JP3871191B2 - 芳香族含窒素複素環化合物の電解フッ素化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、芳香族含窒素複素環化合物の電解フッ素化により、部分フッ素化含窒素複素環化合物を製造するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電解法はクリーンな電気エネルギーを利用して、反応試薬を用いずに化学を行うことができる化学合成手段のひとつであり、電流密度により反応速度を制御でき、また電位を規制することで生成物を選択できる特徴を有している。有機化合物の電解合成の分野では、安定で反応を促進する非水溶媒を利用することにより、多くの有機化合物の酸化還元プロセスが実用化されている。電解法は電極表面での不均一相反応であるため大量生産には不向きであるが、選択的な合成が可能であるため、付加価値の大きい物質を新規な電解合成系で製造することが検討されている。
例えば含フッ素有機硫黄化合物は、医薬や農薬として重要な化学合成品であり、所望の効果を得るために、多種多様な分子構造を有する化合物が開発されている。含フッ素硫黄化合物の分子構造を選択的に変換したり、有機化合物を選択的にフッ素化して所望の含フッ素有機硫黄化合物を得るために電解法が有用であることが知られている。有機化合物の電解に関しては電気化学便覧に詳細が報告されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
含窒素複素環化合物、特に芳香族含窒素複素環化合物の部分フッ素化体は生理活性が期待できる興味深い化合物である。しかし芳香族含窒素複素環化合物が直接フッ素化された例は電解法を含めて極めて少なく、例えばピリジン環に電子吸引基を有するイソニコチン酸エチルが直接電解フッ素化されたことが見出されている程度である(Organic Electrochemistry,4th edition,pp.1035-1050, Marcel Dekker, New York(2001))。しかし、この方法も収率や選択率の面で不十分な点が多く実用化に至っていない。
従って本発明は、比較的高い収率や選択率で含窒素複素環化合物の部分フッ素化反応を行い得る方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明方法は、N−アルキルピロール誘導体及びN−アリールピロール誘導体から選択されかつ(化1)で表される芳香族含窒素複素環化合物(ここでR 1 は、CN、NO 2 、F、Cl、Br、 I 、RCO及びRCOOから成る群から選択される電子吸引基、R 2 はアルキル基又はアリール基、R 3 はCN、NO 2 、F、Cl、Br、 I 、RCO及びRCOOから成る群から選択される電子吸引基、H又はメチル基)をフッ素化原料とともに溶媒に溶解して電解液を調製し、該電解液を電解槽中で電解して、前記含窒素複素環化合物の一部の水素をフッ素で置換することを特徴とする芳香族含窒素複素環化合物の電解フッ素化方法である。
【化1】
【0005】
以下、本発明方法をより詳細に説明する。
本発明方法は、電子吸引基が結合した芳香族含窒素複素環化合物の部分フッ素化に有効で、条件設定を的確に行うと、つまり使用する電解質や溶媒の組み合わせの選定等により、モノフッ素化物、ジフッ素化物等のようにフッ素化の程度を調節したり、フッ素化される部位を選択したりすることができる。
芳香族含窒素複素環化合物に電子吸引基が結合しているので、フッ素化の収率は向上する。これは電子吸引基の存在により電子密度の低下した芳香族環の水素原子を原料のフッ素アニオンが攻撃して、芳香環を破壊せずに置換できるからであると推測できる。
【0006】
この芳香族含窒素複素環化合物のフッ素化により生成される化合物の中には、新規で有用なものが多く、幾つかの化合物は、Diels−Alder反応に利用でき、また同一炭素上に2個のフッ素原子を有する化合物はgem-ジフッ素化体と称し、生理活性物質として有用である。
本発明により得られる芳香族含窒素複素環化合物の部分フッ素化生成物は、更に他の有用な含フッ素化合物の原料となり、この原料を基にする該含フッ素化合物の新規な合成ルートの確立に寄与できる。
本発明の出発原料である基質は、芳香族含窒素複素環化合物で目的とするフッ素化生成物の化学構造から導かれる。複素環を構成する窒素原子は遊離の水素を有しているとフッ素化反応より重合反応を受けやすくなる。出発原料は、N−アルキルピロール誘導体及びN−アリールピロール誘導体があり、例えば(化1)に示すピロール誘導体を好ましく使用できる。
【0008】
フッ素原料はフッ素化の対象である基質をフッ素化できる化合物から選択され、単にフッ素化反応進行の機能だけでなく、所望部位のフッ素化の選択性等も考慮して決定することが望ましい。好ましいフッ素原料として、トリアルキルアミンポリフッ化水素塩化合物{R3N.nHF(n=1〜10)}又はテトラアルキルアンモニウムフロリドポリフッ化水素化合物{R4NF.nHF(n=1〜10)}があるが、これらには限定されない。
