本発明は、溶銑の脱燐処理方法に関し、詳しくは、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素(カーボン)を含有する使用済み炭素含有耐火物などの物質を熱源及び造滓剤として利用した、溶銑の脱燐処理方法に関するものである。
近年、鉄鋼材料の高純度化、高強度化が著しく進み、これに伴い鋼中の有害不純物を除去する技術開発が盛んに行われ、そして、今日の鉄鋼精錬プロセスにおいては、転炉での脱炭精錬に先立って溶銑中に含有する燐及び硫黄を除去する、所謂、溶銑予備処理が一般的となっている。このうち、脱燐処理は、反応容器や処理方法などプロセスは多種多様であるが、酸素ガスまたは固体の酸化鉄などの酸素源を脱燐剤として溶銑に供給し、この脱燐剤中の酸素で溶銑中の燐を酸化して酸化物(P2O5)とし、生成された燐酸化物を脱燐精錬用スラグに吸収することで行われている。脱燐精錬用スラグを形成するための脱燐精錬剤としては、一般的に石灰(CaO)などのCaO系脱燐精錬剤が使用されている。
このとき、酸素ガスや酸化鉄によって酸化した燐を脱燐精錬用スラグに濃縮させるには、CaO系脱燐精錬剤を滓化(スラグ化)させることが必要である。しかし、脱燐処理は温度が1300〜1400℃程度と転炉吹錬に比べて低い温度で行われるために、CaO系脱燐精錬剤の滓化が進行しにくい。このため、CaO系脱燐精錬剤の滓化促進剤としてホタル石(CaF2)を添加することが行われてきた。
しかし、形成される脱燐精錬用スラグはホタル石の添加によりフッ素を含有し、スラグ中にフッ素が存在すると、脱燐処理後に反応容器から排出したスラグの水砕処理などの際にスラグ中のフッ素が水に溶出する。また、通常、スラグは路盤材などに利用されるため、スラグ中のフッ素が雨などにより水中に溶出し、溶出した水が土壌へと浸入し、環境に問題が生じることもある。
そこで、上記の問題を解消するために、ホタル石を使用しない溶銑の脱燐処理方法が、これまで幾つか開示されてきた。開示された技術を大きく分類すると、(1)転炉滓の脱燐処理へのリサイクル、(2)スラグ組成の制御、(3)CaO系脱燐精錬剤組成の制御の3つに分けられる。このなかで、Al2O3の添加は、CaO系脱燐精錬剤の融点を降下させ、ホタル石と同等の脱燐能を得るのに効果があるという知見から、近年特に、脱燐精錬用スラグのAl2O3含有量またはCaO系脱燐精錬剤のAl2O3含有量を制御した技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、脱燐処理中のスラグの組成を、塩基度(質量%CaO/質量%SiO2)が1.2〜2.0、トータル鉄(T.Fe)が7〜30質量%、Al2O3含有量が2〜16質量%の範囲に制御して脱燐することが提案されている。また、特許文献2には、底吹撹拌と酸素ガスの上吹きとを行いつつ脱燐を含む精錬を行う溶銑の予備処理法において、底吹き撹拌動力及び上吹き酸素ガス流量を規定し、更に予備処理後のスラグの塩基度(質量%CaO/質量%SiO2)を2.5以下、T.Fe含有量を3質量%以上に制御した予備処理方法が提案されている。これら2件では、ホタル石をほとんど使用せずに溶銑の脱燐処理を可能としている。
ところで、今日の鉄鋼業においては、多くの種類の耐火物が使用され、種々の設備に耐火物を施工し、溶銑及び溶鋼の精錬処理、並びに、溶銑及び溶鋼の輸送を行っている。耐火物の施工された設備では、その設備の使用回数の増加に伴って、施工された耐火物の損傷が進行する。これにより、安定操業が確保できなくなると、耐火物は解体され、新規の耐火物に更新される。解体後の耐火物は、その多くは、路盤材、埋め立て材として処理される他、廃棄されるのが現状である。
近年、地球環境保護の観点から、鉄鋼業においても循環型社会の形成が望まれ、使用済み耐火物のリサイクル技術の確立が急務となっている。この課題に対し、使用済み耐火物をリサイクルする技術が提案されている。
例えば、特許文献3には、複数種類の使用済み耐火物を、それぞれ粉砕して分級し、これらの粒度範囲及び配合割合を規定することによって、Al2O3系不定形耐火物及びAl2O3−SiO2系不定形耐火物を主な対象とした耐火物原料にリサイクルする技術が開示されている。また、特許文献4には、高炉出銑樋の耐火物廃材を回収し、出銑樋に新たな耐火物を施工する際に、回収した耐火物廃材を全施工耐火物質量の50質量%以下の割合で配合してリサイクルする技術が開示されている。
