本実施例では、石英基板表面に平滑な絶縁膜を形成する工程、、この絶縁膜上に単結晶とみなせる結晶性を有する半導体薄膜を形成する工程、得られた半導体薄膜を用いてTFTを作製する工程を説明する。
図3は本実施例の下地膜の作製工程の説明図である。図3(A)に示すように、安価な低級グレードの石英基板100を用意する。AFM(原子間力顕微鏡)によると、石英基板100の自乗平均面粗さRmsは凡そ1〜1.5nm程度であが、深さ30〜60nmに達し急角度で陥没している凹部101が不規則に存在している。
次に、図3(B)に示すように、石英基板100上に、プラズマCVD法やスッパタ法にて非晶質珪素膜102を形成する。ここではプラズマCVD法にて非晶質珪素膜103を350nmの厚さに成膜する。ここでは図示しないが、非晶質珪素膜103の表面には、図1、2に示すように0基板100の凹部101のため、凹みが生ずる。
次に、図3(C)に示すように、ハロゲン化物ガス(本実施例ではHCl)を含有する雰囲気で非晶質珪素膜102を熱酸化して、熱酸化膜103を形成する。ハロゲンを添加することにより、より緻密で界面準位の低い熱酸化膜を得ることができる。熱酸化膜103の膜厚はほぼ700nm程度である。
図1(A)に図3(C)の拡大図を示す。非晶質珪素膜102に凹みがあるため、熱酸化膜103の表面には、凹部101a〜101dに対応する凹部105a〜105dが形成されてしまう。従って、隣接する基板の凹部101の間隔が0.3μm以下となるような凹部101があると、隣接する凹部101の間隔p1、p2、p3...が0.3μm以下となるような箇所がある。更に、非常に
深い凹部101a〜101dあれば、熱酸化膜103は105の深さが10nm以上となる凹部105が存在する可能性がある。
このため、本実施例では図3(D)に示すように、熱酸化膜103を平坦化し、絶縁層の凹部の間隔が0.3以上となり、またその深さが10nm以下となるように、熱酸化膜103の表面を平坦化する。図1(B)に図3(D )の拡大図を示す。
平坦化の手段として、機械的研磨、化学的機械的研磨(CMP)、ELID(Electrolytic In−Process Dressing)等が利用できる。ELIDとは、ダイヤモンド微粒子を混入させた鋳鉄の粉を焼成した砥石を用いた研削法である。被研磨物を水槽に浸し、砥石を陽極にし水を陰極にして電界を生ずることにより、砥石の鉄が溶けて砥石の表面にダイヤモンド微粒子が現れる。従って、研削中に常に砥石の目立てが行われ、半導体材料、ガラス材料等を高精度に鏡面研削することができる。
本実施例では、CMPにて熱酸化膜103表層を500nm程度研磨する。残存した熱酸化膜103が下地膜104である。したがって、非晶質珪素膜102の膜厚は、平坦化工程で除去される厚さを考慮して決定する。
図1(B)に示すように、下地膜104の凹部106a〜106cの深さはより浅くなり、10nm以下、さらには5nm以下とすることができる。また、点線で示すように研磨によって、比較的浅い凹部106cは平坦化され、平滑な表面107を得ることができる。従って、凹部105が減少するため、間隔L2のように、絶縁層104の凹部106間の距離が実質的に長くなり、0.3μm以上となった。また、凹部105の単位面積当たりの個数は100個/cm2 以下とした。
また、平坦化工程によって自乗平均粗さRmsを0.3〜0.2nm程度にし、また凹部105の側面の傾斜は緩和され、側面の曲率半径r(図2参照)を50nm以上とした。傾斜を緩和させることにより、凹部105の側面でのステップカバレッジが向上できる。曲率半径r(図2参照)を50nm以上とすることで、厚さ100nm〜10nm程度の薄い半導体薄膜を被覆性良く形成することができる。
図3に示した工程によって、平滑な表面を有する下地膜104を形成することが可能になる。平坦化工程後、アニールすることによって研磨工程で損傷した下地膜104の表層の転位や欠陥を消滅、減少させる。即ちアニールすることで、下地膜104上に形成される結晶性珪素膜の結晶成長を損なう原因をできるだけ除去することは重要である。
なお、本実施例では、熱酸化工程の後、平坦化工程を行ったが、先ず非晶質珪素膜102を平坦化した後、熱酸化することによって、実施形態で述べた条件を備えた下地膜を形成することも可能である。
以下、図4を用いてこのような平滑な表面を有する下地膜104上に結晶化半導体薄膜を形成する方法を説明する。図4(A)に示すように下地膜104上に非晶質珪素膜110を形成する。非晶質珪素膜110の膜厚は、最終的な膜厚(熱酸化後の膜減りを考慮した膜厚)が10〜75nm(好ましくは15〜45nm)となるように調節する。本実施例では成膜を減圧熱CVD法で行い、下記条件に従って形成する。
成膜温度:465 ℃
成膜圧力:0.5torr
成膜ガス:He(ヘリウム)300sccm
Si2 H6 (ジシラン)250sccm
