JP3577110B2 - Acat阻害剤 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、アシルコエンザイムA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT)阻害剤に関し、更に詳細にはオカゼリ(蛇床)の果実(蛇床子)に含まれるオストールを有効成分とするACAT阻害剤に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
食生活の欧米化に伴って、わが国における虚血性心疾患の発生頻度は著しく増加している。欧米型の食生活によって上昇する血中のコレステロール値と動脈硬化症の関係は、多くの疫学的研究で明らかにされてきた。すなわち、血清コレステロール値と虚血性心疾患発生頻度との間には有意な相関があり、高コレステロール血症を治療することが動脈硬化症を予防するといわれている。動脈硬化症は、血管への脂質蓄積による内膜の肥厚が特徴的な病変であるが、近年粥状動脈硬化症の病巣に、マクロファージ由来の細胞がコレステロールエステルを脂肪滴として貯蔵している泡末細胞が観察され、病変の進展に深く関わっていると推定されている。
【0003】
一方、アシルコエンザイムA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT)は、コレステロールの脂肪酸エステル化酵素であり、本酵素の阻害剤は動脈硬化症の治療薬として期待されている(Drago R.et al.,Tips 194,(12),1991)。すなわち、動脈硬化病変部位の血管壁ではACAT活性が高くなっており、血管壁へコレステロールエステルが蓄積していることが報告されている。従って、ACAT活性抑制作用を有する物質を用いれば、コレステロールのエステル化を阻害することができ、細胞に存在する遊離コレステロールは高比重リポ蛋白(HDL)によって、沈着部位から取り去られ、肝臓に運ばれて代謝されるので、病変部位でのコレステロールエステルの蓄積が抑制され、直接的な抗動脈硬化作用を得ることができる。
【0004】
また、食物中に含まれるコレステロールは、小腸粘膜細胞においてACATによりエステル化された後、カイロミクロンの成分として血流に放出される。よって、ACAT阻害剤を用いれば、食物中のコレステロールの小腸上皮細胞での吸収を阻害することにより、血中コレステロールを低下させることができるため、その結果として、動脈硬化を抑制することができる。
【0005】
また、カイロミクロンによって肝臓まで運ばれたコレステロールエステルはコレステロールエステラーゼで遊離コレステロールに分解された後、肝臓で合成された遊離コレステロールとともにACATによって再度コレステロールエステルに変換され、超低比重リポ蛋白(VLDL)に組み込まれて血中へと放出される。よって、ACAT阻害剤によってコレステロールのエステル化が阻止されれば、肝臓の遊離コレステロール量が増加し、コレステロール合成系の抑制がかかるとともに、コレステロールの胆汁酸への変換の過程における律速酵素である7α−水酸化酵素活性が亢進し、コレステロールの胆汁酸への異化排泄作用が高まる。
【0006】
このように、ACAT阻害物質を用いれば、食物中のコレステロールの小腸からの吸収の阻害、肝臓でのコレステロールの再エステル化の抑制、更にこれによるコレステロールの異化排泄促進作用により血中コレステロールを低下させることができる。
【0007】
従来、天然由来のACAT阻害物質としては、微生物が産生する物質がいくつか知られているが、植物由来のACAT阻害物質は未だ見出されていない。
【0008】
【課題を解決するための手段】
かかる実情において本発明者らは、植物の成分中にACAT活性調節作用を有する活性成分の探索を続けた結果、セリ科の植物でハマゼリ属に属する、オカゼリ(蛇床:Cnidium monnieri)の果実(蛇床子)のアルコール抽出エキスがACAT阻害作用を有することを見出した。そして更に該エキスからACAT阻害活性を有する物質を単離、精製した結果、その活性物質が次式(1)
