以下に、本開示の実施の形態にかかる駆動装置、圧縮機駆動システム、および冷凍サイクル装置を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる駆動装置の構成を示す図である。駆動装置4は、交流電力を所望の電力に変換して交流電動機1を駆動する装置である。交流電動機1の回転軸は機械装置2と機械的に接続されている。機械装置2は、例えば、冷媒の圧縮機構である。交流電動機1と機械装置2とで圧縮機3が構成されている。駆動装置4および圧縮機3を含んだシステムが、後述する圧縮機駆動システム800である。
なお、圧縮機構は、交流電動機1によって駆動される機械装置2の一例に過ぎず、駆動装置4は他種の機械装置への応用も可能である。駆動装置4は、交流電源5から入力された交流電力を電力変換して交流電動機1を駆動する。駆動装置4と交流電源5との間には、電源インピーダンス(寄生インピーダンス)が存在する。電源インダクタンス6は、電源インピーダンスのインダクタンス成分である。
なお、説明の都合上、ここでは入力電源である交流電源5が三相交流である場合について説明するが、交流電源5が単相交流である場合にも実施の形態1の駆動装置4は適用可能である。
駆動装置4は、ダイオード整流器7と、直流リアクトル8と、コンデンサ9と、直流母線電圧検出部10と、インバータ11と、電流検出部12と、制御部400とを備えている。
駆動装置4では、ダイオード整流器7、直流リアクトル8、コンデンサ9などによってAC-DCコンバータが構成されている。駆動装置4は、このAC-DCコンバータによって、入力交流電圧を直流電圧に変換する。図1に示したAC-DCコンバータは、ごく単純なAC-DCコンバータであるが、力率改善または昇圧などが必要な場合は別種類のAC-DCコンバータが用いられてもよい。
直流リアクトル8の一端はダイオード整流器7の正極側の出力点に接続され、直流リアクトル8の他端はインバータ11の正極側の入力点に接続される。また、直流リアクトル8の他端には、コンデンサ9の一端が接続されている。コンデンサ9の他端は、ダイオード整流器7の負極側の出力点およびインバータ11の負極側の入力点に接続されている。直流リアクトル8およびコンデンサ9は、ダイオード整流器7から出力される直流電力を平滑化するために設けられている。
直流母線電圧検出部10は、コンデンサ9の両端電圧を直流母線電圧VDCとして検出し、制御部400に出力する。インバータ11は、直流電圧を交流電圧に変換し、交流電圧によって交流電動機1を駆動する。
電流検出部12は、インバータ11から交流電動機1に流れる相電流(相電流ベクトルIuvw)を検出して制御部400に出力する。制御部400は、交流電動機1を駆動するための一連の制御演算を行う。制御部400の詳細なハードウェア構成については後述する。
制御部400は、変調部13と、回転子位置演算部14と、電圧指令決定部15と、座標変換部16と、座標変換部17と、ビートレス制御部18と、加算器19とを有している。座標変換部17が第1の座標変換部であり、座標変換部16が第2の座標変換部である。
制御部400は、交流電動機1の制御を回転二相座標系で行う。ここでは、制御部400が、回転子磁石の方向を基準としたdq回転座標系で制御を行う場合について説明するが、制御部400は、dq回転座標系以外の他の座標系で制御を行ってもよい。
制御部400は、回転二相座標系で制御を行うために、固定二相座標と回転二相座標との角度差を求める。実施の形態1の駆動装置4は、dq軸電圧指令ベクトルV*
dqとdq軸電流ベクトルIdqとから、推定磁極位置θ^eと推定角速度ω^eとを推定する。以下、「*」を用いて示される情報は指令の情報であり、「^」を用いて示される情報は推定された情報である。
dq軸電圧指令ベクトルV*
dqは、インバータ11が交流電動機1に印加する電圧に対応している。dq軸電圧指令ベクトルV*
dqは、dq回転座標系での電圧指令ベクトルである。
dq軸電流ベクトルIdqは、電流検出部12が実際に検出しdq回転座標系に座標変換された電流ベクトルである。推定磁極位置θ^eは、交流電動機1が備える回転子の磁極位置を推定した情報である。推定角速度ω^eは、回転子の角速度を推定した情報である。
交流電動機1が回転している最中に発生する速度起電力から回転子の磁極位置を推定する方法としては、適応磁束オブザーバ、拡張誘起電圧オブザーバなど、種々の方法がある。また、制御部400は、エンコーダ、レゾルバといった位置センサを用いて回転子の磁極位置を直接的に観測してもよい。制御部400は、回転子の磁極位置に基づいて、回転子の角速度を算出する。
座標変換部17は、電流検出部12から交流電動機1の相電流ベクトル(三相電流ベクトル)Iuvwを受け付ける。座標変換部17は、相電流ベクトルIuvwを、dq軸電流ベクトルIdqに座標変換する。すなわち、座標変換部17は、三相電流ベクトルを、回転二相座標系の電流ベクトルである2つのベクトル(d軸電流ベクトルおよびq軸電流ベクトル)に変換する。座標変換部17は、この座標変換に推定磁極位置θ^eを用いる。すなわち、座標変換部17は、回転子位置情報である推定磁極位置θ^eに基づいて回転二相変換を行う。座標変換部17は、dq軸電流ベクトルIdqを、回転子位置演算部14、電圧指令決定部15、およびビートレス制御部18に出力する。
電圧指令決定部15は、交流電動機1に印加する電圧指令を決定する。すなわち、電圧指令決定部15は、速度制御演算および電流制御演算を実行して、dq軸電流ベクトルIdqからdq軸電圧指令ベクトルV*
dqを決定する。電圧指令決定部15は、例えば、ベクトル制御によって、dq軸電流ベクトルIdqをd軸電流ベクトルとq軸電流ベクトルとに分解してd軸電圧指令ベクトルとq軸電圧指令ベクトルとを決定する。そして、電圧指令決定部15は、d軸電圧指令ベクトルおよびq軸電圧指令ベクトルからdq軸電圧指令ベクトルV*
dqを決定する。電圧指令決定部15は、速度指令ω*
eと、回転子位置演算部14から送られてくる推定角速度ω^eとが一致するように、dq軸電圧指令ベクトルV*
dqを決定する。速度指令ω*
eは、回転子の角速度の指令である。電圧指令決定部15は、駆動装置4の上位装置が用いる上位プログラムから速度指令ω*
eを取得する。電圧指令決定部15は、dq軸電圧指令ベクトルV*
dqを回転子位置演算部14および座標変換部16に出力する。
回転子位置演算部14は、交流電動機1の回転子の位置情報(回転子位置情報)を演算する。具体的には、回転子位置演算部14は、dq軸電圧指令ベクトルV*
dqとdq軸電流ベクトルIdqとから、推定磁極位置θ^eと推定角速度ω^eとを推定する。
なお、圧縮機3に回転子の位置を検出する位置センサが配置されている場合、回転子位置演算部14は、位置センサが検出した回転子の位置に基づいて、推定磁極位置θ^eと推定角速度ω^eとを推定(演算)してもよい。回転子位置演算部14は、推定磁極位置θ^eを座標変換部17および加算器19に出力する。また、回転子位置演算部14は、推定角速度ω^eを電圧指令決定部15に出力する。
ビートレス制御部18は、インバータ11への電圧指令の電圧位相を操作することによって直流母線電圧VDCの周期脈動に起因するモータ電流(交流電動機1の電流)の脈動を抑制する。ビートレス制御部18は、ユーザによって入力される外乱周波数fdisに基づいて、dq軸電流ベクトルIdqの中に含まれる外乱周波数fdisの成分を抽出し、抽出した成分を低減する電圧位相の操作量(位相変化量)θbを決定する。このとき、ビートレス制御部18は、上位プログラムから取得した速度指令ω*
eに基づいて、交流電動機1のプラントの特性であるプラント情報を計算し、プラント情報をビートレス制御に活用する点が、実施の形態1の駆動装置4の特徴の1つである。外乱周波数fdisは、直流母線電圧VDCの脈動周波数である。ビートレス制御部18は、電圧位相の操作量θbを加算器19に出力する。このように、ビートレス制御部18は、電圧位相の操作量θbを出力することでインバータ11への電圧指令の電圧位相を操作し、これにより、モータ電流の脈動を抑制する。ビートレス制御部18の詳細な内部構成および効果については後述する。
加算器19は、回転子位置演算部14から送られてくる推定磁極位置θ^eに、ビートレス制御部18から送られてくる電圧位相の操作量θbを加算することで、位相角θ^ebを決定する。すなわち、加算器19は、電圧位相の操作量θbと推定磁極位置θ^eとの和を位相角θ^ebに決定する。位相角θ^ebは、外乱周波数fdisに対応する脈動を抑制するために調整された、回転子の磁極位置である。加算器19は、位相角θ^ebを座標変換部16に送る。
座標変換部16は、位相角θ^ebを用いてdq軸電圧指令ベクトルV*
dqを三相電圧指令ベクトルV*
uvwに変換する。すなわち、座標変換部16は、脈動を抑制するために調整された回転子の磁極位置(位相角θ^eb)に基づいて、三相電圧指令ベクトルV*
uvwを生成する。具体的には、座標変換部16は、位相角θ^ebを用いてdq軸電圧指令ベクトルV*
dqの電圧位相を操作し、操作したdq軸電圧指令ベクトルV*
dqを三相電圧指令ベクトルV*
uvwに変換する。座標変換部16は、三相電圧指令ベクトルV*
uvwを変調部13に出力する。
変調部13は、インバータ11を動作させるためのPWM(Pulse Width Modulation)信号を決定する。具体的には、変調部13は、直流母線電圧検出部10から送られてくる直流母線電圧VDCおよび座標変換部16から送られてくる三相電圧指令ベクトルV*
uvwに基づいて、PWM信号を決定し、インバータ11に出力する。
インバータ11は、PWM信号に応じた電圧を交流電動機1に出力する。これにより、交流電動機1は、駆動装置4によって駆動される。一般的に、直流リアクトル8またはコンデンサ9が小容量化されると、直流母線電圧VDCが大きく脈動しやすくなる。入力が三相交流電源の場合、直流母線電圧VDCの脈動周波数である外乱周波数は、電源周波数の6倍になることが知られている。また、単相交流電源の場合、直流母線電圧VDCの脈動周波数である外乱周波数は、電源周波数の2倍になることが知られている。さらに、これらの整数倍の周波数の高調波脈動が生じる。こういった直流母線電圧VDCの脈動により、モータ電流に脈動が生じる。