なお、成膜に際して膜中の不純物濃度の管理を徹底的に行うことが重要である。本実施例の場合、非晶質珪素膜110中では結晶化を阻害する不純物であるC(炭素)及びN(窒素)の濃度はいずれも 5×1018atoms/cm3 未満(代表的には5×1017atoms/cm3 以下、好ましくは 2×1017atoms/cm3 以下)、O(酸素)は1.5 ×1019atoms/cm3 未満(代表的には 1×1018atoms/cm3 以下、好ましくは 5×1017atoms/cm3 以下)となるように管理する。なぜならば各不純物がこれ以上の濃度で存在すると、後の結晶化の際に悪影響を及ぼし、結晶化後の膜質を低下させる原因となるからである。
ここで本実施例の条件で作製した非晶質珪素膜中の不純物濃度をSIMS(質量二次イオン分析)で調べた結果を図18に示す。なお、試料はシリコンウェハー上に0.5 μmの膜厚の非晶質珪素膜を成膜したものを用いた。その結果、図18に示す様にC、N、Oいずれの元素も上記濃度範囲内に納まることが確認された。ただし、本明細書中において膜中の元素濃度は、SIMSの測定結果における最小値で定義される。
上記構成を得るため、本実施例で用いる減圧熱CVD炉は定期的にドライクリーニングを行い、成膜室の清浄化を図ることが望ましい。ドライクリーニングは、 200〜400 ℃程度に加熱した炉内に 100〜300sccm のClF3 (フッ化塩素)ガスを流し、熱分解によって生成したフッ素によって成膜室のクリーニングを行えば良い。
なお、本発明者らの知見によれば炉内温度300 ℃とし、ClF3 (フッ化塩素)ガスの流量を300sccm とした場合、約2μm厚の付着物(主に珪素を主成分する)を4時間で完全に除去することができる。
また、非晶質珪素膜110中の水素濃度も非常に重要なパラメータであり、水素含有量を低く抑えた方が結晶性の良い膜が得られる様である。そのため、非晶質珪素膜110の成膜は減圧熱CVD法であることが好ましい。なお、成膜条件を最適化することでプラズマCVD法を用いることも可能である。
次に、非晶質珪素膜110の結晶化工程を行う。結晶化の手段としては本発明者による特開平7-130652号公報記載の技術を用いる。同公報の実施例1および実施例2のどちらの手段でも良いが、本願発明では実施例2に記載した技術内容(特開平8-78329 号公報に詳しい)を利用するのが好ましい。
特開平8-78329 号公報記載の技術は、まず触媒元素の添加領域を選択するマスク絶縁膜111を形成する。そして、非晶質珪素膜110の結晶化を助長する触媒元素としてニッケル(Ni)を含有した溶液をスピンコート法により塗布し、Ni含有層112を形成する。(図4(A))
なお、触媒元素としてはニッケル以外にも、コバルト(Co)、鉄(Fe)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、金(Au)、ゲルマニウム(Ge)、鉛(Pb)、インジウム(In)等を用いることができる。
また、上記触媒元素の添加工程はスピンコート法に限らず、レジストマスクを利用したイオン注入法またはプラズマドーピング法を用いることもできる。この場合、添加領域の占有面積の低減、横成長領域の成長距離の制御が容易となるので、微細化した回路を構成する際に有効な技術となる。
次に、触媒元素の添加工程が終了したら、450 ℃、1時間程度の水素出しの後、不活性雰囲気、水素雰囲気または酸素雰囲気中において 500〜700 ℃(代表的には 550〜650 ℃)の温度で 4〜24時間の加熱処理を加えて非晶質珪素膜110の結晶化を行う。本実施例では窒素雰囲気で570 ℃14時間の加熱処理を行う。
この時、非晶質珪素膜110の結晶化はニッケルを添加した領域113で発生した核から優先的に進行し、基板100の基板面に対してほぼ平行に成長した結晶領域114が形成される。本発明者らはこの結晶領域114を横成長領域と呼んでいる。横成長領域114は比較的揃った状態で個々の結晶が集合しているため、全体的な結晶性に優れるという利点がある。(図4(B))
結晶化のための加熱処理が終了後、図4(C)に示すようにマスク絶縁膜111を除去し、パターニングを行い、横成長領域114のみでなる島状半導体層116を形成する。次に、ゲイト絶縁膜を構成する堆積膜117を成膜する。堆積膜117として酸化珪素膜、窒化珪素膜、酸化窒化珪素膜を成膜すればよい。また膜厚は後の熱酸化工程によるゲイト酸化膜の増加分も考慮して、20〜250nm の範囲で調節すれば良い。また、成膜方法は公知の気相法(プラズマCVD法、スパッタ法等)を用いれば良い。
次に、図4(D)に示す様に触媒元素(ニッケル)を除去または低減するための加熱処理(触媒元素のゲッタリングプロセス)を行う。この加熱処理は処理雰囲気中にハロゲン元素を含ませ、ハロゲン元素による金属元素のゲッタリング効果を利用するものである。
なお、ハロゲン元素によるゲッタリング効果を十分に得るためには、上記加熱処理を700 ℃を超える温度で行なうことが好ましい。この温度以下では処理雰囲気中のハロゲン化合物の分解が困難となり、ゲッタリング効果が得られなくなる恐れがある。そのため加熱処理温度を好ましくは800 〜1000℃(代表的には950 ℃)とし、処理時間は 0.1〜 6hr、代表的には 0.5〜 1hrとする。
