JP4624574B2 - 脂質過酸化抑制剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、腸粘膜傷害の予防若しくは改善を目的とした飲食品又は医薬品として有用な脂質過酸化抑制剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
生体内の脂質は、ヒドロキシラジカル、ペルオキシラジカル、ヒドロペルオキシラジカル等の活性酸素によって過酸化され、炎症、癌、老化等の傷害を引き起こす。斯かる活性酸素の生成反応には、下記式(1)〜(5)のように2価の鉄イオンが触媒として作用することが知られている。
【0003】
【化1】
【0004】
〔式中、HO・はヒドロキシラジカル、LOOHは過酸化脂質、LOはアルコキシアニオン、LOO・はペルオキシラジカル、HOO・はヒドロペルオキシラジカル、O2 -・はスーパーオキシドアニオンラジカルをそれぞれ示す。〕
【0005】
これに対して、生体内にはフェロキシダーゼのような鉄イオン酸化酵素や、トランスフェリンやフェリチン等の鉄結合性蛋白が存在し、鉄イオンを安定化してその反応性を抑制する機構が存在する。
ところが、腸管管腔内にはこうした鉄イオンの不活性化機構が存在せず、反応性の高い2価の鉄イオンが常に発生し易い環境にあり、常時酸化的負荷に晒される独特の環境を呈している。すなわち腸管内においては、血流により腸管粘膜に供給された酸素が2価の鉄イオンにより還元されてスーパーオキシドアニオンラジカルとなり、また腸内細菌からもスーパーオキシドアニオンラジカルが産生され、このスーパーオキシドアニオンラジカルが不均化反応により過酸化水素に変換され、これが腸粘膜表面で更に鉄イオンと反応してヒドロキシラジカルが発生し、脂質の過酸化が進むと考えられており(図1参照、C.F.Babbs,1990,Free Rad.Biol.Med.,12,161-168)、2価の鉄イオンの関与するところが大きい。
【0006】
従って、腸管粘膜組織の脂質の過酸化を防ぐためには、鉄イオンが関与するフリーラジカル発生機構を制御することが課題となり、例えば、鉄イオンをキレートするフィチン酸を含有する小麦ふすまや米糠等を積極的に投与することも考えられる。
しかし、鉄は、幼児期、思春期の男女、受胎可能年齢の女性にしばしば欠乏症状が認められるミネラルの一つであり、鉄欠乏症は、妊婦においては低体重児や未熟児の出産及び週産期の死亡率の増加の原因となり、幼児及び小児では精神活動や認識動作への傷害、成人では作業能力の低下等を引き起こす。従って、鉄欠乏の人々にとっては鉄イオンを配合した各種飲食品や医薬品により積極的に鉄補給を行うことが不可欠であり、フィチン酸のように鉄イオンの吸収を阻害するような物質を摂取することは好ましくない。
【0007】
一方、過酸化脂質の生成を防ぐ物質として、抗酸化剤であるビタミンE及びその誘導体が用いられているが、これらは水に溶け難いことから水分含量の高い飲食品に使用した場合、加工特性や安定性の面で問題があった。
更に、ラクトバチルス属細菌が肝臓と赤血球の酸化的傷害を抑制する作用を示すことも報告されているが(特開平4−264034号公報)、消化管における脂質過酸化抑制効果は十分なものとはいえない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、腸管内における鉄イオンの吸収に影響を与えずに過酸化脂質の発生を抑制でき、脂質過酸化に伴う腸管粘膜傷害等の予防若しくは改善効果を有する飲食品又は医薬品を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは過酸化脂質の生成を抑制する物質について種々検討したところ、特定の微生物の菌体又はその構成成分が、遊離鉄イオンには影響を与えず過酸化脂質の生成を抑制でき、飲食品又は医薬品として利用できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、ビフィドバクテリウム属若しくはストレプトコッカス属に属する微生物の菌体又は菌体構成成分を有効成分とする脂質過酸化抑制剤を提供するものである。
【0011】
また本発明は、当該脂質過酸化抑制剤を含有する腸管粘膜傷害の予防治療剤を提供するものである。
【0012】
更に本発明は、当該脂質過酸化抑制剤を含有する飲食品を提供するものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の脂質過酸化抑制剤とは、活性酸素等のフリーラジカルによって引き起こされる生体内脂質の過酸化反応、特に鉄イオンにより惹起される過酸化反応を制御し、過酸化脂質の生成を抑制するものをいう。
【0014】
