自動車の製造ラインは、主として、プレス成形ラインと、車体組立ライン(溶接ラインとも称される)と、塗装ラインTLと、車両組立ライン(艤装ラインとも称される)の4つのラインから構成されている。プレス成形ラインでは、自動車ボディを構成する種々のパネルをそれぞれプレス成形し、プレス単品の状態で車体組立ラインへ搬送する。次の車体組立ラインでは、自動車ボディの各部位をそれぞれサブアッセンブリし、このサブアセンブリされたフロアパネル、フロントボディ及びリヤボディをボディ組立ラインへ供給し、これらに仮打ち溶接と増打ち溶接を施してアンダーボディサブアッセンブリを組立て、次にアンダーボディに対して予めサブアセンブリされたボディサイドパネルとルーフパネルを供給し、これらに仮打ち溶接と増打ち溶接を施してボディシェルを組立てる。最後にボディシェルに対して、サブアッセンブリされたフード、サイドドア、トランクリッド又はバックドアなど蓋物部材を、ヒンジを介して装着し、塗装ラインTLへ搬送する。
塗装ラインTLでは、上記のようにして製作した、ボディシェルに蓋物部材が取り付けられた自動車ボディ対して、下塗り塗装、中塗り塗装及び上塗り塗装を施すとともに、中塗り塗装前或いは上塗り塗装後に耐チッピング用アンダーコート塗装を施し、得られた塗完ボディを車両組立ラインへ搬送する。車両組立ラインでは、塗完ボディに対して各種の艤装部品を組付けるとともに、エンジン、サスペンション、タイヤ、燃料タンクなどの足廻り部品を組付ける。こうした種々の工程を経て自動車が完成する。なお、アンダーボディサブアッセンブリにボディサイドパネルとルーフパネルを組み付けた状態のボディをボディシェルと称し、フードサブアッセンブリ、フロント及びリヤを含むドアサブアッセンブリ、トランクリッドサブアッセンブリ又はバックドアサブアッセンブリなど、ボディシェルの開口部を閉塞する開閉部材を蓋物部材と称する。
次に、本発明に係る自動車ボディの塗装方法が適用される塗装ラインTLの全体について説明する。図1は本発明に係る自動車ボディの塗装方法を適用した塗装ラインTLの工程例であり、下塗り塗装、中塗り塗装及び上塗り塗装の3コート塗装法による塗装ラインTL例である。なお、中塗り塗装を2回塗りする4コート塗装法や、上塗り塗装色が2トーンである特別色である場合も、この種の典型的な塗装ラインTLの一部を改変することで対応することができるので、本発明の塗装方法に含まれるものである。
図1に示すように、塗装ラインTLの前工程である車体組立ラインで組み立てられたホワイトボディ(以下、単にボディ又は自動車ボディともいう)は、ボディシェルに、サブアッセンブリされたフード、サイドドア、トランクリッド又はバックドアなど蓋物部材がヒンジを介して取り付けられた塗装前のボディである。なお、ボディシェルと蓋物部材とを別々に塗装し、車両組立ラインにてこれらを組み立てることもできるが、本例ではボディシェルに蓋物部材が取り付けられた自動車ボディの状態で塗装ラインTLに搬入されるものとする。ただし、後述するように、蓋物部材は塗装ライン内で一時的にボディシェルから取り外され、再び取り付けられるので、その作業性を高めるために蓋物部材はボディシェルに仮付けされた状態で塗装ラインTLに搬入される。