代表的な実施例としては酸素雰囲気中に対して塩化水素(HCl)を0.5 〜10体積%(本実施例では3体積%)の濃度で含有させた雰囲気中において、950 ℃、30分の加熱処理を行えば良い。HCl濃度を上記濃度以上とすると、活性層116の表面に膜厚程度の凹凸が生じてしまうため好ましくない。
また、ハロゲン元素を含む化合物してはHClガス以外にもHF、NF3 、HBr、Cl2 、ClF3 、BCl3 、F2 、Br2 等のハロゲン元素を含む化合物から選ばれた一種または複数種のものを用いることができる。
この工程においては島状領域116中のニッケルが、塩素の作用によりゲッタリングされ、揮発性の塩化ニッケルとなって大気中へ離脱される。そして、このゲッタリング工程により島状領域116中のニッケルの濃度は 5×1017atoms/cm3 以下(代表的には 2×1017atoms/cm3 以下)にまで低減される。このニッケルが低減された領域120がTFTの活性層を構成する。なお、本発明者らの経験によれば、ニッケル濃度が 1×1018atoms/cm3 以下(好ましくは 5×1017atoms/cm3 以下)であればTFT特性に悪影響はでない。
また、上記ゲッタリング処理はニッケル以外の他の金属元素にも効果的である。工程中、珪素膜中に混入する可能性のある金属元素としては、主に成膜チャンバーの構成元素(代表的にはアルミニウム、鉄、クロム等)が考えられるが、上記ゲッタリング処理を行なえば、それら金属元素の濃度も 5×1017atoms/cm3 以下(好ましくは 2×1017atoms/cm3 以下)にすることが可能である。上記ゲッタリング処理を行うと、島状領域120中にはゲッタリング処理に使用したハロゲン元素が 1×1015〜 1×1020atoms/cm3 の濃度で残存する。
また、上記加熱処理により島状領域116と酸化膜117の界面では熱酸化反応が進行し熱酸化膜118が形成される、熱酸化されない島状領域116がTFTの活性層120となる。また熱酸化膜118と堆積膜117がゲイト絶縁膜を構成する。このように、堆積膜117を成膜してから熱酸化膜118を形成すると、非常に界面準位の少ない半導体/絶縁膜界面を得ることができる。また、活性層120端部における熱酸化膜の形成不良(エッジシニング)を防ぐ効果もある。
さらに、上記ハロゲン雰囲気における加熱処理を施した後に、窒素雰囲気中で950 ℃ 1時間程度の加熱処理を行うことで、ゲイト絶縁膜の膜質の向上を図ることも有効である。
次に、導電膜を成膜しパターニングによって後のゲイト電極の原型121を形成する。本実施例では2wt% のスカンジウムを含有したアルミニウム膜を用いる。他にタンタル膜、導電性を有する珪素膜等を用いることもできる。(図4(E))
ここで本発明者らによる特開平7-135318号公報記載の技術を利用する。同公報には、陽極酸化により形成した酸化膜を利用して自己整合的にソース/ドレイン領域と低濃度不純物領域とを形成する技術が開示されている。以下にその技術について簡単に説明する。
まず、図5(A)に示すように、アルミニウム膜のパターニングに使用したレジストマスク(図示せず)を残したまま3%シュウ酸水溶液中で陽極酸化処理を行い、多孔性の陽極酸化膜123を形成する。この膜厚が後に低濃度不純物領域の長さになるのでそれに合わせて膜厚を制御する。
次に、図示しないレジストマスクを除去した後、エチレングリコール溶液に3%の酒石酸を混合した電解溶液中で陽極酸化処理を行う。この処理では緻密な無孔性の陽極酸化膜124が形成される。膜厚は70〜120 nmで良い。
そして、上述の2回におよぶ陽極酸化処理の後に残ったアルミニウム膜125が実質的にゲイト電極として機能する。(図5(A))
次にゲイト電極125、多孔性の陽極酸化膜123をマスクとして堆積膜117、熱酸化膜118をドライエッチング法によりエッチングする。そして、多孔性の陽極酸化膜123を除去する。ゲイト絶縁膜126は堆積膜117、熱酸化膜118でなる多層膜であり、ゲイト絶縁膜126の端部は多孔性の陽極酸化膜123の膜厚分だけ露出した状態となる。(図5(B))
次に、一導電性を付与する不純物元素の添加工程を行う。不純物元素としてはN型ならばP(リン)またはAs(砒素)、P型ならばB(ボロン)またはIn(インジウム)を用いれば良い。
この工程では、まず1回目の不純物添加を高加速電圧で行い、n- 領域を形成する。この時、加速電圧が80keV 程度と高いので不純物元素は露出した活性層120の表面だけでなく、露出したゲイト絶縁膜126の端部の下にも添加される。さらに、2回目の不純物添加を低加速電圧で行い、n+ 領域を形成する。この時は加速電圧が10keV 程度と低いのでゲイト絶縁膜126はマスクとして機能する。
以上の工程で形成された不純物領域は、n+ 領域がソース領域127、ドレイン領域128となり、n- 領域が一対の低濃度不純物領域(LDD領域とも呼ばれる)129となる。また、ゲイト電極125直下の領域は不純物元素が添加されず、真性または実質的に真性なチャネル形成領域130となる。(図5(C))
以上の様にして活性層が完成したら、ファーネスアニール、レーザーアニール、ランプアニール等の組み合わせによって不純物の活性化と同時に、添加工程で受けた活性層の損傷も修復する。