本発明において用いられる、ビフィドバクテリウム属に属する微生物としては、例えばビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium. longum)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium. adolescentis)、ビフィドバクテリウム・インファンテス(Bifidobacterium. infantis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium. bifidum)等が挙げられ、このうちビフィドバクテリウム・ビフィダムがより好ましく、特に生命工学工業技術研究所条寄第791号(FERM BP−791号)として寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007が好ましい。
【0015】
また、ストレプトコッカス属に属する微生物としては、例えばストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)等が挙げられ、このうちストレプトコッカス・サーモフィルスがより好ましく、特に生命工学工業技術研究所菌寄第11891号(FERM P−11891号)及び18189号(FERM P−18189号)として寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001が好ましい。
斯かる微生物はいずれも発酵乳や生菌製剤として古来より食されているものであり、常時摂取しても安全な微生物である。
【0016】
本発明における微生物菌体は、上記微生物の菌体をそのまま又は菌体破砕物を使用する他、例えば該微生物菌体の凍結乾燥物、加熱処理を施した死菌体又はそれらの破砕物等の菌体加工物を使用することもできる。
斯かる微生物菌体は、ビフィドバクテリウム属又はストレプトコッカス属に属する微生物をポリプペトンや酵母エキスを含む複合培地あるいはミルク中で培養することにより得ることができる。
【0017】
菌体構成成分としては、例えば菌体又は菌体破砕物を水その他の溶媒により抽出した画分や細胞壁溶解酵素、核酸分解酵素又は蛋白分解酵素等の酵素処理して得られる画分、具体的には熱水抽出することにより得られる水溶性画分、細胞壁溶解酵素処理することにより細胞壁部分を取り去ったプロトプラスト画分、菌体の細胞壁溶解酵素可溶画分、更には菌体或いは該プロトプラストを有機溶媒で処理することにより得られる細胞膜画分を挙げることができる。
これらの菌体構成成分は、一般に広く用いられている方法により得ることができる。
【0018】
菌体又は菌体構成成分のうち、菌体又は菌体破砕物、細胞膜成分を含む画分、前記プロトプラスト画分又は菌体若しくはプロトプラストを有機溶媒処理した細胞膜画分が、脂質過酸化抑制効果が高いことから特に好ましい。
【0019】
かくして得られた菌体又はその菌体構成成分は、後記実施例に示すように鉄イオンに影響を与えることなく、鉄イオンにより惹起される脂質過酸化反応を有意に抑制することから、鉄欠乏症が懸念される妊婦や小児に対しても安心して使用できる。また、当該微生物は常時摂取しても安全なものであることから、脂質過酸化に伴う腸管粘膜傷害や老化等の予防又は治療を目的とする医薬として利用できる他、飲食品として日常的に摂取することができ、鉄イオンを補給しつつ腸粘膜疾患や老化等を予防できる。そして、鉄吸収の抑制を考慮すれば、使用する菌体又は菌体構成成分は、腸管の遊離鉄イオン濃度の低下率が10%未満、特に5%未満であるものが好ましい。
【0020】
本発明の脂質過酸化抑制剤は、常法に従って薬学的に許容される担体と共に種々の剤型の医薬組成物とすることができる。例えば上記菌体又は菌体構成成分に、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤、水、エタノール、プロパノール、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム等の崩壊剤、グリセリン、デンプン等の保湿剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を加え、常法により顆粒剤、錠剤、カプセル剤等を製造することができる。さらに錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0021】
