JP2018094573A - 放電処理皮膜の形成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】油中での放電処理によって被処理材の表面に硬質皮膜を形成するにあたり、適度な硬さを有しかつ低コストで厚い硬質皮膜を形成し得る方法を提供する。【解決手段】電極として、Feを45質量%以上(100%含む)含有し、Ni及びCrのうちのいずれか1種又は2種を合計で55質量%以下(0%を含む)含有し、しかもFe、Ni、Crのそれぞれの含有量についてFe≧Ni及びFe≧Crの関係が成立し、残部が不可避的不純物からなる鉄基材料を用い、油中において前記電極と被処理材との間にパルス電圧を加えて、その間にパルス放電を生起させ、これにより、前記鉄基材料に由来する成分と前記油の分解により生じた炭素との反応によって、鉄炭化物を主体とする皮膜を被処理材の表面に形成する。【選択図】図1

Description

本発明は、熱間圧延工場におけるホットランテーブルローラーなど、主として相手材と擦れ合う部材を被処理材とし、その表面に硬質な皮膜を形成する技術に関するものであり、とりわけ油中でのパルス放電によって被処理材の表面に硬質な皮膜を形成する方法に関するものである。
例えば熱間圧延工場のホットランテーブルは、熱間仕上圧延機を出た熱延ストリップを巻取機まで高速でフィードする設備であって、一般には熱延後の冷却帯を兼ねている。このようなホットランテーブルは、多数のローラーを平行に配列した構成とされており、そのローラーには高速で走行する熱延ストリップが接触して擦れ合うことになる。そこでこの種のローラーには、耐摩耗性が良好であることが望まれる。一般にこの種のローラーとしては、基材として鋼材が使用され、その鋼基材の表面に、耐摩耗性を向上させるための処理、例えば13%Cr鋼の肉盛処理やNi基自溶合金の溶射及び再溶融処理などを施すことが行われている。
ところで、耐摩耗性を向上させるための表面処理としては、従来から種々の処理方法が知られているが、その一つとして、例えば特許文献1に示されているように、油中での高電圧印加による放電を利用して、基材(表面処理対象の被処理材)表面に硬質な炭化物を主体とする皮膜(放電処理皮膜)を形成する方法が提案されている。
すなわち特許文献1では、炭化物を作りやすいW、Ti、V、Ta、Nbからなる電極を用い、Cを多く含有する加工液(代表的には油)の中で、電極と被処理材との間に放電を生起させ、電極構成材料であるWやTi等の溶融金属を、加工液(油)の分解により生じた炭素と反応させて炭化物(WC、TiC等)を生成させ、その炭化物を被処理材の表面に堆積させて、硬質皮膜を形成することが提案されている。
なお、放電を利用して硬質皮膜を被処理材の表面に形成する点で、特許文献1の方法に若干類似する表面処理方法が特許文献2で提案されている。
すなわち特許文献2では、IVa族(Ti、Zr),Va族(V、Nb、Ta)またはVIa族(Cr、Mo、W)の高融点化合物(例えば炭化物、窒化物など)と、結合金属としての鉄系金属とからなる混合粉末の成形体からなる電極を用い、液中で電極と被処理材との間で放電させ、電極構成材料である炭化物、窒化物などの高融点化合物と鉄系金属の結合金属とからなる皮膜を被処理材の表面に形成する方法が開示されている。
特開平9−19829号公報 特開2001−138141号公報
特許文献1で提案されているように、炭素(C)を含む液中、例えば油中において、炭化物を生成しやすいW、Ti、V、Ta、Nbからなる金属電極と被処理材との間に放電を生起させれば、放電エネルギによって電極から溶融したW、Ti等の微小液滴と、油の熱分解によって生じた炭素とが反応して、WC、TiC等の炭化物が生成され、その炭化物が被処理材表面に堆積され、最終的に被処理材の表面にこれらの炭化物からなる硬質な皮膜が生成される。そしてこのような硬質皮膜によって被処理材表面に耐摩耗性を付与することができる。
