JP7281920B2 - 油脂及び油性菓子の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、油脂及び油性菓子の製造方法、具体的には、油脂のテンパリング方法、シーディング剤の製造方法、チョコレートのテンパリング方法及びチョコレートの製造方法に関する。
特許文献1には、ココアバター含有塊のテンパリングについて開示されている。この技術では、スクレーパー及びインペラーが設けられた撹拌機を用いてココアバター含有塊として具体的にはチョコレート生地を撹拌することによって、テンパリングを行っている。
特開2011-97937号公報
特許文献1をはじめとする従来技術には、効率的なテンパリングを実現する観点でさらなる改善の余地が見出された。
そこで、本発明の課題は、効率的なテンパリングを実現できる油脂のテンパリング方法、シーディング剤の製造方法、チョコレートのテンパリング方法及びチョコレートの製造方法を提供することである。
本発明によれば、以下の油脂のテンパリング方法等を提供できる。
1.溶融させた油脂を粉砕機で処理してテンパリングする工程を含む、油脂のテンパリング方法。
2.前記粉砕機が、メディアミル、ディスクミル、ピンミル、ハンマーミル、及びリング媒介型粉砕機からなる群より選択される、前記1に記載の油脂のテンパリング方法。
3.前記粉砕機が、メディアミルである、前記2に記載の油脂のテンパリング方法。
4.前記油脂が、ココアバター、ココアバター置換品、ココアバター代替品、ココアバター等価物及びココアバター改良剤からなる群より選択される一種以上である、前記1~3のいずれかに記載の油脂のテンパリング方法。
5.前記油脂の粘度が1Pa・s以上になるように、前記油脂を前記粉砕機で処理する、前記1~4のいずれかに記載の油脂のテンパリング方法。
6.前記粉砕機に供給する、前記油脂の単位重量あたりの電力量を0.001kW・hr/kg~0.020kW・hr/kgの範囲に調整する、前記1~5のいずれかに記載の油脂のテンパリング方法。
7.前記1~6のいずれかに記載の油脂のテンパリング方法によって前記油脂をテンパリングして、テンパリングされた前記油脂を含むシーディング剤を製造する、シーディング剤の製造方法。
8.前記7に記載のシーディング剤の製造方法によって前記シーディング剤を製造し、製造された前記シーディング剤をチョコレート生地に添加してテンパリングする、チョコレートのテンパリング方法。
9.テンパリングされた前記チョコレート生地のテンパーインデックスが3.0以上になるように、前記油脂を粉砕機で処理してテンパリングする工程において、前記油脂を前記粉砕機で処理する、前記8に記載のチョコレートのテンパリング方法。
10.前記8又は9に記載のチョコレートのテンパリング方法によって前記チョコレート生地をテンパリングして、テンパリングされた前記チョコレート生地を含むチョコレートを製造する、チョコレートの製造方法。
本発明によれば、効率的なテンパリングを実現できる油脂のテンパリング方法、シーディング剤の製造方法、チョコレートのテンパリング方法及びチョコレートの製造方法を提供することができる。
図1は本発明の一実施形態に係るチョコレートの製造方法を説明するブロック図である。 図2はブルーム試験におけるチョコレートの外観写真である。
以下、本発明を実施するための形態について詳しく説明する。
1.油脂のテンパリング方法
本発明の一実施形態に係る油脂のテンパリング方法は、溶融させた油脂を粉砕機で処理してテンパリングする工程を含むことを特徴とする。以下に、本発明の意義について説明する。
チョコレートではブルームやグレイニングといわれる外観が損なわれる現象が発生することがある。これを抑制するために、成型を行う前の溶融状態のチョコレート生地に対してテンパリングという処理が施される。テンパリングは、従来は温度調整によって行われていた。テンパリングにより、チョコレート生地中のココアバターの結晶型は安定なβ型に揃えることができる。
