JP5215518B2 - 酵素分解物及びその製造方法 - Google Patents

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Description

技術分野
本発明は、調味料原料に、特定の条件下で蛋白質分解酵素を作用させてなる酵素分解物、該酵素分解物からなる調味料及びそれらの製造方法に関する。

背景技術
従来、原料を塩酸等で加水分解することで種々の調味料が製造されているが、MCP、DCP等の有害な塩素化合物も副生されることから、近年の食品の安全性への関心の高まりと共に、酵素分解によって調味料を製造することが注目されている。例えば、魚を60℃以上の温度に加熱して魚体中に含まれる自己消化酵素を不活性化し、次いで50〜60℃、pH9〜10において耐アルカリ性蛋白質分解酵素を添加して分解した後、pHを5〜6に調整し別の耐酸性蛋白質分解酵素を添加して同じく50〜60℃で分解する調味料の製造方法(特公昭53−31935号公報)、削り節の熱水抽出残渣を、エンドタイプのプロテアーゼを中性で作用させて蛋白質を可溶化させた後、エキソタイプのプロテアーゼを酸性にて作用させて苦味成分を分解し、旨み成分を増加させることを特徴とする液体調味料の製造方法(特開平5−308922号公報)、小麦グルテン、動物蛋白(ゼラチン)等を50〜60℃条件下で酵素分解を行い調味料を製造する方法(食品と開発、31、2、20〜22頁、1996年)がある。これら従来の酵素分解においては、酵素分解反応液中の雑菌汚染を防止するために、該酵素分解反応液中の温度を50〜60℃という高温に設定しなければならず、この結果、得られる製品に加熱臭が付くことが避けられないという問題点が存在した。また、一般に使用されるエキソ型プロテアーゼは糸状菌由来であり、耐熱性が低く、該酵素分解反応液中の温度が55℃を越えると酵素活性が次第に失活してしまう。そのため実生産においては、温度管理、かくはん能力等を備えた酵素分解反応槽が必要であり、かなりの設備投資、生産管理要員及びメンテナンス費用を要する点が問題となっている。
一方、魚醤油の製造方法において、蛋白質分解酵素及びエタノール濃度0.5〜5%(v/v)に相当するエタノールの存在下で、無機塩濃度3〜12%(w/w)として原料魚介を酵素分解する方法が開示されている(特開平3−254660号公報)。しかし、この方法は、一般的な食品用酵素を魚醤油の製造のための一般的な方法で(すなわち、エタノール、無機塩などの存在下で)使用している。この方法における条件は、酵素の特性(至適pHを含む)を生かした効果的な酵素の使用には適していないので、原料利用率が低いという欠点を有する。特に、だし汁製造企業等から排出される抽出残渣の有効利用技術の開発が求められている現状から、原料利用率の高い産業廃棄物利用技術の開発が求められている。
また、コーングルテンミール(CGM)はコーンスターチの副産物として大量に(日本国内で年間約20万トン)産出され、蛋白質を多量に含有する資源である。しかし、CGMは分解されにくいので、現在では、家畜の飼料などに利用されているのみである。従って、CGMのより有効な利用方法の開発が望まれている。

発明の目的
本発明の第1の目的は、特別な設備を要しない簡易な設備を用いて、調味料原料を酵素分解した酵素分解物を提供することにあり、第2の目的は、第1の目的の酵素分解物の製造方法を提供することにある。