図6は、自動車ボディのフロントドアサブアッセンブリDを示す正面図であって、車両の室内側から見た図である。本例のフロントドアサブアッセンブリDは、その前端部の上下二箇所にヒンジH,Hが設けられ、ヒンジHの一方がフロントドアDのインナパネルに取り付けられ、ヒンジHの他方がボディシェルSのフロントピラーS1(図10B参照)に取り付けられる。図7は、そのヒンジHを示す分解斜視図であり、フロントドアサブアッセンブリDに取り付けられるヒンジブラケットH1と、ボディシェルSのフロントピラーS1に取り付けられるヒンジブラケットH2とが、ヒンジピンH3により回動可能に連結されている。そして本例では、このヒンジピンH3が仮付け用のヒンジピンとされ、上方向に抜き差し可能とされている。また、図示は省略するがリヤドアサブアッセンブリも同様の構成とされ、その前端部の上下二箇所にヒンジが設けられ、ヒンジブラケットの一方がリヤドアのインナパネルに取り付けられ、ヒンジブラケットの他方がボディシェルSのセンタピラーS2(図10B参照)に取り付けられ、これらヒンジブラケットが仮付け用のヒンジピンにより回動可能に連結されている。
なお本例においては、蓋物部材のうちフードサブアッセンブリとトランクリッドサブアッセンブリ又はバックドアサブアッセンブリは、車体組み立てラインで本締めされたまま、塗装ラインTLで取り外されることなく、車両組立ラインへ搬送されるものとするが、必要に応じてこれらフードサブアッセンブリとトランクリッドサブアッセンブリ又はバックドアサブアッセンブリについても、ドアサブアッセンブリと同様に、塗装ラインTLにおいて一時的に取り外して所定の塗装処理を施してもよい。
図1へ戻り、ホワイトボディは、ドロップリフタD/Lにより溶接台車から塗装ハンガに移載されたのち、電着前処理工程11に搬送される。電着前処理工程11は、特に図示はしないが、一般的に、脱脂工程、水洗工程、表面調整工程、化成被膜形成工程、水洗工程及び水切り乾燥工程を備える。すなわち、ホワイトボディには、プレス成形ラインや車体組立ラインにおいてプレス油や溶接による鉄粉その他の塵埃が付着するので、この電着前処理工程11では、ホワイトボディに付着した油分や鉄粉などを洗浄する(脱脂工程や水洗工程)。次の表面調整工程では、ホワイトボディの表面に表面調整成分を吸着させることにより、次工程の化成皮膜形成工程における反応起点数を増加させ、また吸着した表面調整剤成分が皮膜結晶の核となり、皮膜形成反応を加速させる。そして、次の化成被膜形成工程にてボディをリン酸亜鉛などの化成処理液に浸漬することで、ボディの表面に化成被膜を形成したのち、水洗の後、水切り乾燥が行われる。
電着前処理工程11による前処理が施されたボディは、続けて電着塗装工程12に搬送され、たとえばポリアミン樹脂などのエポキシ系樹脂を基体樹脂とする熱硬化型塗料からなる電着塗料が満たされた船形の電着槽に浸漬され、電着槽内に設けられた複数の電極板とボディ(具体的には塗装ハンガ)との間に高電圧を印加することで、電着塗料の電気泳動作用によりボディの表面に電着塗膜が形成される。なお、電着塗料としては電着塗料側に正極高電圧を印加するカチオン型電着塗料を用いることが防錆上好ましいが、ボディ側に正極高電圧を印加するアニオン型電着塗料を用いてもよい。電着槽を出漕したボディは水洗工程に搬送され、工水や純水を用いてボディに付着した電着塗料が洗い流されるが、出漕時に電着槽から持ち出された電着塗料もこの水洗工程で回収される。水洗処理が終了した段階において、ボディの表面及び袋構造部内には、膜厚10〜35μm程度の未乾燥の電着塗膜が形成されることになる。
電着塗装後の水洗処理を終了したボディは、ドロップリフタD/Lにより塗装台車に移載され、必要に応じて設けられた蓋物取り外し工程13にて蓋物部材であるフロントドア及びリヤドアがボディシェルから取り外されて、別途用意されたドア用塗装台車に搭載されたのち、ボディシェルとともに電着乾燥工程14に搬送されて、たとえば160〜180℃で15分〜30分焼き付けられ、これによりボディシェル及びフロントドア、リヤドアの内外板および袋構造部内に、膜厚10μm〜35μmの乾燥した電着塗膜が形成される。次いで、必要に応じて設けられた蓋物取り付け工程15にて、先の蓋物取り外し工程13で取り外されたフロントドア及びリヤドアを再びボディシェルに仮付けする。以上の電着前処理工程11から蓋物取り付け工程15までの工程が下塗り工程1を構成する。なお、蓋物取り外し工程13及び蓋物取り付け工程15の詳細については後述するが、図1にこれらの工程を点線の枠で示したのは、必要に応じてこれらの工程13,15を設けてもよいし省略してもよいという意味である。
