JP6433196B2 - 低温用途向ステンレス鋼 - Google Patents

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Description

本発明は、室温以下の低温で使用される安価かつ安定なオーステナイト(A)系ステンレス鋼に関するものであり、該鋼は、鋼板、鋼帯、鋼管等の製品を対象とし、特に、超電導磁石用構造材に最適である。
室温以下の低温、特に極低温で使用されるステンレス鋼の適用先には、従来、液体ヘリウム及び液体窒素温度にて使用される超電導磁石用構造材、液化天然ガス(LNG)の配管、タンク、液体水素を燃料とするロケットの容器等が挙げられる。
最近では、環境問題も伴い、定置型燃料電池、燃料電池車の製品に代表される、いわゆる“水素社会”の検討が進められており、液化水素基地やパイプライン等のインフラへの適用拡大が期待されている。
極低温にて使用される構造材料に一般に必要とされる特性としては、安全面等から脆性破壊をおこさないこと、高強度、更に、超電導磁石用構造材として使用する場合、非磁性であることが挙げられる。
A系ステンレス鋼は、一般に極低温に至るまで延性を保つため、前述のような極低温用途に適用されている。他方、構造材料に必要とされる高強度という点からは、一般に有効な手段として、Nの添加が知られており、JIS(JIS−G−4315)規格で、SUS304LN、SUS316LNが規定されている(特許文献1〜4、参照)。
他方、A系ステンレス鋼は、A安定化元素として希少金属に分類され、高価な合金元素であるNiを多量に含有するため、素材も貴重かつ高価となる問題がある。しかし、Niの単純な減少はA安定度を低下させ、加工誘起マルテンサイト(M)変態等を含めて、第二相を発生するとともに、特に極低温への冷却に際しては、M相又はフェライト(F)相を生成する。
これらの相は磁性を帯びるため、超電導磁石用構造材に使用できない問題がある。また、材料の低温脆化が懸念されるようになる問題がある。なお、本発明でのM相は、F相に近い体心正方格子構造を有するα´相をさす。
このため、安価で入手が容易、かつ、最も強力なA安定元素であるC、Nの添加が一般に検討されている。特に、Nは、大気中に多量に含有され、環境負荷も小さく、有望な元素である(特許文献5〜8、参照)。ただし、N添加の検討は、室温での加工誘起M変態について殆どであり、極低温への冷却での熱的安定性については、充分に検討されていない。
例えば、冷却での熱的なA安定度の指標であるMs、加工誘起変態に対するA安定度の指標であるMd30は、非特許文献1で、下記式(a)又は(b)で表示されている。いずれの式においても、NとCの係数が同じである。これは、NとCのMsへの寄与がほぼ同じであろうということで、同じ値とされているものであるが、実際のMsへの寄与の詳細は、必ずしも明らかにされていない。
Ms(℃)=1032−42Cr−61Ni−33Mn−28Si
−1667(C+N) ・・・(a)
Md30(℃)=413−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn
−13.7Cr−9.5Ni−18.5Mo ・・・(b)
なお、上記式(a)及び(b)は、A安定度を成分により算出した経験式であり、Msは、冷却に際してM変態が開始する温度(℃)で、Md30は、0.3の引張り真ひずみを与えた時、50%のM変態量を生じる温度(℃)である。各元素量は質量%である。
更に、高強度化が期待される因子として、結晶粒の微細化(細粒化)が挙げられる。これについても、様々な室温特性の改善を目的とした検討が進められている。例えば、特許文献9と10には、結晶粒微細化により加工性を他の強化因子のように大きく低下することなく、高強度化したガスケット用ステンレス鋼が開示され、特許文献11と12には、化学的腐食部が平滑になるエッチング用ステンレス鋼が開示されている。
これらに記載されるJIS(G−4315)規格のSUS301、SUS301L、SUS304、SUS304L、SUS304LN相当のステンレス鋼は、準安定A系ステンレスに分類され、加工誘起M変態を起こし、一般に、強度と伸びの関係に優れている。
更に、加工誘起変態したM相に比較的低温の熱処理を施すことにより、A母相へ逆変態し、それらを経ることにより、結晶粒径が数μm以下の細粒組織を得られることが知られている。ただし、この細粒化についても、検討対象は室温での加工誘起M変態が殆どであり、極低温への冷却での熱的安定性については充分に検討されていない。
非特許文献2の記載では、加工誘起変態に対するA安定度の指標であるMd30に及ぼす結晶粒径の影響が加味されているにとどまっている。即ち、室温以下の極低温用途分野において、特性にも大いに関連する熱的なA安定度に及ぼすC、Nの影響、及び、結晶粒径の影響についての検討は十分になされていないのが現状である。
