以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る摩擦締結装置の第1実施形態である多板式クラッチ10およびその周辺部分を示す断面図である。また図2は、図1の要部を拡大して示す拡大断面図である。但し図2では、図を見易くするために、クラッチピストン20の軸方向の動作を誇張して示している。
図1に示すように、多板式クラッチ10は自動変速機用の湿式油圧クラッチであって、入力軸であるタービンシャフト3と、図外のプラネタリギヤの中心部に設けられたサンギヤ(詳しくはサンギヤから延出されたサンギヤ延出部50)との間で駆動力の断続を行う装置である。当実施形態の多板式クラッチ10は、図外の変速機ケースに固定されたオイルポンプハウジング70と、これにボルト72で固定されたオイルポンプカバー71の近傍に設けられている。
多板式クラッチ10のクラッチドラム11(回転ドラム)は略有底円筒状に成形されており、その底面中央部はオイルポンプカバー71のボス部75に嵌合するように窪んでいる。クラッチドラム11は、その窪み部においてタービンシャフト3と接合されている。従ってクラッチドラム11はタービンシャフト3と一体回転する。
一方、クラッチハブドラム40は小径部と大径部とを有する段付円筒状に成形された部材であり、その小径部にスプライン部42が形成されている。またその小径部にはタービンシャフト3及びサンギヤ延出部50が通されるとともに、サンギヤ延出部50に形成されたスプライン部52と上記スプライン部42とが係合している。従ってクラッチハブドラム40は、軸方向移動に若干の自由度を有するものの、基本的にサンギヤ延出部50と一体回転する。
タービンシャフト3と一体回転するクラッチドラム11と、サンギヤ延出部50と一体回転するクラッチハブドラム40との断続を直接行う部材として、クラッチドラム11側に4枚のプレート35と、クラッチハブドラム40側に4枚のクラッチディスク30とが設けられている。
プレート35は金属製の環状板であり、その外周側がクラッチドラム11に形成されたプレートハブ部19に係合している。プレートハブ部19には軸方向に延びるスプラインが形成されており、プレート35の外周側には、そのスプラインに嵌合する凹凸が形成されている。従ってプレート35は、軸方向に移動する自由度を有しつつ、クラッチドラム11と一体回転する。
クラッチディスク30は金属製の環状板の表裏両面に摩擦材31(図2参照)が貼付された摩擦ディスクであり、その内周側がクラッチハブドラム40のクラッチディスクハブ部41に係合している。クラッチディスクハブ部41には軸方向に延びるスプラインが形成されており、クラッチディスク30の内周側には、そのスプラインに嵌合する凹凸が形成されている。クラッチディスク30は、軸方向に移動する自由度を有しつつ、クラッチハブドラム40と一体回転する。
図1に示すように、クラッチディスク30とプレート35とは、互いの板面が対向するように交互に列設されている。その列設端は、クラッチドラム11の底面側(図中右端)ではプレート35で終わり、開口側(図中左端)ではクラッチディスク30で終わっている。その図中左端のクラッチディスク30は、リテーニングプレート37を介してスナップリング38によって図中左側への移動が制限されている。
クラッチドラム11の底面側には、クラッチディスク30およびプレート35の列設方向を軸方向とするシリンダ部11aが形成されている。図2に示すように、シリンダ部11a内の略円環状の空間に油圧室12が形成されており、その油圧室12を閉塞するようにクラッチピストン20が嵌設されている。
クラッチピストン20の主要部は環状円板体の皿バネ部材22である。皿バネ部材22は、内外径の異なる3枚の皿バネを同心円上に配設して構成されている。すなわち、内周側から順に第1皿バネ部材22a、第2皿バネ部材22bおよび第3皿バネ部材22cが配設されている。第1皿バネ部材22aの外周側と第2皿バネ部材22bの内周側とは一部重複しており、その重複部において接合部材23によって隙間なく接合されている。同様に、第2皿バネ部材22bの外周側と第3皿バネ部材22cの内周側とは一部重複しており、その重複部において接合部材24によって隙間なく接合されている。接合部材23,24はシール性を有する弾性部材(例えばゴム系の部材)からなる。
第1皿バネ部材22aの内周側にはゴム系の内周側シール部26が設けられており、第1皿バネ部材22aの内周側と油圧室内周面12aとのシールを保ちつつ、第1皿バネ部材22aの軸方向移動を可能としている。また第3皿バネ部材22cの外周側にはゴム系の外周側シール部27が設けられており、第3皿バネ部材22cの外周側と油圧室外周面12bとのシールを保ちつつ、第3皿バネ部材22cの軸方向移動を可能としている。こうして、内周側シール部26と油圧室内周面12aとが当接する最内周部から外周側シール部27と油圧室外周面12bとが当接する最外周部にかけて油圧室12と当面する部位がクラッチピストン20の受圧面21となっている。