また、耐火物保護を目的とした造滓剤として、製鋼用副原料にリサイクルされるものもある。例えば、特許文献5及び特許文献6には、炉壁耐火物保護を目的として使用済みMgO系煉瓦を造滓剤として適量炉内に添加する技術が開示されている。
特開平8−157921号公報
特開平11−269524号公報
特開2007−210874号公報
特開昭64−52010号公報
特開平5−179333号公報
特開平6−116617号公報
しかしながら、溶銑の脱燐処理に関する特許文献1及び特許文献2には以下の問題点がある。即ち、特許文献1では、脱燐処理中のスラグ組成を規定するが、脱燐処理前の溶銑成分や脱燐処理前の溶銑上に存在するスラグ組成などの条件が様々であるために、処理中のスラグ組成を規定された範囲に制御することは難しく、効率的な脱燐処理を得られない場合が発生する。また、特許文献2は、脱燐処理設備として転炉型容器を用いた脱燐処理についての技術であり、混銑車(「トピードカー」ともいう)などの搬送用容器を反応容器として行う、低酸素供給速度及び低撹拌動力という条件下での脱燐処理では、溶銑が反応容器から溢れる恐れがあり、特許文献2の技術は適用することができない。つまり、特許文献1及び特許文献2では、操業条件の如何に拘らず、ホタル石を使用せずに安定して脱燐処理することは困難である。
更に、スクラップを大量に使用する条件下においては、特許文献1及び特許文献2の技術では溶銑の温度が著しく低下する。それに伴い、CaO系脱燐精錬剤の滓化が悪化し、脱燐反応が進行し難くなることが予想される。この対策として、反応容器への炭材やフェロシリコンなどの昇熱材の供給が考えられるが、これらの昇熱材は高価であり、それにより精錬コストの増大を招くことから好ましくない。
一方、使用済み耐火物のリサイクルは、特許文献3〜6に開示されるように、鋭意推進されている。しかしながら、Al2O3−C系耐火物及びAl2O3−SiC−C系耐火物に代表されるような、所謂、炭素含有耐火物に対しては、使用済みの炭素含有耐火物が湿潤性を有している場合もあって原料配合が難しいこと、また、炭素は水との濡れ性が悪いことに起因して混錬が難しいこと、などを理由に、上記特許文献3〜4の技術ではリサイクルが困難である。また、特許文献5〜6のように、使用済み耐火物を造滓剤として利用する場合は、炉壁耐火物の保護を目的としたMgO系耐火物が一般的であり、Al2O3−C系耐火物やAl2O3−SiC−C系耐火物では、ほとんど実施されていないのが現状である。
ところで、Al2O3−C系耐火物及びAl2O3−SiC−C系耐火物に代表される炭素含有耐火物は、炭素や炭化珪素を含有していることから、下記の(1)式及び(2)式に示すように、酸素ガスや酸化鉄などの酸化剤と反応することにより熱を発生する。
C(s)+1/2O2(g)=CO(g) …(1)
SiC(s)+3/2O2(g)=SiO2(s)+CO(g) …(2)
しかしながら、この熱を発生するという性質を利用した使用済み耐火物のリサイクル技術は、未だ提案されていないのが現状である。
そこで、Al2O3−C系耐火物及びAl2O3−SiC−C系耐火物に代表される炭素含有耐火物の有効なリサイクル利用を検討した結果、溶銑の脱燐処理では、酸素ガスや酸化鉄などの酸素源を脱燐剤として使用していることから、Al2O3−C系耐火物やAl2O3−SiC−C系耐火物などの炭素含有耐火物の発熱を利用することができ、炭素含有耐火物の発熱を利用することにより、従来よりも効率的な脱燐処理が可能ではないかとの考えに至った。同時に、多くの炭素含有耐火物はAl2O3を含有しており、このAl2O3によるCaO系脱燐精錬剤の滓化促進の効果も発現するのではないかとの考えに至った。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、溶銑に酸素ガスや酸化鉄などの酸素源と、生成する燐酸化物を吸収するためのCaO系脱燐精錬剤とを供給して行う溶銑の脱燐処理において、Al2O3−C系耐火物やAl2O3−SiC−C系耐火物などの使用済み炭素含有耐火物を造滓剤として有効活用し、これにより、溶銑の熱余裕度を従来よりも格段に高めることができると同時に、CaO系脱燐精錬剤の迅速な滓化によって効率良く脱燐処理することのできる、溶銑の脱燐処理方法を提供することである。
