JPH1171625A - 自己補償型ヒゲゼンマイおよびその製造方法 - Google Patents

自己補償型ヒゲゼンマイおよびその製造方法

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JPH1171625A
JPH1171625A JP10173111A JP17311198A JPH1171625A JP H1171625 A JPH1171625 A JP H1171625A JP 10173111 A JP10173111 A JP 10173111A JP 17311198 A JP17311198 A JP 17311198A JP H1171625 A JPH1171625 A JP H1171625A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 ヤング率の温度係数を精密に制御できるNb
−Zr合金製の自己補償型ヒゲゼンマイを提供する。 【解決手段】 精密機器特に測時用ムーブメントの機械
式振動器のヒゲゼンマイ・テン輪アセンブリ用の自己補
償型ヒゲゼンマイであって、5〜25wt%のZrを含有
するNb−Zr合金で作られており、ヤング率の温度係
数が下記式の値をゼロにする関係を有し、(1/E)(dE
/dT)+3αs −2αb 〔ここで、E=振動器のヒゲ
ゼンマイのヤング率、(1/E)(dE/dT)=振動器の
ヒゲゼンマイのヤング率の温度係数、αs =振動器のヒ
ゲゼンマイの熱膨張係数、αb =振動器のテン輪の熱膨
張係数〕、少なくとも一部が酸素から成る侵入型ドープ
成分を500wtppm以上含有することを特徴とする自
己補償型ヒゲゼンマイ。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、測時器ムーブメン
ト等の精密機器の機械式振動器のヒゲゼンマイ−テン輪
アセンブリ用の自己補償型ヒゲゼンマイであって、5〜
25wt%のZrを含有する常磁性Nb−Zr合金製で、
冷間圧延または冷間引き抜きにより作られており、ヤン
グ率の温度係数(TCY)がNb−Zr固溶体中のZr
濃化相の析出により調整可能である自己補償型ヒゲゼン
マイに関し、更に、測時機器の機械式振動器アセンブリ
用の自己補償型ヒゲゼンマイの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】機械式時計の精度がヒゲゼンマイアセン
ブリの振動器の固有振動数の安定性に依存することは知
られている。温度が変化すると、ヒゲゼンマイおよびテ
ン輪自体の熱膨張およびヒゲゼンマイのヤング率の変化
によって、この振動器アセンブリの固有振動数が変化
し、時計の精度が不安定になる。
【0003】この振動数の変動を補償するために提案さ
れている方法は、全て次の考え方に基づいている。すな
わち、この固有振動数は、ヒゲゼンマイからテン輪に負
荷されるバイアストルクの定数とテン輪の慣性モメント
との関係にのみ依存する。この関係は下記のように表さ
れる。 F=(1/2π)(C/I)1/2 ・・・(1) ここで、 F=振動器の固有振動数、 C=振動器のヒゲゼンマイにより負荷されるテン輪のト
ルクの定数、および I=振動器のヒゲゼンマイの慣性モメント である。
【0004】ヤング率の温度係数(TCY)が正である
Fe−Ni系合金が発見されて以来、機械式振動器の温
度補償は、ヒゲゼンマイおよびテン輪の熱膨張係数の関
数としてヒゲゼンマイのヤング率の温度係数(TCY)
を調整することにより行われてきた。トルクおよび慣性
モメントをヒゲゼンマイおよびテン輪の特性量で表し、
式(1)を温度で微分することにより、温度に対する固
有振動数の変化は下記のように求まる。
【0005】 (1/F)(dF/dT)=(1/2)[(1/E)(dE/dT)+3αs −2αb ] ・・・(2) ここで、 E:振動器のヒゲゼンマイのヤング率、 (1/E)(dE/dT):振動器のヒゲゼンマイのヤング
率の温度係数(TCY)、 αs :振動器のヒゲゼンマイの熱膨張係数、および αb :振動器のテン輪の熱膨張係数、 である。