また以下において、電着塗料、中塗り塗料及び上塗り塗料などの「塗料」という場合は、被塗物に塗装する前の液体状態をいい、電着塗膜、中塗り塗膜及び上塗り塗膜などの「塗膜」という場合は、被塗物に塗装されて膜状となった未乾燥又は乾燥状態をいい、両者を区別するものとする。
電着塗膜が形成された自動車ボディは、シーリング工程2(アンダーコート工程、ストーンガードコート工程を含む。)に搬送されて、鋼板合わせ目や鋼板エッジ部に防錆または目止めを目的とした塩化ビニル系樹脂製シーリング材が塗布される。また、アンダーコート工程では、タイヤハウスや床裏に塩化ビニル樹脂系の耐チッピング材が塗布され、ストーンガードコート工程では、シル、フェンダ又はドアなどのボディ外板下部にポリエステル系又はポリウレタン系樹脂製耐チッピング材が塗布される。なお、これらシーリング材や耐チッピング材は専用の乾燥工程または次に述べる中塗り乾燥工程33にて硬化することになる。なお、下塗り工程1の電着乾燥工程14において、ボディシェルとドアを個別に乾燥処理する場合に、蓋物取り付け工程15をシーリング工程2の途中に設けてもよい。特に、鋼板合わせ目や鋼板エッジ部にシーリング材を塗布するにはボディシェルとドアを別々に処理する方が作業性がよいからである。ただし、ドアの外板下部に耐チッピング材を塗布する工程ではボディシェルにドアを仮付けした状態の方が作業性がよいので、少なくとも耐チッピング材の塗布工程の前に蓋物取り付け工程15を設けることが好ましい。
シーリング材や耐チッピング材が塗布され、内外板に電着塗膜が形成された自動車ボディは、次に中塗り工程3に搬送される。本例の中塗り工程3は、中塗り塗装工程31と中塗り焼付乾燥工程33とを有し、必要に応じて中塗り乾燥工程33の前に蓋物取り外し工程32が設けられ、中塗り乾燥工程33の後に蓋物取り付け工程34が設けられる。図1にこれらの工程を点線の枠で示したのは、必要に応じてこれらの工程32,34を設けてもよいし省略してもよいという意味である。
中塗り塗装工程31は中塗りブースを有し、中塗り乾燥工程33は中塗り乾燥炉を有する。中塗り塗装工程33の中塗りブースでは、エンジンルーム・フードインナ・ドアインナ・トランクリッドインナなどの自動車ボディの内板部に、その車両の外板色に対応した着色顔料が添加された内板塗装用塗料が塗布されたのち、ウェットオンウェット(未硬化塗膜の上に塗料を塗布すること、以下同じ。)で、フードアウタ・ルーフ・ドアアウタ・トランクリッドアウタなどの外板部に中塗り塗料が塗布される。この自動車ボディは、必要に応じて設けられた蓋物取り外し工程32にて蓋物部材であるフロントドア及びリヤドアがボディシェルから取り外されて、別途用意されたドア用塗装台車に搭載されたのち、ボディシェルとともに中塗り乾燥工程33の中塗り乾燥炉に搬送され、中塗り乾燥炉をたとえば130〜150℃で15分〜30分通過することにより、ボディシェル及びフロントドア、リヤドアの外板部に膜厚15μm〜35μmの中塗り塗膜が形成され、内板部に膜厚15μm〜30μmの内板塗装用塗膜が形成される。なお、内板塗装用塗料および中塗り塗料は、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などを基体樹脂とする熱硬化型塗料であり、水系塗料又は有機溶剤系塗料のいずれであってもよい。
