JPH10237628A - 被覆工具およびその製造方法 - Google Patents

被覆工具およびその製造方法

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JPH10237628A
JPH10237628A JP3656797A JP3656797A JPH10237628A JP H10237628 A JPH10237628 A JP H10237628A JP 3656797 A JP3656797 A JP 3656797A JP 3656797 A JP3656797 A JP 3656797A JP H10237628 A JPH10237628 A JP H10237628A
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久典 大原
Nobuyuki Kitagawa
信行 北川
Kazuo Noguchi
和男 野口
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 耐摩耗性被膜の摩耗が少ない被覆工具を提供
する。 【解決手段】 被覆工具は、基材と、その基材の上に形
成された耐摩耗性被膜とを備える。耐摩耗性被膜の組成
は(Tix ,Aly ,Vz )(Cu ,Nv ,Ow)で表
わされる。x、y、z、u、vおよびwの間にはx+y
+z=1、u+v+w=1、0.2<x<1、0≦y<
0.8、0.02≦z<0.6、0≦u<0.7、0.
3<v≦1および0≦w<0.5で示す関係が成立す
る。耐摩耗性被膜の厚さは0.5μm以上15μm以下
である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、工具の表面に耐
摩耗性被膜を形成した、いわゆる被覆工具に関し、特
に、フライス加工、旋削加工、穿孔加工等に用いられる
被覆工具(被覆切削工具)と、金属の鍛造、打抜き、プ
レス加工等に用いられる被覆工具(被覆金型)に関する
ものである。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】近
年、加工の高能率化・高精度化の要求を満たすために、
新しい工具材料が次々と開発されている。このような材
料開発の流れの中で、各種工具素材へセラミックをコー
ティングして、いわゆる被覆工具を製造する技術は欠か
せないものとなっている。また、最近の動向として、加
工能率をより一層向上させるために、加工速度がより高
速になりつつある。そのため、工具の表面のセラミック
被膜の摩耗はますます激しくなる傾向にある。
【0003】このような摩耗を抑えるために、たとえ
ば、切削工具ではセラミックコーティング膜の成分とし
て、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)、炭
窒化チタン(Ti(C,N))といったチタン系セラミ
ックスが最もよく使われている。さらに、チタン系セラ
ミックス材料の中にアルミニウムを添加することでセラ
ミックコーティング膜の耐摩耗性と耐酸化性を向上させ
る方法も開発されている。そのため、セラミックコーテ
ィング膜として窒化チタンアルミニウム((Ti,A
l)N)も普及しつつある。
【0004】しかし、このような被膜を、被覆切削工具
に形成すると切削される材料(以下、被削材と称する)
が工具の切刃近傍においてセラミックコーティング膜に
溶着し、切刃の欠けを誘発するという、いわゆる「溶着
欠損」が生ずるという問題がある。このような溶着欠損
が生じるのは、耐摩耗性被膜としてのセラミックコーテ
ィング膜と、溶着物との密着力が高く、刃先で溶着物が
成長し、この成長した溶着物が切刃先端部で大規模な欠
損等の現象を引起こすためと考えられる。
【0005】また、穿孔加工において、セラミックコー
ティング膜が形成されたドリルでは、特に深い孔を形成
する際に切屑の流出抵抗が増大し、ドリルが折れるとい
う問題も生じていた。
【0006】これらの問題を解決するために、二硫化モ
リブデンなどの層状化合物からなる潤滑性被膜を耐摩耗
性被膜の上に積層した工具も提案され、かつ市販されて
いる。これらの工具では、二硫化モリブデンなどの層状
化合物は機械的強度が低いために摩耗しやすい。そのた
め、切削開始直後には二硫化モリブデンの潤滑作用によ
り溶着欠損や流出抵抗の増大という問題が発生しにく
い。しかしながら、切削を進めていくうちにつれて、二
硫化モリブデンが減少するため、溶着欠損や切屑の流出
抵抗の増大という問題が生じやすくなる。
【0007】そのため、このような溶着欠損や切屑の流
出抵抗の増大現象を抑えるためには、切削中に大量の切
削油剤を用いることが一般的である。しかしながら、切
削油剤を使用することは環境問題として取上げられてい
る。また、ドリルを用いて深い孔を加工する際には切刃
の先端部へ切削油剤を送り込むことは困難である。そこ
で、切削油剤を用いずに高速度の切削加工に耐えられる
工具が必要とされている。
【0008】一方、金型においても、金型の基材上へセ
ラミックをコーティングする技術が欠かせないものとな
っている。また、最近の動向として加工精度の向上や潤
滑剤被覆工程の削減などを実現するため、温間または熱
間鍛造が広まりつつある。したがって、金型材の摩耗が
ますます激しくなる傾向にある。
【0009】このような摩耗を抑えるために、セラミッ
クコーティング膜の成分として切削工具の場合と同様の
ものが現在広く用いられている。しかし、このようなセ
ラミックコーティング膜は耐摩耗性向上のためには有効
であるが潤滑性が少ない。したがってこの膜の上にさら
にボンデライト処理膜を形成したり、さらに加工中に潤