上記課題を解決するための第1の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、反応容器に収容された溶銑に、酸素源、CaO系脱燐精錬剤、及び、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質を添加して溶銑に脱燐処理を施すことを特徴とするものである。
第2の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1の発明において、前記非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質は、使用済みの炭素含有耐火物であることを特徴とするものである。
第3の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1または第2の発明において、前記非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質の添加量(A)と、前記CaO系脱燐精錬剤の添加量(B)との添加量比(A/B)が0.5以下であることを特徴とするものである。
第4の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、前記非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質の非酸化物系珪素化合物含有量と炭素含有量との合計の含有量が6質量%以上であることを特徴とするものである。
第5の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1ないし第4の発明の何れかにおいて、前記非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質は、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素以外の成分として、Al2O3系化合物を含有していることを特徴とするものである。
第6の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1ないし第5の発明の何れかにおいて、前記酸素源、CaO系脱燐精錬剤、及び、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質のうちの少なくとも1種類を、溶銑中に浸漬させたランスを介して溶銑中に吹き込み添加することを特徴とするものである。
第7の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1ないし第5の発明の何れかにおいて、前記反応容器が転炉であることを特徴とするものである。
第8の発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、第1ないし第7の発明の何れかにおいて、前記反応容器に、溶銑を装入する前に予め鉄スクラップを装入することを特徴とするものである。
本発明によれば、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質を、酸素源及びCaO系脱燐精錬剤を供給して行う溶銑の脱燐精錬で添加するので、前記物質は熱源として機能し、従来使用していた炭材やフェロシリコンなどの高価な昇熱材の使用量が大幅に削減され、且つ、本発明の次工程の精錬においても熱余裕度の向上が実現される。それにより製造コスト及びCO2の発生量を大幅に低減することが可能となる。前記物質が非酸化物系珪素化合物を含有する場合には、生成される酸化珪素(SiO2)によるCaO系脱燐精錬剤の滓化促進効果が得られ、効率的な脱燐処理が可能となる。
以下、本発明を詳細に説明する。
