JP7755103B2 - 凍結された腎臓細胞の製造方法及び凍結された腎臓細胞 - Google Patents

凍結された腎臓細胞の製造方法及び凍結された腎臓細胞

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Description

本発明は、凍結された腎臓細胞の製造方法、及び凍結された腎臓細胞に関する。本発明は、さらに、凍結された腎臓細胞から得られる腎臓細胞培養物の製造方法、及び腎臓細胞培養物に関する。
生体に投与された薬剤は、生体内に吸収された後、腎臓において近位尿細管で血液から尿中に排出される。そのため、薬剤の腎毒性によりしばしば腎障害が引き起こされる。創薬研究においては、薬剤の作用を明らかにするために腎臓での薬物動態を調べることは非常に重要である。
したがって、創薬支援デバイスとして、正常な生理機能を持った腎臓細胞を用いて薬物動態や毒性を評価可能なアッセイ系の開発が望まれている。近年、多くの研究者により、ヒトiPS細胞由来の腎臓細胞、及び灌流培養系などの開発が進められている。薬剤の影響を最も受けやすいのは近位尿細管上皮細胞であることから、研究に利用可能な近位尿細管上皮細胞は、特に求められている。
生体内環境とは異なる平底培養プレートでの培養により、培養された腎臓細胞は、腎臓が本来持つ機能の多くを消失することが知られている。従来、ヒトの腎臓から採取された細胞は、酵素処理によって分散された状態で、平底培養プレートにおいて二次元的に平面培養することが一般的であった。培養された近位尿細管上皮細胞は、脱分化現象により、正常な腎臓の薬物動態や毒性の反応を示さなくなるため、創薬研究では利用されてこなかった。
このような本来の腎臓の生理機能が消失した近位尿細管上皮細胞を、凝集体形成させて一定期間培養することにより、腎機能が大きく改善することが見出された(特許文献1)。この腎機能が改善された近位尿細管上皮細胞の凝集体を創薬研究に使用するためには、大量に作製して一定量保存する必要がある。
細胞を安定な状態で保存するためには、凍結保存を行うことが最も良い手段である。従来一般的に行われている細胞の凍結方法では、まず、消化酵素(トリプシンなど)で細胞間接着を緩め、細胞を1個ずつに分散させる。続いて、分散された状態の細胞を含む懸濁液を遠心分離して、集めた細胞に、凍結保護剤を含む液体を添加して凍結する(特許文献2)。
しかし、近位尿細管上皮細胞の凝集体を凍結する場合に従来の凍結方法を適用すると、解凍後に同様の手法で凝集体を作製しようと試みても、分散状態のままであり、凝集体形成させることが困難であった。また、このような方法で凍結された細胞は、解凍後に腎臓の機能を司る遺伝子発現が低下しており、腎臓の機能が維持できないうえ、培養後の細胞生存率が低いという課題があった。
国際公開公報WO2018/186185 特開平6-46840号公報
本発明は、解凍後の細胞生存率が高く、腎臓の生理機能が維持されている凍結された腎臓細胞、及び腎臓の生理機能が維持されている腎臓細胞培養物を提供することを目的とする。
本発明に係る一実施態様は、培養された腎臓細胞を回収する回収工程、及び前記回収工程にて回収された腎臓細胞を凍結する凍結工程を含み、前記回収工程においては、前記腎臓細胞を凝集体として回収すると共に、前記凍結工程においては、前記凝集体の凝集状態を実質的に維持して凍結する、凍結状態にある腎臓細胞の製造方法である。
本発明に係る一実施態様は、培養された腎臓細胞を回収する回収工程、及び前記回収工程にて回収された腎臓細胞を凍結する凍結工程を含み、前記回収工程においては、前記腎臓細胞を凝集体として回収すると共に、前記凍結工程においては、前記凝集体の凝集状態を実質的に維持して凍結する方法で製造された、凍結状態にある腎臓細胞である。
本発明によれば、解凍後の細胞生存率が高く、腎臓の生理機能が維持されている凍結された腎臓細胞、及び腎臓の生理機能が維持されている腎臓細胞培養物が提供される。
図1-1は、凝集体の状態で凍結された近位尿細管上皮細胞の解凍後の凝集体の形態を表す光学顕微鏡写真の図である。 図1-2は、凝集体の状態で凍結された近位尿細管上皮細胞のATP量(細胞生存率)を示す図である。 図2-1は、凝集体の状態で凍結された近位尿細管上皮細胞のリアルタイムPCR法によるOAT1遺伝子発現解析の結果を、ヒト腎皮質と比較して示す図である。 図2-2は、凝集体の状態で凍結された近位尿細管上皮細胞のリアルタイムPCR法によるOCT2遺伝子発現解析の結果を、ヒト腎皮質と比較して示す図である。 図2-3は、凝集体の状態で凍結された近位尿細管上皮細胞のリアルタイムPCR法によるURAT1遺伝子発現解析の結果を、ヒト腎皮質と比較して示す図である。 図2-4は、解凍して、図に示した期間、浮遊振盪培養した後の近位尿細管上皮細胞凝集体のリアルタイムPCR法によるOAT1遺伝子発現解析の結果を、ヒト腎皮質と比較して示す図である。 図3は、異なる細胞数で凍結した近位尿細管上皮細胞凝集体のリアルタイムPCR法によるOAT1遺伝子発現解析の結果を、ヒト腎皮質と比較して示す図である。 図4-1は、凍結方法を変えた場合の近位尿細管上皮細胞凝集体のATP量(細胞生存率)を示す図である。 図4-2は、凍結方法を変えた場合の近位尿細管上皮細胞凝集体のリアルタイムPCR法によるOAT1遺伝子発現解析の結果を、ヒト腎皮質と比較して示す図である。 図5は、凍結時に異なる凍結保存液を添加した場合の解凍後の近位尿細管上皮細胞凝集体のATP量(細胞生存率)を表す図である。 図6は、凍結保存期間を変えた場合の解凍後の近位尿細管上皮細胞凝集体のリアルタイムPCR法によるOAT1遺伝子発現解析の結果を示す図である。 図7-1は、分散状態で凍結した近位尿細管上皮細胞(比較例)の凍結前及び解凍後の凝集体の形態を表す光学顕微鏡写真の図である。 図7-2は、分散状態で凍結した近位尿細管上皮細胞(比較例)の凍結前及び解凍後のATP量(細胞生存率)を示す図である。 図8は、分散状態で凍結した近位尿細管上皮細胞(比較例)のリアルタイムPCR法によるOAT1遺伝子発現解析の結果を、ヒト腎皮質と比較して示す図である。