しかしながら特許文献1に示されている技術では、次のようないくつかの問題がある。
すなわち、特許文献1の技術では電極材としてW、Ti、V、Ta、Nbを用いており、これらの電極構成材料が炭素と反応して生成される炭化物は、著しく硬質であり、被処理材表面に形成される皮膜の硬さもHv1500〜3000程度と著しく高くなる。
このように著しく硬質であることは、被処理材の耐摩耗性の顕著な向上には、確かに有効である。しかしながら、前述のような鋼板の熱間圧延工場におけるホットランテーブルのローラーに特許文献1の方法を適用した場合、ローラー表面に形成される皮膜が硬すぎるため、熱間仕上圧延機から巻取機に向けて高速でフィードされる熱延鋼板ストリップが、ローラーと高速で接触した際に傷ついてしまうことがある。
また特許文献1の方法で形成される硬質皮膜は、その厚みを厚くしようとしても、20μm程度以上の厚膜を形成することは困難であり、ホットランテーブルローラーのような用途では皮膜が薄すぎて十分な耐摩耗性の持続性を確保することは、実際上は困難であった。
さらに、特許文献1の提案では、炭化物を作りやすいW、Ti、V、Ta、Nbを電極材料として用いているが、これらの金属は、いずれも高価であり、そのため特許文献1の技術を実際に適用しようとした場合、高コストとならざるを得ない。特に皮膜を厚肉に形成しようとした場合や、ホットランテーブルローラーのように多数の被処理材に適用しようとした場合には、高価なこれらの金属を多量に消費するため、著しい高コスト化を招き、実際的ではない。
なお特許文献2に示される方法は、電極から溶融した溶融物と油中での炭素との反応により炭化物を生成して被処理材表面にその反応生成物を堆積させることを主眼としたものではなく、電極材料自体に炭化物や窒化物を用いて、それを被処理材表面に堆積させるものであるから、本発明で前提としている技術とは基本的に異なる。
このように電極材料自体に炭化物や窒化物を用いて、それを被処理材表面に堆積させる方法では、電極から溶融した溶融物と油中での炭素との反応により炭化物を生成して被処理材表面にその反応生成物を堆積させる方法と比較して、炭化物や窒化物を用いた電極材料が、金属を用いた電極材料に比べて高融点であるため、電極の溶融量が少なく、反応生成物の堆積速度が小さいなどの問題がある。
本発明は以上の事情を背景としてなされたもので、油中での放電処理によって被処理材の表面に硬質皮膜を形成するにあたり、適度な硬さを有しかつ低コストで厚い硬質皮膜を形成し得る方法を提供することを課題としている。
上述の課題を解決するために本発明者等が種々実験・検討を重ねたところ、油中での放電処理によって被処理材の表面に硬質皮膜を形成するにあたり、電極として、例えばオーステナイト系ステンレス鋼のような、比較的安価な鉄基材料を用いた場合でも、適度に高い硬さを有している硬質皮膜を、厚く生成することができること、そしてこの場合、相手材と擦れ合うような用途に適用しても、相手材を傷つけたり、摩耗させたりしてしまうおそれが少なくなることを知見した。言い換えれば、耐摩耗性を発揮し得る程度には高硬度ではあるが、比較的軟質な相手材を傷つけてしまうような過剰な高硬度ではない、Hv600〜1300程度の適度な高硬度を有する皮膜を厚膜に形成し得ることを見い出した。
一例としては、例えばホットランテーブルにおいて一般的に使用されている、13%Cr鋼を肉盛したローラー表面の硬さ(Hv300程度)や、Ni基自溶合金を溶射及び再溶融処理したローラー表面の硬さ(Hv350程度)と比べれば、Hv600以上と格段に高硬度が得られるため、耐摩耗性を向上させることが可能となり、同時に、Hv1300以下であれば、相手材である熱延ストリップ鋼帯を傷つけるおそれも少なくなるのである。