チョコレート生地をテンパリングする装置として、ATM(Automatic Tempering Machine)が知られている。ATMは、温度調整によってチョコレート生地中に安定した結晶核を生成する。しかし、ATMでは効率よくテンパリングできるチョコレート生地の粘性が限定されてしまい、また、内部構造が複雑なため、処理するチョコレート生地の品種を切り替える際に清掃が困難である。
一方、チョコレート生地に市販のシーディング剤を添加して、テンパリングを行うことができる。シーディング剤は、チョコレート生地中で安定結晶を生成させるための核として機能する。そのため、シーディング剤をチョコレート生地に添加することにより、チョコレート生地中の油脂の結晶型を揃えることができる。しかし、シーディング剤を購入する必要があり、また、添加時の温度調整も必要になるため、コストや手間を要する。
本発明者らは、チョコレート原料の一つである油脂をテンパリングし、これをシーディング剤として用いる方法について検討した。しかし、油脂のテンパリングに、例えばビューラー社製「シードマスター」等のような撹拌機を用いる場合は、効率的なテンパリングが困難であることがわかった。具体的には、例えば、撹拌によるテンパリングを達成するために膨大な回転動力が必要とされ、また、撹拌中に油脂を15℃程度に冷却するための冷却水を要する等、高いエネルギーが必要とされる。
これに対して、本発明の一実施形態に係る油脂のテンパリング方法によれば、溶融させた油脂を粉砕機で処理してテンパリングする工程を含むことにより、効率的なテンパリングを実現できる。ここで、「効率的なテンパリング」とは、例えば、処理時間の短縮、処理に要するエネルギーの削減等であり得る。以下に、本発明の一実施形態に係る油脂のテンパリング方法について、さらに詳しく説明する。
本実施形態に用いられる油脂は、ココアバター、ココアバター置換品、ココアバター代替品、ココアバター等価物及びココアバター改良剤からなる群より選択される一種以上であることが好ましい。
ココアバターは、カカオマスを常法に従って加工することによって得られる。カカオマスは、カカオ豆を破砕し豆の殻及び胚を除去して得られる胚乳部(カカオニブ)を磨砕して得られる。
ココアバター置換品(CBR)は、ココアバターと類似の脂肪酸組成で、類似のトリグリセリド成分を持ち、ほぼ同様の物性を示す油脂を意味する。ココアバターと類似の脂肪酸組成を具体的にいうと、C16及びC18脂肪酸が主成分で、主に対称2-オレオ-ジ飽和トリアシルグリセロールからなる、といえる。
ココアバター代替品(CBS)は、構成脂肪酸がラウリンを主成分とするため、ココアバターとは脂肪酸組成もトリグリセリド成分も大きく異なるが、ココアバターと部分的に似た物性をもつ(特に融点)ものである。
ココアバター等価物(CBE)は、C16及びC18脂肪酸の対称2-オレオ-ジ飽和トリアシルグリセロールからなる植物性脂肪を意味する。これらの植物性脂肪は、チョコレートにおいて通常使用される比率においてココアバターと親和性を有する。
ココアバター改良剤(CBI)は、チョコレート又はココアバターの特性を改善できる油脂であり、通常は高融点のCBEをいう。
ココアバター、ココアバター置換品、ココアバター代替品、ココアバター等価物及びココアバター改良剤は、商業的に入手可能なものを使用できる。
(油脂のテンパリング)
本明細書において、油脂のテンパリングとは、油脂中に種結晶を生成することを意味し、好ましくはβ型の結晶を生成することである。β型の結晶は、チョコレートのブルーム抑制に寄与する。また、油脂のテンパリングによって、油脂中のγ、α、sub-α、pseudo-β’及びβ’型の結晶のうち少なくとも1つが低減することは、チョコレートのブルーム抑制の観点から好ましいことである。ここで、低減するとは、消失することも含む。消失は、例えば、実施例に記載のX線回折測定によって検出できなくなることを意味する。
(粉砕機)
本明細書において、粉砕機とは、一般に固体を粉砕する目的で用いられる装置である。例えば、撹拌羽根の作用のみによって撹拌を行うような通常の撹拌機は、固体を粉砕可能に構成されたものではないため、粉砕機に該当しない。