また、菌体又は菌体構成成分を食品に直接添加することにより、又は当該菌株を用いて発酵乳等の発酵食品を製造することによって、飲食品として利用することができる。飲食品の好ましい例としては、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、果汁飲料、スープ、煎餅、クッキー等が例示される。特に、前記の飲食品中に鉄を強化した鉄強化飲食品に、菌体又は菌体構成成分を添加すれば、鉄の吸収を妨げずに、脂質等の過酸化を抑制でき好ましい。また、飲食品の形態としては、継続的に飲用し易く、過酸化脂質抑制効果の高い発酵乳が特に好ましい。なお、飲食品には、動物の飼料も含まれる。
【0022】
斯かる飲食品には、更に、食品として通常用いられている種々の素材を併用することができる。具体的には、グルコース、シュークロース、フラクトース、蜂蜜等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット等の糖アルコール、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、水溶性大豆多糖類、ジェランガム、アラビアガム、キサンタンガム、カラギーナン、グアーガム等の安定化剤等が挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE等の各種ビタミン類や乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、パントテン酸カルシウムや各種マグネシウム、亜鉛化合物等のミネラル類、ハーブエキス等を配合することも可能である。
【0023】
上記の各種製剤又は飲食品中に配合されるべき微生物菌体又は菌体構成成分の量は、用いる菌株又は服用する患者の症状、年齢、体重等によっても異なるので一概には決定できないが、通常成人1日あたり生菌として109〜1014コロニー・フォーミング・ユニット(CFU)、乾燥菌体として約0.01g〜30g、好ましくは0.1〜5g程度である。
【0024】
また、鉄を強化した飲食品あるいは医薬組成物に対し配合する場合にも上記の1日摂取量を満たすように菌体又は菌体構成成分の配合量を決定することが望ましい。この場合の鉄の配合量は鉄欠乏の予防を目的とする飲食品の場合1日摂取あたり鉄0.1〜10mg、貧血等の治療を目的とする医薬組成物の場合、患者の症状により異なるが通常5〜200mgが望ましい。
【0025】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0026】
実施例1 微生物菌体の製造
凍結保存した菌株を乳糖1%添加した変法GAMブイヨン培地(日水製薬(株)製)に1%接種し、37℃で24時間静置培養した。この培養液10mLを乳糖を2%添加した変法GAMブイヨン培地1Lに植え継ぎ、37℃24時間静置培養した。なお、ビフィドバクテリウム属の微生物菌体は、アネロパック・ケンキ(酸素吸収・炭酸ガス発生剤、三菱ガス化学(株)製)存在下で嫌気培養した。
培養終了後、4000rpmで10分間の遠心分離により集菌し、生理食塩水で2回洗浄して、微生物菌体(生菌体)を得た。凍結乾燥後の菌体収量は、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007が1.3g、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001が1.0gであった。
【0027】
実施例2 生体膜の酸化傷害に対する作用
腸管粘膜における脂質過酸化反応の評価系として、反応基質として生体膜のモデルであるリン脂質のリポソームを用い、これに2価の鉄イオンを添加して過酸化反応を開始させる反応系を採用した。本反応系は、腸管の上皮細胞に管腔側から過酸化水素と2価の鉄イオンが接近し、生体膜の酸化傷害を惹起するという反応スキームを再現したものである(図1)。尚、過酸化水素の産生は腸管粘膜上と同様に2価の鉄による酸素分子の還元とスーパースキシドラジカルの不均化反応に依存する。
本反応系における生体膜の酸化傷害(過酸化脂質産生)の抑制率を測定することにより、各種菌体の腸管粘膜傷害の予防・治療効果を評価した。
【0028】
(1)試験方法
▲1▼リポソーム液の調製方法
卵黄由来L−α−ホスファチジルコリン(Type XV-E;シグマ社製)100mgを10mLのジエチルエーテルに溶解し、蒸留水0.6mLを加え、超音波処理しながらエバポレーター中でジエチルエーテルを蒸発させた。これに0.1M N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)緩衝液(pH6.7)を30mL添加した後、15分間超音波処理して懸濁液を得た。この懸濁液を1500rpmで5分間遠心分離して残渣を除去し、約25mLのリポソーム液を調製した。
【0029】
▲2▼過酸化脂質産生反応の方法