酸素ガス(「気体酸素源」という)や酸化鉄(「固体酸素源」という)などの酸素源を脱燐剤として添加して行う溶銑の脱燐反応は、溶銑中の燐(P)が酸素源中の酸素により酸化され、生成した燐酸化物(P2O5)が、CaO系脱燐精錬剤(一般的には石灰:CaO)が滓化して形成される脱燐精錬用スラグ(以下、単に「スラグ」とも記す)と反応し、複合酸化物を形成して脱燐精錬用スラグに固定されると考えられている。これらの反応について以下に記述する。尚、本発明で使用する、CaO系脱燐精錬剤とは、CaOを含有し、本件の意図する脱燐処理ができるものであれば特にCaOの含有量に制約はない。通常は、CaO単独からなるものや、またはCaOを50質量%以上含有し、必要に応じてその他の成分を含有するものである。
溶銑の脱燐反応は、溶銑(メタル)/スラグ両相の物質移動を律速段階として反応が進行すると考えられている。脱燐反応の反応式を下記の(3)式に示し、また、反応速度式を下記の(4)式及び(5)式に示す。
2[P]+5[O]=(P2O5) …(3)
但し、(3)式において、[P]は溶銑(メタル)中の燐、[O]は溶銑中の酸素(酸素ガスまたは酸化鉄から持ち来たされるもの)、(P2O5)はスラグ中のP2O5である。
但し、(4)式及び(5)式において、Aは反応界面積、VMは溶銑(メタル)側体積、ρMは溶銑(メタル)の密度、ρSはスラグの密度、[%P]は溶銑(メタル)側燐濃度、(%P)はスラグ側燐濃度、kPは総括反応速度定数、kMは溶銑(メタル)側物質移動係数、kSはスラグ側物質移動係数、LPは平衡燐分配比である。
一般に、溶銑の脱燐処理において脱燐反応を促進させるためには、(1)スラグの塩基度(質量%CaO/質量%SiO2)を高める、(2)スラグの酸化ポテンシャルを高める、(3)反応界面積Aを増加させる、(4)メタル及びスラグの物質移動係数を増大させる、という手段を採ることが考えられる。このうちで、上記塩基度を高めるには脱燐処理中に石灰(CaO)を添加する方法が採られるが、石灰の添加を増加させると、反応に寄与しない石灰(未滓化CaO)の量が増加し、その結果、スラグの滓化性が低下し、スラグ側物質移動係数(kS)が低下して(3)式の反応効率が低下するという問題が生じる。また、スラグ量が増大するという問題も生じる。よって、溶銑に添加したCaO系脱燐精錬剤(酸素源として酸化鉄を添加する場合は酸化鉄も含めて)の滓化を促進させ、スラグ側物質移動係数(kS)を向上させることが、脱燐反応の向上につながると期待される。
一方、高炉出銑樋や溶銑輸送容器に使用される代表的な耐火物のひとつとして、Al2O3−SiC−C系耐火物など非酸化物系珪素化合物を含有する炭素含有耐火物が挙げられる。特に、高炉出銑樋に使用される耐火物は、メタルライン材(以下、「ML材」と記す)及びスラグライン材(以下、「SL材」と記す)ともに、炭化珪素(以下、「SiC」とも記す)または炭素(以下、「C」とも記す)を含有している場合が多い。
前述した(1)式及び(2)式に示す、SiC及びCと酸素ガスとの反応を調査した結果、(1)式の反応熱(ΔH)は−110340J/モル、(2)式の反応熱(ΔH)は−980910J/モルであり、両者ともに発熱であることから、製鋼工程における昇熱材としての適用が十分に考えられる。下記の(6)式は、前述した(1)式に反応熱(ΔH)を加えて表示したものであり、下記の(7)式は、前述した(2)式に反応熱(ΔH)を加えて表示したものである。
C(s)+1/2O2(g)=CO(g) ΔH=-110340J/モル…(6)
SiC(s)+3/2O2(g)=SiO2(s)+CO(g) ΔH=-980910J/モル…(7)
また、非酸化物系珪素化合物を含有する炭素含有耐火物は、酸化反応により酸化珪素(SiO2)を生成する。この酸化珪素が少量加わることで、CaO系脱燐精錬剤の滓化が促進され、スラグ物質移動係数(kS)の向上による脱燐反応促進が期待できる。
以上の検討結果から、出銑樋用耐火物として使用した使用済み炭素含有耐火物を溶銑の脱燐処理時に溶銑に添加することで、(6)式及び(7)式の反応による熱余裕度の向上と、CaO系脱燐精錬剤の滓化促進による脱燐反応促進の2つの効果が期待できることが分かった。非酸化物系珪素化合物を含有せず、炭素を含有する使用済み炭素含有耐火物では、耐火物組成によってはCaO系脱燐精錬剤の滓化促進の効果は得られないこともあり得るが、少なくとも(6)式の反応による熱余裕度の向上は期待できる。