特開昭60−009862号公報 特開昭60−013063号公報 特開昭61−270356号公報 特開平02−097649号公報 特許第5091732号公報 特許第5091733号公報 特開2014−019925号公報 特許第4327030号公報 特許第3068861号公報 特許第4019630号公報 特許第3562492号公報 国際公開第2014/030607号
ステンレス鋼便覧(第3版、ステンレス協会編)、p.114 ステンレス鋼便覧(第3版、ステンレス協会編)、p.115
室温以下の極低温用途分野の上記現状に鑑み、本発明は、室温以下の低温で使用される鋼板、鋼帯、鋼管等の製品を対象とし、該製品に適用される安価かつ安定なオーステナイト(A)系ステンレス鋼を、工業的に安定して供給することを課題とし、該課題を解決する低温用途向ステンレス鋼を提供することを目的とする。
本発明者らは、A系ステンレス鋼の熱的なA安定性に及ぼすC、Nの影響、結晶粒の微細化(細粒化)の影響を詳細に検討し、それらの効果を明らかにした。そして、その検討結果として、極低温へ冷却する際、更に、弾性変形域内の応力を付与した場合にも、加工誘起M変態が抑制され、A相が安定化することを知見した。
本発明は、上記知見に基づき研究開発を鋭意継続し、成分調整した小型鋳塊による試作試験、実機試作試験を経て、室温以下の低温、特に極低温で使用される安価かつ安定なA系ステンレス鋼の実用化に目処を得てなされたものである。
即ち、C、Nの熱的なA安定度に及ぼす影響は、他の合金元素に比べて著しく大きいことが確認された上で、更に、Nの影響がCの約3倍を示すことを明らかにした。そして、特にNの有効な活用によるA安定化度を示す式として、下記式(後述する)を得た。
−273>1032−42Cr−61Ni−33Mn−28Si
−1000C−2860N
他方、細粒化もA安定度を向上し、C、Nの添加の効果に加算される。その効果は、粒径が10μm以下で明瞭となる。
これらの結果、本発明者らは、上記成分と結晶粒径を満足する材料に対して、極低温へ冷却する際、更に、弾性変形域内の応力が付与された場合にもM変態が抑制され、該材料のA安定性が向上し、安全性も向上することを確認した。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)質量%で、
C :0.01%以上、0.20%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:3.0%以下、
Cr:10.0%以上、20.0%以下、
Ni:5.0%以上、8.23%以下、
N :0.01%以上、0.30%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、かつ、上記元素の含有量が下記式(1)を満足し、組織がオーステナイト単相組織で、平均結晶粒径が10μm以下であり、液体窒素温度以下への冷却に際してマルテンサイト相が生じないことを特徴する低温用途向ステンレス鋼。
−273>1032−42Cr−61Ni−33Mn−28Si
−1000C−2860N ・・・(1)
(2)更に、質量%で、Nb:0.5%以下、Ti:0.5%以下、V:0.5%以下の少なくとも1種を含有することを特徴とする前記(1)に記載の低温用途向ステンレス鋼。
(3)前記液体窒素温度以下への冷却に際して、更に弾性変形域内の応力を付与したとき、マルテンサイト相が生じないことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の低温用途向ステンレス鋼。
本発明によれば、室温以下の低温で使用される鋼板、鋼帯、鋼管等の製品に適用される安価かつ安定なオーステナイト(A)系ステンレス鋼を工業的に安定して供給することができる。
本発明の低温用途向ステンレス鋼(以下「本発明鋼」ということがある。)は、
質量%で、
C :0.01%以上、0.20%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:3.0%以下、
Cr:10.0%以上、20.0%以下、
Ni:5.0%以上、8.23%以下、
N :0.01%以上、0.30%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、かつ、上記元素の含有量が下記式(1)を満足し、組織がオーステナイト単相組織で、平均結晶粒径が10μm以下であり、液体窒素温度以下への冷却に際してマルテンサイト相が生じないことを特徴する。
−273>1032−42Cr−61Ni−33Mn−28Si
−1000C−2860N ・・・(1)