次に、層間絶縁膜131を500 nmの厚さに形成する。層間絶縁膜131としては酸化珪素膜、窒化珪素膜、酸化窒化珪素膜、有機性樹脂膜、或いはそれらの積層膜を用いることができる。
次に、コンタクトホールを形成した後、ソース電極132、ドレイン電極133を形成する。最後に、基板全体を350 ℃の水素雰囲気で1〜2時間加熱し、素子全体の水素化を行うことで膜中(特に活性層中)のダングリングボンド(不対結合手)を終端する。以上の工程によって、図5(D)に示す様な構造のTFTを作製することができる。
なお、本願発明の主要な構成は、活性層を構成する半導体薄膜および半導体薄膜の下地に関する技術であるので、その他の構造および構成は何ら本願発明を限定するものではない。従って、本願発明は本実施例以外の構造および構成を有するTFTに対しても容易に適用することが可能である。
また本実施例では半導体膜として珪素膜を用いる例を示したが、SiX Ge1-X (0<X<1、好ましくは0.05≦X≦0.95)で示される様にゲルマニウムを1〜10%含有した珪素膜を用いることも有効である。
この様な化合物半導体膜を用いた場合、N型TFTおよびP型TFTを作製した際にしきい値電圧を小さくできる。また、電界効果移動度(モビリティと呼ばれる)を大きくすることができる。
〔活性層の結晶構造に関する知見〕
図3、図4に示した作製工程に従って形成した活性層120は、微視的に見れば複数の棒状(または偏平棒状)結晶が互いに概略平行に特定方向への規則性をもって並んだ結晶構造を有する。このことはTEM(透過型電子顕微鏡法)による観察で容易に確認することができる。
ここで、棒状または偏平棒状結晶同士の結晶粒界を 800万倍に拡大したHR−TEM写真を図23に示す。なお、本明細書中において結晶粒界とは、棒状または偏平棒状結晶が接した境界に形成される粒界を指すものと定義する。従って、例えば横成長領域がぶつかりあって形成される様なマクロな意味あいでの粒界とは区別して考える。
ところで前述のHR−TEM(高分解能透過型電子顕微鏡法)とは、試料に対して垂直に電子線を照射し、透過電子や弾性散乱電子の干渉を利用して原子・分子配列を評価する手法である。
HR−TEMでは結晶格子の配列状態を格子縞として観察することが可能である。従って、結晶粒界を観察することで、結晶粒界における原子同士の結合状態を推測することができる。なお、格子縞は白と黒の縞模様となって現れるが、コントラストの相違であって原子の位置を示すものではない。
図23(A)は本願発明で得られる結晶性珪素膜の代表的なTEM写真であり、異なる二つの結晶粒が写真左上から右下にかけて見られる結晶粒界で接した状態が観察されている。この時、二つの結晶粒は結晶軸に多少のずれが含まれているものの概略{110}配向であった。
なお、後述するが複数の結晶粒を調べた結果、殆ど全てが概略{110}配向であることをX線回折や電子線回折によって確認している。なお、多数観察した中には(011)面や(200)面などもあるはずだが、それら等価な面はまとめて{110}面と表すことにする。
ところで、図23(A)に図示した様に、面内には{111}面、{100}面に対応する格子縞が観察されている。なお、{111}面に対応する格子縞とは、その格子縞に沿って結晶粒を切断した場合に断面に{111}面が現れる様な格子縞を指している。格子縞がどの様な面に対応するかは、簡易的に格子縞と格子縞の間隔から確認できる。
なお、図23(A)において格子縞の見え方に差が見られるのは、結晶粒の微妙な傾きの違いによるものである。即ち、片方の結晶粒の結晶面に垂直に電子線が照射される様に設定すると、他方の結晶粒は僅かに斜めから電子線が照射される状態になるため、格子縞の見え方が変わるのである。
ここで{111}面に対応する格子縞に注目する。図23(A)において粒界を挟んで上側の結晶粒の{111}面に対応する格子縞は、下側の結晶粒の{111}面に対応する格子縞と約70°(正確には70.5°)の角度をなして交わっている。
この様な結晶構造(正確には結晶粒界の構造)は、結晶粒界において異なる二つの結晶粒が極めて整合性よく接合していることを示している。即ち、結晶粒界において結晶格子が連続的に連なり、結晶欠陥等に起因するトラップ準位を非常に作りにくい構成となっている。換言すれば、結晶粒界において結晶格子に連続性があるとも言える。
なお、参考までに従来の高温ポリシリコン膜のHRーTEM写真を図23(B)に示す。図23(B)の場合、後述するが結晶面に規則性がなく、{110}面が主体となる配向ではなかった。ただし、ここでは図23(A)と比較するために{111}面に対応する格子縞が現れる様な結晶粒を観察した。
図23(B)を詳細に観察して見ると、図中において矢印で示す様に、結晶粒界では格子縞が途切れた部分が多数確認できる。この様な部分では未結合手(結晶欠陥と呼べる)が存在することになる、トラップ準位としてキャリアの移動を阻害する可能性が高い。
ただし、確かに本願発明の結晶性珪素膜にも図23(B)に示した様な未結合手は存在する。これは本願発明の結晶性珪素膜が多結晶である以上しかたのないことである。しかしながら、本願発明の結晶性珪素膜を広範囲に渡って詳細にTEM観察した結果、その様な未結合手はごく僅かであることが判明している。
