JP6876502B2 - 未分化細胞除去剤 - Google Patents

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Description

本発明は、幹細胞等の未分化細胞を除去するための未分化細胞除去剤に関する。
人体の組織が欠損した場合に、幹細胞等を用いることによりその機能を回復させる再生医療が行われている。再生医療では、たとえば胚性幹細胞(ES細胞:embryonic stem cells)および人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cells)等の多能性幹細胞を利用した方法が知られている。多能性幹細胞は、同じ細胞を増やす自己複製能と、どんな細胞にも分化できる分化万能性とを持つ細胞である。たとえば、患者の細胞から作り出した多能性幹細胞を分化させた細胞は、その患者に対する移植等に用いることができる。多能性幹細胞のなかでも、ES細胞の作成には受精卵を用いるため、倫理上の問題から、現在はiPS細胞を利用した方法が世界的に注目されている。
しかし、多能性幹細胞を分化誘導した場合、分化した細胞群の中に分化せず万能性を残した未分化細胞が残存し、腫瘍化の原因となることが問題になっている。多能性幹細胞を再生医療に利用するためには、この腫瘍化の問題を解決することが不可欠である。
多能性幹細胞を分化誘導した細胞群に残存する未分化細胞を除去する方法として、たとえば目的の細胞に分化しやすい良好なiPS細胞を得る方法や、セルソーターを用いて目的の分化細胞のみを得る方法がある。
また、多能性幹細胞を分化誘導した細胞群から未分化細胞を選択的に除去する方法がいくつか報告されている。たとえば、特許文献1には、未分化のiPS細胞を除去して分化細胞を調製する方法が記載され、未分化のiPS細胞を除去するための有効成分としてケルセチンが記載されている。特許文献2には、移植する細胞源から腫瘍化の原因になる幹細胞を除去する方法およびそのための未分化細胞除去剤が記載され、有効成分として薬剤融合型レクチンが記載されている。
特許文献3には、腫瘍化を抑制しながらiPS細胞を分化誘導する方法が記載され、腫瘍化を抑制するための有効成分としてスタチンが記載されている。特許文献4には、幹細胞における腫瘍化原因細胞の除去方法が記載され、有効成分としてアデノウイルスが記載されている。特許文献5には、iPS細胞から分化誘導した肝細胞と未分化のiPS細胞とを含む細胞群から、肝細胞からなる細胞培養物を分別して得る方法が記載され、細胞群を培養するための培地組成が記載されている。
国際公報第2014/058274号公報 国際公報第2014/126146号公報 国際公報第2013/100080号公報 国際公報第2012/133674号公報 特開2014-128210号公報
上述した従来の方法に限らず、より安全に使用することができる未分化細胞除去剤の開発が求められている。そこで、本発明は、より安全に使用可能な新規の未分化細胞除去剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、アルクチゲニンが、分化細胞であるヒト皮膚繊維芽細胞の生存には影響を及ぼさない一方で、未分化細胞であるiPS細胞を選択的に除去することができることを新たに見出し、本発明を完成させた。
本発明は、アルクチゲニンを有効成分として含有する、未分化細胞除去剤を提供する。
また本発明は、幹細胞を分化誘導した細胞群に残存する未分化の幹細胞を除去するための上記未分化細胞除去剤を提供する。
また本発明は、上記幹細胞がiPS細胞である未分化細胞除去剤を提供する。
また本発明は、グルコース代謝拮抗物質をさらに含有する、上記未分化細胞除去剤を提供する。
また本発明は、上記未分化細胞除去剤のいずれかと、低グルコース培地とを含む、未分化細胞を除去するためのキットを提供する。
また本発明は、アルクチゲニンを未分化細胞に接触させる工程を含む、未分化細胞を除去する方法を提供する。
また本発明は、上記方法において、上記未分化細胞が、幹細胞を分化誘導した細胞群に残存する未分化の幹細胞である方法を提供する。
また本発明は、上記接触させる工程において、アルクチゲニンを低グルコース培地において未分化細胞に接触させる、上記方法を提供する。
また本発明は、上記接触させる工程において、グルコース代謝拮抗物質を未分化細胞に接触させる、上記方法を提供する。
本発明は、植物等に含まれる天然成分であるアルクチゲニンを有効成分として含有するので、より安全に使用可能な未分化細胞除去剤を提供することができる。
