JP2012199506A - 巻磁心 - Google Patents

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Abstract

【課題】低鉄損で低励磁電力の変圧器鉄心などに好適な巻磁心を提供する。
【解決手段】急冷凝固法により製造した軟磁性合金薄帯1の表面にレーザ光により形成された凹部2の幅方向の列を長手方向にほぼ所定間隔Dで有し、各凹部の周囲にはドーナツ状突状部が形成されており、前記ドーナツ状突状部はレーザ光の照射により溶解した合金の飛散物が実質的にない滑らかな表面を有した2.0μm以下の高さt2の突状部であり、かつ前記凹部の深さt1と前記薄帯の厚さTとの比t1/Tが0.025〜0.18の範囲内にあり、前記凹部を形成した面を外側にして巻いたことを特徴とする巻磁心である。
【選択図】図3

Description

本発明は、配電用トランス、高周波トランス、可飽和リアクトル、磁気スイッチ等に好適な低損失で低皮相電力となる巻磁心に関する。
一般にアモルファスリボンの製造は、液相温度以上に加熱された合金溶湯を高速で回転する銅製冷却ロール上にノズルから噴出させ、急速冷却固化させる。液体急冷法には、両側からの銅製冷却ロールと密着させる双ロール法も存在するが、一般には片側のみ接触させる片ロール法を用いて製造される。片ロール法により製造されるアモルファス合金では冷却ロールに接触して急速固化したロール面と、その反対側の自由面を有することになる。
液体急冷法により製造される軟磁性Fe基アモルファス合金薄帯は、飽和磁束密度Bsが比較的高く、結晶粒を含有しないために結晶磁気異方性が存在せず、磁気ヒステリシス損失が小さく、低保磁力で優れた軟磁性を示す。そのため、各種のトランス、チョークコイル、可飽和リアクトル、磁気スイッチ等の磁心、磁気センサ等に使用されている。特に、熱的安定性に優れたFe-Si-B系アモルファス合金薄帯は、トランス用巻磁心に広く用いられている(特許文献1参照)。
アモルファス合金薄帯は、板厚が非常に薄く(数十μm〜数百μm)、これを巻いた巻磁心では曲げによる応力が熱処理後も残留し、単板試料とは異なる磁気特性を示すことが知られている。その為、薄帯の巻き方にも工夫が加えられてきた。例えば、特許文献2の巻磁心は、アモルファス合金薄帯について平滑度の高い面(ロール面)を内側にして巻くことにより、凹凸を有する自由面が外側に位置するので内側にかかる圧縮応力が小さくなる。その結果、応力に伴う異方性が小さくなり鉄損も小さくできるとしている。
また、特許文献3によれば、特許文献2とは逆に、ロール面を外側にして巻くことにより鉄損を小さく出来るとしている。これは、薄帯製造時の急冷速度が薄帯深さ方向で異なることにより深さ方向の密度に勾配が生じ、自由体積の大きいロール面を外側に巻いて熱処理を行うと、収縮量の差により圧縮力が生じ90°磁壁が生じることにより磁区が細分化され、渦電流が減少するからとしている。
Fe-Si-B系合金などのFe基アモルファス合金薄帯は、低保磁力で磁気ヒステリシス損失が小さいが、渦電流損失は、一様磁化を仮定し求められる古典的渦電流損失の数十倍から100倍も大きいことが知られている。この増加分は異常渦電流損失あるいは過剰損失と呼ばれ、主に不均一磁化変化に起因し、アモルファス合金薄帯の磁区幅が大きいことが原因であると考えられている。そこで、特許文献3でも磁区の細分化に注目しているが、一般にはアモルファス合金薄帯の異常渦電流損失を低減し、鉄損を低減する方法としては、機械的に薄帯表面を罫書くスクラッチ方法や、レーザ光を薄帯表面に照射し、局部的に溶解・急冷凝固させ磁区を細分化するレーザスクライビング法などが知られている(特許文献4、5参照)。
特許文献4などレーザ光を用いた方法では、アモルファス合金薄帯の表面の幅方向にパルスレーザ光を照射してその表面を局部的かつ瞬間的に溶解し、次いで急冷凝固させてアモルファス化させた円ないし楕円状の領域(レーザスポット)を点列状に形成することにより磁区を細分化している。この方法により形成される凹部の周囲には、溶解した合金がはねた痕(splash)が認められる。これは比較的厚いアモルファス合金薄帯に大きな間隔で凹部を形成するために、各凹部を大きなレーザ光照射エネルギー密度で深く形成したためであると考えられる。しかし、周囲にはね痕が認められるほど大きなレーザ光照射エネルギー密度で凹部を深く形成すると、特に比較的薄いアモルファス合金薄帯の場合、鉄損は低減するものの皮相電力(励磁VA)の増加及び占積率の低下という問題が生じることが分った。
特開2006−45662号公報 特公昭58−41649号公報 特許第2817965号公報 特公平3−32886号公報 特公平3−32888号公報
