JP6873438B2 - 前眼部組織の製造方法 - Google Patents
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Description
即ち、本発明は下記の通りである:
[2]骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の存在下での浮遊培養の前に、多能性幹細胞の凝集体を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の非存在下で浮遊培養する、[1]の方法。
[3]骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質がBMP4である、[1]又は[2]の方法。
[4]BMP4の濃度が1〜5 nMである、[3]の方法。
[5]浮遊培養の全部又は一部を、線維芽細胞増殖因子の存在下で行う、[1]〜[4]のいずれかの製造方法。
[6]多能性幹細胞が胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞である、[1]〜[5]のいずれかの方法。
[7]多能性幹細胞がヒト由来である、[1]〜[6]のいずれかの方法。
[8]浮遊培養をフィーダー細胞の非存在下で行う、[1]〜[7]のいずれかの方法。
[9]細胞凝集塊がさらに神経網膜組織を含む、[1]〜[8]のいずれかの方法。
[10]前眼部組織が、角膜及び/又は水晶体である、[1]〜[9]のいずれかの方法。
[11]細胞凝集塊が、前眼部組織の部分構造として角膜上皮を含み、さらに間葉組織、又はそれに由来する角膜実質及び/若しくは角膜内皮を含む、[1]〜[10]のいずれかの方法。
[12]角膜上皮が重層化している、[11]に記載の方法。
[13]前眼部組織若しくはその部分構造、又はその前駆組織を細胞凝集塊から取り出すことをさらに含む、[1]〜[12]のいずれかの方法。
[14]前眼部組織若しくはその部分構造、又はその前駆組織を神経網膜組織とともに取り出す、[13]の方法。
[15][1]〜[12]のいずれかの方法により得られる細胞凝集塊。
[16][13]又は[14]の方法により得られる前眼部組織若しくはその部分構造、又はその前駆組織。
以下、本発明の詳細を説明する。
「多能性幹細胞」とは、生体を構成するすべての細胞に分化しうる能力(分化多能性)と、細胞分裂を経て自己と同一の分化能を有する娘細胞を生み出す能力(自己複製能)とを併せ持つ細胞をいう。
(1) Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc(ここで、Sox2はSox1, Sox3, Sox15, Sox17またはSox18で置換可能である。また、Klf4はKlf1, Klf2またはKlf5で置換可能である。さらに、c-MycはT58A(活性型変異体), N-Myc, L-Mycで置換可能である。)
(2) Oct3/4, Klf4, Sox2
(3) Oct3/4, Klf4, c-Myc
(4) Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28
(5) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, Nanog, Lin28
(6) Oct3/4, Klf4, Sox2, bFGF
(7) Oct3/4, Klf4, Sox2, SCF
(8) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, bFGF
(9) Oct3/4, Klf4, c-Myc, Sox2, SCF
本発明の製造方法によれば、多能性幹細胞の凝集体内において、多能性細胞から、前眼部組織若しくはその部分構造、又はその前駆組織への分化を誘導することにより、前眼部組織若しくはその部分構造、又はその前駆組織を含む細胞凝集塊を得ることができる。
多能性幹細胞の凝集体は、分散させた多能性幹細胞を、培養器に対して、非接着性の条件下で培養し(即ち、浮遊培養し)、複数の多能性幹細胞を集合させて凝集体を形成させることにより、得ることができる。
