JP7728732B2 - 形質転換体及びそれを用いるメチルアントラニレートの製造方法 - Google Patents
形質転換体及びそれを用いるメチルアントラニレートの製造方法Info
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Description
本開示は、一態様において、特定の遺伝子操作が施された形質転換体、及びこの形質転換体を用いたメチルアントラニレートの製造技術に関する。
前記CoA経路においては、2種の異種酵素の機能を発現させる必要があったり、また、副原料として、メタノールが必要となるなどの問題があった。
詳しくは、本開示に係る形質転換体は、一態様において、アントラニル酸産生能を有する微生物宿主に、AAMT活性を有する酵素をコードする遺伝子(A)が発現可能に導入されて得られうる、メチルアントラニレートを製造するための形質転換体である。図1に示すように、本開示に係る形質転換体は、該形質転換体の生体内において、糖類からアントラニル酸を生成し、アントラニレートメチルトランスフェラーゼによってアントラニル酸からメチルアントラニレートを生成する。
本開示における「アントラニル酸産生能を有する微生物宿主」とは、少なくとも、アントラニレートシンターゼ活性を有する微生物宿主をいう。本開示に係る微生物宿主は、野生菌のみならず、ある程度、人工的に形質転換された菌であってもよい。アントラニル酸産生能を有する微生物宿主は、一又は複数の実施形態において、メチルアントラニレートの生産性向上の点から、遺伝子改変によってアントラニレートシンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入された菌であってもよい。アントラニレートシンターゼ活性を有する酵素とは、コリスミ酸からアントラニレートを合成する反応を触媒する活性を有する酵素をいう。アントラニレートシンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子としては、一又は複数の実施形態において、Corynebacterium glutamicumのtrpEG遺伝子等が挙げられる。
本開示に係る形質転換体は、一又は複数の実施形態において、アントラニル酸産生能を有する微生物宿主に、さらに、アントラニレートシンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されていてもよい。Corynebacterium glutamicumのtrpEG遺伝子としては、一又は複数の実施形態において、配列番号25の塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。アントラニレートシンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子は、一又は複数の実施形態において、配列番号25に対する同一性が、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%である塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。
本開示において、遺伝子の導入とは、一又は複数の実施形態において、該遺伝子が宿主内で発現可能に導入することをいう。宿主への遺伝子導入は、一又は複数の実施形態において、一般的な遺伝子組換え技術(例えば、Michael R. Green & Joseph Sambrook, Molecular cloning, Cold spring Harbor Laboratory Pressに記載の方法)を用いて行うことができ、プラスミドベクターを用いた遺伝子導入、又は微生物宿主の染色体へ組み込む形態で実施することができる。
コリネ型細菌とは、バージーズ・マニュアル・デターミネイティブ・バクテリオロジー〔Bergey's Manual of Determinative Bacteriology、Vol. 8、599(1974)〕に定義されている一群の微生物であり、通常の好気的条件で増殖するものならば特に限定されるものではない。コリネ型細菌としては、一又は複数の実施形態において、コリネバクテリウム属菌、ブレビバクテリウム属菌、アースロバクター属菌、マイコバクテリウム属菌、マイクロコッカス属菌等が挙げられる。
溶媒耐性菌としては、一又は複数の実施形態において、Pseudomonas putida S12、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas paucimobilis、Pseudomonas alcaligenes 、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas fragi、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas sp. 、Rhodococcus erythropolis、Rhodococcus opacus、Burkholderia cepacia、及びPaenibacillus illinoisensis等が挙げられる。
本開示に係る遺伝子(A)は、特に限定されず、例えば、Oryza属、Vitis属、Clarkia属、Arabidopsis属、Pectobacterium属、Sphingobium属、又はLabrenzia属などのうち、少なくともいずれか一の属由来の遺伝子であって、AAMT活性を有する酵素をコードする遺伝子であってもよい。なお、本開示における「遺伝子」という用語は、DNA及びRNAを含みうる。
Oryza sativa japonica由来のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(EC2.1.1.277の)のアミノ酸配列の例(配列番号57):
