JP4973659B2 - 質量分析装置 - Google Patents

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Description

本発明は、試料上の二次元範囲に存在する1乃至複数の物質をイオン化して質量分析する質量分析装置に関する。この発明に係る質量分析装置は、特に、試料上の二次元範囲を顕微観察する顕微鏡と、その観察領域に存在する物質の質量分析を行って二次元的な定性情報や定量情報を取得する質量分析装置とを組み合わせた顕微質量分析装置に好適である。
質量分析装置は、気体状、液体状又は固体状の試料に含まれる試料成分の分子や原子をイオン化し、そのイオンを質量数毎に分離して検出することにより、試料成分を同定したりその成分量を定量したりするための装置であり、現在では、生体試料の同定やタンパク質或いはペプチドの解析など様々な用途に広く使用されている。
生体を取り扱う生化学分野や医療分野などでは、生体内細胞を破壊することなくその細胞に含まれるタンパク質の分布情報を得たいという要求が大きい。こうした要求に応えるものとして、顕微鏡と質量分析装置との機能を兼ね備えた顕微質量分析装置の開発が各所で進められている。顕微質量分析装置を用いれば、プレパラートなどにセットされた試料上の二次元範囲の物質の分布情報などを得ることが可能であるが、従来、こうした質量分析を行うためには、イオン化のためのレーザー光や粒子線の照射位置を試料上で二次元的に走査し、その照射位置を移動する毎に照射位置から発生したイオンを収集して、質量分離を行った後に検出する、という操作を繰り返す必要があった。そのため、或る程度広い面積を有する二次元範囲に亘る質量分析を行うには多大な時間を要してしまう。また、単に分析時間が掛かるというだけでなく、分析に時間が掛かるとその間に生体試料が損傷を受けたり変質してしまったりするおそれがあり、正確な分析に支障をきたすという問題がある。
こうした問題に対し、非特許文献1では、試料上の物質の二次元分布を反映するようにイオンを二次元状に生成させ、これを飛行時間(TOF=Time of Flight)型質量分離器で質量分離して二次元検出器で検出する方法が提案されている。しかしながら、従来のイオン検出器を二次元状に配置すると、検出器の数の分だけアンプやデジタイザ等の測定回路を並設する必要があり、多大なコストが掛かる。一方、コストを削減するためにイオン検出器の数を減らすと位置分解能(空間分解能)が落ちて実用性に乏しくなる。
本願出願人は上記のような課題を克服するための新規な顕微質量分析装置を特願2006−58816号において提案している。この新規の顕微質量分析装置では、二次元アレイ検出器として画素周辺記録型撮像素子と呼ばれる特殊な構造の撮像素子を利用し、例えばTOF型質量分離器で質量分離を行ったイオンをマイクロチャンネルプレート(MCP)に入射して、イオン量よりも多量の電子を放出させ、蛍光板によりその電子を光に変換し、さらに上記画素周辺記録型撮像素子により光を電気信号に変換して、元のイオン量に応じた電気信号を取り出すようにしている。
画素周辺記録型撮像素子については、例えば特許文献1、2などの既存の文献に詳細に開示されているので詳しくは述べないが、簡単に説明すると、受光部である各フォトダイオード毎にそれぞれ記録枚数(フレーム数)分の転送を兼ねた蓄積用CCDを備え、撮影中にはフォトダイオードで光電変換された画素信号を蓄積用CCDに順次転送し、撮影終了後に蓄積用CCDに記憶してある記録枚数分の画素信号をまとめて読み出し、素子の外部で記録枚数分の画像を再現するものである。撮影中に記録枚数分を越えた画素信号は古い順に廃棄され、常に最新の記録枚数分の画素信号が蓄積用CCDに保持されるようにしている。そのため、撮影の終了時に蓄積用CCDへの画素信号の転送を中止すれば、その時点から時間的に記録枚数分だけ遡った時間からの最新の画像が得られることになる。したがって、1フレーム分の画像信号が得られる毎にそれを外部に取り出す必要がある一般的な撮像素子とは異なり、非常に高速に繰り返し画像を得ることができるという特徴を有している。
この種の二次元アレイ検出器はきわめて高速に画像を取得することができるが、取得画像枚数には構造上の上限がある。例えば100万フレーム/秒の速度で100フレーム取得可能な検出器を利用した場合、1μ秒間隔で100μ秒の時間範囲に亘る質量分析データを得ることができる。さらに高速で1000万フレーム/秒の速度で100フレーム取得可能な検出器を利用した場合、100n秒間隔で10μ秒の時間範囲に亘る質量分析データを得ることができる。いずれにしても、質量分析データ点数は上記二次元アレイ検出器の連続取得可能フレーム数で以て制限される。
