JP4057355B2 - 火薬類から発生する気体の測定法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、火薬類から生成する気体の測定法に関し、特に古い火薬の安定性試験に好適に用いられる測定法に関する。
【0002】
【従来の技術】
火薬類が経時変化等により劣化すると、所定の爆発力が得られないなどの性能面での影響が出る上、自然発火や偶発的な爆発事故を起こす恐れが増大する。火薬類は、温度、湿度及び光の影響を受け、保管状況によって劣化の速度が変化する。従って、火薬類は、製造後の経過時間のみではその劣化の度合いが把握し難い。
従来、火薬類の製造及び保管の現場では、アベル耐熱試験方法により火薬類の劣化の診断が行なわれている。以下に図9及び図10を参照して硝酸エステルを含む火薬を例としたアベル耐熱試験方法を説明する。
図9は、アベル耐熱試験を行う装置90の概略図であって、91は所定温度の湯を入れるための容器である。容器91は、測定試料を封入する試験管92及び浴湯温度を測定するための温度計93を備える。一方、図10は、試験管92を説明するための概略図である。試験管92の上部には、ガラス棒94aを備えるゴム栓94が取付けられており、ガラス棒94aの下端には、鍵状の白金線94bに吊るされたヨウ化カリウムでんぷん試験紙94cが設けられている。
図9及び図10に示す装置を用いてアベル耐熱試験方法を行うには、まず、試料の硝酸エステルを含む火薬が粒状の場合はそのまま、方形、帯状、紐状等の大型の火薬は細片状にし、適量の該試料を試験管92内に採取する(図示せず)。該試料が吸湿している場合には、予め常温で真空乾燥等により充分乾燥を行った後に試験管92内に採取する。次いで、試験紙94cを有するガラス棒94aを備えたゴム栓94により試験管92に栓をする。この際、試験紙94cは、上半部に蒸留水とグリセリンとの等分混合液を湿らせておく。続いて、図9に示すように試験管92を装置90に設置する。ここで、図10における試験管92に施した刻線92aは、試験管92を装置90に設置する際の湯浴上面の臨界位置を示し、刻線92bは実際の湯浴上面の位置を示し、刻線92cは試験管92の1/3の高さの位置を示す。また、容器91には、所定温度、通常65℃の所定量の浴湯を予め入れておく。
測定は、試験管92を装置90の所定位置に設置してから、試験紙94cの乾湿境界部に標準色紙と同一濃度の色調が現れるまでの時間を計測することにより実施する。この測定時間を耐熱時間とし、この時間によって火薬類の劣化状態を判断する。
【0003】
このような従来のアベル耐熱試験方法では、次の様な課題がある。
まず、火薬類の劣化過程には、一酸化窒素(NO)を放出しながら分解する過程と、二酸化窒素(NO2)を放出しながら分解する過程が存在すると予測される。しかし、アベル耐熱試験方法では、NO2の量を定量するため、NOに関しては十分な注意がなされていない。また、アベル耐熱試験方法におけるNO2の定量において、劣化の判定基準は、200ppmという非常に高い値であり、火薬の安定性を詳細に調べるには感度が低すぎる。更に、測定が、試験管内の試験紙の色を目視により判定するという官能試験により実施されるため、経験や実験室光源の色温度等によって結果に差が生じるという問題もある。
【0004】
一方、化学物質の汎用的な分析には、各種方法が用いられている。中でも、質量分析法は、感度や選択性に優れる分析法として知られている。質量分析法では、質量と電荷との比(m/z)に依存して分離するために試料のイオン化が必要である。汎用のイオン化方法としては、(a)真空中における電子衝撃による方法、(b)一次イオンと試料分子との化学反応による方法、(c)電場による電子のトンネル効果を利用する方法、(d)固相界面における中性原子の衝撃による方法が挙げられる。
方法(a)は、操作性が容易であり、再現性も良い。方法(b)は、一次イオンとの反応性により試料の種類別に感度差が生じる。方法(c)は、多量の試料が必要であり、また装置が大型化する。方法(d)は、試料調整が容易で、高沸点試料の測定が可能である。
