本発明は膜電極接合体の製造方法、燃料電池の製造方法、膜電極接合体及び燃料電池に関するものである。本発明の製造方法による膜電極接合体は、燃料電池の膜電極接合体として好適に使用することができる。
固体高分子型燃料電池は、エネルギー変換効率が高いこと、クリーンであること、静かであることなどから、将来のエネルギー生成装置として期待されている。固体高分子型燃料電池はエネルギー密度が高く、運転温度が低いことから、近年では、自動車や家庭用発電機などの用途だけではなく、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなど小型の電気機器などの用途も検討されている。固体高分子型燃料電池は、従来の二次電池に比べ長時間駆動できる可能性があり、注目を集めている。
固体高分子型燃料電池は、運転温度が100℃以下でも駆動できるという利点を有する一方、発電時間の経過に伴って次第に電圧が低下し、終には発電が停止するという問題点を有している。
このような問題点は、反応で生じる水が触媒層の空隙内に滞留し、触媒層中の空隙を水が塞いで、反応物質である燃料ガスの供給を妨げることにより、電圧が低下して終には発電反応が停止するという、所謂「フラッディング現象」に起因している。特に水が生成するカソード側の触媒層でフラッディングが起きやすい。
また、小型の電気機器用燃料電池として実用化するためには、システム全体のコンパクト化が必須である。特に燃料電池を小型電気機器に搭載する場合においては、システム全体だけでなく電池自体も小型化する必要がある。そのため、ポンプやブロワーなどを用いずに空気を通気孔から自然拡散によって空気極(カソード)へ供給される方式(Air Breathing)が有力視されている。
このような方式を用いた場合、生成水は自然蒸発によってのみ燃料電池外へ排出されるので、生成水が触媒層に滞留しフラッディングが起こることが多い。
以上のことから、触媒層のガス拡散性、特に生成水散逸性を向上させ、フラッディングを抑制することが、燃料電池の性能安定性を左右する重要な要素となると考えられる。
これに関して、特許文献1及び2には、触媒層に排水用の溝を設けることで、ガス拡散性及び生成水散逸性を向上させる技術が開示されている。
一方、特許文献3には、スパッタ法やイオンプレーティング法を用いて、樹枝状形状を有する多孔質触媒層を形成する方法が開示されている。特許文献3は、触媒層の厚さを数μmと従来の白金担持カーボン触媒(数10μm)よりも薄くし、ガス及び水滴の物質拡散経路を短くすることで、ガス拡散性及び生成水散逸性を向上させる技術を開示する。
また、非特許文献1には、イオンビームアシスト蒸着(IBAD)法によって触媒層を成膜する際に、マスクを用いることで、触媒形成領域と触媒非形成領域とに分けるように触媒層をパターニングしている。非特許文献1は、これにより生成水の散逸性が向上し、燃料電池の出力が向上する、としている。
特開2004−327358号公報
特開2004−039474号公報
特開2006−49278号公報
M.S.Saha A.F.Gulla,R.J.Allen and S.Mukerjee,Electrochim.Acta,51(2006)4680.
特許文献3の実施例では、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の転写シートを基板として、気相成膜法により多孔質触媒層を形成した後、固体高分子電解質膜に転写することで膜電極接合体(以下、「MEA」という)を作製している。
しかしながら、本発明の発明者らが鋭意検討を行った結果、特許文献3の実施例の場合、多孔質触媒層のPTFEシート側近傍で、厚さ約0.1〜0.2μmほどの緻密層が形成されることがわかった。なお、本願発明及び本明細書において、緻密層とは、多孔質ではあるが、多孔質触媒層中の他の領域と比べて空孔率が低い層状の領域のことである。
更に、発明者らは、燃料電池セルを組み立てた際、この緻密層により多孔質触媒層とガス拡散層の間の物質拡散性が阻害されるという問題点を見出した。
さらに、MEAを作製した際、電解質膜の膨潤作用により触媒層に幅1μm以上のクラックがランダムな形状で多数生じていることを見出した。この多孔質触媒層においては、ガス及び水滴は触媒層中を面内方向に拡散し、このクラックを通してガス拡散層とやり取りされているものと考えられる。
すなわち、従来では、物質拡散経路の長さが触媒層の厚みより大きくなっている場所が多数存在しており、このことが多孔質触媒層の物質拡散性を低下させてしまう要因となっていた。
ここで、特許文献1及び2に記載の製造方法を、単純に特許文献3に記載の触媒層製造方法に組み合わせて排水溝を設けたとしても、触媒層の転写シート近傍にはやはり緻密層が形成されてしまうため、物質拡散性が阻害されてしまい、問題の解決に至らない。
また、特許文献2に記載の製造方法による場合、転写シートを金型により折り曲げることにより触媒の非転写部、すなわち溝を形成している。このため形成可能な溝の幅と間隔は転写シートの厚みの2倍より大きくなる。特許文献2には、転写シートの厚みは10μm以上でないと製造操作に耐える強度が得られないと記載されているので、溝の幅及び間隔は20μmより大きいものに制限されるという問題点がある。
特許文献3に記載の触媒層の物質拡散性を向上させるには、溝の間隔を触媒層の厚み(数μm)とほぼ同等にする必要があるので、特許文献2に記載の方法を単純に組み合わせても問題の解決には至らない。
また、溝の幅が数100μmと大きいと毛管力が弱くなるため、溝内に生成水が滞留しやすくなるという問題点があるため、好ましくなく、やはり問題の解決には至らない。
一方、非特許文献1に記載されているようにマスク成膜法を用いて触媒非形成領域(この領域は、機能的には排水溝である)を設けることは、簡便な方法ではあるが、マスク上に形成された触媒が無駄となってしまうので、コスト面で問題がある。仮に、マスク上に形成された触媒を回収し再利用するとしても、回収コストは無視できない。また、マスクの製作費用もコスト増の一因となる。
従来技術には上記のような問題があり、特許文献3に記載の樹枝状形状を有する触媒層の物質拡散性及び生成水散逸性を向上し、触媒利用効率を向上させる実用的な技術が求められていた。
本発明は以上のような事情に鑑みて構成されたもので、物質拡散性と触媒利用効率を向上させた膜電極接合体の製造方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、上記の製造方法により製造された膜電極接合体を用いて、高出力で安定な発電特性を有する燃料電池を低コストで提供することを目的としている。
さらに、本発明は、物質拡散性と触媒利用効率に優れた膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供することを目的とする。
そこで、本発明は、固体高分子電解質膜の両側に触媒層を有する膜電極接合体の製造方法において、
シートの表面に触媒又は触媒前駆体からなる第一の層を気相成膜法により成膜する第一成膜工程と、
前記第一の層に貫通孔を形成する工程と、
前記貫通孔を形成した第一の層の表面に触媒又は触媒前駆体からなる第二の層を気相成膜法により成膜する第二成膜工程と、
前記第二の層の表面に固体高分子電解質膜を接合する工程と、
前記シートを前記第一の層から剥離する工程と、
を少なくとも有することを特徴とする膜電極接合体の製造方法である。これらの工程によって、前記触媒層のうちの少なくとも一方が固体高分子電解質膜上に形成されることになる。
前記第一の層に貫通孔を形成する工程は、該第一の層の前記シートに接する表面の開口率が8%以上40%以下となるように貫通孔を形成する工程であることが好ましい。
前記第一の層に貫通孔を形成する工程は、貫通孔形成後に該第一の層中の触媒又は触媒前駆体が前記シートの表面積1cm2あたり50μg以上残存するように貫通孔を形成する工程であることが好ましい。
前記第一成膜工程の前に、前記シートの表面に凹凸を設ける工程を有し、該凹凸を設けた表面に前記第一の層を成膜することが好ましい。このような凹凸としては、筋状の凹凸が好ましい。前記シートの表面に凹凸を設ける工程としては、ラビング処理又は研磨処理が好適に用いられる。前記第二の層の表面に固体高分子電解質膜を接合する工程は、前記凹凸の凸部上に形成された第二の層と、該凹凸の凹部上に形成された第二の層の少なくとも一部と、前記固体高分子電解質膜に接合する工程であることが好ましい。
前記貫通孔を設ける方法は種々考えられるが、ドライエッチング法が好ましい。
前記第一の層として白金あるいは白金酸化物からなる層を設け、前記第二の層としてPtOx(X≧2)からなる層を設け、該PtOx(X≧2)を還元する工程を有することが好ましい。前記PtOx(X≧2)を還元することにより、樹枝状形状を有する触媒層を形成することが好ましい。
また、本発明は、上記いずれかに記載の製造方法により膜電極接合体を製造する工程と、前記膜電極接合体の両側にガス拡散層を形成する工程と、を少なくとも有する燃料電池の製造方法である。