中塗り塗装3を終えた自動車ボディは、必要に応じて水研工程4へ搬送される。水研工程4では、中塗り塗膜と上塗り塗膜との塗膜密着性を高めるとともに、外板部の上塗り塗膜の平滑性(塗り肌及び鮮映性)を高めるために、清浄な水と研磨材を用いて中塗り塗膜の表面を研磨する。そして、水研乾燥工程41では、水研工程15で自動車ボディに付着した水分を乾燥させるために水切り乾燥炉を通過させる。なお、中塗り塗膜と上塗り塗膜との塗膜密着性や上塗り塗膜の平滑性などが充分に確保できれば、水研工程4及び水研乾燥工程41は省略してもよい。なお、水研工程4は、自動車ボディの外板部を研磨するので、中塗り工程3の中塗り乾燥工程33において、ボディシェルとドアを個別に乾燥処理する場合には、水研工程4の前に蓋物取り付け工程34を設け、ボディシェルにドアを仮付けした状態で水研処理する方が作業性がよい。
水研工程4及び水研乾燥工程41を通過した自動車ボディは、上塗り工程5に搬送される。上塗り工程5は、上塗り塗装工程51と、蓋物取り外し工程52と、上塗り乾燥工程53と、蓋物取り付け工程54とからなり、上塗り塗装工程51は上塗りブースを有し、上塗り乾燥工程53は上塗り乾燥炉を有する。自動車の外板色には、アルミニウム・雲母などの各種光輝性顔料を含むメタリック系外板色と、光輝性顔料を含まないソリッド系外板色があり、メタリック系外板色の場合は、上塗りブースにおいて、上塗りベース塗料と上塗りクリヤ塗料とがウェットオンウェットで塗装される。また、ソリッド系外板色の場合は、同じ上塗りブースを使用し、クリヤ塗装の工程にて、クリヤ塗料に代えて上塗りソリッド塗料が塗装される。この場合に、上塗りベース塗装の工程は回送される。なお、これらの上塗り塗料は、主として自動車ボディの外板部に塗装される。
上塗りベース塗料、上塗りクリヤ塗料、上塗りソリッド塗料は、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などを基体樹脂とする塗料であり、水系塗料又は有機溶剤系塗料のいずれであってもよい。なお、上塗りベース塗料は、光輝性顔料の配向などの仕上がり性を考慮して重量比で60〜80%希釈されて塗装され(固形分が20〜40%)、これに対して上塗りクリヤ塗料や上塗りソリッド塗料は重量比で15〜30%希釈されて塗装される(固形分が70〜85%)。したがって、希釈率が大きい上塗りベース塗料を水系塗料とすると、作業環境の改善効果及び廃水処理負荷の低減効果が大きい。
そして、上塗りブースにおいて上塗り塗料が塗装された自動車ボディは、上塗り焼付乾燥工程162の上塗り乾燥炉へ搬送され、ここでたとえば130〜150℃で15分〜30分焼き付けられ、これにより上塗り塗膜が形成される。なお、上塗りベース塗膜の膜厚は、たとえば10μm〜20μm、上塗りクリヤ塗膜の膜厚は、たとえば15μm〜30μm、上塗りソリッド塗膜の膜厚は、たとえば15μm〜35μmである。最後に、塗装を完了した自動車車体(塗完ボディ)は、検査および手直し工程6を経たのち、自動車部品が組み付けられる車両組立ラインへ搬送される。
以上が自動車ボディの塗装ラインTLの一例であるが、次に本例の蓋物取り外し工程52及び蓋物取り付け工程53を含む上塗り工程5について説明する。図2は、本発明の塗装方法を適用した一実施の形態に係る上塗り工程5を示す工程平面図である。本例の上塗り塗装工程5は、ウェス(清掃布)などを用いてボディBの内外板の塵埃を除去するための上塗り準備工程511、上塗りベース塗料を塗装するベース塗装工程512、ベース塗料の溶剤(水系塗料にあっては水、有機溶剤系塗料にあっては有機溶剤)を自然蒸発させるフラッシュオフ工程513、クリヤ塗料を塗装するクリヤ塗装工程514及びベース塗料およびクリヤ塗料の溶剤を蒸発させるために静置するセッティング工程515を含む上塗り塗装工程51と、蓋物取り外し工程52と、を備え、これらの工程はトンネル形の塗装ブース55にて行われる。なお、外板塗装仕様がクリヤコートのないソリッド系外板色(1コートソリッド)である自動車ボディについては、ベース塗装工程512はそのまま素通りし、クリヤ塗装工程514にて自動車ボディの内外板に上塗りソリッド塗料を塗装する。これに対して、外板塗装仕様が2コートソリッド(クリヤコートされたソリッド)系外板色である自動車ボディについては、メタリック系塗装仕様と同様に、ベース塗装工程512でソリッド塗料を塗装し、クリヤ塗装工程514にてクリヤ塗料を塗装する。