滑油、黒鉛またはホウ酸系潤滑剤を用いる技術が採用さ
れている。
【0010】ここで、ボンデライト処理とは、被加工材
表面にリン酸亜鉛被膜を形成することである。これによ
り、冷間鍛造中における被加工材と金型材との、いわゆ
る齧り現象を抑えることができる。しかしながら、ボン
デライト処理の前工程において金型材表面を酸で洗浄す
ることが必要であるため、排液が多量に発生するという
問題があった。また、冷間鍛造した後の被加工材は硬化
するため、冷間鍛造のたびに被加工材を焼鈍する必要が
ある。この際に、被加工材表面のリン酸亜鉛被膜が被加
工材から外れるため、焼鈍が終了した後にさらにボンデ
ライト処理をしなければならないという問題があった。
【0011】冷間鍛造におけるこれらの問題点を解決す
るために、温間または熱間鍛造が広く行なわれるように
なっている。被加工材の温度を高く(たとえば鉄系材料
の鍛造においては温度500℃以上)することで被加工
材の変形抵抗を下げ、金型に対する機械的応力負荷を下
げることができる。さらに、鍛造のたびに被加工材を焼
鈍・ボンデライト処理する必要はないという利点があ
る。
【0012】しかしながら、温間または熱間鍛造におい
ては、ボンデライト処理に代わる信頼性の高い潤滑方法
がないという問題がある。黒鉛系やホウ酸系の固体潤滑
剤を用いる方法も採用されているが、この方法では十分
な潤滑性が得られず、金型の表面が激しく摩耗するとい
う問題が生じている。そのため、冷間、温間および熱間
鍛造において、摩耗しにくい金型が求められている。
【0013】そこで、この発明は、上述のような問題を
解決するためになされたものである。
【0014】すなわち、この発明の1つの目的は、被覆
膜の摩耗が少ない被覆工具を提供することである。
【0015】また、この発明の別の目的は、溶着欠損や
切屑の流出抵抗の増大という問題が発生せず、被覆膜の
摩耗が少ない被覆切削工具を提供することである。
【0016】この発明のさらなる別の目的は、冷間、温
間および熱間鍛造において、被覆膜が減少しにくい被覆
金型を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】この発明に従った被覆工
具は基材と耐摩耗性被膜とを備える。耐摩耗性被膜は基
材の上に形成される。耐摩耗性被膜の組成は(Tix ,
Aly ,Vz )(Cu,Nv ,Ow )で表わされる。こ
こで、添字x、y、z、u、vおよびwは、それぞれ、
Ti、Al、V、C、NおよびOの原子比率を示す。
x、y、z、u、vおよびwの間にはx+y+z=1、
u+v+w=1、0.2<x<1、0≦y<0.8、
0.02≦z<0.6、0≦u<0.7、0.3<v≦
1および0≦w<0.5で示す関係が成立する。耐摩耗
性被膜の厚さは0.5μm以上15μm以下である。
【0018】このように構成されたこの発明の被覆工具
においては、耐摩耗性被膜がチタン系セラミックスであ
るため硬度が高くなる。さらに、耐摩耗性被膜と、被削
材の成分と、大気中の酸素とが反応することにより耐摩
耗性被膜の表面に温度1000℃以下の融点を有する複
合酸化物が生じる。具体的には、被加工物をクロムやニ
ッケルを含む鉄合金とした場合、融点が温度690℃で
ある五酸化二バナジウム(V2 O5 )と、鉄、クロムま
たはニッケルの酸化物とのバナジウム酸塩が複合酸化物
となる。このバナジウム酸塩として、融点が温度860
℃であるFe2O3 ・V2 O5 、融点が温度850℃で
あるCr2 O3 ・V2 O5 または融点が温度900℃で
ある3NiO・V2 O5 がある。このような低融点酸化
物の生成現象は、一般にバナジウムアタックとも呼ばれ
ており、高温・高速の燃焼ガス雰囲気における鉄基構造
材料の損耗を加速する有害な現象として知られている。
しかしながら、このような現象を切削加工における潤滑
性向上を目的として利用された例は全く知られていな
い。したがって、潤滑性被膜としての低融点酸化物の作
用により、耐摩耗性被膜の摩耗が少なくなり、膜の摩耗
量が減少する。しかも、仮に耐摩耗性被膜の表面に潤滑
性被膜がなくなったとしても、耐摩耗性被膜と大気中の
酸素と被加工物とが反応して耐摩耗性被膜の表面に新た
な潤滑性被膜が生じる。この点で、この潤滑性被膜は損
耗・再生を繰返すため「自己修復性」を有しているとい
える。したがって従来の二硫化モリブデンコーティング
のように潤滑膜がなくなった後には潤滑効果が得られな
いという問題がない。言い換えれば、この発明では、加
工中に耐摩耗性被膜が存在する限りその表面には潤滑性
被膜が生じる。その結果、耐摩耗性被膜の摩耗をさらに
少なくすることができる。
【0019】また、耐摩耗性被膜中の元素の原子比率を
制限したのは以下の理由による。チタンの原子比率xに
ついて、0.2<xとしたのはxが0.2以下であれば
耐摩耗性被膜の硬度が低下するからである。アルミニウ
ムの原子比率yについて、y<0.8としたのはyが
0.8以上となれば耐摩耗性被膜の結晶構造が面心立方
構造(fcc)から六方細密充填構造(hcp)に変化
し、膜の硬度が極端に低下するからである。バナジウム
の原子比率zについて、0.02≦zとしたのは、zが
0.02未満であればバナジウム添加の効果が得られず
潤滑性を有する複合酸化物が十分に生じないからであ
る。また、z<0.6としたのはzが0.6以上となる
と耐摩耗性被膜の硬度が低下するからである。炭素の原
子比率uについて、u<0.7としたのはuが0.7以
上になると耐摩耗性被膜中に遊離した炭素が混入し、耐
摩耗性被膜が脆くなるからである。窒素の原子比率vに
ついて0.3<vとしたのは、vが0.3以下であれば
耐摩耗性被膜が脆くなるからである。酸素の原子比率w