現在、片ロール法により製造されるアモルファス合金薄帯では、製造装置や製造方法等の確立により、過去に見られた自由面の表面起伏はほぼ消滅しており、自由面とロール面共に表面粗さ(Ra)に顕著な差異はほとんど見られない。しかし、表面精度が高く比較的薄いアモルファス合金薄帯へレーザ光照射を行って凹部を形成したものでは、巻磁心とする際の巻き方の違いにより磁気特性などへ与える影響があることが考えられる。ところが、上記特許文献等では単板による磁気特性を評価するだけで、巻磁心とした場合の評価は行われていない。例えば、大きなレーザ光照射エネルギー密度で凹部を深く形成したものを巻き回して作製した磁心では、占積率(ラミネーションファクタ)の低下や皮相電力(励磁電力)の増加等の悪影響により、配電用トランスに使用した場合の騒音の増加や、ラミネーションファクタ(LF)の低下により磁心サイズが大きくなる等の問題がある。
以上より本発明の目的は、レーザ光照射による磁区の細分化を行ったアモルファス合金薄帯などを用いた巻磁心であって、ラミネーションファクターが高く、かつ鉄損だけでなく皮相電力も小さくした巻磁心を提供することである。
本発明は、急冷凝固法により製造した軟磁性合金薄帯の表面にレーザ光により形成された凹部の幅方向の列を長手方向にほぼ所定間隔で有し、各凹部の周囲には2.0μm以下の高さt2の突状部を有し、かつ前記凹部の深さt1と前記薄帯の厚さTとの比t1/Tが0.025〜0.18の範囲内にあり、前記凹部を形成した面を外側にして巻いた巻磁心である。
前記突状部はドーナツ状突状部であり、前記ドーナツ状突状部はレーザ光の照射により溶解した合金の飛散物が実質的にない滑らかな表面を有していることが好ましい。
また、前記突状部の高さt2が0.5〜2.0μmであることが好ましい。より好ましくは0.5〜1.8μmである。
また、前記凹部の深さt1と薄帯の厚さTとの比t1/Tが0.03〜0.15の範囲内にあることが好ましい。
また、前記軟磁性合金薄帯の厚さTが30μm以下であることが好ましい。
また、前記凹部の深さt1と前記突状部の高さt2との合計tと前記薄帯の厚さTとの比t/Tが0.2以下であることが好ましい。
本発明の巻磁心は、ラミネーションファクタを高く維持できると共に、低周波での磁心損失が低減し、騒音の原因となる皮相電力をより小さくできる。よって、低鉄損のために効率が良く、かつ低皮相電力のために騒音が少ない巻磁心を提供できる。
本発明に用いるレーザ光照射装置の一例を示す概略図である。 本発明の軟磁性合金薄帯の一実施形態であるアモルファス合金薄帯(以下同様)に形成された凹部及び環状突状部を示す概略断面図である。 アモルファス合金薄帯に形成された凹部の配列を示す概略平面図である。 本発明のアモルファス合金薄帯に形成された凹部列の一例を示す顕微鏡写真(60倍)と凹部の1つを拡大して示す顕微鏡写真(240倍)である。 アモルファス合金薄帯に形成された凹部及び環状突状部の形態を示す顕微鏡写真とともに、凹部の深さt1及び環状突状部の高さt2とレーザ光照射エネルギー密度との関係の一例を示す図である。 アモルファス合金薄帯における環状突状部の外径D2とレーザ光照射エネルギー密度との関係を示すグラフである。 レーザ照射条件とヒステリシスループの違いを示す図である。 (a)は凹部を形成する前の薄帯をカー効果磁区観察顕微鏡によって観察した磁区構造を示す顕微鏡写真、(b)はその模式図である。 (a)は凹部を形成した後の薄帯をカー効果磁区観察顕微鏡によって観察した磁区構造を示す顕微鏡写真、(b)はその概略模式図である。 凹部を形成した面を外側にして巻いた場合の磁区構造の変化を説明する模式図である。 凹部を形成した面を内側にして巻いた場合の磁区構造の変化を説明する模式図である。 本発明のアモルファス合金薄帯を用いた巻磁心における磁束密度の波高値Bmと鉄損Pとの関係を比較例とともに示す図である。 本発明のアモルファス合金薄帯を用いた巻磁心における磁束密度の波高値Bmと皮相電力Sとの関係を比較例とともに示す図である。 アモルファス合金薄帯を用いた巻磁心における鉄損Pと凹部の数密度nの関係を示す図である。 アモルファス合金薄帯を用いた巻磁心における皮相電力Sと凹部の数密度nの関係を示す図である。 ラミネーションファクタLFと環状突状部の高さt2との関係を示す図である。 本発明の軟磁性合金薄帯の一実施形態であるナノ結晶合金薄帯を用いた巻磁心における磁束密度の波高値Bmと鉄損Pとの関係を比較例とともに示す図である。 同じくナノ結晶合金薄帯を用いた巻磁心における磁束密度の波高値Bmと皮相電力Sとの関係を比較例とともに示す図である。
[1] 軟磁性合金薄帯
本発明に使用可能な軟磁性合金としては、Fe-B系、Fe-Si-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-P系、Fe-Si-B-C-P系、Fe-P-B系等のアモルファス合金、またFe-Cu-B系、Fe-Cu-Si-B系、Fe-Cu-Si-B-P系、Fe-Ni-Cu-Si-B系等のナノ結晶合金などが挙げられる。Fe-Si-B系アモルファス合金は、1〜15原子%のSi及び8〜20原子%のBを含有し、残部が実質的にFe及び不可避不純物である組成を有するのが好ましい。Fe-Si-B-C系合金は、1〜15原子%のSi、8〜20原子%のB及び3原子%以下のCを含有し、残部がFe及び不可避不純物である組成を有するのが好ましい。