塗装ブース55には、図示しない温度調節機能及び湿度調節機能を有する空調機(給排気装置)が設けられ、塗装ブース55内部の天井面から床面に向かって一定温湿度の温調空気が所定風量で供給され、塗料ダストの飛散を防止するとともに環境温湿度の定温湿化により塗装条件の安定化が図られている。また、塗装ブース55内のベース塗装工程512には、ハンドに回転霧化式塗装ガンなどの塗装装置が装着された塗装ロボット551が左右それぞれ4機ずつ配置され、たとえば入口側の2機の塗装ロボットにより主としてボディの内板部(ドア開口部など)にベース塗料が塗装され、たとえば出口側の6機の塗装ロボット551により主としてボディの外板部にベース塗料が塗装される。なお、ベース塗装工程512に配置する塗装ロボット551の数や作業分担は本例にのみ限定されるものではなく、被塗物である自動車ボディの作業負荷などにより適宜設定すればよい。
ベース塗装工程512の後に、ベース塗膜に含まれた溶剤成分を自然蒸発させるためのフラッシュオフ工程513が設けられているが、本例のフラッシュオフ工程513は、自動車ボディがフロアコンベアC1によって搬送される間、具体的にはベース塗料が塗装されてからクリヤ塗料が塗装されるまでの間に、塗装ブース55に設けられた空調機による環境温湿度(塗装ブース内の送風を含む)によってのみ、ベース塗膜に含まれた溶剤成分を蒸発させるものであってもよいし、特別な強制的加熱や強制的送風などを行う工程であってもよい。このフラッシュオフ工程513の通過時間は、たとえば3〜5分である。
フラッシュオフ工程513の後には、クリヤ塗装工程514が設けられ、ここに、ハンドに回転霧化式塗装ガンなどの塗装装置が装着された塗装ロボット552が左右それぞれ3機ずつ配置されている。これらの塗装ロボット552については、6機の塗装ロボット552によりクリヤ塗料が塗装される。なお、クリヤ塗装工程514に配置する塗装ロボット552の数や作業分担は本例にのみ限定されるものではなく、被塗物である自動車ボディB作業負荷などにより適宜設定すればよい。またクリヤ塗装工程514の最初段(最終段であってもよい)には、作業者によって上塗りベース塗膜の仕上がりを検査し、工程内で補修塗装するための検査・補修工程が設けられている。
セッティング工程515を実施するセッティング室は、通過するボディに塵埃が付着しないように当該ボディを取り囲む筐体を有する。このセッティング工程515は、前工程で塗装されたクリヤ塗料やベース塗料の溶剤成分を蒸発させ、上塗り乾燥工程53でワキ不具合などの発生を防止するための静置工程であることから、その他の設備は特に必要とされない。ただし、蒸発した溶剤成分を排気する排気装置などを設けることもできる。本例のセッティング室は塗装ブース55の一部で構成されている。
本例の上塗り工程5は、上塗り乾燥工程53を備え、これはトンネル形の塗装乾燥炉56にて行われる。図5は、上塗り乾燥工程53を実施する上塗り乾燥炉56の対流ゾーンの一例を示す断面図であり、トンネル形の炉体561と、取り入れた外気を所定の温度に加熱するバーナー562と、このホットエアーを炉体561に設けられた吹出口565に導くためのファン563およびダクト564を有し、このホットエアーによりベース塗料およびクリヤ塗料を同時に焼き付け硬化させる。一般的には、入口側に輻射熱を利用した輻射ゾーンが設けられ、未乾燥塗膜に塵埃等が付着するのを防止するとともに、中間域から出口側にはホットエアーを直接吹出す対流ゾーンが設けられている。
