JP5809707B2 - Afmにより癌進行を病期分類する方法 - Google Patents

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Description

本発明は、腫瘍の癌進行を病期分類するための方法およびシステムに関する。
細胞骨格、つまり、アクチンフィラメント、中間径フィラメント、および微小管で構成される超分子ネットワークは、細胞接着、遊走、増殖、および分化の間、動的に再構築される。これら基本的細胞プロセスの多くは、機械的な力により調節される。したがって、これら基本プロセスの変化に起因する腫瘍形成は、生体力学の変化と関連している。
原子間力顕微鏡(AFM)は、単離癌細胞のナノ力学的性質を探索するために使用されている。細胞弾性および細胞変形能は、悪性形質転換と関連する細胞構築および接着の変化の表現型的帰結のマーカーとして認識されている。しかしながら、剛性は、1箇所の特定部位で測定されるに過ぎなかった。したがって、細胞の構造的不均質性を適切に反映していない。また、天然組織環境の不在は、機械的挙動に影響を及ぼす可能性が高い。
微小環境との相互作用から生じる力の変化は、腫瘍形成を誘導する遺伝的変化の誘発に重要な役割を果たす。生細胞の機械的性質は、それらの3次元(3D)微小環境に存在する多数の因子に高度に依存することが示されている。3D乳腺細胞培養およびマウス乳腺で実施された研究は、ECM剛性と一致するマトリックス沈着および架橋の増加が、癌の発生および進行を促進することを示唆している。この場合、癌の検出は、乳腺全体の非拘束圧縮により達成されている。しかしながら、この手法は、腫瘍の末梢領域を考慮していたに過ぎず、根底にある癌の大部分は検査に利用されなかった。
末梢腫瘍間質は、隣接する正常乳腺組織と比較して比較的剛性であるため、乳癌は、正常乳腺組織または良性病変よりも剛性であるという広く認められている仮説が導かれている。培養中の個々の細胞から得られる剛性データが、原位置組織から得られる剛性データと一致しないことは、両測定手法だけでなく、3D組織状況に存在する更により多くの他の微小環境因子を考慮する重要性を強調している。
加えて、様々な生化学的勾配が、腫瘍発生および進行中に組織内で発生する。酸素およびpHは、腫瘍の発生および増殖ならびに治療に対するそれらの応答性の重要な微小環境因子と見なされている。例えば、低酸素は、腫瘍細胞微小環境の成分として、悪性腫瘍の顕著な特徴であり、細胞増殖、血管新生、および細胞死を制御する経路を修飾する。
しかしながら、癌細胞および組織の機械的性質は、低酸素の状況では未だ評価されていない。これまでに適用されているツールは、原発組織から抽出された癌細胞を機械的に測定することを含んでいたか、または腫瘍末梢を測定したに過ぎないかのいずれかであり、腫瘍組織の構造的および機械的な不均質性に対する洞察の提供は限られていた。
本発明の目的は、腫瘍の癌進行を病期分類するための方法および手段を提供することである。
本発明は、AFMにより腫瘍生検試料の機械的性質を評価する研究の過程でなされたものである。驚くべきことに、ヒトおよびマウスの癌組織は、腫瘍末梢(細胞外マトリックス)からコア(癌細胞)にかけて徐々に軟質化を示し、腫瘍末梢の間質組織は、根底にある腫瘍よりも剛性であることが見出された。別の驚くべき知見は、この組織軟質化が、腫瘍低酸素と関連するということだった。
<<定義>>
本発明の意味では、剛性または弾性は、作用力による変形に対する組織試料または組織の抵抗性を意味する。剛性または弾性は、組織試料の弾性率としてパスカル(Pa)単位で測定される。軟質組織試料は、低い剛性値を特徴とし、剛性組織は、高い剛性値を特徴とする。
そのような変形力は、組織試料または組織に作用するスタイラス(stylus)(例えば、原子間力顕微鏡の一部として)により、組織試料または組織に加えられてもよく、その場合、スタイラスまたは組織試料のいずれかが互いに対して垂直方向に移動する。試料の複数の地点を測定するために、スタイラスまたは試料を、更に横方向に移動させてもよい。本発明の意味では、横方向とは、垂直方向に対して直交性である方向を意味する。
スタイラスは、プローブとして作用する鋭いチップまたは付着コロイド粒子を有するカンチレバーであってもよい。本発明の意味では、カンチレバーは、1つの末端のみが固定されているビーム(beam)またはアーム(arm)を意味する。試料表面とチップとの反発力または引力により引き起こされるカンチレバーの反りは、光学的に、例えば、干渉計により、またはカンチレバーの背部に焦点をあて、分割フォトダイオードに反射されるレーザーにより検出でき、フォトダイオードは、カンチレバーの反りを電圧差として記録し、電圧差は、ナノメートルに変換できる。あるいは、カンチレバーの反りは、カンチレバーの歪みが電荷に変換される圧電センサーにより検出できる。
本発明の意味では、区域とは、(測定)地点のグリッドにより規定される区域を指し、各地点は、上述のスタイラスの圧入足跡に対応し、各地点は、その次の地点との距離が100μm、好ましくは50μm、20μm、10μm、または1μm以下である。非限定的な例では、区域は、25μm2、50μm2、100μm2、200μm2、300μm2、400μm2、500μm2、600μm2、750μm2、1000μm2、5000μm2、または10,000μm2のサイズを有し、2つの区域の幾何学的中心点は、少なくとも100μm、200μm、300μm、400μm、500μm、または1mm離れている。
任意の所与の試料について測定される力および圧入深度は、カンチレバーのばね定数およびチップの半径に依存する。
本発明の意味では、空間分解能とは、それらの剛性に関して2地点が区別され得る、組織または組織試料の2地点間の最小距離を意味する。少なくとも1mm、好ましくは100μm、10μm、または1μmの空間分解能は、2地点が依然として区別され得る最大距離が、1mm、好ましくは100μm、10μm、または1μmであることを意味する。少なくとも100μm、好ましくは10μm、または1μmの空間分解能は、より高い分解能も包含する。1μmよりも高い分解能は、1μm未満の距離を有する2地点を依然として区別できることを意味する。100μmよりも高い分解能の例は、10μmおよび1μmである。1μmよりも高い分解能の例は、0.5μm、0.1μm、および10nmである。
本発明の意味では、組織生検試料は、生検により取得され、隣接する細胞および細胞外マトリックスを含む組織試料を指す。
本発明の意味では、生検は、組織部分および組織を検査のために採取するための方法を意味する。そのような生検は、針穿刺吸引生検、パンチ生検、吸引コア生検、コア針生検、または鉗子生検であってもよい。採取は、中空針、丸く鋭いナイフ、またはメス等の好適な器具の助けを借りて実施できる。更に、組織生検試料は、内視鏡または内視鏡的方法により得ることができる。
生検は、腫瘍または顕著な病変を検出または特定できる超音波またはCT(X線断層撮影法)等の好適な方法により誘導できる。
本発明の意味では、正常組織は、正常な制御された増殖および正常な細胞機能を特徴とする同一の生理機能を有する隣接細胞の集団を意味する。
本発明の意味では、腫瘍は、新生細胞の異常増殖により形成される新生物または病変を意味する。腫瘍は、良性であってもよく、前悪性であってもよく、または悪性であってもよい。
ヒト乳癌に由来する組織生検試料の分類が好ましい。本発明の意味では、良性病変または良性腫瘍は、転移能力を欠如する腫瘍を指す。
本発明の意味では、悪性または「悪性腫瘍」は、基底膜に透過するか、近隣組織に浸潤するか、または体内に拡散する腫瘍の能力を意味する。悪性腫瘍は、悪性新生物または癌、特に浸潤癌と同義である。
本発明の意味では、剛性分布は、個々の組織生検試料から決定される様々な剛性値の頻度を意味する。決定された剛性分布は、更にガウス関数にフィッティングしてもよい。単峰型剛性分布は、単一の最大値を有する個別の剛性値の分布であり、試料が、均一の剛性を有することを示す。2峰型分布関数は、2つの最大値を有する。そのような分布は、剛性が違なる2つの部分、例えば、軟質腫瘍コアおよび剛性末梢を有する試料により引き起こされる場合がある。本発明の意味では、3峰型剛性分布は、3つの局所最大値を特徴とする分布を意味する。3峰型分布は、正常組織、硬質間質および柔質腫瘍コアにより特徴付けられる境界領域が、その分布を構成する数値に寄与したことを示す場合がある。少なくとも2峰型の剛性分布の試料は、2峰型、3峰型、またはn−峰型(nは、1より大きい整数である)分布関数を示す。
本発明の意味では、複数とは、少なくとも5、7、8、9、10、20、30、40、50、100、200、300、400、500、または1000個の数値を意味する。
本発明の第1の態様によると、腫瘍から得られる組織生検試料を分類するためのex vivo法であって、以下のステップを含む方法が提供される:
− 少なくとも100μm、好ましくは50μm、20μm、10μm、または1μmの空間分解能で上記試料の複数の地点を測定することにより、上記腫瘍生検試料の複数の剛性値を決定するステップ、および
− 上記試料に悪性の確率を割り当てるステップ。
本発明のこの態様の1つの代替態様によると、腫瘍から得られる組織生検試料を分類する方法は、少なくとも100μm、好ましくは50μm、20μm、10μm、または1μmの空間分解能で前記試料の複数の地点の剛性値を決定して、剛性分布を得ること、およびこの剛性分布に基づいて前記試料に悪性の確率を割り当てることを含み、それにより、単峰型剛性分布を示す試料には、正常または非悪性組織である高い確率が割り当てられ、少なくとも2峰型の剛性分布を示す試料には、悪性組織である高い確率が割り当てられる。
本発明のこの第1の態様の別の代替態様によると、腫瘍から得られる組織生検試料を分類するためのex vivo法であって、以下のステップを含む方法が提供される:
− ある区域の地点について上記腫瘍生検試料の複数の剛性値を決定し、前記地点が、少なくとも100μm、好ましくは10μmまたは1μmの空間分解能で、n1×n2地点(n1およびn2は、独立して1より大きな整数)のグリッドを形成するステップ、および
− 上記試料に悪性の確率を割り当てるステップ。
この後者の代替態様の1つの実施形態によると、1つの区域で、5×5地点(25地点となる)、7×7地点、10×10地点、15×15地点、20×20地点、50×50地点、または100×100地点のグリッドが測定される。その中の各地点は、ある距離をおいて次の地点と離れており、地点の間隔は、分解能を表わす。1つの実施形態によると、分解能は100μmであり、別の実施形態によると、分解能は、50μm、20μm、10μm、または1μmである。1μmの分解能は、例えば、50×50地点のグリッドでは、2500μm2の区域をもたらす。
別の実施形態によると、2つ、3つ、または4つのそのような区域またはグリッドが測定され、各グリッドまたは区域は、1つのグリッドまたは区域と次のグリッドまたは区域との中心点または幾何学的中心の距離が、100μm、250μm、500μm、または1mmである生検の領域を表わす。1つの実施形態では、1つのグリッドと次のグリッドとの中心点の幾何学的距離は、グリッドにおける地点の空間分解能の、少なくとも10、25、50、100、または250の倍数である。
