JPH0746100B2 - 細胞固定・保存液 - Google Patents

細胞固定・保存液

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JPH0746100B2
JPH0746100B2 JP61311818A JP31181886A JPH0746100B2 JP H0746100 B2 JPH0746100 B2 JP H0746100B2 JP 61311818 A JP61311818 A JP 61311818A JP 31181886 A JP31181886 A JP 31181886A JP H0746100 B2 JPH0746100 B2 JP H0746100B2
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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は細胞診検体の固定に適した細胞固定液に関し、
細胞の核と細胞質を良好な形態に固定し、さらにその形
態をかなりの期間保存しうるものである。
〔従来の技術〕
喀痰や子宮膣部から綿棒で採取された粘液性の検体中に
は無数の細胞が含まれており、その中に前癌状態の異型
細胞や癌細胞が含まれていないかどうかを検査するのが
細胞診であり、この細胞診は、現代の癌の早期発見に重
要な役割を担っている。この細胞診には顕微鏡が用いら
れてきたが、近年はそれに加えて、細胞を秒速数百個ま
たはそれ以上のスピードで流して測定するところの自動
細胞分析・分離装置であるフローサイトメトリー(flow
cytometry)を用いて行う自動化細胞診も適用されよう
としている。顕微鏡あるいはフローサイトメトリーを用
いた細胞診のいずれの場合でも、細胞が正確に診断され
るためには、検体中の細胞が良好な状態に固定されるこ
とが極めて重要で、固定が不良な場合は、癌細胞が見落
とされたり、逆に癌細胞でないものが癌細胞と見誤られ
たりする。
細胞診の一般的な固定法は、検体をスライドグラスに直
接塗抹してそれが乾かぬうちに迅速に固定液に入れて固
定する方法(塗抹標本の湿潤固定法)がとられ、その固
定液としては95%エタノールが用いられる。しかし、入
院していない患者や集団検診の被検者について肺癌の喀
痰細胞診を行う場合は、病院を受信した際に直ちに痰が
喀出できるとは限らない。むしろ痰は起床時に出やす
く、またこの起床時の痰は、就寝中に肺内から遊離した
細胞を豊かに蓄えているので細胞診に最も適している。
この起床時の痰を病院に持参した後に固定を行うのでは
時間が経ち過ぎ、細胞に変性が加わっていて固定が不良
であり、細胞診が不正確となる。このような場合、適切
な喀痰用の細胞固定液があって細胞を直ちに固定できれ
ば、起床時の喀痰を自宅でその固定液に入れて保存し、
後日病院へ持参出来るので好都合である。しかし、喀痰
を95%エタノール固定液に入れると、喀痰の粘液が表層
から凝固し、凝固した表層は、固定液が内部へ浸透する
のを妨害して内部の細胞の固定を不良とするばかりでな
く、喀痰をスライドグラスに薄く延ばして塗抹すること
をも妨げて更に標本の質を悪くする。また、フローサイ
トメトリーによる自動化細胞診の場合には、細胞の固定
状態が不均一なために測定誤差が大きくなったり、凝固
した粘液塊が装置のノズルを詰らせて分析不能となるな
どの重大な支障を生ずる。
肺癌検診のために、喀痰用の固定液を最初に導入したの
は米国のサコマノ(Saccomanno、1963)であり、我が国
においても、このサコマノ液がしばしば用いられてい
る。このサコマノ液は、50%エタノール水にカーボワッ