なお、塗装ブース55と塗装乾燥炉56との間は、未乾燥塗膜にゴミなどの異物が付着しないように、同じくトンネル形に仕切られた搬送室58が設けられている。蓋物取り外し工程52と搬送室58は、セッティング工程515の一部でもある。
塗装ブース55、搬送室58及び塗装乾燥炉56の床面には、自動車ボディを搭載した塗装台車T1とドア用塗装台車T2を搬送するフロアコンベアC1,C2,C3が敷設されている。塗装ブース55に敷設されたフロアコンベアC1は、自動車ボディを搭載した塗装台車T1とドア用塗装台車T2を一定ピッチ、定速度で搬送するコンベアである。なお図2において、その左下の凡例に示すように、本例の上塗り塗装工程51では、ドアサブアッセンブリDをボディシェルSに仮付けした自動車ボディBを搭載した状態の塗装台車T1(黒色の塗り潰しの「蓋物付きボディ」で示す)と、何も搭載しないドア用塗装台車T2(塗り潰しのない「空台車」で示す)とを交互に搬送するので、通常の上塗り塗装工程における搬送ピッチよりも短いピッチとすることができる。すなわち、通常の上塗り塗装工程では、連続する自動車ボディに対して一方の自動車ボディに吹き付けた塗料のダストが他方の自動車ボディに飛散しないように、一定の間隔(ピッチ)を設定する必要がある。しかしながら本例では、自動車ボディBを搭載した塗装台車T1は、その前後にそれぞれ空のドア用塗装台車T2が介在するので、搬送ピッチを短くしても一つの自動車ボディBに吹き付けた塗料のダストが他の自動車ボディにまで飛散するのを防止することができる。したがって、なるべく搬送ピッチを短くして時間当たりの生産台数を多くすることが望ましい。
塗装ブース55の終端に連続する搬送室58の床面には、フロアコンベアC1に連続してフロアコンベアC2が敷設されている。このフロアコンベアC2は、塗装台車T1,T2の方向を180°変換するためのターンテーブルと、図2に示すように塗装台車T1,T2を横方向に搬送するトラバーサとを含んで構成されている。また、塗装乾燥炉56の床面にはフロアコンベアC3が敷設されている。このフロアコンベアC3は、塗装ブース55のフロアコンベアC1と同様に、自動車ボディを搭載した塗装台車T1とドアサブアッセンブリを搭載してドア用塗装台車T2を一定ピッチ、定速度で搬送するコンベアである。ただし、塗装乾燥炉56内では塗装ブース55内のように塗料のダスト飛散のおそれがないので、塗装ブース55に比べて短いピッチとすることが望ましい。こうすることで塗装乾燥炉56の長さを最短にし且つ生産性を高めることができる。
なお、下塗り工程1の蓋物取り外し工程13及び蓋物取り付け工程15、並びに中塗り工程3の蓋物取り外し工程32及び蓋物取り付け工程34は設けないものとすると、ドア用塗装台車T2は、塗装ブース55だけで使用されるので、塗装乾燥炉56の出口から塗装ブース55の入口に向かって空のドア用塗装台車T2を搬送するフロアコンベアC4が敷設されている。この塗装乾燥炉56のフロアコンベアC3から分岐したフロアコンベアC4により、蓋物取り付け工程54にて空となったドア用塗装台車T2は、塗装ブース55の入口まで搬送され、フロアコンベアC1に合流し、自動車ボディBが搭載された自動車ボディ用塗装台車T1と交互に塗装ブース55に投入される。
