JP7011987B2 - Ni基溶接金属及び溶接構造物 - Google Patents

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Description

本発明は、腐食環境で使用可能な耐SCC性に優れるNi基溶接金属、及び、これを用いた溶接構造物に関する。
沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor:BWR)や、加圧水型原子炉(Pressurized Water Reactor:PWR)では、配管、構造材、機器等に施行された溶接部に、約300℃に達する高温・高圧の原子炉水が接液し得る。また、原子炉水中には、放射線の作用で、腐食を促進する各種のラジカルが発生する。原子炉内の溶接部には、このような過酷な腐食環境で残留応力が作用するため、応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking:SCC)に対して、種々の観点から対策が講じられている。
応力腐食割れに対する対策としては、水素注入、貴金属注入等の水化学的手法で腐食環境を緩和する技術が知られている。また、熱処理や冷却処理、ピーニング等を施して引張残留応力を除去する技術も知られている。また、材料自体の改良も行われており、C量を減らして耐SCC性を付与した低炭素ステンレス鋼や、Nbを添加して固溶C量を低減したNi基合金等も開発されている。
溶接材料としては、原子炉の炉内構造物の支持部、原子炉圧力容器の貫通部やノズル部等をはじめとして、耐熱性や耐食性に優れるNi基溶接金属が用いられている。Ni基溶接金属は、炭素が固溶し難く、靭性が良好で熱疲労にも強いため、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼等の異材溶接にも用いられている。Ni基合金の溶接には、ティグ溶接、ミグ溶接、被覆アーク溶接等が用いられてきたが、電子ビーム溶接、レーザ溶接等も利用されるようになっている。
従来、原子炉内の溶接部には、Ni基溶接金属として、76Ni-15Cr-8Fe等の600系合金相当の溶接金属が使用されてきた。600系合金相当の溶接金属としては、ティグ溶接等の用途に82合金、被覆アーク溶接等の用途に182合金があり、耐熱性や耐食性が良好であるとされていた。ところが、近年、原子力発電所の一次冷却系において、600系合金相当の溶接金属を用いた溶接部にも、応力腐食割れが発生した事例が報告されるようになった。
このような状況下、近年では、600系合金相当の溶接金属に代替する溶接材料として、Cr量を増やして耐SCC性を向上させた62Ni-29Cr-9Fe等の690系合金相当の溶接金属が普及しつつある。従来、690系合金相当のNi基溶接金属や、690系合金相当のNi基合金に関して、耐食性、耐SCC性、耐溶接割れ性等を、化学組成を制御して向上させる技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、重量%で、Cr:26~約30%、Fe:2~約4%、Mn:2~約4%、Nb:2~約3%、Mo:1~約3%、Ti:0.6%以下、C:0.03%以下、N:0.05%以下、Al:0.6%以下、Si:0.5%以下、Cu:0.01%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、残部がNi及び不可避的不純物からなる溶接材料が記載されている(請求項16参照)。
また、特許文献2には、質量%で、Cr:29~37%、Al:0.001~1.8%、Fe:0.10~7.0%、Si:0.001~0.50%、Mn:0.005~2.0%、Ti:0.00~1.00%及び/又はNb:0.00~1.10%、Mg及び/又はCa:それぞれ0.0002~0.05%、C:0.005~0.12%、N:0.001~0.050%、P:0.001~0.030%、O:0.0001~0.020%、S:最大0.010%、Mo:最大2.0%、W:最大2.0%、残部がNi及び不可避的不純物からなる合金が記載されている(請求項1参照)。
また、特許文献3には、重量%で、C:0.04%以下、Si:0.01~0.5%、Mn:7%以下、Cr:28~31.5%、Nb:0.5%以下、Ta:0.005~3.0%、Fe:7~11%、A1:0.01~0.4%、Ti:0.01~0.45%、V:0.5%以下を含有し、不可避不純物としてP:0.02%以下、S:0.015%以下、0:0.01%以下、N:0.002~0.1%を含有し、残部がNiからなる組成を有する溶加材が記載されている(請求項1参照)。
また、特許文献4には、質量%で、Cr:28.5~31.0%、Fe:11%以下、Mn:1.0%未満、Nb+Ta:2.1~4.0%、Mo:7.0%以下、Si:0.50%未満、Ti:0.35%以下、Al:0.25%以下、Cu:0.20%未満、W:1.0%未満、Co:0.12%未満、Zr:0.10%未満、S:0.01%未満、B:0.01%未満、C:0.03%未満、P:0.02%未満、Mg+Ca:0.002~0.015%を含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなる溶化材が記載されている(請求項6参照)。
特表2013-527805号公報 特表2015-520300号公報 国際公開第2005/070612号 国際公開第2008/021650号