MKVEQDLHMSRGDGETSYAANSRLQEKAILKTRPLLHKAVEEAHASLSGLSRAPAGGKMVVADLGCSSGPNTLLVVSEVLSAVANRSSCDHKSSLVADVQFFLNDLPGNDFNLVFQSLELFKKLAEMEFGKALPPYYIAGLPGSFYTRLFPDRSVHLFHSSYCLMWRSKVPDKLASGEVLNAGNMYIWETTPPSVVKLYQRQFQEDFSQFLALRHDELVSGGQMVLTFLGRKNRDVLRGEVSYMYGLLAQALQSLVQEGRVEEEKLDSFNLPFYSPSVDEVKAVIRQSGLFDISHIQLFESNWDPQDDSDDDDVATLDSVRSGVNVARCIRAVLEPLIARHFGRCIVDDLFDMYARNVAQHLEQVKTKYPVIVLSLKARR
Arabidopsis thaliana由来のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(EC2.1.1.277の)のアミノ酸配列の例(配列番号58):
MDPRFINTIPSLRYDDDKCDDEYAFVKALCMSGGDGANSYSANSRLQKKVLSMAKPVLVRNTEEMMMNLDFPTYIKVAELGCSSGQNSFLAIFEIINTINVLCQHVNKNSPEIDCCLNDLPENDFNTTFKFVPFFNKELMITNKSSCFVYGAPGSFYSRLFSRNSLHLIHSSYALHWLSKVPEKLENNKGNLYITSSSPQSAYKAYLNQFQKDFTMFLRLRSEEIVSNGRMVLTFIGRNTLNDPLYRDCCHFWTLLSNSLRDLVFEGLVSESKLDAFNMPFYDPNVQELKEVIQKEGSFEINELESHGFDLGHYYEEDDFEAGRNEANGIRAVSEPMLIAHFGEEIIDTLFDKYAYHVTQHANCRNKTTVSLVVSLTKK
Sphingobium sp.由来のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(EC2.1.1.277の)のアミノ酸配列の例(配列番号59):
MADSTAVAAMAGGGLYNRHSGLQQANLQSALPLLEDAARAIGDASVGPVTIVDYGASQGRNSMAPMATAIDLVRANDARRPVQVVHTDLPSNDFTSLFGLLDQDPASYLNGRQGVFPSAIGRSYFDAILPPGSVDLGWSSNALHWMSRNPVDVADHGWAIFSRSAQARAAVDAVLAEDWLRFLKARVIELRPGGRLICQFMGRGPDSHGFEWMAGNFWQSIVDMEGEGLLSADETLKMTAPSAGRSPDQVRAPFDAGLVPDLVLEHLAAIPSPDPYWEGYQQTGNAAELGRQWAAMMGAANGPNFLARVAASRDRDALLASLVQRVAARVEADPQRSRAFILILSIRKPA
Labrenzia sp.由来のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(EC2.1.1.277の)のアミノ酸配列の例(配列番号60):
MEPPPKPVHPFAQPVSHATTTGMSGGGFYNANSAAQWSAIEKILPLLEEAIASLPIEGSGPVGIADYGCSEGRNSVAVMKHALPALLARTERPIQTIHSDLPTNDFSELFRSLRPDGGSVFGSERVYSAAIGGSMYDQLCPLQSLHLATTFNAIGFLSCRPVDRLPGYILPNGPSVARANGYVSEEDRHAFAEQAKNDIARFLTVRARELVPGGKLLVQVFGSKGLARTCDGLYDLLNDAVLDFVEAGDISRDVYDRHYQPVYMRDLQELADPVTNDTYGAAGLYSLDRSMEYEIAVPFVDRFKQDGDLDRYARDYVNFFRAFTEAVLRAALPESPSRKDLINRIFARAEDRLKADTSLYPFRYAAVAMLLTRNG
Pectobacterium parmentieri由来のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(EC2.1.1.277の)のアミノ酸配列の例(配列番号61):
MEDSVYCQGIMESRGIYNQHAKVQASGNFFAMPILDGIVDDMSVFIEGKYISIADYGSSQGKNSLLPIGKIIHSIRSRFPSHPIFVMHTDQINNDYSTLFNVLENDSESYTSHKDVFYCAIGRSFYSPILPSNSILLGWSAYAAMWLSYVSINQWDHIVPYKTSSNIQRQLAQQGEQDWRRFLAARATELQVGGKLVLLLAGIDNENRSGFDVIIDNAAQVLDEMVIDGYFSSDERAVMKIATYMRRSEEVLAPFTHQISYCGLRVVHFSVDVLSDPAWQHYLAHNDVKEMAAQQVSFFRSTFMPSLLSALEITYSAIALQNITRIFEEKLTERCASCPVPMEQRAQILVLEKIES
Clarkia breweri由来のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(EC2.1.1.277の)のアミノ酸配列の例(配列番号62):
MDVRQVLHMKGGAGENSYAMNSFIQRQVISITKPITEAAITALYSGDTVTTRLAIADLGCSSGPNALFAVTELIKTVEELRKKMGRENSPEYQIFLNDLPGNDFNAIFRSLPIENDVDGVCFINGVPGSFYGRLFPRNTLHFIHSSYSLMWLSQVPIGIESNKGNIYMANTCPQSVLNAYYKQFQEDHALFLRCRAQEVVPGGRMVLTILGRRSEDRASTECCLIWQLLAMALNQMVSEGLIEEEKMDKFNIPQYTPSPTEVEAEILKEGSFLIDHIEASEIYWSSCTKDGDGGGSVEEEGYNVARCMRAVAEPLLLDHFGEAIIEDVFHRYKLLIIERMSKEKTKFINVIVSLIRKSD