発明の概要
本発明を概説すると、調味料原料に、いずれも、酵母及び乳酸菌が生育しない条件下において、(a)アルカリ性条件下でエンド型プロテアーゼを作用させ、次いで(b)中性〜酸性条件下でエキソ型プロテアーゼを作用させてなる酵素分解物に関する。更に本発明は、調味料原料に、酵素分解反応液中の塩濃度及びエタノール濃度をそれぞれ8〜12w/v%及び3.5〜6v/v%、又はそれぞれ1w/v%以上8w/v%未満及び3.5〜12v/v%に維持しつつ、20〜40℃で調味料原料に、(a)アルカリ性条件(塩濃度及びエタノール濃度が前者の場合はpH8.5〜9.5、後者の場合はpH9.5超〜12)下でエンド型プロテアーゼを作用させ、次いで(b)中性〜酸性条件下でエキソ型プロテアーゼを作用させることを特徴とする酵素分解物の製造方法に関する。更に本発明は、前述の酵素分解物を含有する食品、飲料又は調味料に関する。
本発明者らは特別な設備を必要とせずに、風味及び旨みの多い、ペプチドを多く含む酵素分解物の開発を目指した。その結果、20〜40℃において、酵素分解反応液中の塩濃度及びエタノール濃度をそれぞれ8〜12w/v%及び3.5〜6v/v%、又はそれぞれ1w/v%以上8w/v%未満及び3.5〜12v/v%に維持しつつ、調味料原料にアルカリ性条件下でエンド型プロテアーゼを作用させ、次いで中性〜酸性条件下でエキソ型プロテアーゼを作用させることにより、酵母、乳酸菌及びそれ以外の雑菌が生育せず、醤油香気及び加熱臭のない、風味及び旨みの多い、ペプチドを多く含むこく味の多い酵素分解物が得られることを見出した。更に該酵素分解物の製造方法において、酵素分解反応液中の塩濃度8〜12w/v%及びエタノール濃度3.5〜6v/v%、又は塩濃度1w/v%以上8w/v%未満及びエタノール濃度3.5〜12v/v%を維持しつつ、まずエンド型プロテアーゼをアルカリ性条件(塩濃度及びエタノール濃度が前者の場合はpH8.5〜9.5、後者の場合はpH9.5超〜12)下で作用させることで、酵母、乳酸菌及びそれ以外の雑菌の汚染が防止しされ、かつ原料の分解率が向上すること、次いで、エキソ型プロテアーゼを中性〜酸性条件下で作用させることで、原料窒素回収率が向上し、醤油香気及び加熱臭のない、風味及び旨みの多い酵素分解物が得られることも見出し本発明の完成に至った。
また、本発明における酵素分解物の製造方法は、20〜40℃にて操作できるので、従来の方法では必要であった酵母、乳酸菌及びそれ以外の雑菌の汚染防止のための温度制御設備や厳密な作業管理を必要とせず、酵素分解反応液そのものの安定性も高いので、作業性に優れていると言う利点を有することも見出した。
更に、調味料原料として、穀類、畜肉類及び魚介類処理物等の産業廃棄物を用いて検討した結果、醤油香気及び加熱臭のない、旨み、こく味の良好な酵素分解物を得ることができることを見出した。