本出願人が調べた限りでは、全体の90%以上(典型的には95%以上)の結晶粒界に結晶格子の連続性が見られ、図23(B)に示した様な未結合手は殆ど見つけることができなかった。この事からも本願発明の結晶性珪素膜は従来の高温ポリシコンとは明らかに異なる半導体膜であると言えよう。
次に本願発明の半導体薄膜を電子線回折によって調べた結果を図6(A)に示す。また、リファレンスとして従来の高温ポリシリコン膜の電子線回折パターンを図6(B)に示す。なお、図6(A)、(B)において電子線の照射エリアの径はそれぞれ、4.25μm、1.35μmである。本実施例では複数箇所を測定したうちの代表的な写真を示す。
図6(A)の場合、〈110〉入射に対応する回折スポット(回折斑点)が比較的きれいに現れており、電子線の照射エリア内では殆ど全ての結晶粒が{110}配向していることが確認できる。
なお、本出願人は特開平7−321339号公報に記載した手法に従ってX線回折を行い、本願発明の半導体薄膜について配向比率を算出した。同公報では下記数1に示す様な算出方法で配向比率を定義している。
本願発明の半導体薄膜の配向性をX線回折で調べた結果、X線回折パターンには(220)面に相当するピークが現れた。勿論、(220)は{110}と等価であることは言うまでもない。この測定の結果、{110}面が主たる配向面であり、配向比率は0.7 以上(典型的には0.9 以上)であることが判明した。
一方、図6(B)に示す従来の高温ポリシリコン膜の場合、回折スポットには明瞭な規則性が見られず、ほぼランダムに配向している、換言すれば{110}面以外の面方位の結晶粒が不規則に混在することが判明した。
なお、各回折スポットは同心円上の広がりを僅かにもっているが、これは結晶軸を中心にある程度の回転角の分布をもつためと予想される。この事について以下に説明する。
図6(A)に示した電子線回折パターンの一部を模式的に図7(A)に示す。図7(A)において、201で示される複数の輝点は〈110〉入射に対応する回折スポットである。複数の回折スポット201は照射エリアの中心点202を中心にして同心円状に分布している。
ここで、点線で囲まれた領域203を拡大したものを図7(B)に示す。図7(B)に示す様に、図6(A)に示す電子線回折パターンを詳細に観察すると、照射エリアの中心点202に対して回折スポット201が約±1.5 °の広がり(ゆらぎ)を持っていることが判る。
即ち、電子線照射エリアの中心点202から回折スポット201に対して引いた接線204と、電子線照射エリアの中心点202と回折スポットの中心点205とを結ぶ線分と、がなす角(回転角の1/2に相当する)は1.5 °以下となることを意味している。この時、接線は2本引けるので、回折スポット201の広がりは結局±1.5 °以内の範囲に納まることになる。
この傾向は図6(A)に示した電子線回折パターンの全域で見受けられ、全体としては±2.5 °以内(典型的には±1.5 °以内、好ましくは±0.5 °以内)に納まっている。前述の「各回折スポットは同心円上の広がりを僅かにもっている」という言葉はこの事を指している。
また、半導体薄膜の下地を限りなく平坦にすることで、回折スポット201の短軸の長さ(a)と長軸の長さ(b)との比(a/b)を1/1(円形を意味する)〜1/1.5 としうる。これは、回折スポットが円形または実質的に円形になることを意味している。
回折スポットが円形になるためには複数の結晶粒間に存在する回転角を非常に小さくしなければならない。単結晶の電子線回折パターンでは回折スポットが完全に円形になることを考えれば、回折スポットが円形になるという事は本願発明の半導体薄膜が限りなく単結晶に近づくことに他ならない。
図8に結晶粒の面方位と結晶軸との関係を模式的に示す。図8(A)は面方位が{110}である場合の結晶軸と、結晶面内に含まれる軸の関係を表している。この様に、結晶面が{110}配向であれば結晶軸は〈110〉軸であり、その結晶面内には〈111〉軸、〈100〉軸などが含まれる。
また、以前に本発明者らがHR−TEMを利用して上記棒状結晶の成長方向を調べた結果、概略〈111〉軸方向に向かって成長することが確かめられている(特開平7-321339号公報参照)。従って、本願発明の半導体薄膜の一部を拡大すると図8(B)の様になっていると考えられる。
図8(B)において、251〜253はそれぞれ異なる棒状結晶であり、個々の結晶粒の結晶軸は概略〈110〉軸である。また、結晶成長は平均的には概略〈111〉軸方向に向かって進行するので、棒状結晶の延在する方向と〈111〉軸方向とはほぼ一致する。なお、点線で示されるのは結晶粒界である。
この時、任意の結晶粒251の面内に含まれる〈111〉軸261を基準軸とすると、近傍に存在する他の棒状結晶252、253の面内に含まれる〈111〉軸262、263は、基準軸261に一致するか、若しくはそれぞれ僅かづつずれて基準軸261に対してある程度の角度を持つ様になる。本明細書中ではこの角度を回転角と呼んでいる。