しかし、これらの方法(a)〜(d)は、火薬類から発生する気体試料を普遍的に高効率でイオン化するには必ずしも十分ではない。
一般に、気体混合物中の特定物質を特定するには、該特定物質を気体混合物から分離する必要がある。このような分離方法としては、例えば、ガスクロマトグラフィ・質量分析法(Gas Chromatography/Mass Spectrometry(以下GC/MSと略す)が知られている。この方法は、気体混合物から特定物質をGCにより分離し、MSで分析するシステムである。しかし、この方法では、測定に時間がかかるため経時的に劣化する様子を連続的にモニタするのが困難である他、常に標準物質を用いて維持管理する必要がある。他の分析方法についても分離手段を用いる場合には同様の問題が生じる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、試料採取が容易であり、火薬類から発生する気体を、短時間、且つ高精度において安定的に測定することが可能な火薬類から発生する気体の測定法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、火薬類から気体を発生させる工程(1)と、大気から一次イオン及び中性分子を生成させる工程(2)と、工程(2)で生成した中性分子の侵入を抑制又は防止した領域内において、工程(2)で生成した一次イオンと工程(1)で発生した気体に含まれる測定対象試料とを反応させ、該試料をイオン化する工程(3)と、工程(3)によりイオン化された試料を質量分析する工程(4)とを含み、工程(1)において温度を変えながら一酸化窒素及び二酸化窒素を含む気体を発生させ、該温度を変えながら気体を発生させた各々の温度において、工程(4)により一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度を同時に測定することを特徴とする火薬類から発生する気体の測定法が提供される。
工程(1)において、火薬類から気体を発生させるには、火薬類を所望温度に温度を変えながら昇温する。発生する気体は、火薬類からの分解物、例えば、NO、NO2等の測定対象試料を含む。
ここで、NOやNO2を分解し放出する火薬類としては、例えば、ニトログリコール、ニトログリセリン、四硝酸ペンタエリスリトール(=ペンタエリスリトールテトラナイトレート)、トリニトロトルエン、ニトロセルロース、トリメチレントリニトロアミン、2,4,6−トリニトルフェニルニトロアミン等が挙げられる。これらの火薬類は、使用に際して1種又は2種以上配合して用いることができる。また、他の材料が配合された火薬類も使用することができる。
【0007】
工程(2)は、例えば、針電極に高電圧を印加し、針電極先端付近にコロナ放電を発生させる方法により実施できる。該コロナ放電により、大気から酸素イオン等の一次イオン及びNO等の中性分子が生成する。
【0008】
工程(3)は、工程(2)で生成した一次イオンと工程(1)で発生した気体に含まれる測定対象試料とを反応させ、該試料をイオン化する工程である。ここで、工程(1)で発生する気体と工程(2)で発生する一次イオン及び中性分子とを同一領域内で反応させると、高精度の測定が困難になる。その理由は、工程(1)において火薬類から発生する気体中に存在する測定対象試料としてのNOと、工程(2)で生成する中性分子としてのNOとが区別できないからである。
従って、本発明の測定法における工程(3)では、前記工程(2)で生成した一次イオンと工程(1)で発生した気体に含まれる測定対象試料との反応を、工程(2)で生成した中性分子の侵入を遮断した領域内で行う必要がある。
中性分子を遮断する方法としては、例えば、後述する図3に示すように、一次イオンと測定対象試料とが反応する領域内に該中性分子が侵入することを抑制又は防止しうるように、排気系の配置を適宜選択し、工程(1)で発生する気体の流れと中性分子の流れとを制御すると共に、一次イオンと測定対象試料との反応を大気圧イオン化法により行う方法等が挙げられる。このような大気圧イオン化法では、気体中の物質を連続的にモニタすることができ、短時間で且つ簡便に気体成分のイオン化を行うことができる。