発明の詳細な説明
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明における調味料原料とは、蛋白含有物及び/又は焼酎蒸留残渣をいう。
本発明における蛋白含有物とは、動物(魚介類を含む)または植物由来の蛋白を含有する物質をいう。蛋白含有物は、上記物質の処理物であってもよく、上記物質およびそれらの処理物から選択される2種以上の物質の混合物であってもよい。動物蛋白含有物には特に限定はないが、鶏肉、牛肉、豚肉等の畜肉が包含される。植物蛋白含有物にも特に限定はないが、小麦グルテン、コーングルテン、大豆粉末、脱脂大豆粉末等の穀類蛋白や胡麻粕、菜種粕、酒粕、豆腐粕(おから)等が、それぞれ例示される。また、それらの処理物とは上記のような動物蛋白含有物及び植物蛋白含有物の加工品、加工残渣、蛋白含有物の抽出物又は抽出残渣等を言う。蛋白含有物の処理物としては、小麦グルテンから加工される麩、コーンスターチの副産物であるコーングルテンミール(CGM)、鰹節抽出物が例示される。従って、本発明の方法はCGMの新規利用方法として有用である。
また、動物由来の蛋白含有物には魚介類処理物が含まれる。魚介類処理物とは、例えば、鰯、鯖、いか、蛸、海老、鰹、雑魚等の乾燥物又は焙乾物、又はそれらの残渣、抽出物、抽出残渣等を言い、魚介類の種類に特に限定はない。
ここで、魚介類の乾燥物は、加熱(又は煮熱)後、乾燥(天日干し又は乾燥機等で乾燥)した物、又は単に乾燥(天日干し又は乾燥機等で乾燥)した物であり、乾燥方法に特に限定はない。また、焙乾物は、乾燥と共に燻煙をかけた物であり、焙乾方法に特に限定はない。同じ燻煙をかけるにしても、燻製食品の場合には、燻煙をすることが主目的で乾燥は付随的なものであるが、かつお節を製造する際の焙乾は乾燥が主目的で燻煙が付随的なものというように異なっている〔だし・エキスの知識、第61頁、著者太田静行、発行所(株)幸書房、1996年12月20日初版第1刷発行〕。
本発明に使用する焼酎蒸留残渣は、連続蒸留機(Continuous still)で蒸留する甲類焼酎の蒸留残渣、単式蒸留機(pot still)で蒸留する乙類焼酎の蒸留残渣のいずれであっても良く、あるいは、ウオッカ、ウィスキーなどの蒸留酒の蒸留残渣であっても良いが、焼酎蒸留残渣中に含まれるエキス分を考慮に入れると、乙類焼酎蒸留残渣が好ましい。乙類焼酎蒸留残渣、特に減圧蒸留処理で得られた残渣中には、生きた酒精酵母菌体が相当量残っている。酒精酵母菌体は、その生育に適しない濃度の食塩及びエタノール含有条件で熟成することにより、自己消化が容易に起こり、菌体内蛋白、及び核酸分解物が遊離し、調味料に良好な香味及びこく味を加えることができる。乙類焼酎蒸留残渣としては、米焼酎、麦焼酎、芋焼酎、甘蔗焼酎、及び蕎麦焼酎等を生産する際に副生する蒸留廃液が例示される。廃液はそのままを使用しても良く、あるいは濃縮したものでも良い。またこれらの蒸留残渣は一種類又は数種類の混合物を使用しても良い。
また、本発明における原料の状態(原料粒度)については、特に限定はないが、例えば、微粉砕原料を使用した場合は、分解反応液中において大部分が浮遊状態で存在し、かくはんがほとんど不必要であり作業が容易となる。
本発明で使用するエタノールは、特に限定はなく、食品に使用できるものであれば良い。例えば、醸造用アルコール、又は、清酒、焼酎、ウオッカ、ウィスキー等のアルコール飲料がある。
本発明で使用する塩としては、通常は食塩、岩塩等の塩化ナトリウムを使用するが、塩化カリウム等の他の塩類も使用可能である。
本発明においてアルカリ性条件下で作用させるエンド型プロテアーゼは、アルカリ性条件下で高い酵素活性を持つものであれば特に限定はないが、アルカラーゼ〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕、エスペラーゼ〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕、オリエンターゼ22BF〔阪急共栄物産(株)製〕、プロテアーゼS〔天野製薬(株)製〕等が例示される。また、本発明において中性〜酸性条件下で作用させるエキソ型プロテアーゼは、中性〜酸性条件下で高い酵素活性を持つものであれば特に限定はないが、フレーバーザイム〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕、オリエンターゼONS〔阪急共栄物産(株)製〕、プロテアーゼA〔天野製薬(株)製〕等が例示される。
本発明で使用するエンド型プロテアーゼ又はエキソ型プロテアーゼの形態としては、遊離の形又は担体に固定化された形でも良く、特に限定はない。例えば、担体に固定化されたエンド型プロテアーゼ又はエキソ型プロテアーゼ(以下、固定化酵素と称す)を用いる場合、実生産において酵素の使用量を飛躍的に減少させることができる。この場合、酵素分解反応液中の酵母、乳酸菌及びそれ以外の雑菌汚染が問題となるが、本発明においては、エタノール及び塩濃度を維持しつつ、アルカリ性又は中性〜酸性条件にて固定化酵素を作用させることができるので、20〜40℃においても効果的に酵母、乳酸菌及びそれ以外の雑菌汚染を防止できる。