従来、600系合金相当の溶接金属については、耐SCC性を評価するための評価指標が確立しており、化学成分の濃度範囲と耐SCC性の発現に必要な濃度範囲との対応が良好であった。一方、新しく普及しつつある690系合金相当の溶接金属については、評価指標が規格化されてなく十分に確立していない現状がある。そのため、適切な化学組成を自在に選定することができず、優れた耐SCC性を安定して確保することができなかったり、選定できる化学組成の範囲が制約されたりする問題が生じている。
そこで、本発明は、耐SCC性に優れ、腐食環境に晒される溶接部の健全性を保つことができるNi基溶接金属、及び、これを用いた溶接構造物を提供することを目的とする。
前記課題を解決するために本発明に係るNi基溶接金属は、Cr:26質量%以上32質量%未満、C:0.01質量%以上0.055質量%以下、Mn:5.0質量%以下、Fe:17.0質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.02質量%以下、Si:5.0質量%以下、Cu:3.0質量%以下、Co:32.0質量%以下、Al:5.0質量%以下、Mo:7.0質量%以下であり、Nb、Ta及びTiのうちの一種以上を含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなり、Nbの濃度(質量%)を[%Nb]、Taの濃度(質量%)を[%Ta]、Tiの濃度(質量%)を[%Ti]としたとき、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]が、4.32以下である。また、本発明に係る溶接構造物は、前記のNi基溶接金属で溶接部が形成される。
本発明によれば、耐SCC性に優れ、腐食環境に晒される溶接部の健全性を保つことができるNi基溶接金属、及び、これを用いた溶接構造物を提供することができる。
Ni基溶接金属の安定化パラメータ(mNBar値)と粒界侵食速度との関係を示す図である。 Ni基溶接金属の安定化パラメータ(mNBar値)と最大き裂深さ・ビッカース硬さとの関係を示す図である。 Ni基溶接金属の添加元素濃度とビッカース硬さ・SCCモードとの関係を示す図である。 Ni基溶接金属のCr濃度とき裂進展速度との関係を示す図である。 Fe-Cr-Niの800℃における三元系状態図である。 Fe-Cr-Niの650℃における三元系状態図である。 オーステナイト単相が安定になるCr濃度の上限値と温度との関係を示す図である。 Ni基溶接金属のCr濃度と添加元素濃度との関係を示す図である。 本発明に係るNi基溶接金属の化学組成と一般的な溶接金属の化学組成との異同関係を示す図である。
以下、本発明の一実施形態に係るNi基溶接金属、及び、これを用いた溶接構造物について、図を参照しながら説明する。なお、本明細書において、「~」で示す数値範囲は、それらの数値を下限値と上限値として含む数値範囲を意味する。
本実施形態に係るNi基溶接金属は、ニッケルを主体とするNi-Cr-Fe系合金であり、溶接による溶融及び凝固によって溶接部を形成する金属である。このNi基溶接金属は、溶接で母材の一部と一体化した溶接金属の形態や、溶接部に移行しているが母材と一体化していない溶着金属の形態や、溶接材料の形態のうち、いずれの形態で用いられてもよい。溶接材料としては、棒状、板状、帯状、粉体状等の適宜の溶化材や、フラックス入り溶化材や、消耗電極等のいずれであってもよい。
本実施形態に係るNi基溶接金属は、690系合金相当の化学組成を有しており、主成分のNiに加えて、24~32質量%のCrと、Nb、Ta及びTiのうちの一種以上を少なくとも含有している。このNi基溶接金属では、Nbの濃度(質量%)を[%Nb]、Taの濃度(質量%)を[%Ta]、Tiの濃度(質量%)を[%Ti]としたとき、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]が、後記する安定化パラメータ(mNBar値)に基づいて、4.32以下に制限される。
本実施形態に係るNi基溶接金属では、Nb、Ta及びTiのうちの一種以上が、安定化パラメータ(mNBar値)に基づいて制限された濃度範囲となるように添加されることで、粒界型応力腐食割れ(Inter-granular Stress Corrosion Cracking:IGSCC)、及び、粒内型応力腐食割れ(Trans-granular Stress Corrosion Cracking:TGSCC)のいずれもが抑制される。
一般に、溶接部の応力腐食割れ(SCC)は、金属組織に鋭敏化等を生じる材料的な因子と、溶接時の凝固に伴って溶接部の周辺に生じる引張残留応力と、腐食電位等の環境因子が重畳することによって発生するとされている。粒界の鋭敏化は、結晶粒界にCr炭化物が析出して、その近傍にCr欠乏層を生じる現象であり、IGSCCを発生、進展させる一因とされている。
一方、TGSCCは、300Hv程度以上の硬化部位で発生、進展することが、原子力発電所の一次冷却系における事例等で広く確認されている。TGSCCは、溶接時に硬化が進行する熱影響部や、溶接後に加工歪みが導入される強加工部位で、発生し易くなると考えられている。
690系合金相当の溶接金属として一般的な52合金や152合金は、600系合金と比較してCr量が多く、耐SCC性が良好である。しかしながら、従来、690合金相当の溶接金属については、耐SCC性の評価指標が規格化されていない。また、耐SCC性の評価に妥当な試験法も必ずしも統一されていない。そのため、現状では、690合金相当の濃度範囲と、優れた耐SCC性の発現に必要な濃度範囲とが、良好な対応関係になく、化学組成の選定の適切さや、選定の自由度が、確保され難い状態になっている。