さらに、本発明は、固体高分子電解質膜の両側に触媒層を有し、該触媒層の少なくとも一方が樹枝状形状を有する触媒層である膜電極接合体において、
該樹枝状形状を有する触媒層はマクロクラック及び貫通孔を有し、該樹枝状形状を有する触媒層の該マクロクラックに囲まれた領域内の前記貫通孔の前記固体高分子電解質膜と反対側の表面における開口率が8%以上40%以下であることを特徴とする膜電極接合体である。
前記マクロクラックに囲まれた領域の円相当直径の加重平均は35μm以下であることが好ましく、該円相当直径の標準偏差は前記加重平均の50%以下であることが好ましい。
また、本発明は、このような膜電極接合体と、その両側に存在するガス拡散層と、を少なくとも有する燃料電池である。
本発明の膜電極接合体の製造方法及び燃料電池の製造方法によれば、得られた膜電極接合体の物質拡散性を向上させるとともに、触媒層のフラッディングに伴う燃料電池の出力低下を抑制し、長期間安定に駆動し得る燃料電池を得ることができる。また、触媒利用効率を向上させることができるため、触媒量を低減することができ、膜電極接合体及び燃料電池の低コスト化を図ることができる。本発明の膜電極接合体及び燃料電池によっても、膜電極接合体の物質拡散性を向上させ、触媒層のフラッディングに伴う燃料電池の出力低下を抑制し、長期間安定に駆動し得る燃料電池を得ることができる。
本発明者らが鋭意検討を行った結果、前述した問題を解決するには、前記緻密層中の物質拡散性を向上すること、及び/又は、前記クラックに囲まれて島状になった触媒領域(以下、「触媒グレイン」と呼ぶ場合がある)の円相当直径を小さくすることによって触媒層中の面内方向の物質拡散経路長を短くすること、が有効であるとの考えに至った。
これに加えて、前記触媒グレインの円相当直径のバラツキを小さくすることで、触媒層の物質拡散性を向上することができることを見出した。
以下、図面を用いて、本発明に係る膜電極接合体の製造方法の好適な実施の形態、本発明に係る燃料電池の製造方法の好適な実施の形態及び本発明に係る膜電極接合体の好適な実施の形態並びにそれを用いた燃料電池の好適な実施の形態について説明する。ただし、本発明の範囲は特許請求の範囲によって定まるものであり、以下の記載は本発明の範囲を限定するものではない。たとえば、以下に記載されている材質、寸法、形状、配置、製造条件等は、この発明の範囲を限定するものではない。
まず、本発明の製造方法によって製造される膜電極接合体及び燃料電池の好適な形態について説明する。
本明細書でいうところの膜電極接合体(MEA)は、固体高分子電解質膜の両側に触媒層を有するものである。
図1は、本発明によって製造方法される膜電極接合体を用いた燃料電池単セルの断面構成の一例を示す模式図である。図1において、1は固体高分子電解質膜であり、これを挟んで一対の触媒層、すなわちアノード側触媒層2と、カソード側触媒層3が配置されている。この固体高分子電解質膜1とアノード側触媒層2とカソード側触媒層3との一体物がMEA8である。
本例においては、カソード側電極(空気極)側のみに本発明の製造方法による触媒層が配置された例を示すが、触媒層の配置構成はこれに限定されるものではない。例えば、本発明による触媒層をアノード側に配置してもよいし、アノード側のみに配置してもよい。もっとも、水が生成するカソード側触媒層でフラッディングが起きやすいことからすれば、少なくともカソード側には本発明の製法による触媒層を配置することが好ましい。
アノード側触媒層2の外側には、アノード側ガス拡散層4とアノード側電極(燃料極)6が配置される。アノード側電極6は燃料ガス(代表的には水素ガス)が通過できる貫通孔を少なくとも1つは有している。アノード側ガス拡散層4は、微細孔層(マイクロポーラス層。以下、MPLと略記する。)9と、MPL9を支持するガス拡散基材10とから構成される。
カソード側の触媒層3の外側には、カソード側ガス拡散層5、カソード側電極(空気極)7及び発泡金属12が配置される。カソード側ガス拡散層5も、MPL9と、MPL9を支持するガス拡散基材10とから構成される。
また電極6及び7の材料としては、導電性と耐酸化性に優れた材料が好適に用いられる。好適な材料の具体例としては、白金、チタン、カーボン、SUS(ステンレス)、金で被覆したSUS、カーボンで被覆したSUS、金で被覆したアルミニウム、カーボンで被覆したアルミニウムを挙げることができる。
発泡金属12の材料としては、電極6及び7と同じく、導電性と耐酸化性に優れた材料が好適である。具体的には、SUS、ニッケルクロム合金、チタンが好適に用いられる。ニッケルクロム合金発泡金属の例として、セルメット(登録商標、富山住友電工社製)が挙げられる。耐蝕性向上や接触抵抗低減の観点から、これらのいずれかの材料が金で被覆されたものであっても良い。発泡金属12は必ずしも用いなくても良いが、用いない場合は、電極7に貫通孔を設け、少なくとも酸素や水蒸気ガスが通過できる機能を付与することが必要である。なお、発泡金属12は必ずしもカソード側のみに設置するものではなく、アノード側のみ用いても良いし、両極に用いても良い。発泡金属12の細孔径や空孔率は、反応ガスや水蒸気などの拡散を阻害しないものであれば、特に限定されるものではない。
固体高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」という場合がある)1としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体を好適に使用することができる。パーフルオロスルホン酸重合体の例としてNafion(ナフィオン)(登録商標、デュポン社製)が挙げられる。
なお、プロトンH+が電解質膜中をカソード側に向かって移動する場合には水分子を媒体として電解質中の親水性部分を移動する場合が多いので、電解質膜は水分子を保有する機能も有していることが好ましい。
固体高分子電解質膜の機能としては、アノード側で生成したプロトンH+をカソード側に伝達するとともに未反応の反応ガス(水素及び酸素)を通さないこと、所定の保水機能があることが好ましい。固体高分子電解質膜には、このような機能を有する材料のうち、諸条件を考慮して任意の材料を選択して使用することができる。
ガス拡散層4,5は、以下の機能を有することが好ましい。まず、電極反応を効率良く行わせるために、燃料ガス又は空気を燃料極又は空気極の触媒層中の電極反応領域へ、面内で均一に充分に供給する機能である。また、電極反応によって生じる電荷を単セル外部に放出させる機能である。さらに、反応生成水や未反応ガスを単セル外部に効率よく排出する機能である。
このような機能を有するガス拡散層としては、電子伝導性を有する多孔質体を好ましく用いることができる。例えばガス拡散基材10としてはカーボンクロスやカーボンペーパーを、MPL9としてはPTFEをバインダーとした炭素微粒子層が、好適に使用できる。炭素微粒子はアセチレンブラックやケッチェンブラック、気相成長繊維状カーボン、カーボンナノチューブなどを使用できる。カソード側触媒層3は、多孔質触媒層であることが好ましく、白金ナノ粒子の集合体からなるものであることが好ましい。中でも、PtOx(X≧2:代表的には二酸化白金)を還元して得られる樹枝状形状を有しているものをカソード側触媒層3として用いることが、特に好ましい。樹枝状形状を有する触媒層は、比表面積の大きな優れた多孔質触媒層である。
ここで本明細書における樹枝状形状とは、触媒ナノ粒子が集まって構成される棒状あるいはフレーク(薄片)状の組織が、分岐点を有して多数集まった構造を指す。樹枝状形状を有する触媒層の断面をトンネル顕微鏡などで観察すると、触媒粒子からなる棒状の構造体やフレーク状の構造体が複数集合することによって枝分かれした樹木のように見える。
一つの棒状あるいはフレーク状組織は、その短手方向の長さが5nm以上200nm以下であることが好ましい。なお、ここにいう短手方向の長さとは、一つの棒状の構造体あるいはフレーク状の構造体の仮想投影面内における最小の寸法を意味する。樹枝状形状の白金ナノ粒子の集合体に関しては、例えば、特開2006−49278号公報に開示されている技術を本発明に適用することが可能である。
本明細書中において、単に二酸化白金という場合は、PtOx(X≧2)の意味である、すなわち、一般的に二酸化白金と称される化学式PtO2で表されるもののみならず、化学式PtOx(X>2)で表されるものを含む。化学式PtOx(X>2)で表されるものを使用しても、本発明の効果を十分に得ることができる。Xに特に上限はないが、白金の性質を考えると、現実的にはXの上限は2.5と考えられる。また、樹枝状形状を有する触媒層を得るという観点からは、このように定義された二酸化白金を還元することが望ましい。さらに、樹枝状構造を得るためには、ヘキサゴナル(Hexagomal)系の結晶二酸化白金あるいはアモルファス二酸化白金を還元することが好ましい。もっとも、第一の層には、二酸化白金以外の白金酸化物あるいは白金をも好適に用いられる。第一の層の組成が樹枝状形状の形成に与える影響は極めて小さい一方で、二酸化白金でなくても貫通孔の形成は可能だからである。
