JP5117660B2 - 癌疾患治療剤 - Google Patents
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Description
本発明は、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を有効成分とする、抗HER2抗体との併用療法用癌疾患治療剤に関する。
背景技術
アンスラサイクリン系化合物であるアムルビシン((+)−(7S,9S)−9−アセチル−9−アミノ−7−[(2−デオキシ−β−D−エリスロ−ペントピラノシル)オキシ]−7,8,9,10−テトラヒドロ−6,11−ジヒドロキシ−5,12−ナフタセンジオン)は、既存のアンスラサイクリン系化合物であるドキソルビシンやダウノルビシンと比較して、副作用の少ない抗ガン剤として知られている(特公平3−5397号)。
アムルビシンの特徴は、生体内で容易に還元されて得られる代謝体(アムルビシノール:アンスラサイクリン骨格の13位の水酸化体)が、アムルビシンより抗ガン活性が強いことである。一方、ドキソルビシンやダウノルビシンではそのようなことはない(Cancer Chemother.Pharmacol.,30,51−57(1992))。また、アムルビシンの心毒性は、ウサギ慢性実験モデルにおいてドキソルビシンよりもはるかに弱いものであった(Invest.New Drug,15,219−225,(1997))。
アンスラサイクリン系制癌剤は構造は類似しているが、以下のようにその適応症や作用機序などが異なることが知られている。
ダウノルビシンおよびイダルビシンは白血病に対する効能はあるが、固形癌に対する効能が無い。ドキソルビシン、エピルビシン、ピラルビシンおよびアクラルビシンは固形癌に対する効能を有している(日本医薬品集第23版2000、薬業時報社)。ダウノルビシンやドキソルビシンはDNA合成とRNA合成を同程度に阻害するが、アクラルビシンやマルセロマイシンではDNA合成よりRNA合成を強く阻害し、抗腫瘍効果の発現機序が全く異なっている(JJSHP 27,1087−1110,(1991))。ダウノルビシン、ドキソルビシンは13位ケトンが還元されると細胞増殖抑制作用が減弱するが、イダルビシンでは還元体も同程度の作用を示す(Cancer Chemother.Phramcol.30,51−57,(1992))。一方アムルビシンでは還元体の方が強い作用を示す(Jpn.J.cancer Res.89,1067−1073,(1998))。ドキソルビシンの静脈内投与では腫瘍選択性が得られないが、アムルビシンの静脈内投与では腫瘍選択性が得られることがマウス実験系で見出されている(Jpn.J.Cancer Res.89,1061−1066,(1998))。ドキソルビシンのインターカレーション活性はアムルビシンおよびアムルビシノールの約10倍強い活性である(Jpn.J.Cancer Res.89.1229−1238,(1998))。ドキソルビシンやダウノルビシンは細胞核に多く分布するが、アムルビシンやイダルビシンは細胞質に多く分布する(Ann.Haematol.69,S13−S17,(1994),Jpn.J.Cancer Res.89.1229−1238,(1998),Urol.Res.25,125−130,(1997))。アムルビシンやアムルビシノールでは細胞の増殖を50%抑制する濃度でTopoisomerase IIを介したCleavable Complexを充分に安定化させるが、ドキソルビシンでは細胞増殖を50%抑制する濃度ではCleavable Complexを安定化させない(Jpn.J.Cancer Res.89.1229−1238,(1998))。
このように、同じアンスラサイクリン系化合物でも、その作用機序は大きく異なり、適応症も異なっている。その中でもドキソルビシンとアムルビシン、アムルビシノールとは、化学構造的には非常に近いものではあるが、抗ガン作用の作用機序は大きく異なっている。
最近になり、アンスラサイクリン系化合物であるドキソルビシンとハーセプチンTMとの併用による抗ガン作用の報告があり、in vitro実験においてドキソルビシンとハーセプチンTMとの併用により相加的な効果を示すことが認められている(M.Pegram et al.,Oncogene,18,2241−2251(1999))。しかし、ドキソルビシンとハーセプチンTMを併用すると、臨床では心毒性が高頻度で現れることも報告されている(Genentech社インターネットホームページ)ため、併用治療は必ずしも有効なものとは見なされなかった。ハーセプチンTMとは、ヒト上皮細胞成長因子受容体2タンパク質(human epidermal growth factor receptor 2 protein、以下HER2)の抗体の一つであり、乳癌の治療剤として用いられている。