クス(ポリエチレングリコール1540)が2%の割りに添
加された簡単な組成のものである。この液の中に喀痰を
吐き出して一定時間固定したあと、検査室においてブレ
ンダーにかけて強く撹拌して粘液を機械的に破壊して細
胞を遊離させ、遊離した細胞を遠心沈澱して収集し、こ
れをスライドグラスに塗抹して塗抹標本を作り、染色を
施して顕微鏡診断を行うことになる。この液は、エタノ
ール濃度が50%と少し高い上にカーボワックスを含むた
め、固定中に細胞の収縮や核の濃縮が起り、そのため細
胞の詳細な内部構造が読み取り難く、慣れないと細胞診
断に支障を来す欠点がある。また、フローサイトメトリ
ーによる自動化細胞診においては、この液が粘液溶解剤
を含まないために、溶けずに残っている粘液が装置のノ
ズルを詰らせて測定が不能となったり、また細胞集塊が
生じ易いために、細胞一個一個の測定が不能となるなど
の重大な支障をきたす。従って、このサコマノ液は、フ
ローサイトメトリーによる自動化細胞診にとっては特に
不適切な固定液である。
近年、我が国において、粘液溶解性の核痰用固定液が開
発されて市販されるようになったが、これらはいずれも
サコマノ液と同様に2%のカーボンワックスを含む50%
エタノール水を基本とし、粘液溶解剤を添加したもので
ある。粘液溶解剤として、東北大学抗酸菌研究所式(サ
ーマル社発売)はNアセチル−Lシスティン(N−acet
yl−L−cysteine)を用い、大阪府成人病センター式
(松浪ガラス社発売)はジチオトレイトール(dithiotr
eitol)を用い、またYM式核痰固定液(武藤純薬社製、
特許出願中とのこと)はジハイドロキシ ジチオールブ
タン(dihydroxy dithiolbuthan)や酵素を加えたもの
とされている。
〔本発明が解決しようとする問題点〕
近年、肺癌患者の急造に関連して喀痰細胞診への需要も
急増し、老人医療法の改正によって昭和62年度から成人
の肺癌検診が義務付けられることになると、喀痰細胞診
への需要増加にさらに拍車がかかる情勢である。しか
し、肺癌検診のための喀痰細胞診は、子宮癌検診の細胞
診に比べて、正常細胞の数が著しく多くて異常細胞の含
有率は少ない特徴のために、顕微鏡による診断は著しく
労力がかかる作業である上、この技術に習熟した細胞診
士や指導医の数も少ない。そこで労力節減のため、近年
は、フローサイトメトリーを用いた自動化細胞診の開発
が強力に推進されている。これは、バラバラにした細胞
を螢光染色して溶液中に浮遊させておき、この細胞を装
置の中を高速で流しながらレーザー光線を当てて螢光を
発生させ、細胞一個ずつからの螢光量を測定して細胞を
定量するものであるから、喀痰などの粘液性の検体の場
合はその粘液を溶解し、細胞を分散した浮遊状態として
固定(浮遊固定)し得る固定液が不可欠である。また、
集団検診において多数被検者の喀痰をそれぞれ固定液に
入れて回収する場合は、通常は数日間は固定液に入れた
まま保存されることが多いので、この間に細胞の変性が
進行する危険もある。そのような場合に、細胞の固定性
と共に細胞構造の保存性も良好な固定・保存液が望まれ
る。そのような液があれば、肺癌の集団検診にも便利に
利用出来るし、また子宮癌についての集団検診において
も、検診医は、綿棒を一々その場でスライドグラスに塗
抹をせずとも、綿棒を固定液に投入しておけばよいので
手間を省け、かつ塗抹時に起り易い塗抹標本の乾燥とい
う重大な障害からも逃れることが出来て好都合である。
細胞の固定・保存性の良否は細胞の診断精度に重大な影
響を及ぼし、これが不良の検体では診断が不能となった
り、誤診が生じたりするので、細胞診を担当する関係者
には非常に関心が高い。このような細胞の固定・保存液