前記白金ナノ粒子としては、直径が2nm以上20nm以下のものが、触媒活性が高いため好ましく、直径が2nm以上10nm以下のものが、表面積が大きいため特に好ましい。
直径が20nmを超えると、触媒活性が低くなってしまう場合があり、それにともなって燃料電池の性能が低下するおそれがある。一方、直径が2nm未満のものは作製が困難である。
カソード側触媒層3には疎水剤が含まれていることが好ましい。
カソード側触媒層3に疎水剤を添加するには、カソード側触媒層3にフッ素樹脂微粒子分散液(例えば、ポリフロン(登録商標、ダイキン工業製))などを添加する方法、特開2006−332041に記載の方法などの公知の方法を使用することができる。触媒層3の空孔の細部にまで疎水剤を行き渡らせるという観点からは、特開2006−332041に記載の方法を用いることが特に好ましい。
特開2006−332041に記載の方法は、具体的には、以下のステップを有する。まず、白金酸化物の触媒作用で加水分解反応を起こし重合可能基を生成する疎水性置換基を有するSi化合物を、白金酸化物に接触させる。次に、このSi化合物を重合反応させることで、疎水剤を白金酸化物表面に生じさせる。その後に白金酸化物を還元する。
この方法によれば、カソード側触媒層3のみにメチルシロキサンなどからなる疎水剤を簡便に添加することができる。
以上のカソード側触媒層3に関する技術は、すべてアノード側触媒層2にも適用可能である。もっとも、フラッディングがカソード側触媒層3で生じやすくアノード側触媒層2では生じ難いことを考えると、アノード側触媒層に2としては、白金黒、白金担持カーボンなどの一般的な触媒を使用することもできる。
次に、本発明に係る製造方法の実施形態について説明する。
本発明の第一の実施形態は、シート(以下、わかりやすくするために「転写シート」という)の表面に気相成膜法により触媒層又は触媒前駆体層(第一の層)を成膜する第一成膜工程と、触媒層又は触媒前駆体層に貫通孔を形成する工程と、貫通孔を形成した触媒層又は貫通孔を形成した触媒前駆体層の表面にさらに触媒層又は触媒前駆体層(第二の層)を成膜する第二成膜工程とを有する膜電極接合体の製造方法である。
気相成膜法としては、反応性スパッタなどのスパッタ法やイオンプレーティング法が好適に用いられる。
本発明で用いる転写シートの材料としては、耐熱温度が130℃以上の材料が好適に用いられる。MEAを形成する際の転写工程で、固体高分子電解質膜のガラス転移温度(Nafion(登録商標)では130℃)以上の温度でのホットプレスを行うからである。また、耐熱温度が高い材料を用いると、気相成膜時に転写シートの温度が上昇した際に、転写シートが損傷を受けるおそれを少なくすることができる。より具体的には、転写シートとして、PTFE、ポリカーボネート、ポリイミドなどの耐熱温度が高い樹脂基板を用いることが好ましい。
これらの転写シートの中心線平均粗さが10nm以下の場合、イオンプレーティング法や反応性スパッタ法などの気相成膜法により二酸化白金層を成膜すると、シート近傍には通常0.02〜0.2μm程の厚さの緻密層が形成され、その上に多孔質な層が形成される。これらの全体が触媒前駆体層となる。この緻密層の厚さは、成膜中の雰囲気の全圧によって変化し、全圧が高いほど薄くなり、全圧が低いほど厚くなる。たとえば、全圧8Paでは0.02μmの、全圧5Paでは0.1μmの、全圧3Paでは0.2μmの厚さの緻密層がそれぞれ形成される。
このような触媒前駆体層を電解質膜に転写した後に還元して、あるいはこのような触媒前駆体層を還元した触媒層を電解質膜に転写して、MEAを作成すると、触媒層中の緻密層(不図示)がMPL9側の触媒層表面に露出することとなる。その結果、燃料電池単セル内では、触媒層中の多孔質層(不図示)とMPL9との間にこの緻密層が位置することになり、触媒層とガス拡散層との間の物質拡散性が阻害される。
転写シートの中心線平均粗さが10nm以上であれば、前記緻密層は形成されないが、粗さが大きいと、離型性に優れたPTFEシートを使用した場合でさえ、転写後に触媒層から転写シートを剥離しにくくなってしまうという問題点がある。
図4及び図5は、従来の製造方法で作製された触媒層の表面(MPL側)を示す。図5から、触媒層表面は微小なクラックが存在するものの、かなり緻密であることが判る。
また、図4から判るように従来の触媒層表面には幅数μm程の大きなクラックが網目状に多数存在している。これは電解質膜の膨潤に伴って形成されたと考えられる。
従来の触媒層では、ガスや水滴の移動は、主にこの大きなクラックを通して行われると考えられる。この大きなクラック同士の間隔は広いので、反応ガスや生成水が触媒層の厚さ方向に移動しようとした場合、反応ガスや生成水が触媒層中を面内方向に移動しなければならない距離が長くなってしまう。そのため、従来の触媒層は厚さ方向の物質拡散性が低いと推測される。
一方、本発明の第一の実施形態によれば、前記緻密層に貫通孔を形成する。緻密層に貫通孔が存在するので、反応ガスや生成水が触媒層の厚さ方向に移動しようとした場合の面内方向の移動距離が短くて済む。このため、従来に比べて触媒層の厚さ方向の物質拡散性が大幅に向上する。
ここで、第一の層の転写シートに接する表面の貫通孔の開口率は8%以上40%以下となるようにすることが好ましい。開口率を8%未満とした場合、本発明の効果が急激に小さくなってしまう。開口率を40%よりも大きくした場合、本発明の効果はほぼ飽和してしまう一方で、転写シートと第一の層との密着力が小さくなって剥離しやすくなるので、製造時の取扱いが困難となる。
なお、本発明でいうところの貫通孔の形状は、その断面が円形に近いものである必要はない。たとえば、断面が円形に近い貫通孔が複数連なって形成されたマイクロクラックも、本発明でいう貫通孔に包含される。本明細書中において、マイクロクラックとは幅1μm以下のクラックを指す。一方、本発明及び本明細書中においては、幅が1μmを超えるクラックをマクロクラックと呼ぶ。マクロクラックの代表例は筋状クラックである。本発明及び本明細書中における「筋状クラック」とは、幅1μm以上のクラックが少なくとも100μm以上の長さに渡って略直線状になっているものを指す。
なお、本発明でいうところの貫通孔の開口率とは、層の表面における一つの触媒グレイン内での貫通孔の開口部の占有率を指す。ここで、一つの触媒グレインとは、マクロクラックによって囲まれた領域である。なお、第一の層に貫通孔を形成した段階では、このようなマクロクラックはほとんど存在しないので、開口率の計算上、マクロクラックの開口部が占める面積は無視し得る。このような開口部の定義が実質的に意味を持つのは、最終的に膜電極接合体あるいは燃料電池を形成した場合についてである。以下、そのような場合について、貫通孔の開口率の求め方について説明する。
まず、膜電極接合体形成後の触媒層(製造工程において触媒前駆体からなる層を用いた場合は、還元処理を施して触媒層にしたもの)の主平面(固体高分子電解質膜とは反対側の表面:すなわち表に現れている表面)を走査電子顕微鏡によって撮影する。撮影の際にはマクロクラック(すなわち、貫通孔(マイクロクラックを含む)以外のクラック)が画面内に入らないように撮影位置と倍率を適宜調整する。撮影の際には、開口部が暗く、それ以外(表面に触媒が存在する部分)は明るく撮影されるので、できるだけコントラストが高くなるように画質を調整することが好ましい。
次に、画像解析ソフト(例えば、旭化成エンジニアリング社製の商品名「A像くん」)を使用し、得られた電子顕微鏡写真に、画像の白黒2値化処理及び画像解析処理を施すことで、個々の触媒グレイン内での貫通孔の開口部の占有率(すなわち、本発明でいうところの、貫通孔の開口率)を求めることができる。
転写シートの表面に気相成膜法により触媒層又は触媒前駆体層を成膜する第一成膜工程において形成する層の厚さ50〜500nmであることが好ましい。厚さが50nmより薄いと、次の貫通孔形成工程後に残存する触媒層又は触媒前駆体層が少なくなりすぎないように貫通孔を形成することが困難となる。一方、厚さが500nmより厚いと、貫通孔形成工程で取り除かなければならない二酸化白金量が多くなりすぎて、無駄になる白金が多くなってしまう。
貫通孔形成工程では、エッチング法、なかでもドライエッチング法を用いることが好ましい。
貫通孔形成工程においては、貫通孔の開口率が8%以上40%以下となるような条件(たとえば、エッチング条件)を適宜選択することが好ましい。 貫通孔形成後には、触媒層又は触媒前駆体層が転写シート面積当たり50μg/cm2以上残っていることが好ましい。
残存量が50μg/cm2より少ないと、触媒層又は触媒前駆体層が基板を覆う面積が小さくなりすぎ、基板の露出面積が大きくなるため、次の第二成膜工程で、再度緻密層が形成されてしまうおそれがあり、その場合、本発明の効果が十分に得られないおそれがある。
貫通孔形成後に該第一の層中の触媒又は触媒前駆体が前記シートの表面積1cm2あたり50μg以上残存するような貫通孔形成条件(たとえばエッチング条件)を適宜選択することが好ましい。
また、貫通孔形成後の該第一の層の空孔率が35%以上45%以下となるようにすることが好ましい。