【0009】
工程(4)において、質量分析法は、特に限定されず、例えば、永久磁石を用いた質量分析器、四重極型質量分析器又はイオントラップ型質量分析器等を用いた質量分析方法により行うことができる。
【0010】
また本発明によれば、火薬類から気体を発生させる気体発生手段と、気体発生手段から発生する気体に含まれる測定対象試料をイオン化する大気圧イオン化手段と、大気圧イオン化手段により得られたイオン試料を質量分析する分析手段とを備え、前記大気圧イオン化手段が、一次イオン及び中性分子を生成させるコロナ放電部と、該コロナ放電部により生成した一次イオンと測定対象試料とを反応させるイオン化反応領域とを備え、更に、前記イオン化反応領域にコロナ放電により生成した中性分子の侵入を抑制又は防止するための中性分子侵入阻止手段を有することを特徴とする火薬類から発生する気体の測定装置が提供される。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の測定法と測定装置とを図面を参照して更に詳細に説明するが、本発明はこれら図面の例に限定されない。
図1は、本発明の測定法に用いられる測定装置の一例を説明するための概略図である。
測定装置10は、火薬類から気体を発生させるガス発生器3と、測定対象試料をイオン化するための大気圧イオン化手段としてのイオン源発生器5と、イオン化された試料を質量分析する質量分析計6とを備える。
図1に示されるように、ガス発生器3には、大気等を吸入するための吸気プローブ1及び吸入した気体の流れを制御するフローコントローラー2が接続されている。ガス発生器3とイオン源発生器5とはガス導入配管4により接続されており、イオン源発生器5には、該イオン源発生器5中の気体の一部を排気するための吸気ポンプ8が接続されている。図1の例においては、イオン源発生器5と吸気ポンプ8との間に、該イオン源発生器5から排出される気体の流量を確認的に計量しうる計量計7が接続されている。
吸気ポンプ8を通過した空気は、実験室等に排出されるが、火薬からのガス発生量が多く、実験者の健康に影響を及ぼす恐れのある場合には、吸気ポンプ8の排気口を排気ダクト等に結合する等の処置を行ない、排気を屋外に排出すると良い。
【0012】
図2は、図1におけるガス発生器3の構造の一例を説明するための概略図である。
ガス発生器3は、大気を吸気する配管2a及びガスをイオン源発生器5に導くためのガス導入管4が接続されたガス発生室21と、該ガス発生室21内に設けられた試料としての火薬類20を載置するステンレス容器22とを備える。
ガス発生室21の周囲には、該室21内を所望の温度に保持するために、ヒーター21a及び断熱材層21bが設けられており、壁面には、室21内の温度をモニタしながらヒーター21aの出力を制御し、温度管理をしうる熱電対(図示せず)が設置されている。
火薬類20を載置する容器22は、容器ホルダ23によりガス発生室21内に固定されている。
ガス発生室21に接続するガス導入管4の周囲には、管4内を所望の温度に保持するために、ヒーター4a及び断熱材層4bが設けられている。また、ガス発生室21とガス導入管4との結合部には、気密性を保持するためにOリング24が設置されている。
【0013】
ガス発生器3において火薬類20から気体を発生させるには、まず、試料としての火薬類20を容器ホルダ23内に載置する。次いで、ヒーター21aによりガス発生室21内を所望温度に制御することによって、火薬類20から測定対象試料を含む気体を発生させることができる。
一方、吸気プローブ1により吸気される大気は、フローコントローラー2により流量が所望量に制御され、ガス発生室21内に送られ、火薬類20から発生する気体と混合されてガス導入管4に送られる。
ここで、大気の流量、ガス発生室21内及びガス導入配管4内の温度は、火薬の種類、形態、更には測定対象試料の種類等に応じて適宜決定することができる。例えば、ガス発生室21内への大気の流量を毎分2リットル、ガス発生室21の壁面温度を40℃、ガス導入管4の壁面温度を180℃に設定する例が挙げられる。
【0014】