ところで、TOF型質量分離器では質量数差は飛行時間差に現れるから、質量分解能を上げるためには質量分析データの繰り返し取得時間間隔ができるだけ短いほうがよい。一方、1回の分析で測定可能な質量数範囲はできるだけ広いことが望ましいが、そのためには質量分析データの繰り返し取得回数はできるだけ多いことが必要とされる。
例えば、質量数が1000[amu]であるイオンに10[keV]のエネルギーを与えて2[m]の距離を直線的に飛行させた場合、その飛行時間は約45.69μ秒となる。一方、質量数が1010[amu]であるイオンでは同条件の下で飛行時間は約45.92μ秒となる。この飛行時間差は約0.23μ秒であり、0.2μ秒の時間間隔で繰り返し質量分析データを取得できれば10[amu]の質量数差を検出できることが分かる。この条件で100フレームの画像を取得する場合には、0.2×100=20μ秒の時間だけ質量分析データを繰り返し取得できる。各種イオンが試料を出射した時点から45μ秒経過した時点(t1)で質量分析データの取得を開始したとすると、イオン出射時点から65μ秒が経過する時点(t2)までデータ取得が行える。質量数が2000[amu]であるイオンの飛行時間は約64.61μ秒となるから、上述したt1〜t2の期間中のデータ取得で測定できる質量数範囲は1000〜2000[amu]に限られることになる。
また質量数10000[amu]のイオンの飛行時間は144.47μ秒であり、1000[amu]と10000[amu]とでは100μ秒の飛行時間差がある。これを同時に100フレーム取得可能な二次元アレイ検出器で測定しようとすると、1フレーム当たりの時間差(時間分解能)は1μ秒となる。上述したように1000[amu]のイオンの飛行時間は約45.69μ秒であり、その時点から時間分解能1μ秒後の46.69μ秒に到達するイオンの質量数は1044[amu]となる。したがって、この質量分析装置の質量分解能は44[amu]程度にしかならないことになる。
このように従来の顕微質量分析装置では、質量分解能を高くしようとしたときには一度の測定で検出できる質量数範囲が狭く、質量数範囲を広げようとすると質量分解能が低くなるという問題があった。理論的には二次元アレイ検出器の取得可能フレーム枚数を増やせば質量数範囲を広げながら質量分解能も高くすることができるが、そのためには素子上に搭載する蓄積用CCDの領域を増やす必要があり、その分、フォトダイオードの面積が小さくなって感度が下がったり或いは空間分解能が低下したりすることになる。
特開2001−345441号公報 特開2004−235621号公報 内藤康秀、「生体試料を対象にした質量顕微鏡」、日本質量分析学会誌、Vol.53,No.3,2005
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、試料上の二次元範囲の質量分析を行う場合であって、二次元アレイ検出器として画素周辺記録型撮像素子などの高速型の撮像素子を利用する構成において、高い質量分解能を確保しながら1回の測定での質量数範囲を広げることができる質量分析装置を提供することにある。
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、
a)試料上の所定の二次元範囲に含まれる成分を一斉にイオン化するイオン化手段と、
b)該イオン化手段により生成されたイオンを、各イオンが生成された二次元的な相対的位置関係を保ちつつ、質量数に応じて出射時間が相違するように分離する質量分離手段と、
c)前記質量分離手段により分離されたイオンを各イオンが生成された二次元的な相対的位置関係を保ちつつイオン量に応じた量の光子又は電子に変換する変換手段と、該変換手段により変換された光子又は電子を検出して電気信号として出力する微小検出素子を二次元状に配列した検出部、及び各微小検出素子で得られた電気信号をそれぞれ所定のフレーム数分保持可能な記憶部を内蔵する画素周辺記録型撮像素子である二次元アレイ検出器と、を1組として、複数組を検出部の延展方向に並設してなる二次元検出手段と、
d)前記質量分離手段のイオン出射口と前記変換手段との間の空間に配置され、通過するイオンに対し飛行軌道を曲げるような力を及ぼす電場及び/又は磁場を形成するイオン偏向手段と、
を備え、前記イオン偏向手段による飛行軌道の曲げ量を変化させることにより、時間的に異なる時点で該イオン偏向手段を通過したイオンが前記二次元検出手段において異なる組の変換手段及び二次元アレイ検出器で検出されるようにしたことを特徴としている。