アルクチゲニンまたはケルセチン処理による正常ヒト皮膚繊維芽細胞の細胞生存率(%)を示すグラフ。 アルクチゲニンまたはケルセチン処理して48時間後の培地の顕微鏡画像を表す図。 アルクチゲニンまたはケルセチン処理によるiPS細胞の細胞生存率(%)を示すグラフ。 アルクチゲニンまたはケルセチン処理した未分化細胞を染色した写真を表す図。 アルクチゲニン処理による各分化細胞の細胞生存率(%)を示すグラフ。図中、アルクチゲニンを「AG」として記載した。 アルクチゲニン処理による各未分化細胞の細胞生存率(%)を示すグラフ。図中、アルクチゲニンを「AG」として記載した。 アルクチゲニンおよび2-デオキシ-D-グルコースを処理したときの分化細胞の細胞生存率(%)を示すグラフ。図中、アルクチゲニンを「AG」、2-デオキシ-D-グルコースを「2-DG」として記載した。 アルクチゲニンおよび2-デオキシ-D-グルコースを処理したときの未分化細胞の細胞生存率(%)を示すグラフ。図中、アルクチゲニンを「AG」、2-デオキシ-D-グルコースを「2-DG」として記載した。 低グルコース培地においてアルクチゲニンを処理したときの未分化細胞の細胞生存率(%)を示すグラフ。図中、アルクチゲニンを「AG」として記載した。
本発明は、未分化細胞を選択的に除去することができる未分化細胞除去剤を提供する。本発明の未分化細胞除去剤は、アルクチゲニンを有効成分として含有する。
本明細書において「未分化細胞」とは、どんな細胞にも分化できる分化万能性(多能性)を有し、かつ分化していない細胞をいい、たとえば幹細胞である。幹細胞には、胚性幹細胞(ES細胞)および人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の多能性幹細胞が含まれる。また、本明細書において「分化細胞」とは、多能性を有しない分化した細胞、たとえば多能性を有する未分化細胞が任意の体細胞等に分化して多能性を完全にまたは部分的に失った細胞をいう。
本発明の未分化細胞除去剤は、たとえば分化細胞と未分化細胞とが混在する細胞群から未分化細胞のみを除去することができる。本発明の未分化細胞除去剤は、たとえば幹細胞を任意の細胞に分化誘導した細胞群に残存する未分化の幹細胞を除去するために用いることができる。幹細胞は、iPS細胞であってもよい。
本明細書において「未分化細胞の除去」は、未分化細胞の完全な除去だけでなく、未分化細胞の数または割合の減少をも意味する。また、「未分化細胞の除去」には、in vitroまたはin vivoでの未分化細胞の除去または減少が含まれる。
アルクチゲニンは、ゴボウ等の植物に含まれるジフェニルプロパノイド(リグナン類)の1つである。アルクチゲニンとして、化学的に合成したアルクチゲニンを用いてもよいし、植物から単離したアルクチゲニンを用いてもよい。また、アルクチゲニンとして、アルクチゲニンを含む植物から抽出したエキスを用いてもよい。アルクチゲニンを含む植物には、たとえばゴボウ(スプラウト・葉・根茎・ゴボウシ)、アイノコレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、チョウセンレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、レンギョウ(花・葉・果実・根茎)、シナレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、ベニバナ、ヤグルマギク、アメリカオニアザミ、サントリソウ(ギバナアザミ)、カルドン、ゴロツキアザミ、アニウロコアザミ、ゴマ、モミジヒルガオ、シンチクヒメハギ、チョウセンテイカカズラ、テイカカズラ、ムニンテイカカズラ、ヒメテイカカズラ、トウキョウチクトウ、ケテイカカズラ、リョウカオウ、オオケタデ、ヤマザクラ、シロイヌナズナ、アマランス、クルミ、エンバク、スペルタコムギ、軟質コムギ、メキシコイトスギおよびカヤが含まれる。なかでも、ゴボウ(特にゴボウシおよびゴボウスプラウト)およびレンギョウ(特に葉)は、アルクチゲニンの含有量が高いため好ましい。植物そのものを用いる場合、生または乾燥して刻んだもの、或いは乾燥して粉末としたものを用いることができる。
アルクチゲニンとして植物から抽出したエキスを用いる場合、エキスは、たとえば以下の方法によって植物から調製してもよい。本発明において使用されるエキスは、たとえばアルクチゲニンを含む植物から、酵素変換工程および有機溶媒による抽出工程の2段階により抽出してもよい。