本発明における酵素分解物は、ペプチド及びアミノ酸の混合物であるので、ペプチドおよび/またはアミノ酸を有効成分として含有するいずれかの組成物として使用することができる。この組成物をさらに精製して使用してもよい。組成物としては調味料が例示される。特に、本発明の酵素分解物は単独でこく味調味料として用いることができる。また、塩濃度1w/v%以上8%未満の酵素分解物は、スープ、出汁、たれ等の調味料の添加物及び栄養補助食品等の素材として用いることもできる。
本明細書において用いる用語「こく味調味料」は、ペプチドを比較的多量に含有し、味をなれさせ、こく味を効果的に付与する調味料をいう。アミノ酸を比較的多量に含有する醤油、ペプチド含量は比較的高いが特有の魚臭を有する魚醤油、魚肉エキスなどはこく味調味料に含まれない。本発明におけるこく味調味料において、ペプチド含有率は、式(1−FN/TN)で得られる値で表すことができる。ここで、TNは可溶性画分中の全窒素のことであり、FNは同じく可溶性画分中のホルモール窒素のことであり、それらの比であるFN/TNはアミノ酸含有率を表している。FN/TNは例えば0.6〜0.1、好ましくは0.5〜0.2、より好ましくは0.45〜0.25である。
本明細書において用いる用語「こく味」とは、料理において、塩辛さ、すっぱさを抑える、味にまろみを付ける、濃厚感を増強するといったような総合的な作用をいう。
本明細書において用いる用語「酵母及び乳酸菌が生育しない条件」は、酵母及び乳酸菌が生育しないいずれかの条件をいう。50〜60℃のような高温での反応は得られる製品に加熱臭などが生じるので、特に調味料の製造には好ましくない。酵母及び乳酸菌の生育は、酵素分解物の一定量を取得し、これを適切な培地で培養し、その中に含まれる酵母及び乳酸菌の数を計数することによって測定することができる。例えば、酵母及び乳酸菌が生育しない条件は、酵素分解物1gあたり10個以下の酵母及び乳酸菌を含有する条件である。
限定するものではないが、酵母は醤油酵母および酒精酵母を包含し、乳酸菌は醤油乳酸菌を包含する。
1つの実施態様において、酵母及び乳酸菌が生育しない条件は、酵素分解反応液中の塩濃度及びエタノール濃度を適切に調整することによって提供される。
次に、本発明におけるエタノール濃度と塩濃度は、例えば、20〜40℃において酵素分解反応液中のエンド型プロテアーゼ又はエキソ型プロテアーゼ活性を阻害せずに、酵母、及び乳酸菌の増殖を阻止するような条件であれば、該条件を達成する手段に特に限定はないが、好ましくは、酵素分解反応液中のエタノール及び塩濃度を調整することによって達成する。なお、酵素分解反応液中のエタノール及び塩濃度を調整するに当っては、例えば、原料由来の持込み分がある場合には、エタノール及び塩を補正して添加する必要がある。
酵素分解反応液中のエタノール濃度が3.5v/v%未満又は塩濃度が8w/v%未満では酵素分解反応液中に酵母及び乳酸菌が生育し、熟成後の酵素分解反応液は腐敗してしまい、また、エタノール濃度が6v/v%又は塩濃度が12w/v%を超えた場合は、酵母及び乳酸菌の生育又は腐敗は無いが、酵素分解反応液中のエンド型プロテアーゼ又はエキソ型プロテアーゼ活性が阻害を受け、その結果、原料中窒素の利用率が低くなる。したがって、本発明のこく味調味料を得るためには、酵素分解反応液中のエタノール濃度3.5〜6v/v%及び塩濃度8〜12w/v%にすることが望ましい。なお、酵素分解反応液中のエタノールは熟成中に一部が蒸散するので、必要に応じて補充することが望ましい。
前述のごとく、塩濃度8w/v%未満では通常、酵素分解反応液中の酵母及び乳酸菌が生育し、酵素分解反応液は腐敗してしまうが、酵素反応におけるアルカリ性条件がpH9.5超〜12で、かつ、エタノール濃度3.5〜12v/v%に設定した場合は、この限りではない。すなわち、塩濃度が1w/v%以上8w/v%未満の酵素分解物を得る場合は、pH及びエタノール濃度を上記の範囲に設定することで腐敗を防止できる。エタノール濃度が6v/v%を越えた場合、酵素分解反応液中のエンド型プロテアーゼ又はエキソ型プロテアーゼ活性が阻害を受けるが、その場合は、使用する酵素量を増やすか反応時間を延長することで対応できる。
本発明における反応温度は、例えば、20〜40℃であり、該範囲中に収まるのであれば温度コントロールをしても良いし、気候により成り行きに任せても良い。上記のように、50〜60℃のような高温での反応は得られる製品に加熱臭などが生じるので、特に調味料の製造には好ましくない。