について、w<0.5としたのは、wが0.5以上とな
ると耐摩耗性被膜中に不安定なチタン酸化物が生成し、
耐摩耗性被膜の強度が低下するためである。
【0020】耐摩耗性被膜の膜厚は0.5μm以上であ
る必要がある。膜厚が0.5μm未満であれば被膜自体
の強度が低下し、被膜の耐摩耗性が発揮できないからで
ある。また耐摩耗性被膜の厚さは15μm以下である必
要がある。膜厚が15μmを超えると耐摩耗性被膜が剥
離したり欠けやすくなるからである。
【0021】耐摩耗性被膜は積層された複数の第1の膜
を含むことが好ましい。第1の膜の各々の組成は(Ti
a ,Alb ,Vc )(Cd ,Ne ,Of )である。添字
a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ、Ti、A
l、V、C、NおよびOの原子比率を示す。a、b、
c、d、eおよびfの間にはa+b+c=1、d+e+
f=1、0.2<a<1、0≦b<0.8、0≦c<
0.6、0≦d<0.7、0.3<e≦1および0≦f
<0.5で示す関係が成立する。この場合、積層された
複数の第1の膜の界面で膜の破壊の進行が阻止されると
いう効果が得られるため耐摩耗性被膜の摩耗を減少させ
ることができる。また、構成元素の原子比率a、b、
d、eおよびfを一定範囲に制限したのは原子比率x、
y、u、vおよびwを制限したのと同様の理由による。
また、cを0以上としたのは、耐摩耗性被膜全体でのバ
ナジウムの原子比率zが0.02以上であれば潤滑性被
膜としての複合酸化物が必要量生じ、複合酸化物の生成
量とcとの間には特に関連がないからである。
【0022】また、第1の膜の各々の厚みは0.5nm
以上500nm以下であることが好ましい。各々の第1
の膜の厚さを0.5nm以上としたのは、第1の膜の厚
さが0.5nm以上であれば第1の膜を構成する元素が
固溶した状態とならず、正しい原子配置となり膜質が向
上するからである。また、各々の第1の膜の厚さを50
0nm以下としたのは、厚さが500nm以下であれ
ば、膜の多層化によって耐摩耗性被膜の破壊が第1の膜
の界面で阻止されるという効果がさらに大きくなるから
である。
【0023】また、第1の膜の各々の厚みは0.5nm
以上50nm以下であることが好ましい。第1の膜の厚
さを50nm以下としたのは第1の膜の厚さが50nm
以下であればそれぞれの単層膜の持つ硬度を上回る高い
硬度が得られるからである。
【0024】また、第1の膜の各々の組成または厚さは
互いに異なることが好ましい。また、第1の膜の各々の
組成のみまたは組成と厚みが異なることが好ましい。こ
の場合は第1の膜の厚さと組成がほぼ同一の場合に比べ
て第1の膜の界面で耐摩耗性被膜の破壊の進行が阻止さ
れるという効果が大きくなり耐摩耗性被膜の摩耗が少な
くなる。
【0025】また、耐摩耗性被膜は、複数の積層された
第1の膜と第2の膜とを含み、第2の膜は窒化バナジウ
ム(VN)、炭化バナジウム(VC)、炭窒化バナジウ
ム(V(C,N))、炭酸化バナジウム(V(C,
O))、酸窒化バナジウム(V(N,O))または炭酸
窒化バナジウム(V(C,N,O))の1種または2種
以上を含むことが好ましい。この場合、バナジウムを含
む合金層としての第1の膜と、独立したバナジウム層と
しての第2の膜とを積層することにより容易に積層構造
を形成することができる。また、第1および第2の膜の
各々の厚さは0.5nm以上500nm以下であること
が好ましい。ここで、第2の膜の厚さを0.5nm以上
500nm以下としたのは第1の膜の厚さを0.5nm
以上500nm以下としたのと同様の理由によるもので
ある。
【0026】また、第1および第2の膜の各々の厚さは
0.5nm以上50nm以下であることがさらに好まし
い。ここで、第2の膜の厚さを50nm以下としたのは
第1の膜の厚さを50nm以下としたのと同様の理由に
よるものである。
【0027】また、第1の膜と第2の膜とは交互に積層
されていることが好ましい。耐摩耗性被膜は複数の積層
された第1の膜と第3の膜とを含み、第3の膜は窒化ア
ルミニウム(AlN)と、炭窒化アルミニウム(Al
(C,N))との一方または両方を含み、さらに第3の
膜の厚さは0.5nm以上50nm以下であることが好
ましい。この場合、アルミニウムを含む合金層としての
第1層と、独立したアルミニウム層としての第3層とを
積層することにより、容易に積層構造を形成することが
できる。また、第3の膜の厚さを0.5nm以上とした
のは、厚さが0.5nm未満であればそれぞれの成分が
固溶した状態となる。そのため薄膜を積層したような構
造とはならず、結果的に耐摩耗性被膜の膜質が低下する
からである。また、第3の膜の厚さを50nm以下とし
たのは、厚さが50nmを超えると耐摩耗性被膜の硬度
が上昇しないからである。
【0028】また、第1の膜と第3の膜とは交互に積層
されていることが好ましい。また、耐摩耗性被膜はTi
Nからなる密着層を含み、その密着層は基材と接するこ
とが好ましい。この場合、基材と耐摩耗性被膜との密着
性が向上するため、耐摩耗性被膜が基材から剥離しにく
くなる。その結果、被覆工具の寿命が向上するという効
果がある。
【0029】また、基材として、セラミックス、超硬合
金、サーメット、高速度鋼、ダイス鋼、プレハードン鋼
または析出硬化型ステンレス鋼を用いることが好まし
い。
【0030】耐摩耗性被膜は面心立方構造を有し、耐摩
耗性被膜の結晶構造をθ−2θ法によるX線回折法で調
べれば耐摩耗性被膜に由来する回析線のうち、(11
1)面からの回折線が相対的に最高強度を示すことが好
ましい。この場合、耐摩耗性被膜が面心立方構造を有す