酵素変換工程は、植物に内在する酵素であるβ-グルコシダーゼにより、該植物に含まれているアルクチゲニンの前駆体であるアルクチインをアルクチゲニンに酵素変換する工程である。具体的には、植物を乾燥し切栽したものを適切な温度に保持することにより内在のβ-グルコシダーゼを作用させて、アルクチインからアルクチゲニンへの反応を進行させる。たとえば、切裁した植物に水などの任意の溶液を加えて、30℃付近の温度(20〜50℃)の間にて攪拌することなどにより、植物を任意の温度に保持することができる。
有機溶媒による抽出工程は、任意の適切な有機溶媒を使用して、植物からアルクチゲニンを抽出する工程である。すなわち、上記の酵素変換工程によりアルクチゲニンが高含量となった状態で、適切な溶媒を添加して、植物からエキスを抽出する工程である。たとえば、植物に適切な溶媒を添加して、適切な時間加熱攪拌してエキスを抽出する。また、加熱攪拌以外にも、加熱還流、ドリップ式抽出、浸漬式抽出または加圧式抽出法などの当業者に公知の任意の抽出法を使用して、エキスを抽出することができる。
アルクチゲニンは水難溶性であることから、有機溶媒を添加することにより、アルクチゲニンの収率を向上させることができる。有機溶媒は、任意の有機溶媒を使用することができる。たとえば、メタノール、エタノールおよびプロパノールなどのアルコール、並びにアセトンを使用することができる。安全性の面を考慮すると、本発明に用いるエキスの製造方法では、有機溶媒として30%量のエタノールを使用することが好ましい。エキスから溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物を得ることができる。
本発明の未分化細胞除去剤の形状は、たとえば固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状およびペースト状などであってもよい。
本発明の未分化細胞除去剤は、グルコース代謝拮抗物質をさらに含有してもよい。グルコース代謝拮抗物質は、グルコースの代謝を阻害することが可能な物質であればよい。グルコース代謝拮抗物質をさらに含有することにより、アルクチゲニンの未分化細胞除去効果を高め、かつ処理速度を促進することができる。したがって、未分化細胞をより早く、より多く、好ましくは完全に除去することが可能になる。
グルコース代謝拮抗物質として、たとえば2-デオキシ-D-グルコース、5-チオ-D-グルコース、3-O-メチルグルコース、1,5-アンヒドロ-D-グルシトール、2,5-アンヒドロ-D-グルシトール、2,5-アンヒドロ-D-マンニトールおよびマンノヘプツロースなどを用いることができる。本発明の未分化細胞除去剤は、グルコース代謝拮抗物質を1種類のみ含有してもよいし、2種類以上を含有してもよい。
本発明の未分化細胞除去剤は、アルクチゲニンおよびグルコース代謝拮抗物質以外の任意の成分をさらに含有してもよい。たとえば、本発明の未分化細胞除去剤は、その用途に応じて、薬学的に許容される基剤、担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤および可溶化剤などをさらに含んでもよい。
また、本発明の未分化細胞除去剤は、アルクチゲニン以外の任意の未分化細胞除去作用を有する成分を含んでもよい。また、本発明の未分化細胞除去剤は、他の任意の未分化細胞除去作用を有する薬剤あるいは未分化細胞除去方法と併用してもよい。これにより、未分化細胞をより早く、より多く、好ましくは完全に除去することが可能になる。たとえば、未分化細胞除去作用を有する薬剤の例として、ケルセチン、YM155、薬剤融合型レクチン、2-デオキシグルコース、メトホルミン、パーバラノールA、フラボピリジオール、ALA、N-オレオイルセリノール、パクリタキセル、塩化ベンゼトニウム、塩化メチルベンゼトニウムおよびPluriSIns#1などが挙げられる。また、未分化細胞除去方法の例として、培地中のグルコース濃度を減らし、乳酸またはグルタミン酸を添加する方法および培養時の温度を42℃にする方法などが挙げられる。
本発明の未分化細胞除去剤において、アルクチゲニンは、抗体に結合されていてもよい。たとえば、アルクチゲニンは、iPS細胞を特異的に認識する抗体に結合されてもよい。アルクチゲニンがiPS細胞を特異的に認識する抗体に結合されることにより、未分化細胞を、より低濃度のアルクチゲニンによって、より早く、より多く、好ましくは完全に除去することが可能になる。
本発明の未分化細胞除去剤は、幹細胞を任意の細胞に分化させる際に残存した未分化細胞を除去することができるため、未分化細胞による腫瘍化を抑制することができる。したがって、本発明の未分化細胞除去剤を用いれば、再生医療において、腫瘍化が抑制された移植材料を得ることが可能になる。
