JP3676049B2 - ポリビニルアルコール系合成繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐湿熱性と高強度が要求される漁網、ロープ、テント、土木シートなどの一般産業資材やセメント、ゴム、プラスチックの補強材に有効なポリビニルアルコール(以下、PVAと略記)系合成繊維及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来PVA系繊維は、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル系繊維に比べて強度、弾性率が高く、産業資材用繊維として使用されている。さらにそれ以外でも、ゴム、プラスチック、セメントなどの補強繊維として広く利用されており、中でもPVA系繊維は汎用繊維の中で最も高強力高弾性を有し、かつ接着性や耐アルカリ性が良好なため、石綿代替のセメント補強材として脚光を浴びている。しかしながらPVA系繊維は耐湿熱性に乏しく、一般産業資材や衣料素材として用いられるにしても用途が制限され、さらにセメント成型品に対して通常行われている高温での水蒸気オートクレーブ養生が不可能であった。現在セメント補強材にPVA系繊維を使用する場合は、室温養生製品に限っており、セメント製品の寸法安定性や強度が十分でなく、かつ養生日数が長いなどの欠点を有していた。
【0003】
PVA系繊維の耐湿熱性を改良しようとする試みは古くからなされて来た。たとえば、ホルマリンのごときモノアルデヒド化合物、あるいはグリオキザールやグルタルアルデヒドのごときポリアルデヒド化合物とPVAの水酸基とのアセタール化反応を利用してPVA系繊維を疎水化あるいは架橋せしめることにより、かかる繊維の耐湿熱性の向上を図る方法が数多く報告されている。たとえば特公昭30−7360号公報や特公昭36−14565号公報には、ホルマリンを用い、PVAの水酸基をホルマール化して疎水化することにより染色や洗濯に耐えられるPVA系繊維が記載されている。
【0004】
一方、ジアルデヒド化合物による架橋は特公昭29−6145号公報や特公昭32−5819号公報などに明記されており、特開平5−163609号公報には、ジアルデヒド又はそのアセタール化合物を紡糸原糸に付与し、高倍率に乾熱延伸したあと酸処理により繊維内部に架橋を生じさせることが記載されている。さらに、特開平5ー263311号公報(対応ヨーロッパ特許第520297号、米国特許第5380588号)においては、乾熱延伸したPVA繊維に、上記特開平5ー163609号公報記載のジアルデヒド化合物を繊維内部まで浸透させたのち、モノアルデヒドと架橋触媒を含有する浴に浸漬して架橋反応を起こさせることにより、耐熱水性に優れたPVA系繊維が得られ、この架橋PVA系繊維は160℃オートクレーブ養生に耐えうる繊維であることが報告されている。
【0005】
ところで、従来報告されているホルマリンのごときモノアルデヒド化合物、あるいはグリオキザールやグルタルアルデヒドのごときポリアルデヒド化合物とPVAの水酸基とのアセタール化反応を利用してPVA系繊維を疎水化あるいは架橋せしめることにより、かかる繊維の耐湿熱性の向上を図る方法においては、アセタール化処理は全て酸の水溶液中で処理する方法がとられている。しかしながら、この方法ではアセタール化反応を充分進行させるため、塩酸、あるいは硫酸のような強酸が必要であり、また、その温度も50℃以上が必要であることが本発明者らの検討で明らかとなった。このような条件で処理することはPVAにとっての良溶媒中で処理することに他ならず、繊維が処理中に膨潤してしまうことは避けられないばかりか、PVA自身が一部溶解してしまう恐れもあった。これらの現象はPVAの分子配向を乱したり結晶化度を低下させる効果があり、その結果、PVA系繊維が本来有する力学的機械的強度の低下を招くという大きな問題があった。
【0006】
また、前述した酸処理工程は通常紡糸後に行われるが、アセタール化に使用した酸が残存するとPVA系繊維の着色、強度低下等の原因となるため、実際には充分な中和と水洗工程が必要であり、工程の高コスト化の原因となるという問題もあった。
【0007】
モノアルデヒド化合物やポリアルデヒド化合物によるアセタール化反応以外の手法としては、例えば酸を用いて脱水架橋により耐湿熱性を向上させる方法が特開平2−84587号公報や特開平4−100912号公報などで公知であるが、本発明者らが追試したところ繊維内部まで架橋させようとするとPVA繊維の分解が激しく起こり、繊維強度の著しい低下を招いた。
また、特開平1−207435号公報、特開平2−133605号公報、特開平2−216288公報には、アクリル酸系重合体をブレンドするか、又は繊維表面を有機系過酸化物やイソシアネート化合物、ウレタン系化合物、エポキシ化合物などで架橋せしめる方法が記述されている。しかしアクリル系重合体による架橋はエステル結合であるため、セメント中のアルカリ成分で容易に加水分解してその効果を失うこと、及び他の架橋剤も基本的に繊維表面架橋であるため、くり返し湿熱にさらされている時、あるいはオートクレーブ養生中に繊維の中心部から膨潤、溶解が起こることなどの問題点を抱えており、本発明者らが追試したところ高温オートクレーブ養生に耐えうる繊維としては不十分な性能であった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
かかる状況下、本発明は高温オートクレーブ養生のような激しい高温高湿条件においても、本来の優れた性質である高強力、高弾性、優れた接着性や耐アルカリ性を損なうことなく、また煩雑な工程を必要とすることなく高い耐湿熱性を有するPVA系維およびその製造方法を提供せんとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
以上の背景を踏まえて本発明者らは、高温オートクレーブ養生のような激しい高温高湿条件においても、本来の優れた性質である高強力、高弾性、優れた接着性や耐アルカリ性を損なわない、高い耐湿熱性を有するPVA系繊維の製造法について鋭意検討を重ねた結果、PVA系繊維を製造する際に、紡糸原液中、凝固浴中あるいは溶剤抽出浴中に溶解あるいは分散させたラジカル発生剤を該ポリビニルアルコール系繊維内部あるいは繊維表面に0.05モル%から5モル%、ラジカル架橋助剤を該ポリビニルアルコール系繊維内部あるいは繊維表面に0.05モル%から5モル%含有あるいは付着させた後、乾熱延伸工程あるいはそれに続く熱処理工程にて架橋せしめることを特徴とするPVA系繊維およびその製造方法が上記目的を達成することを見いだし本発明に至ったものである。
【0010】
以下、本発明の内容をさらに詳細に説明する。本発明に言うPVA系ポリマーとは、、通常のポリビニルアルコールの製造法であるポリ酢酸ビニルあるいはその共重合体のけん化により得られる。またピバリン酸ビニル、蟻酸ビニルのごとき側鎖の嵩高いビニルエステルまたは極性の高いビニルエステル、もしくはt−ブチルビニルエーテルやトリメチルシリルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテルのごときビニルエーテルの単独重合体あるいは共重合体の分解によっても得られる。
【0011】