本発明における二次元アレイ検出器は、光電変換を行う微小検出素子が二次元状に配列された検出部を有する通常の画素周辺記録型撮像素子であるか、或いは、検出部が形成された面と反対側の面にある検出面(通常は基板の裏面)に入射した電子を各微小検出素子で捕捉して検出を行う裏面型の画素周辺記録型撮像素子のいずれかである。いずれにしても、二次元的に多数配列された微小検出素子毎にそれぞれN(N:2以上の整数)フレーム枚数分の転送を兼ねた蓄積用CCD等を記憶部として備えるから、撮影中には微小検出素子で得られた電気信号を記憶部に順次転送し、撮影終了後に記憶部に記憶してある電気信号を一度に読み出すことでNフレーム分の画素信号をまとめて(つまり1フレーム分ずつ逐次ではなく)取得することができる。また撮影中にNフレームを越えた電気信号は古い順に廃棄されるため、常に最新のNフレーム分の電気信号が記憶部に保持される。そのため、例えば撮影の終了時に記憶部への電気信号の転送を中止すれば、その時点から時間的にNフレーム分だけ遡った時点からの最新のNフレーム分の画像が得られることになる。
本発明に係る質量分析装置では、上記のような二次元アレイ検出器が変換手段と組にされて複数並設されている。各二次元アレイ検出器はそれぞれNフレーム分の画像信号を内部に保持可能であり、それぞれ任意の時点で記憶部への新規の電気信号の転送を中止できるから、それぞれ異なる時間範囲に対応するNフレーム画像の高速取得が可能である。質量分離手段では異なる時点で異なる質量数を有するイオンが出射口から出るように質量分離が行われるから、イオン偏向手段による飛行軌道の曲げによって、試料上の同一位置から出た異なる質量数を有するイオンは異なる組の変換手段に到達し、その変換手段に対応した二次元アレイ検出器により検出される。
そこで、各二次元アレイ検出器における記憶部への電気信号の格納動作を制御する制御手段を備え、該制御手段は、複数組の二次元アレイ検出器について、対応する変換手段にイオンが入射するタイミングに合わせてそれぞれの格納動作を制御する構成とすれば、異なる組の二次元アレイ検出器においてそれぞれ異なる質量数範囲に対応した二次元物質分布画像(質量分析イメージ画像)を得ることができる。これにより、変換手段と二次元アレイ検出器との組の数を増やし、それに応じてイオン偏向手段での飛行軌道の曲げ量を大きくできるようにしておけば、各組での測定対象の質量数範囲は狭くても全体では測定対象の質量数範囲を拡大することができる。なお、質量分解能は各二次元アレイ検出器での記憶部への電気信号の転送時間間隔で決まる。
前述のような質量分離を行うには、質量分離手段として、典型的には飛行時間(TOF)型質量分析器を用いるとよい。これによれば、例えば短時間のレーザー照射により試料から一斉に発生した各種イオンを無駄にせずに質量数に応じて時間的に分離して検出することができるから、高い検出感度を得ることができる。
また本発明に係る質量分析装置の一態様として、前記イオン偏向手段は、イオンの通過領域を挟んで配設された1乃至複数組の偏向電極と、該偏向電極に電圧を印加する電圧印加手段とから成り、その印加電圧を変化させることでイオンの飛行軌道の曲げ量を変化させる構成とすることができる。
この構成によれば、偏向電極に印加する電圧の大きさによって任意に飛行軌道の曲げ量を制御できるので、例えば質量数範囲毎に曲げ量を変えて複数組の変換手段それぞれに異なる質量数範囲のイオンを入射させたり、質量数の増加に応じて徐々にイオンの入射位置をずらして複数組の変換手段に跨るようにしたりする等、質量分析イメージ画像の投影位置を任意に決めることができる。また、変換手段のイオン入射面のサイズの相違等にも容易に対応することができる。
また本発明に係る質量分析装置の別の態様として、前記イオン偏向手段は、イオンの通過領域を挟んで配設された1組の磁極であり、該磁極により形成される一定の磁場中を通過するイオンの質量数の変化に応じて飛行軌道の曲げ量が変化する構成としてもよい。
磁場中を通過するイオンは磁場により力を受け、そのイオンの質量数に応じて曲がる。したがって、磁場の磁力は一定であっても通過しようとするイオンの質量数が減少するに従って飛行軌道の曲がりが大きくなり、質量分析イメージ画像の投影位置を移動させることができる。
本発明に係る質量分析装置によれば、二次元アレイ検出器として画素周辺記録型撮像素子等の、高速な繰り返し画像取得が可能であるものの測定可能フレーム数に制約があるような検出器を用いた場合において、一回の測定によって、高い質量分解能で以て幅広い質量数範囲に亘る物質の二次元分布情報(質量分析イメージ画像)を取得することが可能となる。
