JP3781455B2 - 微生物によるエマルジョン破壊 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、水と油を含んで成るエマルジョンの微生物的破壊方法、及びそのための微生物に関する。
【0002】
【従来の技術】
界面活性剤を介して水と油から構成されたエマルジョンは、工業排水及び生活排水として環境汚染の原因となっており、このエマルジョンは粘度が高くて取扱いが困難であり、また排水として処理することも困難である。エマルジョン化した排水を処理するにはまず、エマルジョンを破壊して水と油分とに分離する必要があり、そのための手段が種々考案されている。
【0003】
従来知られているエマルジョンの破壊方法には、無機又は有機性のエマルジョン破壊剤により処理する方法、及びエマルジョンを機械的に処理する方法である。無機性のエマルジョン破壊剤を使用する方法として、特開昭54−156268号公報には塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩を使用する方法が記載されており、特開昭50−116369号公報には、凝集剤としてアルミニウム塩と鉄(III) 塩との混合物を使用する方法が記載されており、特開昭46−49899号公報には凝集剤として硫酸バン土、鉄塩等を使用する方法が記載されており、また特開昭46−33131号公報には硫酸第二鉄を使用する方法が記載されている。
【0004】
また、有機性物質を使用する方法として、特開昭54−10557号公報にはポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系添加剤を使用してエマルジョンを低粘度化した後、濾過によりエマルジョンを破壊する方法が記載されている。他方、機械的処理方法として、特開昭53−91462号公報には、エマルジョンを、エマルジョンブレーク機能を有するフィルターにより濾過する方法が記載されている。
【0005】
他方、特開昭57−187098号公報及び特開昭57−187098号公報にはアエロモナス属微生物を用いて排水を処理し、その有機物の分解によりCOD,BOD等を低下させる方法が記載されている。また特開昭52−116647号公報、特開昭52−11646号公報、特開昭51−133954号公報及び特開昭51−133475号公報には、特定の有機化合物を資化・分解する能力を有するアエロモナス属微生物を用いて、当該特定の有機化合物を含有する工業排水を処理する方法が記載されている。
しかしながら従来、アエロモナス属微生物を有して水と油とから構成されたエマルジョンを破壊する方法は知られていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前記のごとく、水と油とから構成されたエマルジョンを破壊する方法として有機又は無機のエマルジョン破壊剤(凝集剤)を使用する方法、及び機械的処理方法が知られている。しかしながら、エマルジョン破壊剤を使用する方法においては、処理後の排水中に多量の無機塩又は有機物が残留することになり、これが環境汚染の原因となり、またその除去のために多大なコストがかかることになる。また、機械的処理法においては、そのための装置が必要であり、このことが排液処理のコストを上昇せしめることになる。
【0007】
従って、本発明は、環境問題を生ずることなく、また低コストで簡単な方法でエマルジョンを破壊することができる方法、そのためのエマルジョン破壊剤、及びエマルジョン破壊能を有する新規な微生物を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明は、水及び油を含んで成るエマルジョンと、アエロモナス(Aeromonas) 属に属し、水と油を含んで成るエマルジョンを破壊することができる細菌の菌体とを混合し、これによって水層と、菌体と油とを含んで成る凝集層とを形成せしめ、そしてこれらの層を分離することを特徴とする方法を提供する。
【0009】
【具体的な説明】
本発明は、種々の由来の、例えば工場又は家庭からの排液として出るエマルジョンに広く適用することができる。エマルジョンは、水中油エマルジョン又は油中水エマルジョンであり、これらは通常界面活性剤を介して形成されている。本発明は、このような種々のエマルジョンの破壊のために使用することができる。
【0010】
本発明においては、アエロモナスに属し、水と油とから形成されたエマルジョンを破壊することができる細菌の菌体であれば、いずれも使用することができる。本発明において使用する微生物は、例えば次のようにして分離することができる。排水エマルジョン又はこれを模倣した合成エマルジョンを寒天で固化して寒天プレートを形成し、これに、目的とする細菌が存在すると予想される分離源、例えば活性汚泥を塗布し、例えば室温〜30℃にて1〜2週間保温する。これによりエマルジョン中の油を資化することができる微生物がコロニーを形成する。
