JP7749666B2 - ピッチ系炭素繊維及びその製造方法、並びに繊維強化プラスチック - Google Patents

ピッチ系炭素繊維及びその製造方法、並びに繊維強化プラスチック

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Description

本開示は、ピッチ系炭素繊維及びその製造方法、並びに繊維強化プラスチックに関する。
ピッチ系炭素繊維は、繊維強化プラスチック等の種々の用途で広く用いられている。そのピッチ系炭素繊維は、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3等に開示されている。
[特許文献1]特開昭60-155714号公報
[特許文献2]特開昭61-006316号公報
[特許文献3]特公平5-29689号公報
特許文献1等を始めとして、ピッチ系炭素繊維に関する技術が従来から検討されている。しかしながら、ピッチ系炭素繊維の引張強度を向上させるための技術が十分でないのが現状である。特許文献2及び特許文献3では、引張弾性率が高い状態を維持したまま、引張強度を向上するという点で、改善の余地がある。引張弾性率は、一般的に黒鉛化時の熱処理温度(黒鉛化温度)が高くなるほど向上するが、同じ黒鉛化温度において、より高い引張弾性率を生じさせる製造方法が求められている。
本開示は、このような状況を鑑みてなされたものであり、本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、引張強度に優れたピッチ系炭素繊維が得られるピッチ系炭素繊維の製造方法を提供することである。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、引張強度に優れたピッチ系炭素繊維を提供することである。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記ピッチ系炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックを提供することである。
本開示は、以下の態様を含む。
<1> 欠陥数密度が、40個/m以下であり、長手方向に垂直な断面の形状が、円形又は扁平率が0.25以下の楕円形であり、円形の断面の直径方向又は楕円形の断面の長軸方向に境界面を有する、ピッチ系炭素繊維。
<2> 境界面に対して60°~120°の配向角で配向したグラフェンシートが占める領域の面積の比率が、上記断面の面積に対して60%以上である、<1>に記載のピッチ系炭素繊維。
<3> 上記断面の形状が、円形又は扁平率が0.2以下の楕円形である、<2>に記載のピッチ系炭素繊維。
<4> 前記欠陥数密度が、30個/m以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のピッチ系炭素繊維。
<5> 引張弾性率が400GPa以上である、<1>~<4>のいずれか1つに記載のピッチ系炭素繊維。
<6> 前記引張弾性率が440GPa以上である、<5>に記載のピッチ系炭素繊維。
<7> 溶融した異方性ピッチを紡糸ノズルから吐出して紡糸する溶融紡糸工程を含み、
紡糸ノズルの吐出孔の形状に外接する外接長方形の長辺の長さの比率が、外接長方形の短辺の長さに対して1超であり、
溶融した異方性ピッチの粘度が、20Pa・s~80Pa・sである、
ピッチ系炭素繊維の製造方法。
<8> 上記比率が、1.5~10.0である、<7>に記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
<9> 吐出孔の形状が、長方形又は楕円形である、<7>又は<8>に記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
<10> 前記異方性ピッチの粘度が、30Pa・s~60Pa・sである、<7>~<9>のいずれか1つに記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
<11> 溶融紡糸工程での紡糸速度が、200m/分~500m/分である、<7>~<10>のいずれか1つに記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
<12> 前記溶融紡糸工程の後に、炭化されたピッチ系炭素繊維前駆体に熱処理を施して黒鉛化する黒鉛化工程を含み、
前記黒鉛化工程での前記熱処理の温度が2000℃~2900℃である、<7>~<11>のいずれか1つに記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
<13> <1>~<6>のいずれか1つに記載のピッチ系炭素繊維を含む、繊維強化プラスチック。
本開示の一実施形態によれば、引張強度に優れたピッチ系炭素繊維が得られるピッチ系炭素繊維の製造方法が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、引張強度に優れたピッチ系炭素繊維が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、上記ピッチ系炭素繊維を用いた繊維強化プラスチック提供される。
図1は、Weibullプロットの一例である。 図2は、ピッチ系炭素繊維の断面の一例を示す模式図である。 図3は、ピッチ系炭素繊維の断面の一例を示す模式図である。 図4は、ピッチ系炭素繊維の断面の一例を示す模式図である。 図5は、ピッチ系炭素繊維の断面の一例を示すSEM画像である。 図6は、図5のSEM像の二値化像の一例である。 図7は、図6の二値化像の編集画像の一例である。 図8は、グラフェンシートの配向角の一例を示す図である。 図9は、紡糸ノズルの断面の一例を示す模式図である。 図10は、紡糸ノズルの吐出孔の一例を示す模式図である。