したがって、本発明の基本的な態様(第1の態様)の放電処理皮膜の形成方法は、
電極として、Feを45質量%以上(100%含む)含有し、Ni及びCrのうちのいずれか1種又は2種を合計で55質量%以下(0%を含む)含有し、しかもFe、Ni、Crのそれぞれの含有量についてFe≧Ni及びFe≧Crの関係が成立し、残部が不可避的不純物からなる鉄基材料を用い、
油中において前記電極と被処理材との間にパルス電圧を加えて、その間にパルス放電を生起させ、これにより、前記鉄基材料に由来する成分と前記油の分解により生じた炭素との反応によって、鉄炭化物を含む皮膜を被処理材の表面に形成することを特徴とするものである。
また本発明の第2の態様の放電処理皮膜の形成方法は、前記第1の態様において、
前記電極と被処理材との間にパルス放電を生起させるにあたり、電極と被処理材との間に加えるパルス電圧のパルス幅を、250〜10000μsの範囲内とすることを特徴とするものである。
さらに本発明の第3の態様の放電処理皮膜の形成方法は、前記第1もしくは第2の態様において、
前記放電によって形成される皮膜の硬さが平均でHv600〜1300であることを特徴とするものである。
また本発明の第4の態様の放電処理皮膜の形成方法は、前記第1〜第3のいずれかの態様において、
前記放電によって形成される皮膜の厚みが、平均で20〜200μmの範囲内であることを特徴とするものである。
さらに本発明の第5の態様の放電処理皮膜の形成方法は、前記第1〜第4のいずれかの態様において、
前記電極の鉄基材料として、さらにMo、Ti、Nb、Alのうちの1種又は2種以上を合計で0.1〜5.0質量%含有する材料を用いることを特徴とするものである。
本発明によれば、油中でのパルス放電による処理によって被処理材の表面に硬質皮膜を形成するにあたり、適度な硬さを有しかつ厚い硬質皮膜を、低コストで容易に形成することができる。
本発明の方法を原理的に説明するための模式図である。 本発明の方法の実施形態として、パルス放電における放電電圧波形を示す模式図である。
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明法を実施している状況の一例を原理的に図1に示す。
図1において、鋼材など導電性を有する被処理材1に対して、空間(隙間)2を置いて電極3を対向させる。この電極3としては、本発明法では、後に詳細に説明するように、鉄(Fe)を主体とする材料、すなわち鉄基材料を用いる。
そして少なくとも被処理材1と電極3との対向空間(隙間)2が処理油4によって満たされるように、例えば容器5内において処理油4中に浸漬させる。そしてパルス電源6によって、電極3と被処理材1との間にパルス電圧を印加し、対向空間2にパルス放電を生起させる。なお本実施形態では、電極3が負極(−極)、被処理材1が正極(+極)となるように電圧を印加することとしている。
上記のようにして電極3と被処理材1との間にパルス電圧を印加してパルス放電を生起させれば、その放電エネルギによって鉄基材料からなる電極3の表面が溶融し、同時に処理油が分解して炭素(C)が生じる。そして電極の溶融物であるFeと上記の炭素が反応して鉄の炭化物が生成され、また後述するように電極としてCrなどを含む鉄基材料を用いている場合には、Crなどの炭化物が生成されることもある。
このようにして生成された炭化物は、被処理材1の表面に堆積され、皮膜(放電処理皮膜)7が生成される。なお炭化物とともに、炭化していないFeなどの金属成分の溶融物も被処理材表面に付着するから、炭化物は、被処理材表面においてこれらの金属成分によって結合されて強固な皮膜を形成することになる。