図3は、図1におけるイオン源発生器5の構造の一例を説明するための概略図である。
イオン源発生器5は、コロナ放電を行うための針電極31及び対向電極32を備え、一次イオン及び測定対象試料を反応させるイオン化反応領域30aを有するイオン源保持部30と、イオン化反応領域30aに測定対象試料を含む気体を供給しうるガス流通空間35と、イオン化反応領域30aにおいて生成したイオン化された試料を質量分析計6に導くイオン化試料輸送部37とを備える。
イオン源保持部30のイオン化反応領域30aとガス流通空間35とは、細孔36により連通している。イオン源保持部30は、コロナ放電により生成した中性分子及びガス流通空間35より導入される気体を含むガスを排気するための排気管34aを備える。一方、ガス流通空間35には、図2に示すガス発生器3からの測定対象試料を含む気体を導入するためのガス導入配管4が接続されており、該気体を排気する排気管34bを備える。前記排気管(34a、34b)は、それぞれ吸気ポンプ34cに接続され、排気管34aと吸気ポンプ34cとの間には、該イオン源保持部30から排出される気体の流量を確認的に計量しうる計量計34dが接続されている。
【0015】
イオン化試料輸送部37は、細孔付電極(37a、37b)と、中間電極37cとを備える。細孔付電極37aと中間電極37cとの間には差動排気部39aが形成されており、中間電極37cと細孔付電極37bとの間にはガス排気管に連通するスペース39bが形成されている。
細孔付電極37aは、ガス流通空間35と連通する細孔38aを備え、中間電極37cは、差動排気部39aとガス排気スペース39bとを連通する開孔38cを備え、細孔付電極37bは、質量分析計6にイオン試料を導入するための細孔38bを備える。
【0016】
次に、イオン源発生器5における操作及び作用について説明する。
イオン源発生器5における針電極31と対向電極32との間に高電圧を印加することにより針電極31の先端付近にコロナ放電が発生し、窒素、酸素、水蒸気等がイオン化される。これらのイオンを一次イオンと呼ぶ。一次イオンは、電界により対向電極32側に移動し、一方、測定対象試料を含む気体は、ガス流通空間35から対向電極32内に設けられた細孔36を通ってイオン化反応領域30a側に流れ、該領域30aにおいて一次イオンと測定対象試料とが反応してイオン試料が生成する。この際、一次イオンの一部が細孔36を通ってガス流通空間内で測定対象試料と反応する場合もあるが、このような反応は後述する中性分子との反応とは関係ないので測定に影響を及ぼさない。
生成したイオン試料は、対向電極32と細孔付電極37aとの間に、例えば、1kV程度の電位差を生じさせることにより、細孔付電極37a方向に移動して、細孔38aを介して差動排気部39aに取り込まれる。差動排気部39aでは断熱膨張が起こり、イオン試料に溶媒分子等が付着し、いわゆるクラスタリングが生じる場合がある。該クラスタリングを軽減するためには、細孔付電極(37a、37b)をヒーター等で加熱することが望ましい。図3に示す例においては、細孔付電極(37a、37b)の間に、開孔38cを有する中間電極37cを設けることにより、該中間電極37cによって差動排気部の圧力を制御し、細孔38aの両端の圧力差を小さくすることでクラスタリングを低減させうる。
細孔38a及び開孔38cを通過したイオン試料は細孔付電極37bに設けられた細孔38bを通って、質量分析計6に導入される。
【0017】
次に、図3におけるガスの流れについて説明する。
前述の針電極31及び対向電極32によるコロナ放電によって生成する一次イオンは対向電極32側に移動するが、該コロナ放電により生じるNO等の中性分子は、ガス流通空間35からの気体の流れが対向電極32から針電極31の方向に流れているので、このガスの流れによりイオン化反応領域30aに到達する前に排気管34aを介して外部へ排気される。また、ガス流通空間35内の余分な気体も排気管34bを介して外部へ排気される。ここで、ガス流通空間35における余分な気体の一部が細孔38aを通って質量分析計6側に流入する場合であっても、差動排気部39a及びスペース39bから排気除去され、質量分析計にこのような気体が導入されることが防止できる。