発明の開示
本発明の目的は、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩と抗HER2抗体(例えば、ハーセプチンTM)を併用することによる、癌疾患治療剤を提供することである。
本発明者は、アムルビシンの抗ガン作用の向上を目指して、種々の薬剤との併用効果の検討を行ってきたが、ハーセプチンTMとの併用を行うことにより、所期の目的を達することができた。即ち、アムルビシンとハーセプチンTMとを併用することにより、癌細胞株に対する相乗的な効果と共に心毒性に対する影響が少ないことを見出し、本発明を完成した。本発明とドキソルビシンのハーセプチンTM併用療法を比較すると前述のように、ドキソルビシンについては相加的な効果しか認められていないが、本発明については相乗的な効果が認められている。また、ドキソルビシンはハーセプチンTMとの併用により高頻度で心毒性が認められ、臨床への適用は困難であるが、本発明については心毒性に対する影響が少なく、新しい癌疾患治療剤として期待される。本発明とドキソルビシンとのこれらの効果の相違は、アムルビシンとドキソルビシンとの作用機序の相違が反映しているものと考えられる。
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を有効成分とする、抗HER2抗体との併用療法用癌疾患治療剤。
(2)癌疾患が、乳癌、胃癌、腎癌、唾液腺癌、卵巣癌、子宮体癌または肺癌である上記(1)記載の治療剤。
(3)癌疾患が、HER2高発現の癌疾患である上記(1)または(2)記載の治療剤。
(4)抗HER2抗体を0.1〜4.5mg/kg/日投与する場合に、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を0.5〜3.0mg/kg/日投与するための、上記(1)〜(3)いずれかに記載の治療剤。
(5)アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を3週間毎に3日間連日投与し、抗HER2抗体を1週間毎に投与するための、上記(4)記載の治療剤。
(6)抗HER2抗体を0.1〜4.5mg/kg/日投与する場合に、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を1.5〜9.0mg/kg/日投与するための、上記(1)〜(3)いずれかに記載の治療剤。
(7)アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を3週間毎に投与し、抗HER2抗体を1週間毎に投与するための、上記(6)記載の治療剤。
(8)アムルビシンまたはその薬学上許容される塩と抗HER2抗体の用量比が、両者の投与開始1週間で2:1〜8:1であることを特徴とする、上記(1)〜(7)いずれかに記載の治療剤。
(9)抗HER2抗体と併用投与される癌疾患治療剤の製造のための、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩の使用。
(10)癌疾患が、乳癌、胃癌、腎癌、唾液腺癌、卵巣癌、子宮体癌または肺癌である上記(9)記載の使用。
(11)癌疾患が、HER2高発現の癌疾患である上記(9)または(10)記載の使用。
(12)抗HER2抗体を0.1〜4.5mg/kg/日投与する場合に、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を0.5〜3.0mg/kg/日投与するための、上記(9)〜(11)いずれかに記載の使用。
(13)アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を3週間毎に3日間連日投与し、抗HER2抗体を1週間毎に投与するための、上記(12)記載の使用。
(14)抗HER2抗体を0.1〜4.5mg/kg/日投与する場合に、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を1.5〜9.0mg/kg/日投与するための、上記(9)〜(11)いずれかに記載の使用。
(15)アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を3週間毎に投与し、抗HER2抗体を1週間毎に投与するための、上記(14)記載の使用。