dq軸電流で見ると、この電流脈動の周波数は、外乱周波数および外乱周波数の整数倍の周波数に一致する。この電流脈動を三相座標上で観測すると、外乱周波数fdisと交流電動機1の相電流の周波数feとの和および差の周波数|fdis±fe|の電流脈動になる。この電流脈動は、差の周波数|fdis-fe|が小さいときに顕在化しやすい。
直流母線電圧VDCの脈動によって生じるこの低周波(外乱周波数fdis)の相電流脈動はビート振動と呼ばれ、古くからさまざまな対策が検討されてきた。ビート振動によって相電流が脈動すると、電流ピーク値の増加によってモータ効率が悪化したり、過電流保護の制約によって交流電動機1の最大出力が低下したり、交流電動機1の振動または騒音が増加したりするなどのデメリットが生じる。
実施の形態1の駆動装置4は、モータ電流の脈動を抑制するためビート振動を自動的に最小化する。駆動装置4は、電圧位相を操作することで、電圧指令の振幅を操作することができないインバータ電圧の電圧飽和領域においてもビート振動を最小化する。
図2は、実施の形態1にかかる駆動装置が電圧位相操作を行わない場合のビート振動を説明するための図である。図3は、実施の形態1にかかる駆動装置が電圧位相操作によってビート振動を抑制する原理を説明するための図である。
図2および図3に示すグラフの横軸はd軸であり、縦軸はq軸である。図2および図3では、駆動装置4が平均的に出力する電圧を(vd0,vq0)で示し、平均的に出力する電流を(id0,iq0)で示している。すなわち、平均的にみると、駆動装置4がvd0およびvq0の電圧を出力しており、交流電動機1にはid0およびiq0の電流が流れているとする。
インバータ11の電圧であるインバータ電圧が飽和しているとき、インバータ電圧は、直流母線電圧VDCの脈動(外乱電圧VD)によって、図2に示すように伸縮する。これによりdq軸電流は、(id0,iq0)の点を中心とした楕円状の軌跡を描く。すなわち、dq軸電流の軌跡である電流軌跡Itaは、楕円状の軌跡となる。このdq軸電流の楕円状の電流軌跡Itaが大きくなるほど、相電流に現れるビート振動も大きくなる。
実施の形態1では、駆動装置4は、インバータ電圧の電圧飽和領域では、電圧指令の振幅を操作することができないので、ビート振動を小さくするために電圧位相を操作する。
一般的に、dq軸電圧指令に対して、適切に電圧位相に変化を与えれば、dq軸電流の楕円軌跡が小さくなることが知られている。こういった電圧位相操作型のビートレス制御は種々検討されているが、効率的にdq軸電流の楕円状の電流軌跡Itaの軌跡を小さくするために、どのような電圧位相変化(電圧位相の操作量θb)を与えればよいのかという点については検討されていなかった。
駆動装置4は、適切に電圧位相を変化させることで、図3に示すように、効率的にdq軸電流の楕円状の電流軌跡Itbを小さくする。図3では、駆動装置4が、電圧位相を位相変化量Pcだけ変化させることで、駆動装置4の電圧の軌跡が電圧軌跡Vtとなり、dq軸電流の楕円状の電流の軌跡が電流軌跡Itbとなった場合を示している。
また、駆動装置4は、ビートレス制御の効果を高めるために、dq軸電流の楕円状の電流軌跡Itbの長短軸方向が、ユーザが所望する角度になるように交流電動機1を駆動する。
実施の形態1では、駆動装置4がdq軸電流の楕円状の電流軌跡Itbを小さくし、且つ長短軸方向をユーザに設定された所望の角度にするために、ビートレス制御部18の構成を後述する図7に示す構成とした。
ここで、効率的にdq軸電流楕円の軌跡を小さくする方法についてさらに詳しく説明する。図4は、実施の形態1にかかる駆動装置が駆動する交流電動機の第1例の等価ブロック線図である。図5は、実施の形態1にかかる駆動装置が駆動する交流電動機の第2例の等価ブロック線図である。
図4および図5では、交流電動機1が永久磁石同期電動機である場合の等価ブロック線図を示している。なお、ここでは説明の都合上、交流電動機1が永久磁石同期電動機である場合について説明するが、交流電動機1は、誘導電動機、同期リラクタンスモータ等の他種の電動機であってもよい。図4および図5に示す第1例および第2例の等価ブロック線図に対応する交流電動機1は、d軸電圧指令v*
dおよびq軸電圧指令v*
qに対してd軸電流idおよびq軸電流iqを発生させる。
図4に示す等価ブロック線図は、一般によく知られている形の等価ブロック線図である。ここで、sはラプラス演算子である。電気角速度ωeがほぼ一定の状態で交流電動機1を駆動した場合、dq座標上における永久磁石同期電動機の入力電圧-出力電流特性はごく簡単なブロック線図で記述できる。
図4に示すように、交流電動機1の第1例の等価ブロック線図は、2つの一次遅れフィルタ21A,21Bと、2つの電気反作用部22A,22Bと、2つの作用部23A,23Bとを有している。
電気反作用部22Aは、一次遅れフィルタ21Aから出力されるd軸電流idに対する電気反作用ωeLdidを作用部23Bに出力する。電気反作用部22Bは、一次遅れフィルタ21Bから出力されるq軸電流iqに対する電気反作用ωeLqiqを作用部23Aに出力する。
作用部23Aは、駆動装置4から受け付けたd軸電圧指令v*
dと電気反作用部22Bが出力したωeLqiqとの和を一次遅れフィルタ21Aに出力する。作用部23Bは、駆動装置4から受け付けたq軸電圧指令v*
qから、電気反作用部22Aが出力したωeLdidおよび速度起電力ωeΦaを減算した指令を一次遅れフィルタ21Bに送る。速度起電力ωeΦaは、回転子が回転する際に誘導される起電力である。
一次遅れフィルタ21Aは、作用部23Aから送られてきた作用結果に応じたd軸電流idを発生させて出力する。このd軸電流idは、電気反作用部22Aに送られる。一次遅れフィルタ21Bは、作用部23Bから出力された作用結果に応じたq軸電流iqを発生させて出力する。このq軸電流iqは、電気反作用部22Bに送られる。
電気角速度ωeがほぼ一定の状態で交流電動機1を駆動した場合、永久磁石同期電動機の等価ブロック線図は線形システムに近似可能である。この近似のもと、図4の等価ブロック線図を等価変形すると、図5の等価ブロック線図が得られる。
図5に示すように、交流電動機1の第2例の等価ブロック線図は、4つの2次伝達関数(2次遅れブロック)24A,24B,25A,25Bと、作用部26,27A,27Bとを有している。
2次伝達関数24Aは、d軸電圧指令v*
dをd軸電流に変換して、作用部27Aに出力する。また、2次伝達関数25Aは、d軸電圧指令v*
dをq軸電流に変換して作用部27Bに出力する。
作用部26は、q軸電圧指令v*
qから速度起電力ωeΦaを減算し、演算結果を2次伝達関数24B,25Bに出力する。2次伝達関数24Bは、作用部26から送られてくる演算結果をq軸電流に変換して作用部27Bに出力する。また、2次伝達関数25Bは、作用部26から送られてくる演算結果をd軸電流に変換して作用部27Aに出力する。
作用部27Aは、2次伝達関数24Aおよび2次伝達関数25Bから送られてくるd軸電流を加算し、加算結果であるd軸電流idを出力する。作用部27Bは、2次伝達関数24Bおよび2次伝達関数25Aから送られてくるq軸電流を加算し、加算結果であるq軸電流iqを出力する。
図6は、実施の形態1にかかる駆動装置が駆動する交流電動機のdq軸電圧からdq軸電流へのボード線図の例を示す図である。dq軸電圧からdq軸電流への伝達関数のボード線図は、2次伝達関数24A,24B,25A,25Bのボード線図である。具体的には、dq軸電圧からdq軸電流への伝達関数のボード線図には、d軸電圧からq軸電流への2次伝達関数25Aのボード線図と、d軸電圧からd軸電流への2次伝達関数24Aのボード線図と、q軸電圧からq軸電流への2次伝達関数24Bのボード線図と、q軸電圧からd軸電流への2次伝達関数25Bのボード線図とがある。すなわち、交流電動機1のdq軸電圧からdq軸電流への伝達関数のボード線図には、d軸電圧指令v*
dからq軸電流iqへのボード線図と、d軸電圧指令v*
dからd軸電流idへのボード線図と、q軸電圧指令v*
qからq軸電流iqへのボード線図と、q軸電圧指令v*
qからd軸電流idへのボード線図とがある。ここでは、d軸電圧(d軸電圧指令v*
d)からq軸電流(q軸電流iq)への伝達関数のボード線図について説明する。
図6に示す上段および下段のグラフの横軸は周波数である。図6に示す上段のグラフの縦軸はゲインであり、下段のグラフの縦軸は位相である。図6には、3つのゲイン特性g1,g2,g3と、3つの位相特性p1,p2,p3とが示されている。
交流電動機1のボード線図は、電気角速度ωeの上昇に伴って変化する。ここでは低速回転のときのゲイン特性をゲイン特性g1で表し、位相特性を位相特性p1で表している。この状況からさらに回転数が上がり、外乱角周波数2πfdisと電気角速度ωeとが接近したときのゲイン特性をゲイン特性g2で表し、位相特性を位相特性p2で表している。この状況からさらに回転数が上がったときのゲイン特性をゲイン特性g3で表し、位相特性を位相特性p3で表している。
d軸電圧からq軸電流への2次伝達関数24Aには共振点があり、その共振角周波数は電気角速度ωeに一致する。外乱角周波数2πfdisと電気角速度ωeが接近すると、この共振特性によって見かけ上、交流電動機1のインピーダンスが低下し、外乱の影響を受けやすくなる。これにより、ビート振動が発生する。d軸電圧からq軸電流への2次伝達関数25Aのボード線図は回転数によって大きく変化する。特に位相特性は、+180度から-180度まで急激に変化する。
図6では、d軸電圧からq軸電流への伝達関数のボード線図を示しているが、図5に示した4つの2次伝達関数24A,24B,25A,25Bの分母多項式は同じであるので、他の3つの2次伝達関数24A,24B,25Bも同様の共振特性を有している。
近年、直流リアクトル8またはコンデンサ9が小容量化される場合が増えてきている。このような状況では、直流母線電圧VDCが大きく脈動しやすいので、外乱角周波数2πfdisと電気角速度ωeとがある程度離れていたとしても、dq軸電流に大きな脈動が現れやすい。このことから、外乱周波数fdisと交流電動機1の相電流の周波数feとの差の周波数|fdis-fe|が大きい条件でも確実に動作するビートレス制御が求められている。
ところが、従来のビートレス制御では、外乱角周波数2πfdisと電気角速度ωeとが接近した状態で動作することを前提にして調整されていた。そのため、外乱角周波数2πfdisと電気角速度ωeとがある程度離れると、意図した安定化した動作を行うことが難しくなる。これは、図6に示したように、交流電動機1のプラントの位相特性(プラント位相)が大きく変化することによって、図3に示した電圧位相の操作が逆効果になりやすいからである。