第3皿バネ部材22cの外周側で、受圧面21の裏面側には接続部28を介して押圧部29が設けられている。押圧部29はプレート35に向かって延びる略円筒状の部材である。
油圧室12は、シリンダ部11a内に形成された空間であり、詳しくはクラッチドラム11の底面と、油圧室内周面12aと、油圧室外周面12bと、クラッチピストン20の受圧面21とで囲まれた空間である。シリンダ部11aには、油圧室内周面12aから外部に通じて開口するオイル導入孔13が設けられており、このオイル導入孔13によって作動油が油圧室12に給排される。なお図1に示すように、オイルポンプカバー71のボス部75にはオイル導入孔13と連通するクラッチ油圧供給部77が設けられている。図外のコントロールバルブ等で制御された作動油が、オイルポンプカバー71の内部等を経由してクラッチ油圧供給部77に導かれるように構成されている。また油圧室12の無駄容積を削減するため、クラッチドラム11の底面にはクラッチピストン20の作動を妨げない程度に油圧室12の内部側に膨出する膨出部14が形成されている。
図2に示すように、クラッチピストン20の、受圧面21の裏面側には屈曲円板状のバランスピストン15が設けられている。バランスピストン15の内周側は、スナップリング16(図1参照)によってタービンシャフト3に固定されている。バランスピストン15の外周側にはバランスピストンシール部17が設けられており、バランスピストンシール部17の外周側が押圧部29の内周側とシールを保ちつつ当接している。クラッチピストン20とバランスピストン15とで挟まれた空間には油圧バランス室18が形成されている。油圧バランス室18には、後述する潤滑油路4aから潤滑油の一部が供給されるように構成されている。
なお、図2に示すように、バランスピストン15の屈曲部付近は内周側ストローク量規制部15a(内周側ストローク量規制部材)として作用するように構成されている。詳細は後述するが、内周側ストローク量規制部15aは第1皿バネ部材22aのストローク量を制限するものである。またバランスピストン15の一部は、後述するようにスプリングリテーナ46を介してリターンスプリング45の一端を支持するように構成されている。
クラッチピストン20とバランスピストン15との間に、スプリングリテーナ46を介してリターンスプリング45が設けられている。リターンスプリング45はコイルスプリングであって、その一端がスプリングリテーナ46を介してクラッチピストン20の内周側(受圧面21の裏面側)に支持され、他端がスプリングリテーナ46を介してバランスピストン15の屈曲部付近に支持されている。従ってリターンスプリング45は、クラッチピストン20をプレート35から遠ざける方向(クラッチ解放側)に常時付勢する。
なお図1に示すように、潤滑の必要な各部、例えばタービンシャフト3とサンギヤ延出部50との間に設けられたブッシュ51、タービンシャフト3とオイルポンプカバー71のボス内周部との間に設けられたブッシュ76およびクラッチドラム11とオイルポンプカバー71のボス先端面との間に設けられたスラストワッシャ79等々に潤滑油を導くため、各所に潤滑油路が設けられている。例えばタービンシャフト3の軸心部に潤滑油路4が設けられ、これから分岐して潤滑油路4a,4bが設けられている。上述したように、潤滑油路4aに導かれた潤滑油の一部は油圧バランス室18に導かれる。
次に、多板式クラッチ10の作動について説明する。まず多板式クラッチ10がオフ、つまり解放状態にある場合について説明する。なお以下の説明におけるクラッチピストン20の動作方向について、図1および図2における右方向への動きを解放側、左方向への動きを締結側とする。
多板式クラッチ10がオフのとき、油圧室12には作動油が導入されない。クラッチピストン20は、リターンスプリング45の付勢力によって解放側に寄せられている(図2に二点鎖線で示す)。従って、プレート35と押圧部29とは離れており、プレート35はクラッチピストン20からの押圧力を受けない。このとき、各クラッチディスク30と各プレート35との間には適度な隙間(クリアランス)があり、トルクの伝達は殆どない。従ってクラッチドラム11とクラッチハブドラム40、ひいてはタービンシャフト3とサンギヤ延出部50とのトルク伝達が遮断された状態となっている。またタービンシャフト3とサンギヤ延出部50とは必要に応じて相対回転自在となっている。