本発明者は、腎臓細胞の凝集体を凝集体の状態のまま凍結することにより、細胞生存率及び形態を維持したまま安定に凍結保存することができ、さらに、凝集体の状態のまま凍結保存した凝集体から、解凍後に腎臓の機能を維持した腎臓細胞培養物を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
本発明に係る一実施態様の凍結状態にある腎臓細胞の製造方法は、培養された腎臓細胞を回収する回収工程、及び前記回収工程にて回収された腎臓細胞を凍結する凍結工程を含む。この回収工程においては、前記腎臓細胞を凝集体として回収する。また、この凍結工程においては、前記凝集体の凝集状態を実質的に維持して凍結する。
本発明において使用される腎臓細胞は、培養可能であればよく、その供給源を問わない。腎臓細胞は、哺乳類由来であることが好ましく、ヒト、サルなどの霊長類由来であることが好ましい。また、目的に応じて、正常腎臓由来であってもよく、疾患を有する腎臓由来であってもよい。腎臓細胞としては、例えば、上皮、皮質、近位尿細管、遠位尿細管、集合管、糸球体などを構成する細胞、具体的には、近位尿細管上皮細胞(RPTEC)、メサンギウム細胞などが挙げられる。腎臓細胞は、初代細胞でもよく、iPS細胞又はES細胞などの幹細胞由来の腎臓細胞でもよい。また、腎臓細胞は、不死化された腎臓細胞、株化細胞(HK-2細胞など)、他動物種由来の細胞(MDCK細胞、LLC-PK1細胞、JTC-12細胞など)、特定のトランスポーター等のタンパク質を発現させるために腎臓細胞に遺伝子導入した強制発現細胞であってもよい。より具体的には、腎臓細胞としては、例えば腎臓から採取、単離したヒト近位尿細管上皮細胞、ヒト遠位尿細管上皮細胞及びヒト集合管上皮細胞;ならびに、ヒトiPS細胞又はヒトES細胞から分化誘導された近位尿細管上皮細胞、遠位尿細管上皮細胞及び集合管上皮細胞が例示される。創薬研究に使用するためには、近位尿細管上皮細胞、特に、ヒト正常腎由来の近位尿細管上皮細胞が好ましい。
腎臓細胞の培養は、培養しようとする細胞に適した培地及び培養容器を用いることにより、常法に従って、例えば37℃、5%CO条件下で、行うことができる。培養は、静置培養、振盪培養又は撹拌培養などのいずれであってもよい。培養は、接着培養であってもよいが、少なくとも一部の期間は非接着の状態で培養を行うこと(例えば浮遊培養)が好ましい。腎臓細胞は、培養容器に非接着の状態で培養することによって凝集体を形成させることができる。「非接着(の)状態」とは、全て又は大部分の細胞が培養容器表面に接着していない状態を指し、全て又は大部分の細胞が培養容器表面から離れて存在する状態、及び培養容器表面に接触している場合でも、器具もしくは酵素などを用いずに培養容器のコーティングや培地の対流などにより培養容器表面から容易に離れ得る状態を含む。
例えば、ある場合には、腎臓細胞の凝集体は、腎臓細胞の培養1日目(すなわち24時間以内)に形成される。そして、一部の期間は凝集体の状態で腎臓細胞を培養することで、脱分化して低下した腎臓細胞の生理機能を回復させることができる。腎臓細胞を培養容器に非接着の状態で培養する期間は、一般に5日以上(すなわち120時間以上)が望ましい。これにより、生理機能のより高い発現状態にある培養された腎臓細胞を得ることができる。培養期間中、培地は定期的に交換することが好ましい。例えば、培地は2日毎に交換される。
培地としては、公知の任意のものを適宜使用することができる。例えば、近位尿細管上皮細胞の培養の場合、市販の尿細管細胞培養培地を使用することができ、好ましい培地の例としては、REGM(登録商標)(LONZA社)、EpiCM(登録商標)(ScienCell社)、KeratinocyteSFM(登録商標)(Thermo Fisher Scientific社)が挙げられる。
また、細胞培養に有用な従来公知の材料及び添加剤を適宜使用することができる。例えば、培地には、コラーゲンI(I型コラーゲン)を添加することができる。コラーゲンIは、腎臓細胞同士を接着させる作用を有する。そのため、コラーゲンIを含む培地で腎臓細胞を培養することにより、凝集体の形成が促進される。コラーゲンIは、完全長のコラーゲンIであることが好ましいが、コラーゲンIを構成するα1鎖又はα2鎖、さらには各鎖を断片化したコラーゲンペプチドなどであってもよい。また、コラーゲンIの供給源は特に限定されず、ヒト由来であっても、他の動物由来であってもよい。
培養容器は、任意のものを使用することができるが、細胞凝集体の形成を促進するためには、細胞非(低)接着処理が施されているか、細胞非(低)接着材料で構成されていることが好ましい。細胞非(低)接着処理としては、容器表面への細胞非接着ハイドロゲルコーティング処理、MPC(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)コーティング処理、プロテオセーブ(登録商標)SSコーティング処理、鏡面研磨処理などが例示される。細胞非(低)接着材料としては、ガラス、ならびに、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリ(エチレン-エチルアクリレート)コポリマー、ポリ(エチレン-メタアクリレート)コポリマー、ポリ(エチレン酢酸ビニル)コポリマー、及びこれらのポリマーの2種以上の混合物といった高分子材料が例示される。