このように、回転数の上昇に伴うプラント特性(プラント情報)の変化を考慮しない既存のビートレス制御では、回転数の変化によって制御効果が減少するという弱点がある。一方、実施の形態1の駆動装置4は、回転数の上昇に伴うプラント特性の変化を考慮することで、幅広い動作条件でビートレス制御の効果を確実に得る。
図7は、実施の形態1にかかる駆動装置が備えるビートレス制御部の構成を示す図である。ビートレス制御部18は、ノルム演算部101と、重み係数設定部102と、脈動抽出部103と、脈動抑制部104と、プラント情報演算部107とを有している。ノルム演算部101へは、座標変換部17からdq軸電流ベクトルIdqが入力され、脈動抽出部103および脈動抑制部104へは、ユーザから外乱周波数fdisが入力される。また、プラント情報演算部107へは、駆動装置4の上位装置が用いる上位プログラムから速度指令ω*
eが入力される。
ノルム演算部101は、dq軸電流ベクトルIdqのノルム(絶対値)、または重み付きノルムを計算する。ビートレス制御部18は、dq軸電流ベクトルIdqの重み付きノルムを計算する場合に重み係数設定部102を有していればよく、dq軸電流ベクトルIdqのノルムを計算する場合(重み付きノルムを計算しない場合)には重み係数設定部102を有していなくてもよい。重み係数設定部102は、ユーザによって設定される後述の重み係数w1,w2を記憶しておき、ノルム演算部101に重み係数w1,w2を設定する。
重み係数w1は、d軸電流への重みであり、重み係数w2は、q軸電流への重みである。重み係数w1,w2の比率によって、d軸電流およびq軸電流の重みが調整される。ノルムには種々の種類があるが、もっとも有名なノルムは以下の式(1)を用いて計算されるL2ノルムである。
ただし、式(1)でのidおよびiqは、dq軸電流(d軸電流およびq軸電流)である。ノルム演算部101は、式(1)を用いてノルムである|Idq|2を計算する。|Idq|2は、dq軸電流ベクトルIdqの絶対値に相当する。なお、ノルム演算部101は、L2ノルムの代わりに、L1ノルム、L∞ノルムなどを用いてもよい。
また、ノルム演算部101は、重み係数w1,w2を適用した以下の式(2)を用いて重み付きノルムである|Idqw|を計算してもよい。この場合、ノルム演算部101は、重み係数設定部102が記憶している重み係数w1,w2を用いて|Idqw|を計算する。
式(2)での重み係数w1,w2は、ゼロ以上の任意の値とする。なお、式(2)においては、id
2およびiq
2の代わりに、id
3およびiq
3が適用されてもよいし、id
4およびiq
4などが適用されてもよい。また、|Idq|2は、w1=w2=1のときの|Idqw|に等しい。図4では、ノルム演算部101が|Idqw|を計算して脈動抽出部103に出力する場合のビートレス制御部18の構成を示している。
実施の形態1のビートレス制御部18は、ノルム演算部101が演算したノルム(|Idq|2または|Idqw|)の脈動成分を低減する。ビートレス制御部18が、どういったノルムの脈動成分を抑えるかによって、ビートレス制御によって得られる効果が変わってくる。
例えば、相電流ピーク値を抑えたい場合は、ビートレス制御部18は、|Idq|2の脈動を小さく抑える。また、交流電動機1の振動および騒音を抑えたい場合は、ビートレス制御部18は、w1=0、w2=1とし、q軸電流の脈動を抑える。また、ビートレス制御部18は、これらの中間の状態を目指す場合は、w1=0.5、w2=0.5のように重み係数w1,w2を変えてもよい。また、ビートレス制御部18は、w1=0.25、w2=0.75などのように重み係数w1,w2を変えてもよいし、w1=0.75、w2=0.25などのように重み係数w1,w2を変えてもよい。また、ビートレス制御部18は、d軸電流がq軸電流よりも大きいケースでは、w1=1、w2=0とし、d軸電流の脈動を抑えるようにしてもよい。
ノルム演算部101での演算は、dq軸電流の楕円状の電流軌跡Itbの長短軸方向をユーザが所望する角度にするための演算であり、ビートレス制御を効果的に作用させるための演算である。
重み係数設定部102には、ビートレス制御の目的(ビートレス制御によってどのような制御効果を得たいか)に応じて、重み係数w1,w2が設定される。重み係数w1,w2は、駆動装置4のユーザが任意に設定してよい。なお、以下では、重み付けされていないノルムについて説明する場合があるが、ノルムは、重み付きノルムであってもよい。なお、重み係数設定部102は、dq軸電流ベクトルIdq、交流電動機1の回転数などに基づいて、重み係数w1,w2を調整してもよい。
脈動抽出部103は、ノルム演算部101で計算されたノルム(重み付けなしのノルム|Idqw|または重み付きノルム|Idqw|)の脈動成分(周期脈動)を抽出する。このときに脈動抽出部103が抽出する周波数成分は、外乱周波数(基本周波数)fdisの成分および外乱周波数fdisの整数倍の高調波成分である。脈動抽出部103は、何れの抽出方法によってノルムの脈動成分を抽出してもよい。
脈動抽出部103は、例えば、フーリエ級数の原理を用いて、ノルムの脈動のsin成分とcos成分とを分離してノルムの脈動成分を抽出する。また、脈動抽出部103は、バンドパスフィルタを用いて脈動成分を抽出してもよい。以下では、脈動抽出部103が、フーリエ級数の原理を用いてノルムの脈動成分を抽出する場合について説明する。
ここでは、脈動抽出部103にて抽出されたノルムの脈動のsin成分およびcos成分をそれぞれysin、ycosの記号で表す。脈動抽出部103は、ysin、ycosを脈動抑制部104に出力する。
プラント情報演算部107は、回転速度指令である速度指令ω*
eから、プラント情報としてプラントの位相特性であるプラント位相を演算する。ビートレス制御の位相変化量である操作量θbからdq軸電流ベクトルIdqのノルムまたは重み付きノルムの脈動量までの伝達特性は非線形特性となることが多い。この伝達関数は、いくつかの仮定を加えれば、ごく簡単な線形の伝達関数に近似できる場合がある。
ここでは一例として、|vq
*|≫|vd
*|の条件下で、w1=0、w2=1とし、q軸電流の脈動を抑えたい場合について説明する。|vq
*|≫|vd
*|の条件下で電圧位相が操作されると、|vd
*|の電圧変化の方が|vq
*|の電圧変化よりも大きくなるので、電圧位相の操作によって生じる電圧変化は主にd軸方向に生じる。
図5に示した4つの2次伝達関数24A,24B,25A,25Bの何れが制御上重要になるかはケースバイケースである。上述したケースでは、d軸方向の電圧変化によってq軸電流の脈動を抑えたいので、制御上重要になるのは、d軸電圧からq軸電流への伝達特性(2次伝達関数25A)である。そこで、d軸電圧からq軸電流への伝達特性に着眼して、ビートレス制御の位相変化量である操作量θbからdq軸電流ベクトルIdqの重み付きノルムの脈動量への周波数伝達関数を考える。このとき、インバータ電圧が飽和していて、出力電圧振幅がおおむね一定であると仮定すると、以下の式(3)が得られる。
ここで、jは虚数であり、ωは入出力信号の角周波数であり、Raは電機子抵抗であり、Ldはd軸インダクタンスであり、Lqはq軸インダクタンスであり、ωeは電気角速度であり、Vdcは直流母線電圧VDCである。外乱角周波数ωdis=2πfdisの信号に対するプラントの位相特性∠G(jωdis)は、以下の式(4)のように書ける。
ここで、G(jω)は、周波数伝達関数であり、arctan2は、4象限アークタンジェント演算関数を意味する。式(4)式から、位相特性∠G(jωdis)は、電気角速度ωeによって変化することが分かる。また、式(4)のωeにゼロと無限大とをそれぞれ代入すると、位相特性∠G(jωdis)は、180度~0度の範囲で変化することが分かる。位相特性∠G(jωdis)は、ωe≒ωdisの近傍で大きく変化する性質がある。ある圧縮機駆動用の交流電動機1を用いた試算結果では、ωeをωdisの0.9倍から1.1倍の範囲で変化させたときに、位相特性∠G(jωdis)は140度以上変化した。この位相変化は非常に急激なものであるので、この位相変化を考慮せずにビートレス制御を行おうとした場合、脈動抑制効果を安定して得ることが難しくなる。このような理由から、実施の形態1の駆動装置4は、交流電動機1のプラントの位相変化を考慮したビートレス制御を実行する。すなわち、プラント情報演算部107は、式(4)を用いて位相特性∠G(jωdis)を演算する。プラント情報演算部107は、位相特性∠G(jωdis)を脈動抑制部104に送る。
なお、|vq
*|と|vd
*|との比率、またはw1とw2との比率が変わった場合、周波数伝達関数G(jω)および位相特性∠G(jωdis)は、上述した式(3)および式(4)と多少異なる数式となるが、動作点近傍で近似を行えば、類似の数式を導出できる。
脈動抑制部104は、プラントの位相特性∠G(jωdis)を用いて、ysin、ycosが低減されるような電圧位相の操作量θbを計算する。脈動抑制部104は、例えば、プラントの位相特性∠G(jωdis)を用いて、ysin、ycosが最小化されるような電圧位相の操作量θbを自動的に探索する。この計算の具体的な方法については後述する。このように、実施の形態1の駆動装置4は、プラントの位相特性∠G(jωdis)を利用してビートレス制御の性能改善を図る。
なお、駆動装置4は、位相特性∠G(jωdis)に加え、プラントのゲイン特性|G(jωdis)|を利用してもよい。ゲイン特性|G(jωdis)|の利用については、後述する実施の形態3で詳しく説明する。以下、4つの2次共振系を含むプラントモデルの伝達関数、周波数伝達関数、位相特性、ゲイン特性などの情報(駆動装置4がビートレス制御の性能改善に用いる情報)をプラント情報という。プラント情報には、4つの2次共振系を含むプラントモデルの伝達関数、周波数伝達関数、位相特性、およびゲイン特性の少なくとも1つが含まれていればよい。
ここで、脈動抑制部104で行われる計算について詳しく説明する。図8は、実施の形態1にかかるビートレス制御部が備える脈動抑制部の構成を示す図である。脈動抑制部104は、脈動成分の目標値r*とノルムのcos成分との差および脈動成分の目標値r*とノルムのsin成分との差を回転させて、電圧位相の操作量θbを計算する。