(a)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子、又は配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(b)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、又は配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(c)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、又は配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(d)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列を有する遺伝子、又は配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列からなる遺伝子。
(e)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、又は配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(f)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、又は配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
本開示に係る形質転換体は、メチルアントラニレート生産性向上の点から、一又は複数の実施形態において、アデノシルメチオニンシンテターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子、アデノシルホモシステインシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子、及びグルタミンシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子の少なくとも一つが導入されていてもよく、一又は複数の実施形態において、これらの遺伝子のうち1つ、2つ又は3つ(全部)の遺伝子が導入されていてもよい。
本開示に係る形質転換体は、メチルアントラニレート生産性向上の点から、一又は複数の実施形態において、グルタミンシンターゼアデニリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、glnE遺伝子)、グルタミナーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、glsA遺伝子)、及びアントラニレートホスホリボシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、trpD遺伝子)の少なくとも一つの遺伝子が破壊又は欠失していてもよく、一又は複数の実施形態において、これらの遺伝子のうち1つ、2つ又は3つ(全部)の遺伝子が破壊又は欠失していてもよい。
グルタミンシンターゼアデニリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素とは、グルタミンシンターゼ-L-チロシンホスホリラーゼからアデニル基を除去する反応を触媒する活性を有する酵素をいう。グルタミナーゼ活性を有する酵素とは、グルタミンからグルタミン酸を合成する反応を触媒する活性を有する酵素をいう。アントラニレートホスホリボシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素とは、アントラニル酸からN-(5-ホスホ-β-D-リボシル)アントラニル酸を合成する反応を触媒する活性を有する酵素をいう
本開示に係る形質転換体は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、メチルアントラニレート生産性向上の点から、グルタミンシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、glnA遺伝子)及びアントラニレートシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、trpEG遺伝子)が導入され、かつグルタミンシンターゼアデニリルトランスフェラーゼ活性(例えば、glnE遺伝子)、グルタミナーゼ活性(例えば、glsA遺伝子)、及びアントラニレートホスホリボシルトランスフェラーゼ活性(例えば、trpD遺伝子)が低下又は欠損しているものであってもよい。
本開示に係る形質転換体は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、メチルアントラニレート生産性向上の点から、アントラニレートシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、trpEG遺伝子)、アデノシルメチオニンシンテターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、metK遺伝子)及びアデノシルホモシステインシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、sahH遺伝子)が導入され、かつアントラニレートホスホリボシルトランスフェラーゼ活性(例えば、trpD遺伝子)が低下又は欠損しているものであってもよい。