次に多板式クラッチ10がオン、つまり締結状態にある場合について説明する。多板式クラッチ10がオンのとき、油圧室12にはオイル導入孔13から作動油が導入される。作動油が油圧室12内に充満すると、その油圧(以下クラッチ油圧Pcという)をクラッチピストン20の受圧面21が受ける。つまりクラッチピストン20が締結側に押圧される。クラッチ油圧Pcによる押圧力がリターンスプリング45による付勢力と、内周側シール部26及び外周側シール部27の摺動抵抗との和より大きくなると、クラッチピストン20が締結側にストロークし始める。
当実施形態では、クラッチピストン20は、そのストローク初期においては、全体的に平行移動する。つまり内周側のストローク量と外周側のストローク量とが等しい。そして一定量(L1)ストロークすると、第1皿バネ部材22aがバランスピストン15の内周側ストローク量規制部15aに当接し、それ以上のストロークが阻止される。
さらにクラッチ油圧Pcが高まると、クラッチピストン20は外周側のみ更にストロークする。つまりクラッチピストン20を構成する第1皿バネ部材22a、第2皿バネ部材22bおよび第3皿バネ部材22cの、それぞれ外周側が締結側に撓むことで、クラッチピストン20全体も外周側が締結側に撓む。
一方、クラッチピストン20のストロークがある程度進行すると、押圧部29がプレート35に当接し、押圧を開始する。そしてクラッチピストン20のストロークの進行に伴い、プレート35と摩擦材31とのクリアランスが詰められてゆく。クリアランスが殆ど無くなると、クラッチディスク30の摩擦材31とクラッチディスク30との間に、互いの相対回転を阻止する方向に摩擦力が作用しはじめる。この摩擦力によってクラッチドラム11とクラッチハブドラム40、ひいてはタービンシャフト3とサンギヤ延出部50とのトルク伝達がなされる。プレート35と摩擦材31とのクリアランスが完全に詰まる(クラッチピストン20のストロークが完了する)までは、その伝達トルク容量は僅かである(微係合状態)。
クラッチピストン20のストロークが完了したときの外周側ストローク量L3は、内周側ストローク量L1と皿バネ撓み量L2(第1皿バネ部材22a、第2皿バネ部材22bおよび第3皿バネ部材22cの各撓み量の合計を含む皿バネ部材22全体の撓み量)との和となる。すなわち外周側ストローク量L3=内周側ストローク量L1+皿バネ撓み量L2である。
クラッチピストン20のストロークが完了し、プレート35と摩擦材31とのクリアランスが完全に詰まると、プレート35と摩擦材31との間に作用する摩擦力が更に大きくなり、伝達トルク容量は増大する。プレート35と摩擦材31との間に相対回転がある場合は、多板式クラッチ10は半締結状態であり、未だ完全にはトルク伝達がなされない。
さらにクラッチ油圧Pcが充分高くなり、押圧部29からプレート35に充分大きな押圧力が作用すると、プレート35と摩擦材31との間に充分大きな摩擦力が作用し、完全に一体化する。このとき、タービンシャフト3とサンギヤ延出部50とが一体回転し、完全なトルク伝達がなされる。すなわち多板式クラッチ10の締結が完了する。
次に、バランスピストン15と油圧バランス室18の作用について説明する。クラッチドラム11はタービンシャフト3と一体回転しているので、油圧室12内の作動油には、タービンシャフト3の回転速度に応じた遠心油圧が作用する。遠心油圧は、遠心力によって発生する付加的な油圧である。この遠心油圧によって、受圧面21に作用する平均油圧は、クラッチ油圧供給部77での制御圧よりも高くなる。遠心油圧はクラッチドラム11の回転速度が高くなるほど増大し、高精度の制御を行う上で無視できないものである。そこで、遠心油圧が発生しないようにしたり、発生しても事実上その影響を受けないようにしたりする技術が知られている。バランスピストン15および油圧バランス室18は、後者に属する公知の技術である。
油圧バランス室18に潤滑油の一部(以下バランス油と称する)が導入されると、バランス油にも遠心油圧が作用する。つまり受圧面21には、受圧面21と、その裏面の両面から遠心油圧が作用することになる。油圧バランス室18に作用する遠心油圧による押圧力と、受圧面21に作用する遠心油圧による押圧力とが殆ど相殺されるので、クラッチピストン20は遠心油圧が作用していない場合と略同等の動作を行う。これによって、複雑な遠心油圧の影響を排除し、高精度の制御を行うことができる。
次に、クラッチピストン20のストローク量と油圧室12に導入される作動油量について説明する。
図3は、油圧室12に導入される作動油の、体積増分ΔVの概念を示す説明図である。ここでは、シリンダ部11aを完全な円筒とし、またクラッチピストン20も平坦な円板であると簡略化している。図3は、クラッチピストン20が右上から左下に向かってストロークする場合を示している。体積増分ΔVは、クラッチピストン20がストローク開始前に油圧室12に作動油が満たされてから、ストロークが完了するまでの間の作動油体積の増分である。