ることにより耐摩耗性が向上する。また、耐摩耗性被膜
が(111)面に配向していることにより原子密度が最
も高い結晶面が基材の表面と平行に配置され、さらに耐
摩耗性が向上する。
【0031】また、耐摩耗性被膜の結晶構造をθ−2θ
法によるX線回折法で調べれば、回折パターンは、1種
類の面心立方構造に由来する回折線のみから構成され、
かつ面心立方構造を有する耐摩耗性被膜に由来する回折
線のうち(111)面からの回折線が相対的に最高強度
を示すことが好ましい。この場合、積層された第1〜第
3の層はほぼ同一の構造を有しているといえる。この現
象は2種類の異なる組成の物質を積層する際に層の厚さ
を50nmより薄くするとお互いの膜の結晶格子の面間
隔が近づき合うという「歪み整合」という現象として把
握される。この歪み整合が起こった場合には、たとえば
常温常圧下で存在する六方晶の窒化アルミニウムは超高
圧下にあるかのような作用を受け、面心立方晶の窒化ア
ルミニウムに変化する。面心立方晶の窒化アルミニウム
は六方晶の窒化アルミニウムに比べて硬度が著しく高
い。そのため、耐摩耗性被膜内で歪み整合が生じた場合
には、耐摩耗性被膜の硬度がさらに上昇する。
【0032】また、被覆工具は被覆切削工具であること
が好ましい。この場合、被覆切削工具の表面が大気中の
酸素と被削材と反応して被覆切削工具の表面に低融点の
酸化物被膜が形成されるため溶着欠損や切屑の流出抵抗
の増大という問題が発生せず、被覆膜の摩耗が少ない切
削工具を得ることができる。
【0033】また、被覆工具は被覆金型であることが好
ましい。この場合、被覆金型の表面が大気中の酸素と被
加工物と反応して被覆金型の表面に低融点の酸化物被膜
が生成する。この低融点の酸化物の潤滑作用により冷
間、温間および熱間鍛造を行なった場合にも被覆膜が減
少しにくい被覆金型を得ることができる。
【0034】この発明に従った被覆工具の製造方法はT
i、AlまたはVのうちの1種以上を含む膜原料を蒸着
法またはスパッタリング法により基材上に供給し、窒
素、炭素または酸素の1種以上を含むガスと膜原料とを
反応させるPVD法により耐摩耗性被膜を形成するもの
である。このような製造方法においては、製造しようと
する膜と同一成分の材料を用意し、この材料をターゲッ
トとして蒸着法等により膜原料を供給することにより容
易に耐摩耗性被膜を形成することができる。
【0035】PVD法の例として、カソードアークイオ
ンプレーティング法や反応性スパッタリング法がある。
【0036】カソードアークイオンプレーティング法、
反応性スパッタリング法のいずれの場合においてもコー
ティングを行なう反応容器の内側に蒸発源を取付ける。
反応容器の中心部に位置する、垂直な回転軸を持った基
材支持治具に基材をセットする。治具を回転させること
により、工具基材の表面に耐摩耗性被膜を形成する。蒸
発源としては、被膜と同一組成を有するTi−Al−V
合金を用いる。炭素源としては炭化水素ガスを、窒素源
としては窒素ガスまたはアンモニアガスを、酸素源とし
ては二酸化炭素ガスを用いることができる。異なる組成
の膜を積層する場合には、それぞれの膜を同一組成を有
する2種類のTi−Al−V合金を蒸発源として用い
る。反応容器の内側の向かい合う2面に蒸発源を配置す
る。基材支持治具に基材をセットし、治具を回転させる
ことにより、基材上に耐摩耗性被膜が形成される。4面
に蒸発源を取付け可能な装置では、向かい合う面に同じ
蒸発源を取り、治具を回転させることで耐摩耗性被膜が
形成される。いずれの場合であっても膜形成速度と治具
の回転数を調整することにより、所定の積層周期とする
ことが可能である。また、各層の厚みや積層周期が比較
的大きい場合(たとえば厚さが50nm以上)には、個
々の蒸発源を用いて所定の厚さの膜を形成した後蒸発を
停止させ、基板を移動させた後、別の蒸発源を用いて膜
を積層することも可能である。
【0037】
【実施例】
(実施例1)図1はこの発明の実施例1で用いた被膜製
造装置の上面図である。図2は、図1中のII−II線
に沿って見た断面を示す図である。図1および図2を参
照して、被膜製造装置は、反応槽1と、基材支持具3
と、原料ガス供給ノズル4と、直流電源5、6a、6b
と、ヒータ7と、金属蒸発源8、9とを備えている。
【0038】反応槽1は真空ポンプと連結されており、
反応槽1内の圧力を変化させることが可能である。反応
槽1内に基材支持具3と原料供給用ノズル4と、ヒータ
7と、金属蒸発源8、9が設けられている。基材支持具
3は矢印Rで示す方向に回転可能である。基材支持具3
は直流電源5と電気的に接続されている。直流電源5の
正極がアースされ、負極が基材支持具3と接続されてい
る。金属蒸発源8は直流電源6aと電気的に接続されて
いる。直流電源6aの正極はアースされかつ反応槽1に
接続されている。直流電源6aの負極は金属蒸発源8に
接続されている。金属蒸発源9は直流電源6bの負極と
電気的に接続されている。金属蒸発源8、9は、基材支
持具3を介して互いに向かい合うように配置されてい
る。
【0039】このような装置を用いて、まず、有機溶剤
等の洗浄液で洗浄した基材2を基材支持具3に固定し
た。金属蒸発源8には金属チタンをセットした。金属蒸
発源9にはTi、Al、Vが所望の比率である合金をセ
ットした。
【0040】真空ポンプにより反応槽1の内圧を1×1
0-3Pa以下とした。原料ガス供給ノズル4からアルゴ
ンガスを流しながらヒータ7により基材2を加熱した。
基材が高速度鋼の場合は基材の温度を300〜450℃
とした。基材が超硬合金、サーメットおよびセラミック
スの場合は基材を温度を400〜600℃とした。基材
2の温度が所定の温度になると反応槽1内の圧力が2.