本発明の1つの態様によると、腫瘍から得られる組織生検試料を分類するための方法であって、
− 少なくとも100μm、好ましくは10μmまたは1μmの空間分解能で、上記試料の複数の地点を測定することにより、前記試料の複数の剛性値を決定すること、および
− 上記試料に悪性の確率を割り当てることを含み、
− 単峰型剛性分布を示す試料には、非悪性である高い確率が割り当てられ、
− 第1のピークが第2のピークよりも少なくとも2倍高い剛性値を示す少なくとも2峰型の剛性分布を示す試料には、悪性である高い確率が割り当てられる、ことを特徴とする方法が提供される。
少なくとも1μm、2μm、5μm、7μm、10μm、または100μmの空間分解能で剛性値を決定するために、スタイラスまたは試料は、マイクロメーター未満またはマイクロメーターの精度で、つまり1μm、2μm、5μm、7μm、10μm、または100μm以下の間隔で、垂直方向および横方向の両方に移動させることができる。下記で規定される本発明の態様の幾つかの実施形態では、組織試料は、マイクロメーター未満またはマイクロメーターの精度で垂直方向および横方向の両方に移動できる圧電アクチュエーター等の試料支持体にマウントされる。あるいは、組織試料は、ペトリ皿またはスライドガラス等の試料支持体にマウントされ、ペトリ皿またはスライドガラスが、上述の圧電素子にマウントされる。
試料の剛性または弾性は、ある規定可能な圧入深度までスタイラスを組織試料に押し込むのに必要な力を測定することにより決定できる。あるいは、剛性は、規定可能な力で組織試料に押さえ付けられたスタイラスの圧入深度を測定することにより決定できる。
1つの実施形態によると、組織試料におけるスタイラスの圧入足跡は、1、2、9、16、または25μm2以下であり、圧入足跡は、本発明の上記の態様に記載されている複数の地点の個々の地点に対応する。
1つの実施形態によると、カンチレバーは、ばね定数が、0.01Nm-1、0.025Nm-1、0.05Nm-1、0.06Nm-1、0.075Nm-1、0.1Nm-1、0.15Nm-1、0.2Nm-1、0.25Nm-1、0.3Nm-1、0.5Nm-1、0.75Nm-1、1Nm-1、または10Nm-1である。
1つの実施形態によると、チップの半径は、0.01μm、0.02μm、0.05μm、0.07μm、0.1μm、0.5μm、1μm、1.5μm、2μm、2.5μm、3μm、3.5μm、4μm、4.5μm、または5μmである。
1つの実施形態では、カンチレバーばね定数kおよび試料の剛性は、同程度の大きさである。これにより、最適な感度がもたらされる。
1つの実施形態によると、組織試料に加えられる力は、0.05nN、0.1nN、1nN、2nN、3nN、4nN、5nN、6nN、7nN、8nN、9nN、10nN、100nN、1000nN、10,000nN、100,000nNの値を有し、組織試料に加えられる圧入深度は、100nm、300nm、500nm、700nm、1000nm、1300nm、1500nm、1700nm、2000nm、2200nm、2500nm、2700nm、3000nm、3200nm、3500nm、3700nm、4000nm、4500nm、5000nm、5500nm、または6000nmである。
1つの実施形態によると、剛性は、力−変位曲線の傾きから算出され、カンチレバーを、試料表面に対して規定可能な力で1回または数回圧入および収縮(retract)させ、その結果生じるカンチレバーの反りが、チップ−試料距離に応じて決定される。
本発明のある実施形態によると、単峰型剛性分布を示す試料には、非悪性である高い確率が割り当てられ、少なくとも2峰型の剛性分布を示す試料には、悪性である高い確率が割り当てられる。
言い換えれば、単峰型剛性分布を特徴とする試料には、悪性腫瘍である低い確率を割り当てることができるが、そのような試料が、正常組織であるかまたは前癌性病変であるかを評価するために、試料の絶対剛性を考慮しなければならない可能性がある。良性病変は、一般的に、正常組織と比較してより高い剛性を示す。1つの実施形態では、良性病変を表わす単峰型分布は、同じ組織供給源の正常組織のピーク値の約1.3〜2倍のピーク値(分布関数の中で最も数の多い測定地点を表す)を有する。
2峰型剛性分布は、悪性腫瘍を表わしている可能性が高く、軟質領域は、低剛性値を多くすることに寄与し、剛性末梢は、正常組織よりも大きな剛性値を示す。3峰型以上の剛性分布を示す試料には、悪性腫瘍、または正常組織、良性病変、および/もしくは悪性腫瘍の混合物である高い確率を割り当てることができる。
本発明の1つの実施形態によると、生検組織試料は、ヒト乳癌、またはリンパ節からの転移、肺からの転移、骨転移、肝転移、脳転移、もしくは他の乳癌転移関連組織から得られる。
本発明の1つの実施形態によると、第1のピークが第2のピークよりも少なくとも2倍高い剛性値を示す少なくとも2峰型の剛性分布を示す試料には、悪性である高い確率が割り当てられることを特徴とする。
1つの実施形態によると、複数の地点は、n1×n2地点のグリッドとして配置され、上記グリッドは区域を規定し、n1およびn2は、独立して1より大きな整数である。
1つの実施形態によると、腫瘍は、ヒト乳癌、またはリンパ節転移、肺転移、硬骨転移、肝臓転移、もしくは脳転移である。
1つの実施形態によると、1つの区域について、5×5地点(25地点となる)、7×7地点、10×10地点、15×15地点、20×20地点、50×50地点、または100×100地点のグリッドが測定される。1つの好ましい実施形態では、400μm2のサイズを有する24×24地点のグリッドの区域が規定される。
1つの実施形態によると、同じ試料の少なくとも2つの明確な区域の剛性値が決定され、前記区域の幾何学的中心間の距離は、空間分解能の倍数であり、前記倍数は、空間分解能の少なくとも10倍である。好ましい実施形態によると、倍数は、20、30、または50である。
本発明の1つの実施形態によると、生検組織試料は、直径または厚さが5μmを超える生検であり、中空針を用いて生検を採取することにより得ることができる。1つの実施形態によると、生検組織試料は、少なくとも0.5mmの直径を有する円筒状またはプリズム状の生検である。1つの実施形態では、生検試料は、上述の腫瘍の断面の少なくとも2分の1であり、腫瘍のコアから末梢への明確な配向性を示す円筒状またはプリズム状の生検であり、生検試料の区域は、試料の長軸方向に沿って1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、15mm、または20mmの距離にわたって、試料の表面に位置決めされる。
より好ましくは、得られた試料の3次元完全性および不均質性は、採取後も保存されており、組織試料は、腫瘍のコアから末梢への明確な配向性を示す。
本発明の別の実施形態によると、剛性値の決定は、生理学的条件下で実施される。
本発明の意味では、生理学的条件は、生検組織試料の構造的完全性および機械的性質を保存し、任意の化学物質または物理的因子により組織の生存を維持するのに必要な条件を指し、特に、採取後に試料をリン酸緩衝生理食塩水またはリンゲル液等の生理学的緩衝液に保存した後、剛性決定を20、25、30、または37℃にて実施することが含まれる。リンゲル液は、グルコースおよびプロテアーゼカクテルで更に補完されていてもよい。更に、生検組織試料の剛性決定は、採取後の1時間、2時間、6時間、12時間、24時間、48時間、または72時間以内に、試料の機械的性質を変更せずに実施できる。「生理学的条件」は、特に、凍結組織もしくは解凍組織、またはパラフィン包埋試料を含まない。
本発明の別の好ましい実施形態によると、乳腺生検試料の剛性が決定され、
− 1.1kPaと1.85kPaとの間に特徴付けられる剛性分布を示す試料には、正常乳腺組織である高い確率が割り当てられ、
− 1.9kPaと3.7kPaとの間に特徴付けられる剛性分布を示す試料には、良性病変である高い確率が割り当てられ、
− 0.31kPaと0.75kPaとの間のピークおよび1.2kPaより大きな値のピークに特徴付けられる剛性分布を示す試料には、悪性腫瘍である高い確率が割り当てられる。
1つの実施形態によると、0.31kPaと0.75kPaとの間のピークおよび1.2kPaと2.0kPaとの間のピークに特徴付けられる剛性分布を示す試料には、悪性腫瘍である高い確率が割り当てられる。
本発明の意味では、ピークは、剛性値分布の局所的最大値を指し、試料内でまたは近接値内で最も高い頻度を示す剛性値を指す。
1つの実施形態によると、複数の剛性値の決定は、生検試料の少なくとも5区域、10区域、15区域、20区域、25区域、または30区域を測定することにより実施される。その場合、区域は上記のように定義される。例えば、試料の長軸は、上記に示されているような区域の列により表わされてもよい。
粗試料用の場合、スキャン区域の試料表面にある起伏(z軸における試料不規則性)が、所与のナノスキャナーのz軸の範囲(現行設定では、通常、5μm〜100μm)よりも大きい場合、問題が生じる可能性がある。起伏があまりにも大きい場合、圧電素子は、完全に伸長するかまたは完全に収縮することになる。圧電素子は完全に伸長したが、試料表面が依然として下降している場合、プローブまたはカンチレバーは、接触を失うことになる。その一方で、圧電素子は既に完全に収縮しているが、試料表面が依然として上昇している場合、カンチレバーの力は、所定の力最大値を超えて増加することになる。したがって、カンチレバーのチップは、文字通り、試料表面に押し込まれる。いずれの場合でも、上述の一定したチップ−試料力は維持されない。
1つの実施形態によると、剛性値は、走査型プローブ顕微鏡により決定される。このデバイスは、前記試料(4)と相互作用するチップ(21)を有するプローブまたはカンチレバー(2)を有し、前記試料(4)または前記プローブもしくはカンチレバー(2)を保持するためのナノスキャナー(1)を更に含む。前記チップ(21)が前記試料(4)に向かって移動する第1の方向(R)に沿った前記ナノスキャナー(1)の伸長が、モニターされる。前記第1の方向(R)に沿った前記プローブまたはカンチレバー(2)のレベルは、前記ナノスキャナー(1)が閾値未満のまたは閾値を超える伸長を示した際に、追加アクチュエーター(3)により調整される。
1つの実施形態によると、走査型プローブ顕微鏡は、少なくとも1μmの分解能を有する。本発明の意味では、分解能は、走査型プローブ顕微鏡が、電荷、磁化、または機械的性質等のそれらの探究された特徴に関して、試料の2地点間を依然として区別できる最小地点間距離を指す。少なくとも1μmの分解能とは、顕微鏡が、1μm以内の距離にある2地点を区別できることを意味する。少なくとも1μmの分解能は、より高い分解能も包含する。1μmより高い分解能とは、顕微鏡が、1μm未満の距離を有する2地点を区別できることを意味する。1μmより高い分解能の例には、0.5μm、0.1μm、10nm、および1nmである。