ここで、共重合体の場合のコモノマー単位は、けん化あるいは分解によってビニルアルコール単位を生成する単位とそれ以外の単位に分けられる。後者のコモノマー単位は、主として変性を目的に共重合されるもので、本発明の趣旨を損なわない範囲で使用される。このような単位としては、たとえば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メ夕クリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メ夕クリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メ夕クリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセ卜ンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩と4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、ジアセ卜ンメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩と4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物、マレイン酸およびその塩とエステル、イタコン酸およびその塩とエステル、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物、酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0012】
該ポリビニルアルコール系重合体のけん化度は通常70モル%以上が好ましい。特に耐熱性、耐水性、耐油性が要求される場合のけん化度は90〜99.99モル%が好ましい。ここで、けん化度は酢酸ビニルの単独重合体または共重合体中のけん化によりビニルアルコール単位に変換され得る単位に対する、けん化後のビニルアルコール単位の割合を表したものあり、残基は酢酸ビニル単位である。
【0013】
PVA系ポリマーの重合度も本発明の繊維の性能に影響する。PVA系ポリマーの平均重合度が高いほど結晶間を連結するタイ分子の数が多く、かつ欠点となる分子末端数が少なくなるので高強度、高弾性率、高耐湿熱性が得られやすく、したがって好ましくは重合度1000以上のPVA系ポリマーであり、さらに好ましくは重合度1700以上のPVA系ポリマーである。但し、重合度30000を超えるようなPVA系ポリマーは一般的に製造が困難であり、工業生産という観点からは必ずしも適したものとはいえない。
【0014】
PVA系ポリマーの溶剤としては、たとえばグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブタンジオールなどの多価アルコール類やジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジエチレントリアミン、水及びこれら2種以上の混合溶剤などが挙げられる。ただし、本発明のラジカル発生剤と架橋助剤を該溶剤に混合添加する場合は、該化合物を凝集させたり、分離させる溶剤は望ましくなく、均一分散又は溶解する溶剤が好ましい。また、紡糸原液中の酸性またはアルカリ性が高いと原液中でラジカル発生剤及び架橋助剤とPVA系重合体が反応する場合があり好ましくない。この点で、上記したジメチルスルホキシドやグリセリンなどが好ましく、特にジメチルスルホキシドがもっとも好ましい。
またPVA系ポリマーを溶剤で溶解する際にホウ酸、界面活性剤、分解抑制剤、染料、顔料などを添加しても支障ないが、先述したとおり、ラジカル発生剤と架橋助剤を紡糸原液中に混合添加する場合は、原液中で該ラジカル発生剤及び架橋助剤とPVA系重合体が反応し、その結果、紡糸性や延伸性を悪化させるような添加剤を用いることは好ましくない。
また原液中のPVA系ポリマー濃度としては5から50重量%が好ましく、特に湿式紡糸方法または乾湿式紡糸方法を用いる場合には5から20重量%が、また乾式紡糸方法を用いる場合には10から50重量%が好ましい。また紡糸原液の温度は80から230℃が一般的である。
【0015】
このようにして得られた紡糸原液は常法により湿式、乾式、乾湿式のいずれかの方法でノズルより吐出され固化する。湿式および乾湿式紡糸では凝固浴にて固化し繊維化させるが、その凝固浴を構成する凝固剤はアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどいずれでも良い。ただし、本発明で用いるラジカル発生剤と架橋助剤を紡糸原液中あるいは凝固浴中に混合添加する場合には、紡糸原液の固化と同時にラジカル発生剤及び架橋助剤とPVA系重合体との反応が進行し、その後の紡糸性や延伸性を悪化させる場合があるため、凝固浴としてアルカリ水溶液、アルカリ金属塩水溶液などを使用するのは好ましくない。なお、凝固における溶剤抽出をゆっくりさせて均一ゲル構造を生成させ、より高い強度と耐湿熱性を得るため、該凝固剤に該溶剤を10重量%以上混合させるのが好ましい。特にメタノールで代表されるアルコールと原液溶剤との混合液が好ましい。さらに凝固温度を20℃以下にして急冷させるのも均一な微結晶構造を得るのに都合が良い。また、繊維間の膠着を少なくし、その後の乾熱延伸を容易にするために溶剤を含んだ状態で2から10倍の湿延伸をするのが望ましい。湿延伸温度としては20から60℃の範囲が好ましい。次いで繊維を抽出浴に浸漬して溶剤の抽出を行なうが、抽出剤としてはメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類やアセトン、メチルエチルケトン、エーテル、水などが使用できる。続いて、必要に応じ、油剤などを付与して該抽出剤を乾燥させるが、乾式の場合は、抽出剤を使用せずに紡糸時及び紡糸後で該溶剤を蒸発させて乾燥させる。
【0016】
PVA系繊維の強度を発現するため、乾燥後紡糸原糸を200℃以上、好ましくは230℃以上で総延伸倍率が14倍以上、好ましくは16倍以上となるように乾熱延伸する。延伸温度は高重合度ほど高くして高倍率を維持するのが好ましいが、260℃以上ではPVAの分解が生じ易く好ましくない。なお、総延伸倍率は湿延伸倍率と乾熱延伸倍率の積で表される。
【0017】
本発明の特徴は、繊維を製造する際に、紡糸原液中、凝固浴中あるいは溶剤抽出浴中に溶解あるいは分散させたラジカル発生剤をポリビニルアルコール系重合体の繰り返し単位に対して0.05モル%から5モル%、ラジカル架橋助剤をポリビニルアルコール系重合体の繰り返し単位に対して0.05モル%から5モル%、繊維内部あるいは繊維表面に含有あるいは付着させた後、乾熱延伸工程あるいはそれに続く熱処理工程を経ることによって架橋せしめることである。
【0018】
本発明で用いることのできるラジカル発生剤は、熱によってラジカルを発生する化合物であれば特に限定されないが、具体的には、イソブチルペルオキシド、α,α‘−ビス(ネオデカノイルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルペルオキシネオデカネート、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオデカネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルペルオキシネオデカネート、ジ−2−エトキシエチルペルオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシルペルオキシ)ジカーボネート、t−ヘキシルペルオキシネオデカネート、ジメトキシブチルペルオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルペルオキシ)ジカーボネート、t−ブチルペルオキシネオデカネート、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、t−ヘキシルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ラウリルペルオキオキシド、ステアロイルペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、スクシニックペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、m−トルオイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシイソブチレート、ジ−t−ブチルペルオキシ−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシマレイン酸、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、t−ブチルペルオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、ジブチルペルオキシイソイソフタレート、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、t−ブチルトリメチルシリルペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ヘキシルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン等の有機過酸化物が挙げられる。これらのうち、有機過酸化物の分解温度が繊維の延伸温度に対して低すぎるような化合物では、繊維の延伸工程で架橋反応が余りにも激しく進行するために延伸不良となり繊維強度低下を引き起こす。また、分解温度が繊維の延伸温度に対して高すぎる化合物では架橋反応を追い込むための熱処理によってPVAが激しく劣化してしまい、同様に繊維強度が低下する。よって、PVAの延伸温度に比較的近い分解温度を有する有機過酸化物が好ましく、これらの具体例としては、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシマレイン酸、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、t−ブチルペルオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、ジブチルペルオキシイソイソフタレート、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、t−ブチルトリメチルシリルペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ヘキシルヒドロペルオキシドが挙げられる。また、これらの化合物は1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
次に、本発明で用いることのできるラジカル架橋助剤は、オレフィン樹脂のラジカル架橋で一般的に用いられる化合物であれば特に限定されないが、例えばエチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物もしくはキノンジオキシム化合物であり、さらに具体的には、p−ベンゾキノン、p−ベンゾキノンジオキシム、P,P‘−ジベンゾイルジキノンジオキシム等のキノンまたはキノンジオキシム化合物;N,N’−m−フェニレンジマレイミド、N,N’−(4,4−メチレンジフェニレン)ジマレイミド等の多官能マレイミド化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、アリルメタクリレート等の多官能メタクリレート化合物;ジアリルフマレート、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル等の多官能アリル化合物;ジビニルベンゼン、ジビニルピリジン等の多官能ビニル化合物; イソプレン、1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ペプタジエン、1,7−オクタジエン、1,7−オクタジエン−3−オール、1,8−ノナンジエン、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリエン化合物;チオウレア等の化合物が挙げられる。これらのうち、セメントオートクレーブ養生の様な高温アルカリ湿熱下での安定性、またPVAとの反応性の点から、キノンまたはキノンジオキシム化合物、チオウレア等が好ましく、具体的には、p−ベンゾキノン、p−ベンゾキノンジオキシム、P,P‘−ジベンゾイルジキノンジオキシム、チオウレア等が特に好ましい架橋助剤として挙げられる。これらの化合物は1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
これらのラジカル発生剤と架橋助剤との組み合わせについて、より効率的に架橋反応が観察された組み合わせとしては、有機過酸化物とキノンまたはキノンジオキシム化合物;有機過酸化物とチオウレアであり、例えば、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシドとp−ベンゾキノン;ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシドとチオウレア;クメンヒドロペルオキシドとp−ベンゾキノン;クメンヒドロペルオキシドとチオウレア等の組み合わせが挙げられる。
【0021】
本発明で用いるラジカル発生剤およびラジカル架橋助剤の付与は、紡糸原液から抽出のいずれの工程において行われても構わない。また、ラジカル発生剤とラジカル架橋助剤を同一工程において付与しても、異なる工程において順次付与しても構わない。具体的には、紡糸原液中に溶解あるいは分散させ、該PVA中に含有せしめる方法、凝固浴のアルコールやケトン類に該化合物を溶解あるいは分散し、紡糸原液を固化し繊維化させる際に該PVA中に含有せしめる方法、抽出浴のアルコールやケトン類に該化合物を溶解し、その中に膨潤状態の糸条を通過させることで、該化合物を繊維内部へ十分含有させる方法、等が挙げられる。このうち、抽出浴のアルコールやケトン類に該化合物を溶解し、その中に膨潤状態の糸条を通過させることで、該化合物を繊維内部へ十分含有させる方法が、該化合物を繊維中に均一かつ充分量含有させることができ、さらにその量を容易に制御できるという点において好ましい。この場合のラジカル発生剤あるいはラジカル架橋助剤を含有する浴の温度としては−10から50℃、浴中の該化合物濃度としてはそれぞれ0.01から1モル/リッターが好ましい。また浴への繊維浸漬時間としては5秒以上が好ましく、5秒未満の浸漬時間では繊維への該化合物の含有量が不足し十分な耐熱水性が得られない。
【0022】
本発明におけるラジカル発生剤の含有量あるいは付着量はポリビニルアルコール系重合体の繰り返し単位に対して0.05から5モル%であり、さらに好ましくは0.1から1モル%である。含有量あるいは付着量が0.05モル%未満では加熱処理時のラジカル発生量が少ないため耐湿熱性が不十分であり、5モル%を超えると分子配向を乱したりPVAの分解が促進されて強度低下を招き易い。含有量は、ラジカル発生剤を含有する浴の含有量を変えることによってコントロールすることができる。
【0023】
また、本発明におけるラジカル架橋助剤の含有量あるいは付着量はポリビニルアルコール系重合体の繰り返し単位に対して0.05から5モル%であり、さらに好ましくは0.1から1モル%である。含有量あるいは付着量が0.05モル%未満では架橋助剤としての量が不足するため耐湿熱性が不十分であり、5モル%を超えると分子配向を乱したりPVAの分解が促進されて強度低下を招き易い。含有量は、ラジカル発生剤を含有する浴の含有量を変えることによってコントロールすることができる。
【0024】