本発明の一実施例(第1実施例)による顕微質量分析装置の要部の構成図。 第1実施例の顕微質量分析装置で使用される画素周辺記録型撮像素子の概略構成図。 図2に示した画素周辺記録型撮像素子の1画素の機能構成図。 第1実施例の顕微質量分析装置における偏向電極に印加される電圧波形を示す図。 通常の画素周辺記録型撮像素子及び裏面型の画素周辺記録型撮像素子を用いる場合の検出ユニットの構成を示す概略断面図。 第1実施例の顕微質量分析装置において偏向電極に印加される他の電圧波形の例を示す図。 第1実施例の顕微質量分析装置における二次元検出部の動作説明のための模式図。 第2実施例による顕微質量分析装置の要部の構成図。 第3実施例による顕微質量分析装置の要部の構成図。 第4実施例による顕微質量分析装置の要部の構成図。 第5実施例による顕微質量分析装置の要部の構成図。
[第1実施例]
本発明に係る質量分析装置の一実施例(第1実施例)である顕微質量分析装置について、図面を参照して説明する。図1はこの第1実施例の顕微質量分析装置の要部の構成図である。
この顕微質量分析装置では、試料に含まれる試料成分を一斉にイオン化するためにレーザ脱離イオン化(LDI)法を用いている、即ち、試料ステージ2上に載置された試料Sに対して二次元状に拡がりを有するイオン化のためのレーザー光1を短時間照射する。このレーザー光1の照射により、試料Sの二次元範囲に存在する各種の物質がそれぞれほぼ同時にイオン化される。そして、二次元的に拡がりを持ちつつ生成された各種イオンは生成部位に関する相対的な位置関係を保持したまま、集束レンズ3を通して飛行時間(TOF)型質量分離部4に導入される。ここではTOF型質量分離部4はリニア型TOFであるが、リフレクトロン型や周回型など他の形態のTOFでもよい。重要なことは、試料S上の異なる部位から出射したイオンが質量分離の際に入り混じることなく、試料Sからの出射時の相対位置関係が保たれることである。
TOF型質量分離部4の飛行空間を飛行する間に各種イオンは質量数に応じて位置が前後に離れる。具体的には、試料S上の或る一点から同時に出射した質量数の異なるイオンは同一の飛行軌道を通るが、TOF型質量分離部4の飛行空間を飛行する間に質量数が小さなイオンは先行し質量数が大きなイオンほど遅れを生じる。このようにして時間的に質量分離された状態でイオンはTOF型質量分離部4から出射し、投影レンズ5を経て、対向配置された2枚の偏向電極61、62の間を通過する。そのイオンの進行前方には二次元検出部7が配置されている。
二次元検出部7はX軸方向に並んで配置された3組の検出ユニット7a、7b、7cから成る。1組の検出ユニット7aは、マイクロチャンネルプレート(MCP)8aと、蛍光板9aと、二次元アレイ検出器10aと、から成り、他の検出ユニット7b、7cも同様の構成である。
図5(a)は1組の検出ユニット7aにおけるイオン検出動作を模式的に示す概略断面図である。MCP8aは二次元的に入射したイオンをそれぞれ電子に変換してその量を増倍させ、蛍光板9aは前段のMCP8aで増量された電子を受けてこれを光子に変換する。そして、この光子が二次元アレイ検出器10aの検出面に入射する。MCP8aと蛍光板9aとはいずれも入射したイオン同士の二次元的な相対位置関係を保つものであり、それ故に、試料S上で各イオンが出射した部位の相対位置関係は二次元アレイ検出器10aの検出面においても保持される(但し、絶対的な位置関係、つまりサイズは保持されないので、二次元像全体の拡大・縮小はあり得る)。
二次元アレイ検出器10aは上述したように画素周辺記録型撮像素子と呼ばれる構造の撮像素子である。図2はこの撮像素子の構造を模式的に示した図、図3は図2に示した撮像素子の1画素の機能構成図である。
図2に示すように、検出面には光電変換のための微小検出素子であるフォトダイオード21が二次元的に多数配列され、各フォトダイオード21で生成された信号電荷を順送りしながら保持する記憶部としての蓄積用CCD列25が画素内又はその周辺に設けられている。フォトダイオード21で生成された信号電荷は書き込みゲート22を介してそれぞれの蓄積用CCD列25に送り込まれ、垂直方向に並ぶ複数のフォトダイオード21に接続された蓄積用CCD列25の末端は共通の垂直電荷転送部23に接続され、水平方向に並ぶ複数の垂直電荷転送部23の末端は1本の水平電荷転送部24に接続されている。蓄積用CCD列25には所定フレーム分の検出信号(1個のフォトダイオード21を画素とみなしたときの画素信号)を保持可能であるため、この検出信号を途中で読み出すこと無しに所定フレーム数分の画素信号を高速で連続的に取得し、取得終了後に、保持しておいた画素信号を外部に読み出してデータ処理することができる。