第1皿バネ部材22aが内周側ストローク量規制部15aに当接するまでの内周側のストローク量はL1である。そして外周側のストローク量は、それよりもさらに皿バネ撓み量L2だけ長いL3である。
ここで、体積V1を、クラッチピストン20が内周側ストローク量L1だけストロークしたときの体積増分とすると、体積V1は、高さL1の円筒の体積となる。また体積V2を、クラッチピストン20の外周側がさらに外周側ストローク量L3までストロークしたときの体積増分とすると、体積V2は、高さL2の円筒をストローク後期になるほど内径が大となるように切り欠いた形状の体積となる。そして、体積増分ΔVは体積V1と体積V2との和となる。すなわちΔV=V1+V2である。
ここで、高さL2の円筒の体積をV2+V3とすると、V1+V2+V3(=ΔV+V3)は、内周側、外周側ともに外周側ストローク量L3だけストロークした場合、すなわち従来構造における体積増分に相当する。つまり当実施形態では、内周側ストローク量L1を、外周側ストローク量L3よりも皿バネ撓み量L2だけ短くすることによって、従来構造に対して体積増分ΔVを体積V3だけ削減しているのである。体積V3は、体積(V2+V3)の1/3〜1/2(内外径の比率によって変わる)である。
次に、体積増分ΔVの削減がクラッチ油圧特性に与える効果について説明する。図4は、変速時のクラッチ油圧特性を示すグラフである。横軸に時間t、縦軸にクラッチ油圧Pcを示す。
時系列を追ってクラッチ油圧Pcの変化を説明すると、まず時点0で図外のコントロールバルブからクラッチ油圧供給部77及びオイル導入孔13を経由して油圧室12へ作動油が供給され始める。時点t1で油圧室12が作動油で満たされ、クラッチ油圧Pcの上昇が開始する。時点t2でクラッチ油圧Pcがリターンスプリング45の付勢力および内周側シール部26や外周側シール部27の摺動抵抗に打ち勝つ力に相当する油圧となり、クラッチピストン20のストロークが開始する。
クラッチピストン20のストロークが開始する時点t2以降、クラッチ油圧Pcの上昇が一時的に緩慢になる。これは、クラッチピストン20のストロークによって油圧室12の容積が増大することによる一種のアキュームレータ作用である。時点t3においてクラッチピストン20のストロークが完了する(クラッチ油圧Pc=P1)。クラッチピストン20がストロークしている時点t2から時点t3までが油圧棚時間tmとなる。
時点t3以降、再びクラッチ油圧Pcは急速に上昇する。そしてクラッチ油圧Pcが所定の圧力となった時点t4で、図外のアキュームレータが作動し始める。アキュームレータは公知の機構なので詳細な説明を省略するが、クラッチ油圧Pcの上昇に伴ってクラッチ油圧供給部77に至る油路体積を増大させ、クラッチ油圧Pcの上昇を緩慢にする。アキュームレータの効果によってプレート35とクラッチディスク30との急激な締結が防止され、変速ショックが緩和される。そして時点t5において締結が完了し、変速が完了する。その後は時点t6でアキュームレータの作動が完了し、時点t7でクラッチ油圧Pcが充分な高さのライン圧まで上昇する。
ここで、微係合制御について説明する。微係合制御は、変速開始前に予めクラッチ油圧Pcを油圧P1乃至はそれより若干小さな油圧としておき、クラッチピストン20を、そのストローク後半から終盤付近にまで作動させて微係合状態にしておく制御である。微係合制御によると、変速開始前に時点0〜時点t3のプロセスを殆ど完了させておくことができるので、変速開始時点で直ちに時点t3付近以降のプロセスに入ることができる。すなわち時点0〜略時点t3までの時間が短縮されるので、特に素早い締結が要求される場合に効果的な制御である。
図4には、比較のために、従来構造(内周側も外周側ストローク量L3だけストロークするもの)のクラッチ油圧特性を二点差線で示す。またその場合の時点t3,t5に相当する時点をそれぞれ時点t3’,t5’で示す。上述のように当実施形態では、従来構造に対して体積増分ΔVが体積V3だけ削減されているので、その分、油圧棚時間tmが時間Δt(=t3’−t3)だけ短縮されている。それに伴い、多板式クラッチ10の締結が完了する時点t5も、時間Δtだけ短縮されている。すなわち、体積増分ΔVの削減によって、多板式クラッチ10の締結応答性が高められるという顕著な効果を奏している。
しかも、クラッチピストン20の外周側に設けられた押圧部29のストローク量は、外周側ストローク量L3という充分な長さが確保されているので、クラッチピストン20の解放時にクラッチの引きずり現象が起きる懸念もない。さらに、プレート35とクラッチディスク30とのクリアランスがなくなってから締結が完了するまでの、エネルギー吸収に要する時間は短縮していない(t5−t3=t5’−t3’)ので、変速ショックが悪化することもなく、高いシフトクォリティを維持したまま締結応答性を高めることができる。