(1)比較的小さな体積(例えば、1ml以下、500μl以下、200μl以下、100μl以下)の培養コンパートメント中に、分散した多能性幹細胞を閉じ込め、該コンパートメント中に1個の凝集体を形成する方法。好ましくは分散した多能性幹細胞を閉じ込めた後、培養コンパートメントを静置する。培養コンパートメントとしては、マルチウェルプレート(384ウェル、192ウェル、96ウェル、48ウェル、24ウェル等)、マイクロポア、チャンバースライド等におけるウェルや、チューブ、ハンギングドロップ法における培地の液滴等を挙げることができるが、これらに限定されない。該コンパートメントに閉じ込められた分散した多能性幹細胞が、重力にうながされて1箇所に沈殿し、或いは細胞同士が接着することにより、1つの培養コンパートメントにつき、1つの凝集体が形成される。マルチウェルプレート、マイクロポア、チャンバースライド、チューブ等の底の形状は、分散した多能性幹細胞が1箇所へ沈殿するのが容易となるように、U底又はV底とすることが好ましい。
(2)遠心チューブに分散した多能性幹細胞を入れ、これを遠心し、1箇所に多能性幹細胞を沈殿させることにより、該チューブ中に1個の凝集体を形成する方法。
本発明の製造方法は、多能性幹細胞の凝集体を、BMP4のような骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質の存在下で浮遊培養することを含む。多能性幹細胞の凝集体を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化因子を含む培地中で浮遊培養することにより、多能性幹細胞から前眼部組織若しくはその部分構造、又はその前駆組織への分化が誘導され、前眼部組織若しくはその部分構造、又はその前駆組織を含む細胞凝集塊が製造される。
(1)複数の培養コンパートメントを用意し、1つの培養コンパートメントに1つの多能性幹細胞の凝集体が含まれるように、質的に均一な、多能性幹細胞の凝集体の集団を播く。(例えば、96ウェルプレートの各ウェルに1つずつ、多能性幹細胞の凝集体を入れる。)そして、各培養コンパートメントにおいて、1つの多能性幹細胞の凝集体を骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を含む培地中で浮遊培養する。
(2)1つの培養コンパートメントに複数の多能性幹細胞の凝集体が含まれるように、質的に均一な、多能性幹細胞の凝集体の集団を1つの培養コンパートメントに播く。(例えば、10cmディッシュに、複数の多能性幹細胞の凝集体を入れる。)そして、該コンパートメントにおいて、複数の多能性幹細胞の凝集体を骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を含む培地中で浮遊培養する。
多能性幹細胞の凝集塊を、骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を含む培地中で浮遊培養すると、まず、凝集体の内部に、神経網膜組織が誘導される。神経網膜組織が誘導されたことは、神経網膜組織のマーカー(例、Rx、Chx10)の発現や、神経上皮様構造(多列円柱上皮)の形態を指標に、確認することが出来る。神経網膜組織の誘導に要する期間は、培養条件や、多能性幹細胞の由来する哺乳動物の種類によって変動するので、一概に特定することは出来ないが、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、多能性幹細胞の凝集体の浮遊培養開始から、例えば8、9、10、11、12、13、14又は15日後までには、凝集体の内部に、神経網膜組織が誘導される。
上記(5)で得られた神経網膜組織を内部に含む凝集体を、引き続き骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を含む培地中で浮遊培養すると、神経網膜組織の外側に外胚葉性上皮細胞層が形成され、神経網膜組織が、当該外胚葉性上皮細胞層からの角膜上皮前駆組織及び/又は水晶体プラコードへの分化を誘導することにより、細胞凝集塊の表層に角膜上皮前駆組織及び/又は水晶体プラコードが形成される。当該凝集体においては、角膜上皮前駆組織及び/又は水晶体プラコードが、細胞凝集塊の表層を構成し、神経網膜組織が細胞凝集塊の内部に含まれ、且つ角膜上皮前駆組織及び/又は水晶体プラコードが神経網膜組織と隣接する。角膜上皮前駆組織及び/又は水晶体プラコードが誘導されたことは、角膜上皮前駆組織のマーカー(例、パンサイトケラチン、E−カドヘリン)及び水晶体プラコードのマーカー(例、L-Maf)の発現や、肥厚した上皮細胞層の形態を指標に、確認することが出来る。角膜上皮前駆組織及び/又は水晶体プラコードの誘導に要する期間は、培養条件や、多能性幹細胞の由来する哺乳動物の種類によって変動するので、一概に特定することは出来ないが、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、多能性幹細胞の凝集体の浮遊培養開始から、例えば10、12、14、16、18、20、22、24、26又は28日後までには、細胞凝集塊の表層に角膜上皮前駆組織及び/又は水晶体プラコードが形成される。