空孔率が35%以上になるようにすることによって、物質拡散性及び生成水散逸性をより向上させることができる。一方、空孔率が45%を超えるようにすることも可能ではあるが、空隙率が45%より大きな範囲において空隙率を上昇させたとしても物質拡散性及び生成水散逸性の向上の程度は小さくる一方で、転写シートと第一の層との密着力が小さくなって剥離しやすくなるので、製造時の取扱いに注意を要することになる。
なお、ここでいう空孔率は次の通りにして算出される。まずMEAを収束イオンビーム(FIB)を用いて切断(以下、「FIB加工」という)し、その断面を走査電子顕微鏡(SEM)にて観察し写真を撮影する。得られた断面写真のうち第一の層内に、第一の層の主平面に対して平行なラインを引く。SEM写真では空孔部が黒く観察され、触媒部は白く観察されるため、このライン上の黒い画素がライン上の全画素中に占める割合を第一の層の空孔率とする。
ここで、FIB加工する際には、触媒層の主平面に対して90°の角度でFIBを入射させて切断するよりも、FIBの入射角度を触媒層の主平面に対して20〜40°程度とすることで、主平面に直角ではない角度を持って切断し、触媒層の斜断面が露出するように加工すると良い。このように切断すると、断面の情報に平面の情報が加わった3次元的な情報を含む画像を得ることができるため、より正確な空孔率を求めることができる。
FIB加工に先立って、触媒層をインクなどに浸し触媒層の空孔にカーボンを充填しておくと、FIB加工時の飛散物の付着を防ぐことができ、SEM観察時に空孔と触媒のコントラスト比が高くなるため正確な空孔率を計算でき、好ましい。もっともこの方法では、インクは第一の層には行き渡りやすいが、インクを触媒層の全域に行き渡らせることは困難である。このため、この方法により作製した試料の断面観察像では、第一の層はコントラストの高い像が得られるものの、第二の層では不正確な像しか得られない可能性がある。この方法で得られた観察像では、第一の層の領域のみ解析対象とすることが好ましい。
以下、本発明の第一の実施形態を用いた燃料電池(単セル)の製造方法の一例について、工程順に沿って、より具体的に説明する。
なお、下記(3)の工程の還元処理は、下記(5)の工程の後に行ってもよい。
(1)二酸化白金層(触媒前駆体層)を成膜する。
第一成膜工程として、転写シートとしてのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シートの表面に、反応性スパッタ法により二酸化白金層を形成する。
その後、貫通孔形成工程としてAr雰囲気下でドライエッチングを行う。
さらにその後、第二成膜工程として、ドライエッチングを行った二酸化白金層の表面に、二酸化白金層を反応性スパッタ法により成膜する。
(2)触媒層を疎水化処理する。
引き続き、特開2006−332041に記載の公知技術に従い、触媒層を疎水化する。すなわち、得られた多孔質白金酸化物層を、疎水性置換基を含むSi化合物の気体とを接触させることによって、触媒表面上に疎水剤を形成する。その後、加熱することによって、疎水剤の重合反応を促進しても良い。
(3)二酸化白金層を還元処理する。
続いて、この二酸化白金層を水素還元処理することによって、カソード側触媒層としての多孔質な白金触媒層を得る。
さらに、その後、得られた触媒層上にプロトン伝導性電解質であるナフィオンのIPA(イソプロピルアルコール)溶液を適量滴下し、その後真空中にて溶媒を揮発させることで、触媒表面にプロトンパスを形成する。
このようにしてカソード側触媒層を得る。
(4)アノード側触媒層を準備する。
PTFEシートの表面に、ドクターブレードを用いて白金担持カーボン触媒層を形成することによりアノード側触媒層を得る。触媒層の厚さは20〜40μmの範囲が好ましい。ここで使用する触媒スラリーは、白金担持カーボン(Jhonson Matthey製、HiSPEC4000)、ナフィオン、PTFE、IPA及び水の混錬物である。
(5)MEAを作成する。
工程(3)で得られたカソード側触媒層付きPTFEシートと(4)で得られたアノード側触媒層付きPTFEシートによって、それぞれの触媒層が内側になるようにして固体高分子電解質膜(Dupont製、NRE211)を挟み、ホットプレスを行う。その後、カソード側触媒層の外側のPTFEシートとアノード側触媒層の外側のPTFEシートを剥離することにより、本発明の触媒層を具備したMEAが得られる。
(6)燃料電池単セルを作成する。
工程(5)で得られたMEAを、カーボンクロス(E−TEK製 LT1400−W)からなるガス拡散層4、5、アノード側電極6、発泡金属12、カソード側電極7によって、図1のように挟んで、燃料電池単セルを作製する。
なお、このようにして作製した単セルを複数スタックした燃料電池を作製することも可能である。
また本発明の第二の実施形態は、前記第一成膜工程前に、前記転写シートに凹凸を設ける工程を追加することを特徴とする。このようにすると、作成されたMEAにおいて、触媒層に貫通孔に加えてマクロクラック(たとえば、筋状クラック)が形成されるため、物質拡散性が更に向上し、好ましい。より具体的には、以下のとおりである。
転写シートの表面に凹凸を設けると、それに倣って触媒層又は触媒前駆体層に凹凸が形成される。この触媒層又は触媒前駆体層の凹凸の高低差及びスペース間隔(段差間の凹部における最小距離:すなわち、凹部の最小幅)を制御することにより、触媒層(触媒前駆体層を還元処理して得られた触媒層であってもよい)又は触媒前駆体層を電解質膜に転写する際に、凹部内に電解質膜を接触させることが可能となり、凸部の触媒層とともに凹部の触媒層を電解質膜に転写することが可能となる。このようにすると、転写時(ホットプレス時)に凹凸の段差部において触媒層又は触媒前駆体層が剪断破壊する。それにより、触媒層又は触媒前駆体層の緻密層に凹凸形状(段差)を反映した形状のクラックが形成される。そして、ホットプレス後に電解質膜が膨潤することに伴ってこのクラックの幅が拡大し、幅が1μmを超えるマクロクラックが多数形成される。制御の好適な例については後述する。
このようにして形成されたマクロクラックは、最終的に触媒層中の排水溝としても機能する。すなわち、マスク成膜法と比較して触媒を無駄にすることなく、低コストで膜電極接合体及び燃料電池を製造することができる。
なお、第二の実施形態においても、緻密層に貫通孔を形成する工程は必要である。緻密層に貫通孔を形成しない場合、緻密層の機械的強度が高くなってしまうので剪断破壊を生じさせることができず、凹凸形状を反映したマクロクラックが形成されないからである。
第二の実施形態の具体的な手法としては、以下に示す(A)の工程の後に、上述した第一の実施形態の(1)〜(6)の工程を行うことが挙げられる。なお、第二の実施形態においても、(3)の工程を(5)の工程の後に行ってもよい。
(A)転写シートに凹凸を形成する。
研磨処理、ラビング処理、インプリンティングなどを用いて、転写シートとしてのPTFEシートの表面に凹凸を形成する。
凹凸の形成方法は特に限定されるものではない。例えば、インプリンティング、研磨紙による研磨、ラビング布を用いたラビング、各種押圧処理、シートを溶融して凹凸表面を有するように成型すること、レーザー照射などによって、シート表面の分子を熱分解若しくは光分解させ、又はシートの表面近傍を一部溶融させ、凹部を形成すること、フォトリソグラフィープロセスの利用、などを用いることができる。製造コストの観点からは、ラビング処理又は研磨処理が好ましい。ラビング処理又は研磨処理を用いた場合、転写シートにはさまざまな形状の凹凸が形成されうる。この場合、転写シートに形成される凹凸形状は、中心線平均粗さ(Ra)が0.38μm以上30μm以下であることが好ましい。Raを0.38μm以上にすることにより、最終的に凹凸形状を反映したマクロクラックが触媒層に形成されやすくなる。また、Raを30μm以下とすることにより、電解質膜への転写時に凹部の触媒層と電解質膜との接触が良好となり、触媒又は触媒前駆体の無駄を抑えることができる。
インプリンティング法やフォトリソグラフィープロセスなどを利用して凹凸形状を精密に制御することができる。この場合、凹凸の高低差を0.1μm以上とすることが好ましい。凹凸の高低差を0.1μm以上とすることにより、緻密層の厚さ(0.02μm〜0.2μm)と比較して十分な高低差が緻密層に与えられ、転写工程における剪断破壊を生じやすくすることができる。
また、凹凸の形成方法とは関係なく、凹凸の高低差は、転写工程における電解質膜の凹部への侵入可能深さと触媒層又は触媒前駆体層の厚さとの和以下とすることが好ましい。そのような関係にすることによって、凹部の触媒層又は触媒前駆体層の転写を良好にすることができる。
電解質膜の凹部への侵入可能深さは転写工程の温度に依存する。すなわち、転写工程において、電解質膜を軟化点以上に加熱することによって、電解質膜の凹部への侵入を容易ならしめることができる。侵入可能深さは電解質膜の物性に依存するので、使用する電解質膜に応じて転写シート表面の凹凸の高低差を予め設計しておくことが望ましい。たとえば、電解質膜としてNRE212(Dupont社製、厚さ50μm)を用い、触媒層の厚さを2μmとした場合、転写シート表面の凹凸の高低差は20μm以下とすることが好ましい。