本実施形態では、油脂を処理する目的、より具体的には、油脂中にβ型の結晶を生成する目的で、粉砕機を用いる。従って、本実施形態では、粉砕機の本来的な目的である固体の粉砕を必ずしも意図しない。本発明者らは、粉砕機によってもたらされる応力、即ち固体を粉砕するための応力が、溶融させた油脂中におけるβ型の結晶の効率的な生成に寄与することを見出した。
溶融させた油脂を粉砕機で処理することにより、油脂中にβ型の結晶を効率的に生成することができ、油脂のテンパリングを効率的に行うことができる。後に詳述するように、テンパリングされた油脂は、シーディング剤として好適に用いることができる。また、テンパリングされた油脂をシーディング剤としてチョコレート生地に添加することで、チョコレートのテンパリングを効率的に行うことができる。
(粉砕機の運転条件)
油脂の粘度が1Pa・s以上になるように、油脂を粉砕機で処理することが好ましい。油脂の粘度が1Pa・s以上であれば、油脂中にβ型の結晶が多量に生成していると推定され、良好にテンパリングされた状態であると判定できる。油脂の粘度は、例えば、1.5Pa・s以上、2.0Pa・s以上、2.5Pa・s以上、3.0Pa・s以上、3.5Pa・s以上、又は4.0Pa・s以上であってもよい。また、油脂の粘度が1Pa・s以上5Pa・s以下になるように、油脂を粉砕機で処理することが好ましい。油脂の粘度が5Pa・s以下であれば、これをシーディング剤としてチョコレートに添加する際の取り扱い性や、チョコレート中への分散性に優れる。
粉砕機に供給する、油脂の単位重量あたりの電力量を0.001kW・hr/kg~0.020kW・hr/kgの範囲に調整することが好ましい。これにより、より効率的なテンパリングを実現できる効果が得られる。尚、粉砕機に供給する、油脂の単位重量あたりの電力量は、実施例に記載の方法によって測定される値である。
粉砕機は、処理中の油脂を調温するための調温手段を備えることができる。調温手段としては、例えばウォータージャケット等が挙げられる。ウォータージャケットに通水する水(「調温水」ともいう。)の温度は格別限定されず、例えば、15℃以上、18℃以上又は20℃以上であり得、また、30℃以下、28℃以下又は25℃以下であり得る。本実施形態によれば、例えばココアバターの場合は調温水の温度が常温(23℃)近傍であっても効率的なテンパリングが可能であるため、省エネルギーを実現できる。尚、粉砕機による処理中の油脂の温度(品温)は、調温水の温度と同じであるか、又は調温水の温度より高いものであり得る。品温が調温水の温度よりも高い場合、その温度差は、例えば、10℃以下、8℃以下、又は5℃以下であり得る。
粉砕機の種類は格別限定されず、例えば、メディアミル、ディスクミル、ピンミル、ハンマーミル、及びリング媒介型粉砕機等を好ましく例示でき、特にメディアミルが好適である。
(メディアミル)
メディアミルは、容器内において、動力源に接続されていない粉砕媒体に運動を与えて固体を粉砕するように構成された粉砕機である。本実施形態では、粉砕媒体の運動によって、油脂に衝撃を与え、あるいは油脂を圧縮して、油脂中にβ型結晶を生成する。
粉砕媒体の長径は、例えば、50mm以下、10mm以下、5mm以下、4.5mm以下、4mm以下、又は3.5mm以下であり得る。特に粉砕媒体の長径が、5mm以下、4.5mm以下、4mm以下、又は3.5mm以下であることによって、溶融油脂中におけるβ型結晶の生成が顕著に促進される。そのような効果が得られる理由として、粉砕媒体と溶融油脂との接触面積が増加すること等が推定される。また、粉砕媒体の長径は、例えば、0.01mm以上、0.1mm以上、0.5mm以上、1mm以上、1.5mm以上、又は2mm以上であり得る。尚、長径とは、粉砕媒体の表面における最も遠い2点を結ぶ線の長さである。粉砕媒体が球体であれば、直径が長径に相当する。