次に、先述した繊維の延伸工程においてPVA系繊維中に含有あるいは付着させたラジカル発生剤を熱分解させることによってラジカルを発生せしめて架橋反応を進行せしめる。本架橋法の機構としては、ラジカル発生剤の熱分解によって生じたラジカルが、まずPVAの3級水素を引き抜く。ここで、3級水素が引き抜かれたPVAがベータ解裂してしまう前に、共存するラジカル架橋助剤に攻撃することによってPVA分子鎖が切れることなく、ラジカルがPVAと化学結合した架橋助剤中に残される。このラジカルが別のPVA分子鎖上に生じたラジカル、もしくは、同様にPVAと化学結合した架橋助剤上のラジカルとカップリング反応することによって架橋構造が形成されるものと推定される。
【0025】
PVA系繊維の延伸温度は200℃以上、好ましくは230℃以上である。ただし、延伸温度が高すぎると延伸初期に反応が進行してしまい、その結果、PVA系繊維の強度を発現するのに充分な強度が得られない恐れがあり、また、PVAの分解が生じるため、延伸温度の上限は260℃である。乾熱延伸工程においてラジカル発生剤の熱分解が十分ではない、あるいは架橋助剤とPVA系重合体との反応が充分進行していない場合は、乾熱延伸工程に続く熱処理工程を追加することができる。この際の上限加熱温度は、PVAの分解が生じ好ましくないため260℃である。
【0026】
本発明によって得られる繊維の単繊維強度は8g/d以上であり、さらに好ましくは10g/d以上である。単繊維強度が8g/d未満の場合には耐湿熱性と高強度が要求される漁網、ロープ、テント、土木シートなどの一般産業資材やセメント、ゴム、プラスチックの補強材としての有効性が低く、特にオートクレーブ養生を行うセメント製品の補強材としての使用が困難である。
【0027】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。なお、本発明における各種の物性値は以下の方法で規定されたものである。
1)PVAの粘度平均重合度PA
JIS K−6726に基づき30℃におけるPVA希薄水溶液の比粘度ηSPを5点測定し、次式(1)より極限粘度〔η〕を求め、さらに次式(2)より粘度平均重合度PAを算出した。
〔η〕=lim(C→O)ηSP/C・・・(1)
PA=(〔η〕×104/8.29)1.613・・・(2)
【0028】
2)ポリビニルアルコール系繊維中のラジカル発生剤およびラジカル架橋助剤含有量
ラジカル発生剤およびラジカル架橋助剤を含有せしめた紡糸原糸を50から140℃のジメチルスルホキシドに溶解せしめ、プロトンNMRによりPVAのCH2基ピークに対する該化合物のピーク面積比を算出し、予め作成した検量線よりポリビニルアルコール系重合体の繰り返し単位に対する含有量を求めた。
【0029】
3)単繊維の引張強度
JIS L−1015に準じ、予め調湿された単繊維を試長10cmになるように台紙に貼り25℃×60%RHで12時間以上放置。次いでインストロン1122で2kg用チャックを用い、初荷重1/20g/d、引張速度50%/minにて破断強度を求めn≧10の平均値を採用した。デニールは1/10g/d荷重下で30cm長にカットし重量法により求めた。なおデニール測定後の単繊維を用いて強伸度、弾性率を測定し1本ずつデニールと対応させた。
【0030】
4)繊維の熱水中の溶出量
最終的に得られたPVA系繊維約100ミリグラムを8mmにカットした後、試験管中に精評し、蒸留水10ミリリットルを加えた後、封管し、オートクレーブ(ヤマト科学製、SP22)中で熱処理(121℃X2時間)した。試験管中のPVA系繊維を濾別し、蒸留水で水洗後、乾燥し(120℃X10時間以上)、溶出率を求めた。
【0031】
実施例1〜12
粘度平均重合度が1700でケン化度が99.5モル%のPVAを濃度20重量%になるようにジメチルスルホキシド(DMSO)に100℃で溶解し、得られた溶液を1000ホールのノズルより吐出させ、メタノール/DMSO=7/3重量比、5℃の凝固浴で湿式紡糸した。さらに40℃メタノール浴で3.5倍湿延伸したあと、繊維を2段のメタノール抽出浴を順次通過させることによりジメチルスルホキシドを全部除去した。 最後のメタノール抽出浴には、ラジカル発生剤としてジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシドを濃度0.1モル/リッターで添加し、さらに表1に示した各種ラジカル架橋助剤を濃度0.2モル/リッターで添加して均一溶液としたあと、繊維を1.5分間滞留させてメタノール含有繊維の内部および表面にラジカル発生剤およびラジカル架橋助剤を含有させ、次いで120℃にて乾燥した。得られた紡糸原糸を175℃、175℃、230℃の3セクションからなる熱風炉で総延伸倍率16倍になるように延伸し、更に、245℃で120秒間の定長熱処理を行った。最終的に得られた繊維について、121℃熱水中で2時間処理した場合の繊維溶出率、単繊維強度をそれぞれ測定した。表1にこれらの結果を示した。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例13〜24
最後のメタノール抽出浴に、ラジカル発生剤としてクメンヒドロペルオキシドを濃度0.1モル/リッターで添加した点以外は、実施例1〜12と同様の手法で、紡糸、延伸、熱処理を行った。最終的に得られた繊維物性を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
比較例1〜12
最後のメタノール抽出浴に、ラジカル発生剤を添加しない点以外は、実施例1〜12と同様の手法で、紡糸、延伸、熱処理を行った。最終的に得られた繊維物性を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
比較例13
最後のメタノール抽出浴にラジカル発生剤およびラジカル架橋助剤を添加しない点以外は実施例1〜12と同様の手法で、紡糸、延伸、熱処理を行った。最終的に得られた繊維物性を表4に示す。
【0038】
比較例14〜23
最後のメタノール抽出浴に、表4に示した各種ラジカル発生剤を濃度0.1モル/リッターで添加し、ラジカル架橋助剤を添加しない点以外は、実施例1〜12と同様の手法で、紡糸、延伸、熱処理を行った。最終的に得られた繊維物性を表4に併せて示す。
【0039】
【表4】
【0040】
実施例25〜29、比較例24〜29
最後のメタノール抽出浴に、ラジカル発生剤としてクメンヒドロペルオキシドを表5に示した濃度で添加し、ラジカル架橋助剤としてp−ベンゾキノンを表5に示した濃度で添加した。それ以外は実施例1〜12と同様の手法で、紡糸、延伸、熱処理を行った。紡糸原糸中の各化合物の含有量と、最終的に得られた繊維物性を表5に示す。
【0041】
【表5】
【0042】
【発明の効果】
本発明により、高温オートクレーブ養生のような激しい高温高湿条件においても、本来の優れた性質である高強力、高弾性、優れた接着性や耐アルカリ性を損なうことなく、かつ、煩雑な工程を必要とすることなく、高い耐湿熱性を有するPVA系繊維が得られ、ロープ、漁網、テント、土木シートなどの一般産業資材は勿論のこと、高温オートクレーブが可能なセメント補強材など広幅い用途に利用できる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐湿熱性と高強度が要求される漁網、ロープ、テント、土木シートなどの一般産業資材やセメント、ゴム、プラスチックの補強材に有効なポリビニルアルコール(以下、PVAと略記)系合成繊維及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来PVA系繊維は、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル系繊維に比べて強度、弾性率が高く、産業資材用繊維として使用されている。さらにそれ以外でも、ゴム、プラスチック、セメントなどの補強繊維として広く利用されており、中でもPVA系繊維は汎用繊維の中で最も高強力高弾性を有し、かつ接着性や耐アルカリ性が良好なため、石綿代替のセメント補強材として脚光を浴びている。しかしながらPVA系繊維は耐湿熱性に乏しく、一般産業資材や衣料素材として用いられるにしても用途が制限され、さらにセメント成型品に対して通常行われている高温での水蒸気オートクレーブ養生が不可能であった。現在セメント補強材にPVA系繊維を使用する場合は、室温養生製品に限っており、セメント製品の寸法安定性や強度が十分でなく、かつ養生日数が長いなどの欠点を有していた。