7Pa(20mTorr)となるようにアルゴンガスの
流量を調節した。直流電源5により基材支持具3および
基材2の電位を−1000Vとし、反応槽1の内部にア
ルゴンプラズマを発生させて基材2の表面をプラズマク
リーニングした。この操作によって、基材2の表面の軽
度の汚れが除去された。
【0041】次に、反応槽1内の圧力が0.7Pa(5
mTorr)になるようにアルゴンガスの流量を調節し
た。直流電源6aから金属蒸発源8へ−30V、100
Aの電力を供給し、金属蒸発源8からチタンイオンを発
生させた。これにより、チタンイオンが基材2の表面を
スパッタクリーニングし基材2の表面の強固な汚れや酸
化膜が完全に除去された。
【0042】この状態のまま、まず反応槽1内の圧力が
4.0Pa(30mTorr)になるように原料ガス供
給ノズル4から窒素ガスを導入し金属蒸発源8の電位を
−200Vとした。すると、基材2の表面においてTi
N膜の形成が始まりTiN膜が所定の厚みに達するまで
この状態を維持した。
【0043】TiN膜の形成が終了すると直流電源6b
から金属蒸発源9へ−30V、100Aの電力を供給し
て金属蒸発源9からチタンイオン、アルミニウムイオ
ン、バナジウムイオンを発生させた。すると、このチタ
ンイオン、アルミニウムイオン、バナジウムイオンが反
応槽1内の窒素と反応して基材2の表面に所望の原子比
率を有するTi、Al、Vからなる合金の窒化膜が形成
され、目標とする(Ti,Al,V)N膜が得られた。
(Ti,Al,V)N膜の形成が終了したら金属蒸発源
9への電力の供給を停止した。次に窒素ガスおよびアル
ゴンガスの導入を停止する。その後基材支持具3の電位
を0Vとした。ヒータなどによる加熱を停止した。基材
2の温度が100℃以下となったことを確認して基材2
を反応槽1から取出した。これにより、耐摩耗性被膜を
得た。
【0044】また、上述の(Ti,Al,V)N膜形成
とほぼ同様の手順とし、膜形成の際に窒素ガスに加えて
メタンガスと二酸化炭素ガスを所定の流量添加して(T
i,Al,V)(C,N,O)膜を形成した。
【0045】さらに、金属蒸発源9にセットする合金中
のTi、Al、Vの原子比率を変てTi、Al、Vの比
率が異なる膜を形成した。たとえば(Ti0.5 、Al
0.4 、V0.1 )N膜を形成する場合は、金属蒸発源9に
セットする合金中のチタンとアルミニウムとバナジウム
の原子比率を50%と、40%と、10%とした。
【0046】上述のような手順により、基材上に耐摩耗
性被膜が形成された被覆切削工具を作製した。また、ダ
イヤモンド圧子を用いた引っかき試験を行ない、被覆切
削工具の耐摩耗性被膜の密着強度を評価した。その結果
を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】表1中「高速度鋼」とは、基材としてグレ
ードがJIS SKH51の高速度鋼を用いたことを示
す。また、「超硬合金」とは、基材としてグレードがJ
ISP30の超硬合金を用いたことを示す。「サーメッ
ト」とは、基材として炭窒化チタン基サーメットを用い
たことを示す。「セラミック」とは、基材としてTiC
−Al2 O3 系セラミックを用いたことを示す。また、
表1中「スクラッチ臨界荷重」とは、耐摩耗性被膜が剥
離する際のダイヤモンド圧子に加えた荷重を示す。表1
からわかるように、TiN膜が存在するサンプルNo.
101〜104の方がTiN膜のないサンプルNo.1
05〜108よりも耐摩耗性被膜の密着性が高いことが
わかる。
【0049】(実施例2)図3は実施例2で用いた被膜
製造装置の上面図である。図4は、図3中のIV−IV
線に沿って見た面を示す図である。図1および図2で示
す被膜製造装置では、金属蒸発源が2つであったのに対
して、図3および図4で示す装置では、金属蒸発源を4
つとした。金属蒸発源8、10には、金属チタン、金属
バナジウムをセットした。金属蒸発源9、11には、所
望の比率の(Ti、Al、V)からなる合金をセットし
た。金属蒸発源8〜11は直流電源に接続した。さら
に、ヒータ7の配置を変えた。それ以外の点では図1お
よび2で示す被膜製造装置と図3および4で示す被膜製
造装置とは同一である。
【0050】このような装置を用いて実施例1と同様の
手順で基材上に膜厚、組成、積層構造の異なる複数のサ
ンプルを製造した。これらのサンプルに対してダイヤモ
ンド圧子を使った引っかけ試験を行ない耐摩耗性被膜の
密着強度を評価した。また、耐摩耗性被膜のヌープ硬度
(測定荷重20g)を測定した。その結果を表2および
表3に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】表2中「アークIP」とはアークイオンプ
レーティング法により耐摩耗性被膜を製造したことを示
す。また、「スパッタ」とは、スパッタリング法により
耐摩耗性被膜を製造したことを示す。また、「膜組成」
とは、膜中のそれぞれの成分の原子比率を示す。また、
表3中において「膜全体における各成分の組成比率」と
は、膜全体における各成分の原子比率を示す。
【0054】図2および図3から、本発明品のうちTi
N層が存在するサンプルNo.201〜216ではTi
N膜が存在しないサンプルNo.217〜228に比べ
てスクラッチ臨界荷重が小さいことがわかる。また、サ
ンプルNo.229〜234は、膜を構成する成分の原
子比率が本発明の範囲外であるため、または全体の厚み
が本発明の範囲外であるためスクラッチ臨界荷重は低か
った。
【0055】サンプルNo.201、202、204〜
207、209〜214、216、217、219〜2
21では被膜硬度が特に高くなっている。これは、構成
膜を薄くすることにより、いわゆる歪み整合現象が生じ
ているからだと考えられる。
【0056】このように、本発明品では、比較例に比べ
て耐摩耗性被膜の密着性と硬度が高いことがわかる。
【0057】(実施例3)実施例1で示した手順により
さまざまな組成の被膜を有するエンドミルを作製した。
エンドミルの基材はJIS規格P30超硬合金とした。
この被膜の構造をθ−2θ法によるX線回折で調べた。
また、このエンドミルを用いて切削性能試験を行なっ
た。切削条件は以下のとおりであった。
【0058】エンドミル:φ6mm、2枚刃、JIS
P30 超硬合金 被削材 :チタン合金(Ti−6Al−4V) 切削方法 :側面加工ダウンカット 切削速度 :80m/min 送り :0.03mm/刃 送り込み :Rd 1mm×Ad 7mm 条件 :乾式エアブロー 評価 :切削長20mでの外周の逃げ面摩耗幅 これらの結果を表4および表5に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】表4および表5から、本発明品のうち、密
着層としてのTiN膜がないサンプル(サンプルNo.