以上のように、コロナ放電により生じる中性分子は、ガス流通空間35、細孔36、排気管(34a、34b)及び吸気ポンプ34cからなる中性分子侵入阻止手段により、一次イオンと測定対象試料とが反応するイオン化反応領域30aへの侵入が抑制又は防止される。更に、前述のように余分な気体の質量分析計6への侵入も阻止されるので、目的のイオン試料を効率良く次の質量分析計6へ輸送することができる。
【0018】
図4は、図1における質量分析計6として、イオントラップ質量分析器を有する質量分析計を用いた場合の一例を説明するための概略図である。本発明に用いる質量分析計おいては、図4の例の他に、磁場型質量分析器、四重極型質量分析器等の様々な質量分析器を有する質量分析計も有効に使用できる。
図4において、37'は、図3に示すイオン化試料輸送部37の他の例を示すイオン化試料輸送部であり、イオン化試料を質量分析計6に導入する細孔(38a、38b)を有する細孔付電極(37a、37b)及び差動排気部39aを備え、中間電極37cを有していない。細孔付電極37aにはドリフト電圧電源40aが接続されており、細孔付電極37bには加速電圧電源40bが接続されている。また、差動排気部39aは、排気系41aに連結している。
【0019】
質量分析計6は、排気系41bに連結する真空部42と、該真空部42内に設けられたイオン集束レンズ43と、イオントラップ質量分析器44と、検出器45とを備え、これらは制御装置46に接続されている。
イオン集束レンズ43は、真空部42に導入されたイオン試料を集束するためのレンズであって、電源43dに接続された電極(43a、43b、43c)からなる。
質量分析器44は、電極44bに接続されたゲート電極44aと、石英リング44fによって保持された、エンドキャップ電極(44c、44d)及びリング電極44eとを備える。また、質量分析器44にヘリウム等の衝突ガスを導入するためのガス供給器44gがガス導入管44hを介して連結されている。
検出器45は、質量分析器44で質量分析され排出されたイオン試料を検出する装置であって、変換電極源45bを介して制御装置46に接続されている変換電極45aと、シンチレータ電源45dに接続されたシンチレータ45cと、フォトマルチプライヤ電源45fに接続されたフォトマルチプライヤ45eとを備える。該フォトマルチプライヤ45eは、データ処理装置45gを介して制御装置46に接続されている。
【0020】
イオン源発生器により生成されたイオン試料は、図4に示す細孔付電極37aに開口する細孔38a、排気系41aに連結する差動排気部39a、細孔付電極37bに開口する細孔38bを介して質量分析計6の真空部42に導入される。真空部42は、排気系41bにより減圧され真空状態が保持される。ドリフト電圧電源40aによって細孔付電極37aに電圧を印加すると、差動排気部39aに取り込まれたイオン試料を細孔37bの方向にドリフトさせることができ、細孔37bへのイオン透過率を向上させることができる。加えて、差動排気部39aに残留しているガス分子とイオン試料との衝突が生じ、イオン試料に付着している水等の溶媒分子が脱離される。
図4におけるイオン化試料輸送部37'において、加速電圧電源40bにより細孔付電極37aに印可される加速電圧は、イオン試料がイオントラップ質量分析器44のエンドキャップ電極44cに設けられた開口部を通過する際のエネルギー(入射エネルギー)に影響する。該質量分析器44のイオン閉じ込め効率は、イオンの入射エネルギーに依存するので、閉じ込め効率が高くなるように前記加速電圧を設定することが好ましい。
【0021】
真空部42に導入されたイオン試料は、電極(43a、43b、43c)で構成されるイオン集束レンズ43により収束された後、ゲート電極44aによりイオン入射のタイミングを制御しながら質量分析器44内に導入される。質量分析器44内に導入されたイオン試料は、ガス供給器44gからガス導入管44hを介して導入されたヘリウム等の衝突ガスと衝突させ、その質量が分析される。
