JP3996340B2 - ホウ素およびマグネシウム含有Al基合金並びにその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、中性子を放射する使用済み核燃料の輸送容器や貯蔵容器等の構造用材料として有用な、再臨界防止作用や中性子吸収作用を有するホウ素含有Al基合金およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
使用済み核燃料を長期間安定に、しかも再臨界状態とすることがなく、また放射線を漏洩させることなく貯蔵するために、これまでその容器自体の設計や用いる材料に関して種々検討されてきた。特に、これらの用途に用いられる材料には、材料自体に中性子線等の遮蔽・吸収能力があることや使用済み核燃料を効率よく冷却できること等の特性が要求される。上記の様な使用済み核燃料は100〜300℃程度の熱を持っており、またこうした核燃料は数十年の長期間に亘って貯蔵される必要があるとされている。従って、この様な使用済み核燃料を貯蔵する容器に用いられる材料としては、高温強度やクリープ強度等の高温での機械的特性についても安定して発揮されることが要求される。
【0003】
使用済み核燃料の輸送容器や貯蔵容器等の構造用材料としては、従来からホウ素を含有させたAl基合金が多用されており、このAl基合金は中性子の遮蔽・吸収作用に優れたものであるとされている。そして、こうしたホウ素含有Al基合金においては、中性子の遮蔽・吸収のために含有されるホウ素によって、Al基合金本来の機械的物理的特性が損なわれないように、様々な工夫がなされてきた。
【0004】
例えば、Al基合金が成分元素としてMgを含むものである場合には、添加されたホウ素がMgと金属間化合物を形成して晶析出させてしまうことによって固溶Mgが減少し、その結果として、Al基合金の強度が低下してしまうという問題が生じることがある。こうした問題を回避するという観点から、例えば特開平1−312043号には、Mgを含まないAlB12化合物の形態でホウ素を添加することによってBとMgの反応を抑制し、それらの金属間化合物の生成に基づく強度の低下を防止する方法が提案されている。また特開平1−312044号には、BとMgの反応を抑制するために、1200℃以上の高温のアルミニウム溶湯中ヘホウ素を添加して溶解処理を行なう方法も提案されている。一方、特開平4−333542号には、ホウ素添加による溶湯の高粘性を原因とする鋳込み性の悪化を防ぐという観点から、680〜850℃の温度範囲でKBF4フラックスを添加してBとAlを反応させ、生成したAlB2結晶を含むAl−B合金中にK2TiF6を少量添加することによって、粘性の低い鋳込み性の良好なホウ素含有Al基合金を得る方法が提案されている。
【0005】
発明者らも、上記のようなホウ素含有Al基合金の開発について、かねてより研究を進めており、その研究の一環として特開平9−165637号のような技術も提案している。この技術は、ホウ素のうち中性子吸収能力が高い質量数10の同位体ホウ素10Bを95%以上(10B+11Bに対する割合)存在させることによってホウ素含有Al基合金の中性子吸収能力を高めたものであり、しかもこの技術ではホウ素をAlB2としてAl合金中に分散・含有させることにより、より安定した中性子遮蔽能力を発揮させると共に、スクラップとして再利用可能にした工夫も開示している。
【0006】
しかしながら、これまで提案されているホウ素含有Al基合金(若しくはホウ素含有Al)では、使用済み核燃料を貯蔵する容器に用いられる材料として要求される特性である高温強度やクリープ強度等が長期間に亘って安定して発揮できないという問題があり、しかも合金中に化合物として存在し得るホウ素が偏析を起こして、十分な中性子吸収作用を材料全体に亘って発揮することが困難な場合もある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、高温強度やクリープ強度等の高温での機械的特性が長期間に亘って安定して発揮することができると共に、合金中に化合物として存在し得るホウ素が偏析を防止してより良好な中性子吸収作用を材料全体に亘って発揮することのできるホウ素含有Al基合金、およびこうしたホウ素含有Al基合金を製造するための有用な方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、B:0.5〜10%を含有すると共に、10B/(10B+11B)≧30%を満足し、且つAl、BおよびMgを含有する化合物のうちの個数割合で80%以上のサイズが300μm以下である様なホウ素およびマグネシウム含有Al基合金によっても達成される。