に関して要求される事項を纏めると以下の通りである。
1.粘液溶解性: 検体中の粘液は、一般に固定液に触れると凝固し、凝固
した粘液は、固定液の粘液塊内浸透を阻害して細胞の固
定を不均等として細胞分析上の誤差を生み、また粘液塊
がフローサイトメトリーのノズルを詰らせて分析を不能
とする。従って、粘液性の強い検体の場合、固定中に粘
液が溶解される固定液が望まれる。
2.DNAと蛋白質の固定: 顕微鏡による診断に際しては、核の大きさやその内部構
造、および核/細胞質比が診断の対象となり、またフロ
ーサイトメトリーによる自動化細胞診に際しては、核の
DNA量および細胞のDNA量/蛋白量比が定量の対象となる
ので、核(DNA)と細胞質(蛋白質)との両者が共に良
く固定され、かつ保存されなければならない。
3.固定による細胞の収縮や凝集の防止: 細胞の固定は確実でなければならないが、固定を強化す
ると、細胞が収縮あるいは濃縮して顕微鏡的診断が困難
になったり、また細胞同士が凝集して細胞集塊を作り、
これがフローサイトメトリーのノズルを詰らせて測定が
不能になったりするので、固定の強度はほどほどでなけ
ればならない。
4.固定液の毒性: 肺癌の集団検診の際は、喀痰の固定液を容器に入れて被
検者に配布することになるが、家庭に配布された固定液
を誤って子供などが飲むという万一の事故も考慮する
と、その固定液の毒性は低くなければならない。
5.固定した細胞の保存性: 集団検診の際は、大量が検体の一時に集められ、これら
が順次検査されるので、その間の数日から2週間ぐらい
は固定液の中で細胞構造が保存されねばならない。
近年わが国で市販されている各種の喀痰固定液を検討し
たが、0.2%アセチルシステインを50%エタノール水に
添加した東北大学抗酸菌研究所式の固定液は、追試の結
果、粘液溶解性は良好であるが、本出願者がフローサイ
トメトリーによる自動化細胞診用に開発したDNA蛋白同
時定量用螢光染色液の成分であるヘマトポルフィリンと
アセチルシスティンとが反応を起して褐色の絮状沈澱物
を生じ、該染色液による染色が傷害されることが欠点で
あった。次にジハイドロキシ ジチオールブタンを用い
たYM喀痰固定液(武藤純薬株式会社製、特許出願中)を
検討したが、これは粘液溶解性の点ではNアセチルLシ
スティン使用の固定液と同等と思われたが、独特の悪臭
があり、痰を吐きだそうとして口を容器に近づけると、
卵が腐ったような悪臭が鼻をつく。ある地域の集団検診
で、これを配られた被検者のうちには、この固定液の悪
臭から固定液が腐っていると思い、固定液を捨てたもの
がいたとする報告も伝えられた。またジハイドロキシ
ジチオールブタンの毒性が不明な点、酵素を用いている
ので約3カ月の有効期間しかなく高価であるなどの点に
も問題がある。ジチオトレイトールを用いた大阪成人病
センター式の喀痰固定液については今回は実験していな
いが、ジチオトレイトールはNアセチルLシスティン同
様去痰剤として用いられる薬物であり、使用量も少ない
ので毒性面では問題がないものと思われるが、高価であ
る点、価格面での問題がある。
本発明は、上述のような欠点がなく、喀痰等の細胞診検
体の固定において、細胞の核と細胞質を良好な形態に固
定し、更にその形態をかなりの期間維持しうる固定・保
存液を提供することを目的とし、さらに、フローサイト
メトリーと細胞螢光染色法とを用いた自動化細胞診にも
適した固定・保存液を提供することを目的とする。
〔問題点を解決するための手段〕
上記目的は、エチルアルコールと食塩と庶糖又はプロピ
レングリコールのいずれか一方とを含有する緩衝液を細
胞の固定及び保存に用いることにより達成される。さら