そこで、本実施形態では、690系合金相当のNi基溶接金属に関して、優れた耐SCC性を発現する化学組成を正しく選定できるようにするために、化学成分の濃度関係を規定する安定化パラメータ(mNBar)を導入し、3種の添加元素(Nb、Ta及びTi)の濃度を制限する。安定化パラメータ(mNBar)は、次の数式(I)で表される。
Figure 0007011987000001
数式(I)中、[%Nb]はNb濃度(質量%)、[%Ta]はTa濃度(質量%)、[%Ti]はTi濃度(質量%)、[%C]はC濃度(質量%)、[%Cr]はCr濃度(質量%)である。
Nb、Ta及びTiの3種の添加元素は、溶接金属中で炭化物を形成するため、Cr炭化物の析出による鋭敏化を抑制する作用を示す。そのため、安定化パラメータ(mNBar)を導入して濃度を制限すると、主要なSCCモードであるIGSCCを防止することができる。
数式(I)は、炭素の原子数に対する3種の添加元素(Nb、Ta及びTi)の原子数の比を、Cr濃度の関数として補正したものである。数式(I)のCr濃度項は、以下の図1と同様に、既存の9種のNi基溶接金属を粒界腐食試験に供し、粒界侵食速度の測定結果にフィッティングさせて導出したものである。はじめに、Cr濃度項をA×(B)iで表される変数と仮定しておき、測定結果にフィッティングさせて変数を調整している。
図1は、Ni基溶接金属の安定化パラメータ(mNBar値)と粒界侵食速度との関係を示す図である。
図1において、縦軸は、Ni基溶接金属を粒界腐食試験に供して測定した粒界侵食速度(Inter-granular Penetration rate:IGP)値、横軸は、Ni基溶接金属について計算したmNBar値(フィッティング後の数式(I))を示す。●のプロットは、既存の6種類の690系合金相当の溶接金属(52溶接合金、152溶接合金)のそれぞれを供試材とした場合の結果であり、○のプロットは、既存の3種類の600系合金相当の溶接金属(82溶接合金、182溶接合金)のそれぞれを供試材とした場合の結果である。
粒界腐食試験は、各供試材のビードオン試験片を作製し、ASTM G28規格に準拠した改良ストライカ試験に供して行った。通常の規格条件では全面腐食が進行する可能性があるため、硫酸(ρ20=1.84g/mL)280mLを720mLの蒸留水に添加した50%硫酸に、通常の2倍量に相当する50gの硫酸鉄(II)を添加し、その沸騰溶液中に試験片を24時間浸漬した。その後、低値で検出性が低い腐食減量測定に代えて、試験片の断面の顕微鏡観察を行い、24時間後の最大の粒界侵食深さを測定した。
図1に示すように、mNBar値が大きいほど、IGP値が低下し、mNBar値が8を超えると、IGP値が顕著に小さい値となっている。mNBar値は、既存の600系及び690系のいずれについても、IGP値と良い相関を示しており、Ni基溶接金属の耐SCC性の評価指標として有効であることが分かる。mNBar値が8以上のNi基溶接金属には、優れた耐SCC性が備わるといえる。数式(I)を用いた外挿によると化学組成の選定の範囲を拡張することができるといえる。
図2は、Ni基溶接金属の安定化パラメータ(mNBar値)と最大き裂深さ・ビッカース硬さとの関係を示す図である。
図2において、左軸は、Ni基溶接金属を隙間付き定歪み曲げ試験(Creviced bent beam test:CBB試験)に供して測定した最大き裂深さ(長さ)、右軸は、Ni基溶接金属のビッカース硬さ(Hv5)、横軸は、Ni基溶接金属のmNBar値を示す。■のプロットは、ビッカース硬さの測定結果であり、●のプロットは、IGSCCの最大き裂深さの測定結果であり、○のプロットは、TGSCCの最大き裂深さの測定結果である。供試材は、いずれも、690系合金相当の溶接金属である。
CBB試験は、幅2mm×長さ10mm×厚さ0.2mmの各供試材のビードオン試験片を作製し、加速腐食試験に供して行った。試験片は、グラファイトウールで隙間を付け、1%の曲げ歪みを付与して試験治具に取り付けた。原子炉水の溶存酸素濃度としては約200ppb、過酸化水素濃度としては100~1000ppb、導電率としては0.1μS/cmが想定される。そのため、腐食条件は、溶存酸素濃度:約40ppm、過酸化水素濃度:約20ppm、硫酸イオン濃度:約100ppm、導電率:20μS/cm以下とし、この条件で循環させている高温・高圧の純水中に、試験片を最長4000時間浸漬した。その後、試験片の断面の顕微鏡観察を行い、最大き裂深さを測定した。
図2に示すように、mNBar値が大きいほど、IGSCCの最大き裂深さが小さくなることが分かる。一般に、IGSCCの最大き裂深さが50μm以下であれば、き裂がそれ以上に進展し難いため、優れた耐SCC性を備えていると評価できる。これに対し、図中でIGSCCの最大き裂深さが50μm以下になるのは、mNBar値が8以上のときである。一方、mNBar値が大きいと、析出硬化によって硬さが上昇し、mNBar値が約35のとき、約300Hvの硬さとなってTGSCCを生じることが分かる。
図2に示す結果によると、Ni基溶接金属のmNBar値の好ましい範囲は、IGSCCとTGSCCの両方を防止する観点から、次の数式(II)を満たす範囲である。
Figure 0007011987000002
図3は、Ni基溶接金属の添加元素濃度とビッカース硬さ・SCCモードとの関係を示す図である。