一方、Fe-Cu-B系ナノ結晶合金は、0.1〜3原子%のCu及び10〜20原子%のBを含有し、残部が実質的にFe及び不可避不純物である組成を有するのが好ましい。Fe-Cu-Si-B系ナノ結晶合金では、0.1〜3原子%のCu、0.1〜7原子%のSi及び10〜20原子%のBを含有し、SiとBの合計が10〜24原子%であり、残部がFe及び不可避不純物である組成を有するのが好ましい。そして、ナノ結晶合金は、非晶質母相中に平均粒径60nm以下の微結晶粒が30体積%以上の割合で分散した組織であることが好ましい。
また、アモルファス合金系、ナノ結晶合金系の何れでも、Siが10原子%以下でBが17原子%以下の場合、Bsが高く、レーザ光照射による鉄損の低減効果が大きく、製造が容易である。アモルファス合金あるいはナノ結晶合金は、上記成分の他に、Fe量に対して合計で5原子%以下の割合で、Co,Ni,P,Mn,Cr,V,Mo,Nb,Ta,Hf,Zr,Ti,Au,Ag,Sn,Ge,Re,Ru,Zn,In及びGaからなる群から選ばれた少なくとも一種を含有しても良い。不可避不純物はS,O,N,Al等である。
以下はアモルファス合金を例にとって説明する。
アモルファス合金薄帯は、単ロール法又は双ロール法の液体急冷法(急冷凝固法)により作製するのが好ましい。レーザ光の照射効率を向上させるために、レーザ光を照射するアモルファス合金薄帯の表面の波長λ=1000 nmにおける反射率R(%)は15〜80%であるのが好ましい。反射率R(%)=100×Φr/Φである(ただし、Φは薄帯表面に垂直に入射する光束量であり、Φrは薄帯表面で入射方向へ反射する光束量である。)。Φ及びΦrは、分光光度計(日本分光株式会社製のJASCO V-570)を用い、1000 nmの波長(使用するレーザ光の波長に近い)で測定する。
アモルファス合金薄帯の厚さTは、後述のように30μm以下であるのが好ましい。またアモルファス合金薄帯の幅は限定的でなく、後述のファイバーレーザを用いることにより約25〜220 mmと広い幅のアモルファス合金薄帯に対して均等にレーザスクライビングを行うことができる。
鉄損を抑えるために、アモルファス合金薄帯の片面又は両面にSiO2、Al2O3、MgO等の絶縁層を形成しても良い。レーザスクライビングを行わない面に絶縁層を形成すると磁気特性の劣化を抑制できる。またレーザスクライビングをした面でもドーナツ状突状部が低く抑えられているので、絶縁層の形成に支障がない。
[2] レーザスクライビング
急冷凝固法により製造したアモルファス合金薄帯の磁区を細分化するために、その表面に長手方向所定間隔でパルスレーザ光を幅方向に走査する。パルスレーザ光の発生装置としてYAGレーザ、CO2ガスレーザ、ファイバーレーザ等を利用できるが、高出力で高周波のパルスレーザ光を長時間にわたって安定して発生できるファイバーレーザが好ましい。
図1はレーザ光照射装置の一例を示す。この装置は、レーザ発振器(ファイバーレーザ)10と、コリメータ12と、ビームエキスパンダ13と、ガルバノスキャナ14と、fθレンズ15とを具備する。レーザ発振器10で生成されたパルス状のレーザ光L(例えば波長1065μm)はファイバー11によりコリメータ12に伝送され、そこで平行光にされる。平行なレーザ光Lはビームエキスパンダ13で径を拡大され、ガルバノスキャナ14を通過した後、fθレンズ15で集光され、X軸方向及びY軸方向に移動自在なテーブル5上に載置されたアモルファス合金薄帯1に照射される。ガルバノスキャナ14は、X軸及びY軸の回りに回動し得るミラー14a、14bを具備し、各ミラー14a、14bはガルバノモータ14cにより駆動される。ミラー14a、14bの組み合わせにより、パルス状のレーザ光Lを薄帯1の長手方向に所定の間隔をもって幅方向に走査することができる。ガルバノスキャナ14の代わりに、モータの先端にポリゴンミラーを備えたポリゴンスキャナ(図示せず)を用いても良い。勿論、アモルファス合金薄帯1に幅方向の凹部列を長手方向に所定の間隔をもって連続的に形成する場合には、アモルファス合金薄帯1を長手方向に移動させるので、レーザ光Lの走査方向は幅方向に対して所定の角度で傾斜していなければならない。
レーザ光の照射は、リールから巻き戻すアモルファス合金薄帯を長手方向に間欠的に移動させながら行うのが好ましいが、急冷凝固法により製造したアモルファス合金薄帯をリールに巻き取る前に行っても良い。
熱処理による脆化及び磁心の応力緩和を考慮して、レーザスクライビングを熱処理前に行うのが好ましい。アモルファス合金薄帯にレーザ光照射により形成される凹部は結晶化していないので、加工性が良好であり、磁心を作製するために薄帯を切断したり曲げたりするのが容易である。
[3] 凹部
図2は、アモルファス合金薄帯1に形成されたほぼ円形の凹部2とその周囲の環状突状部(リム部)3の断面と上面を概略的に示す。ここで「ほぼ円形」とは、図に示すように凹部2の輪郭が真円である必要がなく、歪んだ円形又は楕円形でも良いことを意味する。円形又は楕円形の歪み度は、長径Da/短径Dbの比が1.5以内であるのが好ましい。