また油圧棚時間tmを短縮すると、そのばらつきも低減されるので、結果的に締結タイミングのばらつきも低減することができる。従って、例えば他のクラッチ等の解放と略同時に締結を行うような場合、より適切なタイミングで互いの動作を同期させることができ、変速ショックのばらつきを低減することができる。つまりシフトクォリティを高めることができる。
また微係合制御を行う場合、クラッチピストン20のストロークが後半ないし終盤付近にある状態から、より素早くストローク完了状態にすることができるので、応答性の向上と締結タイミングのばらつき低減を図ることができる。
さらに、クラッチピストン20のストローク後半では、外周側のみがストロークしている状態となる。そのため、内周側シール部26における摺動抵抗が発生しない。つまりクラッチピストン20のストローク後半では、クラッチピストンが平行移動する従来構造よりもクラッチピストン20の摺動抵抗を低減することができる。クラッチピストン20の摺動抵抗が大きいと、その分、油圧室12の油圧を高める必要があり、変速ショックの増大を招き易いが、その摺動抵抗を低減することにより、さらに変速ショックの改善に寄与することができる。
また当実施形態では、内周側ストローク量規制部15aによって内周側ストローク量L1を外周側ストローク量L3よりも短くすることにより体積増分ΔVを削減しているが、そのストローク差を、皿バネ撓み量L2で吸収している。すなわち、クラッチピストン20の受圧面21を皿バネ部材22で構成し、内周側ストローク量規制部15aを設けるだけの簡単な構造で体積増分ΔVの大幅削減を実現している。
しかも、皿バネ部材22を第1皿バネ部材22a、第2皿バネ部材22b、第3皿バネ部材22cという内外径の異なる3枚の皿バネを同心円上に配設して構成しているので、皿バネ部材1枚当たりの内外周ストローク差を小さくすることができる。従って、クラッチピストン20をストロークさせた時の、各皿バネ部材の撓みによる内部応力を低減することができる。
また当実施形態では、第1皿バネ部材22aのストローク量を内周側ストローク量L1までに規制する内周側ストローク量規制部15aを、バランスピストン15の一部を利用して構成している。こうすることにより、部品を新設することなく内周側ストローク量規制部15aを設けることができるので、構造を簡潔にし、部品点数の増大を抑制することができる。
次に、本発明に係る第2実施形態について説明する。図5は、第2実施形態における多板式クラッチ10の断面図である。なお、以下の実施形態で参照する図において、第1実施形態と同一または同様の機能を有する構成要素には同一符号を付して示し、その重複説明を省略する。
当実施形態における第1実施形態との主な相違点は、クラッチピストン60の受圧面61が1枚の皿バネ部材62で構成されていること、及びリターンスプリングが設けられていないことである。またバランスピストン15には内周側係止部15bが形成されている。クラッチピストン60は、その内周側で常時内周側係止部15bに当接している。従って、クラッチピストン60の内周側ストローク量は、実質上0である。
クラッチピストン60は、内周側がストロークしないので、外周側ストローク量L4が、すなわち皿バネ部材62の撓み量となる。この場合の体積増分ΔVは、図3において体積V1に相当する部分が無く、全てが体積V2に相当する部分である。ここで、外周側ストローク量L3=外周側ストローク量L4であれば、体積増分ΔVの削減率は第1実施形態の場合よりも大となる。
この第2実施形態においても、第1実施形態と同様、クラッチの引きずり現象や変速ショックの悪化を伴うことなく、高いシフトクォリティを維持したまま締結応答性を高めることができる。また、変速ショックのばらつきを低減することができる。そして微係合制御時においても、応答性の向上と締結タイミングのばらつき低減を図ることができる。
さらに、クラッチピストン60の内周側をストロークさせないことにより、内周側シール部26における摺動抵抗が発生しない。つまりクラッチピストンが平行移動する従来構造よりもクラッチピストン60の摺動抵抗を低減することができる。これによって、さらに変速ショックの改善に寄与することができる。
また当実施形態では、内周側をストロークさせずに、外周側のみをストロークさせることにより体積増分ΔVを削減しているが、その外周側ストロークを、皿バネ部材62の撓みで吸収している。すなわち、クラッチピストン60の受圧面61を1枚の皿バネ部材62で構成するという、第1実施形態よりもより簡単な構造で体積増分ΔVの大幅削減を実現している。