尚、このホウ素およびマグネシウム含有Al基合金においては、Mgと、Mn,SiおよびCuよりなる群から選択される1種以上の成分との合計含有量が0.01〜50原子%であるB含有化合物が、B含有化合物全体に対する個数割合で50%以上を占めるものであることが好ましい。
【0011】
また本発明のホウ素およびマグネシウム含有Al基合金においては、合金を複数に分割して個々の分割片毎に測定されるB含有量を比較したとき、その最大値と最小値の差が1.0%以下であることが好ましく、こうした要件を満足させることによって、合金中に化合物として存在し得るホウ素分布の均一度が達成されてより良好な中性子吸収能を材料全体に亘って発揮することができる様になる。
【0012】
一方、本発明のホウ素およびマグネシウム含有Al基合金を製造するにあたっては、(1)溶解温度を950℃を超える温度とすると共に、800〜950℃の温度範囲で鋳込むこととし、この際950℃から鋳込み温度までの保持時間を60〜1800秒とすること、(2)圧延加工または鍛造加工する工程において、この加工温度を250〜600℃とすると共に、1パス圧下率を40%以下として合計圧下率を50%以上となる加工を行なうこと、(3)押出し加工する工程において、この加工温度を400〜550℃として加工を行なうこと、等の製造条件を満足させつつ製造することによって実現できる。また、必要によって(1)〜(3)の要件を組み合わせて製造することも有効であり[例えば(1)+(2)、或は(1)+(3)]、これによってサイズが300μm以下の化合物中におけるホウ素分布の均一度がより一層良好なものとなる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、上記目的を達成するために、様々な角度から検討した。その結果、B含有量を適切にすると共に、含有されるB中における10Bの存在比[10B/(10B+11B)]を適切に調整したBおよびMg含有Al基合金において、製造における溶解時や圧延・押出などの熱間加工時の条件を適切にして、該合金中に存在するB含有化合物のうちの個数割合で80%以上のサイズを300μm以下に制御してやれば、優れた高温強度とクリープ強度が発揮されることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
ホウ素含有Al基合金の中性子吸収能を高めるためには、10Bを約20%含有する天然ホウ素を用いても、Al基合金中に多量に含有させることによってその効果を発揮させることができるが、BはAl基合金中では化合物の形態で存在するので、B含有量が増加するに従って増加する化合物の影響によって、Al基合金の高温強度やクリープ強度が劣化することになる。こうした観点から、本発明のAl基合金ではB含有量を10%以下にする必要があり、B含有量が10%よりも多くなるとAl基合金の機械的特性を著しく損なうことになる。
【0015】
一方、B含有量が0.5%未満となると、含有されるBの全てが10Bであっても、合金中のB濃度が希薄となって希望する中性子吸収能を発揮させることができなくなる。その対策として材料厚さを厚くすることも考えられるが、熱除去効率や貯蔵容器全体の寸法が大きくなってしまい、貯蔵容器の大型化はコストの点でも現実的ではない。
【0016】
こうした観点から、本発明のホウ素含有Al基合金においては、B含有量を0.5〜10%の範囲と規定するものである。尚、B添加前のAl合金の機械的特性を確保するという観点からすれば、B含有量は9%以下とすることが好ましい。
【0017】