本発明の未分化細胞除去剤は、たとえば、培地に添加するための試薬として提供することができる。本発明の未分化細胞除去剤は、たとえば幹細胞を分化誘導して得た分化細胞を培養するための培地あるいは幹細胞を分化誘導するための培地に添加することにより、分化せずに残存した未分化細胞を除去することができる。
また、本発明の未分化細胞除去剤は、たとえば再生医療のための移植材料に添加し、移植後の未分化細胞による腫瘍化を抑制するために用いてもよい。本発明の未分化細胞除去剤における有効成分であるアルクチゲニンは、植物等に含まれる天然の化合物であり、毒性がきわめて低い。アルクチゲニンは、後述する実施例において示すように、分化した細胞に対してほとんど毒性を示さない。したがって、本発明の未分化細胞除去剤は、再生医療のための移植材料にも安全に用いることができる。
本発明はまた、上述した未分化細胞除去剤と、低グルコース培地とを含む、未分化細胞を除去するためのキットを提供する。低グルコース培地は、グルコース濃度が通常より低い培地であればよく、たとえばグルコース濃度が1mg/ml未満、好ましくは0.5mg/ml以下、より好ましくは0.3mg/ml以下、さらに好ましくは0.1mg/ml以下の培地であってもよい。また、低グルコース培地は、グルコース濃度が0mg/mlでもよく、すなわちグルコースを含有していなくてもよい。本発明のキットは、たとえば低グルコース培地において未分化細胞に未分化細胞除去剤を処理し、培養することにより、未分化細胞を除去することができる。本発明のキットは、低グルコース培地を用いることにより、より早く、より多く、好ましくは完全に未分化細胞を除去することができる。
本発明はまた、アルクチゲニンを未分化細胞に接触させる工程を含む、未分化細胞を除去する方法を提供する。未分化細胞は、幹細胞を分化誘導した細胞群に残存する未分化の幹細胞であってもよい。また、未分化細胞は、iPS細胞であってもよい。
本発明の方法において、アルクチゲニンを未分化細胞に接触させる工程は、アルクチゲニンをin vitroまたはin vivoにて未分化細胞に接触させることを含む。たとえばアルクチゲニンは、幹細胞を分化誘導して得た細胞群に添加することにより、該細胞群に残存する未分化の幹細胞に接触させることができる。アルクチゲニンは、分化細胞に直接添加してもよいし、分化細胞を培養するための培地あるいは幹細胞を分化誘導する際の培地に添加してもよい。また、アルクチゲニンは、たとえば再生医療のための移植材料に添加することにより、移植材料に含まれる未分化細胞に接触させることができる。
アルクチゲニンを未分化細胞に接触させるときのアルクチゲニンの濃度は、未分化細胞を除去することができる濃度であればよく、細胞の種類や培地組成によって適宜最適化して使用することができる。アルクチゲニンの濃度は、好ましくは0.01μM以上、より好ましくは0.1μM以上、さらに好ましくは1μM以上、もっとも好ましくは3μM以上である。アルクチゲニンの濃度が、0.01μM以上であれば未分化細胞を効率よく除去できるという観点で好適である。また、アルクチゲニンの濃度の上限は、特に限定されないが、たとえば100μMとすることができる。
アルクチゲニンを未分化細胞に接触させる工程において、アルクチゲニンを低グルコース培地において未分化細胞に接触させてもよい。低グルコース培地は、グルコース濃度が通常より低い培地であればよく、たとえばグルコース濃度が1mg/ml未満、好ましくは0.5mg/ml以下、より好ましくは0.3mg/ml以下、さらに好ましくは0.1mg/ml以下の培地であってもよい。本工程では、たとえば、低グルコース培地において培養した未分化細胞にアルクチゲニンを添加し、さらに培養してもよい。また、低グルコース培地に、未分化細胞を接種するとともにアルクチゲニンを添加し、培養してもよい。また、アルクチゲニンを含有する低グルコース培地に、未分化細胞を接種して培養してもよい。低グルコース培地においてアルクチゲニンを未分化細胞に接触させることにより、より早く、より多く、好ましくは完全に未分化細胞を除去することができる。
アルクチゲニンを未分化細胞に接触させる工程において、グルコース代謝拮抗物質を未分化細胞に接触させてもよい。グルコース代謝拮抗物質には、未分化細胞除去剤についての説明において上述した物質を用いることができる。グルコース代謝拮抗物質は、アルクチゲニンと同時に未分化細胞に添加してもよいし、アルクチゲニンと接触させる前または後のいずれかに添加してもよい。グルコース代謝拮抗物質をさらに接触させることにより、アルクチゲニンの未分化細胞除去効果を高め、かつ処理速度を促進することができる。したがって、未分化細胞をより早く、より多く、好ましくは完全に除去することが可能になる。