図2に示すように、凹部2の直径D1(環状突状部の内径)は薄帯1の表面と一致する直線1aと交差する位置での凹部2の開口部の直径であり、凹部2の深さt1は直線1aと凹部2の底部との距離であり、環状突状部3の外径D2は直線1aと交差する位置での環状突状部3の外径であり、環状突状部3の高さt2は直線1aと環状突状部3の頂点との距離であり、環状突状部3の幅Wは直線1aと交差する位置での環状突状部3の幅[(D2−D1)/2]である。これらのパラメータはいずれも、複数(3箇所以上)の幅方向凹部列における凹部2及び環状突状部3から求めた値の平均値で表される。
アモルファス合金薄帯1はレーザ光の照射により加熱溶融された後、結晶化せずに急冷凝固するので、形成された凹部2及びその周囲の環状突状部3は実質的にアモルファス状である。この急冷凝固により凹部2付近に応力が生じ、磁化方向が薄帯の深さ方向を向く磁区が形成されるために、皮相電力が増加すると考えられる。応力は環状突状部3の高さだけでなく、凹部2の周辺に付着した溶融飛散物(スプラッシュ)に応じても高くなる。一方、凹部2による磁区の細分化のために鉄損が減少し、それに伴い皮相電力も減少する。
本発明の好ましい態様では、レーザ光の照射エネルギーをアモルファス合金薄帯の厚さTに対して制御することにより、凹部の周囲に形成される環状突状部3を溶融合金の飛散物が実質的にない滑らかな表面を有するドーナツ状の環状突状部(単に「ドーナツ状突状部」という。)とするとともに、その高さt2を2.0μm以下に制限する。ここで、「飛散物が実質的にない滑らかな表面」とは、図4に示すように、50倍〜240倍の光学顕微鏡写真において、環状突状部3の内外周輪郭3a,3b(図3参照)が凹凸なく滑らかであり、かつ環状突状部3の表面とアモルファス合金薄帯1の他の部分の表面とが同じ粗さに見えることを意味する。「ドーナツ状」は、特に断りがなければ滑らかな表面及び輪郭を有するものとする。従って、例えば図5に示す凹部B,C,Dのように環状突状部3の内外周輪郭に凹凸がある場合には、「飛散物が実質的にない滑らかな表面」の要件を満たさない。ドーナツ状突状部の高さt2が2.0μm以下であると、アモルファス合金薄帯の積層又は巻回により得られる磁心は89%以上と高いラミネーションファクタLFを有する。t2が2.0μmを超えるとLFは急減に低下するとともに、皮相電力Sも増加する。ドーナツ状突状部3の高さt2は1.8μm以下であるのがより好ましく、0.5〜1.8μmであるのが最も好ましい。
しかし、ドーナツ状突状部3が飛散物が実質的にない滑らかな表面を有し、かつその高さt2が2.0μm以下であっても、アモルファス合金薄帯の厚さTに対して凹部2の深さt1が不十分であると、鉄損の低減効果は不十分であることが分った。具体的には、t1/Tが0.025未満であると、鉄損はレーザスクライビングによってほとんど低下しない。逆に、薄帯1の厚さTに対して凹部2の深さt1が大きいと皮相電力が急激に増加する。具体的には、t1/Tが0.18超であると皮相電力は急激に増加する。従って、t1/Tは0.025〜0.18の範囲内である必要があり、好ましくは0.03〜0.15であり、より好ましくは0.03〜0.13である。レーザスクライビングにより皮相電力の増加を抑制しつつ鉄損を低減させるためには、アモルファス合金薄帯1の厚さTは30μm以下であるのが好ましい。アモルファス合金薄帯1の厚さTが30μm超であると、同じt1/Tでもt1の値が大きくなり、皮相電力は増加する傾向がある。
凹部2の深さt1とドーナツ状突状部3の高さt2の合計t(=t1+t2)と薄帯1の厚さTとの比t/Tも皮相電力の増加の抑制に関係する。t/Tが0.2以下であると、皮相電力の増加を抑制することができる。t/Tは好ましくは0.18以下であり、より好ましくは0.16以下である。
低鉄損及び低皮相電力を得るためには、凹部2の直径D1は20〜50μmが好ましく、20〜40μmがより好ましく、24〜38μmが最も好ましい。凹部2の直径D1が大きすぎると、応力及び飛散物の影響で皮相電力の増加を招く傾向がある。またドーナツ状突状部3の外径D2は100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく76μm以下が最も好ましい。鉄損を十分に低減するためには、外径D2の下限は30μmが好ましい。
凹部列の長手方向間隔は一般に2〜20 mmで良く、例えば3〜10 mmとするのが好ましい。幅方向凹部列では、凹部は間隔をあけて配列されていても、隣接する凹部が重複するように配列されていても良い。一般に幅方向凹部列における凹部の数密度は2〜25個/mmであり、好ましくは 4〜20個/mmである。
[4] 巻磁心
アモルファス合金薄帯を積層又は巻回してなる磁心がある。単板を積層した磁心では単板試料を用いた鉄損P(W/kg)及び皮相電力S(VA/kg)の測定で磁区細分化の効果を確認できる。巻磁心においても同様の効果があると言えるが、巻磁心では曲げが存在することにより薄帯に応力が生じ、単板と異なる磁区構造になると考えられる。磁気特性の鉄損は下式で表される。
P
= Ph + Pe = Ph + (Pce + Pae)
ここで、Phはヒステリシス損失、Peは渦電流損失、Pceは古典的渦電流損失、Paeは異常渦電流損失である。渦電流損失Peは、材料の物性値で決定される古典的渦電流損失Pceと磁区構造に起因する異常渦電流損失Paeで構成され、上述のような凹部が形成されたアモルファス合金薄帯では磁区が細分化されることにより、異常渦電流損失Paeが約70%減少し、結果的に鉄損Pは約30%低下する。