に、粘液性の細胞診検体の固定・保存には、上記緩衝液
に粘液溶解剤として本発明者が見出した新規な粘液溶解
剤メチルシスティンを加えた固定・保存液を用いれば粘
液が良く溶け、細胞の核及び細胞質が良好に固定され、
しかもフローサイトメトリーと細胞螢光染色法を用いた
自動化細胞診にも適する。
以下に固定・保存液に要求される性質と関連して各成分
の説明を行う。
1)粘液溶解性の問題 本発明者は、フローサイトメトリーと細胞の螢光染色に
よる細胞診の自動化を開発している途上に、当該染色板
と反応しない粘液溶解剤を種々検討した結果、メチルシ
スティンを見出した。メチルシスティンは塩酸塩は、化
学的にはmethylβ−mercaptoalanine hydrochloride,HS
CH2C(NH2)COO−CH3・HClであり、かっては去痰剤とし
て用いられたことがある。多数の患者の喀痰を用いて検
討の結果、固定液にメチルシスティンを0.1〜0.2%添加
したものでは、粘液がよく溶け、細胞固定効果も良好
で、固定液に時に悪臭もなく、また長期の保存にも変質
や効力減退を示さなかった。
なお、粘液性の少ない検体の細胞固定には、粘液溶解剤
を用いる必要はなく、以下に述べる各成分を含む緩衝液
を用いれば十分である。
また、フローサイトメトリーによる分析の際には、粘液
溶解と細胞分散の目的で、検体を入れた固定液を高速ブ
レンダーで激しく振盪するが、その際に無数の細かな気
泡が生じ、これが粘液塊を覆ったり粘液塊の中にとじこ
められたりして粘液と粘液溶解剤との接触を妨害するの
で、シリコンレジン製剤であるアンチフォームを消泡剤
として加え、良い結果を得た。シリコンレジンは消泡剤
として、ビール、ブドー酒、しょうゆ、乳製品、果物ジ
ュースなどの各種の食品の濃縮、発酵、および蒸溜工程
などに用いられ、作業の能率化や製品の均一化などに役
立っており、食品中の本品の残留量は50ppm以上と定め
られている。実験の結果、シリコンレジンの消泡作用は
10ppmで充分に発現し、30ppm以上ではシリコンレジンの
不溶解分が残るので無駄であった。
2)核(DNA)と細胞質(蛋白質)の固定の問題 後述のように、固定液の主剤として適したエタノール
は、粘液を凝固させたり細胞を凝集させたりする点から
濃度が低い方がよい。しかし、固定液のエタノールの濃
度を低くした場合は、エタノールの固定効果が減弱する
のでそれを補強しなければならない。固定剤としてはグ
ルタールアルデヒドやホルマリンなど種々あるものの、
集団検診用の固定液に課せられる安全性を考慮にいれる
と、そのような毒性の強いものは使用できない。
先ず核の固定であるが、核の主成分はDNAであり、低濃
度エタノールによる固定ではDNAが完全に凝固せず一部
が可溶性となって消失する。一方、DNAは生理的濃度の
食塩の存在下でその溶解度を最も減ずるので、この性質
を利用して、固定液に食塩を生理的濃度に加えることに
よってDNA溶解度を最低とし、エタノールによるDNAの固
定を補強した。食塩の濃度は0.8〜0.9%が好ましい。
次に細胞質の固定であるが、細胞質の蛋白質を凝固固定
する物質はエタノールの他に数多くあるが、これらの固
定剤は粘液をも凝固するので不向きである。また、細胞
質が完全に凝固固定された細胞は、恰もゆで卵のように
丸く硬化し、スライドグラスの上に貼りつきにくく、染
色の操作中にスライドグラスから脱落し易い。もし、癌
細胞が脱落すると、それは癌の偽陰性誤診(false nega
tive diagnosis)という重大な失敗をおかすことにな
る。また、細胞が、めだま焼き卵のようにスライドグラ
ス上に薄く延ばされた時には、その核や細胞質の内部構
造が顕微鏡で明瞭に観察できて診断が容易であるが、蛋