上記のような二次元アレイ検出器10aでの蓄積用CCD列25への信号電荷の転送のタイミングや蓄積用CCD列25に保持された信号電荷の外部への読み出しなどは後述する制御部11により制御される。他の二次元アレイ検出器10b、10cも同様である。そして、各二次元アレイ検出器10a、10b、10cから読み出された信号はいずれもデータ処理部12に入力されて一旦データメモリ13に格納される。データ処理部12はデータメモリ13に格納されたデータを適宜読み出してこれに対して所定の解析処理を実行し、その結果を表示部16の画面上に表示する。
制御部11はCPUなどを含んで構成され、上記二次元アレイ検出器10a、10b、10cの動作を制御するとともに、TOF型質量分離部4でのイオンの飛行を制御するTOF電圧発生部14を制御し、また偏向電極61、62に偏向電圧を印加する偏向電圧発生部15を制御する。
次に、上記構成の顕微質量分析装置による測定の一例を説明する。制御部11は偏向電極61に印加する偏向電圧が図4(a)中に実線で示すように、レーザー照射後に時間経過に伴って三段階にステップ状に、即ち−Va→0→Vaと変化し、他方、偏向電極62に印加する偏向電圧が図4(a)中に点線で示すように、Va→0→−Vaと変化するように偏向電圧発生部15を制御する。短時間のレーザー光1の照射により試料Sの二次元範囲では各種のイオンがほぼ一斉に生成され、上述のように集束レンズ3を介してTOF型質量分離部4に入射する。TOF型質量分離部4の飛行空間を通る間に、質量数の小さなイオンは先行し、質量数が大きくなるほど遅れる。したがって、一対の偏向電極61、62で挟まれる空間には生成された各種イオンの中で質量数が最小のイオンが最も早く到来し、時間が経過するに伴い、到来するイオンの質量数は徐々に大きくなる。
図4(a)に示したように、測定の初期には偏向電極61に負の偏向電圧−Va、偏向電極62に正の偏向電圧+Vaが印加されており、これにより形成される負の偏向電場により、初期に通過する質量数が比較的小さなイオンは図1中でX軸に沿った負方向(図1中では右方向)に大きく曲げられる。そして、イオンは検出ユニット7aのMCP8aに導入される。したがって、偏向電極61に偏向電圧−Va、偏向電極62に偏向電圧+Vaが印加されている期間中は、実質的にイオンを検出するのは検出ユニット7aだけであり、他の検出ユニット7b、7cにはイオンは入射して来ない。このとき制御部11は、各検出ユニット7a、7b、7cに対し所定の等時間間隔で蓄積用CCD列25に信号電荷を順送りで転送するように制御信号を与える。
図7は二次元アレイ検出器10a、10b、10cで得られる質量分析イメージ画像の遷移を模式的に示す図であり、ここでは簡略化するために1つの二次元アレイ検出器10a、10b、10cが内部に保持可能なフレーム数は5であるとしている。上述のように測定初期には検出ユニット7aにのみイオンが入射するから、そのときには二次元アレイ検出器10aでは5フレームの質量分析イメージ画像が得られるが、他の二次元アレイ検出器10b、10cではそのときに得られる質量分析イメージ画像は無信号画像(又はノイズ画像)である。
制御部11は偏向電極61へ印加する偏向電圧を−Vaから0に、偏向電極62へ印加する偏向電圧を+Vaから0に、切り替えるタイミングで、二次元アレイ検出器10aでの転送動作のみを停止させる。すると、二次元アレイ検出器10aの内部の蓄積用CCD列25には質量数M1、…、M5に対応した質量分析イメージ画像F1〜F5を表す画像信号が保持された状態となる。
上述のように偏向電極61、62に印加される偏向電圧が0に切り替えられると、偏向電場は存在しなくなり、偏向電極61、62の間の空間を通過するイオンは飛行軌道を曲げる力を受けないので直進して中央の検出ユニット7bに入射する。このときのイオンの質量数は二次元アレイ検出器10aで検出されたイオンの質量数M1〜M5よりも大きい範囲である。このときには、二次元アレイ検出器10b、10cのみが信号電荷の転送を行っているので、図7(b)、(c)に示すように二次元アレイ検出器10bでは順次増加する質量数M6、M7、M8、M9、M10に対応する5フレームの質量分析イメージ画像F6〜F10が得られるが、他の二次元アレイ検出器10cでは無信号画像(又はノイズ画像)しか得られない。
制御部11は偏向電極61へ印加する偏向電圧を0からVaに、偏向電極62へ印加する偏向電圧を0から−Vaに切り替えるタイミングで、二次元アレイ検出器10bでの転送動作も停止させる。すると、二次元アレイ検出器10bの内部の蓄積用CCD列25には質量数M6、…、M10に対応した5枚の質量分析イメージ画像F6〜F10を表す画像信号が保持された状態となる。