皮相電力Sは、アモルファス合金薄帯をある磁束密度まで励磁するために必要な外部磁場Hに関係し、磁歪が大きいアモルファス合金薄帯の場合、騒音の大きさと密接に関係するので皮相電力は小さいほうが望ましい。図7に巻磁心における凹部有無とヒステリシスループの関係を示す。鉄損はループに囲まれた面積に対応し、皮相電力はループの横軸である磁場Hの最大値に関係する。ここで凹部を形成しないループに対し(従来例)、凹部を形成したループの幅は狭くなっている。即ち、適正なレーザ照条件で本発明の凹部を形成したアモルファス合金薄帯では、鉄損Pを構成する異常渦電流損失Paeのみが変化を示し減少するため、ヒステリシスループに囲まれた面積は横方向(x軸方向)に狭くなる。よって、励磁させるために必要な外部磁場が低下するので皮相電力も低下する。一例として本発明の凹部が形成されたものでは、鉄損Pが約30%低下したとき、皮相電力は約20%低下した。一方、本発明外の凹部が形成された場合(比較例)は、鉄損を構成する異常渦電流損失Paeは減少するが、同時にヒステリシス損失Phが上昇するため、ヒステリシスループの飽和性が低下し、励磁させるために必要な外部磁場が増加し、結果皮相電力も増加する。一例として本発明外の凹部では、鉄損Pは約30%低下したが、皮相電力は約10倍に増加した。
そして、本発明の凹部を形成したアモルファス合金薄帯を巻回した巻磁心では、突状部を外側に巻くか内側に巻くかで磁区構造に違いが現れる。この違いが鉄損や皮相電力の低減に効果があると言える。この点を図8〜図11を用いて説明する。図8(a)は凹部を形成する前の薄帯をカー効果磁区観察顕微鏡によって観察した磁区構造を示し、(b)はその模式図である。図9(a)は凹部を形成した後の同じく磁区構造を示し、(b)はその概略模式図である。図10は凹部を形成した面を外側に巻いた場合の作用を説明する模式図、図11は凹部を形成した面を内側に巻いた場合の作用を説明する模式図である。
さて、変圧器用鉄心のように薄帯の長手方向へ磁場を印加しながら熱処理を行ったアモルファス合金薄帯の磁区は、図8に示すように180°磁壁を挟んで幅の広い磁区30が反平行に薄帯の長手方向へ生成されている。ここに図9(a)に示すように本発明の凹部2を形成すると、凹部2を形成したことによる凹部周辺の残留応力により、磁区が細分化され幅の狭い反平行の磁区31に分割される。このとき、凹部2の周辺には凹部形成時に生じたと考えられる応力により、細かい筋状の磁区32が生成されていることが分かった。これら筋状磁区32は幅の狭い磁区31とは磁化方向が異なり還流磁区のような働きをしていると考えられる。即ち、図9(b)に示すように幅の狭い磁区31が180°磁壁を挟んで反平行に並んでおり、凹部周辺にはこれら磁区31とは違う方向を向いた複数の筋状磁区32が存在しているのである。このような薄帯について、凹部を形成したレーザ照射面を外側にして巻くと薄帯表面には曲率による張力が生じるため、磁歪が正であるアモルファス合金薄帯(ナノ結晶合金薄帯も同様)では、磁化が張力のかかる方向である薄帯の長手方向へ揃う傾向があるため、筋状磁区32の磁化成分は、磁区31と同じ方向へ揃う傾向を示す。このため、図10に示すように筋状磁区は32sと小さくなりアモルファス合金薄帯の飽和性が向上し、皮相電力や鉄損が低下すると考えている。一方、凹部を形成した面を内側にして巻いた場合は、薄帯の内側では曲げによる圧縮応力が存在するため、磁化は張力のかかる方向と垂直の方向へ揃う傾向を示し、筋状磁区32はさらに磁区31から逸脱する傾向を示し、図11に示すように筋状磁区は32bと大きくなる。その結果アモルファス合金薄帯の飽和性が低下し、皮相電力や鉄損が増加すると考えている。
以上のことより、上記凹部を形成した軟磁性アモルファス合金薄帯を凹部側の面が外側になるようにして巻回した巻磁心は、鉄損と皮相電力をより低減できる。また、ラミネーションファクタLFも高い巻磁心となる。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
11.5原子%のB、8.5原子%のSi、残部Fe及び不可避不純物からなる組成を有する幅5 mm及び厚さ23μmのアモルファス合金薄帯を大気中の単ロール法により作製した。この合金薄帯の波長1000 nmの光に対する自由凝固面の反射率Rは68.3%であった。このアモルファス合金薄帯の自由凝固面に、図1に示すようにファイバーレーザ10からガルバノスキャナ(ミラー)14を介して、波長1065 nm、パルス幅550 ns及びビーム径90μmのパルスレーザ光を2.5
J/cm2の照射エネルギー密度で走査し、図3に示すような幅方向の凹部列を形成した。幅方向の凹部列における凹部の数密度は2個/mmであり、凹部列の長手方向間隔DLは5 mmであった。凹部及びその周囲の環状突状部のサイズは以下の通りであった。
凹部の直径D1:50μm
深さt1:1.2μm
環状突状部の形状:滑らかな表面及び輪郭のドーナツ状
外径D2:80μm
