JP3797200B2 - 飛行時間型質量分析装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は飛行時間型質量分析装置に関する。より詳細には、本発明はイオンリフレクターを備えた飛行時間型質量分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
飛行時間型質量分析装置においては、イオンの質量数(正確には質量/電荷比)が、イオンがイオン源を離れてからイオン検出器に到達するまでの時間、すなわち飛行時間を測定することによって分析される。質量数を正確に分析するためには、同一質量数のイオンの飛行時間を、リフレクターを用いて時間収束させ、できるだけ一定値になるようにする方法がとられている。
公知の飛行時間型質量分析装置の構成においては、イオン源で生成されたイオンは無電界ドリフト空間へと導入され、イオンリフレクターによって反射される。イオンリフレクターは一連の平行な薄板電極群を有しており、イオンを無電界ドリフト空間へと跳ね返すために適当な電界を発生している。そして、イオンリフレクターによって反射されたイオンはイオン検出器で検出される。
【0003】
イオンの初期位置での時間広がりを飛行時間に比べて小さくし、飛行時間を精度良く測定するためには、イオンをパルス化したり、イオン源の下流において時間的にバンチングしたりすることが行なわれている。しかし、イオンは初期状態においてある程度の運動エネルギーを持つため初速度に広がりを持っており、飛行時間にも望ましくない広がりを生じることになる。
イオンリフレクターは、この飛行時間の広がりを補償するために用いられる。大きな初速度を持つイオンは、大きな運動エネルギーを持つためイオンリフレクターの奥まで侵入し、無電界ドリフト空間へ跳ね返されるまでの間に多くの時間を費やす。反対に、無電界ドリフト空間を飛行する間は、速度が大きいためにそこで費やされる時間は短くなり、イオンリフレクター内部で消費した時間の増加分と相殺する。したがって、イオンリフレクター内部の電界強度は、このような飛行時間の相殺が広い初速度範囲にわたって効率良く行なわれるように設計されている。
【0004】
一様な(あるいは線形の)、単一の電界で形成されるイオンリフレクターは、シングルステージ型イオンリフレクターと呼ばれる。このシングルステージ型イオンリフレクターでは、飛行時間の広がりをイオンエネルギーの1次微分までしか補償できないため、有効な時間収束は比較的小さなエネルギー範囲のイオンに対してのみ得られる。このため、シングルステージ型イオンリフレクターは多くのアプリケーションに対して成功を収めてきたが、その飛行時間の補償能力には限界がある。
【0005】
より広いエネルギー補償範囲を提供する別のイオンリフレクターは、デュアルステージ型イオンリフレクターと呼ばれ、細かいグリッドメッシュにより仕切られた、それぞれに一様な電界を有する二つのステージで構成されている。
デュアルステージ型イオンリフレクターでは、第1ステージの長さは短く、比較的強い電界強度を有している。この第1ステージを通過する際に、イオンの運動エネルギーの2/3以上が取り除かれる。そして初期エネルギーの1/3以下にまで減速されたイオンは、低い電界強度を有する第2ステージの内部で反射される。反射されたイオンは再び第1ステージを通って加速され無電界ドリフト空間へと戻っていく。この二つのステージの作用によって、飛行時間の広がりがイオンエネルギーの2次微分の項まで補償される。
【0006】
デュアルステージ型イオンリフレクターは、Mamyrin等 (B. A. Mamyrin, V. I. Karataev, D. V. Shmikk and V. A. Zagulin, Zh. Eksp. Teor, Fiz. 64 (1973) 82-89; Sov. Phys. JETP., 37 (1973) 45-48)によって最初に開発された。第1ステージがとても短く、第2ステージに比べて極めて高い電界強度を有する時に、すなわち、高電界第1ステージの電界強度に対する低電界第2ステージの電界強度の比率が小さい時に、最高の分解能が得られる。一般的には、第1ステージは全リフレクター長のおよそ10%前後の長さに設計されている。これは、「2次の補償の条件から導かれる分解能は、リフレクター前面での初期イオンエネルギーに対する二つのステージの境界でのイオンエネルギーの比率に比例する」という理論的事実により裏付けられる。この比率の理論上の最大値は1/3であり、この時第1ステージの長さは無限に短く、よって第1ステージの電界強度は無限大になり、実現できない。このため、第1ステージの長さは、放電やメッシュサイズの効果などの実用上の問題がない限り、できるだけ短くなるように選ばれている。実際には、二つのステージの境界においてのエネルギー減少量が初期イオンエネルギーの(2/3よりわずかに大きな値である)およそ0.7倍より小さめになるように選ばれており、二つのステージの電界強度の比率は0.25以下となっている。