なお、前述の回折スポットの広がりが±2.5 °以内(典型的には±1.5 °以内、好ましくは±0.5 °以内)に納まっているという事は、換言すれば回転角の絶対値が5°以内(典型的には3°以内、好ましくは1°以内)に納まっているという事と同義である。
この関係を判りやすく図8(C)にまとめると、本願発明の半導体薄膜では軸262が基準軸261となす角(α)および軸263が基準軸261となす角(β)が回転角である。そして、この回転角が少なくとも5°以内に納まっているのである。
そして、図8(B)の様に微妙な回転角を有する個々の結晶粒はそれぞれ異なる回折スポットとして電子線回折パターン上に現れる。例えば、結晶粒252、253の回折スポットは、結晶粒251の回折スポットから回転角α、β分だけ同心円上にずれて現れる。
即ち、電子線の照射エリア内に複数の結晶粒が存在すれば、同心円上に複数の結晶粒に対応する回折スポットが連続的に並ぶことになり、回折スポットは見かけ上、楕円に近い形状を示す様になる。これが図6(A)の電子線回折パターンに回折スポットの広がりが見られた理由である。
なお、本実施例では〈111〉等の様に表記しているが、その中には[111]や[1−11]など等価な複数の軸が含まれる(マイナス記号は反転を意味する)。即ち、等価な軸全てに対応して回折スポットが現れ、その結果として図6(A)の様な電子線回折パターンを形成しているので、結晶粒が回転角分だけ回転すれば電子線回折パターンも全体的に回転角分だけ回転する。そのため、全ての回折スポットが同心円上に広がりを持つ。
以上の様に、本願発明の半導体薄膜を電子線回折で調べた結果として図6(A)の様な回折パターンが得られたのは、電子線の照射エリア内に複数の棒状結晶が存在し、それぞれが僅かに異なる回転角を有するためと解釈できる。また、その回折スポットの広がり具合から、回転角の絶対値は5°以内(典型的には3°以内、好ましくは1°以内)と考えられる。
これは、本願発明の半導体薄膜を構成する全結晶粒のうち、最も大きな回転角を有する二つの結晶粒間においても、任意の基準軸のずれが少なくとも5°以内に収まっていることを意味している。
ここで、一般的に行われている結晶粒界の分類に乗っ取り、本願発明の半導体薄膜における各種結晶粒界の存在度について説明する。次に示す表は、本願発明の半導体薄膜に関するデータを考慮したものである。
なお、表1に示した形態の結晶粒界は電子線回折、HR−TEM、断面TEM等を駆使することで識別が可能であり、さらにはより詳細な情報を得ることができる。なお、本明細書で取り扱う回転角の値は、上記手法を組み合わせて様々な角度から結晶粒界を解析することで測定している。
前述の結晶軸まわりの回転は「粒界面に含まれる方位についての回転」であるので小傾角粒界に含まれる。このような結晶粒界を形成する場合、模式的には図9(A)に示す様な関係で二つの結晶粒271、272は接し、回転軸となる軸273を有する。この場合、二つの結晶粒の接する面が粒界面である。本願発明の半導体薄膜ではこの結晶軸まわりの回転角が±2.5 °以内と極めて小さい。
また、小傾角粒界には図9(B)に示す様な場合もある。図9(B)の形態の場合、回転軸273となる軸が図9(A)とは異なっている。しかし、粒界面に含まれる軸を中心にして二つの結晶粒281、282がある回転角283を有する関係にある点は、図9(A)と同様である。本願発明の半導体薄膜では、この場合の回転角も±2.5 °以内(典型的には±1.5 °以内、好ましくは0.5 °以内)であるので、この様な結晶粒界281、282は殆ど存在しないと見なすことができる。
また、図9(A)、(B)に示した小傾角粒界とは区別されるが、同じ低角粒界の分類にねじれ粒界と呼ばれる形態がある。これは図9(C)に示す様に、粒界面に垂直な方位について回転した場合に相当する。
この場合も、二つの結晶粒291、292がある回転角293を有する関係にある点は小傾角粒界と同様であり、本願発明の半導体薄膜では回転角が±2.5 °以内(典型的には±1.5 °以内、好ましくは0.5 °以内)に収まっている。即ち、ねじれ粒界も殆ど存在しないと見なすことができる。
以上の様に、本願発明の半導体薄膜には一般的に低角粒界と呼ばれる電気的に活性な結晶粒界がない又は実質的にないと考えられる。なお、「電気的に活性」とはキャリアにとってトラップとして機能しうることを意味している。
また、「実質的にない」とは、例えば5μm平方の範囲に含まれる結晶粒界を調べた時に、該当する粒界(例えば低角粒界等)が、観察されても1つや2つである様な場合を指す。
また、特殊な高角粒界では双晶粒界とその他の対応粒界とがあるが、本願発明の半導体薄膜の殆どがこの双晶粒界であることが確認されている。この対応粒界は例え存在しても電気的に不活性(キャリアのトラップとして機能しない)であることが判っている。
特に、本願発明の半導体薄膜はΣ3の対応粒界({111}双晶粒界)が全体の90%以上(典型的には95%以上)を占めており、極めて整合性の良い結晶粒界が形成されていることが広い範囲において証明されている。
なお、Σ値は対応粒界の整合性の程度を示す指針となるパラメータであり、Σ値が小さいほど整合性の良い結晶粒界であることが知られている。Σ値の定義については「材料評価のための高分解能電子顕微鏡法;進藤大輔,平賀賢二共著,pp.54 〜60,共立出版株式会社,1996」に詳しい。