そこで、本発明者は上記の効果を検討すべく、種々の調査を行った。初めに、溶銑の脱燐挙動に及ぼす使用済み炭素含有耐火物の影響について調査した。
実験室において、坩堝内に0.1〜0.12質量%の燐を含有する初期温度1300℃の溶銑を溶解し、溶銑に酸化鉄及び石灰をそれぞれ溶銑トンあたり20kg(以下、「kg/t」と記す)上置き添加した。この時、酸化鉄及び石灰と同時に、使用済み炭素含有耐火物としてAl2O3−SiC−C系耐火物を5kg/t上置き添加した(水準1)。また、炭素含有耐火物を添加しない試験も実施した(水準2)。所定時間保持した後に、溶銑中の燐濃度変化及び溶銑温度の降下量を評価した。その結果を表1に示す。
表1からも明らかなように、使用済み炭素含有耐火物を添加した条件において、溶銑の脱燐量(実験前溶銑中燐濃度−実験後溶銑中燐濃度)が増加し、且つ実験前後での溶銑の温度降下量が低減した。
以上の実験結果から、Al2O3−C系耐火物やAl2O3−SiC−C系耐火物などの使用済みの炭素含有耐火物を、溶銑の脱燐処理における温度昇熱材、即ち熱源として利用できることが明らかとなった。尚、上記実験においては、非酸化物系珪素化合物として炭化珪素を含有する炭素含有耐火物を使用したが、本発明において、非酸化物系珪素化合物は炭化珪素に限定されるものではなく、窒化珪素(Si3N4)でも適用可能である。
本発明は、上記実験結果に基づいてなされたものであり、反応容器に収容された溶銑に、酸素源、CaO系脱燐精錬剤、及び、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質を添加して溶銑に脱燐処理を施すことを特徴とする。
また更に、使用済み炭素含有耐火物としてAl2O3−SiC−C系耐火物を用い、使用済み炭素含有耐火物(Al2O3−SiC−C系耐火物)の添加量(A)とCaO系脱燐精錬剤(石灰)の添加量(B)との添加量比(A/B)を変化させて、同様に脱燐挙動を調査した。その結果を図1に示す。ここで、図1に示す脱燐効率は、下記の(8)式で定義される式により算出した。但し、(8)式においてηは脱燐効率である。
図1に示すように、添加量比(A/B)が0.5以下の範囲において、脱燐効率が高位となった。この理由を解明するべく各条件下での初期スラグ(添加直後のCaO系脱燐精錬剤と使用済み炭素含有耐火物との混合体)の融点を測定したところ、添加量比(A/B)が0.5を超えるとスラグの融点が急激に上昇することが分かった。このことから、添加量比(A/B)が0.5を超える領域では、初期スラグの滓化不良が起こり、脱燐特性が低下したものと考えられる。よって、本発明においては添加量比(A/B)を0.5以下とすることが好ましく、特に、添加量比(A/B)を0.10以上0.35以下とすることが望ましい。
また、使用済み炭素含有耐火物中に含有される非酸化物系珪素化合物及び炭素の合計量を変化させて、温度上昇能を測定したところ、図2に示す結果が得られた。即ち、非酸化物系珪素化合物及び炭素の合計含有量が6質量%以上の領域において、溶銑の温度上昇が認められた。この結果から、使用済み炭素含有耐火物中に含有される非酸化物系珪素化合物及び炭素の合計量は6質量%以上であることが好ましい。尚、上限値は規定する必要がなく、炭素または炭化珪素の単体からなる耐火物であっても構わない。
非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質としては、使用済み炭素含有耐火物に限るものではないが、本発明のために目的製造すると高価になり、本発明の経済的効果を損なうので、製鉄所などで発生する使用済み炭素含有耐火物を使用することが好ましい。そして、本発明で使用する、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する使用済み炭素含有耐火物は、定形耐火物であっても、また不定形耐火物であっても、何れの耐火物でも適用することができるが、使用済み炭素含有耐火物屑の発生頻度や従来の利用用途などを考慮すると、高炉出銑樋などに使用される不定形耐火物を利用するほうが、熱源の供給量を確保できるという点から望ましい。不定形耐火物の方が、定形耐火物に比較して屑としての発生頻度が高いという理由によるところもある。