【0009】
【化2】
【0010】
で表されるオストールであることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、オストールを有効成分とするACAT阻害剤に係るものである。
【0012】
また、本発明は、蛇床子の抽出エキスを有効成分とするACAT阻害剤に係るものである。
【0013】
本発明に使用されるオストールとしては、その由来に特に制限はなく、天然由来、全合成品、半合成品を問わずいずれも利用できる。
【0014】
オストール起源として植物を利用する場合、オストールを含有する植物としては、例えばセリ科ハマゼリ属の植物が挙げられ、特に中国産オカゼリ(蛇床:Cnidium monnieri)の果実(蛇床子)が好適に用いられる。
【0015】
オカゼリ(蛇床)は中国東北部原産でモンゴル、シベリア、ウスリー、朝鮮半島に分布する越年草であり、その果実を採取して乾燥したものを蛇床子と呼んでいる。蛇床子は消炎、収れん、強精等の目的で古来用いられている漢方薬であり、そのエキスには抗トリコモナス作用、性ホルモン様作用等が報告されている。しかし、そのACAT阻害作用については全く報告されていない。
【0016】
蛇床子からの抽出エキスないしオストールの採取は、例えば以下のようにして行われる。まず抽出エキスは、蛇床子をメタノール、エタノール、アセトン等の極性有機溶媒で抽出し、得られた抽出液を減圧濃縮することにより得られる。ここで、この抽出エキスをそのままACAT阻害剤に使用することもできるが、必要に応じて以下のように精製し、各段階の精製物をACAT阻害剤に使用することもできる。抽出エキスの精製は、例えばまず抽出エキスをエーテルと水とで振り分け、このエーテル層を濃縮してシリカゲルカラムに重層し、n−ヘキサン、n−ヘキサン:酢酸エチル(1:1)、酢酸エチル、メタノールの4種の溶媒で順次溶出することによって活性成分の分画を行う。次いで、溶出液の活性画分を減圧乾固することにより粗活性物質が得られる。これを高速液体クロマトグラフィーを用いた逆相C18カラムによりアセトニトリル:水(80:50)の溶媒系から分離精製することによりオストールが得られる。また、必要に応じて分取薄層クロマトグラフィーによる精製を行うことができる。
【0017】
このようにして得られるオストール又は蛇床子抽出エキスは、小腸、肝臓及びマクロファージのACATの活性を特異的に阻害する。このため、これらを有効成分とする本発明ACAT阻害剤は、コレステロール吸収抑制剤、又は動脈硬化症もしくはこれに起因する動脈硬化性病変の予防・治療剤として有用である。
【0018】
また、蛇床子は従来漢方薬として用いられているものであり、オストールはその成分であるので、本発明ACAT阻害剤は安全性の点で問題はない。
【0019】
オストール又は蛇床子抽出エキスは、単独で又は薬理的に許容される担体等とともに、経口的に投与するのが好ましい。経口製剤としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤、トローチ剤、シロップ剤等が挙げられる。錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤、トローチ剤等の固型製剤においては、オストール又は蛇床子抽出エキス以外にデンプン、ラクトース、カルボキシメチルセルロース、沈降炭酸カルシウム等の賦形剤;アラビアゴム、トラガントゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の結合剤、アルギン酸、コーンスターチ等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸等の滑沢剤、サッカロース等の甘味剤、メントール等のフレーバー剤等を配合することができる。シロップ剤など液状製剤においては、オストール又は蛇床子抽出エキス以外にソルビトール、ゼラチン、メチルセルロース、植物油、乳化剤等のほか甘味剤、フレーバー剤、着色剤等を配合することができる。これらの製剤中には1〜95重量%のオストールを配合するのが望ましい。