ところで、10Bを約20%含有する天然ホウ素を用いて所望の中性子遮蔽能力を得るためには、ホウ素含有Al基合金の材料厚さを厚くすることや含有量を増加する必要がある。しかしながら、ホウ素含有Al基合金の材料厚さを厚くすることや添加量を増加すると、前述したような不都合を招くことになる。そこで、機械的特性を損なわないようなB含有量の範囲内(0.5〜10%)で十分な中性子吸収能を発揮させるためには、ホウ素の同位体である10Bの存在比[10B/(10B+11B)]を30%以上とする必要がある。
【0018】
即ち、この存在比が30%未満では、Al基合金の厚さが通常の状態では希望する中性子吸収能を発揮させることができなくなる。一方、この存在比は高くなればなるほど中性子吸収能が高くなって、Bの含有量を抑えることができ、しかもAl基合金の厚さも薄くできるが、設計上構造部材としてある程度の厚さは必要となること、およびその存在比があまり大きくなると非常に高価である10Bを多量に使用することになってコストが上昇することになる。こうした観点から、上記存在比は95%未満とすることが好ましい。
【0019】
上述の如く、本発明のホウ素含有Al基合金では、B含有量と含有させるBにおける10B存在比を適切に調整することによって、基本的には良好な中性子吸収能を有すると共に、B添加前のAl基合金の機械的特性を維持するものであるが、こうした要件を満足させるだけでは、Bの存在形態によっては容器用部材としての一様な中性子吸収能が得られないばかりか、機械的特性を損なったりすることから長期間安定して核燃料を貯蔵することには危倶がある。
【0020】
ホウ素含有Al基合金に高温強度やクリープ強度等の機械的特性を長期間に亘って安定して発揮させるためには、Al基合金中のBを含有する化合物のサイズが300μm以下である必要がある。このB含有化合物の形態は、塊状、針状あるいは板状等、様々であるが、本発明における「B含有化合物のサイズ」とは、板厚方向や板幅方向にかかわらず、その最長の寸法の意味である。このB含有化合物のサイズが300μmを超えてAl合金中に在する場合には、機械的特性(特に、高温強度や伸び)が損なわれることになる。また、中性子吸収能の観点からすればB含有化合物が均一に分散してしていることが好ましいが、B含有化合物のサイズを300μm以下にすることによって、当該化合物の均一度が達成され易くなり、このサイズが300μmを超えて大きい場合には、Al基合金全体に亘って均一な中性子吸収性能を発揮しにくくなる。
【0021】
本発明におけるB含有化合物とは、AlB2、AlB12、TiB、CrB、FeB、B203、B4C等のいずれをも含む趣旨であって、その種類に限定するものではない。尚これらの化合物は、Al合金溶湯にBを添加して生成したものの他、原料粉末の段階で予め化合物の形態にしたものをAl基合金溶湯(またはAl溶湯)に添加するものもあるが、その由来に限定されないことは勿論である。また、本発明のホウ素含有Al合金においては、必ずしも上記B含有化合物の全てが300μm以下である必要はなく、全B含有化合物のうちの80%以上が300μm以下のサイズとなっていれば、本発明の効果が発揮されるものである。
【0022】
また、本発明者らが上記B含有化合物の種類と機械的特性との関係について検討したところ、上記B含有化合物のうち最も主要な化合物であるところのAlとBからなる化合物(AlB2やAlB12)に着目し、この化合物のサイズが300μm以下となっていれば、本発明の効果が達成されることも分かった。
【0023】
ところで、Al基合金の場合には、その機械的特性を向上させるために、MgやMn等の合金元素を添加するのが一般的である。例えば、前記特開平1−312043号には、Mgを添加することに関して、「溶解処理を700〜800℃程度の温度条件で行うと、溶解時にAl−B−Mg系の金属間化合物が形成してしまい、強度低下をきたす」として、溶解温度を1200℃以上と規定している。
【0024】
本発明者らは、Al基合金に上記の様な合金成分が含有される場合を想定し、上記の様なAl−B−Mg系の金属間化合物が形成されても、溶解条件を厳密に制御してこのAl−B−Mg系化合物の微細化を達成すれば、本発明の効果が達成されることも見出した。また、化合物微細化効果は、上記Al−B−Mg系の化合物だけでなく、Mn、Si、Cu等の少なくともいずれかを含有するB含有化合物の場合であっても同様に達成されることも判明した。即ち、本発明においては、合金元素としてMgを主に含む5000系や6000系のAl基合金だけでなく、Mnを主に含む3000系やCuを主に含む2000系Al基合金等においても、AlとBの他にこうした合金元素を含むB含有化合物のサイズ(300μm以下)や形態を制御することによって、本発明の効果が達成できたのである。