以下、本開示に係るピッチ系炭素繊維及びその製造方法の詳細を説明する。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、「工程」という語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
以下の説明において参照する図面は、例示的、かつ、概略的に示されたものであり、本開示は、これらの図面に限定されない。同じ符号は、同じ構成要素を示す。また、図面の符号は省略することがある。
<ピッチ系炭素繊維>
本開示に係るピッチ系炭素繊維は、欠陥数密度が、40個/m以下であり、長手方向に垂直な断面の形状が、円形又は扁平率が0.25以下の楕円形であり、円形の断面の直径方向又は楕円形の断面の長軸方向に境界面を有する。
欠陥数密度は、ピッチ系炭素繊維の単位長さ当たりに含まれる欠陥の数であり、本開示では、Weibullプロットに基づいて得られる値を意味する。欠陥数密度を小さくすることにより、ピッチ系炭素繊維の引張強度を向上させることができる。
欠陥数密度は、例えば、引張強度に影響する因子であるボイド及びクラック(以下、「ボイド等」と呼ぶことがある)の数、ボイド等の大きさ等と関連する。そのため、ボイド等の数の減少、ボイド等の大きさの低減等により、欠陥数密度を小さくして、引張強度を向上させることができる。
以下、Weibullプロットに基づいて欠陥数密度を得る方法を具体的に説明する。
長さL[m]のピッチ系炭素繊維について、欠陥数密度λ[個/m]は、以下の式(1)で表される。


式(1)中、σ、β、γ及びLは、以下の通りである。
σ:ピッチ系炭素繊維(単繊維N本)の単繊維毎の引張強度[GPa]
β:ピッチ系炭素繊維(単繊維N本)における単繊維毎の引張強度の確率分布の幅
(シェープパラメータ(Weibullモージュラス))
γ:単繊維毎の引張強度の確率分布から求められるピッチ系炭素繊維の単位長さ当たりの引張強度
(スケーリングパラメータ)
:ピッチ系炭素繊維の基準の長さ(1m)
ピッチ系炭素繊維が引張強度σで破断する破断確率F(L)(以下、「破断確率F]と表すことがある)は、以下の式(2)で表される。


式(2)は、鎖を引っ張る場合において最も弱い輪が破壊されることにより鎖全体が破壊されるとするモデル(最弱リンクモデル)に基づいている。
式(2)に式(1)を代入すると、以下の式(3)が得られる。
式(3)を展開すると、以下の式(4)が得られる。

式(4)は、ln[-ln(1-F)]とlnσとの一次関数であり、Weibullプロットを与える。
以下、破断確率F及び単繊維毎の引張強度σを実験的に決定する方法を説明する。
JIS R 7606:2000に準拠して、N本のピッチ系炭素繊維について引張試験を行うことにより、N個の引張強度を得る。N個の引張強度の中のある引張強度σについて、引張強度σ以下で破断したピッチ系炭素繊維の数がn本である場合、引張強度σにおける破断確率F(すなわち、引張強度がσ以下であるピッチ系炭素繊維の割合)は、以下の式(5)で示される。

F=n/N ・・・(5)
引張強度σと引張強度σにおける破断確率Fとを式(4)に代入し、ln[-ln(1-F)]及びlnσをプロットする。また、他の引張強度についても同様に破断確率を求めて、同様にプロットする。これにより、N個のプロットを得ることができる。Nは30以上とする。これにより、例えば、図1に示されるWeibullプロットが得られる。
最小二乗法により、式(4)をWeibullプロットにフィッティングして、フィッティング直線を得る。例えば、図1に示すようなフィッティング直線が得られる。
フィッティング直線の傾き及び切片の値から、β及びγを得る。また、引張試験を行った結果から、引張強度の平均値(σav)を求める。式(1)に、σとしてσavを代入し、また、β及びγを代入して、欠陥数密度λを得る。このようにして得られる欠陥数密度λは、欠陥数密度の平均値λavであり、これが本願で示すピッチ系炭素繊維の欠陥数密度である。
以上のようにして、Weibullプロットに基づいてピッチ系炭素繊維の欠陥数密度を得ることができる。
引張試験に用いるピッチ系炭素繊維の本数Nは、30本以上であることが好ましい。本数Nの上限は特に限定されないが、例えば、50本であってよい。
引張試験に用いるピッチ系炭素繊維の長さは25mmとする。
ピッチ系炭素繊維は、欠陥数密度が小さい程、引張強度が向上する傾向があるため、欠陥数密度は小さい程好ましい。欠陥数密度は、例えば、30個/m以下であることが好ましく、25個/m以下であることがより好ましく、10個/m以下であることが更に好ましい。欠陥数密度の下限は特に限定されないが、通常、1個/m程度である。
ピッチ系炭素繊維の長手方向に垂直な断面(以下、単に「断面」と呼ぶことがある)の形状は、円形又は扁平率が0.25以下の楕円形である。これにより、欠陥数密度を低減することが容易となる。ここで、「垂直」とは、90°±15°であることを意味する。
扁平率は、断面の楕円形状に外接する外接長方形の長辺の長さに対する、外接長方形の短辺の長さの比率を1から減じて得られる値である。外接長方形は、楕円形状に外接し、かつ、面積が最小となる長方形である。
ピッチ系炭素繊維の径は特に限定されず、例えば、5μm~20μmであってよい。