脈動抑制部104は、減算器201A,201Bと、回転演算部202と、積分制御部(積分制御器)203A,203Bと、交流復元部204と、回転量調整部205とを具備する。積分制御部203Aが第1の積分制御部であり、積分制御部203Bが第2の積分制御部である。回転演算部202は、脈動抽出部103の内部に配置されてもよい。
脈動抑制部104へは、予め記憶しておいた脈動成分の目標値r*と、ノルムまたは重み付けノルムの脈動のcos成分であるycos、およびsin成分であるysinと、外乱周波数fdisとが入力される。通常、脈動成分の目標値r*はゼロに設定されるが、脈動成分の目標値r*は非ゼロの値(ゼロ以外の値)にしても構わない。
減算器201Aは、脈動成分の目標値r*と、ノルムまたは重み付けノルムの脈動のcos成分であるycosとの差を演算し、演算結果をcos成分の偏差ecosとして回転演算部202に出力する。
減算器201Bは、脈動成分の目標値r*と、ノルムまたは重み付けノルムの脈動のsin成分であるysinとの差を演算し、演算結果をsin成分の偏差esinとして回転演算部202に出力する。
回転演算部202は、ecosと、esinとに対し、以下の式(5)を用いて回転演算を行う。ここでは回転演算後のcos成分をeRcosといい、回転演算後のsin成分をeRsinという。
式(5)におけるθRは、回転演算の回転量である。回転量調整部205は、プラントの位相特性∠G(jωdis)を用いて、回転量θRを決定する。回転量調整部205は、回転量θRを回転演算部202に出力する。
回転演算部202は、回転量調整部205から回転量θRを受け付ける。回転演算部202は、回転量調整部205から受け付けた回転量θRを用いて、ecosとesinとに対して回転演算を行う。
積分制御部203Aは、ycosに対応する偏差eRcos(回転演算されたcos成分)を積分し、積分制御部203Bは、ysinに対応する偏差eRsin(回転演算されたsin成分)を積分する。すなわち、積分制御部203Aは、eRcosに対して積分制御を実行することでxcosを決定し、積分制御部203Bは、eRsinに対して積分制御を実行することでxsinを決定する。xcos、xsinは、それぞれビートレス制御の出力信号のcos成分、sin成分である。積分制御部203A,203Bは、脈動成分の目標値r*と実際の値との誤差を累積させ、この累積値に比例させた量を電圧位相の操作量θbに加えることで積分制御を実行する。
積分制御部203Aは、回転されたcos成分であるeRcosがゼロになるように積分制御を行う。すなわち、積分制御部203Aは、脈動成分の目標値r*と、ノルムまたは重み付けノルムの脈動のcos成分であるycosとの差である偏差ecosがゼロになるように、eRcosからxcosを決定する。すなわち、積分制御部203Aは、ycosが脈動成分の目標値r*に近付くよう積分制御することでxcosを決定する。
また、積分制御部203Bは、回転されたsin成分であるeRsinがゼロになるように積分制御を行う。すなわち、積分制御部203Bは、脈動成分の目標値r*と、ノルムまたは重み付けノルムの脈動のsin成分であるysinとの差である偏差esinがゼロになるように、eRsinからxsinを決定する。すなわち、積分制御部203Bは、ysinが脈動成分の目標値r*に近付くよう積分制御することでxsinを決定する。
なお、ここでは脈動抑制部104が、積分制御部203A,203Bを用いているが、脈動抑制部104は、他の制御部を用いてもよい。例えば、脈動抑制部104は、P(Proportional、比例)制御を行う制御部を用いてもよいし、PI(Proportional-Integral、比例積分)制御を行う制御部を用いてもよいし、PID(Proportional-Integral-Differential、比例積分微分)制御を行う制御部を用いてもよい。
交流復元部204は、積分制御の出力を交流化して電圧位相の操作量θbを決定する。すなわち、交流復元部204は、xcos、xsin、およびfdisに基づいて、電圧位相の操作量θbを演算する。
ここで、最適化の対象となる電圧位相の操作量θbの計算式について説明する。まず、外乱周波数であるfdisを角周波数に換算した換算結果を外乱角周波数ωdisとする。ωdisとfdisとの関係式は、以下の式(6)となる。
ここで、以下の式(7)のようにωdisを時間tで積分した積分結果をθdisの記号で表すことにする。
ここで、fdisは定数とみなすことができるので、θdisは時間tの1次関数として表せる。このとき、電圧位相の操作量θbは、例えば以下の式(8)のように表せる。
式(8)での、xcos、xsinは、それぞれビートレス制御の出力信号のcos成分およびsin成分である。交流復元部204は、式(6)~式(8)にxcos、xsin、およびfdisを適用することで、電圧位相の操作量θbを演算する。式(6)~式(8)にfdisが適用されることで、fdisに対応する正弦波および余弦波が導出され、fdisに対応する操作量θbが導出される。
図9は、実施の形態1にかかるビートレス制御部が備える回転量調整部の構成を示す図である。実施の形態1にかかる回転量調整部205は、加算器309を備えている。加算器309は、プラント情報演算部107から送られてくるプラント位相に、予め記憶しておいたデフォルト値(例えば、90度)を加算することで回転量θRを決定する。加算器309は、回転量θRを回転演算部202に出力する。これにより、ビートレス制御部18は、プラント情報をビートレス制御に反映させることができる。なお、デフォルト値は、何れの理由によって決定された値であってもよい。デフォルト値は、例えば、過去のビートレス制御から推測された経験値(固定値)である。
図10は、実施の形態1にかかるビートレス制御部が、回転量が最適な状態にあるときにビートレス制御を実行した場合の偏差ベクトルの動作パターンを示す図である。図11は、実施の形態1にかかるビートレス制御部が、回転量が最適値から±90度未満の範囲内の状態にあるときにビートレス制御を実行した場合の偏差ベクトルの動作パターンを示す図である。図12は、実施の形態1にかかるビートレス制御部が、回転量が最適値から±90度よりも離れている状態にあるときにビートレス制御を実行した場合の偏差ベクトルの動作パターンを示す図である。
回転量θRが最適値から±90度未満の範囲内の状態にあるときは、回転量θRと最適値との差の絶対値が90度未満の場合である。回転量θRが最適値から±90度よりも離れている状態にあるときは、回転量θRと最適値との差の絶対値が90度よりも大きい場合である。
図10~図12の横軸はcos成分(ecos)であり、縦軸はsin成分(esin)である。図10~図12では、ビートレス制御部18がビートレス制御を実行した場合の、ecosおよびesinから構成される偏差ベクトルE(図示せず)の動作パターンである偏差ベクトル軌跡Etを示している。偏差ベクトルEは、原点から(ecos,esin)に向かうベクトルである。ビートレス制御部18は、(ecos,esin)が原点に近付くよう、すなわち偏差ベクトルEの絶対値が小さくなるように制御する。偏差ベクトル軌跡Etは、「Start」が始点であり、「Goal」が終点である。ビートレス制御による偏差ベクトルEの動作パターン(制御部400の挙動に対応する偏差ベクトル軌跡Et)は、ビートレス制御の内部に積分制御が含まれている場合、回転量θRに応じて、おおまかに4種類に分類できる。
図10に示す第1の動作パターンは、回転量θRが最適な状態にあるときである。この状態のときにビートレス制御部18がビートレス制御を開始すると、ecosとesinとから構成される偏差ベクトルEは、積分制御の作用によって、最短距離で原点に近付いていく。
図11に示す第2の動作パターンは、回転量θRが最適値から±90度未満の範囲内にあるときである。このときに、ビートレス制御部18がビートレス制御を開始すると、偏差ベクトルEは、螺旋を描きながら原点に近付いていく。
図12に示す第3の動作パターンは、回転量θRが最適値から±90度よりも離れているときである。このときに、ビートレス制御部18がビートレス制御を開始すると、偏差ベクトルEは螺旋を描きながら原点から遠ざかっていく。
図示していない第4の動作パターンは、回転量θRが最悪な状態(最適値から180度離れている状態)にあるときである。このときに、ビートレス制御部18がビートレス制御を開始すると、偏差ベクトルEは原点から一直線で遠ざかっていく。
以上のように、脈動抑制部104は、適切な回転量θRが与えられていれば、偏差ecosおよび偏差esinをゼロに制御することが可能であるが、回転量θRが不適切である場合、偏差ecosおよび偏差esinが発散してしまう。このため、実施の形態1にかかるビートレス制御部18は、プラント情報を用いて回転量θRを補正している。これにより、駆動装置4は、プラント情報を用いない従来のビートレス制御よりも安定動作の範囲を広げることができる。
通常、脈動成分の目標値r*はゼロに設定されるので、偏差ecos,esinがゼロになれば、dq軸電流のノルムまたは重み付けノルムの脈動のcos成分であるycos、およびsin成分であるysinもゼロになる。
なお、ビートレス制御部18内に積分制御部203A,203Bが配置されていない場合(例えば、ビートレス制御部18がP制御を実行する場合)、ビートレス制御部18は、偏差ecos,esinをゼロにすることができないが、この場合であってもプラント情報を用いて電圧位相の操作量θbを変化させることで、ビートレス制御の効果を改善できる可能性を高めることができる。
実施の形態1においてノルムまたは重み付けノルムの脈動の最小化を目指す理由は、最小化がインバータ電圧の電圧飽和領域(インバータ過変調領域)で実現できる最も良い状態だからである。直流母線電圧VDCが脈動している場合、dq軸電流の両方に脈動が生じるが、dq軸電流脈動の両方を同時に抑制するためには、電圧の振幅と位相との両方を操作しなければならない。これは制御自由度の観点から考えて自明なことである。インバータ過変調のときのように電圧の位相しかコントロールできない状態では、制御部400が制御できるパラメータは1つだけである。したがって、このような状況下において、制御部400では、電圧の位相を制御することで、ノルムまたは重み付けノルムの脈動の最小化を目指す。