【0025】
上記のような合金成分(即ち、Mg,Mn,SiおよびCuよりなる群から選択される1種以上の成分)を含むB含有化合物は、その形態によりBの分布、B含有化合物サイズ等が変化し、中性子吸収能や高温強度特性に影響を及ぼすことになる。そしてこの形態としては、B含有化合物中における当該合金成分の合計含有量が0.01〜50原子%以下であるB含有化合物が、B含有化合物全体に対する個数割合で50%以上であることが好ましい。
【0026】
即ち、本発明によるB含有化合物微細化効果を発揮させるためには、B含有化合物中の合金成分の合計含有量が0.01原子%以上とするのが良く、より好ましくは0.1原子%以上とするのが良い。一方、50原子%を超えると、上記合金元素による母材中の強度確保の効果が著しく低下し、高温強度の低下をもたらすことになる。この合金成分の合計含有量のより好ましい上限は、40原子%程度である。
【0027】
そして、合金成分の合計含有量が0.01〜50原子%であるB含有化合物が、B含有化合物全体に対する個数割合が50%以上であれば、本発明によるB含有化合物微細化効果がより一層顕著なものとなる。このB含有化合物の個数割合のより好ましい下限は、55%程度である。
【0028】
尚、B含有化合物中における上記合金成分(Mg,Mn,SiおよびCuよりなる群から選択される1種以上の成分)の含有量および個数割合の測定方法としては、EPMA、SEMおよびFE−SEMによるEDX、TEMおよびFE−TEMによるEDX等によって、1つ1つ化合物を分析することで定量化することができる。このとき、その精度をより向上させるためには、測定個数は100個程度以上とするのが良い。
【0029】
本発明のホウ素含有Al基合金では、上記した各種のB含有化合物のサイズや形態を制御することによって、高温強度やクリープ強度等の機械的特性が改善されたのであるが、こうした効果は合金全体に亘って均一に発揮される必要がある。即ち、ホウ素含有Al基合金からなる部材を実用に供する際には、部材の部分毎のB含有量におけるばらつきの有無が重要なポイントとなる。本発明のホウ素含有Al基合金では、B含有化合物が均一に分散した状態となり、B含有量のばらつきは比較的小さいものであるが、部材性能の信頼度をより高め、性能の余裕を出来るだけ抑え、無駄のない構造設計をする上では、部材の各部分におけるB含有量のばらつきを適切に抑制することが有効である。
【0030】
即ち、本発明のホウ素含有Al基合金は、その用途に応じて圧延材、押出材、鍛造材として用いられるものであるが、どのような製造工程によった部材であっても、その形状や寸法によらず、「合金を複数に分割して個々の分割片毎に測定されるB含有量を比較したとき、その最大値と最小値の差が1.0%以下である」という要件を満足することが好ましい。上記差が1.0%を超えると、中性子吸収能にばらつきが生じるだけでなく、その機械的特性にもばらつきが生じることから部材の厚肉化をまねき、ひいてはコストの増加を招くばかりか、熱除去の効率を悪化させる。その結果、より高い高温強度が必要となり、好ましくない。
【0031】
次に、本発明の製造方法について説明する。上記した本発明のホウ素含有Al基合金を製造するにあたっては、溶解温度を950℃を超える温度とすると共に、800〜950℃の温度範囲で鋳込むこととし、この際950℃から鋳込み温度までの保持時間を60〜1800秒とする製造条件を満足させるのが良い。
【0032】
この製造方法においては、B含有化合物のサイズを300μm以下とすると共にできるだけ均一に分散させるための条件として、溶解温度を950℃を超える温度とするものである。即ち、添加Bを均一に分散させるためには、添加Bを950℃を超える温度のAl合金溶湯中で一旦固溶させる必要がある。この溶解温度が950℃以下となると、Al合金溶湯に添加されるB含有原料化合物がAl合金溶湯中に固溶せず、大きな塊のまま鋳塊中まで残留し、機械的特性の劣化を及ぼすことになる。この溶解温度のより好ましい範囲は、960℃以上である。