また当実施形態では、油圧ピストンをストロークさせる際、内周側係止部15bで内周側ストロークを規制しておき、皿バネ部材62を撓ませて外周側だけをストロークさせることにより体積増分ΔVを削減しているが、受圧面61の外周側のストローク量を、皿バネ部材62の撓みで作り出している。すなわち、受圧面61を皿バネ部材62で構成し、内周側係止部15bを設けるだけの簡単な構造で体積増分ΔVの大幅削減を実現している。
また当実施形態では、皿バネ部材62の内周側ストロークを規制する内周側係止部15bを、バランスピストン15の一部を利用して構成している。こうすることにより、部品を新設することなく内周側係止部15bを設けることができるので、構造を簡潔にし、部品点数の増大を抑制することができる。
次に、本発明に係る第3実施形態について説明する。図6は、第3実施形態における多板式クラッチ90の断面図である。
当実施形態における第1実施形態との主な相違点は、クラッチドラム91のシリンダ部91aに、2区画の油圧室、すなわち外周側の第1油圧室92と内周側の第2油圧室93とが設けられていることである(2ステージタイプ)。そして第1油圧室92に連通する第1オイル導入孔13aと第2油圧室93に連通する第2オイル導入孔13bとが設けられており、図外のコントロールバルブから独立して作動油が供給される。第1オイル導入孔13aはシリンダ部91a内の膨出部94を貫通して設けられている。
また第2皿バネ部材22bと第3皿バネ部材22cとの接合部に区画シール部25が設けられている。区画シール部25は、第2皿バネ部材22bと第3皿バネ部材22cとを隙間なく接合するとともに、その一部がリップ形状となって膨出部94の上面に当接するように延出されている。そして、その当接面において第1油圧室92と第2油圧室93とが区画されている。
また第2実施形態と同様、リターンスプリングが設けられておらず、第1皿バネ部材22aの内周側は内周側係止部15bによってストロークが規制されている。
以上の構成により、第1油圧室92に油圧をかけた場合はクラッチピストン95の受圧面96の外周側が押圧され、第2油圧室93に油圧をかけた場合は受圧面96の内周側が押圧される。そして第1油圧室92と第2油圧室93の両方に油圧をかけた場合には受圧面96全体が押圧される。いずれの場合も受圧面96の外周側がストロークする(外周側ストローク量L5)。
従って、第1実施形態および第2実施形態と同様、体積増分ΔVの大幅削減によるクラッチの引きずり現象や変速ショックの悪化を伴うことなく、高いシフトクォリティを維持したまま締結応答性を高めることができる。また、変速ショックのばらつきを低減することができる。そして微係合制御時においても、応答性の向上と締結タイミングのばらつき低減を図ることができる。
当実施形態では、上述のように使用する油圧室を切換えることができるが、使用する油圧室を切換えるということは受圧面96の受圧面積を変更することに他ならない。そして受圧面積を変更することは、多板式クラッチ90の伝達トルクのゲインを増減することでもある。
伝達トルクのゲインとは、クラッチ油圧Pcの増分に対する伝達トルクの増分である。他の条件が同じであれば、受圧面96の受圧面積が大きいほどゲインは大きくなる。
ゲインが大き過ぎると、クラッチ油圧Pcのわずかな変動やばらつきによって伝達トルクが必要以上に大きく変動し、変速ショックを増大させる等の弊害を招く。逆にゲインが小さ過ぎると、必要な伝達トルクが充分得られなかったり、締結のタイミング遅れが増大したりする。何れもシフトクォリティを悪化させる要因となるので、伝達トルクのゲインは適正範囲内であることが望ましい。
そこで当実施形態では、必要伝達トルクが比較的小さいときには第1油圧室92にのみ油圧をかけ(逆に第2油圧室93にのみ油圧をかけるようにしても良い)、ゲインを下げて変速ショックを向上させている。また微係合制御を行う場合にも、ゲインを小さくとることにより、微係合状態におけるクラッチ油圧Pcのばらつきに対するクラッチピストン95のストローク量のばらつきを低減している。一方、必要伝達トルクが比較的大きいときには第1油圧室92と第2油圧室93の両方に油圧をかけ、ゲインを上げて充分な伝達トルクで適正な締結タイミングが得られるようにしている。
このように、当実施形態によると、必要な締結トルクに応じた適正なゲインで多板式クラッチ90を締結させることにより、より高いシフトクォリティを実現することができる。また微係合制御を行う場合、ゲインを下げることによって微係合状態におけるクラッチピストン95のストローク量ばらつきを低減することができるので効果的である。
次に、本発明に係る第4実施形態について説明する。図7は、第4実施形態における多板式クラッチ100の断面図である。また図8は、図7のVIII−VIII線断面図である。