【0020】
【作用】
(1)ラット由来ACATに対する阻害作用
オストールのACAT活性に対する影響を、ラット肝臓のミクロゾーム蛋白画分より調製した粗酵素を用い、14C−オレオイルCoAを基質に、内因性のコレステロールから14C−コレステリルオレエートを生成させる反応をインビトロで行うことにより調べた。
【0021】
反応液組成は、20μlのミクロゾーム蛋白(1.83mg/ml)、20μlの14C−オレオイルCoA(5μCi/ml、BSA:96nmol/ml)、106μlの100mMリン酸緩衝液(5mMのジチオスレイトールを含む、pH7.4)、及び4μlのメタノールあるいはジメチルスルホキシドに溶解したオストールの合計150μlとした。
【0022】
反応は37℃で行い、所定の反応時間(通常18分間)経過後、5.65mlのクロロホルム:メタノール(2:1)を添加して反応を停止した後、0.04Nの塩酸水溶液0.98ml及びキャリアーとしてコレステリルオレエートを加え、20分間振盪機で抽出した後、1晩冷暗所に放置した。翌日、分離したクロロホルム下層全量を抜き取り、これを窒素気流下に乾燥させ、残った上層にホルチの分配溶液下層5.65mlを加えて再度抽出した。これを1晩暗所に放置した後、下層全量を抜き取り、先に乾固したクロロホルム下層画分と合わせて乾固した。
【0023】
次に、これを200μlのクロロホルムに溶解し、シリカゲル薄層クロマトグラフィー G60プレート(アルミニウムシート)に全量塗布した。これをジエチルエーテル:石油エーテル(10:190)で10cm展開した後、オートラジオグラフィーを行い、生成した14C−コレステリルオレエートを確認した。次にこの部分を切りとって、トルエン中で各試料共5分間の液体シンチレーションカウンティングあるいはベータスコープ(ベータ・ジェン社製)によって30分間放射活性を測定した。本酵素を50%阻害する濃度を測定した結果、オストールのIC50値は20μMであった。
【0024】
(2)マクロファージに対するコレステロールエステル蓄積抑制作用
オストールのマクロファージに対するコレステロールエステル蓄積抑制作用を、マウスのマクロファージ樹立細胞であるJ771.4株を用いて調べた。
【0025】
内皮細胞や平滑筋細胞におけるLDLの代謝は細胞内の過剰の遊離コレステロールによって、LDLレセプターのダウンレギュレーションがかかるが、マクロファージにおいては変性LDLの取り込みは、スカベンジャーレセプター経由による。この経路はレギャレーションがかからないためコレステロールエステルが無制限に蓄積してゆく。
【0026】
そこで、14Cでラベルしたコレステロールとホスファチジルコリンからなるリポソームをマクロファージ細胞に取り込ませ、粗面小胞体に存在するACATに作用させることにより、オストールが細胞内コレステロールエステルの蓄積を抑制するか否かを調べた。
【0027】
マクロファージ細胞を10%牛胎児血清、ペニシリン50U/ml及びストレプトマイシン50μg/mlを加えたRPMI 1640培地(日水製薬社製)にて、2日間、5%CO2の条件にてインキュベートした。次いで、トリプシン処理を行い、ウェルの底面に付着している細胞を剥がして細胞懸濁液とした後、細胞を上記新鮮培地で洗浄し、24穴のマルチプルウェルプレート(コーニング社製25820−24)に1ウェル当たり2×106個/mlの細胞溶液750μlを播種した。37℃、5%CO2の条件下で37時間培養した後に前記新鮮培地と交換し、更に80μgのコレステロール(0.4μCiの3H−コレステロールを含む)と160μgのホスファチジルコリンを含んだ0.3Mのグルコース溶液40μl、及びオストールを溶解したメタノール溶液10μlを添加して、12時間培養した。これらの操作は無菌的に行った。
【0028】