本発明方法に使用できる陽極としては、一般に酸化鉛、酸化錫、白金、DSA、黒鉛、アモルファスカーボン(grassy carbon:GC)、導電性ダイアモンド等が使用され、還元を行う電極である陰極としては、一般に鉛、鉄、白金、チタン、カーボン等が使用される。電極基体として使用しうる材料は、寿命の長期化を達成しかつ処理表面の汚染を防止するために耐食性を有することが好ましく、電極への給電のための給電体は陽極用としてはチタン等の弁金属又はその合金の使用が望ましく、陽極触媒としては白金やイリジウム等の貴金属及びそれらの酸化物の使用が望ましい。前述した通り、ダイアモンドを金属集電体上に形成したものも好ましい。
【0009】
集電体は導電性の材料であればその使用に問題はなく、チタン、ニオブ、タンタル、シリコン、カーボン、ニッケル、タングステンカーバイドなどを、板、打ち抜き板、金網、粉末焼結体、金属繊維焼結体の形状に加工して使用することが望ましい。
電解槽材料としては、有機化合物に対する耐久性、安定性の観点から、ガラスライニング材料、カーボン、耐食性の優れたチタン、ステンレス及びPTFE樹脂などが好ましく使用できる。
電解条件は、温度が0〜60℃であることが好ましく、通常の電極を使用する場合の電流密度は0.1〜100A/dm2であることが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
次に本発明に係る含窒素複素環化合物の電解による部分フッ素化の実施例及び比較例を記載するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0011】
実施例1
陽極及び陰極として白金板(いずれも20mm×20mm)を収容した無隔膜電解槽を使用して含窒素複素環化合物のフッ素化を試みた。電解液として、フッ素原料としても機能するEt3N・2HFを1M濃度になるようにアセトニトリル10mlに溶解したものを使用した。基質として2−シアノ−1−メチルピロール1ミリモルを前記電解液に溶解した。
この電解液を窒素雰囲気下、室温で攪拌しながら 1A/dm2、4F/モルの定電流電解を行った。反応終了後に溶媒を減圧濾過して除去し、残留物の分析をNMRを用いて行った。
【0012】
分析の結果、表1に示すように、5−フルオロ体(1)が20%、2−フルオロ−5−オキソ体(2)が痕跡量、2,2−ジフルオロ−5−オキソ体(3)が痕跡量、及び2,5,5−トリフルオロ体(4)が32%得られた。
得られたフッ素化生成物のうち前記5−フルオロ体(1)が芳香族性を保持していることに注目すべきである。
【0013】
実施例2
Et3N・2HFの代わりにEt3N・3HFを1M使用したこと以外は実施例1と同一条件で電解を行い、実施例1の場合と同様に得られるフッ素化生成物の分析を行ったところ、表1に示すように、5−フルオロ体(1)が5%、2−フルオロ−5−オキソ体(2)が2%、2,2−ジフルオロ−5−オキソ体(3)が3%、及び2,5,5−トリフルオロ体(4)が65%得られた。
【0014】
実施例3
Et3N・2HFの代わりにEt3N・5HFを1M使用したこと以外は実施例1と同一条件で電解を行い、実施例1の場合と同様に得られるフッ素化生成物の分析を行ったところ、表1に示すように、5−フルオロ体(1)が0%、2−フルオロ−5−オキソ体(2)が12%、2,2−ジフルオロ−5−オキソ体(3)が47%、及び2,5,5−トリフルオロ体(4)が65%得られた。
【0015】
実施例4
Et3N・2HFの代わりにEt4NF・4HFを1M使用したこと以外は実施例1と同一条件で電解を行い、実施例1の場合と同様に得られるフッ素化生成物の分析を行ったところ、表1に示すように、5−フルオロ体(1)が0%、2−フルオロ−5−オキソ体(2)が21%、2,2−ジフルオロ−5−オキソ体(3)が28%、及び2,5,5−トリフルオロ体(4)が6%得られた。
【0016】
【表1】
【0017】
実施例5
基質として、2−シアノ−1、5−ジメチルピロール1ミリモルを前記電解液に溶解したこと、フッ素源としてEt3N・3HFを使用したこと、及び電流値を2F/モルとしたこと以外は実施例1と同一条件で電解を行い、得られたフッ素化生成物の分析を行った。
表2に示すように、5−メチル置換体(5)が33%、1−メチル置換体(6)が3%、5−メチル2置換体(7)が痕跡量得られた。
【0018】
実施例6
溶媒をアセトニトリルの代わりにジメトキシエタン(DME)としたこと以外は実施例5と同一条件で電解を行い、得られたフッ素化生成物の分析を行った。表2に示すように、5−メチル置換体(5)が29%、1−メチル置換体(6)が7%、5−メチル2置換体(7)が3%得られた。
【0019】
実施例7
溶媒をアセトニトリルの代わりにジクロロメタン(CCH2Cl2)としたこと以外は実施例5と同一条件で電解を行い、得られたフッ素化生成物の分析を行った。