【0006】自己補償係数A=1/2(TCY+3
αs )をテン輪の熱膨張係数に合わせることにより、式
(2)をゼロにできる。これにより、機械式振動器の固
有振動数の温度による変化を無くすことができる。テン
輪の材料として最も一般的な銅合金、銀合金、金合金、
白金合金や鋼等の熱膨張係数αb は、10〜20ppm
/℃程度の範囲内にある。振動器の固有振動数に対する
温度変化の影響を補償するには、ヒゲゼンマイに用いる
合金が相応の自己補償係数Aを持つ必要がある。時計の
所要精度を得るには、製造過程で自己補償係数を数pp
m/℃の許容差内で所要値に合わせることができなくて
はならない。
【0007】従来、ヒゲゼンマイ合金を製造するのに用
いられている強磁性の鉄基合金、ニッケル基合金、ある
いはコバルト基合金は、これらの合金のキューリー点に
近い、室温の上下30℃の範囲内でTCYが異常に大き
な正の値になる。この温度付近になると、これらの合金
のヤング率を小さくしている磁歪効果が消失するため、
ヤング率が大きくなる。この温度範囲が比較的狭いとい
う事実とは別に、これらの合金は磁界の影響を受けやす
い。磁界によってヒゲゼンマイの弾性が不可逆的に変化
し、その結果、機械式振動器の固有振動数が変化する。
更に、強磁性合金の弾性は冷間加工の程度によって変わ
るので、ヒゲゼンマイの製造時には冷間加工条件を厳密
に制御する必要がある。
【0008】このグループの合金で作られたヒゲゼンマ
イの所要TCY値は析出熱処理によって調整され、この
熱処理によるクリープでヒゲゼンマイの最終形状も決ま
る。これまでに、CH−551032(D1)、CH−
557557(D2)およびDE−C3−155881
6(D3)には、自己補償型のヒゲゼンマイおよび精密
バネを製造するための強磁性合金に代わるものとして、
磁化率が大きく、磁化率の温度係数が負である常磁性合
金が提案されている。これらの合金は異常に大きい正の
TCYを持ち、弾性が磁界の影響を受けないという長所
がある。これらの合金の磁性は、ヒゲゼンマイの引き抜
き時に形成された組織(テクスチャー)に依存するが、
冷間加工の程度に対する依存度は小さい点が、強磁性合
金とは逆である。更に、前記公報D3に記載されている
ように、これらの合金で作られた機械式振動器は常温の
上下100℃まで温度補償範囲に入る。
【0009】これらの常磁性合金が異常に大きな正のT
CYを持つ物理的な理由が上記公報に説明されている。
それによれば、これらの合金はフェルミレベルにある電
子状態の密度が高く、また電子−フォノン結合が強いこ
とが、異常なTCYの原因である。特に公報D3には、
時計のムーブメントの振動器のヒゲゼンマイを製造する
のに適した合金として、Nb−Zr合金、Nb−Ti合
金およびNb−Hf合金が挙げられている。公報D2に
は、Nb−25wt%合金が例示されている。これらの公
報によれば、合金を高温アニール後急冷して過飽和固溶
体として作製すると、異常に大きい正のTCYを持つヒ
ゲゼンマイが得られる。次に、この状態の合金に85%
以上の冷間成形を行う。この強変形により、望ましい組
織(テクスチャー)と正のTCY値が得られる。このT
CY値を所望値に調整するために、過飽和固溶体からの
析出が起きる温度範囲で最終的な熱処理を行う。固溶体
からの析出相はTCY値が小さいため、合金全体として
のTCY値が低下し、TCY値の調整ができる。
【0010】また、DE−1292906(D4)に
も、時計のムーブメントの振動器のヒゲゼンマイを製造
するためのZr含有量が15〜35wt%、特に25wt%
のNb−Zr二元合金が提案されている。上記合金製の
ヒゲゼンマイを製造するには、酸素による汚染を避ける
ために必要な全ての手段を取らなければならない。すな
わち、TCYを調整するための析出熱処理は徹底した真
空中で、かつ酸素トラップとして作用するチタンシート
で封入して行う。
【0011】Nb−Zr合金は酸素との親和性が高く、
酸素によって脆化することが知られている。酸素で汚染
されると、ヒゲゼンマイその他の精密バネの製造に必要