培養終了後、血清を含まないRPMI 1640培地を使用して底面に付着している細胞を5回駒込ピペットで洗浄した後、1mlの2−プロパノールを添加して細胞内のコレステロール及び生成したコレステロールエステルを抽出した。この抽出液をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(メルク社製Art.5553)に全量塗布し、ヘキサン:エーテル:ギ酸(80:20:2)にて展開した後、オートラジオグラフィーを行った。次に、3Hでラベルされたコレステロールエステル及びコレステロール部分を切り取り、液体シンチレーションカウンターにて放射活性を測定し、対照と比較してコレステロールエステル蓄積抑制率を得た。その結果、オストールのIC50値は20μMであった。
【0029】
【実施例】
以下、実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
製造例1
500gの蛇床子を、10リットルのメタノールを用いて1週間室温で冷浸抽出した。抽出液を濾過した後、減圧濃縮及び乾固して38.4gの粗抽出物を得た。次にこの粗抽出物をエーテルと水とで振り分けた。このエーテル層を濃縮してシリカゲルカラム(内径5cm,長さ90cm)に重層し、n−ヘキサン、n−ヘキサン:酢酸エチル(1:1)、酢酸エチル、メタノールの4種の溶媒各1リットルで順次溶出し、活性成分の分画を行った。
【0031】
溶出した液を150mlずつ分取し、活性画分を減圧乾固して粗活性物質4.85gを取得した。次に、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(5cmφ×60cm)に全粗抽出物を積層し、600mlのクロロホルムにて溶出した後、95%クロロホルム:メタノール、90%クロロホルム:メタノール、及び80%クロロホルム:メタノールそれぞれ600mlにて順次溶出することにより、活性画分を回収した。得られた粗活性物質は3.5gであった。
【0032】
次に、この粗活性物質全量をクロロホルム:メタノール(90:10)を溶出液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィー(5cmφ×100cm)にて再度クロマトグラフィー分画を行った。溶出液は150mlずつ分取し、活性画分を減圧乾固して2.6gの粗活性画分を取得した。
【0033】
この内の1gを高速液体クロマトグラフィー(ウォーターズ社製システム600E)を用い、逆相C18カラムを使用して、アセトニトリル:水(80:20)の溶媒系により分離精製した結果、0.53gの粗活性画分を得た。
【0034】
このACAT阻害活性を示す成分は、更にn−ヘキサン:酢酸エチル(3:1)を展開溶媒とした分取薄層クロマトグラフィー(メルク社製:シリカゲル60F254,Art.5717)によって精製を行った。最後に活性成分をヘキサン−酢酸エチル中で再結晶させることにより、無色柱状の結晶267mgを得た。その純度は高速液体クロマトグラフィーによる分析で95%以上であった。
【0035】
以上のようにして得られた活性物質の理化学的性状は、以下に示す通りであった。
(1)分子式:C15H16O3
(2)分子量:244(マススペクトルによりm/z244(M+)が観察された。)
(3)紫外線吸収スペクトル(エタノール中):第1図の通り。
(4)赤外線吸収スペクトル(KBr中):第2図の通り。
(5)溶媒に対する溶解性:メタノール、エタノール、アセトニトリル、酢酸エチル、クロロホルム、ベンゼンに可溶、水に不溶。
(6)塩基性、酸性、中性の区別:中性。
(7)物質の色、形状:白色、粉末。
(8)プロトン核磁気共鳴スペクトル:第3図の通り。
1H−NMR(DMSO−d6,400MHz,37c)δ:1.67(3H,s), 1.84(3H,s), 3.54(2H,d,J=8Hz), 3.92(3H,s), 5.22(1H,t,J=8Hz), 6.22(1H,d,J=8Hz), 6.83(1H,d,J=8Hz), 7.28(1H,d,J=12Hz), 7.60(1H,d,J=12Hz).