凝集体を大量に形成させる場合は、高密度スフェロイド作製プレート又はディッシュを使用することができる。さらには、必要に応じてスピナーフラスコなどの培養容器を用いてもよい。例えば、ELPLASIA(登録商標)シリーズの培養容器(Corning社)、EZSPHERE(登録商標)シリーズの培養容器(AGCテクノグラス社)などを使用することが好ましい。これらの培養容器は、6ウェルプレート、24ウェルプレート、96ウェルプレート、384ウェルプレート、種々のサイズのディッシュなどのタイプがあり、容器の底面積の大きさにより作製できるスフェロイド又は凝集体の数が異なる。例えば、低接着処理を施された96ウェルプレート(V底)、96ウェルプレート(U底)、384ウェルプレート(U底)を用いる場合、1ウェルに1つの細胞凝集体が形成される。
高密度スフェロイド作製プレート又はディッシュなどを使用して作製した凝集体は、回収して浮遊振盪培養することができる。浮遊振盪培養する場合は、細胞非(低)接着処理が施されたディッシュ又はプレートなどをシェーカー上に設置して凝集体を培養することが好ましい。シェーカーとしては、往復型シェーカー及び旋回型シェーカーを使用することができる。
本明細書において、細胞の「凝集体」は、数個以上の細胞の塊状の集合体を指す。凝集体を構成する細胞の数は、例えば5個以上、25個以上、50個以上、好ましくは100個以上、より好ましくは125個以上である。凝集体を構成する細胞の数は、例えば、10000個以下、好ましくは5000個以下、より好ましくは2000個以下、1000個以下である。凝集体を構成する細胞数が少なすぎると、凝集体のサイズが小さくなり、凝集体作製時のバラつきも大きくなる恐れがある。また、凝集体同士が接合してサイズが均一になりにくい傾向がある。一方、凝集体を構成する細胞数が多すぎると、腎臓細胞の特徴的遺伝子発現量が低くなる恐れがあり、凝集体を凍結保存した後の遺伝子発現量を維持しにくい傾向がある。
凝集体の大きさは、培養容器に播種する細胞数を調整することにより、制御することができる。例えば、マルチウェルプレートで培養する場合、1つのウェルに1つの凝集体が形成される。このため、1ウェルあたりの腎臓細胞の播種数が500個以上5000個以下のとき、凝集体を構成する腎臓細胞の数は、500個以上5000個以下となる。凝集体の大きさは、構成細胞数が500個以上5000個以下のとき、100μm以上350μm以下となる。
ディッシュ又はスピナーフラスコなどの培養容器を用いて培養する場合、凝集体の直径、又は1つの凝集体を構成する腎臓細胞の数は、容器中の細胞密度を調整することにより、制御することができる。例えば、直径が約100μm以上約350μm以下、あるいは構成細胞数が500個以上5000個以下の凝集体を形成させる場合、容器中の細胞密度は、1500個/cm以上15000個/cm以下に調整することができる。
なお、凝集体の大きさは、凝集体の最大幅と定義される。すなわち、凝集体の大きさは、凝集体の外縁上の2点をつなぐ直線のうち最大のものの長さである。凝集体は略球形であるため、以下では適宜、凝集体の大きさを便宜的に凝集体の直径ということがある。
このようにして培養された腎臓細胞は、回収工程において回収することができる。「凝集体として回収する」とは、形成された凝集体を故意に破壊又は分散させる操作(例えば、トリプシン処理)を行わずに、凝集体の形態を損なわないように回収することを意味する。したがって、回収された腎臓細胞は、凝集体形態の細胞を含んでいればよく、培養中に凝集体を形成しなかった細胞又は凝集体から偶発的に離脱した細胞などの分散された状態の細胞が存在してもよい。
凝集体を回収するためには、塊状態を傷つけないように広口チップを使用することが好ましい。広口チップはチップの先端径が通常のチップよりも広くなっており、凝集体の直径より大きい内径、例えばおよそ1.5mm(1500μm)の内径を持つチップを使用することで凝集体の形態を傷つけずに腎臓細胞を回収することができる。回収工程の操作例としては、まず、凝集体を培地と共に広口チップで吸引し、遠沈管に移す。この遠沈管を遠心分離(160×g、3分間)して凝集体を底に集める。あるいは、凝集体を含む培地を1.5mLチューブなどに移し、自然沈降で凝集体を集めてもよい。このようにして回収した凝集体を凍結する際は、上清を吸引除去し、後述する凍結保護剤を含む凍結保存用媒体を添加することが好ましい。
回収された腎臓細胞は、細胞が凍結するまで、細胞が凍結し得る低温下で冷却することにより、凍結させることができる。腎臓細胞の凍結は、緩慢凍結によって行うことが好ましい。緩慢凍結とは、細胞が徐々に凍結するように、凍結すべき細胞の温度降下速度を所定の範囲に調節しながら凍結する方法を指す。温度降下速度は、市販の凍結保存容器、細胞や組織の凍結条件を設定できるプログラムフリーザーなどを利用することによって調節することができる。例えば、緩慢凍結に用いる凍結保存容器としては、BICELL(登録商標)(日本フリーザー社)、CoolCell(登録商標)(Corning社)など、及びイソプロピルアルコールを用いて緩慢凍結を行う凍結保存容器が挙げられる。緩慢凍結における凍結中の細胞の温度降下速度は、例えば、1分間あたり約0.2℃~約3℃の範囲であることができ、1分間あたり約1℃の速度が好ましい。
