誘電体素子の信頼性を高めるため、誘電体素子中の導電体と、その上に設けられた誘電体との密着性を高めることが要望されている。そこで、本発明は、導電体と誘電体との密着性に優れた誘電体素子およびその製造方法を提供することを課題とする。
一つの側面において、本発明は誘電体素子に関する。この誘電体素子は、第1の導電体と、第1の導電体上に設けられた誘電体と、第1の導電体と誘電体との間に位置し、第1の導電体および誘電体のいずれとも異なる添加物と誘電体とが混在する中間領域とを備えている。この添加物は、Si、Al、P、Mg、Mn、Y、V、Mo、Co、Nb、FeおよびCrのうち一つ以上の元素を含んでいる。添加物は、スクラッチ法によって計測される誘電体の臨界剥離荷重値を高める濃度を中間領域において有していることが好ましい。中間領域は、第1の導電体と誘電体との境界上の全体に延在していてもよいし、境界上の一部にだけ存在していてもよい。中間領域において上記の元素は、単体として存在していてもよいし、酸化物として存在していてもよい。言い換えると、中間領域は、単体の上記元素または上記元素の酸化物、あるいはその双方を含んでいてもよい。さらには、添加物中の上記元素と誘電体を構成する誘電体材料とが部分的に反応していてもよい。
臨界剥離荷重値は、誘電体を剥離させるために必要な荷重を表しており、これが高いほど、第1の導電体と誘電体との密着性が高いことになる。本発明者らの研究によれば、十分な量の添加物を含む中間領域を第1の導電体と誘電体との間に少なくとも部分的に設けることで、中間領域を有さない誘電体素子に比べて高い臨界剥離荷重値を誘電体に与えることができる。
第1の導電体は、Ni、CuもしくはAl、またはこれらのいずれかを主成分とする合金から構成されていてもよい。言い換えると、第1の導電体は、実質的に、Ni、CuもしくはAl、およびこれらのいずれかを主成分とする合金から選ばれる少なくとも1種の導電性材料からなるものであってもよい。より具体的には、第1の導電体は、Ni、CuもしくはAl、およびこれらのいずれかを主成分とする合金から選ばれる少なくとも1種の導電性材料を全体の50質量%以上含んでいてもよい。添加物は、上述した元素の酸化物を含んでいてもよい。
誘電体素子は、誘電体上に設けられた第2の導電体を更に備えていてもよい。この場合、この誘電体素子をコンデンサとして使用することが可能になる。第1の導電体は上記添加物を含んでいてもよく、この場合、上述した元素の第1の導電体における濃度は、当該元素がSiのときは10ppm〜5000ppmであり、当該元素がAl、P、Mg、Mn、Y、V、Mo、Co、Nb、FeまたはCrのときは10ppm〜3000ppmであることが好ましい。これらの元素がこのような濃度で第1の導電体に含まれていると、第1の導電体と、第1の導電体上に設けられた誘電体を加熱することにより中間領域が形成され、誘電体の密着強度が十分に高まるとともに、良好な電気的特性が得られる。
別の側面において、本発明は誘電体素子に関する。この誘電体素子は、第1の導電体と、第1の導電体上に設けられた誘電体と、第1の導電体と誘電体との間に位置し、第1の導電体および誘電体のいずれとも異なる添加物が誘電体と混在する中間領域とを備えている。第1の導電体はNiから構成されるとともに添加物を含んでおり、添加物はSiを含んでおり、第1の導電体におけるSiの濃度は10ppm〜5000ppmである。第1の導電体および中間領域においてSiは、単体として存在していてもよいし、酸化物として存在していてもよい。言い換えると、第1の導電体および中間領域は、単体のSiまたはSi酸化物、あるいはその双方を含んでいてもよい。
上記のような濃度のSiが第1の導電体に含まれていると、第1の導電体と、第1の導電体上に設けられた誘電体を加熱することにより中間領域が形成され、誘電体の密着性が十分に高まるとともに、誘電体上に第2の導電体を設けてコンデンサを製造したときに良好な電気的特性が得られる。
上記のいずれの誘電体素子においても、誘電体(誘電体材料)として酸化物を使用することができる。この酸化物誘電体の好ましい例は、一般式ABO3で表される組成を有するペロブスカイト型の酸化物である。ペロブスカイト型の酸化物としては、Ba、Sr、Ca、Pb、Ti、ZrおよびHfのうち一つ以上の元素を含んでいる酸化物が好ましい。このような酸化物としては、例えば、BaTiO3、SrTiO3、(BaSr)TiO3、(BaSr)(TiZr)O3、およびBaTiZrO3を挙げることができる。誘電体は、これらの酸化物のうち一つ以上を含んでいてもよい。