電極の構成材料としては、鉄(Fe)を主成分とする鉄基材料を用いる。すなわち、Feを45質量%以上(100%含む)含有し、Ni及びCrのうちのいずれか1種又は2種を合計で55質量%以下(0%を含む)含有し、しかもFe、Ni、Crのそれぞれの含有量についてFe≧Ni及びFe≧Crの関係が成立し、残部が不可避的不純物からなる鉄基材料、あるいは上記のNi、Crのいずれか一方又は双方のほか、さらに必要に応じてMo、Ti、Nb、Alのうちの1種又は2種以上を合計で0.1〜5.0質量%含有する鉄基材料を用いる。
このように、鉄基材料を用いた場合でも、後述する実験例で示すように、油中でのパルス放電によって鉄炭化物を含むHv600以上の硬質な皮膜を20μm以上の充分な厚みで形成し得ることが判明している。
ここで、Feを45質量%以上(100%含む)含有し、Ni及びCrのうちのいずれか1種又は2種を合計で55質量%以下(0%を含む)含有し、Fe、Ni、Crのそれぞれの含有量についてFe≧Ni及びFe≧Crの関係が成立する鉄基材料としては、次のようなものがある。
すなわち、Feを45質量%以上(100%含む)含有し、Cr、Niの両者を合計で55%以下含有し、Fe、Ni、Crのそれぞれの含有量についてFe≧Ni及びFe≧Crの関係が成立する合金鋼として、例えばSUS304(18Cr−8Ni鋼)やSUS310(25Cr−20Ni鋼)で代表されるいわゆるオーステナイト系ステンレス鋼、そのほか、SNC631(2.7Ni−0.8Cr鋼)、SNC415(2.2Ni−0.3Cr鋼)で代表されるいわゆるニッケルクロム鋼などがある。
またNiを実質的に含まず、Feを45質量%以上(100%含む)含有し、Crを55%以下含有し、Fe、Crの含有量についてFe≧Crの関係が成立する合金鋼として、例えばSUS430鋼(18Cr鋼)やSUS410(13Cr鋼)で代表されるいわゆるフェライト系ステンレス鋼、そのほか、SCr440(1.0Cr鋼)で代表されるいわゆるクロム鋼などがある。
またCrを実質的に含まず、Feを45質量%以上(100%含む)含有し、Niを55%以下含有し、Fe、Niの含有量についてFe≧Niの関係が成立する合金鋼として、例えばインバー合金(36Ni鋼)、42アロイ(42Ni鋼)などがある。
さらにNi、Crを実質的に含有しない鉄基材料として、いわゆる普通鋼や純鉄がある。
そのほか、Ni、Crのいずれか一方又は双方のほか、さらにMo、Nb、Ti、Alのうちの1種又は2種以上を合計で0.1〜5.0質量%含有する鉄基材料としては、たとえばMoを含有する鋼として、SUS316(18Cr−12Ni−2.5Mo鋼)、SUS317J1(18Cr−16Ni−5.0Mo鋼)、またTiを含有する鋼としてSUH409(11Cr−0.2Ti鋼)、Nbを含有する鋼としてSUS347(18Cr−9Ni−0.5Nb鋼)、Alを含有する鋼としてSUS631(18Cr−7Ni−1.0Al鋼)、Ti及びAlを含有する鋼としてNCF800(32.5Ni−21Cr−0.4Ti−0.4Al鋼)などがある。
以上のような電極構成材料である鉄基材料において、Ni、Crのいずれか一方又は双方を含む場合には、皮膜にNiもしくはCrを含むため、皮膜の耐食性が向上する効果が得られる。なお、電極の鉄基材料にCrが含まれる場合、油中でのパルス放電によってCr炭化物も生成され、皮膜の硬さ向上に寄与するが、炭化物を形成しなかったCrは、炭化物の結合金属として機能する。また電極の鉄基材料にNiが含まれる場合、Niは炭化物を生成しにくいため、そのほとんどは炭化物とならずに皮膜中に取り込まれ、炭化物の結合金属として機能する。