次に、本例の上塗り工程5の蓋物取り外し工程52と蓋物取り付け工程54について説明する。蓋物取り外し工程52の左右のそれぞれには、4機ずつロボット521,522が配置されている。図9は、このうちの左サイドに配置された2機のロボット521,522のみを示す斜視図である。これら一対のロボット521,522のうち、一方のロボット521がフロントドアDF又はリヤドアDRを開くとともにこれを把持し、他方のロボット522が仮付けされたヒンジピンH3を引き抜く。これにより、フロントドアDF又はリヤドアDRは、ボディシェルSから取り外されることになる。なお、図6に示すように、フロントドアDF及びリヤドアDRのインナパネルには相当の大きさの作業孔D1が複数形成され、これら作業孔D1は完成車の状態ではドアインナトリム部品により隠蔽される。したがって、フロントドアDF及びリヤドアDRは、未乾燥の上塗り塗膜が形成されているものの、ドアインナトリム部品で隠蔽される部分を把持しても見栄え上何ら問題はないことから、ロボット521はこの作業孔D1を利用してフロントドアDF及びリヤドアDRを把持すればよい。
そして、蓋物取り外し工程52の前段左右の4機のロボット521,522によりフロントドアDFを取り外し、後段左右の4機のロボット521,522によりリヤドアDRを取り外す。上塗り準備工程511に搬入された自動車ボディBは、図10Aに示すようにボディシェルSにフロントドアDF及びリヤドアDRが仮付けされた状態で塗装台車T1に搭載され、ベース塗装工程512、フラッシュオフ工程513、クリヤ塗装工程514及びセッティング工程515と搬送されて塗装処理が施されるが、蓋物取り外し工程52を通過すると、図10Bに示すように自動車ボディ用塗装台車T1にはボディシェルSのみが搭載されることになる。
ボディシェルSからフロントドアDF及びリヤドアDRを取り外した4機のロボット521は、それぞれフロントドアDF及びリヤドアDRを把持したまま次のドア用塗装台車T2が到着するのを待機する。図8は、ドア用塗装台車T2の一例を示す斜視図であり、フレームT21の下面に4つの車輪が設けられているが同図ではフレームに隠れて見えない(図11参照)。フレームT21の上面には2つを一対とする支持棒T23が全部で4対設けられている。この支持棒T23の上端は折り曲げられ、図6に示す上側の作業孔D1などに引っ掛けることで、図11に示すようにフロントドアDF及びリヤドアDRを支持する。このドア用塗装台車T2についても、支持棒T23に接触する部位は、ドアインナトリム部品などによって完成車状態では隠蔽する部位であることが望ましい。
取り外したフロントドアDF及びリヤドアDRを把持したロボット521,521は、ドア用塗装台車T2が蓋物取り外し工程52に到着すると、ドアインナパネルの作業孔D1にドア用塗装台車T2の支持棒T23を引っ掛けたのち当該フロントドアDF及びリヤドアDRを放す。これにより、4つのドアDF,DRは、図11に示すようにドア用塗装台車T2に搭載されることになる。
図1に戻り、塗装ブース55の出口の蓋物取り外し工程52には、フロントドアDF及びリヤドアDRが仮付けされた自動車ボディB(塗装台車T1)と、空のドア用塗装台車T2が交互に搬送されてくるが、この蓋物取り外し工程52を通過した搬送室58及び塗装乾燥炉53においては、図10Bに示すボディシェルSが搭載された塗装台車T1と、図11に示すフロントドアDF及びリヤドアDRが搭載されたドア用塗装台車T2が交互に搬送されることになる。
蓋物取り付け工程57の左右のそれぞれには、4機ずつロボット571,572が配置されている。これら一対のロボット571,572のうち、一方のロボット571がドア用塗装台車T2に搭載されたフロントドアDF又はリヤドアDRを把持するとともにボディシェルSのドア開口部に持ち運び、他方のロボット572が仮付け用のヒンジピンH3を差し込む。これにより、フロントドアDF又はリヤドアDRは、ボディシェルSに再び仮付けされることになる。蓋物取り付け工程54を通過すると、ボディシェルSにフロントドアDF及びリヤドアDRが仮付けされた自動車ボディが塗装台車T1に搭載された状態となり、またそれまでフロントドアDF及びリヤドアDRが搭載されていたドア用塗装台車T2は空台車となってフロアコンベアC4により塗装ブース55の入口へ搬送される。なお、蓋物取り付け工程54はトンネル形の処理室57にて行われるが、トンネル形に仕切られた処理室57を設けずに、塗装乾燥炉56の出口のフロア上で蓋物取り付け工程54を行ってもよい。