(16)アムルビシンまたはその薬学上許容される塩と抗HER2抗体の用量比が、両者の投与開始1週間で2:1〜8:1であることを特徴とする、上記(9)〜(15)いずれかに記載の使用。
(17)有効量の抗HER2抗体と有効量のアムルビシンまたはその薬学上許容される塩を併用することを特徴とする、癌疾患の治療方法。
(18)癌疾患が、乳癌、胃癌、腎癌、唾液腺癌、卵巣癌、子宮体癌または肺癌である上記(17)記載の治療方法。
(19)癌疾患が、HER2高発現の癌疾患である上記(17)または(18)記載の治療方法。
(20)抗HER2抗体を0.1〜4.5mg/kg/日投与し、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を0.5〜3.0mg/kg/日投与することを特徴とする、上記(17)〜(19)いずれかに記載の治療方法。
(21)アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を3週間毎に3日間連日投与し、抗HER2抗体を1週間毎に投与することからなる、上記(20)記載の治療方法。
(22)抗HER2抗体を0.1〜4.5mg/kg/日投与し、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を1.5〜9.0mg/kg/日投与することを特徴とする、上記(17)〜(19)いずれかに記載の治療方法。
(23)アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を3週間毎に投与し、抗HER2抗体を1週間毎に投与することからなる、上記(22)記載の治療方法。
(24)アムルビシンまたはその薬学上許容される塩と抗HER2抗体の用量比が、両者の投与開始1週間で2:1〜8:1であることを特徴とする、上記(17)〜(23)いずれかに記載の治療方法。
(25)アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を含む第1の組成物、および抗HER2抗体を含む第2の組成物からなる、癌疾患治療用のキット、
(26)抗HER2抗体としてハーセプチンを使用する、上記(1)〜(25)記載のいずれかに記載の治療剤、使用、方法、キット等。
本発明の癌疾患治療剤は、有効量のアムルビシン、アムルビシノールまたはその薬学上許容される塩を有効成分とし、有効量の抗HER2抗体と併用されるものである。
アムルビシン、アムルビシノールまたはその薬学上許容される塩を有効成分とする本発明の癌疾患治療剤は、抗HER2抗体と併用することによって、抗HER2抗体の癌の治療効果を増強することができる。
アムルビシン、アムルビシノールの薬学上許容される塩としては、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、カンファー−スルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩等が挙げられる。
抗HER2抗体とは、HER2(ヒト上皮細胞成長因子受容体2タンパク質(human epidermal growth factor receptor 2 protein))に対する抗体を意味し、HER2を高発現している癌細胞の増殖を抑制する機能を有する。本抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、擬人化抗体等が含まれ、公知の方法に従って製造することができる。例えば、抗HER2モノクローナル抗体は、WO89/06692に記載の方法にしたがって製造することができる。また、擬人化抗HER2抗体は、WO94/04679に記載の方法にしたがって製造することができる。抗HER2抗体の好ましい例としては、擬人化抗体が挙げられ、具体的には、トラツズマブ(Trastuzumab、ハーセプチンTM、Genentech社)が挙げられる。
本発明の癌疾患治療剤の治療対象となる癌は、特に制限されないが、HER2を高発現している癌が好ましい。例えば、乳癌、胃癌、腎癌、唾液腺癌、卵巣癌、子宮体癌および肺癌等が挙げられ、特に、乳癌が好ましい治療対象である。
癌患者に対して、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を先に投与することも、抗HER2抗体を先に投与することも、あるいは両者を同時に投与することもできる。両者を同時に投与しない場合の両者の投与の間隔は適宜決めることができる。