グルコース代謝拮抗物質を未分化細胞に接触させるときのグルコース代謝拮抗物質の濃度は、グルコースの代謝を阻害し、かつ分化細胞の生育を阻害しない濃度であればよい。グルコース代謝拮抗物質の濃度は、たとえば1mM以上、好ましくは3mM以上であることができる。また、グルコース代謝拮抗物質の濃度の上限は、特に限定されず、たとえば1M以下であることができる。
本発明の方法では、アルクチゲニンとして、上述した未分化細胞除去剤を用いることができる。
本発明によれば、未分化細胞の混入が全くないかあるいは少ない分化誘導細胞を得ることができる。したがって、本発明により、腫瘍化が抑制された再生医療のための移植材料を安全かつ容易に得ることができる。
〔試験1:アルクチゲニンの分化細胞への影響〕
アルクチゲニンの分化細胞(ヒト皮膚繊維芽細胞)への影響を調べるため、ヒト皮膚繊維芽細胞をアルクチゲニンまたはケルセチンで処理したときの細胞生存率を調べた。ケルセチンは、上述した特許文献1において、未分化細胞除去効果を有することが報告されている。
無菌下(クリーンベンチ内)で、正常ヒト皮膚繊維芽細胞(KF-4009、クラボウ)を、0.7×104 cells/ml(生細胞数)の密度で6wellプレートに接種し、37℃、24時間培養した。培地には、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(Sigma、D6046)に10%Fatal Bovine Serum (biowest、S1820)、1%Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific Inc.、15240-062)を添加したものを用いた。
次いで、アルクチゲニンまたはケルセチンを0、1、5、25μMで処理し、48時間培養した。アルクチゲニンおよびケルセチンは、それぞれジメチルスルホキシドに溶解し、全てのサンプルにおいてジメチルスルホキシド濃度0.1%になるように処理した。対照サンプルとして、溶媒のみを処理したものを用いた。
ヒト皮膚繊維芽細胞に対するアルクチゲニンの細胞毒性を評価した。Cell Counting Kit-8(DOJINDO、343-07623)にて細胞数を測定し、対照サンプルの結果を100とした場合の相対値を細胞生存率(%)として算出した(n=3)。図1に、アルクチゲニンまたはケルセチン処理によるヒト皮膚繊維芽細胞の細胞生存率(%)を示す。ケルセチン処理では5μMおよび25μM処理したときに細胞生存率が減少したのに対し、アルクチゲニン処理では細胞生存率がほとんど減少しなかった。
また、アルクチゲニンまたはケルセチン処理して48時間後の培地の顕微鏡画像を図2に示す。図2に示す顕微鏡画像でも、アルクチゲニンがヒト皮膚繊維芽細胞の生存にはほとんど影響を与えないことが示された。
以上の結果から、アルクチゲニンは、分化細胞(皮膚繊維芽細胞)の生存に対しほとんど影響を及ぼさないことが分かった。
〔試験2:アルクチゲニンの未分化細胞への影響〕
次に、アルクチゲニンの未分化細胞への影響を調べるため、iPS細胞をアルクチゲニンまたはケルセチンで処理したときの細胞生存率を調べた。
細胞培養マトリックス(Geltrex(商標)LDEV-Free, hESC-Qualified, Reduced Growth Factor Basement Membrane Matrix(Thermo Fisher Scientific Inc.、A1413302))であらかじめコートしたウェル(well)にて、iPS細胞を培養した。
無菌下(クリーンベンチ内)でiPS細胞を6wellプレートに播種し、24時間後、培地を交換した。iPS細胞は、50%コンフルエントになるまで培養した。培地には、Essential 8(商標)培地(Thermo Fisher Scientific Inc.、A1517001)を用いた。
アルクチゲニンまたはケルセチン(0、1、5μM)を処理し、72時間培養した。培地中の栄養素が24時間で枯渇するため、24時間毎に培地交換とアルクチゲニンまたはケルセチン処理をおこなった。アルクチゲニンおよびケルセチンは、それぞれジメチルスルホキシドに溶解し、全てのサンプルにおいてジメチルスルホキシド濃度0.1%になるように処理した。対照サンプルとして、溶媒のみを処理したものを用いた。