培養した複数の細胞凝集塊の中から、角膜上皮前駆組織及び/又は水晶体プラコードの形成が確認できた細胞凝集塊を選択することにより、角膜上皮前駆組織及び/又は水晶体プラコード、並びに神経網膜組織を含み、角膜上皮前駆組織及び/又は水晶体プラコードが、細胞凝集塊の表層を構成し、神経網膜組織が細胞凝集塊の内部に含まれ、且つ角膜上皮前駆組織及び/又は水晶体プラコードが神経網膜組織と隣接する、細胞凝集塊を得ることができる。上記のようにして、角膜前駆組織を例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上の効率で含む細胞凝集塊の集団を形成でき、水晶体前駆組織を例えば10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上の効率で含む細胞凝集塊の集団を得ることができる。
上記(6)で得られた、角膜上皮前駆組織及び神経網膜組織を含み、角膜上皮前駆組織が、細胞凝集塊の表層を構成し、神経網膜組織が細胞凝集塊の内部に含まれ、且つ角膜上皮前駆組織が神経網膜組織と隣接する、細胞凝集塊を、更に骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を含む培地中で浮遊培養することにより、角膜上皮前駆組織の角膜上皮への更なる分化が誘導される。その結果、角膜上皮及び神経網膜組織を含み、角膜上皮が、細胞凝集塊の表層を構成し、神経網膜組織が細胞凝集塊の内部に含まれ、且つ角膜上皮が神経網膜組織と隣接する、細胞凝集塊が形成される。角膜上皮が誘導されたことは、角膜上皮のマーカー(例、サイトケラチン3、サイトケラチン12、サイトケラチン14、p63、ZO−1)や角膜上皮幹細胞のマーカー(例、サイトケラチン15)を指標に、確認することが出来る。角膜上皮の誘導に要する期間は、培養条件や、多能性幹細胞の由来する哺乳動物の種類によって変動するので、一概に特定することは出来ないが、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、多能性幹細胞の凝集体の浮遊培養開始から、例えば、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70日後までには、細胞凝集塊の表層に角膜上皮が形成される。培養した複数の細胞凝集塊の中から、角膜上皮の形成が確認できた細胞凝集塊を選択することにより、角膜上皮及び神経網膜組織を含み、角膜上皮が、細胞凝集塊の表層を構成し、神経網膜組織が細胞凝集塊の内部に含まれ、且つ角膜上皮が神経網膜組織と隣接する、細胞凝集塊を得ることができる。
上記(7)で得られた、角膜上皮及び神経網膜組織を含み、角膜上皮が、細胞凝集塊の表層を構成し、神経網膜組織が細胞凝集塊の内部に含まれ、且つ角膜上皮が神経網膜組織と隣接する、細胞凝集塊を、更に骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を含む培地中で浮遊培養することにより、角膜上皮の重層化が誘導される。その結果、重層化した角膜上皮及び神経網膜組織を含み、角膜上皮が、細胞凝集塊の表層を構成し、神経網膜組織が細胞凝集塊の内部に含まれる、細胞凝集塊が形成される。角膜上皮の重層化は、表層が扁平上皮、深層は立方上皮という成熟角膜に特徴的な上皮の重層構造を顕微鏡観察することにより、確認することができる。角膜上皮の重層化に要する期間は、培養条件や、多能性幹細胞の由来する哺乳動物の種類によって変動するので、一概に特定することは出来ないが、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、多能性幹細胞の凝集体の浮遊培養開始から、例えば、75、80、84、90、95日後までには、細胞凝集塊の表層に重層化した角膜上皮が形成される。培養した複数の細胞凝集塊の中から、重層化した角膜上皮の形成が確認できた細胞凝集塊を選択することにより、重層化した角膜上皮及び神経網膜組織を含み、角膜上皮が、細胞凝集塊の表層を構成し、神経網膜組織が細胞凝集塊の内部に含まれる、細胞凝集塊を得ることができる。