第1の導電体は金属箔であってもよい。金属箔は自立可能なので、誘電体を支持する基材として使用することができる。したがって、第1の導電体とは別個に基材を用意する必要はない。ただし、本発明に係る誘電体素子は、第1の導電体および誘電体を支持する基材を更に備えていてもよい。
更に別の側面において、本発明は誘電体素子の製造方法に関する。この方法は、Si、Al、P、Mg、Mn、Y、V、Mo、Co、Nb、FeおよびCrのうち一つ以上の元素を添加物として含む第1の導電体を用意する工程と、第1の導電体上に、この添加物と異なる材料から構成される誘電体を設ける工程と、第1の導電体および誘電体を加熱して、第1の導電体と誘電体との間に、上記の添加物と誘電体とが混在する中間領域を形成し、それにより、スクラッチ法によって計測される誘電体の臨界剥離荷重値を高める工程とを備えている。中間領域は、第1の導電体と誘電体との境界上の全体に延在していてもよいし、境界上の一部にだけ存在していてもよい。中間領域において上記の元素は、単体として存在していてもよいし、酸化物として存在していてもよい。言い換えると、中間領域は、上記元素の単体もしくは上記元素の酸化物、またはその双方を含んでいてもよい。さらには、添加物中の上記元素と誘電体を構成する誘電体材料とが一部反応していてもよい。
十分な量の添加物を含む中間領域を第1の導電体と誘電体との間に少なくとも部分的に設けることで、中間領域を有さない誘電体素子に比べて高い臨界剥離荷重値を誘電体に与えることができる。
更に別の側面において、本発明は誘電体素子の製造方法に関する。この方法は、添加物を含む第1の導電体を用意する工程と、第1の導電体上に、この添加物と異なる材料から構成される誘電体を設ける工程と、第1の導電体および誘電体を加熱して、第1の導電体と誘電体との間に、上記の添加物と誘電体とが混在する中間領域を形成する工程とを備えている。第1の導電体はNiから構成されており、添加物はSiを含んでおり、第1の導電体におけるSiの濃度が10ppm〜5000ppmであってもよい。中間領域は、第1の導電体と誘電体との境界上の全体に延在していてもよいし、境界上の一部にだけ存在していてもよい。中間領域においてSiは、単体として存在していてもよいし、酸化物として存在していてもよい。言い換えると、中間領域は、Siの単体もしくはSiの酸化物、またはその双方を含んでいてもよい。
上記のような濃度のSiが第1の導電体に含まれていると、第1の導電体と、第1の導電体上に設けられた誘電体を加熱することにより中間領域が形成され、誘電体の密着性が十分に高まるとともに、誘電体上に第2の導電体を設けてコンデンサを製造したときに良好な電気的特性が得られる。
本発明によれば、導電体と誘電体との密着性に優れた誘電体素子、およびその製造方法を提供することができる。
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本発明の実施形態に係る誘電体素子10の構造を示す概略断面図である。誘電体素子10は、第1の導電体である基材12と、基材12上に設けられた誘電体膜14を有している。基材12は導電性材料から構成される導電体層である。誘電体膜14は誘電体材料から構成される誘電体である。本実施形態では、基材12はNi箔であり、誘電体膜14はBST、すなわちチタン酸バリウムストロンチウム(BaSr)TiO3から構成されている。基材12は、誘電体膜14を支持して十分な強度を確保できる程度の厚さを有している。本実施形態では、基材12の厚さは約100μmであり、誘電体膜14の厚さは約500nmである。Ni箔などの金属箔は自立可能なので、誘電体膜14を支持する基材12として好適に使用することができる。
基材12と誘電体膜14との間には、中間領域16が形成されている。中間領域16では、基材12を構成するNiや誘電体膜14を構成するBSTとは異なる添加物がBSTと混在している。後述するように、この添加物は、基材12に対する誘電体膜14の密着性を上昇させる。この添加物は、誘電体膜14の密着性を1.5倍以上に高めるのに十分な濃度で中間領域16に含まれていることが好ましい。
以下では、図2及び図3を参照しながら、誘電体素子10の製造方法を説明する。図2(a)に示されるように、まず、基材12として、圧延法によって製造されたNi箔を用意する。ただし、本発明において、基材12用の金属箔の製法は圧延法に限られず、他の方法、例えば電解法であってもよい。