腎臓細胞の冷却は、一般的なフリーザーを使用して行うことができる。例えば、近位尿細管上皮細胞の凝集体を凍結する場合は、-80℃の温度に設定が可能な超低温フリーザーを使用することが好ましい。
凍結工程における「凝集体の凝集状態を実質的に維持」するとは、回収された腎臓細胞に含まれる凝集体を故意に破壊又は分散させる操作(例えば、トリプシン処理)を行わずに、凝集体の形態を損なわないようにすることを意味する。また、「実質的に」とは、凍結前の回収された腎臓細胞に含まれる凝集体の量と比較して、凍結後の凝集体の量の減少が問題とならない程度の範囲であることを意味し、必ずしも凝集体を構成する細胞の分散化が凍結中に全く生じていないことを意味するものではない。
本実施形態の方法は、凝集体の形態の維持に重大な悪影響を与えるものでない限り、回収工程と凍結工程との間に、任意の工程、例えば、細胞の凍結保存に有益な他の工程を含んでいてもよい。例えば、回収された腎臓細胞に好適な凍結保存用媒体を添加する工程を含むことができる。
凍結保存用媒体としては、細胞内氷晶による損傷を軽減させる凍結保護剤成分、例えば、ジメチルスルホキシド(5~15%)、哺乳類由来血清、デキストラン、グリコーゲン、メチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、グルコース、スクロースなどのいずれかを含む媒体が挙げられる。媒体は、培地などの液体であることができる。2以上のこれらの凍結保護剤が適宜配合された溶液が好ましい。したがって、凍結保存用媒体として、CELLBANKER(登録商標)1plus(ゼノアックリソース社)、CELLBANKER(登録商標)1(ゼノアックリソース社)、CELLBANKER(登録商標)2(ゼノアックリソース社)などの、市販の凍結保存液を使用してもよい。
凍結された腎臓細胞の保存は、一般的なフリーザーを使用して行うことができる。例えば、近位尿細管上皮細胞の凝集体を保存する場合は、-80℃の温度に設定が可能な超低温フリーザーを使用することが好ましい。また、細胞をより長期にわたって凍結保存する場合は、より低温の環境、例えば液体窒素保管器(-150℃以下)で保存することが好ましい。
凍結状態にある腎臓細胞は、公知の方法によって解凍することができる。例えば、凍結バイアルを37℃の恒温槽中で解凍することができる。解凍後、腎臓細胞は、凝集体形成のための培養について上記したのと同様にして、培養することができる。例えば、解凍された腎臓細胞を培地と混和して遠心分離し(160×g、3分間)、上清を除去する。集めた腎臓細胞に必要量の培地を添加し、培養ディッシュ又は培養プレートなどの培養容器に移して培養する。大量の凝集体を培養する場合は、低接着ディッシュに移して浮遊振盪培養する。解凍された腎臓細胞は、培養容器に非接着の状態で解凍後5日以上培養することが好ましく、さらに好ましくは7日以上培養する。培養期間中、培地は定期的に交換することが好ましい。このようにして、凍結保存された腎臓細胞から、所望の時点で、腎臓の生理機能のより高い、又はヒト腎皮質と比較して機能的に同等な腎臓細胞培養物を製造することができる。
「ヒト腎皮質と比較して機能的に同等」とは、少なくとも、ヒト腎皮質において発現される腎臓の生理機能に関連する1以上の遺伝子発現に関して、ヒト腎皮質と同等のレベルの発現を示すことを意味する。
腎臓の生理機能に関連する遺伝子としては、AQP1、CD13、SGLT2、Na/K ATPase、URAT1、PEPT1、MDR1、OAT1、OCT2、OCTN2、E-cadherin及びZO-1が挙げられる。AQP1(aquaporin 1)は、水の輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。CD13(alanyl aminopeptidase)は、タンパク質のペプチド化に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。SGLT2(sodium glucose cotransporter 2)は、ナトリウム及びグルコースの輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。Na/K ATPaseは、イオンの輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。URAT1(urate transporter 1)は、尿酸の再吸収に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。PEPT1(peptide transporter 1)は、ペプチドの輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。MDR1(multiple drug resistance 1)、OAT1(organic anion transporter 1)、OCT2(organic cation transporter 2)及びOCTN2(organic cation transporter novel 1)は、薬剤の輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。E-cadherin及びZO-1(zonula occludens-1)は、細胞間結合に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。