【0007】
デュアルステージ型イオンリフレクターの簡潔な解説は、質量分析Vol.35,No.4(1987) pp. 186-200に述べられている。イオン群の平均的な運動エネルギーをU0、運動エネルギーの広がりを±ΔU/2とすると、2次収束条件での分解能Rは、イオンエネルギーの3次微分の項で近似することにより、以下の式で表される。
【数式1】
ここで、Lは無電界ドリフト空間の長さ、l1は第1ステージの長さ、E1は第1ステージの電界強度、Esはイオン源の加速領域の電界強度を表している。ターンアラウンド時間を短くするために、Esはできるだけ大きく設定されているので、最後の項E1/(2Es)は通常無視しても差し支えない。
【0008】
デュアルステージ型イオンリフレクターは、優れた質量分解能を有しており、最近の高分解能アプリケーションのほとんどに対して極めて有効である。しかし、二つのステージに一様な電界を発生させるために、メッシュあるいはグリッドなどで二つのステージの間を仕切ったり、リフレクターと無電界ドリフト空間との間を仕切ったりしなければならない。このため、イオンはこれらのメッシュあるいはグリッドを4回も通過しなければならず、そこで被るイオンの散乱や偏向のため、装置のイオン検出感度を低下せしめることになる。
【0009】
米国特許第4,731,532号によると、図1に示すように、グリッドやメッシュを取り除くことにより感度の低下を緩和するように設計されたイオンリフレクターが開示されている。
しかし、第1ステージの電界強度が高いため、第2ステージや無電界ドリフト空間への電界の浸みだしを生じており、これが第1ステージの両側で等電位面の湾曲をもたらしている。この等電位面の湾曲がイオンの偏向を生じて、結果的にイオンの飛行時間にずれを引き起こす。
これらの効果は、第1ステージの前に収束電極と呼ばれる付加的な電極を取り付けてイオンの散乱を防ぐことにより、補正されている。
【0010】
別のタイプのグリッド無しリフレクターでは、より広いエネルギー範囲にわたって飛行時間が補正される。米国特許第4,625,112号には、イオンを反射するために2次関数型の電界を用いたイオンリフレクターが記述されており、理論的には完全な時間補正を実現する。しかし、無電界ドリフト空間が存在しないため、イオン源から検出器に至るまでのイオンの飛行経路全体に渡って、理論的に定められた電界を生成する必要があり、装置設計上の制約が大きい。また、電極部分で2次関数型の電界を形成していても,リフレクター中心軸周辺ではこの電界からのズレが生じるため、所望の性能を達成するのが困難である。また、米国特許第5,464,985号には、曲線状の電界を用いたイオンリフレクターが記述されている。
【0011】
これら二つの米国特許は、グリッド無し電極を使ったことに起因する電界の歪みが、他のグリッド無しデュアルステージ型イオンリフレクターに比べて小さくなるように、電界強度が、リフレクターの前面においてゼロまたはゼロに近いから始まり、リフレクター内部へ向かって次第に増加する方法を具体化している。一方で、電界強度がリフレクターの軸に沿って増加していくことから、わずかではあるが継続的にイオンの発散作用が生じ、これがイオンの検出感度を低下させている。
【0012】
さらに別のタイプのグリッド無しリフレクターでは、検出感度を低下させることなく、広いエネルギー範囲にわたって飛行時間が補正される。国際出願公開第WO99/39369号では、グリッド無しデュアルステージ型イオンリフレクターにおいて、第1ステージの電界強度を小さくし、若干の分解能を犠牲にするかわりに、イオンビームの収束性を改善し、イオンの検出感度を向上する方法が開示されている。例えば、数式1においてl1/Lを0.06とすると、同じエネルギー広がりΔU/U0の場合、分解能は約24%低下する。