(9)化学構造:
【0036】
【化3】
【0037】
以上より、本活性物質はオストールと同定された。
【0038】
実施例1 錠剤
オストール 40g
ラクトース 360g
ステアリン酸タルク 40g
デンプン 60g
以上を混合機で混和し、打錠して0.5gの錠剤1000個を得た。
【0039】
【発明の効果】
オストールは、小腸、肝臓及びマクロファージのACATの活性を特異的に阻害する。従って、これを有効成分とする本発明ACAT阻害剤は、コレステロールの吸収抑制剤又は動脈硬化症もしくはこれに起因する動脈硬化性病変の予防・治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】蛇床子より抽出されたACAT阻害活性を示す物質(オストール)の紫外線吸収スペクトルを示す図である。
【図2】蛇床子より抽出されたACAT阻害活性を示す物質(オストール)の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図3】蛇床子より抽出されたACAT阻害活性を示す物質(オストール)のプロトン核磁気共鳴スペクトルを示す図である。
【産業上の利用分野】
本発明は、アシルコエンザイムA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT)阻害剤に関し、更に詳細にはオカゼリ(蛇床)の果実(蛇床子)に含まれるオストールを有効成分とするACAT阻害剤に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
食生活の欧米化に伴って、わが国における虚血性心疾患の発生頻度は著しく増加している。欧米型の食生活によって上昇する血中のコレステロール値と動脈硬化症の関係は、多くの疫学的研究で明らかにされてきた。すなわち、血清コレステロール値と虚血性心疾患発生頻度との間には有意な相関があり、高コレステロール血症を治療することが動脈硬化症を予防するといわれている。動脈硬化症は、血管への脂質蓄積による内膜の肥厚が特徴的な病変であるが、近年粥状動脈硬化症の病巣に、マクロファージ由来の細胞がコレステロールエステルを脂肪滴として貯蔵している泡末細胞が観察され、病変の進展に深く関わっていると推定されている。
【0003】
一方、アシルコエンザイムA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT)は、コレステロールの脂肪酸エステル化酵素であり、本酵素の阻害剤は動脈硬化症の治療薬として期待されている(Drago R.et al.,Tips 194,(12),1991)。すなわち、動脈硬化病変部位の血管壁ではACAT活性が高くなっており、血管壁へコレステロールエステルが蓄積していることが報告されている。従って、ACAT活性抑制作用を有する物質を用いれば、コレステロールのエステル化を阻害することができ、細胞に存在する遊離コレステロールは高比重リポ蛋白(HDL)によって、沈着部位から取り去られ、肝臓に運ばれて代謝されるので、病変部位でのコレステロールエステルの蓄積が抑制され、直接的な抗動脈硬化作用を得ることができる。
【0004】
また、食物中に含まれるコレステロールは、小腸粘膜細胞においてACATによりエステル化された後、カイロミクロンの成分として血流に放出される。よって、ACAT阻害剤を用いれば、食物中のコレステロールの小腸上皮細胞での吸収を阻害することにより、血中コレステロールを低下させることができるため、その結果として、動脈硬化を抑制することができる。
【0005】
また、カイロミクロンによって肝臓まで運ばれたコレステロールエステルはコレステロールエステラーゼで遊離コレステロールに分解された後、肝臓で合成された遊離コレステロールとともにACATによって再度コレステロールエステルに変換され、超低比重リポ蛋白(VLDL)に組み込まれて血中へと放出される。よって、ACAT阻害剤によってコレステロールのエステル化が阻止されれば、肝臓の遊離コレステロール量が増加し、コレステロール合成系の抑制がかかるとともに、コレステロールの胆汁酸への変換の過程における律速酵素である7α−水酸化酵素活性が亢進し、コレステロールの胆汁酸への異化排泄作用が高まる。
【0006】
このように、ACAT阻害物質を用いれば、食物中のコレステロールの小腸からの吸収の阻害、肝臓でのコレステロールの再エステル化の抑制、更にこれによるコレステロールの異化排泄促進作用により血中コレステロールを低下させることができる。
【0007】
従来、天然由来のACAT阻害物質としては、微生物が産生する物質がいくつか知られているが、植物由来のACAT阻害物質は未だ見出されていない。