な冷間成形中に破断し易くなる。この合金は熱膨張係数
が約7ppm/℃であり、一般に時計に用いられている
ヒゲゼンマイと同等の補償を達成するには、式(2)か
らTCYが0〜20ppm/℃程度の範囲内になくては
ならないことが分かる。しかし、「ニオブ−ジルコニウ
ム合金および純ニオブの弾性係数の温度依存性の異常
(Anomalien der Temperaturabhaengigkeit des Elasti
zitaetsmoduls von Niob-Zirkonium-Legierung und rei
nem Niob)」,H. Albert and I. Pfeiffer, Z. Metall
kde. 58, 311(1967)(D5)には、固溶状態にあるZr
含有量10wt%〜30wt%程度の二元合金は室温でのT
CY値が上記の所要値よりも大きいことが示されてお
り、これは添付図面の図1に示した本発明者による測定
値のグラフからも分かる。
【0012】TCYの値を小さくするために、Nb−Z
r二元系の二相領域で析出熱処理を行う必要がある。Z
r含有量10〜30wt%の合金のTCY値を小さくする
という観点で、650〜800℃の温度範囲で種々の熱
処理を行った。650℃および750℃での熱処理後に
得られた値を図2に示す。Zr含有量が23wt%以上の
合金については、これらの熱処理でTCYが大幅に低下
する。しかし、Zr含有量が23wt%未満の場合には、
非常に長時間の熱処理を行っても、ヒゲゼンマイとして
の所要値にまでTCYを下げることはできないことが分
かる。
【0013】このことは上記刊行物D5にも示されてお
り(D5の著者の一人は公報D4の発明者である)、こ
の刊行物の場合、Zr含有量が19wt%〜33wt%の合
金について600℃、64時間の熱処理が行われてい
る。Zr含有量が25wt%以上の場合には、常温での温
度係数は熱処理により降下して負の値にまでなっている
が、D4によればZr含有量19wt%〜22wt%の場合
に0ppm/℃に近い値が得られている。熱処理後のこ
れらの値は図2に示した本発明者らの測定値よりも低
い。この相違は、D5の熱処理温度が低いためである。
【0014】Zr含有量19〜22wt%で、熱処理を6
00℃で64時間行った合金のTCY測定値がヒゲゼン
マイの製造に適していることになる。しかし、本発明者
が実験を行ったところ、Zr含有量が20wt%未満の場
合には、上記の条件ではクリープによってヒゲゼンマイ
を渦巻き状に成形することができないことが分かった。
その上、自己補償型ヒゲゼンマイに適したTCYを得る
のに必要な熱処理の所要時間が、実際の工業生産に適用
するには長すぎる。
【0015】そこで、本発明者が行った実験によれば、
また刊行物D5にも示されているように、時計のムーブ
メントの機械式振動器用の自己補償型ヒゲゼンマイの製
造には、Zr含有量が23wt%未満(図2参照)のNb
−Zr二元合金は適さない。これは実験による実証なし
にD4で述べられていることとは反対である(D4の発
明者はD5の共著者の一人である)。
【0016】Nb−Zr合金の製造に関する従来技術は
全て、変形工程での破断の原因になる脆化を避けるため
に、可能な限りの手段を駆使して酸素による汚染を低減
することが主張されてきた。典型的には公報D4で強調
されているように、製造工程で可能な限り低く酸素濃度
を維持するようにしてNb−Zr二元合金の熱処理を行
うことが推奨されてきた。
【0017】これに対して本発明においては、Nb−Z
r合金に酸素をドープすることによって、Zr濃化相の
析出を促進する方法を選択した。「転位の性質、量およ
び分布およびこれらがIII 型超伝導体Nb−25%Zr
合金の高磁界特性に及ぼす影響(Natur, Groesse und V
erteilung von Gitterstoerungen und ihr Einflussauf
Hochfeldeigenschaften des Typ-III-Supraleiters Nb
-Zr25)」,H. Hillmann and Pfeiffer, Z. Metallkde.