本実施形態で使用するNi箔には、十分な量のSiが添加されている。このNi箔には、Ti、Mg、Al、Pなど、他の元素も添加されているが、濃度はSiが最も高い。これらの添加物は、後述するスクラッチ法によって計測される誘電体膜14の臨界剥離荷重値を1.5倍以上に高める濃度を有していることが好ましい。添加物の好適な濃度については、後で詳細に説明する。
続いて、図2(b)に示されるように、基材12上に誘電体膜14としてBST薄膜を形成し、多層構造体15を製造する。本実施形態では、スパッタ法によってBSTを基材12上に堆積させて誘電体膜14を形成する。ただし、本発明において、誘電体膜14の形成方法はスパッタ法に限定されず、化学溶液法等の他の任意の方法で誘電体膜14を形成することができる。ここでは、BSTの組成をBa0.7Sr0.3TiO3とする。ただし、BaとSrの組成比は7:3に限定されるわけではなく、他の組成比を採用することも可能である。
次に、図2(c)に示されるように、多層構造体15をアニール炉20に搬入し、高温のガス雰囲気25中で所定の時間にわたって加熱する。このアニール処理により、誘電体膜14の結晶性が改善されると共に、基材12と誘電体膜14との境界上に中間領域16が形成される(図3(d))。中間領域16は、誘電体膜14を構成するBST中に、基材12中の添加物がアニール処理によって凝集することにより形成される。したがって、中間領域16では、これらの添加物がBSTと混在している。
基材12、すなわちNi箔の酸化を防止するため、雰囲気25としては、還元雰囲気、減圧雰囲気または減圧還元雰囲気を使用する。ここで、減圧雰囲気とは、1気圧(=101325Pa)より低い圧力を有する雰囲気を意味し、減圧還元雰囲気とは、1気圧より低い圧力を有する還元雰囲気を意味する。誘電体膜14の結晶性を十分に改善するために、雰囲気25の温度は400℃以上であることが好ましい。本実施形態では、雰囲気25の温度を800℃に設定した。
中間領域16を形成することにより、誘電体素子10が完成する。なお、中間領域16は、基材12と誘電体膜14との境界上の全体に延在していてもよいし、境界上の一部にだけ存在していてもよい。
誘電体膜14を構成するBSTには酸素が含まれているので、アニール処理によってNi箔中の添加物が中間領域16に凝集すると、その添加物は酸素と結合する可能性がある。したがって、中間領域16中の添加物の少なくとも一部は、酸化物として存在している可能性が高い。
本発明者らは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてエネルギー分散型X線分光(EDS)を実施し、誘電体素子10中における元素の分布を測定した。図4は、TEMを用いて撮影した誘電体素子10の断面の写真であり、図5および図6は、同じ断面で測定された元素の分布を示している。図5において(a)はBa、(b)はTi、(c)はSr、(d)はSiの分布を示している。図6において(e)はNi、(f)はP、(g)はAl、(h)はOの分布を示している。図5および図6では、各元素が存在する領域が白い斑点で表されている。
これらの図から分かるように、中間領域16には、基材12の主成分であるNiは殆ど存在せず、BST中の各元素と、Ni箔中の添加物であるSi、PおよびAlとが混在している。図6(d)に示されるように中間領域16の全域にOが分布しており、したがって、中間領域16では、Si、PおよびAlの大部分がOと結合して酸化物になっているものと思われる。
図7は図5中の中間領域16の一部を拡大した断面の写真であり、図8は同じ断面で測定された元素の分布を示している。図8において(i)はBa、(j)はTi、(k)はSr、(l)はSiの分布を示している。図8では、各元素が存在する領域が白い斑点で表されている。
図8(l)に示されるようにSiは偏析することなく、BST中の各元素と同様にほぼ均一に分布している。したがって、中間領域16の少なくとも一部では、SiとBSTとが反応しているものと思われる。
本実施形態では、更に、誘電体素子10を用いて薄膜コンデンサを製造する。なお、薄膜コンデンサも誘電体素子の一つである。具体的には、図3(e)に示されるように、誘電体膜14上に上部電極18を形成して、薄膜コンデンサ30を得る。本実施形態では、上部電極18はCuから構成されている。なお、薄膜コンデンサ30の下部電極として機能するのは、Ni箔からなる基材12である。