ピッチ系炭素繊維の断面の形状、扁平率及び径は、JIS R 7606:2000に準拠し、また、レーザー形状測定装置を用いて、測定範囲を0°~180°として、ピッチ系炭素繊維の断面を10°毎に回転させて、断面の外周の形状を測定することにより得られる。レーザー形状測定装置は、市販品であってよく、例えば、ミツトヨ社製の「レーザースキャンマイクロメータ LSM-500S」が挙げられる。
断面が楕円形である場合には、断面の外周の形状から、長軸及び短軸を求め、楕円の面積から算出される円相当径(長軸と短軸との積の平方根)をピッチ系炭素繊維の径とした。
欠陥数密度をより容易に低減する観点から、長手方向に垂直な断面の形状は、円形又は扁平率が0.2以下の楕円形であることが好ましく、円形又は扁平率が0.18以下の楕円形であることがより好ましく、円形又は扁平率が0.15以下の楕円形であることが更に好ましい。形状が楕円形である場合の扁平率の下限は、特に限定されないが、欠陥数密度をより容易に低減する観点から、0.01以上であることが好ましい。
ピッチ系炭素繊維は、グラフェンシートを含む。グラフェンシートは、炭素原子が六角形状に平面上で結合した格子構造をなすシート状物である。
ピッチ系炭素繊維の構造は、グラフェンシートの状態(例えば、配向)により異なり、ラジアル構造、オニオン構造、ランダム構造等が挙げられるが、ラジアル構造であることが好ましい。
ラジアル構造では、複数のグラフェンシートがピッチ系炭素繊維の長手方向に延在しており、また、断面において、複数のグラフェンシートが、所定の位置から断面の外周方向に向かって延在している。
グラフェンシートは、上記所定の位置と接していてよく、上記所定の位置と離間していてもよい。また、グラフェンシートは断面の外周と接していてよく、断面の外周から離間していてもよい。
上記所定の位置を介して、グラフェンシート同士が接していてよく、接していなくてもよい。
例えば、図2に示すように、ピッチ系炭素繊維100の断面の形状が楕円形であり、複数のグラフェンシート10が、楕円形の長軸方向の境界面30(上記所定の位置)から断面の外周方向に向かって延在している。このように、断面の長軸方向の境界面30に対してグラフェンシート10が配向している。このようなピッチ系炭素繊維の構造を「扁平ラジアル構造」と呼ぶことがある。
他の実施形態において、例えば、図3に示すように、ピッチ系炭素繊維102の断面の形状が円形であり、複数のグラフェンシート10が、円形の直径方向の境界面32(上記所定の位置)から断面の外周方向に向かって延在している。このように、断面の直径方向の境界面32に対してグラフェンシート10が配向している。
他の実施形態において、例えば、図4に示すように、ピッチ系炭素繊維104の断面の形状は円形であり、複数のグラフェンシート10が、円形の中心34(上記所定の位置)から断面の外周方向に向かって放射状に延在している。このようなピッチ系炭素繊維の構造を「単純ラジアル構造」と呼ぶことがある。
このように、図3に示されるピッチ系炭素繊維と図4に示されるピッチ系炭素繊維とでは、同じく断面の形状が円形であるものの、断面におけるグラフェンシートの延在の態様が異なる。
欠陥数密度をより容易に低減する観点から、ピッチ系炭素繊維は、断面の直径又は長軸方向の境界面に対してグラフェンシートが配向していることが好ましい。
ピッチ系炭素繊維は、断面の直径又は長軸方向の境界面に対して60°~120°の配向角で配向したグラフェンシートが占める領域(以下、「特定領域」と呼ぶことがある)の面積の比率が、断面の面積に対して60%以上であることが好ましい。これにより、欠陥数密度を低減することがより容易となる。
特定領域の面積の比率は、以下のようにして得られる。
SEM(Scanning Electron Microscope、走査電子顕微鏡)を用いて、ピッチ系炭素繊維の無作為に選択した断面を断面に垂直な方向に観察し、SEM画像を取得する。これにより、例えば、図5に示されるようなピッチ系炭素繊維の断面のSEM画像が得られる。SEMとしては、例えば、日本電子社製の「JSM-6500F」を用いることができる。SEM画像の取得条件として、倍率は、単繊維の断面のみが取得可能な倍率(例えば、7000倍~10000倍、7μm程度の径のピッチ系炭素繊維では10000倍)であればよく、加速電圧は特に指定されず、例えば、5kV~15kVであってよい。
画像処理ソフトウェア「ImageJ(vl.52)」を用いて、SEM画像を解析する。具体的には、SEM画像に二値化処理を施して断面の二値化像を取得する。これにより、例えば、図6に示されるような二値化像が得られる。
「ImageJ(vl.52)」を用いて、二値化像の黒色部分を線分として描画する編集を二値化像に施して、断面の編集画像を取得する。これにより、例えば、図7に示されるような編集画像が得られる。
編集画像について、フラクタル次元解析により断面中の各線分の直線性を評価し、D=1.2以下の線分を特定する。D=1.2以下の線分を「グラフェンシート」と定義する。「ImageJ(vl.52)」は、オープンソースでパブリックドメインの画像処理ソフトウェアである。
編集画像における断面の輪郭の最大長(すなわち、輪郭の任意の2点を結ぶ直線の最大値であり、断面が円形である場合には直径、断面が楕円形である場合には長軸)を与える線分を「境界面」と定義する。
「Python(v3)」(オープンソース)で既述したプログラムにより編集画像を解析し、断面全体に亘って、境界面に対する各グラフェンシート(D=1.2以下の線分)の配向角を求める。その際、境界面を含む直線とグラフェンシートを含む直線との交点における角度を配向角とする。例えば、図8に示されるように、境界面を含む直線36とグラフェンシートを含む直線12との交点における角度から配向角αが得られる。例えば、図8に示される断面において、短いグラフェンシートが多い領域(図8中、左上及び右下の領域)が含まれているが、グラフェンシートの長短に関わらず、断面全体に亘って配向角を評価する。