(1)シキミ酸経路を構成する各酵素遺伝子(aroG、aroB、aroD、aroE、aroK、aroA、及びaroC:それぞれ、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソネート-7-リン酸(DAHP)シンターゼ、3-デヒドロキナ酸シンターゼ、3-デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、シキミ酸デヒドロゲナーゼ、シキミ酸キナーゼ、5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸シンターゼ、及びコリスミ酸シンターゼをコード)の発現増強や異種・変異遺伝子の利用等による高活性化。
(2)野生型株での糖輸送体として通常利用されているホスホエノールピルビン酸:糖 ホスホトランスフェラーゼシステム(PTS)とは異なる代替糖輸送・代謝経路である非PTS糖輸送経路を構成する各遺伝子(myo-イノシトール/グルコース輸送体をコードするiolT1遺伝子及びiolT2遺伝子、グルコキナーゼをコードするglk遺伝子、及びポリリン酸グルコキナーゼをコードするppgk遺伝子)の発現増強等による高活性化。
(3)非酸化的ペントース・リン酸経路を構成する各酵素遺伝子(tkt及びtal:それぞれ、トランスケトラーゼ、及びトランスアルドラーゼをコード)の発現増強等による高活性化。
形質転換
形質転換方法は、公知の方法を制限無く使用できる。このような公知の方法として、一又は複数の実施形態において、塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン介在トランスフェクション、及び電気穿孔法等が挙げられる。微生物宿主がコリネ型細菌である場合、電気パルス法が好適である。電気パルス法は、公知の方法〔例えば、Kurusu, Y. et al., Electroporation-transformation system for Coryneform bacteria by auxotrophic complementation. Agric. Biol. Chem. 54:443-447(1990)〕及び〔Vertes A. A. et al., Presence of mrr- and mcr- like restriction systems in Coryneform bacteria. Res. Microbiol. 144:181-185(1993)〕により行うことができる。
微生物宿主がコリネ型細菌である場合、必要に応じて生合成の競合経路や生合成経路の抑制因子又は排出系トランスポーター等をコードする遺伝子が破壊され、又は欠失させてもよい。染色体上への変異導入によって特定の遺伝子がコードする酵素タンパク質の機能を向上させてもよい。標的遺伝子前後のDNA断片を連結することで標的遺伝子全長が欠失したDNA断片を作製し、該DNAで細菌を形質転換して染色体上で相同組換えを起こさせることにより、染色体上の標的遺伝子を完全に欠失させることができる。或いは標的遺伝子の部分配列を欠失し、正常に機能する酵素タンパク質を産生しないように改変した欠失型遺伝子を作製し、該遺伝子を含むDNAで細菌を形質転換して、欠失型遺伝子と染色体上の遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の標的遺伝子を欠失型又は破壊型の遺伝子に置換することができる。欠失型又は破壊型の遺伝子によってコードされる酵素タンパク質は、生成したとしても、野生型酵素タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失している。また、特定の変異が導入された遺伝子断片を当該染色体領域と相同組み換えを起こさせることにより、染色体上の特定の位置に変異導入させることができる。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子欠失又は破壊は既に確立しており、温度感受性複製起点を含むプラスミド、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で複製起点を持たないスイサイドベクターを利用する方法などがある(米国特許第6303383号、特開平05-007491号)。マーカーレス染色体遺伝子導入用ベクターpCRA725は、コリネバクテリウム グルタミカムR内で複製不能なプラスミドである。プラスミドpCRA725に導入した染色体上の相同領域との一重交叉株の場合、pCRA725上のカナマイシン耐性遺伝子の発現によるカナマイシン耐性と、バチルス サブチリス(Bacillus subtilis)のsacR-sacB遺伝子の発現によるスクロース含有培地での致死性を示すのに対し、二重交叉株の場合、pCRA725上のカナマイシン耐性遺伝子の脱落によるカナマイシン感受性と、sacR-sacB遺伝子の脱落によるスクロース含有培地での生育性とを示す。従って、マーカーレス染色体遺伝子導入株は、カナマイシン感受性及びスクロース含有培地生育性を示す。
本開示に係る形質転換体は、一又は複数の実施形態において、反応液中での反応に先立ち、好気条件下で培養して増殖させることが好ましい。培養条件は、一又は複数の実施形態において、温度が約25~38℃であり、時間が約12~48時間である。
好気的培養に用いる培地は、一又は複数の実施形態において、炭素源、窒素源、無機塩類及びその他の栄養物質等を含有する天然培地又は合成培地が挙げられる。培地のpHは、一又は複数の実施形態において、約5~8が好ましい。
大腸菌用培地としては、一又は複数の実施形態において、LB培地等が挙げられる。
本開示は、メチルアントラニレートの製造方法に関する。
詳しくは、本開示に係るメチルアントラニレートの製造方法にあっては、一態様において、本開示に係る形質転換体を、糖類を含む反応液中で培養してメチルアントラニレートを生産させる工程を含む製造方法であってもよい。