iPS細胞に対するアルクチゲニンの細胞毒性を評価した。72時間培養後、Cell Counting Kit-8(DOJINDO、343-07623)にて細胞数を測定し、対照サンプルの結果を100とした場合の相対値を細胞生存率(%)として算出した(n=3)。図3に、アルクチゲニンまたはケルセチン処理によるiPS細胞の細胞生存率(%)を示す。ケルセチン処理では1μMおよび5μM処理したときに細胞生存率がほとんど減少しなかったのに対し、アルクチゲニン処理では、濃度依存的に細胞生存率が減少した。
また、ウェル中の分化細胞と未分化細胞とを見分けるために、Blue Alkaline phosphatase substrate kit(Vector、SK-5300)を用いて未分化細胞を染色した。その結果、アルクチゲニン処理によって未分化細胞が減少したことが示された(図4)。
〔試験3:アルクチゲニンの分化細胞への影響〕
アルクチゲニンの分化細胞への影響を調べるため、細胞をアルクチゲニンで処理したときの細胞生存率を調べた。分化細胞には、ヒト皮膚繊維芽細胞(KF-4009、クラボウ)、ヒト心筋細胞(C-12810、タカラバイオ)およびヒトiPS由来心筋細胞(Y50015、タカラバイオ)を用いた。無菌下(クリーンベンチ内)で、細胞を、2×104 cells/well(生細胞数)の密度で96wellプレートに接種し、37℃で24時間培養した。ヒトiPS由来心筋細胞は、細胞培養マトリックス(Fibronectin from human plasma、F0895、SIGMA)にて、あらかじめコートしたウェル(well)にて培養した。
培地には、各細胞に適した培地を用いた。ヒト皮膚繊維芽細胞には、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(Sigma、D6046)に10%Fatal Bovine Serum (biowest、S1820)および1%Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific Inc.、15240-062)を添加したものを用いた。ヒト心筋細胞には、筋細胞増殖培地キット(C-22170、タカラバイオ)を用いた。ヒトiPS由来心筋細胞には、MiraCell(商標)CM Culture Medium(Y50013、タカラバイオ)を用いた。
次いで、アルクチゲニンを0、0.1、0.5、1、3、5、8、10、25、50、100μMで処理し、72時間培養した。培地中の栄養が枯渇するのを防ぐため、処理は24時間毎に行った。アルクチゲニンは、ジメチルスルホキシドに溶解し、全てのサンプルにおいてジメチルスルホキシド濃度0.1%になるように処理した。対照サンプルとして、溶媒のみを処理したものを用いた。
それぞれの分化細胞に対するアルクチゲニンの細胞毒性を評価した。Cell Counting Kit-8(DOJINDO、343-07623)にて細胞数を測定し、対照サンプルの結果を100とした場合の相対値を細胞生存率(%)として算出した(n=6)。図5に、アルクチゲニン処理による各分化細胞の細胞生存率(%)を示す。アルクチゲニン処理によって、各分化細胞の細胞生存率はほとんど減少しなかった。以上の結果から、アルクチゲニンは、分化細胞の生存に対しほとんど影響を及ぼさないことが分かった。
〔試験4:アルクチゲニンの未分化細胞への影響〕
次に、アルクチゲニンの未分化細胞への影響を調べるため、未分化細胞(iPS細胞)をアルクチゲニンで処理したときの細胞生存率を調べた。未分化細胞には、異なる方法で作成された3種類のiPS細胞、すなわちRPChiPS771-2(リプロセル)、201B7(CiRA)および253G1(CiRA)を用いた。無菌下(クリーンベンチ内)で、各細胞を、2×104 cells/well(生細胞数)の密度で96wellプレートに接種し、37℃で24時間培養した。iPS細胞は、細胞培養マトリックス(アイマトリックス-551溶液、892011、ニッピ)であらかじめコートしたウェル(well)にて培養した。培地には、StemFit AK02N(RCAK02N、リプロセル)を用いた。
次いで、アルクチゲニンを0、0.1、0.5、1、3、5、8、10、25、50、100μMで処理し、72時間培養した。培地中の栄養が枯渇するのを防ぐため、処理は24時間毎に行った。アルクチゲニンは、ジメチルスルホキシドに溶解し、全てのサンプルにおいてジメチルスルホキシド濃度0.1%になるように処理した。対照サンプルとして、溶媒のみを処理したものを用いた。