【0033】
尚、B含有原料化合物として、TiBやCrB等の粉末を使用する場合には、Alの溶解温度を950℃を超える温度にしなくてもBが固溶し易い状態となるが、Bの添加はこうした原料粉末だけを用いて行なうことはむしろ希であり、溶解温度を950℃を超える温度とすることによって原料粉末中の添加Bを固溶させるのが一般的であるので、上記溶解温度はこうした観点からその技術的意義を有するものである。
【0034】
溶解の後の鋳込み温度は、800〜950℃とするのが良い。この鋳込み温度が800℃未満の場合、鋳型での凝固時間が短くなって鋳塊中のB分布均一化には有効であるが、その反面、鋳込み温度に達するまでにB含有化合物が成長してそのサイズが大きくなる傾向にある。その結果、強度や伸びに不都合が生じる。一方で、鋳込み温度が950℃を超えると、B含有化合物サイズは小さくなるが、鋳型での凝固時間が長くなりBが沈降凝集するためB分布が悪化する。この鋳込み温度の好ましい下限は820℃程度であり、好ましい上限は930℃程度である。
【0035】
950℃から上記鋳込み温度までの保持時間の制御は、B含有化合物のサイズの制御に有効である。この温度範囲での保持時間が長いと、B含有化合物の形態およびサイズの成長があり好ましくない。即ち、この保持時間が1800秒を超えると、B含有化合物のサイズが300μmよりも大きくなり、機械的特性の劣化を招く。一方、保持時間が短いと、本発明によるB含有化合物の形態制御による微細化効果が発揮されにくくなる。この保持時間の好ましい下限は120秒程度であり、好ましい上限は1500秒程度である。
【0036】
この製造方法においては、上記のように溶解温度、鋳込み温度、および950℃から鋳込み温度までの保持時間を適切に規定することによって、ホウ素含有Al基合金中のB含有化合物のサイズやB分布均一化を達成することができるのであるが、こうした製造条件に加えて、溶湯の冷却速度の制御を行なうこともB分布を改善する上で有効である。
【0037】
鋳込み温度から合金の凝固が始める温度(特に液相温度)までの冷却速度は、B含有化合物の沈降凝集に影響する。そしてB含有化合物は、Al合金よりも比重が大きいものが多く、凝固するまでのB沈降が、Al基合金中のB分布のばらつき低減に効果がある。こうした観点から鋳込み温度から凝固開始温度までの冷却速度は、大きいほどその効果が発揮されるが、より好ましくは、0.05℃/秒以上とするのが良い。
【0038】
また、合金の液相温度から固相温度までの凝固速度(冷却速度)は、凝固過程におけるAl母相の凝固と共に排出されるB含有化合物のマクロ・ミクロ偏析をさらに低減させるのに効果がある。こうした観点から、このときの凝固速度は、0.01℃/秒以上とするのが好ましい。
【0039】
尚、本発明のホウ素含有Al基合金を製造するときの鋳造方法については、上記の製造条件を満足するものであれば良く、通常の半連続鋳造、連続鋳造、または所定の鋳型による鋳造方法のいずれも採用できる。但し、所定の鋳型に鋳込む方法に用いる鋳型は、冷却速度を向上させるために、その鋳型材質は鋳鉄または銅製、或いは水冷鋳型を用いるのが好ましい。
【0040】
また、上記本発明のホウ素含有Al基合金を製造する方法として、圧延加工または鍛造加工する工程において、この加工温度を250〜600℃とすると共に、1パス圧下率を40%以下として合計圧下率を50%以上となる加工を行なうことも有効であり、こうした加工条件を満足させることによってAl基合金中のB含有化合物のサイズを300μm以下に微細化できると共に、より均一に分散させることが可能となる。また、鋳塊ままではミクロ的にB含有化合物が多い部分と少ない部分があるので、中性子吸収能および機械的特性を向上させるには、B含有化合物を均一に分散させる方が好ましいが、通常の加工条件では割れが生じやすく最適条件を選択する必要がある。こうした観点からしても、上記加工条件は有用である。
【0041】
この製造方法においては、加工温度は250〜600℃とするのが良い。B含有化合物を含むホウ素含有Al基合金は、圧延等の加工により割れが生じ易く、250℃未満ではコバや耳割れが生じる。一方、この加工温度が600℃を超えると表面に焼き付きが生じ、表面品質を低下させる。この加工温度の好ましい下限は300℃程度であり、好ましい上限は550℃程度である。