また、蓋物取り外し工程52において、ボディシェルSから取り外したフロントドアDF及びリヤドアDRは、次のドア用塗装台車T2に搭載してもよいが、前のドア用塗装台車T2に搭載してもよい。この場合には、蓋物取り付け工程54において、前のドア用塗装台車T2に搭載されたフロントドアDF及びリヤドアDRを把持して次の塗装台車T1に搭載されたボディシェルSに当該フロントドアDF及びリヤドアDRを仮付けすればよい。さらに、蓋物取り付け工程52は、塗装ラインTLに設ける以外にも車両組立ラインに設けてもよい。この場合には、ボディシェルSとフロントドアDF及びリヤドアDRとに対して個別に塗装検査及び補修を行い、それぞれを車両組立ラインへ搬送する。
以上のように、本例の塗装方法によれば、上塗り塗料を塗布した自動車ボディBからフロントドアDF及びリヤドアDRを取り外して別のドア用塗装台車T2に移載し、ボディシェルSとフロントドアDF及びリヤドアDRとを別個に塗装乾燥炉53に投入して焼付乾燥する。したがって、ボディシェルSのドア開口部やフロントドアDF及びリヤドアDRのドアインナ部など、仮付けした状態では狭隘又は狭窄な部位であり、塗装乾燥炉53の輻射熱や温風が直接当たらない部位が、外部に露呈することになる。その結果、温調媒体などがこれらの部位に接触し易くなって昇温速度が大きくなり、通常よりも短時間で所定の乾燥条件、たとえば140℃×20分を満足することができる。
また本例の塗装方法では、上塗り塗料の塗布を完了するまではフロントドアDF及びリヤドアDRをボディシェルSに仮付けした状態で行うため、フロントドアDF及びリヤドアDRとその周辺のフェンダパネルやクォータパネルとの塗色差(メタリック感や色相など)を一致させることができる。既述したとおり、蓋物部品をボディシェルと別工程で塗装する技術も提案されているが、こうすると特に上塗り塗装の塗色差(色目)の不一致がネックとなる。これに対して、本例の塗装方法によれば、色目を一致させつつ狭隘又は狭窄な部位の乾燥環境を改善することができる。
《他の実施形態》
図2に示す実施形態では、蓋物取り外し工程52の後の塗装乾燥炉56に、ボディシェルSが搭載された塗装台車T1とフロントドアDF及びリヤドアDRが搭載された塗装台車T2とを交互に整列して直列的、すなわち1本の塗装乾燥炉56に搬入したが、図3及び図4に示すように、ボディシェルSが搭載された塗装台車T1のみを直列に整列させるとともにフロントドアDF及びリヤドアDRが搭載された塗装台車T2のみを直列に整列させ、これらを塗装乾燥炉56に並列に搬送してもよい。そしてこの場合に、図3に示すように、同じ炉体の塗装乾燥炉56内に並列のフロアコンベアC3を敷設して、ボディシェルSのラインとフロントドアDF及びリヤドアDRのラインとを並列に設けるほか、図4に示すように、別の炉体で構成された異なる塗装乾燥炉56の一方をボディシェルSのラインとし、他方をフロントドアDF及びリヤドアDRのラインとしてもよい。
上記フロントドアDF及びリヤドアDRは本発明に係る蓋物部材に相当し、上記上塗り塗装工程51は本発明に係る第1工程に相当し、上記蓋物取り外し工程52は本発明に係る第2工程に相当し、上記上塗り乾燥工程53は本発明に係る第3工程に相当し、上記蓋物取り付け工程54は本発明に係る第4工程に相当する。