メディアミルの例として、媒体撹拌式粉砕機及び媒体非撹拌式粉砕機が挙げられる。媒体撹拌式粉砕機は、粉砕媒体を直接撹拌するための手段又は要素を容器内に有する粉砕機である。具体的には、例えば、アジテーターの回転によって粉砕媒体であるボール又はビーズを撹拌するように構成された縦型ボールミル(以下、単に「ボールミル」と称する場合がある。)、ビーズミル、アトライター等が挙げられる。一方、媒体非撹拌式粉砕機は、粉砕媒体であるボール又はビーズを直接撹拌するための手段又は要素を容器内に有しない粉砕機であり、具体的には、例えば、転動ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル等が挙げられる。尚、本明細書において、ボールミル等の粉砕媒体である「ボール」は長径(ボール径)が2mm以上のものを指し、ビーズミル等の粉砕媒体である「ビーズ」は長径(ビーズ径)が2mm未満のものを指す。
メディアミルに用いられる粉砕媒体の材質は格別限定されず、例えば金属等が挙げられる。金属は格別限定されず、例えば、鉄、ステンレス、ジルコニア等が挙げられる。
メディアミルに用いられる粉砕媒体の質量(充填量)は格別限定されず、例えば、処理対象である油脂100質量部に対して、500質量部以上、1000質量部以上、1500質量部以上、又は1700質量部以上とすることができ、また、5000質量部以下、4000質量部以下、3000質量部以下、2500質量部以下、2300質量部以下とすることができる。
メディアミルによる油脂の処理時間は、例えば、1分以上、2分以上、3分以上、5分以上、7分以上、10分以上、12分以上、15分以上、17分以上とすることができ、また、90分以下、70分以下、50分以下、40分以下、35分以下、30分以下とすることができる。
特にメディアミルとして、アジテーターの回転によって粉砕媒体であるボール又はビーズを撹拌するように構成されたもの(例えば、ボールミル、ビーズミル、アトライター等)を用いる場合、アジテーターの回転速度は、例えば、30rpm以上、50rpm以上、又は80rpm以上とすることができ、また、500rpm以下、400rmp以下、350rpm以下、300rpm以下、250rpm以下、200rpm以下、又は150rpm以下とすることができる。
リング媒介型粉砕機(「リング媒体型粉砕機」とも称される。)は、円筒容器内において粉砕媒体であるリング(「リング媒体」とも称される。)が容器内壁に沿って転動すると共に自転して、遠心力を作用させて該円筒容器内の被処理物を粉砕するように構成された粉砕機である。そのようなリング媒介型粉砕機として、例えば、特開2009-233542号公報に記載のリング媒体を用いたバッチ式振動ミル(タンデムリングミル)、あるいは、高橋武彦、森英明、「リング媒体利用粉砕機のkgクラス粉砕に向けた粉砕性能評価」、秋田県立大学ウェブジャーナルB、日本、2015年、vol.2、p.149-153に記載のリング媒体を用いた連続式振動ミル(タンデムリングミル)、株式会社奈良機械製作所製「マイクロス」等が挙げられる。
2.シーディング剤の製造方法
本発明の一実施形態に係るシーディング剤の製造方法は、以上に説明した油脂のテンパリング方法によって油脂をテンパリングして、テンパリングされた油脂を含むシーディング剤を製造することを特徴とする。
本明細書において、シーディング剤とは、チョコレートをテンパリングするための種結晶を含むものである。油脂中の上述したβ型の結晶は、種結晶として良好に機能する。
3.チョコレートのテンパリング方法
本発明の一実施形態に係るチョコレートのテンパリング方法は、以上に説明したシーディング剤の製造方法によってシーディング剤を製造し、製造されたシーディング剤をチョコレート生地に添加してテンパリングすることを特徴とする。
(チョコレートのテンパリング)
本明細書において、チョコレートのテンパリングとは、チョコレート生地中にβ型の結晶を生成することを意味する。チョコレート生地中において、シーディング剤として添加された油脂中の種結晶であるβ型結晶は、結晶核として作用して、チョコレート生地中の油脂を安定なβ型とする。