「ImageJ(vl.52)」を用いて、60°~120°の配向角で配向したグラフェンシート(D=1.2以下、かつ、配向角が0°~120°の線分)が占める領域(特定領域)を黒色表示とし、断面中に占める特定領域を識別する。「ImageJ(vl.52)」を用いて、特定領域の面積、及び断面の面積を求める。特定領域の面積を断面の面積で除して、特定領域の面積の比率を求める。
ピッチ系炭素繊維の上記と同じ断面について、同様の測定を5回行い、5回の測定で得られた特定領域の面積の比率の平均値をピッチ系炭素繊維の特定領域の面積の比率とする。
欠陥数密度をより容易に低減する観点から、60°~120°の配向角で配向したグラフェンシートについて、配向角の平均値は、70°~110°であることがより好ましい。
欠陥数密度をより容易に低減する観点から、特定領域の面積の比率は、70%以上であることがより好ましい。特定領域の面積の比率の上限は、特に限定されないが、欠陥数密度をより容易に低減する観点から、95%以下であることが好ましい。
ピッチ系炭素繊維の引張強度は、高い程好ましく、例えば、3600MPa以上であることが好ましく、3800MPa以上であることがより好ましく、4000MPa以上であることが更に好ましい。
ピッチ系炭素繊維の引張強度は、JIS R 7606:2000に準拠して測定される。Weibullプロットについて上述した引張試験で得られたN個の引張強度の平均値をピッチ系炭素繊維の引張強度とする。
機械特性をより高める観点から、ピッチ系炭素繊維の引張弾性率は、高い程好ましく、例えば、400GPa以上であることが好ましく、440GPa以上であることがより好ましく、460GPa以上であることが更に好ましい。
ピッチ系炭素繊維の引張弾性率は、JIS R 7606:2000に準拠して測定される。Weibullプロットについて上述した引張試験において引張弾性率も測定し、N本のピッチ系炭素繊維から得られたN個の引張弾性率の平均値をピッチ系炭素繊維の引張弾性率とする。
<ピッチ系炭素繊維の製造方法>
本開示に係るピッチ系炭素繊維の製造方法は特に限定されないが、以下に説明する本開示係るピッチ系炭素繊維の製造方法を好適に用いることができる。
本開示に係るピッチ系炭素繊維の製造方法は、
溶融した異方性ピッチを紡糸ノズルから吐出して紡糸する溶融紡糸工程を含み、
紡糸ノズルの吐出孔の形状に外接する外接長方形の長辺の長さの比率が、外接長方形の短辺の長さに対して1超であり、
溶融した異方性ピッチの粘度が、20Pa・s~80Pa・sである。
ピッチ系炭素繊維の製造方法は、溶融紡糸工程の他に、以下に説明する不融化工程、炭化工程及び黒鉛化工程を含む。以下、各工程について詳細に説明する。
[溶融紡糸工程]
溶融紡糸工程では、溶融した異方性ピッチを紡糸ノズルから吐出して紡糸する。
(異方性ピッチ)
異方性ピッチは、ピッチの分子が平面状に配列したメソフェーズを含む。メソフェーズは、黒鉛化工程を経てグラフェンシートとなるものであり、グラフェンシートの前駆体である。
異方性ピッチの原料として、例えば、コールタール、コールタールピッチ、石炭液化物のような石炭系重質油等が挙げられ、更に、石油の常圧蒸留、減圧蒸留残油及びこれらの熱処理によって副生するタール及びピッチのような石油系重質油を精製したもの等も挙げられる。このような原料に、熱処理、溶剤抽出処理、水素化処理等を適切に組み合わせた処理を施すことにより、異方性ピッチが得られる。
異方性ピッチ中のメソフェーズの割合は、60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。これにより、ピッチ系炭素繊維の物性、特に引張弾性率を発現させることがより容易となる。
メソフェーズの割合は、以下のようにして測定される。
異方性ピッチから無作為に試料を取り出し、偏光顕微鏡を用いて、10~100倍の倍率で試料を観察する。無作為に選択した視野について、視野全体の面積及びメソフェーズの面積を測定する。視野全体の面積に対するメソフェーズの面積の比率をメソフェーズの割合とする。すなわち、メソフェーズの割合は、異方性ピッチに対するメソフェーズの面積率である。
異方性ピッチの融点は特に限定されないが、260℃~320℃であることが好ましく、270℃~310℃であることがより好ましい。
異方性ピッチ中の異物を低減して、引張強度をより容易に高める観点から、異方性ピッチ中のキノリン不溶分は、20質量%以下であることが好ましい。キノリン不溶分は、公知の方法で測定することができる。
(紡糸ノズル)
異方性ピッチを吐出する紡糸ノズルにおいて、吐出孔の形状に外接する外接長方形の短辺の長さに対する、吐出孔の形状に外接する外接長方形の長辺の長さの比率(以下、「アスペクト比」と呼ぶことがある)が、1超である。外接長方形は、吐出孔の楕円形状に外接し、かつ、面積が最小となる長方形である。
なお、吐出孔の形状は楕円形に限らず長方形であってもよい。吐出孔の形状が長方形である場合、その長方形における短辺の長さに対する長辺の長さの比率(以下、「アスペクト比」と呼ぶことがある)が、1超である。
吐出孔のアスペクト比が1超であるため、アスペクト比が1である場合と比較して、吐出孔の形状の異方性が大きい。
溶融した異方性ピッチが紡糸ノズルの吐出孔を通過する際、異方性ピッチ中のメソフェーズが配向するが、配向の態様は、吐出孔の形状により異なる。