上記(6)又は(7)で得られた、角膜上皮又はその前駆組織、及び神経網膜組織を含み、角膜上皮又はその前駆組織が、細胞凝集塊の表層を構成し、神経網膜組織が、細胞凝集塊の内部に含まれ、且つ角膜上皮又はその前駆組織が神経網膜組織と隣接する、細胞凝集塊を、更に骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を含む培地中で浮遊培養することにより、角膜上皮又はその前駆組織と、神経網膜組織との間に間葉組織が形成される。当該間葉組織は、間葉細胞が密に凝集した層の形態を呈する。成体の角膜は、表面から内部へ上皮、実質及び内皮の3つの層を含み、実質及び内皮は、表皮外胚葉からではなく、間葉細胞から発生することが知られている。即ち、本発明によると、このインビボの胚における角膜実質及び角膜内皮の発生を、細胞凝集塊の中に再現することが可能である。更なる培養の結果、得られた細胞凝集塊においては、角膜上皮(好ましくは、重層化した角膜上皮)又はその前駆組織、間葉組織、及び神経網膜組織を含み、且つ細胞凝集塊において、角膜上皮(好ましくは、重層化した角膜上皮)又はその前駆組織、間葉組織、及び神経網膜組織が、細胞凝集塊の表層から内部へ向かって、角膜上皮(好ましくは、重層化した角膜上皮)又はその前駆組織、間葉組織、及び神経網膜組織の順に層状に配置されている。
上記(6)で得られた、水晶体プラコード及び神経網膜組織を含み、水晶体プラコードが、細胞凝集塊の表層を構成し、神経網膜組織が細胞凝集塊の内部に含まれ、且つ水晶体プラコードが神経網膜組織と隣接する、細胞凝集塊を、更に骨形成因子シグナル伝達経路活性化物質(BMP4等)を含む培地中で浮遊培養することにより、水晶体プラコードの陥入が誘導され、水晶体胞が形成される。その結果、水晶体胞及び神経網膜組織を含む、細胞凝集塊が形成される。水晶体胞が形成されたことは、水晶体前駆組織マーカー(例、L−Maf)陽性の小胞という形態学的特徴を指標に、確認することができる。水晶体胞の形成に要する期間は、培養条件や、多能性幹細胞の由来する哺乳動物の種類によって変動するので、一概に特定することは出来ないが、ヒト多能性幹細胞を用いた場合、多能性幹細胞の凝集体の浮遊培養開始から、例えば、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70日後までには、水晶体胞が形成される。培養した複数の細胞凝集塊の中から、水晶体胞の形成が確認できた細胞凝集塊を選択することにより、水晶体胞及び神経網膜組織を含む細胞凝集塊を得ることができる。
更なる局面において、上記により得られた細胞凝集塊から前眼部組織若しくはその部分構造、又はその前駆組織を取り出すことができる。一態様において、前眼部組織若しくはその部分構造、又はその前駆組織を神経網膜組織とともに取り出すことができる。さらに、本発明は上記方法により得られる細胞凝集塊、前眼部組織若しくはその部分構造、又はその前駆組織を提供する。例えば、角膜又はその前駆組織及び神経網膜組織を含み、且つ角膜又はその前駆組織が細胞凝集塊の表層を構成し、神経網膜組織が、細胞凝集塊の内部に含まれ、且つ角膜又はその前駆組織と神経網膜組織とが隣接する、細胞凝集塊から、角膜又はその前駆組織を含む表層を単離することができる。上記(8)により得られた細胞凝集塊においては、角膜又はその前駆組織が凝集体の表層に、徒手的に分離可能な層を形成するため、酵素処理等を要することなく、容易に角膜又はその前駆組織を単離することができる。更に、得られた角膜又はその前駆組織を、酵素等を用いて分散することにより、FACS等を用いなくても高純度に角膜細胞や角膜前駆細胞を分離することが可能となる。このようにして得られた角膜又はその前駆組織をそのまま、又は培養してシート状にして、移植に使用することができる。
(方法)
ヒトES細胞(KhES-1;網膜特異的遺伝子Rxに蛍光タンパク遺伝子Venusをノックインしたもの)をトリプシン処理により単一細胞に分散し、SFEBq法(Nakano et al, Cell StemCell, 10(6): 771-785, 2012)に準じて凝集塊を形成し、分化誘導のための浮遊凝集塊培養を37℃、5% CO2存在下で行った。分散した5000個のヒトES細胞を、低細胞吸着性の表面コートをしたV底型96ウェルプレートの各ウェルに播種し、分化誘導用の培養液は成長因子を含まない化学合成培地(growth-factor-free Chemically Defined Medium; gfCDM; Wataya et al, Proc Natl Acad Sci USA, 105(33): 11796-11801, 2008)に5% KSR (Knockout Serum Replacement)を添加したものを用いた。分化誘導の最初の3日間は分散惹起性細胞死を抑制するためにROCK阻害剤Y-27632を20 μM添加し、次の3日間はその濃度を半減させて作用させた。分化誘導開始後3日目から18日目までBMP4を5 nM添加して作用させ、18日目から21日目までその濃度を半減して作用させた。これらの凝集塊は、免疫組織染色で解析した。