前述したスペース間隔は5μm以上200μm以下とすることが好ましい。スペース間隔を5μm以上とすることにより、転写工程における凹部への電解質膜の侵入を容易にすることができる。また、スペース間隔を200μm以下とすることにより、凹凸形状を反映したマクロクラックを多くすることができる。スペース間隔についても、電解質膜の物性に応じて最適な範囲は異なるので、使用する電解質膜に応じて予め設計しておくことが望ましい。たとえば、電解質膜としてNRE212(Dupont社製、厚さ50μm)を用い、触媒層の厚さを2μmとした場合の、転写シートの凹凸高低差に応じた転写シートの好ましいスペース間隔は以下のとおりである。
凹凸高低差≦2μmのとき: 5μm<スペース間隔≦50μm
凹凸高低差>2μmのとき: 10μm<スペース間隔≦50μm
転写シートに設ける凹凸の形状としては、筋状(直線状、曲線状、ジグザグ状)、ドット状、ホール状、あるいはそれらの混合形状を挙げることができる。いずれの凹凸形状を採用した場合であっても、転写工程時に凹部の触媒層又は触媒前駆体層が電解質膜に転写されることで、最終的には、採用した凹凸形状を反映したマクロクラックが触媒層に形成される。
転写シート上に凹凸を設けることなく製造した触媒層中にも多数のクラックが存在している。たとえば、触媒前駆体層である白金酸化物層を還元して触媒層を得た場合、還元に伴う体積収縮に起因するクラック(以下、クラックAと呼ぶ)や、電解質膜の膨潤に伴って発生するクラック(以下、クラックBと呼ぶ)が存在する。
これらのクラックに加えて、第二の実施形態として上述した工程によって凹凸形状を反映したクラック(以下、クラックCと呼ぶ)を形成することで、触媒グレインをより小さくすることができる。それにより、触媒層中の物質拡散性をさらに向上させることができる。なぜならば、触媒層中に存在する反応ガスや生成水が、触媒層中の緻密層(の主として貫通孔)を透過して拡散することに加えてクラックCを経由して面内方向に拡散することができるとともに、触媒グレインが小さいほど、触媒層面内方向での物質拡散距離が短くなるからである。
ここで、触媒層のマクロクラックに囲まれた領域(触媒グレイン)の円相当直径の加重平均Dは、35μm以下であることが好ましい。
Dを35μm以下とすることにより、触媒層中の物質拡散性をより向上させることができる。
なお、Dは以下の数式により求めることができる。
((式1)中、Nは触媒グレインの総数であり、S(n)はn番目の触媒グレインの周囲長を表す。)
S(n)の求め方は以下のとおりである。
まず、膜電極接合体形成後の触媒層(触媒前駆体層を還元処理した場合は還元処理後の触媒層)の主平面(固体高分子電解質膜とは反対側の表面:すなわち表に現れている表面)を走査電子顕微鏡によって撮影する。撮影面積は0.08mm2以上であることが好ましい。また、クラックや触媒グレインを高い解像度で撮影し正しい形状を把握するためには、500倍以上の倍率で触媒層の複数箇所を撮影し、撮影面積の総和が0.08mm2以上となるようにすることが好ましい。この場合、個々の画像について個別に粒子解析処理を行うことが好ましい。
撮影の際には、クラック部及び貫通孔の開口部が暗く、それ以外の触媒グレイン部分が明るく撮影されるので、できるだけコントラストが高くなるように画質を調整することが好ましい。
次に、画像解析ソフト(例えば、旭化成エンジニアリング社製の商品名「A像くん」)を使用し、得られた電子顕微鏡写真に、画像の白黒2値化処理及び画像解析処理を施すことで、個々の触媒グレインの周囲長S(n)を求めることができる。なお、画像端部などに存在し触媒グレイン全体が写っていないグレインについては、解析対象から除くようにする。
解析処理にあたっては、得られた画像から触媒グレインを正確に粒子として抽出することができるように、種々のパラメータを設定する。
なお、ラビング処理や研磨処理によって転写シートに凹凸を付与した場合、クラックが触媒グレインの途中で止まっており複数の触媒グレインが一部連結したような1個の大きな触媒グレインが観察されることがある。このような大きな触媒グレインについては連結部の最小幅が5μm以下である場合には、実質的に触媒グレインが寸断されているとみなして、別個の触媒グレインとして粒子解析処理を行う。なぜならば、物質拡散性の向上というマクロクラックの機能を考慮した場合、クラックがグレインを完全に分割していなくとも、連結部が十分小さい幅を有している場合には、その周囲の触媒層においては、クラックがグレインを完全に分割している場合と実質的に同じ効果が得られると考えられるためである。
以上の周囲長を求めるための測定は、前述した貫通孔の開口率を求めるための測定と同時に行うこともできる。
触媒層のマクロクラックに囲まれた領域(触媒グレイン)の円相当直径の加重平均Dは、小さければ小さいほど、物質拡散性に優れている。
もっとも、ラビング処理や研磨処理を用いた場合、さまざまな形状の凹凸が形成されるため、Dの値を小さくするのには限界がある。本発明者らの実験検討によれば、この場合のDの下限値は16μmであった。
一方、インプリンティング法やフォトリソグラフィー法を用いれば、凹凸形状を1μm以下の寸法精度で精密に制御することができるので、コスト面を度外視すれば、Dをさらに小さくすることが可能である。その場合であっても、Dは5μm以上とすることが好ましい。なぜならば、転写シートのスペース間隔及び凸部の最小幅をそれぞれお5μm以上としておくことが、凹部の触媒又は触媒前駆体に転写するために好ましいからである。
転写シートのスペース間隔及び凸部の最小幅を5μm以上50μm以下とした場合、クラックC同士の間隔は5μm以上50μm以下となる。この場合、触媒層の応力緩和が起こり、それ以外のクラック(クラックA及びクラックB)が形成されにくくなる。すなわち、クラックA及びクラックBによるDを小さくする効果は望みにくい。このため、転写シートのスペース間隔及び凸部の最小幅を5μmとしたとしても、Dを5μm未満とすることは困難である。
また、触媒層のマクロクラックに囲まれた領域(触媒グレイン)の円相当直径の標準偏差をσとした場合に、σ/Dは50%(0.5)以下であることが物質拡散性の向上の観点から好ましく、40%(0.4)以下であることがより好ましい。σ/Dの値に下限はないが、ラビング処理や研磨処理を用いた場合、実験的に確認されたσ/Dの下限値は37%(0.37)であった。なお、コストを度外視するのであれば、インプリンティング法やフォトリソグラフィー法を用いることによりσ/Dを3%以下とすることも可能である。
以上の実施形態に係るMEAや燃料電池の製造方法としては、様々な方法を採用し得る。
次に、具体的な実施例を示し、本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
本実施例は本発明の第一の実施形態を用いて、図1に示した構成からなる固体高分子型燃料電池を作製した例である。
以下、本実施例に係わる固体高分子型燃料電池の製造工程を詳細に説明する。
(工程1)
まず第一成膜工程として、PTFEシート(日東電工製、ニトフロン:以下、「基板」という場合もある)の表面に、Pt(4N)ターゲットを用いたRF反応性スパッタリング法で白金酸化物層を厚さ300nmに成膜した。反応性スパッタ装置は、アルバック社製のCS−200を使用した。ここで反応性スパッタは、全圧5Pa、酸素流量比(QO2/(QAr+QO2))90%、基板ヒーター温度40℃、ターゲットへのRF(13.56MHzの高周波)の投入パワーは5.4W/cm2という条件にて行った。
その後に貫通孔形成工程として、真空チャンバー内をAr雰囲気(0.67Pa)に置換し、RFを基板に2.8mW/cm2のパワーで投入し、7分間プラズマエッチングを行った。ここで基板上に残った白金酸化物は、基板面積当たり50μg/cm2であった。
さらにその後に第二成膜工程として、二酸化白金層を2μmの厚さで成膜した。反応性スパッタの条件は第一成膜工程と同一にした。白金酸化物層中のO/Ptモル比は、約2.4であった。
(工程2)
特開2006−332041に記載の公知技術に従い、白金酸化物表面に疎水剤を形成した。すなわち、(工程1)で得られた白金酸化物層を、2,4,6,8−テトラメチルテトラシクロシロキサンの蒸気と室温(蒸気圧1.2kPa)で密閉容器中で4分間接触させることによって、白金酸化物の表面上に適量の疎水剤を形成した。白金酸化物層中のSi/Ptモル比は、0.18であった。
(工程3)
続いて、得られた白金酸化物層を2%H2/He雰囲気に30分間曝して還元処理を行い、PTFEシートの表面に樹枝状形状を有する多孔質白金触媒層を得た。Pt担持量は0.65mg/cm2であった。
その後、得られた触媒層に1wt%のナフィオン溶液(和光純薬工業製5%ナフィオン分散溶液をIPAで1%に希釈したもの)を触媒面積1cm2当たり8μl滴下し、真空中にて溶媒を揮発させることで、触媒表面にプロトンパスを形成した。