未分化細胞に対するアルクチゲニンの細胞毒性を評価した。Cell Counting Kit-8(DOJINDO、343-07623)にて細胞数を測定し、対照サンプルの結果を100とした場合の相対値を細胞生存率(%)として算出した(n=6)。図6に、アルクチゲニン処理による各未分化細胞の細胞生存率(%)を示す。RPChiPS771-2、201B7および253G1の各iPS細胞において、アルクチゲニンの濃度依存的に細胞生存率の減少が見られた。以上の結果から、アルクチゲニンは、分化細胞の生存に対してはほとんど影響を及ぼさない一方で、未分化細胞の生存を濃度依存的に減少させることが示された。また、その効果は、未分化細胞の種類に関わらないことが示された。
〔試験5:アルクチゲニンと2-DGの併用による分化細胞への影響〕
アルクチゲニンと2-デオキシ-D-グルコース(以下、「2-DG」と表記する。)を併用したときの分化細胞への影響を調べるため、細胞をアルクチゲニンおよび2-DGの両方で処理したときの細胞生存率を調べた。分化細胞には、ヒトiPS由来心筋細胞(Y50015、タカラバイオ)を用いた。無菌下(クリーンベンチ内)で、細胞を、2×104 cells/well(生細胞数)の密度で96wellプレートに接種し、37℃で24時間培養した。ヒトiPS由来心筋細胞は、細胞培養マトリックス(Fibronectin from human plasma、F0895、SIGMA)にて、あらかじめコートしたウェル(well)にて培養した。培地には、MiraCell(商標)CM Culture Medium(Y50013、タカラバイオ)を用いた。
2-DGとして、2-Deoxy-D-glucose(D0051、東京化成工業)を用いた。ここで、2-DGは、2-ヒドロキシル基が水素原子に置換されたグルコース分子であり、解糖系による代謝を受けない。培地中に2-DGを添加することにより、細胞のグルコースの取り込みを拮抗的に阻害することができ、グルコース除去培地と同様の効果が期待できる。
次いで、アルクチゲニンを10μM、2-DGを1mMまたは3mMで処理し、24時間培養した。アルクチゲニンは、ジメチルスルホキシドに溶解し、全てのサンプルにおいてジメチルスルホキシド濃度0.1%になるように処理した。対照サンプルとして、溶媒のみを処理したものを用いた。
分化細胞に対するアルクチゲニンおよび2-DGの細胞毒性を評価した。Cell Counting Kit-8(DOJINDO、343-07623)にて細胞数を測定し、対照サンプルの結果を100とした場合の相対値を細胞生存率(%)として算出した(n=3)。図7に、アルクチゲニンおよび2-DGを処理したときの分化細胞の細胞生存率(%)を示す。アルクチゲニンおよび2-DGを併用して処理した場合でも、分化細胞の細胞生存率はほとんど減少しなかった。
〔試験6:アルクチゲニンと2-DGの併用による未分化細胞への影響〕
アルクチゲニンと2-DGを併用したときの未分化細胞への影響を調べるため、未分化細胞(iPS細胞)をアルクチゲニンおよび2-DGの両方で処理したときの細胞生存率を調べた。未分化細胞には、201B7(CiRA)を用いた。無菌下(クリーンベンチ内)で、細胞を、2×104 cells/well(生細胞数)の密度で96wellプレートに接種し、37℃で24時間培養した。未分化細胞(iPS細胞)である201B7細胞は、細胞培養マトリックス(アイマトリックス-551溶液、892011、ニッピ)であらかじめコートしたウェル(well)にて培養した。培地には、StemFit AK02N(RCAK02N、リプロセル)を用いた。2-DGとして、2-Deoxy-D-glucose(D0051、東京化成工業)を用いた。
次いで、アルクチゲニンを10μM、2-DGを1mMまたは3mMで処理し、24時間培養した。アルクチゲニンは、ジメチルスルホキシドに溶解し、全てのサンプルにおいてジメチルスルホキシド濃度0.1%になるように処理した。対照サンプルとして、溶媒のみを処理したものを用いた。
未分化細胞に対するアルクチゲニンおよび2-DGの細胞毒性を評価した。Cell Counting Kit-8(DOJINDO、343-07623)にて細胞数を測定し、対照サンプルの結果を100とした場合の相対値を細胞生存率(%)として算出した(n=3)。図8に、アルクチゲニンおよび2-DGを処理したときの未分化細胞の細胞生存率(%)を示す。本実施例では、アルクチゲニンの処理時間が試験4と比較して短いため(試験4では72時間であるのに対し、本実施例では24時間)、アルクチゲニンのみを処理した場合には、未分化細胞の細胞生存率の減少はほとんど見られなかった。一方、アルクチゲニンと2-DGとを併用して処理した場合には、24時間の処理時間において、細胞生存率の減少が見られた。