分化誘導開始9日後より、凝集塊の内部にRx::venusの蛍光が強く観察された。分化誘導開始12日後には、BMP4の添加の有無に関わらず、この蛍光は認められたが、BMP4処理により蛍光は約2倍以上強くなった。Rx::venus陽性組織は神経上皮様構造(多列円柱上皮)を示し、神経網膜マーカーであるChx10を発現しており、神経網膜が形成されたことが判った。分化誘導開始14日後には、凝集塊の表層に、神経網膜とは異なるRx::venus陰性の上皮細胞層の形成を認めた(図1A)。分化誘導開始24日後には、この表面の上皮細胞層は、非神経の外胚葉性上皮マーカーであるPan-cytokeratin陽性およびE-cadherin陽性であった(図1B)。このように神経網膜の外側に非神経の外胚葉性上皮組織を自己形成することは、9割以上の凝集塊で再現性良く認められた。この表面の上皮細胞層は、大きくあるいは中程度に肥厚(プラコード形成)し、それぞれ水晶体プラコードおよび角膜上皮前駆組織を形成していることが示唆された。水晶体プラコード様組織は、水晶体前駆組織マーカーのL-Maf陽性であった(図1C)。角膜上皮前駆組織は9割以上の凝集塊で、水晶体プラコードは5割の凝集塊で形成を認めた。
(方法)
分化誘導18日後まで実施例1の培養条件でV底96穴プレートにて培養したのち、浮遊凝集塊を細胞非吸着性のペトリ皿(直径6 cm)に移し、浮遊培養を37℃、5% CO2、40% O2存在下に行った。培養液は、18日目から30日目までは、gfCDM + 5% KSRに1 nM BMP4添加した培地、30日目から以降は下記の2つの培地(角膜上皮や表皮上皮の培養をサポートすることが知られている市販培地をベース)のいずれかを用いて培養し、55日目に免疫組織染色で解析した。
1) CnT-30 培地(CELLnTEC社)に1 nM BMP4添加した培養液
2) Defined K-SFM培地(Gibco/Invitrogen社)に10%FBSと1 nM BMP4添加した培養液
上記の1)および2)のいずれの培養液を用いた培養でも、ヒトES細胞凝集塊の表層に自己組織化した上皮前駆組織は拡大培養でき、分化培養開始55日後には、Pan-cytockeratin陽性に加えて、角膜上皮に特有のサイトケラチン3(CK3)、サイトケラチン12(CK12)、サイトケラチン14(CK14)、p63、ZO-1を発現する上皮構造の形成を8割以上の凝集塊が示した(図2)。この結果から、本発明の方法による自己組織化で立体形成された表層の上皮組織は、角膜の前駆組織であることが明確に立証された。
(方法)
実施例2と同様に30日まで培養を行った。即ち、ヒトES細胞凝集塊を分化誘導18日後まで実施例1の培養条件でV底96穴プレートにて培養したのち、浮遊凝集塊を細胞非吸着性のペトリ皿(直径6 cm)に移し、浮遊培養を37℃、5% CO2、40% O2存在下に行った。培養液は、18日目から30日目までは、gfCDM + 5% KSRに1 nM BMP4添加した培地に培養し、免疫組織染色で解析した。また、その培養した凝集塊の一部は、30日以降も引き続き55日まで浮遊培養を行った。後者の培養には、Defined K-SFM培地(Gibco/Invitrogen社)に10%FBSと1 nM BMP4添加した培養液を用いた。
実施例1および2に記載のように、ヒトES細胞凝集塊は、表層に表皮外胚葉由来の角膜上皮や水晶体組織を、内部に神経網膜組織を有する。30日目のサンプルでは、中程度に肥厚化した角膜上皮の直下(即ち、角膜上皮と神経網膜組織の間)に、間葉細胞が存在し、密に凝集した層を作っていることが7割の凝集塊で確認された。この間葉細胞は、間葉系マーカーであるPDGFR-alpha陽性(30日目;図3A)で、初期角膜の間葉細胞(神経堤細胞由来)で発現するPitx2やABCG2(53日目;図3B)も陽性であった。生体の角膜では、表面の角膜上皮層の下に角膜実質、その下に角膜内皮が存在し、角膜実質と角膜内皮は角膜上皮の下に凝集する神経堤細胞由来の間葉細胞に由来する。この生体内と似た状況を、ヒトES細胞凝集塊の表層およびその直下の層に誘導することが出来たと言える。さらに、間葉細胞の凝集層の最も内部の部分は、一部、上皮化し、内皮様細胞層の形態的な形成を示唆した(図3C、矢印)。このように、本発明の方法による前眼部の自己組織化においては、角膜上皮組織が形成されるのみならず、角膜実質と角膜内皮を含んだ角膜全層の前駆組織をヒト多能性幹細胞から立体形成することが可能であることが示された。