このようにして、カソード側触媒層としての多孔質白金触媒層が得られた。
(工程4)
アノード側触媒層を作成するため、PTFEシートの表面に、ドクターブレード法にて白金担持カーボン層をPt担持量が0.3mg/cm2になるように形成した。ここで使用する触媒スラリーは、白金担持カーボン(Jhonson Matthey製、HiSPEC4000)1質量部、ナフィオン0.07質量部、IPA1質量部、水0.4質量部の混錬物である。
(工程5)
触媒層が内側になるようにして、(工程3)及び(工程4)で作成した触媒層付きPTFEシートで、固体高分子電解質膜(Dupont製Nafion112、厚さ50μm)を挟み、4MPa、150℃、10minなるプレス条件でホットプレスを行った。その後、アノード及びカソード側の両触媒層からPTFEシートを剥離してPTFEシートを除去することにより、MEAを得た。このMEAは、カソード側触媒層が本発明の触媒層であり、アノード側触媒層が白金担持カーボン触媒層である。
(工程6)
(工程5)で得られたMEAを、MPL付きカーボンクロス(E−TEK製 LT1400−W)からなるガス拡散層4、5並びにアノード側電極6、発泡金属12及びカソード側電極7、によって図1のような順で挟んで燃料電池単セルを形成した。なお、図1では不図示であるが、ガス拡散層4、5の周囲はOリング11でシールしてある。
(比較例1)
(工程1)において貫通孔形成工程を行わなかった以外は、すべて実施例1と同様にして作成した単セルを作製した。カソード側触媒層のPt担持量は0.61mg/cm2であった。
(工程5)においてPTFEシートを除去した後の実施例1のカソード側触媒層表面(MPLと対向する側の表面:以下の実施例、比較例においても、特に断らない限り同様)の走査電子顕微鏡写真を図2及び図3に示す。また比較例1のカソード側触媒層表面の走査電子顕微鏡写真を図4及び図5に示す。
これらの図からわかるように、比較例1では触媒層表面は比較的緻密質な部分から形成され、触媒層間には数μmの幅の大きなクラックが網目状に存在していた。
これに対し、実施例1では大きなクラックは少なく、触媒層表面に多数の貫通孔が形成されており、比較例1よりも多孔質になっていることが観察された。これが(工程1)のエッチング工程によりもたらされた形状の違いである。
(実施例2)
本実施例は本発明の第一の実施形態を用いて、図1に示した構成からなる固体高分子型燃料電池を作製した例である。
(工程1)において第二成膜工程で白金酸化物層を1μmの厚さで成膜した以外は、すべて実施例1と同様にして作成した単セルを作製した。カソード側触媒層のPt担持量は0.35mg/cm2であった。
(比較例2)
(工程1)において貫通孔形成工程を行わなかった以外は、すべて実施例2と同様にして作成した単セルを作製した。カソード側触媒層のPt担持量は0.31mg/cm2であった。
(実施例1、2及び比較例1、2の評価)
以上の工程によって作製した燃料電池単セルそれぞれに、図6に示したように電子負荷装置及び水素ガス配管を接続し、燃料電池の発電特性の評価を行った。その際、アノード電極側に水素ガスをデッドエンド0.2MPaで充填し、カソード電極側は空気に開放した。また、発電特性の評価は、電池温度25℃、外部環境の相対湿度を50%で行った。
電流密度400mA/cm2で、連続発電を行った場合のセル電圧の時間変化を、図7に示す。
図7において、実施例1と比較例1を比較すると、実施例1の触媒層を用いた単セルが、30分を経過してもなお電圧が平均0.62V以上あったのに対し、比較例1の単セルでは0.56Vであり、実施例1より約60mVも低い電圧であった。なお、「平均」というのは、測定結果中の短期的な電圧変動(ノイズ)の影響を除去して電圧を平均化したことを意味する。
なお、実施例1のPt量は比較例1より40μg/cm2多いが、この差はごく小さいため、60mVもの電圧の差を与える要因にはならないと考えられる。
また、実施例2と比較例2を比較すると、実施例2の触媒層を用いた単セルが、30分を経過してもなお電圧が平均0.58V以上あったのに対し、比較例2の単セルでは平均0.52Vであり、実施例2より約60mVも低い電圧であった。
このような結果は、実施例1及び2の燃料電池(単セル)は、比較例1及び2の燃料電池(単セル)と比べて、出力と出力安定性(発電安定性)が格段に優れていることを示している。このような結果が得られる理由は、実施例1及び2のカソード側触媒層は、貫通孔を有しているために、比較例1及び2のカソード側触媒層と比べて、生成水散逸性、排水性に優れていることにあると考えられる。
さらに、図7において実施例2と比較例1を比較すると、実施例2の触媒層は比較例1の触媒層に比べてPt量が約60%であるにも関わらず、比較例1よりも高い電圧を長時間維持できていた。
このことは、本発明の製造方法により触媒利用効率が向上し、より少ないPt量でより高い燃料電池出力が得られるようになったことを示す。
次に、実施例1の単セルと比較例1の単セルとを電流密度450mA/cm2で連続発電を行った場合のセル電圧の時間変化を、図8に示す。
図8において、実施例1と比較例1を比較すると、実施例1の触媒層を用いた単セルが、1時間(3600秒)を経過してもなお電圧が平均0.52V以上あったのに対し、比較例1の単セルでは平均0.46Vであり、実施例1より約60mVも低い電圧であった。
さらに、比較例1では発電時間の経過に伴い電圧が低下していくのに対し、実施例1の単セルでは3000秒を経過した後には電圧の低下が見られなくなった。
これは、電流密度450mA/cm2で連続発電を行った場合には、比較例1では触媒層中の生成水の発生量が散逸量を上回ってしまったため発電時間の経過と共に滞留水量が増加したのに対し、実施例1では生成水散逸量が比較例1より大きかったため滞留水が一定以上増加しなかったことを示していると考えられる。
(実施例3)
本実施例は、本発明の第二の実施形態を用いて、図1に示した構成からなる固体高分子型燃料電池を作製した例である。
(工程A)
PTFEシート(日東電工製、商品名ニトフロン)にラビング処理により深さ約1μmの略直線状凹凸を形成した。ラビング処理に用いた布(クロス)はカーボンクロス(LT1400−W、E−TEK社)であり、クロスが露出している面をPTFEシートに当てて手動で一定方向に擦り、略直線状の凹凸を形成した。
以降の工程は実施例1の(工程1)以降とすべて同様として燃料電池単セルを作製した。
(実施例4)
(工程1)において、プラズマエッチングの時間を8分間とした以外は、すべて実施例3と同様にして、燃料電池単セルを作成した。
(比較例3)
貫通孔形成工程を行わなかった以外はすべて実施例3と同様にして燃料電池単セルを作製した。
図9及び10に実施例3のPTFEシートを除去した後のカソード側触媒層表面の走査電子顕微鏡写真を示す。また比較例3のPTFEシートを除去した後のカソード側触媒層表面の走査電子顕微鏡写真を図11に示す。
図9からわかるように、実施例3では、触媒層に網目状クラックとともに幅数μmの略直線状クラックが多数形成されていた。また図10からわかるように、実施例3では、触媒層表面は実施例1と同様に多数の貫通孔が形成されていた。
これに対し図11から判るように、比較例3では筋状クラックは見られず、網目状クラックのみが形成されていた。また、比較例3では、触媒層表面は比較例1と同様に比較的緻密質な部分から形成されていた。
転写シートに付与した凹凸の形状は略直線状であったことから、実施例3で観察された略直線状のクラックは凹凸段差を反映したクラック(クラックC)であると考えられる。それ以外の網目状クラックは、触媒層の還元による体積収縮や電解質膜の膨潤によって形成されたクラック(クラックA、クラックB)であると考えられる。図10と図11との比較から、緻密層に貫通孔を形成する工程が、触媒層表面のクラックCの形成に寄与していると考えられる。
(実施例3、4及び比較例3の評価)
実施例1などの評価と同様にして、電流密度400mA/cm2で連続発電を行った場合の実施例3、実施例4の燃料電池単セルのセル電圧の時間変化を、実施例1、比較例1及び比較例3の燃料電池単セルの結果とともに図12に示す。
実施例3と比較例1及び3とを比較すると、実施例3の触媒層を用いた単セルが、30分を経過してもなお電圧が平均0.65V以上あったのに対し、比較例1及び3の単セルの電圧はいずれも約0.57Vであり、実施例3より約80mVも低かった。
実施例4と比較例1及び3とを比較すると、実施例4の触媒層を用いた単セルが、30分を経過してもなお電圧が0.60V以上あったのに対し、比較例1及び3の単セルの電圧はいずれも約0.57Vであり、実施例4より約30mVも低かった。
また、実施例3と実施例1を比較すると、30分後の電圧は実施例3の方が実施例1より20mV高かった。また、最高電圧で比較すると、実施例3は0.7Vであり、実施例1の最高電圧である0.64Vよりも60mVも高かった。
さらに、実施例4と実施例1とを最高電圧で比較すると、実施例4は0.67Vであり、実施例1の最高電圧である0.64Vよりも30mVも高かった。