まず、本発明鋼の成分組成の限定理由について説明する。なお、以下、%は、質量%を意味する。
C:0.01%以上、0.20%以下、
Cは、N(後述)とともに、強力なγ安定化元素でかつ固溶強化元素である。添加効果を得るため、0.01%以上を添加する。好ましくは0.02%以上である。ただし、過度の添加は、多量の炭化物の析出を招き、必要な強度、A安定度がともに得られないので、上限を0.20%とする。好ましくは0.18%以下である。
Si:1.0%以下
Siは、溶製時の脱酸剤として機能する元素で、また、F安定化元素である。ただし、過度に添加すると、粗大な介在物が生成して、加工性が劣化するし、また、A相が不安定となるので、上限を1.0%とする。好ましくは0.9%以下である。下限は特に定めないが、脱酸効果を確実に得るためには、0.05%以上が好ましい。
Mn:3.0%以下
Mnは、比較的安価でかつ有効なA安定化合金元素である。ただし、過度に添加すると、粗大介在物が生成して、加工性が劣化するので、上限を3.0%とする。好ましくは2.6%以下である。下限は特に定めないが、A相の確実な安定化の点で、0.1%以上が好ましい。
Cr:10.0%以上、20.0%以下
Crは、ステンレス鋼の基本元素であり、有効な耐食性を得るための元素である。添加効果を得るため、10.0%以上添加する。好ましくは10.5%以上である。ただし、CrはF安定化元素であり、過度の添加で、A相が不安定になり、また、C、Nと化合物を形成する可能性が高くなるので、上限は20.0%とする。好ましくは19.4%以下である。
Ni:5.0%以上、8.23%以下
Niは、最も強力なA安定化合金元素である。C、Nの添加を含めて、A相を室温まで安定化して存在させるために、5.0%以上添加する。好ましくは5.4%以上である。ただし、前述のように、高価でかつ希少な合金元素であり、極力減少することが望ましいので、上限を、段落[0049]の表1中、発明鋼EのNi量「8.23%」に基づいて8.23%とする。
N:0.01%以上、0.30%以下
Nは、最も強力なγ安定化元素であり、かつ、有効な侵入型固溶強化元素である。添加効果を得るため、0.01%以上とする。好ましくは0.02%以上である。ただし、過度の添加は、窒化物の析出を招き、必要な強度、A安定度がともに得られないので、上限を0.30%とする。好ましくは0.28%以下である。
本発明鋼においては、更に、上記元素の含有量が下記式(1)を満足することが必要である。下記式(1)は、室温以下への冷却時のA安定度に対する各元素の影響を検討して得た関係式である。
C、Si、Mn、Cr、Ni、Nの含有量が、各元素の組成範囲と下記式(1)を満足すると、A相が、0K(約−273℃)まで安定して存在することが判明した。更に、A相の安定化に特に効果の大きいCとNについて、A相安定化効果の違いを検討した結果、Nが、Cの約3倍の効果を有する(下記式(1)において、Nの係数が2860、Cの係数が1000)ことが判明した。
これらの知見に基づいて、−273>Msを満足し、かつ、従来の式(a)が−273超((a)>−273>(1))となる成分組成が存在することを知見した。
この成分組成によれば、例えば、高価かつ希少な合金元素であるNiの添加量を極力抑制し、安価かつ安定なA系ステンレス鋼を工業的に安定供給することができる。
−273>1032−42Cr−61Ni−33Mn−28Si
−1000C−2860N ・・・(1)
なお、通常、室温以下の低温での使用とは、実機にて適用される液体ヘリウム温度(約−269℃、約4K)、液体水素温度(約−253℃、約20K)、液化天然ガス(約−162℃、約111K)、液体窒素温度(約−196℃、約−77K)での使用をいう。本発明鋼において、室温以下の低温とは、液体窒素温度以下の低温をいう。
本発明鋼は、上記成分の他、Nb:0.5%以下、Ti:0.5%以下、V:0.5%以下の少なくとも1種を含有してもよい。
Nb:0.5%以下、Ti:0.5%以下、V:0.5%以下
Nb、Ti、Vは、C、Nと結合し、ピン止効果で結晶粒の成長を抑制する化合物を形成する元素である。ただし、いずれの元素も0.5%を超えると、粗大な化合物が生成し、かつ、A相形成が不安定となる可能性が高くなり、加工性が劣化するとともに、粗大化合物が破壊の起点となるので、それぞれの上限を0.5%とする。好ましくは、いずれも0.4%以下である。
下限は特に限定しないが、添加効果を確実に確保する点で、Nb、Ti、Vのいずれも0.01%以上が好ましい。
更に、本発明鋼においては、オーステナイト単相組織とし、該組織の平均結晶粒径を10μm以下とする。これは、組織の細粒化が、鋼の強度向上と同時に、熱的なA相安定度の向上に寄与し、上記式(1)の効果に加算されるためである。これらの結果、A相安定度が著しく向上し、更に弾性変形域内での応力の付与に対しても、A相が安定化する。