【0042】
この製造方法においては、上記加熱温度に加えて1パス当たりの圧下率(1パス圧下率)も併せて制御する必要がある。即ち、上記のようなコバや耳割れの発生を防止するためには、1パス圧下率を40%以下とする必要がある。この圧下率は小さくなればなるほどAl基合金の表面肌の荒れは少なくなるが、最終的な加工温度の低下を招くことになる。こうした観点から、この圧下率の好ましい上限は35%程度である。但し、Al基合金中のB含有化合物のサイズを300μm以下に微細化すると共に、より均一に分散させるという効果を発揮させるためには、少なくとも合計圧下率を50%以上とする必要がある。
【0043】
更に、上記本発明のホウ素含有Al基合金を製造する為の別の方法として、押出し加工する工程において、この加工温度を400〜550℃として加工を行なうことも有効であり、こうした加工条件を満足させることによってAl基合金中のB含有化合物のサイズを300μm以下に微細化できると共に、より均一に分散させることが可能となる。上記押出し加工は、種々の設計形状の加工品を製造する方法として有用である。この形状は様々であり、単純な板形状から、コーナー部にRやL型等複雑な設計を付加したものや、中空パイプ形状のものも製造でき、その後の機械加工の手間を低減させ、低コスト化するのに有効である。
【0044】
例えば、中空パイプ形状に押出す通常のAl合金の押出し方法においては、ポートホールによる方法が採用されており、この方法は押出し前のビレットが、ダイス内で数箇所に分かれ、押出し出口のダイスにより、各部が溶着してパイプ形状とする方法であるが、こうした押出し方法は、ホウ素含有Al合金を対象とした場合には、通常の条件では押出し性に問題が生じる。
【0045】
上記製造条件は、本発明に係るホウ素含有Al基合金を押出し加工する条件として、上記の溶着性を満足させるために、最適な押出し条件を規定したものである。このときの加工温度が400℃未満になると、この溶着性が悪くなるばかりか、変形抵抗の増大により押し詰まりが発生し、押出し加工自体が不可能となる。また、加工温度が550℃を超えると、ダイスヘの焼き付きにより表面品質が悪くなるだけでなく、それに伴い寸法精度も悪化する。
【0046】
本発明で対象とするAl基合金の基本成分については、特に限定されるものではなく、6000系、5000系、4000系、3000系、2000系、1000系、および鋳物では通常の4000系(Al−Si系)のいずれのAl基合金でも使用できるものである。こうしたAl基合金には、上記各系の基本成分の他に、その特性を阻害しない程度の少量Zn,Cr,Fe等を含んでいても良く、またMo,Nb,Ni等の不可避的不純物を含むAl基合金も本発明の対象となるものである。
【0047】
尚、鋳塊、板および押出し材の後の熱処理は、要求される用途、強度によって異なるため、通常のAl合金に対して行われている熱処理や冷延処理を施こすこともできる。但し、合金の種類によっては、所定の熱処理を施すことにより、さらに優れた機械的特性(引張強度、延性等)が得られる。例えば、6000系合金では、圧延や押出しなどの熱問加工を施した後、溶体化処理(515〜550℃)→焼入(水焼入れ等)→時効硬化熱処理(155〜165℃)を施すことにより、300MPa以上の非常に優れた引張強度を得ることができる。
【0048】
また鋳塊において、表面部深さ3mm以上の面削を行なうことも好ましく、こうした処理によって表面品質の良い鋳塊、板、押出し材ができる。即ち、この鋳塊表面付近は、B含有化合物の偏析や成分の偏析相が生じ易く、本発明で規定する化合物形態の範囲を満たさないだけでなく、陽極酸化処理等の表面処理を施して使用する際に、表面むらが発生し好ましくないからである。この面削の好ましい表面深さは、3.5mm以上である。
【0049】
以下、実施例によって本発明の作用・効果をより具体的に示すが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0050】
【実施例】
実施例1