このような結果は、実施例3及び実施例4の燃料電池(単セル)は、実施例1の燃料電池(単セル)よりも、さらに出力と出力安定性(発電安定性)が優れていることを示している。このような結果が得られる理由は、実施例3及び実施例4のカソード側触媒層は、貫通孔に加えてクラックCを有しているために、実施例1と比べて、生成水散逸性、排水性がさらに優れていることにあると考えられる。すなわち、転写シートに凹凸を形成する工程と触媒層の緻密層に貫通孔を形成する工程とを併用することにより、触媒層の生成水散逸性が大幅に向上し、燃料電池の出力と出力安定性を向上させることができる。
(実施例5)
本実施例は、本発明の第二の実施形態を用いて、図1に示した構成からなる固体高分子型燃料電池を作製した例である。
(工程A)
転写シーとしてのPTFEシート(日東電工製、ニトフロン)に研磨処理により略直線状の凹凸を形成した。研磨処理に用いた研磨シートには、アルミナ系研磨シート(WA400−75FEZ−A、日本ミクロコーティング株式会社製)を用い、研磨シートの上からゴムロールを押し当ててPTFEシート上を一定方向に研磨し、略直線状の凹凸を形成した。この時の加圧力は2kg/cm2、ゴムロール硬度は60度、研磨シート移動速度は1400mm/minとした。研磨処理後のPTFEシートのRaは、0.46μmであった。
以降の工程は実施例1の(工程1)以降とすべて同様として燃料電池単セルを作製した。
(実施例6)
実施例5において、研磨シートをWA1000−75FEZ−Aとした以外は、すべて実施例5と同様にして燃料電池単セルを作製した。研磨処理後のPTFEシートのRaは0.26μmであった。
図13に、PTFEシートを除去した後の実施例5のカソード側触媒層表面の走査電子顕微鏡写真を示す。また、図14に、PTFEシートを除去した後の実施例6のカソード側触媒層表面の走査電子顕微鏡写真を示す。
図13からわかるように、実施例5では、触媒層に網目状クラックとともに幅数μmの略直線状クラックが多数形成されていた。また図には明確に現れていないが、実施例5の触媒層表面には実施例1と同様に多数の貫通孔が形成されていた。
これに対し図14から判るように、実施例6の触媒層表面には略直線状クラックは見られず、網目状クラックのみが形成されていた。このような結果は、研磨処理によって転写シートに凹凸を付与する場合には、Raが0.3μm以上でなければ、クラックCが形成されないことを示している。
(実施例5及び実施例6の評価)
実施例1などの評価と同様にして、電流密度400mA/cm2で連続発電を行った場合の実施例5の燃料電池単セルのセル電圧の時間変化を、実施例6及び実施例1の燃料電池単セルの結果とともに図15に示す。
実施例5と実施例6とを比較すると、実施例5の触媒層を用いた単セルが、30分を経過してもなお電圧が平均0.66V以上あったのに対し、実施例6の単セルの電圧は約0.625Vであり、実施例5は実施例6よりも約35mVも高かった。
また、最高電圧で比較すると、実施例5は約0.69Vであり、実施例6の最高電圧である約0.66Vよりも30mVも高かった。実施例6と実施例1を比較すると、実施例6は実施例1よりも最高電圧は約20mV高いものの、30分後には実施例6と実施例1は同じ電圧となった。
すなわち、本例では、研磨処理によって転写シートに凹凸を付与する場合において、Raを0.3μm以上とすることにより、第二の実施形態による効果を十分に得られた。
次に、実施例1、3〜6の触媒グレインの円相当直径の加重平均Dと、電流密度400mA/cm2で連続発電を行った場合の燃料電池単セルの最大電圧との関係を図16に示す。
また同様に図17に、実施例1、3〜6の触媒グレインの円相当直径の標準偏差σとDの比σ/Dと、電流密度400mA/cm2で連続発電を行った場合の燃料電池単セルの最大電圧との関係を示す。
ここでD及びσの計算には、画像解析ソフト(A像くん、旭化成株式会社製)を用いた。電子顕微鏡観察にあたっては、500倍の倍率で触媒層の任意の場所を1箇所につき、0.02mm2ずつ4個所撮影し、個別に粒子解析処理を行い、個々の触媒グレインの周囲長S(n)を得た。また一部のみがわずかに連結したような触媒グレインについては、連結部の最小幅が5μm以下の触媒グレインに限って、クラックが触媒グレインを実施的に寸断しているものと見なして別個の触媒グレインとして解析処理を実施した。
図16〜17から、D及びσ/Dが小さいほど、単セル電圧の最大電圧は大きくなる傾向にあることが判る。特に、D<35μm、σ/D<50%である実施例3〜5では、実施例1、6に比べて大幅に単セル電圧が向上していることが判る。
このような結果が得られる理由は、実施例3〜5のカソード側触媒層は、第一の実施形態による触媒層緻密層への貫通孔形成に加え、クラックCを形成することにより、触媒グレインの大きさとそのバラツキが小さくなっているために、実施例1、6と比べて、物質拡散性が向上していることにあると考えられる。
すなわち、転写シートに凹凸を形成する工程と触媒層の緻密層に貫通孔を形成する工程とを併用することにより、触媒層の生成水散逸性が大幅に向上し、燃料電池の出力を向上させることができる。
(実施例7)
本実施例は本発明の第二の実施形態を用いて、図1に図示した膜電極接合体8を作製した例である。
(工程A)
フォトリソグラフィープロセス及びドライエッチングプロセスにより、Si基板上に、図18〜20に示すような、ライン状、ドット状、ホール状の3種類の規則的形状を有する凹凸パターンを形成した。ここで凹凸のスペース間隔は10μmとし、凸部の最小幅も10μmとした。凹凸高低差は2μmとした。
次に、サイトップ(商品名、旭硝子株式会社製)を使用して、Si基板上に離型層としてのフッ素樹脂膜(厚さ0.1μm以下)を成膜した。
この離型層を有するSi基板を転写シートとして使用し、以降の工程は実施例1の(工程1)〜(工程5)まですべて同様として、膜電極接合体を作製した。
(実施例8)
凹凸のスペース間隔を50μmとし、凸部の最小幅も50μmとした以外は、すべて実施例7と同様にして膜電極接合体を作製した。
(実施例9)
凹凸高低差を10μmとした以外は、すべて実施例8と同様にして膜電極接合体を作製した。
(実施例10)
凹凸のスペース間隔を5μmとし、凸部の最小幅も5μmとした以外は、すべて実施例7と同様にして膜電極接合体を作製した。
(実施例11)
凹凸のスペース間隔を1μmとし、凸部の最小幅も1μmとした以外は、すべて実施例7と同様にして膜電極接合体を作製した。
(実施例12)
凹凸のスペース間隔を5μmとし、凸部の最小幅も5μmとした以外は、すべて実施例9と同様にして膜電極接合体を作製した。
(実施例13)
凹凸のスペース間隔を1μmとし、凸部の最小幅も1μmとした以外は、すべて実施例9と同様にして膜電極接合体を作製した。
(実施例14)
凹凸高低差を10μmとした以外は、すべて実施例7と同様にして膜電極接合体を作製した。
表1及び2に、実施例7〜14の凹凸形状条件と転写工程後にSi基板に残った触媒層の有無の結果を示す。
これらの表から判るように、実施例7〜9では、ホール形状の場合を除いて転写工程後のSi基板には触媒層はほとんど残っていなかった。
これに対し、実施例7のホール状凹凸形状の場合、及び実施例10〜14では、転写工程において、凹部の触媒層はほとんど転写されず、転写工程後のSi基板の凹部には多くの触媒層が残っていた。
これらの結果は、Si基板の凹凸深さが2μmの場合で、且つ凹凸形状がライン状またはドット状の場合、スペース間隔が5μmより大きければ、凸部上の触媒層とともに、ほぼすべての凹部上の触媒層が電解質膜に転写されることを示す。
またこれらの結果は、凹凸深さが10μmの場合、スペース間隔が10μmより大きければ、凹凸形状によらず、凸部上の触媒層とともに凹部の触媒層まで電解質膜に転写されることを示す。
図21及び22に、実施例7及び8(凹凸形状=ライン状)で得られた各々の膜電極接合体の剥離シートを除去した後のカソード側触媒層の表面(MPLと対向する側の表面)の走査電子顕微鏡写真を示す。
これらの図から判るように、これらの触媒層では凹凸の段差部位置に相当する場所に白線が観察された。これは、他の凹凸形状にも共通して観察された。
図23は、実施例8において、凹凸形状がドット状の場合の、白線に見える部分を俯瞰した拡大図である。図23から判るように、図21及び22において白線となって写っている部分は、凹凸段差を反映したクラックであった。これは、他の凹凸形状の場合でも共通していた。
即ち、凹部の触媒層まで転写された場合にはすべて、凹凸段差部において触媒層にクラックCが形成されていた。
なお図21及び22から判るように、このような凹凸寸法条件においては、クラックCのみが観察され、それ以外のクラックA及びBはほとんど観察されなかった。このことは、クラックCの間隔が50μm以下の場合、クラックCにより触媒層の応力緩和が起こるため、クラックA及びBは形成されにくくなることを示していると考えられる。
(実施例15)