【0011】
次に、こうして得られた微生物を、エマルジョンを含む液体培地中で振とう培養する。これにより、培養した微生物がエマルジョンを破壊する能力を有していれば、培地中のエマルジョンが消失又は減少して、培地の濁度が低下する。従って、この培養において培地の濁度を低下させた微生物を選択することにより、エマルジョン破壊能を有する微生物が得られる。微生物の分離については、実施例1において詳細に記載する。
本発明によりエマルジョンを破壊するには、処理すべきエマルジョンに本発明の細菌の菌体を加えて混合すればよい。
【0012】
菌体を得るには、本発明の微生物を、通常の炭素源及び窒素源を含有する培地、好ましくは液体培地中で、好ましくは例えば通気及び/又は撹拌、あるいは振とう等の常法に従って好気的な条件下で培養するのが好ましい。上記炭素源の全部又は一部分は油であることが好ましい。菌体は培養液それ自体の形で使用することもでき、また培養液から分離した菌体のみを用いることもできる。培養液から菌体を分離するには、濾過、遠心分離等、常用の菌体分離技術を用いることができる。
【0013】
本発明において使用する菌体はまた、乾燥菌体であってもよく、さらには菌体破砕物であってもよい。菌体の乾燥は、例えば噴霧乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥等常法に従って行うことができる。乾燥菌体は貯蔵が容易であり、必要な時にそのまま使用することができるので便利である。
使用する菌体量は、エマルジョンの由来、エマルジョン中の油分の種類や濃度等により異るが、エマルジョン中の油kg当り、生菌体を約5〜20g、好ましくは5〜10g使用する。乾燥菌体や菌体破砕物を使用する場合にも、前記生菌体の量に相当する量の乾燥菌体や菌体破砕物を使用することが好ましい。
【0014】
エマルジョンの破壊は、処理すべきエマルジョンと菌体とを混合した後、好ましくは撹拌しながら行う。エマルジョンの破壊は、好ましくは室温〜35℃にて、0.5時間〜3日間行うのが好ましい。pH4〜8の広範囲のpHにおいて行うことができる。この操作の開始と共にエマルジョン分離が急速に進行し、0.5〜1時間でエマルジョンの粘度及び濁度が急激に低下し、こうして水相と、菌体と油との凝集物との分離が始まる。凝集物は水相の上に浮上するので、混合物の底部からの液相のぬき取り、遠心分離又は濾過による凝集物の除去、等常法により水相と凝集物との分離を行うことができる。
【0015】
こうして分離した水相は、通常の排液処理方法により処理することができ、あるいはそのまま放流するか、又は工程水として再利用することができる。他方、分離した凝集体は、焼却等の常法に従って処理することができ、あるいはさらに遠心分離等の方法により菌体と油分とに分離し、別々に処理することもできる。
【0016】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1エマルジョン破壊能を有する微生物の分離
通常の活性汚泥法における返送汚泥槽から汚泥を採取し、合成エマルジョン排水(1Lの蒸留水中に、1.833gの界面活性剤(陰イオン界面活性剤6%、非イオン界面活性剤3%、両イオン界面活性剤3%)、0.1gのKCl、1gの(NH4)2 SO4 、0.02gのFeCl3 ・6H2 O、0.2gのMgCl2 ・6H2 O、0.01gのCaCl2 及び3gのスピンドル油を含む水溶液に接種し、油分負荷0.5g/日/Lにおいて2ケ月間連続培養して活性汚泥を馴養した。
【0017】
上記の合成エマルジョン排水に1.5%の寒天を加えた寒天プレート(面積63.5cm2 )に、上記馴養した活性汚泥を塗布し、30℃にて1週間培養した。これにより多数のコロニーが生じた。これらのコロニーの中から肉眼的形状の異る8個のコロニーを単離し、W1〜W8と命名した。この内、上記エマルジョン培地で比較的増殖が速い株W2,W3及びW8を選択した。
【0018】
これらの3株を上記の合成エマルジョン排水中で30℃にて一晩振とう混合し、振とう混合の前後における濁度(A660)の変化を測定した。その結果、各株について、振とう混合後の濁度及び濁度低下率(%)は、W2株で292(0%)、W3株で77(81.9%)、W8株で290(0%)及び対照(菌株無接種)で230(0%)であり、3株の内の1株W3がエマルジョン破壊能を有していた。
【0019】