吐出孔の形状が円形(アスペクト比が1)である場合、吐出して得られる線条体(以下、「ピッチ系炭素繊維前駆体」と呼ぶことがある)において、メソフェーズは、例えば、図4に示されるグラフェンシートと同様の態様で、断面の中心から外周部に向かって放射状に配向する。吐出孔の形状の異方性が小さいため、メソフェーズが断面の中心から均等に配向し易いためである。
メソフェーズが断面の中心から外周部に向かって放射状に配向する態様(以下、「態様1」と呼ぶことがある)のピッチ系炭素繊維前駆体に、不融化工程、炭化工程及び黒鉛化工程を施すことにより、例えば、図4に示されるようなグラフェンシートの配向を有するピッチ系炭素繊維を得ることができる。
これに対して、吐出孔のアスペクト比が1超である場合、吐出して得られるピッチ系炭素繊維前駆体において、メソフェーズは、例えば、図2又は図3に示されるグラフェンシートと同様の態様で、断面の境界面から外周部に向かって配向する。吐出孔の形状の異方性が大きい、メソフェーズが通過する部分によって配向が異なるためである。
メソフェーズが断面の境界面から外周部に向かって配向する態様(以下、「態様2」と呼ぶことがある)のピッチ系炭素繊維前駆体に、不融化工程、炭化工程及び黒鉛化工程を施すことにより、例えば、図2又は図4に示されるようなグラフェンシートの配向を有するピッチ系炭素繊維を得ることができる。
紡糸ノズルの吐出孔のアスペクト比を1超とすることに加えて、溶融した異方性ピッチの粘度を、20Pa・s~80Pa・sとする。これにより、溶融した異方性ピッチが紡糸ノズルの吐出孔を通過する際、異方性ピッチ中のメソフェーズを、断面の境界面から外周部に向かって配向させることが容易となる。なお、ここでいう粘度とは、紡糸ノズルから吐出する前における貯蔵される領域での溶融温度(つまり図9における導入部70での温度)での異方性ピッチの粘度を指す。
また、上記アスペクト比及び上記粘度を満足することにより、欠陥数密度を40個/m以下とすることが容易となる。
更に、上記アスペクト比及び上記粘度を満足することにより、上記境界面に対するグラフェンシートの配向角を60°~120°の範囲とすることが容易となり、また、特定領域の面積の比率を60%とすることも容易となる。
溶融した異方性ピッチの粘度は、20Pa・s~80Pa・sとし、好ましくは25Pa・s~70Pa・sであり、より好ましくは30Pa・s~60Pa・sである。
異方性ピッチの粘度は、以下の方法により測定する。なお、異方性ピッチの溶融温度が320℃である場合を例にして、以下に粘度(320℃)の測定方法を説明する。粘度は、同心2重管および高温セルを用い、Rheomat-30(Contraves社製)にて、せん断速度4~60s-1、測定温度320℃の条件で測定する。
異方性ピッチの溶融温度は、例えば320℃~340℃が好ましく、323℃~335℃がより好ましい。なお、ここでの溶融温度とは、紡糸ノズルから吐出する前における貯蔵される領域での異方性ピッチの溶融温度(つまり図9における導入部70での温度)を意味する。
態様1のピッチ系炭素繊維前駆体と比較して、態様2のピッチ系炭素繊維前駆体の方が、黒鉛化工程の際、熱収縮の影響を受けにくい。
具体的には、態様1の場合、メソフェーズは、断面の円周方向に熱収縮する、すなわち、メソフェーズ間の角度が小さくなるように熱収縮するため、断面の外周部分において熱収縮が大きくなる傾向がある。これに対して、態様2の場合、メソフェーズは、メソフェーズの面間の距離が小さくなるように熱収縮するため、全体的に均一に熱収縮する傾向がある。
以上のことから、態様2のピッチ系炭素繊維前駆体は、態様1のピッチ系炭素繊維前駆体と比較して熱収縮の影響を小さくすることができるため、欠陥数密度をより容易に低減することができる。そのため、態様2のピッチ系炭素繊維前駆体から得られるピッチ系炭素繊維(例えば、図2及び図3に示されるピッチ系炭素繊維)は、態様1のピッチ系炭素繊維前駆体から得られるピッチ系炭素繊維(例えば、図4に示されるピッチ系炭素繊維)と比較して、引張強度をより容易に向上させることができる。
吐出孔のアスペクト比は、1超である限り特に限定されないが、1.5~10.0であることが好ましい。アスペクト比を1.5以上とすることにより、態様2のピッチ系炭素繊維前駆体を得ることがより容易となる。また、アスペクト比を10.0以下とすることにより、ピッチ系炭素繊維前駆体の成形がより容易となる。
アスペクト比は、2.0~7.5であることがより好ましく、2.5~5.0であることが更に好ましい。更に、欠陥個数密度をより低減させて、引張強度をより高める観点から、アスペクト比は、3.0~5.0であることがより更に好ましい。
吐出孔の形状は特に限定されないが、長方形又は楕円形であることが好ましい。これにより、異方性ピッチの流動性が変化し、態様2のピッチ系炭素繊維前駆体を得ることがより容易となる。
吐出孔が長方形である場合、吐出孔の形状に外接する外接長方形は、吐出孔と一致する。また、吐出孔が長方形である場合、長方形の角部が曲率を有していてよい。
また、吐出孔が楕円形である場合、吐出孔の形状に外接する外接長方形の短辺は、楕円形の短軸と一致し、外接長方形の長辺は、楕円形の長軸と一致する。
紡糸ノズルの構成は、上述した以外は特に限定されないが、以下、具体例を挙げて更に説明する。
図9に示される紡糸ノズル200は、吐出孔50、及び溶融した異方性ピッチを導入する導入部を備える。吐出孔50の形状は、図10に示すように、短辺a及び長辺bを有する長方形(アスペクト比:b/a)である。