高さt2:0.4μm
幅W:15μm
t1 /T:0.05
t (=t1 + t2)/T:0.07
凹部及びその周囲の環状突状部の顕微鏡写真を図4に示す。図から明らかなように、環状突状部はドーナツ状であり、レーザ光の照射により溶解した合金の飛散物が実質的にない滑らかな表面を有していた。また透過電子顕微鏡観察の結果、凹部及びドーナツ状突状部に結晶相は認められなかった。これから、凹部及びドーナツ状突状部がアモルファス相からなることが確認された。
(実施例2)
実施例1と同じアモルファス合金薄帯に対して、波長1065 nm、パルス幅500 ns及びビーム径60μmのレーザ光の照射エネルギー密度を変えることにより、種々の高さの環状突状部と凹部深さを有する凹部の列を形成した。図5はレーザ光の照射エネルギー密度と環状突状部の高さt2との関係を示し、図6は同じレーザ光の照射エネルギー密度と環状突状部の外径D2との関係を示す。照射エネルギー密度が増大するにつれて、凹部2は深くなり、かつ環状突状部3は外径D2が拡大するとともに高くなり、溶融合金の飛散物(スプラッシュ)も多くなった。照射エネルギー密度が5 J/cm2以下の場合に、環状突状部3はドーナツ状であり、2μm以下の高さt2及び90μm以下の外径D2を有していた。勿論、ドーナツ状突状部の高さt2及び外径D2はレーザ光の他の照射条件(パルス幅等)によっても変化する。
(実施例3)
表1に示す組成の合金溶湯から、単ロール法により種々の厚さを有する幅5 mmのアモルファス合金薄帯1〜24及び27〜33(比較例)と、ナノ結晶合金薄帯25、26及び34(比較例)を作製し、各合金薄帯の厚さT及び波長1000 nmの光に対する自由凝固面の反射率Rを測定した。次に、各合金薄帯の自由凝固面に、図1に示すようにファイバーレーザ10からガルバノスキャナ(ミラー)14を介して、波長1065 nm、パルス幅500 ns及びビーム径60μmのパルスレーザ光を5 J/cm2以下の照射エネルギー密度で走査し、5 mmの長手方向間隔で幅方向の凹部列を形成した。凹部列における凹部の数密度は4個/mmであった。凹部を形成した各合金薄帯について、凹部の直径D1及び深さt1、及び環状突状部の外径D2、高さt2及び幅Wを複数の凹部列で測定し、平均した。
凹部を形成した各合金薄帯を120 mmの長さに切断し、アモルファス合金薄帯については長手方向に1.6 kA/mの磁界を印加しながら330〜370℃で1時間の熱処理を行い、単板試料の50 Hz及び1.3 Tにおける鉄損P(W/kg)及び皮相電力S(VA/kg)を測定した。ナノ結晶合金薄帯については長手方向に1.5 kA/mの磁界を印加しながら410℃で1時間の熱処理を行い、単板試料の50 Hz及び1.55 Tにおける鉄損P(W/kg)及び皮相電力S(VA/kg)を測定した。また凹部を形成した20枚の合金薄帯片からなる積層体を形成し、ラミネーションファクタLFを測定した。これらの測定結果を表1〜表3に示す。尚、表中の*は本発明の範囲外である。(1)
t=t1+t2 (2)「王冠状」は、環状突状部に溶融合金の飛散物が存在することを意味する。
表1〜表3によれば、凹部の深さt1と薄帯の厚さTとの比t1/Tが0.025〜0.18の範囲内にあるとき、凹部の周囲に形成される環状突状部は合金の飛散物が実質的にない滑らかな表面を有するドーナツ状であって、その高さt2は2.0μm以下であり、かつ凹部の直径D1は50μm以下、特に40μm以下であった。またドーナツ状突状部の高さt2が2.0μm以下、特に0.3〜1.8μmの場合に、実質的に皮相電力Sの増大なしに低鉄損を達成することができた。
また、アモルファス合金薄帯が40μmと厚い場合には、凹部の深さt1が0.8μmと小さいと、t1/Tが0.02(下限の0.025より小さい)で、鉄損Pが十分に低減されなかった(サンプル27)。サンプル23及び24ではアモルファス合金薄帯の厚さTに対する凹部の深さt1の比t1/Tが0.055及び0.038であり、鉄損Pは0.09
W/kgと比較的大きかった。これから、アモルファス合金薄帯の厚さTが30μm、特に35μmを超えるとt1/Tが0.025〜0.18の範囲内にあっても鉄損Pの低減効果が鈍る傾向がある。また、サンプル25、26では合金薄帯の厚さTに対する凹部の深さt1の比t1/Tが0.13及び0.12であり、凹部の周囲に形成される環状突状部はドーナツ状であって、その高さt2は2.0μm以下であった。ナノ結晶材では結晶相が存在することにより結晶磁気異方性が存在し、鉄損Pは0.28 W/kg程度、皮相電力Sは0.34VA/Kgとアモルファス合金薄帯に比べると大きい値を示している。しかし、本発明の範囲外の凹部(サンプル34)ではそれよりも大きな鉄損Pと皮相電力Sを示しており、本発明の凹部の効果は認められる。
以上の結果から、本発明の条件を満たす軟磁性合金薄帯を巻磁心に用いると、鉄損P及び皮相電力Sを低減できる。
(実施例4)