本発明の酵素分解物の製造は、例えば以下のように行う。すなわち、所定量の調味料原料、エタノール及び食塩を混合した分解反応液を、まずアルカリ性条件下でエンド型プロテアーゼを作用させ、次いで中性〜酸性条件下でエキソ型プロテアーゼを作用させる。反応温度は、20〜40℃、エンド型プロテアーゼ及びエキソ型プロテアーゼの酵素活性を考慮に入れると好ましくは25〜35℃にて、通常1〜8週間分解、熟成を行う。
本発明にて使用するエンド型プロテアーゼの添加量は、好ましくは原料乾物g当り200単位〜5000単位であればよく、特に好ましくは、800単位〜3000単位であればよい。なお、ここでいうプロテアーゼの活性は、当該酵素をカゼインを基質として、1分間に1μgのチロシンに相当するTCA可溶性のフォリン試薬呈色物質を生成する酵素量を1単位(U)とする。
また、本発明にて使用するエキソ型プロテアーゼの添加量は、好ましくは原料乾物g当り2単位〜50単位であればよく、特に好ましくは、5単位〜20単位であればよい。なお、ここでいうプロテアーゼの活性は、当該酵素をL−ロイシン−p−ニトロアニリドを基質として、1分間に1マイクロモルのp−ニトロアニリドを遊離する酵素量を1単位(U)とする。
また、本発明において使用する酵素は、微生物の培養物又はその加工品でも良い。例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属菌、バチルス(Bacillus)属菌の液体培地培養物又は固体培地培養物、特に米麹、豆麹、麦麹、小麦ふすま麹、醤油麹等でも良い。
本発明における分解反応液のpHは、酵素の至適pH範囲に調整すれば特に限定はないが、例えば、一般的なこく味調味料の製造においては、最初にアルカリ性条件下、好ましくは、pH8.5〜9.5でエンド型プロテアーゼを作用させ、次いで中性〜酸性にpHを変更して、エキソ型プロテアーゼを作用させるのが好ましく、中性〜酸性条件がpH5.5〜6.5であることが特に好ましい。本明細書において、アルカリ性、中性、酸性はこれらの用語が一般的に使用される場合と同じ意味を表す。すなわち、アルカリ性はpHが7より大きいことをいい、中性はpHが7であることをいい、酸性はpHが7より小さいことをいう。まず、最初の酵素反応をアルカリ側で行うことで、腐敗菌の混入を防ぎながら、原料の膨潤と可溶化が進み、酵素の反応性が高まる。また、エンド型プロテアーゼを用いることで、蛋白質の可溶化、ペプチド化が促進される。次いで、中性〜酸性条件下でエキソ型プロテアーゼを作用させることで、旨味成分の生成が促進される。その結果として、原料利用率が高く、旨味、こく味の多い調味料の製造が可能となる。更に、従来の加熱しながらアルカリ性条件下で蛋白質分解酵素を作用させる方法では、加熱臭及び脱アミノ化反応によるアンモニア臭やアルカリ臭等が発生するが、本発明の条件においては、常温下で蛋白質分解酵素を作用させることができるので、そのような臭気の発生が見られない。
また、例えば、塩濃度が1w/v%以上8w/v%未満の酵素分解物の製造においては、まず、pH9.5超〜12でエンド型プロテアーゼを作用させ、次いで中性〜酸性条件下でエキソ型プロテアーゼを作用させればよい。
このようにして得られた調味料又は酵素分解物はこのままでも各種用途に使用可能であるが、必要に応じて公知処理方法を実施することで更に高品質の製品とすることができる。処理手段としては、1.使用した酵素を失活させるための加熱処理(例えば、80℃、30分間)、2.固形分を除去するための遠心分離、ろ過、圧搾処理、3.脱臭、脱色のための活性炭処理、4.濃縮処理操作、及び5.スプレードライ等による粉末化等を単独でも又は複数組合せても良い。
また、本発明により前述の酵素分解物を含有することを特徴とする食品、飲料又は調味料が提供される。本発明の食品、飲料又は調味料には、必要に応じ、甘味料、酸味料、香料等を添加しても良く、更にエタノール及び/又は炭酸ガスを添加し、エタノール含有飲料又は炭酸ガス含有飲料としても良い。なお、本発明の食品、飲料又は調味料でいう「含有」の語は、含有、添加、希釈の意を含むものであり、含有とは食品、飲料又は調味料中に本発明により得られる酵素分解物が含まれるという態様を、添加とは食品、飲料又は調味料の原料に、該酵素分解物を添加するという態様を、希釈とは該酵素分解物を食品、飲料又は調味料の原料で希釈するという態様をいうものである。
本発明の食品、飲料又は調味料とは、前述の酵素分解物を含有すれば良く、特に限定はされないが、例えば、麺類、パン類等の穀物加工品、野菜飲料、果実飲料、漬け物類等の野菜・果実加工品、リキュール類等のアルコール飲料、だし、たれ等の調味料が挙げられる。
以上説明したごとく、本発明の酵素分解物は、醤油香気及び加熱臭を発生しない、魚醤油や醤油にない、風味、旨み、こく味を有する新規の酵素分解物である。また、本発明の酵素分解物を食品又は飲料に使用することにより、塩なれ感、酢なれ感、まろやかさの付与、味の伸びなど熟成した味わいをもたせることができる。
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。