表1に示す微生物菌体(生菌体)を湿重量の4倍量の0.1M ADA緩衝液(pH6.7)に懸濁し、更に同緩衝液で段階的に希釈して異なる菌体濃度(反応液中の終濃度として107−1010CFU/mL)の菌液を調製した。この菌液を1.5mLのリポソーム液に加え、全量で1.98mLの反応液を調製した。この反応液に0.1mM塩化第一鉄水溶液0.1mLと0.1Mアスコルビン酸ナトリウム水溶液0.02mLを添加して37℃2時間反応した。反応容器を氷水で冷却することによって反応を終了させ、直ちに過酸化脂質濃度を測定した。
【0030】
▲3▼過酸化脂質産生量の測定方法
過酸化脂質はTBARS(チオバルビツール酸反応性物質)として定量した。
以下に測定手順を示す。
酢酸80mLと蒸留水320mLを混合し、10N水酸化ナトリウムでpH3.5に調製した溶液をTBARS測定用緩衝液として使用した。反応液0.1mLをねじ口試験管に分取し、8.1%ドデシル硫酸ナトリウム0.2mL、TBARS測定用緩衝液0.5mL、0.8%ブチルヒドロキシトルエン酢酸溶液0.05mL、0.8%チオバルビツール酸溶液1.0mL、5mMエチレンジアミン四酢酸溶液0.7mL、蒸留水1.5mLを順次混合した。この混合液を4℃で1時間静置した後、沸騰水浴中で1時間加熱し、氷水中で冷却した。これに蒸留水1.0mL、n−ブタノール・ピリジン(15:1)混液5.0mLを加え、TBARSをn−ブタノール・ピリシン層に抽出し、抽出液の蛍光強度(Ex.515nm,Em.553nm)を測定した。
【0031】
▲4▼過酸化脂質産生反応の抑制率の求め方
過酸化脂質産生反応の抑制率は、過酸化脂質の産生が微生物菌体の添加によってどの程度抑制されたかをパーセントで表した。計算式を以下に示す。
【0032】
過酸化脂質産生抑制率(%)=(C−T)/(C−B)×100
〔式中、Cは微生物菌体無添加で反応したときの過酸化脂質量(塩化第一鉄添加)、Tは微生物菌体を加えて反応したときの過酸化脂質量(塩化第一鉄添加)、Bは塩化第一鉄無添加時の過酸化脂質量をそれぞれ示す。〕
【0033】
反応液中の菌体濃度を変えて過酸化脂質産生抑制率を測定し、抑制率が50%となったときの菌体濃度を求めIC50(CFU/mL)として表した。IC50が低いものほど低濃度で作用を発揮し、活性が強いことを示す。なお、菌体濃度は、菌液を塗沫した変法GAM寒天培地(日水製薬(株)製)を37℃で2日間培養し、生じたコロニー数から算出した。
【0034】
(2)試験結果
表1に示したとおり、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007ならびにストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001はそれぞれ2.0×108CFU/mL及び1.2×108CFU/mLの菌体濃度で、過酸化脂質の産生を50%抑制した。これに対して、同じ乳酸菌の一種であるラクトコッカス・ラクティスATCC 19435、ラクトバチルス・ブヒネリYIT 0077、ラクトバチルス・アシドフィスルYIT 0070においては、同等の活性を示すためには約10倍に当たる109CFU/mL以上の菌体濃度を必要とした。
【0035】
【表1】
【0036】
以上の結果から、各種微生物が鉄イオンによって惹起される過酸化脂質産生を抑制する作用は、菌株間で大きく異なり、本発明微生物の活性は他の微生物に比べてはるかに優れていた。また、ビフィドバクテリウム属よりもストレプトコッカス属、特にストレプトコッカス・サーモフィルスが優れていた。
【0037】
実施例3 生体膜の酸化傷害に対する作用(加熱処理菌体)
実施例1で調製した微生物菌体を105℃15分間オートクレーブ処理し、加熱処理菌体を調製した。加熱処理菌体の過酸化脂質産生抑制活性を実施例2と同様の方法で測定し、加熱処理前の生菌体の活性と比較した。結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示したとおり、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007及びストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001の加熱処理菌体は生菌体の80%以上の過酸化脂質産生抑制活性を保持した。
従って、これらの微生物を用いて医薬組成物又は飲食品を製造する場合、必ずしも菌体を生存せしめておかなければならないわけではなく、より幅広い加工手段を用いて飲食品を製造することができる。
【0040】
実施例4 遊離鉄イオン濃度に与える影響