このように、制御部400は、電圧の位相を適切に操作することで任意のノルムまたは重み付けノルムの脈動を最小化する。ただし、積分制御を利用して最適な電圧位相の操作量θbを決定(探索)しようとした場合、図12で説明したような制御発散が生じることがある。そのため、実施の形態1の制御部400は、プラント位相が電気角速度ωeによって大きく変化することを加味して最適な電圧位相の操作量θbを決定している。
これにより、制御部400は、種々の動作条件において、ビート振動による相電流の脈動を的確に抑えることができる。なお、どのようなノルムの脈動を低減するかによってビートレス制御の効果は変わってくる。制御部400は、相電流の脈動を抑制することで、例えば、電流ピーク値の増加によるモータ効率の悪化、過電流保護の制約による交流電動機1の最大出力の低下、交流電動機1の振動および騒音の増加などを防ぐことができる。
図13は、実施の形態1にかかる駆動装置の制御部が実行する制御処理の処理手順を示すフローチャートである。制御部400は、電流検出部12によって検出された交流電動機1に流れる相電流(相電流ベクトルIuvw)を電流検出部12から取得する(ステップS10)。続いて、制御部400は、直流母線電圧検出部10によって検出されたコンデンサ9の両端電圧である直流母線電圧VDCを直流母線電圧検出部10から取得する(ステップS20)。
その後、座標変換部17は、電流の座標変換演算を行う(ステップS30)。すなわち、座標変換部17は、電流検出部12から受け付けた相電流ベクトルIuvwを、推定磁極位置θ^eを用いてdq軸電流ベクトルIdqに座標変換する。
回転子位置演算部14は、回転子位置を演算する(ステップS40)。これにより、回転子位置演算部14は、交流電動機1の回転子の位置情報および回転子の速度情報を取得する。具体的には、回転子位置演算部14は、dq軸電圧指令ベクトルV*
dqとdq軸電流ベクトルIdqとから、回転子の位置情報である推定磁極位置θ^eと、回転子の速度情報である推定角速度ω^eとを推定する。
電圧指令決定部15は、交流電動機1を所望の速度およびトルクで回転させるための電圧指令を演算する(ステップS50)。具体的には、電圧指令決定部15は、速度指令ω*
eと、推定角速度ω^eとが一致するように、dq軸電流ベクトルIdqからdq軸電圧指令ベクトルV*
dqを演算する。
ビートレス制御部18は、ビートレス制御演算を実行する(ステップS60)。これにより、ビートレス制御部18は、電圧位相の操作量θbを決定する。具体的には、ビートレス制御部18は、dq軸電流ベクトルIdqの中に含まれる外乱周波数fdisの成分を抽出し、抽出した成分を低減する電圧位相の操作量θbを決定する。
座標変換部16は、電圧指令を三相座標上の値に座標変換する(ステップS70)。具体的には、座標変換部16は、電圧位相の操作量θbと推定磁極位置θ^eとの和である位相角θ^ebを用いてdq軸電圧指令ベクトルV*
dqを三相電圧指令ベクトルV*
uvwに変換する。
変調部13は、変調演算を実行する(ステップS80)。具体的には、変調部13は、直流母線電圧VDCおよび三相電圧指令ベクトルV*
uvwに基づいて、PWM信号を決定する。変調部13は、インバータ11にPWM信号を与える。
つぎに、ビートレス制御部18の動作について説明する。図14は、実施の形態1にかかる駆動装置のビートレス制御部が実行するビートレス制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
ビートレス制御部18では、重み係数設定部102が、予め記憶しておいた重み係数w1,w2をノルム演算部101に設定する(ステップS110)。ノルム演算部101は、ノルム演算を実行する(ステップS120)。すなわち、ノルム演算部101は、dq軸電流ベクトルIdqのノルムまたは重み付きノルムを計算する。
脈動抽出部103は、ノルム演算部101で計算されたノルムまたは重み付きノルムの脈動抽出演算を実行する(ステップS130)。すなわち、脈動抽出部103は、外乱周波数fdisの成分およびfdisの整数倍の高調波成分に基づいて、ノルムまたは重み付きノルムに含まれる脈動成分を抽出する。脈動抽出部103は、ノルムの脈動のsin成分およびcos成分をそれぞれysin、ycosとして脈動抑制部104に出力する。
プラント情報演算部107は、プラント情報を演算する(ステップS140)。すなわち、プラント情報演算部107は、dq軸電圧指令ベクトルV*
dqおよびdq軸電流ベクトルIdqからプラント情報を演算する。脈動抑制部104は、脈動抑制演算を実行する(ステップS150)。すなわち、脈動抑制部104は、脈動成分を低減するような電圧位相の操作量θbを決定(自動探索)する。
つぎに、脈動抑制部104の動作について説明する。図15は、実施の形態1にかかる駆動装置の脈動抑制部が実行する脈動抑制処理の処理手順を示すフローチャートである。脈動抑制部104は、以下の手順でノルムまたは重み付けノルムの脈動が最小となる点を決定する。
減算器201Aは、cos成分の偏差ecosを演算し、減算器201Bは、sin成分の偏差esinを演算する(ステップS210)。回転量調整部205は、プラント情報に基づいて、回転量θRを調整する(ステップS220)。回転量調整部205は、調整した回転量θRを回転演算部202に設定する。
回転演算部202は、回転量θRを用いて、ベクトルの回転演算を行う(ステップS230)。具体的には、回転演算部202は、ecosと、esinと、回転量θRとを式(5)に適用することで、回転演算後のcos成分であるeRcosと、回転演算後のsin成分であるeRsinとを演算する。
積分制御部203A,203Bは、積分制御演算を実行する(ステップS240)。具体的には、積分制御部203Aは、回転演算後のeRcosを積分することで、ビートレス制御の出力信号のcos成分であるxcosを決定し、積分制御部203Bは、回転演算後のeRsinを積分することで、ビートレス制御の出力信号のsin成分であるxsinを決定する。
交流復元部204は、交流復元演算を実行する(ステップS250)。具体的には、交流復元部204は、式(6)~式(8)にxcos、xsin、およびfdisを適用することで、電圧位相の操作量θbを演算する。駆動装置4は、電圧位相の操作量θbを用いて交流電動機1を駆動することで、動作条件が大きく変化しても、電流のビート振動を効果的に抑制することが可能となる。
つづいて、駆動装置4が備える制御部400のハードウェア構成について説明する。図16は、実施の形態1にかかる駆動装置が備える制御部を実現するハードウェア構成の一例を示す図である。
制御部400は、プロセッサ91、メモリ92、および周辺機器93により実現される。なお、実施の形態1だけでなく、他の実施の形態においても、制御部400は、プロセッサ91、メモリ92、および周辺機器93により実現される。
制御部400の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアは制御プログラムとして記述され、メモリ92に格納される。制御部400を実現する処理回路では、メモリ92に記憶された制御プログラムをプロセッサ91が読み出して実行することにより、各機能を実現する。この制御プログラムは、制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体により提供されてもよいし、通信媒体など他の手段により提供されてもよい。制御プログラムは、図13のステップS10~S80の処理を制御部400に実行させるプログラムであるとも言える。
プロセッサ91は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)、またはシステムLSI(Large Scale Integration)である。
メモリ92は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリー、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)といった不揮発性または揮発性の半導体メモリを例示できる。また、メモリ92は、これらに限定されず、磁気ディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)でもよい。
周辺機器93は、例えば、PWMパルス発生回路、アナログデジタル変換回路、エンコーダカウンタなどである。PWMパルス発生回路は、変調部13に配置されている。PWMパルス発生回路は、インバータ11およびAC-DCコンバータの駆動に用いられる。
アナログデジタル変換回路は、変調部13、座標変換部17などに配置されている。アナログデジタル変換回路は、例えば、直流母線電圧VDCおよび交流電動機1の相電流の検出などに用いられる。
エンコーダカウンタは、圧縮機3に配置された位置センサによって回転子の位置が検出される場合に、回転子位置演算部14に配置される。エンコーダカウンタは、例えば、回転子位置情報の取得に用いられる。
このように、実施の形態1によれば、駆動装置4の制御部400は、プラント情報に基づいて脈動成分を最小化するような電圧位相の操作量θbを計算するので、電圧指令の振幅を操作することができないインバータ電圧の電圧飽和領域においても、種々の運転条件で意図した通りに脈動を小さくすることができる。これにより、制御部400は、煩雑な制御調整を行うことなく、直流母線電圧VDCの脈動によって生じるビート振動を効果的に抑制することができる。
また、制御部400は、ビート振動を効果的に抑制することができるので、直流リアクトル8およびコンデンサ9の小型化および小容量化が可能となる。これにより、駆動装置4の製造コストを低減できるとともに、省エネルギー性能の向上を図ることができる。
また、制御部400は、ビート振動の抑制によって、電流ピーク値の増加によるモータ効率の悪化、過電流保護の制約によるモータの最大出力の低下、交流電動機1の振動および騒音の増加などを防ぐことができる。
また、制御部400は、抽出された脈動成分を最小化するような電圧位相の操作量θbを演算し、この操作量θbを用いてインバータ11を制御するので、駆動装置4の運転条件、駆動装置4の設置条件によらず電流脈動の低減効果を容易に安定させることができる。したがって、制御部400は、駆動装置4の動作条件および設置条件が大きく変化しても、電流のビート振動を効果的に抑制することができる。
実施の形態2.