このW3株を、LB寒天プレート上で培養したところ、濃いクリーム色のコロニーとやや透明なクリーム色のコロニーとが出現した。これらをそれぞれW3C株及びW3T株と称する。これら2株について、Bergey's Manual of Systematic Bacteriologyに従って菌株の同定を行った。この結果を次の表1及び表2に示す。
【0020】
【表1】
Figure 0003781455
【0021】
【表2】
Figure 0003781455
【0022】
上記の結果、W3C株及びW3T株はいずれもアエロモナス・ヒドロフィラ (Aeromonas hydrophila) と同定された。これらの菌株は、工業技術院生命工学工業技術研究所に、W3C株はFERM P−14925として、W3T株はFERM P−14926として、平成7年5月17日に寄託された。
【0023】
実施例2エマルジョン破壊に及ぼす pH の影響
カルシウム及びマグネシウムを含有しないMP緩衝液(1L中2.75gのK2 HPO4 、2.25gのKH2 PO4 、1gの(NH4)2 SO4 、0.1gのNaCl及び0.012gのFeCl3 ・6H2 Oを含有する)をpH4〜9に調整し、この緩衝液4mlを試験管に入れ、これに、LB培地でW3C又はW3T株を一晩培養して得た生菌株12.5ppm を添加して、10秒間ハンドシェイクし、16時間静置し、その間に初発濁度(A660)に対する濁度の変化を経時的に測定した。その結果を図1に示す。この結果から明らかな通り、本発明の菌株はpH4〜8という酸性〜塩基性の広範囲にわたりエマルジョン破壊活性を示した。
【0024】
実施例3エマルジョン破壊に及ぼす菌体量の影響
MP緩衝液(1L中2.75gのK2 HPO4 、2.25gのKH2 PO4 、1gの(NH4)2 SO4 、0.1gのNaCl、0.02gのFeCl3 ・6H2 O、0.01gのCaCl2 及び0.2gのMgCl2 ・6H2 Oを含む)にEsso切削油Nutwell 40を0.3%(w/v)又は3%(w/v)加えてエマルジョンを形成し、このエマルジョン4mlづつを試験管に入れ、これに、LB培地で一晩培養したW3C又はW3T株の生菌体を2.5ppm 〜250ppm 添加し、10秒間ハンドシェイクした後、静置し、約72時間、吸光度(OD660)の測定によりエマルジョン破壊の進行を観察した。その結果を図2及び図3に示す。エマルジョン中の油分の量により菌体の最少必要量が異り、油分の増加に従って、菌体の必要量も上昇することがわかる。
【0025】
実施例4ダストコントロール工場モデル排水の処理
ダストコントロール工場モデル排水(組成:ユニファイ(界面活性剤)1.833g、KCl0.1g、(NH4 2 SO4 1g、FeCl3 ・6H2 O0.02g、MgCl2 ・6H2 O0.2g、CaCl2 0.01g、CM−MX(スピンドル油)3g、蒸留水1l)4mlを試験管に入れ、これにLB培地に一晩培養したW3C株の菌体25ppm を添加し、よく撹拌した後に静置し、16時間にわたって濁度の低下を測定することによりエマルジョン破壊を観察した。この結果を図4に示す。
【0026】
10分後には濁度低下が初発濁度に対して約50%となり、60分後には約10%に低下し、肉眼観察において下層の透明な水層と、上層の油分/菌体凝集画分とに分離し、後者はさらに油滴と菌体とに分離した。処理前のエマルジョン(原水)、及び層分離後の水性透明画分、並びにさらに分離後に下層水性透明画分と浮上油分とを再混合したものについて、それらに含まれる油分濃度及び炭水化物濃度を、JIS規格による四塩化炭素抽出法(油分濃度)及び炭化水素濃度(TOC測定法)、並びにn−ヘキサンによる抽出により調べた。
【0027】
その結果を図5に示す。この図から明らかな通り、分析法のいかんに拘らず、処理前エマルジョン(原水)中の油分(又は炭化水素分)は、本発明の処理により水層からほとんど除去されることが明らかになった。
【0028】
実施例5切削油エマルジョンの破壊
MP緩衝液に、 Esso Kutwell 40切削油を0.3%,0.6%又は3%となるように加え、あるいはMobil Solvac 1535G切削油を0.3%となるように加え、それぞれエマルジョンを形成した。これらのエマルジョン4mlを試験管に入れ、これにLB培地中で一晩培養したW3C株又はW3T株の生菌体25ppm を加え、よく撹拌した後静置し、液の濁度を経時的に16時間測定した。この結果を図6及び図7に示す。いずれも、実施例4の場合と同様に透明な下層の水層と、浮上油層とに分離した。
【0029】
実施例6アニオン系作動油エマルジョンの破壊