使用済み炭素含有耐火物中に非酸化物系珪素化合物が含有されていると、酸化精錬時にはこの化合物が酸化され酸化珪素が生成する。この酸化珪素は、生成される脱燐精錬用スラグの融点を低下させる機能を有するため、使用済み炭素含有耐火物中に、非酸化物系珪素化合物が含有されていることが好ましい。しかしながら、使用済み炭素含有耐火物の添加量が増加した場合、或いは、使用済み炭素含有耐火物中の非酸化物系珪素化合物の含有量が増加した場合には、生成される脱燐精錬用スラグの塩基度(質量%CaO/質量%SiO2)が低下し、脱燐特性が低下する恐れがあるので、非酸化物系珪素化合物の添加量をやみくもに多くすることは避けるべきである。
また、使用済み炭素含有耐火物を用いたときには、炭素含有耐火物にはAl2O3が含有されることが多く、Al2O3によるCaO系脱燐精錬剤の滓化促進効果が得られるのみならず、使用済み耐火物の廃棄量が削減されて、資源の有効活用化が促進される。
そこで、本発明で使用する使用済み炭素含有耐火物は、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素以外の成分として、Al2O3系化合物を含有していることが好ましい。CaO−Al2O3の状態図上では、CaO−Al2O3系化合物の融点降下量は、CaO−CaF2系化合物の融点降下量とほぼ同等であることが知られている。従って、使用済み炭素含有耐火物中に含有されるAl2O3とCaO系脱燐精錬剤中のCaOとが反応し、低融点であるAl2O3・CaO化合物を形成するので、ホタル石を使用しなくてもCaO系脱燐精錬剤の滓化が促進され、且つ脱燐精錬用スラグの流動性が向上する。これにより、スラグ/メタル間の反応速度の向上、排滓性向上などの効果が期待できる。
Al2O3系化合物を含有する使用済み炭素含有耐火物としては、例えば、高炉出銑樋用耐火物が挙げられる。或る種の使用済み高炉出銑樋用耐火物には、ML材、SL材ともにAl2O3を含有する場合がある。よって、これらの使用済み炭素含有耐火物を本発明で使用したときには、Al2O3の存在によるCaO系脱燐精錬剤の滓化促進による脱燐反応促進が得られる。但し、この場合においても、使用済み炭素含有耐火物の添加量(A)とCaO系脱燐精錬剤の添加量(B)との添加量比(A/B)は0.5以下に抑えることが好ましい。
以上説明したように、酸素ガスまたは酸化鉄などの酸素源と、脱燐精錬用スラグを形成するためのCaO系脱燐精錬剤を溶銑に添加し、溶銑に脱燐処理を施す際に、使用済み炭素含有耐火物などの非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質は、昇熱材更には滓化促進剤として使用することが可能である。この場合、脱燐処理は、混銑車及び溶銑鍋に代表されるような溶銑搬送容器で行う方法であっても、また、転炉で行う方法であっても、その形式は問わない。また、添加方法は反応容器への上方からの投入、溶銑中へ浸漬させた浸漬ランスからの粉体吹込みなど全ての方式に適用可能である。但し、酸素源のうちの固体酸素源の酸化鉄、CaO系脱燐精錬剤、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質の3種のうちの少なくとも1種類を、溶銑中に浸漬させたランスを介して溶銑中に吹き込み添加することが好ましい。これらのうちの少なくとも1種類を溶銑中に吹き込み添加することにより、CaO系脱燐精錬剤の滓化が促進されて脱燐精錬用スラグが迅速に形成される、また、溶銑と脱燐精錬用スラグとが攪拌され、スラグ/メタル間の反応速度の向上などが実現される。尚、吹き込み添加の場合は、粒度調整の必要性から粉砕する必要がある。