以上の結果から、アルクチゲニンと2-DGとを併用することにより、分化細胞の生存率には影響を及ぼさない一方で、未分化細胞の生存率の減少を促進できることが示された。したがって、アルクチゲニンと2-DGとを併用して用いることにより、処理時間を短縮することができ、未分化細胞をより効率的に除去できることが示された。
〔試験7:アルクチゲニンと培地中のグルコース濃度による未分化細胞への影響〕
アルクチゲニンとグルコース阻害による未分化細胞への影響を調べるため、未分化細胞(iPS細胞)をグルコース濃度の低い培地(低グルコース培地)においてアルクチゲニンで処理したときの細胞生存率を調べた。未分化細胞には、201B7(CiRA)を用いた。無菌下(クリーンベンチ内)で、細胞を、2×104 cells/well(生細胞数)の密度で96wellプレートに接種し、37℃で24時間培養した。未分化細胞(iPS細胞)である201B7細胞は、細胞培養マトリックス(アイマトリックス-551溶液、892011、ニッピ)であらかじめコートしたウェル(well)にて培養した。培地には、DMEM/Ham's F-12(No Glucose) with L-Glu and Sodium Pyruvate(09893-05、ナカライ)を用いた。グルコースとして、(D-(+)Glucose solution 100 ml 45% in H2O(G8769-100ML、SIGMA)を用いた。
次いで、培地中のグルコース濃度を0.05、0.1、1mg/mlに調整した。アルクチゲニンを0、0.1、0.3、0.5、0.8、1μMで処理し、24時間培養した。アルクチゲニンは、ジメチルスルホキシドに溶解し、全てのサンプルにおいてジメチルスルホキシド濃度0.1%になるように処理した。対照サンプルとして、グルコース濃度1mg/mlの培地に溶媒を処理したものを用いた。
未分化細胞に対するアルクチゲニンおよび培地中のグルコース濃度による細胞毒性を評価した。Cell Counting Kit-8(DOJINDO、343-07623)にて細胞数を測定し、対照サンプルの結果を100とした場合の相対値を細胞生存率(%)として算出した(n=3)。図9に、低グルコース培地においてアルクチゲニンを処理したときの未分化細胞の細胞生存率(%)を示す。培地中のグルコース濃度が1mg/mlの場合には、24時間の処理時間では、未分化細胞の細胞生存率の減少は見られなかった。一方、培地中のグルコース濃度を0.1mg/ml以下に調整することにより、24時間の処理時間において、未分化細胞の細胞生存率の減少が見られた。
以上の結果から、低グルコース培地においてアルクチゲニンを処理することにより、未分化細胞の生存率の減少を促進できることが示された。したがって、低グルコース培地においてアルクチゲニンを処理することにより、処理時間を短縮することができ、未分化細胞をより効率的に除去できることが示された。
本発明の未分化細胞除去剤は、より安全に使用可能であるため、再生医療および研究開発などにおいて好適に利用することができる。

Claims (8)

  1. アルクチゲニンを有効成分として含有する、iPS細胞除去剤。
  2. iPS細胞を分化誘導した細胞群に残存する未分化のiPS細胞を除去するための、請求項1に記載のiPS細胞除去剤。
  3. グルコース代謝拮抗物質をさらに含有する、請求項1または2に記載のiPS細胞除去剤。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のiPS細胞除去剤と、低グルコース培地とを含む、iPS細胞を除去するためのキット。
  5. in vitroにおいてアルクチゲニンをiPS細胞に接触させる工程を含む、iPS細胞を除去する方法。
  6. 前記iPS細胞が、iPS細胞を分化誘導した細胞群に残存する未分化のiPS細胞である、請求項5に記載の方法。
  7. 前記接触させる工程において、前記アルクチゲニンを低グルコース培地において前記iPS細胞に接触させる、請求項5または6に記載の方法。
  8. 前記接触させる工程において、グルコース代謝拮抗物質を前記iPS細胞に接触させる、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
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