下記表1に示す組成の6000系合金を溶解温度1050℃、鋳込み温度900℃で造塊し、厚さ300mmの鋳塊(インゴット)を得た。
【0051】
【表1】
【0052】
上記インゴットを均熱処理した後表面面削し、更に熱間圧延を開始温度500℃より行ない、厚さ:10mmの板材を製造した。このとき鋳塊で面削してから均熱処理でも良いが、均熱後の方が表面酸化物が除去でき、表面品質の良い板ができる。また熱間圧延前に所定の形状を得るために鍛造工程を行ってもよい。尚、これらの6000系合金には、T6処理(530℃で1時間の溶体化処理および180℃で24時間の時効処理)を施した。得られたAl基合金板材について、下記の項目について調査した。
【0053】
(B含有化合物サイズと形態の測定)
作製した板材からサンプリングを行ない、SEMまたはSEM−EDX(EDSとも呼ぶ)によってB含有化合物のサイズと形態を測定した。また、EDXによって各化合物中のBの存在を確認した。このとき、各B含有化合物中の成分X(Mg、Mn、Si、Cu等の意味)の含有量を各化合物中に占める割合として(原子%)測定した。B含有化合物のサイズについては、角形状であれば長軸側の長さを、球状形状であれば最大直径の長さをよりB含有化合物のサイズとして測定した。尚、測定個数は、200個とした。
【0054】
(室温引張り試験)
上記の板材からJIS Z 2201の5号試験片(25w×50GL×板厚)を採取し、室温引張試験を行なった。このとき試験片の採取方向は、圧延方向に直角とし、引張速度として0.2%耐力までは1MPa/sec、耐力以降は20mm/minを与えた。また、JIS Z 2241(1980)(金属材料引張試験方法)に基づき、室温20℃で試験を行なった。これらの方法によって強度、0.2%耐力、伸びの評価を行なった(N数は9)。
【0055】
(高温引張り試験)
Al合金に関する高温引張試験方法については、JISには規定されていないため、JIS G 0567(1978)(φ6mm×30GL)に従った。試験片の採取方向は圧延方向に直角とし、引張速度として0.2%耐力までは0.3%/min、耐力以降は7.5%/minを与えた。N数は9とした。試験温度は200℃とし、引張り強度、0.2%耐力、伸びを評価した。
【0056】
(クリープ特性)
高温クリープ試験は、JIS Z 2271(1978)に準拠し、クリープ破断試験を実施した。試験片はφ6mmの丸棒試験片とし、試験片の採取方向は圧延方向に直角とした。試験条件は、200℃で荷重:5kg/mm2とし、破断時間を測定した。評価基準は以下の通りである。
○:破断時間が10時間を超える
×:破断時間が10時間以内
【0057】
(B分布測定)
板の長手方向の先端および後端、および幅方向の中央部、端部よりサンプルを採取し、ICP発光分析法によって分析を行い、最大値と最小値の差をもって、以下の基準で評価した。
◎:最大値と最小値の差が0.5%以下
○:最大値と最小値の差が1.0%以下
×:最大値と最小値の差が1.0%を超える
【0058】
このようにして得られた結果を下記表2に一括して示すが、この結果から以下のように考察することができる。即ち、本発明で規定する要件を満足する600系ホウ素含有Al基合金(No.1〜5)は、いずれも高温強度やクリープ特性が良好であることが分かる。これに対して本発明で規定する要件のいずれかを欠くAl基合金(No.6〜10)では、B含有化合物の粗大化、成分X含有量増大、B分布の偏りといった不都合が生じた。
【0059】
【表2】
【0060】
実施例2
下記表3に示す組成の5000系合金を用い、実施例1と同様の鋳造条件で造塊した。
【0061】
【表3】
【0062】
このようにして得られたインゴットを均熱処理した後表面面削し、更に熱間圧延を開始温度500℃より行ない、厚さ:10mmの板材を製造した。尚、これらの5000系合金に関しては、H34処理を施し、実施例1と同様の基準で評価した。その結果を表4に示すが、上記実施例1と同様の結果が得られていることが分かる。
【0063】
【表4】
【0064】
実施例3
下記表5に示す組成の3000系合金を用い、実施例1と同様の鋳造条件で造塊した。
【0065】
【表5】
【0066】