308および309)と(111)面に配向していない
サンプル(サンプルNo.310〜312)では、膜が
剥離しやすくなるため、または膜の硬度が低いため逃げ
面摩耗幅がやや大きい。また、各成分の組成が本発明の
範囲外のサンプル(サンプルNo.313〜318)
と、被膜の厚さが本発明の範囲外であるサンプル(サン
プルNo.319、320)では、逃げ面摩耗幅が極端
に大きくなることがわかる。また、すべてのサンプルに
ついて切れ刃の摩耗状態を詳細に観察した。その結果、
サンプルNo.313〜320では、溶着しやすいチタ
ン合金を切削したため構成刃先の成長と脱落により切れ
刃先端部で微小な欠けが蓄積し、これが原因で逃げ面摩
耗幅が大きいことがわかった。
【0062】(実施例4)実施例2と同様の手順でさま
ざまな組成の耐摩耗性被膜を形成し、ドリルを作製し
た。ドリルの基材は高速度鋼JIS規格SKH51とし
た。このドリルを用いて穴あけ加工における切削性能試
験を行なった。切削条件は以下のとおりであった。
【0063】 ドリル :φ10mm、高速度鋼SKH51 被削材 :SS41 切削速度 :30m/min 送り :0.15mm/回転 切削長さ :30mm(貫通孔) 切削油 :乾式 寿命判定 :穴径が基準値(10±0.05mm)を超
えた時点での加工穴数 耐摩耗性被膜の組成、厚さ、構造、試験結果を表6〜8
に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
【表8】
【0067】X線回折では、組成No.[21]〜[2
9]については、(111)面による1本の大きなピー
クが得られた。表6〜表8より、A膜およびB膜の厚さ
が0.5nm〜50nmであるサンプル(サンプルN
o.401〜408)では、加工穴数が特に多かった。
これは、A層およびB層がいわゆる歪み整合現象により
完全に面心立方構造となっているからだと考えられる。
一方、サンプルNo.409については膜厚は好ましい
範囲であるが密着層としてのTiN層がないために加工
穴数が若干少なくなったと考えられる。また、サンプル
No.410、411では、TiN膜がないため加工穴
数が少なくなったと考えられる。サンプルNo.412
〜414では、A膜およびB膜の厚さが0.5〜50n
mの範囲外となったため、サンプルNo.415および
416では、A膜またはB膜の厚さが0.5〜500n
mの範囲から外れたため加工穴数が少なくなったと考え
られる。また、サンプルNo.417〜418では膜中
にfcc構造以外の構造が存在するため、サンプルN
o.419〜422では、(111)面に配向していな
いため、それぞれ加工穴数が少なくなったと考えられ
る。一方、サンプルNo.423〜432では、膜の組
成または膜厚が本発明の範囲外であったため加工穴数が
著しく少なくなったと考えられる。
【0068】(実施例5)実施例4で示された組成N
o.[21]〜[52]の耐摩耗性被膜を実施例2と同
様の手順でアークイオンプレーティング法により形成
し、フライス加工用のチップを製造した。チップの基材
は炭窒化チタン基サーメットとした。このチップを用い
てフライス加工における切削性能試験を行なった。切削
条件は以下のとおりであった。
【0069】チップ :SDKN42、JIS P1
0 炭窒化チタン基サーメット 被削材 :SS41 切削速度 :150m/min 送り :0.15mm/刃 切り込み :7.0mm 切削油 :乾式 寿命判定 :切削長30mでの逃げ面摩耗幅 試験結果を表9に示す。
【0070】
【表9】
【0071】表9より本発明によるフライス加工用チッ
プ(サンプルNo.501〜522)は、本発明外のフ
ライス加工用チップ(サンプルNo.523〜530)
や、従来品(サンプルNo.531、532)に比べて
逃げ面摩耗幅が小さく寿命が長いことが確認された。
【0072】(実施例6)実施例4で示された組成N
o.[21]〜[52]の耐摩耗性被膜を実施例2と同
様の手順でスパッタリング法により形成し、旋削加工用
チップを作製した。チップの基材はAl2 O3 −TiC
系セラミックとした。このチップを用いて連続旋削加工
における切削性能試験を行なった。切削条件は以下のと
おりであった。
【0073】チップ :CNMN433、JIS K
01 Al2 O3 −TiC系セラミック 被削材 :FCD45 切削速度 :300、230、180m/min 送り :0.1mm/回転 切り込み :0.3mm 切削油 :乾式 寿命判定 :切削長50mでの逃げ面摩耗幅 試験結果を表10に示す。
【0074】
【表10】
【0075】表10より、本発明によるチップ(サンプ
ルNo.601〜622)は、本発明外のチップ(サン
プルNo.623〜630)や、従来品(サンプルN
o.631、632)に比べて逃げ面摩耗幅が小さく寿
命が長いことが確認できた。
【0076】(実施例7)実施例2と同様の手順でさま
ざまな組成の耐摩耗性被膜を有するドリルをアークイオ
ンプレーティング法により作製した。ドリルの基材はJ
IS K10の超硬合金とした。また比較のため本発明
品のドリル基材と同一材料・形状のドリル基材にバナジ
ウムを含まない耐摩耗性被膜を被覆したドリルを作製し
た。また、その耐摩耗性被膜上に二硫化モリブデンをコ
ーティングしたドリルを作製した。なお二硫化モリブデ
ンはスパッタリング法により形成した。これらのドリル
により穴あけ加工における切削性能試験を行なった。切
削条件は以下のとおりであった。
【0077】工具 :φ10mm、ツイストドリ
ル、JIS K10 超硬合金 被削材 :S50C 切削速度 :70m/min 送り :0.3mm/回転 穴深さ :32mm(とまり穴) 切削油 :乾式 寿命判定 :加工可能な穴数 その他評価:加工された穴の内径寸法の変化と、加工可
能な穴数 試験結果を表11に示す。
【0078】
【表11】
【0079】表11より本発明によるドリル(サンプル
No.701〜705)は、加工可能な穴数だけでなく
加工された穴の内径寸法の精度も高いことが確認され
た。また、サンプルNo.705では、密着層としての
TiN層がないため、他の発明品(サンプルNo.70
1〜704)に比べて若干加工可能な穴数が小さく精度
も劣ることがわかった。一方、比較例であるサンプルN
o.706、707では、500個の穴を加工する前に
ドリルが破損した。そのため、500穴加工時の穴の内
径寸法精度を測定できなかった。また、比較例であるサ
ンプルNo.708、709では、加工穴数が100個
までは穴内径寸法精度は高かった。しかし、それ以上の
穴数になると切屑が異常に延びて試験を継続するのが危
険な状態になったため試験を中止した。この原因は、潤
滑膜である二硫化モリブデンコーティング膜が摩耗によ
り失われ潤滑効果がなくなったからであるということが
試験後のドリルの表面状態の検査でわかった。
【0080】(実施例8)実施例1と同様の手順でダイ
ス鋼からなる基材上にさまざまな組成の耐摩耗性被膜を
形成した。この耐摩耗性被膜の密着強度を、ダイヤモン
ド圧子を使った引っかき試験により測定した。その結果
を表12に示す。
【0081】
【表12】
【0082】表12より、密着層としてのTiN層が存
在するサンプル(サンプルNo.801〜803)は、
TiN層が存在しないサンプル(サンプルNo.80
4)に対して高い密着強度を有することがわかった。
【0083】(実施例9)実施例2と同様の手順でダイ
ス鋼からなる基材の上にさまざまな組成を有する耐摩耗
性被膜を形成した。これらの耐摩耗性被膜の密着強度
を、ダイヤモンド圧子を使った引っかき試験で測定し
た。また、耐摩耗性被膜のヌープ硬度(測定荷重25
g)を測定した。これらの結果を表13に示す。
【0084】
【表13】
【0085】表13よりA膜およびB膜の厚さが0.5
〜50nmの範囲のサンプル(サンプルNo.901〜
905)では、被膜の硬度が特に高いことがわかる。こ
れはA膜およびB膜でいわゆる歪み整合現象が生じてい
るためであると考えられる。また、A膜またはB膜の厚
さが0.5〜500nmの範囲外のサンプル(サンプル
No.906〜908)では、被膜硬度はサンプルN
o.901〜905に比べて若干低かった。また、A膜
およびB膜の厚さが0.5〜50nmの範囲内のサンプ
ル(サンプルNo.901〜905)において、密着層
としてのTiN層が存在するサンプル(サンプルNo.