実施例
実施例1
鰹節粉末〔(株)マルモ製、100 mesh pass TN13%〕80g(乾物重量75g)、食塩50g、エタノール25ml、水400mlを混合して、食塩及びエタノール終濃度がそれぞれ10w/v%及び5v/v%になった混合液を用意した。次に、該混合液のpHを8.5に調整したのちアルカラーゼ2.4L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕を0.3ml添加して30℃にて静置した。静置中の混合液は、原料が微粉末であるため大部分が液中に浮遊しており、かくはんはほとんど不要であった。また、混合液のpHは時々NaOH溶液(40w/v%)を用いて8.5になるように調整した。4週間後、該混合液のpHを6.5に調整した後、フレーバーザイム1000L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕0.8mlを添加して、1週間静置し、反応を終了した。次に、80℃、30分間加熱して酵素を失活させた後、ろ過をして調味料を得た。一般分析値はTN 1.4%、FN 0.4%、NaCl 10.0%、EtOH 5%、pH 5.5、Brix 19.6、OD430 5.1の醤油香気及び加熱臭のない、風味、旨み、こく味に優れた調味料が得られた。また、分解反応中の雑菌による腐敗は見られなかった。

参考例1
干麩84g(乾物重量78g)、食塩50g、エタノール25ml、水375mlを混合し、pHを8.5に調整したのちアルカラーゼ2.4L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕を0.3ml添加して30℃にて静置した。静置中の混合液は、1日に1回かくはんを行った。また、混合液のpHは時々NaOH溶液(40w/v%)を用いて8.5になるように調整した。1週間後、該混合液のpHを6.0に調整した後、フレーバーザイム1000L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕0.8mlを添加して、1週間静置し、反応を終了した。次に、80℃、30分間加熱して酵素を失活させた後、ろ過をして調味料を得た。一般分析値はTN 1.6%、FN 0.45%、NaCl 10.0%、EtOH 5%、pH 5.8、Brix 28.1、OD430 3.1の醤油香気及び加熱臭のない、風味、旨み、こく味に優れた調味料が得られた。また、分解反応中の雑菌による腐敗は見られなかった。