58, 129(1967) (D6)により、1000wtppm程
度の低濃度の酸素でも、Zr含有量25wt%のNb−Z
r二元合金の状態図が変化して、Zr濃化相の析出が促
進されることが知られている。
【0018】本発明者は、測時機器の機械式振動器用の
Nb−Zr合金製自己補償型ヒゲゼンマイの製造の技術
分野においてこれまで25年以上に渡って受け入れられ
てきた認識に反して、Zr含有量5〜25wt%のNb−
Zr合金にドープ処理を行うと、上記のようなヒゲゼン
マイの製造に適した温度および時間の熱処理でZr濃化
相を析出させることができるという極めて有用な事実を
見出した。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】すなわち、本発明の一
つの目的は、機械式振動器用、特に時計のムーブメント
用の、自己補償型ヒゲゼンマイの欠点の少なくとも一部
を解消することである。更に詳しくは、本発明の目的
は、常磁性合金特にNb−Zr合金で作られた自己補償
型ヒゲゼンマイの前述の欠点を解消することである。
【0020】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するため
に、本発明は先ず、請求項1に記載したように、Zr含
有量5〜25wt%の常磁性Nb−Zr合金で作られた、
時計のムーブメントその他の精密機器の機械式振動器用
の上記タイプの自己補償型ヒゲゼンマイに関する。
【0021】本発明は更に、請求項7に記載したよう
に、時計のムーブメントの機械式振動器用の上記のよう
な自己補償型ヒゲゼンマイの製造方法に関する。本発明
のその他の特徴は、上記二つの主請求項に従属する請求
項に記載した自己補償型ヒゲゼンマイおよびその製造方
法に関する。本発明の顕著な利点は、常磁性合金のTC
Yを慎重且つ精密に調整することができ、それによって
この合金製の時計のムーブメントの機械式振動器の自己
補償型ヒゲゼンマイの自己補償係数を慎重且つ精密に調
整することができる極めて実用的な手段を初めて提供し
た点にある。
【0022】従来は、既に説明した理由によって、酸素
含有侵入型ドープ成分が着想されなかったために、Zr
含有量20wt%未満のNb−Zr二元合金のヒゲゼンマ
イを製造することはできなかった。更に、以下に説明す
るように、Zr含有量20〜25wt%の範囲の合金で
は、熱処理によるTCYの調整は酸素濃度に大きく依存
することが分かった。従来の提案、特に公報D4では、
酸素濃度は何ら制御されておらず、2通りのヒゲゼンマ
イの製造において操業条件によって酸素濃度は変動して
おり、酸素含有量とTCYの調整におけるその役割につ
いての知見がないため、TCYを制御し、それによりヒ
ゲゼンマイの自己補償係数を精密に制御することはでき
なかった。
【0023】更に、従来用いられていた強磁性合金は、
自己補償の温度範囲が狭く、また磁場に晒された場合等
にヤング率が不可逆的に変化するため、このヒゲゼンマ
イを用いた機械式振動器の固有振動数が時間と共に変化
し易かった。本発明による解決手段は、従来の自己補償
型ヒゲゼンマイに対して格段の向上を実現したものであ
り、本発明のヒゲゼンマイは、自己補償係数を精密に調
整でき、常磁性合金のヤング率を磁場にも冷間加工の程
度にも影響され難くでき、結局、TCYが異常な正の値
であり自己補償作用を可能にする範囲が従来の室温の上
下約30℃の範囲に対して室温の上下約100℃の範囲
にまで拡張する。
【0024】時計のムーブメントの機械式振動器用の常