二つの結晶粒の間に形成された結晶粒界において、両方の結晶の面方位が{110}である場合、{111}面に対応する格子縞がなす角をθとすると、θ=70.5°の時にΣ3の対応粒界となることが知られている。
従って、図23(A)のTEM写真に示された結晶粒界では、隣接する結晶粒の各格子縞が70.5°の角度で連続しており、この結晶粒界は{111}双晶粒界であると容易に推察することができる。
なお、θ= 38.9 °の時にはΣ9の対応粒界となるが、この様な他の対応粒界も若干ながら存在した。
この様な対応粒界は、同一面方位の結晶粒間にしか形成されない。即ち、本願発明の半導体薄膜は面方位が概略{110}で揃っているからこそ、広範囲に渡ってこの様な対応粒界を形成しうるのである。この特徴は、面方位が不規則な他のポリシリコン膜ではあり得ることではない。
また、ランダムな高角粒界とは有意な方位関係を持たずに不規則な方位の結晶粒が並んだだけの半導体薄膜に見られる粒界であり、従来の高温ポリシリコンなどの様な半導体薄膜に多く見られる。本願発明の半導体薄膜では、当然、高角粒界は殆ど存在しない。
表1に示した低角粒界、ランダムな高角粒界の双方がない又は極めてその数が少ない場合、活性な結晶粒界は存在しないと見なせる。即ち、その様な結晶構造を有する半導体薄膜は実質的に結晶粒界のない単結晶又は実質的に単結晶と見なすことができる。
以上の様に、本願発明の半導体薄膜は、薄膜を構成する個々の結晶粒(棒状結晶)が互いに完全に一致する方位関係にあるか、ある程度の回転角を有した関係にある。そして、その回転角は±2.5 °以内という非常に小さなものであり、実質的に結晶粒界を形成しないと見なして良いレベルである。
本発明者らは、この様な半導体薄膜が得られた理由として、下地の平坦性を重要視している。本発明者らの経験では、下地に凹凸があるとそれが結晶成長の際に大きく影響する。即ち、下地の凹凸等によって結晶粒にひずみ等が発生し、結晶軸のずれなどを引き起こすことになる。
本願発明の半導体薄膜は、本実施例に示した様な方法で形成された非常に平坦性の高い下地膜上に形成されている。従って、結晶成長を阻害する要因を極力排除した状態で成長させることができるため、非常に高い結晶性を維持したまま結晶粒同士が接合する。その結果として、前述の様に実質的に単結晶と見なせる結晶性を有する半導体薄膜が得られたものと考えられる。
なお、本発明の半導体薄膜を形成するにあたって結晶化温度(シリコンの結晶化工程で施した熱処理の温度)以上の温度でのアニール工程(本実施例の場合、図4(D)に示す工程)は、結晶粒内の欠陥低減に関して重要な役割を果たしている。その事について説明する。
図21(A)は図4(B)に示した結晶化工程までを終了した時点での結晶シリコン膜を25万倍に拡大したTEM写真であり、結晶粒内(黒い部分と白い部分はコントラストの差に起因して現れる)に矢印で示される様なジグザグ状に見える欠陥が確認される。
この様な欠陥は主としてシリコン結晶格子面の原子の積み重ね順序が食い違っている積層欠陥であるが、転位などの場合もある。図21(A)は{111}面に平行な欠陥面を有する積層欠陥と思われる。その事は、ジグザグ状に見える欠陥が約70°の角をなして折れ曲がっていることから推測できる。
一方、図21(B)に示す様に、同倍率で見た本発明の結晶シリコン膜は、結晶粒内には殆ど積層欠陥や転位などに起因する欠陥が見られず、非常に結晶性が高いことが確認できる。この傾向は膜面全体について言えることであり、欠陥数をゼロにすることは現状では困難であるが、実質的にゼロと見なせる程度にまで低減することができる。
即ち、図21(B)に示す結晶シリコン膜は結晶粒内の欠陥が殆ど無視しうる程度にまで低減され、且つ、結晶粒界が高い連続性によってキャリア移動の障壁になりえないため、単結晶または実質的に単結晶と見なせる。
この様に、図21(A)と(B)の写真に示した結晶シリコン膜は結晶粒界はほぼ同等の連続性を有しているが、結晶粒内の欠陥数には大きな差がある。本発明の結晶シリコン膜が図21(A)に示した結晶シリコン膜よりも遙に高い電気特性を示す理由はこの欠陥数の差によるところが大きい。
本出願人は図4(D)に示した工程によって起こる現象について次の様なモデルを考えている。まず、図21(A)に示す状態では結晶粒内の欠陥(主として積層欠陥)には触媒元素(代表的にはニッケル)が偏析している。即ち、Si-Ni-Siといった形の結合が多数存在していると考えられる。
しかしながら、触媒元素のゲッタリングプロセスを行うことで欠陥に存在するNiが除去されると、Si-Ni 結合は切れる。そのため、シリコンの余った結合手はすぐにSi-Si 結合を形成して安定する。こうして欠陥が消滅する。
勿論、高い温度での熱アニールによって結晶シリコン膜中の欠陥が消滅することは知られているが、本発明ではニッケルとの結合が切れて未結合手が多く発生するためシリコンの再結合がさらにスムーズに行われると推測できる。