導入部70について、紡糸ノズル200の長手方向に垂直な断面(以下、「導入部の断面」と呼ぶことがある)の形状は特に限定されず、例えば、丸形、楕円形、四角形(正方形、長方形等)等であってよい。
導入部の断面の面積は、吐出孔50の面積に対して、10倍~2000倍であることが好ましい。吐出孔50の面積に対して、導入部の断面の面積を10倍以上とすることにより、紡糸時の圧力が高くなり過ぎないため、異方性ピッチの微分散を抑制して、高い弾性率をより容易に得ることができる。また、吐出孔50の面積に対して、導入部の断面の面積を2000倍以下とすることにより、紡糸性を高めることがより容易となる。
導入部の断面の面積は、吐出孔50の面積に対して、30倍~500倍であることがより好ましく、40倍~200倍であることが更に好ましい。
図9に示されるテーパー部90のテーパー角θは、紡糸ノズル内における異方性ピッチの流動性に影響を与えるため、組織形成にも影響を及ぼす。導入部の断面の面積にもよるが、テーパー角θは、60°~180°であることが好ましい。これにより、態様2のピッチ系炭素繊維前駆体を得ることがより容易となる。また、吐出性の観点からも、テーパー角θを上記範囲とすることが好ましい。テーパー角θは、90°~150°であることがより好ましい。
図9に示されるランド長Lは、ハーゲン・ポアズイユ式から計算される圧力損失が、0.5MPa~5.0MPaであることが好ましい。圧力損失を0.5MPa以上とすることにより、紡糸性を高めることがより容易となる。また、圧力損失を5.0MPa以下とすることにより、異方性ピッチの微分散を抑制して、高い弾性率をより容易に得ることができる。
紡糸ノズルは、吐出孔の上流に整流板を備えてよい。
異方性ピッチは、融点よりも10℃~50℃高い温度に加熱して溶融させるが、370℃以下で溶融することが好ましい。これにより、異方性ピッチの炭化による吐出孔の詰まりをより容易に防止することができる。
紡糸圧力は、1.0MPa~3.0MPaであることが好ましい。紡糸圧力を1.0MPa以上とすることにより、紡糸性を高めることがより容易となる。また、紡糸圧力を3.0MPa以下とすることにより、ピッチ系炭素繊維の物性、特に引張弾性率を発現させることがより容易となる。
所望の径をより容易に達成する観点から、異方性ピッチの吐出量は、0.03g/分~0.01g/分あることが好ましく、また、ピッチ系炭素繊維前駆体の紡糸速度は、200m/分~1000m/分であることが好ましい。また、ピッチ系炭素繊維の断面において、直径方向又は長軸方向の境界面に対して60°~120°の配向角で配向したグラフェンシートが占める領域の面積の比率が、断面の面積に対して60%以上となることをより容易に達成する観点からは、紡糸速度は200m/分~500m/分であることがより好ましい。
[不融化工程]
不融化工程では、溶融紡糸工程で得られたピッチ系炭素繊維前駆体に、酸素の存在下で熱処理を施す。これにより、熱処理後のピッチ系炭素繊維前駆体が、後の熱処理で溶融することを防ぐことができる。
熱処理の雰囲気として、例えば、空気雰囲気、酸化性ガス雰囲気、混合ガス(例えば、窒素、酸素及び酸化性ガスの混合ガス)雰囲気等が挙げられ、適宜選択してよい。
熱処理の温度は、例えば、120℃~320℃であってよい。また、熱処理は、120℃~320℃の範囲で昇温させながら行ってもよい。熱処理の温度は、150℃~300℃であることが好ましい。
熱処理の時間は、30分~12時間の範囲で任意に設定することができ、1時間~3時間の範囲であることが好ましい。
[炭化工程]
炭化工程では、不融化工程で熱処理を施したピッチ系炭素繊維前駆体に、不活性雰囲気下で熱処理を施して炭化する。
不活性ガスとして、例えば、窒素、アルゴン等を用いることができる。
熱処理の温度は、例えば、400℃~1000℃であってよい。また、熱処理は、400℃~1000℃の範囲で昇温させながら行ってもよい。
熱処理の時間は、5分~1時間の間で任意に設定できる。
[黒鉛化工程]
黒鉛化工程では、炭化工程で炭化されたピッチ系炭素繊維前駆体に、不活性雰囲気下で熱処理を施して黒鉛化する。
不活性ガスとして、例えば、窒素、アルゴン等を用いることができる。
熱処理の温度は、例えば、2000℃~3200℃であってよい。また、熱処理の時間は、1分~1時間であってよい。また、黒鉛化工程での熱処理温度が高くなり過ぎると、設備コスト及び操業コストが高くなり、また、外部空気の侵入防止のための対策及び管理を厳しくする必要があることから、2900℃以下とすることが好ましく、2800℃以下とすることがより好ましく、2500℃以下とすることがさらに好ましく、2400℃以下とすることがさらに好ましい。本開示に係るピッチ系炭素繊維の製造方法においては、特許文献2、特許文献3等の従来技術における製造方法と比べて、黒鉛化工程での熱処理温度が同じであれば、より引張弾性率の高いピッチ系炭素繊維を製造することができる。言い換えれば、本開示に係るピッチ系炭素繊維の製造方法においては、特許文献2、特許文献3等の従来技術における製造方法と比べて、引張弾性率が同レベルのピッチ系炭素繊維を製造する際に、黒鉛化工程での熱処理をより低く設定することができる。
以上の工程により、ピッチ系炭素繊維を得ることができる。
<繊維強化プラスチック>
本開示に係る繊維強化プラスチックは、本開示に係るピッチ系炭素繊維を含む。
繊維強化プラスチックの製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を用いてよい。例えば、ピッチ系炭素繊維に樹脂を含浸させてプリプレグを作製し、PCM(Pre-preg Compression Molding)法等の成形加工を施すことにより、繊維強化プラスチックを得てよい。また、例えば、ピッチ系炭素繊維及び樹脂を用いて、SMC(Sheet Molding Compound)法、RTM(Resin Tranfer Molding)等の成形加工を施すことにより、繊維強化プラスチックを得てよい。