【0013】
これらのデュアルステージ型イオンリフレクターを用いれば、多くの用途において充分な感度と分解能を達成することができる。しかし、イオンの初期位置がイオン源の内部の広い範囲に分布している場合には、イオンのエネルギーの広がりが大きくなり、分解能は急速に劣化する。数式1に依れば、分解能はエネルギー広がりの3乗に反比例する。U0/ΔU=10の場合には分解能は10,000以上であるが、U0/ΔU=5になると分解能は1,333に低下する。したがって、10,000程度の高分解能を得るためには、イオン源の内部でのイオンの初期位置は、加速距離の±5%程度の範囲に制約されることになる。このため、イオン源内部のイオン量を増やしても、イオン源の中心から離れたイオンは分解能を劣化させるため、イオンの検出感度の向上には寄与しない。
【0014】
一方、米国特許第4,625,112号や米国特許第5,464,985等の曲線状の電界を用いたイオンリフレクターでは、広いエネルギー範囲で収束条件が得られるが、イオンの発散作用が強いため、イオンの検出感度を向上させることはできない。
【0015】
このような曲線状電界の特長をとり入れるために、リフレクターのステージの数を増やせば、より高次のエネルギー補償を実現することは理論的には可能である。文献(Reiner P. Schmid and Christian Weickhardt, Intl. J. Mass Spectrometry, Vol. 206 (2001) pp. 181-190)には、デュアルステージ型イオンリフレクターの第1ステージと第2ステージの電界強度をパラメータとした分解能の変化が図示されている。分解能が高くなるにしたがい、パラメータの調整は非常に微妙になってくる。この結果から、制御するパラメータの数がさらに一つ増えただけでも、実験的にパラメータを調整することが非常に困難に、質量分析装置として使用する上で大きな障害となることは容易に想像される。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、前記の問題を改善し、簡便な方法で、高分解能を維持しつつより広いエネルギー範囲のイオンを検出してイオンの検出感度を向上する、イオンリフレクターを備えた飛行時間型質量分析装置を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
課題を解決するための一つの手段としては、イオンリフレクターを備えた飛行時間型質量分析装置において、前記イオンリフレクターが、複数の薄板電極と一つの終端電極とを有し、前記各電極に適宜電圧を印加することにより、実質的に一様な高電界強度の第1ステージと、実質的に一様な低電界強度の電界を前記終端電極に向かって中心軸上の電界強度が実質的に増加するように補正した第2ステージとを形成することを特徴とする飛行時間型質量分析装置が提供される。
【0018】
また、本発明に係る研究の結果、第2ステージの電界強度の補正の大きさは第2ステージに形成される低電界強度の10%以下で充分であることが明らかとなった。第2ステージの途中から少しずつ電界強度を強くしてゆき、終端電極の近傍で電界強度が最も大きくなる。但し、イオンリフレクター中心軸上と、薄板電極近傍での電界の違いが生じるため、最終の一つ手前の電極間ギャップの電界強度を小さくするのが有効であることが、経験的に明らかとなった。なお、各電極間の電界強度は単調に増加している必要は無い。増減を繰り返しながらでも平均として増加するように形成されていれば、中心軸上の電界強度が増加し、分解能を向上させる効果が生じる。
【0019】
通常の飛行時間型質量分析装置においては、リフレクターの各電極には、電源からの電圧を抵抗分割することによって形成された電圧が印加されている。特に、デュアルステージ型イオンリフレクターでは、第1ステージ及び第2ステージにおいて、それぞれに一様な電界を発生させている。それぞれのステージでは、同一抵抗値の複数の抵抗を直列につないで、同一間隔の各電極間に同一の電位差を与えるための電圧が形成されている。本発明に係るリフレクターでは、第2ステージ用の抵抗群の抵抗値を終端電極側に向かって実質的に増加させることにより、電界を補正している。抵抗値による補正は、各々の抵抗の抵抗値を変化させても良いし、あるいは同一抵抗値の抵抗に、補正用の抵抗を直列に付加しても良い。後者の場合、良く抵抗値のそろった温度安定性の良い高精度抵抗群と、比較的安価な補正用抵抗とを別々に使用できるので、実用上好ましい。但し、補正用抵抗を利用する場合には、高精度抵抗の抵抗値よりも小さな抵抗値を実現することができない。実際、最後より一つ手前の電極間ギャップの電界が、第2ステージの基本となる電界よりもわずかに小さい時の方が分解能は高くなる。しかし、この電極間ギャップに対応する補正用抵抗値をゼロにしても、ほぼ同等の分解能を達成することができるので、あえて高精度抵抗の抵抗値を変化させる必要もない。