実施例
鰹節抽出残渣(TN6%)150g(乾物重量75g)、食塩34g、エタノール17ml、水170mlを混合し、pHを8.5に調整したのちアルカラーゼ2.4L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕を0.3ml添加して30℃にて静置した。静置中の混合液は、1日に1回かくはんを行った。また、混合液のpHは時々NaOH溶液(40w/v%)を用いて8.5になるように調整した。4週間後、該混合液のpHを5.5に調整した後、フレーバーザイム1000L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕0.8mlを添加して、1週間静置し、反応を終了した。次に、80℃、30分間加熱して酵素を失活させた後、ろ過をして調味料を得た。一般分析値はTN 1.9%、FN 0.8%、NaCl 10.0%、EtOH 5%、pH 5.4、Brix 25.4、OD430 5.9の醤油香気及び加熱臭のない、風味、旨み、こく味に優れた調味料が得られた。また、分解反応中の雑菌による腐敗は見られなかった。

参考例2
コーングルテンミール(TN 11.9%)86g、食塩50g、エタノール25ml、水373mlを混合し、pHを9.0に調整した後、アルカラーゼ2.4L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕を0.33ml添加して30℃にて静置した。静置中の混合液は、1日に1回かくはんを行った。また、混合液のpHは時々NaOH溶液(40w/v%)を用いて9.0になるように調整した。4週間後、該混合液のpHを5.0に調整した後、フレーバーザイム1000L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕0.82mlを添加して、2週間静置し、反応を終了した。次に、80℃、30分間加熱して酵素を失活させた後、ろ過をして調味料を得た。一般分析値はTN 1.7%、FN 0.51%、NaCl 10.5%、EtOH 4.5%、Brix 24.0、OD430 4.5の醤油香気及び加熱臭のない、風味、旨み、こく味に優れた調味料が得られた。また、分解反応中の雑菌による腐敗は見られなかった。

実施例
鰹節抽出残渣(TN6.9%)181.2g(乾物重量87.0g)、食塩30g、エタノール25ml、水282.9mlを混合し、pHを10.0に調整したのちアルカラーゼ2.4L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕を0.33ml添加して、合計500mlを30℃にて静置した。静置中の混合液は、1日に1回かくはんを行った。また、混合液のpHは時々NaOH溶液(40w/v%)を用いて10.0になるように調整した。4週間後、該混合液のpHを5.5に調整した後、フレーバーザイム1000L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕0.8mlを添加して、2週間静置し、反応を終了した。次に、80℃、30分間加熱して酵素を失活させた後、ろ過をして調味料を得た。一般分析値はTN 1.6%、FN 0.48%、NaCl 6.0%、EtOH 5%、pH 5.4、Brix 20.5、OD430 3.8の醤油香気及び加熱臭のない、風味、旨み、こく味に優れた酵素分解物が得られた。また、分解反応中の雑菌による腐敗は見られなかった。

実施例
鰹節抽出残渣(TN6.9%)181.2g(乾物重量87.0g)、食塩25g、エタノール30ml、水287.9mlを混合し、pHを9.6に調整したのちアルカラーゼ2.4L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕を0.33ml添加して、合計500mlを30℃にて静置した。静置中の混合液は、1日に1回かくはんを行った。また、混合液のpHは時々NaOH溶液(40w/v%)を用いて9.6になるように調整した。5週間後、該混合液のpHを5.5に調整したした後、フレーバーザイム1000L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕0.8mlを添加して更に1週間静置した。次いで、80℃、30分間加熱して酵素を失活させた後、ろ過をして調味料を得た。一般分析値はTN 1.7%、FN 0.49%、NaCl 5.1%、EtOH 5.9%、pH 5.3、Brix 19.6、OD430 3.9の醤油香気及び加熱臭のない、風味、旨み、こく味に優れた酵素分解物が得られた。また、分解反応中の雑菌による腐敗は見られなかった。