樹脂として、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。
熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド等が挙げられる。
熱可塑性樹脂として、例えば、ナイロン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテフタレート、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。
本開示に係る繊維強化プラスチックは、本開示に係るピッチ系炭素繊維を含むため、強度に優れており、各種用途に好適に用いることができる。
以下、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。但し、本開示は、これらの実施例に限定されない。
<ピッチ系炭素繊維の製造>
[実施例1]
異方性ピッチ(融点:302.1℃)を用い、図9及び図10に示される紡糸ノズル(吐出孔の形状:長方形、アスペクト比:2.5、テーパー角:120°)により、溶融紡糸工程を行い、ピッチ系炭素繊維前駆体を得た。溶融した異方性ピッチの溶融温度(吐出孔近傍)は、330℃であり、粘度は40Pa・sであった。また、異方性ピッチの吐出量は、0.035g/分~0.090g/分であり、紡糸圧力は、2MPa~3MPaであり、紡糸速度は350m/分であった。
得られたピッチ系炭素繊維前駆体に、不融化工程(窒素、酸素及び酸化性ガスの混合ガス雰囲気下)、炭化工程、及び黒鉛化工程(熱処理温度2000℃)を施すことにより、実施例1のピッチ系炭素繊維を得た。
[実施例2]
異方性ピッチを325℃の溶融温度で溶融させて、粘度を75Pa・sとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2のピッチ系炭素繊維を得た。
[実施例3]
紡糸ノズルのアスペクト比を5.0に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のピッチ系炭素繊維を得た。
[比較例1]
紡糸ノズルの吐出孔の形状を円形(アスペクト比:1.0)とし、かつ、異方性ピッチの吐出量を0.035g/分~0.040g/分としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のピッチ系炭素繊維を得た。
[比較例2]
異方性ピッチを320℃の溶融温度で溶融させて、粘度を120Pa・sとしたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2のピッチ系炭素繊維を得た。
[比較例3]
異方性ピッチを310℃の溶融温度で溶融させて、粘度を150Pa・sとしたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3のピッチ系炭素繊維を得た。
<ピッチ系炭素繊維の評価>
以下の要領で、ピッチ系炭素繊維の断面の形状、扁平率、欠陥数密度、引張強度、引張弾性率及び特定領域の面積の比率を測定した。結果を表1に示す。表1中、「面積率」は、特定領域の面積の比率を意味する。
[断面の形状、扁平率]
ピッチ系炭素繊維の断面の形状及び扁平率は、JIS R 7606:2000に準拠し、また、レーザー形状測定装置を用い、測定範囲を0°~180°として、ピッチ系炭素繊維の断面を10°毎に回転させて、断面の外周の形状を測定することにより得た。レーザー形状測定装置としてミツトヨ社製の「レーザースキャンマイクロメータ LSM-500S」を用いた。
[欠陥数密度]
長さが25.0mmのピッチ系炭素繊維(単繊維)を30本~50本準備し、上述したように、JIS R 7606:2000に準拠して引張試験を行い、Weibullプロットに基づいて欠陥数密度(λav)を測定した。
[引張強度]
Weibullプロットを作成した際の引張試験で得られた引張強度の平均値をピッチ系炭素繊維の引張強度とした。比較例1を基準として、引張強度向上率を算出し、引張強度向上率が130%以上のピッチ系炭素繊維を合格とした。
[引張弾性率]
Weibullプロットを作成した際の引張試験で得られた引張弾性率の平均値をピッチ系炭素繊維の引張強度とした。
[特定領域の面積の比率]
SEM(Scanning Electron Microscope、走査電子顕微鏡)を用いて、ピッチ系炭素繊維の無作為に選択した断面を断面に垂直な方向に観察し、SEM画像を取得した。SEMとして、日本電子社製の「JSM-6500F」を用いた。
SEM画像の取得条件として、倍率を10000倍、加速電圧を5kVとした。
画像処理ソフトウェア「ImageJ(vl.52)」を用いて、SEM画像を解析した。具体的には、SEM画像に二値化処理を施して断面の二値化像を取得し、二値化像の黒色部分を線分として描画する編集を二値化像に施して、断面の編集画像を取得した。編集画像について、フラクタル次元解析により断面中の各線分の直線性を評価し、D=1.2以下の線分を特定した。D=1.2以下の線分を「グラフェンシート」と定義した。
編集画像における断面の輪郭の最大長(すなわち、輪郭の任意の2点を結ぶ直線の最大値であり、断面が円形である場合には直径、断面が楕円形である場合には長軸)を与える線分を「境界面」と定義した。