質量分析されて質量分析器44の外に排出されたイオン試料は、検出器45の変換電極電源45bにより該イオン試料を加速する電圧が印可された変換電極45aに衝突する。この衝突により、変換電極45aの表面より荷電粒子が放出され、該荷電粒子をシンチレータ45cにより検知し、信号をフォトマルチプライヤ45eで増幅する。検出された信号は、データ処理装置45gに送られ、制御装置46により解析される。
【0022】
図5は、質量分析計の別の例を示す概略図であり、図4に示す質量分析計6より簡単な構造である、永久磁石を用いて質量の異なるイオンの軌道を分離する質量分析器を有する質量分析計6'の例である。尚、質量分析計6'において、図4に示す質量分析計6と同様な構成については、同一番号を付しその説明を省略する。図5に示す質量分析計6'は、真空部42内に、2枚の永久磁石(図示せず)を備える質量分析器50と、該質量分析器50及びイオン集束レンズ43の間に設けたスリット49と、イオン検出器としてのファラデーカップ(52a、52b)とを備える。
【0023】
イオン集束レンズ43により集束されたイオン試料は、スリット49により更にビーム径が絞られた後、質量分析器50に入射される。入射された試料イオンの軌道は、質量分析器50の2枚の永久磁石により形成された直角方向の静磁場によって曲げられる。この際、重い(m/zの大きい)イオン試料と、軽い(m/zの小さい)イオン試料では磁場の影響で異なる軌道を描くので、図5に示すように、重いイオンの軌道51aと、軽いイオンの軌道51bとを分離することができる。
ファラデーカップ(52a、52b)の配置は、例えば、火薬類から発生するNO及びNO2の濃度を計測する場合、ファラデーカップ52aをm/zが62のイオンの到達点に配置し、ファラデーカップ52bをm/zが46のイオンの到達点に配置することができる。そして、各々のファラデーカップにおける信号をモニタすることにより、NO及びNO2の濃度を計測することができる。
このような永久磁石を用いた質量分析器は、四重極型又はイオントラップ型質量分析器等に比べて非常に安価に作製することができる。従って、図5に示す質量分析計を備えた本発明の装置は、火薬庫等に設置して爆薬の劣化状態を常時把握する等の用途に適している。
【0024】
図6は、本発明における測定装置の別の実施形態例を示す概略図である。図6に示す装置60は、図1に示す装置10における吸気プローブ1の代わりに空気ボンベ61及び減圧弁61aを備え、他の構成は同様である。
装置60においては、図1に示す装置10における吸気プローブ1から吸気されるNO及びNO2が含まれうる空気ではなく、空気ボンベ61からの清浄な空気を、減圧弁61aを介してガス発生器3に供給するので、ppb以下という、極めて低い濃度のNO、NO2を検出することが可能となる。
【0025】
図7は、本発明における測定装置の他の実施形態例を示す概略図である。図7に示す装置70は、図6に示す装置60におけるガス導入管4に、Tコネクタ71を装着し、該Tコネクタ71に減圧弁72a及び標準ガスボンベ72を接続した実施形態であり、他の構成は装置60と同様である。
装置70において標準ガスボンベ72には、濃度が既知で安定同位体で置換した標準ガス、例えば、N15OやN15O2等を仕込むことができる。該標準ガスは、減圧弁72a及びTコネクタ71を用いて試料から発生する気体と混合された後にイオン源発生器5に導入される。
装置70において、例えば、標準ガスとしてN15Oを用いる場合、該N15Oは、酸素分子イオンと反応してN15O3 -を生成するが、この試料のm/zは63である。そして、該N15Oの濃度は既知なので、m/z:62に観測される通常のN14O3 -のイオン強度と比較することで、試料から発生するNOの濃度を装置60よりも正確に定量することができる。
【0026】
図8は、主にニトロセルロースとニトログリセリンとからなる無煙火薬を、図1〜4に示す本発明の測定装置を用いて、ガス発生器3における設定温度及び時間とm/z:46及び62の信号強度との関係を測定した結果を示すグラフである。
【0027】