(方法)
実施例3の条件で、分化誘導開始30日目までヒトES細胞凝集塊の浮遊培養を継続した。その際に、15日目から20 ng/ml bFGFを培地に添加した。更に、別の培養条件として、実施例3の条件で30日間培養後、30日目から55日目までgfCDM + 10% KSRあるいはGMEM + 10% KSRで培養を行った。
30日目のサンプルにおいて、bFGFの添加の有無に関わらず、4割の凝集塊内で水晶体胞様の小胞が表層の水晶体プラコードからの陥入により形成されていた。この小胞は、水晶体初期マーカーのL-Maf陽性であったが、bFGFの添加により、その発現レベルは2倍以上に上昇した。また、bFGFの添加例においては、生体内の水晶体発生で前後軸に沿って見られるような形態的な極性(前部で薄く、後部で篤い水晶体組織の形成)が水晶体胞様の小胞に見られ、より生体内に近い水晶体形成が確認された(図4A)。bFGFの非存在下にgfCDM + 10% KSRあるいはGMEM + 10% KSRで55日まで培養したものでも、水晶体胞様の小胞の陥入・形成を再現性よく認めたが、上記の組織極性は明確ではなかった(図4B)。したがって、この極性の形成は単にbFGFが発生を早めたためでなく、水晶体の成熟に向けた発生プログラムを質的に促進していることが示唆された。
(方法)
分化誘導30日後まで上記の実施例と同一の条件で、V底96穴プレートにて、ヒトES細胞凝集塊を培養した。そののち、浮遊凝集塊を細胞非吸着性のペトリ皿(直径6cm)に移し、浮遊培養を37℃、5% CO2、40% O2条件下で行った。培養液としては、30日目までは、gfCDM + 5% KSR、30日目からgfCDM+20%KSRを用いた。BMP4を、3日から18日目までは5nM添加した。24日目にはBMP4濃度を2.5 nMに半減させ、30日目以降は1 nMで継続して添加した。またbasic FGFを15日目から20 ng/mlの濃度で培地に添加して培養を行った。84日目に免疫組織染色で浮遊凝集塊を解析した。
ヒトES細胞凝集塊の表層に自己組織化した角膜上皮を認め、分化培養開始84日後には、角膜上皮に特有のサイトケラチン3(CK3)、サイトケラチン12(CK12)、角膜上皮幹細胞のマーカーであるサイトケラチン15(CK15)が陽性である角膜上皮を認めた(図5A、5B及び5C)。また角膜上皮に発現しているNa-K ATPaseも染色されていた(図5D)。この上皮は、表層が扁平上皮、深層は立方上皮という成熟角膜に特徴的な上皮の重層構造を呈していた(図5B)。この結果から、本発明の方法により自己組織化で形成された立体角膜上皮前駆組織は、さらに成熟すると重層化を自発的に行い、生体に近い角膜上皮本来の組織構築とタンパク発現を有することが示唆された。また、角膜上皮の下方には間葉の凝集層を認めており、角膜の上皮、実質、内皮という角膜全層の前駆組織であることを明確に立証するものである。
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
Claims (6)
- 多能性幹細胞由来の細胞凝集塊であって、内部にRx陽性及びChx10陽性である神経上皮様構造と、間葉細胞の凝集層とを含み、表層に重層構造を有する角膜上皮組織を含み、前記間葉細胞の凝集層は、Rx陽性及びChx10陽性である神経上皮様構造と角膜上皮組織との間に形成されている、細胞凝集塊。
- 前記Rx陽性及びChx10陽性である神経上皮様構造が神経網膜組織を含む、請求項1に記載の細胞凝集塊。
- 角膜上皮組織の重層構造において、表層が扁平上皮であり、深層が立方上皮である、請求項1又は2に記載の細胞凝集塊。
- 角膜上皮組織がNa-K ATPase陽性である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞凝集塊。
- 角膜上皮及び神経網膜組織を含み、角膜上皮が細胞凝集塊の表層を構成し、神経網膜組織が細胞凝集塊の内部に含まれ、かつ角膜上皮が神経網膜組織と隣接する細胞凝集塊を、BMP2、BMP4、BMP7及びGDF5からなる群から選択される1以上の物質を含む培地中で培養することを含む、重層構造を有する角膜上皮組織を含む、細胞凝集塊の製造方法。
- 上記1以上の物質が、BMP4である、請求項5に記載の細胞凝集塊の製造方法。
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