白が強く凝固されてゆで卵のように丸く硬化した場合は
観察しがたく診断も難しくなる。従って、細胞固定は、
細胞がその本来の軟らかさが或る程度残って固定され、
細胞がスライドグラスに塗抹された際に薄く伸ばし得る
ことが必要であり、30−40%の低濃度エタノールはその
ような軟らかな固定に適している。しかし、このような
低濃度エタノール中では、水分が細胞内に流入して細胞
は膨化する。この水分流入を防止する最も簡単な方法は
細胞から脱水をすることであり、そのための単純な物質
としては庶糖、グリセリン、あるいはプロピレングリコ
ールなどがある。そのうち庶糖は、安価で毒性はなく、
また寒冷や高温からの細胞庇護作用や、顕微鏡標本を作
る際に乾燥防止の作用もあるところから推奨される物質
である。庶糖を固定液に添加する場合の適正濃度は、実
験の結果は2%であった。また庶糖をプロピレングリコ
ールで置き換えても効果は同等であった。プロピレング
リコールの濃度は1.5〜2%が好ましい。
3)細胞の収縮と凝集の防止の問題 細胞固定のための主剤としてのエタノールは、毒性が低
い点からも優れた固定剤であるが、サコマノ液ならびに
我が国で用いられている前記の3種類の粘液溶解性の固
定液はいずれもエタノール濃度が50%であり、この濃度
では粘液の凝固や細胞の凝集が起きやすい。従って、喀
痰の適切な固定のためには、エタノールの濃度をさらに
低くすると共に、固定効果をエタノール以外の物質でも
補強するのが望ましい。適正なエタノール濃度に関して
は、本発明者らは、エールリッヒ腹水癌細胞を各種の濃
度のエタノール水に入れて放置した後に、顕微鏡で細胞
形態を観察する実験により、エタノール濃度は30−40%
が良いと結論した。
4)固定液の毒性の問題 粘液溶解剤のメチルシスティンは、去痰剤としても用い
られる薬物であり、本固定液に用いられる量はごく僅か
なので毒性面からは問題にならない。また、エタノール
の濃度はホワイトリッカーやウイスキーと同等の30−40
%であり、その毒性は少なくとも50%エタノールによる
ものよりは軽い。そのほかの成分は燐酸緩衝液、食塩、
庶糖および、食品添加物としての許容濃度内のプロピレ
ングリコールとシリコンレジンであり、いずれも毒性の
心配はない。
5)細胞の保存性 固定した細胞の保存のためには緩衝液とすることが必要
であり、燐酸緩衝液が一般的であるが、これに限定され
ない。
6)本固定液の調合法 上記の検討の結果、必要な諸成分を含む本固定液の調合
法の一例としては、0.8〜0.9%の食塩を含む0.01モル燐
酸緩衝液(0.01モル燐酸緩衝生理的食塩水、phosphate
buffered saline solution)(以下、PBSと略称)に、
メチルシスティンを0.2%、庶糖もしくはプロピレング
リコールを2%、水溶性アンチフォームを10ppm、エタ
ノールを40%、それぞれ最終濃度になるように加えれば
よい。
7)本固定液の使用法 本発明の固定液の具体的な使用法としては肺癌検診にお
いては、喀痰を吐き出すための専用の容器に本固定液を
入れて喀痰用固定液として製品化しておき、これを予め
被検者に1−3本ずつ配布しておいて起床時の痰を喀出
させ、それを容器ごと後日巡回して回収するか、または
郵送などの方法で回収し、また、子宮癌検診において
は、綿棒がそのまま投入できる専用の容器に本固定液を
入れたものを子宮癌検診用固定液として製品化してお
き、これに検診医が被検者の子宮膣部を擦過した綿棒を
投入させ、回収する。回収した固定液を検査室に運び、
そこで遠心沈澱して細胞を収集し、それの塗抹標本につ
き顕微鏡診断を行うか、あるいは細胞浮遊液を作ってフ
ローサイトメトリーによる自動化細胞診を行うことにな