【0020】
実際の装置では各種部品寸法値に誤差が生じるが、デュアルステージ型イオンリフレクターの通常の調整方法を用いて第1、第2ステージの電界強度を変化させれば、補正抵抗の値を変えることなく、簡単に焦点位置や分解能の調整を行なうことができる。
【0021】
電界強度の補正は、電極間スペーサの厚みを変化させることによっても実施可能ではあるが、高精度を要するスペーサ部品で厚みの異なるものを用意するのは実用上好ましくない。
【0022】
通常、リフレクターは、イオン源からリフレクターへ向かう入射イオンビームの軸に対して傾けて配置され、これに伴ってイオン検出器も入射イオンビームの軸からは、ずらして配置される。これは、入射イオンビームがイオン検出器にぶつからないようにするためである。リフレクターの傾きが大きくなるにつれて、エネルギーの異なるイオンが通過する経路が変わり、それぞれのイオンに作用する電界強度の差が大きくなり、分解能が劣化することになる。このため、リフレクターの傾きは、イオンビームとイオン検出器が干渉しない範囲で最小になるように設定される。
検出器の角度は、検出面がリフレクターの中心軸と垂直にするのが適当である。リフレクターを傾斜させた方向の検出器の傾きについては、第1、第2ステージの電界強度を調整することで補正することはできるが、若干の分解能の低下が見られる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について実施例を挙げ、図面を参照しながら説明する。図2は、グリッド無しデュアルステージ型イオンリフレクターを備えた、本発明に係る飛行時間型質量分析装置の構成概念図である。飛行時間型質量分析装置は、イオン源1、イオンリフレクター10、イオン検出器13と、その間をつなぐ無電界ドリフト空間12とから構成されている。
【0024】
イオン源1には四重極イオントラップが用いられている。イオントラップはリング電極3と二つのエンドキャップ電極4,5から構成されている。通常は、リング電極3にRF電圧を印加することにより、内部のイオン捕捉空間2にイオンを捕捉する。
イオンを無電界ドリフト空間12に射出するために、イオントラップの各電極にはイオン加速電圧発生装置6からイオン引出し電圧が与えられる。この実施例においては、イオン引出し時に、リング電極3には0V、エンドキャップ電極4には+5.37kV、エンドキャップ電極5には-10kVの電圧が与えられ、正イオンを-10kVの電位に保たれた無電界ドリフト空間12へと加速している。
【0025】
イオントラップの中央部から引き出されたイオンは、無電界ドリフト空間では約8842eVの運動エネルギーに加速されている。一方、イオントラップの中心軸上で±1.2mm離れた位置から加速されたイオンの運動エネルギーは、それぞれ7753eV、9864eVとなり、およそ±12%のエネルギー広がりを持つ。
イオン源から引き出されたイオンビーム7は無電界ドリフト空間12を飛行し、イオンリフレクター10へ入射する。
【0026】
本実施例におけるリフレクターは、グリッド無しリフレクターを使用しており、複数の薄板電極9と終端電極8とから構成されており、それぞれの電極にはリフレクター電極電圧発生装置11から適当な電圧が与えられている。リフレクターに入射したイオンは、リフレクター内部に発生された電界により、無電界ドリフト空間へと反射される。
リフレクター10によって反射されたイオンビームは再び無電界ドリフト空間12を飛行し、イオン検出器13に到達し、イオン信号を発生する。イオン検出器には、通常マイクロチャンネルプレート(MCP)や電子増倍管などが用いられる。
イオンの、引き出しから検出器へ到達するまでの時間は、電圧制御およびイオン信号測定装置14により記録され、コンピュータ15で質量スペクトルに変換される。無電界ドリフト空間12の全長はおよそ1435mmであり、質量数10,000uのイオンの飛行時間はおよそ179.6μsになる。