このようにして得られたインゴットを均熱処理した後表面面削し、更に熱間圧延を開始温度500℃より行ない、厚さ:10mmの板材を製造した。尚、これらの3000系合金に関しては、H34処理を施し、実施例1と同様の基準で評価した。その結果を表6に示すが、上記実施例1と同様の結果が得られていることが分かる。
【0067】
【表6】
【0068】
実施例4
前記表1に示した6000系合金のうちのNo.1の組成のAl基合金を用い、下記表7に示す鋳造条件で造塊し、均熱処理した後、熱間圧延または熱間押出しを行なって板材を得た。
【0069】
【表7】
【0070】
上記板材について、T6処理(530℃で1時間の溶体化処理および180℃で24時間の時効処理)を施し、実施例1と同様の基準で評価した。また、板材の表面性状について目視で確認し、下記の基準で評価した。
○:割れの発生なし
×:割れが生じる
【0071】
得られた結果を表8に示すが、この結果から以下のように考察することができる。即ち、本発明法で規定する要件を満足する条件によって得られたAl基合金(A〜E)は、いずれもB含有化合物のサイズが小さく、強度・延性に優れていることが分かる。また、本発明法で規定する熱間加工を実施することにより、B分布、表面状態ともに更に良好になっていることが分かる。これに対して、本発明法で規定する要件のいずれかを欠く条件によって得られたAl基合金(F〜J)では、B含有化合物の粗大化、延性低下、表面荒れ、B分布の偏りといった不都合が生じた。
【0072】
【表8】
【0073】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、高温強度やクリープ強度等の高温での機械的特性が長期間に亘って安定して発揮することができると共に、合金中に化合物として存在し得るホウ素が偏析を防止してより良好な中性子吸収作用を材料全体に亘って発揮することのできるホウ素含有Al基合金が実現できた。
Claims (6)
- B:0.5〜10%(質量%の意味、以下同じ)を含有すると共に、10B/(10B+11B)≧30%を満足し、且つAl、BおよびMgを含有する化合物のうちの個数割合で80%以上のサイズが、300μm以下であることを特徴とする中性子吸収作用を有し高温強度特性に優れたホウ素およびマグネシウム含有A1基合金。
- Mgと、Mn,SiおよびCuよりなる群から選択される1種以上の成分との合計含有量が0.01〜50原子%であるB含有化合物が、B含有化合物全体に対する個数割合で50%以上を占めるものである請求項1に記載のホウ素およびマグネシウム含有Al基合金。
- 合金を複数に分割して個々の分割片毎に測定されるB含有量を比較したとき、その最大値と最小値の差が1.0%以下である請求項1または2に記載のホウ素およびマグネシウム含有Al基合金。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のホウ素およびマグネシウム含有Al基合金を製造するにあたり、溶解温度を950℃を超える温度とすると共に、800〜950℃の温度範囲で鋳込むこととし、この際950℃から鋳込み温度までの保持時間を60〜1800秒とすることを特徴とする中性子吸収作用を有し高温強度特性に優れたホウ素およびマグネシウム含有Al基合金の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のホウ素およびマグネシウム含有Al基合金を製造するにあたり、圧延加工または鍛造加工する工程において、この加工温度を250〜600℃とすると共に、1パス圧下率を40%以下として合計圧下率を50%以上となる加工を行なうことを特徴とする中性子吸収作用を有し高温強度特性に優れたホウ素およびマグネシウム含有Al基合金の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のホウ素およびマグネシウム含有Al基合金を製造するにあたり、押出し加工する工程において、この加工温度を400〜550℃として加工を行なうことを特徴とする中性子吸収作用を有し高温強度特性に優れたホウ素およびマグネシウム含有Al基合金の製造方法。
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