磁性合金製自己補償型ヒゲゼンマイの分野において、本
発明が誇張ではなく格段の進歩と言うことができるの
は、Zr濃化相の析出の制御が容易であって酸素含有侵
入型成分による影響が僅かしかない範囲であるZr含有
量5〜20wt%の上記のようなヒゲゼンマイの製造を初
めて可能にしたからである。また、酸素含有侵入型成分
の含有量を制御することによりTCYの調整を制御でき
るZr含有量20〜25wt%の上記合金を用いることも
初めての提案である。
【0025】
【発明の実施の形態】図3に、Zr含有量10〜23wt
%、酸素含有量約1000wtppmの合金を750℃で
3時間析出熱処理した場合を示す。図示したグラフか
ら、Zr含有量が10〜13wt%および18〜22wt%
の合金については、析出熱処理によってTCY値を自己
補償型ヒゲゼンマイとして望ましい値(0〜20ppm
/℃)に調整できることが分かる。概略的には、酸素を
600wtppm以上ドープすることにより、Zr含有量
5〜23wt%の全てのNb−Zr合金について、TCY
値を0〜20ppm/℃に調整することができる。析出
熱処理の温度としては700〜850℃を推奨する。こ
の温度範囲と処理時間との組み合わせにより、クリープ
によりヒゲゼンマイの形状にすることが同時にできる。
酸素をドープすることにより、ヒゲゼンマイを製造する
のに必要なZr含有量が低減することができ、また後に
説明するように、Zr含有量が20wt%未満であればT
CYの調整が容易になる。その上、TCYを制御するた
めの熱処理温度が、クリープによりヒゲゼンマイ形状に
するのに十分な高温である。このようなことは従来はZ
r含有量23wt%未満の場合には不可能なことであり、
TCYの制御には、クリープによりヒゲゼンマイ形状に
するための温度より低い600℃程度が必要であった。
【0026】合金に導入する最適な酸素量はZr含有量
に依存する。図4に模式的に示したように、Zr含有量
によって3つの領域に区分できる。 a)先ず第1領域はZr含有量25〜35wt%の範囲で
あり、酸素導入量はできるだけ少なく、即ち約500wt
ppm以下に抑える。酸素含有量がこれより多いと、リ
ボン材の引き抜き時に破断が起きる上、Zr濃化相の析
出速度が速すぎて自己補償型ヒゲゼンマイとして望まし
いTCY値に制御することができない。
【0027】b)Zr含有量25〜20wt%の範囲で
は、酸素含有量は狭いバンド内に入れなくてはならず、
このバンドはZr含有量25wt%の場合の約500〜8
00wtppmからZr含有量20wt%の場合の約600
〜2000wtppmまで増加する。ドープ量がこの範囲
未満であると、Zr濃化相の析出が遅過ぎる。ドープ量
が多すぎると、上記の析出が速すぎて、TCYを制御し
て自己補償型ヒゲゼンマイを製造することができない。
このZr含有量の領域において、酸素ドープ量に対する
TCYの依存性が非常に大きいことが観察された。一例
として図5に、Nb−23wt%Zr合金を750℃で3
時間熱処理した場合に得られるTCY値と酸素含有量と
の関係を示す。図から分かるように、酸素含有量が数百
wtppm変化すると、TCYは高すぎる正の値から低す
ぎる負の値まで変化している。このように敏感に変化す
るので、この組成範囲の合金で自己補償型ヒゲゼンマイ
を製造するには、TCY値を安定して確保するために酸
素含有量を精密に制御する必要があるが、このような制
御を安定して行うことは困難である。
【0028】c)Zr含有量5〜20wt%の領域では、