(工程1)においてプラズマエッチング時間を1分とした以外は、すべて実施例1と同様にして作成した単セルを作製した。貫通孔形成後にシート上に残った白金酸化物は、基板面積当たり84μg/cm2であった。
(実施例16)
(工程1)においてプラズマエッチング時間を3分とした以外は、すべて実施例1と同様にして作成した単セルを作製した。貫通孔形成後にシート上に残った白金酸化物は、基板面積当たり75μg/cm2であった。
(実施例17)
(工程1)においてプラズマエッチング時間を8分とした以外は、すべて実施例1と同様にして作成した単セルを作製した。貫通孔形成後にシート上に残った白金酸化物は、基板面積当たり52μg/cm2であった。
(実施例18)
(工程1)において第一成膜工程の際の全圧を3Pa、貫通孔形成工程の際のプラズマエッチング時間を8分とした以外は、すべて実施例1と同様にして作成した単セルを作製した。貫通孔形成後にシート上に残った白金酸化物は、基板面積当たり56μg/cm2であった。
(実施例19)
(工程1)において第一成膜工程の際の全圧を8Pa、貫通孔形成工程の際のプラズマエッチング時間を8分とした以外は、すべて実施例1と同様にして作成した単セルを作製した。貫通孔形成後にシート上に残った白金酸化物は、基板面積当たり40μg/cm2であった。
(実施例15乃至19の評価)
以上の工程によって作製した燃料電池単セルそれぞれに、図6に示したように電子負荷装置及び水素ガス配管を接続し、燃料電池の発電特性の評価を行った。その際、アノード電極側に水素ガスをデッドエンド0.2MPaで充填し、カソード電極側は空気に開放した。また、発電特性の評価は、電池温度25℃、外部環境の相対湿度を100%で行った。
試験方法は開回路電圧(OCV)から1A/cm2の電流密度まで、電流掃印速度0.1mA/cm2/secでスウィープを行った後に1mA/cm2/secで0Vまでスウィープし、各セルの電圧―電流密度特性を評価した。
この条件ではアノード側がデッドエンドであるので、アノード側からの水分蒸発は起こらない。さらにカソード側の空気湿度は100%RHであるので、カソード側からの水蒸発量も小さい状態となっている。すなわち、この条件ではセル外への水分移動が抑制されているので、カソードでのフラッディングが起こり易い。さらに測定時の電流値のスィ―プレートが小さく、それだけ測定時の発電時間が長くなり多くの水が生成されるので、高電流密度において燃料電池がフラッディングを起こし易い。このようにフラッディングが起こり易い条件で、各実施例と比較例の膜電極接合体を比較することで、各膜電極接合体のカソード触媒層における物質拡散性の大小を評価することができるので、効果を判断しやすくなる。
実施例15乃至17の燃料電池単セルの電圧―電流密度特性の結果を、実施例1及び比較例1の燃料電池単セルの結果とともに図24に示す。また実施例18及び19の燃料電池単セルの電圧―電流密度特性の結果を、図25に示す。
図24及び25から判るように、0.4Vにおける出力電流密度が比較例1では約410mA/cm2であったのに対し、実施例1及び実施例15〜17では約440mA/cm2以上であり、20mA/cm2以上も高かった。特に実施例17では490mA/cm2と70mA/cm2も高かった。
実施例19の電流密度は450mA/cm2と、比較例1よりは大きかったものの、同じエッチング時間であったにも関わらず実施例1及び実施例18よりは小さかった。これは、実施例19では緻密層の厚さが薄かったため、8分間のエッチングでは貫通孔形成後にシート上に残ったPt酸化物が少なくなりすぎたからであると推測される。すなわち実施例19では貫通孔形成工程後のPt酸化物が50μg/cm2未満となっていたため、その後の第2成膜工程で再度緻密層が形成され、実施例11及び12よりも貫通孔開口率が低下し、それにともなって出力電流密度が低下してしまったものと推測される。
図26に、実施例1及び比較例1、実施例15乃至19の膜電極接合体のカソード触媒層における貫通孔開口率と0.4Vにおける出力電流密度の相関図を示す。この図から、マクロクラックに囲まれた領域内の貫通孔の固体高分子電解質膜と反対側の表面における開口率が8%以上40%以下の範囲で出力電流密度が大きく向上することが判る。この図からは、出力電流密度は8%以下では急激に低下し、30%以上ではほぼ飽和することが判る。
図27に実施例17の、図28に比較例1の、触媒層断面の走査電子顕微鏡写真を示す。ここで、FIB加工時のビーム入射角度は触媒層の主平面に対して28°とした。
図27及び図28における第一の層13内に、第一の層13の主平面に対して平行なライン(幅7nm)を引き、このライン上の黒い画素がライン上の全画素中に占める割合を、第一の層の空孔率として計算した。
なおラインを引く際には、第一の層の膜厚方向中央付近を通るようにした。何故ならば、観察用試料においては、第一の層が完全な平板形状ではなく、第一の層とそれ以外との境界部分が直線とならないため、前記ラインを境界部付近に引いてしまうと、ラインが第一の層ではない箇所を経由してしまい正確な空孔率を計算できない恐れがあるからである。
実施例17(図27)の触媒層における第一の層の空孔率は43%であり、比較例1(図28)の第一の層の空孔率(33%)より10%も高かった。図26の結果と合わせて考えると、実施例17における第一の層は、比較例1の場合よりも、高い貫通孔開口率と空孔率を備えていることがわかる。この第一の層の構造により実施例17の触媒層は比較例1の触媒層に比べ高いガス拡散性と生成水散逸性を有し、その結果高い電流密度を出力できるものと推定される。
なお、図27及び28の第二の層14では、第一の層13よりも空孔率が低いかのように思われる領域も見られるが、この領域では試料調整時に添加したインクの充填が充分でない可能性があるため、正確な情報とは言えず、従ってここでは無視して差し支えない。
固体高分子型燃料電池の単セルの断面構成を表す模式図の一例である。
実施例1の触媒層表面を示す走査電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
実施例1の触媒層表面を示す走査電子顕微鏡写真(倍率6万倍)である。
比較例1の触媒層表面を示す走査電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
比較例1の触媒層表面を示す走査電子顕微鏡写真(倍率6万倍)である。
固体高分子型燃料電池の評価装置の模式図である。
実施例1、2及び比較例1、2の固体高分子型燃料電池の出力電流密度400mA/cm2における電圧の時間変化を示す図である。
実施例1及び比較例1の固体高分子型燃料電池の出力電流密度450mA/cm2における電圧の時間変化を示す図である。
実施例3の触媒層表面を示す走査電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
実施例3の触媒層表面を示す走査電子顕微鏡写真(倍率3万倍)である。
比較例3の触媒層表面を示す走査電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
実施例3及び比較例1、3の固体高分子型燃料電池の出力電流密度400mA/cm2における電圧の時間変化を示す図である。
実施例5の触媒層表面を示す走査電子顕微鏡写真(倍率500倍)である。
実施例6の触媒層表面を示す走査電子顕微鏡写真(倍率500倍)である。
実施例5及び実施例6の固体高分子型燃料電池の出力電流密度400mA/cm2における電圧の時間変化を示す図である。
触媒グレインの円相当直径の加重平均値と燃料電池の最高出力電圧との関係を示す図である。
触媒グレインの円相当直径の加重平均値と標準偏差との比(σ/D)と、燃料電池の最高出力電圧との関係を示す図である。
実施例7におけるSi基板上に付与した凹凸形状を示す模式図である。
実施例7におけるSi基板上に付与した凹凸形状を示す模式図である。
実施例7におけるSi基板上に付与した凹凸形状を示す模式図である。
実施例7の膜電極接合体のカソード側触媒層表面を示す図である。(倍率1000倍)
実施例8の膜電極接合体のカソード側触媒層表面を示す図である。(倍率1000倍)
実施例8の触媒層の拡大像を示す図(倍率3万倍、チルト角15°)である。
実施例1及び実施例15乃至17、比較例1の燃料電池セルの電圧―電流密度特性を示す図である。
実施例18及び実施例19の燃料電池セルの電圧―電流密度特性を示す図である。
実施例1及び比較例1、実施例15乃至19の膜電極接合体のカソード触媒層における貫通孔開口率と0.4Vにおける出力電流密度の相関を示す図である。
実施例17の触媒層の断面を示す走査電子顕微鏡(倍率35000倍)である。
比較例1の触媒層の断面を示す走査電子顕微鏡(倍率35000倍)である。
符号の説明
1 固体高分子電解質膜
2 アノード側触媒層
3 カソード側触媒層
4 アノード側ガス拡散層
5 カソード側ガス拡散層
6 アノード側電極
7 カソード側電極
8 MEA(膜電極接合体)
9 MPL
10 ガス拡散基材
11 Oリングシール
12 発泡金属
13 第一の層
14 第二の層