【0003】
PVA系繊維の耐湿熱性を改良しようとする試みは古くからなされて来た。たとえば、ホルマリンのごときモノアルデヒド化合物、あるいはグリオキザールやグルタルアルデヒドのごときポリアルデヒド化合物とPVAの水酸基とのアセタール化反応を利用してPVA系繊維を疎水化あるいは架橋せしめることにより、かかる繊維の耐湿熱性の向上を図る方法が数多く報告されている。たとえば特公昭30−7360号公報や特公昭36−14565号公報には、ホルマリンを用い、PVAの水酸基をホルマール化して疎水化することにより染色や洗濯に耐えられるPVA系繊維が記載されている。
【0004】
一方、ジアルデヒド化合物による架橋は特公昭29−6145号公報や特公昭32−5819号公報などに明記されており、特開平5−163609号公報には、ジアルデヒド又はそのアセタール化合物を紡糸原糸に付与し、高倍率に乾熱延伸したあと酸処理により繊維内部に架橋を生じさせることが記載されている。さらに、特開平5ー263311号公報(対応ヨーロッパ特許第520297号、米国特許第5380588号)においては、乾熱延伸したPVA繊維に、上記特開平5ー163609号公報記載のジアルデヒド化合物を繊維内部まで浸透させたのち、モノアルデヒドと架橋触媒を含有する浴に浸漬して架橋反応を起こさせることにより、耐熱水性に優れたPVA系繊維が得られ、この架橋PVA系繊維は160℃オートクレーブ養生に耐えうる繊維であることが報告されている。
【0005】
ところで、従来報告されているホルマリンのごときモノアルデヒド化合物、あるいはグリオキザールやグルタルアルデヒドのごときポリアルデヒド化合物とPVAの水酸基とのアセタール化反応を利用してPVA系繊維を疎水化あるいは架橋せしめることにより、かかる繊維の耐湿熱性の向上を図る方法においては、アセタール化処理は全て酸の水溶液中で処理する方法がとられている。しかしながら、この方法ではアセタール化反応を充分進行させるため、塩酸、あるいは硫酸のような強酸が必要であり、また、その温度も50℃以上が必要であることが本発明者らの検討で明らかとなった。このような条件で処理することはPVAにとっての良溶媒中で処理することに他ならず、繊維が処理中に膨潤してしまうことは避けられないばかりか、PVA自身が一部溶解してしまう恐れもあった。これらの現象はPVAの分子配向を乱したり結晶化度を低下させる効果があり、その結果、PVA系繊維が本来有する力学的機械的強度の低下を招くという大きな問題があった。
【0006】
また、前述した酸処理工程は通常紡糸後に行われるが、アセタール化に使用した酸が残存するとPVA系繊維の着色、強度低下等の原因となるため、実際には充分な中和と水洗工程が必要であり、工程の高コスト化の原因となるという問題もあった。
【0007】
モノアルデヒド化合物やポリアルデヒド化合物によるアセタール化反応以外の手法としては、例えば酸を用いて脱水架橋により耐湿熱性を向上させる方法が特開平2−84587号公報や特開平4−100912号公報などで公知であるが、本発明者らが追試したところ繊維内部まで架橋させようとするとPVA繊維の分解が激しく起こり、繊維強度の著しい低下を招いた。
また、特開平1−207435号公報、特開平2−133605号公報、特開平2−216288公報には、アクリル酸系重合体をブレンドするか、又は繊維表面を有機系過酸化物やイソシアネート化合物、ウレタン系化合物、エポキシ化合物などで架橋せしめる方法が記述されている。しかしアクリル系重合体による架橋はエステル結合であるため、セメント中のアルカリ成分で容易に加水分解してその効果を失うこと、及び他の架橋剤も基本的に繊維表面架橋であるため、くり返し湿熱にさらされている時、あるいはオートクレーブ養生中に繊維の中心部から膨潤、溶解が起こることなどの問題点を抱えており、本発明者らが追試したところ高温オートクレーブ養生に耐えうる繊維としては不十分な性能であった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
かかる状況下、本発明は高温オートクレーブ養生のような激しい高温高湿条件においても、本来の優れた性質である高強力、高弾性、優れた接着性や耐アルカリ性を損なうことなく、また煩雑な工程を必要とすることなく高い耐湿熱性を有するPVA系維およびその製造方法を提供せんとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
以上の背景を踏まえて本発明者らは、高温オートクレーブ養生のような激しい高温高湿条件においても、本来の優れた性質である高強力、高弾性、優れた接着性や耐アルカリ性を損なわない、高い耐湿熱性を有するPVA系繊維の製造法について鋭意検討を重ねた結果、PVA系繊維を製造する際に、紡糸原液中、凝固浴中あるいは溶剤抽出浴中に溶解あるいは分散させたラジカル発生剤を該ポリビニルアルコール系繊維内部あるいは繊維表面に0.05モル%から5モル%、ラジカル架橋助剤を該ポリビニルアルコール系繊維内部あるいは繊維表面に0.05モル%から5モル%含有あるいは付着させた後、乾熱延伸工程あるいはそれに続く熱処理工程にて架橋せしめることを特徴とするPVA系繊維およびその製造方法が上記目的を達成することを見いだし本発明に至ったものである。
【0010】
以下、本発明の内容をさらに詳細に説明する。本発明に言うPVA系ポリマーとは、、通常のポリビニルアルコールの製造法であるポリ酢酸ビニルあるいはその共重合体のけん化により得られる。またピバリン酸ビニル、蟻酸ビニルのごとき側鎖の嵩高いビニルエステルまたは極性の高いビニルエステル、もしくはt−ブチルビニルエーテルやトリメチルシリルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテルのごときビニルエーテルの単独重合体あるいは共重合体の分解によっても得られる。
【0011】
ここで、共重合体の場合のコモノマー単位は、けん化あるいは分解によってビニルアルコール単位を生成する単位とそれ以外の単位に分けられる。後者のコモノマー単位は、主として変性を目的に共重合されるもので、本発明の趣旨を損なわない範囲で使用される。このような単位としては、たとえば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メ夕クリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メ夕クリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メ夕クリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセ卜ンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩と4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、ジアセ卜ンメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩と4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物、マレイン酸およびその塩とエステル、イタコン酸およびその塩とエステル、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物、酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0012】