第1の方向に沿ったプローブのレベルの調整は、プローブのチップが試料に近づき過ぎることまたは試料から離れ過ぎることを防止するように設定される。この調整は、第1の方向に沿ってプローブを下降もしくは上昇させることにより、または試料を下降もしくは上昇させることにより実施できる。
ナノスキャナーは、本発明の意味では、試料またはプローブを、上述の第1の方向に沿って、マイクロメーター未満または少なくともマイクロメーター精度で移動させるためのデバイスを指す。そのようなナノスキャナーは、圧電素子、またはボイスコイルモーター等のリニアモーターであってもよい。
圧電素子は、本発明の意味では、電流の印加により変形し得る圧電材料で構成される物体を指す。そのような圧電素子は、少なくとも1つの方向に沿って伸長可能および収縮可能である。更に、圧電素子は、結晶またはセラミックス等の好適な材料、例えば、石英、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、タングステン酸ナトリウム、ニオブ酸ナトリウム、ジルコン酸チタン酸鉛、またはビスマスフェライトで作られていてもよく、5、10、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80、90、または100μmの範囲内で、伸長可能または収縮可能であってもよい。
ボイスコイルモーターは、本発明の意味では、互いに移動可能な磁性筺体および電磁コイルを含むモーターを指す。そのような磁性筺体は、鉄製筺体に永久磁石を含んでいてもよい。そのような電磁コイルは、コアに巻き付けられた導電性ワイヤを含む。ボイスコイルモーターは、プローブと筺体との間のスプリングとして使用できる可撓性ヒンジ構造を更に含んでいてもよい。モーターの端子に電圧を印加すると、モーターは1つの方向に動き、印加電圧の極性を逆転させると、モーターは、反対方向に動くことになる。ボイスコイルモーターの伸長は、本発明の意味では、そのストロークまたは上昇を指し、最大伸長は、最大ストロークまたは上昇を指し、最小伸長は、ゼロストロークまたはゼロ上昇を指す。
更に、ナノスキャナーは、プローブまたはプローブ構築体に直接接続されていてもよい(TOP−DOWN構成、図16を参照)。あるいは、ナノスキャナーは、試料または試料ホルダーに直接接続されていてもよい(BOTTOM−UP構成、図17を参照)。直接接続は、本発明の意味では、ナノスキャナーとプローブ、プローブ構築体、試料、または試料ホルダーとの間の物理接続を指し、物理接続は、ナノスキャナーが、プローブ、プローブ構築体、試料、または試料ホルダーを、上述のように少なくとも第1の方角に移動させることができるように構成されている。更に、ナノスキャナーは、プローブ、プローブ構築体、試料、または試料ホルダーを、上述の第2および第3の方向に移動させるように構成されていてもよい。
閾値は、ナノスキャナーの構成、設計、または用いられている材料に応じた、ナノスキャナーの、特に圧電素子の至適動作範囲に対応する。特に、閾値は、ナノスキャナーの至適動作範囲の上限および下限に対応する。
アクチュエーターは、本発明の意味では、上述の圧電素子とは異なる、機構またはシステムを移動または制御するための、エネルギーを運動に変換するデバイスを意味する。そのようなアクチュエーターは、電流、圧液圧力、または空気圧等のエネルギー源により操作できる。アクチュエーターの例には、限定ではないが、以下のものが含まれる:空気圧式アクチュエーター、油圧アクチュエーター、圧電アクチュエーター、コムドライブ(comb drive)、線形アクチュエーターもしくはモーター、電気活性ポリマー、またはサーボモーター、ステップモーター、もしくはボイスコイルモーター等の電気モーター。
1つの実施形態によると、ナノスキャナーは、その伸長に関して、一定のプローブのチップ−試料相互作用力を維持するように設計されている。そのような力は、上述されている。
別の実施形態によると、ナノスキャナーの伸長は、一定のプローブのチップ−試料距離を維持するように構成されている。
別の実施形態によると、ナノスキャナーの伸長は、試料に対するプローブの圧入深度を一定に維持するように構成されている。
1つの実施形態によると、本発明の態様および実施形態によるナノスキャナーの伸長のモニターは、リアルタイムで実施される。リアルタイムとは、本発明の意味では、ナノスキャナーの伸長と伸長の記録との間に経過する時間が、1秒、0.1秒、10マイクロ秒、または1マイクロ秒以下であることを意味する。リアルタイムモニタリングは、プローブレベルのリアルタイム調整を可能にでき、圧電素子の伸長とプローブレベルの調整との間に経過する時間は、1マイクロ秒、10マイクロ秒、100マイクロ秒、1秒、または5秒以下である。
1つの実施形態によると、本発明の上記の態様および実施形態によるプローブのレベルの調整は、プローブを下降もしくは上昇させるか、または試料を下降もしくは上昇させることにより実施される。
別の実施形態によると、本発明の上記の態様および実施形態によるプローブのレベルの調整は、自動的に実施される。そのような自動調整は、上述のアクチュエーター、または本発明の任意の態様もしくは実施形態による方法を実行するように設定されているプログラムされたマイクロプロセッサーにより実施できる。
別の実施形態によると、そのようなプログラムされたマイクロプロセッサーは、圧電素子の伸長をモニターし、規定の伸長閾値に到達すると、アクチュエーターを自動的に始動させて、プローブまたは試料のレベルを調節するように設定されている。更に、マイクロプロセッサーは、第1の方向に沿って、ある下降距離または上昇距離に到達すると、アクチュエーターを自動的に停止させるように設定されている。
別の実施形態によると、プローブのレベルは、ナノスキャナーが、その最大伸長の5、10、15、もしくは20%未満の伸長、または80、85、90、もしくは95%を超える伸長を示す際に調整される。そのような実施形態は、ナノスキャナーの伸長を、その最大伸長の5、10、15、または20%〜80、85、90、または95%の至適動作範囲に維持するという利点を提供する。最大伸長の0%では、ナノスキャナーは、最大限に収縮されている。
最大伸長は、本発明の意味では、電流の印加によりナノスキャナーが伸長することのできる、ナノスキャナーの最大の長さを意味する。同様に、最小伸長または最大収縮は、本発明の意味では、電流の印加によりナノスキャナーが収縮することのできる、ナノスキャナーの最小の長さを意味する。
別の実施形態によると、プローブのレベルは、プローブまたは試料を、ナノスキャナーの最大伸長の5〜30%下降または上昇させることにより調整される。そのような実施形態は、圧電素子の至適動作範囲を回復させるという利点を提供する。
好ましい実施形態によると、プローブのレベルは、プローブまたは試料を、圧電素子の最大伸長の20%下降または上昇させることにより調整される。
別の実施形態によると、プローブのレベルは、ナノスキャナーが、最大伸長の50nm、100nm、200nm、500nm、700nm、1μm、または2μm前である伸長、または最大収縮の50nm、100nm、200nm、500nm、700nm、1μm、または2μm前である伸長を示す際に調整される。そのような実施形態は、ナノスキャナーの伸長を至適作動に維持するという利点を提供する。
別の実施形態によると、プローブのレベルは、プローブまたは試料を、少なくとも50nm下降または上昇させることにより調整される。
好ましい実施形態によると、プローブのレベルは、プローブまたは試料を、3μm下降または上昇させることにより調整される。そのような実施形態は、圧電素子の至適動作範囲を回復させるという利点を提供する。
上記で本発明の実施形態を参照し、そのような実施形態が、本発明の1つの特徴のみを指す場合はいずれも、そのような実施形態を、異なる特徴に関する任意の他の実施形態と組み合わせることができることが意図される。例えば、50×50地点の15区域を、半径10nmのチップを使用して測定してもよい。
本発明の別の態様によると、腫瘍組織試料を分類するためのシステムであって、
− 少なくとも1mm、好ましくは100μm、10μm、または1μmの空間分解能で剛性値を決定するためのデバイス、
プログラムされたマイクロプロセッサーを含み、
上記プログラムされたマイクロプロセッサーが、本発明の上記の態様または実施形態による方法を実行するように装備および設定されているシステムを提供する。
そのようなデバイスは、スタイラス、試料支持体、およびスタイラス移動を記録するための手段を含んでいてもよく、上記スタイラスは、垂直方向(z軸)に移動可能であり、上記スタイラスもしくは上記試料支持体のいずれかは、横方向(x軸またはy軸)に移動可能であるか、または上記スタイラスもしくは上記試料支持体のいずれかは、垂直方向および横方向の両方に移動可能である。
そのようなスタイラスは、チップを有するカンチレバーであってもよく、上記カンチレバーは、0.01、0.025、0.05、0.06、0.075、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.5、0.75、1、または10Nm-1のばね定数を有し、チップの半径は、0.01、0.02、0.05、0.07、0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、または5μmである。
スタイラス移動を記録するためのそのような手段は、レーザーおよび分割ダイオードを含み、レーザーをカンチレバーの背部に焦点をあて、分割ダイオードに反射させ、カンチレバーの反りが、ダイオードに反射したレーザー光線の位置変化により記録される光学系であってもよく、または2本の光線の干渉を反りの測定に使用できる干渉計であってもよい。あるいは、カンチレバーは、カンチレバーの反りにより電荷が生じる圧電素子を含んでいてもよい。
そのようなプログラムされたマイクロプロセッサーは、前述の段落に記載のデバイスに統合されていてもよく、またはデバイスを操作するための制御ユニットもしくはコンピューターの一部であってもよい。好ましい実施形態によると、剛性を決定するためのデバイスは、原子間力顕微鏡である。
好ましい実施形態によると、デバイス(100)は、試料(4)と相互作用するためのチップ(21)を有し、前記チップ(21)を第1の方向(R)に沿って前記試料(4)に向けて移動させるように構成されているプローブ(2)と、前記試料(4)または前記プローブ(2)を保持するためのナノスキャナー(1)とを含む原子間力顕微鏡である。デバイス(100)は、前記第1の方向(R)に沿った前記ナノスキャナー(1)の伸長をモニターするための手段と、前記プローブ(2)のレベルを前記第1の方向(R)に沿って調整するためのアクチュエーター(3)と、前記アクチュエーター(3)を制御するためのコントローラー(31)とを含み、前記コントローラー(31)は、前記ナノスキャナー(1)が、閾値未満のまたは閾値を超える伸長を示した際、前記プローブ(2)の前記レベルを調整するように前記アクチュエーター(3)を制御するように構成されている。
そのようなアクチュエーターは、試料またはプローブを下降または上昇させて、プローブのチップが試料に近づき過ぎることまたは試料から離れ過ぎることを防止するように構成されている。