アニオン系作動油BKK202L(油分54.6%(w/w)、界面活性剤25%(w/w)及び水20%(w/w))の3%(w/v)エマルジョンを実施例5に記載したようにして調製し、実施例5に記載したのと同様に試験した。同様の結果が得られた。但し、細胞量を変化させ、図8に示す結果を得た。
【0030】
実施例7原油エマルジョンの破壊
原油(80KBD)に原油と等量のトッパー凝縮水を混合した原油精製工程のモデルデソルターエマルジョンにW3Cを加え40℃で加温し水層と油層の分離を観察した。W3Cを加えることによりエマルジョン破壊が起こり、原油層と水層の2層に分離した。菌量に比例して分離される水層の高さは高くなり10000ppm では化学乳化破壊剤(Nalco5537J)10ppm とほぼ同等かそれ以上の効果が認められた。一方、何も加えないコントロールでは分離は起きなかった。結果を図9に示す。
【0031】
実施例8ダストコントロール工場モデル排水連続処理プロセスの構築
ダストコントロール工場モデル排水と、グルコースを炭素源とした培地を用いて24時間の滞留時間で連続培養したW3C菌又はW3T菌を連続混合し、さらに加圧式浮上分離試験器により混合液に加圧水を注入し、加圧式浮上試験をした。反応槽での滞留時間を1時間、対液菌体注入量を50ppm 、加圧水圧力を4kg/cm2 、加圧水混合比を30%および加圧水注入後静置時間を10分とした。植菌から連続培養4日目まで80%前後の除濁率と約80%前後の油分除去率を示した。またこの連続系での評価結果は、これまでの試験管を用いた評価結果とほぼ一致した結果であった。
【0032】
実施例9ダストコントロール工場モデル排水での無機凝集剤(PAC)との比較
ダストコントロール工場モデル排水500mlにW3C株又はPACを注入してジャーテストした溶液を、さらに加圧式浮上分離試験器に移し、加圧式浮上試験をした。対液菌体注入量を50ppm 、対液PAC注入量を5,000ppm 、高分子凝集剤注入量を2ppm 、凝集pHを6.0〜6.5とした。PACの油分除去率90%に対し、W3C株では油分除去率81%と1/100の注入量でほぼ同等の効果を示した。
【0033】
実施例10実排水でのエマルジョンブレーク
種々の実エマルジョン排水を準備しW3株によるエマルジョンブレークを確認した。下記の表中に記載した実排水にW3株を50ppm 加え、10分間混合し30分静置した後の濁度低下率をブレーク効率として示した。いずれも50%前後の効率でエマルジョンブレークを起こし濁度の低下と凝集物の沈殿が認められた。またダストコントロール工場排水については、前述のダストコントロール工場モデル排水のブレーク効率と同等の結果であった。
【0034】
Figure 0003781455

【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の細菌によるエマルジョンの破壊に対するpHの影響を示す図である。
【図2】図2は、本発明の細菌の量とエマルジョン破壊効果との関係を示す図である。
【図3】図3は、本発明の細菌の量とエマルジョン破壊効果との関係を示す図である。
【図4】図4は、ダスキンモデル排水のエマルジョンに対する本発明の細菌のエマルジョン破壊効果を示す図である。
【図5】図5は、エマルジョン破壊後の水層から油分が除去されていることを示す図である。
【図6】図6はEsso切削油のエマルジョンに対する本発明の細菌のエマルジョン破壊効果を示す図である。
【図7】図7は、 Mobil切削油のエマルジョンに対する本発明の細菌のエマルジョン破壊効果を示す図である。
【図8】図8は、アニオン系作動油のエマルジョンに対する本発明の細菌のエマルジョン破壊効果を示すグラフである。
【図9】図9は、原油エマルジョンに対する本発明の細菌の破壊効果を示す図である。

Claims (4)

  1. 水及び油を含んで成るエマルジョンと、アエロモナス・ヒドロフィラ( Aeromonas hydrophila )種に属し、水と油を含んで成るエマルジョンを破壊することが出来る細菌の菌体とを混合し、これにより水層と、菌体と油を含んで成る凝集層とを形成せしめ、そしてこれらの層を分離することを特徴とする方法。
  2. 前記凝集を菌体と油分にさらに分離することを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. アエロモナス・ヒドロフィラ( Aeromonas hydrophila )種に属し、水及び油を含んで成るエマルジョンを破壊することができる細菌の菌体を含んで成るエマルジョン破壊剤。
  4. 水及び油を含んで成るエマルジョンを破壊することができる、アエロモナス・ヒドロフィラ細菌。
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