ここで、Feを45質量%以上とし、Ni及びCrのうちのいずれか1種又は2種を55質量%以下(0%を含む)に制限し、Fe、Ni、Crのそれぞれの含有量についてFe≧Ni及びFe≧Crの関係が成立するという条件を満足しなければ、その分、Fe含有量が少なくなって、油中パルス法での鉄炭化物の生成量が少なくなり、皮膜中の鉄炭化物も少なくなり、適度の硬さ(Hv600〜1300)を有する皮膜を形成することが困難となる。また、Ni、CrのうちでもCr量が多ければ、Cr炭化物が多くなって、皮膜硬さがHv1300を超える過度の高硬度となってしまうおそれがあり、そこで必要以上にCr含有量は高くしないことが望ましい。一方、Ni、CrのうちNi量が多くても、Ni炭化物はほとんど生成されないが、上記のようにFe炭化物の生成量の減少により、Hv600以上の硬度を確保しにくくなるから、Ni含有量も必要以上に高くしないことが望ましい。
さらに、電極の鉄基材料として、Ni、Crのいずれか一方又は双方のほか、Mo、Ti、Nb、Alのうちの1種又は2種以上を含有する合金鋼を使用する場合、それらの合計含有量が5.0質量%を超えれば、皮膜硬さがHv1300を超える過度の高硬度となるおそれがあるから、これらの合計含有量は5.0質量%以下に抑えることとする。
なお、これらの選択元素のうちMoは、Mo炭化物の形成により皮膜を高硬度化させる効果があり、Moを添加する場合のMo量は、0.1〜5.0質量%の範囲内とすることが好ましい。
またTiは、Ti炭化物の形成により皮膜を高硬度化させる効果があり、Tiを添加する場合のTi量は、0.1〜1.0質量%の範囲内とすることが好ましい。
またNbは、Nb炭化物の形成により皮膜を高硬度化させる効果があり、Nbを添加する場合のNb量は、0.1〜1.0質量%の範囲内とすることが好ましい。
さらにAlは、Alを含む硬質な金属間化合物の形成により皮膜を高硬度化させる効果があり、Alを添加する場合のAl量は、0.1〜1.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
なお電極の製造方法は特に限定されるものではなく、通常の溶解・鋳造法を適用して得られた溶製材に、適宜成形加工や機械加工を施して製造してもよく、あるいは粉末冶金法により粉末を焼結して製造してもよい。すなわち電極材は、いわゆるバルク材であっても、焼結材料であってもよい。
パルス放電は、油(処理油)中で行う。油は、種々の炭化水素からなるものであって、その構成元素として炭素を多量に含んでいる。そのため、前述のようにパルス放電時のエネルギによって炭化水素が分解することによって、油中で炭素が遊離され、その炭素が電極材料の溶融物である鉄などと反応して、炭化物を生成するために寄与する。
ここで、処理油としては、従来から放電加工に広く使用されている一般的な放電加工油、例えば鉱油、ノルマルパラフィン、イソパラフィンなどの炭化水素油を主体とする油などを用いればよい。
なお図1においては、処理油4を容器5内に充満させることによって、被処理材1と電極3との対向空間(隙間)2が処理油4によって満たされるようにしているが、隙間2の間隔Gは1500μm以下の極く狭い空間であるから、その隙間2の一端側から処理油を隙間2内に供給するようにしてもよい。
パルス放電の電圧は、要は電極3と被処理材1との間の隙間2に放電が生起されるように、隙間2の間隔Gに応じて定めれば良い。ここで、隙間2の間隔Gは、一般に50〜1000μm程度が好ましく、その場合、放電のための印加電圧は30〜300V程度とすればよい。
パルス放電のためのパルス電圧波形を、図2に模式的に示す。
パルス放電では、電極と被処理材との間に電圧を加えて放電が生じている期間(放電期間;以下“パルス期間”と称する)Tpと、電圧を加えずに放電が休止している期間(以下“休止期間”と称する)Toとが交互に繰り返されることになる。
ここで、休止期間Toを挟まない連続直流電圧印加でも放電を生起させることは可能であるが、パルス放電であれば、連続直流電圧印加の場合よりも、均一な膜厚の皮膜を安定して生成することができ、また同時に皮膜の割れが生じにくくなって、健全な皮膜を生成し得ることが確認されている。