当実施形態における第1実施形態との主な相違点は、自動ストローク量調整機構80が設けられていることである。自動ストローク量調整機構80は、クラッチディスク30の摩擦材31が摩耗しても、外周側ストローク量L8と内周側ストローク量L6との差(皿バネ撓み量L7)が所定値を越えないように自動的に調整する機構である。
自動ストローク量調整機構80は油圧バランス室18内に設けられている。その主要な構成は、リターンスプリング45を支持する台座82と、これを支持する台座支持部材83と、台座支持部材83を外周側に常時付勢するスプリング84と、台座支持部材83をガイドしつつスプリング84を支持するホルダ85と、押圧部29と一体に形成され、摩擦材31の摩耗状態に応じて台座支持部材83を締結側に押圧する押圧部材81とからなる。
図8に示すように、台座支持部材83、スプリング84及びホルダ85は、これらを1セットとして、放射状等間隔に3箇所設けられている。各ホルダ85はバランスピストン15に固定されている。また押圧部材81は屈曲円板状に成形されている。
台座支持部材83はホルダ85にガイドされて、後述するラチェット部86の規制範囲内で径方向に移動可能である。ラチェット部86は台座支持部材83とホルダ85との摺接部に設けられている。ラチェット部86は、台座支持部材83の外周側から内周側へ、スプリング84の付勢力よりも大なる力が作用したときには、台座支持部材83の内周側への移動を規制しない。その内周側への移動量がラチェット部86の1ピッチ(後述のピッチk1)を越える度にラチェット部86が一段づつ進行する。一方、台座支持部材83の外周側への移動は、そのときに台座支持部材83が存在するピッチ内でのみ可能とする。
図7に示すように、台座支持部材83の外周側には、クラッチピストン20に対向し、回転軸に垂直な面に対して約45度傾斜した斜面部83aが形成されている。この斜面部83aに沿って当接するように、台座82には斜面部82aが形成されている。
また押圧部材81の台座支持部材83に当面する部位には、台座82の斜面部82aと同様の傾斜角を有する斜面部81aが形成されている。図7に示すように、斜面部83aと斜面部81aとは、クラッチピストン20の解放時において、クリアランスL9を有している。クリアランスL9は、当初摩擦材31の摩耗がない状態で、外周側ストローク量L8と略等しくなるように設定されている。
また台座82のクラッチピストン20と対向する箇所には、内周側ストローク量規制部82bが形成されている。内周側ストローク量規制部82bは、クラッチピストン20の内周側が所定量(内周側ストローク量L6)以上ストロークすることを規制するが、後述するようにクラッチピストン20に作用する油圧が充分大きいときには、台座82全体が締結側に移動することにより、更なるストロークも可能とする。
次に、自動ストローク量調整機構80の作動について説明する。クラッチピストン20がストロークを開始すると、最初にリターンスプリング45の付勢力に抗して、クラッチピストン20は内周側、外周側ともに締結側に平行移動する。このとき、リターンスプリング45の支持反力として台座82は台座支持部材83を締結側に押圧する。そして斜面部83aに作用する押圧力の分力として、台座支持部材83は内周側に押圧される。しかし、スプリング84の付勢力は、リターンスプリング45の支持反力による押圧力よりも充分大きな値に設定されているので、台座支持部材83が内周側に移動することはない。
クラッチピストン20のストローク量が内周側ストローク量L6に達すると、クラッチピストン20は台座82の内周側ストローク量規制部82bに直接当接し、これを押圧する。
さらにクラッチピストン20の外周側のストロークが進行し、その終盤付近までストロークしたとき、押圧部29と一体に設けられた押圧部材81の線端が台座支持部材83に接近し、当接する。
当初の設定では、外周側ストローク量L8=クリアランスL9となるように設定されているので、クラッチピストン20のストロークが完了しても斜面部81aは斜面部83aに当接するだけで押圧はしない。しかし摩擦材31の摩耗が進行すると、摩擦材31とプレート35とのクリアランスが増大するので、外周側ストローク量L8が長くなる。従って外周側ストロークの終盤付近で斜面部81aが斜面部83aに当接し、押圧を始める。そのときの押圧力は、押圧部材81がクラッチピストン20の外周側から延設されているために強く、その分力によってスプリング84の付勢力に抗して台座支持部材83を内周側に移動させるに充分な大きさである。
摩擦材31の磨耗量が比較的少なく、台座支持部材83の内周側への移動量がラチェット部86のピッチk1未満の場合は、クラッチピストン20が解放状態になったときに、スプリング84の付勢力によって台座支持部材83が元の位置に復帰する。