実施例
麦焼酎蒸留廃液(TN 0.71%、Brix 24.8)600mlに干麩(TN 11.9%)135g、エタノール40ml、食塩80gを加え、pHを8.6に調製したのち、アルカラーゼ2.4L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕を0.4ml添加して、合計800mlを35℃にて静置した。静置中の混合液は、1日に1回かくはんを行った。また、混合液のpHは、時々NaOH溶液(40w/v%)で8.6になるように調整した。3週間後に、pHを6.5に調節したのち、フレーバーザイム1000L〔ノボノルディスクバイオインダストリー(株)製〕を0.9ml添加して更に1週間静置した。次いで、固液分離し、80℃、30分間加熱して酵素を失活させた後、ろ過をして調味料を得た。一般分析値はTN 2.2%、FN 0.8%、NaCl 10.5%、EtOH 5.5%、pH 5.8、Brix 22.0 19.6、OD430 5.6で、醤油香気及び加熱臭のない、風味、こく味に優れたものであった。また、分解反応中の雑菌による腐敗は見られなかった。

産業上の利用の可能性
本発明により、風味、旨み、こく味の良い酵素分解物を提供することができる。また、本発明により、節抽出残渣、焼酎蒸留残渣やおから等の副産物の有効利用方法を提供できる。更に、本発明においては、酵素分解槽等の特別な装置を必要とせず、経済的に安価な酵素分解物を製造することが可能である。

Claims (7)

  1. 魚介類由来の蛋白含有物または焼酎蒸留残渣に、いずれも、酵素分解反応液中の塩濃度が8〜12w/v%であり、エタノール濃度が3.5〜6v/v%である条件下において、(a)20〜40℃及びアルカリ性条件下でエンド型プロテアーゼを作用させ、次いで(b)20〜40℃及び中性〜酸性条件下でエキソ型プロテアーゼを作用させてなる調味料。
  2. 魚介類由来の蛋白含有物または焼酎蒸留残渣に、いずれも、酵素分解反応液中の塩濃度が1w/v%以上8w/v%未満であり、エタノール濃度が3.5〜12v/v%である条件下において、(a)20〜40℃及びpH9.5超〜12条件下でエンド型プロテアーゼを作用させ、次いで(b)20〜40℃及び中性〜酸性条件下でエキソ型プロテアーゼを作用させてなる調味料。
  3. 調味料におけるペプチド含有率が0.4〜0.9である請求項1または2記載の調味料。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項記載の調味料を含有することを特徴とする食品、飲料又は調味料。
  5. 酵素分解反応液中の塩濃度及びエタノール濃度をそれぞれ8〜12w/v%及び3.5〜6v/v%に維持しつつ、20〜40℃で魚介類由来の蛋白含有物または焼酎蒸留残渣に、(a)pH8.5〜9.5でエンド型プロテアーゼを作用させる工程、次いで(b)中性〜酸性条件下でエキソ型プロテアーゼを作用させる工程を包含する、調味料の製造方法。
  6. 酵素分解反応液中の塩濃度及びエタノール濃度をそれぞれ1w/v%以上8w/v%未満及び3.5〜12v/v%に維持しつつ、20〜40℃で魚介類由来の蛋白含有物または焼酎蒸留残渣に、(a)pH9.5超〜12でエンド型プロテアーゼを作用させる工程、次いで(b)中性〜酸性条件下でエキソ型プロテアーゼを作用させる工程を包含する調味料の製造方法。
  7. 調味料におけるペプチド含有率が0.4〜0.9である請求項5または6記載の方法。
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