【0027】
本実施例におけるイオンリフレクター10はグリッド無しデュアルステージ型イオンリフレクターを基本として設計されている。46枚の内径φ37.5mm、厚み0.2mmの薄板電極9とフラットな終端電極8とから構成されており、5mm間隔で配置されている。
【0028】
また、図3に示すように、抵抗群で各電極に与える電圧を生成するリフレクター電極電圧発生装置11に接続されている。第1ステージは、ギャップ1から17までの17段のギャップで構成され、長さは85mmになっている。各ギャップには、同一抵抗値の抵抗群21により実質的に均一な電界強度が与えられる。第2ステージは、ギャップ18から46までの29段のギャップで構成され、長さは145mmになっている。第1ステージと同様に、各ギャップには、同一抵抗値の抵抗群22により実質的に均一な電界強度が与えられる。但し、最後の12段(ギャップ35から46)には、抵抗群23が直列に付加されており、ギャップ18〜34に比べて高めの電界強度になるように補正されている。
【0029】
抵抗群23は、表1に示すように、最終段に近づくほど実質的に増加するような補正抵抗値が選ばれている。
この抵抗値は一例であり、例えば表2に示すような抵抗値でも良く、補正抵抗値の選択にはある程度の任意性がある。
また、第1ステージと第2ステージの境界部の電極からは、抵抗群22と23と同一抵抗値の抵抗群24と25が並列に接続されている。第1ステージの最初の電極に電圧V1、終端電極に電圧V2、並列に接続した抵抗群24,25の終端部に電圧V3を与えることで、リフレクターの分解能の調節を行なう。具体的には、無電界ドリフト空間を形成するフライトチューブの電位V1を-10kVに固定し、V2とV3とで調整を行なう。
【0030】
Reiner P. Schmid and Christian Weickhardtの文献にも明らかにされているように、V2とV3の差動電圧が分解能に最も影響する。また、国際出願公開第WO99/39369号に記述されているように、V2とV3の同相電圧は収束面を前後に移動させるだけで、分解能への影響は比較的小さい。
【0031】
並列に接続した抵抗群24,25は、より少ない数の抵抗で置き換えても良いし、これらの抵抗群を付加する変わりに、第1ステージと第2ステージの境界部の電極に、直接適当な電圧を印加しても構わない。
【0032】
表1の補正抵抗値を用いた場合の、コンピュータシミュレーションの結果を図4に示す。これは、イオン源内部の軸上に、中心から0.1mm間隔で±1.2mmまで25個のイオンを初速度ゼロで配置し、イオンの引出しを行なった場合の、イオン検出器に入射直前のイオン軌道である。軌道上の点は飛行時間50nsごとに、マーカーとしてプロットしたものである。25個のイオンがほぼ同時に検出器に到達しているのが確認できる。イオンの軌道がエネルギーによって上下にずれているのはリフレクターの中心軸を、入射イオンビームに対して0.77°傾けているためであり、図2から容易に理解されるであろう。イオン検出器の入射面は、イオンリフレクターに垂直になるように配置されている。この時に用いた第1、第2ステージの電界強度はそれぞれ65V/mm、32V/mmである。
【0033】
このシミュレーションの結果、質量数10,000uの25個のイオンの飛行時間のばらつきは最大0.15nsとなった。これは質量分解能に換算すると、600,000になる。通常のデュアルステージ型イオンリフレクターでは、イオン源の中心から±0.6mm程度の初期位置のイオンに対してしか良好な時間収束が得られなかったのに対して、第2ステージ後半部の電界をわずかに補正することによってはるかに広い範囲のイオンを時間収束することが可能になり、イオンの検出効率・感度を飛躍的に向上することが可能となった。
【0034】
実は、グリッド無しのリフレクターにおいては、イオン源の軸方向の初期位置よりも軸に垂直な向きの初期位置のばらつきの方が、最終的な質量分解能に大きな影響を及ぼす。これは、イオントラップをイオン源に用いた場合に固有の問題である。軸から離れたイオンは、無電界ドリフト空間に射出される際に、イオンビームの(空間的)収束が悪くなり、イオンリフレクターの中心軸から離れた部分で反射される。グリッド無しリフレクターの等電位面は平面ではなく、湾曲している。
【0035】