反応は、一又は複数の実施形態において、還元条件及び微好気的条件(例えば、溶存酸素濃度を制御した条件)等が挙げられる。特に限定されない一又は複数の実施形態において、微生物宿主がコリネバクテリウム グルタミ力ムである場合、還元条件及び微好気的条件のいずれにおいてもコリネバクテリウム グルタミ力ムは実質的に増殖しない反応で行われるため、一層効率的にメチルアントラニレートを生産させることができる。
本開示は、本開示に係る遺伝子(A)を、微生物に導入する、ベクターに関する。
本開示に係るベクターは、特に限定されず、例えば、プラスミドなどであってもよい。
[1] アントラニル酸産生能を有する微生物宿主に、
アントラニレートメチルトランスフェラーゼ(AAMT:anthranilate methyltransferase)活性を有する酵素をコードする遺伝子(A)が発現可能に導入されて得られる、
メチルアントラニレートを製造するための形質転換体。
[2] 前記AAMT活性を有する酵素は、Oryza属、Vitis属、Clarkia属、Arabidopsis属、Pectobacterium属、Sphingobium属、及びLabrenzia属からなる群から選択される少なくとも一つの由来のものである、[1]に記載の形質転換体。
[3] 前記遺伝子(A)は、少なくとも、下記の(a)、(b)及び(c)からなる群から選択される遺伝子である、[1]又は[2]に記載の形質転換体。
(a)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(b)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(c)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
[4] 前記遺伝子(A)は、少なくとも、下記の(d)、(e)及び(f)からなる群から選択される遺伝子である、[1]から[3]のいずれかに記載の形質転換体。
(d)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列を有する遺伝子。
(e)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(f)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
[5] 前記AAMT活性を有する酵素は、EC2.1.1.277のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼである、[1]から[4]のいずれかに記載の形質転換体。
[6] さらに、グルタミナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子及びグルタミンシンテターゼアデニリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子の少なくとも一方が破壊されている、[1]から[5]のいずれかに記載の形質転換体。
[7] さらに、アデノシルメチオニンシンテターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されている、[1]から[6]のいずれかに記載の形質転換体。
[8] 前記微生物宿主は、コリネバクテリウム グルタミカムである、[1]から[7]のいずれかに記載の形質転換体。
[9] 前記微生物宿主は、コリネバクテリウム グルタミカムR(FERM BP-18976)である、[1]から[8]のいずれかに記載の形質転換体。
[10] コリネバクテリウム グルタミカムMAT14株(受託番号:NITE BP-03633)コリネ型細菌形質転換体。
[11] [1]から[10]のいずれかに記載の形質転換体を、
糖類を含む反応液中で培養してメチルアントラニレートを生産させる工程を含む、
メチルアントラニレートの製造方法。
[12] [1]から[4]のいずれかで規定された遺伝子(A)を、微生物に導入する、ベクター。
[メチルアントラニレート生産株の構築]
(1)染色体DNAの調整・入手
微生物宿主の染色体DNAは、菌株入手機関の情報に従って培養後、DNAゲノム抽出キット(illustra bacteria genomicPrep Mini Spin Kit、Cytiva)を用いて調製した。また、Zea属、Vitis属、Oryza属、Arabidopsis属、Sphingobium属、Labrenzia属、Pectobacterium属及びClarkia属のaamt遺伝子は、当該微生物宿主における発現のためコドン最適化した遺伝子を人工合成により作成した。
微生物宿主は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Corynebacterium属(特に限られず、一例として、本実施例においては、Corynebacterium glutamicum R(FERM P-18976))を用いた。
Vitis属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Vitis viniferaを用いた。
Oryza属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Oryza sativaを用いた。
Arabidopsis属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Arabidopsis thalianaを用いた。
Sphingobium属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Sphingobium sp.を用いた。
Labrenzia属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Labrenzia sp.を用いた。