その理由は必ずしも明確ではないが、パルス放電によれば、休止期間を放電期間の間に挟むことによって、休止期間中に、溶融状態で被処理材表面に付着した皮膜生成物質(主として鉄炭化物)が平滑化されること、また被処理材の温度が過度に上昇することが回避されて、基材の熱歪みによって皮膜に割れが生じることが回避されることが原因ではないかと考えられる。
ここで、パルス放電におけるパルス幅(パルス期間Tpの幅)WTpは、250〜10000μsの範囲内とすることが望ましい。これは、本発明者等が、パルス幅WTpが皮膜厚に及ぼす影響を調べる実験を行った結果から新規に知見したことである。そこで次にその知見のもととなった実験の概要を説明する。
電極として鉄基材料を用いての油中パルス放電におけるパルス幅WTpが皮膜厚及び皮膜硬度に及ぼす影響を、次のようにして調べた。
すなわち、電極としてオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316の焼結体からなる電極を用い、表1に示すパルス幅および休止時間の放電条件(パルス幅と休止期間との比率は、1で一定とした)で、40分間の油中パルス放電により、被処理材である普通鋼板(SS400材、50mm×50mm×4.5mmt)の表面に皮膜を形成させる実験を行ない、生成された皮膜の厚み及び硬さを調べた。その結果を表1中に示す。なお表1において、No.1の放電条件は、被処理材の表面をダル加工するために従来から適用されている放電加工(すなわち被処理材表面に皮膜を生成することを目的としない放電加工)で一般に適用されている条件の、正極(+極)と負極(−極)を逆転した条件である。
Figure 2018094573
その結果、表1から明らかなようにパルス幅が大きくなるほど、皮膜の膜厚は増大し、いずれの条件でも基材の硬度(Hv140程度)を大幅に上回るHv700程度の皮膜硬度を示すことが確認された。
なお、生成された皮膜についてX線回折により回折パターンを調べたところ、鉄の炭化物であるFeCを主体とし、さらにクロム(Cr)の炭化物であるCr23を含んでいることが確認された。またこれらの炭化物が、炭化されていないFe、Cr、Niによって結合されて、強固な膜となっていることが確認された。
上述のように、パルス幅が大きいほど、皮膜の厚みが大きくなることが、確認されている。ここで、パルス幅が250μs未満では、ホットランテーブルローラーなどとして充分な耐摩耗性、耐久性を示すために望まれる厚み(望ましくは20〜200μmの厚み)の皮膜を形成することが困難となる。一方10000μsを越えれば、皮膜に割れが発生しすくなるおそれがある。そこでパルス幅は、250〜10000μsの範囲内が好ましく、特に500〜8000μsの範囲内がより望ましい。
ここで、パルス放電における休止期間Toの長さWToは、皮膜の厚みおよび硬度にさほど影響を与えないことが本発明者等の実験により確認されている。したがって休止期間Toの長さWToは適宜設定すればよいが、通常は、パルス幅WTpと同様に250〜10000μsの範囲内とすれば良く、またパルス幅WTpと休止期間Toの長さWToとの比(デューティ比)も特に限定されず、実験例と同様に、デューティ比=1であってかまわない。
さらに、パルス放電開始から終了までのパルスが加わっている間の合計時間、すなわち合計通電時間は特に限定しないが、20μm以上の膜厚を得るためには、通常は1分以上が好ましい。また30分を超えて長時間化しても、それ以上は膜厚の増大は少ないから、通常は30分以下とすることが好ましい。
なお、パルス放電におけるピーク電流は、被膜厚、皮膜硬度に大きな影響を与えないことが確認されているが、通常は2〜30A程度とすることが好ましい。