これらの1以上の遺伝子の発現レベルは、ヒト腎皮質と腎臓細胞培養物における発現量を、一般的なリアルタイムPCR法(qPCR法)によって測定することができ、両者が同等か否かは、それらを比較することによって判定することができる。なお、判定に使用する場合は、2回以上の実験の測定値を平均して用いる。
例えば、腎臓細胞培養物は、凍結された腎臓細胞を解凍後、7日間培養した場合に、上記のいずれかの遺伝子発現量が、ヒト腎皮質におけるその遺伝子の発現量の10%以上である場合に、ヒト腎皮質と機能的に同等であると判定される。ヒト腎皮質と機能的に同等な腎臓細胞培養物は、上記の1つの遺伝子発現量が、好ましくはヒト腎皮質における発現量の10%以上であり、さらに好ましくは25%以上である。あるいは、ヒト腎皮質と機能的に同等な腎臓細胞培養物は、上記の2以上の遺伝子発現量が、好ましくはいずれもヒト腎皮質における発現量の10%以上であり、さらに好ましくは25%以上である。本実施形態の腎臓細胞培養物におけるこのような発現量は、従来の二次元培養された腎臓細胞培養物における発現量と比較して有意に高いレベルであり、特に、OAT1及びOCT2については、ヒト腎皮質に匹敵する発現レベルを有することができる。したがって、ヒト腎皮質と機能的に同等な腎臓細胞培養物は、OAT1及びOCT2の一方又は両方の発現量が、好ましくはヒト腎皮質における発現量の40%以上であり、さらに好ましくは55%以上である。
同様に、これらの1以上の遺伝子について、凍結前の腎臓細胞における発現量と解凍後の腎臓細胞培養物における発現量とを比較することにより、両者が腎臓の機能的に同等か否かを判定することができる。
例えば、腎臓細胞培養物は、凍結された腎臓細胞を解凍後、7日間培養した場合に、上記のいずれかの遺伝子発現量が、凍結前の腎臓細胞におけるその遺伝子の発現量の40%以上である場合に、腎臓と機能的に同等であると判定される。腎臓と機能的に同等な腎臓細胞培養物は、上記の1つの遺伝子発現量が、好ましくは凍結前の腎臓細胞における発現量の40%以上であり、さらに好ましくは55%以上である。あるいは、腎臓と機能的に同等な腎臓細胞培養物は、上記の2以上の遺伝子発現量が、好ましくはいずれも凍結前の腎臓細胞における発現量の40%以上であり、さらに好ましくは55%以上である。
本実施形態の製造方法は、近位尿細管上皮細胞などの腎臓細胞を凝集体状態のまま凍結することにより、従来技術の細胞懸濁液として凍結する方法よりも解凍後の細胞生存率及び腎臓の生理機能を良好に維持する効果を奏するものである。本実施形態によれば、二次元培養によって消失した腎機能を三次元培養により回復させた腎臓細胞凝集体を、その腎機能及び細胞生存率を維持して凍結保存することができ、創薬研究に利用可能な腎臓細胞製品及び腎臓細胞培養物を提供することができる。
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれる。
1.腎臓細胞の培養、凝集体形成及び凍結
腎臓細胞として、LONZA社から入手したヒト近位尿細管上皮細胞(Clonetics(登録商標)、カタログ番号CC-2553、RPTEC-腎臓近位尿細管上皮細胞)を使用した。業者の指示に従って細胞を解凍し、推奨される培地(REGM(登録商標)、LONZA社)を用いて37℃、5%COの条件下で、2日に1回の頻度で培地交換しながら培養した。細胞は、コンフルエントになる前に回収して、細胞低接着処理された96ウェルV底プレート(PrimeSurface(登録商標)プレート96V、住友ベークライト社)で培養することにより、凝集体を形成させた。凝集体は、2日に1回の頻度で培地交換しながら培養した。なお、「コンフルエント」とは、培養容器の培養表面全体に対して細胞の占める面積の割合が約100%であること、すなわち培養表面いっぱいに隙間なく細胞が増殖した状態を意味する。
10日間以上培養後、凝集体を含む培養液を回収し、凝集体が1バイアルあたり約1000個含まれるよう凍結バイアルに分注した。培地を除いた凝集体に、500μL/バイアルの凍結保存液(CELLBANKER(登録商標) 1plus、ゼノアックリソース社)を添加して良く混和した後、凍結保存容器(BICELL(登録商標)、日本フリーザー社)に入れて-80℃の超低温フリーザーで緩慢凍結した。
製造した凍結細胞を、1週間以上凍結保存した後、解凍して、2日に1回の頻度で培地交換しながら7日間浮遊振盪培養した。
培養後の細胞の細胞生存率を、発光法によりATP量を測定するCellTiter-Glo(登録商標) 3D Cell Viability Assay(Promega社)を用いて測定した。具体的には、凝集体を培地ごと回収し、培地の容量と等量のCellTiter-Glo 3D Reagentを添加した。この混合物を、室温で30分間インキュベートした。良く混和した後にマイクロプレートリーダー(Perkin Elmer)で発光値を測定した。
光学顕微鏡により観察された解凍後の凝集体の形態を図1-1に示す。「解凍Day0」は解凍した当日、「解凍Day1」は解凍の翌日、「解凍Day5」は解凍から5日目をそれぞれ表す(解凍からの日数については以下の実験においても同様に表記する)。ATP量測定の結果を図1-2に示す。「凍結前」は凝集体を形成してから10日間以上培養後の凍結する前の時点、「解凍後」は凝集体を1週間以上凍結保存した後に解凍して7日間浮遊振盪培養した時点をそれぞれ表す。
凝集体の状態のまま凍結した近位尿細管上皮細胞は、解凍後も凝集体の形態を維持していることが確認された。ATP量測定の結果、解凍後も大部分の細胞が生存し、良好な細胞生存率が維持されていることが確認された。