本発明者らは、様々な濃度のSiが添加された複数のNi圧延箔を用意して、上述の方法により、複数の誘電体素子10および薄膜コンデンサ30を製造し、その各々について、誘電体膜14の密着性と、薄膜コンデンサ30の電気的な特性、すなわち容量密度(C/A)およびリーク特性を計測した。なお、容量密度は、(薄膜コンデンサ30の静電容量)/(電極18の面積)で定義される。
誘電体膜14の密着性は、薄膜コンデンサ30ではなく誘電体素子10を用いて計測した。この計測は、RHESCA社の超薄膜スクラッチ試験機CSR−02を用いてスクラッチ法により行った。公知のように、スクラッチ法は、一定の曲率半径を有する硬い圧子を、計測すべき膜の表面に押し付け、圧子に加える荷重を増加させつつ膜の表面をひっかき、膜の破壊(例えば、下地材からの膜の剥離)が発生する荷重値を測定する。この荷重値は「臨界剥離荷重値」と呼ばれる。
なお、膜の密着強度は、この臨界荷重値を用いて算出することができる。すなわち、膜の密着強度Fは、圧子によって形成された圧痕の周縁部に作用する最大応力として、次の式
のように表される。ここで、Rは圧子の曲率半径であり、Hは下地材のブリネル硬度である。
下記の表1は、誘電体膜14の臨界剥離荷重値および薄膜コンデンサ30の電気的特性の計測結果を示している。
この表において「リーク特性」は、室温の下で薄膜コンデンサ30の下部電極(すなわち、基材12)および上部電極18間に3Vの電圧を印加したときに発生するリーク電流の電流密度を示している。また、「Si濃度」は、Ni箔に添加されたSiの単体の濃度、またはSi酸化物の濃度のSi元素換算値を表している。
表1に示されるように、Ni箔に添加されたSiの濃度が0のとき、すなわちNi箔にSiを添加せず、中間領域16内にSiが存在しないとき、誘電体膜14の臨界剥離荷重値は10mNであった。これに対し、Siの濃度が10ppmのときは、臨界剥離荷重値が15mNであり、Siの濃度が0のときの臨界剥離荷重値に比べて1.5倍に上昇した。Siの濃度が高まるにつれて臨界剥離荷重値も上昇し、Si濃度5000ppmおよび10000ppmのもとで、25mNの臨界剥離荷重値が得られた。このように、Siが存在している中間領域を形成することで、これまで達成されなかった誘電体膜14の臨界剥離荷重値の1.5倍以上の向上を容易に実現することができる。
その一方で、Siの濃度が5000ppmを超えると、誘電体膜14の臨界剥離荷重値は高いものの、薄膜コンデンサ30の電気的特性(より具体的には、容量密度(C/A)およびリーク特性)が劣化する。これは、SiおよびSi酸化物が誘電体膜14中に拡散し、場合によりその一部がBSTと反応してBSTの誘電体としての性質を劣化させるためと考えられる。
中間領域16によって誘電体膜14の密着性が向上する原因は、現在のところ明らかではない。本発明者は、この原因を解明するため、基材12と同じ製法により作製したNi圧延箔をアニール処理した後、Ni圧延箔の表面における添加物の分布をEPMA(エレクトロンプローブマイクロアナライザ)を用いて分析した。図9は、EPMAによって測定された添加物の分布を示す概略図である。ここで、図9(a)はSiの分布を示しており、白い領域22がSi濃度の低い領域、斑点を付した領域26がSi濃度の高い領域を示している。図9(b)はAlの分布を示しており、白い領域23がAl濃度の低い領域、斑点を付した領域27がAl濃度の高い領域を示している。図9(c)はPの分布を示しており、白い領域24がP濃度の低い領域を表し、斑点を付した領域28がP濃度の高い領域を表している。分析に使用したNi箔の厚さは300μmである。このNi箔を1200℃の還元雰囲気(H2:5000ppm、Dp=50℃)下で1時間加熱した。
図9によれば、上記のアニール処理によってNi箔の表面に添加物が析出すること、および各添加物がNi箔の表面上で不均一な分布を有することが分かる。特に、Pは、Niの結晶粒界に沿って線状に分布している。図9には、Ni箔中の添加物のうちSi、AlおよびPが示されているが、分析結果によれば他の添加物もNi箔の表面に析出していた。添加物(不純物)の不均一な分布に起因して、Ni箔の表面には添加物(不純物)によって凹凸が形成されている可能性がある。同様に、上記の誘電体素子10においても、基材12と誘電体膜14との境界上に添加物が不均一に凝集することで、その境界上に凹凸が形成されるものと思われる。本発明者らは、この凹凸が誘電体膜14と噛み合うことが原因で、誘電体膜14の密着性が向上している可能性があると考えている。