上述のように偏向電極61に印加される偏向電圧がVaに、偏向電極62に印加される偏向電圧が−Vaに切り替えられると、これにより偏向電極61、62間に形成される正の偏向電場により、二次元アレイ検出器10bで検出されたイオンの質量数M10よりも大きな質量数範囲に属するイオンは図1中でX軸の正方向に大きく曲げられる。そして、イオンは検出ユニット7cのMCP8cに導入される。したがって、偏向電極61に偏向電圧+Va、偏向電極62に偏向電圧−Vaが印加されている期間中は、実質的にイオンを検出するのは検出ユニット7cだけであり、他の検出ユニット7a、7bにはイオンは入射して来ない。このときには、二次元アレイ検出器10cのみが信号電荷の転送を行っているので、図7(c)に示すように二次元アレイ検出器10cでは順次増加する質量数M11、M12、M13、M14、M15に対応する5フレームの質量分析イメージ画像F11〜F15が得られる。そして質量分析イメージ画像F15が得られた後の所定のタイミングで、制御部11は二次元アレイ検出器10cでの転送動作も停止させる。すると、二次元アレイ検出器10cの内部の蓄積用CCD列25には質量数M11、…、M15に対応する5枚の質量分析イメージ画像F11〜F15を表す画像信号が保持される。
そして、全ての二次元アレイ検出器10a、10b、10cでの転送を停止した後に、今度はそれぞれの検出器10a、10b、10cの内部に格納しておいた画像信号を読み出してデータメモリ13に格納し、データ処理部12はデータメモリ13に格納されたデータに対する所定の処理を実行する。例えば、質量数毎に信号強度を濃淡で示すグレイスケール表示画像を作成するようにし、その質量数に対応した物質の分布情報を得られるようにすることができる。また、グレイスケール表示の代わりに信号強度の大小に応じて表示色を変えるようにしたり、信号強度を別の軸とした三次元グラフ表示としてもよい。また、同程度の信号強度、つまり濃度の位置を線でつないで等高線表示する等、任意の表示形式で以て上記のような分析結果を表示部16に表示させることができる。
以上のように第1実施例の顕微質量分析装置では、それぞれ二次元アレイ検出器10a、10b、10cを含む3つの検出ユニット7a、7b、7cを並設し、TOF型質量分離部4により質量数に応じて時間的に分離されたイオンについて、時間経過に伴い偏向電場により飛行軌道を変えることで3つの検出ユニット7a、7b、7cに順に振り分ける。これにより、1つの検出ユニットのみであれば、例えば質量数M1〜M5までの質量数範囲の質量分析イメージ画像しか取得できなかったのに対し、質量数M1〜M15までの広い質量数範囲の質量分析イメージ画像を取得することが可能になる。信号転送の時間間隔が質量分解能となるから、同じ質量分解能を保ちながら測定対象の質量数範囲を広げることができる。また、測定対象の質量数範囲を従来と同一にすれば、時間間隔を狭くすることにより質量分解能を上げることができる。
なお、上記実施例では偏向電圧をステップ状に変化させたが、図6に示すようにスロープ状に偏向電圧を掃引するようにしてもよい。この場合には、まず先行して偏向電場に到達する質量数の小さなイオンは強い負の偏向電場により大きく曲げられて検出ユニット7aに到達する。これは上記実施例と同じである。時間経過に伴い偏向電場に到達するイオンの質量数は徐々に大きくなるが、それに伴い負の偏向電場は徐々に弱まるから、飛行軌道の曲げ量は小さくなってゆき直進方向に近づく。そして、偏向電圧が0になるとイオンは直進する。さらに時間が経過すると偏向電極61には正の偏向電圧が、偏向電極62には負の偏向電圧が印加されその値(絶対値)は徐々に大きくなるため、正の偏向電場は徐々に強まり、それに伴ってイオンはX軸の正方向に曲げられその曲げ量は大きくなってゆく。
このように偏向電圧の変化に伴って二次元検出部7のMCP8a、8b、8cのイオン入射面では投影像がX軸の正方向に徐々に移動してゆく。したがって、この場合には、各二次元アレイ検出器10a、10b、10cの信号転送は、上記のようにシフトしてゆく投影像が各検出ユニット7a、7bから抜けた時点で停止するようにすればよい。また、単位時間当たりの投影像のシフト量は予め求めておくことができるから、データ処理の段階でそのシフト量を補正することにより、上記ステップ状の偏向電圧変化時と同様の質量分析イメージ像を作成することができる。
また、上記実施例は二次元アレイ検出器10a、10b、10cとして一般的な画素周辺記録型撮像素子を利用していたが、これに代えて裏面型の画素周辺記録型撮像素子を用いることもできる。この裏面型の素子の基本的な構成は上述した通常素子と同じであるが、基板を薄くすることで裏面に入射された電子が表面近くまで到達し易くすることにより、フォトダイオードに相当する各微小検出素子で入射してきた電子を捕捉し、これにより流れる電流を光電流の代わりに用いる。したがって、二次元アレイ検出器に直接的に電子を入射して、この電子の量に応じた画素信号を取り出すことができる。