2.遺伝子発現量の解析
凍結前後の近位尿細管上皮細胞凝集体の遺伝子発現を調べ、ヒト腎皮質における遺伝子発現と比較した。
上記1.と同様にして、腎臓細胞の凝集体を形成させ、凝集体状態のまま凍結した。その後、細胞を解凍し、2日に1回の頻度で培地交換しながら浮遊振盪培養した。
凍結前及び解凍して所定期間培養後の凝集体から、RNeasy(登録商標) Mini Kit(QIAGEN社)を用いてmRNAを抽出及び精製した。さらに、このmRNAから、QuantiTect(登録商標) Whole Transcriptome Kit(QIAGEN社)を用いて、cDNAを合成した。これらのcDNAを鋳型として、Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System 1(タカラバイオ社)を用いてリアルタイムPCR法により近位尿細管に多く発現するOAT1(有機アニオントランスポーター1)、OCT2(有機カチオントランスポーター2)及びURAT1(尿酸トランスポーター1)の遺伝子発現量を測定した。また,解凍して2日間、4日間、又は7日間浮遊振盪培養した凝集体についてOAT1の遺伝子発現量を測定した。なお、すべての実験について、1回の実験において各サンプルはそれぞれn=3で測定した。
比較のため、ヒトの患者ドナーより採取したヒト腎皮質を用いて、上記と同様にRNAを抽出し、OAT1、OCT2、又はURAT1の遺伝子発現量を測定した。
結果を図2-1、図2-2、図2-3及び図2-4に示す。OAT1の遺伝子発現量の結果を図2-1に、OCT2の遺伝子発現量の結果を図2-2に、URAT1の遺伝子発現量の結果を図2-3にそれぞれ示す。図2-1、図2-2及び図2-3において、「凍結前」は凝集体を形成してから10日間以上培養後の凍結する前の時点、「解凍後」は凝集体を1週間以上凍結保存した後に解凍して7日間浮遊振盪培養した時点をそれぞれ表す。解凍して2日間、4日間、又は7日間浮遊振盪培養した凝集体の遺伝子発現量の結果を図2-4に示す。
また、凍結前とヒト腎皮質との発現比較(表1-1)、解凍後とヒト腎皮質との発現比較(表1-2)、凍結前と解凍後との発現比較(表2)を示す(2回の実験の測定値及びその平均値)。表1-1、表1-2及び表2において、「凍結前」は凝集体を形成してから10日間以上培養後の凍結する前の時点、「解凍後」は凝集体を1週間以上凍結保存した後に解凍して7日間浮遊振盪培養した時点をそれぞれ表す。
腎臓細胞を凝集体の状態のまま凍結した場合、凍結及び解凍の作業は、腎臓細胞におけるOAT1、OCT2及びURAT1の遺伝子発現量に影響を及ぼさなかった。解凍後の腎臓細胞は、浮遊振盪培養した場合、7日間の培養によりヒト腎皮質と同程度のレベルの遺伝子発現を示した。したがって、凝集体の状態のまま凍結した近位尿細管上皮細胞の生理機能は、良好に維持されており、細胞を解凍後に培養することにより、ヒト腎皮質と同等の細胞培養物が得られることが確認された。
3.凝集体の細胞数の影響
上記1.と同様にして、腎臓細胞の凝集体を形成させ、凝集体状態のまま凍結した。ただし、凝集体を形成させる際に、凝集体1個あたりの細胞数が125個、250個、500個、1000個となるように調整した。
凍結前及び解凍して2日間、5日間、又は7日間浮遊振盪培養した凝集体から、上記2.と同様にして、mRNAを抽出及び精製し、cDNAを合成し、OAT1の遺伝子発現量を測定した。
遺伝子発現量の結果を図3に示す。細胞数125~1000個の凝集体は、解凍後7日間の培養により、いずれの細胞数でもOAT1の発現量が凍結前及びヒト腎皮質と同程度となった。解凍Day2では、凝集体の細胞数が少ない方がより良好にOAT1発現を維持している傾向が見られたが、細胞数が多い凝集体であっても、培養期間を延ばすことにより発現量が回復し得ることが観察された。したがって、広い範囲の細胞数の凝集体について、解凍後に良好な細胞培養物が得られることが確認された。
4.凍結方法の影響
上記1.と同様にして、腎臓細胞の凝集体を形成させ、凝集体状態のまま凍結した。ただし、凍結の際、凍結保存容器(BICELL(登録商標)、日本フリーザー社)中で緩慢凍結せずに、96ウェルプレートのまま、培地を除いた凝集体に、20μL/ウェルの凍結保存液(CELLBANKER(登録商標) 1plus、ゼノアックリソース社)を添加して良く混和した後、超低温フリーザー中で凍結した。
細胞を解凍し、2日に1回の頻度で培地交換しながら7日間培養した。上記1.と同様にして、細胞のATP量を測定し、細胞生存率を決定した。また、解凍後の凝集体から、上記2.と同様にして、mRNAを抽出及び精製し、cDNAを合成し、OAT1の遺伝子発現量を測定した。
ATP量測定の結果を図4-1に示す。遺伝子発現量の結果を図4-2に示す。図4-1及び図4-2において、「凍結前」は凝集体を形成してから10日間以上培養後の凍結する前の時点、「解凍後」は凝集体を1週間以上凍結保存した後に解凍して7日間浮遊振盪培養した時点をそれぞれ表す。
近位尿細管上皮細胞の凝集体は、緩慢凍結を行わない方法では、緩慢凍結した場合と比較して低い細胞生存率を示した。また、緩慢凍結を行わない場合、凍結後の凝集体は、緩慢凍結した場合と比較して低下したOAT1発現を示した。したがって、近位尿細管上皮細胞の凝集体を凝集体の状態で凍結する場合、緩慢凍結を行う方が、細胞生存率の維持及び腎機能の維持に関して有利であることが確認された。
5.凍結保存液の影響