テンパリングされたチョコレート生地のテンパーインデックスが3.0以上になるように、油脂のテンパリング方法に関して上述した、油脂を粉砕機で処理してテンパリングする工程において、油脂を粉砕機で処理することが好ましい。テンパリングされたチョコレート生地のテンパーインデックスは、チョコレートのブルームを抑制する観点で、3.0以上、3.8以上、さらには4.0以上であることが好ましい。テンパーインデックスの上限は格別限定されず、例えば、8.0以下、7.0以下、6.0以下又は5.0以下であり得る。
テンパーインデックスは、テンパリング状態の指標であり、融解したチョコレート生地を一定条件で冷却し、この時の油脂の結晶化による温度変化と冷却時間との変化の関係をプロットして得られる曲線の形状を利用して、テンパリングの程度を1.0~9.0までの小数点以下1桁で数値化したものである。本明細書において、かかるテンパーインデックスは、ゾーリッヒ社製テンパーメーターを用いて測定される値である。
シーディング剤をチョコレート生地に添加する際には、シーディング剤をチョコレート生地に混合するための混合機を用いることができる。混合機は格別限定されず、例えば、一軸又は複数軸の撹拌羽やスクリューを有するニーダー、スタティックミキサー等が挙げられる。なかでも、二軸の撹拌羽を有するニーダーが好適である。
4.チョコレートの製造方法
本発明の一実施形態に係るチョコレートの製造方法は、以上に説明したチョコレートのテンパリング方法によってチョコレート生地をテンパリングして、テンパリングされたチョコレート生地を含むチョコレートを製造することを特徴とする。以下に、図1を参照して詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るチョコレートの製造方法を説明するブロック図である。図1において、1は油脂のテンパリング工程であり、2はチョコレートのテンパリング工程である。
本発明の一実施形態に係るチョコレートの製造方法では、油脂を、油脂のテンパリング工程1に供する。油脂のテンパリング工程1では、油脂を粉砕機で処理してテンパリングする。
一方、チョコレート生地を、チョコレートのテンパリング工程2に供する。チョコレートのテンパリング工程2では、チョコレート生地に、油脂のテンパリング工程1からの、テンパリングされた油脂を、シーディング剤として添加(「シーディング」ともいう。)する。かかるシーディング剤をチョコレート生地に添加することで、良好なテンパリングを施すことができる。テンパリングされたチョコレートには、成型処理等のような任意の後処理を施すことができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載には限定されない。
(実施例1)
溶融させた油脂(ココアバター)1.0kgを粉砕機(日本コークス社製ボールミル(メディアミル)、容量5.4L)に投入し、下記の処理条件で5~20分間処理することにより油脂のテンパリングを行い、下記の評価方法によって評価した。
[ボールミル処理条件]
ボール径(粉砕媒体の長径):3.2mm
アジテーター回転速度:100回転/分
ジャケット調温水温度:23℃
ボール充填量:19kg
ボール材質:SUS304
<評価方法>
(1)X線回折測定
X線回折装置(リガク社製「RINT-UltimaIII」)での測定によって、油脂の結晶型を確認した。粉砕機で所定の時間処理した油脂を採取し、専用のガラス製のサンプル容器に入れ、摺り切りを1回行った後、測定に供した。測定設備及び測定条件は以下の通りである。
[測定設備]
測定フォルダ:標準
検出器:シンチレーションカウンタ
光学系:平行ビーム光学系
発散縦制限スリット:10mm
ソーラースリット:5°
選択スリット:長尺スリット
[測定条件]
開始角度:5.0000°
終了角度:40.0000°
サンプリング幅:0.0200°
スキャンスピード:1.0000°/min
電圧:40kV
電流:40mA
発散スリット:1.00mm
発散縦制限スリット:10mm
散乱スリット:開放
受光スリット:開放
(2)粘度測定
粉砕機で所定の時間処理した油脂の粘度を測定した。粘度は、B型粘度計にて、NO.6のコーンを使用し、30℃、20rpmの条件で測定した。
(3)テンパーインデックス測定