検出ユニットの構成としては、図6(b)に示すように、MCP8aは二次元的に入射したイオンをそれぞれ電子に変換してこれを増倍させるが、その後段に蛍光板は必要なく、増量された電子を二次元アレイ検出器40aの裏面の検出面に入射させる。もちろん、試料S上で各イオンが出射する部位の相対位置関係は二次元アレイ検出器40aの検出面においても保たれる。この構成では、蛍光板が不要になるためその分のコストを削減できるという利点があるが、それだけでなく、蛍光板を無くしてMCP8aと二次元アレイ検出器40aの検出面とを近接させることにより、結像のボケを軽減するのに有効である。したがって、質量分析イメージ画像の空間分解能を向上させることができる。
[第2実施例]
次に、本発明の別の実施例(第2実施例)について図8を参照して説明する。図8はこの第2実施例の顕微質量分析装置の要部の構成図であり、上記第1実施例と同じ構成要素には同一符号を付して説明を省略する。なお、図面が繁雑になるのを避けるため、制御系や処理系の電気回路のブロック構成の記載は省略してある。
この第2実施例の構成では、対向する2枚の偏向電極61、62と直交する方向に他の2枚の偏向電極301、302を対向配置してある。また、検出ユニット7a、7b、7c、7d、7e、7f、7g、7h、7iはX軸方向に並設するのみならずY軸方向にも並設してある。この構成では、偏向電極61、62により形成する偏向電場によりイオンの飛行軌道をX軸方向に曲げるとともに、追加した偏向電極301、302により形成する偏向電場によりイオンの飛行軌道をY軸方向にも曲げる。それにより、時間経過に伴って、つまりはTOF型質量分離部4から出射するイオンの質量数の増加に伴って、質量分析イメージ画像を取得する検出ユニット7a〜7iを順番に振り分ける。これにより、第1実施例よりもさらに測定対象の質量数範囲を広げることができる。
[第3実施例]
本発明のさらに別の実施例(第3実施例)について図9を参照して説明する。図9はこの第3実施例の顕微質量分析装置の要部の構成図であり、上記第1実施例と同じ構成要素には同一符号を付して説明を省略する。なお、図面が繁雑になるのを避けるため、制御系や処理系の電気回路のブロック構成の記載は省略してある。
上記第1及び第2実施例ではイオンを偏向させるために電場を利用していたが、この第3実施例では磁場によりイオンを偏向させる。即ち、投影レンズ5と二次元検出部7との間の空間に偏向電極の代わりに一対の平行平板磁極311、312を配置してある。この平行平板磁極311、312の間には静磁場が形成されている。一様な磁場Bの中では、電圧Eで加速されたイオンは次の式で表される回転半径Rで回転運動する。
R=(1/B)・√(2mE/e)
ここでm:イオンの質量、E:加速電圧、e:イオンの電荷量
である。即ち、イオンの質量に依存して回転半径が相違するため、磁場を通過したイオンは質量毎に軌道が変わることになる。回転半径Rが小さいほど軌道の曲がり量は大きいため、質量の小さなイオンほどより大きく曲がり、図9においてX軸の正方向に曲がることになる。したがって、レーザー光1の照射により試料S上の二次元範囲からイオンが出射した後、質量数が最も小さなイオンは検出ユニット7bの所定範囲で最も端に到達し、質量数が大きくなるに従い、イオンの到達位置は相対的にX軸の負方向に移動する。この場合にもシフト量と質量数(又は時間)との関係を予め求めておくことができるから、シフト量を補正した質量分析イメージ画像を作成することができる。
[第4実施例]
本発明のさらに別の実施例(第4実施例)について図10を参照して説明する。図10はこの第4実施例の顕微質量分析装置の要部の構成図であり、上記第1実施例と同じ構成要素には同一符号を付して説明を省略する。なお、図面が繁雑になるのを避けるため、制御系や処理系の電気回路のブロック構成の記載は省略してある。
この例では、対向する2枚の偏向電極61、62により形成される電場と、対向する2枚の平行平板磁極311、312により形成される磁場とを組み合わせている。電場と磁場とを組み合わせた質量分離器はE×B型質量分離器として一般に知られている。この質量分離器では、磁場による力を電場による力とが逆方向に掛かる。或る質量数mのイオンではこの2つの力が均衡して直進するが、それより小さな質量数のイオンでは磁場の影響を大きく受け、図10においてX軸の正方向に軌道が曲がり、質量数の大きなイオンでは磁場の影響が小さいため、電場の影響をより強く受けることになり、図10においてX軸の負方向に軌道が曲がる。これによっても、質量数の増加に伴ってイオンの到達位置が移動するから、上記各実施例と同様に、各二次元アレイ検出器10a、10b、10cによりそれぞれ異なる質量数範囲の質量分析イメージ画像を取得して測定質量数範囲を広げることができる。