鉄イオンの添加により惹起される過酸化脂質の産生を50%抑制する濃度の微生物菌体又はコーン由来フィチン酸ナトリウム(シグマ社製)を含む反応液(0.1M ADA緩衝液(pH6.8)、35mM メタ重亜硫酸ナトリウム、48μM 塩化第一鉄)を37℃で1時間反応した後12000rpmで10分間遠心分離して上清を回収した。この上清1mLに22mMの2−ニトロソ−5−(N−プロピル−N−スルホプロピルアミノ)フェノールを25μL添加し、室温で15分間静置した後、750nmの吸光度を測定することにより溶液中の遊離鉄イオンを測定した。結果を表3示す。
【0041】
【表3】
【0042】
表3に示したとおり、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007及びストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001は過酸化脂質の産生を50%抑制する菌体濃度(それぞれ2.0×108CFU/mL及び1.2×108CFU/mL)においても遊離鉄イオン濃度には全く影響を与えなかった。一方、フィチン酸ナトリウムはこれらの微生物菌体と同等の活性を示す濃度において鉄キレート作用により遊離鉄イオン濃度を約30%低下させた。
以上の結果から、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007及びストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001には鉄イオンの微生物菌体内への取り込み(又は吸着)作用や鉄キレート作用がないことが判明した。従って、本発明微生物は、フィチン酸とは異なり、鉄イオンの吸収を阻害せずに活性酸素の産生による腸管粘膜傷害のみを抑制することができる。
【0043】
実施例5 結腸粘膜傷害に対する作用
(1)試験方法
▲1▼試験飼料
表4に示す組成の試験飼料(飼料A:AIN−76(アメリカ国立栄養研究所の推奨組成)、飼料B:飼料Aにフマル酸鉄を0.2%添加した飼料(鉄含量0.07%))を用意し、飼料Bを7週齢のBALB/c雄マウス(日本クレア製)に2週間投与することにより、図2に示したように結腸粘膜の過酸化脂質含量が約3倍に増加した。
【0044】
【表4】
【0045】
▲2▼動物及び飼育方法
6週齢のBALB/c雄マウス(日本クレア製)を1週間馴化飼育した後、1群8匹ずつに群分けした。試験群には生理食塩水に懸濁したビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007の生菌体(109CFU/日/匹)を胃ゾンデを用いて3週間連日投与した。対照群には生理食塩水を投与した。最初の1週間は飼料Aを、次の2週間は飼料Bを与えた。なお、飼料及び水は試験期間を通じて自由摂取とした。
【0046】
▲3▼結腸粘膜の過酸化脂質含量の測定
試験開始3週間後にペントバルビタール麻酔下で解剖し、結腸粘膜を採取した。結腸粘膜は生理食塩水で洗浄後、湿重量の10倍量の1.15%KCl溶液を加え、氷水しながらテフロンホモジナイザーで均質化した。この結腸粘膜ホモジネート0.1mLをねじ口試験管に分取し、実施例2と同様の方法でTBARSを測定した。TBARS値は組織蛋白質量あたりのマロンジアルデヒド(MDA)相当量として表した。なお、蛋白質含量はBCAプロテイン・アッセイ・キット(ピアス社製)を用いて測定した。
【0047】
(2)試験結果
表5に示したように、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007投与群の結腸粘膜の過酸化脂質含量は対照群に比べ約20%低値を示した。なお、飼育期間中、両群間の体重には有意な差は認められなかった。
【0048】
【表5】
【0049】
以上の結果より、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007は鉄イオンにより惹起される腸管粘膜の酸化傷害を低減する作用を有していた。
【0050】
実施例6 結腸粘膜傷害に対する作用(混餌投与(1))
(1)試験方法
▲1▼試験飼料および群設定
試験群は、AIN−76組成の飼料に鉄を0.07%負荷した対照群、対照群の飼料にビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007の凍結乾燥菌体を0.4%又は2.0%添加したビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007投与群(B0.4%群及びB2.0%群)、鉄を負荷しない普通食群(鉄含量0.0035%、菌体も含有しない)の4群で、各群12匹とした。飼料組成を表6に示した。
【0051】
【表6】
【0052】
▲2▼動物および飼育方法