Zr濃化相の析出を起こさせてTCY値を良好な制御性
で調整するためには、酸素導入量を少なくとも600wt
ppmとする必要がある。Zr含有量がこの範囲である
と、合金の酸素含有量に対するTCY値の依存性が図示
のように非常に小さい。実験で作製した合金では酸素含
有量が図示の範囲より大きいものはなかった。酸素含有
量の上限は必ず存在するはずであり、酸素含有量が余り
多くなると少なくとも合金の脆化が起きるはずである
が、この実験の範囲では起きなかった。以上の実験結果
を考慮すると、少なくとも前記の下限値を確保すること
が必要であって、現実に良好な結果を得るために上限を
規定する必要はないと考えられる。それは上記実験結果
が上限についての知見なしに極めて安定して得られてい
るからであり、いずれにせよこの合金組成範囲は酸素含
有量の影響が最も少ないからである。典型的な態様とし
ては、Zr含有量5〜20wt%のこの合金組成領域であ
れば常に、酸素ドープ量を600〜1500wtppmと
すれば本発明の目的は達成できると言える。
【0029】Zr含有量が25wt%を超えると、合金の
加工が困難になるばかりでなく、析出が高速化するため
TCYを安定して制御することが非常に困難になる。そ
れに対して、Zr含有量が25wt%以下、望ましくは2
0wt%以下のNb−Zr合金は、加工が遙かに容易であ
ることが分かった。Zr含有量が減少するに従って変形
抵抗が低下し延性が増加することが分かった。しかし、
最終的に得られるヒゲゼンマイの機械的性質は劣化す
る。機械的性質は、Be、Al、Si、Ge、Sc、
Y、La、Ti、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、M
n、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、N
i、Pd、Pt、Cu、Ag、Auから選択した少なく
とも1種の硬化元素を0.01〜5wt%添加することに
より向上させることができる。
【0030】酸素以外のドープ元素、例えば窒素、炭
素、硼素、燐の添加は、Zr濃化相の析出によりTCY
を調整するための酸素ドープ処理と同時またはその後に
行うことができる。後述するように、合金中には殆ど常
に酸素の他に窒素が存在している。最終的なヒゲゼンマ
イの形状にした後で、上記元素の少なくとも1種を含む
ガスを用いてヒゲゼンマイを硬化するための付加的なド
ープ処理を行うことができる。この付加的な処理により
ヒゲゼンマイの脆性はもちろん高まるが、既にヒゲゼン
マイの形状にしてあるので大きな問題にはならない。し
たがって、TCYを調整するための酸素ドープで既にヒ
ゲゼンマイは組織に硬化が生じているが、最終的なヒゲ
ゼンマイの硬さと機械的性質を更に向上させる利点があ
る。もちろん、この処理はTCY調整処理の温度未満す
なわち650℃未満の温度で行わなければならない。
【0031】
【実施例】本発明による自己補償型ヒゲゼンマイを製造
する方法を実施例により説明する。先ず、全ての実施例
に適用する全般的な処理条件を説明し、次にこの処理条
件で作製した種々の合金を表にまとめて示す。電子ビー
ム溶解炉内で超高真空下にてNb−Zr合金を鋳造し
た。得られた棒材を、通常このタイプのNb−Zr合金
に行われる方法で、例えば銅合金製、ニッケル合金製、
またはステンレス鋼製のシース中に封入して、酸素と接
触しないようにした。各棒材を、必要に応じて中間焼鈍
を加えた冷間圧延または冷間引き抜きにより、直径0.