また、転炉を用いた溶銑の脱燐精錬において本発明を適用した場合は、転炉ではフリーボードが大きく、底吹きガスにより溶湯の攪拌力を高めることができるので、原料を粉砕する必要がないこと、フェロシリコンまたは炭材に代表される昇熱材の代替になること、且つ、脈石として脱燐精錬用スラグに混入するAl2O3により、CaO系脱燐精錬剤の滓化が促進することから脱燐特性も確保できるという数多くの利点を有しており、特に好ましい。尚、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質の投入時期は精錬のどのタイミングで添加しても構わないが、鉄スクラップの溶解促進、CaO系脱燐精錬剤の滓化促進を目的とする観点から、脱燐処理の前半、しかも、なるべく初期に添加することが好ましい。
更に、溶銑の脱燐精錬において、鉄スクラップを溶解させる場合も、本発明の適用により熱余裕分が向上することから、鉄スクラップの投入量が増大でき、溶銑配合率の低減が可能となり、その結果、CO2の排出量低減の効果も期待できる。混銑車などの溶銑搬送容器を反応容器とする場合には、高炉から溶銑を受銑する前に予め鉄スクラップを反応容器内に装入しておき、また、転炉を反応容器とする場合には、溶銑の装入前に予め鉄スクラップを転炉内に装入する。
以上説明したように、本発明によれば、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質を、酸素源及びCaO系脱燐精錬剤を供給して行う溶銑の脱燐精錬で添加するので、前記物質は熱源として機能し、従来使用していた炭材やフェロシリコンなどの高価な昇熱材の使用量が大幅に削減され、且つ、本発明の次工程の精錬においても熱余裕度の向上が実現される。
図3に示す上底吹き転炉設備で、溶銑の脱燐精錬試験を行った結果を説明する。
図3は、本発明を実施する際に用いた上底吹き型の転炉設備の1例を示す概略断面図であり、図3に示すように、上底吹き転炉設備1には、その内部に溶銑2を収容する転炉本体4と、転炉本体4の内部に挿入され、上下方向の移動が可能である、転炉本体4の内部へ酸素ガスを供給するための上吹きランス7と、転炉本体4の炉口を覆い、転炉本体4から発生するガスを集塵機(図示せず)へ導入するためのフード8と、が備えられ、転炉本体4には、その底部に、窒素ガスまたはArガスなどの攪拌用ガス或いは精錬用酸素ガスを吹き込むための複数の底吹き羽口6が設けられ、また、その側壁上部には、精錬後の溶銑や溶鋼を出湯するための出湯口5が設けられている。また、上底吹き転炉設備1には、造滓剤や昇熱材を投入するためのホッパー、シュートなどがフード8を貫通して設置されているが、図3では省略している。図中、符号3は脱燐精錬用スラグである。
転炉本体に、溶銑及び鉄スクラップを合計300トン装入するとともに、溶銑上にCaO系脱燐精錬剤として石灰をスラグ塩基度(質量%CaO/質量%SiO2)が3.0の目標値狙いで添加し、浴面上に降下させた上吹きランスから酸素ガスを溶銑浴面上に向けて吹きつけると同時に、底吹き羽口から不活性ガスを導入して溶銑を攪拌し、脱燐精錬を行った。脱燐精錬前の溶銑の化学成分は、C:4.3〜4.6質量%、Si:0.15〜0.3質量%、P:0.10〜0.13質量%であり、溶銑温度は1260〜1280℃であった。
脱燐精錬試験は、本発明を適用した脱燐精錬試験(本発明例)と、本発明を適用しない脱燐精錬試験(比較例)とを実施し、両者を比較した。本発明例及び比較例の操業条件を表2に示す。
本発明例では、非酸化物系珪素化合物及び/または炭素を含有する物質として、高炉溶銑樋で使用した使用済みのAl2O3−SiC−C系不定形耐火物を添加した。
本発明例1及び本発明例2では、非酸化物系珪素化合物と炭素との含有量の合計量が5質量%である使用済みAl2O3−SiC−C系不定形耐火物を5.0kg/t添加した。使用済み炭素含有耐火物の添加量(A)とCaO系脱燐精錬剤の添加量(B)との添加量比(A/B)は、本発明例1では0.39、本発明例2では0.25である。本発明例3では、非酸化物系珪素化合物と炭素との含有量の合計量が10質量%である使用済みAl2O3−SiC−C系不定形耐火物を5.0kg/t添加した。本発明例3での前記添加量比(A/B)は0.28である。これに対して、比較例1では、使用済み炭素含有耐火物を添加せずに脱燐処理した。また、比較例2では、使用済みのAl2O3−SiO2系不定形耐火物を5.0kg/t添加した。