6週齢のBALB/c雄マウス(日本クレア製)を1週間馴化飼育(MF飼料自由摂取)した後、被験飼料を投与した。被験飼料の投与開始時に群間に体重差がないように各個体を各群に振り分けた。被験飼料の投与期間は2週間で飼料、飲料水とも自由摂取とした。飼育環境は、明暗12時間サイクル、室温25℃、湿度55%である。
【0053】
▲3▼結腸粘膜の過酸化脂質含量の測定
試験開始2週間後にペントバルビタール麻酔下で解剖し、結腸粘膜を採取した。結腸粘膜は生理食塩水で洗浄後、湿重量の10倍量の1.15%KCl溶液を加え、氷冷しながらテフロンホモジナイザーで均質化した。この結腸粘膜ホモジネート0.1mLをねじ口試験管に分取し、実施例2と同様の方法でTBARSを測定した。TBARS値は組織蛋白質量あたりのマロンジアルデヒド(MDA)相当量として表した。なお、蛋白質含量はBCAプロテイン・アッセイ・キット(ピアス社製)を用いて測定した。
【0054】
▲4▼統計解析
一元配置分散分析を行い、有意差が認められた場合にはチューキー(Tukey)の多重比較を行った。有意水準は5%とした。
【0055】
(2)試験結果
鉄イオンにより惹起される結腸粘膜の酸化傷害に対してビフィドデクテリウム・ビフィダムYIT 4007混餌投与が与える影響を図3に示した。ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007菌体の添加量0.4%及び2.0%のいずれの群においても、結腸粘膜の過酸化脂質含量は対照群に比べ有意に低下した。
なお、飼育期間中、4群間の体重に有意な差は認められなかった。
以上の結果より、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007は鉄イオンにより惹起される腸管粘膜の酸化傷害を低減する作用を有していた。
【0056】
実施例7 結腸粘膜傷害に対する作用(混餌投与(2))
(1)試験方法
▲1▼試験飼料および群設定
試験群はAIN−76組成の飼料に鉄を0.07%負荷した対照群、対照群の飼料にストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001の凍結乾燥菌体を0.1%、0.4%または2.0%添加したストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001投与群(S 0.1%群、S 0.4%群、S 2.0%群)、鉄を負荷しない普通食群(鉄含量0.0035%、菌体も含有しない)の5群で、各群12匹とした。なお、普通食群以外の各飼料には、菌体の凍結乾燥の保護剤に用いた脱脂粉乳が飼料重量の2%ずつ含有されている。飼料組成を表7に示した。
【0057】
【表7】
【0058】
▲2▼動物及び飼育方法
6週齢のBALB/c雄マウス(日本クレア製)を1週間馴化飼育(MF飼料自由摂取)した後、被験飼料を投与した。被験飼料の投与開始時に群間に体重差がないように各個体を各群に振り分けた。被験飼料の投与期間は2週間で飼料、飲料水とも自由摂取とした。飼育環境は、明暗12時間サイクル、室温25℃、湿度55%である。
【0059】
▲3▼結腸粘膜の過酸化脂質含量の測定
試験開始2週間後にペントバルビタール麻酔下で解剖し、結腸粘膜を採取した。結腸粘膜は生理食塩水で洗浄後、湿重量の10倍量の1.15%KCl溶液を加え、氷冷しながらテフロンホモジナイザーで均質化した。この結腸粘膜ホモジネート0.1mLをねじ口試験管に分取し、実施例2と同様の方法でTBARSを測定した。TBARS値は組織蛋白質量あたりのマロンジアルデヒド(MDA)相当量として表した。なお、蛋白質含量はBCAプロテイン・アッセイ・キット(ピアス社製)を用いて測定した。
【0060】
▲4▼統計解析
一元配置分散分析を行い、有意差が認められた場合にはチューキー(Tukey)の多重比較を行った。有意水準は5%とした。
(2)試験結果
鉄イオンにより惹起される結腸粘膜の酸化傷害に対してストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001混餌投与が与える影響を図4に示した。ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001菌体の添加量0.4%および2.0%の両群において、結腸粘膜の過酸化脂質含量は対照群に比べて有意に低下し、低下の程度は菌体の投与量に依存的であった。
なお、飼育期間中、群間の体重に有意な差は認められなかった。
以上の結果より、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001は鉄イオンにより惹起される腸管粘膜の酸化傷害を低減する作用を有していた。
【0061】
実施例8 飲食品の製造
本発明の微生物を使用し、各種食用組成物を製造した。以下にその処方例を示す。