平均結晶粒径が10μmを超えると、鋼の強度向上及びA相安定度の向上が十分に発現しないので、平均結晶粒径は10μm以下とする。好ましくは8μm以下である。
平均結晶粒径は、小さいほど好ましいが、圧延条件及び/又は熱処理条件によるところが大きいので、下限は明確に限定できない。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
表1に成分組成を示す供試鋼(小型鋳塊又は実機鋳塊)を熱間圧延して、板厚4mm前後の熱延板とし、熱処理後、加工率90%の冷間圧延で、板厚0.4mmの冷延板(試作材)とした。この冷延板に、結晶粒径の調整を目的として、800〜1100℃×1分保持の最終熱処理を施した。
Figure 0006433196
次いで、試作材について特性を調査した。特性の調査に関して、冷却は、液体ヘリウム温度まで実施した。発明例No.A3の室温での0.2%耐力が312N/mm2であり、冷却中の付与張力は、その約30%の100N/mm2(一定)を負荷した。
張力付与は、冷却時のM変態を促進すると考えられる。実際の使用の際、それ自体を含めた治具による重量等、超電導磁石の場合、その固定での磁力の影響を考慮したものである。
調査方法について、組織は、圧延方向垂直断面を埋込、研磨、腐食後、光学顕微鏡を用いて観察し、平均的部位で写真を撮影した。次いで、同写真に含まれる結晶粒の数を測定し、1個当りの平均結晶粒径を測定した。なお、粒径(半径)は円相当径で算出した。A相量は振動試料型磁力計(VSM)を用いて、透磁率の変化により生成したM相又はF相の量の割合を測定し、その割合の差により算出した。
表2に、供試材の組織と極低温への冷却前後のA相量を示す。
Figure 0006433196
発明例No.A1〜H2は、冷却前後ともA単相組織を維持し、高いA安定度を示すことを確認できる。発明例No.B1と比較例No.B2、発明例No.F1と比較例No.F4を比較すると、細粒化でのA安定度の向上を確認できる。
発明例No.D1の実績より、結晶粒径10μm以下にて、冷却後にA単相組織が維持されることを確認できる。なお、発明例では、冷却時に張力を付与した場合もA単相組織を維持することを確認できる。
更に、M(a)>−273>M(1)を満足する発明例No.A1、A2、及び、A3においては、Niを5.45%と低めにすることができ、また、同発明例No.F1、F2、及び、F3においては、Niを5.52%と低めにすることができた。
これらに対し、本発明の成分組成の範囲外の比較例No.I1〜N2においては、いずれも、冷却後にA単相組織を維持できていない。特に、(1)式に対応するM値の値が最も高く、A安定度が最も低い比較例No.I1は、冷却前の段階にもA単相組織を維持できていない。比較例No.J1とJ2、及び、比較例No.M2とM3の結果より、冷却後A相量は張力付与により減少し、M変態を促進すると考えられる。
前述したように、本発明によれば、室温以下の低温で使用される鋼板、鋼帯、鋼管等の製品に適用される安価かつ安定なオーステナイト(A)系ステンレス鋼を工業的に安定して供給することができる。よって、本発明は、ステンレス鋼製造・利用産業において利用可能性が高いものである。

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C :0.01%以上、0.20%以下、
    Si:1.0%以下、
    Mn:3.0%以下、
    Cr:10.0%以上、20.0%以下、
    Ni:5.0%以上、8.23%以下、
    N :0.01%以上、0.30%以下
    を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、かつ、上記元素の含有量が下記式(1)を満足し、組織がオーステナイト単相組織で、平均結晶粒径が10μm以下であり、液体窒素温度以下への冷却に際してマルテンサイト相が生じないことを特徴する低温用途向ステンレス鋼。
    −273>1032−42Cr−61Ni−33Mn−28Si
    −1000C−2860N ・・・(1)
  2. 更に、質量%で、Nb:0.5%以下、Ti:0.5%以下、V:0.5%以下の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載の低温用途向ステンレス鋼。
  3. 前記液体窒素温度以下への冷却に際して、更に弾性変形域内の応力を付与したとき、マルテンサイト相が生じないことを特徴とする請求項1又は2に記載の低温用途向ステンレス鋼。
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