本発明によれば、アムルビシンと抗HER2抗体の併用により相乗効果が認められることから、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩と抗HER2抗体の通常の用量よりも低用量にて、癌の治療効果を得ることができる。それ故、本発明により、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩と抗HER2抗体の用量を高くすることに起因する副作用を最小限にすることができる。
本発明におけるアムルビシンまたはその薬学上許容される塩は、通常、非経口的(例えば、静脈内、皮下、もしくは筋肉内注射、膀胱内、局所的、経直腸的、経皮的、または経鼻的)に投与することができる。好ましくは、静脈内投与を挙げることができる。また、経口投与に用いることもでき、経口投与のための形体としては、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤または懸濁剤などが挙げられる。
本発明におけるアムルビシンまたはその薬学上許容される塩の投与量、投与回数は、患者の症状、年齢、体重、投与形態、併用される抗HER2抗体の投与量、投与回数等によって異なる。注射剤として投与する場合には、通常は成人に対し1日あたり約10mg〜約1000mgの範囲、好ましくは約30mg〜約500mgの範囲を1回または数回に分けて投与することができる。経口投与する場合には、通常は成人に対し1日あたり約100mg〜約3000mgの範囲、好ましくは約300mg〜約1500mgの範囲を1回または数回に分けて投与することができる。さらに、約1日〜約30日の間隔を設けて投与を繰り返すことができる。
本発明における抗HER2抗体は、通常、可能ならば標的癌細胞部位に、または静脈内投与により、非経口的に投与される。静脈内投与の場合、好ましくは、約30分〜約90分かけて静脈内インフュージョンされる。非経口投与のために、抗HER2抗体を薬学上許容される非経口用の賦形剤と一緒に、注射用投与剤形(溶液、懸濁液、エマルション)に製剤化する。このような賦形剤は、本質的に無毒であって、非治療的なものである。そのような賦形剤として、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、および5%ヒト血清アルブミンを挙げることができる。不揮発性油およびオレイン酸エチル等の非水性賦形剤も使用することができる。賦形剤は、等張性および化学的安定性を増加するための物質、例えば、緩衝剤、安定剤を含有することができる。
本発明における抗HER2抗体の投与量、投与回数は、患者の症状、年齢、体重、投与形態、併用されるアムルビシンの投与量、投与回数等によって異なるが、通常は成人に対し1日あたり約5mg〜約1000mgの範囲、好ましくは約10mg〜約300mgの範囲を1回または数回に分けて投与することができる。さらに、約5日〜約10日の間隔を設けて投与を繰り返すことができる。
本発明の癌抑制効果を示すための好ましい態様を説明する。例えば、塩酸アムルビシンとハーセプチンTMとの併用による用量比は、2:1〜8:1の範囲が好ましい。これは、実施例1に示されるように、アムルビシンは生体内で容易に、活性代謝体であるアムルビシノールに変換されるので、アムルビシノールとハーセプチンTMのin vitro併用で相乗効果を示した濃度比2:1〜8:1が、塩酸アムルビシンとハーセプチンTMの用量比を反映すると考えられる。
癌患者を治療する場合にも、同様に、塩酸アムルビシンとハーセプチンTMの投与開始1週間あたりの用量比として、2:1〜8:1の範囲が好ましい。
塩酸アムルビシンは、約1.5〜約9.0mg/kgの用量で単回投与、または約0.5〜約3.0mg/kgの用量で3日間連日投与され、3週間間隔で投与を繰り返す。投与経路は静脈内投与が好ましい。ハーセプチンTMは、約0.1〜約4.5mg/kgの用量範囲で静脈内投与され、1週間毎に投与される。
塩酸アムルビシンとハーセプチンTMの投与は、3週間を1サイクルとする。各サイクルにおける投与開始は同日が好ましい。すなわち、塩酸アムルビシンを3日間連日投与する場合には、各サイクルの第1、2、3日目に塩酸アムルビシンを、第1、8、15日目にハーセプチンTMを投与することが好ましい。
本発明には、(a)活性成分としてアムルビシンまたはその薬学上許容される塩を含む第1の組成物、および(b)活性成分として抗HER2抗体を含む第2の組成物からなる、癌疾患の併用治療のためのキットも含有される。
塩酸アムルビシンとハーセプチンTMとの併用において心毒性に対する影響が少ないことは、ハーセプチンTMが反応するサルを用いた試験で確認できる。すなわち、塩酸ドキソルビシンとハーセプチンTMとを静脈内投与すると心毒性が強く現れるが、同じ条件において、2倍量の塩酸アムルビシンを投与してもアカゲザルが心毒性を示さないことから確認できる。塩酸ドキソルビシンの2倍量の塩酸アムルビシンを投与するのは、両者の治療用量に基づく。