Pectobacterium属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Pectobacterium parmentieriを用いた。
Clarkia属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Clarkia breweriを用いた。
Zea属は、Zea maysを用いた。
目的の酵素遺伝子を単離するために用いたプライマー配列を表1に示す。PCRは、VeritiProサーマルサイクラー(Thermo Fisher Scientific株式会社)を用い、反応試薬としてPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社)を用いた。
メチルアントラニレート生産関連遺伝子をCorynebacterium株の染色体にマーカーレスで導入するために必要なDNA領域を、Corynebacterium株の生育に必須でないと報告されている配列[Appl. Environ. Microbiol. 71:3369-3372 (2005)](SSI領域)を基に決定した。このDNA領域をPCR法により増幅し、得られたDNA断片をマーカーレス遺伝子導入用プラスミドpCRA725[J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 8:243-254(2004)、特開2007-295809]に導入した。プライマー配列と得られたプラスミドを表3に示す。
Corynebacterium株の染色体遺伝子をマーカーレスで破壊するために必要なDNA領域をPCR法により増幅した。各PCR断片はリン酸化プライマーにより連結可能である。得られたDNA断片をマーカーレス遺伝子破壊用プラスミドpCRA725[J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 8:243-254(2004)、特開2007-295809]に導入した。得られたプラスミドを表5に示す。
マーカーレス染色体遺伝子導入用ベクターpCRA725は、Corynebacterium内で複製不能なプラスミドである。プラスミドpCRA725に導入した染色体上の相同領域との一重交叉株の場合、pCRA725上のカナマイシン耐性遺伝子の発現によるカナマイシン耐性と、バチルス サブチルス(Bacillus subtilis)由来のsacR-sacB遺伝子の発現によるスクロース含有培地での致死性を示すのに対し、二重交叉株の場合、pCRA725上のカナマイシン耐性遺伝子の脱落によるカナマイシン感受性と、sacR-sacB遺伝子の脱落によるスクロース含有培地での生育性を示す。従って、マーカーレス染色体遺伝子導入株は、カナマイシン感受性及びスクロース含有培地生育性を示す。
上述の染色体遺伝子組換え株にAAMT酵素遺伝子を導入することによりメチルアントラニレート生産株を構築した。本生産株の概要は、表7にまとめて示した。
MAT14株は、Corynebacterium glutamicum MAT14株として、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した(受託日:2022年3月24日、受託番号:NITE BP-03633)。
糖類からのメチルアントラニレート生産実験例(1)
実施例1で構築したAAMT導入菌株を用いてグルコースを炭素源とする栄養培地を用いて試験管培養を行い、各菌株のグルコースからのメチルアントラニレート生産能を調べた。なお、これらの菌株においては、糖からアントラニル酸の前駆体であるコリスミ酸への代謝フラックスを強化するため、シキミ酸経路を構成するaroD、aroE及びaroCKBの各遺伝子が高発現用gapAプロモーターの制御下において染色体導入されている(図2、表4)。各菌株を10mlのAK-Glc液体培地(A液体培地((NH2)2CO 2g、(NH4)2SO4 7g、KH2PO4 0.5g、K2HPO4 0.5g、MgSO4・7H2O 0.5g、0.6%(w/v)FeSO4・7H2O、0.42%(w/v)MnSO4・2H2O 1ml、0.02%(w/v)biotin solution 1ml、0.02%(w/v)thiamin solution 1ml、yeast extract 2g、vitamin assay casamino acid 7gを蒸留水1Lに溶解)に、グルコース4%、カナマイシン50μg/mlを添加した液体培地)(試験管内)で終夜前培養後、10mlの新しいAK-Glc培地に初期ODが0.2になるように植菌し、33℃で24時間、振盪培養を行った。試験管培養24時間後の各菌株の培養上清中に含まれるメチルアントラニレートについて、HPLC分析により定量を行った。その結果、各菌株のメチルアントラニレート生産濃度は、表8に示すように、MAT12株が1.3mM、MAT14株が1.6mM、MAT15株が0.90mM、MAT16株が0.35mM、MAT17株が0.17mM、MAT19株が0.76mM、MAT28株が0.99mMであった。この結果より、Oryza属由来のAAMTの導入菌株であるMAT14株が最も高いメチルアントラニレート生産濃度をもたらすことが示された。
糖類からのメチルアントラニレート生産実験例(2)