変圧器鉄心用のため、11原子%のB、9原子%のSi、残部Fe及び不可避不純物からなる組成を有する幅25 mm及び厚さ23μmのアモルファス合金薄帯を大気中の単ロール法により作製した。このアモルファス合金薄帯の自由面またはロール面に、図1に示すようにファイバーレーザ10からガルバノスキャナ(ミラー)14を介して、波長1065 nm、パルス幅500 ns及びビーム径60μmのパルスレーザ光を2.5 J/cm2の照射エネルギー密度で走査し、図3に示すような幅方向の凹部列を形成した。幅方向の凹部列における凹部の数密度は13.3個/mmで行った。
環状突状部はドーナツ状であり、レーザ光の照射により溶解した合金の飛散物が実質的にない滑らかな表面を有していた。ドーナツ状突状部の高さt2が0.5〜2μm、凹部の深さt1と薄帯の厚さTとの比t1/Tが0.025〜0.18の範囲内にあることが確認された。また、透過電子顕微鏡観察の結果、凹部及びドーナツ状突状部に結晶相は認められなかった。これから、凹部及びドーナツ状突状部がアモルファス相からなることが確認された。
次に、アモルファス合金薄帯の自由面またはロール面に形成した凹部側の面の巻き方を内巻と外巻きと変え、計4種類の巻磁心(外径74mm、内径70mm)を作製した。また、比較のため同じアモルファス合金薄帯であるが凹部を形成していない巻磁心(外径74mm、内径70mm)も作製した。そして、夫々の巻磁心に対し、磁路長手方向に1.5kA/mの磁界を印加しながら370℃で1時間の熱処理を行った後、これら巻磁心の鉄損P(W/kg)及び皮相電力S(VA/kg)を測定した。
鉄損P(W/kg)及び皮相電力S(VA/kg)の測定手段は以下の通りである。
巻磁心の一次側コイルに70巻、二次側コイルに30巻し、東英工業(株)製交流磁気測定機TWM-18SRにより、正弦波励磁で測定した。磁場検出はシャント法により励磁電流から行った。以上により鉄損と皮相電力を求めた。
図12は50 Hzにおける鉄損Pと磁束密度の波高値Bmとの関係を示す。波高値Bmとは、ある外部磁場Hを磁性体にかけたときの磁性体が示すヒステリシスループの高さである。尚、低周波変圧器の鉄心で主に使用される帯域は1.30T〜1.35Tとなっている。図12より凹部を形成することによって鉄損は一様に低下しており、鉄損低減の効果は高いことが分かる。ただ、鉄損については自由面とロール面による相違および外巻きと内巻による相違はほとんど見られないことが分かった。尚、図12、図13において、自由面に凹部を形成し凹部側を外巻きにした例は実線、自由面に凹部を形成し凹部側を内巻きは一点鎖線、ロール面に凹部を形成し凹部側を外巻きは二点鎖線、ロール面に凹部を形成し凹部側を内巻きは点線で示している。
図13は50 Hzにおける皮相電力Sと磁束密度の波高値Bmとの関係を示す。図より、磁束密度の波高値Bmが1.3Tより小さい領域では、自由面とロール面および外巻きと内巻と共に凹部を設けない比較例よりも皮相電力は低下している。しかし自由面とロール面ともに凹部側の面を内側に巻いた場合は、皮相電力は徐々に上昇を始め1.4Tを越えたあたりで急上昇する。これに対し、本発明の凹部を形成した面を外巻きに巻いた場合は、測定領域全域に渡り皮相電力は比較例よりも低い値を維持している。1.30T〜1.35Tの帯域を注目しても本発明による巻磁心の皮相電力が最も低いことが分かる。
図14は、本発明の巻磁心であって各照射エネルギー密度における巻磁心の鉄損Pと凹部の数密度n(個/mm)との関係を示す。図14によるとnが増加すると鉄損Pは減少するが、エネルギー密度が大きいほど減少の割合が大きかった。ただし数密度が高くなるとその差は縮まることが分かる。これは凹部の形成により磁区が細分化され、鉄損Pが低減するので、凹部の数密度nが少ないとき鉄損Pは比較的大きく、凹部の数密度nの増加に応じて鉄損Pは低減する。但し、凹部の数密度nが20超になると磁区の細分化効果が飽和し、鉄損Pは減少しにくくなると言える。
図15は、同じく凹部の数密度n(個/mm)と皮相電力Sとの関係を示す。エネルギー密度が低い場合は、nの増加と共に皮相電力はほぼ減少する傾向を示す。エネルギー密度が高い場合は、nが増加すると皮相電力Sは一旦減少した後増加する傾向を示している。巻磁心とした場合、磁区細分化に際して付与された応力の大きさと巻磁心の曲率が皮相電力Sに対して大きな影響力を有すると考えられる。磁区細分化は鉄損Pの低減をもたらすので、皮相電力Sは鉄損Pの減少とともに減少するが、高エネルギー密度により形成された凹部の突状部は高く、また凹部は深い。この場合、引張応力により磁化方向が深さ方向にある磁区が形成され、皮相電力Sの上昇が比較的高くなる。そうすると鉄損Pの低減に伴う皮相電力Sの減少と応力付与に伴う皮相電力Sの上昇とが同時に起こる結果、鉄損Pが減少している間は皮相電力Sの上昇は抑えられるが、鉄損Pの減少が止まると皮相電力Sの増加が急に起こる。この傾向が図15に示されていると考える。よって、凹部の形態と応力付与の影響を加味して照射エネルギーを選択することが良い。
(実施例5)
次に、実施例3の種々の高さt2を有する環状突状部を形成したアモルファス合金薄帯を用いた巻磁心とした。図16は、ラミネーションファクタLFと凹部のドーナツ状突状部の高さt2との関係を示す。ラミネーションファクタLF(占積率)は、薄帯積層体の断面積における薄帯の断面積の割合であり、1に近いほど積層体中に薄帯が占める割合が高い。LFが高い程軟磁性アモルファス合金薄帯を積層してなる磁心を小型化できる。図16から分かるように、ドーナツ状突状部の高さt2が2μmを超えると急激にラミネーションファクタLFが減少した。