つぎに、図17から図24を用いて実施の形態2について説明する。回転量θRの最適値は、プラント情報に限らず、電源インダクタンス6(電源インピーダンスのインダクタンス成分)によっても変わってくる。また、想定した動作点と異なる動作点で交流電動機1を駆動しなければいけないケースもある。そこで、実施の形態2では、種々の条件でビートレス制御を安定化する方法を説明する。実施の形態2では、プラント情報とともに、プラント情報以外の種々の情報も用いてビートレス制御を安定化させる。
図17は、実施の形態2にかかるビートレス制御部が備える脈動抑制部の構成を示す図である。図17の各構成要素のうち図8に示す実施の形態1の脈動抑制部104と同一機能を達成する構成要素については同一符号を付しており、重複する説明は省略する。
実施の形態2のビートレス制御部18は、実施の形態1のビートレス制御部18と比較して、脈動抑制部104の代わりに脈動抑制部104Aを有している。実施の形態2の脈動抑制部104Aは、実施の形態1の脈動抑制部104と比較して、回転量調整部205の代わりに回転量調整部206を有している。
実施の形態2の脈動抑制部104Aは、実施の形態1の脈動抑制部104とは異なり、回転量調整部206がcos成分の偏差ecos、およびsin成分の偏差esinを用いて、回転量θRを修正する。
図18は、実施の形態2にかかるビートレス制御部がビートレス制御を実行した場合の偏差ベクトルの動作パターンを示す図である。図18の横軸はcos成分(ecos)であり、縦軸はsin成分(esin)である。図18では、ビートレス制御部18がビートレス制御を実行した場合の、ecosおよびesinから構成される偏差ベクトルE(図示せず)の動作パターンである偏差ベクトル軌跡Etを示している。偏差ベクトル軌跡Etは、「Start」が始点であり、「Goal」が終点である。
実施の形態2の駆動装置4は、dq軸電流のノルムまたは重み付けノルムの脈動のcos成分であるycosまたはsin成分であるysinが意図せずに増加している場合、この増加を検知する。回転量調整部206は、ycosおよびysinの意図しない増加を検知すると、ビートレス制御が異常状態にある(回転量θRが不適切な状態である)と判断し、回転量θRを修正する。回転量調整部206は、この修正動作によってycosおよびysinを減少させる探索方向を発見することで、偏差ベクトルEを最終的にゼロにする。これにより、駆動装置4は、いかなる動作条件においても確実にビート振動を抑制することができる。
ここでビートレス制御部18が修正する探索方向の概念について説明する。図19は、実施の形態2にかかるビートレス制御部が修正する探索方向を説明するための第1の説明図である。図20は、実施の形態2にかかるビートレス制御部が修正する探索方向を説明するための第2の説明図である。図21は、実施の形態2にかかるビートレス制御部が修正する探索方向を説明するための第3の説明図である。図22は、実施の形態2にかかるビートレス制御部が修正する探索方向を説明するための第4の説明図である。
図19~図22では、ビートレス制御部18が修正する探索方向のイメージを示している。図19~図22の横軸はcos成分(ecos,eRcos,xcos)であり、縦軸はsin成分(esin,eRsin,xsin)である。図19~図21では、図10~図12に対し、回転演算後の偏差ベクトルER(図示せず)の動作パターン(軌跡)である偏差ベクトル軌跡ERtと、出力信号ベクトルx(図示せず)の動作パターンである出力信号軌跡xtと、探索方向のイメージを表す扇形領域とを追記している。回転演算後の偏差ベクトルERは、回転演算部202によって回転演算前の偏差ベクトルEを回転演算した回転結果のベクトルである。出力信号軌跡xtは、ビートレス制御の出力信号ベクトルxの軌跡である。
偏差ベクトルERは、原点から(eRcos,eRsin)に向かうベクトルであり、偏差ベクトルEは、前述したように、原点から(ecos,esin)に向かうベクトルである。ここでは、回転演算前の偏差ベクトルEおよび回転演算後の偏差ベクトルERの理想値が、ゼロ(原点)である場合について説明する。
図19~図22では、探索方向のイメージを、人間の視野を模した扇形の図形(扇形領域)で示している。扇形領域の中心がある時刻での出力信号ベクトルxの位置であるとした場合、扇形領域の弧の部分がその時刻での前方方向の視野のイメージである。
具体的には、図19では、探索方向のイメージを探索方向イメージSD1で示し、図20では、探索方向のイメージを探索方向イメージSD2,SD3で示している。また、図21では、探索方向のイメージを探索方向イメージSD4,SD5,SD6で示し、図22では、探索方向のイメージを探索方向イメージSD7,SD8で示している。
図19に示す探索方向イメージSD1は、回転量θRが最適な値である場合の探索方向イメージである。回転量θRが最適な場合、探索方向イメージSD1は、探索を開始してから完了するまで変化させる必要がない。
図20に示す探索方向イメージSD2,SD3は、回転量θRが適切な値である場合の探索方向イメージである。探索方向イメージSD2は、探索を開始した際の探索方向のイメージであり、探索方向イメージSD3は、探索を完了できた際の探索方向のイメージである。すなわち、探索方向イメージSD3は、探索方向イメージSD2を用いた探索開始から特定時間が経過した後の探索方向イメージである。
図21に示す探索方向イメージSD4,SD5,SD6は、回転量θRが不適切な値である場合の探索方向イメージである。探索方向イメージSD4は、探索を開始した際の探索方向のイメージであり、探索方向イメージSD5は、探索中の探索方向のイメージであり、探索方向イメージSD6は、探索を失敗した際の探索方向のイメージである。すなわち、探索方向イメージSD5は、探索方向イメージSD4を用いた探索開始から特定時間が経過した後の探索方向イメージである。探索方向イメージSD6は、探索方向イメージSD5を用いた探索から特定時間が経過した後の探索方向イメージである。
図19~図21では、回転演算前の偏差ベクトルEが、偏差ベクトルEの初期値Esの地点から偏差ベクトルEの理想値Eiの地点(原点)へと向かおうとする際の軌跡を偏差ベクトル軌跡Etとして図示している。
また、図19~図21では、回転演算後の偏差ベクトルERが、偏差ベクトルERの初期値ERsの地点から偏差ベクトルERの理想値Eiの地点(原点)へと向かおうとする際の軌跡を偏差ベクトル軌跡ERtとして図示している。
また、図22では、図21に示すように回転量θRが不適切で探索に失敗し、回転量θRが調整された後に、偏差ベクトルERの初期値ERsの地点から偏差ベクトルERの理想値Eiの地点(原点)へと向かおうとする際の軌跡を偏差ベクトル軌跡ERt2として図示している。
ここでは、出力信号ベクトルxの理想値を探索することができれば、回転演算前の偏差ベクトルEおよび回転演算後の偏差ベクトルERをゼロにすることができるものとする。ただし、ビートレス制御部18は、出力信号ベクトルxの理想値が図中のどこにあるかを事前に知ることはできない。
ビートレス制御部18は、出力信号ベクトルxの理想値の探索に成功したか否かを、偏差ベクトルE,ERを観測することによってのみ判断できる。ただし、出力信号ベクトルxは、探索範囲が制限されている。すなわち、出力信号ベクトルxには、探索可能な範囲である探索可能範囲SRが設けられている。出力信号ベクトルxの理想値が探索可能範囲SR内にない場合は偏差ベクトルE,ERをゼロにすることができないので、ビートレス制御部18は、探索可能範囲SR内で偏差ベクトルE,ERを最小化するような出力信号ベクトルxを探索するものとする。
出力信号ベクトルxの初期値xsは任意の値であり、多くの場合はゼロに設定されるが、ここでは作図の都合上、非ゼロの値としている。また、偏差ベクトルE,ERの初期値は、非ゼロの任意の値とした。図19~図21では、偏差ベクトルEの初期値を初期値Esで示し、偏差ベクトルERの初期値を初期値ERsで示している。なお、偏差ベクトルERの初期値ERsは、偏差ベクトルEの初期値Esと同じであってもよい。
図19では、実施の形態2にかかるビートレス制御部18が、回転量θRが最適な状態にあるときにビートレス制御を実行した場合の偏差ベクトルE,ERおよび出力信号ベクトルxの動作パターンを表している。
偏差ベクトルEの軌跡である偏差ベクトル軌跡Etと、回転演算後の偏差ベクトルERの軌跡である偏差ベクトル軌跡ERtとは、回転量θRの分だけ位相が異なっている。回転量θRが理想的な状態にあるとき、偏差ベクトルE,ERは、初期値Es,ERsから偏差ベクトルE,ERの理想の地点である理想値Ei(原点)に向かって最短距離で移動していく。そのためには、出力信号ベクトルxも同様に初期値xsから出力信号ベクトルxの理想の地点である理想値xiに向かって最短距離で移動する必要がある。
出力信号ベクトルxは、偏差ベクトルERを積分したベクトルであるので、偏差ベクトルERの方向と理想的な出力信号ベクトルxの移動方向とが一致していなければ、出力信号ベクトルxの最短距離での移動は不可能である。この場合において、偏差ベクトルERの方向を調整するためのパラメータが回転量θRであるので、ビートレス制御部18は、回転量θRを最適な状態にすれば、偏差ベクトルE,ERを理想値Eiに向かって最短距離で移動させることができる。
出力信号ベクトルxは、原点から見た偏差ベクトルERの向きに沿って移動していくので、原点から見た偏差ベクトルERの向きは出力信号ベクトルxの探索方向であると考えることができる。あるいは、ビートレス制御の探索方向は、出力信号ベクトルxのおおよその進行方向であると言える。
図19に示す扇形領域(探索方向イメージSD1)は、回転量θRが最適値である場合の視野に対応している。この場合、出力信号ベクトルxの理想値xiが探索方向の延長線上にあるので、出力信号ベクトルxの理想値xiの探索はスムーズに成功する。
図20に示す扇形領域(探索方向イメージSD2,SD3)は、回転量θRが最適値から±90度未満の範囲内にある場合の視野に対応している。この場合、出力信号ベクトルxの理想値xiの方向と探索方向との間に多少のずれがある。ビートレス制御部18における内部の積分制御(積分制御部203A,203Bによる積分制御)によって探索方向の多少のずれは許容されるので、ビートレス制御部18は、偏差ベクトルE,ERを最終的に理想値Eiに到達させることができる。ただし、出力信号ベクトルxが、出力信号ベクトルxの理想値xiに最短距離で向かわない分、偏差ベクトルE,ERは螺旋を描くような形で減少していくことになる。
図21に示す扇形領域(探索方向イメージSD4,SD5,SD6)は、回転量θRが最適値から±90度よりも離れている場合の視野に対応している。この場合、出力信号ベクトルxの理想値xiの方向と探索方向との間に大きなずれがある。この場合、ビートレス制御部18は、出力信号ベクトルxを変化させても偏差ベクトルE,ERが意図した通りに減少しないので、探索方向が一意に定まらず、偏差ベクトルE,ERが理想値Eiとは異なる地点に向かうように出力信号ベクトルxを操作してしまう。このため、ビートレス制御部18は、偏差ベクトルE,ERが螺旋を描くような軌跡で偏差ベクトルE,ERを増加させてしまい、ビートレス制御に失敗する。
図21では、探索に失敗したことが検知された際の偏差ベクトルE,ERの地点を、それぞれ偏差ベクトルEf,ERfで示している。また、図21では、探索に失敗したことが検知された際の出力信号ベクトルxの地点を到達値xfで示している。
実施の形態2では、偏差ベクトルE,ERが図21に示すような動作を行った場合に備えて、ビートレス制御部18に、回転量θRの最適値の探索に失敗したことを検知する探索失敗検知部が設けられてもよい。図21で説明した動作において探索に失敗した原因は、探索方向が不適切であった(言い換えると、回転量θRが不適切であった)からである。ビートレス制御部18は、探索に失敗した場合は探索の失敗を検知して探索方向を修正することで、いずれ回転量θRの最適値の探索に成功することができる。
