であり、焼鈍分離剤条件に依らず同じ値となった。
鋼中のBN析出物の平均粒径を表14に示す。本実施形態の条件を満たす平均粒径の範囲は、0.8μm以上であった。
(実施例6)
まず、質量%で、C:0.08%、Si:3.3%、Mn:0.08%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.008%、Bi:0.02%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼塊を作製した。該鋼塊を1350℃にて1時間焼鈍した後、熱間圧延を施すことで、板厚2.3mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を最高温度1050℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に一次冷間圧延を施すことで、板厚1.8mmの一次冷間圧延板を得た。得られた一次冷間圧延板を最高温度1100℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に二次冷間圧延を施すことで、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。
続いて、得られた冷延鋼板を湿水素雰囲気かつ850℃で180秒の間、一次再結晶焼鈍を施した。次に、一次再結晶焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤をスラリー塗布してから乾燥した後、バッチ式加熱炉を用いて、昇温速度15℃/hかつ雰囲気中の窒素濃度50vol%で1200℃まで昇温した。1200℃の温度にて、乾燥水素雰囲気(窒素濃度0vol%)に切り替えて20時間保持して仕上焼鈍を施し、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、MgO100%に対して、CaSO4・0.5H2OをCa換算で0.55%、CeO2をCe換算で5.0%、残部は不可避的不純物と、表15に示す条件の化合物を含むものとした。焼鈍分離剤の撹拌条件は、上記化合物を加えた後、10℃にて20分とした。焼鈍分離剤の乾燥後の塗布量は、鋼板片面当たり8g/m2とした。その後、鋼板の表面に、リン酸アルミニウムおよびコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜を塗布した後、絶縁被膜の焼付および鋼板の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施した。この平坦化焼鈍は、850℃にて40秒間かけて実施した。
以上にて得られた方向性電磁鋼板の試料をせん断して歪取焼鈍した後、サンプルサイズが60mm×300mmの試料に対し、JIS C2556:2015に記載された単板測定法に準拠して、各本発明例および比較例に係る方向性電磁鋼板(歪取焼鈍後の試料)の磁束密度VB8値、ヒステリシス損失Whおよび鉄損W17/50を測定した。上記試料は、せん断前の方向性電磁鋼板の長手方向と、試料の長手方向とが一致するように歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板から切り出した。ここで、VB8値とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて800A/mで励起したときの鋼板の磁束密度である。Whとは、方向性電磁鋼板を1.7Tまで励磁した時のヒステリシス損失である。W17/50とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて1.7Tに励起したときの鉄損である。本発明例では、サンプル5枚から測定されたVB8値、WhおよびW17/50からそれぞれの平均値を算出した。
さらに、上記試料を30mm幅にせん断して、10mmφの曲げ試験を施した。ここでは、3枚の試験片を曲げ試験して、一次被膜が剥離した部分の面積をそれぞれ測定し、各試料について、全面積に対する剥離部分の面積の割合を被膜剥離面積率とし、3枚の試験片の被膜剥離面積率から平均値を求めた。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、一次被膜の有無および絶縁被膜の有無の確認、ならびにMg2SiO4の含有量の測定を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、絶縁被膜および一次被膜を除去した後、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて母材鋼板の成分を分析した。Cの含有量は、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した。Nの含有量は、酸素・窒素分析装置を用いて測定した。
ここで、方向性電磁鋼板のヒステリシス損失Whが、(−VB8×2.5+5.3)W/kg以下であり、かつ10mmφ曲げ試験の被膜剥離面積率が10%以下である条件を良好であると判定した。
以上の本発明例および比較例の製造条件、および測定結果を表15に示す。表15では、評価結果が良好である場合を「〇」で示し、不良である場合を「×」で示した。
本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、一次被膜は、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
表15を参照すると、その製造時において、冷間圧延を二回行って製造された本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、判定が良好となることがわかった。
さらに、母材鋼板のB、NおよびTi成分を表15に示す。本実施形態の条件を満たす成分範囲は、B:0.0005〜0.0200%、N:0.0005〜0.0100%、Ti:0.0010〜0.0050%であった。なお、母材鋼板のC量は0.0018%であり、Si量は3.2%であり、Mn量は0.08%であり、残部はFeおよび不純物であり、焼鈍分離剤条件に依らず同じ値となった。
(実施例7)
まず、質量%で、C:0.08%、Si:3.3%、Mn:0.08%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.009%、Bi:0.03%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼塊を作製した。該鋼塊を1350℃にて1時間焼鈍した後、熱間圧延を施すことで、板厚2.3mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を最高温度1100℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に一次冷間圧延を施すことで、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。
続いて、得られた冷延鋼板を湿水素雰囲気かつ850℃で180秒の間、一次再結晶焼鈍を施した。次に、一次再結晶焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤を塗布した後、バッチ式加熱炉を用いて、昇温速度15℃/hかつ雰囲気中の窒素濃度50vol%で1200℃まで昇温した。1200℃の温度にて、乾燥水素雰囲気(窒素濃度0vol%)に切り替えて20時間保持して仕上焼鈍を施し、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、MgO100%に対して、Ti2O3をTi換算で3.3%、CeO2をCe換算で5.0%、Na2B4O7・10H2OをB換算で0.68%、SrSO4をSr換算で0.95%、残部は不可避的不純物を含むものとした。焼鈍分離剤の撹拌条件は、表16に示す条件とした。その後、鋼板の表面に、リン酸アルミニウムおよびコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜を塗布した後、絶縁被膜の焼付および鋼板の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を850℃にて40秒間かけて施した。
以上にて得られた方向性電磁鋼板の試料をせん断して歪取焼鈍した後、サンプルサイズが60mm×300mmの試料に対し、JIS C2556:2015に記載された単板測定法に準拠して、各本発明例および比較例に係る方向性電磁鋼板(歪取焼鈍後の試料)の磁束密度VB8値を測定した。上記試料は、せん断前の方向性電磁鋼板の長手方向と、試料の長手方向とが一致するように歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板から切り出した。本実施例では、実施例1と同様に、サンプル5枚の平均値をVB8値とした。
さらに、上記試料を30mm幅にせん断して、10mmφの曲げ試験を施した。ここでは、3枚の試験片を曲げ試験して、被膜剥離面積率の平均値を求めた。被膜剥離面積率は、実施例1と同様の方法で算出した。
最終工程後の方向性電磁鋼板における、一次被膜の有無の確認および一次被膜の成分分析は、実施例1と同様の方法で行った。
ここで、方向性電磁鋼板の磁束密度VB8値が1.920T以上であり、かつ10mmφ曲げ試験の被膜剥離面積率が10%以下である条件を良好であると判定した。また、方向性電磁鋼板の磁束密度VB8値が1.920T以上、または10mmφ曲げ試験の被膜剥離面積率が10%以下のすくなくともいずれかを満たさない条件を不良であると判定した。
以上の本発明例および比較例の焼鈍分離剤の撹拌条件、および評価結果を表16に示す。表16では、評価結果が良好である場合を「〇」で示し、不良である場合を「×」で示した。
本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、一次被膜は、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
表16を参照すると、その製造時において、焼鈍分離剤の水スラリー作製における撹拌を、0℃以上30℃以下の温度で、5分以上300分以下の時間として製造された本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、判定が良好となることがわかった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。