05〜1.5mmにした。
【0032】得られた線材を保護シースから取り出した
後、陽極酸化または熱酸化による公知の方法で酸素ドー
プ処理を行った。陽極酸化の場合には、線材の直径、処
理温度および電解液の組成を選択することにより酸素ド
ープ量を制御した。熱酸化の場合には、線材の直径、処
理温度、酸化ガスの種類と圧力、および処理時間を選択
することにより、酸素ドープ量を制御した。
【0033】酸素ドープ処理後、線材を冷間成形してヒ
ゲゼンマイの断面形状にした。この線材を渦巻き状に巻
いてから熱処理を施すことにより、クリープにより最終
形状にすると共に合金の組成に応じてTCYを前述の範
囲になるように調整した。合金組成および線材直径の異
なる幾つかのサンプルについて、熱酸化による酸素ドー
プを行った結果を表1に示す。
【0034】得られた自己補償型ヒゲゼンマイに、前述
した態様のように更に付加的なドープ処理を行えば、酸
素含有量および必要に応じて窒素含有量を、表1に示し
た結果よりもかなり増量することができる。しかし表1
に示した各含有量は、Zr濃化相が良好な制御性で析出
することによりヒゲゼンマイのTCY値を一般に0〜2
0ppm/℃の範囲内に調整するのに十分な量である。
既に説明したように、Zr含有量が5〜20wt%の範囲
にある合金は、ドープ量は多い分には大きな影響がない
が、600〜800wtppm程度にある下限値よりは多
くなくてはならない。
【0035】ただし、TCYの調整が済んだ後であれ
ば、最終的なヒゲゼンマイの機械的性質を向上させるた
めに、合金組成にかかわらず、更に付加的なドープ処理
を行って前述の侵入型成分の少なくとも1種を添加する
ことができる。この付加的なドープ処理により、炭素、
硼素、燐のような合金中へ拡散できる酸素や窒素以外の
塩素を添加して合金を硬化させることができる。
【0036】既に説明したように、ヒゲゼンマイの機械
的性質を向上させる上記以外の手段として、表2に掲げ
た元素を0.01〜5wt%の範囲内で合金元素として添
加することができる。なお、表2において、「*」印を
付した元素は硬化成分として文献に記載されているもの
であり、それ以外の元素はNbとの二元状態図に基づい
て選定したものである。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
酸素等の侵入型元素をドープしてZr濃化相の析出を促
進することによりヤング率の温度係数(TCY)を調整
した自己補償型ヒゲゼンマイが提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、固溶体状態で冷間加工した状態のNb
−Zr二元合金の室温でのヤング率の温度係数(TC
Y)とZr含有量との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、析出熱処理後のNb−Zr二元合金の
室温でのTCYとZr含有量との関係を示すグラフであ
る。
【図3】図3は、約1000wtppmの酸素をドープし
たNb−Zr−O合金の室温でのTCYとZr含有量と
の関係を示すグラフである。
【図4】図4は、ヒゲゼンマイに有用なNb−Zr−O
合金の組成範囲を示すグラフである。
【図5】図5は、750℃、3時間の析出熱処理後のN
b−23wt%Zr合金の室温でのTCYと酸素含有量と
の関係を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C22F 1/00 630 C22F 1/00 630F 650 650E 680 680 685 685Z 686 686Z 691 691B 691C 691Z (72)発明者 ジャック バール スイス国,ツェーハー 1170 オーボン ヌ,シュマン ドゥ ラ トラベルス 3 (72)発明者 パトリック ソル フランス国,エフ−01420 シャナーイ, ボッコーノ (72)発明者 ピエール−アラン ワルデール スイス国,ツェーハー 1232 コンフィニ ョン,シュマン シュル ボーボン 8

Claims (12)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 精密機器特に測時用ムーブメントの機械
    式振動器のヒゲゼンマイ・テン輪アセンブリ用の自己補
    償型ヒゲゼンマイであって、5〜25wt%のZrを含有
    するNb−Zr合金で作られており、ヤング率の温度係
    数が下記式の値をゼロにする関係を有し、 (1/E)(dE/dT)+3αs −2αb 、 ここで、 E:振動器のヒゲゼンマイのヤング率、 (1/E)(dE/dT):振動器のヒゲゼンマイのヤング