実施例
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実験手法]
In vitro併用効果評価方法
ヒト乳癌細胞を用いて、塩酸アムルビシン、塩酸アムルビシノールおよび塩酸ドキソルビシンとハーセプチンTMのin vitroにおける併用効果を調べた。併用効果は、ペグラン等の方法により、Combination index(CI)を算出することにより評価した(M.Pegram et al.,Oncogene,18,2241−2251(1999))。
アムルビシノールは、アムルビシンの活性代謝体であるため、被験物質に加えた。アムルビシノールは、文献記載の方法(Ishizumi et al.,J.Org.Chem.,52,4477−4485(1987))によって製造することができる。
ヒト乳癌細胞株BT−474(HER2を高発現している細胞株)をATCC(American Type Culture Collection)より入手した。D−MEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)培地とF−12(Nutrient Mixture F−12)培地とを同量含む培地であって、さらに2.5mM L−グルタミン、10%ウシ胎児血清(FCS)、および2.5μg/mlアムホテリシンBを含有する培地にて、ヒト乳癌細胞株BT−474を継代培養した。培養は、37℃、5%CO2にてインキュベータ中で実施した。以後の実験にも本培地を用いた。
被験物質は以下のように調製した。
ハーセプチンTMを添付されていた溶解液にて溶解して21mg/mlの保存液を調製した。その後、培地で2倍段階希釈して用いた。
塩酸アムルビシンおよび塩酸アムルビシノールは、使用時に1mg/mlになるように蒸留水で溶解し、濾過滅菌後、培地で2倍段階希釈して用いた。
塩酸ドキソルビシンは、協和醗酵より入手した。10mgバイアルに滅菌水5mlを添加して2mg/mlの液を調製し、使用した。
継代中のヒト乳癌細胞BT−474をトリプシン処理し、培地に懸濁後、96ウェルプレートに播種した。播種濃度は、1x104cells/0.1ml/wellとした。播種後、37℃、5%CO2にてインキュベータ中で一晩培養した(Day0)。
単剤評価群には被験物質希釈液0.05ml/wellと培地0.05ml/wellとを添加し、併用評価群には被験物質希釈液0.05ml/wellとハーセプチンTM希釈液0.05ml/wellを添加した(Day1)。各薬剤の終濃度は塩酸アムルビシンでは0.0625〜16μg/ml、塩酸アムルビシノールでは0.00625〜1.6μg/ml、塩酸ドキソルビシンでは0.00625〜1.6μg/ml、ハーセプチンTMでは0.000781〜0.4μg/mlとした。薬剤処理群はn=3、非処理(対照)群はn=6で行った。
Day4まで、37℃、5%CO2にてインキュベータ中で培養した。
Day4に、各ウェルに0.02mlのWST溶液(リン酸緩衝液(PBS)に、1.3mg/ml WST−1(2−(4−iodophenyl)−3−(4−nitrophenyl)−5−(2,4−disulfophenyl)−2H−tetrazolium,sodium salt)および0.14mg/ml 1−Methoxy PMS(1−Methoxy−5−methylphenazinium methylsulfate)を含有する溶液)を添加した。その後、2〜4時間、37℃、5%CO2にてインキュベータ中で培養し、MICROPLATE READER Model 3550−UV(Biorad社)で吸光度を測定し、生細胞数を測定した。
ある増殖抑制率(fa)を得るために必要とされる塩酸アムルビシン、塩酸アムルビシノール、塩酸ドキソルビシンおよびハーセプチンTMの濃度Dを式▲1▼より求めた。単剤での濃度をDf1、Df2および併用時での濃度をD1、D2とし、式▲2▼よりCombination index(CI)を算出した(M.Pegram et al.,Oncogene,18,2241−2251(1999))。
fa=1−f
D=Dm×{fa/(1−fa)}1/m・・・・▲1▼
CI=D1/Df1+D2/Df2+(D1×D2)/(Df1×Df2)・・・・▲2▼
なお、f、Dm、mについては、以下のようにして算出する。
f=(各薬剤濃度での吸光度の平均値)/(薬剤濃度0mg/mlの吸光度の平均値)
吸光度:A420−A630