901〜904)は、TiN層が存在しないサンプル
(サンプルNo.905)よりも膜の密着性が高かっ
た。
【0086】(実施例10)実施例1と同様の手順で超
硬合金からなる基材上に組成No.[1]〜[20]の
耐摩耗性被膜をアークイオンプレーティング法により形
成して冷間鍛造用パンチを製造した。このパンチを用い
て冷間鍛造における寿命評価試験を行なった。試験条件
は以下のとおりであった。
【0087】パンチ形状 :先端φ15mm、JIS
V40 超硬合金 被加工材 :Cr−V鋼のロッド切断体 部品名 :ソケットレンチヘッド 鍛造スピード:50サイクル/分 使用マシン :200トンプレス 加工物の潤滑:なし ダイス :JIS V40 超硬合金+鋼ケースに
焼きばめ 評価 :焼付きまでの加工可能数量 試験結果を表14に示す。
【0088】
【表14】
【0089】表14から密着層としてのTiN層が存在
し、被膜の組成および厚さが本発明の範囲であり、さら
にX線回折の最高強度面が(111)面であるサンプル
(サンプルNo.1001〜1007)が特に優れた結
果を示した。またTiN膜がないサンプル(サンプルN
o.1008、1109)や、被膜が(111)面に配
向していないサンプル(サンプルNo.1010〜10
13)は、サンプルNo.1001〜1007に対して
若干加工可能数量が少なくなった。一方サンプルNo.
1013〜1018は膜の組成が本発明の範囲外である
ため、サンプルNo.1019、1021は膜の厚さが
本発明の範囲外であるためいずれも加工可能数量が著し
く少なくなった。
【0090】サンプルNo.1017〜1020につい
てパンチの摩耗状態を詳細に観察したところ、潤滑剤が
ない状態で鍛造を実施したため、これらのサンプルにつ
いてはパンチの先端部で溶着物の成長と脱落により欠け
が生じていることがわかった。
【0091】(実施例11)熱間ダイス鋼からなる基材
上に実施例4で示した組成No.[21]〜[53]の
耐摩耗性被膜を実施例2と同様の手順でスパッタリング
法により形成して温間鍛造用パンチを作製した。このパ
ンチを用いて温間鍛造における寿命評価試験を行なっ
た。試験条件は以下のとおりであった。
【0092】パンチ形状 :先端φ80mm、熱間ダイ
ス鋼SKD61 被加工材 :S45C 部品名 :等速ボールジョイントのアウタレース 鍛造時温度 :800℃ 鍛造スピード:50サイクル/分 使用マシン :1000トンプレス 加工物の潤滑:硼酸系潤滑剤使用 ダイス :熱間ダイス鋼SKD61 評価 :焼付きまでの加工可能数量 試験結果を表15に示す。
【0093】
【表15】
【0094】表15から、本発明によるサンプル(サン
プルNo.1101〜1122)は、本発明外のサンプ
ル(サンプルNo.1123〜1130)や、従来品
(サンプルNo.1131、1132)に比べて加工可
能数が多いことがわかった。
【0095】サンプルNo.1123〜1132のパン
チの摩耗状態を詳細に観察したところ、潤滑が完全では
ない硼酸系潤滑剤を使用して鍛造したことにより溶着物
の成長と脱落によってパンチ先端部に破損が生じている
ことがわかった。このことが、サンプルNo.1123
〜1132が短寿命であった原因と考えられる。
【0096】(実施例12)熱間ダイス鋼からなる基材
上に実施例4で示した組成No.[21]〜[52]の
耐摩耗性被膜を実施例2と同様の手順でアークイオンプ
レーティング法により形成し熱間鍛造用パンチを作製し
た。このパンチを使用して実際の熱間打抜き加工におけ
る寿命評価試験を行なった。試験の条件は以下のとおり
であった。
【0097】パンチ形状 :先端φ40mm、熱間ダイ
ス鋼SKD61 被加工材 :SUJ2 部品名 :ボールベアリングのアウタレース 鍛造時の温度:900℃ 加工スピード:60回/分 使用マシン :200トンプレス 加工物の潤滑:硼酸系潤滑剤使用 ダイス :熱間ダイス鋼SKD61 評価 :焼付きまでの加工可能数量 試験結果を表16に示す。
【0098】
【表16】
【0099】表16から、本発明のサンプル(サンプル
No.1201〜1222)は、本発明外のサンプル
(サンプルNo.1223〜1230)や、従来品(サ
ンプルNo.1231、1232)に比べて加工可能数
が多いことがわかった。
【0100】(実施例13)高速度鋼からなる基材上に
実施例4で示した組成No.[21]〜[52]の耐摩
耗性被膜を実施例2と同様の手順でスパッタリング法に
より形成し金型を作製した。この金型の冷間打抜き加工
における寿命評価試験を行なった。試験の条件は以下の
とおりであった。
【0101】 パンチ形状 :先端φ30mm、高速度鋼SKH9 被加工材 :SS41(6mm厚み) 部品名 :変圧器容器 加工スピード:120回/分 使用マシン :50トンNCプレス 加工物の潤滑:極圧添加剤入りプレス油 ダイス :高速度鋼SKH9 評価 :焼付きまでの加工可能数量 試験結果を表17に示す。
【0102】
【表17】
【0103】表17から本発明品であるサンプル(サン
プルNo.1301〜1322)は、本発明外のサンプ
ル(サンプルNo.1323〜1330)や、従来品
(サンプルNo.1331、1332)に比べて加工可
能数が多いことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で用いた被膜製造装置の上面図であ
る。
【図2】図1中のII−II線に沿って見た面を示す図
である。
【図3】実施例2で用いた被膜製造装置の上面図であ
る。
【図4】図3中のIV−IV線に沿って見た面を示す図
である。

Claims (18)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 基材と、 その基材の上に形成された耐摩耗性被膜とを備え、 その耐摩耗性被膜の組成は(Tix ,Aly ,Vz )
    (Cu ,Nv ,Ow )(ここで、添字x、y、z、u、
    vおよびwは、それぞれ、Ti、Al、V、C、Nおよ
    びOの原子比率を示す)で表わされ、x、y、z、u、
    vおよびwの間にはx+y+z=1、u+v+w=1、
    0.2<x<1、0≦y<0.8、0.02≦z<0.