ナノスキャナーの伸長をモニターするためのそのような手段は、レーザーもしくは干渉計を含む光学系、圧電素子の移動を電荷として記録できる圧電センサー、または高精度の伸長を保証するために、印加電圧だけでなくその後の実際の伸長もモニターしているセンサーであってもよい。
あるいは、運動をモニターするためのそのような手段は、第1の方向に沿ってナノスキャナーを移動させるために、特にチップと試料との間の力を一定に維持するために必要なナノスキャナーに印加された電圧または電流を測定することであってもよい。例えば、各圧電は、印加電圧を圧電距離/移動に変換するために使用される比感度、nm/Vを有する。印加電圧または電流およびその結果生じるナノスキャナーの伸長が、特定のレベルに到達すると、前述のようにプローブのレベルの調整が開始される。
コントローラーは、本発明の意味では、アクチュエーターに接続されている制御ユニットを指す。そのようなコントローラーは、マイクロプロセッサーまたはコンピューターであってもよい。
ナノスキャナーは、プローブまたは試料に直接接続されていてもよい。プローブがプローブ構築体の一部である場合、ナノスキャナーは、その代わりにプローブ構築体に直接接続されていてもよい。
本発明の上記の態様の1つの実施形態によると、ナノスキャナーは、プローブのチップ−試料相互作用力を一定に維持するように構成されている。そのような力は、上述されている。
本発明の上記の態様の別の実施形態によると、ナノスキャナーは、試料に対するプローブの圧入深度を一定に維持するように構成されている。
本発明の1つの実施形態によると、ナノスキャナーは、圧電素子である。圧電素子という用語は、上述と同じ意味を有する。
本発明の1つの態様によると、プローブは、カンチレバーである。カンチレバーという用語は、上述と同じ意味を有する。
本発明の上記の態様の1つの実施形態によると、ナノスキャナーは、上述の前記第1の方向と直交して伸長する第2の方向に移動可能である。
本発明の上記の態様の1つの実施形態によると、上記デバイスは、試料を保持するための試料ホルダーを更に含む。試料ホルダーという用語は、上述と同じ意味を有する。試料が試料ホルダーにより保持されている場合、ナノスキャナーは、試料ホルダーに直接接続されていてもよい。
本発明は、以下の図面および例により更に特徴付けられている。本発明の更なる特徴、利点、および実施形態は、これら図面および例から導き出すことができる。
ナノ力学的AFM検査生検の実験的手法の模式図である(スケールバー=500μm)。 ペトリ皿に固定されたヒト乳房生検および生検の組織学的評価を示す図である。 試料のAFM測定およびAFM剛性決定後に、試料の組織学的分析により評価した、浸潤癌と比較した良性病変の構造特性を示す図である。 ヒト乳房組織のナノ力学的特徴(剛性分布)および組織病理学的評価を示す図である(スケールバー=100μm)。 乳房組織試料の組織病理学的分析および剛性分布で評価した閉経前および閉経後の患者に由来する生検間の組織学的およびナノ力学的差異を示す図である。 剛性分布および組織学的分析による、MMTV−PyMTマウス乳腺組織(スケールバー=50μm)での、ナノ力学的反応と組織学との関連性を示す図である。 MMTV−PyMTマウスの浸潤性乳癌(スケールバー=50μm)、免疫標識された組織切片、および組織試料の剛性分布における、低酸素に関連する剛性不均質性を示す図である。 正常乳腺組織(a)、線維腺腫(良性)病変(b)、および浸潤性乳癌(c)(スケールバー=200μm)の代表的な高分解能剛性地図、剛性分布、および組織学的評価による、ヒト乳房組織のナノ力学的特徴を示す図である。 本発明に組み込まれた21例のヒト生検の関連するヤング率の個々の全体ヒストグラムを示す図である。 健常組織生検および癌生検に由来する2つの代表的な全体フィッティングの比較を示す図である。 MMTV−PyMTマウスにおけるナノ力学的反応と腫瘍進行(スケールバー=200μm)との関連性を示す図である。 また、脂肪と、癌の影響を受けている組織(スケールバー=20μm)とを区別するための構造的およびナノ力学的マーカーを示す図である。 MMTV−PyMTマウスの後期癌の剛性地図、剛性分布、および免疫組織学的評価(スケールバー=200μm)を示す図である。 MMTV−PyMTマウスに由来する癌細胞の原位置でのナノ力学的特徴付けを示す図である。 MMTV−PyMTマウスの健常肺(a)および肺転移(b)の剛性地図、剛性分布、および組織学的評価(スケールバー=20μm)を示す図である。 垂直アラインメント部品を有するAFM TOP−DOWN構成の模式図である。 垂直アラインメント部品を有するAFM BOTTOM−UP構成の模式図である。 圧電垂直移動の模式図である。
実施例
物質および方法
MMTV−PyMTマウスに由来する乳腺および肺組織試料
PyMT導入遺伝子がヘテロ接合性である雌マウスを得るために、C3H/B6×FVB−C3H/B6バックグラウンドの雄PyMTマウスを、PyMT導入遺伝子を欠如するC3H/B6雌と無作為に交配させた。マウスを週2回触診して、乳腺腫瘍発症を評価した。腫瘍容積は、カリパスで測定した後、幅×長さ×0.4として算出した。マウスを、CO2吸入により安楽死させた。
MMTV−PyMTトランスジェニックマウスは、複数の腫瘍部位を示し、幾つかの腺を切除した。それらを、直ちに、プロテアーゼ阻害剤カクテル(完全)で補完した氷冷無菌リンゲル液(1000mlの注射可能水中、6.00g NaCl、0.40g KCl、50g 無水グルコース(anhydric glucose)、0.27g CaCl2、3.20g乳酸)に配置した。ナノ力学的AFM検査のために、腫瘍全体の断面を表わす円筒状試料を、2mmの内径を有する生検パンチにより取得した。剛性マッピングは、生検後の1時間以内に開始し、最大2日間継続した。乳腺組織試料の機械的性質は、この期間中、未変化のままだった。
<<原位置での低酸素測定>>
腫瘍保持マウスに、0.9%無菌生理食塩溶液中100mg/mlのピモニダゾール塩酸塩(120mg/kg、hypoxyprobe−1、HPI)を腹腔内注射した。90分後、マウスを犠牲にし、上述のようなナノ力学的試験用に生検を採取した。その後、ピモニダゾール取込みの免疫組織化学的分析により、低酸素を評価した。
<<ヒト生検>>
ヒト生検は、切除後、バーゼル大学産婦人科病院乳癌治療センター(Breast Treatment Center of the Basel University Women’s Hospital)から直接取得した。患者募集および剛性分析は、倫理的要件に従い、臨床データの事前の知識なしで実施した。顕著な病変を超音波誘導でコア生検して、およそ2mm直径の放射状で円筒状の0.2〜1cmの長さの標本を切除し、それを、直接、グルコースおよびプロテアーゼ阻害剤カクテル(完全)で補完した氷冷無菌リンゲル液を含有するバイアルに移した。マウス組織に関しては、生検後1時間以内にAFM検査を開始した。標本の機械的性質は、この期間中に変化しなかった。標本は、組織分解を最小限に抑えるために、AFM測定まで4℃に維持した。標本のAFM分析は、自己分解効果(つまり、組織自己分解)を回避するために、切除後3日以内に実施した。
<<ナノ力学的AFM検査>>
自動レベル調整は、組織の天然凸凹を補正するためのデータを収集している間、特注のアルゴリズムセットにより制御した。各試料は、考え得る不均質性を把握するために、一方の端部からもう一方の端部まで系統的な様式で検査した。スキャン領域間では、およそ500μmの規則的距離を維持し、その際、2つのカンチレバー間の距離が基準の役目を果たした(図1)。これにより、生検全長に応じて1標本当たりおよそ10〜15枚のFV地図がもたらされた。マウス乳腺および肺から得られた標本が、ヒト生検のように円筒状でなかったことを考慮して、標本が全体的にカバーされることを保証するように、スキャン区域を選択した。
AFMによる乳腺組織試料を分析する場合、生検は、2成分接着剤を使用して円形テフロン(登録商標)盤に接着したか、または5分間で急速乾燥するエポキシ接着剤でペトリ皿に固定した。2分間の予備乾燥ステップの後(エポキシおよび標本緩衝液の混合を回避するため)、圧入角度を最適化し、外部部品(例えば、カンチレバーホルダー)からの影響を回避するために、標本を水平に置いた。「勾配」としての役目を果たすピペットチップを、各標本の平坦ではないセグメントの下に直接配置し、高さ一貫性を維持した。過度の力(例えば、引裂きまたは引伸し)の使用は、標本を取り扱っている間は常に最小限に抑えた。調製ステップは全て、プロテアーゼ阻害剤で補完した無菌緩衝液環境中で実施して、汚染を防止し、標本が依然として天然に近い状態であることを保証した。マウントした標本を、室温または37℃で実施したナノ力学的検査まで氷冷リンゲル液中で維持した。
鋭いピラミッド形のチップ(長さ200μmのシリコン窒化物カンチレバー、カンチレバー公称ばね定数、k=0.06Nm-1、共振周波数[空気]=18kHz)が用いられた。カンチレバーの正確なばね定数kは、全ての実験に先立ってサーマルチューニング法(thermal tune method)で決定し、反り感度は、無限剛性標準物質として固体ガラス基板を使用して、液体中で決定した。

生検の剛性(弾性率、E)測定は、以下のように導き出した;力圧入曲線とも呼ばれる負荷−変位曲線を、所与の部位において配向された様式で負荷中および荷重除去中の両方で記録した。スキャン領域間では、およそ500μmの規則的距離を維持し、その際2つのカンチレバー間の距離が基準の役目を果たした。個々のデータセットは、1.5Hzのサンプリングレートでの1,024個の負荷−変位曲線で構成されていた。これは、1試料当たりおよそ15〜20枚の力容積地図をもたらした。可能な場合、力−容積地図(FV)は、毎秒およそ0.8回の負荷/負荷除去サイクルの速度で、20×20μmのスキャンサイズを有する24×24地点グリッドにわたって作成した。各負荷−変位曲線は、512個のデータポイントで構成されていたが、Z長さは、分析された領域の特性に応じて、5μm〜8μmに設定した。各FV地図は、(i)実験時間を最適化するために、ならびに(ii)組織(例えば、細胞および細胞外マトリックス)内の全て成分を組み込むのに十分に大きな区域を提供するために、20×20μm2に設定した。最大適用負荷力は、1.8nNに設定し、圧入深度は、およそ150〜3000に設定した。追加の72×72 FV地図(1地図当たり5184個の力−変位曲線および277nmのピクセルサイズ)を取得して、目的重要区域の空間分解能を増加させた。
<<AFMデータ分析>>