図3において、縦軸は、Ni基溶接金属の試験片のビッカース硬さ(Hv5)、横軸は、Ni基溶接金属の3種の添加元素(Nb、Ta及びTi)の濃度(質量%)を合算した計算値(数式(I)の部分変数の計算値)を示す。●のプロットは、690系合金相当の溶接金属のうち、IGSCCの発生、進展が確認されたがTGSCCが発生しなかった供試材の結果、○のプロットは、既存の600系合金相当の溶接金属であり、IGSCCの発生、進展が確認されたがTGSCCが発生しなかった供試材の結果、◆のプロットは、690系合金相当の溶接金属のうち、TGSCCが発生した供試材の結果である。
図3に示すように、Ni基溶接金属において、添加元素(Nb、Ta及びTi)の濃度が高くなると、析出硬化によって硬さが上昇し、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]≒5.3である690系にTGSCCが発生することが確認された。一方、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]≒4.32であり、硬さが約300Hvである600系や、硬さがより小さい690系では、IGSCCについては発生するものの、TGSCCについては発生しなかった。
図3に示す結果によると、Ni基溶接金属の3種の添加元素(Nb、Ta及びTi)の濃度を合算した計算値([%Nb]+[%Ta]+2[%Ti])の好ましい範囲は、析出硬化を抑制してTGSCCを防止する観点から、次の数式(III)を満たす範囲である。
Figure 0007011987000003
図4は、Ni基溶接金属のCr濃度とき裂進展速度との関係を示す図である。
図4において、縦軸は、Ni基溶接金属(182溶接合金、82溶接合金)におけるき裂進展速度(Crack Growth Rate:CGR)値、横軸は、Ni基溶接金属のCr濃度(質量%)を示す。図4は、公知文献(G. A. Young, et al., 13th International Conference on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems, 2007, p808-831)の試験結果を引用したものである。
□のプロットは、680°F、溶存水素濃度:20scc/kg-H2の腐食条件の下、応力拡大係数:45ksi(in)0.5、試験温度:360℃、試験時間:221日間として測定した結果であり、○のプロットは、640°F、溶存水素濃度:20scc/kg-H2の腐食条件の下、応力拡大係数:40ksi(in)0.5、試験温度:360℃、試験時間:95日間として測定した結果である。矢印を付したプロットは、SCCが発生しなかったことを示す。
図4に示すように、Cr濃度が高くなると、SCCのき裂進展速度は小さくなることが、公知文献で報告されている。き裂進展速度は、Cr濃度が19質量%を超えると急激に低下し、24質量%以上になると略一定になっている。□のプロットで示される過酷条件においても、Cr濃度が24質量%以上であれば、十分な水準の耐SCC性が得られることが分かる。
図4に示す結果によると、Ni基溶接金属のCr濃度([%Cr])の好ましい範囲は、SCCの進展を抑制して高耐食化させる観点から、次の数式(IV)を満たす範囲である。
Figure 0007011987000004
図5は、Fe-Cr-Niの800℃における三元系状態図である。図6は、Fe-Cr-Niの650℃における三元系状態図である。また、図7は、オーステナイト単相が安定になるCr濃度の上限値と温度との関係を示す図である。
図5及び図6に示すように、Ni-Cr-Fe系合金は、フェライト安定化元素であるCrの濃度が高いと、オーステナイト相(γ相)とフェライト相(α相)との混相になり、靭性や耐食性が低下する。そのため、Ni基溶接金属のCr濃度は、オーステナイト単相が安定になる上限値以下に調整することが好ましい。
690系合金相当の一般的な溶接金属は、Fe濃度が2~17質量%の範囲にある。このFe濃度の下限値2質量%を考慮すると、三元系状態図から、オーステナイト相の単相組織が安定に形成されるときのCr濃度の上限値を求めることができる。図5に示す800℃では、実線で示すように、Fe濃度が2質量%であるとき、α’+γ領域とγ領域との相境界線に対する交点から、Cr濃度の上限値として、35.4質量%が導かれる。また、図6に示す650℃では、同様に、Cr濃度の上限値として、34.4質量%が導かれる。
これらCr濃度の上限値と温度との関係を直線近似すると、図7に示すように回帰線が得られる。原子炉水の最高温度としては、約300℃が想定されるため、回帰線に内挿すると、オーステナイト単相を安定させるために必要なCr濃度の上限値として、約32質量%が導かれる。
図7に示す結果によると、Ni基溶接金属のCr濃度([%Cr])の好ましい範囲は、オーステナイト相の単相組織を得る観点から、次の数式(V)を満たす範囲である。
Figure 0007011987000005
以上の数式(II)、(III)、(IV)及び(V)に基づくと、Ni基溶接金属は、優れた耐SCC性とオーステナイト相の単相組織を備える観点から、Cr濃度が24~32質量%であり、3種の添加元素(Nb、Ta及びTi)の濃度を合算した計算値([%Nb]+[%Ta]+2[%Ti])が4.32以下に制限されることが好ましいといえる。