(実施例6)
変圧器鉄心用のため、14原子%のB、4原子%のSi、1.4原子%のCu、1原子%のNi、残部Fe及び不可避不純物からなる組成を有する幅25 mm及び厚さ約20μmのナノ結晶合金薄帯を大気中の単ロール法により作製した。このナノ結晶合金薄帯の自由面に、図1に示すようにファイバーレーザ10からガルバノスキャナ(ミラー)14を介して、波長1065 nm、パルス幅500 ns及びビーム径60μmのパルスレーザ光を2.5 J/cm2の照射エネルギー密度で走査し、図3に示すような幅方向の凹部列を形成した。幅方向の凹部列における凹部の数密度は13.3個/mmで行った。
環状突状部はドーナツ状であり、レーザ光の照射により溶解した合金の飛散物が実質的にない滑らかな表面を有していた。ドーナツ状突状部の高さt2が1.3μm、凹部の深さt1と薄帯の厚さTとの比t1/Tが0.13の範囲内にあることが確認された。
次に、ナノ結晶合金薄帯の自由面に形成した凹部側の面の巻き方を内巻と外巻きと変え、計2種類の巻磁心(外径74mm、内径70mm)を作製した。また、比較のため同じナノ結晶合金薄帯であるが凹部を形成していない巻磁心(外径74mm、内径70mm)も作製した。そして、夫々の巻磁心に対し、磁路長手方向に1.5kA/mの磁界を印加しながら410℃で1時間の熱処理を行った後、これら巻磁心の鉄損P(W/kg)及び皮相電力S(VA/kg)を測定した。尚、熱処理後の軟磁性ナノ結合金薄帯の組織は、平均粒径25nmの微結晶粒が80体積%分散した組織であった。
図17は50 Hzにおける鉄損Pと磁束密度の波高値Bmとの関係を示す。尚、低周波変圧器の鉄心で主に使用される帯域は1.5〜1.55Tとなっている。図17より凹部を形成することによって鉄損は一様に低下しており、鉄損低減の効果は高いことが分かる。また、ほぼ全帯域に亘って凹部を形成した面を内側に巻いた場合よりも外側に巻いた場合の方が鉄損が低下することが分かる。尚、図17、図18では、凹部を形成していない比較例を一点鎖線、凹部を形成した面を外巻きにした本発明例を実線、凹部を形成した面を内巻きにした例は点線で示している。
図18は50 Hzにおける皮相電力Sと磁束密度の波高値Bmとの関係を示す。図18より、磁束密度の波高値Bmが1.55T以下の領域では、凹部を形成することによって僅かではあるが皮相電力は低下している。1.55Tを超えると皮相電力は上昇を始めるが、1.55〜1.6Tの領域において内巻きと外巻きの違いについて注目すると、内巻きに比べ僅かではあるが外巻きの方が低い値を示していることが分かる。以上より、ナノ結晶合金薄帯の場合は、巻き方の違いによる鉄損と皮相電力の低減効果は大きくはないものの、凹部を形成したことによる鉄損と皮相電力の低減効果及びラミネーションファクタLF(占積率)向上の効果はあるので、凹部を形成したナノ結晶合金薄帯を用いる上では当該凹部を形成した面を内巻きにするよりも外巻きに巻いた方が有利であると言える。
本発明の巻磁心は、配電用トランス、高周波トランス、可飽和リアクトル、磁気スイッチ等に好適に用いられる。また、軟磁性合金薄帯を複数積層して積層体となし、これらの積層体をさらに積層して一旦積層構造としたのち、ステップラップやオーバラップ状に巻いた変圧器用の鉄心も本発明の巻磁心として適用できる。

Claims (6)

  1. 急冷凝固法により製造した軟磁性合金薄帯の表面にレーザ光により形成された凹部の幅方向の列を長手方向にほぼ所定間隔で有し、各凹部の周囲には2.0μm以下の高さt2の突状部を有し、かつ前記凹部の深さt1と前記薄帯の厚さTとの比t1/Tが0.025〜0.18の範囲内にあり、前記凹部を形成した面を外側にして巻いたことを特徴とする巻磁心。
  2. 前記突状部はドーナツ状突状部であり、前記ドーナツ状突状部はレーザ光の照射により溶解した合金の飛散物が実質的にない滑らかな表面を有していることを特徴とする請求項1に記載の巻磁心。
  3. 前記突状部の高さt2が0.5〜2.0μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の巻磁心。
  4. 前記凹部の深さt1と薄帯の厚さTとの比t1/Tが0.03〜0.15の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の巻磁心。
  5. 前記軟磁性合金薄帯の厚さTが30μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の巻磁心。
  6. 前記凹部の深さt1と前記突状部の高さt2との合計tと前記薄帯の厚さTとの比t/Tが0.2以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の巻磁心。
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