最終的に得る皮膜の厚みは、20〜200μmの範囲内であることが望ましい。皮膜の厚みが20μm未満では、熱間圧延工場のホットランテーブルのローラー等の用途において皮膜の十分な耐摩耗性の持続性を得ることが困難となるおそれがある。一方皮膜の厚みが200μmを越えるような厚膜をパルス放電による皮膜形成処理によって得ようとすれば、皮膜に割れが発生しやすくなる。そこで皮膜の厚みは、20〜200μmの範囲内とすることが好ましい。なお前述のように、パルス放電による皮膜形成処理では、被膜厚はパルス幅に依存するから、パルス幅を制御することによって、被膜厚を上記の範囲内となるように調整することができる。
また最終的に得る皮膜の硬さは、Hv600〜1300の範囲内であることが好ましい。
皮膜の硬さがHv600未満では、ホットランテーブルのローラー等の用途において、耐摩耗性を向上させる効果が充分に得られない。一方皮膜の硬さがHv1300を越えれば、ホットランテーブルのローラー等の用途において相手材(例えば熱延ストリップ等の製品)を傷つけることがある。したがって、最終的に得る皮膜の硬さは、Hv600〜1300の範囲内とすることが好ましい。なお本発明法では、炭化物として主として鉄炭化物を生成させることとしており、このような鉄炭化物は、特許文献1の場合のようなTiCやWCよりも硬度は低く、そのため本発明法で形成した皮膜の硬さも、TiCやWCを主体とする炭化物で形成した皮膜よりも低いHv1300以下とすることができるため、相手材を傷つけるおそれを少なくすることができるのである。またこのようにTiCやWCを主体とする炭化物で形成した皮膜よりも低い硬さであっても、Hv600以上であれば、実用上十分な皮膜耐久性を確保することができるのである。
本発明の皮膜形成方法が適用される対象となる部材(被処理材)は、特に限定されるものではなく、ホットランテーブルのローラーのほか、例えば加熱炉と熱間圧延機の間、2基の熱間圧延機の間などの搬送用テーブルローラー、ダウンコイラーのピンチロールやラッパーロール、サイドガイド、ライナープレート、製鋼工場の連続鋳造ロールなどに適用することができる。ここで、本発明の皮膜形成方法は、特に相手材が鋼材(普通鋼のほか、ステンレス鋼、Cr鋼、Cr−Mo鋼等の合金鋼を含む)であって、高速で走行もしくは回転する部材である場合に好適に適用することができる。また、被処理材の形状も特に限定されるものではなく、円筒状もしくは円柱状の部材、あるいは板状の部材など、適宜の形状の部材に適用することができる。
本発明の作用・効果を検証するため、以下の実施例に示す実験を行った。
〔実施例1〕
表2中に示す各種の鉄基材料からなる電極を用い、普通鋼板(SS400材)からなる板状の被処理材(寸法は50mm×50mm×4.5mm)の板面に、電極を負極、被処理材を正極として、表2に示すパルス幅、休止時間、ピーク電流の放電条件(パルス幅WTpと休止期間WToとの比率は1)で、40分間の油中でのパルス放電を行って、被処理材の表面に皮膜を形成した。そして各皮膜の平均膜厚、平均硬さを調べ、さらに皮膜の割れ発生の有無を調べた。なお、電極と被処理材との間の隙間の間隔は、いずれの場合も400μmとし、パルス放電の電圧は80Vとした。また処理油としては、一般的な放電加工用の油であるパラフィン系炭化水素油を用いた。皮膜硬さはビッカース硬さ計を用いて、皮膜と基材の鋼板との界面から10μmだけ皮膜表面側の位置において、均一間隔で5点測定し、その平均を皮膜硬さとした。
その結果を表2中に示す。
Figure 2018094573
表2から明らかなようにパルス幅が大きくなるほど皮膜の膜厚は増大し、パルス幅が250〜10000μsの範囲内では、膜厚が20〜200μmの範囲内で、硬さがHv600〜1300の範囲内の、割れの無い健全な皮膜が得られることが確認された。また、表2に示す結果から、パルス放電条件のうち、ピーク電流値、および休止期間は、皮膜の膜厚、硬さに実質的に影響を与えないことが確認された。