[第5実施例]
本発明のさらに別の実施例(第5実施例)について図11を参照して説明する。図11はこの第5実施例の顕微質量分析装置の要部の構成図であり、上記第1実施例と同じ構成要素には同一符号を付して説明を省略する。なお、図面が繁雑になるのを避けるため、制御系や処理系の電気回路のブロック構成の記載は省略してある。
上記第1乃至第4実施例の構成では、TOF型質量分離部4のイオン出射口のすぐ後方に投影レンズ5を配置し、この投影レンズ5と二次元検出部7との間に偏向電場又は偏向磁場を設けるようにしていたが、この第5実施例の構成のように、偏向電場(又は偏向磁場)と二次元検出部7との間に投影レンズ5を配置してもよい。この構成によっても、上述したようなイオンの質量数による到達位置の変化と像の投影とを実現できる。
なお、上記各実施例はいずれも一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。

Claims (7)

  1. a)試料上の所定の二次元範囲に含まれる成分を一斉にイオン化するイオン化手段と、
    b)該イオン化手段により生成されたイオンを、各イオンが生成された二次元的な相対的位置関係を保ちつつ、質量数に応じて出射時間が相違するように分離する質量分離手段と、
    c)前記質量分離手段により分離されたイオンを各イオンが生成された二次元的な相対的位置関係を保ちつつイオン量に応じた量の光子又は電子に変換する変換手段と、該変換手段により変換された光子又は電子を検出して電気信号として出力する微小検出素子を二次元状に配列した検出部、及び各微小検出素子で得られた電気信号をそれぞれ所定のフレーム数分保持可能な記憶部を内蔵する画素周辺記録型撮像素子である二次元アレイ検出器と、を1組として、複数組を検出部の延展方向に並設してなる二次元検出手段と、
    d)前記質量分離手段のイオン出射口と前記変換手段との間の空間に配置され、通過するイオンに対し飛行軌道を曲げるような力を及ぼす電場及び/又は磁場を形成するイオン偏向手段と、
    を備え、前記イオン偏向手段による飛行軌道の曲げ量を変化させることにより、時間的に異なる時点で該イオン偏向手段を通過したイオンが前記二次元検出手段において異なる組の変換手段及び二次元アレイ検出器で検出されるようにしたことを特徴とする質量分析装置。
  2. 前記質量分離手段は飛行時間型質量分析器であることを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
  3. 前記各二次元アレイ検出器における記憶部への電気信号の格納動作を制御する制御手段を備え、該制御手段は、複数組の二次元アレイ検出器について、対応する変換手段にイオンが入射するタイミングに合わせてそれぞれの格納動作を制御する構成とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析装置。
  4. 前記イオン偏向手段は、イオンの通過領域を挟んで配設された1乃至複数組の偏向電極と、該偏向電極に電圧を印加する電圧印加手段とから成り、その印加電圧を変化させることでイオンの飛行軌道の曲げ量を変化させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の質量分析装置。
  5. 前記イオン偏向手段は、イオンの通過領域を挟んで配設された、磁場を発生する1組の磁極であり、該磁場中を通過するイオンの質量数の変化に応じて飛行軌道の曲げ量が変化するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の質量分析装置。
  6. 前記二次元アレイ検出器は、光電変換を行う微小検出素子が二次元状に配列された検出部を有する画素周辺記録型撮像素子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の質量分析装置。
  7. 前記二次元アレイ検出器は、前記検出部が形成された面と反対側の面にある検出面に入射した電子を各微小検出素子で捕捉して検出を行う裏面型の画素周辺記録型撮像素子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の質量分析装置。
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