なお、本実施形態に係るNi基溶接金属は、添加元素として、Nb、Ta及びTiのうちの一種を添加してもよいし、複数種を添加してもよい。また、Ni、Cr、Feや、3種の添加元素(Nb、Ta及びTi)の他に、他の元素を含有してもよい。以下、Ni基溶接金属に添加することができる化学成分や、Ni基溶接金属が含有することを許容される化学成分について具体的に説明する。
(炭素:C)
Cは、オーステナイト相を安定化し、硬さ、強度等の向上に寄与する。しかし、C量が多すぎると、炭化物の過剰な析出によって、耐SCC性や靭性が低下する。よって、C量は、0.01質量%以上が好ましい。また、0.15質量%以下が好ましく、0.10質量%以下がより好ましく、0.06質量%以下が更に好ましく、0.04質量%以下が更に好ましい。Cを添加する場合、C量は、0.02質量%以上、好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.15質量%以上、且つ、0.3質量%以下、好ましくは0.25質量%以下、より好ましくは0.20質量%以下等とすることができる。
(マンガン:Mn)
Mnは、脱酸剤として働き、オーステナイト相を安定化し、耐高温割れ性等の向上に寄与する。しかし、Mn量が多すぎると、延性や靭性が低下する。よって、Mn量は、4.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、2.0質量%以下が更に好ましく、1.5質量%以下が更に好ましく、1.0質量%以下が更に好ましい。Mnを添加する場合、Mn量は、1.0質量%以上、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上、且つ、5.0質量%以下、好ましくは4.0質量%以下等とすることができる。
(鉄:Fe)
Feは、オーステナイト相を安定化し、硬さ、強度等の向上に寄与する。しかし、Fe量が多すぎると、σ相、ラーベス相等を析出して延性や靭性が低下したり、割れ感受性が高くなったりする。よって、他の合金元素を添加する場合、Fe量は、1.0質量%以上が好ましく、2.0質量%以上がより好ましく、2.5質量%以上が更に好ましい。また、7.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が更に好ましい。Feで高強度化を図る場合、Fe量は、7.0質量%以上が好ましく、8.0質量%以上がより好ましく、9.0質量%以上が更に好ましく、10.0質量%以上が更に好ましい。また、17.0質量%以下が好ましく、14.0質量%以下がより好ましく、11.0質量%以下が更に好ましい。
(リン:P)
Pは、不可避的不純物であり、凝固割れ、液化割れ等を含む高温割れの感受性を増大させる。よって、P量は、0.04質量%以下が好ましく、0.03質量%以下がより好ましく、0.02質量%以下が更に好ましい。
(硫黄:S)
Sは、不可避的不純物であり、凝固割れ、液化割れ等を含む高温割れの感受性を増大させる。よって、S量は、0.02質量%以下が好ましく、0.015質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下が更に好ましい。
(ケイ素:Si)
Siは、脱酸剤として働き、耐酸化性、濡れ性等の向上に寄与する。しかし、Si量が多すぎると、靭性、耐食性、溶接性が低下し、割れ感受性が高くなる。よって、Si量は、1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。Siを添加する場合、Si量は、1.0質量%以上、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、且つ、5.0質量%以下、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下等とすることができる。
(銅:Cu)
Cuは、オーステナイト相を安定化し、硬さ、強度等の向上に寄与する。しかし、Cu量が多すぎると、延性、耐食性、溶接性が低下する。よって、Cu量は、1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。Cuを添加する場合、Cu量は、0.5質量%以上、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、且つ、3.0質量%以下、好ましくは2.0質量%以下等とすることができる。
(コバルト:Co)
Coは、オーステナイト相を安定化し、溶接性等の向上に寄与する。しかし、Co量が多すぎると、σ相を析出して延性や靭性が低下したり、放射線環境下において放射化したりする。よって、Co量は、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましい。Coを添加する場合、Co量は、27.0質量%以上、好ましくは28.0質量%以上、且つ、32.0質量%以下、好ましくは31.0質量%以下等とすることができる。
(アルミニウム:Sol・Al)
Alは、脱酸剤として働き、耐酸化性等の向上に寄与する。しかし、Al量が多すぎると、靭性や溶接性が低下する。よって、Al量は、1.5質量%以下が好ましく、1.3質量%以下がより好ましく、1.1質量%以下が更に好ましく、0.8質量%以下が更に好ましく、0.6質量%以下が更に好ましい。Alを添加する場合、Al量は、1.0質量%以上、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、且つ、5.0質量%以下、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下等とすることができる。