る。
例えば、喀痰の固定の場合は、喀痰を本固定液中に吐き
出したあと、手でよく振盪しておく。2日〜1週間の固
定の後、高速ブレンダーで約2分間振盪し、遠心沈澱
し、顕微鏡標本作成の場合は、残渣をピペットでスライ
ドグラスに移し、一昼夜乾燥した後、95%エタノールま
たはスプレー式による再固定を行う。フローサイトメト
リーによる自動化細胞診の場合は、残渣を1回燐酸緩衝
液で洗浄したのち、螢光染色を施して分析に供する。
〔実施例〕
実験例 1)固定液中のエタノール濃度の低濃度の限界を定める
実験 エタノールの50、40、30、20%水溶液、および対照液と
してサコマノ液(エタノール濃度は50%)を準備し、各
溶液に一定数のエールリッヒ腹水癌細胞を入れて室温に
一昼夜放置し、自動遠沈塗抹装置(オートスメア)によ
り塗抹標本を作製し、パパニコロー染色を施して顕微鏡
観察を行った。
〔結果〕 エタノール濃度が50%のものとサコマノ液に
固定したエールリッヒ腹水癌細胞は、エタノール濃度が
50%と濃いため、細胞凝集や細胞収縮の傾向が見られ
(第1図)、20%のものでは細胞の膨化が見られ、40%
および30%のものではそのような現象は見られなかっ
た。
2)30%エタノール水に添加する食塩の濃度の適正値を
定める実験 食塩はDNAの溶解を抑制するので、その濃度の適正値を
知るため、40%エタノール水に食塩をそれぞれ、0、0.
2、0.4、0.6、0.8%添加したものを準備し、これにエー
ルリッヒ腹水癌細胞を室温で一昼夜固定し、塗抹標本を
作製し、パパニコロー染色を施して顕微鏡で観察すると
ともに、一部の細胞を電子顕微鏡で観察した。
〔結果〕 食塩濃度が0、0.2および0.4%のものでは、
0.8%のものに比べて核の染色性がうすく、0.6%ではそ
の中間であった。また電子顕微鏡(2000倍)では核の内
部構造が0.8%のものではよく保たれていた(第2
図)。
3)0.8%食塩添加の30%エタノール水にさらに添加す
る庶遠の濃度の適正値を定める実験 庶糖は細胞に流入する水分を制限して蛋白の固定を促進
するので、0.8%食塩を添加した30%エタノールに、庶
糖をそれぞれ0、2、4、6、8%添加したものを準備
し、これにエールリッヒ腹水癌細胞を室温で一昼夜固定
し、塗抹標本を作製し、パパニコロー染色を施して顕微
鏡で観察した。
〔結果〕 庶糖濃度が0%のものでは細胞質が膨化して
おり、8%のものでは最も収縮しており(第3図)、6
および4%でも多少収縮しており、2%のものが膨化も
収縮も見られず、もっともよい細胞形態を示した(第4
図)。細胞も核もほどよく拡がり、第3図と比較すると
核の内部構造が明瞭に読み取れる。
4)0.8%食塩ならびに2%庶糖を添加した30%エタノ
ールの溶媒としてのPBSのモル濃度を定める実験 燐酸緩衝生理的食塩水(PBS)液は、蒸溜水より細胞保
存の作用が優れているのでこれを固定液の溶媒として用
いることとし、固定液にいれた検体を冷蔵庫保存する際
の燐酸塩の結晶析出のない濃度を検討した。
〔結果〕 実験に用いられることが多い0.06モル濃度の
PBS溶媒とした場合は、これに喀痰を入れた場合も入れ
ない場合も、冷蔵庫中で冷やすと直ちに板状結晶が析出
し、この結晶は液を常温に戻しても溶解しなかった。し
かし、0.01モル濃度のPBSを溶媒として用いた固定液で
は、数カ月間冷蔵庫中で保存しても結晶の析出は見られ
なかった。
5)喀痰の年液溶解剤のメチルシスティンの濃度を定め
る実験 喀痰の粘液溶解のために固定液に添加する粘液溶解剤の
メチルシスティンの適正濃度を知るため、30%エタノー
ル・PBSに、メチルシスティンを0、0.5、0.1、0.2、0.