次に、MAT12、MAT14、及びMAT15株を用いて、100ml容量ジャーファーメンターで温度、pH及び溶存酸素濃度を制御した条件で培養を行った際の、各菌株のメチルアントラニレート生産能を調べた。各菌株を10mlのAK-Glc液体培地(試験管内)に植菌し、33℃で16時間、振盪培養を行った。グルコース10%を添加した80mlのAJ液体培地(0.1%KH2PO4、0.1%K2HPO4、0.05%MgSO4、1.4%(NH4)2SO4、200μg/Lビオチン、200μg/Lチアミン、6mg/L FeSO4・7H2O、4.2mg/L MnSO4・H2O、0.6%Yeast Extract(Difco)、0.7%Casamino acids(Difco)、50μg/mlカナマイシン)に初期OD610が0.35になるように植菌し、33℃、pH7.0(5N NH3の添加により自動調整)、DO>10%(300-1500rpmの攪拌回転数制御により自動制御)、0.5vvm(40ml air/min)の条件で48時間、100ml容量ジャーファーメンターで培養を行った。ジャー培養48時間後の各菌株の培養上清中に含まれるメチルアントラニレートについて、HPLC分析により定量を行った。その結果、各菌株のメチルアントラニレート生産濃度は、表9に示すように、MAT12株が5.1mM、MAT14株が7.3mM、MAT15株が5.3mMであった。この結果より、ジャー培養条件においても、Oryza属由来のAAMTの導入菌株であるMAT14株が最も高いメチルアントラニレート生産濃度をもたらすことが示された。
糖類からのメチルアントラニレート生産実験例(3)
試験菌株としては以下に示す4株を用い、各菌株のメチルアントラニレート生産能を調べた。MAT14株の他、遺伝子改変を染色体に導入した菌株として、MAT23(遺伝子型:ΔtrpD)、MAT24(遺伝子型:glnA、ΔtrpD、ΔglnE、ΔglsA)、及びMAT26株(遺伝子型:metK、sahH、ΔtrpD)を構築して用いた。これらの菌株においては、AAMTをプラスミドで高発現させている。また、MAT23、MAT24、及びMAT26株においては、メチルアントラニレートの前駆体であるアントラニル酸の生産強化を狙い、トリプトファン生合成経路においてアントラニル酸の代謝変換を触媒するアントラニル酸ホスホリボシルトランスフェラーゼをコードするtrpD遺伝子を破壊するとともに、コリスミ酸のアントラニル酸への変換を触媒する内在性酵素であるアントラニル酸合成酵素のフィードバック阻害耐性型変異遺伝子であるtrpEG遺伝子をプラスミドにより高発現させている。また、MAT24株では、trpD遺伝子の破壊に加え、アントラニル酸の合成基質として用いられるグルタミンの供給強化に関わる遺伝子改変として、グルタミンシンテターゼをコードするglnA遺伝子の染色体導入による高発現と、グルタミンシンテターゼアデニル化酵素をコードするglnE及びL-グルタミナーゼをコードするglsAの両遺伝子を破壊している。一方、MAT26株では、メチルアントラニレート生成反応におけるメチル基供与体として必要とされるS-アデノシルメチオニン(SAM)の細胞内供給を強化するための遺伝子改変として、SAMシンテターゼをコードするmetK遺伝子及びS-アデノシルホモシステインシンターゼをコードするsahH遺伝子の両遺伝子を染色体導入(高発現)している。なお、アントラニル酸、及びSAMの供給強化に関わるこれらの遺伝子改変のうち、glnA、metK、及びsahHの染色体導入については、これらのうちのいずれか一種の遺伝子の導入でも良く、また、trpD、glnE、及びglsAの遺伝子破壊についても、これらのうちのいずれか一種の遺伝子の破壊又は欠損としても良い。
Claims (7)
- アントラニル酸産生能を有する微生物宿主に、
アントラニレートメチルトランスフェラーゼ(AAMT:anthranilate methyltransferase)活性を有する酵素をコードする遺伝子(A)が発現可能に導入され、
さらに、アデノシルメチオニンシンテターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されて得られる、
メチルアントラニレートを製造するための形質転換体であって、
前記微生物宿主は、コリネバクテリウム グルタミカムであり、
前記遺伝子(A)は、少なくとも、下記の(a)、(b)、(d)及び(e)からなる群から選択される遺伝子である、形質転換体。
(a)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(b)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(d)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列を有する遺伝子。
(e)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。 - さらに、グルタミナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子及びグルタミンシンテターゼアデニリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子の少なくとも一方が破壊されている、請求項1に記載の形質転換体。
- さらに、アデノシルホモシステインシンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されている、請求項1に記載の形質転換体。
- さらに、アントラニレートホスホリボシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が破壊されている、請求項1に記載の形質転換体。
- さらに、グルタミンシンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されている、請求項2に記載の形質転換体。
- 前記微生物宿主は、コリネバクテリウム グルタミカムR(FERM BP-18976)、及びATCC13869からなる群から選択される、請求項1~4のいずれかに記載の形質転換体。
- 請求項1~5のいずれかに記載の形質転換体を、
糖類を含む反応液中で培養してメチルアントラニレートを生産させる工程を含む、
メチルアントラニレートの製造方法。
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