    6、0≦u<0.7、0.3<v≦1および0≦w<
    0.5で示す関係が成立し、前記耐摩耗性被膜の厚さは
    0.5μm以上15μm以下であることを特徴とする、
    被覆工具。
  2. 【請求項2】 前記耐摩耗性被膜は、積層された複数の
    第1の膜を含み、その第1の膜の各々の組成は(T
    ia ,Alb ,Vc )(Cd ,Ne ,Of )(ここで、
    添字a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ、Ti、
    Al、V、C、NおよびOの原子比率を示す)で表わさ
    れ、a、b、c、d、eおよびfの間にはa+b+c=
    1、d+e+f=1、0.2<a<1、0≦b<0.
    8、0≦c<0.6、0≦d<0.7、0.3<e≦1
    および0≦f<0.5で示す関係が成立することを特徴
    とする、請求項1に記載の被覆工具。
  3. 【請求項3】 前記第1の膜の各々の厚みは0.5nm
    以上500nm以下であることを特徴とする、請求項2
    に記載の被覆工具。
  4. 【請求項4】 前記第1の膜の各々の厚みは0.5nm
    以上50nm以下であることを特徴とする、請求項3に
    記載の被覆工具。
  5. 【請求項5】 前記第1の膜の各々の組成または厚さは
    互いに異なることを特徴とする、請求項3または4に記
    載の被覆工具。
  6. 【請求項6】 前記耐摩耗性被膜は、複数の積層された
    前記第1の膜と第2の膜とを含み、前記第2の膜は窒化
    バナジウム、炭化バナジウム、炭窒化バナジウム、炭酸
    化バナジウム、酸窒化バナジウムおよび炭酸窒化バナジ
    ウムからなる群より選ばれた少なくとも1種を含むこと
    を特徴とする、請求項2に記載の被覆工具。
  7. 【請求項7】 前記第1および第2の膜の各々の厚さは
    0.5nm以上500nm以下であることを特徴とす
    る、請求項6に記載の被覆工具。
  8. 【請求項8】 前記第1および第2の膜の各々の厚さは
    0.5nm以上50nm以下であることを特徴とする、
    請求項7に記載の被覆工具。
  9. 【請求項9】 前記第1の膜と前記第2の膜とは交互に
    積層されていることを特徴とする、請求項6〜8のいず
    れか1項に記載の被覆工具。
  10. 【請求項10】 前記耐摩耗性被膜は、複数の積層され
    た前記第1の膜と第3の膜とを含み、前記第3の膜は窒
    化アルミニウムおよび炭窒化アルミニウムからなる群よ
    り選ばれた少なくとも1種を含み、前記第3の膜の厚さ
    は0.5nm以上50nm以下であることを特徴とす
    る、請求項2〜5のいずれか1項に記載の被覆工具。
  11. 【請求項11】 前記第1の膜と前記第3の膜とは交互
    に積層されていることを特徴とする、請求項10に記載
    の被覆工具。
  12. 【請求項12】 前記耐摩耗性被膜は、TiNからなる
    密着層を含み、その密着層は前記基材と接することを特
    徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の被覆
    工具。
  13. 【請求項13】 前記基材は、セラミックス、超硬合
    金、サーメット、高速度鋼、ダイス鋼、プレハードン鋼
    および析出硬化型ステンレス鋼からなる群より選ばれた
    少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1〜1
    2のいずれか1項に記載の被覆工具。
  14. 【請求項14】 前記耐摩耗性被膜は面心立方構造を有
    し、前記耐摩耗性被膜の結晶構造をθ−2θ法によるx
    線回折法で調べれば、前記耐摩耗性被膜に由来する回折
    線のうち、(111)面からの回折線が相対的に最高強
    度を示すことをことを特徴とする、請求項2、3、5、
    6、7、9または10のいずれか1項に記載の被覆工
    具。
  15. 【請求項15】 前記耐摩耗性被膜の結晶構造をθ−2
    θ法によるx線回折法で調べれば、回折パターンは、1
    種類の面心立方構造に由来する回折線のみから構成さ
    れ、かつ面心立方構造を有する前記耐摩耗性被膜に由来
    する回折線のうち(111)面からの回折線が相対的に
    最高強度を示すことを特徴とする、請求項4、8または
    10に記載の被覆工具。
  16. 【請求項16】 前記被覆工具は、被覆切削工具である
    ことを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項に記
    載の被覆工具。
  17. 【請求項17】 前記被覆工具は、被覆金型であること
    を特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の
    被覆工具。
  18. 【請求項18】 Ti、AlおよびVからなる群より選
    ばれた少なくとも1種を含む膜原料を蒸着法またはスパ
    ッタリング法により前記基材の上に供給し、窒素、酸素
    および炭素からなる群より選ばれた少なくとも1種を含
    むガスを前記膜原料と反応させるPVD法により請求項
    1〜15のいずれか1項に記載の耐摩耗性被膜を形成す
    ることを特徴とする、被覆工具の製造方法。
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