上記1.と同様にして、腎臓細胞の凝集体を形成させ、凝集体状態のまま凍結した。ただし、培地を除いた凝集体に、凍結保存液として500μL/バイアルのCELLBANKER(登録商標) 1plus(ゼノアックリソース社)又は10%ジメチルスルホキシド(Sigma社)含有REGMのいずれかを添加して良く混和した後、凍結保存容器(BICELL(登録商標)、日本フリーザー社)に入れて-80℃の超低温フリーザーで緩慢凍結した。
各細胞を解凍し、2日に1回の頻度で培地交換しながら浮遊振盪培養した。解凍7日後の凝集体から、上記1.と同様にして、細胞のATP量を測定し、細胞生存率を決定した。
ATP量測定の結果を図5に示す。
10%ジメチルスルホキシド含有REGM中で凍結した凝集体と比較して、CELLBANKER(登録商標) 1plus中で凍結した凝集体は、解凍後に高い細胞生存率を示した。したがって、2以上の凍結保護剤成分を含む凍結保存液を添加することが有利であることが確認された。
6.凍結期間の影響
上記1.と同様にして、腎臓細胞の凝集体を形成させ、凝集体状態のまま凍結した。この細胞を、-80℃の超低温フリーザーにて1週間凍結保存した後及び5カ月以上凍結保存した後にそれぞれ解凍し、上記2.と同様にして、2日に1回の頻度で培地交換しながら7日間浮遊振盪培養した。解凍7日後の凝集体から、上記2.と同様にして、mRNAを抽出及び精製し、cDNAを合成し、OAT1の遺伝子発現量を測定した。
遺伝子発現量の結果を図6に示す。
短期間(1週間)の凍結と長期間(5ヵ月間以上)の凍結のいずれの場合でも、同程度のOAT1発現が観察された。したがって、腎臓細胞は、-80℃で少なくとも数カ月以上の期間、腎臓の生理機能を維持した状態で安定に凍結保存できることが確認された。
7.分散状態で凍結した腎臓細胞の細胞生存率(比較例)
上記1.と同じ腎臓細胞を消化酵素で分散させた細胞懸濁液を凍結した場合(従来の一般的な細胞の凍結方法)の細胞の形態及び生存率を調べた。
近位尿細管上皮細胞を、業者の指示に従って解凍し、REGMを用いて37℃、5%COの条件下で、2日に1回の頻度で培地交換しながら培養した。細胞は、コンフルエントになる前にAccutase(登録商標)(Innovative Cell Technologies社)を用いて細胞を分散させて回収した。細胞数を測定し、必要量を遠心分離して培地を除去した。細胞濃度が5×10個/mL以上となるように、細胞にCELLBANKER(登録商標) 1plus(ゼノアックリソース社)を添加し、細胞懸濁液とした。この細胞懸濁液を凍結バイアルに分注して、凍結保存容器(BICELL(登録商標)、日本フリーザー社)に入れて-80℃の超低温フリーザーで緩慢凍結した。一定期間凍結保存した後、細胞を、解凍し、細胞数が1000個の凝集体となるようにREGMで希釈して、低接着96ウェルV底プレート(PrimeSurface(登録商標)プレート96V、住友ベークライト社)に播種した。播種後は2日に1回の頻度で培地交換しながら培養した。
また、凍結前の細胞及び解凍後の細胞を、同一細胞数になるよう播種して、培養した。播種後は2日に1回の頻度で培地交換し、解凍7日後の凝集体からCellTiter-Glo(登録商標) 3D Cell Viability Assay(Promega社)でATP量(細胞生存率)を測定した。
光学顕微鏡により観察された解凍後の細胞の形態を図7-1に示す。ATP量測定の結果を図7-2に示す。
図7-1に示すように、腎臓細胞は、凍結前は細胞数1000個の凝集体を形成していた。これを、分散させて従来の細胞懸濁液として凍結した場合、解凍後に低接着プレートに播種しても凝集体が形成されなかった。また、同一細胞数を播種した場合、細胞懸濁液中で凍結した細胞は、凍結前と比べて低い細胞生存率を示した。したがって、従来の一般的な細胞の凍結方法では凝集体の生存率が低下し、細胞間接着等の機能も損なわれることで凝集体を形成できなくなったことが確認された。
8.分散状態で凍結した腎臓細胞の遺伝子発現解析(比較例)
上記1.と同じ腎臓細胞を消化酵素で分散させた細胞懸濁液を凍結した場合(従来の一般的な細胞の凍結方法)の遺伝子発現量を調べた。
上記7.と同様にして、近位尿細管上皮細胞の細胞懸濁液を凍結し、解凍後、細胞を、細胞数が1000個の凝集体となるように播種した。播種後は2日に1回の頻度で培地交換しながら培養した。凍結前、及び解凍後の細胞から、RNeasy(登録商標) Mini Kit(QIAGEN社)を用いて経時的にmRNAを抽出及び精製し、さらに、QuantiTect(登録商標) Whole Transcriptome Kit(QIAGEN社)を用いて、cDNAを合成した。これらのcDNAを鋳型として、Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System 1(タカラバイオ社)を用いてリアルタイムPCR法によりOAT1の遺伝子発現量を測定した。
遺伝子発現量の結果を図8に示す。
腎臓細胞は、凍結前は良好なOAT1発現を示していたが、従来の細胞懸濁液として凍結した場合、解凍後7日培養後でもOAT1発現は凍結前及びヒト腎皮質と比較して低い発現量であった。したがって、近位尿細管上皮細胞の凝集体を凝集体の状態で凍結する場合、従来の一般的な細胞の凍結方法よりも、腎臓の生理機能の維持に関して有利であることが確認された。
(発明の実施態様)
本発明の第1の実施態様は、培養された腎臓細胞を回収する回収工程、及び前記回収工程にて回収された腎臓細胞を凍結する凍結工程を含み、前記回収工程においては、前記腎臓細胞を凝集体として回収すると共に、前記凍結工程においては、前記凝集体の凝集状態を実質的に維持して凍結する、凍結状態にある腎臓細胞の製造方法である。これにより、解凍後に良好な凝集体形態及び細胞生存率を示す凍結された腎臓細胞を製造することができるという効果を奏する。