力圧入曲線は、以前に記載されている方法を使用して分析した(Oparicら、Biophysical Journal、98巻(11):2731〜40頁、2010年、Plodinecら、Journal of Structural Biology、174巻(3):476〜484頁、2011年)。手短に言えば、FVデータ自動分析法用のソフトウェアをLABVIEWで開発した。接触ポイントは、公開されているアルゴリズム(Linら、Journal of Biomechanical Engineering−Transactions of the Asme、129巻(6):904〜912頁、2007年)に基づいて、未処理の力曲線に多項式フィッティングを適用することにより決定した。圧電変位とカンチレバー反りとの差に相当する圧入hにより、およびカンチレバー反りdとばね定数kを積算して負荷Fを得ることにより、力曲線を得た。最大負荷F=1.8nNと0.9nNの最小負荷との間の剛性を規定する力曲線の上部50%に線形フィッティングを実施することにより、負荷除去力曲線を分析した。この手順により、粘着等の、力曲線に対する外部からの影響を回避できる。ポアソン比は、0.5に設定した。ヤング率は、OliverおよびPharr法(Oliverら、Journal of Materials Research、7巻(6)、1564〜1583頁、1992年)により決定した。傾き値を、Igor Pro 6.22を用いて空間的にプロットして、色分けされた剛性地図を得た。2Dの二次スプライン補間を2D剛性地図に実施して、データの視覚的表示を滑らかにした。
<<免疫組織化学的分析>>
AFM後、試料を全て回収し、ホルマリン固着し、標準的な組織学的手順によりパラフィン包埋した。およそ5μm厚の切片を切断し、スライドガラスに移した。連続する切片の最初のスライドおよび最後のスライドを、ヘマトキシリン&エオシン(H&E)で通常通りに染色した。その後の病理組織検査は、病変のタイプ(浸潤性腺管癌、DCIS、線維腺腫等)および幾つかの標準組織病理学的マーカー(腫瘍浸潤、線維症、ネクローシス、およびリンパ球浸潤の程度)の評価を含んでいた。ヒト乳腺組織の残りのスライドの免疫組織化学的分析(IHC)には、以下の抗体を使用した:抗コラーゲンI(1:80;Biologo CO2111、USA)、抗ラミニン(1:25;Thermo RB−082−A、Thermo Scientific社、USA)、抗ビメンチン(希釈済み、Ventana 790−2917、Roche Diagnostics社、CH)、抗デスミン(希釈済み、Ventana 760−2513、Roche Diagnostics社、CH)。ラミニン、デスミン、およびビメンチンに関するマウス組織切片のIHC分析は、ヒト切片の場合と同じ様式で実施した。加えて、マウス切片を、抗β1インテグリン(1:50、Abcam社、ab52971、USA)および抗マウスコラーゲンI(1:800、Abcam社、ab34710、USA)で染色した。幾つか場合、抗原を回収するため、熱により、または10mM Tris緩衝液、1mM EDTA、pH9.0、およびクエン酸緩衝液pH6.0を用いて、切片を処理した。ヒト生検をコラーゲン染色するために、切片を、室温にて30分間ペプシンで前治療した。アビジン/ビオチンを使用して、一次抗体の非特異的結合をブロッキングした。免疫標識するために、切片を、10mM PBS、pH7.6、および0.1%アジ化ナトリウムで相応に希釈した100μlの抗体と共にインキュベートした。染色は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体(DakoCytomation社、デンマーク)で視覚化した。切片は、表示倍率にて正立光学顕微鏡(Carl Zeiss社、ドイツ)を用いて検査した。
<<統計分析>>
本発明では、20人の異なる患者に由来する21個のヒト生検を分析した(表1を参照)。加えて、16匹のMMTV−PyMTマウスから得た32個の乳腺および6個の肺を分析した。6個の肺のうち3個は健康であり、3個は転移性病変を示していた。個々の剛性値は全て、OriginPro 8.5に集約し、各標本の剛性分布を得た(以降、全体ヒストグラムと規定する)。ビン幅は、乳腺標本の場合は全て200Pa、ネズミ肺の場合は500Paに設定した。計数を、1標本当たりのデータポイントの合計量に従って正規化した。データフィッティングは、最初にOrigin Proピーク分析アプリケーションソフトを使用して分布ピークを特定し、その後剛性分布に多重ピークフィッティングを適用することにより実施した。
データは全て、平均±標準偏差(s.d.)として示されている。平均値の差の統計的有意性は、Origin7.5の対応スチューデントt検定で評価した。統計的有意性は、P≦0.05に設定した。
<<実施例1:AFMによる軟質組織生検のナノ力学的試験>>
MMTV−PyMTトランスジェニックマウスおよびヒト患者に由来する軟質乳房組織生検のナノ力学的特性を、生理学的緩衝液条件下でAFMにより評価した。AFM検査に使用される試料は、放射状で円筒状の生検の形状で乳腺から切除した(図1a)。典型的な円筒状の組織試料は、コアから末梢へと明確な配向性を示す。新鮮な組織試料を、図1dに示されているように配向された様式で、生体適合性接着剤を用いて固体テフロン支持体に安定的に付着させた。これらの試料では、3D組織完全性および不均質性は保存されており、標本全体にわたる対応する構造的およびナノ力学的情報は、AFMプローブに対しての2D平面に示されている(図2)。これにより、配向された様式でのナノ力学的反応の測定が可能になった。試料は、常にリンゲル液中で維持した。
ヒト乳房生検を、目的スキャン領域を覆うカンチレバーと共にペトリ皿に固定した(図2a)。第2のカンチレバーは、スキャン領域間で500μmの一定距離を維持するための基準としての役目を果たす。以前に取得した画像と併用したAFM検査後の生検の組織病理学的評価を使用して、AFMにより分析した近接領域を評価できる(図2b)。
<<実施例2:ヒト乳房生検のナノ力学的特徴>>
ヒト乳癌のナノ力学的組織特性の診断および予後の可能性を解明するために、新鮮なヒト乳房生検のAFM剛性測定を実施した(図3)。
AFM測定後の試料の組織病理学的分析は、良性または悪性組織表現型を明らかする(図3a)。最上段パネルに示されているデータは、線維腺腫と診察された34歳の女性患者から得たものである。下段パネルのデータは、浸潤性腺管癌を有する69歳の女性患者に由来する。良性病変は、線維組織の強い均一分布を示すが、浸潤癌は、腫瘍細胞および線維性腫瘍間質の混合物を含有すると診断されると考えられる。これら特性は、高倍率(図3b)でより可視的であり、(図3b)の黒色四角で示されている領域のAFMにより得られた剛性地図(図3c)とよく関連する。
正常乳腺組織(n=4)は、E 1.83±0.69kPaにピークを有する狭い範囲の剛性値を示す(図4a、最上段パネル)。同じ試料に由来する切片のH&E染色は、若年女性に由来する健常乳腺組織の典型的な組織学を明らかにした。小葉構造では、腺房は、少量の結合組織により隔てられている均一な上皮細胞で構成される(図4b)。AFMにより測定された狭い剛性分布は、均質な組織形態学的外観とよく関連する。しかしながら、患者が若年であり、閉経期前の状態であったため、この特定のナノ力学的特徴は、全ての正常乳腺組織には特徴的でない可能性がある。良性病変であることが判明した試料にも、かなり狭い範囲の剛性が見出されたが、E=4.07±1.39kPaであることは、検査した20個の試料では正常乳腺と比較して剛性が増加していることを示す。このナノ力学的特徴と一致して、60歳の患者に由来する良性病変の組織学的検査は、線維腺腫に典型的な散発性小葉を有する、かなり均一な主に線維性の組織を示す(図4a、中央パネル)。良性腫瘍は、線維腺腫に典型的な線維組織のほとんど均一な増殖を示す(図4b、中央パネル)。
AFMにより探索された幾つかのヒト生検(n=12)は、図4aの最下段パネルに示されているように、2つの明確なピークを有する著しく広範囲の剛性値を示す。この生検のAFM測定後の組織学的検査により、70歳の患者に示されているように、女性に最も一般的なタイプの乳癌である浸潤性腺管癌が確認された(図4b、最下段パネル)。そこでは、中央区域は、腫瘍末梢の高密度線維性組織に索状パターンで浸透する腫瘍細胞が大半を占める。浸潤性乳管癌は、高密度線維性組織応答を誘発した癌細胞の浸潤巣を示す。AFM測定を組織学的検査と関連させることにより、腫瘍の内部領域に由来する癌細胞を、E=0.87±0.65kPaの軟質ピークの主な寄与要因であると特定した。E=11.26±1.90kPaにピークを有する剛性増加を特徴とする区域は、主として腫瘍末梢に位置しており、したがって線維性間質に対応する。
わずかにより幅広いが、全体的剛性の微増を示す単峰型剛性分布は、良性病変に典型的である(図4a、中央パネル)。対照的に、癌組織は、腫瘍の軟質な領域および比較的剛性な領域を表わす2つのピークを有する2峰型剛性分布を示す(図4a、最下段パネル)。図4bは、AFM検査後の組織試料の組織病理学的評価を示す。組織学的検査は、間質線維性結合組織およびより遠位の脂肪組織により囲まれた正常乳腺の末端管小葉単位を明らかにする(図4b、最上段パネル)。
組織病理学的分析は、34歳の閉経期前患者から得た試料には、多数の細胞が依然として存在することを明らかにするが、閉経後の69歳の患者から得た試料は、大部分が高密度繊維性組織を示す(図5、左パネル)。両方の剛性測定で、単峰型剛性分布が観察できるが(図5、右パネル)、剛性値および分布幅は、顕著に異なる。
閉経期前の患者で測定されたより柔質のピークの移動は、閉経期前試料の細胞密度増加とよく関連する(図5)。重要なことには、ヒト乳房生検で得られたデータは、組織生検のナノ力学的特性を、ヒト患者の悪性形質転換および腫瘍進行を検出するための信頼できるマーカーとして使用できるという証拠を提供する。
<<実施例3:MMTV−PyMTマウスモデルにおける、組織病理学的知見とナノ力学的反応との関連付け>>
MMTV−PyMTトランスジェニックマウスの乳腺に由来する組織試料を、様々な腫瘍病期で切除して、腫瘍進行に関連するナノ力学的変化を評価した。AFM測定に由来する剛性値の頻度分布を示すヒストグラムは、図6aに示されている。正常マウス乳腺(n=3)のAFM測定は、弾性率E=1.28±0.12kPaを有する均質な(均一なガウシアン)剛性分布を明らかにした(図6a、最上段パネル)。標本の関連性組織学的検査は、低剛性値に寄与する可能性が最も高い多量の脂肪組織を有する正常健常乳腺組織の外観を確認した(図6b、最上段パネル)。前悪性病変(n=3)では、剛性分布は、より幅が広がっているものの、依然として単峰型ガウシアンであるが(図6a、中央パネル)、剛性は、E=4.38±0.55kPaに増加する。組織学的検査は、組織剛性の増加とよく関連する高密度に密集した過剰増殖する乳房上皮を明らかにした(図6b、中央パネル)。しかしながら、均一な剛性分布は、癌病変(n=8)では失われ、その代わり、上皮内癌腫は、2つの明確な機械的表現型を示す2峰型剛性分布を示す(図6a、最下段パネル)。腫瘍発生のこれら初期段階では、コア領域のE=0.54±0.13kPaは、良性病変より8倍低く、正常組織剛性より3倍低い。軟質コアは、E=16.97±6.89kPaの著しくより剛性の区域に囲まれている。上皮内癌の2峰型剛性分布は、腫瘍に2つの明確な細胞集団があることを示唆するが、組織切片の組織学的外観は、2峰型剛性分布に寄与する場合がある、癌細胞中の著しい形態学的差異を一切明らかにしない(図6b、最下部パネル)。上皮内癌では、個々の導管内の組織構造の喪失および癌細胞の存在を、はっきりと視認できる。しかしながら、癌細胞は、細胞学的に類似しているように見える。特筆すべきは、上皮内癌では、周囲間質は、筋上皮と比較して変化していないように見えることである。