該ポリビニルアルコール系重合体のけん化度は通常70モル%以上が好ましい。特に耐熱性、耐水性、耐油性が要求される場合のけん化度は90〜99.99モル%が好ましい。ここで、けん化度は酢酸ビニルの単独重合体または共重合体中のけん化によりビニルアルコール単位に変換され得る単位に対する、けん化後のビニルアルコール単位の割合を表したものあり、残基は酢酸ビニル単位である。
【0013】
PVA系ポリマーの重合度も本発明の繊維の性能に影響する。PVA系ポリマーの平均重合度が高いほど結晶間を連結するタイ分子の数が多く、かつ欠点となる分子末端数が少なくなるので高強度、高弾性率、高耐湿熱性が得られやすく、したがって好ましくは重合度1000以上のPVA系ポリマーであり、さらに好ましくは重合度1700以上のPVA系ポリマーである。但し、重合度30000を超えるようなPVA系ポリマーは一般的に製造が困難であり、工業生産という観点からは必ずしも適したものとはいえない。
【0014】
PVA系ポリマーの溶剤としては、たとえばグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブタンジオールなどの多価アルコール類やジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジエチレントリアミン、水及びこれら2種以上の混合溶剤などが挙げられる。ただし、本発明のラジカル発生剤と架橋助剤を該溶剤に混合添加する場合は、該化合物を凝集させたり、分離させる溶剤は望ましくなく、均一分散又は溶解する溶剤が好ましい。また、紡糸原液中の酸性またはアルカリ性が高いと原液中でラジカル発生剤及び架橋助剤とPVA系重合体が反応する場合があり好ましくない。この点で、上記したジメチルスルホキシドやグリセリンなどが好ましく、特にジメチルスルホキシドがもっとも好ましい。
またPVA系ポリマーを溶剤で溶解する際にホウ酸、界面活性剤、分解抑制剤、染料、顔料などを添加しても支障ないが、先述したとおり、ラジカル発生剤と架橋助剤を紡糸原液中に混合添加する場合は、原液中で該ラジカル発生剤及び架橋助剤とPVA系重合体が反応し、その結果、紡糸性や延伸性を悪化させるような添加剤を用いることは好ましくない。
また原液中のPVA系ポリマー濃度としては5から50重量%が好ましく、特に湿式紡糸方法または乾湿式紡糸方法を用いる場合には5から20重量%が、また乾式紡糸方法を用いる場合には10から50重量%が好ましい。また紡糸原液の温度は80から230℃が一般的である。
【0015】
このようにして得られた紡糸原液は常法により湿式、乾式、乾湿式のいずれかの方法でノズルより吐出され固化する。湿式および乾湿式紡糸では凝固浴にて固化し繊維化させるが、その凝固浴を構成する凝固剤はアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどいずれでも良い。ただし、本発明で用いるラジカル発生剤と架橋助剤を紡糸原液中あるいは凝固浴中に混合添加する場合には、紡糸原液の固化と同時にラジカル発生剤及び架橋助剤とPVA系重合体との反応が進行し、その後の紡糸性や延伸性を悪化させる場合があるため、凝固浴としてアルカリ水溶液、アルカリ金属塩水溶液などを使用するのは好ましくない。なお、凝固における溶剤抽出をゆっくりさせて均一ゲル構造を生成させ、より高い強度と耐湿熱性を得るため、該凝固剤に該溶剤を10重量%以上混合させるのが好ましい。特にメタノールで代表されるアルコールと原液溶剤との混合液が好ましい。さらに凝固温度を20℃以下にして急冷させるのも均一な微結晶構造を得るのに都合が良い。また、繊維間の膠着を少なくし、その後の乾熱延伸を容易にするために溶剤を含んだ状態で2から10倍の湿延伸をするのが望ましい。湿延伸温度としては20から60℃の範囲が好ましい。次いで繊維を抽出浴に浸漬して溶剤の抽出を行なうが、抽出剤としてはメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類やアセトン、メチルエチルケトン、エーテル、水などが使用できる。続いて、必要に応じ、油剤などを付与して該抽出剤を乾燥させるが、乾式の場合は、抽出剤を使用せずに紡糸時及び紡糸後で該溶剤を蒸発させて乾燥させる。
【0016】
PVA系繊維の強度を発現するため、乾燥後紡糸原糸を200℃以上、好ましくは230℃以上で総延伸倍率が14倍以上、好ましくは16倍以上となるように乾熱延伸する。延伸温度は高重合度ほど高くして高倍率を維持するのが好ましいが、260℃以上ではPVAの分解が生じ易く好ましくない。なお、総延伸倍率は湿延伸倍率と乾熱延伸倍率の積で表される。
【0017】
本発明の特徴は、繊維を製造する際に、紡糸原液中、凝固浴中あるいは溶剤抽出浴中に溶解あるいは分散させたラジカル発生剤をポリビニルアルコール系重合体の繰り返し単位に対して0.05モル%から5モル%、ラジカル架橋助剤をポリビニルアルコール系重合体の繰り返し単位に対して0.05モル%から5モル%、繊維内部あるいは繊維表面に含有あるいは付着させた後、乾熱延伸工程あるいはそれに続く熱処理工程を経ることによって架橋せしめることである。
【0018】
本発明で用いることのできるラジカル発生剤は、熱によってラジカルを発生する化合物であれば特に限定されないが、具体的には、イソブチルペルオキシド、α,α‘−ビス(ネオデカノイルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルペルオキシネオデカネート、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオデカネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルペルオキシネオデカネート、ジ−2−エトキシエチルペルオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシルペルオキシ)ジカーボネート、t−ヘキシルペルオキシネオデカネート、ジメトキシブチルペルオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルペルオキシ)ジカーボネート、t−ブチルペルオキシネオデカネート、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、t−ヘキシルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ラウリルペルオキオキシド、ステアロイルペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、スクシニックペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、m−トルオイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシイソブチレート、ジ−t−ブチルペルオキシ−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシマレイン酸、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、t−ブチルペルオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、ジブチルペルオキシイソイソフタレート、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、t−ブチルトリメチルシリルペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ヘキシルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン等の有機過酸化物が挙げられる。