下記組成のチョコレート生地を加熱により融解して、溶融した状態を維持したまま30℃まで冷却した。次いで、粉砕機で所定の時間処理した油脂(シーディング剤)を、チョコレート生地に、チョコレート生地100質量部に対して0.5質量部の割合で添加し、よく混ぜた後に、専用のチャンバー(5ml)に入れ、ゾーリッヒ社製テンパーメーターを用いてテンパーインデックスを測定した。尚、テンパーメーターによって測定可能なテンパーインデックスの下限は1.0であり、それに満たない場合は、以下の表中に「測定不可」と表す。
[チョコレート生地(ミルクチョコレート生地)の組成]
カカオマス:20質量%
砂糖:40質量%
全粉乳:20質量%
ココアバター:19.5質量%
レシチン:0.5質量%
(4)ブルーム試験
上記「(3)テンパーインデックス測定」と同様にしてシーディング剤をチョコレート生地に混合した後、型に充填し、13℃で30分冷却して固化した。次いで、固化したチョコレートをデモールドし、20℃で一週間保存した。その後、一部のチョコレートについては、15℃から25℃への昇温及び25℃から15℃への降温からなるサイクルを4サイクル/日で実施しながら、4日間保存した(計16サイクル)。他の一部のチョコレートについては、20℃から30℃への昇温及び30℃から20℃への降温からなるサイクルを4サイクル/日で実施しながら、4日間保存した(計16サイクル)。保存後の各チョコレートについて、表面のブルーム状態を目視で観察し、下記評価基準で評価した。
[ブルームの評価基準]
-:ブルーム無し
+:ブルームがわずかに観察される
++:ブルームが顕著に観察される
以上の結果を表1に示す。また、ブルーム試験におけるチョコレートの外観写真を図2に示す。
Figure 0007281920000001
<評価>
X線回折の結果より、粉砕機による処理によって油脂中に速やかにβ型の結晶が生成し、油脂を効率的にテンパリングできることがわかった。また、粉砕機による処理時間を適宜設定することで、良好なテンパーインデックスを達成でき、ブルームを好適に防止できることがわかった。
(実施例2)
粉砕機における粉砕媒体の有無がテンパリングに与える影響を検討した。
<対照区:粉砕媒体なし>
実施例1と同様の粉砕機の容器内に、粉砕媒体の充填を省略した状態(この状態では、粉砕機ではなく、実質的に撹拌機である。)で、ココアバター1.0kgを入れた。調温水の通水を省略し、350rpmで10分間処理を行い、処理前後でのココアバターの温度差を確認した。この温度差と比熱を元に、ココアバターに加えられた機械的作用(応力)に由来するココアバターの発熱量(以下、単に「ココアバターの発熱量」という。)を計算したところ、2.7kcal/hであった。
次に、容器内のココアバターを全量排出して清掃した後、容器内に再度同量のココアバターを入れ、ウォータージャケットに20℃の調温水を通水しながら、350rpmで90分間処理した。処理中、10分おきにココアバターをサンプリングし、サンプリングしたココアバターを実施例1と同様の条件でチョコレート生地に混ぜてテンパリングを行い、テンパーインデックスを測定した。テンパーインデックスは実施例1と同様の方法で測定した。
<試験区:粉砕媒体あり>
対照区と同様の粉砕機の容器内に、粉砕媒体であるボール(直径2mm)3.8kgを充填し、ココアバター1.0kgを入れた。調温水の通水を省略し、50、80、100、120又は150rpmの回転数で10分間処理を行い、処理前後でのココアバターの温度差を確認した。この温度差と比熱を元に、ココアバターの発熱量を計算した。その結果、回転数100rpmのときの発熱量が、2.7kcal/hであり、上述した対照区での処理時と同等であることを確認した。
次に、容器内のココアバター及びボールを全量排出して清掃した後、容器内に再度同量のココアバター及びボールを入れ、ウォータージャケットに20℃の調温水を通水しながら、100rpmで90分間処理した。処理中、10分おきにココアバターをサンプリングし、サンプリングしたココアバターを実施例1と同様の条件でチョコレート生地に混ぜてテンパリングを行い、テンパーインデックスを測定した。テンパーインデックスは実施例1と同様の方法で測定した。