しかし摩擦材31の磨耗量が比較的多く、台座支持部材83の内周側への移動量がラチェット部86のピッチk1に達したとき、ラチェット部86が1段進行する。ラチェット部86が1段進行すると、クラッチピストン20が解放状態になったとき、台座支持部材83は元の位置よりピッチk1だけ内周側寄りに復帰する。従ってクリアランスL9はピッチk1だけ拡大する。また台座支持部材83の移動によって台座82もピッチk1だけ締結側に移動するので、内周側ストローク量L6もピッチk1だけ拡大する。
摩擦材31の摩耗の進行状況に応じて上記ラチェット部86の進行が繰り返され、内周側ストローク量L6およびクリアランスL9は、順次段階的に拡大して行く。
図9は、摩擦材の磨耗量twと内周側ストローク量L6、皿バネ撓み量L7、外周側ストローク量L8およびクリアランスL9との関係を示す概念図である。横軸に摩擦材の磨耗量tw、縦軸に各ストローク量等の長さを示す。但し、図を見易くするために、摩擦材の磨耗量twやピッチk1は、他の長さに対して誇張して示している。
上述したように、摩擦材の磨耗量twが増大するに従って、外周側ストローク量L8も増大している。皿バネ撓み量L7=外周側ストローク量L8−内周側ストローク量L6であるから、仮に自動ストローク量調整機構80を用いず、内周側ストローク量が一定(図9に二点差線で示すL6’)であるとすると、外周側ストローク量L8の増大に伴い、同様に皿バネ撓み量L7も増大してしまう。例えば摩擦材の磨耗量tw=tw1のとき、皿バネ撓み量L7’=(距離X4―X1)であり、当初の値(距離X2−X1)よりも大きく増大している。
しかし自動ストローク量調整機構80によれば、内周側ストローク量L6が摩擦材の磨耗量twに応じて、ピッチk1づつ段階的に増大するので、皿バネ撓み量L7が、当初の値(距離X2−X1)よりもラチェット部86のピッチk1を越えて増大することがない。例えば摩擦材の磨耗量tw=tw1のとき、皿バネ撓み量L7=(距離X4―X3)であり、(距離X2−X1+k1)よりも小さな値である。
以上説明したように、自動ストローク量調整機構80によれば、摩擦材31の摩耗によって外周側ストローク量と内周側ストローク量との差が拡大し過ぎることによる影響を排除することができる。例えば、内外周のストローク差が拡大しすぎると皿バネ部材22の内部応力が増大する虞があるが、自動ストローク量調整機構80によれば、そのような応力の増大を可及的に抑制することができる。
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態の多板式クラッチ10、90及び100は、何れもタービンシャフト3とサンギヤ延出部50とのトルク伝達を断続する多板式クラッチであるが、他の部材間に設けられてトルク伝達を断続する多板式クラッチに適用しても良い。また、例えばクラッチドラム11に代えて変速機ケース等の固定物を用い、サンギヤ延出部50を回転可能とするか固定要素とするかを切換える多板式ブレーキに適用しても良い。本発明を多板式ブレーキに適用した場合の微係合制御に相当する適用例に、坂道でフットブレーキをオフにしたとき、車両が不意に動くことのないように停止位置を維持するヒルホルダがある。
皿バネ部材を分割して構成する場合、3分割に限らず2分割または4分割であっても良い。分割数が少ないほど構造を簡潔にすることができるという利点がある(第2実施形態のように1枚の皿バネ部材62とするのが最も簡潔となる)。一方、分割数を増やすほど、1枚の皿バネ部材に作用する内部応力を低減することができるという利点がある。皿バネ部材の強度や形状、撓み量等に応じて適宜分割数を決定すれば良い。
また皿バネ部材22を3分割した第1実施形態ではリターンスプリング45を設け、分割しない第2実施形態ではリターンスプリングを設けていないが、必ずしもそのようにする必要は無く、分割数に拘わらず適宜リターンスプリングの要否を決定して良い。リターンスプリングを設けた場合は、外周側ストローク量L3に対する皿バネ撓み量L2を短くすることができるので、皿バネ部材22の内部応力を低減できるという利点がある。一方、リターンスプリングを設けない場合は、部品点数を削減し、構造を簡潔にできるという利点がある。
バランスピストン15は必ずしも設ける必要はない。例えばクラッチドラム11(または変速機ケース等の固定物)が非回転部材の場合、遠心油圧が発生しないので不要である。またクラッチドラム11等が回転部材であっても、他の遠心油圧相殺手段を用いることによってバランスピストン15を設けないようにしても良い。バランスピストン15を設けない場合は、別途内周側ストローク量規制部15aや内周側係止部15bに相当する部材(例えばバランスピストン15において、内周側ストローク量規制部15aや内周側係止部15bを含む部分を残して、それよりも外周側を切除したような部材)を設ければ良い。