これらのうち、有機過酸化物の分解温度が繊維の延伸温度に対して低すぎるような化合物では、繊維の延伸工程で架橋反応が余りにも激しく進行するために延伸不良となり繊維強度低下を引き起こす。また、分解温度が繊維の延伸温度に対して高すぎる化合物では架橋反応を追い込むための熱処理によってPVAが激しく劣化してしまい、同様に繊維強度が低下する。よって、PVAの延伸温度に比較的近い分解温度を有する有機過酸化物が好ましく、これらの具体例としては、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシマレイン酸、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、t−ブチルペルオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、ジブチルペルオキシイソイソフタレート、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、t−ブチルトリメチルシリルペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ヘキシルヒドロペルオキシドが挙げられる。また、これらの化合物は1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
次に、本発明で用いることのできるラジカル架橋助剤は、オレフィン樹脂のラジカル架橋で一般的に用いられる化合物であれば特に限定されないが、例えばエチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物もしくはキノンジオキシム化合物であり、さらに具体的には、p−ベンゾキノン、p−ベンゾキノンジオキシム、P,P‘−ジベンゾイルジキノンジオキシム等のキノンまたはキノンジオキシム化合物;N,N’−m−フェニレンジマレイミド、N,N’−(4,4−メチレンジフェニレン)ジマレイミド等の多官能マレイミド化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、アリルメタクリレート等の多官能メタクリレート化合物;ジアリルフマレート、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル等の多官能アリル化合物;ジビニルベンゼン、ジビニルピリジン等の多官能ビニル化合物; イソプレン、1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ペプタジエン、1,7−オクタジエン、1,7−オクタジエン−3−オール、1,8−ノナンジエン、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリエン化合物;チオウレア等の化合物が挙げられる。これらのうち、セメントオートクレーブ養生の様な高温アルカリ湿熱下での安定性、またPVAとの反応性の点から、キノンまたはキノンジオキシム化合物、チオウレア等が好ましく、具体的には、p−ベンゾキノン、p−ベンゾキノンジオキシム、P,P‘−ジベンゾイルジキノンジオキシム、チオウレア等が特に好ましい架橋助剤として挙げられる。これらの化合物は1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
これらのラジカル発生剤と架橋助剤との組み合わせについて、より効率的に架橋反応が観察された組み合わせとしては、有機過酸化物とキノンまたはキノンジオキシム化合物;有機過酸化物とチオウレアであり、例えば、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシドとp−ベンゾキノン;ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシドとチオウレア;クメンヒドロペルオキシドとp−ベンゾキノン;クメンヒドロペルオキシドとチオウレア等の組み合わせが挙げられる。
【0021】
本発明で用いるラジカル発生剤およびラジカル架橋助剤の付与は、紡糸原液から抽出のいずれの工程において行われても構わない。また、ラジカル発生剤とラジカル架橋助剤を同一工程において付与しても、異なる工程において順次付与しても構わない。具体的には、紡糸原液中に溶解あるいは分散させ、該PVA中に含有せしめる方法、凝固浴のアルコールやケトン類に該化合物を溶解あるいは分散し、紡糸原液を固化し繊維化させる際に該PVA中に含有せしめる方法、抽出浴のアルコールやケトン類に該化合物を溶解し、その中に膨潤状態の糸条を通過させることで、該化合物を繊維内部へ十分含有させる方法、等が挙げられる。このうち、抽出浴のアルコールやケトン類に該化合物を溶解し、その中に膨潤状態の糸条を通過させることで、該化合物を繊維内部へ十分含有させる方法が、該化合物を繊維中に均一かつ充分量含有させることができ、さらにその量を容易に制御できるという点において好ましい。この場合のラジカル発生剤あるいはラジカル架橋助剤を含有する浴の温度としては−10から50℃、浴中の該化合物濃度としてはそれぞれ0.01から1モル/リッターが好ましい。また浴への繊維浸漬時間としては5秒以上が好ましく、5秒未満の浸漬時間では繊維への該化合物の含有量が不足し十分な耐熱水性が得られない。
【0022】
本発明におけるラジカル発生剤の含有量あるいは付着量はポリビニルアルコール系重合体の繰り返し単位に対して0.05から5モル%であり、さらに好ましくは0.1から1モル%である。含有量あるいは付着量が0.05モル%未満では加熱処理時のラジカル発生量が少ないため耐湿熱性が不十分であり、5モル%を超えると分子配向を乱したりPVAの分解が促進されて強度低下を招き易い。含有量は、ラジカル発生剤を含有する浴の含有量を変えることによってコントロールすることができる。
【0023】
また、本発明におけるラジカル架橋助剤の含有量あるいは付着量はポリビニルアルコール系重合体の繰り返し単位に対して0.05から5モル%であり、さらに好ましくは0.1から1モル%である。含有量あるいは付着量が0.05モル%未満では架橋助剤としての量が不足するため耐湿熱性が不十分であり、5モル%を超えると分子配向を乱したりPVAの分解が促進されて強度低下を招き易い。含有量は、ラジカル発生剤を含有する浴の含有量を変えることによってコントロールすることができる。
【0024】
次に、先述した繊維の延伸工程においてPVA系繊維中に含有あるいは付着させたラジカル発生剤を熱分解させることによってラジカルを発生せしめて架橋反応を進行せしめる。本架橋法の機構としては、ラジカル発生剤の熱分解によって生じたラジカルが、まずPVAの3級水素を引き抜く。ここで、3級水素が引き抜かれたPVAがベータ解裂してしまう前に、共存するラジカル架橋助剤に攻撃することによってPVA分子鎖が切れることなく、ラジカルがPVAと化学結合した架橋助剤中に残される。このラジカルが別のPVA分子鎖上に生じたラジカル、もしくは、同様にPVAと化学結合した架橋助剤上のラジカルとカップリング反応することによって架橋構造が形成されるものと推定される。