【0008】
【課題を解決するための手段】
かかる実情において本発明者らは、植物の成分中にACAT活性調節作用を有する活性成分の探索を続けた結果、セリ科の植物でハマゼリ属に属する、オカゼリ(蛇床:Cnidium monnieri)の果実(蛇床子)のアルコール抽出エキスがACAT阻害作用を有することを見出した。そして更に該エキスからACAT阻害活性を有する物質を単離、精製した結果、その活性物質が次式(1)
【0009】
【化2】
【0010】
で表されるオストールであることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、オストールを有効成分とするACAT阻害剤に係るものである。
【0012】
また、本発明は、蛇床子の抽出エキスを有効成分とするACAT阻害剤に係るものである。
【0013】
本発明に使用されるオストールとしては、その由来に特に制限はなく、天然由来、全合成品、半合成品を問わずいずれも利用できる。
【0014】
オストール起源として植物を利用する場合、オストールを含有する植物としては、例えばセリ科ハマゼリ属の植物が挙げられ、特に中国産オカゼリ(蛇床:Cnidium monnieri)の果実(蛇床子)が好適に用いられる。
【0015】
オカゼリ(蛇床)は中国東北部原産でモンゴル、シベリア、ウスリー、朝鮮半島に分布する越年草であり、その果実を採取して乾燥したものを蛇床子と呼んでいる。蛇床子は消炎、収れん、強精等の目的で古来用いられている漢方薬であり、そのエキスには抗トリコモナス作用、性ホルモン様作用等が報告されている。しかし、そのACAT阻害作用については全く報告されていない。
【0016】
蛇床子からの抽出エキスないしオストールの採取は、例えば以下のようにして行われる。まず抽出エキスは、蛇床子をメタノール、エタノール、アセトン等の極性有機溶媒で抽出し、得られた抽出液を減圧濃縮することにより得られる。ここで、この抽出エキスをそのままACAT阻害剤に使用することもできるが、必要に応じて以下のように精製し、各段階の精製物をACAT阻害剤に使用することもできる。抽出エキスの精製は、例えばまず抽出エキスをエーテルと水とで振り分け、このエーテル層を濃縮してシリカゲルカラムに重層し、n−ヘキサン、n−ヘキサン:酢酸エチル(1:1)、酢酸エチル、メタノールの4種の溶媒で順次溶出することによって活性成分の分画を行う。次いで、溶出液の活性画分を減圧乾固することにより粗活性物質が得られる。これを高速液体クロマトグラフィーを用いた逆相C18カラムによりアセトニトリル:水(80:50)の溶媒系から分離精製することによりオストールが得られる。また、必要に応じて分取薄層クロマトグラフィーによる精製を行うことができる。
【0017】
このようにして得られるオストール又は蛇床子抽出エキスは、小腸、肝臓及びマクロファージのACATの活性を特異的に阻害する。このため、これらを有効成分とする本発明ACAT阻害剤は、コレステロール吸収抑制剤、又は動脈硬化症もしくはこれに起因する動脈硬化性病変の予防・治療剤として有用である。
【0018】
また、蛇床子は従来漢方薬として用いられているものであり、オストールはその成分であるので、本発明ACAT阻害剤は安全性の点で問題はない。
【0019】
オストール又は蛇床子抽出エキスは、単独で又は薬理的に許容される担体等とともに、経口的に投与するのが好ましい。経口製剤としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤、トローチ剤、シロップ剤等が挙げられる。錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤、トローチ剤等の固型製剤においては、オストール又は蛇床子抽出エキス以外にデンプン、ラクトース、カルボキシメチルセルロース、沈降炭酸カルシウム等の賦形剤;アラビアゴム、トラガントゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の結合剤、アルギン酸、コーンスターチ等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸等の滑沢剤、サッカロース等の甘味剤、メントール等のフレーバー剤等を配合することができる。シロップ剤など液状製剤においては、オストール又は蛇床子抽出エキス以外にソルビトール、ゼラチン、メチルセルロース、植物油、乳化剤等のほか甘味剤、フレーバー剤、着色剤等を配合することができる。これらの製剤中には1〜95重量%のオストールを配合するのが望ましい。
【0020】
【作用】
(1)ラット由来ACATに対する阻害作用
オストールのACAT活性に対する影響を、ラット肝臓のミクロゾーム蛋白画分より調製した粗酵素を用い、14C−オレオイルCoAを基質に、内因性のコレステロールから14C−コレステリルオレエートを生成させる反応をインビトロで行うことにより調べた。
【0021】
反応液組成は、20μlのミクロゾーム蛋白(1.83mg/ml)、20μlの14C−オレオイルCoA(5μCi/ml、BSA:96nmol/ml)、106μlの100mMリン酸緩衝液(5mMのジチオスレイトールを含む、pH7.4)、及び4μlのメタノールあるいはジメチルスルホキシドに溶解したオストールの合計150μlとした。
【0022】
反応は37℃で行い、所定の反応時間(通常18分間)経過後、5.65mlのクロロホルム:メタノール(2:1)を添加して反応を停止した後、0.04Nの塩酸水溶液0.98ml及びキャリアーとしてコレステリルオレエートを加え、20分間振盪機で抽出した後、1晩冷暗所に放置した。翌日、分離したクロロホルム下層全量を抜き取り、これを窒素気流下に乾燥させ、残った上層にホルチの分配溶液下層5.65mlを加えて再度抽出した。これを1晩暗所に放置した後、下層全量を抜き取り、先に乾固したクロロホルム下層画分と合わせて乾固した。
【0023】
次に、これを200μlのクロロホルムに溶解し、シリカゲル薄層クロマトグラフィー G60プレート(アルミニウムシート)に全量塗布した。これをジエチルエーテル:石油エーテル(10:190)で10cm展開した後、オートラジオグラフィーを行い、生成した14C−コレステリルオレエートを確認した。次にこの部分を切りとって、トルエン中で各試料共5分間の液体シンチレーションカウンティングあるいはベータスコープ(ベータ・ジェン社製)によって30分間放射活性を測定した。本酵素を50%阻害する濃度を測定した結果、オストールのIC50値は20μMであった。
【0024】
(2)マクロファージに対するコレステロールエステル蓄積抑制作用
オストールのマクロファージに対するコレステロールエステル蓄積抑制作用を、マウスのマクロファージ樹立細胞であるJ771.4株を用いて調べた。
【0025】
内皮細胞や平滑筋細胞におけるLDLの代謝は細胞内の過剰の遊離コレステロールによって、LDLレセプターのダウンレギュレーションがかかるが、マクロファージにおいては変性LDLの取り込みは、スカベンジャーレセプター経由による。この経路はレギャレーションがかからないためコレステロールエステルが無制限に蓄積してゆく。
【0026】
そこで、14Cでラベルしたコレステロールとホスファチジルコリンからなるリポソームをマクロファージ細胞に取り込ませ、粗面小胞体に存在するACATに作用させることにより、オストールが細胞内コレステロールエステルの蓄積を抑制するか否かを調べた。
【0027】
マクロファージ細胞を10%牛胎児血清、ペニシリン50U/ml及びストレプトマイシン50μg/mlを加えたRPMI 1640培地(日水製薬社製)にて、2日間、5%CO2の条件にてインキュベートした。次いで、トリプシン処理を行い、ウェルの底面に付着している細胞を剥がして細胞懸濁液とした後、細胞を上記新鮮培地で洗浄し、24穴のマルチプルウェルプレート(コーニング社製25820−24)に1ウェル当たり2×106個/mlの細胞溶液750μlを播種した。37℃、5%CO2の条件下で37時間培養した後に前記新鮮培地と交換し、更に80μgのコレステロール(0.4μCiの3H−コレステロールを含む)と160μgのホスファチジルコリンを含んだ0.3Mのグルコース溶液40μl、及びオストールを溶解したメタノール溶液10μlを添加して、12時間培養した。これらの操作は無菌的に行った。
【0028】
培養終了後、血清を含まないRPMI 1640培地を使用して底面に付着している細胞を5回駒込ピペットで洗浄した後、1mlの2−プロパノールを添加して細胞内のコレステロール及び生成したコレステロールエステルを抽出した。この抽出液をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(メルク社製Art.5553)に全量塗布し、ヘキサン:エーテル:ギ酸(80:20:2)にて展開した後、オートラジオグラフィーを行った。次に、3Hでラベルされたコレステロールエステル及びコレステロール部分を切り取り、液体シンチレーションカウンターにて放射活性を測定し、対照と比較してコレステロールエステル蓄積抑制率を得た。その結果、オストールのIC50値は20μMであった。