(チタン:Ti)
Tiは、炭化物を析出して鋭敏化を妨げる他、脱酸剤として働き、耐高温割れ性等の向上に寄与する。しかし、Ti量が多すぎると、過剰な炭化物を析出して靭性、耐食性が低下したり、溶接性が低下したり、割れ感受性が高くなったりする。よって、Tiを添加する場合、Ti量は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.4質量%以上が更に好ましく、0.6質量%以上が更に好ましく、1.0質量%以上が更に好ましい。また、2.16質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が更に好ましい。
(ニオブ,タンタル:Nb,Ta)
NbやTaは、炭化物を析出して鋭敏化を妨げる他、耐高温割れ性等の向上に寄与する。しかし、Nb量やTa量が多すぎると、過剰な炭化物や金属間化合物を析出して靭性、耐食性が低下したり、割れ感受性が高くなったりする。よって、Nb量及びTa量の合計は、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、1.0質量%以上が更に好ましく、1.5質量%以上、2.0質量%以上等とすることもできる。また、Nb量及びTa量の合計は、4.32質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましく、3.5質量%以下が更に好ましく、3.0質量%以下、2.5質量%以下等とすることもできる。
(モリブデン:Mo)
Moは、硬さ、強度、耐酸化性、耐食性等の向上に寄与する。しかし、Mo量が多すぎると、偏析して靭性や耐食性が低下したり、割れ感受性が高くなったりする。よって、Mo量は、2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、0.7質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。Moを添加する場合、Mo量は、1.0質量%以上、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上、更に好ましくは4.0質量%以上、且つ、7.0質量%以下、好ましくは6.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下等とすることができる。
(その他の添加元素)
Ni基溶接金属は、以上の元素の他に、目的に応じて、その他の添加元素が添加されてもよい。その他の添加元素としては、例えば、W、Mg、Ca、V、Zr、B、N等が挙げられる。その他の添加元素は、合計の濃度が0.50質量%以下であることが好ましい。BやNの濃度は、それぞれ、0.05質量%以下が好ましく、0.03質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下が更に好ましい。
(不可避的不純物)
Ni基溶接金属は、意図的に添加される添加元素を除く残部が、Ni及び不可避的不純物からなる。不可避的不純物としては、Ni基溶接金属の原料中に混入している不純物や、Ni基溶接金属の製造過程で混入する不純物や、被溶接材から浸入する不純物等があり、例えば、意図的に添加されない前記の各元素の他、Sn、Pb、O等が挙げられる。不可避的不純物は、各元素毎の濃度が0.05質量%以下、合計の濃度が0.50質量%以下であれば含有することを許容される。
次に、本実施形態に係るNi基溶接金属の化学組成と、690系合金相当の一般的な溶接金属の化学組成との異同関係について説明する。
図8は、Ni基溶接金属のCr濃度と添加元素濃度との関係を示す図である。
図8において、縦軸は、Ni基溶接金属の3種の添加元素(Nb、Ta及びTi)の濃度(質量%)を合算した計算値(数式(I)の部分変数の計算値)、横軸は、Ni基溶接金属のCr濃度(質量%)を示す。破線は、数式(I)に[%C]=0.01、mNBar値=8を代入した結果、実線は、数式(I)に[%C]=0.01、mNBar値=35を代入した結果、一点鎖線は、数式(I)に[%C]=0.055、mNBar値=8を代入した結果、二点鎖線は、数式(I)に[%C]=0.055、mNBar値=35を代入した結果である。
690系合金相当の一般的な溶接金属は、C濃度が0.25質量%以下の範囲にあり、多くは10-2質量%オーダーの低C量に抑えられている。一方、Ni基溶接金属のmNBar値の好ましい範囲は、数式(II)に示されるように8~35の範囲である。これらの数値を数式(I)に代入すると、図8に示す各曲線が得られる。これらの曲線は、Cr濃度や添加元素濃度について、耐SCC性を確保するにあたって採用し得る許容濃度範囲を示しているといえる。
例えば、C濃度が0.01質量%以上、且つ、mNBar値が最小値8以上のNi基溶接金属では、図8の破線よりも上の領域の濃度が許容される。一方、C濃度が0.055質量%以下であり、且つ、mNBar値が最大値35以下のNi基溶接金属では、二点鎖線よりも下の領域の濃度が許容される。また、mNBar値が最大値35以下であり、C濃度が更に高いNi基溶接金属の場合は、二点鎖線よりも上方の領域の濃度が許容されることになる。