図22では、回転量θRの最適値の探索に失敗した後、探索方向を修正して再度探索が実行された場合の動作イメージを示している。すなわち、図22に示す挙動は、ビートレス制御部18が、探索の失敗を検知した場合に、回転量θRを調整し、回転量θRを適切な値に再設定したときの挙動である。なお、図22でも図21と同様に、探索に失敗したことが検知された際の偏差ベクトルE,ERの地点を、それぞれ偏差ベクトルEf,ERfで示している。
図22では、修正前の回転量を回転量BθRで示し、修正後の回転量を回転量AθRで示している。また、図22では、探索に失敗したことが検知された際の探索方向イメージSD7に対して、ビートレス制御部18が、回転量BθRを調整した後の探索方向イメージを探索方向イメージSD8で示している。ビートレス制御部18が回転量BθRを調整すると、回転量が回転量AθRとなり、回転演算後の偏差ベクトルERおよび探索方向が変化する。
図22では、回転量BθRが調整された後の出力信号ベクトルxの軌跡を軌跡xt2で示している。また、図22では、調整後の回転量AθRによって回転演算された偏差ベクトルERの軌跡を偏差ベクトル軌跡ERt2で示している。また、図22では、調整後の回転量AθRによって回転演算された偏差ベクトルEの軌跡を偏差ベクトル軌跡Et2で示している。
仮に、回転量BθRの調整によって回転量AθRが最適値となった場合、出力信号ベクトルxの理想値xiは探索方向の延長線上にくるので、最適値の探索はスムーズに完了する。
なお、図22では、説明の都合上、1度の回転量θRの調整で回転量θRを最適値に調整できた場合について説明したが、実際には回転量θRの最適値は不明であるので、回転量θRの調整は積分制御部203A,203Bによって複数回に渡って少しずつ行われる。
また、ビートレス制御部18は、後述の外積演算とPID制御とを組み合わせた方法によって、ビートレス制御の動作中に常に回転量θRを修正し続けてもよい。このような回転量θRの修正プロセスによって、偏差ベクトルEは、図18に示したような複雑な偏差ベクトル軌跡Etを通って原点に近づく場合がある。また、偏差ベクトルEは、図22に示したように、回転量θRの修正後に、偏差ベクトルEが直線的な偏差ベクトル軌跡Et2で原点に向かう場合もある。
ビートレス制御では、出力信号ベクトルxの理想値xiが何れの地点にあるかは不明であり、出力信号ベクトルxが不適切な方向に操作されてしまうとビート振動が増加してしまうので、出力信号ベクトルxの理想値xiの探索は慎重に行われる必要がある。このため、実施の形態2では、ビートレス制御部18が、ビートレス制御の探索方向を適宜修正することで、出力信号ベクトルxが理想値xiに確実に到達できるようにしている。
回転量調整部206は、何れの方法によって回転量θRを調整してもよい。回転量調整部206は、例えば、後述の外積演算とPID制御とを組み合わせた方法によって回転量θRを修正(調整)する。また、回転量調整部206は、AI(Artificial Intelligence、人工知能)または機械学習を用いて回転量θRを自動探索してもよい。
ここで、回転量θRの調整方法の一例について説明する。図23は、実施の形態2にかかるビートレス制御部がビートレス制御を実行している際の偏差ベクトルの第1の挙動を示す図である。図24は、実施の形態2にかかるビートレス制御部がビートレス制御を実行している際の偏差ベクトルの第2の挙動を示す図である。図25は、実施の形態2にかかるビートレス制御部がビートレス制御を実行している際の偏差ベクトルの第3の挙動を示す図である。
図23~図25の横軸はcos成分(ecos)であり、縦軸はsin成分(esin)である。図23~図25では、脈動抑制部104Aがビートレス制御を実行している際のecosおよびesinから構成される偏差ベクトルEの挙動を模式的に示している。
脈動抑制部104Aは、ビートレス制御が適切に行われているか否かを、偏差ベクトルEと、偏差ベクトルEの時間微分ベクトル(d/dt)Eとを調べることで判別できる。以下、偏差ベクトルEの時間微分ベクトル(d/dt)Eを時間微分ベクトル(d/dt)Eという場合がある。
図23に示す偏差ベクトルEの第1の挙動のように、偏差ベクトルEと時間微分ベクトル(d/dt)Eとが逆位相である場合、脈動抑制部104Aは、ビートレス制御が良好に行われていると判断する。
また、図24に示す偏差ベクトルEの第2の挙動のように、偏差ベクトルEの垂直線よりも時間微分ベクトル(d/dt)Eの向きが内側(原点側)にある場合、脈動抑制部104Aは、ビートレス制御はある程度適切に行われていると判断する。
図25に示す偏差ベクトルEの第3の挙動のように、偏差ベクトルEの垂直線よりも時間微分ベクトル(d/dt)Eの向きが外側にある場合、脈動抑制部104Aは、ビートレス制御が適切に行われていないと判断する。
図25に示す偏差ベクトルEの状態を放置すると、ビートレス制御が不安定化して発散するので、脈動抑制部104Aは、偏差ベクトルEが図23または図24に示す状態になるように回転量θRを修正する。
なお、脈動抑制部104Aは、図24に示すように、偏差ベクトルEの垂直線よりも時間微分ベクトル(d/dt)Eの向きが内側にある場合に、時間微分ベクトル(d/dt)Eの向きがさらに内側に向くように回転量θRを修正してもよい。
脈動抑制部104Aは、回転量θRを修正するために、ビートレス制御が適切に行われているか否かを定量的な数値(評価値)で評価する。脈動抑制部104Aは、評価値に応じた修正量で回転量θRを修正する。
図26は、実施の形態2にかかる脈動抑制部が、ビートレス制御が適切に行われているか否かを評価するための評価値を説明するための図である。図26の横軸はcos成分であり、縦軸はsin成分である。
図26では、評価値の定義の一例を示している。脈動抑制部104Aは、例えば、偏差ベクトルEと、偏差ベクトルEの時間微分ベクトル(d/dt)Eとの外積(2つのベクトルがなす平行四辺形の面積)を利用して、ビートレス制御の動作の妥当性を評価する。ここでは、ビートレス制御が適切に行われているか否かを評価するための評価値をCdで示している。偏差ベクトルEと、偏差ベクトルEの時間微分ベクトル(d/dt)Eとの外積がCdである。
脈動抑制部104Aは、偏差ベクトルEと、偏差ベクトルEの時間微分ベクトル(d/dt)Eとがなす平行四辺形の面積が小さいほど、回転量θRの修正量を小さくする。これにより、偏差ベクトルEと時間微分ベクトル(d/dt)Eとのなす角度が180度に近いほど、または0度に近いほど回転量θRの修正量が小さくなる。すなわち、脈動抑制部104Aは、偏差ベクトルEと時間微分ベクトル(d/dt)Eとのなす角度が90度に近いほど回転量θRの修正量を大きくする。
図27は、実施の形態2にかかる脈動抑制部が有する回転量調整部の構成を示す図である。実施の形態2の回転量調整部206は、外積演算部300と、不感帯305と、PID制御部306と、加算器309とを有している。
外積演算部300は、疑似微分器302A,302Bと、乗算器303A,303Bと、減算器304とを備えている。回転量調整部206へは、プラント情報演算部107からプラント位相が入力される。
なお、図27で示している記号sはラプラス演算子である。回転量調整部206に対しては、疑似微分器302A,302Bの代わりに、ローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter、低域通過濾波器)のない微分器が用いられてもよいが、図27では、微分ノイズを除去するためのローパスフィルタが付与された疑似微分器302A,302Bが用いられる場合について説明する。
外積演算部300へは、減算器201Aから偏差ecosが入力され、減算器201Bから偏差esinが入力される。
外積演算部300は、前述の外積演算によって評価値であるCdを計算する。外積演算部300では、偏差ecosが疑似微分器302Aおよび乗算器303Bに入力され、偏差esinが疑似微分器302Bおよび乗算器303Aに入力される。
疑似微分器302Aは、偏差ecosを時間tで微分してローパスフィルタを通すことによって(d/dt)ecosを算出し、乗算器303Aに出力する。乗算器303Aは、esinと(d/dt)ecosとを乗算し、乗算結果を減算器304に出力する。
疑似微分器302Bは、偏差esinを時間tで微分してローパスフィルタを通すことによって(d/dt)esinを算出し、乗算器303Bに出力する。乗算器303Bは、ecosと(d/dt)esinとを乗算し、乗算結果を減算器304に出力する。
減算器304は、乗算器303Aから出力された乗算結果から、乗算器303Bから出力された乗算結果を減算することで、評価値であるCdを計算する。減算器304は、Cdを不感帯305に出力する。
不感帯305は、ビートレス制御が最終値に収束した後に回転量θRの調整を停止させる。回転量θRの調整が必要以上に行われることは、ビートレス制御の安定性の面で好ましくないので、実施の形態2の回転量調整部206は、ビートレス制御が最終値に収束した後、不感帯305によって回転量θRの調整を停止させている。なお、回転量調整部206が不感帯305を用いることは一例であり、回転量θRの調整を停止させるための仕組みとして不感帯305以外の他の回路等が用いられてもよい。
PID制御部306は、不感帯305から出力されてくる信号に対してPID制御を実行し、回転量θRを加算器309に出力する。なお、回転量θRの調整も何れの回路を用いて行われてもよい。回転量θRの調整は、例えば、PI制御を実行するPI制御部で行われてもよい。さらに良い制御結果が期待できるのであれば、別種類の制御部またはAIを用いて回転量θRが調整されてもよい。
加算器309は、PID制御部306から送られてくる回転量θRに、プラント情報演算部107から送られてきたプラント位相と、予め記憶しておいたデフォルト値(例えば、90度)とを加算することで回転量θRを修正する。加算器309は、加算結果である回転量θRを回転演算部202に出力する。
このように、実施の形態2の回転量調整部206は、回転量θRを、デフォルト値と、PID制御部306からの出力と、プラント情報(プラント位相)との和によって決定する。
回転量調整部206が回転量θRを変化させると、ビートレス制御の動作が適正化され、評価値Cdが減少していく。評価値Cdが特定値まで減少すると、回転量θRの変化が停止する。このとき、回転量θRは、適切な値になっているので、偏差ベクトルEはいずれゼロに収束する。
つぎに、回転量調整部206の動作について説明する。図28は、実施の形態2にかかる回転量調整部が実行する回転量調整処理の処理手順を示すフローチャートである。
外積演算部300は、ビートレス制御が適切に行われているかを判定するための評価値であるCdを、外積演算によって計算する(ステップS320)。すなわち、外積演算部300は、減算器201Aが演算したcos成分の偏差ecosと、減算器201Bが演算した偏差esinとに基づいて、評価値であるCdを演算する。
回転量調整部206の不感帯305は、不感帯処理を実行する(ステップS330)。回転量調整部206のPID制御部306は、PID制御演算を行い(ステップS340)、評価値Cdがゼロになるように回転量θRを修正する。
加算器309は、加算処理を実行する(ステップS370)。具体的には、加算器309は、PID制御部306から送られてくる回転量θRに、プラント情報演算部107から送られてきたプラント位相と、デフォルト値(例えば、90度)とを加算することで回転量θRを調整する。
このように、実施の形態2によれば、駆動装置4の制御部400は、回転量θRが不適切な状態である場合に、不適切な状態を自動的に検知し、回転量θRを修正するので、煩雑な制御調整を行うことなく、直流母線電圧VDCの脈動によって生じるビート振動を効果的に抑制することができる。
また、実施の形態2によれば、ycosおよびysinの意図しない増加を検知すると、回転量θRを修正するので、種々の動作条件に対して確実にビート振動を抑制することができる。
実施の形態3.