〔実施例2〕
さらに、実機のホットランテーブルローラーについて、本発明法を適用した場合の効果を確認するため、次のような実験を行った。
すなわち、径が300mmで軸長が2000mmの、機械構造用炭素鋼鋼管(STKM13A)からなるホットランテーブルローラー基材の外周面に、表2の例3の条件で放電表面処理を施して皮膜を形成させた。そのローラーを、実際の熱延工場にてホットランテーブルローラーとして1年間使用した。
そして従来のホットランテーブルローラーである13%Cr鋼肉盛ローラー及びNi基自溶合金溶射ローラーと、本実施例2によるローラーの消耗径とを比較した。その結果、本発明のホットランテーブルローラーの消耗量はφ0.08mmであり、従来の13%Cr系肉盛ローラーの消耗量であるφ1.39mmやNi基自溶合金溶射ローラーの消耗量であるφ0.27mmと比較して著しく小さく、耐摩耗性が優れていることが確認された。なお上記の1年間の使用期間中、相手材である熱延ストリップを傷つける事故は、全く発生しなかった。
以上、本発明の好ましい実施形態および実施例について説明したが、これらの実施形態、実施例は、あくまで本発明の要旨の範囲内の一つの例に過ぎず、本発明の要旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。すなわち本発明は、前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定され、その範囲内で適宜変更可能であることはもちろんである。
1 被処理材
2 対向空間(隙間)
3 電極
4 処理油
6 パルス電源
7 皮膜(放電処理皮膜)
WTp パルス幅

Claims (5)

  1. 電極として、Feを45質量%以上(100%含む)含有し、Ni及びCrのうちのいずれか1種又は2種を合計で55質量%以下(0%を含む)含有し、しかもFe、Ni、Crのそれぞれの含有量についてFe≧Ni及びFe≧Crの関係が成立し、残部が不可避的不純物からなる鉄基材料を用い、
    油中において前記電極と被処理材との間にパルス電圧を加えて、その間にパルス放電を生起させ、これにより、前記鉄基材料に由来する成分と前記油の分解により生じた炭素との反応によって、鉄炭化物を含む皮膜を被処理材の表面に形成することを特徴とする放電処理皮膜の形成方法。
  2. 請求項1に記載の放電処理皮膜の形成方法において、
    前記電極と被処理材との間にパルス放電を生起させるにあたり、電極と被処理材との間に加えるパルス電圧のパルス幅を、250〜10000μsの範囲内とすることを特徴とする放電処理皮膜の形成方法。
  3. 請求項1、請求項2のいずれかの請求項に記載の放電処理皮膜の形成方法において、
    前記パルス状放電によって形成される皮膜の硬さが平均でHv600〜1300であることを特徴とする放電処理皮膜の形成方法。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれかの請求項に記載の放電処理皮膜の形成方法において、
    前記パルス状放電によって形成される皮膜の厚みが、平均で20〜200μmの範囲内であることを特徴とする放電処理皮膜の形成方法。
  5. 請求項1〜請求項4のいずれかの請求項に記載の放電処理皮膜の形成方法において、
    前記電極の鉄基材料として、さらにMo、Ti、Nb、Alのうちの1種又は2種以上を合計で0.1〜5.0質量%含有する材料を用いることを特徴とする放電処理皮膜の形成方法。
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