結論として、AFM剛性測定と組織学的検査との関連性比較は、マウス乳腺組織のナノ力学的反応と悪性形質転換との間の関連性の確立を可能にした。組織形態学は、原発性癌病変の2峰型剛型分布および軟質コア領域に関する明白な説明を提供しなかった。
<<実施例4:−MMTV−PyMTの乳癌における低酸素誘導性組織軟質化>>
非効率的な血管新生により引き起こされる腫瘍低酸素は、広範囲の固形腫瘍で記述されている。これは、放射線、化学療法、および手術後の予後不良と関連する。腫瘍の低酸素状態に対する関心は、低酸素が、細胞挙動を変更し、より悪性の腫瘍表現型をもたらす多数の遺伝子を制御するという発見と共に、更に大きくなっている。低酸素性コアは、侵襲性癌進行の重大な特徴として知られているため、原発性癌病変の末梢からコアに観察される2峰型剛性分布が、酸素供給低減と関連するか否かを検討した。病期分類された腫瘍試料にて低酸素と組織剛性とを直接的に関連させるため、MMTVPyMTマウスに、酸素欠乏細胞と選択的に結合するピモニダゾール剤を腫瘍切除に先立って注射した。その後、組織試料のナノ力学的特性をAFMにより検査し、後に、組織を低酸素評価のために処理した。免疫組織化学的染色は、正常腺および良性病変は低酸素に陰性であるが、原発性腫瘍は、剛性の著しい減少とよく関連する明白なコアの低酸素を示すことを明らかにした。
悪性腫瘍が浸潤性転移段階に進行すると(図7)、低酸素の顕著な拡散が生じた。コアにおける広範な低酸素に加えて(図7a、右パネルの拡大図)、この段階は、周囲組織への低酸素癌細胞(暗灰色に染色)の進行性転移を特徴とする。特に、血管は、低酸素細胞で覆われており(図7a、中央パネルの拡大図)、血管内異物侵入、および遠位部位での最終的な浸潤、および末梢腫瘍間質に拡散した低酸素細胞を示唆する(図7a、右パネルの拡大図)。対応するAFM測定は、浸潤癌が、もはや2つの明確な剛性ピークを示さず、むしろコアから腫瘍末梢へと徐々に硬くなる幅広い剛性分布を示すことを示す。コア領域の軟質性および剛性分布の一般的な広幅化(図7b)は、低酸素細胞が、コアから末梢に/および末梢で転移したことを示す免疫組織化学的低酸素評価と一致している。この知見は、低酸素が、浸潤性でより侵襲性の癌表現型と実際に関連することを示唆する。
低倍率では、ピモニダゾール処理マウスに由来する浸潤性乳癌の免疫標識組織切片は、異なる低酸素区域を示す(図7a、暗灰色シグナル)。拡大すると、より詳細な概観が明らかになる。低酸素細胞は、腫瘍のコア領域に豊富であり(左パネル)、腫瘍血管に向かって続いており(中央パネル)、腫瘍末梢に転移していた(右パネル、点線で表示)。スケールバーは、それぞれ200μmおよび50μmである。剛性測定を示すヒストグラムは、2峰型分布を示す(図7b)。剛性は、コアから抹消へと増加し、剛性値は、幅広く分布する。
AFM剛性測定は、機械的な側面が、癌進行の有用なマーカーであることを示す。対応する低酸素評価に基づき、その腫瘍は診断される。
<<実施例5:ヒト乳房生検の追加ナノ力学的検査>>
AFMを使用して、乳房組織をex vivoで生理学的緩衝液条件下にて検査した(図8)。特に、病態組織学的知見に対応するナノ力学的プロファイルを、正常生検、良性生検、および悪性生検で明らかにし、関連付けた(図8)。図8aは、正常乳腺組織の代表的なFV地図を示す。標本全体の全体ヒストグラムをプロットすると、1.13±0.78kPaの単峰型剛性分布が明らかになる(図8a、中央)。マッピングした標本のH&E染色切片の組織学的外観は、それらの円形核およびわずかに染色された細胞質により識別可能である2層の上皮細胞により区切られた健常導管(図8a、右)により規定される。良性線維腺腫病変は、3.68±1.92kPaの剛性増加を示す(図8b、中央)。剛性地図内のより軟質特徴(2kPa未満)は、線維性間質に埋め込まれている個々の線維芽細胞を画定すると考えられる(図8b、左)。これは、組織学的検査により検証され、そこでは、線維芽細胞が、良性病変内の多くを占める細胞タイプである(図8b、右)。それに比べて、癌生検は、典型的には、0.61±0.21kPa(「原発性」)および1.54±0.30kPa(「続発性」)の2つの顕著なピークを有する2峰型剛性分布を示す(図8c、中央)。2kPaより剛性の値では、分布は幅広くなり、それは、試料全体内の著しい不均質性を反映する。代表的なFV地図(図8c、左)は、多くを占める軟質ピークが、より剛性の間質に囲まれている癌細胞に典型的であることを明らかにする。H&E染色は、索状パターンで間質に浸潤する腫瘍細胞が多くを占めることを確認する(図8c、右)。
代表的な高分解能AFM剛性地図(24×24ピクセル)は、単峰型剛性分布(図8a、中央)を示す正常乳腺組織を示す(図8a、左)。組織学的検査は、矢印が示す間質線維性結合組織(右)により囲まれている正常乳腺の末端管小葉単位(D)を明らかにする。線維腺腫(良性)病変の高分解能AFM剛性地図は、線維芽細胞(F)と混じり合った線維性間質(S)を明らかにする(図8b、左)。剛性の増加を示し、より幅広いが単峰型の剛性分布は、良性病変に典型的である(図8b、中央)。矢印は、線維腺腫変質組織に典型的に見出される細胞外マトリックス(S)および線維芽細胞(F)を指す(図8b、右)。対照的に、癌組織の剛性地図は、腫瘍間質(S)の細胞外マトリックス(ECM)に埋め込まれている癌細胞(C)を示す(図8c、左)。2峰型剛性分布は、軟質細胞および比較的剛性な末梢間質を表わす2つのピークを明らかにする(図8c、中央)。これは、浸潤性乳癌の組織病理学的評価と一致する。矢印は、高密度線維性組織反応(S)を誘発した癌細胞(C)の浸潤巣を指す。
図1aには、疑わしい病変を有する患者からの超音波誘導生検切除の模式図が示されている。図1bには、典型的な円筒状乳房生検の寸法を示す標本と共に、生検ツールの図が描写されている。図1cには、コアから末梢へと明確な配向性を示す代表的な円筒状組織試料が示されている。新鮮な組織試料は、常にリンゲル溶液中で維持されており、生体適合性接着剤で固体テフロン支持体に配向された様式で安定的に付着されている(図1d)。
検査した21個のヒト生検全て(つまり、6個の健常試料、5個の良性試料、および10個の癌試料)の全体剛性分布は、図9に示されている(表1も参照)。健常乳房組織は全て、1.13〜1.83kPaの特徴的な剛性を有する単峰型分布を示す。均一であるがより幅広い剛性分布が、良性病変(線維腺腫)の4症例(症例8〜11)に見出された。健常生検と比較して、剛性値は、1.91〜3.68kPaの範囲であった。したがって、剛性値は、線維腺腫のより剛性の表現型を示す。症例8では、線維性組織の腫塊内には非常に豊富な線維芽細胞が存在していた。それは、より低い剛性値(1.91±0.99)に反映されている。症例(7)では、全体分布は、2つのピーク:正常乳房組織の剛性値に対応するピーク(1.33±0.32kPa)および2.63±2.06kPaの第2のピークを明らかにした。それと一致して、病態組織学的診断は、それぞれ導管過形成および線維腺腫の2つの明確なセグメントを示した。
11個の悪性生検は全て、健常乳腺の剛性と比較して(P<0.0001)、著しくより軟質である0.31〜0.75kPaの主要ピークを有する剛性プロファイルを共有していた。更に、癌剛性プロファイルは、全ての試料に共通する1.54〜1.99kPaにある第2のピークを含んでいた。悪性生検に典型的な別の特徴は、残りの数値が、約20kPaまで幅広く分散するということである。この分散は、癌進行の結果として、乳腺構造の全体的喪失、腫瘍血管新生および浸潤、ならびに浸潤患部末梢ECMの変化に特徴的である。興味深いことには、幾つかの癌生検では、明確な最小値(約1.1〜1.5kPa)が、主要ピークと二次ピークとの間に位置することが観察される。これは、健常組織の平均剛性値と逆相関すると考えられ(図10)、それは、健常上皮の悪性形質転換から生じる。健常生検および癌生検の全体分布は、逆剛性相関を明らかにする。健常組織は、1.13±0.78kPaにピークを示すが、癌生検内では、この剛性範囲に最小値が存在する(図10)。
<<実施例6:乳癌のMMTV−PyMTマウスモデルにおける腫瘍進行と関連するナノ力学的変化の追跡>>
ヒト患者は遺伝的および疫学的に多様性であるため、MMTV−PyMTマウスモデルを、腫瘍進行および転移のナノ力学的足跡を系統的に解明するために選択した。病態組織学的分類によると、MMTV−PyMTの初期過形成は、正常ヒト乳腺であり、基底膜内に限定されている広範な上皮増殖は、ヒトの前悪性新生物に類似する。初期癌のその後の段階は、形態学的にヒト腺管上皮内癌と類似する。
円形の細胞状構造は、正常マウス乳腺の代表的なFV地図では、1.07±0.76kPaの平均剛性により識別できる(図11a、左)。明確な基底膜により描写される高密度に密集した上皮細胞のそのよく組織化された配置を有する健常腺では(図11a、右)、全体ヒストグラムは、標本全体にわたって特徴的ピークを有する単峰型剛性分布を明らかにする(図11a、中央)。正常マウス乳腺に見出される均一な剛性プロファイルは、正常ヒト乳房と一致する。しかしながら、ヒト乳房組織とは対照的に、健常マウス乳腺は、0.31±0.13kPaの平均値を有する特有の狭いピークを特徴とする過度量の脂肪組織(70〜80%)を示す。
前悪性組織のFV地図は、H&E染色切片(図11b、右)の増殖性細胞塊を取り囲む間質成分の増加と関連する、軟質および中程度により剛性の特徴のパターン(図2b、左)を明らかにする。したがって、全体ヒストグラムは、1.51±0.91kPaへのピーク値の移動を示すより幅広い分布を示す(図11b、中央)。にもかかわらず、ピーク分析ソフトウェアは、それぞれ1.15および1.55kPaの2つピークを特定でき、2峰型剛性分布の発生を示した。
この傾向は、特徴的な軟質区域および剛性区域をもたらす早期癌でより顕著となった(図13c、左)。全体ヒストグラムにおける0.51±0.11および1.63±0.71kPaのピークは、2峰型剛性分布の明らかな証明を提供する(図13c、中央)。同様に、高密度に密集した癌細胞および初期間質浸潤の特徴的地帯は、H&E染色切片に明らかである(図13c、右)。剛性値を、検査したネズミ乳腺組織および肺全てについて算出した。それらは表2に示されている。加えて、マウス乳腺組成の主な寄与要素としての脂肪組織は、癌細胞クラスターと間違われる場合がある。したがって、脂肪組織についての対照実験が、2つの細胞タイプを区別するために必要だった。一般的に、脂肪細胞は、H&E染色切片でのそれらの均一な形態学的外観に基づき、他の全ての細胞タイプと区別できる。脂肪細胞は、あらゆる明確な構造を欠如しており、典型的には、癌細胞と比較してサイズがより大きい。これらの特徴は、FV地図に観察されたものと一致する。取得した脂肪組織に対応する剛性値は、0.31±0.13kPaである。それに比べて、癌細胞での代表的な測定は、0.75±0.25kPaの主要な軟性ピークをもたらした。それは、図8cの分析と一致している。重要なことには、データは、脂肪組織が、(i)悪性細胞よりおよそ3分の1軟性であり、(ii)チップに対する強い接着性を示し(データ非表示)、および(iii)(接近AFM力曲線および収縮AFM力曲線間の大きなヒステリシスを特徴とするような)より高い散逸属性を示す(データ非表示)。