つぎに、図29および図30を用いて実施の形態3について説明する。実施の形態2で説明したビートレス制御では、積分が行なわれており、実施の形態3でのビートレス制御でも積分制御が行なわれる。積分制御の制御ゲインは、適切に決定されないと、制御応答が緩慢になるか、または振動的になる。そのため、制御応答が所望の波形になるように、制御ゲインを適切に決定する必要がある。実施の形態3では、プラントのゲイン特性を利用して制御ゲインを決定する。
ここでは一例として、ビートレス制御のプラントが、式(3)の周波数伝達関数として表せる場合について説明する。外乱角周波数ωdis=2πfdisの信号に対するプラントのゲイン特性|G(jωdis)|は、以下の式(9)のように書ける。
式(9)から、ゲイン特性|G(jωdis)|は、電気角速度ωeによって変化することがわかる。ωe≒ωdisの近傍では|G(jωdis)|が増加する。すなわち、ωeとωdisとが近い場合には、見かけ上のインピーダンスが下がる。このため、わずかな電圧変化でも交流電動機1の電流は過敏に変化する。
一方、ωeとωdisとが離れると、|G(jωdis)|が減少する。すなわち、ωeとωdisとが遠い場合には、見かけ上のインピーダンスが上がる。このため、大きな電圧変化を与えなければ、交流電動機1の電流は変化しないことになる。
このように、ビートレス制御のプラントのゲイン特性は電気角速度ωeによって変化するので、ゲイン変化を考慮せずにビートレス制御を行おうとした場合、脈動抑制効果を安定して得ることが難しい。このような理由から実施の形態3では、プラントのゲイン変化を考慮したビートレス制御を行う。
回転量θRが適正なときに、ビートレス制御が任意の応答角周波数ωctrlで応答するようにするには、後述する実施の形態3の脈動抑制部104Bが備える積分制御部203A,203Bの制御ゲインKiを、以下の式(10)のように決定すればよい。
式(10)のように、ゲイン特性|G(jωdis)|の変化に応じて、制御ゲインKiを増減させれば、ビートレス制御の応答が緩慢になることも振動的になることも防ぐことができる。これにより、また、ビートレス制御部18Bは、いかなる動作条件においても確実にビート振動を抑制することができる。
ここでは、脈動抑制部104Bが備える制御部(制御器)が積分制御部203A,203Bである場合について説明したが、脈動抑制部104Bが備える制御部は、PI制御を行う制御部、またはPID制御を行う制御部といった他種の制御器が用いられてもよい。これらの場合でも、ゲイン特性|G(jωdis)|の変化を考慮して制御ゲインを設計することは可能である。
なお、|vq
*|と|vd
*|との比率、またはw1とw2との比率が変わった場合、周波数伝達関数G(jω)は、式(3)と多少異なる数式となるが、動作点近傍で近似を行えば、類似の数式を導出できる。そのため、他のケースでも制御ゲインの設計方法はあまり変わらないといえる。
図29は、実施の形態3にかかる駆動装置が備えるビートレス制御部の構成を示す図である。実施の形態3のビートレス制御部18Bは、実施の形態1のビートレス制御部18と比較して、プラント情報演算部107の代わりにプラント情報演算部107Bを備えている。また、実施の形態3のビートレス制御部18Bは、実施の形態1のビートレス制御部18と比較して、脈動抑制部104の代わりに脈動抑制部104Bを備えている。
プラント情報演算部107Bは、プラントの位相特性であるプラント位相と、プラントのゲイン特性であるプラントゲインとを演算する。プラント情報演算部107Bは、例えば、式(9)を用いてプラントゲインを演算する。プラント情報演算部107Bは、プラント位相およびプラントゲインを、脈動抑制部104Bに送信する。
図30は、実施の形態3にかかるビートレス制御部が備える脈動抑制部の構成を示す図である。実施の形態3の脈動抑制部104Bは、実施の形態1の脈動抑制部104が備える構成要素に加えて、制御ゲイン演算部207を有している。
制御ゲイン演算部207は、プラントのゲイン特性であるプラントゲインをプラント情報演算部107Bから受け付ける。制御ゲイン演算部207は、式(10)を用いて、ゲイン特性|G(jωdis)|から制御ゲインKiを演算する。制御ゲイン演算部207は、演算結果である制御ゲインKiを積分制御部203A,203Bに出力する。
積分制御部203A,203Bは、制御ゲイン演算部207が演算した制御ゲインKiに基づいて動作する。すなわち、積分制御部203Aは、制御ゲインKiを用いて偏差eRcosを積分することでxcosを決定し、積分制御部203Bは、制御ゲインKiを用いて偏差eRsinを積分することでxsinを決定する。
このように実施の形態3によれば、ビートレス制御部18Bは、プラント位相およびプラントゲインに基づいてビートレス制御を実行するので、広い動作条件でビートレス制御を適切に実行させることが可能となる。
実施の形態4.
つぎに、図31を用いて実施の形態4について説明する。実施の形態4では、実施の形態1~3で説明した駆動装置4を冷凍サイクル装置に適用する。
図31は、実施の形態4にかかる冷凍サイクル装置の構成を示す図である。図31の各構成要素のうち図1に示す実施の形態1の駆動装置4および圧縮機3と同一機能を達成する構成要素については同一符号を付しており、重複する説明は省略する。
実施の形態4の冷凍サイクル装置900は、圧縮機駆動システム800を有している。圧縮機駆動システム800は、制御部400を有した駆動装置4と、実施の形態1における交流電動機1を内蔵した圧縮機3とを備えている。また、冷凍サイクル装置900は、四方弁902と、室内熱交換器906と、膨張弁908と、室外熱交換器910と、冷媒配管912とを備えている。
冷凍サイクル適用機器である冷凍サイクル装置900は、空気調和機、冷蔵庫、冷凍庫、ヒートポンプ給湯器といった冷凍サイクルを備える製品に適用することが可能である。圧縮機駆動システム800では、圧縮機3と、駆動装置4と、四方弁902と、室内熱交換器906と、膨張弁908と、室外熱交換器910とが冷媒配管912を介して接続されている。
圧縮機3の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構904と、圧縮機構904を動作させる交流電動機1とが設けられている。圧縮機構904が実施の形態1で説明した機械装置2に対応している。冷凍サイクル装置900は、四方弁902の切替動作によって暖房運転または冷房運転をすることができる。圧縮機構904は、可変速制御される交流電動機1によって駆動される。
暖房運転時には、実線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室内熱交換器906、膨張弁908、室外熱交換器910および四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。
冷房運転時には、破線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室外熱交換器910、膨張弁908、室内熱交換器906および四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。
暖房運転時には、室内熱交換器906が凝縮器として作用して熱放出を行い、室外熱交換器910が蒸発器として作用して熱吸収を行う。冷房運転時には、室外熱交換器910が凝縮器として作用して熱放出を行い、室内熱交換器906が蒸発器として作用し、熱吸収を行う。膨張弁908は、冷媒を減圧して膨張させる。
このように、実施の形態4によれば、インバータ電圧の電圧飽和領域においても、意図した通りに脈動を小さくすることができるので、冷凍サイクル装置900は、ビート振動の抑制によって、電流ピーク値の増加によるモータ効率の悪化、過電流保護の制約によるモータの最大出力の低下、交流電動機1の振動および騒音の増加などを防ぐことができる。
また、制御部400は、ビート振動を効果的に抑制することができるので、直流リアクトル8およびコンデンサ9の小型化および小容量化が可能となる。これにより、冷凍サイクル装置900の製造コストを低減できるとともに、省エネルギー性能の向上を図ることができる。
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。