また、同時に結晶シリコン膜が熱酸化される際に発生する余剰シリコン原子が欠陥へと移動し、Si-Si 結合の生成に大きく寄与していると考えられる。この概念はいわゆる高温ポリシリコン膜の結晶粒内に欠陥が少ない理由として知られている。
また、本出願人は結晶化温度を超える温度(代表的には 700〜1100℃)で加熱処理を行うことで結晶シリコン膜とその下地との間が固着し、密着性が高まることで欠陥が消滅するというモデルを考えている。
結晶シリコン膜と下地膜となる酸化珪素膜とでは、熱膨張係数に10倍近くの差がある。従って、非晶質シリコン膜から結晶シリコン膜に変成した段階(図21(A))では、結晶シリコン膜が冷却される時に非常に大きな応力が結晶シリコン膜にかかる。
この事について、図22を用いて説明する。図22(A)は結晶化工程後の結晶シリコン膜にかかる熱履歴を示している。まず、温度(t1 )で結晶化された結晶シリコン膜は冷却期間(a)を経て室温まで冷やされる。
ここで図22(B)に示すのは冷却期間(a)にある時の結晶シリコン膜であり、10は絶縁表面を有する基板、11は結晶シリコン膜である。この時、結晶シリコン膜11と基板10との界面12における密着性はあまり高くなく、それが原因となって多数の粒内欠陥を発生していると考えられる。
即ち、熱膨張係数の差によって引っ張られた結晶シリコン膜11は基板10上で非常に動きやすく、引っ張り応力などの力によって積層欠陥や転位などの欠陥13を容易に生じてしまうと考えられる。
こうして得られた結晶シリコン膜が図21(A)に示した様な状態となるのである。そしてその後、図22(A)に示す様に温度(t2 )で触媒元素のゲッタリング工程が施され、その結果、結晶シリコン膜中の欠陥が前述の理由によって消滅する。
ここで重要なことは触媒元素のゲッタリング工程が行われると同時に結晶シリコン膜が絶縁表面を有する基板に固着され、基板との密着性が高まる点である。即ち、このゲッタリング工程は結晶シリコン膜と基板(下地)との固着工程を兼ねていると考えられる。
こうしてゲッタリング+固着工程を終了すると冷却期間(b)を経て室温まで冷やされる。ここで結晶化工程の後の冷却期間(a)と異なる点は、基板10とアニール後の結晶シリコン膜14との界面15が非常に密着性の高い状態となっている点である。(図22(C))
この様に密着性が高いと基板10に対して結晶シリコン膜14が完全に固着されるので、結晶シリコン膜の冷却段階において結晶シリコン膜に応力が加わっても欠陥を発生するには至らない。即ち、再び欠陥が発生する様なことを防ぐことができる。
なお、図22(A)では結晶化工程後に室温まで下げるプロセスを例にとっているが、結晶化が終了したらそのまま温度を上げてゲッタリング+固着工程を行うこともできる。その様なプロセスを経ても本発明の結晶シリコン膜を得ることは可能である。
こうして得られた本発明の結晶シリコン膜(図21(B))は、単に結晶化を行っただけの結晶シリコン膜(図21(A))に較べて格段に結晶粒内の欠陥数が少ないという特徴を有している。
この欠陥数の差は電子スピン共鳴分析(Electron Spin Resonance :ESR)によってスピン密度の差となって現れる。現状では本発明の結晶シリコン膜のスピン密度は少なくとも 5×1017spins/cm3 以下(好ましくは 3×1017spins/cm3 以下)であることが判明している。ただし、この測定値はは現存する測定装置の検出限界に近いので、実際のスピン密度はさらに低いと予想される。
以上の様な結晶構造および特徴を有する本発明の結晶シリコン膜を本出願人は連続粒界結晶シリコン(Continuous Grain Silicon:CGS)と呼んでいる。
(対応粒界に関する知見)
先に説明した様な対応粒界は、同一面方位の結晶粒間にしか形成されない。即ち、本願発明の半導体薄膜は面方位が概略{110}で揃っているからこそ、広範囲に渡ってこの様な対応粒界を形成しうるのである。この特徴は、面方位が不規則な他のポリシリコン膜ではあり得ることではない。
ここで、本願発明の半導体薄膜を1万5千倍に拡大したTEM写真(暗視野像)を図24(A)に示す。白く見える領域と黒く見える領域とが存在するが、同色に見える部分は配向性が同一であることを示している。
図24(A)で特筆すべきはこれだけ広範囲の暗視野像において、白く見える領域がかなりの割合で連続的にまとまっている点である。これは配向性の同じ結晶粒がある程度の方向性をもって存在し、隣接する結晶粒同士で殆ど同一の配向性を有していることを意味している。
他方、従来の高温ポリシリコン膜を1万5千倍に拡大したTEM写真(暗視野像)を図24(B)に示す。従来の高温ポリシリコン膜では同一面方位の部分はばらばらに点在するのみであり、図24(A)に示す様な方向性のあるまとまりは確認できない。これは隣接する結晶粒同士の配向性が全く不規則であるためと考えられる。
なお、本出願人はここに示した測定点以外にも多数の領域に渡って観察と測定を繰り返し、TFTを作製するのに十分な広い領域において、結晶粒界における結晶格子の連続性が確保されていることを確認している。これらの観察結果から、任意の結晶粒界において結晶格子に連続性が保たれており、平面状粒界が形成されていることが確認された。