代表的な高分解能AFM剛性地図(72×72ピクセル)は、均一なガウス分布(図11a、中央)を示す正常腺の導管(D)を示す(図11a、左)。マウス組織切片のAFM後組織学的検査は、矢印により示されている間質および脂肪組織(図11a、右)に囲まれた導管(D)を有する非乳分泌乳腺を示す。前悪性病変では、増殖上皮(E)および隣接間質(S)が視覚化されている(図11b、左)。前悪性過形成の剛性分布(図11b、中央)は、より幅が広く、2峰型の徴候を示す(図11b、中央)。同じ組織のH&E切片は、間質成分(S)に囲まれた上皮細胞(E)の大きな増殖を視覚化する(図11b、右)。初期癌病変の剛性地図は、間質組織(S)により限定される個々の癌細胞(C)を明らかにする(図11c、左)。したがって、2峰型剛性分布は、軟質癌細胞表現型と剛性化間質とを区別する(図11c、中央)。H&E切片では、矢印は、異型細胞形態(C)および隣接間質の初期浸潤(S)を指す(図c11、右)。
近接領域の脂肪組織のH&E染色は、図12a(左)に示されており、そこには、対応する力地図を記録した。力地図内では、脂肪細胞は均質に見える(図12a、中央)。対応するヒストグラムは、脂肪組織の剛性分布および算出平均値を示す(図12a、右)。その一方で、癌組織(図12b、左)は、ある構造を示し、ECMに埋め込まれた個々の癌細胞を明らかにする(図12b、それぞれ左および中央)。浸潤癌細胞で構成される組織は、より剛性でより不均質のナノ力学的プロファイルを示す(図12b、右)。
正常乳腺から初期癌に移行する際に生じる乳腺構築の最も著しい構造変化の中には、正常腺および前悪性腺を囲む基底膜の分解、およびコラーゲンIの発現および構成の変化がある。腫瘍進行の後期段階では、間質の寄与は、癌挙動をますます修飾する。例えば、コラーゲンI、ECMの主成分は、癌剛性化と関連している。したがって、ヒトの浸潤性腺管癌に相当する後期MMTV−PyMT癌の局所的ナノ力学的プロファイルとECM構造との関連性を検討した。連続FV地図は、コアから末梢への漸進的剛性化を示し(図13a)、ピーク値は、コアの0.74±0.26kPaから末梢の5.51±1.70kPaへと移動する。同時に、組織不均質が増加し(図13b)、末梢で最大である(図13b、右)。これらの変化は、相関性IHC分析により明らかにされるECMの特徴的な変化と関連すると考えられる(図13c)。
試料にわたって連続する剛性地図は、対応する剛性分布(図13b)に示されているように、コアから末梢へと剛性および構造不均質性が著しく増加することを示している(図13a、それぞれ左から右)。IHC分析(暗灰色染色)は、矢印頭部により指示されているコアから末梢へのコラーゲンI(図13c、最上段)およびラミニン(図13c、最下段)の根本的な構造的および形態学的変化を明らかにする。
例えば、コラーゲンIは、軟質コアでは検出されないが、末梢に向かって漸進的に存在する(図13c、最上段)。また、ラミニンI発現は、基底膜が崩壊している進行癌に予想されるように、コアには事実上存在しない(図13c、最下段左)。しかしながら、中央区域および末梢区域の血管新生増加は、血管基底膜のラミニン染色をもたらした(図13c、最下段中央および右)。コア領域におけるラミニンおよびコラーゲンIの非存在は、癌細胞の軟性表現型に寄与する。その一方で、末梢に向かって増加する染色は、それぞれの領域の剛性化と関連する間質浸潤の増加を特徴付ける。更に、免疫染色は、広範囲の剛性値に反映される後期腫瘍段階での相当な組織不均質があることを明白に示す。
<<実施例7:軟質および低酸素細胞表現型は、マウスモデルの肺転移を促進する。>>
次に、最も軟質な癌表現型と、遠位部位、特に肺に転移する能力との関連性を検討した。健常マウス肺は、多量のコラーゲンIVおよびラミニンを含有しており、したがって、乳腺と比較して、より剛性の表現型を示す。AFMは、拡張した肺胞および気管支構造ならびに血管で構成される健常肺組織(図15a、左、中央の代表的なAFM剛性地図、表3)の平均剛性値が、11.01±5.19kPaであることを明らかにした(図15a、右)。腫瘍進行の後期では、MMTV−PyMTマウスは、肺転移を発症する。それと一致して、後期癌病期のマウスに由来する肺の剛性測定は、健常肺には存在しない、0.61±0.41kPaの極めて軟質のピークを示す(P<0.0001)(図15b、左、灰色バー、中央の代表的なAFM剛性地図、表3)。AFM後の組織学的染色は、複数の転移性病変の存在を確認した。興味深いことには、健常肺と比較して、転移を囲む肺組織は、8.19±4.94kPaの平均剛性を有するより平坦な剛性分布を示した。進行腫瘍病期における広範な低酸素は、肺のコラーゲン架橋を変更する。おそらくは、転移肺のECMにおける変化が、転移に隣接する肺組織の剛性の局所的変動の原因である。
乳癌細胞の肺への転移は、健常肺の代表的なAFM剛性地図および全体剛性プロファイルにより示されているように(図15a、中央)、原発性腫瘍に類似する軟質表現型を示す(図15a)。その後の組織学的染色は、肺胞構造および気管支で構成される正常上皮形態を明らかにする(図15a、右)。肺の代表的なAFM剛性地図(図15b、左)および全体剛性プロファイル(中央)は、転移性病変を示した。組織病理学的分析は、転移性クラスターの位置および外見的には正常な肺胞構造を有する周囲の肺を明らかにする(図15b、右)。
1つの領域の代表的なAFM剛性地図(24×24)は、癌細胞のナノ力学的不均質性を明らかにする(図14a)。癌生検の細胞領域の剛性分布は、癌細胞の2つの明確な軟質亜集団を表わす2つのピーク:0.45±0.15kPaの第1のピークおよび1.26±0.43kPaの第2のピークを明らかにする(図14b)。
癌細胞でのデスミン発現および/またはビメンチン発現により示されるような分化不良は、侵襲性の別の特徴である。ビメンチン染色およびデスミン染色が組織特異的だった正常腺および前悪性腺とは対照的に、初期癌病期は、ビメンチンおよびデスミンが両方とも上皮癌細胞で発現される区域を示す。最後に、後期癌では、ビメンチンおよびデスミンの特徴的な発現および分布が、血管を取り囲み血管内に侵入する軟質癌細胞で観察された。これは、肺の軟質転移性細胞クラスターの形成とよく関連する(図15b、左)。
<<実施例8>>
図16は、圧電素子1が、カンチレバー2に直接接続されている、本発明の実施形態を示す。圧電素子1が、第1の方向Rに沿って最大限に伸長し、カンチレバーのチップ21と試料4表面との間の接触が緩んだ場合、コントローラー31は、外部モーター3(アクチュエーター)を始動して、圧電素子1の所望の伸長が達成されるまで、カンチレバーのチップ21を第1の方向Rに沿って表面へと下降させる。圧電素子1が、最大限に収縮し、カンチレバーのチップ21が、望ましくない力で試料表面4に圧入される場合、コントローラー31は、外部モーター3を始動して、カンチレバー2を第1の方向Rに沿って上昇させ、圧電素子1の所望の伸長を回復させる。
<<実施例9>>
図17は、圧電素子が、試料ホルダー41に直接接続されており、カンチレバー2が、カンチレバーホルダー25に直接接続されている、本発明の別の実施形態を示す。
<<実施例10>>
図18は、第1の方向Rに沿った垂直圧電運動の模式図を示す。圧電素子は、最大伸長12および最大収縮11を特徴とする。これら2状態間に、至適動作範囲13および非至適動作範囲に分割できる圧電素子の動作範囲が存在する。第1の閾値15は、至適動作範囲13と非至適動作範囲14との間の、最大収縮11側の境界に位置している。第2の閾値16は、至適動作範囲13と非至適動作範囲14との間の、最大伸長12側の境界に位置している。
試料が高くなりすぎ、圧電素子1が、閾値15に、例えば、その完全伸長範囲から20%未満または2μm未満に収縮すると、コントローラーは、モーターを始動させることになる。モーターは、上方へ動き、圧電の至適作動距離13(例えば、最大伸長の20%〜80%、または最大伸長の最初の2μm〜最後の2μm)を回復することになる(図18)。圧電が、閾値16で、完全伸長範囲の80%または最後の2μmを超えて伸長する場合、コントローラーは、モーターを再び始動させることになるが、今回は下方に動き、至適圧電作動距離13を回復させることになる(図18)。典型的には、完全伸長範囲が15μmである圧電素子が使用される場合、カンチレバーを、例えば3μmだけ下降または上昇させる。この値は、AFMおよびモーターの所与の組み合わせに応じて、使用者により調整できる。
<<概念および証拠>>
癌の複雑性は、疾患を検出および分析するためのバイオマーカーの向上を要求する。本発明は、ナノ力学的特性を、臨床設定に翻訳できる天然腫瘍組織の変化を感知および評価するための新規バイオマーカーとして使用するための重要な示唆を示す。
本発明の方法は、正常組織、線維腺腫等の良性病変、および癌組織を明白に識別する。両タイプの組織は、典型的には、それぞれの均質な形態学的外観と一致する均一な剛性を示すが、良性病変の剛性は、正常乳腺組織の剛性よりも著しく高い。この明白な剛性は、導管筋上皮に伸長し、導管筋上皮を変化させる線維性組織の高含有量をもたらす線維性嚢胞過形成によるものである可能性が最も高い。対照的に、MMTV−PyMTマウスおよびヒト生検から得られる乳腺組織試料のナノ力学的AFM検査は、悪性病変が、特定の剛性によっては特徴付けられないが、侵襲性悪性表現型と関連する剛性の放射状勾配により特徴付けられることを示す。
文献の腫瘍剛性評価に関する報告は、多岐にわたる。古典的レオロジーにより組織生検で実施した測定は、癌組織がその周囲よりも一般的に剛性であるという広く認められている概念に結び付いた。同様に、非拘束圧縮検査は、腫瘍が正常組織よりも剛性であると記述している。加えて、最近の研究は、コラーゲン架橋により誘導された組織線維症が、インテグリン活性を調節したこと、および接着斑の上昇が、腫瘍間質の剛性化を促進することを示した。対照的に、様々な単一細胞in vitro生体力学的アッセイを使用した幾つかの研究は、転移性効率の増加を示す単離癌細胞での剛性の減少を報告している。例えば、最近、癌患者から単離された転移性細胞は、同じ試料中の正常細胞よりも70%低い剛性を示すことが示された。しかしながら、単離細胞および/または培養細胞は、組織に生じる複雑な細胞間相互作用および細胞−マトリックス相互作用を欠如する。
新鮮な組織試料を検査することにより、組織構造およびECM構造は、両方とも保持された。更に、実施した測定は、腫瘍断面全体のサンプリングであり、したがって、腫瘍に典型的な不均質性を考慮に入れている。したがって、AFM剛性データは、単一の剛性を表わすのではなく、むしろ特徴的なナノ力学的特徴を表わすという点で、これら矛盾を部分的に一致させる。例えば、非拘束圧縮により測定された剛性増加と同様に、AFM検査も、末梢の間質腫瘍組織は比較的剛性であるが、根底にある腫瘍は相当により軟質であることを明らかにした。癌は、細胞形態学および生化学に関して極めて多様性であるため、全ての腫瘍領域に共通する剛性係数は、ほとんど期待することはできない。本明細書で示されたデータは、癌剛性および侵襲性表現型が、腫瘍細胞不均質性によりどのように影響を受けるかを理解するための新しい枠組みを提供する。