表2に示すように、5−メチル置換体(5)が21%、1−メチル置換体(6)が12%、5−メチル2置換体(7)が4%得られた。
【0020】
【表2】
【0021】
比較例1
基質として2−シアノ−1−メチルピロールの代わりに2−シアノピロール1ミリモルを使用し、電流量を4F/モルから2F/モルに減少させたこと以外は実施例1と同一条件で電解を行い、得られたフッ素化生成物の分析を行った。
フッ素化されたピロール誘導体は得られず、主としてポリピロールが生成した。
【0022】
比較例2
基質として2−シアノピロールの代わりにピロール1ミリモルを使用したこと以外は比較例1と同一条件で電解を行い、得られたフッ素化生成物の分析を行った。
フッ素化されたピロールは得られず、主としてポリピロールが生成した。
【0023】
比較例3
基質として2−シアノピロールの代わりにメチルピロール1ミリモルを使用したこと以外は比較例1と同一条件で電解を行い、得られたフッ素化生成物の分析を行った。
フッ素化されたピロールは得られず、主としてポリピロールが生成した。
【0024】
実施例及び比較例の考察
基質として2−シアノ−1−メチルピロールを使用した実施例1〜4では、2位及び/又は5位の水素がフッ素で置換され、又条件に依っては5位がオキソ化され、かつ2−3位と4−5位の共役結合が解裂して芳香族性が失われた。逆に(1)の化合物では芳香族性が維持された。このようにピロール誘導体のフッ素化生成物が得られたのは、電子吸引基である2−シアノ基が芳香環の電子を吸引して環の電子を欠乏させ、フッ素イオンの近接を容易にしているからであると考えられる。
【0025】
基質として2−シアノ−1、5−ジメチルピロールを使用した実施例5〜7では、芳香環に直接結合した水素原子は置換されず、1位又は5位のメチル基の水素原子がフッ素で置換された。これらの場合には全ての場合で芳香族性が保持された。これらも電子吸引基である2−シアノ基に関係していると考えられる。
更にこれらの実施例では、溶媒を変えるのみで得られるフッ素化生成物の割合が変化した。
前記実施例から明らかなように、被フッ素化材料である基質の化学構造、フッ素化源の種類、及び溶媒等の条件を変化させることによりフッ素置換部位の異なる複数のフッ素化生成物が異なった組成で得られることが分かった。
【0026】
比較例1の2−シアノピロールでは電子吸引基を有するにもかかわらず、フッ素化が生ぜず、重合によるポリマー化が進行した。この理由は明確ではないが、ピロール環のN−位が保護されていないとフッ素化が起こらないものと推測できる。
ピロールを使用した比較例2及びメチルピロールを使用した比較例3でフッ素化が生じなかったのは、シアノ基の有する電子吸引性が存在しないからであると推測できる。
【0027】
【発明の効果】
本発明は、N−アルキルピロール誘導体及びN−アリールピロール誘導体から選択されかつ(化1)で表される芳香族含窒素複素環化合物(ここでR 1 は、CN、NO 2 、F、Cl、Br、 I 、RCO及びRCOOから成る群から選択される電子吸引基、R 2 はアルキル基又はアリール基、R 3 はCN、NO 2 、F、Cl、Br、 I 、RCO及びRCOOから成る群から選択される電子吸引基、H又はメチル基)をフッ素化原料とともに溶媒に溶解して電解液を調製し、該電解液を電解槽中で電解して、前記含窒素複素環化合物の一部の水素をフッ素で置換することを特徴とする芳香族含窒素複素環化合物の電解フッ素化方法である。
この発明では、フッ素化原料や電解液用の溶媒を適切に選択すると、N−アルキルピロール誘導体及びN−アリールピロール誘導体である芳香族含窒素複素環化合物のフッ素化反応を進行させて有用なフッ素化生成物を得ることができる。
【0028】
本発明における芳香族含窒素複素環化合物は(化1)の通りのピロール誘導体で、ここでR 1 は、CN、NO2、F、Cl、Br、I、RCO及びRCOOから成る群から選択される電子吸引基、R2はアルキル基又はアリール基、R 3 はCN、NO 2 、F、Cl、Br、 I 、RCO及びRCOOから成る群から選択される電子吸引基又はHである。芳香族含窒素複素環化合物に電子吸引基が結合しているので、フッ素化の収率は向上する。これは電子吸引基の存在により電子密度の低下した芳香族環の水素原子を原料のフッ素アニオンが攻撃して、芳香環を破壊せずに置換できるからであると推測できる。
(化1)のR2 はアルキル基又はアリール基である、つまりピロールの窒素原子が遊離の水素を有しないと、モノマーの重合が抑制され、フッ素化反応が促進される。
フッ素化原料としては、トリアルキルアミンポリフッ化水素塩化合物又はテトラアルキルアンモニウムフロリドポリフッ化水素化合物が好ましく使用できる。
Claims (2)
- フッ素化原料が、トリアルキルアミンポリフッ化水素塩化合物又はテトラアルキルアンモニウムフロリドポリフッ化水素化合物である請求項1に記載の電解フッ素化方法。
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