【0062】
(1)発酵乳
10%の脱脂粉乳を滅菌し、本発明の微生物(ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007又はストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001)を2%接種して、35℃で24時間培養し、発酵乳を製造した。
【0063】
(2)果汁飲料
本発明の微生物(ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007又はストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001)を用い、表8の組成により果汁飲料を製造した。
【0064】
【表8】
【0065】
(3)健康向け飲料
本発明の微生物(ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007又はストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001)を用い、表9の組成により健康向け飲料を製造した。
【0066】
【表9】
【0067】
(4)健康向け食品(錠剤)
本発明の微生物(ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007又はストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001)を用い、表10の添加物を含有する組成物を打錠し、錠剤とした。
【0068】
【表10】
【0069】
(5)発酵乳飲料の製造
(発酵乳)
水80重量部に脱脂粉乳20重量部を溶解し120℃で3秒間殺菌した後、ストレプトコッカス・サーモフィルズYIT 2001株を2%、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007株を1.0%接種し24時間培養した。これを均質化機で15MPaで均質化し発酵乳とした。
【0070】
(シロップ液)
表11に示す各種成分を50℃の温水に溶解し、120℃で3秒間殺菌してシロップ液を調製した。
【0071】
【表11】
【0072】
発酵乳40重量部とシロップ液60重量部を混合した後ポリスチレン容器に充填、密封し、発酵乳製品とした。この発酵乳製品を官能評価したところ、良好な風味を有しており、また、10℃で1週間静置保存した後でも高い安定性を維持していた。
【0073】
(6)タブレットの製造
表12に示す処方に従い、各種成分を混合、打錠してタブレットを製造した。
【0074】
【表12】
【0075】
得られたタブレットは良好な風味を有していた。
【0076】
【発明の効果】
本発明の脂質過酸化抑制剤は、生体内の脂質過酸化、特に鉄イオンにより惹起される脂質過酸化反応を抑制し、腸粘膜等に対する酸化的負荷を低減することから潰瘍性大腸炎、大腸ガン等の腸粘膜傷害や老化等の予防又は治療剤として有用である。また鉄イオンの体内への吸収性を阻害することなく腸管粘膜傷害を抑制でき、且つ安全も高いことから、妊婦や小児についても安心して使用できることは勿論のこと、鉄補給食品や鉄製剤が常用されている今日において、腸疾患や老化を予防・改善し健康増進を図る手段として時代に適合した商品の形態となり得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は腸管粘膜におけるヒドロキシラジカルの産生経路を示した図である。
図中、HO・はヒドロキシラジカル、O2 -・はスーパーオキシドアニオンラジカルをそれぞれ示す。
【図2】図2は、飼料A又は飼料B(フマル酸鉄添加)を2週間投与した後の結腸粘膜の過酸化脂質含量を示した図である。
【図3】図3は、ビフィドバクテリウム・ビフィダムYIT 4007を混餌投与した場合の結腸粘膜の過酸化脂質含量を示した図である。
【図4】図4は、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001を混餌投与した場合の結腸粘膜の過酸化脂質含量を示した図である。
Claims (3)
- ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT 2001の菌体又は菌体構成成分を有効成分とする腸管粘膜の脂質過酸化抑制剤。
- 脂質過酸化が鉄イオンにより惹起されるものである請求項1記載の脂質過酸化抑制剤。
- 請求項1又は2記載の脂質過酸化抑制剤を含有する腸管粘膜傷害の予防治療剤。
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