上述した様々な実験結果から、本発明者は次のように推察する。すなわち、誘電体素子10および薄膜コンデンサ30において、Ni箔中のSiの好ましい濃度は10ppm〜5000ppmである。Ni箔中のSiの濃度が10ppm未満だと、基材12と誘電体膜14との密着性を十分に高めることが難しく、また、Siの濃度が5000ppmを超えると、薄膜コンデンサ30の電気的特性の劣化が顕著になる。Siの濃度が10〜5000ppmの範囲内にあるときは、誘電体膜14の密着性を十分に上昇させると共に、良好な電気的特性を得ることができる。
Siのより好ましい濃度は、100ppm〜1000ppmである。上記の表1によれば、Ni箔中のSiの濃度が100ppm以上だと、誘電体膜14の臨界剥離荷重値を2倍以上に高めることができる。また、Ni箔中のSiの濃度が1000ppm以下だと、容量密度(C/A)の劣化を防止することができる。
このように、本実施形態の誘電体素子10および薄膜コンデンサ30は、添加物としてSiを含んだ中間領域16を有するため、誘電体膜14の密着性が向上している。Siの濃度を適切に調節することにより、誘電体膜14の高い密着性を維持したまま、薄膜コンデンサ30の良好な電気的特性を得ることができる。
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
本発明者らの知見によれば、SiだけでなくAl、P、Mg、Mn、Y、V、Mo、Co、Nb、FeおよびCrも、導電体に対する誘電体の密着性を高める作用を有している。すなわち、導電体と誘電体の境界に形成される中間領域16には、Al、P、Mg、Mn、Y、V、Mo、Co、Nb、FeおよびCrのうち一つ以上の元素が含まれていてもよい。これらの元素は、誘電体の下地材(上記実施形態では基材12)に添加されていてもよい。下記の表2〜表12は、中間領域16に各元素が含まれている場合の、誘電体膜14の臨界剥離荷重値および薄膜コンデンサ30の電気的特性の計測結果を示している。計測方法は、表1に関連して上述した通りである。これらの表において各元素の「濃度」は、第1の導電体における当該元素の単体の濃度、または当該元素の酸化物の濃度の当該元素換算値を表している。いずれの元素についても、適切な濃度範囲において、良好な臨界剥離荷重値および薄膜コンデンサ30の電気的特性が得られていることがわかる。
誘電体の下地材(上記実施形態では基材12)はNiに限られず、CuやAlから構成されていてもよいし、Ni、CuまたはAlのいずれかを主成分とする合金から構成されていてもよい。また、誘電体はBSTに限られるわけではない。誘電体は酸化物であってもよく、その好ましい例は、一般式ABO3で表される組成を有するペロブスカイト型の酸化物である。ペロブスカイト型酸化物の例としては、Ba、Sr、Ca、Pb、Ti、ZrおよびHfのうち一つ以上の元素を含んでいる酸化物を挙げることができる。より具体的には、BSTの他に、BT、すなわちチタン酸バリウムBaTiO3や、チタン酸ストロンチウムSrTiO3、(BaSr)(TiZr)O3、BaTiZrO3を挙げることができる。誘電体は、これらの酸化物のうち一つ以上を含んでいてもよい。また、上部電極18は、Cu以外の金属(例えばPt)や合金から構成されていてもよい。
上記実施形態では、誘電体膜14を支持する基材12が、薄膜コンデンサ30の下部電極を兼ねている。この代わりに、図10に示されるように、第1の導電体である導電体層34および誘電体膜14を支持する基板32が基材として設けられていてもよい。図10は、このような変形が施された誘電体素子10aを示す概略断面図である。基板32は、十分な厚さを有しており、導電体層34および誘電体膜14を支持する。言い換えると、基板32及び導電体層34からなる層12aが誘電体膜14を支持する基材として機能している。誘電体膜14上に上部電極を設けて薄膜コンデンサを形成した場合、導電体層34は下部電極として機能する。
10…誘電体素子、12…基材、14…誘電体膜、15…多層構造体、16…中間領域、18…上部電極、20…アニール炉、25…アニール雰囲気、30…薄膜コンデンサ、32…基板、34…導電体層。