本発明例及び比較例において、同一酸素原単位の条件下で、脱燐挙動、並びに、脱燐処理後の溶銑温度及び熱余裕度を示す鉄鉱石投入量を比較した。各試験の操業結果を表3に示す。尚、表3に示す脱燐量とは、処理開始前の溶銑中燐濃度と処理後の溶銑中燐濃度との差である。
使用済みのAl2O3−SiC−C系不定形耐火物を5.0kg/t添加した本発明例1は、比較例1に比べて脱燐量が増加するともに処理後の溶銑温度が上昇し、且つ、熱余裕度を表す鉄鉱石投入量も増加した。また、前記添加量比(A/B)が0.25である本発明例2は、前記添加量比(A/B)が0.39である本発明例1よりも更に脱燐量が増加した。また更に、非酸化物系珪素化合物と炭素との含有量の合計量が10質量%である使用済耐火物を使用した本発明例3では、脱燐量の更なる増加とともに、処理後温度が最も高位となり、鉄鉱石投入量も大幅に増加した。
一方、Al2O3−SiO2系不定形耐火物を5.0kg/t添加した比較例2では、脱燐量は本発明例と同等であったものの、SiCの発熱効果がないことから、処理後の溶銑温度は低下した。
図4に示す溶銑予備処理設備で、溶銑の脱燐精錬試験を行った結果を説明する。
図4は、本発明を実施する際に用いた溶銑予備処理設備の1例を示す概略断面図であり、図4に示すように、高炉から出銑された溶銑2を混銑車炉体10に収容した混銑車9が、浸漬ランス11及び上吹きランス12を備えた予備処理設備に搬送されている。ここで、浸漬ランス11は、酸素ガスを溶銑2に吹き込んだり、酸素ガスまたは不活性ガスを搬送用ガスとして、鉄鉱石や焼結鉱粉などの固体酸素源やCaO系脱燐精錬剤などを溶銑2に吹込んだりする装置であり、また、上吹きランス12は、上下移動可能であって、酸素ガスを溶銑2の浴面に向けて吹き付けるための装置である。浸漬ランス11及び上吹きランス12は、混銑車炉体2の開口部である上部の炉口から混銑車炉体2の内部に挿入されている。図中、符号3は脱燐精錬用スラグである。
混銑車炉体に収容された300トンの溶銑に対して、CaO系脱燐精錬剤及び固体酸素源である焼結鉱粉を浸漬ランスから溶銑に吹き込みつつ、上吹きランスから酸素ガスを溶銑浴面に吹きつけて、溶銑の脱燐精錬を行った。脱燐精錬前の溶銑の化学成分は、C:4.0〜4.5質量%、Si:0.15〜0.3質量%、P:0.12〜0.13質量%であり、溶銑温度は1360℃〜1370℃であった。
脱燐精錬試験は、本発明を適用した脱燐精錬試験(本発明例)と、本発明を適用しない脱燐精錬試験(比較例)とを実施し、両者を比較した。本発明例及び比較例の操業条件を表4に示す。
本発明例4では、焼結鉱粉と、CaO系脱燐精錬剤である石灰粉と、使用済みのAl2O3−SiC−C系不定形耐火物を粉砕したものを混合し、この混合物を浸漬ランスから溶銑中に吹き込んで脱燐処理した。また、本発明例5では、脱燐処理前に2.0kg/tの使用済みAl2O3−SiC−C系不定形耐火物を溶銑に上置き添加し、焼結鉱粉と、CaO系脱燐精錬剤である石灰粉との混合物を浸漬ランスから溶銑中に吹き込んで脱燐処理した。一方、比較例3は、溶銑中へ焼結鉱粉とCaO系脱燐精錬剤である石灰粉との混合物のみを吹き込んで脱燐処理した。各試験の操業結果を表5に示す。尚、表5に示す脱燐量とは、処理開始前の溶銑中燐濃度と処理後の溶銑中燐濃度との差である。
使用済みのAl2O3−SiC−C系不定形耐火物を添加した本発明例4は、比較例3に比べて脱燐量が増加するとともに処理後の溶銑温度が上昇した。また、使用済みのAl2O3−SiC−C系不定形耐火物を上置き添加した本発明例5でも、同様に脱燐量が増加した。
使用済み炭素含有耐火物の添加量(A)と石灰の添加量(B)との添加量比(A/B)と、脱燐効率ηとの関係を示す図である。
使用済み炭素含有耐火物中の非酸化物系珪素化合物及び炭素の合計含有量と温度上昇との関係を示す図である。
本発明を実施する際に用いた上底吹き型の転炉設備の1例を示す概略断面図である。
本発明を実施する際に用いた溶銑予備処理設備の1例を示す概略断面図である。
符号の説明
1 上底吹き転炉設備
2 溶銑
3 脱燐精錬用スラグ
4 転炉本体
5 出湯口
6 底吹き羽口
7 上吹きランス
8 フード
9 混銑車
10 混銑車炉体
11 浸漬ランス
12 上吹きランス