    率の温度係数、 αs :振動器のヒゲゼンマイの熱膨張係数、および αb :振動器のテン輪の熱膨張係数、 であって、少なくとも一部が酸素から成る侵入型ドープ
    成分を500wtppm以上含有することを特徴とする自
    己補償型ヒゲゼンマイ。
  2. 【請求項2】 Zr含有量が5〜20wt%であり、前記
    侵入型ドープ成分を600wtppm以上含有することを
    特徴とする請求項1記載のヒゲゼンマイ。
  3. 【請求項3】 上記Nb−Zr合金のZr含有量が20
    wt%〜25wt%であり、上記侵入型ドープ成分の含有量
    を、Zr含有量20wt%の場合の600〜2000wtp
    pmからZr含有量25wt%の場合の500〜800wt
    ppmまでの範囲内で変えたことにより、該Nb−Zr
    合金の固溶体からのZr濃化相の析出を制御してあるこ
    とを特徴とする請求項1記載のヒゲゼンマイ。
  4. 【請求項4】 上記侵入型ドープ成分中の酸素の割合が
    20wt%〜100wt%であることを特徴とする請求項1
    から3までのいずれか1項に記載のヒゲゼンマイ。
  5. 【請求項5】 上記Nb−Zr合金の固溶体からのZr
    濃化相の析出を制御するための上記ドープ成分の他に、
    酸素、窒素、炭素、硼素および燐から選択された少なく
    とも1種の硬化ドープ成分を含有することを特徴とする
    請求項1から4までのいずれか1項に記載のヒゲゼンマ
    イ。
  6. 【請求項6】 更に、Be、Al、Si、Ge、Sc、
    Y、La、Ti、Hf、V、Ta、Cr、Mo、W、M
    n、Re、Fe、Ru、Os、Rh、Ir、Ni、P
    d、Pt、Cu、AgおよびAuから選択された少なく
    とも1種を0.01wt%〜5wt%含有することを特徴と
    する請求項1から5までのいずれか1項に記載のヒゲゼ
    ンマイ。
  7. 【請求項7】 精密機器特に測時器ムーブメントのヒゲ
    ゼンマイ・テン輪型機械式振動器用の、Zr含有量5〜
    25wt%のNb−Zr合金製の自己補償型ヒゲゼンマイ
    の製造方法であって、上記合金から棒材を形成し、この
    棒材を無酸素状態で冷間圧延または冷間引き抜きにより
    直径0.05〜1.5mmの線材に成形し、この線材の直
    径を冷間圧延または冷間引き抜きにより減少させて上記
    ヒゲゼンマイに適したリボン材に成形し、このリボン材
    を渦巻き状に巻き、制御された圧力および/または制御
    された雰囲気で少なくとも1回の熱処理を施してZr濃
    化相の析出によりヤング率の温度係数を低下させ且つヒ
    ゲゼンマイの形状にするヒゲゼンマイの製造方法におい
    て、上記線材はZr濃化相の制御された析出を起こす量
    の侵入型成分を含有しており、この線材を650〜88
    0℃で1〜24時間加熱してヤング率の温度形成を所定
    値に調整することを特徴とする自己補償型ヒゲゼンマイ
    の製造方法。
  8. 【請求項8】 Zr含有量5〜20wt%のNb−Zr合
    金を形成し、酸素含有雰囲気中で600wtppm以上に
    ドープすることにより上記線材中の上記侵入型成分の含
    有量を調整することを特徴とする請求項7に記載の製造
    方法。
  9. 【請求項9】 Zr含有量20〜25wt%のNb−Zr
    合金を形成し、Zr含有量20wt%の場合の600〜2
    000wtppmからZr含有量25wt%の場合の500
    〜800wtppmまでの範囲でドープすることにより上
    記線材中の上記侵入型成分の含有量を調整することを特
    徴とする請求項7に記載の製造方法。
  10. 【請求項10】 渦巻き状に巻かれた上記リボン材の上
    記熱処理を真空中で行うことを特徴とする請求項7から
    9までのいずれか1項に記載の製造方法。
  11. 【請求項11】 ヤング率の温度係数を低下させ且つ自
    己補償型ヒゲゼンマイの形状にする上記熱処理の後で、
    このヒゲゼンマイ中へ拡散できる元素を少なくとも1種
    含有するガスを所定分圧で含有する雰囲気中で650℃
    未満の温度で硬化熱処理を上記ヒゲゼンマイに施すこと
    を特徴とする請求項7から9までのいずれか1項に記載
    の製造方法。
  12. 【請求項12】 上記元素を酸素、窒素、炭素、硼素お
    よび燐から選択することを特徴とする請求項11に記載
    の製造方法。
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