図8において、m/z:46に観測されるのは、NO2がイオン化されたNO2 -、m/z:62に観測されるのは、NOがイオン化されたNO3 -である。縦軸の信号強度は、イオン源発生器5に流入するNOやNO2の濃度に比例する。ガス発生器3の設定温度を上げると、火薬類の温度が上昇して分解が起こり、分解生成物であるNOやNO2が放出されることが予想される。しかし、温度を上げても、m/z:46の信号は顕著に増加していない。従って、観測されたm/z:46の信号は、主に実験室の空気中に含まれるNO2であると結論できる。
一方、図8においてm/z:62は、ガス発生器の設定温度に応じて信号量が変化している。この結果から、試料とした無煙火薬は、熱負荷がかかった場合において、主にNOを放出する分解反応を起していることが明らかとなった。
【0028】
このように、各々の温度においてNOやNO2の発生量を定量することで各々の火薬類の特性や安全性を評価することができる。
火薬類が分解し劣化する過程には、NOを放出する反応とNO2を放出する反応があると予測されているが、従来は両者を区別して分析することは困難であった。しかし、図8の結果から、本発明における測定法や測定装置を用いることにより、火薬類から発生するNOとNO2とを各々独立にリアルタイムで測定することが可能であることが判る。この点は、火薬類の基礎的な研究にとって非常に重要である。
【0029】
【発明の効果】
本発明の火薬類から発生する気体の測定法は、火薬類から生成するNO及びNO2を、短時間で、且つ高精度にリアルタイムで測定することができる。特に、貯蔵中の火薬類の安定性試験に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の測定法に用いられる本発明の測定装置の一例を説明するための概略図である。
【図2】図1におけるガス発生器3の構造の一例を説明するための概略図である。
【図3】図1におけるイオン源発生器5の構造の一例を説明するための概略図である。
【図4】図1における質量分析計6として、イオントラップ質量分析器を有する質量分析計を用いた場合の一例を説明するための概略図である。
【図5】図1における質量分析計6として、永久磁石を用いて質量の異なるイオンの軌道を分離する質量分析計を用いた場合の他の例を説明するための概略図である。
【図6】本発明における測定装置の別の実施形態例を示す概略図である。
【図7】本発明における測定装置の更に別の実施形態例を示す概略図である。
【図8】無煙火薬を、図1〜4に示す本発明の測定装置を用いて、ガス発生器3における設定温度及び時間とm/z:46及び62の信号強度との関係を測定した結果を示すグラフである。
【図9】従来のアベル耐熱試験を行うための装置の概略図である。
【図10】図9に示す装置における試験管92を説明するための概略図である。
【符号の説明】
10、60、70:測定装置
3:ガス発生器
5:イオン源発生器
6、6':質量分析計
20:火薬類
21:ガス発生室
30a:イオン化反応領域
35:ガス流通空間
37、37':イオン化試料輸送部
43:イオン集束レンズ
44:イオントラップ質量分析器
45:検出器
50:質量分析器
90:アベル耐熱性試験を行う装置
91:容器
92:試験管

Claims (1)

  1. 火薬類から気体を発生させる工程(1)と、
    大気から一次イオン及び中性分子を生成させる工程(2)と、
    工程(2)で生成した中性分子の侵入を抑制又は防止した領域内において、工程(2)で生成した一次イオンと工程(1)で発生した気体に含まれる測定対象試料とを反応させ、該試料をイオン化する工程(3)と、
    工程(3)によりイオン化された試料を質量分析する工程(4)とを含み、
    工程(1)において温度を変えながら一酸化窒素及び二酸化窒素を含む気体を発生させ、該温度を変えながら気体を発生させた各々の温度において、工程(4)により一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度を同時に測定することを特徴とする火薬類から発生する気体の測定法。
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