5%それぞれ添加したものを準備し、これに患者の喀痰
を入れ、室温で3日間放置したものを手で約20秒間振盪
し、粘液の溶解性を目で観察した。
〔結果〕 メチルシスティンの濃度が0および0.05%の
ものでは粘液の溶解は不十分で(第5図)、0.1%以上
の濃度で粘液溶解が発現した(第6図)。
第6図の写真はメチルシスティンを添加しない固定液
(30%エタノール・PBS)で固定した喀痰の塗抹染色標
本の顕微鏡写真(100倍)である。
画面の下1/3に横に走る線条は粘液で、これに細胞がか
らめられていて、分散していない。
第7図の写真はメチルシスティンを0.2%添加した固定
液(30%エタノール・PBS)で固定した喀痰の塗抹染色
標本の顕微鏡写真(100倍)である。
粘液が溶解して、細胞は良く分散している。ひときわ大
型の細胞は肺癌細胞である。
6)固定液の消泡剤として添加するシリコン製剤の効果
をみる実験 固定液に固定した喀痰は、それの粘液溶解と細胞分散の
目的のため、容器ごとに高速ブレンダーにかけて毎分約
6000回の振動を与えるが、この際に固定液が強く泡立
ち、この気泡が喀痰の周囲を取り巻き、固定液との接触
を妨害する。そこでシリコン製剤の消泡剤を用いること
とし、その商品であるアンチフォームを食品添加剤とし
て認可されている濃度の10ppm添加した固定液(2%庶
糖を添加した30%エタノール・PBS)と、アンチフォー
ムを添加してない固定液と準備し、これらに喀痰を入れ
て高速ブレンダーにより2分間振盪したところ、アンチ
フォームを添加したものが明らかに気泡の発生が少な
く、また消泡も早く、粘液溶解も優れていた。
7)細胞の乾燥防止のために添加するプロピレングリコ
ールの実際の効果にみる実験 喀痰の固定液による固定後は、これをスライドグラスに
塗抹して、染色に移る前に一晩乾燥するのであるが、そ
の際に細胞が乾燥しすぎると染色性が悪くなるので、そ
れを防止するため、プロピレングリコールの湿潤作用の
効果も調べたところ、プロピレングリコールが添加して
あるものの染色性のほうが、これを添加してないものよ
り優れていた。尚、プロピレングリコールの濃度は1.5
〜2%が適当であり、この濃度は食品添加物としての許
容濃度である3%以内であるので、固定液の毒性面から
も問題とならない。
実施例 固定液(0.2%メチルシスティン、0.8%食塩、2%プロ
ピレングリコールおよび10ppmアンチフォームを添加し
た40%エタノール・PBS)(固定液に喀痰を吐き出す
と、唾液が加わって固定液のエタノール濃度が薄まるの
で、エタノール濃度は40%とした)の喀痰の粘液溶解
性、細胞凝集性および細胞固定効果をみる実験: 完成した固定液の総合的な効果をみるため、126名の患
者の喀痰につき、喀痰を入れた直後にこれを手で振盪し
た時と3日後に高速ブレンダーで振盪した場合の喀痰溶
解性、細胞の分散および固定効果などを検討した。(表
1) 〔結果〕 高速ブレンダーで振動後は、1例の喀痰を除
き、粘液溶解が認められた。粘液溶解が不能であった1
例は、高度に血性であったために血液が粘液をまき込ん
で凝固したものであった。
また、顕微鏡所見上、細胞の分散は良好で、細胞質およ
び核の構造は1カ月以上保存したものでも優れていた。
第7図〜第10図の写真は完成した本固定液で固定し、40
日間冷蔵庫で保存された喀痰中の肺癌細胞の顕微鏡写真
(400倍)である。細胞質も核もその構造が極めてよく
保たれている。第7図と第8図は肺の扁平上皮癌細胞の
写真で、第9図と第10図は肺の腺癌細胞の写真である。
〔発明の効果〕
以上説明したように、本発明の固定・保存液を用いれ