本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、さらに、回収工程と凍結工程との間に、回収された腎臓細胞に凍結保存用媒体を添加する工程を含むことである。これにより、凍結された腎臓細胞が解凍後に良好な細胞生存率を示すという効果が強化されるという効果を奏する。
本発明の第3の実施態様は、第1又は第2の実施態様において、さらに、凝集体を構成する腎臓細胞の数が、100個以上5000個以下であることである。これにより、凍結された腎臓細胞から得られる腎臓細胞培養物が、腎臓の生理機能を良好に維持するという効果を奏する。
本発明の第4の実施態様は、第1~第3のいずれかの実施態様において、さらに、凍結工程において、腎臓細胞を緩慢凍結により凍結させることである。これにより、凍結された腎臓細胞が解凍後に良好な細胞生存率を示し、腎臓の生理機能を良好に維持するという効果を奏する。
本発明の第5の実施態様は、第1~第4のいずれかの実施態様において、さらに、培養された腎臓細胞が、腎臓細胞を培養容器に非接着の状態で培養することによって得られた凝集体を含むことである。これにより、凍結された腎臓細胞が解凍後に良好な細胞生存率を示し、腎臓の生理機能を良好に維持するという効果を奏する。
本発明の第6の実施態様は、第1~第5のいずれかの実施態様において、腎臓細胞が、ヒト初代細胞である。これにより、ヒトにおける臨床的現象を反映しやすくなり、ヒトの薬を開発する創薬研究での利用に好適になるという効果を奏する。
本発明の第7の実施態様は、第1~第6のいずれかの実施態様において、腎臓細胞が、近位尿細管由来である。これにより、腎臓細胞及び腎臓細胞培養物が腎臓に対する薬剤の影響を反映しやすくなり、薬物動態や薬剤の腎毒性の評価における利用に好適になるという効果を奏する。
本発明の第8の実施態様は、第1~第7のいずれかの実施態様に係る方法で製造された、凍結状態にある腎臓細胞である。これにより、解凍後に培養することにより、腎臓の生理機能を良好に維持している細胞培養物を容易に得ることができるという効果を奏する。
本発明の第9の実施態様は、第1~第7のいずれかの実施態様に係る方法で製造された、凍結状態にある腎臓細胞を、解凍し、培養容器に非接着の状態で培養する培養工程を含む、腎臓細胞培養物の製造方法である。これにより、腎臓の生理機能を良好に維持した創薬研究に使用可能な腎臓細胞培養物を必要な時に容易に製造することができるという効果を奏する。
本発明の第10の実施態様は、第9の実施態様において、さらに、腎臓細胞が、培養工程において5日間以上培養される方法である。これにより、腎臓細胞培養物が腎臓の生理機能を良好に維持し、創薬研究における腎臓細胞培養物の利用価値が高まるという効果を奏する。
本発明の第11の実施態様は、第9又は第10の実施態様に係る方法で製造された、腎臓細胞培養物である。これにより、腎臓の生理機能を良好に維持する創薬支援デバイスが提供され、薬物動態や腎毒性を容易に評価可能になるという効果を奏する。
本発明は、創薬研究などにおいて使用し得る腎臓細胞の製造及び保存に利用することができる。

Claims (10)

  1. 癌組織由来細胞または癌細胞を除く、近位尿細管由来近位尿細管上皮細胞である、培養された腎臓細胞を回収する回収工程、及び前記回収工程にて回収された腎臓細胞を凍結する凍結工程を含み、前記回収工程においては、前記腎臓細胞の凝集体を破壊又は分散させる操作を行うことがなく、前記腎臓細胞の数が、125個以上5000個以下である凝集体として回収すると共に、前記凍結工程においては、前記凝集体の凝集状態を維持して凍結する、凍結状態にある腎臓細胞の製造方法。
  2. 前記回収工程と前記凍結工程との間に、前記回収された腎臓細胞に凍結保存用媒体を添加する工程を含む、請求項1記載の方法。
  3. 前記凝集体を構成する前記腎臓細胞の大きさが100μm以上350μm以下である、請求項1又は2記載の方法。
  4. 前記凍結工程において、緩慢凍結により凍結させる、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
  5. 前記培養された腎臓細胞が、腎臓細胞を培養容器に非接着の状態で培養することによって得られた凝集体を含む、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
  6. 前記腎臓細胞が、ヒト初代細胞である、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
  7. 癌組織由来細胞または癌細胞を除く、近位尿細管上皮細胞である、培養された腎臓細胞から構成され、腎臓細胞の数が、125個以上5000個以下である凝集体の凝集状態が維持された凍結状態にある腎臓細胞。
  8. 請求項1~6のいずれか1項記載の方法で製造された、凍結状態にある腎臓細胞を、解凍し、培養容器に非接着の状態で培養する培養工程を含む、腎臓細胞培養物の製造方法。
  9. 前記腎臓細胞が、前記培養工程において5日間以上培養される、請求項8記載の方法。
  10. 請求項7記載の腎臓細胞であって、OAT1及びOCT2の一方又は両方の遺伝子発現量が、ヒト腎皮質における遺伝子発現量の40%以上である、近位尿細管上皮細胞からなる腎臓細胞。
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