【0025】
PVA系繊維の延伸温度は200℃以上、好ましくは230℃以上である。ただし、延伸温度が高すぎると延伸初期に反応が進行してしまい、その結果、PVA系繊維の強度を発現するのに充分な強度が得られない恐れがあり、また、PVAの分解が生じるため、延伸温度の上限は260℃である。乾熱延伸工程においてラジカル発生剤の熱分解が十分ではない、あるいは架橋助剤とPVA系重合体との反応が充分進行していない場合は、乾熱延伸工程に続く熱処理工程を追加することができる。この際の上限加熱温度は、PVAの分解が生じ好ましくないため260℃である。
【0026】
本発明によって得られる繊維の単繊維強度は8g/d以上であり、さらに好ましくは10g/d以上である。単繊維強度が8g/d未満の場合には耐湿熱性と高強度が要求される漁網、ロープ、テント、土木シートなどの一般産業資材やセメント、ゴム、プラスチックの補強材としての有効性が低く、特にオートクレーブ養生を行うセメント製品の補強材としての使用が困難である。
【0027】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。なお、本発明における各種の物性値は以下の方法で規定されたものである。
1)PVAの粘度平均重合度PA
JIS K−6726に基づき30℃におけるPVA希薄水溶液の比粘度ηSPを5点測定し、次式(1)より極限粘度〔η〕を求め、さらに次式(2)より粘度平均重合度PAを算出した。
〔η〕=lim(C→O)ηSP/C・・・(1)
PA=(〔η〕×104/8.29)1.613・・・(2)
【0028】
2)ポリビニルアルコール系繊維中のラジカル発生剤およびラジカル架橋助剤含有量
ラジカル発生剤およびラジカル架橋助剤を含有せしめた紡糸原糸を50から140℃のジメチルスルホキシドに溶解せしめ、プロトンNMRによりPVAのCH2基ピークに対する該化合物のピーク面積比を算出し、予め作成した検量線よりポリビニルアルコール系重合体の繰り返し単位に対する含有量を求めた。
【0029】
3)単繊維の引張強度
JIS L−1015に準じ、予め調湿された単繊維を試長10cmになるように台紙に貼り25℃×60%RHで12時間以上放置。次いでインストロン1122で2kg用チャックを用い、初荷重1/20g/d、引張速度50%/minにて破断強度を求めn≧10の平均値を採用した。デニールは1/10g/d荷重下で30cm長にカットし重量法により求めた。なおデニール測定後の単繊維を用いて強伸度、弾性率を測定し1本ずつデニールと対応させた。
【0030】
4)繊維の熱水中の溶出量
最終的に得られたPVA系繊維約100ミリグラムを8mmにカットした後、試験管中に精評し、蒸留水10ミリリットルを加えた後、封管し、オートクレーブ(ヤマト科学製、SP22)中で熱処理(121℃X2時間)した。試験管中のPVA系繊維を濾別し、蒸留水で水洗後、乾燥し(120℃X10時間以上)、溶出率を求めた。
【0031】
実施例1〜12
粘度平均重合度が1700でケン化度が99.5モル%のPVAを濃度20重量%になるようにジメチルスルホキシド(DMSO)に100℃で溶解し、得られた溶液を1000ホールのノズルより吐出させ、メタノール/DMSO=7/3重量比、5℃の凝固浴で湿式紡糸した。さらに40℃メタノール浴で3.5倍湿延伸したあと、繊維を2段のメタノール抽出浴を順次通過させることによりジメチルスルホキシドを全部除去した。 最後のメタノール抽出浴には、ラジカル発生剤としてジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシドを濃度0.1モル/リッターで添加し、さらに表1に示した各種ラジカル架橋助剤を濃度0.2モル/リッターで添加して均一溶液としたあと、繊維を1.5分間滞留させてメタノール含有繊維の内部および表面にラジカル発生剤およびラジカル架橋助剤を含有させ、次いで120℃にて乾燥した。得られた紡糸原糸を175℃、175℃、230℃の3セクションからなる熱風炉で総延伸倍率16倍になるように延伸し、更に、245℃で120秒間の定長熱処理を行った。最終的に得られた繊維について、121℃熱水中で2時間処理した場合の繊維溶出率、単繊維強度をそれぞれ測定した。表1にこれらの結果を示した。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例13〜24
最後のメタノール抽出浴に、ラジカル発生剤としてクメンヒドロペルオキシドを濃度0.1モル/リッターで添加した点以外は、実施例1〜12と同様の手法で、紡糸、延伸、熱処理を行った。最終的に得られた繊維物性を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
比較例1〜12
最後のメタノール抽出浴に、ラジカル発生剤を添加しない点以外は、実施例1〜12と同様の手法で、紡糸、延伸、熱処理を行った。最終的に得られた繊維物性を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
比較例13
最後のメタノール抽出浴にラジカル発生剤およびラジカル架橋助剤を添加しない点以外は実施例1〜12と同様の手法で、紡糸、延伸、熱処理を行った。最終的に得られた繊維物性を表4に示す。
【0038】
比較例14〜23
最後のメタノール抽出浴に、表4に示した各種ラジカル発生剤を濃度0.1モル/リッターで添加し、ラジカル架橋助剤を添加しない点以外は、実施例1〜12と同様の手法で、紡糸、延伸、熱処理を行った。最終的に得られた繊維物性を表4に併せて示す。
【0039】
【表4】
【0040】
実施例25〜29、比較例24〜29
最後のメタノール抽出浴に、ラジカル発生剤としてクメンヒドロペルオキシドを表5に示した濃度で添加し、ラジカル架橋助剤としてp−ベンゾキノンを表5に示した濃度で添加した。それ以外は実施例1〜12と同様の手法で、紡糸、延伸、熱処理を行った。紡糸原糸中の各化合物の含有量と、最終的に得られた繊維物性を表5に示す。
【0041】
【表5】
【0042】
【発明の効果】
本発明により、高温オートクレーブ養生のような激しい高温高湿条件においても、本来の優れた性質である高強力、高弾性、優れた接着性や耐アルカリ性を損なうことなく、かつ、煩雑な工程を必要とすることなく、高い耐湿熱性を有するPVA系繊維が得られ、ロープ、漁網、テント、土木シートなどの一般産業資材は勿論のこと、高温オートクレーブが可能なセメント補強材など広幅い用途に利用できる。
Claims (2)
- ポリビニルアルコール系重合体からなる繊維を製造するに際し、紡糸原液中、凝固浴中あるいは溶剤抽出浴中に溶解あるいは分散させたラジカル発生剤をポリビニルアルコール系重合体の繰り返し単位に対して0.05モル%から5モル%、ラジカル架橋助剤をポリビニルアルコール系重合体の繰り返し単位に対して0.05モル%から5モル%、繊維内部あるいは繊維表面に含有あるいは付着させた後、乾熱延伸工程あるいはそれに続く熱処理工程にて架橋せしめることを特徴とするポリビニルアルコール系合成繊維の製造方法。
- ポリビニルアルコール系重合体が平均重合度1000以上、けん化度が70モル%以上である請求項1記載の繊維の製造方法。
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| JP23989197A JP3676049B2 (ja) | 1997-09-04 | 1997-09-04 | ポリビニルアルコール系合成繊維の製造方法 |
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