薬剤濃度の常用対数に対し、(1/f)−1の常用対数をプロットし、最小2乗法で回帰直線を引き、その傾きmとX切片を求めた。X切片の値がIC50値(50%の細胞増殖抑制に必要な薬剤の濃度)の常用対数を表す(上記のように、IC50値をDmと表記し、塩酸アムルビシン、塩酸アムルビシノール、塩酸ドキソルビシンについては添え字1、ハーセプチンTMについては添え字2で表わした。)。
上記のようにしてCIと増殖抑制率faを算出した。faの値が、0.9の場合のCI値を求める。CI=1の場合に相加効果、CI<1で相乗効果、CI>1で拮抗効果と判断される。
実施例1
塩酸アムルビシノールと塩酸ドキソルビシンにおけるハーセプチン TM の併用効果
上述の併用効果評価方法を用いて、塩酸アムルビシノールとハーセプチンTMの用量比が2:1であり、同様に塩酸ドキソルビシンとハーセプチンTMの用量比が2:1の場合の併用効果を測定した。faの値が、0.9の場合のCI値を求めて、以下の表1に示す。
D1、D2、Df1、Df2の単位は(μg/ml)である。
以上の結果より、本発明の塩酸アムルビシノール場合、ハーセプチンTMとの併用効果は、CI値が1.0よりかなり低い値を示すことから、相乗効果であることが明らかにされた。しかし、塩酸ドキソルビシンの場合には、CI値がほぼ1.0を示すことから相加効果であり、相乗効果とはいえない。このように、塩酸アムルビシノールと塩酸ドキソルビシンとでは、ハーセプチンTMの併用効果が大きく相違することが示された。
実施例2
塩酸アムルビシノールとハーセプチン TM の用量比と併用効果
上記併用効果評価方法を用いて、塩酸アムルビシノールとハーセプチンTMの用量比を変化させ、2:1〜8:1までの範囲での併用効果の評価試験を行った。faの値が、0.9の場合のCI値を求めて、結果を以下の表2に示す。
D1、D2、Df1、Df2の単位は(μg/ml)である。
以上の表2に示されるように、塩酸アムルビシノールとハーセプチンTMの併用効果は、用量比が2:1〜8:1の範囲でCI値がいずれも1.0より低い値を示し、相乗的な併用効果を示すことが明らかにされた。
実施例3
塩酸アムルビシンとハーセプチン TM との併用効果
上記併用効果評価方法を用いて、塩酸アムルビシンとハーセプチンTMの併用効果を評価した。塩酸アムルビシンとハーセプチンTMの用量比は、40:1で併用効果試験を行った。faの値が、0.9の場合のCI値を求めて、結果を以下の表3に示す。
D1、D2、Df1、Df2の単位は(μg/ml)である。
以上の表3に示されるように、塩酸アムルビシンとハーセプチンTMを併用した場合には、CI値が1.0より低い値を示すことから、相乗的な併用効果を示すことが明らかにされた。
以上のように、ペグラン法による併用効果評価方法により、Combination index(CI)による併用効果の判定を行ったが、塩酸アムルビシンとハーセプチンTMの併用、塩酸アムルビシノールとハーセプチンTMとの併用において顕著な相乗効果が認められた。
実施例4
サルを用いた心毒性試験
塩酸アムルビシンとハーセプチンTMとを併用した場合の心毒性に対する影響の有無をアカゲザルを用いた実験で評価する。すなわち、塩酸ドキソルビシンとハーセプチンTMとを静脈内投与し、心毒性が強く現れる以下の条件において、塩酸ドキソルビシンの代わりに、2倍量の塩酸アムルビシンを投与したアカゲザルの心毒性の有無を確認する。
アカゲザルの静脈内にドキソルビシンを2.92mg/kg(35mg/m2)の投与量で3週間間隔で7〜8回投与し、投与開始後140〜150日目に心臓の病理組織の観察で心筋細胞の空胞化が認められる(Toxicology,13,263−273,1979,E.J.Gralla,et.al.)。また、ハーセプチンTMのヒトへの投与は、4mg/kg投与後、毎週2mg/kgのスケジュールが用いられる。
以上のことから、薬剤投与群を次のように設定する。
▲1▼薬剤非投与群
▲2▼塩酸ドキソルビシン 2〜4mg/kg,iv,8q3W
▲3▼塩酸ドキソルビシン 2〜4mg/kg,iv,8q3W
ハーセプチンTM 4mg/kg、その後毎週2mg/kg、iv、24回投与
▲4▼塩酸アムルビシン 4〜8mg/kg,iv,8q3W
▲5▼塩酸アムルビシン 4〜8mg/kg,iv,8q3W
ハーセプチンTM 4mg/kg、その後毎週2mg/kg、iv、24回投与
投与開始後140−150日目に解剖して、心臓の病理組織診断行う。心筋細胞の障害性の比較から、心毒性を評価する。
産業上の利用性