国際出願公開第WO99/39369号のグリッド無しリフレクターによると、軸近傍を通過するイオンビームに対して、反射後のイオンビームの発散を抑えるように第1、第2ステージの電界強度比を選ぶことが示されている。しかし、軸から離れたイオンについては、反射後のビームの発散が十分に抑えきれず、イオンが検出器に到達する時には、検出面の広い範囲にひろがってしまい、飛行時間の差が大きくなる。
【0036】
本実施例におけるイオントラップは、イオンの検出効率を改善するため、エンドキャップの穴径を広げており、軸に垂直方向に中心から0.85mmの範囲の初期位置のイオンを射出できるように設計されている。この範囲で、さらに軸方向にも±1.2mmの範囲のイオンについて飛行時間のばらつきをコンピュータシミュレーションにより求めたところ、5.25nsとなり、質量分解能は17,000となった。また、表2の補正抵抗を用いた場合には5.50nsとなった。いずれの場合にも、実用上充分な質量分解能を達成することができる。イオン量が少なくなり、イオンがイオン源のより中心部に近い範囲で捕捉されている場合には、初期位置が限られているために、この結果よりもはるかに高い分解能が得られることは言うまでもない。
【0037】
ここで示した実施例は、感度の向上のためにイオンの初期位置を最大限に広げており、またグリッド無しのリフレクターを採用しているが、本手法をグリッド付きのリフレクターに適用したり、平行平板型のイオン源を用いたり、イオンの初期位置を制限したりすれば、感度・検出効率は低下するが、より高い質量分解能を達成することができる。
【0038】
また、終端電極はフラットなものを用いたが、国際出願公開第WO99/39369に示されたように、溝付きの終端電極を用いても、最終ギャップの抵抗の補正値を変更すれば、同様の効果を得ることができる。
【0039】
【発明の効果】
本発明においては、簡便な方法で、高分解能を維持しつつより広いエネルギー範囲のイオンを検出してイオンの検出感度を向上する、イオンリフレクターを備えた飛行時間型質量分析装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】公知のグリッド無しデュアルステージ型イオンリフレクターの断面図。
【図2】本発明に係る飛行時間型質量分析装置の構成概念図。
【図3】本発明に係るリフレクターの構成と、抵抗値による電圧の補正の方法を説明するための図。
【図4】本発明に係る飛行時間質量分析装置を説明するために、コンピュータシミュレーションを用いて計算された、イオン検出器に到達する直前のイオン軌道。
【符号の説明】
1…イオン源
2…イオン捕捉空間
3…リング電極
4…エンドキャップ電極
5…エンドキャップ電極
6…イオン加速電圧発生装置
7…イオンビーム
8…終端電極
9…薄板電極
10…イオンリフレクター
11…リフレクター電極電圧発生装置
12…無電界ドリフト空間
13…イオン検出器
14…電圧制御およびイオン信号測定装置
15…コンピュータ
21…抵抗群
22…抵抗群
23…電界強度補正用抵抗群
24…抵抗群
25…電界強度補正用抵抗群
Claims (3)
- イオンリフレクターを備えた飛行時間型質量分析装置において、前記イオンリフレクターが、複数の薄板電極と一つの終端電極とを有し、前記各電極に適宜電圧を印加することにより、実質的に一様な高電界強度の第1ステージと、実質的に一様な低電界強度の電界を前記終端電極に向かって中心軸上の電界強度が実質的に増加するように補正した第2ステージとを形成することを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
- 前記第2ステージの中心軸上の電界強度の補正の大きさが前記第2ステージに形成される低電界強度の10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の飛行時間型質量分析装置。
- 前記第1ステージ及び前記第2ステージの電界を発生するために各電極に与える電圧が、抵抗群の電圧降下によって生成されており、前記第2ステージの電界強度の補正が、前記抵抗群の抵抗値を終端電極側に向かって実質的に増加させるか、あるいは増加分に相当する抵抗を付加することにより行われることを特徴とする請求項1から2に記載の飛行時間型質量分析装置。
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