<結果及び評価>
試験区では、少なくとも50分間の処理を施したココアバターによって、テンパーインデックス3.0以上を達成することが確認された。また、X線回折の結果より、このココアバター中には、β型の結晶が生成していることが確認された。これに対して、対照区では、ココアバターの発熱量が試験区と同等であるにもかかわらず、90分間の処理を施しても、テンパーインデックス3.0以上を達成できなかった。以上のことから、撹拌機(対照区)との対比で、粉砕機、特にメディアミル(試験区)が、油脂のテンパリングに有効であり、省エネルギーも実現できることがわかった。
(実施例3)
粉砕機における粉砕媒体の充填量がテンパリングに与える影響を検討した。
溶融させた油脂(ココアバター)1.0kgを実施例1と同様の粉砕機に投入し、粉砕媒体(ボール)の充填量を表2に示す値に変更したこと以外は実施例1と同様の処理条件で20分間処理することにより油脂のテンパリングを行い、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
Figure 0007281920000002
<評価>
表2より、粉砕媒体を用いない場合(対照区)との対比で、粉砕媒体を用いる場合(試験区)は、β型の結晶が生成し易く、かつβ’型の結晶が低減し、消失し易くなることがわかった。また、粉砕媒体の充填量が多いほど、β型の結晶が生成し易く、また、良好なテンパーインデックスが示され易いことがわかった。
(実施例4)
粉砕機における回転数がテンパリングに与える影響を検討した。
溶融させた油脂(ココアバター)1.0kgを実施例1と同様の粉砕機に投入し、粉砕媒体を撹拌するためのアジテーターの回転数を表3に示す値に変更したこと以外は実施例1と同様の処理条件で20分間処理することにより油脂のテンパリングを行い、実施例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
Figure 0007281920000003
<評価>
表3より、回転数が低い(100rpm)ほど良好なテンパリングが可能になることがわかった。
(実施例5)
粉砕機と撹拌機とについてテンパリングに与える影響を検討した。
<試験区:粉砕機によるテンパリング>
粉砕機(メディアミル)を備える連続処理装置を用意した。この連続処理装置は、投入されたココアバターを粉砕機で処理し、テンパリングされた油脂を連続的に製造するように構成されている。この連続処理装置を用い、処理能力を5kg/hr、粉砕機のアジテーター回転数100rpm、ボール充填量19kg(ボール径3.2mm)、調温水23℃の条件で、ココアバターのテンパリングを行い、出口部からサンプルを採取した。
<対照区:撹拌機によるテンパリング>
ビューラー社製「シードマスター」を用い、処理能力を12kg/hr、ブレード回転数700rpm、1ゾーン冷却15℃、リヒートゾーン23℃の条件で、ココアバターのテンパリングを行い、出口部からサンプルを採取した。
<測定方法>
(1)粒度の測定
試験区及び対照区のそれぞれで採取したサンプルについて、マイクロメーターを用いてサンプルに含まれる粒子の最大粒径の測定を実施した。サンプル採取及び最大粒径測定のセットを3回行い、最大粒径の平均値を粒度とした。
(2)粘度の測定
試験区及び対照区のそれぞれで採取したサンプルについて、BH型粘度計(東機産業社製)を用いて、温度30℃、速度20rpm、ローターNo.6で粘度を測定した。
(3)粉砕機に供給する、油脂の単位重量あたりの電力量
試験区及び対照区のそれぞれにおいて、サンプル採取時の各種条件を記録し、運転時動力(上述したサンプル採取時の粉砕機又は撹拌機の動力)及び無負荷時動力(ウォータージャケットによる冷却を省略し、ココアバターが液状で充満している状態での粉砕機又は撹拌機の動力)を測定し、粉砕機に供給する、油脂の単位重量あたりの電力量を、下記式により算出した。