本発明により、癌患者を治療するために有用な癌の併用治療剤が提供される。より具体的には、塩酸アムルビシンとハーセプチンTMとの併用により、相乗的な抗ガン作用が実現できたことから、ハーセプチンTMとの併用により、塩酸アムルビシンの抗腫瘍治療効果を向上させることができる。更には、塩酸アムルビシンの効果を発揮しにくいような種類の癌細胞にも、ハーセプチンTMとの併用により、効果を発揮することができるようになった。また、逆に、相乗的な併用効果から、塩酸アムルビシンの投薬量を抑制することが可能になり、より副作用を軽減させた抗ガン治療が可能になったのである。
Claims (19)
- (1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩を有効成分とする、抗HER2抗体との併用療法用乳癌治療剤。
- 乳癌が、HER2高発現の乳癌である請求項1記載の治療剤。
- 抗HER2抗体を0.1〜4.5mg/kg/日投与する場合に、(1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩を0.5〜3.0mg/kg/日投与するための、請求項1または2記載の治療剤。
- (1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩を3週間毎に3日間連日投与し、抗HER2抗体を1週間毎に投与するための、請求項3記載の治療剤。
- 抗HER2抗体を0.1〜4.5mg/kg/日投与する場合に、(1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩を1.5〜9.0mg/kg/日投与するための、請求項1または2記載の治療剤。
- (1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩を3週間毎に投与し、抗HER2抗体を1週間毎に投与するための、請求項5記載の治療剤。
- (1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩と抗HER2抗体の用量比が、両者の投与開始1週間で2:1〜8:1であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の治療剤。
- 抗HER2抗体と併用投与される乳癌治療剤の製造のための、(1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩の使用。
- 乳癌が、HER2高発現の乳癌である請求項8記載の使用。
- 抗HER2抗体を0.1〜4.5mg/kg/日投与する場合に、(1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩を0.5〜3.0mg/kg/日投与するための、請求項8または9記載の使用。
- (1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩を3週間毎に3日間連日投与し、抗HER2抗体を1週間毎に投与するための、請求項10記載の使用。
- 抗HER2抗体を0.1〜4.5mg/kg/日投与する場合に、(1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩を1.5〜9.0mg/kg/日投与するための、請求項8または9記載の使用。
- (1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩を3週間毎に投与し、抗HER2抗体を1週間毎に投与するための、請求項12記載の使用。
- (1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩と抗HER2抗体の用量比が、両者の投与開始1週間で2:1〜8:1であることを特徴とする、請求項8〜13のいずれか一項記載の使用。
- (1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩を含む第1の組成物、および抗HER2抗体を含む第2の組成物からなる、乳癌治療用のキット。
- (1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩を有効成分とする、抗HER2抗体による乳癌の治療効果の増強剤。
- 抗HER2抗体による乳癌の治療効果の増強剤の製造のための、(1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩の使用。
- (1)アムルビシンもしくはその薬学上許容される塩、または(2)アムルビシノールもしくはその薬学上許容される塩と、抗HER2抗体とを組み合わせてなる乳癌治療剤。
- 抗HER2抗体がトラツズマブである、請求項18記載の乳癌治療剤。
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