「Python(v3)」(オープンソース)で既述したプログラムにより編集画像を解析し、断面全体に亘って、境界面に対する各グラフェンシート(D=1.2以下の線分)の配向角を求めた。その際、境界面を含む直線とグラフェンシートを含む直線との交点における角度を配向角とした。
「ImageJ(vl.52)」を用いて、60°~120°の配向角で配向したグラフェンシート(D=1.2以下、かつ、配向角が0°~120°の線分)が占める領域(特定領域)を黒色表示とし、断面中に占める特定領域を識別した。「ImageJ(vl.52)」を用いて、特定領域の面積、及び断面の面積を求めた。特定領域の面積を断面の面積で除して、特定領域の面積の比率を求めた。
ピッチ系炭素繊維の上記と同じ断面について、同様の測定を5回行い、5回の測定で得られた特定領域の面積の比率の平均値をピッチ系炭素繊維の特定領域の面積の比率とした。
実施例1~実施例3のピッチ系炭素繊維は、表1に示すように、欠陥数密度が小さく、引張強度に優れていた。とりわけ、実施例3のピッチ系炭素繊維は、欠陥数密度が特に小さく、引張強度が4000MPaを超えていた。
一方、比較例1は、アスペクト比が1の吐出孔を有する紡糸ノズルを用いたため、ピッチ系炭素繊維が単純ラジアル構造となった。そのため、黒鉛化工程の際の熱収縮の影響が大きくなり、欠陥数密度が高く、引張強度が低かった。
比較例2は、粘度が120Pa・sと高い異方性ピッチを用いて溶融紡糸を行ったため、欠陥数密度が大きく、引張強度が低かった。更に、比較例2では、引張弾性率も低下する傾向があった。
比較例3は、粘度が150Pa・sと高い異方性ピッチを用いて溶融紡糸を行ったため、欠陥数密度が大きく、引張強度が低かった。更に、比較例3では、引張弾性率も低下する傾向があった。
なお、日本出願2021-093111の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
10 グラフェンシート
12 グラフェンシートを含む直線
30、32 境界面
34 中心
36 境界面を含む直線
100、102、104 ピッチ系炭素繊維
50 紡糸ノズルの吐出孔
70 導入部
90 テーパー部
α 配向角
L ランド長
θ テーパー角
a 吐出孔の短辺
b 吐出孔の長辺
200 紡糸ノズル

Claims (13)

  1. 欠陥数密度が、40個/m以下であり、長手方向に垂直な断面の形状が、扁平率が0.25以下の楕円形であり、前記円形の断面の直径方向又は前記楕円形の断面の長軸方向に境界面を有する、ピッチ系炭素繊維。
  2. 前記境界面に対して60°~120°の配向角で配向したグラフェンシートが占める領域の面積の比率が、前記断面の面積に対して60%以上である、請求項1に記載のピッチ系炭素繊維。
  3. 前記断面の前記形状が、扁平率が0.2以下の楕円形である、請求項1に記載のピッチ系炭素繊維。
  4. 前記欠陥数密度が、30個/m以下である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のピッチ系炭素繊維。
  5. 引張弾性率が400GPa以上である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のピッチ系炭素繊維。
  6. 前記引張弾性率が440GPa以上である、請求項5に記載のピッチ系炭素繊維。
  7. 請求項1に記載のピッチ系炭素繊維を製造する方法であって、
    溶融した異方性ピッチを紡糸ノズルから吐出して紡糸する溶融紡糸工程を含み、
    前記紡糸ノズルは、前記溶融した異方性ピッチを導入する導入部と、吐出口と、前記導入部と吐出口とを接続するテーパー部と、を有し、
    前記テーパー部のテーパー角は、90°~150°であり、
    前記紡糸ノズルの吐出孔の形状に外接する外接長方形の長辺の長さの比率が、前記外接長方形の短辺の長さに対して1超であり、
    前記溶融した前記異方性ピッチの粘度が、20Pa・s~80Pa・sである、
    ピッチ系炭素繊維の製造方法。
  8. 前記比率が、1.5~10.0である、請求項7に記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
  9. 前記吐出孔の前記形状が、長方形又は楕円形である、請求項7に記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
  10. 前記異方性ピッチの粘度が、30Pa・s~60Pa・sである、請求項7に記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
  11. 前記溶融紡糸工程での紡糸速度が、200m/分~500m/分である、請求項7に記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
  12. 前記溶融紡糸工程の後に、炭化されたピッチ系炭素繊維前駆体に熱処理を施して黒鉛化する黒鉛化工程を含み、
    前記黒鉛化工程での前記熱処理の温度が2000℃~2900℃である、請求項7~請求項11のいずれか1項に記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
  13. 請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のピッチ系炭素繊維を含む、繊維強化プラスチック。
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