油脂の単位重量あたりの電力量[kW・hr/kg]=(運転時動力[kW]-無負荷時動力[kW])/処理能力[kg/hr]
以上の結果を表4に示す。
Figure 0007281920000004
<評価>
表4より、粉砕機を用いた試験区では、撹拌機を用いた対照区に比べて、テンパリングされた油脂の粒度が低くなることがわかった。また、試験区では、対照区に比べて、テンパリングされた油脂の粘度が顕著に低くなることもわかった。さらに、動力原単位で比較したところ、試験区では、対照区に比べて、約半分のエネルギーでテンパリング可能であることがわかった。以上のことより、粉砕機を用いた処理は、撹拌機を用いた処理よりもテンパリングの効率が良く、かつ、テンパリングされた油脂中の結晶のサイズが細かく粘度が低いため、シーディング剤として品質的に良好であることがわかった。また、試験区では、油脂の粘度が低いため、シーディング剤としての取り扱い性、チョコレート生地への分散性にも優れることがわかった。
(実施例6)
実施例1において、長径(ボール径)が3.2mmの粉砕媒体(ボール)に代えて、長径(ボール径)が5.0mmの粉砕媒体(ボール)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、粉砕機によって20分間又は30分間処理することにより油脂のテンパリングを行い、実施例1と同様の評価方法によって評価した。結果を表5に示す。
Figure 0007281920000005
<評価>
表5より、長径が5.0mmの粉砕媒体を用いた場合、β型の結晶を生成することが可能であるが、長径が3.2mmの粉砕媒体を用いた実施例1(表1)に比べて、所定のテンパーインデックスを達成するために、より長い処理時間を要することがわかった。また、これらの結果より、長径が5.0mmを超える粉砕媒体を用いた場合は、さらに長い処理時間を要することが推定される。
本発明によれば、油脂のテンパリング方法、シーディング剤の製造方法、チョコレートのテンパリング方法及びチョコレートの製造方法を提供することができる。

Claims (9)

  1. 溶融させた油脂を粉砕機で処理してテンパリングする工程を含む、油脂のテンパリング方法であって、
    前記油脂が、ココアバター、ココアバター置換品、ココアバター代替品、ココアバター等価物及びココアバター改良剤からなる群より選択される一種以上である、
    油脂のテンパリング方法
  2. 前記粉砕機が、メディアミル、ディスクミル、ピンミル、ハンマーミル、及びリング媒介型粉砕機からなる群より選択される、請求項1に記載の油脂のテンパリング方法。
  3. 前記粉砕機が、メディアミルである、請求項2に記載の油脂のテンパリング方法。
  4. 前記油脂の粘度が1Pa・s以上になるように、前記油脂を前記粉砕機で処理する、請求項1~のいずれかに記載の油脂のテンパリング方法。
  5. 前記粉砕機に供給する、前記油脂の単位重量あたりの電力量を0.001kW・hr/kg~0.020kW・hr/kgの範囲に調整する、請求項1~のいずれかに記載の油脂のテンパリング方法。
  6. 請求項1~のいずれかに記載の油脂のテンパリング方法によって前記油脂をテンパリングして、テンパリングされた前記油脂を含むシーディング剤を製造する、シーディング剤の製造方法。
  7. 請求項に記載のシーディング剤の製造方法によって前記シーディング剤を製造し、製造された前記シーディング剤をチョコレート生地に添加してテンパリングする、チョコレートのテンパリング方法。
  8. テンパリングされた前記チョコレート生地のテンパーインデックスが3.0以上になるように、前記油脂を粉砕機で処理してテンパリングする工程において、前記油脂を前記粉砕機で処理する、請求項に記載のチョコレートのテンパリング方法。
  9. 請求項又はに記載のチョコレートのテンパリング方法によって前記チョコレート生地をテンパリングして、テンパリングされた前記チョコレート生地を含むチョコレートを製造する、チョコレートの製造方法。
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