690系合金相当の一般的な溶接金属としては、アメリカ機械学会(American Society of Mechanical Engineers:ASME)規格に、690系合金相当の溶接金属が規定されている。また、特許文献1~4に、690系合金相当の溶接金属や690系合金が記載されている。これらの規格や文献中に示される化学組成の規格値及び文献値を表1に示す。
Figure 0007011987000006
図9は、本発明に係るNi基溶接金属の化学組成と一般的な溶接金属の化学組成との異同関係を示す図である。
図9において、縦軸は、図8と同様に、3種の添加元素(Nb、Ta及びTi)の濃度(質量%)を合算した計算値(数式(I)の部分変数の計算値)、横軸は、Cr濃度(質量%)を示す。図中の太線枠は、図8の破線よりも上の領域のうち、数式(II)、(III)、(IV)及び(V)を満たす領域を示している。また、斜線で網掛けされた領域は、690系合金相当の一般的な溶接金属の規格値、ドットで網掛けされた領域は、690系合金相当の一般的な溶接金属の文献値に相当する(表1参照)。
また、これら690系合金相当の一般的な溶接金属(表1参照)について、3種の添加元素(Nb、Ta及びTi)の濃度(質量%)を合算した計算値と、Cr濃度(質量%)と、図9における領域の符号とを表2に示す。
Figure 0007011987000007
図9において、図8の破線よりも上の領域のうち、数式(II)、(III)、(IV)及び(V)を満たす領域(図9の太線枠)は、優れた耐SCC性とオーステナイト相の単相組織を備えるNi基溶接金属となり得る。この領域のうち、既存の規格値や文献値と重複していない領域は、化学組成の選定の自由度を、従来よりも拡張する領域になるといえる。
すなわち、図9の太線枠内に示されるように、本実施形態に係るNi基溶接金属の好ましい一形態としては、Cr:24質量%以上26質量%未満であり、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]が、0.42以上4.32以下であるNi基溶接金属が挙げられる。
また、本実施形態に係るNi基溶接金属の好ましい他の形態としては、Cr:26質量%以上27質量%未満であり、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]が、1.5を超え2.0未満であるNi基溶接金属が挙げられる。また、Cr:26質量%以上27質量%未満であり、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]が、規格値を除いた3.6を超え4.32以下であるNi基溶接金属や、規格値と文献値とを除いた4.2を超え4.32以下であるNi基溶接金属が挙げられる。
また、本実施形態に係るNi基溶接金属の好ましい他の形態としては、Cr:31質量%を超え31.5質量%以下であり、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]が、規格値のみを除いた3.0を超え4.32以下であるNi基溶接金属が挙げられる。
また、本実施形態に係るNi基溶接金属の好ましい他の形態としては、Cr:31.5質量%を超え32質量%以下であり、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]が、規格値を除いた4.32以下であるNi基溶接金属や、規格値と文献値とを除いた3.1を超え4.32以下であるNi基溶接金属が挙げられる。
なお、以上の本実施形態に係るNi基溶接金属は、溶接金属や溶着金属の形態とされる場合、溶接部の全体が前記の化学組成を満たしていればよい。また、溶化材等の溶接材料の形態とされる場合、溶接材料自体、若しくは、フラックス等で被覆された溶接材料の心材、又は、溶接材料を用いて形成した溶接部の全体が前記の化学組成を満たしていればよい。
本実施形態に係るNi基溶接金属に用いる溶接方法は、特に制限されるものではない。溶接方法としては、例えば、ティグ溶接、ミグ溶接、被覆アーク溶接、サブマージアーク溶接、エレクトロスラグ溶接、電子ビーム溶接、レーザ溶接等の各種の溶接方法を用いることができる。継手種類、開先形状、入熱量、溶接速度、溶接姿勢、ビード形状等は、用途や化学組成等に応じて適宜調整することができる。
また、本実施形態に係るNi基溶接金属によって接合される被溶接材は、特に制限されるものではない。被溶接材としては、例えば、ニッケル基合金、低炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。Ni基溶接金属を被溶接材同士の接合に用いる場合、被溶接材同士は、同材溶接されてもよいし、異材溶接されてもよい。
以上の本実施形態に係るNi基溶接金属によると、24~32質量%のCrを含有し、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]が4.32以下に制限されているため、靭性や延性が良好なオーステナイト相の単相組織となり、IGSCCとTGSCCの両方が抑制される。また、化学組成が耐SCC性の評価指標として有効なmNBarに基づいているため、優れた耐SCC性が備わる化学組成を、より正確に選定することができる。また、化学組成の選定に際して、各成分濃度を自在に選択する自由度も拡張される。そのため、耐SCC性に優れており、腐食環境に晒される溶接部の健全性を長期間にわたって安定的に保つことができるNi基溶接金属が得られる。
次に、以上の本実施形態に係るNi基溶接金属を用いた溶接構造物について説明する。