【0029】
【実施例】
以下、実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
製造例1
500gの蛇床子を、10リットルのメタノールを用いて1週間室温で冷浸抽出した。抽出液を濾過した後、減圧濃縮及び乾固して38.4gの粗抽出物を得た。次にこの粗抽出物をエーテルと水とで振り分けた。このエーテル層を濃縮してシリカゲルカラム(内径5cm,長さ90cm)に重層し、n−ヘキサン、n−ヘキサン:酢酸エチル(1:1)、酢酸エチル、メタノールの4種の溶媒各1リットルで順次溶出し、活性成分の分画を行った。
【0031】
溶出した液を150mlずつ分取し、活性画分を減圧乾固して粗活性物質4.85gを取得した。次に、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(5cmφ×60cm)に全粗抽出物を積層し、600mlのクロロホルムにて溶出した後、95%クロロホルム:メタノール、90%クロロホルム:メタノール、及び80%クロロホルム:メタノールそれぞれ600mlにて順次溶出することにより、活性画分を回収した。得られた粗活性物質は3.5gであった。
【0032】
次に、この粗活性物質全量をクロロホルム:メタノール(90:10)を溶出液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィー(5cmφ×100cm)にて再度クロマトグラフィー分画を行った。溶出液は150mlずつ分取し、活性画分を減圧乾固して2.6gの粗活性画分を取得した。
【0033】
この内の1gを高速液体クロマトグラフィー(ウォーターズ社製システム600E)を用い、逆相C18カラムを使用して、アセトニトリル:水(80:20)の溶媒系により分離精製した結果、0.53gの粗活性画分を得た。
【0034】
このACAT阻害活性を示す成分は、更にn−ヘキサン:酢酸エチル(3:1)を展開溶媒とした分取薄層クロマトグラフィー(メルク社製:シリカゲル60F254,Art.5717)によって精製を行った。最後に活性成分をヘキサン−酢酸エチル中で再結晶させることにより、無色柱状の結晶267mgを得た。その純度は高速液体クロマトグラフィーによる分析で95%以上であった。
【0035】
以上のようにして得られた活性物質の理化学的性状は、以下に示す通りであった。
(1)分子式:C15H16O3
(2)分子量:244(マススペクトルによりm/z244(M+)が観察された。)
(3)紫外線吸収スペクトル(エタノール中):第1図の通り。
(4)赤外線吸収スペクトル(KBr中):第2図の通り。
(5)溶媒に対する溶解性:メタノール、エタノール、アセトニトリル、酢酸エチル、クロロホルム、ベンゼンに可溶、水に不溶。
(6)塩基性、酸性、中性の区別:中性。
(7)物質の色、形状:白色、粉末。
(8)プロトン核磁気共鳴スペクトル:第3図の通り。
1H−NMR(DMSO−d6,400MHz,37c)δ:1.67(3H,s), 1.84(3H,s), 3.54(2H,d,J=8Hz), 3.92(3H,s), 5.22(1H,t,J=8Hz), 6.22(1H,d,J=8Hz), 6.83(1H,d,J=8Hz), 7.28(1H,d,J=12Hz), 7.60(1H,d,J=12Hz).
(9)化学構造:
【0036】
【化3】
【0037】
以上より、本活性物質はオストールと同定された。
【0038】
実施例1 錠剤
オストール 40g
ラクトース 360g
ステアリン酸タルク 40g
デンプン 60g
以上を混合機で混和し、打錠して0.5gの錠剤1000個を得た。
【0039】
【発明の効果】
オストールは、小腸、肝臓及びマクロファージのACATの活性を特異的に阻害する。従って、これを有効成分とする本発明ACAT阻害剤は、コレステロールの吸収抑制剤又は動脈硬化症もしくはこれに起因する動脈硬化性病変の予防・治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】蛇床子より抽出されたACAT阻害活性を示す物質(オストール)の紫外線吸収スペクトルを示す図である。
【図2】蛇床子より抽出されたACAT阻害活性を示す物質(オストール)の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図3】蛇床子より抽出されたACAT阻害活性を示す物質(オストール)のプロトン核磁気共鳴スペクトルを示す図である。
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