低酸素は、微小環境条件の1つであり、酸素欠乏環境で癌細胞の生存および増殖を促進する多くの遺伝子産物の発現を変更することにより、腫瘍進行に影響を及ぼす。これらプロセスには、血管新生、アポトーシス、解糖、細胞周期制御、および最も興味深いことには遊走が含まれる。MMTV−PyMT乳腺組織のAFM測定は、低酸素も、癌組織のナノ力学的特性を調節するという証拠を提供する。特に、低酸素に関連する軟質化は、侵襲性転移性表現型を促進すると考えられる。見出された知見は、腫瘍微小環境が、細胞および/または組織レベルで、生物物理学的特性を制御するという新しい概念を支持する。腫瘍性乳腺上皮細胞の場合、その結果生じる下流の細胞応答は、転移能の増加と一致する細胞柔質化をもたらす。それと一致して、浸潤癌組織のコアから末梢へと拡散する低酸素表現型を有する細胞は、対応する剛性分布の移動をもたらした。低酸素は、ヒト試料では直接測定されなかったが、コアの軟質性は、これら区域も低酸素性であることを示唆する。
最近、リシルオキシダーゼ(LOX)媒介性コラーゲン架橋により誘導されるECM剛性化による腫瘍微小環境の修飾は、腫瘍浸潤性および転移性を促進することが示唆されている。低酸素は、LOX発現、なによりも、コラーゲンの分解をもたらし、低浸潤性乳癌細胞をより侵襲性表現型へと駆動するその触媒活性を上方制御する。低酸素が、ECMおよび細胞骨格の再構築により細胞剛性に影響を及ぼし、これら剛性変化が、細胞浸潤および転移を促進することが以前に報告されている。原線維性コラーゲンの増加ではなく、コラーゲンおよびフィブロネクチンの顕著な分解が、癌細胞の非常に豊富な領域で観察された。同様に、MMP依存性ECM分解が、癌進行に伴うと報告されている。データは、浸潤癌における低酸素、コラーゲン分解、および組織軟質化間に強い関連性があること示すが、低酸素細胞に隣接する腫瘍間質では、約15倍の剛性増加が測定された。ECM剛性化ではなく、低酸素に関連する組織軟質化が、腫瘍進行を促進するということはあり得ることである。それらの低酸素表現型を保持していたMMTV−PyMTマウスにおける肺転移の存在は、この概念の更なる支持を提供する。
低酸素は、化学的シグナルおよびおそらくは機械的シグナルを介して、腫瘍血管新生を誘導することがよく知られている。同時に、低酸素は、細胞が血管を出入りする間に内皮基底膜を横切ることを伴う腫瘍細胞浸潤性を促進する。上皮内癌から浸潤癌への移行では、腫瘍細胞浸潤と一致する、基底膜の構造分解が微視的に観察される。腫瘍が拡散する前の「最後の砦」としての基底膜の破壊は、局所組織軟質化の更なる増加を引き起こし、全体的な剛性不均質性に寄与する可能性が最も高い。それと一致して、低酸素細胞は、特徴的な不均質剛性パターンに加えて、浸潤癌のコアだけでなく血管付近でも検出される。
元々は階層化されている上皮細胞を、運動型線維芽細胞のように挙動させることにより、上皮間葉転換(EMT)および間葉マーカー過剰発現は、腫瘍進行の重要な要因である。ビメンチンおよびデスミンの発現は、MMTV−PyMTマウスおよびヒト生検の両方で腫瘍進行と共に劇的に増加し、それにより不均質剛性表現型に寄与した。ビメンチンおよびデスミンの共発現は、低酸素への順応を促進する可能性のある細胞脱分化を示す。その一方で、EMT中のこれらマーカーの発現および挙動は、低酸素により影響を受ける。これは、血管および肺等の十分に酸素化されている環境であっても、侵襲性低酸素表現型が維持されるのはなぜかを説明する可能性がある。
<<結論>>
本発明のデータは、軟質表現型が、癌進行に重要な役割を果たすという証明を提供する。ヒト組織試料のナノ力学的特徴を、対応する病理組織学的診断と比較することにより、剛性領域に対する軟質領域の比率が高いことが、より侵襲性の表現型の指標であることが証明される。
更なる免疫組織化学的データ(非表示)は、ECM成分の分解および空間的再編成が、腫瘍進行と関連することを示す。同時に、局在性原発腫瘍内のSM−アクチン、ビメンチン、およびデスミンの構造変化は、細胞構築の著しい変化を示す。腫瘍が進行すると共に、構造不均質性は更に増加し、ECM構成および細胞構築の変化が、細胞のナノ力学的反応に影響を及ぼし、したがって腫瘍進行は、剛性不均質性の増加により特徴付けられることは明白である。
これは、AFMにより癌腫で測定された2峰型剛性分布と良好に一致する。更に、ラミニンは、著しく無秩序になり、上皮極性の喪失が、悪性度および侵襲性と一致することを明らかにする。
100 本発明の原子間力顕微鏡
1 圧電素子
11 最大収縮
12 最大伸長
13 至適動作範囲
14 非至適動作範囲
15 カンチレバーを上昇させるための閾値
16 カンチレバーを降下させるための閾値
2 カンチレバー
21 カンチレバーのチップ
22 レーザー
23 ミラー
24 フォトダイオード
25 カンチレバーホルダー
3 モーター
31 コントローラー
4 試料
41 試料ホルダー
R 第1の方向

Claims (14)

  1. 隣接する細胞と細胞外マトリックスとを有するとともに腫瘍から得られる組織生検試料を分類する方法であって、
    少なくとも100μmの空間分解能で前記試料の複数の地点の剛性値を決定して剛性分布を取得する工程と、
    前記試料に対し、悪性の確率を特定する工程と、
    を備え、
    第1のピークが第2のピークの2倍剛性値を有することにより特徴付けられた少なくとも2峰型剛性分布を示す試料に対し、悪性が高確率と特定し、
    前記複数の地点はn1×n2地点(n1およびn2は2以上の独立した整数)の区域を規定するグリッドとして配置され、
    前記組織生検試料は、前記腫瘍の少なくとも2分の1の断面を示し、前記腫瘍のコアから末梢への明確な配向性を示す円筒状またはプリズム状をなし、当該組織生検試料の長軸方向に沿って1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、15mm、または20mmの距離にわたって当該組織生検試料の表面に前記n1×n2地点の区域が位置決めされる
    ことを特徴とする方法。
  2. 当該方法によって、
    同一の前記試料における、幾何学的中心間の距離が前記空間分解能の少なくとも10の倍数である少なくとも2つの異なる区域について、前記剛性値が決定される
    ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 単峰型剛性分布を示す試料に対し、非悪性が高確率と特定することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記組織生検試料は、7μm以下の直径を有する円筒状またはプリズム状の生検であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記腫瘍は、ヒト乳癌、または、リンパ節転移、肺転移、硬骨転移、肝臓転移、もしくは脳転移であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記剛性値は、生理学的条件下で決定されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 乳腺組織生検試料の剛性を決定し、
    1.1kPaと1.5kPaとの間のピークで特徴付けられる剛性分布を示す試料に対し、正常乳腺組織が高確率と特定し、
    1.9kPaと3.7kPaとの間のピークで特徴付けられる剛性分布を示す試料に対し、良性病変が高確率と特定し、
    0.31kPaと0.75kPaとの間のピークおよび1.2kPaより大きな値のピークで特徴付けられる剛性分布を示す試料に対し、悪性腫瘍が高確率と特定する
    ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 0.31kPaと0.75kPaとの間のピークおよび1.2kPaと2.0kPaとの間のピークで特徴付けられる剛性分布を示す試料に対し、悪性腫瘍が高確率と特定することを特徴とする請求項7に記載の方法。
  9. 前記試料(4)と相互作用するチップ(21)を有するプローブ(2)と、
    前記試料(4)または前記プローブ(2)を保持するナノスキャナー(1)と、を備えて、
    前記チップ(21)が前記試料(4)に向かって移動する第1の方向(R)に沿った前記ナノスキャナー(1)の伸長をモニターして、
    前記ナノスキャナー(1)が閾値より小さいまたは閾値より大きい伸長を示すとき、前記第1の方向(R)に沿った前記プローブ(2)のレベルを追加アクチュエーター(3)により調整する
    走査型プローブ顕微鏡によって、前記剛性値が決定されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記調整は、前記プローブ(2)の下降もしくは上昇、または、前記試料(4)の下降もしくは上昇により実施されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
  11. 前記レベルの調整は、前記ナノスキャナー(1)が最大伸長の20%より小さいまたは80%より大きい伸長を示すとき、実施されることを特徴とする請求項10に記載の方法。
  12. 前記レベルは、前記プローブ(2)または前記試料(4)を、前記ナノスキャナー(1)の最大伸長の10%〜30%だけ下降または上昇させることにより調整されることを特徴とする請求項10または11に記載の方法。
  13. 腫瘍組織生検試料を分類するシステムであって、
    少なくとも1μmの分解能で剛性値を決定する原子間力顕微鏡たるデバイス(100)と、
    プログラムされたマイクロプロセッサーと、を備え、
    前記プログラムされたマイクロプロセッサーは、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法を実行するべく設けられ構成されている
    ことを特徴とするシステム。
  14. 原子間力顕微鏡たる前記デバイス(100)は、
    試料(4)と相互作用するチップ(21)を有し、前記チップ(21)を第1の方向(R)に沿って前記試料(4)に向けて移動させるプローブ(2)と、
    前記試料(4)または前記プローブ(2)を保持するナノスキャナー(1)と、
    前記第1の方向(R)に沿った前記ナノスキャナー(1)の伸長をモニターするための手段と、
    前記プローブ(2)のレベルを前記第1の方向(R)に沿って調整するアクチュエーター(3)と、
    前記アクチュエーター(3)を制御するコントローラー(31)と、
    を備え、
    前記コントローラー(31)は、前記ナノスキャナー(1)が閾値より小さいまたは大きい伸長を示すとき、前記プローブ(2)の前記レベルを調整するべく前記アクチュエーター(3)を制御する
    ことを特徴とする請求項13に記載のシステム。
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