本実施形態に係る溶接構造物は、被溶接材間を接合する溶接部を有し、溶接部の少なくとも一部が、前記のNi基溶接金属で形成される。溶接構造物の溶接部は、溶接金属や溶着金属の形態のNi基溶接金属、又は、溶接材料の形態のNi基溶接金属によって、24~32質量%のCrと、Nb、Ta及びTiのうちの一種以上と、を少なくとも含有し、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]が4.32以下に制限された化学組成とされる。
本実施形態に係る溶接構造物は、Ni基溶接金属で形成される溶接部が、機械加工や研削加工を施されて、表面の硬化層が除去されていてもよい。また、溶接部は、機械加工や研削加工を施された後、安定化熱処理を施されていてもよい。また、溶接部は、機械加工や研削加工を施された後、ピーニング処理や研磨処理を施されていてもよい。ピーニング処理としては、例えば、ショットピーニング、ウォータジェットピーニング、レーザピーニング等が挙げられる。
本実施形態に係る溶接構造物は、原子力設備の構造材として好適に用いられる。特に、原子炉の炉内構造物として好適であり、高温・高圧の原子炉水が接液する部位に好ましく用いられる。Ni基溶接金属を用いる溶接部は、被溶接材同士を接合する接合部であってもよいし、機能性の付与や補修の目的等で形成される肉盛溶接部であってもよい。
Ni基溶接金属を用いる溶接部の具体例としては、中性子計装検出管、制御棒案内管等が貫通する原子炉圧力容器の底部や下鏡部の貫通部分や、原子炉圧力容器の下鏡部のクラッド部分や、シュラウド、シュラウドサポートシリンダ、シュラウドサポートレグ、シュラウドサポートプレート等で構成される炉心シュラウドの支持部や、その他の計測用のノズル部や、給水入口のノズル部や、再循環水入口のノズル部等が挙げられる。
以上の本実施形態に係る溶接構造物によると、靭性や延性が良好なオーステナイト相の単相組織となり、IGSCCとTGSCCの両方が抑制されるNi基溶接金属で溶接部が形成される。そのため、高放射線量下に晒される原子炉設備の配管、構造材、機器等の健全性を長期間にわたって維持することができる。300℃前後の高温・高圧の原子炉水が接液するような部位についても、応力腐食割れが安定的に阻止される溶接部が得られる。
以上、本発明に係るNi基溶接金属、及び、これを用いた溶接構造物の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。Ni基溶接金属は、主要元素以外の組成、施行法、用途等が、前記の実施形態に必ずしも限定されるものではない。

Claims (5)

  1. Cr:26質量%以上27質量%未満、C:0.01質量%以上0.055質量%以下、Mn:5.0質量%以下、Fe:17.0質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.02質量%以下、Si:5.0質量%以下、Cu:3.0質量%以下、Co:32.0質量%以下、Al:5.0質量%以下、Mo:7.0質量%以下であり、Nb、Ta及びTiのうちの一種以上を含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなり、Nbの濃度(質量%)を[%Nb]、Taの濃度(質量%)を[%Ta]、Tiの濃度(質量%)を[%Ti]としたとき、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]が、1.5を超え2.0未満であるNi基溶接金属。
  2. Cr:26質量%以上27質量%未満、C:0.01質量%以上0.055質量%以下、Mn:5.0質量%以下、Fe:17.0質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.02質量%以下、Si:5.0質量%以下、Cu:3.0質量%以下、Co:32.0質量%以下、Al:5.0質量%以下、Mo:7.0質量%以下であり、Nb、Ta及びTiのうちの一種以上を含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなり、Nbの濃度(質量%)を[%Nb]、Taの濃度(質量%)を[%Ta]、Tiの濃度(質量%)を[%Ti]としたとき、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]が、4.2を超え4.32以下であるNi基溶接金属。
  3. Cr:31.5質量%を超え32質量%以下、C:0.01質量%以上0.055質量%以下、Mn:5.0質量%以下、Fe:17.0質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.02質量%以下、Si:5.0質量%以下、Cu:3.0質量%以下、Co:32.0質量%以下、Al:5.0質量%以下、Mo:7.0質量%以下であり、Nb、Ta及びTiのうちの一種以上を含有し、残部がNi及び不可避的不純物からなり、Nbの濃度(質量%)を[%Nb]、Taの濃度(質量%)を[%Ta]、Tiの濃度(質量%)を[%Ti]としたとき、[%Nb]+[%Ta]+2[%Ti]が、3.1を超え4.32以下であるNi基溶接金属。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のNi基溶接金属で溶接部が形成された溶接構造物。
  5. 原子炉の炉内構造物である請求項4に記載の溶接構造物。
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