ば、細胞の収縮や凝集がみられず、細胞の核及び細胞質
の構造を良好な形態に固定でき、また固定された細胞の
保存性にもすぐれているので、喀痰等の細胞診検体の固
定に適し、特に肺癌検診の際の喀痰の固定・保存液とし
て利用価値が高い。さらに、粘液溶解剤としてメチルシ
スティンを加えれば粘液を溶解して細胞を分散させ、細
胞固定効果も良好であり、しかもこれは螢光染色液と反
応しないため、フローサイトメトリーと細胞螢光染色法
とを用いた自動化細胞診にも適する固定・保存液を提供
しうる。
【図面の簡単な説明】
第1図はサコマノ液で固定したエールリッヒ腹水癌細胞
の顕微鏡写真。 第2図は0.8%食塩添加の30%エタノール水で固定した
エールリッヒ腹水癌細胞の核の電子顕微鏡写真(2,000
倍)。 第3図は0.8%食塩添加の30%エタノール水に更に8%
の庶糖を添加した液で固定したエールリッヒ腹水癌細胞
の顕微鏡写真。 第4図は0.8%食塩添加の30%エタノール水に更に2%
の庶糖を添加した液で固定したエールリッヒ腹水癌細胞
の顕微鏡写真。 第5図はメチルシスティンを添加しない固定液(30%エ
タノール・PBS)で固定した喀痰の塗抹染色標本の顕微
鏡写真(100倍)。 第6図はメチルシスティンを0.2%添加した固定液(30
%エタノール・PBS)で固定した喀痰の塗抹染色標本の
顕微鏡写真(100倍)。 第7図〜第10図は、本発明固定液で固定し、40日間冷蔵
庫で保存された喀痰中の肺癌細胞の顕微鏡写真(400
倍)。第7図と第8図は肺の扁平上皮癌細胞の写真で、
第9図と第10図は肺の腺癌細胞の写真。

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】エチルアルコールと食塩と庶糖又はプロピ
    レングリコールのいずれか一方とを含有する緩衝液から
    成る細胞固定・保存液。
  2. 【請求項2】緩衝液が燐酸緩衝液であることを特徴とす
    る特許請求の範囲第1項記載の細胞固定・保存液。
  3. 【請求項3】エチルアルコールの濃度が30〜40%、食塩
    の濃度が0.8〜0.9%、庶糖の濃度が2%、プロピレング
    リコールの濃度が1.5〜2%であり、燐酸緩衝液の燐酸
    塩濃度が0.01モルであることを特徴とする特許請求の範
    囲第2項記載の細胞固定・保存液。
  4. 【請求項4】エチルアルコールと食塩と庶糖又はプロピ
    レングリコールのいずれか一方と粘液溶解剤としてのメ
    チルシスティンとを含有する緩衝液から成る細胞固定・
    保存液。
  5. 【請求項5】緩衝液が燐酸緩衝液であることを特徴とす
    る特許請求の範囲第4項記載の細胞固定・保存液。
  6. 【請求項6】エチルアルコールの濃度が30〜40%、食塩
    の濃度が0.8〜0.9%、庶糖の濃度が2%、プロピレング
    リコールの濃度が1.5〜2%、メチルシスティンの濃度
    が0.1〜0.2%であり、燐酸緩衝液の燐酸塩濃度が0.01モ
    ルであることを特徴とする特許請求の範囲第5項記載の
    細胞固定・保存液。
  7. 【請求項7】さらにシリコン性消泡剤を含有することを
    特徴とする特許請求の範囲第4項記載の細胞固定・保存
    液。
  8. 【請求項8】シリコン性消泡剤の含有量が30〜50ppmで
    あることを特徴とする特許請求の範囲第7項記載の細胞
    固定・保存液。
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